図1は、本発明の実施形態による車両の概略構成図である。図1に示すように、車両は、エンジン(ENG)2と、自動変速機(TM)4と、油圧回路(CV)6と、電子制御ユニット(ECU)8と、スロットル開度センサ10と、エンジン回転数センサ12と、メインシャフト回転数センサ14と、カウンタ軸回転数センサ16と、油温センサ17と、油圧SW18と、シフト操作装置20と、シフトレバー20aを含む。
エンジン2の出力を変速して車輪に伝達する自動変速機4により動力伝達機構が構成される。この自動変速機4の変速制御は、油圧回路6への油圧制御信号により行われ、油圧回路6の作動はECU8からの変速・トルコン制御信号(以下、制御信号)により後述するソレノイドバルブを作動させて行われる。
油圧回路6は、メイレギュレータバルブ、シフトバルブ群、Dインヒビッターバルブ、カットバルブ群、コントロールバルブ群、オン・オフソレノイドバルブ群及びリニアソレノイドバルブ群からなるソレノイドバルブ群、並びにこれらのバルブ間を接続する油路から構成される。変速クラッチ及びロックアップクラッチの係合は、ECU8からのオン・オフソレノイドバルブ群及びリニアソレノイドバルブ群に入力される制御信号に基づいて行われる。
エンジン2のスロットル弁にはスロットル開度センサ10が連結されており、スロットル弁の開度に応じて電気信号を出力する。エンジン回転数センサ12は図2中のエンジン出力軸Esの回転数NEを検出して対応する電気信号を出力する。入力軸回転数センサ14は図2中の入力軸31,32の回転数NMを検出する。カウンタ軸回転数センサ16は図2中のカウンタ軸33の回転数NCを検出する。図示しない車速センサは車速Vを検出する。油温センサ(油温検出手段)17は油圧回路6のATFの温度を検出して対応する電気信号を出力する。センサ10,12,14,16,17のセンサ出力値はECU8に入力される。
シフトレバー20aは、図示しない車両運転席付近に設けられて、車両の運転者の操作によって、例えば、8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれかが選択される。シフト操作装置20は、運転者によるシフトレバー20aの操作により選択されたポジションを示す信号を出力する。シフト操作装置20より検出されたポジションを示す信号はECU8に入力される。シフトレバー20aはケーブルを介して油圧回路6のマニュアルバルブと繋がり、シフトレバー20aの操作に応じてマニュアルバルブのスプールを移動させる。
ECU8は次のようにして自動変速機4の変速を制御する。(1)各ポジション(P,R,N)に応じて油圧回路6中の該当するオン・オフソレノイドバルブ及びリニアソレノイドバルブを制御することにより、変速クラッチの係合を制御する。(2)ポジションDであるとき、車速V及びスロットル開度THから、シフトマップを検索し、車速V及びスロットル開度THに応じた行先段(変速段)を選択する。現在係合している現在段と行先段が異なるとき、現在段(OFF側クラッチ)及び行先段(ON側クラッチ)に対応するオン・オフソレノイドバルブをONするとともに、準備、トルク相、イナーシャ相及びエンゲージにおいて、OFF側クラッチ及びON側クラッチのクラッチ油圧指令値(以下、油圧指令値)QOF,QONを算出する。油圧指令値QON,QOFに応じた制御信号をON,OFF側クラッチに対応するリニアソレノイドバルブに出力する。更に、所定のアップシフト、例えば、LOW−2ND,2ND−3RDにおいて、油温TATFが所定温度以上であるとき、油圧SWからの油圧SW信号に基づいて、制御する。(3)変速終了後には定常状態とするべく現在段のクラッチに対応するオン・オフソレノイドバルブをONするとともに、必要に応じてリニアソレノイドバルブに制御信号を出力する。(4)車両の走行状態に応じて、ロックアップクラッチLCの係合を制御するために、対応するオン・オフソレノイドバルブのON/OFFをするとともにリニアソレノイドバルブに制御信号を出力する。
まず、自動変速機4の構成を図2及び図3に基づいて説明する。この自動変速機4は、変速機ハウジング20内に、エンジン出力軸Esに繋がるトルクコンバータ22(インペラ22a、タービン22b及びステータ22cからなる)と、トルクコンバータ22のタービンシャフト31に繋がった平行軸式変速機構4と、この変速機構4の終減速駆動ギヤ36aと噛合する終減速従動ギヤを有した図示しないデファレンシャル機構を配設して構成されており、デファレンシャル機構から左右の車輪に駆動力が伝達される。
エンジン出力軸Esはトルクコンバータ22のインペラ22aに接続され、トルクコンバータ22のタービン22bはタービンシャフト31(前後進切換機構24の第1入力シャフト31)と繋がる。さらに、このトルクコンバータ22はエンジン出力軸Esとタービン22bとを直接接続可能なロックアップクラッチLCを有する。
平行軸式変速機4は、互いに平行に延びた第1入力軸31、第2入力軸32、カウンタ軸33及びアイドル軸35を有して構成され、これら各軸の軸線位置は図3においてS1,S2,S3及びS5で示す位置にそれぞれ配置されている。この平行軸式変速機構4の動力伝達構成が図2(A)及び図2(B)に示されており、図2(A)は図3の2A−2Aに沿って第1入力軸31(S1)、カウンタ軸33(S3)及び第2入力軸32(S2)を通る断面を示しており、図2(B)は図3の2B−2Bに沿って第1入力軸31(S1)、アイドル軸35(S5)及び第2入力軸32(S2)を通る断面を示している。
第1入力軸31はトルクコンバータ20のタービン22bに連結されており、ベアリング71a,71bにより回転支持され、タービン22bからの駆動力を受けてこれと同一回転する。第1入力軸31には、トルクコンバータ22側(図における右側)から順に、5速駆動ギヤ55a、5THクラッチ45、4THクラッチ44、4速駆動ギヤ44a、リバース駆動ギヤ46a及び第1連結ギヤ41が配設されている。
5速駆動ギヤ55aは第1入力軸31の上に回転自在に配設されており、油圧力により作動される5THクラッチ45により第1入力軸31と係脱される。また、4速駆動ギヤ54a及びリバース駆動ギヤ56aは一体的に連結されると共に第1入力軸31の上に回転自在に配設されており、油圧力により作動される4THクラッチ44により第1入力軸31と係脱される。第1連結ギヤ61は第1入力軸31を回転自在に支持するベアリング71aの外側に位置して、片持ち状態で第1入力軸31と結合されている。
第2入力軸32はベアリング72a,72bにより回転支持され、この軸上には、図における右側から順に、2NDクラッチ42、2速駆動ギヤ52a、LOW駆動ギヤ51a、LOWクラッチ41、3RDクラッチ43、3速駆動ギヤ53a及び第4連結ギヤ64が配設されている。
2速駆動ギヤ52a、LOW駆動ギヤ51a及び3速駆動ギヤ53aはそれぞれ第2入力軸32の上に回転自在に配設されており、油圧力により作動される2NDクラッチ42、LOWクラッチ41及び3RDクラッチ43により第2入力軸32と係脱される。第4連結ギヤ64は第2入力軸32と結合されている。
