JP4363277B2 - エンジンシステム - Google Patents
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Description
上記のベルト駆動システムでは、慣性モーメントの大きい補機が不安定な挙動を示すと、エンジンが不安定となることが分かっていた。一般に、ベルト駆動される各補機の等価慣性モーメントは、実慣性モーメントに増速比の2乗を掛けたものとなる。
回転変動を抑制する手法は、振動を抑制する理論が応用され、回転変動を振動に置き換えた場合、振動を抑制する手段としては、以下の1)、2)等が代表的な考え方である。 1)振動の原因を安定させる(動吸振器)。
2)振動の原因を取り除く(振動絶縁)。
この様に、動吸振器のような複雑な設計はなくても容易に効果が得られることから、振動絶縁を中心に検討が進められた。
Vリブドベルトでは、ベルト滑りが改善されたことにより、補機の増速比アップが可能となった。補機の増速比は、エンジンのクランクプーリと補機の駆動プーリとの外径比で決定され、補機のプーリ外径を小径化することで増速比はアップされる(一般にクランクプーリ外径は、遠心力によるベルト滑り、及びプーリ破壊を防止するため、大きくすることは避けられる。最大でもΦ190程度に抑制される)。
特に、1本のベルトで多くの補機を駆動するサーペンタイン方式が採用されると、多軸となることから、共振点が軸数分だけ増加して不安定性はさらに増大する。その結果、エンジンの回転変動が発生すると共に、ベルトのばたつきや振動を発生させる問題がVベルト採用時よりも顕著に表れている。
しかし、Vベルト時と比較して、Vリブドベルト対応のプーリでは外径が小さく設定されるため、上記の特許文献1、2に開示された方式では、バネ等の弾性体やクラッチを収納するプーリの余空間が小さくなってしまう。
また、計算機能力の発展により、従来実質検討が不可能と考えられていた4軸を超えた多軸の解析も変化点ととらえ、これを計算機を駆使し実現したことも踏まえている。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、小さな慣性モーメントでオルタネータの回転変動を吸収し、オルタネータを大型化させることなく、回転を安定化させることができ、確実に安全、且つ低コストでエンジンの安定化を達成できるエンジンシステムを提供することにある。
車両用発電機を含む複数の補機を有し、これらの補機がエンジンによりベルト駆動されるエンジンシステムであって、ベルト駆動に使用されるベルトは、複数の溝を有するVリブドベルトであり、発電機は、Vリブドベルトが掛け渡されるプーリと一体に回転する回転軸を有する回転子と、回転軸に固定される回転子鉄心の軸方向端面に取り付けられ、回転子の慣性モーメントより小さな慣性モーメントを有する動吸振器とを備え、この動吸振器は、回転子鉄心の軸方向端面に固定される円環状の内輪と、この内輪の径方向外側に配置される円環状の外輪と、内輪と外輪との間に配置される弾性体とで構成され、この弾性体は、回転方向にのみ変位可能であり、弾性体の変位に応じて内輪と外輪とが回転方向に相対変位する構成であり、且つ、外輪には、回転時に遠心風を発生するファンブレードが一体に設けられていることを特徴とする。
サーペンタイン方式で補機駆動するエンジンの各補機の軸周りの運動方程式は、下記[数1]のように立てられ、軸数分の連立方程式となる。
この回転安定性には、各補機の慣性モーメントが関連することは言うまでも無い。一般に、同一システム内で増速される駆動軸が存在する場合、増速しなかった場合と比較して、下記[数2]で表される様に、増速比の2乗倍と同等の慣性モーメントであることが知られている。
従来のVベルトでは、回転子の実慣性モーメントが大きかったため、その略1/10の設定が最適である動吸振器の付加は、スペース的に困難であったが、Vリブドベルトで増速率を増加させ、これを利用したオルタネータの最適設計を施すことで、実慣性モーメントは小型化される。これに比例して、動吸振器の慣性モーメントも小型化でき、動吸振器の構成であるバネ及びこれに関連する機構に加わる荷重を抑制することができ、耐久性に優れた発電機を提供できる。また、動吸振器のバネも小型化でき、寸法精度も緩くて済むため、低コストで達成可能である。
