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JP4423381B2 - タンパク質巻き戻し材料 - Google Patents

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Description

本発明は、不活性タンパク質の機能賦活剤(リフォールディング剤)に関するものであり、更に詳しくは、高次構造が未形成なために不活性なタンパク質、あるいはある種の原因で立体構造が変化し失活したタンパク質を、リフォールディングさせ、該タンパク質固有の本来機能を賦活・再生させる能力を有する物質・材料、及び該物質・材料を利用した不活性タンパク質の活性化、すなわち、活性タンパク質の製造・生産に関するものである。本発明は、例えば、生化学品、医薬品製造の技術分野において、大腸菌等の遺伝子発現系を利用して生産した高次構造未形成タンパク質を、リフォールディングさせ、該タンパク質の本来の機能・活性を賦活させることが可能な新しい物質・材料、並びにそれを用いる新しい機能賦活方法を提供するものとして有用である。従来、大腸菌等の発現系で得られるタンパク質は、一般には、立体構造が無秩序であり、該タンパク質の持つ本来の機能・物性を持たず、活性を示さないという問題があったが、本発明の物質・材料は、上記タンパク質に代表される不活性タンパク質の機能・活性を賦活させ、所定の機能・活性を有するタンパク質へと再生させることを可能とする、革新的タンパク質製造・生産技術を提供するものである。
生体内で実際的に作用し、働くのは、遺伝子ではなく、それらから作られるタンパク質である。したがって、タンパク質の機能・構造の解明・解析は、例えば、病気の治療や創薬に直結し、極めて重要である。このため、種々のタンパク質を様々な方法で合成・生産し、それらの構造を調べ、生体内における作用機構と役割を解明することが、活発に行われている。そして、今や、タンパク質の機能は、それらを構成するアミノ酸の配列・鎖長のみならず、それらの取る秩序だった立体構造(高次構造)によって決まることは、周知のこととなっている。
タンパク質の合成は、一般には、例えば、大腸菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の発現系を用いて行われる。昆虫細胞や哺乳動物細胞による合成では、得られるタンパク質は、高次構造が制御され、秩序だった立体構造を取り、可溶性である場合が多い。しかし、これらの方法は、分離精製の操作が非常に煩雑であり、目的のタンパク質を得るまでに時間がかかり、コスト高となるばかりか、得られるタンパク質の量も極めて少ないという欠点がある。これに対して、大腸菌によるタンパク質合成は、操作が簡単で、目的タンパク質を得るのにさして時間を要せず、コストもさほどかからない。このため、現在は、目的タンパク質の合成を担う遺伝子コードを組み込ませた大腸菌を用いる方法が、タンパク質合成の主流となっており、生産プロセスも確立されつつある。
ところが、ヒトなどの高等生物のタンパク質を大腸菌発現系で合成した場合、アミノ酸の結合順序や数、すなわち、アミノ酸鎖長に関しては、設計どおりのタンパク質が得られるものの、その立体構造には、秩序が無く、高次構造が制御されていないタンパク質、すなわち、アミノ酸鎖が縺れ絡まった、いわゆるインクルージョンボディと呼ばれる不溶性タンパク質が得られる。当然のことながら、この不溶性タンパク質のインクルージョンボディは、欲する機能・性能を持たず、活性を示さない。このため、大腸菌による生産プロセスでは、インクルージョンボディを解きほぐし、高次構造を整え、秩序だった立体構造を持つ可溶性タンパク質に変換する操作、すなわち、インクルージョンボディのリフォールディング(巻き戻し)が必要である。
この種のリフォールディングは、大腸菌による生産タンパク質のみならず、熱履歴等のある種の原因で失活したタンパク質の再生にも応用でき、極めて重要な技術である。したがって、従来から、このリフォールディングは盛んに研究され、種々の方法が提案されているが、それらのほとんどは、リフォールディング率が低いうえに、ある限定されたタンパク質、特に、分子量の低い特定タンパク質、に対して偶発的に好ましい結果が得られたに過ぎないことが多く、現在、このリフォールディングは、種々のタンパク質に適用可能な、一般性、普遍性のある、しかもリフォールディング率の高い、効率的で経済的な方法とはなっていない。
