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JP4348673B2 - 垂直磁気記録媒体、および、その製造方法 - Google Patents

垂直磁気記録媒体、および、その製造方法 Download PDF

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JP4348673B2
JP4348673B2 JP2003070784A JP2003070784A JP4348673B2 JP 4348673 B2 JP4348673 B2 JP 4348673B2 JP 2003070784 A JP2003070784 A JP 2003070784A JP 2003070784 A JP2003070784 A JP 2003070784A JP 4348673 B2 JP4348673 B2 JP 4348673B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種磁気記録装置に搭載される垂直磁気記録媒体、および、その製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録の高密度化を実現する技術として、従来の長手磁気記録方式に代えて、記録磁化が媒体面内方向に垂直な垂直磁気記録方式が注目されつつある。垂直磁気記録媒体は主に、硬質磁性材料の磁気記録層と、磁気記録層を目的の方向に配向させるための下地層、磁気記録層の表面を保護する保護膜、そしてこの記録層への記録に用いられる磁気ヘッドが発生する磁束を集中させる役割を担う軟磁性材料の裏打ち層から構成される。軟磁性裏打ち層は、ある方が媒体の性能は高くなるが、無くても記録は可能なため、除いた構成となる場合もある。このような軟磁性裏打ち層が無いものを単層垂直磁気記録媒体、あるものを二層垂直磁気記録媒体と呼ぶ。垂直磁気記録媒体においても、長手磁気記録媒体と同様、高記録密度化の為には、高熱安定性と低ノイズ化の両立が必須である。
【0003】
従来の長手磁気記録媒体で実用化されている磁気記録層材料は、CoCrからなる合金(以下CoCrと略す)であり、これは磁気記録層成膜中の基板温度を300℃程度とすることにより結晶粒界にCrを偏析させ、各磁性結晶粒を磁気的に分離させている。その他の磁気記録層材料としては、グラニュラー磁気記録層と呼ばれる、強磁性を有する結晶粒(例えばCoやFeを含む合金)と、非磁性非金属(例えば酸化物や窒化物など)の結晶粒界からなる磁性層が提案されている。グラニュラー磁気記録層は、CoCrとは異なり、非加熱成膜でも、強磁性結晶粒と非磁性非金属の偏析構造をとる。逆にCoCrと同様な300℃程度の加熱成膜を行った場合は、強磁性粒の酸化或いは窒化、及び合金相と非磁性相の混合などが原因となり、偏析構造が崩れ、磁気特性が劣化するという特徴も持っているため、一般に加熱成膜は好ましくないとされていた。
【0004】
筆者らはこれまでに、垂直磁気記録媒体の磁気記録層にCoCrを用いた場合、長手媒体で見られたようなCrの偏析が起こりにくいという課題に対し、非加熱成膜プロセスにてグラニュラー磁気記録層を用いてその課題を克服した。つまり、垂直磁気記録媒体の磁気記録層にグラニュラー磁気記録層を適用することにより、良好な偏析構造を形成させ、その結果粒間の磁気的相互作用が小さくなるため、媒体ノイズを大幅に低減することができた。さらに、磁気記録層成膜前にガス暴露を行い、特に磁気記録層における下地層との界面付近の偏析構造を改善し、さらなる低ノイズ化・高記録密度化に成功している。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−154320号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述のグラニュラー磁気記録層を用いた垂直媒体には、膜厚10nm以下の薄い領域で、磁気記録層を薄くするに従い、結晶磁気異方性Kuが急激に低下するという課題がある。
【0007】
この原因を解析するため、垂直磁気記録媒体の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察を行った。
【0008】
図8は、垂直磁気記録媒体100の断面TEM像を示す。
【0009】
