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JP4384295B2 - プラズマ処理装置 - Google Patents

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JP4384295B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本願の発明は、誘電体製の容器内で生成したプラズマを利用して基板の表面に所定の処理を施すプラズマ処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
基板に対するプラズマを利用した処理としては、プラズマエッチングやプラズマCVD(化学的気相成長)等を始めとして各種の処理が知られている。このうち、ある種の処理では、誘電体で形成されたプラズマ生成容器内でプラズマを生成して処理に利用する装置が従来より用いられている。このようなプラズマ生成容器内にプラズマを生成する装置のうち、低圧高密度プラズマを生成できるとして最近開発されたものに、ヘリコン波プラズマを使用する装置がある。
【0003】
図7は、このような従来のプラズマ処理装置の一例としてヘリコン波プラズマを使用するプラズマ処理装置の構成を説明する正面断面概略図である。図7に示す装置は、一端が開口であり他端が閉じた閉端部となっている誘電体よりなるプラズマ生成容器2と、プラズマ生成容器2内に所定のガスを導入するガス導入系21と、導入されたガスに高周波電力を供給してプラズマを生成する電力供給系3と、排気系11を備えているとともにプラズマ生成容器2の開口を通して内部空間が連通している処理容器1と、プラズマ生成容器2の開口を通して処理容器1内に拡散するプラズマによって処理される処理容器2内の所定の位置に基板9を保持する基板ステージ13とを備えている。
【0004】
処理容器1の上部には開口(以下、上部開口)が設けられており、この上部開口とプラズマ生成容器2の開口とが連通している。プラズマ生成容器2は、石英等の誘電体で形成されており、厚さ3mm、外径100mm、高さ200mm程度の円筒状を成している。プラズマ生成容器2の一端開口の縁にはフランジ部22が設けられている。フランジ部22は、処理容器1の上部開口の縁に接続されている。フランジ部22と処理容器1の上部開口の縁とはOリング等の真空シールにより気密封止されている。尚、プラズマ生成容器2の他端は、図7に示すように半回転楕円状の閉端部となっている。ガス導入系21は、処理に必要なガスを処理容器1を経由してプラズマ生成容器2内に導入するようになっている。
【0005】
電力供給系3は、所定の高周波電力を供給する高周波電源31と、高周波電力が印加される二つの環状アンテナ32と、高周波電源31から環状アンテナ32に高周波電力を伝送する伝送線34と、二つの環状アンテナ32を繋ぐ中継ロッド35とからなっている。二つの環状アンテナ32は、プラズマ生成容器2の周囲を取り囲んだ状態であり、軸方向に並べて所定間隔で設けられている。二つの環状アンテナ32には、ヘリコン波プラズマを生じさせるため互いに逆向きの電流が流れるようになっている。
【0006】
ヘリコン波プラズマは、高密度であり比較的低い圧力で生成できるとして注目されている。ヘリコン波プラズマにおけるエネルギー伝達のメカニズムは完全には明らかになっていない。一般的には、ランダウ減衰と呼ばれる現象により高周波から電子にエネルギーが与えられるものとして考えられている。即ち、磁場により回転しながら移動する電子の速度がヘリコン波の位相速度に等しいとき、電子から見てヘリコン波は止まっているのと同様なので、電子はヘリコン波から連続的に加速されてエネルギーを吸収し、これによって高密度のプラズマが生成されるのである。
環状アンテナ32の周囲には、磁場設定手段4が設けられている。磁場設定手段4は電磁石で構成され、ヘリコン波プラズマを生成するためヘリコン波の進行方向に平行な磁場をプラズマ生成容器2内に設定するようになっている。
【0007】
