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JP4209182B2 - 離型剤塗布部材および定着装置 - Google Patents

離型剤塗布部材および定着装置 Download PDF

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    • B29C33/56Coatings, e.g. enameled or galvanised; Releasing, lubricating or separating agents
    • B29C33/58Applying the releasing agents

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  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Mechanical Engineering (AREA)
  • Fixing For Electrophotography (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プリンターや複写機などの定着装置(トナー定着装置)に好適に用いられる離型剤を塗布するための部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来からプリンターや複写機などの定着装置では、シリコーンオイルなどの離型剤を、加熱ロールや加圧ロールなどの定着部材に塗布し、オフセット現象を防止することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、定着装置の加熱ロールまたは加圧ロールに、空孔率が10〜40%のフッ素樹脂多孔質体を介して、特定の粘度を有するシリコーンオイルなどの離型剤を塗布する装置が開示されている。この装置は、取り扱い性の良好な低粘度の離型剤(シリコーンオイル)が使用可能であり、また、空孔率の小さなフッ素樹脂多孔質体(多孔質膜)を用いていることから、膜面へのトナーの付着が防げる、というものである。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の装置では、離型剤を長期間安定して微量に供給することが困難であり、また、離型剤塗布面であるフッ素樹脂多孔質体表面へのトナー微粒子や紙粉といった汚染物の付着が少ないとはいえ、長期間の使用によってこれら汚染物が堆積して、離型剤供給能が損なわれるといった問題があった。また、特許文献1に定めるような低空孔率のフッ素樹脂多孔質体は、均一な膜を得ることが困難であり、特許文献1には、上記範囲の中でも、比較的高空孔率のものを用いた装置が開示されているのみである。
【0005】
また、特許文献2〜6には、多孔質ポリテトラフルオロエチレンなどの多孔質体の空孔内に、離型剤であるシリコーンオイルなどとシリコーンゴムとの混合物を含有させ、これを離型剤塗布部材の表層とし、定着装置に適用する技術が開示されている。また、特許文献7には、定着装置に用いられる離型オイル塗布装置として、ポリテトラフルオロエチレン膜などの開孔にシリコーンワニスとシリコーンオイルの混合物を充填したオイル塗布量制御層を備えた装置が開示されている。
【0006】
上記の特許文献2〜7に開示の技術は、いずれも離型剤塗布量(供給量)の微量制御を達成すべく提案されたものである。これらの技術によって離型剤供給量の微量制御は、ある程度達成されているが、トナーや紙粉の付着による離型剤塗布面の汚染の問題は、未だ改善が十分ではなかった。
【0007】
他方、上記の如き離型剤塗布面の汚染の問題を回避する技術として、離型剤塗布ロールの表面をクリーニングするための部材を備えた離型剤塗布装置や定着装置も提案されている(特許文献8、9)。これらの技術によって、上記のクリーニング部材による離型剤塗布面の洗浄が可能となった。しかし、これらの技術も、上記クリーニング部材の存在により、定着装置の構造が複雑化・大型化することとなったため、これに伴う製造コストの増大や、クリーニング部材の定期的なメンテナンス・交換が必要であるなど、改善の余地を残している。
【0008】
【特許文献1】
特開昭61−103179号公報
【特許文献2】
特開昭62−178992号公報
【特許文献3】
特開平4−139477号公報
【特許文献4】
特開平7−234598号公報
【特許文献5】
特開平10−171287号公報
【特許文献6】
特開2002−202680号公報
【特許文献7】
特開2002−59051号公報
【特許文献8】
特開平8−50425号公報
【特許文献9】
特開平9−166933号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情の下でなされたものであり、その目的は、長期間に亘る使用安定性に優れ、定着装置に適用される際の省スペース化の要求にも対応し得る離型剤塗布部材と、該離型剤塗布部材を備えた定着装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の離型剤塗布部材は、離型剤保持層と、該離型剤保持層の表面の少なくとも一部に形成される表面層を構成要素に含み、且つ該表面層が、下記の(I)または(II)の多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜からなるものであるところに要旨を有するものである。
