この発明は、従来と異なる構造の電動機を提供することを目的とする。
本発明による第1の電動機は、所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含む第1のコイル列と、
前記所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含み、前記第1のコイル列との相対的な位置関係が固定された第2のコイル列と、少なくとも1つの磁石を含む磁石列であって、前記第1及び第2のコイル列に対向してN極とS極とが交互に配置され、前記第1及び第2のコイル列との相対的な位置関係が前記所定の方向に沿って変化可能な磁石列と、
を備える。前記第1及び第2のコイル列は、電気角でπ/2の奇数倍だけ相互にずれた位置に配置されている。前記第1と第2のコイル列の各コイルは磁性体製のコアを実質的に有しておらず、前記電動機は、磁気回路を形成するための磁性体製のヨークを実質的に有していない。
この電動機は、磁性体製のコアや磁性体製のヨークを実質的に有していないので軽量であり、また、アクチュエータとして使用した場合にはトルクと重量のバランスに優れている。また、磁性体製のコアを有していないので、コギングが発生せずに安定したなめらかな回転が可能である。さらに、磁性体製のヨークを実質的に有していないので、鉄損(渦電流損)がほとんど無く、効率の良い電動機を実現できる。
上記電動機は、さらに、前記第1及び第2のコイル列および前記磁石列を収納するケースを備えており、前記第1及び第2のコイル列の各コイルは、実質的に非磁性かつ非導電性の材料で形成された支持材の回りに巻き回されており、前記ケースは、実質的に非磁性かつ非導電性の材料で形成されているものとしてもよい。
この構成によれば、鉄損やコギングがほとんど無い電動機を実現することができる。
上記電動機は、回転軸と、軸受け部以外の構造材は、実質的に非磁性かつ非導電性の材料で形成されているものとしてもよい。
この構成によれば、さらに軽量化が可能であり、また、鉄損をさらに低減することができる。
なお、各コイル列の前記複数のコイルは、同一のコイル列に属する隣り合うコイル同士が常に逆極性に励磁されるように互いに接続されているものとしてもよい。
また、前記第1及び第2のコイル列は、前記磁石列を挟んだ両側に配置されていることが好ましい。
この構成によれば、磁石列の両側の磁束を有効に利用できるので、大きなトルクを発生させることができる。
上記電動機は、前記第1及び第2のコイル列と前記磁石列とが前記所定の方向に沿って相対的に回転する回転式モータまたは回転式ジェネレータであり、前記第1のコイル列のコイル数と、前記第2のコイル列のコイル数と、前記磁石列の磁石数とが等しいものとしてもよい。
この構成によれば、高効率で大トルクのモータを実現することができる。
上記電動機は、さらに、前記第1のコイル列に供給する第1の交流駆動信号と前記第2のコイル列に供給する第2の交流駆動信号とを供給するための駆動信号生成回路を備え、前記駆動信号生成回路は、前記第1及び第2のコイル列の各コイルの極性が前記磁石列内の磁石の中心と各コイルの中心とが対向するタイミングで切り替わるとともに、同一のコイル列に属する隣り合うコイル同士の間の中央位置が前記磁石列内の磁石の中心と対向するタイミングにおいて当該コイル列における磁束密度が最も大きくなるように、前記第1と第2の交流駆動信号を生成するようにしてもよい。
この構成によれば、駆動信号に同期して電動機を駆動することができる。
前記駆動信号生成回路は、前記第1及び第2のコイル列の電流方向を逆転させることによって、前記第1及び第2のコイル列と前記磁石列との動作方向を逆転させることが可能であることが好ましい。
また、前記駆動信号生成回路は、位相がπ/2だけ相互にずれた第1と第2のPWM信号をそれぞれ生成する第1と第2のPWM回路と、前記電動機の出力要求に応じて前記第1と第2のPWM信号をマスクすることによって前記第1と第2の交流駆動信号を生成するマスク回路と、を備えるようにしてもよい。
この構成によれば、マスク回路によってPWM信号をマスクすることによって、電動機の出力を調節することが可能である。
前記マスク回路は、各交流駆動信号の極性が反転するタイミングを中心とした対称な時間的範囲で各PWM信号をマスクするようにしてもよい。
一般に、各交流駆動信号の極性が反転するタイミング付近では、コイルがあまり有効な駆動力を発生せず、交流駆動信号のピーク付近で有効な駆動力を発生するという傾向がある。従って、上記の構成によれば、コイルが有効な駆動力をあまり発生しない期間においてPWM信号をマスクするので、電動機の効率を向上させることが可能である。
なお、上記電動機は、さらに、前記第1と第2のコイル列から電力を回生するための回生回路を備え、前記駆動信号生成回路と前記回生回路は、前記第1と第2のコイル列の一方から駆動力を発生させつつ他方から電力を回生する運転モードで前記電動機を運転することが可能であることが好ましい。
この構成によれば、必要に応じて、駆動力の発生と電力の回生とを同時に実行しつつ、電動機を動作させることができる。
なお、前記第1と第2のコイル列は、中空の二重円筒構造を構成する第1と第2の円筒部材に配置されており、前記磁石列は、前記第1と第2の円筒部材の間に挿入された第3の円筒部材に配置されているようにしてもよい。
この構成によれば、ロータ(第1と第2のコイル列、又は、磁石列)が回転時に振動しにくい電動機を得ることができる。
本発明による第2の電動機は、所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含む第1のコイル列と、前記所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含み、前記第1のコイル列との相対的な位置関係が固定された第2のコイル列と、前記所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含み、前記第1及び第2のコイル列との相対的な位置関係が固定された第3のコイル列と、少なくとも1つの磁石を含む磁石列であって、前記第1、第2、及び第3のコイル列に対向してN極とS極とが交互に配置されており、前記第1、第2、及び第3のコイル列との相対的な位置関係が前記所定の方向に沿って変化可能な磁石列と、を備える。前記第1、第2、及び第3のコイル列は、電気角で2π/3だけ順次相互にずれた位置に配置されており、前記第1、第2、及び第3のコイル列の各コイルは磁性体製のコアを実質的に有しておらず、前記電動機は、磁気回路を形成するための磁性体製のヨークを実質的に有していない。
