加振方向に加減速度が発生した場合、両振動子はその加減速度の影響を受けて振動する。この際、両振動子の質量や形状などが相互に等しければ、両振動子から検出される値の相対比較によってこのような加減速度の影響はキャンセルされ、センサ出力はゼロに近い値となる。一方で、係る加減速度に対する両振動子の感度が相互に異なる場合には、両振動子の振動モードが異なるために、両振動子間の差分に相当するセンサ出力が発生する。このセンサ出力は、実際に車両にヨーが発生した際に発生するセンサ出力とは区別がつかないから、結局、誤ってヨーレートが検出されてしまうこととなる。
このような場合、従来の技術では、横方向加速度センサの値は変化しないためにヨーレートセンサが異常であると判断されかねない。一方で、このような異常の判断を行わない場合、誤って検出されたヨーレートに基づいて運動制御が実行されかねない。即ち、従来の技術には、快適性が損なわれかねないという技術的な問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、挙動安定化装置に対し、ヨーレートセンサの加速度感度誤差に合わせ、快適性を損なうことなく挙動の安定化制御を実行させ得る挙動安定化装置の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る挙動安定化装置の制御装置は、少なくとも一つの振動子を有すると共に該振動子の加振方向が車両の前後方向と一致するように前記車両に設置されるヨーレート検出手段によって検出されるヨーレートに基づいて前記車両の挙動を安定化させるための挙動安定化制御を行う挙動安定化装置に対し前記挙動安定化制御の実行頻度を規定する閾値を設定することによって前記挙動安定化装置を制御する挙動安定化装置の制御装置であって、前記車両における前記前後方向の加速度を検出する前後方向加速度検出手段と、前記車両が直進状態にあるか否かを判別する判別手段と、前記閾値を、前記検出された前後方向の加速度の絶対値が(i)所定の第1基準値以下である場合には第1閾値に、また(ii)前記第1基準値よりも大きい場合には前記実行頻度を前記第1閾値によって規定される実行頻度よりも減少させる第2閾値に設定する閾値設定手段とを具備し、前記閾値設定手段は、前記前後方向の加速度の絶対値が前記第1基準値よりも大きく、前記判別手段によって前記車両が前記直進状態にあると判別され且つ前記検出されたヨーレートの値を前記検出された前後方向の加速度の値で除算した値の絶対値が所定の第2基準値以下である場合に、前記閾値を前記第1閾値に設定することを特徴とする。
本発明における「ヨーレート検出手段」とは、車両に搭載され、車両に発生するヨーレートを物理量として検出することが可能な手段であり、少なくとも一つの振動子を備え、係る振動子に作用するコリオリ力に基づいてヨーレートを検出する構成を有する手段を包括する概念である。具体的には、振動子を一方向(例えば、X軸)に加振(励振)する。この際、Z軸(垂直軸)周りに振動子が回転運動を行うと、Y軸(X軸及びZ軸に夫々直交する)にコリオリ力が発生する。振動子を加振する手段及びコリオリ力を検出する手段は何ら限定されるものではないが、例えば、圧電素子などを振動子に固定して、或いは圧電素子などで振動子を形成して圧電素子に電圧を印加し、印加電圧に基づく圧電効果を利用することによって振動子が加振されてもよい。この場合、コリオリ力に基づく振動子の振動は、逆圧電効果によって電圧変化を生じさせるから、係る電圧変化或いは電圧を検出することによって、コリオリ力を検出し、検出されたコリオリ力に基づいてヨーレートが検出される。
ヨーレート検出手段における振動子の数量は、何ら限定されない。但し、振動子が単一である場合、加振方向に加減速度が発生すると、係る加減速度の影響によって振動子が振動して、直接的にヨーレートとして検出されてしまう。従って、ヨーレートの検出精度を簡便に高め得る手法として、振動子は通常複数(例えば、2個)設けられる。この場合、各振動子の振動量又はそれと対応する物理量(電圧など)の差分に基づいてヨーレートが検出される。従って、両端子の振動モードが相互に等しい、或いは等しいと見なし得る程度に一致していれば、車両が直進している状態(即ち、車両にヨーが発生していない状態)では係る差分は極めて小さい値となって、このような加減速度の影響がキャンセルされる。
尚、本発明に係るヨーレート検出手段では、振動子は、その加振方向が車両の前後方向と一致するように設置される。ここで、「一致するように」とは、厳密な意味で加振方向が車両の前後方向と一致しておらずともよく、巨視的に見て概ね車両の前後方向と一致している状態を含む概念である。