最も古くから良く用いられているリフォールディング操作は、透析や希釈である。前者は、タンパク質を界面活性剤や変性剤を含む水溶液に溶かし、これを界面活性剤や変性剤を含まない緩衝液で透析することで、界面活性剤や変性剤の濃度を下げて、タンパク質をリフォールディングするもの(典型例、FoldItキット、FoldIt Kit: Hampton Research社製)である。一方、後者は、タンパク質を界面活性剤や変性剤を含む水溶液に溶かした後に、これを単に希釈して行くことで界面活性剤や変性剤の濃度を下げ、リフォールディングさせるもの(典型例、FoldItキット、FoldIt Kit: Hampton Research社製)である。これらが一般であるが、その他にも、界面活性剤のN−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム(Sodium N-lauroyl sarcosinate)溶液にグルタチオンS−トランスフェラーゼ融合タンパク質を溶かし、それを1〜2%のトリトンX−100(Triton X-100)で希釈し巻き戻す方法(非特許文献1参照)など、希釈剤を用いてリフォールディングさせる方法もある。
透析と希釈の両方に対し、Hampton Research社から使い捨てキットが市販されており、これらの操作法では、グルタミン酸及びカイニン酸受容体リガンド結合領域(Ligand binding domains from glutamate and kainate receptors)、リゾチーム(Lysozyme)、 炭酸脱水酵素B(Carbonic anhydrase B)などの、極めて限られたタンパク質でリフォールディングが起こることが認められている(非特許文献2参照)に過ぎず、試行錯誤法の域に留まっていると言っても過言ではない。したがって、たまたま上手くいった方法の場合でも、それを他のタンパク質に適用すると、ほとんどうまくいかないのが通例である。
リフォールディングに、吸着分離カラムを用いることも試されている。尿素・塩酸グアニジンで変性させたタンパク質チオレドキシンをゲル濾過にかけると、ゲル濾過中にその巻き戻りが起こる(非特許文献3参照)。しかし、この方法では、リフォールディングは必ずしも十分ではなく、他のタンパク質では、満足できる結果が得られないのが通常である。構造が壊れたタンパク質の巻き戻しを促進するタンパク質の一種である分子シャペロンGroELを固定したカラムに、8Mの尿素で可溶化したタンパク質を吸着させ、塩化カリウムと尿素をそれぞれ2M含む溶液で溶離すると、溶離タンパク質の巻き戻りが起こる(非特許文献4参照)。しかし、これらは、サイクロフィリンA(Cyclophilin A)など、極めて限られたタンパク質で認められているに過ぎない。特に、分子シャペロンを用いる場合は、それがある種の鋳型であるために、その鋳型の形に適合しないものでは、まったく役に立たないというのが実情である。
また、リフォ−ルディング促進に関与すると考えられるタンパク質3種、GroEL、大腸菌由来のDsbA(ジスルフィド酸化還元酵素:disulfide oxidereductase)及びヒト由来PPI(human proline cis-trans isomerase)を同時に固定した樹脂に、塩酸グアニジンで変性したタンパク質サソリ毒Cn5(Scorpion toxin Cn5)を混ぜると、このタンパク質の巻き戻りが樹脂上で起こること(非特許文献5参照)も報告されている。しかしながら、これについては、サソリ毒Cn5(Scorpion toxin Cn5)などの、特定タンパク質にしか適用できない欠点に加え、タンパク質3種を固定した樹脂の調製が、煩雑でコスト高となるという問題もある。
カラム上の固定物質として、巻き戻し促進タンパク質の代わりに、金属キレートを用いる場合もある。ニッケルキレートを固定した樹脂に、塩酸グアニジンと尿素を含む水溶液で溶解変性したHis6-タグ融合タンパク質を吸着させ、変性剤を含まない緩衝溶液で洗うと、該融合タンパク質の巻き戻りが起こる(非特許文献6参照)。本法の適用が、このタンパク質に限られることと、樹脂の調製が煩雑でコスト高となることは同じである。
人工シャペロンとして、β−シクロデキストリンやシクロアミロースを用い、このシャペロン溶液に界面活性剤で変性したタンパク質を混ぜると、界面活性剤の人工シャペロンによる取り込み除去が生じ、この過程でタンパク質が巻き戻るとの報告(非特許文献7〜9参照)もある。しかし、この方法は、炭酸脱水酵素B(carbonic anhydrase B )などで成功しているに過ぎない。しかも、繰り返し行える方法ではなく、高コストである。
一方、本発明者らは、これまで、ゼオライトベータ(例えば、非特許文献10、特許文献1参照)などのゼオライトへのバイオポリマーの吸着現象について、研究を続けてきた(非特許文献11)。
