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JP4673343B2 - 耐食性、溶接性および表面性状に優れるステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

耐食性、溶接性および表面性状に優れるステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐食性、溶接性および表面性状に優れるステンレス鋼とその製造方法に関するものである。
Fe−Ni−Cr系のステンレス鋼は、高耐食性合金として厨房機器をはじめ、化学プラントなどに広く利用されている。しかしながら、このステンレス鋼の表面に存在する非金属介在物は、錆などの腐食の起点となり、その腐食の速さは、非金属介在物の組成や量によって変化することが知られている。また、非金属介在物は、その組成によっては表面疵を発生させることがあり、とくにその組成がアルミナの場合に顕著となる。
この問題に対し、例えば、特許文献1には、溶鋼中に少量のAlまたはSiを添加して予備脱酸を行った後、Tiを添加して脱酸を行うことにより介在物の形態を制御し、さらに適量のCaを添加することによって、表面疵を引き起こさず、耐食性にも悪影響を与えない介在物に制御する技術が開示されている(特許文献1参照。)。しかし、この従来技術の方法では、添加したTiがNと結合して硬質のTiNを形成し、ストリンガーと呼ばれる表面疵を発生し易いという問題があった。また、AlおよびCaの添加は、溶接性に悪影響を与えるという問題もあった。
特開2000−1759号公報
上記のように、鋼中に含まれる非金属介在物の量や組成によっては、十分な耐食性や溶接性が得られないことがある。また、介在物組成がアルミナとなると、クラスターに起因した表面庇を発生させてしまう。さらに、Tiを添加してこれらの問題を回避しようとすると、ストリンガーを発生し易いという問題点があった。
本発明の目的は、耐食性、溶接性および表面性状に優れたステンレス鋼を提供するとともに、該ステンレス鋼を汎用の生産設備を用いて安価に製造する方法を提案することにある。
発明者らは、上記従来技術の抱える問題点を解決するため、とくにステンレス鋼に含まれる非金属介在物の量および組成が、ステンレス鋼の耐食性、溶接性および表面性状に与える影響について、以下の検討を行った。
まず、実験室にてマグネシアるつぼあるいはアルミナるつぼを用いて、Fe−18mass%Cr−8mass%Ni合金を溶解し、この溶鋼中に、CaO−SiO−Al−MgO−F系スラグを添加した後、Si,Mn,Al,CaおよびMgのうちのいずれか1種または2種以上を添加して脱酸を行った後、鋳造し、種々の介在物組成を有する鋼塊を得た。この鋼塊を鍛造し、熱間圧延した後、さらに冷間圧延し、板厚3mmの鋼板とした。この鋼板から試験片を採取し、耐食性および溶接性を調査した。
耐食性は、上記試験片を、#600研磨仕上げした後、脱脂し、JIS Z2371に準拠した条件(50℃)で塩水噴霧試験(SST)を4時間行い、発錆の有無を調べた。
また、溶接性は、上記試験片を電流値:120A、溶接速度:200mm/分の条件でTIG溶接を行い、ビード上に発生した黒点の有無により溶接性を評価した。この黒点は、ビード上に生成した酸化物欠陥であり、この欠陥が存在すると、その部位の耐食性を劣化させたり、外観不良を引き起こしたりする。また、この試験と同時に、目視により表面疵の発生有無も調査した。
上記試験の結果、発明者らは、非金属介在物が、CaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物(シリケート)からなる組成である場合には、耐食性、溶接性および表面性状が共に優れるステンレス鋼が得られることを知見した。
また、Caの含有量が0.01mass%を超えると、介在物の組成がCaO単体となり、耐食性が劣化すると同時に、溶接時に黒点が発生することがわかった。その原因は、耐食性については、CaOが水溶性で不安定であるため、また、溶接性については、CaO系介在物が溶融池で浮上して集中するためと考えられた。さらに、鋼中のCa濃度は、O濃度とも関連があり、Oが0.0001mass%未満と低くなると、Caが0.01mass%を超えてしまうこともわかった。