本発明における「挙動安定化装置」とは、ヨーレート検出手段によって検出されるヨーレートに基づいて車両の挙動を安定化するための挙動安定化制御を実行する装置或いはシステムを指す。ここで、「挙動安定化制御」とは、車両の挙動を安定化させるための物理的、電気的、機械的又は機構的な動作を包括する概念であり、例えば、車両がスリップして過度なアンダーステアが出ている状態や、車両がスピンして過度なオーバーステアが出ている状態を修正或いはそれ自体を回避する目的からブレーキシステムなど制動装置が発揮する制動力を車輪毎にコントロールするような制御であってもよいし、単に、各車輪の操舵角を個別に制御するような制御であってもよい。即ち、挙動安定化装置とは、VSC及びそれに準じる制御を行う装置又は4WS及びそれに準じる制御を行う装置などであってもよい。
尚、「検出されるヨーレートに基づいて」とは、必ずしも検出されるヨーレートのみに基づいて挙動安定化制御が行われることを表すものではなく、挙動安定化装置の態様に合わせ、検出されるヨーレートの他にも適宜車両におけるその他の状態量又は物理量が参照されてもよい趣旨である。例えば、このような状態量又は物理量とは、操舵角、車速及び横方向加速度或いはヨーレート検出手段とは少なくとも一部が独立して設けられる何らかの手段によって特定されるヨーレートであってもよい。尚、この場合の「特定」とは、検出、測定又は推定などを含む概念である。
挙動安定化装置による挙動安定化制御の実行頻度は、閾値によって規定される。即ち、係る閾値と、比較対象となる値との相互比較に基づいて(例えば、閾値を超えたか否かに応じて)挙動安定化制御の実行可否が選択される。尚、閾値との比較対象となる値は、挙動安定化制御を有意に実行することが可能である限りにおいて何ら限定されない。例えば、検出されるヨーレートの値そのものであってもよいし、ヨーレートを推定する手段が備わる場合には検出されたヨーレートの値と推定されたヨーレートの値との差分などであってもよい。
ここで特に、ヨーレートセンサなどのヨーレート検出手段に備わる振動子相互間の寸法、形状又は質量などが無視し得ない程度に異なる場合、必然的に加減速度によって生じる振動のモードが相互に異なることとなる。即ち、両振動子間に加速度感度誤差が発生する。この場合、振動子の振動量の時間分布が相互に異なるために、ヨーレート検出手段の出力値はゼロ又はそれに準じる程度の値と比較して無視し得ない程度に大きい値となる。一方で、このような加速度感度誤差に基づいた出力値は、回転運動に基づいた出力値と区別できないから、両振動子間に比較的大きい加速度感度誤差が存在する場合には、ヨーレート検出手段の信頼性が結果的に低下する。尚、振動子が単一である場合、一検出手段内では、振動子相互間の加速度感度誤差は生じないが、他の車両に搭載される検出手段における振動子との間では同様に生じるのであり、結局ヨーレート検出手段の信頼性が低下する問題は同様に発生する。
このような場合に、何らの対策も施されなければ、誤ったヨーレートに基づいて車両の安定化制御が実行され、車両の快適性が損なわれかねない。反対に、ヨーレート検出手段が異常であるとして挙動安定化制御を行わなければ、必要時に安定化制御が実行されない可能性が有り、車両の快適性が損なわれかねない。
そこで、本発明に係る挙動安定化装置の制御装置は、前後方向加速度検出手段と閾値設定手段を備えることによって、係る問題を解決している。
即ち、本発明に係る挙動安定化装置の制御装置によれば、その動作時には、前後方向加速度検出手段によって、車両の前後方向の加速度が検出される。ここで、前後方向加速度検出手段の態様は、車両の前後方向の加速度を検出可能である限りにおいて何ら限定されない。例えば、加速度の検出方向を係る前後方向に設定した加速度センサであってもよいし、各車輪に備わる車輪速センサに基づいて加速度の値を演算(推定)する手段であってもよい。尚、このような演算手段とは、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)であってもよい。
閾値設定手段は、前述した挙動安定化制御の実行頻度を規定する閾値を設定する手段である。閾値設定手段は、係る閾値を、検出された前後方向の加速度の絶対値が所定の第1基準値以下である場合には第1閾値に、係る第1基準値よりも大きい場合には第2閾値に設定する。
ここで、「第1閾値」とは、ヨーレートセンサの振動子における加速度感度誤差を特段考慮することなしに挙動安定化制御を通常通りに実行する旨を規定する閾値を表す概念である。即ち、第1閾値は、第1閾値が閾値として設定されている状態において、前後方向の加減速度に起因して誤って検出されるヨーレートによって挙動安定化制御が開始される事態が生じない、或いは生じる可能性が著しく低い値を表す概念である。第1閾値は係る概念が担保される限りにおいて、例えば予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて定められていてもよい。