特開平5−201722号公報 Anal. Biochem., Vol. 210 (1993), 179-187 Protein Sci. ,Vol. 8 (1999),1475-1483 Biochemistry, Vol. 26 (1987),3135-3141 Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 94 (1997),3576-3578 Nat. Biotechnol., Vol. 17 (1999),187-191 Life Science News (Japan Ed.),Vol. 3 (2001),6-7 J. Am. Chem. Soc., Vol. 117 (1995),2373-2374 J. Biol. Chem., Vol. 271 (1996),3478-3487 FEBS Lett., Vol. 486 (2000),131-135 Zeolites, Vol. 11(1991),202 Chem. Eur. J., Vol. 7(2001), 1555-1560
このように、従来、種々のリフォールディングの方法やリフォールディング機能を有する物質・材料が報告されているが、これらの方法・物質材料には、上記のような問題があるのが実情であり、そのため、当技術分野においては、鎖長の長短を問わず、種々の高次構造未形成及び変性・失活タンパク質に適用可能な、一般性、普遍性の高い、しかも繰り返し使用可能な、低コストの、高効率のリフォールディング物質・材料並びに方法、すなわち、経済的で高性能なリフォールディング技術を開発することが急務の課題となっていた。
このような状況下にあって、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の課題を解決することが可能な新しいリフォールディング技術を開発することを目標として鋭意研究開発を進めると共に、DNA、RNA、タンパク質等バイオポリマーの、ゼオライト等金属酸化物上への吸着状況を詳細に調べ(前記非特許文献11参照)、タンパク質の分離精製材料並びに方法を鋭意研究している過程で、BEA構造のゼオライト、すなわち、ゼオライトベータが変性タンパク質の巻き戻し機能を有することを見出し、ゼオライトベータからなるリフォールディング剤を開発するに至った。更に、本リフォールディング剤が、大腸菌等の発現系で生産した高次構造未形成タンパク質、あるいは熱履歴等のある種の原因で失活したタンパク質等、分子量10万を越える大型のタンパク質を含む、種々の立体構造無秩序タンパク質等の巻き戻しにも適用できることを認め、本発明に係る、一般性、普遍性の高いタンパク質のリフォールディング技術を完成するに到った。本発明は、新規タンパク質巻き戻し材料を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)高次構造が無秩序なため不活性であるタンパク質の、高次構造を整え、活性にするタンパク質巻き戻し機能を有するリフォールディング剤であって、該リフォールディング剤が、BEA構造のゼオライト(ゼオライトベータ)から構成され、該ゼオライトベータが、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン及び/又は尿素を含むことを特徴とするタンパク質リフォールディング剤。
)有機アンモニウムイオンが、モノ、ジ、トリ及び/又はテトラアルキルアンモニウムイオン(アルキル基は、メチル、エチル、プロピル又はブチル)であることを特徴とする、前記()に記載のリフォールディング剤。
)タンパク質変性剤、界面活性剤及び/又はリフォールディングバッファーの存在下で、タンパク質の巻き戻しが行われる、前記(1)に記載のリフォールディング剤。
)高次構造が無秩序なため不活性であるタンパク質が、大腸菌の発現系で生産されたタンパク質であることを特徴とする、前記(1)に記載のリフォールディング剤。
)高次構造が無秩序なため不活性であるタンパク質が、熱履歴の原因で失活したタンパク質であることを特徴とする、前記(1)に記載のリフォールディング剤。
)ゼオライトベータの骨格構造が、酸素とそれ以外の1種又は2種以上の元素からなることを特徴とする、前記(1)に記載のリフォールディング剤。
)ゼオライトベータの骨格構造が、ケイ素及び酸素、又はケイ素、アルミニウム及び酸素からなることを特徴とする、前記()に記載のリフォールディング剤。
)溶液中に分散したタンパク質と接触することにより、タンパク質巻き戻し機能を発揮する、前記(1)から()のいずれかに記載のリフォールディング剤。