また、鋼中のAl濃度が0.1mass%を超えると、介在物の組成がAl(アルミナ)となってクラスターを形成し、表面欠陥を発生すると共に、溶接時に黒点を発生させることがわかった。
さらに、O濃度が0.01mass%を超えて高くなると、JIS G0555に規定された清浄度が0.05を超えてしまうため、鋼板表面の介在物量が多くなって耐食性を劣化させることがわかった。また、Sを0.0002mass%未満に下げ過ぎると、溶接時の溶け込み性を悪くすることもわかった。
本発明は、上記知見に基づいて開発されたものであって、C≦0.1mass%、Si:0.01〜2.0mass%、Mn:0.01〜3.0mass%、Cr:13.0〜26.0mass%、Ni:2.0〜30.0mass%、Mo:0.01〜5.0mass%、Co≦3mass%、Al:0.001〜0.1mass%、S:0.0002〜0.02mass%、Mg:0.00005〜0.01mass%、Ca:0.00005〜0.01mass%、O:0.0050〜0.01mass%、N:0.01〜0.3mass%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、CaO:1〜40mass%以下、SiO :10〜70mass%、Al :5〜40mass%、MgO:0.1〜25mass%、MnO:0.1〜2.5mass%からなり、Cr とFeOが合計で20mass%以下含まれるCaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物からなることを特徴とする耐食性、溶接性および表面性状に優れるステンレス鋼である。
本発明のステンレス鋼において、前記CaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物は、鋳造後のスラブ中または鋼塊中にガラス質として存在することが好ましい。
また、本発明のステンレス鋼における鋼中の非金属介在物は、JIS G0555に規定されたB系およびC系の形態であり、かつ、JIS G0555に規定された清浄度が0.05以下であることが好ましい。
また、本発明は、上記ステンレス鋼を製造するに当たり、電気炉に原料を装入して溶解し、AODおよび/またはVODにおいてArまたは窒素と酸素とを吹精して脱炭し、その後、石灰石および蛍石を投入して、CaO:30〜80mass%、SiO ≦20mass%、Al :5〜40mass%、MgO:1〜30mass%およびF≦20mass%の組成を有するCaO−SiO−Al−MgO−F系スラグを形成し、さらにAlまたはAlおよびフェロシリコンを投入してクロム還元、脱酸および脱硫を行った後、連続鋳造法または普通造塊法によりスラブとすることを特徴とする耐食性、溶接性および表面性状に優れるステンレス鋼の製造方法を提案する。
なお、本発明の前記普通造塊法は、鋳造して得た鋼塊を熱間鍛造してスラブとする方法であることが好ましい。
本発明によれば、優れた耐食性を有すると共に、溶接性および表面性状にも優れた特性を有するステンレス鋼を、汎用の製造設備を用いて安価に製造することができ、産業上極めて有効な効果が期待できる。
まず、本発明に係るステンレス鋼の各成分組成を、上記範囲に限定した理由について説明する。
C≦0.1mass%
Cは、オーステナイト安定化元素であるが、多量に存在すると、CrおよびMo等と結合して炭化物を形成し、母材に含まれる固溶CrおよびMo量を低下させ、耐食性を劣化させる。そのため、C含有量は0.1mass%以下とした。なお、好ましくは0.08mass%以下であり、より好ましくは0.07mass%以下である。
Si:0.01〜2.0mass%
Siは、耐酸性ならびに耐孔食性の向上に有効であると共に、脱酸にも有効な元素である。しかしながら、Si含有量が0.01mass%未満では、その効果が十分に得られず、一方、2.0mass%を超えて存在すると、Fe,Cr,(Mo)から構成されるシグマ相の生成を促し、脆化を引き起こすほか、溶接性を低下させる。そのため、Si含有量は、0.01〜2.0mass%と規定した。なお、好ましくは0.02〜1.8mass%であり、より好ましくは0.03〜1.7mass%である。