下地層2との界面から、厚さ約30nmの磁気記録層3のうち約3nm程度まで、磁気記録層3の結晶格子が不明瞭で、アモルファス状になっている領域が見られる。このような、アモルファス状、或いは格子欠陥の多い領域を初期成長層50と呼び、この初期成長層50の存在が、磁気記録層3の薄膜領域での磁気異方性(Ku)の低下の原因となっている。
【0010】
垂直磁気記録媒体100では、垂直方向に急峻なヘッド磁界で記録することが理想的であることから、磁気記録層3の膜厚は薄い方が望ましい。
【0011】
しかし、図8に示したように、結晶性が悪く磁気異方性(Ku)の小さな初期成長層50が存在する場合には、磁気記録層3の薄膜化が困難になり、これが、さらなる高記録密度化の障害となっていた。
【0012】
そこで、本発明の目的は、磁気記録層における下地層との界面付近で非晶質や格子欠陥を含む初期成長層を低減若しくは無くし、該界面から良好な結晶成長を行うことにより、磁気記録層内の偏析構造を向上させ、これにより、SNRを向上して磁気記録層の薄膜化、高密度化を図ることが可能な、垂直磁気記録媒体、および、その製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、非磁性の基体上に、少なくとも、軟磁性層、下地層、磁気記録層、保護層を順次積層してなる垂直磁気記録媒体の製造方法であって、前記基体に前記軟磁性層、前記下地層を順次形成した後、前記磁気記録層を前記下地層上に形成する前に該基体に対して基板加熱を行う工程であって、該基体の温度を100℃以上で250℃以下の範囲内のいずれかの値で加熱する工程と、前記基体加熱後、該基体をO若しくはN雰囲気中、又は、希ガスにO若しくはNを添加した混合ガス雰囲気中に暴露する工程と、前記暴露後の前記下地層上に、強磁性を有する強磁性結晶粒と、該結晶粒を取り巻く酸化物或いは窒化物の非磁性粒界とからなる前記磁気記録層を形成する工程とを具え、ここで、前記磁気記録層に含まれる前記強磁性結晶粒は、前記下地層との界面に初期成長層を発生させることなく結晶質のみからなる結晶層から構成されたことを特徴とする。
【0015】
前記下地層は、Ru或いはRuW、RuCu、RuC、RuB、又はRuCoCrを含む少なくともRuを含む合金としてもよい。
【0016】
前記下地層の直下に、NiFe、NiFeNb、NiFeB、NiFeCr、NiFeSi、又はNiFeAlを含むNi基合金であるシード層をさらに設けてもよい。
【0018】
本発明は、垂直磁気記録媒体であって、非磁性の基体上に形成された軟磁性層と、前記軟磁性層上に形成された下地層と、前記下地層上に形成された磁気記録層と、前記磁気記録層上に形成された保護層とを具え、前記磁気記録層は、強磁性を有する強磁性結晶粒と、該結晶粒を取り巻く酸化物或いは窒化物の非磁性粒界とからなり、前記磁気記録層を前記下地層上に形成する前に、前記基体に対して基板加熱を、該加熱温度が100℃以上で250℃以下の範囲内のいずれかの値で加熱し、該基体加熱後、該基体をO若しくはN雰囲気中、又は、希ガスにO若しくはNを添加した混合ガス雰囲気中に暴露することによって、前記磁気記録層に含まれる前記強磁性結晶粒は、前記下地層との界面に初期成長層を発生させることなく結晶質のみからなる結晶層から構成されたことを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[第1の例]
本発明の第1の実施の形態を、図1〜図4に基づいて説明する。
(構成)
垂直磁気記録媒体100の構造について説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る垂直磁気記録媒体100の断面図を示す。
垂直磁気記録媒体100は、非磁性基体1上に、少なくとも、下地層2と、磁気記録層3(グラニュラー磁性層)と、保護膜4とが順に積層された構造を有しており、さらにその保護膜4上には液体潤滑材層5が形成されている。
【0021】
非磁性基体1としては、通常の磁気記録媒体用に用いられる、NiPメッキを施したAl合金や強化ガラス、結晶化ガラス等を用いることができる。また、基板加熱温度を100℃程度とする場合は、ポリカーボネイト、ポリオレフィン等の樹脂からなるプラスチック基板を用いることもできる。
【0022】
下地層2としては、例えば、六方最密充填構造をとる金属若しくはその合金材料であるものか、又は、面心立方格子構造をとる金属若しくはその合金材料が好ましく用いられる。