この構成によっても、トルクと重量バランスに優れた電動機を実現できる。また、コギングが発生せずに安定したなめらかな回転が可能であり、鉄損がほとんど無い効率の良い電動機を実現できる。
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、電動アクチュエータ、リニアモータや回転式モータなどの電動モータ、発電機、それらのアクチュエータやモータ、発電機の駆動方法および駆動装置等の態様で実現することができる。
発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.第1実施例(二相モータ):
B.第2実施例(二相モータ):
C.二相モータの各種の変形例:
D.第3実施例(三相モータ):
E.第4実施例:
F.その他の変形例:
A.第1実施例(二相モータ):
図1(A)は、本発明の第1実施例における電動モータの概略構成を示す説明図である。この電動モータは、第1のコイル列構造10Aと、第2のコイル列構造20Bと、磁石列構造30Mとを有している。
第1のコイル列構造10Aは、支持部材12Aと、支持部材12Aに固定されたA相コイル列14Aとを有している。このA相コイル列14Aは、逆方向に励磁される2種類のコイル14A1,14A2が一定のピッチPcで交互に配置されたものである。図1(A)の状態では、3つのコイル14A1は磁化方向(N極からS極に向く方向)が下向きになるように励磁されており、また、他の3つのコイル14A2は磁化方向が上向きになるように励磁されている。
第2のコイル列構造20Bも、支持部材22Bと、支持部材22Bに固定されたB相コイル列24Bとを有している。このB相コイル列24Bも、逆方向に励磁される2種類のコイル24B1,24B2が一定のピッチPcで交互に配置されたものである。なお、本明細書では、「コイルピッチPc」は、A相コイル列のコイル同士のピッチ、または、B相コイル列のコイル同士のピッチとして定義されている。
磁石列構造30Mは、支持部材32Mと、支持部材32Mに固定された磁石列34Mとを有している。この磁石列34Mの永久磁石は、磁化方向が磁石列34Mの配列方向(図1(A)の左右方向)とは垂直な方向に向くようにそれぞれ配置されている。磁石列34Mの磁石は、一定の磁極ピッチPmで配置されている。この例では、磁極ピッチPmはコイルピッチPcに等しく、電気角でπに相当する。なお、電気角の2πは、モータの駆動信号の位相が2πだけ変化したときに移動する機械的な角度又は距離に対応づけられる。第1実施例では、A相コイル列14AとB相コイル列24Bの駆動信号の位相が2πだけ変化すると、磁石列構造30MがコイルピッチPcの2倍だけ移動する。
なお、A相コイル列14AとB相コイル列24Bは、電気角で互いにπ/2だけ異なる位置に配置されている。なお、A相コイル14AとB相コイル列24Bは、位置が異なるだけであり、他の点は実質的に同じ構成を有している。従って、以下では、コイル列に関する説明の際に特に必要な場合を除いてA相コイル列についてのみ説明する。
図1(B)は、A相コイル列14AとB相コイル列24Bに供給される交流駆動信号の波形の一例を示している。A相コイル列14AとB相コイル列24Bには、二相交流信号がそれぞれ供給される。また、A相コイル列14AとB相コイル列24Bの駆動信号の位相はπ/2だけ互いにずれている。図1(A)の状態は、位相ゼロ(又は2π)の状態に相当する。
この電動モータは、さらに、A相コイル列14A用の位置センサ16Aと、B相コイル列24B用の位置センサ26Bとを有している。これらを以下では「A相センサ」、「B相センサ」と呼ぶ。A相センサ16AはA相コイル列14Aの2つのコイルの間の中央の位置に配置されており、B相センサ26BはB相コイル列24Bの2つコイルの間の中央の位置に配置されている。これらのセンサ16A,26Bとしては、図1(B)に示す交流駆動信号と同様な波形を有するアナログ出力を有するものを採用することが好ましく、例えばホール効果を利用したホールICを採用することができる。但し、矩形波状のデジタル出力を有するセンサを採用することも可能である。また、位置センサを省略してセンサレス駆動を行うことも可能である。
なお、支持部材12A,22B,32Mは、非磁性体材料でそれぞれ形成されている。また、本実施例の電動モータの各種の部材のうちで、コイルやセンサを含む電気配線と、磁石と、回転軸と、その軸受け部以外の部材は、すべて非磁性で非導電性の材料で形成されていることが好ましい。
図2(A),2(B)は、A相コイル列14Aの2種類のコイル14A1,14A2の結線方法を示す図である。図2(A)の結線方法では、A相コイル列14Aに含まれるすべてのコイルが、駆動信号生成回路100に対して直列に接続されている。一方、図2(B)の結線方法では、一対のコイル14A1,14A2で構成される直列接続が、複数組並列に接続されている。このいずれの結線方法の場合にも、2種類のコイル14A1,14A2は、常に逆の極性に磁化される。
図3(A)〜3(D)は、第1実施例の電動モータの動作を示している。なお、第1実施例では、コイル列14A,24Bがステータとして構成されており、磁石列34Mがロータとして構成されている。従って、図3(A)〜3(D)では、時間の経過とともに磁石列34Mが移動している。
図3(A)は位相が2πの直前のタイミングの状態を示している。なお、コイルと磁石との間に描かれた実線の矢印は吸引力の方向を示しており、破線の矢印は反発力の方向を示している。この状態では、A相コイル列14Aは磁石列34Mに対して動作方向(図の右方向)の駆動力を与えておらず、磁石列34MをA相コイル列14Aに引きつける方向に磁力が働いている。従って、位相が2πのタイミングでは、A相コイル列14Aへの印加電圧をゼロにすることが好ましい。一方、B相コイル列24Bは、磁石列34Mに動作方向の駆動力を与えている。また、B相コイル列24Bは磁石列34Mに対して吸引力だけで無く反発力も与えているので、B相コイル列24Bから磁石列34Mに対する上下方向(磁石列34Mの動作方向と垂直な方向)の正味の力はゼロである。従って、位相が2πのタイミングでは、B相コイル列24Bへの印加電圧をピーク値にすることが好ましい。