)溶液中の前記タンパク質を、該リフォールディング剤との混合、又は該リフォールディング剤充填カラムへの注入により、吸着させ、しかる後、脱着させる操作で該タンパク質の巻き戻しを起こさせる、前記(1)から()のいずれかに記載のリフォールディング剤。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の、ゼオライトベータからなるリフォールディング剤の対象となるタンパク質は、高次構造が整っていない不活性なタンパク質全てであるが、特に、大腸菌等の発現系で得られる立体構造が無秩序なタンパク質、いわゆるインクルージョンボディ、あるいは熱履歴等のある種の原因で失活したタンパク質である。本発明のリフォールディング剤は、該タンパク質の該リフォールディング剤への吸着・脱離過程で、該タンパク質の立体構造をリフォールディングし、該タンパク質本来の機能の賦活・付与を行うが、該リフォールディング剤の本能力は、必ずしもそれに限定されるものではなく、通常、次のような操作で発揮される。換言すれば、次のような操作で不活性タンパク質の機能賦活が行われる。まず、該タンパク質を、変性剤や界面活性剤などを含む溶液に分散溶解し、この後、本発明のリフォールディング剤を含む溶液との混合や、本リフォールディング剤充填カラムへの注入により、該タンパク質を本リフォールディング剤に吸着させ、次いで、本リフォールディング剤から該タンパク質を脱着させる手順で行われる。
該リフォールディング剤に吸着前の、タンパク質の分散溶媒としては、一般には、それが大腸菌等の発現系で生産されること、タンパク質は、通常、水溶液中で使われることが多く、失活した場合でも水溶液中にあることが多いことから、好ましくは、水が用いられる。しかし、必ずしもこれに限定されるものではなく、該タンパク質と反応を起こさないもの、及び該タンパク質の立体構造を不本意な形に変えるものでなければ、基本的には問題はなく、このような場合は、それら溶媒単独あるいは水と混合して用いることが可能である。この種の溶媒の典型例として、例えば、一価及び多価のアルコールやポリエーテル類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
該タンパク質の吸脱着は、一般には、インクルージョンボディなどの、縺れ絡んだタンパク質鎖長を解きほぐし易くし、また、巻き戻り易くするために、変性剤や界面活性剤、pH調整剤、リフォールディング因子等の存在下、及び/又は、タンパク質鎖長中に不本意に生成したS−S結合を切断するために、ある種の還元剤の存在下で行われる。この種の変性剤や界面活性剤、pH調整剤、リフォールディング因子の典型例として、例えば、塩酸グアニジン、トリスアミノメタン塩酸塩、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、2−[4−(2−オキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperadinyl]ethan sulfonic acid(HEPES))、ポリ燐酸、スクロース、グルコース、グリセロール、イノシトール、デキストランT−500(Dextran T-500) やフィコール1400(Ficol1400)などを挙げることができるが、これらに留まるものではなく、同様な作用を持つものはいずれも使用可能である。
不本意に生成したS-S結合を切断し、本来の構造に戻す還元剤としては、安価で入手し易いことから、通常は、2−メルカプトエタノールが用いられるが、これに限定されるものではなく、同様な作用を行うものは全て使用可能である。当然のことながら、タンパク質鎖長が解きほぐれやすい場合や、不本意にS−S結合が生成しない場合は、変性剤や界面活性剤、及び/又は防止剤を、必ずしも使う必要がないので、これらの存在は、常に必須とは限らず、状況に応じ適宜選択して用いられる。また、それらを用いる場合も、それらの量は、状況に応じ、適宜決められることになる。
また、該タンパク質の脱着には、一般には、置換吸着が用いられるが、基本的には、該タンパク質の脱着後の機能賦活を阻まない操作であれば、いかなる操作も適用可能であり、特に限定されるものではない。したがって、pH変化、温度変化なども用いることができる上に、これらと置換吸着を併用することもできる。更には、置換吸着の際、該タンパク質の脱着を促す物質として、従来から、カラムクロマトグラフィーの溶離では、ハロゲン化アルカリやドデシル硫酸ナトリウムなどの塩が、頻繁に用いられており、これらの併用で顕著な効果が得られる場合も多い。したがって、置換吸着で該タンパク質の脱着を行う際には、これらカラムクロマトグラフィーの溶離に用いられるものなど、種々のものの塩と界面活性剤やリフォールディング因子とを併用することも可能であり、この種の併用塩としては、ここに挙げたものに限定されるものではなく、該タンパク質の脱着後の機能賦活を阻まないものであれば、いずれも使用可能である。