次に、図7に示す従来のプラズマ処理装置の動作について説明する。まず、ガス導入系21によって導入されたガスは、処理容器1を経由してプラズマ生成容器2内に達する。高周波電源31によって高周波電力が環状アンテナ32に供給されると、プラズマ生成容器2内には、ホイスラー波と同様の右回りの円偏波となった電波が生じる。導入されたガスにこの円偏波のエネルギーが印加されると、ヘリコン波プラズマPが生成される。ヘリコン波プラズマPは、プラズマ生成容器2の一端開口及び処理容器1の上部開口を通って処理容器1内に拡散し、基板ステージ13上の基板9の処理に使用される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
プラズマ処理装置は、他の装置と同様、生産性の向上のため、処理の高速化が求められている。プラズマ処理装置において処理を高速化させるには、プラズマを形成する際の投入電力を大きくしてプラズマ密度を高くすることが有効である。また、リアクティブイオンビームエッチングのようなイオンを積極的に処理に利用する装置では、基板の表面におけるイオン電流密度を高くすることが処理の高速化に効果的であり、このためにも投入電力を大きくしてのプラズマ密度の向上が必要となっている。
しかしながら、上述した誘電体製のプラズマ生成容器を使用するプラズマ処理装置において投入電力を大きくすると、以下のような問題があることが発明者の研究により判明した。以下、この点を説明する。
【0009】
図8は、図7に示すプラズマ処理装置の基板9の表面方向(図中A−B)において高周波電力1000W投入時のイオン電流密度を示したものである。図8に示すように、1000W投入時におけるイオン電流密度は約2mA/cm2となる。イオン電流密度は大まかには投入電力に対して比例しており、従って、例えばメタル配線エッチング等の処理に必要とされる10mA/cm2のイオン電流密度を得るには、約5000Wの電力を投入する必要がある。
しかしながら、このような大きな電力を投入する時間が累積してくると、プラズマ生成容器2の内壁面が削られ、この削られたものが、図7に示す通り、プラズマ生成容器2の閉端部の内壁面に堆積物200として堆積してしまう(以下、この堆積物を「デポ物質」と呼ぶ)。そして、このデポ物質200が剥離し、処理容器1内に達することにより、パーティクルの原因となることがわかった。尚、「パーティクル」とは、基板9の処理の品質を阻害する微粒子の総称である。
【0010】
本願の発明は、このようなプラズマ処理装置における課題を解決するためになされたものであり、プラズマ密度を高くして処理の高速化が図れるようにするとともに、プラズマ生成容器閉端部内壁へのデポ物質の堆積を防ぐことでパーティクルの発生を防止することを課題としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、一端が開口であり他端が閉じた閉端部となっている誘電体よりなるプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器内に所定のガスを導入するガス導入系と、導入されたガスに高周波電力を供給してプラズマ生成容器内にプラズマを生成する電力供給系と、排気系を備えているとともにプラズマ生成容器の開口を通して内部空間が連通している処理容器と、プラズマ生成容器の開口を通して処理容器内に拡散するプラズマによって処理される処理容器内の所定の位置に基板を保持する基板ステージとを備えたプラズマ処理装置であって、
前記プラズマ生成容器内に磁場を設定する磁場設定手段が設けられており、
前記電力供給系は、前記プラズマ生成容器を取り囲んだ環状アンテナと、環状アンテナに高周波電力を印加する高周波電源とからなり、
前記環状アンテナは一つ又は軸方向に並べて複数設けられているとともに、生成されるプラズマと誘導性結合をするものであり、
前記プラズマ生成容器は半球状であり、