(I)空孔率が9%以下、
(II)動摩擦係数が0.015以下。
【0011】
上記多孔質PTFE膜は、上記の(I)、(II)のいずれの場合においても、以下の(III)の構造を有するものであることが好ましい。
(III)多孔質PTFE膜の表面を電子顕微鏡を用いて2000倍の倍率で写真撮影し、該写真を肉眼で観察した場合に、少なくとも一部において、該多孔質PTFE膜の骨格部分が確認できるもの。
【0012】
上記離型剤保持層としては、離型作用を有するオイルを、ゲル化剤を用いてゲル化させてなるオイル固形化物から構成されるものであるか、離型作用を有するオイルを含有する多孔質組織材から構成されるものが挙げられる。前者の場合には、ゲル化剤としてはシリコーンゴムが好適である。また、前者、後者を問わず、上記離型作用を有するオイルとしては、シリコーンオイル、変性シリコーンオイルまたはフッ素オイルが挙げられる。
【0013】
さらに、上記離型剤塗布部材が、上記のオイル固形化物から構成される離型剤保持層を備える場合では、該離型剤保持層と表面層との間に、空気保持層を有することが好ましい。この空気保持層としては、空孔率が40〜95%の延伸多孔質PTFEフィルムから構成されるものが推奨される。また、空気保持層の厚みは20〜100μmであることが望ましい。
【0014】
上記多孔質PTFE膜としては、多孔質PTFEフィルム(好ましくは延伸多孔質PTFEフィルム)に圧縮処理を施し、空孔率を低下させることで得られるものが好適である。
【0015】
上記離型剤塗布部材においては、上記表面層は、厚みが0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。また、上記離型剤塗布部材は、形状がロール状であることが推奨される。
【0016】
また、上記離型剤塗布部材では、上記表面層は、上記多孔質PTFE膜が上記離型剤保持層の表面に1回以上巻回積層されて形成されていることが好ましい。
【0017】
さらに本発明には、上記本発明の離型剤塗布部材を備えたものである定着装置も包含される。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、離型剤保持層と、該離型剤保持層の表面の少なくとも一部に形成される表面層を構成要素に含み、定着装置に好適な離型剤塗布装置において、離型剤塗布部となる該表面層を特定の構成とすることで、離型剤の微量供給を可能とし、さらにトナー微粒子や紙粉などの堆積による表面層の汚染を抑制して、定着装置に適用される際の省スペース化を達成しつつ長期間の使用安定性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
本発明の離型剤塗布部材は、上記の通り、離型剤保持層と表面層を構成要素に含むものである。その形状は、特に限定されず、本発明の離型剤塗布部材が適用される用途で要求される種々の形状を取り得るが、例えば上述の定着装置では、離型剤塗布部材を定着ロール(加熱ロール)や加圧ロールに接触させて、これらのロール表面に離型剤(離型性を有するオイル)を塗布することが一般的であるため、この離型剤塗布部材の駆動手段を別途設ける必要がない形状[断面略半円形の棒状や、断面略円形の棒状(ロール状)など]が好ましい。中でも、離型剤塗布部材の表面積を最も有効に利用できるロール状が、より好適である。離型剤塗布部材がロール状であれば、該離型剤塗布部材を定着ロールや加圧ロールの回転に従動させ得るため、全周面を離型剤塗布部とすることができる。なお、本発明の離型剤塗布部材がロール状の場合には、断面がより真円に近いことが好ましく、振れが0.6mm以下であることが推奨される。この場合には、離型剤塗布部材の周方向の位置によらず、より平均的に離型性オイルを塗布することが可能となる。上記の「振れ」は、ロール状の離型剤塗布部材をその中心軸を支持した状態で2回/分の速度で回転させた際に、幅方向の中心位置で周方向に144点測定した値の平均値である。振れの測定には、例えば、キーエンス社製のレーザー外径測定器(LS−3100)を用いることができる。
【0020】
本発明に係る離型剤保持層は、上述のオフセット現象を防止するための離型剤を保持する層である。離型剤としては、通常、離型作用を有するオイル(以下、「離型性オイル」という)が用いられる。この離型性オイルは、トナー定着の際の温度(例えば180〜200℃)に耐え得るものであることが望ましい。また、離型性オイルの粘度(25℃)は、10〜60000センチストークス(cs)であることが好ましく、100〜10000csであることがより好ましい。粘度が上記範囲を超えるオイルでは、被塗布体(定着部材)表面でのオイルのなじみが悪くなるため、被塗布体へのオイルの塗布ムラが生じ、画像ムラの原因となる。他方、粘度が上記範囲を下回るオイルでは、オイルの分子量が低くなるため、定着装置運転中に低分子量成分の揮発が起こり、これが作像装置に付着して画像不良を引き起こしてしまう。
【0021】
このような離型性オイルとしては、従来公知の各種オイルが使用できる。例えば、ジメチルシリコーンオイル、フッ素オイル、フロロシリコーンオイル、フェニルシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0022】
