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JP4231329B2 - 乾燥ゲルを含む成形体およびその製造方法 - Google Patents

乾燥ゲルを含む成形体およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、断熱材、吸音材、触媒担体、絶縁材料、超音波等の音波の送受波器の音響整合層等に用いられる低密度の乾燥ゲルを含む成形体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
乾燥ゲルは、ゲル原料、水、溶媒、ゲル化触媒とを混合して湿潤ゲルを形成した後に、乾燥により溶媒を除くことによって得られる。しかし、乾燥の際に、細孔内に発生する毛管力によりゲルの収縮が進行する。このとき、ゲルの細孔内に存在する水酸基同士が結合することにより、収縮した状態が固定されてしまう。
【0003】
これを防ぐために、湿潤ゲルの表面を有機シリル基で修飾して疎水化することにより固液界面の接触角θを大きくして、γcosθ(γは湿潤ゲル内の液体の表面張力)に比例する毛管力を低減する方法が例えば非特許文献1に開示されている。
【0004】
非特許文献1によると、金属アルコキシドであるアルコキシシランをゲル原料にして、ゾルゲル法により湿潤ゲルが形成され、アルコール置換を行うことで湿潤ゲル中に残存する水が除かれる。引き続き、疎水化は、炭化水素系溶媒中でシリル化剤を湿潤ゲルの表面に作用させて、ゲル表面に有機シリル基を導入することで行われる。乾燥は、湿潤ゲル中の炭化水素系溶媒を加熱乾燥により除くことで行われる。上記の方法によれば、水酸基が減少するため、収縮した状態が固定されることはなくなる。
【0005】
一方、特許文献1には、テトラアルコキシランの加水分解および重縮合によってアルコゲルを形成し、得られたアルコゲルをテトラアルコキシシランの溶液と接触させることによってアルコゲルのスケルトン(固体骨格)を強化できる、と記載されている。
【0006】
上記の様にして得られる低密度の乾燥ゲルからなる多孔体は、その低い密度、大きな比表面積、微細な細孔構造、低い誘電率、低い音響インピーダンスのために断熱材、吸音材、触媒担体、LSI等の層間絶縁材料、超音波の送受波器の音響整合層等に用いられる。
【0007】
例えば、断熱材としては、低密度であるために固体熱伝導が低減される。また、さらに微細な細孔構造を有するために優れた断熱性能を発揮する。また、減圧した容器内に封じ込めることにより、より高い断熱性能を発揮する。この断熱材は、例えば熱家電機器や住宅等の断熱のために用いられる。
【0008】
上記の断熱材や他の用途に用いられる場合、使用の形態としては、乾燥ゲルの粉末として容器等に充填して用いられる。さらに、粉末をバインダにより成形して用いることが取り扱い上好ましい。なお、本明細書において、「粉末」とは粒子および/または顆粒から構成されるものを広く含む。また、特に断らない限り、「粒子」は粉末の構成要素を代表して表す用語として用い、「顆粒」を含むものとする。
【0009】
上記のバインダとしては、固体のバインダまたは液体状態のバインダが用いられる。バインダとしてホットメルト接着剤のような固体バインダを用いる場合、乾燥ゲル粉末を構成する個々の粒子の表面を均一に覆い粒子同士を接着することが難しい。このため、一般的に溶剤を除くバインダ成分(ソリッドコンテンツ)が同量であれば、液体状態のバインダ(バインダ組成物)の方が固体バインダよりも強い結合力を発揮する。なお、本明細書においては、バインダと溶媒とを含むものを「バインダ組成物」ということがある。
【0010】
液体状態のバインダ組成物は、固体あるいは液体のバインダを、有機溶媒や水に溶解することで、あるいは水性エマルジョン等とすることで得られる。この液体状態のバインダ組成物を用いると、乾燥ゲル粉末が溶媒(水や有機溶媒)に対する親和性を有する場合には、溶媒が乾燥ゲル粉末の細孔内に浸入する。この場合、既に説明したように、その溶媒の浸入、乾燥の際に、ゲルの細孔内に形成される気液界面に起因する毛管力のためにゲルの収縮が進行する。従って、溶媒に対する親和性が高い低密度の乾燥ゲル粉末を液体状体のバインダにより結合させて低密度の成形体を得ることは難しい。
【0011】
この溶媒の侵入を抑制するためには、例えば乾燥ゲル粉末が疎水性を有している場合、水を溶媒とすることが好ましい。具体的には、液体状態のバインダとして、水溶性高分子の水溶液あるいは非水溶性高分子の水性エマルジョンをバインダとして用いることが好ましい。特許文献2には、疎水性の乾燥ゲル粒子の表面とバインダとの塗れ性を改善するために界面活性剤を用いることが開示されているが、得られる成形体の強度は十分ではない。
【0012】
【特許文献1】
特表平6−510268号公報
【特許文献2】
特開平10−147664号公報
【特許文献3】
特開2000−012313号公報(特に表1の実施例1、実施例2)
【特許文献4】
特許第3243107号公報(特に表1)
【非特許文献1】
ジャーナル オブ クリスタライン ソリッド 186巻、104−112頁、1995年。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の製造方法では、低密度(特に密度が500kg/m3以下)の乾燥ゲルをバインダにより結合して得られる成形体の強度が弱いという課題があった。すなわち、溶媒やバインダが乾燥ゲルの細孔内に侵入すると、乾燥ゲルの収縮や割れが発生するので、これを抑制する必要があった。
【0014】
本発明は、上記の諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、密度の低い乾燥ゲルを含む成形体の強度を向上することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の成形体の製造方法は、乾燥ゲルを含む成形体の製造方法であって、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm3/g以下である乾燥ゲル粉末を用意する工程と、バインダおよび溶媒を含むバインダ組成物を用意する工程と、前記バインダ組成物を用いて前記乾燥ゲル粉末を所定の形状に成形する工程とを包含し、そのことによって上記目的が達成される。
【0016】
ある実施形態において、前記バインダを前記乾燥ゲル粉末の細孔内に侵入させる工程を包含する。
【0017】
ある実施形態において、前記乾燥ゲル粉末は疎水性を有し、前記溶媒は有機溶媒である。
【0018】
ある実施形態において、前記乾燥ゲル粉末は親水性を有する。
【0019】
ある実施形態において、前記乾燥ゲル粉末の固体骨格は無機材料から形成されている。
【0020】
ある実施形態において、前記無機材料は酸化ケイ素を含む。
【0021】
ある実施形態において、前記乾燥ゲル粉末を製造する工程は、第1固体骨格と第1細孔とを有する第1ゲルを用意する工程と、前記第1固体骨格の少なくとも一部を分解するとともに前記第1固体骨格よりも太い第2固体骨格を形成する再構築工程と、前記再構築工程によって得られたゲルを乾燥することによって乾燥ゲルを得る工程と、前記乾燥ゲルを粉砕する工程とをさらに包含する。
【0022】
本発明の成形体は、乾燥ゲル粉末とバインダとを含む成形体であって、前記乾燥ゲル粉末の、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm3/g以下である。
【0023】
前記バインダが前記乾燥ゲル粉末の細孔内部に侵入していることが好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、乾燥ゲル粉末とバインダと溶剤とを含む組成物であって、前記乾燥ゲル粉末の、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm3/g以下であることを特徴とする。
【0025】
前記溶剤が前記乾燥ゲル粉末の細孔内部に侵入していることが好ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明による実施の形態の乾燥ゲルを含む成形体およびその製造方法を説明する。