一方、「第2閾値」とは、挙動安定化制御の実行頻度を、第1閾値によって規定される実行頻度よりも減少させる閾値である。即ち、挙動安定化制御が実行される車両状態の範囲(制御範囲)を縮小させる(非制御範囲を拡大させる)閾値である。例えば、検出されるヨーレートの値或いはそれに対応する値が閾値を超えた場合に挙動安定化制御が実行される場合には、第2閾値は第1閾値よりも大きい値となる。第2閾値が閾値として設定されている状態において、前後方向の加減速度の影響を回避する見地からは、第2閾値は、前後方向に、車両に想定し得る最大の加減速度が加えられた場合であっても加速度感度誤差に起因してヨーレートとして検出される出力値によって挙動安定化制御が開始されないように設定されるのが好ましい。しかしながら、第2閾値の値は、挙動安定化制御の実行頻度が少なくとも閾値として第1閾値が選択されている場合と比較して減少する限りにおいてどのような値であってもよい。第2閾値の値は、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて定められていてもよい。
ここで、このような第1及び第2閾値との切り替わりを規定する第1基準値とは、振動子の加速度感度誤差に起因して誤って検出されるヨーレートに基づいて挙動安定化制御が実行される機会が、このような第1基準値が設けられない場合と比較して幾らかなりとも減少する限りにおいて、どのような値であってもよい。例えば、第1基準値は、予め加速度感度誤差によって誤って検出されるヨーレートの範囲がある程度判明している或いは推測可能である場合には、前後方向の加速度によって誤って検出されるヨーレートが第1閾値を超えない限界の値として設定されていてもよい。尚、第1基準値は、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて定められていてもよい。
このように、本発明に係る挙動安定化装置の制御装置によれば、車両の前後加速度の絶対値が第1基準値を超えた場合に閾値が第2閾値に設定され、挙動安定化制御の実行頻度が減少する。従って、少なくとも挙動安定化制御の早期作動が減少する。この際、挙動安定化制御は完全に禁止される訳ではなく、比較対象となる値が第2閾値を超えた場合には、挙動安定化制御が実行される。即ち、閾値を適切に設定することによって、快適性を損なうことなく車両の安定化制御を実行させることが可能となるのである。
尚、「第1基準値を超えた場合に」とは、必ずしも第1基準値を超えた場合の全てでなくてもよく、第1基準値を超え且つ更に何らかの設定条件が満たされた場合も含む概念である。
尚、加速度感度誤差に起因して誤って検出されるヨーレートの値が、前後方向加速度が増加するのに伴って増大することに鑑みれば、第2閾値は、前後加速度の値に対応付けられる形で複数設定されてもよい。即ち、第2閾値とは、単一の値でなくともよい。
また、本発明に係る挙動安定化装置の制御装置は、少なくとも一部が挙動安定化装置本体と一体に、或いは機能的に重複するように構成されていてもよい。例えば、挙動安定化装置が、車両の制動力を制御するための制動ユニット(例えば、ブレーキアクチュエータなど)を制御することによって、車輪に付与される制動力をコントロールする装置であって、ECUがその制御を担っている場合に、閾値設定手段が係るECUによって実現されてもよい。
ここで特に、振動子の加速度感度誤差の範囲は、主として振動子の製造過程において、振動子に許容される精度などに応じて決定される。この際、経済性を追求する事情などから係る許容精度を低下させれば、必然的に加速度感度誤差の大きい(即ち、ヨーレートを誤検出する可能性の高い)振動子がヨーレート検出手段に搭載される可能性は否定できないものとなる。但し、そのような場合でも、加速度感度誤差の比較的小さい振動子がヨーレート検出手段に搭載される可能性が否定される訳ではないから、ヨーレート検出手段に搭載される振動子の加速度感度誤差が十分に小さいことが判別又は推測可能であるならば、閾値を第2閾値に設定する必然性は小さいものとなる。
一方、前述したように、加速度感度誤差に起因して検出されるヨーレートと、実際に車両が旋回動作を行うことなどによって発生する真のヨーレートとは区別がつかないから、加速度感度誤差がどの程度であるかを判別するためには、加速度感度誤差の現れる方向、即ち、前後方向に車両が走行中である必要がある。
そのため、本発明に係る挙動安定化装置の制御装置では、判別手段によって車両が直進状態であるか否かが判別される。ここで、直進状態とは、車両が明確に直進或いは直進とみなせる程度に一方向に進行していることを表す概念であり、直進状態の判別は、係る概念が担保される限りにおいて、如何なる手段を用いて実現されてもよい。