図2(B)に示されるように、アイドル軸35はベアリング75a,75bにより回転支持され、この軸と一体に第2連結ギヤ62及び第3連結ギヤ63が配設されている。第2連結ギヤ62は第1連結ギヤ63と噛合し、第3連結ギヤ63は第4連結ギヤ64と噛合している。これら第1〜第4連結ギヤにより連結ギヤ列60が構成され、第1入力軸31の回転が連結ギヤ列60を介して第2入力軸32に常時伝達される。
カウンタ軸33はベアリング73a,73bにより回転支持され、この軸上には、図における右側から順に、終減速駆動ギヤ36a、2速従動ギヤ52b、LOW従動ギヤ51b、5速従動ギヤ55b、3速従動ギヤ53b、4速従動ギヤ54b、ドグ歯式クラッチ46及びリバース従動ギヤ56cが配設されている。
終減速駆動ギヤ36a、2速従動ギヤ52b、LOW従動ギヤ51b、5速従動ギヤ55b及び3速従動ギヤ53bはカウンタ軸33に結合されており、これと一体回転する。4速従動ギヤ54bはカウンタ軸33の上に回転自在に配設されている。
また、リバース従動ギヤ56cもカウンタ軸33の上に回転自在に配設されている。ドグ歯式クラッチ46が軸方向に作動されて、4速従動ギヤ54bとカウンタ軸33と係脱させたり、リバース従動ギヤ56cとカウンタ軸33とを係脱させたりすることができる。なお、図示のように、LOW駆動ギヤ51aとLOW従動ギヤ51bとが噛合し、2速駆動ギヤ52aと2速従動ギヤ52bとが噛合し、3速駆動ギヤ53aと3速従動ギヤ53bとが噛合し、4速駆動ギヤ54aと4速従動ギヤ54bとが噛合し、5速駆動ギヤ55aと5速従動ギヤ55bとが噛合する。さらに、リバース駆動ギヤ56aは図示しないアイドラギヤを介してリバース従動ギヤ56cと噛合する。
以上のような構成の変速機において、各速度段の設定及びその動力伝達経路について以下に説明する。なお、この変速機においては、前進レンジにおいてはドグ歯式クラッチ46が図において右方向に移動されて4速従動ギヤ54bとカウンタ軸33とが結合される。一方、後進(リバース)レンジにおいては、ドグ歯式クラッチ46が左方向に移動されてリバース従動ギヤ56cとカウンタ軸33とが係合される。
まず、前進レンジにおける各速度段について説明する。LOW速度段はLOWクラッチ41を係合させて設定される。トルクコンバータ22から第1入力軸31に伝達された回転駆動力は、連結ギヤ列60を介して第2入力軸32に伝達される。
ここで、LOWクラッチ41が係合されているため、LOW駆動ギヤ51aが第2入力軸32と同一回転で駆動され、これと噛合するLOW従動ギヤ51bが回転駆動され、カウンタ軸33が駆動される。この駆動力は終減速ギヤ列を介して図示しないデファレンシャル機構に伝達される。
2速段は2NDクラッチ42を係合させて設定される。トルクコンバータ22から第1入力軸31に伝達された回転駆動力は、連結ギヤ列60を介して第2入力軸32に伝達される。ここで、2LDクラッチ42が係合されているため、2速駆動ギヤ52aが第2入力軸32と同一回転で駆動され、これと噛合する2速従動ギヤ52bが回転駆動され、カウンタ軸33が駆動される。この駆動力は終減速ギヤ列を介して図示しないデファレンシャル機構に伝達される。
3速段は3RDクラッチ43を係合させて設定される。トルクコンバータ22から第1入力軸31に伝達された回転駆動力は、連結ギヤ列60を介して第2入力軸32に伝達される。ここで、3RDクラッチ43が係合されているため、3速駆動ギヤ53aが第2入力軸32と同一回転で駆動され、これと噛合する3速従動ギヤ53bが回転駆動されて、カウンタ軸33が駆動される。この駆動力は終減速ギヤ列を介して図示しないデファレンシャル機構に伝達される。
4速段は4THクラッチ44を係合させて設定される。トルクコンバータ22から第1入力軸31に伝達された回転駆動力は、4THクラッチ44を介して4速駆動ギヤ54aを回転駆動させ、これと噛合する4速従動ギヤ54bを回転駆動する。
ここで、前進レンジにおいては、ドグ歯式クラッチ46により4速従動ギヤ54bがカウンタ軸33と係合されているため、カウンタ軸33が駆動され、この駆動力は終減速ギヤ列を介して図示しないデファレンシャル機構に伝達される。
5速段は5THクラッチ45を係合させて設定される。トルクコンバータ22から第1入力軸31に伝達された回転駆動力は、5THクラッチ45を介して5速駆動ギヤ55aを回転させ、これと噛合する5速従動ギヤ55bを回転駆動する。5速従動ギヤ55bはカウンタ軸33と結合されているため、カウンタ軸33が駆動され、この駆動力は終減速ギヤ列を介して図示しないデファレンシャル機構に伝達される。
一方、後進(リバース)段は、4THクラッチ44を係合させると共にドグ歯式クラッチ46を左方向に移動させて設定される。トルクコンバータ22から第1入力軸31に伝達された回転駆動力は、4THクラッチ44を介してリバース駆動ギヤ56aを回転駆動させ、図示しないリバースアイドラギヤを介してこのアイドラギヤと噛合するリバース従動ギヤ56cを回転駆動する。
ここで、後進(リバース)レンジにおいては、ドグ歯式クラッチ46によりリバース従動ギヤ56cがカウンタ軸33と係合されているため、カウンタ軸33が駆動され、この駆動力は終減速ギヤ列を介して図示しないデファレンシャル機構に伝達される。このことから判るように、4THクラッチ44はリバースクラッチの作用を兼用する。
以上のような構成の自動変速機において、トルクコンバータ制御及び変速制御を行わせるバルブ群を構成する油圧回路6を図4に示している。この油圧回路図において、油路が開放しているところはドレン(オイルタンク(OT))に繋がる。
この装置は、オイルタンクOTのATFを吐出するオイルポンプOPを有しており、オイルポンプOPはエンジンにより駆動されて油路130にATFを供給する。油路130は油路130aを介してメインレギュレータバルブ80に繋がり、ここで調圧されて油路130,130aにライン圧PLが発生する。
このライン圧PLは油路130bを介してマニュアルバルブ88に供給される。油路130bは、マニュアルバルブ88のポートを介して油路130dと常時繋がっており(マニュアルバルブ88の作動の如何に拘わらず常に繋がっており)、油路130dを介してライン圧PLが第1〜第4オン・オフソレノイドバルブ111〜114及び第1リニアソレノイドバルブ116に常時供給される。
メインレギュレータバルブ80においてライン圧PLを調圧した余剰油は油路221に供給され、更に油路222に供給される。油路221に供給された余剰油は、ロックアップシフトバルブ81、ロックアップコントロールバルブ82、トルクコンバータチェックバルブ83により制御され、トルクコンバータ22のロックアップクラッチLCの係合制御及びATF供給に用いられ、この後、オイルクーラー84を通ってオイルタンクOTに戻される。油路222に供給された余剰油は、潤滑リリーフバルブ85により調圧されて各部の潤滑油として供給される。
この油圧回路図においては、上述の変速機を構成するLOWクラッチ41、2NDクラッチ42、3RDクラッチ43、4THクラッチ44、5THクラッチ45を示しており、各クラッチにはそれぞれLOWアキュムレータ105、2NDアキュムレータ106、3RDアキュムレータ107、4THアキュムレータ108、5THアキュムレータ109が油路を介して繋がっている。また、ドグ歯式クラッチ46を作動させるための前後進選択油圧サーボ機構100を備える。