更に言えば、該タンパク質の、本発明リフォールディング剤への吸着、あるいはそれからの脱着を促すために、上記操作と併用して、種々の付加的操作を行うこともできる。このような操作の典型例には、例えば、超音波やマイクロ波の照射や、磁場や電場の印加がある。以上述べてきた手順・操作により、該リフォールディング剤の持つタンパク質巻き戻し能が高度に発揮されることになり、大腸菌等の発現系を用いて生産した高次構造未形成タンパク質並びにある種の原因で失活したタンパク質に、リフォールディングが起き、それらのタンパク質が本来持つはずの機能が速やかに賦活される。
以上述べてきた不活性タンパク質の活性賦活機能・変性タンパク質の巻き戻し能を有する、本発明のリフォールディング剤を構成するBEA構造のゼオライト(通称ゼオライトベータ、Zeolite Beta)は、ベータゼオライトとも呼ばれ、典型例として、例えば、通常の市販ゼオライトベータ、文献等に従い、自前で合成・調製したゼオライトベータ(非特許文献10参照)、それらを焼成して得られるゼオライトベータ、該ゼオライトの有する空間中にアンモニウムや種々の脂肪族及び/又は芳香族アンモニウム等のアンモニウム類があるゼオライトベータ、該ゼオライトを形成する骨格ケイ素の一部が他の金属に変わった骨格置換ゼオライトベータ、前記アンモニウム類含有骨格置換ゼオライトベータなどが挙げられるが、ゼオライトベータの骨格構造を持つものであれば、基本的には全て該機能・能力を有しており、該リフォールディング剤を構成するゼオライトベータは、ここに挙げたものに必ずしも限定されるものではない。
ところで、本発明のリフォールディング剤を構成するゼオライトベータの該機能・能力は、不活性並びに変性タンパク質の該ゼオライトへの接触、すなわち吸着・脱離、で発揮され、この際には、ゼオライトベータ表面と対象タンパク質との間の親和性が重要となる上に、また、該タンパク質の吸着・脱離は、その分散溶媒、分散溶媒中の変性剤や界面活性剤並びにリフォールディング因子、更には分散溶媒のpHなどで影響される場合も多いので、対象とするタンパク質及びそれを含む溶液の成分状況等に応じて、本発明のリフォールディング剤のリフォールディング能は、それを構成する前述の種々のゼオライトベータによって、しばしば異なる。しかしながら、総じて、アンモニウム類を含むゼオライトベータより構成されるリフォールディング剤は、それを含まないものより高いリフォールディング能を示すので、該リフォールディング剤としては、アンモニウム類を含むゼオライトベータ及びアンモニウム類を含む骨格置換ゼオライトベータで構成されるものが好ましいことが、しばしばである。
該リフォールディング剤の、ゼオライトベータに含有されるべきアンモニウム類としては、該ゼオライトの有する空間中に留まり易いアンモニウム類、例えば、アンモニウムイオン、アルキル基がメチル、エチル、プロピル及びブチルなどのモノ、ジ、トリ及びテトラアルキルアンモニウムイオン、更には、5員環、6員環及7員環の脂肪族アミン及び芳香族アミンのアンモニウムイオン、より詳しくは、ピペリジュムイオン、アルキルピペリジュムイオン、ピリジニウムイオン、アルキルピリジウムイオン、アニリンイオン、N−アルキルアニリンイオンなどを挙げることができ、また、酸アミドとしての、例えば、フォルムアミド、アセトアミド及びこれらのN−アルキル置換体を挙げることができるが、基本的には、ゼオライトベータの有する細孔中に入ることが可能なアンモニウム類であれば、いずれでもよく、ここに例示したアンモニウム類に限定されるものではない。
該リフォールディング剤の、ゼオライトベータの骨格を形成する元素は、一般には、ケイ素と酸素、あるいはケイ素と酸素とアルミニウムであるが、ケイ素やアルミニウムの一部が他の元素に置換したゼオライトベータ及びその細孔中に前記アンモニウム類を含む置換ゼオライトベータも、不活性タンパク質の活性賦活機能を有する。ゼオライトベータの骨格ケイ素、あるいはアルミニウムと置換可能なものの典型としては、例えば、ホウ素、燐、ガリウム、錫、チタン、鉄、コバルト、銅、ニッケル、亜鉛、クロム、バナジウムなどを挙げることができるが、これらに留まるものではなく、基本的に、ゼオライトベータの構造を破壊しないものであれば、いずれでも良い。また、その置換量に関しても、ゼオライトベータの構造を破壊しない量であれば、置換量はいかなる量でもかまわず、該置換ゼオライトベータは、不活性、あるいは変性タンパク質のリフォールディング機能を発揮するリフォールディング剤となり得る。