一つ設けられた環状アンテナ又は複数設けられた環状アンテナのうちの前記プラズマ生成容器の閉端部に最も近い環状アンテナである閉端側環状アンテナと、プラズマ生成容器の閉端部の内壁面のうちの当該一つの環状アンテナ又は閉端側環状アンテナから最も離れた点との軸方向における距離は1cm以上6cm以下であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2に記載の発明は、上記請求項1の構成において、前記環状アンテナの周囲には、前記プラズマ生成容器内に所定の磁場を印加する磁石機構が設けられており、前記電力供給系は、プラズマ生成容器内にヘリコン波を誘起してヘリコン波プラズマが生成されるよう前記ガスに電力を供給するものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3に記載の発明は、上記請求項1又は2の構成において、前記プラズマ生成容器は、前記開口の縁に設けられたフランジ部を有しており、フランジ部は前記処理容器の器壁の方向に延びており、フランジ部は当該処理容器の器壁に対して気密封止された状態で接続されているという構成を有する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、プラズマ処理装置の一例としてプラズマエッチング装置を採り上げて説明する。まず、本願発明の実施形態について図1を用いて説明する。図1は、本願発明のプラズマ処理装置の実施形態の構成を示した正面断面概略図である。
【0013】
図1に示す装置は、一端が開口であり他端が閉じた閉端部となっている誘電体よりなるプラズマ生成容器2と、プラズマ生成容器2内に所定のガスを導入するガス導入系21と、導入されたガスに高周波電力を供給してプラズマを生成する電力供給系3と、排気系11を備えているとともにプラズマ生成容器2の開口を通して内部空間が連通している処理容器1と、プラズマ生成容器2の開口を通して処理容器1内に拡散するプラズマによって処理される処理容器1内の所定の位置に基板9を保持する基板ステージ13とを備えている。
【0014】
処理容器1は、ステンレス又はアルミニウム等でできた気密な容器であり、電気的には接地されている。処理容器1には不図示のゲートバルブが備えられており、このゲートバルブを通じて基板9の搬入搬出が行われるようになっている。
処理容器1は従来と同様に上部開口を有し、プラズマ生成容器2と連通している。また、上部開口に対向した処理容器1内の位置に基板ステージ13が備えられている。基板ステージ13には、基板9に所定のバイアス電圧を印加するための高周波電源131が接続されている。この高周波電源131は、周波数13.56MHz出力300W程度のものが使用され、基板9に負の自己バイアス電圧を印加するよう構成されている。
【0015】
処理容器1の周囲には、永久磁石14が設けられている。永久磁石14は、上下方向に長い棒状のものであり、所定間隔をおいて処理容器1の周囲に複数設けられている。永久磁石14は、その処理容器1を臨む表面の磁極が隣り合う永久磁石14同士で相異なる磁極になるよう構成されている。隣り合う永久磁石14同士の間に設定される磁力線は、処理容器1の壁面を貫いて、この処理容器1の中心側に膨らんで設定される。プラズマは、この磁力線を横切る方向に拡散することが困難であるため、処理容器1の壁面方向への拡散が防がれ、この壁面でのプラズマの損失が抑制されるようになっている。
【0016】
プラズマ生成容器2の形状は、従来のものと異なっている。図1から分かる通り、この実施形態では、半球状のプラズマ生成容器2を使用している。これは、以下のような理由による。投入電力が一定である場合、より高密度のプラズマを形成するには、プラズマを形成する空間をより小さくし、投入電力の体積密度を高くすることが有効である。この実施形態では、このような考え方から、プラズマ生成容器2の高さを低くして小型化した。また、プラズマ生成容器2の内側は排気系11によって真空圧となるため、強度的に強い半球状にしている。半球状にすると、圧力差による力が均一に加わるため、強度的に強い。プラズマ生成容器2の具体的な寸法は、厚さ5mmで外径100mm程度の半球である。プラズマ生成容器2の材質は従来と同様に石英であり、同様にフランジ部22によって処理容器1の上部に気密に接続されている。
【0017】
排気系11は、処理容器1とプラズマ生成容器2とを1×10-5Torr程度まで排気可能に構成されている。排気系11は、ターボ分子ポンプ又はドライポンプ等の真空ポンプを備え、不図示の排気速度調整器が設けられている。
【0018】