これら各クラッチ41〜45及び前後進選択油圧サーボ機構100へのATF圧供給制御を行うため、第1シフトバルブ90、第2シフトバルブ92、第3シフトバルブ94、第4シフトバルブ96、Dインヒビターバルブ98、第1カットバルブ120、第2カットバルブ122が図示のように配設されている。また、ロックアップクラッチLCの係合制御を行うため、ロックアップシフトバルブ81、ロックアップコントロールバルブ82、トルクコンバータチェックバルブ83が図示のように配設されている。
そして、これらのバルブの作動制御及び各クラッチ等への供給油圧制御を行うため、第1〜第4オン・オフソレノイドバルブ111〜114と、第1〜第3リニアソレノイドバルブ116〜118が図示のように配設されている。油圧SW142,143が2NDクラッチ42及び3RDクラッチ43に対して設けられている。油圧SW142は2NDクラッチ42が繋がる油路152に繋がっている。油圧SW143は3RDクラッチ43が繋がる油路153に繋がっている。油圧SW142,143は油路152,153の油圧が所定以上になると油圧SWON信号をONにする。油圧SW142,143からの油圧SWON信号はECU8に入力される。
図6はECU8の自動変速機の制御に係る機能ブロック図である。ECU8はロックアップ制御手段250と変速制御手段252を含む。ロックアップ制御手段250は、ロックアップクラッチLCの係合を制御する。変速制御手段252は、P,R,N制御手段260と、D制御手段262を含む。D制御手段262は、主制御手段270と、アップシフト制御手段272と、ダウンシフト制御手段274と、定常制御手段276を含む。
各速度段の設定は、シフト操作装置20のシフトレバー20aの操作、もしくは車速V及びスロットル開度THに基づきシフトマップを検索した結果に対応してマニュアルバルブ88のスプール88aが移動されて油路の切り替えが行われるとともに、変速制御手段252により第1〜第4オン・オフソレノイドバルブ111〜114及び第1〜第3リニアソレノイドバルブ116〜118の作動を図5に示すように設定して行われる。なお、これら第1〜第4オン・オフソレノイドバルブ111〜114及び第1〜第3リニアソレノイドバルブ116〜118はノーマルクローズタイプのソレノイドバルブであり、通電時(オン時)に開放作動され信号油圧を発生させる。
図5において、符号×及び○はそれぞれソレノイドが通電オフ及びオンとなることを意味する。図5のオン・オフソレノイドバルブの欄において、符号A〜Dがそれぞれ第1〜第4オン・オフソレノイドバルブ111〜114を意味する。
第1及び第2カットバルブの欄における「セ」及び「作」はセット状態及び作動状態を示す。さらに、クラッチ油圧供給欄における1,2,3,4,5はそれぞれLOWクラッチ41、2NDクラッチ42、3RDクラッチ43、4TH(リバース)クラッチ44、5THクラッチ45を示し、上述の説明から明らかなようにリバースクラッチと4THクラッチは同一クラッチ44が兼用する。
図5のクラッチ油圧供給欄において、PLはライン圧PLが供給されることを意味し、A〜Cは第1〜第3リニアソレノイドバルブ116〜118を意味する。さらに、サーボ位置欄は前後進選択油圧サーボ機構100がR(後進)及びD(前進)のいずれか側に作動されるかを示している。
図5において、ポジションはシフトレバー20aの操作位置及びマニュアルバルブ88の作動位置を示し、このポジションとしては、駐車(P)ポジション、後進(R)ポジション、中立(N)ポジション及び前進(D)ポジションが少なくとも設けられて、本実施形態では更に前進ポジションとしてもう3つのポジションが設けられている。なお、図4においては、マニュアルバルブ88がNポジションに位置した状態を示している。
P,R,N制御手段260は、シフトレバー20aが駐車(P)ポジション、後進(R)ポジション、中立(N)ポジションである場合には、図5に示すように、各ポジションでのモードに従って、第1〜第4オン・オフソレノイドバルブ111〜114及び第1〜第3リニアソレノイドバルブ116〜118への通電を制御する。
D制御手段262は、前進(D)ポジションである場合に、図5に示すように、変速クラッチの制御を行うが、油圧回路6の動作説明の詳細は省略する。なお、シフトレバー20aが前進(D)ポジションに操作されているときには、図5に示すような10種類のモードが設定される。
アップシフト時の変速制御を詳細に説明する。主制御手段270は、シフト操作装置20からのポジションを示す信号、若しくは車速V及びスロットル開度センサ10より検出されたスロットル開度THから、車速及びスロットル開度と変速段の関係を示すシフトマップを検索して得られた行先段と現在段とを比較して、アップシフト/ダウンシフト/シフトなしのいずれであるかを判断する。アップシフトの場合は、アップシフト制御手段272が実行されるよう制御する。ダウンシフトの場合は、ダウンシフト制御手段274が実行されるよう制御する。シフトなしの場合は、定常制御手段276が実行されるよう制御する。
アップシフト制御手段272は、図7に示すように、放置判定手段280と、準備制御手段281と、トルク相制御手段282と、イナーシャ相制御手段284と、エンゲージ制御手段286を有する。放置判定手段280は、ONクラッチのATFの残油量が所定以下と予想される放置であるか否かを判断する。即ち、放置とは、クラッチのATFがドレン等されて、その抜け量が多い(油路残油量が少ない)場合をいう。例えば、エンジン水温が所定温度よりも低温、且つ油温センサ17により検出されるATF油温(以下、ATF油温TATF)が所定温度より低温の場合をいう。エンジン水温は、エンジン2により加熱されること、ATFはクラッチの回転剪断により上昇することから、放置であることがこれらの温度により判別される。エンジン水温は図示しないエンジン水温センサに検出され、この検出信号はECU8に入力される。また、イグニッションスイッチがONされ、最初の変速の場合に放置であると判断しても良い。放置ではない場合を通常という。
準備制御手段281は、図8に示すように、通常準備圧算出手段300と、通常準備時間算出手段302と、準備圧算出手段304と、放置準備時間算出手段306と、OFF圧算出手段308と、準備データベース310と、放置補正準備データベース312を含む。通常準備圧算出手段300は、通常時において、入力軸回転数NM、ATF油温TATFから通常準備データベース310を検索し、準備圧QDB1Aを算出する。準備圧QDB1AをON側クラッチの油圧指令値QONとし、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