例えば、操舵角、操舵角速度又は横方向加速度などに基づいて車両が直進状態であるか否かが判別されてもよい。この場合、各物理量と予め設定される閾値とが比較されてもよい。一方、直進状態の判別は、このように車両が直進しているか否かを積極的に判別する態様の他に、直進していない可能性が否定できない場合を除外することによって実現されてもよい。例えば、ABS(Antilock Braking System)又はそれに準じる制動制御装置、或いはTRC(TRaction Control system)又はそれに準じるトルク配分装置などが作動している場合、車両の制動力の微妙な変化などにより、ヨーレート検出手段が影響を受ける可能性は否定できない。更に、このような状況では、車両がどの方向を向いているのか分からない場合がある。従って、このような不定要素が含まれる状態は、実際には車両が直進していたとしても、直進状態から除外されてもよい。
ここで、閾値設定手段は、車両が直進している場合、検出されたヨーレートの値を前後方向加速度の値で除算した値(以降、適宜、「感度誤差指標値」と称する)が、第2基準値以下であれば、閾値設定手段は閾値を第1閾値に設定する。従って、ヨーレート検出手段における振動子の加速度感度誤差に合わせて、適切な閾値を設定することが可能となり、挙動安定化装置を効果的に制御することが可能となるのである。
尚、第2基準値は、振動子の加速度感度誤差が許容範囲内であるか否かを規定可能である限りにおいて何ら限定されず、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて適切な値に定められていてもよい。
尚、係る感度誤差指標値は、直進状態であれば、検出されるヨーレートの値に比例するから、振動子の物理的な特性或いはヨーレート検出手段における機械的又は機構的な状態が変化しない限り常に一定である可能性が高い。従って、実際的には、感度誤差指標値が第2基準値以下であるか否かの判別は、車両の走行中(アイドリング状態で停止している場合も含む)少なくとも一回行われればよい。但し、一定又は不定に訪れるタイミング毎に、このような判別が行われてもよい。また、判別がなされた結果は、ECUなどに備わる所定の記憶手段に一時的に記憶されていてもよい。
上述した課題を解決するため、本発明に係る他の挙動安定化装置の制御装置は、少なくとも一つの振動子を有すると共に該振動子の加振方向が車両の前後方向と一致するように前記車両に設置されるヨーレート検出手段によって検出されるヨーレートに基づいて前記車両の挙動を安定化させるための挙動安定化制御を行う挙動安定化装置に対し前記挙動安定化制御の実行頻度を規定する閾値を設定することによって前記挙動安定化装置を制御する挙動安定化装置の制御装置であって、前記車両における前記前後方向の加速度を検出する前後方向加速度検出手段と、前記閾値を、前記検出されたヨーレートの値を前記検出された前後方向の加速度の値で除算した値の絶対値が(i)所定の基準値以下である場合には第1閾値に、また(ii)前記基準値よりも大きい場合には前記実行頻度を前記第1閾値によって規定される実行頻度よりも減少させる第2閾値に設定する閾値設定手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係る他の挙動安定化装置の制御装置によれば、上述した感度誤差指標値の比較判別結果に応じて、閾値設定手段が第1閾値と第2閾値との間で閾値を切り替える。従って、ヨーレート検出手段に搭載される振動子の加速度感度誤差に応じて、挙動安定化制御を適切に実行させることが可能となる。尚、第1閾値及び第2閾値は、夫々前述の本発明に係る挙動安定化装置の制御装置におけるものと同一の趣旨で規定される値である。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<実施形態>
以下、適宜図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の実施形態に係る車両の構成について説明する。ここに、図1は、車両10の模式図である。
図1において、車両10は、制動ユニット11、車輪12FL、12FR、12RL及び12RR、制動装置13FL、13FR、13RL及び13RR、横加速度センサ14、ヨーレートセンサ15、操舵角センサ16、アクセル開度センサ17、M/C圧センサ18、車輪速センサ19FL,19FR、19RL及び19RR、ECU110並びに前後加速度センサ120を備える。