【0027】
本発明による実施形態の乾燥ゲルを含む成形体は、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm3/g以下である乾燥ゲル粉末とバインダとを含んでいる。
【0028】
本発明が検討した結果、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm3/g以下である乾燥ゲル粉末は、溶剤がその細孔内に侵入しても毛管力による収縮や割れの発生が抑制される(この性質を「耐溶剤性」と呼ぶことがある。)。この効果は、特に低密度の乾燥ゲルに対して顕著である。これは、低密度で強度が弱いにもかかわらず、従来の乾燥ゲルよりも微細な細孔が少なく、細孔径に比例する毛管力を低減できるためである。具体的には、例えば密度が200kg/m3程度の低密度乾燥ゲルの場合、従来のものでは2nm〜40nmの細孔容積が2.5cm3/g程度であるが、本発明で用いられる乾燥ゲルでは、1cm3/g以下と小さい。また、上記乾燥ゲル粉末は、密度が50kg/m3以上500kg/m3以下と低く、2nm以上40nm以下の細孔容積が0.5cm3/g以下である場合に特に好ましい。
【0029】
上述のように微細な細孔の容積が小さい乾燥ゲル粉末を用いると、溶媒やバインダが細孔内に侵入しても乾燥ゲルの収縮や割れに起因する特性の劣化が無いので、従来よりも強度の高い成形体を得ることができる。すなわち、従来の低密度乾燥ゲルでは、溶剤やバインダが細孔に侵入することを避ける必要があったが、上述の乾燥ゲルを用いるとバインダを細孔内に積極的に侵入させ、成形体の強度を向上することができる。成形体の強度が向上する要因は、バインダが成形体の隅々まで行き渡ることによる成形体のバルクとしての強度の向上と、バインダが乾燥ゲルの細孔内に侵入することによるゲル粒子の強度の向上とがある。
【0030】
また、上記の乾燥ゲル粉末は、炭化水素系の疎水性溶剤だけでなく、水に代表される親水性溶剤に対しても優れた耐溶剤性を有するので、種々の溶剤を含む液状のバインダ組成物を用いることができる。
【0031】
また、乾燥ゲル粉末の固体骨格の表面が疎水性のものだけでなく、親水性のものも得られるので、溶剤の種類に応じて適宜選択することもできる。すなわち、従来は乾燥の際のゲルの収縮を抑制するためにゲルの固体骨格の表面を疎水性とし、且つ、溶剤が細孔に侵入することを抑制するために親水性のバインダ組成物(水系エマルジョン)を用いる必要があったが、本発明によるとこのような制約が無く、種々の組み合わせが可能となる。
【0032】
乾燥ゲル粉末の粒径は、特に制限されるものではなく、数十ミクロンメーターオーダー以下の粉末であってもよい。材質は特に制限されず、無機系のゲル、有機系のゲルが用いられる。有機材料であればフェノール系,メラミン系,アミド系等がある。また無機材料であれば,各種の無機酸化物が適用可能で、チタン、シリコン、バナジウム、アルミ、ジルコニウム等の酸化物がある。
【0033】
これらの中でも、乾燥ゲルの主成分が、ケイ素酸化物であることが好ましい。これは、以下の理由による。ケイ素酸化物は,後の製造方法で述べるように,安価な水ガラス系ゲル原料から得られるため製造コストが低くなる。また,ケイ素のアルコキシドは,他の金属アルコキシドのより反応性が温和であるため,反応の制御が容易で,乾燥ゲルからなる多孔体もより容易に得られるためである。
【0034】
本発明で用いられるバインダは、溶媒に分散あるいは溶解した状態で用いられることが好ましい。溶媒としては、水および有機溶媒(混合溶媒を含む)が用いられ、バインダを溶解、分散するものであれば特に制限を受けない。例えば、水を溶剤とするバインダとしては、澱粉系、セルロース系、メラミン系、フェノール樹脂系、イソシアネ−ト系、レゾルシン系、酢酸ビニル樹脂エマルジョン系、アクリル樹脂エマルジョン系等がある。有機溶剤を溶剤とするバインダとしては、ケイ素樹脂(シリコーン樹脂)系、アクリル樹脂系、ビニル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、フェノール樹脂系、セルロース系等がある。これらのうち、乾燥成形時に、加熱、光照射、触媒作用により架橋構造を形成するものが、より強度の高いものが得られるので好ましい。
【0035】
本発明による実施形態の乾燥ゲルを含む成形体の製造方法は、以下の工程を含む。
【0036】
上述した、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm3/g以下である乾燥ゲル粉末を用意するとともに、バインダおよび溶媒を含むバインダ組成物を用意する。このバインダ組成物を用いて上記乾燥ゲル粉末を所定の形状に成形する。
【0037】
乾燥ゲル粉末とバインダ組成物とを混合した後、この組成物を所定の形状に成形する。例えば、乾燥ゲル粉末を含む組成物を型へ流し込む、または、塗布、印刷することにより、ブロック状または膜状の成形体を得ることができる。あるいは、乾燥ゲル粉末を所定の形状の型に充填した後で、バインダ組成物を当該型に充填(注入)してもよい。
【0038】
この後、組成物中に含まれる溶媒を乾燥することにより、乾燥ゲル粉末の細孔内にバインダが侵入し、乾燥ゲル粒子が結合された成形体が得られる。この際、溶媒を乾燥する前、あるいは乾燥する際に、バインダを光照射、あるいは熱、触媒添加により重合させることで、より強固な成形体が得られる。また、バインダは、成形体の密度を過度に上昇させないために、乾燥ゲル粉末の質量の30%程度以下にすることが好ましい。
【0039】
このようにして得られる乾燥ゲルを含む成形体は、低密度であるため、断熱材に用いられると断熱性が高く、超音波送受波器の音響整合層に用いれば、空気や各種ガスの低い音響インピーダンスへの整合が容易である。さらに、従来に比べて強度が高いために、取り扱い性に優れが、上記用途への適用が容易となる効果がある。また、水や有機溶媒との接触による収縮や割れが抑制されるため、断熱材、音響整合層、吸音材、触媒担体、絶縁材料等に適用する場合に、使用環境の制限が大幅に緩和される効果がある。
【0040】
また、上述の乾燥ゲル粉末とバインダと溶剤とを混合して得られる組成物は、典型的には、乾燥ゲルがスラリー状に分散したものである。乾燥後の成形体の密度が過度に上昇しないように、この組成物中のバインダ成分(ソリッドコンテント)は乾燥ゲルの質量に対して30質量%程度以下に調整されることが好ましい。また、乾燥ゲルの細孔の内部にバインダおよび溶剤が侵入するので、従来の疎水化された乾燥ゲル粒子を水系エマルジョンのバインダ組成物に分散する場合のように、乾燥ゲル粉末が組成物から容易に浮遊・分離することがなく、安定な組成物を得ることができるとともに、成形工程の作業性も改善される。
【0041】
(乾燥ゲル粉末)
まず、本発明による乾燥ゲルを含む成形体に好適に用いられる乾燥ゲル粉末およびその製造方法を詳細に説明する。
【0042】
以下では、本発明の効果が顕著である、密度が500kg/m3以下の乾燥ゲルを製造する方法を例示するが、本発明の製造方法を用いて500kg/m3超の密度の乾燥ゲルを製造することもできる。
【0043】
本発明の実施形態の乾燥ゲルを含む成形体の製造方法における乾燥ゲルを製造する工程は、第1固体骨格と第1細孔とを有する第1ゲルを用意する工程と、第1固体骨格の少なくとも一部を分解するとともに第1固体骨格よりも太い第2固体骨格を形成する再構築工程(第2ゲル化工程ということもある。)とを包含する。第1ゲルは公知の方法で製造したものを用いることができる。
【0044】
再構築工程は、粒径が10nm以上100nm以下の粒子を生成する再構築原料溶液(「第2ゲル原料溶液」ということもある。)に第1ゲルを接触させる工程によって実行される。
【0045】
第1ゲルを用意する工程は、公知の方法で実行することができ、例えば、第1ゲル原料と、第1触媒(ゲル化触媒)と、第1溶媒とを含む第1ゲル原料溶液からゾルゲル法によって第1湿潤ゲルを作製する工程を包含する。この工程を第1ゲル化工程と呼ぶこともある。なお、ここでは、乾燥後の密度が500kg/m3以下となる湿潤ゲルを作製する。