ガス導入系21は、所定のガスを溜めた不図示のボンベと、ボンベと処理容器1とを繋ぐ配管211と配管211上に設けられたバルブ212や不図示の流量調整器等から構成されている。ガス導入系21は、塩素等のガスを処理容器1を経由してプラズマ生成容器2内に導入するようになっている。
【0019】
電力供給系3は、所定の高周波電力を発生させる高周波電源31と、この高周波電力が印加される環状アンテナ32及び補助アンテナ33と、環状アンテナ32及び補助アンテナ33に不図示の整合器を介して高周波電力を伝送する伝送線34と、環状アンテナ32と補助アンテナ33とを繋ぐ中継ロッド35とから主に構成されている。尚、本明細書では、プラズマ生成容器2を取り囲むアンテナを「環状アンテナ」としている。従って、図1に示すアンテナ33は図7に示すものと同様の配置であるが、「補助アンテナ」と呼んでいる。
環状アンテナ32及び補助アンテナ33は、配置位置は異なるものの、形状は同じ円環状である。環状アンテナ32及び補助アンテナ33の寸法例を示すと、断面は5mm×10mmの方形で、断面の中心で見た環の直径は108mm程度である。
【0020】
環状アンテナ32の周囲には、従来の装置と同様に電磁石で構成された磁場設定手段4が設けられている。電磁石は、環状アンテナ32と同様に基板9と中心軸が同軸上に配置されている。電磁石は、プラズマ生成容器2内での磁場の強さが100ガウス程度になるよう構成されている。
【0021】
環状アンテナ32と補助アンテナ33には、従来と同様にヘリコン波を生じさせるため互いに逆向きの電流が流れるようになっている。環状アンテナ32と補助アンテナ33との距離は、高周波の波長によって適宜決定され、この実施形態では例えば12cm程度である。
【0022】
この実施形態の装置の大きな特徴点は、環状アンテナ32とプラズマ生成容器2の閉端部の内壁面のうちの環状アンテナ32から最も離れた点との軸方向における距離(以下、アンテナ−閉端部距離)dが1cm以上6cm以下であることである。この点を以下に詳説する。
【0023】
発明者の研究によると、従来の装置においてプラズマ生成容器2の閉端部(以下、単に閉端部と略す)の内壁面にデポ物質が堆積するのは、環状アンテナ32よりも閉端部側の空間でプラズマ密度が低いためであることがわかった。具体的に説明すると、プラズマ生成容器2内では、生成されたプラズマ中のイオンによってその内壁面のスパッタが生じている。また、このスパッタと同時にスパッタにより放出された原子の内壁面への再付着とが進行している。
ここで、プラズマ密度が低いところでは、プラズマ中のイオンの数が少ないため、内壁面のスパッタよりも再付着の方が進行し、デポ物質が堆積してしまう。従って、このようなプラズマ密度の低い空間を作らないようにすれば、デポ物質の堆積は防止できると推測される。
【0024】
発明者は、このような推測のもと、プラズマ生成容器2の大きさを前述の通り半球状として小さくし、アンテナ−閉端部距離dを変えて実験を行った。この結果、アンテナ−閉端部距離dを6cm以下の短い距離にすることによってデポ物質の堆積がなくなることが見い出された。
プラズマ生成容器2の大きさが小さくなるということは、プラズマ生成の際の電力の体積密度が高くなることを意味する。また、プラズマ密度が低くなる空間が形成されないことは、この部分に存在していた電子やイオンが高プラズマ密度空間に移行することを意味する。さらに、デポ物質の堆積がないということは、堆積していたデポ物質が空間に放出されていることを意味し、放出されたデポ物質がイオン化しているものもあると推測される。このようなことから、アンテナ−閉端部距離dを6cm以下としてデポ物質の堆積を防止した構成では、プラズマ密度も従来に比べてかなり高くなっているものと推測される。
【0025】
発明者は、このような推測のもと、アンテナ−閉端部距離dを変えた際の基板9の表面におけるイオン電流密度を測定した。この結果を示すのが図2である。図2は、アンテナ−閉端部距離dを変化させた際の基板9の表面付近におけるイオン電流密度の平均値を示した図である。図2に示す結果は、図8と同様に、1000Wの投入電力の場合のデータである。
【0026】