離型剤保持層は、(1)上記の如き離型性オイルを、ゲル化剤を用いてゲル化させてなるオイル固形化物から構成されるか、または(2)該離型性オイルを含有する多孔質組織材から構成されるものであることが好ましい。
【0023】
上記(1)の態様において、離型性オイルをゲル化させるためのゲル化剤とは、該離型性オイルを含んで、寒天状などの自己保形性を有する固形物とし得るものである。よって、上記ゲル化剤は、このような機能を有するものであれば特に限定されず、従来公知の各種の素材が使用可能である。具体的には、離型性オイル中で三次元鎖状高分子を形成し得る三次元架橋性物質(三次元架橋性低分子または高分子物質)が挙げられる。より具体的には、シリコーンゴム(信越化学社製「KE106」、「KE1800」や、シリコーンレジン、脂肪酸類、パラフィン炭化水素類などが挙げられる。上記の如き三次元架橋性物質を離型性オイル中で三次元架橋させて三次元網状構造とすることにより、離型性オイルを三次元網状体中に取り込んで、該オイルの流動を抑え、全体として寒天状の自己保形性固形物(オイル固形化物)となる。本発明でいう「オイル固形化物」とは、このような寒天状の自己保形性を有する固形物、すなわち、保持材・支持体(例えば、アラミドなどの耐熱繊維を用いたフェルトなどの繊維集合体や、連通孔を有するシリコーン樹脂などの発泡体、無機系多孔質組織体など)や容器などを用いることなく、その固体形状を保持できる固形物を意味する。
【0024】
なお、離型性オイルがシリコーンオイルの場合には、そのゲル化剤としては、同族系のシリコーンゴムを用いることが望ましい。これにより、離型剤塗布部材の分別廃棄が容易となる。
【0025】
上記のオイル固形化物は、その内部に離型性オイルを含有するにも関わらず、全体としては自己保形性を有する寒天状固形物であり、離型性オイル濃度が該固形化物よりも低い表面層側へ該離型性オイルを拡散移動させることができる。すなわち、このオイル固形化物を備えた離型剤塗布部材を、定着ロールや加圧ロールなどの定着部材表面に接触させると、該固形化物中の離型性オイルが、離型剤塗布部材の表面層を通して定着部材表面に移行するため、これらの部材に離型性オイルを塗布することができる。
【0026】
上記ゲル化剤の使用量は、ゲル化させる離型性オイルの種類やゲル化剤の種類によって変動するため、一概には決められないが、例えば、離型性オイル100質量部当たり、3質量部以上とすることが好ましく、11質量部以上とすることがより好ましい。他方、ゲル化剤使用量の上限は、離型性オイル100質量部当たり、通常1900質量部程度である。いずれにしても、上記ゲル化剤によって離型性オイルが自己保形性の固形物となり得るような使用量を選択すればよい。
【0027】
上記(2)の態様で用いられる多孔質組織材としては、離型性オイルを含有できるものであれば、特に限定されない。すなわち、このような機能を有する多孔質組織材であれば、該多孔質組織材に離型性オイルを含有させた離型剤保持層を有する離型剤塗布部材を、定着ロールや加圧ロールなどの定着部材表面に接触させると、該離型性保持層中の離型性オイルが、離型剤塗布部材の表面層を通してロール表面に移行するため、これらの部材に離型性オイルを塗布することが可能となる。
【0028】
このような多孔質組織材としては、例えば、不織布、フェルト、高分子発泡体、無機系多孔質組織体などが挙げられる。中でも高分子発泡体は、各種形状に成型が可能で柔軟性(クッション性)を有しており特に好ましい。多孔質組織材が柔軟性に欠けると表面層に傷がつき易くなる。高分子発泡体を構成する高分子としては、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂;ポリ塩化ビニルなど;ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレンなどポリスチレン系樹脂;メラミン樹脂;シリコーンゴム;などが挙げられる。これらの高分子から構成される発泡体は、連通孔を有するものであることが好ましい。
【0029】
また、シリコーンゴム以外の高分子から構成される発泡体の場合には、耐熱性や耐久性を確保する観点から、その骨格表面がシリコーンゴムで被覆されていることが望ましい。この場合の被覆方法としては、公知の方法(例えば、特開昭58−17129号公報に開示の方法)を採用することができる。
【0030】
高分子発泡体の骨格表面に被覆させるシリコーンゴムとしては、RTV(室温硬化型)シリコーンゴム、LTV(低温硬化型)シリコーンゴム、HTV(加熱硬化型)シリコーンゴム、紫外線硬化型シリコーンゴムなどを用いることができる。これらのシリコーンゴムの被覆量は、50〜300kg/m3とすることが好ましく、100〜200kg/m3とすることがより好ましい。被覆量が上記範囲を超えると、高分子発泡体の空孔容積が減少して、離型性オイルの保持量が少なくなるため、離型性塗布部材の使用寿命が短縮化する傾向にある。他方、被覆量が上記範囲を下回ると、被覆による効果が十分に確保できない場合がある。
【0031】
なお、多孔質組織材の空孔率は、30〜80%であることが好ましく、40〜60%であることがより好ましい。空孔率が上記範囲を下回ると、離型性オイルの保持量が小さくなるため、離型性塗布部材の使用寿命が短縮化する傾向にある。他方、空孔率が上記範囲を超えると、構造が脆弱となって、取り扱い性が低下するとともに耐久性が損なわれる場合がある。なお、多孔質組織材の空孔率は、該多孔質組織材について、JIS K 6885の規定に準じて測定される見掛け密度ρ1と、該多孔質組織材を構成する素材の比重ρ0とから、下式