【0023】
六方最密充填構造をとる金属としては、例えばTi、Zr、Ru、Zn、Tc、Re等、面心立方格子構造をとる金属としては、Cu、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ni、Co等が例として挙げられる。
【0024】
例として挙げた材料の中では、Ru若しくはRuを含む合金は、後述する暴露ガスであるO若しくはNとの反応性が小さく、特に優れた効果を示す。膜厚は薄い方が好ましいが、十分に結晶成長が見られる3nm以上が好ましい。
【0025】
また、下地層2の配向性を向上させるために、下地層2の直下にシード層12を設けてもよい。このシード層12としては、非磁性でもかまわないが、二層垂直媒体とする場合は、軟磁性層の一部としての働きを担うよう軟磁気特性を示すような材料が好ましい。
【0026】
軟磁気特性を示すシード層12の例としては、NiFe、NiFeNb、NiFeB、NiFeCr、NiFeSi、NiFeAlなどのNi基合金が挙げられる。
【0027】
二層垂直磁気記録媒体とする場合には、下地層2より下層に、シード層12を設ける場合は、その下層に、磁気ヘッドが発生する磁束を集中させる役割を担う軟磁性裏打ち層11を設けることができる。
【0028】
軟磁性裏打ち層11としては、例えば、結晶のNiFe合金、センダスト(FeSiAl)合金等、微結晶のFeTaCやCoTaZr、非晶質のCo合金であるCoZrNbなどを用いることができる。
【0029】
軟磁性裏打ち層11の膜厚は、記録に使用する磁気ヘッドの構造や特性によって最適値が変化するが、おおむね10nm以上500nm以下程度であることが、生産性との兼ね合いから望ましい。
【0030】
磁気記録層3は、強磁性を有する結晶粒と、この結晶粒を取り巻く非磁性の粒界とを持つ構造からなり、その非磁性の粒界が非磁性非金属であるグラニュラー磁気記録層を用いる。
【0031】
強磁性を有する結晶としては、例えばCoPtやFePt合金、及びそれらにCr、Ni、Nb、Ta、B等の元素を添加した合金が好ましく用いられる。非磁性粒界の非磁性非金属としては、酸化物若しくは窒化物が好ましく用いられ、例えばCr、Co、Si、Al、Ti、Ta、Hf、Zr、Y、Ceの酸化物若しくは窒化物が好ましく用いられる。
【0032】
垂直磁気記録媒体100として用いるためには、強磁性の結晶粒は、膜面に対して垂直に磁気異方性を持つことが必要である。
【0033】
そして、磁気記録層3における下地層2との界面からの層として形成される初期成長層(この層は、非晶質からなる層、又は、格子欠陥を有する結晶質からなる層)を低減するために、磁気記録層3の形成前に基板加熱を行う。
【0034】
磁気記録層3の結晶成長に効果を及ぼすためには、基板温度を100℃以上とすることが必要である。ただし、加熱温度が高すぎる場合は、前記したように、逆に偏析構造を損ない、磁気特性が劣化する。従って、本発明の目的を実現するためには、加熱温度は100℃以上250℃以下とすることが必要である。なお、その基板温度範囲内での最適値は、用いる磁気記録層材料や下地層材料、プロセス等によって変化する。
【0035】
また、さらなる特性向上のために、磁気記録層3の形成直前の基体表面、すなわち下地層2の表面を、O若しくはN雰囲気中か、又は、希ガスにO或いはNを添加した混合ガス雰囲気中に暴露する方法も併用ことができる。その後、磁気記録層3を形成することにより、下地層2との界面から強磁性の結晶粒と非磁性非金属の粒界とが形成され、良好な偏析構造をもつ磁気記録層3を形成することができる。
【0036】
保護膜4は、例えばカーボンを主体とする薄膜が用いられる。
【0037】
液体潤滑材層5は、例えばパーフルオロポリエーテル系の潤滑剤を用いることができる。
【0038】
(製造方法)
次に、垂直磁気記録媒体100の製造方法について説明する。
【0039】
非磁性基体1として表面が平滑な化学強化ガラス基板(例えばHOYA社製N−5ガラス基板)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入し、密着層としてTaターゲットを用いてArガス圧5mTorr下でTaを5nm形成した後、非磁性のNi基合金であるNi57Fe15Cr28 (at%)ターゲットを用い、Arガス圧10mTorr下でNiFeCrシード層12を10nm成膜した。