本発明では、回転子鉄心の軸方向端面に動吸振器を取り付けているので、回転子鉄心の軸方向端面とハウジング間の空間を有効利用でき、動吸振器を取り付けたことによる発電機の大型化を回避できる。また、仮に、動吸振器が破損しても、ハウジングで囲包されているため、破損した動吸振器が外部に飛び出すことはなく、安全な発電機を提供できる。 また、動吸振器は、ファンブレードが一体に設けられているので、このファンブレードにより、回転時に空気抵抗を発生して制動させることができるため、容易に低コストの動吸振器の減衰要素が形成される。さらに、動吸振器に冷却ファンの機能を統合できるので、別途冷却ファンを設ける必要はなく、より小型で安価な発電機を提供できる効果もある。
請求項1に記載したエンジンシステムにおいて、発電機は、「2」以上の増速比で駆動されることを特徴とする。
「2」以上の増速比としているため、要求出力が同一の場合は、発電機の体格、即ち実慣性モーメントを小型化できる。このため、動吸振器を慣性モーメントとして付加しても、発電機の耐久性を劣化させることはなく、信頼性の高い発電機を提供できる。
請求項1または2に記載したエンジンシステムにおいて、発電機は、プーリの外径がΦ59以下であることを特徴とする。
Vリブドベルト対応のプーリの場合、Φ59以下のプーリ外径では、Vベルト対応のプーリよりもプーリ内に設定可能な余空間が小さくなる。従って、この領域では、クラッチや弾性体を挿入する振動絶縁方式では十分な耐久性を確保できない。これに対し、本発明のVリブドベルト対応で動吸振器を介在させる方式では、発電トルクを伝達させる必要はなく、且つ動吸振器の慣性モーメントが小さいため、弾性体は小さくても十分耐久性を確保できる。これにより、プーリ外径がΦ59以下では、従来に対し格段の効果の差が生じる。これをベルト駆動システムに採用することで、耐久性のある安全なエンジンシステムを提供できる。
請求項1〜3に記載した何れかのエンジンシステムにおいて、複数の補機を1本のVリブドベルトによって駆動するサーペンタイン方式であることを特徴とする。
サーペンタイン方式では、1本のベルトで多くの補機類を駆動させるため、前述のように共振点が発生しやすい。その様な系に本発明である動吸振器を搭載させることにより、問題となる共振点での振動を抑制できるため、より効果的である。
請求項4に記載したエンジンシステムにおいて、エンジンシステムの挙動を示す連立運動方程式は、5次以上の固有値を有することを特徴とする。
固有値解析では、運動方程式の式数分の次数の特性方程式を解くこととなるが、4軸までの回転自由度を持つもの、すなわち4次以下の固有値を有するシステムでは、理論的な解を求めることができる。しかし、4次を超えた領域では、数値解析が必要となる。従来、この領域(4次を超えた領域)は、産業界では採用困難と考えられており、検討も成されなかったが、計算機技術の発展により、解を求めることが可能となった。
本発明では、4軸以上においても解析が可能であり、それにより、動吸振器の設計が可能で、優れた効果があることを見出した。なお、ここで、軸は、回転自由度を意味しており、例えば、従来の振動絶縁でプーリ内にダンパーを介するものでは、プーリ外輪とプーリ内輪(回転子を含む)は、別の回転挙動を取るため、2軸と数えられる。
実施例1に示すエンジンシステムは、図3に示す様に、エンジン1の周辺に配置される複数の補機2〜5を備え、これらの補機2〜5がエンジン1によりベルト駆動される。
複数の補機2〜5は、オルタネータ2、エアコン用コンプレッサ3、ウォータポンプ4、パワーステアリング用の油圧ポンプ5等であり、それぞれプーリを備えている。これらのプーリは、オートテンショナ6、及びアイドルプーリ7と共に、1本のVリブドベルト8によりエンジン1のクランクプーリに連結されて、サーペンタイン方式のベルト駆動システムを構成している。
固定子は、円環状の固定子鉄心14と、この固定子鉄心14に巻線される電機子巻線15とで構成され、回転子の回転に伴い、電機子巻線15に交流電圧が誘起される。
回転子は、プーリ16を介してエンジン1の回転動力が伝達される回転軸17と、この回転軸17に固定される回転子鉄心18(ランデル型ポールコア)と、この回転子鉄心18に巻線される界磁巻線19とで構成される。