図1(B)に示されているように、位相が2πのタイミングでA相コイル列14Aの極性が反転する。図3(B)は、位相がπ/4の状態であり、A相コイル列14Aの極性が図3(A)から反転している。この状態では、A相コイル列14AとB相コイル列24Bが、磁石列34Mの動作方向に同じ駆動力を与えている。図3(C)は、位相がπ/2直前の状態である。この状態は、図3(A)の状態とは逆に、A相コイル列14Aのみが、磁石列34Mに動作方向の駆動力を与えている。位相がπ/2のタイミングではB相コイル列24Bの極性が反転し、図3(D)に示す極性となる。図3(D)は、位相が3π/4の状態である。この状態では、A相コイル列14AとB相コイル列24Bが、磁石列34Mの動作方向に同じ駆動力を与えている。
図3(A)〜3(D)から理解できるように、A相コイル列14Aの極性は、A相コイル列14Aの各コイルが磁石列34Mの各磁石と対向するタイミングで切り換えられる。B相コイル列も同様である。この結果、すべてのコイルからほとんど常に駆動力を発生させ得るので、大きなトルクを発生することが可能である。
なお、位相がπ〜2πの期間は、図3(A)〜3(D)とほぼ同様なので詳しい説明を省略する。但し、A相コイル列14Aの極性は位相がπのタイミングで再び反転し、B相コイル列24Bの極性は位相が3π/2のタイミングで再び反転する。
上述の説明から理解できるように、本実施例の電動モータは、コイル列14A,24Bと磁石列34Mとの間の吸引力と反発力を利用することによって、磁石列34Mに対する動作方向の駆動力を得ている。特に、本実施例では、磁石列34Mを挟んだ両側にコイル列14A,24Bが配置されているので、磁石列34Mの両側の磁束を駆動力の発生に利用することができる。従って、従来の電動モータのように、磁石の片側のみを駆動力の発生に利用する場合に比べて磁束の利用効率が高く、効率が良くトルクの大きなモータを実現することができる。
また、本実施例のモータでは、磁性体製のコアが設けられていないのでいわゆるコギングが発生せず、なめらかで安定した動作を実現することができる。また、磁気回路を構成するためのヨークが設けられていないので、いわゆる鉄損(渦電流損)が極めて少なく、効率の良いモータを実現することができる。
ところで、通常のモータでは、コアやヨークが無いと磁束の利用効率が低下すると考えられている。一方、本実施例の電動モータでは、磁石列34Mを挟んだ両側にコイル列14A,24Bが配置されているので、磁束の利用効率が十分に高く、コアやヨークを設ける必要は無い。コアやヨークはコギングの原因となり、また、重量を増加させるので、むしろコアやヨークが無い方が好ましい。さらに、ヨークが無ければ鉄損も無いので、高いモータ効率が得られるという利点もある。
図4(A)は、第1実施例における電動モータの斜視図であり、図4(B)はロータ(磁石列構造)30Mの平面図、図4(C)はその側面図、図4(D)はA相コイル列構造10Aの平面図、図4(E)はB相コイル列構造20Bの平面図である。
A相コイル列構造10AとB相コイル列構造20Bはステータを構成しており、磁石列構造30Mはロータを構成している。すなわち、磁石列構造30Mは、A相コイル列構造10AとB相コイル列構造20Bとの間に、軸37を中心に回転自在に配置されている。ロータ30Mと回転軸37は一体に回転するように、回転軸37がロータ30Mの中心にある回転軸用開口孔に圧入されている。図4(B)、4(D)、4(E)に示すように、ロータ30Mは、略円盤上の支持材32Mに6つの永久磁石34Mが円周方向に沿って均等に設けられたものである。また、A相コイル列構造10Aは、支持材12Aに6つの電磁コイル14A1,14A2が円周方向に沿って均等に設けられたものである。同様に、B相コイル列構造20Bも、支持材22Bに6つの電磁コイル24B1,24B2が円周方向に沿って均等に設けられたものである。この説明から理解できるように、図1(A)における磁石列構造30Mの動作方向(図1(A)の左右方向)は、ロータの回転方向に相当する。
A相コイル列構造10Aの支持部材12Aは、中空円筒状のケースとして形成されている。この中空円筒状のケースの一方の底面(図4(A)で見えない側)は閉止されており、他方の底面は解放されている。このケース12Aの側面には、A相センサ16AとB相センサ26Bとが設けられている。これらのセンサ16A,26Bの位置は、図1(A)に示した位置と同じである。B相コイル列構造20Bの支持部材22Bは、ケース12Aの蓋として形成されている。
図5は、本発明の実施例としての電動アクチュエータの用途と好ましい材料との関係を示している。用途としては、例えば以下の項目を優先する用途が存在する。
(1)低価格であること。
(2)小型であること。
(3)消費電力が少ないこと。
(4)振動・衝撃への耐久性。
(5)高温環境での利用性。
(6)軽量であること。
(7)大トルクを発生可能であること。
(8)高回転が可能であること。
(9)環境に優しいこと。
図5の各用途の右の欄には、永久磁石と、ロータ材(磁石列の支持部材32M)と、ボビン材(コイルのコア材)と、ケース材(コイル列構造10A,20Bの支持部材12A,14B)に適した材料がそれぞれ示されている。なお、「高価磁石」とは、ネオジウム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石などを意味する。また、「一般樹脂」とは、カーボン系樹脂と植物性樹脂とを除く各種の樹脂(特に合成樹脂)を意味する。「カーボン系樹脂」とは、ガラス状カーボン、(炭素繊維強化樹脂(CFRP)、カーボンファイバなどを意味する。ロータ材用の金属としては、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、マグネシウム、銅、銀、金、及び、それらの合金を使用することができる。「セラミックス」としては、ファインセラミックス、ステアタイトセラミック、アルミナ、ジルコン、ガラスを使用することができる。また、「天然材」としては、植物、木材、土砂などを用いた材料(例えば植物性樹脂)を使用することができる。
これらの例からも理解できるように、本発明の実施例としての電動アクチュエータには、ロータ材やボビン材(コア材)やケース材として、非磁性で非導電性の各種の材料を利用することが可能である。但し、ロータ材(磁石列の支持部材32M)としては、強度を考慮してアルミニウムやその合金などの金属材料を用いる場合もある。実際に、第1実施例では、ロータ材としてアルミニウムを使用している。この場合にも、ボビン材やケース材は、実質的に非磁性で非導電性の材料で形成されていることが好ましい。ここで、「実質的に非磁性で非導電性の材料」とは、わずかな部分が磁性体または導電体であることが許容されることを意味している。例えば、ボビン材が実質的に非磁性で非導電性の材料で形成されているか否かは、モータにコギングが存在するか否かによって判定することができる。また、ケース材が実質的に非導電性の材料で形成されているか否かは、ケース材による鉄損(渦電流損)が所定の値(例えば入力の1%)以下か否かによって判定することができる。