【0040】
さらに、Ruターゲットを用い、Arガス圧30mTorr下でRu下地層2を20nm成膜した。
【0041】
そして、ランプヒーターを用いて、14秒間だけ基板加熱を行った。
【0042】
引き続いて、2%のOを添加したAr雰囲気中で10sec暴露した。このときのAr+Oの圧力は5mTorrで流量は60sccmとした。
【0043】
その後、91(Co74Cr10Pt16)−9(SiO)ターゲットを用いて、CoCrPt−SiO磁気記録層3をArガス圧30mTorrで、15nm成膜した。
【0044】
最後に、カーボンターゲットを用いてカーボンからなる保護膜4を7nmを成膜後、真空装置から取り出した。
【0045】
そして、パーフルオロポリエーテルからなる液体潤滑材層2nmをディップ法により形成し、単層垂直磁気記録媒体とした。磁気記録層の成膜にはRFマグネトロンスパッタリングを用い、それ以外の各層は全てDCマグネトロンスパッタリング法により行った。
【0046】
このような手法で、基板加熱温度のみを変化させた単層垂直磁気記録媒体についてそれぞれ作製した。
【0047】
なお、基板温度の変更は、加熱時間を一定とし、ランプヒーターの投入電力を変化させることにより行い、室温(非加熱)から350℃の範囲で行った。ここでいう基板温度は加熱後、磁気記録層3の成膜直前までの自然温度低下を考慮した、磁性層成膜直前のものである。また、磁気記録層3の成膜は5秒間で行い、この間の基板温度低下はなく、磁気記録層3の成膜中は一定に保たれていると考えてよい。
【0048】
以上述べたような構成および製造方法からわかるように、本発明はグラニュラーの磁気記録層3を形成する前に基板加熱を行う手段を提案するものである。
【0049】
この基板加熱は、100℃以上250℃以下の温度範囲の中で選ばれたある所定の温度で行い、磁気記録層3はその加熱した温度で保持された環境下で形成される。このような手法で、磁気記録層3を形成することより、偏析構造を保ったまま下地層との界面から良好な結晶成長が可能になる。すなわち、従来課題であった初期成長層50(図8参照)を低減さらには完全に除去することができるので、磁気記録層3の薄膜領域での磁気異方性の低下を防ぐことができる。
【0050】
(初期成長層)
次に、磁気記録層3の強磁性結晶粒3aにおける下地層2との界面に形成される初期成長層50について説明する。
【0051】
図2(a)〜(c)は、界面付近で成長する初期成長層50の例を原子レベル単位で表したものである。
【0052】
図2(a)は、従来の非加熱状態とされた強磁性結晶粒3a内での初期成長層50(図8参照)を示す。
【0053】
下地層2との界面には、強磁性の原子60が非晶質の状態で存在する領域Cが形成されている。この非晶質の領域C上には、格子欠陥を有する結晶質の領域Bが形成されている。
【0054】
図2(b)は、本発明に係る強磁性結晶粒3a内で初期成長層50が存在する例であり、基板を中温度(約100度〜150度程度)で加熱した場合の状態を示す。
【0055】
下地層2との界面には、非晶質の領域Cおよび格子欠陥を有する結晶質の領域Bからなる初期成長層50と、格子欠陥が無い結晶質の領域Aとが存在する。
【0056】
図2(c)は、本発明に係る強磁性結晶粒3a内に初期成長層50が存在しない例であり、基板を高温度(約200度〜250度程度)で加熱した場合の状態を示す。
【0057】
この高加熱の例では、非晶質の領域Cと、格子欠陥を有する結晶質の領域Bとは、完全に除去されている。そして、下地層2との界面に格子欠陥が無い結晶質の領域Aのみが存在し、良好な偏析構造が保たれている。
【0058】
図3は、本発明に係る図2をマクロ的に観察した場合の断面構造を示す。
【0059】
図3(a)は図2(a)の非加熱、図3(b)は図2(b)の中加熱、図3(c)は図2(c)の高加熱にそれぞ対応する。
【0060】
また、図3(d)は、250度以上で加熱した場合の例である。この加熱により、強磁性結晶粒3aの酸化や窒化が起ったり、非磁性粒界3bであった非磁性非金属材料が強磁性結晶粒3aの材料と混合したりして、偏析構造が劣化していることがわかる。
【0061】
図3中の層を形成する材料としては、1例として、強磁性結晶粒3aはCoを主成分としたCoCrPtからなり、非磁性粒界3bはSiOを主成分とすることができる。なお、Cr,Ptは、結晶粒および粒界に全面的に存在する。
