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JP4653465B2 - ナチュラルキラー細胞の増殖促進方法およびそれに用いる培養組成物 - Google Patents

ナチュラルキラー細胞の増殖促進方法およびそれに用いる培養組成物 Download PDF

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Description

この発明は、ヒト白血球中に存在するナチュラルキラー細胞(以下、NK細胞と略す場合もある)を生体外で培養する際、その増殖を促進させる方法に関するものである。
近年になって、生体の細胞性免疫機能を応用した細胞免疫療法が癌をはじめとする様々な疾患の治療や予防に適用されるようになってきた。特に癌治療の分野では、ここ十数年にわたり世界中で多くの臨床試験が実施され、今日では外科的療法、化学療法、放射線療法に次ぐ第4の治療法として認知されるようになっている。
癌を対象とした治療法を例にとると、細胞免疫療法は主に以下の3つの治療法に分類される。すなわちインターロイキン−2(以下IL−2と略す)などのサイトカインによって活性化されたリンパ球を治療に用いる「LAK療法」(例えば、非特許文献1参照)、抗原特異的な細胞傷害性活性を有するキラーT細胞治療に用いる「活性化リンパ球移入療法」(例えば、非特許文献2参照)、そして癌抗原に特異的な免疫反応を誘導する能力を持つ樹状細胞を応用した「樹状細胞ワクチン療法」(例えば、非特許文献3参照)である。
このうち「LAK療法」は、体外に取り出したリンパ球分画をIL−2存在下で培養することにより、ナチュラルキラー細胞をはじめとするリンパ球の癌細胞に対する殺傷能力が顕著に高まる現象を利用する療法である。すなわち、LAK療法とは、末梢血から単核球分画(リンパ球+単球)もしくは単核球分画より単球を取り除いたリンパ球分画を調製し、その分画をIL−2を含有する培地で1〜2週間培養して抗腫瘍活性を強化させた後、この細胞を生体内に戻す療法であり、1980年代にRosenbergらにより担癌患者を対象とした臨床研究が開始されたのを端緒とし、現在でも世界中で広く実施されている(例えば、非特許文献4参照)。このように、IL−2存在下で培養され、癌細胞に対する殺傷能力が高まるように誘導された細胞をLAK細胞と呼ぶ。
Rosenberg SA,Lotze MT,Muul LM,Leitman S,Chang AE,Ettinghausen SE,Matory YL,Skibber JM,Shiloni E,Vetto JT.,N Engl J Med.1985 Dec 5;313(23):1485−92. Takayama T,Sekine T,Makuuchi M,Yamasaki S,Kosuge T,Yamamoto J,Shimada K,Sakamoto M,Hirohashi S,Ohashi Y,Kakizoe T.,Lancet.2000 Sep 2;356(9232):802−7. Nestle FO,Alijagic S,Gilliet M,Sun Y,Grabbe S,Dummer R,Burg G,Schadendorf D.,Nat Med.1998 Mar;4(3):328−32. Rosenberg SA.,Semin Oncol.1986 Jun;13(2):200−6.
しかしながら、上述した培養方法では、LAK細胞の効果の主体となるナチュラルキラー細胞が常に効率よく増殖するとは限らないことが知られている。
特に担癌患者ではナチュラルキラー細胞の培養が困難な症例がしばしば認められる。すなわち上記の一般的な培養方法で培養しても、ナチュラルキラー細胞の増殖がほとんど認められず、他の細胞、例えばCD56陽性、CD3陽性のT細胞の増殖が優勢となり、結果的にナチュラルキラー細胞をほとんど含まないLAK細胞が誘導されることになる。
我々が、主に消化器癌の患者を対象として、常法にしたがってこれらの患者の末梢血リンパ球分画よりLAK細胞を誘導した結果、20例中11例では、健常人同様にナチュラルキラー細胞の増殖が旺盛なLAK細胞(ナチュラルキラー細胞の比率:平均20.4%)を誘導することができたが、20例中9例では、CD56陽性、CD3陽性のT細胞が優位となり、ナチュラルキラー細胞の増殖はほとんど認められなかった(ナチュラルキラー細胞の比率:平均2.2%)。このようなCD56陽性CD3陽性T細胞優位なLAK細胞は、ナチュラルキラー細胞優位なLAK細胞と比べて、癌細胞に対する傷害活性およびインターフェロンγやTNFαなどのサイトカイン産生能が著しく低い。したがってこのようなナチュラルキラー細胞の増殖がほとんど認められなかったLAK細胞を用いてもほとんど治療の効果が期待できない。