Mn:0.01〜3.0mass%
Mnは、脱酸に有効な元素である。Mn含有量が0.01mass%未満では、その効果が十分に得られず、逆に、3.0mass%を超えて存在すると、Siと同様にシグマ相の生成を促進し、脆化を招く。そのため、Mn含有量は0.01〜3.0mass%と規定した。なお、好ましくは0.02〜2.5mass%であり、より好ましくは0.03〜2.0mass%である。
Cr:13.0〜26.0mass%
Crは、耐食性を確保するために必要不可欠な不動態皮膜を、鋼板表面に形成させる元素であり、耐酸性、耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善するための母材の構成成分として、最も重要な元素である。しかしながら、Cr含有量が、13.0mass%未満では十分な耐食性が得られない。逆に、含有量が25mass%を超えると、シグマ相を生成し脆化を招く。以上の理由から、Cr含有量は13.0〜26.0mass%と規定した。なお、好ましくは15.0〜25.5mass%であり、より好ましくは16.0〜25.0mass%である。
Ni:2.0〜30.0mass%
Niは、塩化物を含む溶液環境における耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善する効果を有する。その効果を得るためには、2.0mass%以上が必要である。しかし、その効果は、30.0mass%以下の添加で十分であり、それ以上ではコスト上昇を招くため好ましくない。そこで、Ni含有量は、2.0〜30.0mass%と規定した。なお、好ましくは3.0〜25.0mass%であり、より好ましくは4.0〜23.0mass%である。
S:0.0002〜0.02mass%
Sは、溶接時の溶け込み性を向上させる有効な元素である。しかし、含有量が多すぎると、Mnと結合してMnSを生成し、耐食性および熱間加工性を低下させる。そのため、S含有量は0.0002〜0.02mass%の範囲内とした。なお、好ましくは0.0005〜0.015mass%であり、より好ましくは0.001〜0.01mass%である。
Al:0.001〜0.1mass%
Alは、脱酸に必要不可欠な元素である。Al含有量が0.001mass%未満では、酸素濃度の上昇を招き(O>0.01mass%)、JIS G0555に規定された清浄度が0.05を超えて高くなり、耐食性とくに耐孔食性を低下させる。しかし、0.1mass%を超えて含有すると、黒点を発生して溶接性を低下させるばかりか、介在物の組成がアルミナとなり、クラスター起因の表面庇を発生させる。そのため、Alの含有量は0.001〜0.1mass%と規定した。なお、好ましくは0.003〜0.08mass%であり、より好ましくは0.005〜0.05mass%である。
Mg:0.00005〜0.01mass%
Mgは、鋼中の非金属介在物の組成を、耐食性に悪影響のない成分系、すなわちMgO・Al、MgOあるいはCaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物に制御するために有用な元素である。その効果は、含有量が0.00005mass%未満では得られず、逆に、0.01mass%を超えて含有させると、連続鋳造機のノズル閉塞を引き起こし、操業を阻害する。さらに、鋼中にMg起因の気泡欠陥をもたらすという問題もある。そのため、Mg含有量は0.00005〜0.01mass%と規定した。好ましくは0.0001〜0.005mass%であり、より好ましくは0.0001〜0.002mass%である。さらに好ましくは0.0002〜0.002mass%である。
Ca:0.00005〜0.01mass%