制動ユニット11は、各車輪に備わる各制動装置の制動力を制御する制御ユニットであり、後述するECU110によって上位制御されている。制動ユニット11は、不図示のマスタシリンダ及び伝達系を備えており、通常、伝達系を介して不図示のブレーキペダルの操作量に応じたマスタシリンダ圧(以下、適宜「M/C圧」と称する)で制動液を各車輪に備わる不図示のホイルシリンダに供給し、制動力を制御している。尚、制動ユニット11はABSなどのロック防止機能を備えており、ABSの動作時には、マスタシリンダを介することなく、即ち、ブレーキペダルの操作量とは無関係に各ホイルシリンダのホイルシリンダ圧を個別に制御することも可能に構成されている。尚、車輪12FL、12FR、12RL及び12RRは、夫々車両10の左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪である。また、制動ユニット11におけるM/C圧は、M/C圧センサ18によって検出され、M/C圧を示すデジタル出力としてECU110に出力される構成となっている。
制動装置13FL、13FR、13RL及び13RRは、車輪12FL、12FR、12RL及び12RRを直接制動する装置であり、前述したホイルシリンダ圧に応じた制動力で各車輪に制動力を付与することが可能に構成された、ディスクブレーキ装置などの制動装置である。
横加速度センサ14は、車両10における図示横方向の加速度を検出することが可能に構成されたセンサである。
ヨーレートセンサ15は、本発明に係る「ヨーレート検出手段」の一例であり、車両10が回転運動を行う際に生じるヨーレートを検出することが可能に構成されている。ここで、図2を参照して、ヨーレートセンサ15の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ヨーレートセンサ15の模式図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図2において、ヨーレートセンサ15は、圧電素子で形成された振動子15a及び15bを備える。振動子15a及び15bの下方には、図示z軸を回転軸として回動可能に構成された軸部15cが設けられており、図示上方の端部において、振動子15a及び15bの図示下方端部と夫々接合されている。従って、軸部15cがz軸周りに回動するのに伴い、振動子15a及び15bもz軸周りに回動することが可能である。
振動子15a及び15bには、電源部15dによって、夫々相互に極性の異なる交流電圧が印加電圧として与えられ、係る印加電圧によって生じる圧電効果により、振動子15a及び15bは、相互に正反対となる図示A方向へ加振される。尚、図示A方向は、z軸と直交する図示x軸に沿った方向である。尚、ヨーレートセンサ15は、振動子15a及び15bの加振方向(即ち、図示A方向)が、図1における車両10の前後方向と一致するように車両10に搭載されている。
一方、加振された状態で、軸部15cがz軸周りに回動した場合、振動子15a及び15bには、図示B方向にコリオリ力が発生する。尚、図示B方向は、z軸及びx軸と夫々相互に直交する図示y軸に沿った方向である。発生したコリオリ力によって、夫々の振動子はB方向へ振動し、各振動子に逆圧電効果による電圧が発生する。各振動子がこのような外部から作用する力で振動することによって生じる電圧は、検出部15eによって検出され、演算部15fによって、当該検出電圧に対応する8ビットのデジタル信号に変換されてECU110に送信される構成となっている。
図1に戻り、操舵角センサ16は、車両10における不図示のステアリングの切れ角を検出するセンサである。また、アクセル開度センサ17は、車両10における不図示のアクセルペダルの踏下量を検出するセンサである。
車輪速センサ19FL,19FR、19RL及び19RRは、各車輪に備わり、各車輪の回転状態に基づいて各車輪における車輪速を検出することが可能に構成されている。
前後加速度センサ120は、車両における図示前後方向の加速度を検出することが可能に構成されたセンサであり、本発明に係る「前後方向加速度検出手段」の一例として機能するように構成されている。
ECU110は、夫々不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などを備え、車両10における不図示のエンジン及び制動ユニット11など車両10の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、本発明に係る「閾値設定手段」の一例として機能するように構成されている。ECU110と前後加速度センサ120とは、本発明に係る「挙動安定化装置の制御装置」の一例たるVSC制御装置100を構成する。尚、本実施形態では、ECU110は、制動ユニット11及び上記各センサなどと共に、本発明に係る「挙動安定化装置」の一例たるVSC装置も構成している。尚、ECU110と、制動ユニット11及び各センサとは、CAN(Controller Area Network)と称されるネットワークに基づいた制御バスによって電気的な接続が規定されており、ECU110は、各センサからの出力を、各センサによって検出された物理量に対応するデジタル出力として受信することが可能に構成されている。