【0046】
再構築工程において、第1ゲルを接触させる上記再構築原料溶液(第2ゲル原料溶液)は、例えば、再構築原料(第2ゲル原料)と、再構築触媒(第2触媒)と、水と、再構築溶媒(第2溶媒)とを含む。再構築原料は第1ゲル原料と同じであってもよいし、再構築触媒は第1触媒と同じであってもよい。再構築原料溶液は、水を含むことが必要であり、再構築原料溶液中で粒径が10nm以上100nm以下の粒子が生成される溶液を用いることが好ましい。
【0047】
再構築原料溶液に接触させる第1ゲルは、湿潤ゲル(第1湿潤ゲル)であることが好ましい。ここで例示するように乾燥後の密度が500kg/m3以下となる湿潤ゲルを乾燥すると、その過程でゲルに割れが生じることがあるが、湿潤ゲルのままで再構築原料溶液に接触させると、第1ゲルが低密度のゲルであっても、密度上昇や固体骨格の崩壊による割れの発生が防止される。なお、最終的な乾燥ゲルを粉末(顆粒状を含む)の形態で利用する場合には、湿潤ゲルを乾燥した後で再構築工程に供しても良い。この場合には、第1ゲルの固体骨格の表面を疎水化しておくことが好ましい。この疎水化工程は公知の方法で実行することができる。
【0048】
この再構築工程は、1回に限らず、段階的に複数回実行してもよい。また、再構築工程によって形成された第2湿潤ゲルを、第3触媒を含む水溶液に接触させ、第2固体骨格の一部を分解するとともに、第2固体骨格の強度を高めるゲル補強工程を更に有してもよい。
【0049】
また、得られた第2固体骨格の表面を疎水化する工程をさらに包含してもよく、疎水化工程は、再構築工程の後に行ってもよいし、再構築工程と同じ工程で実行してもよい。勿論、再構築工程によって得られた第2固体骨格を有する第2湿潤ゲルを乾燥した後で、疎水化工程を実行してもよい。
【0050】
本発明の実施形態における乾燥ゲルの製造方法によって、有機溶媒等との接触による収縮および/または割れが発生し難い乾燥ゲルが得られるメカニズムの概要を説明する。
【0051】
まず、第1ゲル化工程では、相対的に密度の小さい湿潤ゲルの固体骨格(例えば、乾燥後の密度が500kg/m3以下)を形成し、再構築工程(第2ゲル化工程)では、第1ゲル化工程で構成された第1固体骨格上に、再構築原料(第2ゲル原料)となるモノマーあるいはオリゴマーを重合させて形成される微粒子を、主として重合させることで、第1固体骨格の細い部分を補強して、第1固体骨格よりも太い第2固体骨格を形成しつつ、密度の上昇が進行する。このように、一度ゲルの固体骨格を形成した後に、再度ゲル化工程を有するため、湿潤ゲルの状態での密度向上も可能となり、従来得られなかった高い密度の乾燥ゲルを得ることも可能となる。
【0052】
また、再構築工程では、上述の重合による密度上昇と並行して、第1固体骨格の分解(溶解)も進行する。すなわち、再構築原料溶液中の水と再構築触媒(第2触媒)との存在によって、第1固体骨格の加水分解が並行して起こる。そのため、第1ゲルの微細な細孔構造が消失し、第1固体骨格よりも太い第2固体骨格と粗い細孔とを有するゲル構造の再構築が促進される。
【0053】
また、本発明による実施形態の製造方法によれば、ゲル化時に進行する湿潤ゲルの収縮が抑制されるので、基体上などに乾燥ゲルを形成する場合に、割れや基体からの脱落等が低減される効果が得られる。これは以下のように説明できる。
【0054】
一般的にゲル化時には、架橋の進行に伴い、初期密度の高いゲルほど、収縮により寸法減少が生じる。ところが、本発明の実施形態の乾燥ゲルの製造方法は、第1ゲル化と再構築工程とを有するので、一定の密度のゲルを得るために必要な、第1ゲル化工程でのゲル密度を低くすることが可能となり、その結果、第1ゲル化工程における収縮を抑制することができる。
【0055】
なお、第1湿潤ゲルを作製した第1ゲル原料溶液にゲル原料を追加することなく、第1湿潤ゲルをその溶液中に一定温度で放置する従来エージング処理によっても、ゲル強度が向上することが知られている。この従来のエージング処理では、第1固体骨格の細い部分にある水酸基間で脱水縮合が進行して結合が強くなるためゲル強度が上昇すると考えられている。しかしながら、この場合、ゲル原料の補給がないため骨格を太くする効果が小さく、十分な強度の向上を得ることができない。
【0056】
また、上述の特許文献1に記載の方法では、ゲル原料が補強されるので、上述のエージング処理も強度の向上はあるものの、2〜40nmの小さな細孔の大半が残存しているため、有機溶媒との接触、乾燥による割れ、クラックを回避するのに十分な強度を得ることはできない。
【0057】
これはいずれの方法においても、最初に形成されたゲルの固体骨格(第1固体骨格)を分解することが無いので、微細な細孔がそのまま残存し、その細孔で発生する毛管力が低減されないためと考えられる。
【0058】
以下に、さらに詳しく本発明の製造方法に関する実施の形態について説明する。
【0059】
本実施形態の乾燥ゲルからなる多孔体の製造方法は、図1に示したように、第1ゲル原料溶液(第1ゲル原料、第1触媒、第1溶媒を含む)1を調製する工程S1と、第1ゲル原料溶液1から第1湿潤ゲル2を作製する工程S2と、第1湿潤ゲル2を別途調製した再構築原料溶液(再構築原料、再構築触媒、水および再構築溶媒を含む。)3に接触させる工程S3と、再構築原料溶液3中で、第1湿潤ゲル2の固体骨格よりも太い第2固体骨格を有する第2湿潤ゲル4を作製する工程S4とを含んでいる。さらに、工程S4の後に疎水化工程を実行し、疎水化された第2湿潤ゲルを乾燥することによって、有機溶媒等との接触による収縮および/または割れが発生し難い乾燥ゲルが得られる。後に説明するように、このようにして得られる乾燥ゲルは、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm3/g以下である点に特徴を有している。
【0060】
なお、本明細書において、特に断らない限り、「細孔容積」は、窒素吸着法によりBJH法を用いて算出された細孔容積であり、「比表面積」は窒素吸着法によりBET法を用いて算出された比表面積とする。
【0061】
以下で各工程を順に説明して行く。
【0062】
(第1ゲル化工程)
本実施形態では、まず、いわゆるゾルゲル法により第1湿潤ゲル1を作製する(図1のS1〜S2)。その際、第1ゲル原料に第1触媒(ゲル化触媒)を加えてゲル化を進行させる。
【0063】
本実施形態の製造方法で用いられるゲル原料としては、ゾルゲル法に用いられる一般的な原料が用いられる。例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン等の酸化物微粒子や対応するアルコキシド等がある。この中でも金属としてケイ素を含有する化合物が、入手の容易性から好ましい。また、金属アルコキシドの場合、既に述べたように、反応制御の容易性の観点からもケイ素が好ましい。例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランおよびトリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン等のケイ素アルコキシドが用いられる。
【0064】
ここで、ジアルコキシシランは単独では、ゲルを形成し難いため、他のゲル原料と混合して用いられる。さらに、これらのオリゴマーをゲル原料として用いれば、ゲル原料の沸点が下がるために、製造時の安全性が高くなる効果を奏する。その他、コロイダルシリカ、水ガラス、水ガラスから電気透析により得られるケイ酸水溶液等は価格が低いために好適に用いられる。
【0065】
ゲル化触媒としては、一般的な有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基が用いられる。有機酸として、酢酸、クエン酸など、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸など、有機塩基として、ピペリジンなど、無機塩基として、アンモニアなどがある。また、ピペリジン等のイミン系のものを用いれば細孔径が大きくなる効果があるため毛管力低減の観点からより好ましい。