図2に示すように、アンテナ−閉端部距離dが短くなるに従って基板9の表面でのイオン電流密度が高くなる傾向があるが、アンテナ−閉端部距離dが12cm〜7cm程度の範囲ではあまり目立ったイオン電流密度の上昇は見られない。そして、アンテナ−閉端部距離dが7cmを越えて小さくなり、6cm以下となると、イオン電流密度は急激に上昇する。
デポ物質が堆積しない下限値である6cmのアンテナ−閉端部距離dの場合、イオン電流密度の平均値は4.5mA/cm2程度である。図7に示す従来の装置のデータでは、イオン電流密度の平均値は2mA/cm2強と判断されるので、d=6cmでイオン電流密度は従来に比べてほぼ2倍になることを図2は示している。
【0027】
このように、アンテナ−閉端部距離dを6cm以下にすることによってデポ物質の堆積がなくなるとともに、イオン電流密度が高くなるのは、環状アンテナ32とプラズマとの間に誘導性結合が生じており、誘導性結合は、環状アンテナの中心から軸方向に6cm以内の空間領域で強いためであると考えられる。
即ち、誘導性結合の強い空間領域では、プラズマ中の電子の動きが非常に活発であるためイオン化効率が高く、プラズマ密度が高くなる。この誘導性結合の強い空間領域は、環状アンテナ32の中心から軸方向に6cm以内の空間領域であると考えられる。アンテナ−閉端部距離dを6cm以下にすると、この誘導性結合が強い空間領域のみを使用してプラズマが生成されることになる。このため、上述したようなプラズマ密度の飛躍的な向上が図れるものと考えられる。
【0028】
逆に、環状アンテナ32の中心から軸方向に6cm以上離れた空間領域では、誘導性結合が弱く、電子の移動量が少ない。このため、この空間領域はイオン化効率が悪く、プラズマ密度が低い。従って、アンテナ−閉端部距離dが6cmより長くなると、全体的にプラズマ密度が低下し、これが原因で基板9の表面のイオン電流密度が低下するものと考えられる。
【0029】
図2では、アンテナ−閉端部距離dを小さくすればするほどイオン電流密度が大きくなるので、dはできるだけ小さい方が良いようにも見える。しかしながら、発明者の研究によると、dを1cmよりも小さくすると、以下に示すような問題が生じてしまうことがわかった。この点を図3を用いて説明する。図3は、アンテナ−閉端部距離dを0.5cmとしたときのプラズマ生成容器2の状況を説明する断面概略図である。
【0030】
図3に示すプラズマ生成容器2では、環状アンテナ32より閉端部側の部分ではプラズマ生成空間が殆ど無く、プラズマPは環状アンテナ32の内側付近の制限された領域で生成される。環状アンテナ32の内側付近では誘導性結合の度合いは特に強く、高密度のプラズマPが形成される。そして、この高密度のプラズマPは、上方に向けて拡散することができない。
このため、プラズマ生成容器2の内壁面のうち、環状アンテナ32の内側に位置する部分が特に高い密度のプラズマPに晒され、この部分でスパッタされる速度が再付着の速度よりも非常に高くなってしまう。この結果、図3に示すように、プラズマ生成容器2の内壁面が大きく削られてしまう。この削れができることによって、プラズマ生成容器2は耐圧性等が低下して短期間に使用不能になってしまう。
【0031】
発明者の研究によると、このようなプラズマ生成容器2の削れはアンテナ−閉端部距離dが1cm未満であるときに著しくなることが判明した。つまり、アンテナ−閉端部距離dを1cm以上6cm以下にすることによって、低い圧力でイオン電流密度を高くすることができるとともにデポ物質の閉端部への堆積が防止され、さらにプラズマ生成容器2の削れも防ぐことができる。
【0032】
尚、上記説明では、環状アンテナ32は一つであったが、複数の環状アンテナ32を用いる場合もある。この場合、複数の環状アンテナ32は軸方向に並べて同軸上に配置する。この場合、上記アンテナ−閉端部距離dは、閉端部に最も近い位置の環状アンテナ(閉端側環状アンテナと呼ぶ)と閉端部との距離である。
さらに、「環状アンテナ」の概念には、プラズマ生成容器2を取り囲むように配置した螺旋状のアンテナも含まれる。この場合、螺旋状のアンテナのうちの最も閉端部に近い部分と閉端部との距離との距離が、アンテナ−閉端部距離dとなる。
【0033】