【0062】
(基板加熱)
次に、初期成長層50と基板加熱との関係について説明する。
【0063】
図4は、磁気記録層3の初期成長層50における膜厚の基板加熱温度依存性を示す。
【0064】
初期成長層50の膜厚は、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて行った断面観察より求めた。
【0065】
加熱温度が100℃より小さい場合は、初期成長層50の膜厚は約3.3nmで一定であるが、加熱温度100℃以上で低減され始めた。
【0066】
初期成長層50のうち、基板温度150℃以下の場合は70〜80%をアモルファス層(図2の領域Cに相当する非晶質)が占めていたが、175〜200℃では、アモルファス層は見られず、結晶質ではあるが格子欠陥の多い層(図2の領域Bに相当する結晶質)であった。
【0067】
そして、さらに加熱温度を高めて、225℃以上では、初期成長層50の膜厚は0nmとなり、格子欠陥が全く無い結晶質(図2の領域Aに相当する結晶質)となった。
【0068】
このように、基板加熱温度を100℃以上とすることにより、初期成長層50の膜厚を低減する効果があることがわかる。
【0069】
[第2の例]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、前述した第1の例と同一部分についてはその説明を省略し、同一符号を付す。
【0070】
本例は、前述した第1の例のうち、垂直磁気記録媒体100の基板を加熱する基板温度を225℃として作製した場合の例である。
【0071】
また、磁気記録層3の膜厚15nmのものに加え、5nmおよび10nmの場合についても作製した。
【0072】
なお、磁気記録層3の膜厚の変化は成膜速度を一定とし、時間を変化させて行ったため、成膜時間は全て5秒以下であり、第1の例と同様、成膜中の基板温度は一定に保たれている。
【0073】
(比較例1)
本発明の比較例として、ランプヒーターによる基板加熱を一切行わないこと以外は全て、上記第2の例の作製条件と同様にして単層垂直磁気記録媒体を作製した。
【0074】
(比較例2)
本発明の比較例として、基板温度を300℃とすること以外は全て、上記第2の例の作製条件と同様にして単層垂直磁気記録媒体を作製した。
【0075】
表1は、実施例2及び比較例1〜2の単層垂直磁気記録媒体における、保磁力Hc、角型比Sを示す。
【0076】
なお、Hc、Sの値は、VSM(振動試料磁力計)で測定したヒステリシスループより求めた。基板温度を225℃とした実施例2では従来の非加熱プロセスである比較例1に比べ、Hcが増加し、Sも大きくなっている。
【0077】
特に、磁性層の膜厚5nmの薄膜領域での増加率が大きい。加熱温度を上げ、300℃とした比較例2では、比較例1よりも大幅にHc、Sが低下してしまう。これは、過剰な加熱により、グラニュラー構造が損われたためである。
【0078】
【表1】
Figure 0004348673
【0079】
図4に示した初期成長層50の膜厚の評価結果とも併せて考えると、本発明のように磁気記録層3としてグラニュラー磁気記録層を用いた場合は、従来のCoCr合金の場合とは異なり、比較的低い温度での基板加熱は、グラニュラー構造を損わずに、下地層2との界面での特性を改善する効果があることがわかる。
【0080】
表2は、第2の例および比較例1における、結晶の磁気異方性定数Kuおよび磁化容易軸の配向分散Δθ50の値を示す。
【0081】
磁気異方性定数Kuの値は、トルクメーターを用いて測定したトルク曲線より求めた。Δθ50の値は、X線回折装置を用いロッキングカーブ法より求めた。非加熱成膜である比較例1では、磁性層の膜厚が低下すると急激にKuが低下しており、例えば膜厚15nmから5nmとすることより、Kuは50%程度に減少する。
【0082】
一方、基板温度を225℃とした実施例2では、比較例1に比べ、各磁気記録層膜厚において、Kuが増加し、Δθ50が小さくなっている。また、膜厚15nmから5nmとしても、Kuの減少割合は25%程度である、比較例1に比べ、磁性層薄膜化に伴うKu低下の割合が明らかに小さくなっている。
【0083】
【表2】
Figure 0004348673
【0084】
以上のことからも、磁気記録層3の初期成長層50での結晶性および配向性の向上を実現できたことが確認された。