【0066】
第1溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の低級アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールのモノあるいはジエーテル、アセトン等の低級ケトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等の低級エーテルのような水溶性有機溶媒が用いられる。また、第1ゲル原料の加水分解、縮重合でゲルが形成される場合には、加水分解に必要な水も添加される。
【0067】
(再構築工程)
第1ゲル化工程に引き続き、再構築工程(図1のS3〜S4)が実施される。再構築工程では、第1ゲル化工程で形成された第1湿潤ゲル2の固体骨格のいつ部を分解しながら、新たな固体骨格(第2固体骨格4)を形成する。具体的には、まず再構築工程のための再構築原料と、再構築触媒および水と、必要に応じて溶媒を添加混合することによって再構築原料溶液3を調製し(S3)、これに第1ゲル化工程で得られた第1湿潤ゲル1を浸漬させる。
【0068】
上記の再構築触媒の添加は重合を進め、新たな固体骨格の成長を加速する。また、水および再構築触媒の添加は、加水分解により第1湿潤ゲルの固体骨格を構成する微粒子の分解(溶解)を進め、第1湿潤ゲルの微細な細孔構造を崩すように作用する。さらに、この加水分解は上記の再構築触媒によっても加速される。このように、古い固体骨格(第1固体骨格)を崩す速度と、新たな固体骨格(第2固体骨格)を形成する速度が共に非常に大きいために、大幅な細孔構造の変化を伴う固体骨格の再構築が初めて可能になると考えられる。
【0069】
この様子を図2(a)および(b)を参照しながら説明する。図2(a)は第1湿潤ゲル1の第1固体構造2aを模式的に示す図であり、図2(b)は本実施形態によって得られる第2湿潤ゲル4の第2固体骨格4aを模式的に示している。これらの図2は、後述する実施例によって得られた乾燥ゲルのSEM観察結果に基づいている。
【0070】
図2(a)に示す第1固体骨格2aは、数nmの粒子から構成されており、2nm以上40nm以下の細孔の容積は3cm3/g〜5cm3/g程度ある。従来の乾燥ゲルの製造方法では、この湿潤ゲルを疎水化した後乾燥するわけであるが、微細な細孔が多いため上述したように、ゲルの収縮や割れを生じていた。すなわち、図2(a)に示した構造を有する乾燥ゲルを得ることは難しかった。
【0071】
これに対し、本実施形態による第2湿潤ゲル4が有する第2固体骨格4aは、第1固体骨格2aの一部が分解し、且つ、再構築原料のゲル化によって生成された微細な粒子が結合することによって、主として10nm程度から100nm程度の粒子から構成される第2固体骨格4aが形成される。このとき、2nm以上40nm以下の細孔の容積は1cm3/g以下にまで大幅に減少する。従って、再構築工程の後で、第2湿潤ゲル4を乾燥しても、ゲルの収縮や割れの発生が抑制される。また、このようにして、有機溶媒の浸入・乾燥時に収縮の原因となる微細な細孔が大幅に減少するために、有機溶媒に接触した際の、収縮、割れを抑制することが可能になる。
【0072】
具体的な実験結果を示してこの現象を説明する。
【0073】
図3(a)〜(e)は、再構築原料溶液(後述する実施例1と同一組成)に生成される粒子の粒度分布を測定した結果を示すグラフである。粒度分布の測定は、動的散乱を用いて粒子のブラウン運動によるドップラーシフトを測定することによって行った。この測定は、日機装株式会社製の粒度分布計(MICROTRAC UPA150)を用いて行った。図3(a)は溶液を調製後、1時間、(b)は5時間、(c)は10時間、(d)は24時間、(e)は48時間後の結果を示している。なお、溶液を調製後1時間までは生成される粒子の量が少なく、散乱強度が弱いので信頼性の高いデータが得られなかった。
【0074】
図3(a)〜(e)から、この再構築原料溶液では、数時間〜10時間にかけて30nm〜100nm程度の粒子が形成されていることがわかる。なお、初期の数時間では比較的大きな粒子が形成され、時間の経過につれて比較的小さな粒子が多数形成されている。これは初期には不均一な反応が起こるためと考えられる。また、一旦形成された大きな粒子が時間の経過につれて分解している可能性も考えられる。
【0075】
このような溶液に第1湿潤ゲルを浸漬すると、再構築原料溶液中に存在する30nm〜100nmの粒子のうち、反応性の高い(比表面積が大きい)比較的小さい粒子が優先的に、第1ゲルの固体骨格に縮重合する。また、これと並行して、第1固体骨格からモノマーあるいはオリゴマーが溶解する(加水分解される)ことで、固体骨格の再構成が進行する。
【0076】
種々検討した結果によると、縮重合に寄与する粒子の径は、その処理液の粒度分布に依存し、10nm〜50nm粒子が同数程度分布している場合には、再構成されたゲルは反応性の高い10nm〜20nm程度の小さい粒子でほぼ形成され、40nm〜100nmの粒子が同数程度分布している場合には、40nm〜60nm程度の相対的に小さい粒子が主に縮重合に寄与すると考えられる。従って、効率的な再構築を行うためには、再構築原料溶液として、粒径が10nm以上100nm以下の粒子を生成するゲル原料溶液を用いることが好ましいと考えられる。
【0077】
また、通常粒子が大きくなると重合等の反応性が低下し、粒子同士の結合も弱くなるが、本実施形態の製造方法によれば、10nm〜100nmの粒子は、再構築ゲル化溶液中で形成されて、直ぐに第1固体骨格上に重合する(第1固体骨格の表面に結合する)。すなわち、生成された粒子の表面が反応性(活性)に富んだ状態で第1固体骨格と反応するので、反応が速く進行する。さらに、第1固体骨格を構成する粒子間のネック部は、活性が高く変形の自由度が高いため、このネック部が特に厚くなりやすく、粒子間の結合を強化できるという効果もある。
【0078】
次に、図4(a)および(b)を参照しながら、再構築工程によって、細孔径の大きな第2湿潤ゲルが形成されていることを説明する。図4(a)は、窒素ガスを用いたBJH法によって求めた累積細孔曲線(細孔容積(cm3/g)と細孔径(細孔直径)との関係)を示すグラフであり、図4(b)は微分細孔曲線を示すグラフである。それぞれの図において、曲線CおよびDは第1湿潤ゲル(乾燥後)の累積・微分細孔曲線を示し、曲線A,BおよびEは、本実施形態による再構築工程を経た後、すなわち、第2湿潤ゲル(乾燥後)の累積・微分細孔曲線をそれぞれ示している。曲線Fは上記の特許文献1に記載されている方法で、第1湿潤ゲルの骨格を補強した湿潤ゲル(乾燥後)の累積細孔曲線を示している。
【0079】
図4(a)および(b)から明らかなように、第1湿潤ゲル(曲線CおよびD)は、2nm以上40nm以下の微細な細孔の細孔容積が3cm3/g以上であるのに対し、本実施形態の再構築工程を経ることによって、1cm3/g以下まで低減されている(曲線A、BおよびE)。特に、曲線Eの試料では0.4cm3/g以下まで低減されている。
【0080】
このように、再構築工程によって、細孔径の小さな細孔の容積が減少するのは、第1固体骨格の一部が加水分解によって崩壊しているためと考えられる。
【0081】
一方、特許文献1の方法では、細孔径が2nm以上40nm以下の細孔の細孔容積は2cm3/g以上あり、第1固体骨格の崩壊および再構築は起こっていない。
【0082】
さらに、再構築工程の処理時間を長くするか、触媒および/または水の濃度を高くすること等で、上記細孔容積を0.5cm3/g以下にまで低減することが可能である。この際、比表面積も300m2/g以下に減少する。
【0083】
これは、本発明の好ましい乾燥ゲルからなる多孔体の構成である。この場合には、有機溶媒との接触により収縮が起こらないことに加え、割れの発生も回避することが可能となる。また、再構築後の湿潤ゲルを乾燥する時に、超臨界乾燥に依らなくても、通常の加熱乾燥により、割れ、収縮のないブロック状の乾燥ゲルからなる多孔体が得られる効果がある。
【0084】