通常準備時間算出手段302は、入力軸回転数NMとATF油温TATFから通常準備データベース310を検索して、準備時間TMDB1Aを算出し、準備タイマに準備時間TMDB1Aをセットして時間計時を開始する。例えば、入力軸回転数NMとATF油温TATFから通常準備データベース310を検索して油路残油量が0のときの準備終了時間T1を算出する。油路残油量を推定し、準備終了時間T1及び油路残油量に基づき準備時間TMDB1Aを算出する。通常時の準備圧QDB1A及び準備時間TMDB1Aを通常準備圧及び通常準備時間と呼ぶ。
放置準備圧算出手段304は、放置時には、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温TATFから、放置準備データベース312を検索して放置補正準備圧ΔQDB1A(ΔQDB1A≧0で、ATF油温が所定以下の温度では、ΔQDB1A>0)を算出し、通常準備圧QDB1Aに放置補正準備圧ΔQDB1Aを加算(QDB1A+ΔQDB1A)する。加算結果(QDB1A+ΔQDB1A)を油圧指令値QONとし、油圧指令値QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
放置準備時間算出手段306は、放置時には、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温TATFから、放置補正準備データベース312を検索し、放置補正準備時間ΔTMDB1A(ΔTMDB1A≧0で、ATF油温が所定以下の温度では、ΔTMDB1A>0)を算出する。通常準備時間TMDB1Aに放置補正準備時間ΔTMDB1Aを加算(TMDB1A+ΔTMDB1A)し、準備タイマに(TMDB1A+ΔTMDB1A)をセットして時計計時を開始する。
上記のように通常時での通常準備時間TMDB1Aは、油路残油量推定値に基づいて算出する場合は、油路残油量推定値により異なってくるが、放置では、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFについて、通常準備時間TMDB1Aを固定値とする必要があることから、通常準備時間TMDB1Aは通常時で油路残油量が所定の場合の準備時間とする。放置準備時間を算出するための通常準備時間TMDB1Aは、変速モード、入力軸回転数及びATF油温TATFのパラメータについて、通常準備データベース310に記憶されている。放置ではATFの抜け量が通常よりも大なので、放置補正準備時間(TMDB1A+ΔTMDB1A)は、油路残油量を除くパラメータ、例えば、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFが同一である場合の通常準備時間よりも長くなっている。
OFF圧算出手段308は、後述する入力軸推定トルクTTAPに余裕加算トルク値#dTQUTRFを加算して得た値をOFF棚トルクTQOFとする。OFF棚トルクTQOFに相当する油圧指令値QOFを算出し、油圧指令値QOFに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
通常準備データベース310は、通常時における、ONクラッチの油圧立ち上がり特性に基づいて、所定パラメータ、例えば、入力軸回転数及びATF油温のパラメータについて、準備時間T1、所定パラメータ、例えば、変速モード、入力軸回転数及びATF油温のパラメータについて、放置補正を行うための通常準備圧QDB1A、並びに、所定パラメータ、例えば、入力軸回転数及びATF油温のパラメータについて、放置準備時間を算出するための通常準備時間TMQDB1Aがマップされたデータベースである。
放置準備データベース312は、放置時における、ONクラッチの油圧の立ち上がり特性に基づいて、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温のパラメータについて、放置補正準備圧ΔQDB1A、並びに、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温のパラメータについて、放置補正準備時間ΔTMDB1Aがマップされたデータベースである。尚、放置補正準備圧ΔQDB1A及び放置補正準備時間ΔTMDB1Aは、上記パラメータに他のパラメータ、例えば、入力軸回転数等を追加して、データを持ち替えても良いが、上記パラメータが油圧の立ち上がり特性に支配的な要素であること、データ数の削減のために、上記パラメータ(変速モード及びATF油温)によりマップしている。
準備圧/準備時間だけで放置補正を実施すると、上述したように補正量が過大となること、推定誤差(抜け量の大小)や固体ばらつきに対して商品性の保障が難しいことから、準備圧の放置補正は程ほどにして後述するトルク相での放置補正で推定誤差や固体ばらつきを吸収するようにしている。放置補正準備圧ΔQDB1A及び放置補正準備時間ΔTMDB1Aは、次の観点より設定される。(1)準備圧(油圧指令値)に対するONクラッチの油圧の立ち上がり特性は、準備圧が一定圧を越えると略一定となるため、油圧が準備圧に対して単調増加する範囲のものとする。(2)ATF抜け量の大小(油路残油量のMIN/MAX)及び固体ばらつきに対して、準備時間(TMDB1A+ΔTMDB1A)経過時点での実油圧が、後述するトルク相での放置補正により、エンジン回転の吹きが発生しないこと及びイナーシャ相開始時点で必要とされる実油圧よりもトルク相終了時点の実油圧が小さく引き込みショックが発生しないことを満足する所定範囲内であること。
図9は放置準備データベース312に格納された放置補正準備圧ΔQDB1Aを示すデータである。UP12は1→2NDへのアップシフト、UP23は2ND→3RDへのアップシフト、UP34は3RD→4thへのアップシフト、UP45は4th→5thへのアップシフトである。ATF油温TATF(℃)に対する放置補正準備圧ΔQDB1A(kgf/cm2)を示している。図9に示すように、ATF油温TATFが低温になるにつれて、放置補正準備圧ΔQDB1Aが大きくなっている。これは、低油温ほど、オイルの粘性が高いため、放置補正準備圧ΔQDB1Aを大きく設定し、確実に油路のオイル充填できるようにするためである。
図10は放置準備データベース312に格納された放置補正準備時間ΔTMDB1Aを示すデータである。UP12,UP23,UP34,UP45は図9と同じである。ATF油温TATF(℃)に対する放置補正準備時間ΔTMDB1A(sec)を示している。図9に示すように、特に、UP12に示すように、ATF油温TATFが低温になるにつれて、放置補正準備時間ΔTMDB1Aが長くなっている。これは、低油温ほど、オイルの粘性が高いため、放置補正準備時間ΔTMDB1Aを長く設定して、確実に油路のオイル充填できるようにするためである。また、放置補正準備時間ΔTMDB1Aは、所定低温、例えば、UP12では95℃以下、UP23では45℃以下、UP34では10℃以下の場合に0よりも大きな値となっており、UP45では0となっている。
トルク相制御手段282は、図11に示すように、通常トルク相圧算出手段350と、通常トルク相時間算出手段352と、通常油圧SWON相当時間算出手段354と、放置トルク相圧算出手段356と、放置トルク相時間算出手段358と、放置油圧SWON相当時刻算出手段360と、OFFトルク相圧算出手段362と、通常トルク相データベース364と、放置補正トルク相データベース366を含む。