空孔率(%)=100×(ρ1−ρ0)/ρ0 (2)
を用いて求められる値(サンプル数10以上の平均値)である(本明細書における空孔率の求め方は、全てこの方法による)。なお、空孔率の測定は、比較的測定誤差が大きいため、サンプル数は10以上とする。
【0032】
離型剤保持層は、本発明の離型剤塗布部材で要求される形状に応じて種々の形状とし得るが、例えば、断面が略半円形または略円形の棒状や、中心に軸心(例えば金属製の棒状体など)を配置(後述する)させた円筒状が好適である。その厚みは、本発明の離型剤塗布部材の用途などに応じて適宜決定すればよいが、例えば、通常の汎用プリンターや汎用複写機などに適用される場合では、3〜50mm、好ましくは5〜20mm程度である。厚みが上記範囲を下回ると、前記軸心などの離型剤塗布部材の固定手段により被塗布体を傷つけるおそれがある。他方、厚みが上記範囲を超えると、設置容積が大きくなり、装置が大型化してしまう。
【0033】
本発明に係る表面層は、上記離型剤保持層表面の少なくとも一部に形成される層である。本発明の離型剤塗布部材によって、定着装置の定着部材(定着ロールや加圧ロールなど)に離型剤が塗布される際には、上記表面層が該定着部材と接触し、離型剤塗布部材の含有する離型剤(離型性オイル)が、この表面層を介して該定着部材に塗布される。
【0034】
上記表面層は、本発明に係る離型剤保持層が含有する離型性オイルを、上記定着部材に塗布する際の供給量(塗布量)を制御する役割を担うものである。この表面層は、多孔質PTFE膜であって、上記の(I)または(II)の特性を有するものにより構成される。本発明において、表面層を構成する多孔質PTFE膜は、上記(I)または(II)のいずれか一方の特性を備えていればよいが、両方の特性を備えていてもよい。また、本発明において、表面層を構成する多孔質PTFE膜は、上記の(III)の構造を有することが好ましい。
【0035】
上記(I)の特性は、多孔質PTFE膜における空孔率が9%以下、というものである。より好ましい空孔率の上限は7%、さらに好ましい上限は5%である。この空孔率は、上記(2)式を用い、ρ1に多孔質PTFE膜の見掛け密度を、ρ0にPTFEの比重(2.2)を、夫々代入して求められる値である。表面層を構成する多孔質PTFE膜がこのような構造を有していれば、離型性オイルを、長期間安定して微量に供給できる。また、トナー微粒子や紙粉などによる汚染も回避できるため、本発明の離型剤塗布部材を用いた定着装置では、該離型剤塗布部材をクリーニングするための部材を設ける必要がなく、定着装置の省スペース化・低コスト化が可能となる。
【0036】
すなわち、表面層を構成する多孔質PTFE膜の空孔率が9%を超えると、離型剤塗布部材が含有する離型性オイルの粘度が比較的小さい場合に、該離型性オイルを安定且つ微量に供給することが困難となる。よって、この場合、不必要に多量の離型性オイルが供給(塗布)されることとなり、離型剤塗布部材の寿命を短縮化してしまう。
【0037】
また、本来PTFEは、トナー微粒子や紙粉などの汚染物質の付着が極めて少ない素材であるが、多孔質体(多孔質PTFE膜)とすると、空孔率が増大するほど、こうした汚染物質が付着し易くなる。これに対し、表面層を構成する多孔質PTFE膜の空孔率が9%以下であれば、実質的に空孔を含有しない充実構造のPTFE膜とほぼ同レベルでの汚染物質付着抑制が可能となる。
【0038】
他方、表面層を構成するPTFE膜の空孔率が小さすぎると、離型性オイルの供給量が不十分となる場合があるため、その空孔率は0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。
【0039】
上記(II)の特性は、多孔質PTFE膜におけるPTFEの動摩擦係数が0.015以下、というものである。より好ましい動摩擦係数の上限は0.01である。この動摩擦係数は、ASTM D1894の規定に準じ、測定速度を150mm/分とし、多孔質PTFE膜同士の摩擦によって測定される値である。以下、本明細書における動摩擦係数は、全てこの方法によって測定した値を意味する。表面層を構成する多孔質PTFE膜における上記動摩擦係数が0.015以下の場合、トナー微粒子や紙粉などによる汚染が付着しにくいため、本発明の離型剤塗布部材を用いた定着装置では、該離型剤塗布部材をクリーニングするための部材を設けなくても、安定して長期間使用することができることから、定着装置の省スペース化・低コスト化が可能となる。
【0040】
上記(III)の構造は、上記多孔質PTFE膜の表面を、電子顕微鏡を用いて2000倍の倍率で写真撮影し、該写真を肉眼で観察した場合に、少なくとも一部において、多孔質PTFE膜の骨格部分の輪郭が確認できる、というものである。図1に、上記(I)および(II)の構成を満たしつつ、この(III)の構造を有する多孔質PTFE膜表面の電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)の一例を示す。図1右下にある右端の白点から左端の白点までの距離が20μmである。このような構造とすることにより、多孔質PTFE膜表面に微小な凹凸が形成された状態となり、動摩擦係数を上述の好ましい範囲とすることができる。また、PTFE膜は本来、離型性オイルとのなじみが悪いため、多孔質PTFE膜の空孔率を低下させて充実構造に近づけていくと、多孔質PTFE膜の表面でオイルの分布ムラが生じて、被塗布体へのオイルの塗布ムラを引き起こす虞がある。しかし、多孔質PTFE膜を上記(III)の構造とし、該多孔質PTFE膜表面に微小な凹凸を形成させることで、該多孔質PTFE膜表面でのオイルのなじみが良好となり、均一なオイル塗布が可能となる。