<実施形態の動作>
<VSC装置の概略>
引き続き図1を参照して、VSC装置の動作概略について説明する。
VSC装置は、ヨーレートセンサ15によって検出されるヨーレートYRと、例えば、操舵角センサ16、横加速度センサ14及び各車輪速センサなどの出力値から推定されたヨーレートとの差分に応じて制動ユニット11が制動力を制御する装置である。
例えば、検出されたヨーレートYRが、推定ヨーレートよりも大きい場合、車両10は運転者の意図する旋回量よりも多く旋回しているのであり、車両10は、所謂スピン状態であると推測される。そのような場合には、ECU110は、外側(旋回する時に大きい弧を描く側)の車輪の制動力を相対的に強め、内側(旋回する時に小さい弧を描く側)の車輪の制動力を相対的に弱めるように制動ユニット11に指示を出す。この結果、スピンが回避或いは低減される。
反対に、検出されたヨーレートYRが、推定ヨーレートよりも小さい場合、車両10は運転者の意図する旋回量よりも小さい旋回量で旋回しているのであり、車両10は、所謂スリップ状態であると推測される。そのような場合には、ECU110は、外側の車輪の制動力を相対的に弱め、内側の車輪の制動力を相対的に強めるように制動ユニット11に指示を出す。この結果、スリップが回避或いは低減される。
このようなVSC装置による制動制御(即ち、本発明に係る「挙動安定化制御」の一例、以下、適宜「VSC制御」と称する)を行うか否かは、検出されたヨーレートYRと、推定ヨーレートの差分の絶対値が所定の閾値Thvsc(即ち、本発明に係る「挙動安定化制御の実行頻度を規定する閾値」の一例)を超えたか否かによって決定される。
一方、ヨーレートセンサ15は、図2における図示B方向への振動(車両10の横方向の振動、即ち、実際のヨーレートと相関する振動)の他に、外部から図示A方向加えられる振動(車両10の前後方向の振動、即ち、実際のヨーレートとは無関係な振動)によって生じる電圧もヨーレートとして検出してしまう。
このような車両前後方向の振動は、主として、前後方向に加わる加速度に応じて大きくなるが、振動子相互間の寸法、質量又は形状などが相互に等しい或いは略等しい場合、振動子夫々の検出電圧の差分で考えれば、その影響をキャンセルすることができる。ところが、振動子に許容される精度が低い場合には、寸法、形状又は質量などが振動子相互間で無視し得ない程度にばらつくことによって、両振動子間に加速度感度誤差が発生する。その場合、実際には、急制動や急加速など車両前後方向に比較的大きな加速度が加わる状況などにおいてヨーレートが誤って検出されることになりかねない。この誤って検出されるヨーレートに基づいてVSC制御が実行された場合には、各車輪に運転者が意図しない制動力が付与されかねない。そこで、本実施形態では、VSC制御装置100のECU110が閾値設定処理を実行し、閾値Thvscを適切に設定することにより、VSC制御の実行頻度が好適に制御されている。即ち、VSC制御装置100は、VSC制御の実行頻度を規定する閾値を設定することによってVSC装置を制御する装置である。
ここで、図3を参照して、閾値設定処理の詳細について説明する。ここに、図3は、閾値設定処理のフローチャートである。
図3において、始めに、ECU110は、前後加速度センサ120によって検出される前後方向の加速度Gx(以下、適宜「前後加速度Gx」と称する)の絶対値が、所定の閾値Thg(即ち、本発明に係る「第1基準値」の一例)を超えたか否かを判別する(ステップA10)。閾値Thgは、ヨーレートセンサ15における加速度感度誤差の有無又は大小によらず、VSC制御に影響を与えないことが予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって判明している或いは推測される値の限界を規定する値に設定されている。前後加速度Gxの絶対値が閾値Thg以下である場合には(ステップA10:NO)、ECU110は、閾値ThvscをThvsc1に設定する(ステップA18)。閾値Thvsc1は、通常設定されるVSC制御の閾値であり、本発明に係る「第1閾値」の一例である。