【0085】
[第3の例]
次に、本発明の第3の実施の形態を、図5〜図7に基づいて説明する。なお、前述した各例と同一部分についてはその説明を省略し、同一符号を付す。
【0086】
本例では、垂直磁気記録媒体100の基板を加熱する基板温度を200℃として作製した場合の例である。
【0087】
非磁性基体1として、表面が平滑な化学強化ガラス基板(例えばHOYA社製N−5ガラス基板)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入する。
【0088】
そして、Co86ZrNb(at%)ターゲットを用いて、Arガス圧5mTorr下CoZrNbを300nm形成する。
【0089】
その後、軟磁性のNi基合金であるNi78Fe12Nb(at%)ターゲットを用い、Arガス圧10mTorr下でNiFeNbBシード層12を20nm成膜した。
【0090】
さらに、Ruターゲットを用いて、Arガス圧30mTorr下でRu下地層2を20nm成膜した。
【0091】
そして、ランプヒーターを用いて、磁気記録層3の成膜直前の基板温度が200℃となるようにして、14秒間加熱を行った。
【0092】
引き続いて、2%のOを添加したAr雰囲気中で10sec暴露した。このときのAr+Oの圧力は5mTorrで流量は60sccmとした。
【0093】
その後、91(Co78CrPt14)−9(SiO)ターゲットを用いてCoCrPt−SiO磁気記録層3をArガス圧30mTorrで、10nm成膜した。
【0094】
なお、このときの成膜時間は3secであり、第1の例および第2の例と同様に、成膜中の基板温度の低下はない。
【0095】
最後に、カーボンターゲットを用いて、カーボンからなる保護膜4を7nmを成膜後、真空装置から取り出した。
【0096】
その後、パーフルオロポリエーテルからなる液体潤滑材層5を2nmだけディップ法により形成し、二層垂直磁気記録媒体とした。
【0097】
磁気記録層3の成膜にはRFスパッタリングを用い、それ以外の各層は全てDCマグネトロンスパッタリング法により行った。
【0098】
(比較例3)
本発明の比較例として、ランプヒーターによる基板加熱を一切行わないこと以外は全て、上記第3の例と同様にして、二層垂直磁気記録媒体を作製した。
【0099】
図5〜図7は、上記第3の例および比較例3の電磁変換特性評価結果について示す。
【0100】
図5は線記録密度に対する信号出力の関係、図6は線記録密度に対するノイズの関係、図7は線記録密度に対するSNR(信号対雑音比)の関係を示す。なお、電磁変換特性は、GMRヘッドを用いてスピンスタンドテスターでの測定から得た。
【0101】
200℃加熱を行った上記第3の例では、非加熱の比較例3に比べ、図5からは出力が向上し、図6からはノイズが低下していることがわかる。その結果を受けて、図7のようにSNRが向上している。
【0102】
表3は、図5〜図7に示した第3の例および比較例3における、電磁変換特性評価結果の代表値を示す。
【0103】
線記録密度300kFCIでの、信号出力、ノイズ、SNR(信号対雑音比)についてそれぞれ示す。
【0104】
【表3】
Figure 0004348673
【0105】
なお、電磁変換特性は、GMRヘッドを用いてスピンスタンドテスタでの測定から得た。
【0106】
基板温度を200℃とした第3の例では、非加熱の比較例3に比べ、出力が23%向上し、ノイズが11%低減し、SNRが19%向上している。
【0107】
先に述べた磁気特性評価結果等とも併せて考えると、初期成長層50の特性が改善した分、ノイズ・出力・SNRの全ての特性が向上したものと考えられる。線記録密度300kFCI以上でもこの大小関係は変わらず、第3の例では高記録密度領域でも高SNRを得ることができた。
【0108】
以上のことから、本発明により、高記録密度化が実現されたことが明らかとなった。
【0109】
以上の実施例は、NiFeCrあるいはNiFeNbBシード層、Ru下地層、CoPtCr−SiO磁気記録層3の場合を例に取ったが、その他の材料でも基板温度を最適化することにより、同様の効果をもたらすことができる。
【0110】
また、磁気記録層3の成膜前のガス暴露を行わない場合でも、基板加熱により、磁気記録層3の初期成長層50の低減効果が得られることも確認された。