【0041】
上記(I)、(II)や(III)の特性・構造を有する多孔質PTFE膜は、例えば、多孔質PTFEフィルムに圧縮処理を施し、その空孔率を低下させることにより製造することができる。原料に用いられる多孔質PTFEフィルムには従来公知の延伸または未延伸多孔質PTFEフィルムを用いることができるが、延伸多孔質PTFEフィルムの方が、より強度の高い多孔質PTFE膜を製造できるため好ましい。
【0042】
延伸多孔質PTFEフィルムとは、PTFEのファインパウダー(結晶化度90%以上)を成形助剤と混合して得られるペーストを成形し、該成形体から成形助剤を除去した後、高温[PTFEの融点(約327℃)未満の温度、例えば300℃程度]高速度で延伸、さらに必要に応じて焼成することにより得られるものである。
【0043】
上記ペーストには、必要に応じて、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、石綿、シリカ、ガラス、雲母、酸化クロム、酸化チタン、顔料などの充填剤を添加してもよい。例えば、カーボンブラックのような導電性材料を充填剤として添加すると、得られる延伸多孔質PTFEフィルムに導電性が付与されるため、離型剤塗布部材の静電気を除去することが可能となり、静電気に起因するトラブルを防止することができる。
【0044】
延伸の際、MD方向(多孔質PTFEフィルム製造時の長手方向)またはTD方向(MD方向に直交する方向)の一軸方向のみに延伸すれば、一軸延伸多孔質PTFEフィルムが得られ、MD方向およびTD方向の二軸方向に延伸すれば二軸延伸多孔質PTFEフィルムが得られる。
【0045】
一軸延伸多孔質PTFEフィルムでは、ノード(折り畳み結晶)が延伸方向に直角に細い島状となっており、このノード間を繋ぐようにすだれ状にフィブリル(折り畳み結晶が延伸により解けて引き出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している。そして、フィブリル間、またはフィブリルとノードとで画される空間が空孔となった繊維質構造となっている。また、 二軸延伸多孔質PTFEフィルムでは、図2の電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)に示すように、フィブリルが放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在していて、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている。多孔質PTFE膜における上記(III)の構造でいう「多孔質PTFE膜の骨格部分の輪郭」とは、このフィブリルとノードの輪郭部分をいう。なお、図2は、空孔率が80%の二軸延伸多孔質PTFEフィルム表面の電子顕微鏡写真であり、この図2の右下にある右端の白点から左端の白点までの距離が20μmである。
【0046】
上記表面層を構成する多孔質PTFE膜では、一軸延伸多孔質PTFEフィルム、二軸延伸多孔質PTFEフィルムのいずれも原料に用いることができるが、二軸延伸多孔質PTFEフィルムの方が望ましい。二軸延伸多孔質PTFEフィルムでは、二軸方向(MD方向およびTD方向)に延伸されているため、一軸延伸フィルムよりも異方性が小さく、MD方向、TD方向のいずれにおいても、強度の高い多孔質PTFE膜を得ることができる。
【0047】
なお、上記延伸多孔質PTFEフィルムでは、その空孔率は10〜95%であることが好ましく、40〜90%であることがより好ましい。また、その好適な厚みは、製造される多孔質PTFE膜で要求される厚みによって変動するが、例えば、5〜500μmであることが好ましく、5〜200μmであることがより好ましい。
【0048】
さらに、上記延伸多孔質PTFEフィルムの好適な延伸倍率は、MD方向、TD方向ともに、110〜1000%であることが好ましく、150〜800%であることがより好ましい。これらの延伸倍率は、延伸前のPTFE成形体の長さを100%としたときの値である。一軸延伸多孔質PTFEフィルムの場合は、延伸方向の延伸倍率が上記範囲内であることが推奨される。
【0049】
表面層を構成する多孔質PTFE膜を上記圧縮処理により製造するに当たっては、まず、上記(延伸)多孔質PTFEフィルムを、その融点未満の温度で圧縮(加圧)して、圧延フィルムを得る(第1圧縮工程)。この場合の圧縮温度は、PTFEの融点未満であれば特に限定されないが、通常、1℃以上低い温度であり、100℃以上低い温度であることがより好ましい。圧縮温度がPTFEの融点以上の場合には、多孔質PTFE膜の収縮が大きくなるため、好ましくない。
【0050】