次に、この実施形態のプラズマ処理装置の動作について説明する。まず、不図示のゲートバルブを通して基板9が搬入され、基板ステージ13上に載置される。排気系11を動作させて処理容器1及びプラズマ処理装置2内を所定の圧力まで排気し、ガス導入系21により所定のガスを処理容器1内に導入する。導入されたガスは、処理容器1を経由してプラズマ処理容器2内に達する。また、並行して基板ステージ13に接続された高周波電源131を動作させる。
【0034】
この状態で電力供給系3を動作させ、環状アンテナ32及び補助アンテナ33に所定の高周波電力を印加すると、プラズマ処理容器2内には円偏波となった高周波が生じ、ヘリコン波プラズマPが生成される。このとき、プラズマ生成容器2のアンテナ−閉端部距離が1cm以上であることにより、プラズマ生成容器2の内壁面が削れることがない。また、6cm以下であることにより誘導性結合が強い範囲でプラズマが生成されるため、プラズマ生成容器2の閉端部の内壁面にデポ物質が堆積することがない。
【0035】
プラズマ生成容器2内で生成されたプラズマPは、磁場設定手段4の電磁石により設定される磁力線に導かれるようにして処理容器1内に広がる。このプラズマPにより、基板9に所定の処理が施される。具体的には、例えばプラズマエッチングを行う場合、塩素ガスを導入してプラズマを生成し、プラズマP中で発生する塩素イオンや塩素活性種の作用により基板9の表面をエッチングする。
【0036】
上記処理の際、高周波電源131によって高周波電力が基板ステージ13に印加されているので、高周波とプラズマPとの相互作用により基板9に負の自己バイアス電圧が与えられる。このため、プラズマP中の正イオンが基板9に効率よく入射し、処理がさらに効率よく行われる。特に、自己バイアス電圧による電界は基板9の表面に垂直になるので、異方性エッチングのようなイオンを基板9に垂直に入射させる必要がある場合、特に好適である。
尚、処理容器1の周囲に設けられた永久磁石14により形成される磁力線により、処理容器1の側壁へのプラズマPの拡散が抑制される。このため、側壁でのプラズマPの損失が少なくなってプラズマの利用効率が高まる他、側壁をスパッタエッチングしてしまう問題も抑制される。
【0037】
以下に、参考例について説明する。図4は、参考例のプラズマ処理装置の主要部を示す正面断面概略図である。図4に示す装置は、プラズマ生成容器2と環状アンテナ32との構成を除き、図1に示す実施形態のプラズマ処理装置と同じ構成になっている。図1に示す装置と同じ構成の説明は省略し、プラズマ生成容器2及び環状アンテナ32について説明する。
【0038】
プラズマ生成容器2は、図1に示した装置と同様に石英等の誘電体で形成されたものである。プラズマ生成容器2の形状は、図1と異なり、一端が開口であり他端が閉じられた円筒状になっている。他端の閉端部の形状は、半回転楕円状である。また、円筒の軸は基板9に対して垂直である。従って、プラズマ生成容器2の内壁面は、基板9の表面方向に対して垂直な垂直部23を有している。プラズマ生成容器2の寸法例を示すと、円筒の内径は90mm、外径100mm程度である。
環状アンテナ32は、プラズマ生成容器2の上記垂直部23の周囲を取り囲むように設けられており、アンテナ−閉端部距離が1cm以上6cm以下である。環状アンテナ32の中心軸は、プラズマ生成容器2の軸に一致している。従って、環状アンテナ32は、基板9に平行な面内で環状になっており、その面はプラズマ生成容器2の上記垂直部23に対して垂直である。
【0039】
このような参考例の構成は、上述した実施形態の欠点を解消する意義を有する。即ち、上述した実施形態のプラズマ処理装置では、デポ物質が堆積することが無くなり同じ投入電力でも高いイオン電流密度を得ることができたが、基板9の表面に施される処理がこの表面内で均一でない問題があることがわかった。図5は、この問題を発見した実験の結果を示す図であり、図1に示す装置において、基板9の表面方向(図中A−B)でのイオン電流密度を測定した結果の図である。尚、図5には、図4に示す装置において同様にイオン電流密度を測定した結果も併せて示されている。
【0040】
