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JP4497788B2 - ゴム物品補強用スチールワイヤおよびゴム物品補強用スチールコードとタイヤ - Google Patents

ゴム物品補強用スチールワイヤおよびゴム物品補強用スチールコードとタイヤ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、空気入りタイヤや工業用ベルト等のゴム物品の補強材として使用されるスチールワイヤ及びスチールコード、特に低温環境下でのゴムとの接着性を改善したスチールワイヤ及びスチールコードに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ゴム物品の典型例である空気入りラジアルタイヤでは、そのベルトやカーカスに、ブラスめっきが施されたスチールフィラメントの複数本を撚り合わせて成る、又はスチールフィラメントの単線から成るスチールコードをゴムで被覆したものを適用し、主にスチールコードによる補強をはかっている。そして、スチールコードをタイヤの補強材として活用するには、該スチールコードを被覆するゴムと確実に接着する必要があり、そのためにスチールコードを構成するフィラメントの周面にはブラスめっきが施されている。
【0003】
このブラスめっきに関しては、ゴムとの接着性を確保するために、ブラスにおける銅と亜鉛の割合やめっき厚を適正化すること等が検討され、これらに関する一定の知見が確立している。ここで検討されたゴムとの接着性は、その環境温度が10〜40℃の範囲での評価結果に基づくものであり、より低温の環境下でのゴム接着性については検討されていない。
【0004】
ところが、近年、種々の開発がグローバル化する中で、アジアや北米の寒冷地において、生産財として大型の空気入りスチールラジアルタイヤが使われるケースが増えてきており、低温環境下での耐久性が重要になってきている。
【0005】
さて、タイヤに使用されるゴムは、発熱体であるが故に、長時間使用された際に一定の範囲で温度が上昇する。しかし、ガラス転移点以下の低温に長時間曝されたゴムは、容易に昇温するものでないため、車両の活動初期段階では、この車両に装着したタイヤは低温のままであり、この低温下で大きな入力を受けた時、タイヤを補強するコードおよびゴムの界面における低温接着性が不十分であると、これら界面を起点にセパレーションが発生し、ひいてはベルトやカーカスプライの破壊に至る場合があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、低温あるいは極低温環境下でコードおよびゴムの接着界面に大入力を受けた際に、その接着界面での剥離を回避するために、接着界面が低温脆化耐久性に優れることは、今後のタイヤ市場にとって重要である。
【0007】
すなわち、この発明は、特に極寒冷地で使用されるタイヤのベルトにおいて、該タイヤに大入力が負荷された際に、コードおよびゴムのセパレーションをまねくことのない、ブラスめっきとゴムとの低温接着性に優れるスチールワイヤを提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記課題を解決するための方途について鋭意究明したところ、低温接着性を改善するには、めっきの表面特性を改善することが重要であり、そのためには、めっき表面の燐量とその下地となるワイヤ周面の表面粗さとを制御することが有効であるとの知見を得た。
【0009】
発明者らは、かかる知見を前提に、スチールラジアルタイヤに供するスチールワイヤのめっき特性について、めっき組成ならびにその表面組成を同一に保ちながら、最表面の燐酸量とワイヤ周面の表面粗さとを種々に変化させる実験を行った結果、この発明を完成するに至った。
【0010】
なお、上記燐酸の化合物は、ワイヤに伸線する際に用いる液体潤滑剤のうち、極圧添加剤成分とブラスとの反応生成物であり、ダイスとワイヤとの間の摩擦を低減させてワイヤ表面の温度上昇を抑制する作用を有するため、ワイヤの伸線処理においては必須の成分であり、該成分なしでは伸線加工がほとんど不可能と言っても過言ではない。従って、燐酸化合物が伸線後のワイヤ表面のめっき層中に含まれるのは必然であり、特に量産ワイヤにおいて、そのめっき層中に燐酸化合物が含まれることは不可避であった。
【0011】
この発明は、以上の知見に基づいて成されたものであり、その要旨構成は、次のとおりである。
(1)ワイヤの周面にブラスめっきを施したスチールワイヤであって、該ブラスめっきの下地となる、ワイヤ周面の表面粗さが0.08〜0.15μmRaであり、該ブラスめっきは酸化物として燐を含み、かつブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれる燐の比率が1.5アトミック%以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤ。