第1圧縮工程における圧縮条件は、該工程後の圧延フィルムの空孔率が、圧縮前の多孔質PTFEフィルムの50%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下となる条件とする。圧縮力は、通常、面圧で0.5〜60N/mm2であり、1〜50N/mm2であることがより好ましい。この工程で用いる圧縮装置としては、フィルムを圧縮できる装置であれば特に限定されないが、カレンダーロール装置やベルトプレス装置など、ロール間またはベルト間を通して圧縮する形式の装置が好適である。このような装置を用いれば、多孔質PTFEフィルムがロール間やベルト間に挟み込まれる際に、該フィルム内部や該フィルムの層間に存在する空気が、外部に押出され易いため、得られる多孔質PTFE膜でのボイドや皺の発生を抑制することができる。
【0051】
次に、第1圧縮工程で得られた圧縮フィルムを、PTFEの融点以上の温度で圧縮(加圧)する(第2圧縮工程)。この場合の圧縮温度は、PTFEの融点以上であれば特に制限されないが、通常、1〜100℃以上高い温度であり、20〜80℃高い温度であることがより好ましい。なお、圧縮温度は、圧力を開放する時点では、PTFEの融点よりも低い温度まで冷却されていることが望ましい。PTFEの融点以上の温度で圧力を開放すると、多孔質PTFE膜の収縮が大きくなる他、皺が入り易くなるため、好ましくない。
【0052】
第2圧縮工程における圧縮条件は、該工程後の多孔質PTFE膜の空孔率が、0.1〜9%となる条件とする。圧縮力は、通常、面圧で0.01〜50N/mm2であり、0.1〜40N/mm2であることがより好ましい。この工程で用いる圧縮装置としては、フィルムを挟み込んで圧縮加工できる装置であれば特に限定されないが、一定時間の加熱および加圧が可能なホットプレス装置やベルトプレス装置が好適である。
【0053】
なお、原料フィルム(多孔質PTFEフィルム)を圧縮しながら、PTFEの融点以上の温度をかけた後、圧力を保持した状態で、PTFEの融点以下の温度まで冷却することが可能な装置を用いれば、1パスで多孔質PTFE膜を得ることもできる。この方法によれば、圧縮開始時点から、多孔質PTFEフィルムにPTFEの融点以上の温度をかけても、多孔質PTFEフィルムにかけられた圧力が開放される前にPTFEの融点より低い温度まで冷却されるため、製造される多孔質PTFE膜では収縮が殆ど起こらない。例えば、ベルトプレス装置を用いれば、多孔質PTFEフィルムがベルト間で圧縮された状態で、PTFEの融点以上の温度をかけた後、該融点よりも低い温度まで冷却することにより、収縮を抑制しつつ多孔質PTFE膜を製造することができる。しかもこのベルトプレス装置は、多孔質PTFE膜の連続生産も可能とするため、好ましく採用し得る。
【0054】
なお、このような原料フィルムに圧縮処理を施すことによる多孔質PTFE膜の製造方法の詳細は、例えば、特開2002−275280号公報に開示されている。
【0055】
上記の方法によれば、原料フィルムである多孔質PTFEフィルムの空孔率を低下させて、上記(I)の特性、すなわち空孔率が9%以下の多孔質PTFE膜とすることができる。また、上記方法による空孔率の低下によって、表面の動摩擦係数も低下するため、上記(II)の特性、すなわち、動摩擦係数が0.015以下の多孔質PTFE膜とすることもできる。さらに、上記方法によれば、多孔質PTFEフィルムを出発物質としているため、上記(III)の構造、すなわち、電子顕微鏡を用いて2000倍の倍率で、多孔質PTFE膜の表面を撮影した電子顕微鏡写真を肉眼で観察した場合に、少なくとも一部において、多孔質PTFE膜の骨格部分の輪郭が確認できるものとすることも可能である。
【0056】
なお、本発明に係る表面層を構成する多孔質PTFE膜は、上記(I)および/または(II)の特性、さらには上記(III)の構造を備えていればよく、多孔質PTFE膜製造時の加工条件を適宜調整するなどして、上記圧縮処理を施さずに製造されるものであってもよい。
【0057】
このようにして得られる多孔質PTFE膜の厚みは、表面層に要求される厚みに応じて適宜決定すればよいが、例えば0.1〜50μmとすることが好ましく、1〜20μmとすることがより好ましい。多孔質PTFE膜の厚みが上記範囲を下回ると、膜強度が不十分となって、取り扱い性が低下する場合がある。他方、厚みが上記範囲を超えると、離型剤塗布部材の表面層の厚みが大きくなりすぎて、離型剤(離型性オイル)が十分に供給できない場合がある。なお、多孔質PTFE膜、およびこれの原料となる多孔質PTFEフィルムの厚みは、ダイヤルゲージ(例えば、テクノロック社製1/1000mmダイヤルシックネスゲージ)で測定した平均厚さ(本体バネ荷重以外の荷重をかけない状態で測定した値)である。
【0058】
本発明の離型剤塗布部材を製造するに当たり、離型剤保持層表面に表面層を積層する方法としては、離型剤塗布部材を使用する際に、表面層が脱落せず、且つ下層に当たる離型剤保持層から被塗布体(定着部材)に移行する離型性オイルの移動に支障がない方法であれば、特に限定されない。例えば、ロール状(円筒状や円柱状)の離型剤保持層表面に、表面層を構成する多孔質PTFE膜を1回以上巻回積層するに際し、多孔質PTFE膜の固定を、該離型剤保持層から被塗布体に移行する離型性オイルのタックによって達成する方法や、巻回された多孔質PTFE膜の合わせ目を周長の1〜5%程度積層させ、この合わせ目部分を、点状などに塗布したシリコーンゴム系やエポキシ系などの耐熱接着剤で接着して達成する方法などが採用可能である。特に前者の固定方法の場合には、離型性オイルの透過を妨げる要因となるものがないため、周方向の位置によらず、平均的な離型性オイルの塗布が可能な離型剤塗布部材とすることができる。