一方、前後加速度Gxの絶対値が閾値Thgより大きい場合(ステップA10:YES)、ECU110は、基本的に閾値ThvscをThvsc2(Thvsc2>Thvsc1)に設定する(ステップA17)。このように閾値ThvscをThvsc1からThvsc2に増量することにより、誤って検出されるヨーレートによってVSC制御が作動する確率が低下し、即ち、VSC制御の制御範囲が縮小され、同一条件におけるVSC制御の実行頻度が減少する。従って、ヨーレートセンサ15における各振動子の加速度感度誤差による影響が低減され、快適性を損なうことなくVSC制御を実行させることが可能となるのである。
但し、ECU110は、一層効果的にVSC制御を実行させる観点から、閾値設定処理において更に精細な処理を実行している。即ち、ECU110は、前後加速度Gxが閾値Thgより大きい場合、更に車両10が直進状態であるか否かを判別する(ステップA11)。ここで、車両10が直進状態であるか否かは、操舵角センサ16によって検出されるステアリングの切れ角が、閾値Thss未満であり、横加速度センサ14によって検出される横方向の加速度Gyが閾値Thgy未満であり且つ検出される操舵角の時間微分値である操舵角速度DSが閾値Thds未満であるか否かによって判別される。これら各閾値は、直進状態であるか否かを規定し得る限りにおいてどのような値であってもよい。例えば、Thssは、5度或いは10度などと設定されていてもよいし、Thgyは0.1G〜0.2G程度の値に設定されていてもよい。
車両10が直進状態ではない場合(ステップA11:NO)、車両10が既に旋回動作に入っている可能性が高いため、安全性担保の観点から、ECU110は、処理をステップA17に移行して、閾値ThvscをThvsc2に設定する。
車両10が直進している場合(ステップA11:YES)、ECU110は、ABSが非作動であるか否かを判別する(ステップA12)。本実施形態では、ABS制御(ロック防止制御)を実行するか否かは、各車輪速センサから得られる各車輪の車輪速などに基づいてECU110によって制御されている。従って、ステップA12による判別はECU110自身によって速やかに実行される。
ABSが作動している場合(ステップA12:NO)、ECU110は処理をステップA17に移行すると共に、ABSが非作動である場合(ステップA12:YES)、ECU110は更に、TRCが非作動であるか否かを判別する(ステップA13)。TRCは、ECU110が、図1において不図示のトルク伝達機構を制御して、各車輪に伝達されるエンジントルクの配分を適切に設定することにより、各車輪と路面との接地性を向上させる処理などを指す。ECU110は、TRCを作動させるべき条件であるか否かを判断することによって、ステップA13に係る判別を速やかに実行することが可能である。尚、TRCが作動している場合は(ステップA13:NO)、処理はステップA17に移行する。
尚、ABSやTRCが作動している場合は、即ち、車両10の走行条件(性能や速度など)と比較して路面状態が相対的に劣悪である場合が多い。従って、これらが作動している期間は、車両10には比較的大きい揺れや振動が生じ得、ヨーレートセンサ15の検出値が影響を受けかねない。更には、極端な場合、既に車両10がどの方向を向いているのか特定し得ない状態である可能性もある。従って、これらが動作している期間では、安全性を担保する観点から、ECU110は閾値をThvsc2に設定する。即ち、ステップA11に係る処理は、積極的に車両が直進状態であるか否かを判別する処理であるのに対し、ステップA12及びステップA13に係る処理は、車両10が直進していない可能性を排除することによって車両10が直進しているか否かを判別する処理であると言え、広い意味では、車両10が直進しているか否かを判別する一環であるとも言える。
TRCが非作動である場合(ステップA13:YES)、ECU110は、M/C圧センサ18によって検出されるM/C圧Pmcが閾値Thpより大きいか否かを判別する(ステップA14)。ここで、閾値Thpとは、運転者が車両10を急制動させているのか否かを判別するための値であり、前述した前後加速度Gxの閾値Thgに対応付けられる形で予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって適切に定められている。
M/C圧Pmcが閾値Thpより大きい場合には(ステップA14:YES)、処理はステップA16に移行すると共に、M/C圧Pmcが閾値Thp以下である場合(ステップA14:NO)、ECU110は、アクセル開度センサ17によって検出されるアクセル開度Accが閾値Thaよりも大きいか否かを判別する(ステップA15)。ここで、閾値Thaとは、運転者が車両10を急加速させているのか否かを判別するための値であり、前述した前後加速度Gxの閾値Thgに対応付けられる形で、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって適切に定められている。