なお、電動アクチュエータの構造材の中には、回転軸と軸受け部のように、金属材料で作成することが好ましい部材も存在する。ここで、「構造材」とは、電動アクチュエータの形状を支えるために使用される部材を意味しており、小さな部品や固定具などを含まない主要な部材を意味している。ロータ材やケース材も構造材の一種である。本発明の電動アクチュエータでは、回転軸と軸受け部以外の主要な構造材は、非磁性で非導電性の材料で形成することが好ましい。
図6は、第1実施例における駆動信号生成回路100の構成を示している。この回路100は、バス102に接続された動作モード信号生成部104と、電子可変抵抗器106と、CPU110とを有している。動作モード信号生成部104は、動作モード信号Smodeを生成する。動作モード信号Smodeは、正転と逆転のいずれであるかを示す第1ビットと、AB相の両方を使用する動作モードとA相のみを使用する動作モードのいずれであるかを示す第2ビットとを含んでいる。なお、モータの始動時には、確実に回転方向を決定するためにA相とB相の2つのコイル列が使用される。但し、モータが動作を開始した後は、要求トルクが少ない運転状態では、A相コイル列とB相コイル列の一方だけを使用しても十分に回転を継続することができる。動作モード信号Smodeの第2ビットは、このような場合にA相コイル列のみを駆動することを指示するためのフラグである。
電子可変抵抗器106の両端の電圧は、4つの電圧比較器111〜114の一方の入力端子に与えられている。電圧比較器111〜114の他方の入力端子には、A相センサ信号SSAとB相センサ信号SSBが供給されている。4つの電圧比較器111〜114の出力信号TPA,BTA,TPB,BTBを「マスク信号」または「許可信号」と呼ぶ。これらの名前の意味については後述する。
マスク信号TPA,BTA,TPB,BTBは、マルチプレクサ120に入力されている。マルチプレクサ120は、動作モード信号Smodeに応じてA相用のマスク信号TPA,BTAの出力端子を切り換え、また、B相用のマスク信号TPB,BTBの出力端子を切り換えることによってモータを逆転させることができる。マルチプレクサ120から出力されたマスク信号TPA,BTA,TPB,BTBは、2段PWM回路130に供給される。
2段PWM回路130は、A相PWM回路132と、B相PWM回路134と、4つの3ステートバッファ回路141〜144とを有している。A相PWM回路132には、A相センサ16A(図1(A))の出力信号SSA(以下、「A相センサ信号」と呼ぶ)と動作モード信号Smodeとが供給されている。B相PWM回路134には、B相センサ26Bの出力信号SSBと動作モード信号Smodeとが供給されている。これらの2つのPWM回路132,134は、センサ信号SSA,SSBに応じてPWM信号PWMA,#PWMA,PWMB,#PMWMを発生する回路である。なお、信号#PMWA,#PMWBは、信号PMWA,PMWBを反転した信号である。前述したように、センサ信号SSA,SSBはいずれも正弦波信号であり、PWM回路132,134はこれらの正弦波信号に応じて周知のPWM動作を実行する。
A相PWM回路132で生成された信号PWMA,#PWMAは、2つの3ステートバッファ回路141,142の2つの入力端子にそれぞれ供給される。これらの3ステートバッファ回路141,142の制御端子には、マルチプレクサ120から与えられたA相マスク信号TPA,BTAが供給されている。3ステートバッファ回路141,142の出力信号DRVA1,DRVA2は、A相コイル列用の駆動信号である(以下「A1駆動信号」及び「A2駆動信号」と呼ぶ)。B相に関しても同様に、PWM回路134と3ステートバッファ回路143,144によってB相コイル列用の駆動信号DRVB1,DRVB2が生成される。
図7は、A相ドライバ回路120AとB相ドライバ回路130Bとを示している。A相ドライバ回路120Aは、A相コイル列14Aに、交流駆動信号DRVA1,DRVA2を供給するためのH型ブリッジ回路である。なお、駆動信号を示すブロックの端子部分に付されている白丸は、負論理であり信号が反転していることを示している。また、符号IA1,IA2が付された矢印は、A1駆動信号DRVA1とA2駆動信号DRVA2によって流れる電流方向をそれぞれ示している。B相ドライバ回路130Bの構成もA相ドライバ回路12Aの構成と同じである。
図8は、第1実施例における各種の信号波形を示すタイミングチャートである。A相センサ信号SSAとB相センサ信号SSBは、位相が互いにπ/2ずれた正弦波である。A相PWM回路132は、A相センサ信号SSAのレベルに比例した平均電圧を有する信号PWMA(図8の上から7番目の信号)を生成する。第1のA相マスク信号TPAは、この信号TPAがHレベルの期間では信号PWMAをA相コイル列14Aに印加することを許可し、Lレベルの期間ではこれを禁止する。同様に、第2のA相マスク信号BTAも、この信号BTAがHレベルの期間で信号PWMAをA相コイル列14Aに印加することを許可し、Lレベルの期間ではこれを禁止する。但し、第1のA相マスク信号TPAは、PWM信号PWMAがプラス側にあるときにHレベルとなり、第2のA相マスク信号BTBはPWM信号PWMAがマイナス側にあるときにHレベルとなる。この結果、A相コイル列14Aには、図8の下から2番目に示すような駆動信号DRVA1+DRVA2が印加される。この説明から理解できるように、A相マスク信号TPA,BTBは、PWM信号PWMAを、A相コイル列14Aに印加することを許可する信号と考えることができ、また、PWM信号PWMAをマスクしてA相コイル列14Aに供給しないようにする信号と考えることも可能である。B相についても同様である。
なお、図8は、大トルクを発生する際の運転状態を示している。このとき、マスク信号TPA,BTAの両方がLレベルである期間は小さく、従って、ほとんどの時間においてA相コイル列14Aに電圧が印加されている。なお、A相センサ信号SSAの波形の右端には、このときのヒステリシスレベルが示されている。ここで、「ヒステリシスレベル」とは、正弦波信号のゼロレベル付近の無効な(すなわち使用されていない)信号レベルの範囲を意味している。大トルク発生時には、ヒステリシスレベルは極めて小さいことが分かる。なお、ヒステリシスレベルは、電子可変抵抗器106の抵抗を変化させて、マスク信号TPA,BTA,TPB,BTBのデューティを変化させることによって変更することができる。