【0012】
(2) 上記(1) において、ワイヤ周面の表面粗さが0.11μmRa 以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤ。
【0013】
(3) 上記(1) または(2) において、ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.35μmであることを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤ。
【0014】
(4) 上記(1) 、(2) または(3) において、ワイヤの直径が0.40mm以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤ。
【0015】
(5) 上記(1) ないし(4) のいずれかに記載のワイヤの複数本を撚り合わせて成ることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0016】
(6) 1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスの径方向外側にベルトをそなえるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのいずれか一方または両方に、上記(1) ないし(4) のいずれかに記載のスチールワイヤまたは上記(5) に記載のスチールコードを適用したことを特徴とするタイヤ。
【0017】
【発明の実施の形態】
さて、スチールワイヤは、例えば径が5mm程度の線材に伸線加工を施して製造されるのが、一般的である。この製造プロセスにおいては、当然潤滑剤を使用することになるが、中でも最終伸線工程は、液体潤滑剤中に配置した20パス程度のダイスを用いて細線化を行っている。この最終伸線工程ではコードとダイスとの間に極圧が発生し、温度も非常に高くなることから、極圧かつ高温状態での潤滑性を確保するために、燐酸をベースとする潤滑剤を用いることが通例である。
【0018】
この潤滑剤は、伸線加工中にワイヤ表面と反応して潤滑皮膜層、すなわち燐酸化合物層を生成し、極圧高温条件の下での入力を緩和し、ワイヤの量産を実現している。従って、製造プロセス上、ワイヤのめっき中に燐酸が取り込まれることは避けられないものである。
【0019】
そこで、発明者らは、燐酸が含まれたブラスめっき中の銅がゴム側に拡散し CuxSを形成して接着が行われる接着反応について、とりわけめっき側の燐酸がゴムとの接着を阻害する機構について鋭意究明した。そして、ゴムとの接着を妨害するのはめっき全体に取り込まれた燐酸ではなく、ゴムと接触するめっきの極く表層、具体的にはめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域に存在する燐酸化合物に限定されることを、新たに見出した。すなわち、最終伸線後のワイヤの上記表層領域に燐酸化合物が残存していないことこそがゴム接着性を改善する上での本質であり、従来のようにめっき層全体の燐酸または燐の量、例えば希塩酸で溶解して測定されるような燐酸や燐の量を規制することでは解決し得ないことが解明されたのである。
【0020】
以下に、上記の知見を得るに到った経緯を説明する。
まず、該ワイヤを得るための伸線工程において、そのパススケジュールやダイスの材質、そして潤滑剤の成分組成、熟成条件または液温度などを種々に変更して作製したワイヤのゴム接着性を評価したところ、ワイヤによってゴム接着性が異なることが明らかになった。次に、ゴム接着性の良好なワイヤに共通の条件を調査した結果、ゴム接着性に関する従来の一般的指標である、めっき層における銅や燐の含有量では包括しきれないことが判明した。そこで、ゴム接着性に影響を与える要因について鋭意究明したところ、めっき層の極く表層の領域、具体的にはめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれる燐の量が、ゴム接着性と相関していることを見出したのである。
【0021】
ここで、上記表層領域における酸化物として含まれる燐の量は、X線光電子分光法に従って計測することができる。すなわち、X線光電子分光法に従って計測される光電子の脱出深さ領域において、全元素の原子数と酸化物中の燐の原子数とを検出し、全元素の原子数を100 としたときの酸化物中の燐の原子数を指数で表示したものを、当該領域における酸化物に含まれる燐のアトミック%とした。なお、酸化物としての燐と他の燐との判別は、燐原子のX線光電子スペクトルで測定されるP=p光電子の結合エネルギーの化学シフトに基づいて行うことができる。また、この5nmの深さまでの表層領域は、固体の光電子分光に関する一般的な文献にて示される、電子の運動エネルギーと脱出深度とによって認識することができる。
【0022】