また、本実施形態で得られる乾燥ゲルは、従来の乾燥ゲルよりも残存する官能基(ゲル化に消費されなかった官能基)の量が数割程度少ない。例えば、表1に示すように、アルコキシシランを用いて第1ゲルを形成した場合、従来の乾燥ゲルに比べ、再構築工程を行った本発明による乾燥ゲルの方が残存する官能基(アルコキシ基およびシラノール基)の割合は半分になっている。なお、表1に例示した乾燥ゲルはいずれも、ジメチルジメトキシシランで疎水化処理を施したものであり、官能基を有するSiの原子数は、29Si−NMR測定によって求めた。
【0085】
【表1】
Figure 0004231329
【0086】
一般にアルコキシシランを用いて形成されたゲルは、固体骨格を形成する粒子が小さく、粒子表面にあって重合に寄与していない官能基の数が多い。本実施形態の製造方法によると、再構築ゲル原料溶液中で形成された10〜100nmの粒子が主として新たな骨格を形成する、すなわち第1ゲルの固体骨格の表面に結合するため、表面積が減少し、それに応じて表面に残された官能基も減少すると考えられる。本実施形態による乾燥ゲルをSEM観察すると、固体骨格の表面に10nm程度から数十nmの粒子の存在が確認できる。
【0087】
また、再構築触媒と水の添加濃度により、室温以下でも再構築を十分に進行させることができるので、昇温を嫌う材料や部品等使う必要がある場合に、本実施形態の製造方法は特に好ましい。
【0088】
また、再構築工程では、第1ゲル化で形成された湿潤ゲルの外部ではなく、湿潤ゲルの固体骨格上で選択的に進行することが重要である。そのためには、再構築ゲル原料が、第1湿潤ゲル内に十分に入って行くために、ゲル化に要する時間を長くすることが好ましい。あるいは、再構築ゲル原料が、短い時間で湿潤ゲル中に入って行くように、湿潤ゲルを小さな片あるいは粒子とするか、薄膜とすることが好ましい。
【0089】
既に述べたように初期に低密度ゲル骨格を形成することで、ゲル化時の収縮が小さくなるため、収縮による割れや基体からの欠落が減少し、断熱材、吸音材、絶縁材料、音響整合層等として使用される時の良好な性能が確保され、特性のばらつきも小さくなるという効果を奏する。また、多孔体の細孔径も大きくなることから、事故などで有機溶媒に接触した際、乾燥過程に生じる割れや収縮が低減され、使用時の信頼性が高くなるという効果を奏する。
【0090】
再構築工程で用いられる再構築触媒としては、第1ゲル化工程で用いられるゲル化触媒群の中のものを使用することができるが、特に、第1ゲル化工程時のゲル化触媒と同一のものである必要はない。
【0091】
また、再構築工程で用いられる再構築ゲル原料としては、第1ゲル化工程で用いられるゲル原料が用いられ、第1ゲル原料と再構築ゲル原料との関係は、特に制限を受けない。例えば、第1ゲル化工程で、ゲル原料としてアルコキシシランであるテトラエトキシシランが用いられた場合には、再構築工程では、再構築ゲル原料としてテトラエトキシシランを用いることができる他、ゲル原料が溶解する溶媒を選べば、他の金属アルコキシドや、ケイ酸水溶液等も用いることも可能である。
【0092】
この工程で用いられる溶媒は、上で述べたように再構築ゲル原料、再構築触媒が溶解すれば特に制限を受けない。
【0093】
(疎水化工程)
再構築工程に続き、疎水化工程を実施する。この工程では、再構築工程までに得られた湿潤ゲルの表面に、溶媒中に溶解した疎水化剤を反応させることで、疎水基を導入する。疎水化剤は、後述するクロロシラン等の場合は、水と反応して湿潤ゲル表面との反応性が低下するため、疎水化の前に、水溶性の溶媒により洗浄することで、あるいは水と共沸する溶媒を用いて留去することで水を除くことが好ましい。
【0094】
本発明に用いられる疎水化剤としては、反応性が高い点からシリル化剤が好ましく、例えばシラザン化合物、クロロシラン化合物、アルキルシラノール化合物およびアルキルアルコキシシラン化合物等がある。
【0095】
これらのシリル化剤は、シラザン化合物、クロロシラン化合物、アルキルアルコキシシラン化合物の場合は、直接あるいは加水分解を受けて、対応するアルキルシラノールになってからゲル表面のシラノール基と反応する。また、アルキルシラノールをシリル化剤として用いれば、そのまま表面のシラノール基と反応する。
【0096】
これらの中でも、疎水化時の反応性が高いことと入手の容易性から、クロロシラン化合物、シラザン化合物が特に好ましく、入手の容易性及び疎水化時に塩化水素、アンモニア等のガスを発生しないことからはアルキルアルコキシシランが特に好適に用いられる。
【0097】
具体的には、トリメチルクロロシラン、メチルトリクロロシランおよびジメチルジクロロシランなどのクロロシラン化合物、ヘキサメチルジシラザンなどのシラザン化合物、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシランおよびジエトキシジメチルシランなどのアルキルアルコキシシラン化合物、トリメチルシラノールおよびトリエチルシラノールなどのシラノール化合物に代表されるシリル化剤がある。これらを用いれば、湿潤ゲル表面にトリメチルシリル基などのアルキルシリル基を導入することで疎水化を進行させることができる。
【0098】
また、疎水化剤として、フッ素化されたシリル化剤を用いれば、疎水性が強くなり非常に効果的である。
【0099】
また、疎水化剤としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、エチレングリコールおよびグリセロールなどのアルコール類の他、蟻酸、酢酸、プロピオン酸およびコハク酸などのカルボン酸なども用いることができる。これらは、ゲル表面の水酸基と反応してエーテルまたはエステルを形成することで疎水化を進めるが、反応が比較的遅いため高温の条件が必要である。
【0100】
(乾燥工程)
疎水化工程に続き、乾燥工程を実施する。この工程では、疎水化工程までに得られた湿潤ゲルから溶媒を除くことにより、乾燥ゲルを得る。
【0101】
湿潤ゲルから溶媒を除く乾燥方法としては、(1)加熱乾燥法(2)超臨界乾燥法(3)凍結乾燥法の3つの方法がある。加熱乾燥法は、最も一般的簡便な乾燥法であり、溶媒を含む湿潤ゲルを加熱することで、液体状態の溶媒を気化させて除去するものであり、この乾燥によることが最も好ましい。なお、ここでいう「加熱乾燥」は、上記の加熱の程度が極端に低い場合として、加熱を行わずに放置して乾燥する自然乾燥も含むものとする。
【0102】
乾燥時に、ゲルの密度が低い場合にはゲル中の溶媒の表面張力に比例する毛管力のために、ゲルが一時的に収縮し割れを生じることがある。このため、乾燥時の溶媒は沸点での表面張力が小さい炭化水素系の溶媒が好ましく、特に安価なヘキサン、ペンタンあるいはその混合物が好ましい。一方、安全性の観点からは、イソプロパノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類、さらに水あるいは水と有機溶媒との混合溶媒からの乾燥が好ましい。本実施の形態では湿潤ゲルが、後述の超臨界乾燥法により細孔容積が0.5cm3/g以下、比表面積が300m2/g以下の乾燥ゲルを与える湿潤ゲルであれば、アルコール類、水をはじめとする多くの溶媒からの乾燥によっても割れ、収縮が抑制される。
【0103】
超臨界乾燥法は、溶媒除去時の溶媒の表面張力を下げるために、表面張力が0である超臨界流体を用いるものである。乾燥時に、溶媒は液体状態を経ずに取り除かれる。乾燥に用いられる超臨界流体として、水、アルコール、二酸化炭素等の超臨界状態があるが、最も低温で超臨界状態が得られ、しかも無害である二酸化炭素が好適に用いられる。
【0104】
具体的には、まず耐圧容器中に液化二酸化炭素を導入することで、耐圧容器中の湿潤ゲル中の溶媒を液化二酸化炭素に置換する。次に、圧力と温度を臨界点以上に上げることで超臨界状態とし、温度を保ったまま徐々に二酸化炭素を放出して乾燥を完了させる。
【0105】
凍結乾燥法は、湿潤ゲル中の溶媒を凍結させた後に、昇華により溶媒を除く乾燥方法である。液体状態を経ず、ゲル中に気液界面を生じず毛管力が働かないために乾燥時のゲルの収縮を抑制することができる。
【0106】