図9は、小さなトルクを発生する際の運転状態を示している。なお、小トルクは高回転であることを意味している。このとき、マスク信号TPA,BTA,TPB,BTBのデューティは図8に比べて小さく設定されており、これに応じて各コイルの駆動信号(DRVA1+DRVA2),(DRVB1+DRVB2)のパルス数も減少している。また、ヒステリシスレベルも大きくなっている。
なお、図8と図9を比較すれば理解できるように、第1のA相マスク信号TPAのHレベルの期間は、A相センサ信号SSAが極大値を示すタイミング(位相のπ/2の時点)を中心にした対称な形状を有している。同様に、第2のA相マスク信号BTAのHレベルの期間は、A相センサ信号SSAが極小値を示すタイミング(位相の3π/2の時点)を中心にした対称な形状を有している。このように、これらのマスク信号TPA,BTAがHレベルである期間は、A相センサ信号SSAがピーク値を示すタイミングを中心とした対称な形状を有している。換言すれば、PWM信号PWMAのマスク期間は、この信号PWMAによって模擬される交流駆動信号(図1(B)に示す波形)の極性が反転するタイミング(π及び2π)を中心とした時間の範囲において信号PWMAがマスクされるように設定されていると考えることも可能である。
ところで、図3(A)で説明したように、A相コイル列14Aは、位相が2π近傍ではあまり有効な駆動力を発生しない。位相がπ近傍のときも同様である。また、A相コイル列14Aは、位相がπ/2および3π/2の近傍では最も効率良く有効な駆動力を発生させる。上述した図9に示されているように、本実施例の2段PWM回路130は、モータの要求出力が小さいときには位相がπ及び2πの近傍でA相コイル列14Aに電圧を印加せず、また、図8,図9に示されているように、位相がπ/2および3π/2の近傍を中心としてA相コイル列14Aに電圧を印加している。このように、A相マスク信号TPA,BTAは、A相コイル列14Aが最も効率良く駆動力を発生させる期間を優先的に使用するようにPWM信号PWMAをマスクしているので、モータの効率を高めることが可能である。なお、位相がπ及び2πの近傍でA相コイル列14Aに電圧を印加すると、図3(A)で説明したように、A相コイル列14Aと磁石列34Mとの間に吸引力が強く働き、ロータを振動させる原因となる。この意味からも、位相がπ及び2πの近傍でA相コイル列14Aに電圧を印加しないようにすることが好ましい。これらの事情は、B相コイル列24Bに関しても同じである。但し、図1(B)に示されているように、B相コイル列24Bは位相がπ/2と3π/2のタイミングで極性が反転するので、B相コイル列24Bには位相がπ/2及び3π/2の近傍で電圧を印加しないようにすることが好ましい。
図10(A)は従来のDCブラシモータの特性を示しており、図10(B)は第1実施例のモータ特性を示している。これらの図の横軸はトルクであり、縦軸は、6つの特性値(効率、出力、入力、電圧、電流、回転数)を示している。
第1実施例のモータは、DCモータとしての特性を有している。また、従来のDCブラシモータと比較すると、第1実施例のモータは、最大トルクが大きく、また、最大出力時における効率が高いという特徴がある。最大出力時における重量トルク比は、従来のブラシモータが0.O6[W/g]であるのに対して、第1実施例のモータは0.28[W/g]と極めて大きな値を示しており、重量とトルクのバランスの点で優れていることが理解できる。
なお、第1実施例のモータの詳細仕様は以下の通りである。
(1)コイル
・線材:銅
・径:φ0.3[mm]
・巻数:150[巻/ボビン]
・コイル接続:各相を極並列接続(図2(B))
(2)永久磁石
・直径:φ14[mm]
・厚さ:5[mm]
・材料:ネオジウム
・平面中心磁束密度:3300[G](0.33[T])
・使用数:2 極*3組=6個
(3)ボビン(コイルの芯材)
・直径:φ15[mm]
・厚み:6[mm]
・材料:フェノール樹脂
・使用数:2相*2極*3組=12個
(4)ロータ材
・直径:φ48[mm]
・厚み:5[mm]
・材料:アルミニウム
(5)ケース(本体ケース、蓋)
・直径:54[mm]
・厚み:22[mm]
・材料:フェノール樹脂
なお、この例ではロータ材(磁石列構造30Mの支持部材32M)としてアルミニウムを使用しているが、非磁性かつ非導電性の材料を使用することも可能である。鉄損を少なくするという点では、ロータ材としてアルミニウムの代わりに非導電性材料を使用することが好ましい。
図11(A),11(B)は、第1実施例のモータの特性を考察するために磁石列34Mの周囲の磁束密度を測定した実験の様子を示している。図11(A)の実験1では、磁石列34Mの両側を開放した状態で、磁石近傍の磁束密度を磁気センサMSで測定した。図11(B)の実験2では、磁石列34Mの下側にケイ素鋼板製のヨーク部YKを設けた状態で、磁石近傍の磁束密度を磁気センサMSで測定した。実験1,2の結果は以下の通りである。
・実験1の磁束密度測定値:3500G
・実験2の磁束密度測定値:4100G
実験2のように、ヨーク部YKを設けた場合には、ヨーク部YKと反対側の磁石表面における磁束密度が確かに増加したが、実験1での測定結果からの増加率は約17%であった。第1実施例のモータでは、図11(A)のように磁石列34Mの両側が開放された状態において、磁石列34Mの両側の磁束を利用して駆動力を発生させているので、磁石列34Mの片側の2倍の磁束を利用していると考えることができる。従って、第1実施例のモータでは、ヨーク部YKを設けてその反対側にコイルを配置する従来のモータに比べて、永久磁石の磁束をより有効に利用しており、この結果、より大きなトルクを発生させることが可能である。
図12は、第1実施例のモータの無負荷時の回転数を示している。このグラフから理解できるように、第1実施例のモータは無負荷時に極く低回転数まで極めて安定した回転数で回転する。この理由は、磁性体のコアが無いのでコギングが発生しないからである。
以上のように、第1実施例の電動モータでは、磁石列34Mの両側にコイル列14A、24Bを設けるとともに、磁性体のコア及びヨークを全く設けない構成としたので、軽量で大きなトルクを得ることができる。また、コギングが無く、極めて低回転数まで安定した回転を維持することができる。
B.第2実施例(二相モータ):
図13(A),13(B)は、本発明の第2実施例としての電動モータの構成を示す断面図である。第2実施例のモータは、略円筒状のロータ30Mが、略円筒状の二重構造のステータの間に挿入されたインサートロータ構造を有している。すなわち、2つのコイル列14A,24Bは、中空の二重円筒構造を構成する2つの円筒部材に配置されており、磁石列34Mはコイル列14A,24Bの間に挿入された他の円筒部材に配置されている。このように、3つの中空円筒部材を同軸状に重ねた構造を、以下、「中空多重円筒構造」とも呼ぶ。