そこで、上述のようなナチュラルキラー細胞の増殖が困難な患者、つまり例えば常法通り培養しても抗腫瘍活性の低いCD56陽性CD3陽性T細胞が優位となるような患者においてもLAK療法の恩恵を享受することが可能となるような新たな細胞培養法、すなわち抗腫瘍活性の強いナチュラルキラー細胞を良好に増殖させることを可能とする新たなLAK細胞の培養方法の開発が待ち望まれている。さらに従来までの方法でナチュラルキラー細胞の増殖が良好な患者の場合でも、その増殖をさらに促進することで、LAK療法の効果もさらに高まることが期待される。
一方、近年、リツキサンやハーセプチン等の腫瘍抗原特異的なモノクローナル抗体を主成分とする抗体医薬品が開発され治療に用いられているが、これらの医薬品の抗腫瘍作用の機序の一つがナチュラルキラー細胞による抗体依存性細胞傷害活性である事も明らかとなっている(Carson WE 他,Eur J Immunol.2001 Oct;31(10):3016−25.およびMaloney DG 他,Semin Oncol.2002 Feb;29(1 Suppl 2):2−9.)。したがって、より多くのナチュラルキラー細胞の増殖が可能となれば、LAK療法の有効性が高まることが期待されるのみでなく、上記のような抗体医薬品とLAK療法を併用することによって、その効果が相乗的に高まることが期待され、結果的に、さまざまな様相を呈する癌に対して、より有用な治療法を提供することが可能となると考えられる。
そこで、本発明は、従来のLAK細胞の培養方法に比較して、ナチュラルキラー細胞の増殖が促進される培養方法、およびその培養方法に適する培養組成物を提供することを目的とする。
かかる問題を解決するために鋭意検討した結果、発明者らは、ナチュラルキラー細胞を含む細胞群を、ナチュラルキラー細胞が発現するCD56分子のリガンドを含む培地中で培養することによって、ナチュラルキラー細胞の増殖を選択的に促進させる事が可能であることを見出した。
CD56分子は接着分子の一つである神経細胞接着分子(NCAM)のアイソフォームの一つであり、末梢血中では、ナチュラルキラー細胞や一部のT細胞のサブセットに発現することが知られていたが、これまでに、そのリガンドを加えることで、これらの細胞の増殖が促進されることはまったく知られていなかった。本発明に係る方法によれば、IL−2のみによる誘導ではナチュラルキラー細胞の増殖がほとんど認められず、CD56陽性CD3陽性T細胞等が優位となるような細胞群においても、ナチュラルキラー細胞の増殖が十分に促進される。また、もともとナチュラルキラー細胞の増殖が良好な細胞群の場合も、より多くのナチュラルキラー細胞を含有する細胞群を誘導することができる。
ナチュラルキラー細胞を含む細胞群としては、例えば血液から得た単核球細胞やリンパ球分画が挙げられ、これらの細胞群は当業者であれば公知の方法に従って容易に調製することが可能である。
発明の一態様として、本発明は、ナチュラルキラー細胞を含む細胞群を培養する際に、CD56分子のリガンドの一つであるグリコサミノグリカン類を培地に添加することでナチュラルキラー細胞の増殖を顕著に促進する培養方法を提供するものである。
発明に用いるグリコサミノグリカンとしては、例えば、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸などを用いることができる。これらは、いずれも硫酸基を持つ糖が規則正しく配列した多糖類であり、また、いずれもCD56分子に結合するリガンドとしての機能を有している。
これらのグリコサミノグリカンは、一部の医薬品グレードのものを含め、試薬として容易に入手することが可能である。これらは主に動物の皮膚や軟骨などから精製されたものであるが、その由来は特定されるものではない。また上記のような天然由来のもののみならず、各々のグリコサミノグリカンの構成糖を用いて化学的に合成された人工的なグリコサミノグリカンを用いることも可能である。
培養時に添加するグリコサミノグリカンの濃度は、特に限定されるものではないが、低濃度であれば十分な効果が期待できず、また濃度が高すぎても逆に細胞の生育に好ましくない作用を及ぼす可能性もあるため、例えばヘパリンの場合には最終濃度で0.1ユニット/mL〜1000ユニット/mLの範囲で、好ましくは0.5ユニット/mL〜500ユニット/mL、最も好ましくは1ユニット/mL〜100ユニット/mLとする。またコンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸の場合は、最終濃度で0.1〜1000μg/mLの範囲で、好ましくは0.5μg/mL〜500μg/mL、最も好ましくは1μg/mL〜300μg/mLの範囲とする。