Caは、Mgと同様、鋼中の非金属介在物の組成を、耐食性に悪影響を与えない成分系、すなわちCaO−Al系酸化物あるいはCaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物に制御するために必要な元素である。その効果は、含有量が0.00005mass%未満では得られず、逆に0.01mass%を超えて存在すると、CaO単体からなる介在物を生成し、耐食性および溶接性を劣化させる。そのため、Ca含有量は0.00005〜0.01mass%の範囲内と規定した。好ましくは0.0001〜0.005mass%、より好ましくは0.0001〜0.002mass%である。さらに好ましくは0.0002〜0.002mass%である。
O:0.0050〜0.01mass%
Oは、鋼中に0.01mass%を超えて存在すると、非金属介在物の量が著しく増加し、JIS G0555に規定された清浄度が0.05を超え、耐孔食性を低下させる。逆に、含有量が0.0001mass%未満になると、スラグ中に存在するCaOが還元されて溶鋼中のCa濃度が0.01mass%を超えるため、CaO介在物が形成されて耐食性および溶接性に悪影響を及ぼす。そのため、O濃度は適正値に制御しなければならず、本発明では0.0050〜0.01mass%の範囲内と規定した。好ましくは0.0050〜0.008mass%である。
なお、本発明においては、上記必須成分の他に、Moおよび/またはNを、鋼板の耐食性の改善を目的として添加しても良い。その際の各添加量は、以下の範囲内とすることが好ましい。
Mo:0.01〜5.0mass%
Moは、耐酸性、耐応力腐食割れ性、耐隙間腐食性ならびに耐孔食性といった耐食性を確保するために重要な元素であるため、鋼中に0.01mass%以上含有されていることが好ましい。しかしながら、Mo含有量が高すぎると、シグマ相の生成を促進させ、母材の脆化を招く。そのため、Mo含有量は、0.01〜5.0mass%と規定した。好ましくは0.01〜4.8mass%であり、より好ましくは0.02〜4.5mass%である。
N:0.01〜0.3mass%
Nは、耐食性の向上に有効な成分であり、0.01mass%以上含有させた場合に、その効果が得られる。しかし、0.3mass%を超えて含有させることは、Nの溶鋼への溶解限に近づくことから精錬時間が著しく長くなり、コストの上昇を招く。そのため、N含有量は0.01〜0.3mass%と規定した。なお、好ましくは0.01〜0.25mass%であり、より好ましくは0.02〜0.20mass%である。
また、本発明においては、Pおよび/またはTiを含有することができる。しかし、これらの含有量は低いほどよく、下記の範囲内で添加することができる。
P≦0.05mass%
Pは、耐食性を低下させるほか、熱間加工性も低下させる有害元素である。このため、P含有量は低いほど好ましく、0.05mass%以下することが好ましい。なお、より好ましくは0.04mass%以下であり、さらに好ましくは0.035mass%以下である。
さらに、本発明においては、熱間加工性を改善する目的で、B、CeおよびLaのうちの1種または2種以上を0.01mass%以下の範囲で添加しても構わない。
また、本発明では、非金属介在物を、耐食性、溶接性および表面性状に悪影響を与えないものとするためには、該非金属介在物が、CaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物から構成されていることを必須の要件としている。この介在物は、基本的に、アルミナのような大型のクラスターを形成しないため、鋼板の表面性状には悪影響を与えることがなく、また、この介在物は、腐食水溶液に対し、不溶性で安定であるため、局部電池を形成しないかあるいは介在物から腐食物質を発生しないことから耐食性を劣化させることもない。
上記非金属介在物が上記特性を有するためには、CaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物の性状は、以下の条件を満たすことが好ましい。
CaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物は、結晶化するとCaO単体を晶出し、耐食性を劣化させるため、その性状は、ガラス質であることが望ましい。そのためには、CaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物の組成は、連続鋳造後のスラブあるいは普通造塊工程で得られる鋼塊の冷却速度(0.1〜10,000℃/sec)で、ガラス化する組成であることが好ましい。この条件を満たすためには、上記介在物を構成する各酸化物の組成は、CaO:1〜40mass%、SiO:10〜70mass%、Al:5〜40mass%、MgO:0.1〜25mass%およびMnO:0.1〜2.5mass%の範囲内にあることが好ましい。また、この複合酸化物には、CrとFeOが合計で20mass%程度以下含まれていてもガラス化には影響しない。
また、本発明の鋼が耐食性、溶接性および表面性状に優れた特性を有するためには、板厚10mm程度以下に圧延された鋼板中に存在する介在物は、JIS G0555に規定されたB系およびC系の形態から構成されており、かつJIS G0555に規定された鋼板の清浄度は0.05以下であることが好ましい。以下に、その理由を示す。
介在物形態
熱間圧延または冷間圧延された鋼板中に存在する非金属介在物は、MnSのように、JIS G0555に規定されたA系介在物として存在すると、耐食性に悪影響を及ぼす。そのため、本発明では、鋼中の非金属介在物は、JIS G0555に規定されたB系あるいはC系の形態を示すものに限定する。
清浄度:0.05以下
JIS G0555に規定された鋼の清浄度は、0.05を超えて高くなると、孔食の起点を著しく増加させ、耐孔食性を低下させる要因となる。そのため、本発明にかかるステンレス鋼においては、清浄度を0.05以下、好ましくは0.045以下、より好ましくは0.04以下と規定した。
次に、本発明にかかるステンレス鋼の製造方法について説明する。
基本的に、上記の通り規定した成分からなるステンレス鋼の製造方法であり、原料を電気炉に装入して溶解し、AODおよび/またはVODにおいて、Arまたは窒素と酸素とを吹精して脱炭精錬した後、石灰石および蛍石を添加してスラグを形成し、さらにAlまたはAlおよびフェロシリコンを投入してクロム還元、脱酸および脱硫した後、連続鋳造法または普通造塊法によりスラブとすることを特徴とする耐食性、溶接性および表面性状に優れたステンレス鋼の製造方法である。なお、本発明では、普通鋳造法において、鋳塊からスラブを得る方法は、熱間鍛造法を用いる。また、上記スラブを、熱間圧延し、あるいはさらに冷間圧延することにより、所望の板厚の耐食性、溶接性および表面性状に優れたステンレス鋼板を得ることができる。以下、具体的に説明する。
溶解原料は、とくに限定はしないが、例えばフェロニッケル、純ニッケル、フェロクロム、クロム、鉄屑、ステンレス屑、Fe−Ni合金屑から、適宜選択することが好ましい。とくに、Ni源(フェロニッケル、ステンレス屑、Fe−Ni合金屑、純ニッケル)は、Coを含有していることが多いが、CoはNiとほぼ等価であるので、本発明では、3%程度以下であれば、含有していても構わない。このように、本発明では、比較的安価なNi源を使用することが可能であるため、コスト的に有利である。一方、Pは、精錬過程で除去が困難であるため、本発明で規定した範囲となるように、上記溶解原料を選択することが好ましい。
原料を電気炉等で溶解した後は、AODおよび/またはVODにおいて、Arまたは窒素と酸素とを吹精して脱炭精錬を行い、Cを0.03mass%以下とする。ここで、AOD炉、VOD鍋あるいは取鍋に使用する耐火物は、スラグ中に適正なMgO濃度を供給し、介在物を先述した組成に制御するため、さらには、形成するスラグに対して十分な耐溶損性を付与するという観点から、MgO−C、Al−MgO−C、ドロマイトおよびマグネシアクロムれんがから適宜選択することが好ましい。