回転軸17の反プーリ側端部には、一対のスリップリング21が設けられている。
回転子鉄心18のプーリ側端面には、回転子鉄心18と一体に回転して冷却風を発生させる冷却ファン22が固定されている。また、回転子鉄心18の反プーリ側端面には、後述する動吸振器23が取り付けられている。
ブラシ11は、回転軸17に設けられたスリップリング21に摺接して、界磁巻線19に励磁電流を供給する。
整流器12は、電機子巻線15に誘起される交流電圧を直流電圧に変換する。
電圧調整器13は、界磁巻線19に流れる電流量を増減して発電量を制御する。
動吸振器23は、回転子鉄心18の軸方向反プーリ側の端面に溶接等により固定される円環状の内輪23aと、この内輪23aの径方向外側に配置される円環状の外輪23bと、内輪23aと外輪23bとの間に圧入されるゴム等の弾性体23cとで構成される。この弾性体23cは、捩じり方向(回転方向)にのみ変位可能であり、弾性体23cの変位に応じて内輪23aと外輪23bとが回転方向に相対変位する。
また、外輪23bには、回転時に空気抵抗を発生すると共に、遠心風を発生する複数のファンブレード23dが一体に設けられている。このファンブレード23dによって発生する遠心風は、例えば、電機子巻線15を良好に冷却する冷却風として作用する。
前述の如く、ベルト駆動システムでは、軸数分の共振周波数が発生するが、本実施例では、車両で最も問題となるアイドル回転域で発生する共振を抑制させることを目的として、動吸振器23の慣性モーメントとバネ定数を設定した。
前記[数1]に記載した運動方程式より、固有値と共に固有ベクトルが求められる。詳細は省くが、この固有ベクトルを使用してモード化を実施し、問題となる共振周波数に対応したモード等価慣性モーメントJi、及びモード等価バネ定数Kiを求めることができる。結果として、JiとKiと共振周波数fiは、下記の[数3]に示される関係となっている。
図4には、本実施例のエンジンシステムにおいて、オルタネータ2の回転子に動吸振器23を使用しない場合の共振解析結果(破線グラフ)を示している。図4の縦軸は、伝達関数の大きさを示すコンプライアンスで、エンジン1のクランク軸に1Nmのトルクが入った場合のオルタネータ2の回転子の変位の大きさを示している。この特性が凸となっている部分が共振であり、42Hzの共振周波数がアイドル回転域で発生している。
これに対し、下記の[数4]に示される数式に基づき、動吸振器23の設計を施した。なお、Cdiは、動吸振器23の減衰係数である。
弾性体23cの設計は、Jdi=0.00041Kgm2 、Kdi=23.88Nm、Cdi=0.036Ns/mとなるように材料および寸法を選定している。
前述の図4に、本実施例のエンジンシステムでオルタネータ2の回転子に動吸振器23を使用した場合の共振解析結果(実線グラフ)を示す。42Hzを狙って設計された動吸振器23をオルタネータ2の回転子鉄心18に取り付けたことにより、アイドル回転域である42Hzの振動を抑制することができた。50Hz付近に新たに共振点が発生しているが、この領域はアイドル領域ではなく、車両走行中の領域であるため問題とはならない。これにより、等価慣性モーメントが最も大きいオルタネータ2の回転子の挙動が安定するため、エンジン1全体が安定化に向かい、振動の少ない快適なエンジンシステムを提供できる。
さらに、動吸振器23は、回転子鉄心18の反プーリ側端面に配置しており、元々ある余空間を使用して動吸振器23を取り付けるため、動吸振器23を使用することによってオルタネータ2が大型化することはない。
なお、上記の実施例1では、回転子鉄心18の軸方向反プーリ側の端面に動吸振器23を取り付けているが、軸方向プーリ側の端面に取り付けることもできる。
この実施例2は、図5に示す様に、動吸振器23を回転子鉄心18の軸方向両側に取り付けた一例である。この場合、慣性モーメントが回転子鉄心18の両側に分散されるため、ダンパーに掛かる負担がさらに軽減され、より耐久性に優れた安全なオルタネータ2を提供できる。なお、各バネ定数は、質量に応じて変更しておく必要がある。また、両側の動吸振器23にそれぞれファンブレード23dを設けることで、減衰要素の作り込みと同時に、冷却性も良好に確保される。