またこれらのグリコサミノグリカンは一種類のみ用いても、また二種以上の混合物として用いてもかまわない。
さらにCD56分子のリガンドとしては、多糖体であるグリコサミノグリカンそのもののみならず、グリコサミノグリカンがコア蛋白質に結合した形態、すなわちグリコサミノグリカンを糖鎖の構成成分とするプロテオグリカンを用いることも可能である。
発明の別の態様として、本発明は、細胞群を培養する際に、白血球単核球分画もしくはリンパ球分画を、細胞表面にヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸やデルマタン硫酸などを構成成分とするプロテオグリカンを発現する別の細胞と共培養することで、ナチュラルキラー細胞の増殖を顕著に促進する培養方法を提供するものである。
共培養に用いることができる細胞は、各グリコサミノグリカン類に対する抗体を用いて常法によりフローサイトメーターや免疫染色により検索することが可能である。また、ヘパリチナーゼ、コンドロイチナーゼ等の酵素で細胞表面グリコサミノグリカンを分解処理することでナチュラルキラー細胞の増殖促進作用が消失または減弱するような細胞も共培養に用いることができる。このような条件を満たす細胞としては、肝臓癌細胞株のHuH2(下記に具体例を示す)、骨髄性白血病細胞株であるK562、乳癌細胞株のMCF7、また胆嚢癌細胞株であるAGなどが挙げられるが、本発明に用いることのできる細胞はこれらの細胞株に限定されるものではない。
共培養に用いる細胞株とリンパ球との混合の比率は特定されないが、好ましくは1:1から1:100の範囲で、さらに好ましくは1:5から1:20の範囲で混合して培養することができる。
また共培養に用いる細胞株自体が培養時に増殖するような好ましくない事態を防ぐために、事前にその分裂増殖能を抑制する処置を施すことが好ましい。この処置は、細胞株を共培養に用いる前に、マイトマイシンCとともに培養したり、あるいは放射線を照射する等、当業者が一般的に用いる手法によって行う事ができる。
さらに、本発明は、本発明を実施するための培養組成物をも提供する。
この培養組成物は、リンパ球を培養するのに一般に用いられる培地を基本組成とし、そこにナチュラルキラー細胞の増殖を促す添加物としてグリコサミノグリカン、グリコサミノグリカンを構成成分とするプロテオグリカン、および/またはグリコサミノグリカンを構成成分とするプロテオグリカンを発現する細胞を添加したものとして提供される。
リンパ球を培養するのに用いられる標準的な培地には、RPMI−1640培地、AIM−V培地、X−VIVO培地などがある。よって基本組成となる基礎培地はこれらの標準的な培地をそのまま用いることもできるが、これらの培地に限定されるものでもなく、リンパ球培養が可能である培地であればどのような培地組成であってもかまわない。そして当該発明の培養組成物は、このような基本組成に、グリコサミノグリカンとして、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸などを添加することで構成される。グリコサミノグリカンは、最終濃度でヘパリンでは0.1ユニット/mL〜1000ユニット/mL、好ましくは0.5ユニット/mL〜500ユニット/mL、最も好ましくは1ユニット/mL〜100ユニット/mLの濃度範囲で、またコンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸では0.1μg/mL〜1000μg/mL、好ましくは0.5μg/mL〜500μg/mL、最も好ましくは1μg/mL〜300μg/mLの濃度範囲で配合された形で提供される。
本発明に係る方法によれば、ナチュラルキラー細胞を含む細胞群を、CD56分子のリガンドを含む培地で培養することにより、ナチュラルキラー細胞の増殖を選択的に促進することができる。本方法によれば、IL−2によってナチュラルキラー細胞の増殖が誘導されなかった細胞群においても、効率よくナチュラルキラー細胞を増殖させることが可能となると共に、もともとIL−2によってナチュラルキラー細胞の増殖が誘導されやすい細胞群においても、より多くのナチュラルキラー細胞を含む培養物を得ることができる。このようにして得られたナチュラルキラー細胞を高い比率で含む細胞組成物を用いれば、LAK療法の効果も高められ、また、リツキサンやハーセプチン等の抗体医薬品とLAK療法の併用により、有用な治療法を提供することも可能となると考えられる。