その後、スラグ相に移行した有価金属であるCrの酸化物を、AlまたはAlおよびフェロシリコンを投入することにより、クロム還元して回収する。なお、AlまたはAlおよびフェロシリコンは、石灰石および螢石を投入してスラグ形成した際に、AlおよびSiがそれぞれ、Al:0.001〜0.1mass%、Si:0.01〜1.5mass%の範囲内となるように投入することが好ましい。この理由は、これらの脱酸剤(AlまたはSi)が、前記のとおりCr酸化物の脱酸剤として働くと共に、スラグ中に存在するCaOあるいはMgOを還元し、CaあるいはMgとして溶鋼中に回収するためであり、この時、スラグ上に脱酸剤を投入することで、CaおよびMgの還元をより容易にすることができるからである。なお、CaまたはMgの含有量が、本発明に規定する範囲内に満たない場合には、Ca−Si、Ca−AlおよびNi−Mg等の副原料を適宜添加しても構わない。
また、前記スラグ組成は、CaO−SiO−Al−MgO−F系であることが好ましく、その組成範囲は、溶鋼中のAl,CaおよびMgを本発明において規定する濃度範囲内に制御するのに好適な組成、例えば、CaO:30〜80mass%、SiO≦20mass%、Al:5〜40mass%、MgO:1〜30mass%およびF≦20mass%であることが好ましい。その他の成分として、FeO,S,PおよびTiOを合計で5%以下の範囲で含んでもよい。また、耐火物はマグネシア系であるので、耐火物保護のために、スラグ中にマグネシア煉瓦屑を適宜添加しても構わない。
その後、ArあるいはNガスを吹きこみ、攪拌することによって、脱酸および脱硫を行い、O濃度を0.0001〜0.01mass%の範囲内に、S濃度を0.0002〜0.02mass%の範囲内に制御する。なお、O濃度が0.0001mass%未満に低下すると、前記のとおりCaO介在物が生成し、耐食性および溶接性に悪影響を与える。そのため、O濃度は、スラグ中のCaO濃度が80mass%を超えないように制御することが好ましい。この方法によれば、スラグ塩基度が高くなり過ぎて、脱酸が進行し過ぎることも抑制することができる。また、S濃度については、基本的にスラグを使って脱硫し、0.02mass%以下まで低下させる。しかしながら、前記のとおりS濃度が0.0002mass%未満に低下してしまうと、溶接時の溶け込み性を悪化させるため、FeSなどのS源を適量添加して調整することが好ましい。
このようにして成分および非金属介在物組成を制御した溶鋼を、連続鋳造法あるいは普通造塊法により鋳造する。なお、連続鋳造法の場合、縦型連続鋳造機にて鋳込むことが好ましい。これは、本鋼種は、高温強度が比較的高いため、湾曲部を含むタイプの連続鋳造機では、スラブ割れを起こす危険性があるからである。また、この際の溶鋼の過熱度は、その製造性を考慮し、連続鋳造法の場合は10〜60℃、普通造塊法の場合は30〜150℃とすることが好ましい。また、連続鋳造法におけるタンディッシュ内および普通造塊法におけるインゴット内は、Al,MgおよびCaといった溶鋼中の活性成分の酸化を防止するため、ArあるいはNガスでシールすることが好ましい。なお、普通造塊法の場合には、鋳造して得た鋼塊を熱間鍛造してスラブとすることが好ましい。また、スラブから鋼板を得るために行う熱間圧延および冷間圧延は、常法により行うことができる。
容量60トンの電気炉により、フェロニッケル、純ニッケル、フェロクロム、鉄屑、ステンレス屑、Fe−Ni合金屑を原料として溶解後、AODにて酸化精錬を行った後、石灰石および螢石を投入し、CaO−SiO−Al−MgO−F系スラグを生成させ、さらに、アルミニウムおよび/またはフェロシリコンを投入し、クロム還元、脱酸および脱硫を行った後、連続鋳造により、あるいは普通造塊法にて得た鋳塊を熱間鍛造することによりスラブとした。なお、一部のチャージでは、VODのみで精錬を行った。その後、このスラブを熱間圧延し、冷間圧延して板厚3mmの鋼板とした。
このようにして得られた冷延鋼板について、以下の評価を行った。
(1)化学成分:鋼板から切り出したサンプル中のOおよびNについては、酸素・窒素同時分析装置(不活性ガス−インパルス加熱溶融法:堀場製作所製
EMGA−520)を用いて、また、CおよびSについては、炭素・硫黄同時分析装置(酸素気流中燃焼−赤外線吸収法:堀場製作所製EMIA−520)を用いて、その他の元素については、蛍光X線分析装置を用いて分析を行った。
(2)非金属介在物組成:鋼板から切り出したサンプルを鏡面研磨し、EDSを用いて介在物をランダムに20点定量分析した。