そして、上記表層領域において、酸化物として含まれる燐の量を1.5 アトミック%以下に抑制することが肝要である。なぜなら、燐の量が1.5 アトミック%をこえて増加するにつれて、ゴムとの接着速度は遅くなり、所望のゴム接着性を確保するにはゴム配合を厳密に規制する等の難しい操作が必要となり、またゴム中の水分率の影響が大きくなり、該水分の低下する冬期の製造ではゴム接着性が確保できなくなるからである。そして、燐の量を1.5 アトミック%以下にすることによって、ゴム中の水分率に関わらずに優れたゴム接着性を安定して得ることが可能になる。
【0023】
ところが、さらに氷点下数十度となるような低温環境下においても、コードとゴムとの接着を維持するには、上記のめっき表層領域における燐量の抑制によっても未だ不十分であり、更なる改善が必要であった。
【0024】
さて、ワイヤに施されためっきの厚さは、高々平均で200 nm程度であるため、めっき表面の粗さは、下地であるワイヤ周面の鉄地部分の表面粗さそのものに影響を受ける。ひいては、めっきの表面状態は、ダイスの材質や粒径、そして伸線時の滅面率の影響は勿論、伸線量にも影響されることになる。ここで、ゴムとの接着を速め、強固な接着を確保しようとして、めっき表層の燐酸量をいくら低減するように潤滑の諸条件を変更したとしても、ワイヤ周面の表面粗さが大きすぎれば、めっき表層における効果的な燐量の低減、即ち均一な低減は実現できない。その結果、見掛けの接着、すなわち室温環境での接着性は向上するが、より苛酷な環境、すなわち極低温環境での接着性は依然として改善されていない場合が多々有る。この極低温環境での接着性は、めっき下地となるワイヤ周面に、安定した物理的形状を与えて、接着阻害要因である潤滑皮膜層を完全にかつ均一に低減せしめることによって、初めて改善されるのである。
【0025】
すなわち、めっきの下地であるワイヤ周面の表面粗さを、0.15μmRa 以下、好ましくは0.11μmRa 以下に抑制することが、肝要である。なぜなら、表面粗さが0.15μmRa をこえると、めっき表層の燐量を上述のように規制した場合にも、めっき表面の燐量の変動が大きくなる結果、初期接着性つまり室温環境下での接着性は十分確保可能であるが、極低温下での接着性が所望のレベルに達し得ないからである。一方、ワイヤ周面の表面粗さを0.08μmRa 未満とするには、通常のワイヤ製造条件とは全く異なるプロセスを実施する等して、最終伸線前のパーライト変態においてパーライト粒子を超微細化する処理を行う必要があり、かような処理は量産に不適切である上、ここまで微細化を達成しなくとも所望の低温度で十分な接着性を確保できるため、下限は0.08μmRa とする。
【0026】
例えば、図1に、めっき表層5nmの領域のPの濃度分布と、該めっき下地の鉄地の表面粗さとの関係について調査した結果を示すように、鉄地の表面粗さが0.15μmRa をこえる0.18μmRa の場合は、同0.08μmRa の場合と比べて、Pの濃度がブロードであり、均質なめっき表面を確保できていないことがわかる。このように鉄地の表面粗さが大きい場合は、めっきの見掛け上(平均的)のP濃度が同じであっても実際のP濃度は広い分布を持ち、極端にPが多いところと少ないところが存在し、接着を確保できない部分が存在するため、極低温での接着試験を行うと、めっき下地が露出する結果となる。
【0027】
また、めっき層の平均厚みは0.13〜0.35μmであることが好ましい。すなわち、めっき層の平均厚みが0.13μm未満では、鉄地が露出する部分が増加し、耐疲労性が低下するばかりでなく、室温接着性も低温接着性も阻害され、一方0.35μm をこえると、ゴム物品使用中の熱によって過剰に接着反応が進行し脆弱な接着しか得られなくなるからである。
【0028】
さらに、ブラスめっき層における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70mass%であることが好ましい。すなわち、めっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60mass%未満になると、伸線性が悪化して断線による生産性が阻害されて量産することが難しくなる。一方、同70mass%をこえると、コードとゴムとが複合された後未加硫状態で放置された時に、加硫後の接着性を確保することが難しくなる。
【0029】
ワイヤの直径は0.40mm以下であることが有利である。なぜなら、0.40mmをこえると、使用したゴム物品が曲げ変形下でくり返し歪みを受けたときに、表面歪が大きくなり、座屈を引き起し易くなり、これまた耐疲労性を悪化させるからである。
【0030】
上記したワイヤは、その複数本を撚り合わせることによって、ゴム物品、中でもタイヤのカーカスやベルトの補強材に適した、スチールコードとすることができる。特に、トラック、バス用タイヤや建設車両用タイヤなどの大型タイヤのベルトに最適である。