以下に具体的な例を記載して発明の効果を説明する。
健常人由来サンプルにおける、ヘパラン硫酸およびコンドロイチン硫酸A、デルマタン硫酸によるナチュラルキラー細胞(=NK細胞)の増殖の促進。
健常人の末梢血30mLより、常法に従ってリンフォセパール(免疫生物研究所社製)を用いて60,000,000個の末梢血単核球細胞を得た。その後この細胞をAIM−V培地(インビトロジェン社製)に懸濁させて150cmの培養用フラスコに播種した後に37℃のCOインキュベーターで60分間培養し、その後浮遊している細胞を回収し、33,000,000個のリンパ球分画を得た。このリンパ球分画を、牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL〕を含むAIM−V培地に懸濁し、24ウェルの培養プレートに1,000,000個/1mL/ウェルとなるように播種した。またヘパラン硫酸(生化学工業(株)製)、コンドロイチン硫酸A(生化学工業製)あるいはデルマタン硫酸を最終濃度で100μg/mLとなるように培地に加えた。その後37℃のCOインキュベーターで培養し、培養7日目に各ウェルに牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL)を含むAIM−V培地を1mL加えて細胞を懸濁した後にその細胞懸濁液を2ウェルに播きかえ、また培養11日目に同様の方法で2ウェルを4ウェルに播きかえて培養した。そして培養14日目に、細胞を回収して血球計算盤を用いて細胞数を計測するとともに、フローサイトメーターを用いてNK細胞(CD3陰性、CD56陽性、CD16陽性)の比率を計測し、NK細胞数を算出した。
その結果を表1に示した。培養開始前の時点、すなわち末梢血リンパ球分画中に8.5%であったNK細胞が、培地中に最終濃度で100μg/mLのヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸Aあるいはデルマタン硫酸を加えて2週間培養することで、各々48.2%、24.2%、49.2%となり、またNK細胞数も培養開始時の各々72.5倍、23.5倍、112.7倍となった。
一方、比較例として、グリコサミノグリカンを加えない条件で2週間培養した場合は、NK細胞の比率は17・0%までしか増加せず、細胞数も16.5倍に留まった。
Figure 0004653465
健常人由来サンプルにおけるヘパリンによるNK細胞の増殖の促進。
健常人の末梢血20mLより、常法に従ってリンフォセパールを用いて血単核球細胞を調製し、その後この細胞をAIM−V培地に懸濁して75cmの培養用フラスコに播種した後に37℃のCOインキュベーターで60分間培養し、その後浮遊している細胞を回収し、13,000,000個のリンパ球分画を得た。このリンパ球分画を、牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL)を含むAIM−V培地に懸濁し、24ウェルの培養プレートに1,000,000個/1mL/ウェルとなるように播種した。またヘパリン(持田製薬製)を最終濃度で5ユニット/mLとなるように加えた。その後37℃のCOインキュベーターで培養し、培養7日目に各ウェルに牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL)を含むAIM−V培地を1mL加えて細胞を懸濁した後にその細胞懸濁液を2ウェルに播きかえ、また培養11日目に同様の方法で2ウェルを4ウェルに播きかえて培養した。そして培養14日目に、細胞を回収して血球計算盤を用いて細胞数を計測するとともに、フローサイトメーターを用いてNK細胞(CD3陰性、CD56陽性、CD16陽性)の比率を計測し、NK細胞数を算出した。
その結果を表2に示した。培養開始前の時点、すなわち末梢血リンパ球分画中に4.1%であったNK細胞が、培地中に最終濃度で5ユニット/mLのヘパリンを加えて2週間培養することで、11.6%となり、NK細胞数も培養開始時の21.6倍となった。
一方、比較例として、ヘパリンを加えない条件で2週間培養したところ、NK細胞の比率は5.5%までしか増加せず、細胞数も10.2倍に留まった。
Figure 0004653465
担癌患者由来サンプルにおけるヘパリンによるNK細胞の選択的な増殖の促進。