通常トルク相圧算出手段350は、入力軸推定トルクTTAPに基づき、トルク相終了時刻での目標トルクTQUTA1を算出し、目標トルクTQUTA1に相当するトルク相圧QUTAGを算出する。トルク相圧QUTAGを油圧指令値QONとし、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
通常トルク相時間算出手段352は、トルク相圧QUTAG、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常トルク相データベース364を検索し、トルク相時間TMDB2Bを算出する。通常時では、油圧SW142,143を使用しない場合、トルク相制御タイマにトルク相時間TMDB2Bをセットして時間計時を開始する。
通常油圧SWON相当時間算出手段354は、トルク相圧QUTAG、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常トルク相データベース364を検索して、ON側クラッチの実油圧が目標油圧に到達する油圧SWON相当時間TMDB2Cを算出する。更に、(トルク相時間TMDB2B−油圧SWON相当時間TMDB2C)を算出する。通常時、(1)油圧SW142,143を用いるとき、油圧SW142,143より油圧SW信号がONされると、イナーシャ相開始制御タイマに(TMDB2B−TMDB2C)をセットして時間計時を開始する、(2)油圧SW142,143を用いないとき、油圧SWON相当時間タイマにTMDB2Cをセットして時計計時を開始する。
放置トルク相圧算出手段356は、放置である場合、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温TATFから放置補正トルク相データベース366を検索して、放置補正トルク相圧ΔQUTAG(ΔQUTAG≧0で、ATF油温が所定以下の温度では、ΔQUTAG>0)を算出する。入力軸回転数NM、変速モード及びATF油温TATFでの通常トルク相圧QUTAGに放置補正トルク相圧ΔQUTAGを加算(QUTAG+ΔQUTAG)して、放置トルク相圧(QUTAG+ΔQUTAG)を油圧指令値QONとする。油圧指令値QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
放置トルク相時間算出手段358は、放置である場合、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温TATFから放置トルク相データベース366を検索し、放置補正トルク相時間ΔTMDB2B(ΔTMDB2B≧0で、ATF油温が所定以下の温度では、ΔTMDB2B>0)を算出する。トルク相圧QUTAG、入力軸回転数NM、変速モード及びATF油温TATFでの通常トルク相時間TMDB2Bに放置トルク相時間ΔTMDB2Aを加算(TMDB2B+ΔTMDB2B)して、放置トルク相制御タイマに放置トルク相時間(TMDB2B+ΔTMDB2B)をセットして時計計時を開始する。
放置油圧SWON相当時間算出手段360は、トルク相圧QUTAG、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから放置トルク相データベース366を検索し、放置補正油圧SWON相当時間ΔTMDB2C(ΔTMDB2C≧0で、ATF油温が所定以下の温度では、ΔTMDB2C>0)を算出する。トルク相圧QUTAG、入力軸回転数NM及びATF油温TATFでの油圧SWON相当時間TMDB2Cに放置補正油圧SWON相当時間ΔTMDB2Cを加算する。油圧SWON相当タイマに(TMDB2C+ΔTMDB2C)をセットして時計計時を開始する。油圧SW142,143を使用しないのは、低油温時は、管路抵抗が増え、実際には無効ストロークが終了していないにもかかわらず油圧SW142,143が油圧SW信号をオンしてしまうことがあり、低油温での放置補正が必要とされることから、実質的に油圧SW142,143は使用できないからである。
OFFトルク相圧算出手段362は、次の機能を有する。(1)油圧SWON相当タイマがタイムアウト又は油圧SW142,143を使用する場合には油圧SW142,143がONするまでは、入力軸推定トルクTTAPに余裕加算トルク値#dTQUTRFを加算して得た値をOFFトルクTQOFとし、TQOFに相当する油圧指令値QOFを算出し、油圧指令値QOFに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。(2)油圧SWON相当タイマがタイムアウト又は油圧SW142,143を使用する場合には油圧SW142,143がONすると、トルク相終了時刻(トルク相タイマ又はイナーシャ相開始タイマがタイムアウトする)まで、ON側クラッチトルクTQON及び現在のOFF側クラッチトルクTQOFからOFF側クラッチトルクTQOFを算出する。TQOFに相当する油圧指令値QOFを算出し、油圧指令値QOFに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
通常トルク相データベース364は、通常時における、ONクラッチの油圧の立ち上がり特性に基づいて、所定のパラメータ、例えば、トルク相圧、変速モード、入力軸回転数及びATF油温のパラメータについて、通常トルク相時間TMDB2B及び通常油圧SWON相当時間TMDB2Cがマップされたデータベースである。
放置補正トルク相データベース366は、放置時における、ONクラッチの油圧の立ち上がり特性に基づいて、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温のパラメータについて、放置補正トルク相圧ΔQUTAG、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温のパラメータについて、放置補正トルク相時間ΔTMDB2B、並びに、所定のパラメータ、例えば、変速モード及びATF油温のパラメータについて、放置補正SWON相当時間ΔTMDB2Cがマップされたデータベースである。尚、放置補正トルク相圧ΔQUTAG及び放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bは、上記パラメータに他のパラメータ、例えば、入力軸回転数等を追加して、データを持ち替えても良いが、上記パラメータが油圧の立ち上がり特性に支配的な要素であること、データ数の削減のために、上記タパラメータ(変速モード及びATF油温)によりマップしている。