凍結乾燥法に用いられる溶媒は、凝固点での蒸気圧が高いものが好ましく、第3ブタノール、グリセリン、シクロヘキサン、シクロヘキサノール、パラ−キシレン、ベンゼン、フェノールなどが挙げられる。これらのなかでも、融点における蒸気圧が高いという点から、特に第3ブタノール、シクロヘキサンが好ましい。
【0107】
凍結乾燥時には、湿潤ゲル中の溶媒を、上記の凝固点での蒸気圧が高い溶媒に置換しておくことが効果的である。また、ゲル化時に用いる溶媒を、凝固点での蒸気圧が高い溶媒にしておけば、溶媒置換を省略して効率的な製造が可能となるためより好ましい。
【0108】
乾燥は、疎水化工程の後に行ってもよいし、疎水化工程の前に行ってもよい。乾燥工程を経た後で疎水化する場合は、乾燥ゲルを溶液中ではなく、疎水化剤の蒸気にさらすことで乾燥ゲル表面に疎水基を導入する。従って、使用する溶媒量が減少するという効果を奏する。
【0109】
この時使用する、疎水化剤としては、上述の疎水化剤を用いることができるが、反応性の高さからトリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等のクロロシラン化合物が最も好ましい。また、クロロシラン化合物以外の疎水化剤を用いる場合は、アンモニアや塩化水素等の気体状態で導入可能な触媒を用いることも有効である。
【0110】
また、気相で疎水化を行う場合は、溶媒や疎水化剤の沸点に制限を受けずに疎水化時の温度を高めることができる。従って、気相での疎水化は、反応を早めるために有効である。また、湿潤ゲルが薄膜や粉体であれば、疎水化剤蒸気の浸入が容易であり、薄膜の場合は溶媒量削減の効果も大きいためより好ましい。
【0111】
また、再構築工程と疎水化工程とを同時に行うことも可能である。この場合二つの工程を同時に進めるために、短時間で乾燥ゲルからなる多孔体が得られるという効果が得られる。
【0112】
再構築工程兼疎水化工程は、具体的には、第1ゲル化工程で得られた湿潤ゲルを、再構築工程で用いる再構築ゲル原料溶液と疎水化剤とを混合した処理液に浸漬することで実施する。こうすることで、ゲルの再構築と疎水化が同時に進行する。再構築原料、疎水化時の疎水化剤は、上述のものと同じものを用いることが可能である。例えば、水ガラスから電気透析により得られるケイ酸水溶液から第1ゲル化を行った後、得られた湿潤ゲルを、水溶性溶媒を用いること等により、ゲル原料であるアルコキシシランと、疎水化剤であるシラザン化合物等とを溶解させた溶液中で、再構築と疎水化とが同時に行われる。
【0113】
上記のように再構築工程と疎水化工程とを同時に行う場合、溶解性等を満たせば特にこれらのゲル原料や疎水化剤の組み合わせに制限されるものではない。また、疎水化剤として、アルキル基を有する、多官能のアルキルアルコキシシラン、クロロシラン、アルキルシラノールを用いると、アルキル基がゲル骨格の中に導入されるため、ゲルに柔軟性が付与され、脆さが改善されるという効果も奏する。このとき、ゲル骨格の中心部は堅く、周辺部は柔軟性を有した特徴的な構造を有することになる。
【0114】
上述のようにして、固体骨格の表面が疎水性を有する乾燥ゲルを得ることができる。また、上述の製造プロセスにおいて、疎水化工程を省略することによって、固体骨格の表面が親水性を有する乾燥ゲルを得ることができる。再構築工程を経た湿潤ゲルは微細な細孔が減少し、且つ固体骨格が太くなっているので、表面が親水性のままで乾燥処理(加熱乾燥を含む)を行っても、ゲルの収縮や割れの発生が抑制される。例えば、金属酸化物で固体骨格を形成する場合、固体骨格の表面が親水性の良好な乾燥ゲルを得ることができる。
【0115】
(粉砕工程)
上述のようにして得られた乾燥ゲルを公知の方法で粉砕することによって、乾燥ゲル粉末を得る。粉砕は、例えば、ブレンダー(例えば、ウォーリング社製、700S型)を用いて実行される。乾燥ゲル粉末の粒径は、特に限定されず、数十ミクロンメーターオーダー以下の粉末であってもよい。粉砕の容易性の観点からは、1μm以上100μm以下の範囲の乾燥粉末を用いることが好ましい。また、粒径の分布は幅が広い方が充填性が向上するので好ましい。
【0116】
また、粉砕工程は、第1ゲル化工程から乾燥工程までの間に行っても良い。他例えば、第1湿潤ゲルを作製しながら、あるいは、第1湿潤ゲルが作製された後、その溶液中で撹拌等によって第1湿潤ゲルを粉砕しても良い。このように、第1湿潤ゲルの段階で粉砕しておくと、後の再構築工程および/または乾燥工程における処理効率が向上するという利点が得られる。また、第1ゲル原料溶液を貧溶媒中に分散した状態で、第1ゲル化工程を行うことによって、粒子上の湿潤ゲルを得ることもできる。
【0117】
(バインダ組成物)
乾燥ゲル粉末の溶媒親和性(親水性または疎水性)によって、および/または成形体の用途によって、バインダ組成物(バインダおよび溶媒)を選択する。上記の乾燥ゲルは耐溶媒性に優れるので、種々のバインダ組成物を用いることができる。
【0118】
バインダ組成物と乾燥ゲル粉末とを混合して成形用の組成物を得る方法は、公知の方法で実行できる。例えば、乳鉢やボールミル、ホモジナイザーなどを用いて混合することができる。
【0119】
また、成形用の組成物中に補強材を混合してもよい。あるいは、補強材中に上記成形用組成物を流し込んで、補強材を含有した成形体を形成することもできる。好適に用いられる補強材としては、ハニカム構造体や、ガラス繊維もしくは鉱物繊維、有機繊維(例えば、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、ナイロン系繊維等の合成繊維の他に天然繊維)あるいは、これらの繊維からなる繊維布や不織布等の繊維集合体も使用することができる。また、ポリウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニル系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、シリコーン系等のフォームも用いることができる。
【0120】
また、成形体の表面に保護膜を形成してもよい。保護膜を形成することにより、表面の強度が上昇し、取り扱いがより容易になる効果がある。
【0121】
(疎水性乾燥ゲル粉末を含む成形体)
疎水性を有する乾燥ゲル粉末と疎水性のバインダ組成物とを用いて成形体を作製する実施形態を説明する。ここで言う疎水性を有する乾燥ゲル粉末とは、乾燥ゲル粉末を水と混ぜたときに、乾燥ゲル粉末が水に浮き、細孔内部に水が実質的に浸入しない乾燥ゲル粉末のことを意味する。このような疎水性は、上記の疎水化工程を行うことによって付与され、無機酸化物系の乾燥ゲルであれば容易に疎水性を付与することが可能である。また、有機系のゲルでも、上述した疎水化剤と反応するものであれば疎水性を付与することができる。
【0122】
乾燥ゲル粉末が疎水性を有している場合、従来の成形法では、ゲルの細孔内に成形用の組成物中の有機溶媒が浸入、乾燥する際に、ゲルの収縮が起こり、成形体の密度が上昇する。これに対し、本実施の形態では、2nm以上40nm以下の細孔に対応する細孔容積が1.0cm3/g以下と小さい乾燥ゲル粉末を用いることによって、細孔径に比例する毛管力が低減され、ゲルの収縮が抑制される。
【0123】
バインダとしては、有機溶媒に溶解するものであれば使用することができる。上述したように、ケイ素樹脂系、アクリル樹脂系、ビニル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、フェノール樹脂系、セルロース系等の一般的なバインダが使用可能である。
【0124】
また、従来の疎水性乾燥ゲルを用いた場合、ゲルが疎水性を有しているため細孔内に水は侵入しないが、有機溶媒と水との混合溶媒がゲルの細孔内に侵入することがある。水を含有した溶媒が細孔中で気液界面を生じる場合に発生する毛管力は大きく、従来の乾燥ゲルからなる成形体では収縮が顕著であるが、本発明の実施形態の乾燥ゲルを用いるとこのような場合においても成形体の収縮が抑制される。
【0125】
(親水性乾燥ゲル粉末を含む成形体)
親水性を有する乾燥ゲル粉末と親水性のバインダ組成物とを用いて成形体を作製する実施形態を説明する。ここで言う親水性を有する乾燥ゲル粉末とは、水中に乾燥ゲル粉末を投じたときに、水を吸収する乾燥ゲル粉末を指す。