図14(A),14(B)は、ロータとステータとを分離して示している。図14(A)に示すステータは、2つのコイル列14A,24Bを有している。外側にあるA相コイル列14Aの支持部材12Aは、中空円筒状のケースを構成している。このケース12Aの円筒面の外側には、磁気遮蔽部材40が設けられている。この磁気遮蔽部材40は、磁気がモータの外部に漏れないようにするためのものであり、極く薄い強磁性材料(例えばパーマロイ)で形成されている。但し、磁気遮蔽部材140は、磁気回路を構成するためのヨークとしての機能は有していない。なお、モータに使用されている部材がヨークとしての機能を有しているか否かは、前述した図11のような実験を行って磁束密度を測定することによって調べることができる。例えば、磁気遮蔽部材40を設けたときに、コイル列14Aの表面磁束密度が10%以上増加する場合にはヨークとしての機能を有していると判定し、10%未満である場合にはヨークとしての機能を有していないと判定することが可能である。なお、この判定基準は、10%でなく5%としてもよい。
ステータの内部の基板220には、駆動回路ユニット200が設けられている。この駆動回路ユニット200は、図6に示した駆動信号生成回路100と、図7に示したドライバ回路120A,130Bとを含む回路である。駆動回路ユニット200には、電気配線210を介して外部から電源と制御信号とが供給される。
ロータ30Mは、磁石列34Mを有しており、また、中心に軸37が設けられている。図14(A)に示すように、ステータの左側の底面には、軸受け部38が設けられている。また、図14(B)に示すように、ロータ30Mの挿入後にケースを閉じるための蓋39にも、軸受け部36が設けられている。
なお、図13(B)の例では、A相コイル列14AとB相コイル列24Bは、それぞれ8つのコイルを有しており、磁石列34Mも8つの磁石を有している。但し、コイルや磁石の数は任意の値に設定することが可能である。
この第2実施例の電動モータも、第1実施例とほぼ同様に動作し、ほぼ同じ効果を有する。この例から理解できるように、本発明の電動アクチュエータは種々の具体的な形態で実現することが可能である。
なお、第2実施例の電動モータは、上述したような中空多重円筒構造を有しているので、第1実施例に比べてロータの振動が少ないという利点がある。すなわち、図3に即して説明したように、磁石列34Mには、コイル列14A,24Bからの吸引力と反発力に応じて、A相コイル列14A側に力が働くときと、B相コイル列24B側に力が働くときがある。このような場合には、図4に示した第1実施例の構造(円盤状のロータ30Mが、コイル列14A,24Bを保持する2つの円盤状部材の間に挿入された構造)では、ロータ30Mが回転しながら上下に振動する可能性がある。これに対して、図13に示した中空多重円筒構造のモータでは、ロータ30Mを振動させる力(コイル列14A,24Bからの吸引力と反発力のアンバランス)が回転軸を中心として相殺されるので、このような振動が発生し難いという利点がある。
C.二相モータの各種の変形例:
図15(A)〜15(D)は、二相モータのコイル列と磁石列の配列に関する第1変形例を示している。この第1変形例のモータは、図1,図3に示した第1実施例のモータのA相コイル列14AとB相コイル列24Bのコイルを1/2に間引いてコイルピッチPcを2倍にした構成を有している。磁石列34Mの構成は第1実施例と同じである。第1変形例のA相コイル列14Aは、第1実施例におけるA相コイル列14Aの2種類のコイル14A1,14A2(図1)のうちの一方のコイル14A2を省略したものに相当する。従って、第1変形例のA相コイル列14Aのすべてのコイルは、常に同じ方向に磁化されている。
図16(A)〜16(D)は、二相モータのコイル列と磁石列の配列に関する第2変形例を示している。この第2変形例のモータは、図1,図3に示した第1実施例のモータのA相コイル列14AとB相コイル列24Bのコイルを1/3に間引いてコイルピッチPcを3倍にした構成を有している。磁石列34Mの構成は第1実施例と同じである。なお、この第2変形例では、A相コイル列14AとB相コイル列24Bとの相対的な位置関係は、3π/2だけずれている。これから理解できるように、二相モータのA相コイル列14AとB相コイル列24Bは、電気角でπ/2の奇数倍ずれた位置関係にあれば良い。
図17(A)〜17(D)は、二相モータのコイル列と磁石列の配列に関する第3変形例を示している。この第3変形例のモータは、図1,図3に示した第1実施例のモータの磁石列34Mの磁石を1/2に間引いて磁極ピッチPmを2倍にした構成を有している。A相コイル列14AとB相コイル列24Bの構成は第1実施例と同じである。
上述した第1〜第3変形例は、第1実施例からコイルの一部または磁石の一部を間引いたものに相当するが、これらの変形例のモータも第1実施例とほぼ同様な原理で動作することが理解できる。但し、磁束の利用効率という点からは、第2,第3変形例よりも第1実施例の方が優れている。
図18(A)〜18(D)は、二相モータのコイル列と磁石列の配列に関する第4変形例を示している。この第4変形例のモータでは、磁石列34Mの両側に上部コイル列40ABと下部コイル列50ABとが設けられている。上部コイル列40ABは、図1,図3に示した第1実施例のモータのA相コイル列14AとB相コイル列24Bの両方を上方側にまとめたものに相当する。すなわち、上部コイル列40ABは、A相コイル列14Aに含まれる2種類のコイル14A1,14A2と、B相コイル列24Bに含まれる2種類のコイル24B1,24B2とを含んでおり、これらが所定の順番で配置されたものである。下部コイル列50ABも、第1実施例のモータのA相コイル列14AとB相コイル列24Bの両方を下方側にまとめたものに相当する。なお、図18(A)〜18(D)では、図示の便宜上、A相コイル列のコイルを実線で描き、B相コイル列のコイルを破線で描いている。第4変形例のモータは、第1実施例のモータの2倍の数のコイルを有している。なお、コイルピッチPcは、A相コイル列のコイル同士のピッチまたはB相コイル列のコイル同士のピッチと定義しているので、第4変形例のコイルピッチPcは第1実施例と同じである。