アクセル開度Accが閾値Thaより大きい場合には、処理はステップA16に移行する。一方、アクセル開度Accが閾値Tha以下である場合(ステップA15:NO)、ステップA10において前後加速度Gxが閾値Thgを超えているにもかかわらず、然るべき加減速操作が行われていないことが不自然であると判断され、前後加速度センサGxの信頼性が担保し得ないものとして、ECU110は、処理をステップA17に移行させ、閾値ThvscをThvsc2に設定する。
ステップA16では、検出されたヨーレートYRを前後加速度Gxで除算した感度誤差指標値が、閾値Thyよりも大きいか否かが判別される。
ここで、図4を参照して、感度誤差指標値について説明する。ここに、図4は、感度誤差指標値の模式図である。尚、同図において、上記各図と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図4において、縦軸及び横軸は、夫々前後加速度Gxの絶対値及び検出されたヨーレートYRの絶対値を表す。
図4には、3本のプロファイルPr0、Pr1及びPr2が示されている。感度誤差指標値とは、各プロファイルの傾きであり、大きい程感度誤差が大きいことを表す。
プロファイルPr0は、図3のステップA16における閾値Thyに相当する感度誤差指標値に対応するヨーレートセンサを表すプロファイルである。プロファイルPr1は、感度誤差指標値が閾値Thyよりも小さい(即ち、加速度感度誤差の比較的小さい)ヨーレートセンサを例示するプロファイルであり、プロファイルPr2は、感度誤差指標値が閾値Thyよりも大きい(即ち、加速度感度誤差の比較的大きい)ヨーレートセンサを例示するプロファイルである。
車両10が直進している状態、即ち、推定ヨーレートがゼロ又はほぼゼロである場合、縦軸の値は、閾値Thvscとの比較対象値となる。ここで、閾値Thvscが、検出されたヨーレートの絶対値YR0に相当する値に設定されている場合、プロファイルPr0及びプロファイルPr1に対応するヨーレートセンサを有するVSC装置では、VSC制御が好適に実行される。その一方、プロファイルPr2に対応するヨーレートセンサを有するVSC装置では、前後加速度Gxの絶対値が図示Gx0となった時点で、VSC制御が作動してしまう。
例えば、車両10に搭載されるヨーレートセンサ15が、プロファイルPr2に対応する或いはそれに類似する加速度感度誤差の大きいセンサである場合、閾値Thvscは、閾値Thvsc2に設定すべきであるが、反対にプロファイルPr1に対応する或いはそれに類似する加速度感度誤差が小さいセンサである場合、閾値Thvscを敢えてThvsc2に拡大する必要は生じない。図示プロファイルPr0で表される閾値Thyとは、このように、車両10に、偶然加速度感度誤差が小さいヨーレートセンサが搭載されている場合に備え、適切にVSC制御の閾値を設定するための閾値であり、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて決定されている。
図3に戻り、感度誤差指標値が閾値Thyより大きい場合(ステップA16:YES)には、ステップA17によって、閾値Thvsc2が閾値として設定され、閾値Thy以下である場合(ステップA16:NO)には、ステップA18によって、閾値Thvsc1が閾値として設定される。いずれかのステップに係る処理によって、閾値Thvscが設定されると、処理は再びステップA10に戻され、一連の処理が繰り返される。
以上、説明したように、本実施形態に係るVSC制御装置100によれば、ヨーレートセンサの加速度感度誤差に合わせ、効果的にVSC制御を実行させることが可能である。
尚、閾値設定処理において、ステップA16に係る判別処理の結果は、少なくとも車両10のイグニッションが投入されている期間においては変化する可能性は極めて低い。従って、アイドリング期間を含め、車両10が動作している期間中は、少なくとも一回実行すれば足りる処理であるとも言える。そのような事情に鑑みて、ステップA16に係る判別の結果は、ECU110に備わるRAMなどに一時的に格納されてもよい。ステップA16の実行タイミングでは、RAMから係る値が読み出され、比較判別に供されてもよい。更に言うならば、ステップA16が行われた結果、ヨーレートセンサ15の加速度感度誤差が小さかった場合には、閾値をThvsc2に設定する理由はないのであるから、閾値設定処理において、常にThvsc1を閾値として設定してもよい。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う挙動安定化装置の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。