肝臓癌の患者末梢血より調製したリンパ球分画を、24ウェルの培養プレートに、牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL)を含むAIM−V培地に懸濁し、1,000,000個/1mL/ウェルとなるように播種した。またヘパリン(持田製薬(株)製)を最終濃度で5ユニットmL(5単位/mL)となるように加えた。その後37℃のCOインキュベーターで培養し、培養7日目に各ウェルに牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL)を含むAIM−V培地を1mL加えて細胞を懸濁した後にその細胞懸濁液を2ウェルに播きかえ、また培養11日目に同様の方法で2ウェルを4ウェルに播きかえて培養した。そして培養14日目に、細胞を回収して血球計算盤を用いて細胞数を計測するとともに、フローサイトメーターを用いてNK細胞(CD3陰性、CD56陽性、CD16陽性)ならびにCD56陽性T細胞(CD3陽性、CD56陽性、CD16陰性)の比率を計測し、各々の細胞数を算出した。
その結果を表3に示した。培養開始前の時点、すなわち末梢血リンパ球分画中に5.0%であったNK細胞が、培地中に最終濃度で5ユニット/mLのヘパリンを加えて2週間培養することで、27.9%となり、またNK細胞数も培養開始時の30.0倍となった。
比較例として、ヘパリンを加えない条件で2週間培養したところ、NK細胞の比率は16.5%までしか増加せず、細胞数も16.6倍に留まった。
一方、CD56陽性T細胞は、末梢血リンパ球分画中に11.0%であり、ヘパリンを加えて培養した場合は32.5%(細胞数15.7倍)となり、ヘパリンを加えずに培養した場合は約44.7%(細胞数20.5倍)であった。
以上の結果から、ヘパリンはNK細胞の増殖を促進する作用を有するが、CD56陽性T細胞の増殖には逆に抑制的に機能する作用を有することが明らかとなった。
Figure 0004653465
IL−2によりCD56陽性T細胞が優位となる担癌患者由来サンプルにおける、コンドロイチン硫酸Aおよびデルマタン硫酸によるNK細胞の選択的な増殖の促進。
胃癌患者の末梢血より調製したリンパ球分画を、24ウェルの培養プレートに、牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL)を含むAIM−V培地に懸濁し、1,000,000個/1mL/ウェルとなるように播種した。またコンドロイチン硫酸Aあるいはデルマタン硫酸を最終濃度で100μg/mLとなるように培地に加えた。その後37℃のCOインキュベーターで培養し、培養7日目に各ウェルに牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL)を含むAIM−V培地を1mL加えて細胞を懸濁した後にその細胞懸濁液を2ウェルに播きかえ、また培養11日目に同様の方法で2ウェルを4ウェルに播きかえて培養した。そして培養14日目に、細胞を回収して血球計算盤を用いて細胞数を計測するとともに、フローサイトメーターを用いてNK細胞(CD3陰性、CD56陽性、CD16陽性)の比率ならびにCD3陽性、CD56陽性細胞の比率を計測し、NK細胞数およびCD56陽性T細胞数を算出した。
その結果を表4に示した。培養開始前の時点、すなわち末梢血リンパ球分画中に1.3%であったNK細胞は、グリコサミノグリカンを加えない条件で2週間培養したところ、細胞数は4.5倍に増加したものの、その比率は0.5%に低下した。しかしながら培地中に最終濃度で100μg/mLのコンドロイチン硫酸Aもしくはデルマタン硫酸を加えて2週間培養すると、NK細胞の比率は各々2.4%、2.3%となり、またNK細胞数も各々培養開始時の26.1倍および26.3倍となり、NK細胞の増殖が顕著に促進されることが明らかとなった。
一方、末梢血リンパ球分画中に1.2%であったCD56陽性T細胞数は、グリコサミノグリカンを加えない条件で2週間培養することで、細胞数は420.8倍に増加し、その比率は約42.2%となった。一方、100μg/mLのコンドロイチン硫酸Aもしくはデルマタン硫酸存在下で2週間培養した場合も、CD56陽性T細胞の比率は各々36.9%および39.8%となり、また細胞数も各々培養開始時の458.3倍および521.8倍であり、CD56陽性T細胞数の増殖はグリコサミノグリカンを加えない場合とほぼ同程度であった。
以上の結果から、コンドロイチン硫酸Aもしくはデルマタン硫酸の添加によってNK細胞の増殖が選択的に促進されることが確認された。
Figure 0004653465
健常人由来サンプルにおけるグリコサミノグリカン発現細胞との共培養によるNK細胞の選択的な増殖の促進。