【0031】
【実施例】
表1に示す仕様に従って製造されたスチールコードについて、JIS G3510(1992)の参考に規定されたゴム接着試験方法に準拠して、ゴム接着性の試験を、室温(RT)および−90℃の低温(LT)の下で、それぞれ行った。その結果を、表1に併記する。この接着試験で使用したゴムの配合は、表2に示すとおりである。なお、表1に示すスチールコードは、主にトラックおよびバス用タイヤのベルトコードに用いられている。
【0032】
なお、めっき層の表層領域における燐の定量は、X線光電子分光法を用いて、ワイヤの曲率の影響を受けないように20〜30μmφの分析面積にて、ワイヤのめっき表層領域に存在する原子、つまりC,Cu,Zn,O,PおよびNの原子数を計測し、C,Cu,Zn,O,PおよびNの合計原子数を100 としたときの、Pの原子数の比率を求めた。各原子の原子数は、C:C1S、O:O1S、P:P2P、Cu:Cu2p3/2 、Zn:Zn2p3/2 およびN:N1Sの光電子のカウント数を用いて、それぞれの感度係数で補正して求めた。
例えば、燐の検出原子数〔P〕は下式にて求めることができる。
[P] =Fp (P2pの感度係数)×(一定時間当たりのP2p光電子のカウント)
そして、他の原子についても同様に検出原子数を求めれば、それらの結果から燐の相対原子%を次式
P%={[P] /([Cu] +[Zn]+[C] +[O] +[N] +[P] )}×100
に従って求めることができる。
【0033】
同様に、銅の濃度についても、上記と同じ手順での定量が可能である。さらに、めっき表面から内部への銅濃度分布は、イオンエッチングを組み合わせることによって可能であり、既知の厚さのブラス箔に対するエッチング速度から実際の深さを換算することもできる。
【0034】
なお、分析前のワイヤの表面がオイル等で覆われていたり有機物で汚染されている場合には、適切な溶媒で洗浄し、さらに必要に応じて表面を改質しない程度の軽度の乾式クリーニングを施す。
【0035】
【表1】
Figure 0004497788
【0036】
【表2】
Figure 0004497788
【0037】
【発明の効果】
この発明によれば、スチールコードを構成するワイヤに施すブラスめっきの表層領域における酸化物として含まれる燐量の抑制に併せて、めっきの下地であるワイヤ周面の表面粗さを規制することによって、室温でのゴム接着性は勿論、極低温下でのゴム接着性をも確保されるから、とりわけ苛酷な環境で使用される大型タイヤのベルト補強材に適した、ワイヤを安定して提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ワイヤ周面の表面粗さとめっき表面の燐の分布との関係を示すグラフである。

Claims (6)

  1. ワイヤの周面にブラスめっきを施したスチールワイヤであって、該ブラスめっきの下地となる、ワイヤ周面の表面粗さが0.08〜0.15μmRaであり、該ブラスめっきは酸化物として燐を含み、かつブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれる燐の比率が1.5アトミック%以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤ。
  2. 請求項1において、ワイヤ周面の表面粗さが0.11μmRa 以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤ。
  3. 請求項1または2において、ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.35μmであることを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤ。
  4. 請求項1、2または3において、ワイヤの直径が0.40mm以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤ。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載のワイヤの複数本を撚り合わせて成ることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
  6. 1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスの径方向外側にベルトをそなえるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのいずれか一方または両方に、請求項1ないし4のいずれかに記載のスチールワイヤまたは請求項5に記載のスチールコードを適用したことを特徴とするタイヤ。
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