図5に示すように、図1に示す装置では、基板9の中央付近のイオン電流密度が周辺部に比べて非常に高くなっている。このことは、基板9の中央付近に拡散するプラズマの密度が基板9の周辺部に拡散するプラズマに比べて高くなっていることを意味する。つまり、基板9の中央部の方が周辺部に比べて処理速度が高く、処理が不均一になる。一方、図4に示す装置では、中央部のイオン電流密度は周辺部に比べてそれほど高くなく、図1に示す装置に比べてより均一な処理が行えると推測される。
【0041】
このような図1の装置における基板9の表面でのイオン電流密度の不均一性は、プラズマ生成容器2の形状が影響していると考えられる。このことについて、図6を用いて具体的に説明する。図6はプラズマ中のイオンの基板9への飛行状況を示した図であり、このうち図6(a)は図1に示す装置におけるイオンの飛行状況を、図6(b)は図4に示す装置におけるイオンの飛行状況を示している。
【0042】
プラズマ生成容器9の形状によりイオンの飛行方向が変化するのは、二つの要因が影響していると考えられる。一つは、プラズマ中のイオンがプラズマ生成容器9の内壁面で再結合した後に再びイオン化して放出される際の角度である。もう一つは、内壁面でイオンが再結合することなくそのまま跳ね返る際の角度である。
前者の点から説明すると、プラズマ中のイオンは、プラズマ生成容器2の内壁面に衝突した際に衝突によりエネルギーを消失して再結合し、中性ガス分子に戻る。この中性ガス分子は、内壁面に滞留し、この滞留している中性ガス分子201に別のイオンが衝突すると、中性ガス分子はイオンとなって放出される。この際、放出されるイオン201の角度は、スパッタリングにおけるスパッタ原子の放出角と同様にcosin則に従うと考えられる。つまり、内壁面に垂直に近い角度で放出されるものが多い。従って、図6(a)に示す通り、半球状のプラズマ生成容器2の場合、基板9の中央部分に向かって飛行するイオン201が多くなると考えられる。
また、プラズマ中のイオンがプラズマ生成容器2の内壁面に衝突した際、そのまま内壁面で跳ね返ってくるものもあると考えられる。この場合、跳ね返ったイオン201の飛行方向は、衝突が完全弾性衝突であり古典的な運動法則に従うとすると、図6(a)に示す通り、やはり基板9の中央部に多く向かうことになる。
【0043】
一方、プラズマ生成容器2が図4に示すような円筒状であり垂直部23を有する場合、中性ガス分子がイオン化しての再放出であれ、イオンの単純な跳ね返りであれ、イオン201の飛行方向は、図6(b)に示すように、図6(a)の場合に比べて基板9の中央部に向かう場合が少なくなって周辺部に向かう場合が多くなる。このため、図5に示すように、基板9の表面でのイオン電流密度がより均一になるものと考えられる。
【0044】
このように、図4に示す装置では、プラズマ生成容器2が基板9に対して垂直な部分である垂直部23を有してこの垂直部23を取り囲むようにして環状アンテナ32が設けられているため、基板9の表面におけるイオン電流密度が均一になり、より均一な処理が行える。
【0045】
この図4に示す参考例においても、環状アンテナ32は複数用いてもよく、円環状以外の他の形状の環状でもよい。この場合、少なくともプラズマ生成容器2の最も開口側に位置した環状アンテナが垂直部23を取り囲んでいればよい。また、螺旋状のアンテナを環状アンテナとして用いてもよく、この場合、螺旋状のアンテナのうち最も開口側に近い部分が垂直部23を取り囲んでいればよい。
【0046】
上述したプラズマ処理装置において、プラズマ処理の例としては、プラズマエッチングの他、プラズマCVD(化学蒸着)やプラズマアッシング等の例がある。さらに、本願発明のプラズマ処理装置は、上述したヘリコン波プラズマを生成する場合に限られず、他の高周波誘導結合プラズマでもよく、誘電体製のプラズマ生成容器とこれを取り囲む環状アンテナを使用するものであれば、他のどのようなプラズマを生成するものについても適用が可能である。
【0047】
【発明の効果】
以上説明した通り、本願の請求項1の発明によれば、アンテナ−閉端部距離を6cm以下にしているため、プラズマ生成容器内でプラズマ密度が均一になりデポ物質が堆積することがない。そして、投入電力を高くすることなく基板の表面におけるイオン電流密度を高くすることができ、処理の高速化が達成できる。また、アンテナ−閉端部距離を1cm以上にしているため、プラズマ生成容器の内壁面が著しく削れてしまうことがなく、プラズマ生成容器の使用時間を長くすることができる。プラズマ生成容器の内壁面の削れがないことから、パーティクルの発生がなくプラズマ処理の品質を向上させることができる。