【0126】
乾燥ゲル粉末が親水性を有している場合、従来の成形法では、ゲルの細孔内に成形用の組成物中の水や有機溶媒が浸入し、この侵入の際および乾燥する際に、ゲルの収縮が起こり、成形体の密度が上昇する。本実施の形態では、2nm以上40nm以下の細孔に対応する細孔容積が1.0cm3/g以下と小さい乾燥ゲル粉末を用いることによって、溶媒中に水が含まれる場合でも、細孔径に比例する毛管力が低減されてゲルの収縮が抑制される。
【0127】
また、従来の乾燥ゲルからなる成形体の製造方法では、低密度の成形体を得るためには、ゲル中への溶媒の浸入を防ぐことが必要であり、そのためには疎水性の乾燥ゲルと水系の溶媒を用いたバインダを組み合わせるしかなかった。乾燥ゲルが疎水性を有する場合は、ゲル表面には、低エネルギーの表面を形成するアルキル基などの疎水性の有機基によって覆われているため、バインダの持つ極性基との間の引力的な相互作用弱く、バインダによる結合力(接着力)が低下する。
【0128】
それに対し、本実施形態のように、乾燥ゲル粉末が親水性を有する場合は、バインダの持つ極性基との間に引力的な相互作用が強く働くため、バインダによる結合力が強くなる効果がある。さらに、乾燥ゲルの固体骨格の表面にある極性基が、バインダの持つ極性基と反応して結合を形成する場合は、より強度の高い成形体が得られる。例えば、乾燥ゲル粉末の表面に水酸基が存在し、親水性を示している場合、例えば、バインダの持つイソシアネート基、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、メトキシメチル基等と反応することによって、ウレタン結合、エーテル結合、エステル結合、メチレン結合を形成する。
【0129】
本実施形態で用いられるバインダとしては、上述したものを用いることができるが、特に水酸基等の極性基を有するバインダが好ましい。
【0130】
本実施形態で使用される乾燥ゲル粉末としては、親水性を有していれば有機、無機にかかわらず、上述の乾燥ゲル粉末を用いることができる。特に、酸化ケイ素等からなる金属酸化物系の乾燥ゲル粉末の場合、表面に多数の水酸基を有しているため、好適に使用できる。また上記金属酸化物系の乾燥ゲルの場合、バインダは、上述の様にイソシアネート基、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、メトキシメチル基を持つものの他に、シラノール基あるいは、加水分解等によってシラノール基を生じる、シラノール系、アルコキシシラン系のバインダを用いれば、シラノール基の縮合による結合の形成が容易であるため好ましい。
【0131】
また、既に述べたように、親水性を有する乾燥ゲル粉末を成形した後に、残存している水酸基に対して、疎水化剤を気相で作用させることで反応させて、疎水性を付与することも可能である。
【0132】
以下に、具体的な実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は、以下で用いた特定のゲル原料、ゲル化触媒等の原材料の種類、溶媒、バインダ等の内容に必ずしも制限されるものではない。
【0133】
【実施例】
《実施例1および比較例1》
本実施例では、疎水化した乾燥ゲル粉末と有機溶剤およびバインダとを混合した成形用組成物を作製し、これを用いて成形体を作製した。
【0134】
(1)第1ゲル化工程
まず、テトラエトキシシラン/エタノール/水/塩化水素=1/15/1/0.00078(モル比)で混合して、65℃の恒温槽に3時間に置くことにより、テトラエトキシシランの加水分解を進行させた。次に、さらに、水/NH3=2.5/0.0057(テトラエトキシシランに対するモル比)を加えて混合し、1日間50℃恒温槽中に置き、ゲル化を進行させ、湿潤ゲルを得た。この時点で、湿潤ゲルを切断し、10mm×10mm×3mmの形状とした。
【0135】
(2)再構築工程
再構築原料(第2ゲル原料)としてテトラエトキシシラン、再構築触媒(第2触媒)としてアンモニア水を用いた。ゲル化第1工程で得られた湿潤ゲルを、テトラエトキシシラン/エタノール/アンモニア水=60/35/5(体積比)で混合して得られる再構築原料溶液(第2ゲル原料溶液)に浸積して70℃恒温槽中で処理を行った。処理時間は、9時間、10.5時間、13時間、24時間の3つの場合を別々に行った。アンモニア水は0.1Nのものを用い、第2ゲル原料溶液は、湿潤ゲル体積の20倍量を使用した。
【0136】
(3)疎水化工程
再構築工程で得られた湿潤ゲルを、ゲル体積の5倍体積のイソプロピルアルコールに浸漬して2回洗浄を行った。この湿潤ゲルを、ジメチルジメトキシシラン/イソプロピルアルコール/アンモニア水=45/45/10(重量比)を混合して得られる疎水化液に40℃で1日間、混合しながら疎水化処理を行った。疎水化液としては、湿潤ゲルの体積の20倍量を使用した。
【0137】
(4)乾燥工程
最後に、疎水化されたゲルを、ゲル体積の5倍体積のイソプロピルアルコールに浸漬して2回洗浄を行った。次に、ゲルを耐圧容器の中に入れ、この容器中に液化二酸化炭素を流通させることで、ゲル内のイソプロピルアルコールを液化二酸化炭素に置換した。次に、容器内にさらに液化二酸化炭素をポンプで送り込むことにより、容器内の圧力を10MPaまで上昇させた。その後、50℃まで昇温することで容器内を超臨界状態とした。次に、温度を50℃に保ったまま、圧力をゆっくりと開放することで乾燥を完了した。
【0138】
(5)粉砕工程
得られた乾燥ゲルをブレンダー(ウォーリング社製)を用いて粉砕して粉末とした。得られた乾燥ゲル粉末の平均粒径は、25μmであった。
【0139】
得られた乾燥ゲルの密度、2nm以上40nm以下の細孔に対応する細孔容積、比表面積を測定した。密度は、重量測定と、乾燥ゲルを水に浸漬した際の浮力から体積を求めて、この値から算出した。細孔容積および比表面積は、窒素吸着法によりBJH法、BET法を適用して算出した。
【0140】
再構築工程の処理時間が、9時間、13時間、24時間の順に、密度(150kg/m3、250kg/m3、420kg/m3)、細孔容積(0.9cm3/g、0.5cm3/g、0.3cm3/g)、比表面積(390m2/g、270m2/g、180m2/g)であった。
【0141】
(6)成形体の作製
上記のプロセスで得られた乾燥ゲル粉末100gと、バインダとしてN−メトキシメチルポリアミドであるファインレジンFR−101((株)鉛市製)15gおよびメタノール200g、マレイン酸0.2gとを乳鉢を用いて混合して、スラリー状の成形用組成物を作製した。
【0142】
この組成物の1部を、底面が3cm×3cmの型に流し込み、50℃でメタノールを蒸発させて乾燥し、さらに、120℃で1時間加熱することで、上記のメトキシメチル基とアミド基との水素との間で脱メタノール反応により架橋を形成して成形体を形成した。
【0143】
得られた成形体の密度を、その質量と、形状から決まる体積とから算出した。算出された密度は、再構築工程の時間が、9時間、13時間、24時間のものが、順に140kg/m3、220kg/m3、360kg/m3であった。
【0144】
(比較例1)
比較のために、テトラエトキシシラン/エタノール/水=1/1/4(モル比)を混合して室温にてゲル化を進行させた。水は0.1Nアンモニア水の形で添加混合した。その後、実施例1と同様にして疎水化、乾燥を行った後に、粉砕して乾燥ゲル粉末を得た。但し、乾燥時には、ゲルの収縮を押さえるために、イソプロピルアルコールではなく、ゲル内の溶媒をヘキサンに置換した後、乾燥を行った。得られた乾燥ゲル粉末の密度は290kg/m3であった。
【0145】
この乾燥ゲル粉末を用いて、実施例1と同様に、成形体を作製した。得られた成形体の密度は、480kg/m3であった。
【0146】
このように、実施例1では、比較例1に比べて、使用した乾燥ゲル粉末の密度が高い場合でも、成形体の密度は、低いものが得られた。これは、比較例1では、乾燥ゲル粉末が持つ微細な細孔のために、細孔に侵入した溶媒が乾燥工程において除去される際にゲルの収縮が進行したのに対し、実施例1では、乾燥ゲル粉末が微細な細孔を僅かしか有しなしため、乾燥時の収縮が抑制されたためと考えられる。