本発明のリフォールディング剤を構成するゼオライトベータは、いずれも熱安定性、化学安定性に優れており、しかも安価であるうえ、繰り返し使用が可能であるので、本発明のリフォールディング剤及びそれを用いる不活性あるいは変性タンパク質の機能賦活方法は、例えば、生化学品製造、医薬品製造にとって極めて有用であり、その技術的、経済効果は計り知れないものがある。
本発明は、不活性タンパク質の機能を賦活する能力を有する物質・材料であるリフォールディング剤に係わるものであり、本発明によって、1)タンパク質の種類を問わず、広範な不活性タンパク質に対して、それら本来の機能を賦活させる万能的物質・材料、すなわちBEA構造のゼオライト(ゼオライトベータ)からなるリフォールディング剤を選定することができる、2)本発明のリフォールディング剤に、前記タンパク質、例えば、大腸菌等の発現系で産生された高次構造が未形成なために不活性なタンパク質、あるいはある種の原因で立体構造が変化して失活したタンパク質を接触させることにより、それらタンパク質の本来の機能・活性を、リフォールディングにより賦活させることができる、3)本発明のリフォールディング剤は、インクルージョンボディのタンパク質にも効力を有し、インクルージョンボディの効率的なリフォールディング方法において有用である、4)本発明のリフォールディング剤に接触させ、不活性タンパク質の機能を賦活する方法は、タンパク質を構成するアミノ酸の鎖長・配列を問わず、種々の変性タンパク質に適用可能な、一般性、普遍性のある、しかもリフォールディング率の高い効率的方法である、5)本発明のリフォールディング剤を構成するゼオライトベータは、低コストであり、しかも、繰り返し使用可能である、6)本発明のリフォールディング剤を用いる不活性タンパク質の機能賦活方法は、分子量10万を越える大型のタンパク質を含む、種々の立体構造無秩序タンパク質のリフォールディングに適用できる、7)例えば、大腸菌の発現系によるタンパク質合成プロセスと、本発明のリフォールディング剤による不活性タンパク質の機能賦活とを組み合わせることにより、高次構造が制御されて、該タンパク質固有の本来機能が備わったタンパク質を生産する新規の活性タンパク質製造プロセスを提案・確立することができる、という格別の効果が奏される。
次に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例等によって何ら制約を受けるものではない。
実施例1〜58及び比較例1〜29
以下、本実施例では、大腸菌発現系生産タンパク質及び変性タンパク質の機能賦活を説明するが、本発明は実施例に限定・制限されるものではない。
1)試料等の調製
(a)リフォールディング剤
リフォールディング剤(機能賦活剤)として、後記する表1及び2に示した、市販ゼオライトベータ、合成ゼオライトベータ、それらを焼成したゼオライトベータ、各種アンモニウム類含有ゼオライトベータ、骨格置換ゼオライトベータ及び各種アンモニウム類含有骨格置換ゼオライトベータを使用した。比較品として、表5の比較例に列挙した物質を用いた。これらの物質は、ベータ構造を有するゼオライトではない。例えば、比較例19、20の物質は合成時間が充分ではなく、BEA構造が未形成のシリカ及びシリカ・アルミナで、大半は非晶質構造である。
(b)変性タンパク質溶液
活性賦活対象タンパク質として、表1及び2のタンパク質及び備考欄に示した内容のRP70(黄色ショウジョウバエ由来)、P53(ヒト由来)等を使用した。
(c)リフォールディングバッファー
一般には、リフォールディングバッファーとして、50mM HEPES pH7.5 / 0.5M NaCl / 20mM 2−メルカプトエタノール / 2.5(w/v)% ポリエチレングリコール 20000(リフォールディング因子) / 1(v/v)% Tween20(界面活性剤)の組成の液を用いた。表3、表4及び表6に、用いたリフォールディングバッファーの詳細を示す。
2)リフォールディング操作
1.5mlのエッペンドルフチューブに、100mgのリフォールディング剤を入れ、0.5mlの6M塩酸グアニジン・20mMトリスアミノメタン三塩酸塩(TrisHCl)pH7.5・0.5MNaCl・20mM 2−メルカプトエタノールを加えて懸濁した。これに、6M塩酸グアニジン・20mM 2−メルカプトエタノールを加え、氷上で1時間放置し、変性したタンパク質溶液(濃度は0.5〜1.0mg/ml)を0.5ml加えた。この混合液を、該タンパク質のリフォールディング剤上への吸着を確実にするために、低温室に置かれた旋回培養器(ROTARY CULTURE RCC-100:IWAKI GLASS社製)で、1時間攪拌した。