第4実施例の上部コイル列40ABと下部コイル列50ABは、両方ともにA相とB相のコイル列を有しているので、上部コイル列40ABと下部コイル列50ABの一方を省略することも可能である。但し、磁石の磁束の有効利用という観点からは、上部コイル列40ABと下部コイル列50ABの両方を設けておくことが好ましい。
図19(A)〜19(D)は、二相モータのコイル列と磁石列の配列に関する第5変形例を示している。この第5変形例のモータは、図1,図3に示した第1実施例のモータの磁石列34Mの磁石の磁化方向を磁石列34Mの動作方向(図の横方向)に向けたものである。磁極ピッチPmは第1実施例と同じであるが、磁石数は第1実施例の1/2である。A相コイル列14AとB相コイル列24Bの構成は第1実施例と同じである。但し、B相コイル列24Bの磁化方向は、図3に示した第1実施例とは逆になる。このように、磁石の磁化方向をロータ(この例では磁石列34M)の動作方向に向けても、第1実施例とほぼ同様な動作を行うことが理解できる。
なお、これらの各種の変形例から理解できるように、A相とB相のコイル列に含まれるコイル数や、磁石列に含まれる磁石数は種々の値に設定可能である。但し、磁束の利用効率の点からは、各相のコイル列のコイル数と、磁石列の磁極数(または磁石数)が等しいことが好ましい。
D.第3実施例(三相モータ):
図20(A)〜20(C)は、本発明の第3実施例における電動モータの概略構成を示す説明図である。この第3実施例例のモータは、A相とB相とC相の3つのコイル列を有する三相モータである。磁石列70Mは、図3(A)に示した第1実施例の磁石列34Mと同じ構成を有している。磁石列70Mの両側には、上部コイル列60ABCと下部コイル列80ABCが設けられている。上部コイル列60ABCは、A相コイル列のコイル91A1と、B相コイル列のコイル92B1と、C相コイル列のコイル93C1とを含んでおり、これらが所定の順番で配置されたものである。なお、図20(A)〜20(C)では、図示の便宜上、A相コイル列のコイルを実線で描き、B相コイル列のコイルを点線で、C相コイル列のコイルを破線で描いている。下部コイル列80ABCも同様に、A相コイル列のコイル91A2と、B相コイル列のコイル92B2と、C相コイル列のコイル93C2とを含んでいる。なお、上部コイル列60ABCのA相コイル91A1と、下部コイル列80ABCのA相コイル91A2は、逆方向に磁化されている。これは、B相コイル及びC相コイルも同じである。A相,B相,C相の各相のコイルピッチPcは、磁極ピッチPmの2倍であり、電気角で2πに相当する。上部コイル列60ABCのA相コイル91A1は、下部コイル列80ABCのA相コイル91A2と電気角でπだけずれた位置に配置されている。B相コイル及びC相コイルも同じである。なお、A相とB相とC相のコイルは、電気角でπ/3ずつ順次ずれた位置に配置されている。
図20(A)は、位相が2π直前の状態を示している。位相が2πのタイミングでは、A相コイル列91A1,91A2の極性が反転する。図20(B)は、位相がπ/3の直前の状態を示している。位相がπ/3のタイミングでは、C相コイル列93C1,93C2の極性が反転する。図20(C)は位相が2π/3の直前の状態を示している。位相が2π/3のタイミングでは、B相コイル列92B1,92B2の極性が反転する。
この第3実施例の三相モータにおいても、A相コイル列91A1,91A2の極性(磁化方向)は、A相コイル列91A1,91A2の各コイルが磁石列70Mの各磁石と対向するタイミングで切り換えられる。B相コイル列及びC相コイル列も同様である。この結果、すべてのコイルから常に駆動力を発生させ得るので、大きなトルクを発生することが可能である。
なお、第3実施例の三相モータも、第1実施例と同様に、磁性体のコアを有しておらず、磁気回路を構成するヨークも有していない。また、回転軸と、軸受け部以外の構造材は、すべて非磁性で非導電性の材料で形成されていることが好ましい。
図21は、第3実施例における駆動信号生成回路の構成を示すブロック図である。この駆動信号生成回路100aは、図6に示した二相モータ用の回路に、C相のための回路部分(例えば電圧比較器115,116)を追加し、また、正弦波発生回路108を追加したものである。
正弦波発生回路108は、3相のセンサ信号SSA,SSB,SSCに応じて、位相が2π/3ずつ順次ずれた3つの正弦波信号SA,SB,SCを発生する。3つの正弦波信号SA,SB,SCは、電圧比較器111〜116に入力され、また、2段PWM回路130aにも供給される。なお、マルチプレクサ120a及び2段PWM回路130aは、図6に示したこれらの回路を三相用に変更したものである。2段PWM回路130aからは、三相の駆動信号対(DRVA1,DRVA2),(DRVB1,DRVB2),(DRVC1,DRVC2)が出力される。なお、各駆動信号の波形は、図8及び図9に示したものとほぼ同じであり、各相の位相差が2π/3である点だけが異なっている。
図22は、第3実施例におけるドライバ回路の構成を示すブロック図である。このドライバ回路140は、コイル列91A,92B,93Cを駆動するための三相ブリッジ回路である。
図23は、第3実施例のセンサ信号と各相のコイルの励磁方向を示すタイミングチャートである。A,B,C相のセンサ信号SSA,SSB,SSCは、電気角でπの長さの期間毎にHレベルとLレベルが切り替わるデジタル信号である。また、各相の位相は、2π/3ずつ順次ずれている。図23の下部には、A,B,C相の各コイル列の励磁方向が示されている。各コイル列の励磁方向は、3つのセンサ信号SSA,SSB,SSCの論理演算で決定されている。
図24(A)〜24(F)は、図23の6つの期間P1〜P6における電流方向を示している。本実施例では、A,B,C相のコイル列がスター結線されているがデルタ結線してもよい。期間P1では、B相コイル列からA相とC相のコイル列に電流が流れる。期間P2では、B相とC相のコイル列からA相コイル列に電流が流れる。このように、A,B,C相の各コイル列に常に電流が流れるように各コイル列を駆動すれば、大きなトルクを発生することができる。
第3実施例の三相モータにおいても、磁石列70Mの両側にコイル列を設け、磁石列70Mの両側の磁束を利用して駆動力を発生させているので、大きな駆動力を得ることができる。また、第3実施例の三相モータも、磁性体のコア及びヨークを全く設けない構成としたので、軽量で大きなトルクを得ることができる。また、コギングが無く、極めて低回転数まで安定した回転を維持することができる。
なお、三相モータも、上記第2実施例のような円筒型モータとして構成することができる。また、上述した第1実施例の各種の変形例と同様な変形を、第3実施例の三相モータにも適用することが可能である。
E.第4実施例:
図25は、第4実施例における駆動回路ユニットの内部構成を示すブロック図である。なお、駆動回路ユニット以外のハードウェア構成は、上述した第1実施例と同じなので説明を省略する。
この駆動回路ユニット500は、CPU110と、駆動制御部100と、回生制御部200と、ドライバ回路150と、整流回路250とを備えている。2つの制御部100,200は、バス102を介してCPU110と接続されている。駆動制御部100とドライバ回路150は、電動アクチュエータに駆動力を発生させる場合の制御を行う回路である。また、回生制御部200と整流回路250は、電動アクチュエータから電力を回生する場合の制御を行う回路である。回生制御部200と整流回路250とをまとめて「回生回路」とも呼ぶ。
なお、駆動制御部100は、図6で説明した駆動信号生成回路100と同じものである。また、ドライバ回路150は、図7で説明したA相ドライバ回路120AとB相ドライバ回路130Bとで構成される回路である。従って、これらの回路100,150の内部構成と動作についての説明は省略する。
図26は、回生制御部200と整流回路250の内部構成を示す図である。回生制御部200は、バス102に接続されたA相充電切換部202と、B相充電切換部204と、電子可変抵抗器206とを有している。2つの充電切換部202,204の出力信号は、2つのAND回路211,212の入力端子に与えられている。
A相充電切換部202は、A相コイル列14Aからの回生電力を回収する場合には「1」レベルの信号を出力し、回収しない場合には「0」レベルの信号を出力する。B相充電切換部204も同様である。なお、これらの信号レベルの切換えは、CPU300によって行われる。また、A相コイル列14Aからの回生の有無と、B相コイル列24Bからの回生の有無とは、独立に設定することができる。従って、例えばA相コイル列14Aを用いてアクチュエータに駆動力を発生させつつ、B相コイル列24Bから電力を回生することも可能である。
なお、駆動制御部100も、同様に、A相コイル列14Aを用いて駆動力を発生するか否かと、B相コイル列24Bを用いて駆動力を発生するか否かとを、独立に設定できるように構成してもよい。例えば、図6の動作モード信号生成部104から、A相コイル列14Aの駆動の有無を示す信号と、B相コイル列24Bの駆動の有無を示す信号とを出力できるように動作モード信号生成部104を構成すれば良い。このようにすれば、2つコイル列14A,24Bのうちの任意の一方で駆動力を発生させつつ、他方で電力を回生する運転モードで電動アクチュエータを運転することが可能である。
電子可変抵抗器206の両端の電圧は、4つの電圧比較器221〜224の2つの入力端子の一方に与えられている。電圧比較器221〜224の他方の入力端子には、A相センサ信号SSAとB相センサ信号SSBが供給されている。4つの電圧比較器221〜224の出力信号TPA,BTA,TPB,BTBは、「マスク信号」または「許可信号」と呼ぶことができる。
A相コイル用のマスク信号TPA,BTAはOR回路231に入力されており、B相用のマスク信号TPB,BTBは他のOR回路232に入力されている。これらのOR回路231,232の出力は、上述した2つのAND回路211,212の入力端子に与えられている。これらのAND回路211,212の出力信号MSKA,MSKBも、「マスク信号」または「許可信号」と呼ぶ。
ところで、電子可変抵抗器206と4つの電圧比較器221〜224の構成は、図6に示した駆動信号生成回路100の電子可変抵抗器106と4つの電圧比較器111〜114の構成と同じである。従って、A相コイル用のOR回路231の出力信号は、図8に示したマスク信号TPA,BTAの論理和を取ったものに相当する。また、A相充電切換部202の出力信号が「1」レベルの場合には、A相コイル用のAND回路211から出力されるマスク信号MSKAはOR回路231の出力信号と同じものとなる。これらの動作はB相についても同様である。
整流回路250は、A相コイル用の回路として、複数のダイオードを含む全波整流回路252と、2つのゲートトランジスタ261,262と、バッファ回路271と、インバータ回路272(NOT回路)とを有している。なお、B相用にも同じ回路が設けられている。ゲートトランジスタ261,262は、回生用の電源配線280に接続されている。
電力回生時にA相コイル列14Aで発生した交流電力は、全波整流回路252で整流される。ゲートトランジスタ261,262のゲートには、A相コイル用のマスク信号MSKAとその反転信号が与えられており、これに応じてゲートトランジスタ261,262がオン/オフ制御される。従って、電圧比較器221,222から出力されたマスク信号TPA,BTAの少なくとも一方がHレベルの期間では回生電力が電源配線280に出力され、一方、マスク信号TPA,BTAの双方がLレベルの期間では電力の回生が禁止される。
以上の説明から理解できるように、回生制御部200と整流回路250を用いて、回生電力を回収することが可能である。また、回生制御部200と整流回路250は、A相コイル用のマスク信号MSKA及びB相コイル用のマスク信号MSKBに応じて、A相コイル列14AとB相コイル列24Bからの回生電力を回収する期間を制限し、これによって回生電力の量を調整することが可能である。
上述したように、本実施例の電動アクチュエータでは、磁性体製のコアが設けられていないので、回生時にもいわゆるコギングが発生せず、なめらかで安定した動作を実現することができる。また、磁気回路を構成するためのヨークが設けられていないので、いわゆる鉄損(渦電流損)が極めて少なく、効率良く回生電力を回収することができる。
なお、第4実施例の駆動回路ユニットは、第1実施例以外の他の実施例や変形例の電動アクチュエータにも適用可能である。
F.その他の変形例:
(1)上記実施例や変形例では、回転式モータについて説明したが、本発明は、回転式モータ以外の種々の電動アクチュエータに適用することが可能であり、例えばリニアモータにも適用可能である。本発明をリニアモータに適用する場合には、例えば、磁石列の磁石は少なくとも1つ設けられていれば良い。また、本発明は、アクチュエータに限らず、発電機にも適用可能である。
(2)上記実施例では、複数のコイル列がステータを構成し、磁石列がロータを構成していたが、逆の構成にすることも可能である。一般に、本発明は、複数のコイル列と磁石列との相対的な位置が変化可能なアクチュエータや発電機に適用することが可能である。
(3)上記実施例や変形例で使用した回路構成は一例であり、これら以外の種々の回路構成を採用することが可能である。