放置補正トルク相ΔQUTAG及び放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bは、次の観点に基づきONクラッチの油圧の立ち上がり特性に基づき設定されている。(1)ATF抜け量の大小(油路残油量のMIN/MAX)及び固体ばらつきに対し、トルク相終了時点での実油圧がエンジン回転の吹きが発生しない下限値以上であること。(2)トルク相での油圧指令値は、イナーシャ相開始時点の油圧指令値(イナーシャ相油圧指令値)より大とすると、引き込みショックによる商品性が保障されないため、イナーシャ相油圧指令値以下であること。(3)放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bの延長は変速レスポンスの悪化につながるため、基本的には、放置補正トルク相ΔQUTAGの設定でやりきるのが前提であるが、補正トルク相ΔQUTAGを上げても、油圧特性が改善されない場合は、放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bを延長し、ATF充填を保障する。
図12は放置トルク相データベース366に格納された放置補正トルク相圧ΔQUTAGを示すデータである。UP12,UP23,UP34,UP45は図9と同様である。ATF油温TATF(℃)に対する放置補正トルク相圧ΔQUTAG(kgf/cm2)を示している。図12に示すように、ATF油温TATFが低温になるにつれて、放置補正トルク相圧ΔQUTAGが大きくなっている。これは、低油温ほど、オイルの粘性が高いため、放置補正トルク相圧ΔQUTAGを大きく設定し、確実に油路のATF充填ができるようにするためである。また、放置補正トルク相圧ΔQUTAGは、所定低温、例えば、10℃以下の場合に、0よりも大きな値となっている。
図13は放置トルク相データベース366に格納された放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bを示すデータである。UP12,UP23,UP34,UP45は図9と同じである。ATF油温TATF(℃)に対する放置補正トルク相時間ΔTMDB2B(sec)を示している。図13に示すように、ATF油温TATFが低温になるにつれて、放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bが長くなっている。これは、低油温ほど、オイルの粘性が高いため、放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bを長く設定して、確実に油路のオイル充填ができるようにするためである。また、放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bは、所定低温、例えば、UP12では95℃以下、UP23では45℃以下、UP34では10℃以下の場合に0よりも大きな値となっており、UP45では0となっている。
更に、放置補正トルク相圧ΔQUTAG及び放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bは、放置補正が必要でない場合には0がセットされていることから、放置補正の有無を判断することなく、放置補正の制御を行うことができるようになっている。
図14はATF油温と放置補正量の関係を示す図である。破線で示す極低温での油圧指令値L1及び破線で示す実油圧N1、並びに実線で示す通常温度での油圧指令値L2及び実線で示す実油圧N2が示されている。図14に示すように、低油温ほどオイルの粘性が高いために、ONクラッチの油圧の立ち上がり特性が良くないことから、準備での放置補正では、放置補正準備圧ΔQDB1Aが大きく且つ放置補正準備時間ΔTDB1Aを長く設定し、トルク相での放置補正では、放置補正トルク相圧ΔQUTAGが大きく且つ放置補正トルク相時間ΔTMDB2Bを長く設定し、確実に油路のオイル充填ができるようにしている。
放置補正SWON相当時間ΔTMDB2Cは、ATF抜け量の大小及び固体ばらつきにより変速モード及びATF油温TATFでの油圧特性が異なることにより目標油圧に到達する時間が異なるので、OFFクラッチの特性を考慮して、変速ショック軽減の観点よりONクラッチの油圧の立ち上がり特性に基づいて決定される。
入力軸推定トルクTTAPはエンジン回転数NEからその変化に使用されたイナーシャ相開始時点のエンジンイナーシャトルクDTEIを算出し、算出されたエンジンイナーシャトルクDTEI及び変速開始時点でのエンジン回転数NEに対する入力軸回転数NMの比(NM/NE)で示されるトルコントルク比KTRLATより、トルコン滑り率とトルコントルク比の関係を記憶したマップを検索して得られたトルコン滑り率ETRに対応するトルクコンバータ22のトルコントルク比KTRLATを用いて入力軸推定トルクTTAPを次式(1)により推定する。
TTAP=(TQGAIR−DTEI)*KTR ・・・ (1)
但し、TQGAIRは制御時点のエンジン出力推定トルクであり、DTEIは制御時点のエンジンイナーシャトルクである。KTRは制御時点のトルコントルク比である。エンジン出力推定トルクは、例えば、エンジン2への吸入空気量及びエンジン回転数NEに基づいて、算出する。
イナーシャ相制御手段284は、入力軸推定トルクTTAPに基づいて変速ショック軽減の観点より、ON側クラッチトルクTQONを算出する。例えば、イナーシャ相前側クラッチトルクTQUIA0=TTAP*{1+KGUIA0*((#RATIOn/#RATIOm)−1)}、イナーシャ相第1中間クラッチトルクTQUIA1=TTAP*{1+KGUIA1*((#RATIOn/#RATIOm)−1)}、イナーシャ相第2中間クラッチトルクTQUIA2=TTAP*{1+KGUIA2*((#RATIOn/#RATIOm)−1)}、イナーシャ相後側クラッチトルクTQUIA3=TTAP*{1+KGUIA3*((#RATIOn/#RATIOm)−1)}を算出し、TQUIA0,TQUIA1,TQUIA2,TQUIA3及び制御時点の入出力回転数比GRATIOに基づいて、ON側クラッチトルクTQONを算出する。
入出力回転数比GRATIOとは、入力軸回転数NMとカウンタ軸NCの比を所定のテーブル(図示せず)にてテーブル換算した値である。このため、GRATIOはクラッチが完全に係合していれば各変速段のギヤ比を基準にした一定の範囲内に収束すると共に変速時においてはその進行度に応じて逐次変化することから、変速の進行度を示す指標とすることができる。従って、このGRATIOを用いることで、変速開始からの経過時間に関わらず、変速の進行度を正確に検出することができる。また、#RATIOnは現在段のギアレシオ、#RATIOmは行先段のギアレシオ、KGUIA0〜KGUIA3は変速ショック軽減の観点より決まる係数である。
そして、イナーシャ相の区間をGRATIOにより3区間に分ける。例えば、GRATIO(GA)に第1所定値を加算した値GRUIA1、GRATIO(GA)に第2所定値を加算した値GRUIA2、GRATIO(GB)に第3所定値を減算した値#GRUEAGを設定する。
GRATIO(GA)〜GRUIA1(SFTMON=31h)では、クラッチトルクTQUIA0,TQUIA1及び入力軸推定トルクTTAPに基づいて、ONトルクTQONを算出する。GRUIA1〜GRUIA2(SFTMON=32h)では、クラッチトルクTQUIA1,TQUIA2及び入力軸推定トルクTTAPに基づいて、ONトルクTQONを算出する。GRUIA2〜#GRUEAG(SFTMON=33h)では、クラッチトルクTQUIA2,TQUIA3及び入力軸推定トルクTTAPに基づいて、ONトルクTQONを算出する。