この実施例3は、図6に示す様に、動吸振器23の弾性体としてスプリング23eを使用する一例である。スプリング23eは、捩じりバネ形状としている。減衰要素は、スプリング23eが圧縮時に密着性を増すように構成し、ヒステリシス特性を利用して制動(減衰)が発生するようにしている。
本実施例では、動吸振器23が金属のみで構成されるため、耐熱性に優れ、信頼性が増す効果がある。
図7は参考例1であり、プーリ16周辺の断面図である。
この参考例1は、図7に示す様に、動吸振器23をプーリ16の内径側に取り付けた一例である。動吸振器23は、弾性体(例えばスプリング23e)と慣性モーメント部23fとで構成され、この慣性モーメント部23fがスプリング23eを介してプーリ16の内径側に動作可能に取り付けられている。
この構成によれば、プーリ16の内径側空間を利用して動吸振器23を設けることができるので、動吸振器23を取り付けたことでオルタネータ2が大型化することはなく、コンパクトなオルタネータ2を提供できる。また、従来のオルタネータに対し、プーリ16の交換だけで変更できるため、生産設備の変更を最小限に抑えることができ、低コストのオルタネータ2を提供できる。また、仮に動吸振器23が故障した場合でも、オルタネータ2の内部に何ら影響を与えることはなく、最も重要な発電機能が損なわれることがないので、信頼性の高いオルタネータ2を提供できる。
図8は参考例2であり、プーリ16周辺の断面図である。
この参考例2は、図8に示す様に、動吸振器23をプーリ16の外側でフロントハウジング9との間に形成される空間に取り付けた一例である。動吸振器23は、参考例1と同じく、弾性体(例えばスプリング23e)と慣性モーメント部23fとで構成され、この慣性モーメント部23fがスプリング23eを介して動作可能に取り付けられている。
この参考例2の構成でも、参考例1と同様に、従来のオルタネータに対し、プーリ16の交換だけで変更できるため、生産設備の変更を最小限に抑えることができる。また、動吸振器23が故障した場合でも、オルタネータ2の内部に何ら影響を与えることはなく、最も重要な発電機能が損なわれることがないので、信頼性の高いオルタネータ2を提供できる。
2 オルタネータ(車両用発電機)
8 Vリブドベルト
16 プーリ
18 回転子鉄心
23 動吸振器
23a 内輪(動吸振器)
23b 外輪(動吸振器)
23c 弾性体(動吸振器)
23d ファンブレード(翼状の空気抵抗部)
Claims (5)
- 車両用発電機を含む複数の補機を有し、これらの補機がエンジンによりベルト駆動されるエンジンシステムであって、
前記ベルト駆動に使用されるベルトは、複数の溝を有するVリブドベルトであり、
前記発電機は、前記Vリブドベルトが掛け渡されるプーリと一体に回転する回転軸を有する回転子と、
前記回転軸に固定される回転子鉄心の軸方向端面に取り付けられ、前記回転子の慣性モーメントより小さな慣性モーメントを有する動吸振器とを備え、
この動吸振器は、前記回転子鉄心の軸方向端面に固定される円環状の内輪と、この内輪の径方向外側に配置される円環状の外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置される弾性体とで構成され、この弾性体は、回転方向にのみ変位可能であり、前記弾性体の変位に応じて内輪と外輪とが回転方向に相対変位する構成であり、且つ、前記外輪には、回転時に遠心風を発生するファンブレードが一体に設けられていることを特徴とするエンジンシステム。 - 請求項1に記載したエンジンシステムにおいて、
前記発電機は、「2」以上の増速比で駆動されることを特徴とするエンジンシステム。 - 請求項1または2に記載したエンジンシステムにおいて、
前記発電機は、前記プーリの外径がΦ59以下であることを特徴とするエンジンシステム。 - 請求項1〜3に記載した何れかのエンジンシステムにおいて、
前記複数の補機を1本のVリブドベルトによって駆動するサーペンタイン方式であることを特徴とするエンジンシステム。 - 請求項4に記載したエンジンシステムにおいて、
前記エンジンシステムの挙動を示す連立運動方程式は、5次以上の固有値を有することを特徴とするエンジンシステム。
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