【0059】
表面層の厚みは、0.1μm以上100μm以下とすることが好ましい。表面層の厚みが上記範囲を下回ると、該表面層の耐久性が不十分となる場合がある。他方、厚みが上記範囲を超える場合には、離型性オイルの供給が不十分となることがある。さらに離型剤塗布部材の離型性オイル塗布性能の安定性を向上させる観点からは、表面層の厚みを1μm以上10μm以下とすることが、より好ましい。
【0060】
こうした表面層の厚みは、使用する多孔質PTFE膜の厚みと、該多孔質PTFE膜の積層回数で調整すればよい。例えば、上記の如く、ロール状の離型剤保持層表面に多孔質PTFE膜を巻回積層する場合には、多孔質PTFE膜の厚みに応じて、表面層の厚みが上記範囲内となるように、その巻回積層回数を調整すればよい。
【0061】
また、例えば、離型剤保持層が断面略半円形の棒状の場合では、離型剤保持層の表面に多孔質PTFE膜を積層するに当たり、例えばシリコーンゴム系やエポキシ系などの耐熱接着剤を点状に塗布するなどして接着固定することができる。
【0062】
離型剤保持層としてオイル固形化物を用いる場合は、離型剤保持層と表面層との間に空気保持層を設けることが好ましい。本発明では、上記の通り、表面層に空孔率の低い多孔質PTFE膜を用いるが、このような多孔質PTFE膜は通気性が低いため、これをオイル固形化物に巻回積層すると、層間に空気の噛み込みが発生し易い。しかし、離型剤保持層と表面層との間に空気保持層を設けると、表面層の積層時に空気が逃げ易いため、層間での空気の噛み込みを抑制することができる。
【0063】
空気保持層としては、不織布、フェルト、発泡体、多孔質フィルムなど、空気を保持できる材料であれば特に制限されないが、薄膜化が容易である点で、多孔質フィルムが好ましい。多孔質フィルムとしては、多孔質化が可能な各種の高分子(例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリエステル、PTFEなど)からなるものが適宜用いられるが、耐熱性、柔軟性などの観点から多孔質PTFEフィルムが好ましく、中でも延伸多孔質PTFEフィルムが、高空孔率が可能で、高い空気保持力を実現できることから、特に好ましい。
【0064】
空気保持層として用いるのに好適な多孔質フィルムの空孔率は、40〜95%が好ましく、60〜90%がより好ましい。空孔率が上記範囲を下回ると、空気保持量が不十分となり、表面層を巻回積層する際に空気の噛み込みが起こり易くなる。他方、空孔率が上記範囲を超えると、構造が脆弱となって、取り扱い性が低下するとともに耐久性が損なわれる場合がある。
【0065】
空気保持層として用いるのに好適な多孔質フィルムの厚みは、空気保持層に要求される厚みに応じて適宜決定すればよいが、例えば0.1〜50μmとすることが好ましく、1〜20μmとすることがより好ましい。多孔質フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、膜強度が不十分となって、取り扱い性が低下する場合がある。他方、厚みが上記範囲を超えると、空気保持層の厚みが大きくなりすぎて、離型剤(離型性オイル)が十分に供給できない場合がある。
【0066】
空気保持層の厚みは、15〜100μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。空気保持層の厚みが上記範囲を下回ると、空気保持量が不十分となり、表面層を巻回積層する際に空気の噛み込みが起こり易くなる。他方、空気保持層の厚みが上記範囲を超えると、離型性オイルの供給が不十分となることがある。
【0067】
離型剤保持層表面に空気保持層を積層する方法としては、上記表面層の積層方法と同様の方法が採用できる。空気保持層の厚みは、使用する多孔質フィルムの厚みと、該多孔質フィルムの積層回数で調整すればよい。
【0068】
上記のようにして得られるロール形状の離型剤塗布部材の一例を示す横断面図を図3に示す。図3の離型剤塗布部材1は、中心に金属軸4を有する円筒状の離型剤保持層3の表面に、表面層2が巻回積層された構成である。
【0069】
本発明の定着装置は、上記本発明の離型剤塗布部材を備えていれば、その他の構成については特に限定されず、従来公知の構成が採用できる。図4は、本発明の定着装置の構成例を示す概要図である。この図4に示した定着装置では、離型剤塗布部材1が加圧ロール6と接触して、該加圧ロール6表面に離型性オイルを塗布する構成であり、さらにこの加圧ロール6表面に塗布された離型性オイルが定着ロール(加熱ロール)5表面にも移行して、記録画像のオフセット現象防止に寄与する。また、離型剤塗布部材1が、定着ロール5表面と接触する構成を採用してもよい。なお、本発明の定着装置では、離型剤塗布部材が、トナー微粒子や紙粉などの汚染物質の付着を回避可能な構成であるため、該離型剤塗布部材表面のクリーニング手段を設けなくてもよく、省スペース化・低コスト化が達成できる。
【0070】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0071】
実施例1