健常人の末梢血より調製したリンパ球分画を、24ウェルの培養プレートに、牛胎児血清10%、IL−2(1,000国際単位/mL)を含むAIM−V培地に懸濁し、2,000,000個/2mL/ウェルとなるように播種した。また、予め最終濃度で50μg/mlのマイトマイシンC存在下で30分培養してその分裂増殖能を停止させたHuH2細胞株(肝臓癌細胞株)を、200,000個/2mL/ウェルとなるように播種した(リンパ球分画細胞数:HuH2細胞数=10:1)。また一部のHuH2細胞は、事前にリン酸緩衝生理食塩水中にて最終濃度で10mU/mLのヘパリチナーゼI(生化学工業製)、で37℃、4時間酵素処理を行うことで細胞表面のグリコサミノグリカンを消化し、酵素処理を行わなかった細胞を用いた場合と比較した。
その結果を表5に示した。培養開始前の時点、すなわち末梢血リンパ球分画中に6.8%であったNK細胞は、IL−2存在下で7日間培養したところ、NK細胞の比率は10.4%、細胞数は1.9倍に増加したが、HuH2細胞と共培養することでNK細胞の比率は14.5%、細胞数は培養開始時の3.7倍となり、NK細胞の増殖が顕著に促進されることが明らかとなった。一方、事前にヘパリチナーゼIで前処理を行なったHuH2細胞と共培養すると、NK細胞の比率は11.9%となり、またNK細胞数も培養開始時の2.5倍となり、ヘパリチナーゼIで細胞表面のグリコサミノグリカンを消化したHuH2細胞では、無処置のHuH2細胞と比較してNK細胞の増殖を促進する作用の顕著な低下が認められた。
以上の結果から、HuH2細胞との共培養によりNK細胞の増殖が選択的に促進されること、そしてそのNK細胞の増殖促進作用がHuH2細胞の発現するグリコサミノグリカンを介した作用であることが確認された。
Figure 0004653465
発明の産業上の利用分野
本発明は、ヒト白血球中に存在するナチュラルキラー細胞を生体外で培養して増殖させる方法に関するものである。本発明に記載された方法で培養されたナチュラルキラー細胞は、癌やウイルス性疾患等の治療および/または予防のための細胞免疫療法に用いることができる。

Claims (10)

  1. ナチュラルキラー細胞の増殖を促進させる方法であって、
    ナチュラルキラー細胞を含む細胞群を、以下(a)〜(c)の少なくとも一つを含む培地中で培養する工程を含む、方法。
    (a)ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸からなる群より選択される一以上の物質を含むグリコサミノグリカン。
    (b)前記(a)のグリコサミノグリカンを構成成分とするプロテオグリカン。
    (c)前記(a)のグリコサミノグリカン、及び、前記(a)のグリコサミノグリカンを構成成分とするプロテオグリカン、の少なくも一つを発現する細胞。
  2. 前記細胞群が、血液から得た単核球細胞またはリンパ球分画である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記培地が、さらにインターロイキン2を含む、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記(c)の細胞が、ヘパリチナーゼ処理またはコンドロイチナーゼ処理によって、そのナチュラルキラー細胞の増殖促進能が低下する細胞である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記細胞群が、癌患者由来のものである、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 以下(a)〜(c)の少なくとも一つを含むナチュラルキラー細胞の増殖を促進させる培養組成物:
    (a)ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸からなる群より選択される一以上の物質を含むグリコサミノグリカン。
    (b)前記(a)のグリコサミノグリカンを構成成分とするプロテオグリカン。
    (c)前記(a)のグリコサミノグリカン、及び、前記(a)のグリコサミノグリカンを構成成分とするプロテオグリカン、の少なくも一つを発現する細胞。
  7. 前記ナチュラルキラー細胞が、血液から得た単核球細胞またはリンパ球分画である細胞群に含まれるものである、請求項6に記載の培養組成物。
  8. さらにインターロイキン2を含む、請求項6または7に記載の培養組成物。
  9. 前記(c)の細胞が、ヘパリチナーゼ処理またはコンドロイチナーゼ処理によって、そのナチュラルキラー細胞の増殖促進能が低下する細胞である、請求項6から8のいずれか1項に記載の培養組成物。
  10. 前記ナチュラルキラー細胞が、癌患者由来のものである、請求項6から9のいずれか1項に記載の培養組成物。
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