イナーシャ相の終了は、GRATIOが#GRUEAGよりも大となった時点である。ON側クラッチトルクTQONに相当する油圧指令値QONを算出し、油圧指令値QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。また、OFFトルクTQOFを0とする。OFF側クラッチトルクTQOFに相当する油圧指令値QOFを算出し、油圧指令値QOFに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
エンゲージ制御手段286は、行先段クラッチが完全係合するために必要なエンゲージ油圧指令値QON及び現在段クラッチが完全係合解除する油圧指令値QOFを算出し、油圧指令値QON,QOFに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
図15〜図17は、自動変速機の制御方法の一例を示すフローチャートである。図15〜図17は一定周期、例えば、10msec毎に実行される。図18〜図19は自動変速機の制御に係るタイムチャートである。以下、これらの図面を参照して、アップシフト時の変速制御方法の説明をする。
図15中のステップS2で放置判断を行う。ステップS4で、シフト判断を行う。図16中のステップS20で車速V、スロットル開度THから、車速及びスロットル開度と変速段の関係を記憶したシフトマップを検索し、ステップS22で検索値を行先段(変速段)SHと書き換える。行先段は、シフトレバー20aによる選択によっても決定される。ステップS24で現在段をGAと書き換えるとともに、目標段SHを先行段GBと書き換える。ステップS26で変速モードQATNUMを検索する。変速モードは、11h(1速から2速へのアップシフト)、12h(2速から3速へのアップシフト)、21h(2速から1速へのダウンシフト)、31h(1速ホールド)等で示される。最初の文字が1であればアップシフトを、2であればダウンシフトを、3であればホールドを示す。
ステップ28でSFTMONを00hに初期化する。SFTMONは変速制御のためのカウンタであり、変速制御開始前は00h、準備で10h、11h,トルク相で20h,21h,22h,イナーシャ相で30h,31h,32h、33h、エンゲージで40h,41hと変化する。ステップS20〜S28は変速初回のみで実行され、それ以外はスキップされる。
図15中のステップS6で行先段と現在段とを比較して、変速有りか否かを判定する。肯定判定(変速有り)ならば、ステップS8に進む。否定判定(変速無し)ならば、定常制御を行う。ステップS8でUPシフトであるか否かを判定する。肯定判定(UPシフト)ならが、ステップS10に進む。否定判定(DOWNシフト)ならば、ステップS12に進み、DOWNシフト制御手段274がダウンシフトを制御する。
ステップS10で図17のUPシフト制御を行う。図17中のステップS50で変速初回(SFTMON=10h)であるか否かを判定する。肯定判定(変速初回)ならばステップS52に進む。否定判定ならば、ステップS70に進む。ステップS52で放置であるか否かを判定する。肯定判定(放置)ならば、ステップS54に進む。否定判定(通常)ならば、ステップS60に進む。
(a) 放置の場合
(a1) 準備
ステップS54で、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常準備データベース310を検索して通常値(通常準備時間)TMDB1Aを算出し、変速モード及びATF油温TATFから放置準備データベース312を検索して放置補正(放置補正準備時間)ΔTMDB1Aを算出し、図18に示すように、時刻t1において、準備圧タイマに(TMDB1A+ΔTMDB1A)をセットして時間計時を開始する。
ステップS56で、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常準備データベース310を検索して通常値(通常準備圧)QDB1Aを算出し、変速モード及びATF油温TATFから放置準備データベース312を検索して放置補正(放置補正準備圧)ΔQDB1Aを算出し、準備圧に(通常値+放置補正)をセットする。ステップS72で、図18に示すように、時刻t1において、準備圧(QDB1A+ΔQDB1A)を油圧指令値QONとして、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力し、ステップS50に戻る。ステップS70で準備圧タイマがタイムアウトしたか否かを判定する。否定判定ならばステップS72に進む。肯定判定ならばステップS80に進む。ここでは、準備圧タイマがタイムアウトしていないので、ステップS72に進む。ステップS72で準備圧(QDB1A+ΔQDB1A)を油圧指令値QONとして、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。ステップS72が図18中の時刻t2で準備圧タイマがタイムアウトするまで実行される。
(a2) トルク相
ステップS70で準備圧タイマがタイムアウトしたか否かを判定する。否定判定ならばステップS72に進む。肯定判定ならばステップS80に進む。ここでは、準備圧タイマがタイムアウトしたのでステップS80に進む。ステップS80で、トルク相初回(SFTMON=20h)であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS90に進む。否定判定ならば、ステップS110に進む。ここでは、トルク相初回なのでステップS90に進む。ステップS90で放置であるか否かを判定する。肯定判定ならばステップS92に進む。否定判定ならばステップS100に進む。ここでは放置なのでステップS92に進む。
ステップS92で、上述した入力軸推定トルクTTAPに基づくトルク相終了時刻での目標トルクTQUTA1に相当するトルク相圧QUTAG、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常トルク相データベース364を検索して通常値(通常トルク相時間)TMDB2Bを算出し、変速モード及びATF油温TATFから放置準備データベース366を検索して放置補正(放置補正トルク相時間)ΔTMDB2Bを算出し、図18に示すように、時刻t2において、トルク相タイマに(TMDB2B+ΔTMDB2B)をセットして時間計時を開始する。
ステップS94で、上述の入力軸推定トルクTTAPに基づくトルク相終了時刻での目標トルクTQUTA1に相当する通常値(通常トルク相圧)QUTAGを算出し、変速モード及びATF油温TATFから放置準備データベース366を検索して放置補正(放置補正トルク相圧)ΔQUTAGを算出し、トルク相圧に(QUTAG+ΔQUTAG)をセットする。
ステップS96で、通常トルク相圧QUTAG、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常トルク相データベース364を検索して通常値(通常油圧SWON相当時間)TMDB2Cを算出し、変速モード及びATF油温TATFから放置準備データベース366を検索して放置補正(放置補正油圧SWON相当時間)ΔTMDB2Cを算出し、油圧SWON相当タイマに(TMDB2C+ΔTMDB2C)をセットして時間計時を開始する。