また、請求項2の発明によれば、上記請求項1の効果を得ながら、低圧で高密度なヘリコン波プラズマを利用して処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本願発明のプラズマ処理装置の実施形態の構成を示した正面断面概略図である。
【図2】 アンテナ−閉端部距離dを変化させた際の基板9の表面付近におけるイオン電流密度を示した図である。
【図3】 アンテナ−閉端部距離dを0.5cmとしたときのプラズマ生成容器2の状況を説明する断面概略図である。
【図4】 参考例のプラズマ処理装置の主要部を示す正面断面概略図である。
【図5】 図1及び図4に示す装置において、基板9の表面方向(図中A−B)でのイオン電流密度を測定した結果の図である。
【図6】 プラズマ中のイオンの基板9への飛行状況を示した図であり、図6(a)は図1に示す装置におけるイオンの飛行状況を、図6(b)は図4に示す装置におけるイオンの飛行状況を示している。
【図7】 従来のプラズマ処理装置の一例としてヘリコン波プラズマを使用するプラズマ処理装置の構成を説明する正面断面概略図である。
【図8】 図7に示すプラズマ処理装置の基板9の表面方向(図中A−B)における高周波電力1000W投入時のイオン電流密度を示したものである。
【符号の説明】
1 処理容器
11 排気系
13 基板ステージ
14 永久磁石
2 プラズマ生成容器
21 ガス導入系
23 垂直部
31 高周波電源
32 環状アンテナ
33 補助アンテナ
4 磁場設定手段
9 基板

Claims (3)

  1. 一端が開口であり他端が閉じた閉端部となっている誘電体よりなるプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器内に所定のガスを導入するガス導入系と、導入されたガスに高周波電力を供給してプラズマ生成容器内にプラズマを生成する電力供給系と、排気系を備えているとともにプラズマ生成容器の開口を通して内部空間が連通している処理容器と、プラズマ生成容器の開口を通して処理容器内に拡散するプラズマによって処理される処理容器内の所定の位置に基板を保持する基板ステージとを備えたプラズマ処理装置であって、
    前記プラズマ生成容器内に磁場を設定する磁場設定手段が設けられており、
    前記電力供給系は、前記プラズマ生成容器を取り囲んだ環状アンテナと、環状アンテナに高周波電力を印加する高周波電源とからなり、
    前記環状アンテナは一つ又は軸方向に並べて複数設けられているとともに、生成されるプラズマと誘導性結合をするものであり、
    前記プラズマ生成容器は半球状であり、
    一つ設けられた環状アンテナ又は複数設けられた前記環状アンテナのうちの前記プラズマ生成容器の閉端部に最も近い環状アンテナである閉端側環状アンテナと、プラズマ生成容器の閉端部の内壁面のうちの当該一つの環状アンテナ又は閉端側環状アンテナから最も離れた点との軸方向における距離は1cm以上6cm以下であることを特徴とするプラズマ処理装置。
  2. 前記環状アンテナの周囲には、前記プラズマ生成容器内に所定の磁場を印加する磁石機構が設けられており、前記電力供給系は、プラズマ生成容器内にヘリコン波を誘起してヘリコン波プラズマが生成されるよう前記ガスに電力を供給するものであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
  3. 前記プラズマ生成容器は、前記開口の縁に設けられたフランジ部を有しており、フランジ部は前記処理容器の器壁の方向に延びており、フランジ部は当該処理容器の器壁に対して気密封止された状態で接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
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