【0111】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、グラニュラー磁性層からなる磁気記録層を有する垂直磁気記録媒体において、磁気記録層の形成前に100〜250℃の範囲で基板加熱を行うようにしたので、偏析構造を損わずに初期成長層の結晶性および配向性を向上させることができ、これにより、SNRが向上して磁気記録層の薄膜化が可能となり、ひいては垂直磁気記録媒体の高密度化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態および第2の実施形態である、垂直磁気記録媒体の全体構造を示す断面図である。
【図2】界面付近で成長する初期成長層の例を原子レベル単位で表した説明図である。
【図3】初期成長層が加熱温度に応じて変化する状態をマクロ的に観察した場合の断面図である。
【図4】初期成長層の膜厚の基板加熱温度依存性を示す説明図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態である、線記録密度に対する信号出力の関係を示す説明図である。
【図6】線記録密度に対するノイズの関係を示す説明図である。
【図7】線記録密度に対するSNR(信号対雑音比)の関係を示す説明図である。
【図8】垂直磁気記録媒体の断面TEM像を示す説明図である。
【符号の説明】
1 非磁性基体
2 下地層
3 磁気記録層(グラニュラー磁性層)
3a 強磁性結晶粒
3b 非磁性粒界
4 保護膜
5 液体潤滑材層
50 初期成長層
60 原子
100 垂直磁気記録媒体

Claims (4)

  1. 非磁性の基体上に、少なくとも、軟磁性層、下地層、磁気記録層、保護層を順次積層してなる垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
    前記基体に前記軟磁性層、前記下地層を順次形成した後、前記磁気記録層を前記下地層上に形成する前に該基体に対して基板加熱を行う工程であって、該基体の温度を100℃以上で250℃以下の範囲内のいずれかの値で加熱する工程と、
    前記基体加熱後、該基体をO 若しくはN 雰囲気中、又は、希ガスにO 若しくはN を添加した混合ガス雰囲気中に暴露する工程と、
    前記暴露後の前記下地層上に、強磁性を有する強磁性結晶粒と、該結晶粒を取り巻く酸化物或いは窒化物の非磁性粒界とからなる前記磁気記録層を形成する工程と
    を具え、ここで、前記磁気記録層に含まれる前記強磁性結晶粒は、前記下地層との界面に初期成長層を発生させることなく結晶質のみからなる結晶層から構成されたことを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
  2. 前記下地層は、Ru或いはRuW、RuCu、RuC、RuB、又はRuCoCrを含む少なくともRuを含む合金であることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
  3. 前記下地層の直下に、NiFe、NiFeNb、NiFeB、NiFeCr、NiFeSi、又はNiFeAlを含むNi基合金であるシード層をさらに設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
  4. 垂直磁気記録媒体であって、
    非磁性の基体上に形成された軟磁性層と、
    前記軟磁性層上に形成された下地層と、
    前記下地層上に形成された磁気記録層と、
    前記磁気記録層上に形成された保護層と
    を具え、
    前記磁気記録層は、強磁性を有する強磁性結晶粒と、該結晶粒を取り巻く酸化物或いは窒化物の非磁性粒界とからなり、
    前記磁気記録層を前記下地層上に形成する前に、前記基体に対して基板加熱を、該加熱温度が100℃以上で250℃以下の範囲内のいずれかの値で加熱し、該基体加熱後、該基体をO 若しくはN 雰囲気中、又は、希ガスにO 若しくはN を添加した混合ガス雰囲気中に暴露することによって、前記磁気記録層に含まれる前記強磁性結晶粒は、前記下地層との界面に初期成長層を発生させることなく結晶質のみからなる結晶層から構成されたことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
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