ステップS110で、図18中の時刻t2において、トルク相圧(QUTAG+ΔQUTAG)を油圧指令値QONとして、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。また、OFFトルク相圧算出手段362はOFF側クラッチの油圧指令値QOFを算出し、QOFに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。ステップS50,S70,S80,S108,S110がトルク相終了時刻t4まで実行される。尚、時刻t3で油圧SWON相当タイマがタイムアウトすると、OFFトルク相圧算出手段362はOFF側クラッチの解放の制御を開始する。
図19において、破線Hで示す放置時指令値QONについて、オイルの抜けが大,中,小の場合の実油圧をJ1,J2,J3で示している。実線Nは通常時指令値QONである。放置時指令値が上述した観点に基づいて準備圧及び時間及びトルク相圧及び時間について放置補正されているので、トルク相終了時刻t4での、オイルの抜けが大,中,小の場合における実油圧は、エンジン回転の吹きが生じることのない下限以上、且つイナーシャ相開始油圧指令値以下の所定範囲となっている。また、トルク相終了時刻t4では、準備終了時刻t2に比べて、実油圧J1,J2,J32にばらつきが小さくなっている。これは、準備の放置補正でカバーできなかったばらつきをトルク相時間及びトルク相圧の制御量を通常よりも大きくすることによりカバーしていることを示している。
一方、図20において、破線H’で示す従来の放置時指令値QONについて、オイルの抜けが大,中,小の場合の実油圧をJ1’,J2’,J3’で示している。実線Nは通常時指令値QONである。図20に示すように、準備圧及び時間についてのみ放置補正される従来では、トルク相終了時刻t4’での、オイルの抜けが小の場合における実油圧は、エンジン回転の吹きが生じることのない油圧よりも低圧となっており、エンジン回転の吹きを生じる。また、トルク相終了時刻t4’での実油圧J1’,J2’,J3’のばらつきが図19の場合よりも大きくなっている。
トルク相が終了すると、ステップS120でイナーシャ相終了したか否かを判定する。否定判定ならばステップS122に進む。肯定判定ならばステップS130に進む。ステップS122で、イナーシャ相制御手段284はイナーシャ相指令値QONを算出し、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。このとき、図18,図19中のイナーシャ相開始時点t4において、トルク相圧指令値がイナーシャ相圧指令値よりも小さいので、引き込みショックが発生することがなく、エンジン回転の吹きも発生しない。イナーシャ相が終了すると、ステップS130でエンゲージ制御手段286はエンゲージ指令値QONを算出し、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。
(b) 通常の場合
(b1) 準備
ステップS60で、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常準備データベース310を検索して通常値(通常準備時間)TMDB1Aを算出し、準備圧タイマにTMDB1Aをセットして時間計時を開始する。
ステップS62で、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常準備データベース310を検索して通常値(通常準備圧)QDB1Aを算出し、準備圧に通常値をセットする。ステップS72で、準備圧QDB1Aを油圧指令値QONとして、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力して、ステップS50に戻る。ステップS70で準備圧タイマがタイムアウトしたか否かを判定する。否定判定ならばステップS72に進む。肯定判定ならばステップS80に進む。ステップS72で準備圧QDB1Aを油圧指令値QONとして、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。ステップS72が準備圧タイマがタイムアウトするまで実行される。尚、図18中の符号Nが通常時の油圧指令値を示している。
(b2) トルク相
ステップS70で準備圧タイマがタイムアウトしたか否かを判定する。否定判定ならばステップS72に進む。肯定判定ならばステップS80に進む。ステップS80で、トルク相初回であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS90に進む。否定判定ならば、ステップS108に進む。ステップS90で放置であるか否かを判定する。肯定判定ならばステップSS92に進む。否定判定ならばステップS100に進む。
ステップS100で、上述した入力軸推定トルクTTAPに基づくトルク相終了時刻での目標トルクTQUTA1に相当するトルク相圧QUTAG、変速モード、入力軸回転数NM及びATF油温TATFから通常トルク相データベース364を検索して通常値(通常トルク相時間)TMDB2Bを算出し、トルク相タイマにTMDB2Bをセットして時間計時を開始する。
ステップS102で、上述の入力軸推定トルクTTAPに基づくトルク相終了時刻での目標トルクTQUTA1に相当する通常値(通常トルク相圧)QUTAGを算出し、トルク相圧にQUTAGをセットする。
ステップS110で、トルク相圧QUTAGを油圧指令値QONとして、QONに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。また、OFFトルク相圧算出手段362はOFF側クラッチの油圧指令値QOFを算出し、QOFに対応する制御信号を油圧回路6に出力する。ステップS50,S70,S80,S108,S110がトルク相終了するまで実行される。尚、油圧SWONを使用する場合には、油圧SW142,143が油圧SW信号をオンすると、その時点からOFF側クラッチの解放の制御を開始するとともに、(トルク相時間TMDB2B−油圧SWON相当時間TMDB2C)経過後にトルク相が終了する。イナーシャ相及びエンゲージは放置の場合と同様なので説明を省略する。
以上説明したように、本実施形態によれば、準備圧及び準備時間、並びにトルク相圧及びトルク相時間に対して、放置補正をしたので、油圧立ち上がり特性のばらつきに対しても均一な変速ショックの実現が可能となる。
尚、本実施形態では、準備圧及びトルク相圧がそれぞれ1段階である場合を説明したが、準備圧やトルク相圧がリニアに変化させる場合にも適用可能である。この場合は、準備圧やトルク相圧の傾きを通常よりも大きくするとともに、準備時間やトルク相時間を通常よりも長くすれば良い。また、2段階以上の場合には、各段階において、本実施形態を適用すれば良い。即ち、各段階において、放置補正での準備時間、準備圧、トルク相時間及びトルク相圧のそれぞれの制御量を通常よりも大きくすれば良い。