(3)介在物の形態および清浄度:光学顕微鏡によって圧延方向に平行な断面を400倍で60視野の観察し、「JIS G0555」に準拠して測定した。
(4)表面性状:コイルの表裏面の全長を目視により観察し、表面欠陥数をカウントした。
(5)耐食性試験:試験片を#600研磨仕上後、脱脂し、「JIS Z2371」に準拠した条件(50℃)で塩水噴霧試験(SST)を4時間行い、発錆の有無を調査した。
(6)溶接性:電流120A、溶接速度200mm/分の条件でTIG溶接し、ビード上に発生した黒点の有無を目視により評価した。
鋼板成分の分析結果を表1に、非金属介在物組成および介在物の形態、清浄度の測定結果を表2に、そして、表面性状、耐食性試験、溶接性の調査結果を表3に示す。表1〜3の結果によれば、本発明例No.は、すべて本発明の規定した組成範囲を満足しており、表面性状、耐食性および溶接性ともに問題はなかった。一方、比較例では、いずれか1項以上が規定した組成範囲を外れていたため、表面疵が多数発生したり、要求される耐食性が得られなかったり、あるいは溶接時に黒点の発生が認められた。さらに、一部では製造性が著しく悪く、製品が得られないチャージ(No.17)もあった。
Figure 0004673343
Figure 0004673343
Figure 0004673343

Claims (5)

  1. C≦0.1mass%、Si:0.01〜2.0mass%、Mn:0.01〜3.0mass%、Cr:13.0〜26.0mass%、Ni:2.0〜30.0mass%、Mo:0.01〜5.0mass%、Co≦3mass%、Al:0.001〜0.1mass%、S:0.0002〜0.02mass%、Mg:0.00005〜0.01mass%、Ca:0.00005〜0.01mass%、O:0.0050〜0.01mass%、N:0.01〜0.3mass%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、CaO:1〜40mass%以下、SiO :10〜70mass%、Al :5〜40mass%、MgO:0.1〜25mass%、MnO:0.1〜2.5mass%からなり、Cr とFeOが合計で20mass%以下含まれるCaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物からなることを特徴とする耐食性、溶接性および表面性状に優れるステンレス鋼
  2. 前記CaO−SiO−Al−MgO−MnO系酸化物は、鋳造後のスラブ中または鋼塊中にガラス質として存在することを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼
  3. 上記ステンレス鋼における鋼中の非金属介在物は、JIS G0555に規定されたB系およびC系の形態であり、かつ、JIS G0555に規定された清浄度が0.05以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のステンレス鋼
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載のステンレス鋼を製造するに当たり、電気炉に原料を装入して溶解し、AODおよび/またはVODにおいてArまたは窒素と酸素とを吹精して脱炭し、その後、石灰石および蛍石を投入して、CaO:30〜80mass%、SiO ≦20mass%、Al :5〜40mass%、MgO:1〜30mass%およびF≦20mass%の組成を有するCaO−SiO−Al−MgO−F系スラグを形成し、さらにAlまたはAlおよびフェロシリコンを投入してクロム還元、脱酸および脱硫を行った後、連続鋳造法または普通造塊法によりスラブとすることを特徴とする耐食性、溶接性および表面性状に優れるステンレス鋼の製造方法。
  5. 前記普通造塊法は、鋳造して得た鋼塊を熱間鍛造してスラブとする方法であることを特徴とする請求項に記載のステンレス鋼の製造方法。
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