【0147】
《実施例2および比較例2》
本実施例では、疎水化された乾燥ゲルと溶媒としての水、バインダとしてフェノール樹脂とを混合して、成形用組成物を作製し、これを用いて成形体を作製した。
【0148】
実施例1において作製した、再構築工程の処理時間が24時間の乾燥ゲル粉末100gと、バインダとしてフェノール樹脂であるフェノライトPG−580(大日本インキ化学工業(株))30gと、水200gとを乳鉢を用いて混合して、スラリー状の成形用組成物を作製した。
【0149】
この組成物の1部を、底面が3cm×3cmの型に流し込み、80℃で水を蒸発させて乾燥し、さらに、150℃で2時間加熱することで、架橋促進して成形体を形成した。
【0150】
得られた成形体の密度は、380kg/m3であった。
【0151】
(比較例2)
乾燥ゲル粉末として、テトラエトキシシラン/エタノール/水=1/3/4(モル比)を用いて湿潤ゲルを作製した以外は、比較例1と同様にして乾燥ゲル粉末を得た。乾燥ゲルの密度は、210kg/m3であった。
【0152】
上記の乾燥ゲル粉末を用いて、実施例2と同様にして、成形体を作製した。得られた、成形体の密度は、620kg/m3であった。
【0153】
このように、実施例2では、比較例2に比べて、使用した乾燥ゲルの密度が高いにもかかわらず、成形体の密度は低くなった。これは、比較例2では、乾燥ゲル粉末が有する微細な細孔に表面張力が大きい水が浸入することにより、より大きな毛管力が生じて、乾燥ゲルの収縮が進行したのに対し、実施例2では、乾燥ゲル粉末が微細細孔を僅かしか有しないため、収縮が抑制されたためと考えられる。
【0154】
《実施例3および比較例3》
本実施例では、親水性を有する乾燥ゲル粉末と有機溶剤およびバインダとを混合した成形用組成物を作製し、これを用いて成形体を作製した。
【0155】
実施例1のプロセスにおいて、再構築工程の処理を24時間行った後、疎水化工程を省略して、乾燥を行うことで得られた乾燥ゲル粉末を用いた他は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0156】
上記の乾燥ゲル粉末および成形体の密度を、質量の測定と、形状から体積を求めることにより算出した。乾燥ゲル粉末の密度は、390kg/m3、成形体の密度は、360kg/m3であった。
【0157】
(比較例3)
比較例2と同様にして、乾燥ゲル粉末を作製した。但し、乾燥工程は、ゲル内の溶媒をエタノールに置換して自然乾燥することによって行った。こうして得られた乾燥ゲル粉末の密度は370kg/m3であった。
【0158】
この乾燥ゲル粉末100gと、シリコーン系界面活性剤TSD−4522(東芝シリコーン社製)3gおよびバインダとして界面活性剤含有ウレタン系エマルジョン(ゼネカ社製、RU―40―570)を固形分として、乾燥ゲル粉末の質量の15%となるように混合してスラリー状の成形用組成物を作製した。
【0159】
この組成物を用いて、実施例3と同様にして成形体を得た。但し、成形に際しては、80℃で水を蒸発させて乾燥を行った後、90℃にて1日間放置することで成形を行った。得られた、成形体の密度は390kg/m3であった。
【0160】
また、実施例3と比較例3で得られた成形体とを互いに重ねて、両側から圧力をかけたところ、比較例3の成形体が先に変形、割れを生じた。また、両方の成形体を水に浸漬し乾燥したところ、実施例3の成形体には密度変化がなかったが、比較例3の成形体では、2割以上の密度上昇が起こった。
【0161】
このように、実施例3の成形体の強度が高いのは、乾燥ゲル粉末の外部をバインダが覆い、且つ細孔の内部にバインダが侵入していることにより、乾燥ゲル粒子間の結合および乾燥ゲル粉末そのものの強度が増大しているのに加え、乾燥ゲル粉末の固体骨格表面の水酸基とバインダの持つメチロール基との間で縮合が起こり、強固な結合が実現されているためと考えられる。
【0162】
【発明の効果】
本発明によると、従来よりも強度が向上した、乾燥ゲルを含む成形体およびその製造方法が提供される。
【0163】
本発明の成形体は、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm3/g以下である乾燥ゲル粉末を含むので、溶媒やバインダが細孔に侵入しても、ゲルの収縮や割れが発生しないので、強度の高い成形体を得ることができる。
【0164】
本発明によると、疎水性を有する乾燥ゲル粉末を用いても、親水性を有する乾燥ゲル粉末を用いても、従来よりも低密度の成形体を得ることができる。
【0165】
本発明による成形体は、低密度で従来よりも強度が高く、さらに、使用時の耐溶剤性も優れている。従って、本発明による成形体は、断熱材や音響整合層等に好適に適用され、使用環境の制限が大幅に緩和されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による実施形態の乾燥ゲルの製造方法を説明するための模式図である。
【図2】(a)本発明による実施形態の乾燥ゲルの製造方法における第1固体骨格を模式的に示す図であり、(b)は再構築工程を経て得られた第2個体骨格を模式的に示す図である。
【図3】(a)〜(e)は、再構築原料溶液(実施例1)に生成される粒子の粒度分布を測定した結果を示すグラフである。
【図4】(a)は、種々の乾燥ゲルについてBJH法によって求めた累積細孔曲線(細孔容積(cm3/g)と細孔径(細孔直径)との関係)を示すグラフであり、(b)は微分細孔曲線である。
【符号の説明】
1 第1ゲル原料溶液
2 第1湿潤ゲル
3 再構築原料溶液(第2ゲル原料溶液)
4 第2湿潤ゲル

Claims (7)

  1. 乾燥ゲルを含む成形体の製造方法であって、
    第1固体骨格と第1細孔とを有する第1ゲルを用意する工程と、
    ゲル原料溶液と再構築触媒と水とを用いて、前記第1固体骨格の少なくとも一部を分解するとともに前記第1固体骨格よりも太い第2固体骨格を形成する再構築工程と、
    前記再構築工程によって得られたゲルを乾燥することによって乾燥ゲルを得る工程と、
    前記乾燥ゲルを粉砕し、細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm 3 /g以下である乾燥ゲル粉末を用意する工程と、
    バインダおよび溶媒を含むバインダ組成物を用意する工程と、
    前記バインダ組成物を用いて前記乾燥ゲル粉末を所定の形状に成形する工程と、
    を包含し、
    前記乾燥ゲル粉末の密度が50kg/m 3 以上500kg/m 3 以下であり、前記乾燥ゲル粉末の固体骨格がチタン、シリコン、バナジウム、アルミニウム、ジルコニウムの酸化物を含む材料から形成されている、
    成形体の製造方法。
  2. 請求項1に記載の製造方法によって、製造された乾燥ゲル粉末とバインダとを含む成形体であって、前記乾燥ゲル粉末の細孔径が2nm以上40nm以下の範囲の細孔の容積が1cm 3 /g以下であり、前記乾燥ゲル粉末の密度が50kg/m 3 以上500kg/m 3 以下であり、前記乾燥ゲル粉末の固体骨格がチタン、シリコン、バナジウム、アルミニウム、ジルコニウムの酸化物を含む材料から形成されている、成形体。
  3. 前記バインダが前記乾燥ゲル粉末の細孔内部に侵入している、請求項1に記載の成形体の製造方法
  4. 前記バインダを前記乾燥ゲル粉末の細孔内に侵入させる工程を包含する、請求項に記載の成形体の製造方法。
  5. 前記乾燥ゲル粉末は疎水性を有し、前記溶媒は有機溶媒である、請求項またはに記載の成形体の製造方法。
  6. 前記乾燥ゲル粉末は親水性を有する、請求項またはに記載の成形体の製造方法。
  7. 前記再構築工程において、用いる再構築触媒は、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基である請求項1または4に記載の成形体の製造方法。
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