その後、10000×gで5秒間遠心して、リフォールディング剤を沈殿させ、上澄みを除去した。次に、この沈殿したリフォールディング剤からタンパク質変性剤を完全に除去するために、これを1mlの20mMTrisHClpH7.5・20mM 2−メルカプトエタノールで4回洗った後、10000×gで5秒間遠心し、生じた上澄みを捨てた。残ったリフォールディング剤に、1mlのリフォールディングバッファー(50mM HEPES pH7.5、0.5M NaCl、20mM 2−メルカプトエタノール、リフォールディング因子及び非イオン系界面活性剤から構成)を加え、懸濁した。
リフォールディング剤上に吸着した該タンパク質を脱着・溶離させるために、この懸濁液を、再び低温下の旋回培養器(ROTARY CULTURE RCC-100:IWAKI GLASS社製)で攪拌した。その後、10000×gで5秒間遠心して、リフォールディング剤を沈殿させ、該タンパク質を含む上澄みを、新しいエッペンドルフチューブに移し、活性測定(アッセイ)に用いた。
なお、活性測定には、用いたタンパク質の働きに応じた方法を採用した。具体的には、4種の測定、すなわち、ゲルシフトアッセイ、ポリメラーゼアッセイ、リゾチーム活性測定及びトポイソメラーゼI活性測定で行った。
3)活性測定操作
(a)ゲルシフトアッセイ
1pmolの放射性同位体で標識したオリゴヌクレオチドDNAとリフォールディングしたタンパク質を、組成25mMHEPES pH7.4・50mM KCl・20%glycerol・0.1%NP−40・1mMDTT・1mg/mlウシ血清アルブミン( bovine serum albumin)の溶液中で、氷上30分インキュベートし、4.5%のポリアクリルアミノゲルで0.5×TBEのバッファーを使い、4℃で電気泳動した。
タンパク質にDNA結合性がある(すなわち、活性がある)場合、DNAにタンパク質が結合し、これにより電気泳動が遅くなりバンドがシフトするので、これにより活性(すなわち、リフォールディング率)を判定した。
(b)ポリメラーゼアッセイ
鋳型DNAとして、poly(dA)oligo(dT)12〜18あるいはDNアーゼ1(DNase1)−活性化仔牛胸腺DNA(activate calf thymus DNA)を使用し、反応液には組成(終濃度)50mM TrisHClpH7.5・1mM DTT・15%glycerol・5mM MgCl2・0.5μM dTTP (cold)(チミジル酸三リン酸)・[3H]-dTTP (5mCi/ml:100−500cpm/pmol)のものを用いた。先ず、この反応液の濃度が2倍のもの10μlに、タンパク質(酵素)サンプル溶液を加え、懸濁した後37℃で1時間インキュベートした後、氷上に置き反応を停止させた。
その後、正方形に切ったDE81紙に反応液を滴下し、乾燥させた後、ビーカーの中に移して、未反応dTTPを溶解除去するために洗浄した。洗浄は、先ず5%リン酸水素二ナトリウム水溶液で3回行い、次いで、蒸留水で3回、更にエタノールで2回行い、その後、乾燥した。このようにして得た乾燥DE81紙を、シンチレーターが入ったバイアルに入れ、シンチレーションカウンターで放射活性(cpm)を測定した。酵素サンプルの活性が強いほど、それで合成されるDNAに放射性同位体で標識したdTTPがより多く取り込まれ、放射性が高くなるので、これによりタンパク質の活性を判定した。
(c)リゾチームの活性測定
基質に細菌M.lysodeikticusを選び、これを50mMリン酸バッファーで懸濁し、0.16mg/ml濃度の基質溶液を調製した。この基質溶液480μlに、20μlのタンパク質(酵素リゾチーム)溶液を加え、室温で30分間インキュベートした。その後、波長450nmの吸光度を測定した。
リゾチームは細菌の細胞壁を分解する能力があるので、その能力、すなわち、活性が高いほど吸光度は減少する。リゾチーム活性1unitは1分間当たりに450nmの吸光度が0.001減少することと定義した。
(d)トポイソメラーゼI活性測定
0.5μgのsupercoiled pBR322とトポイソメラーゼI(TopoisomeraseI)タンパク質を、反応バッファー(10mM TrisHCl pH7.5, 150mM NaCl, 5mM β-mercaptoethanol,0.5mM EDTA)に懸濁し、37℃で30分インキュベーションした後、0.1%SDSを添加し、反応を停止した。次に、これに0.5μg/mlプロテイナーゼK(proteinase K)を添加し、37℃で30分インキュベーションし、液中のタンパク質トポイソメラーゼIを分解した。この後、この液を1%(w/v)アガロースで電気泳動し、0.5μg/mlのエチジウムブロマイドでDNA染色し、UVトランスイルミネーターで上方にシフトしたDNAのバンドを確認することによって、トポイソメラーゼI活性測定を行った。
上記手順・操作で得られた本実施例の結果である、活性(リフォールディング率)、タンパク質回収率等を、表1、表2及び表5に、比較例と共に纏めた。実施例に示されるように、リフォールディングにより、DNA結合活性等のタンパク質本来の活性が得られることが分かった。本発明のリフォールディング剤は、種々の高次構造未形成並びに変性・失活タンパク質に適用できる、一般性、普遍性の高いリフォールディング剤として有用であり、その適用は、実施例に示されたタンパク質に限定されるものではなく、任意のタンパク質に適用し得るものである。
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以上詳述したように、本発明は、不活性タンパク質の機能賦活剤に係わるものであり、本発明によって、大腸菌等の発現系で産生された高次構造が未形成なために不活性なタンパク質、あるいはある種の原因で立体構造が変化して失活したタンパク質の本来の機能・活性を、リフォールディングにより賦活させることができる。本発明の機能賦活剤を用いた方法は、インクルージョンボディを効率よくリフォールディングする方法として有用である。種々のタンパク質に適用可能な、一般性、普遍性のある、しかもリフォールディング率の高い効率的なリフォールディング剤を提供できる。本発明のリフォールディング剤を構成するゼオライトベータは、低コストであり、しかも、繰り返し使用が可能である。本発明のリフォールディング剤は、分子量10万を越える大型のタンパク質を含む、種々の立体構造無秩序タンパク質のリフオールディングに効力を有する。したがって、更なる展開、例えば、大腸菌の発現系によるタンパク質合成プロセスと、本発明のリフォールディング剤並びにその使用法とを組み合わせることにより、高次構造の制御された該タンパク質固有の本来機能が備わったタンパク質を生産する新規の活性タンパク質製造プロセス・システムを構築することができる。

Claims (9)

  1. 高次構造が無秩序なため不活性であるタンパク質の、高次構造を整え、活性にするタンパク質巻き戻し機能を有するリフォールディング剤であって、該リフォールディング剤が、BEA構造のゼオライト(ゼオライトベータ)から構成され、該ゼオライトベータが、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン及び/又は尿素を含むことを特徴とするタンパク質リフォールディング剤。
  2. 有機アンモニウムイオンが、モノ、ジ、トリ及び/又はテトラアルキルアンモニウムイオン(アルキル基は、メチル、エチル、プロピル又はブチル)であることを特徴とする、請求項に記載のリフォールディング剤。
  3. タンパク質変性剤、界面活性剤及び/又はリフォールディングバッファーの存在下で、タンパク質の巻き戻しが行われる、請求項1に記載のリフォールディング剤。
  4. 高次構造が無秩序なため不活性であるタンパク質が、大腸菌の発現系で生産されたタンパク質であることを特徴とする、請求項1に記載のリフォールディング剤。
  5. 高次構造が無秩序なため不活性であるタンパク質が、熱履歴の原因で失活したタンパク質であることを特徴とする、請求項1に記載のリフォールディング剤。
  6. ゼオライトベータの骨格構造が、酸素とそれ以外の1種又は2種以上の元素からなることを特徴とする、請求項1に記載のリフォールディング剤。
  7. ゼオライトベータの骨格構造が、ケイ素及び酸素、又はケイ素、アルミニウム及び酸素からなることを特徴とする、請求項に記載のリフォールディング剤。
  8. 溶液中に分散したタンパク質と接触することにより、タンパク質巻き戻し機能を発揮する、請求項1からのいずれかに記載のリフォールディング剤。
  9. 溶液中の前記タンパク質を、該リフォールディング剤との混合、又は該リフォールディング剤充填カラムへの注入により、吸着させ、しかる後、脱着させる操作で該タンパク質の巻き戻しを起こさせる、請求項1からのいずれかに記載のリフォールディング剤。
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