内径:13.88mm、外径:15.88mm、長さ:340mmのステンレス鋼製円筒を用意し、該円筒の片端を閉塞し、この閉塞端を下側にして立て、その中心に直径:6mm、長さ:332mmのステンレス鋼製金属軸を配置した。ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製「KF96SS−100CS」、離型性オイル)とシリコーンゴム(信越化学工業社製「KE106」、ゲル化剤)とを、40/60(質量比)の割合で配合して上記円筒に流し込み、これを150℃で60分加熱して、離型性オイルの寒天状固形化物を形成させた。その後、これをステンレス円筒から取り出して、外径:13.5mm、長さ:306mmで、中心にステンレス鋼製軸心を有する離型剤保持層用のオイル固形化物を得た。
【0072】
上記のオイル固形化物の表面に、空気保持層として、厚み:35μm、空孔率:80%の多孔質フィルム(ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」)を1.5ラップ(オイル固形化物の外周に一回巻回し、さらに外周長さの50%部分において一層目と二層目を重複させる)した。さらに空気保持層の表面に、表面層として、厚み:1.5μm、空孔率:2%の多孔質PTFE膜(表1に示すように、ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」〔厚み40μm、空孔率:60%〕を圧縮処理により圧延して製造したもの)を1.5回巻回積層して表面層を形成することで、離型剤塗布部材を作製した。なお、上記の多孔質PTFE膜表面の動摩擦係数の測定も行った。その結果、上記多孔質PTFE膜表面の動摩擦係数は0.0084であった。
【0073】
株式会社リコー製のモノクロ複写機「NEO350」(印刷性能:35枚/分)の定着部に上記の離型剤保持部材を取り付けて、該離型剤保持部材を備えた定着装置の印刷試験を実施した。印刷試験は、A4サイズ紙を用いて、5枚片面印刷を0.5秒間隔で行うプログラムで5000枚印刷し、始めの3000枚までは500枚印刷毎に、その後は1000枚毎に離型剤塗布部材の質量減少量を測定して、1枚印刷当たりの平均オイル塗布量を算出した。なお、印刷画像は、紙面の全面積に対する面積率が5%の文字画像を用いた。また、この離型剤塗布部材の質量測定の際に、その外観の目視評価も行った。結果を表2に示す。
【0074】
実施例2
表面層に、厚み:8μm、空孔率:5%の多孔質PTFE膜(表1に示すように、ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」〔厚み120μm、空孔率:70%〕を圧縮処理により圧延して製造したもの)を用いた他は、実施例1と同様にして離型剤塗布部材を作製し、実施例1と同様にして該離型剤塗布部材を備えた定着装置の印刷試験を行った。なお、実施例2で用いた多孔質PTFE膜表面の動摩擦係数を測定したところ、0.006であった。
【0075】
比較例1
表面層に、厚み:10μm、空孔率:0%のPTFE膜(表1に示すように、ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」〔厚み15μm、空孔率:20%〕を圧縮処理により圧延して製造したもの)を用いた他は、実施例1と同様にして離型剤塗布部材を作製し、実施例1と同様にして該離型剤塗布部材を備えた定着装置の印刷試験を行った。
【0076】
印刷試験は、印刷枚数を4000枚とし、離型剤塗布部材の質量減少量測定、および外観評価は、始めの1000枚までは500枚毎に、その後は1000枚毎に実施した。その他の試験条件は、実施例1と同じである。結果を表1に併記する。
【0077】
比較例2
表面層に、厚み:15μm、空孔率:16%の多孔質PTFE膜(表1に示すように、ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」〔厚み80μm、空孔率:70%〕を圧縮処理により圧延して製造したもの)を用いた他は、実施例1と同様にして離型剤塗布部材を作製し、比較例1と同様にして該離型剤塗布部材を備えた定着装置の印刷試験を行った。なお、この比較例2で用いた多孔質PTFE膜表面の動摩擦係数を測定したところ、0.018であった。
【0078】
比較例3
表面層に、厚み:40μm、空孔率:25%の多孔質PTFE膜(表1に示すように、ジャパンゴアテックス社製「ゴアテックス」〔厚み100μm、空孔率:75%〕を圧縮処理により圧延して製造したもの)を用いた他は、実施例1と同様にして離型剤塗布部材を作製し、比較例1と同様にして該離型剤塗布部材を備えた定着装置の印刷試験を行った。なお、この比較例2で用いた多孔質PTFE膜表面の動摩擦係数を測定したところ、0.02であった。
【0079】
【表1】
Figure 0004209182
【0080】
【表2】
Figure 0004209182
【0081】
表2に示すように、本発明例に当たる実施例の離型剤塗布部材を備えた定着装置では、離型性オイルの塗布量が、印刷枚数によらず安定している。また、離型剤塗布部材表面の汚染も抑制されている。よって、実施例の離型剤塗布部材、およびこれを備えた定着装置は、長期間の使用安定性に優れたものといえる。他方、比較例の離型剤塗布部材を備えた定着装置では、離型性オイルの塗布が全く行えないか、行えても離型性オイルの塗布量の変動が大きくなっており、また、印刷枚数の増大により、離型剤塗布部材表面の汚染が生じている。
【0082】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、離型剤保持層と、該離型剤保持層の表面の少なくとも一部に形成される表面層を構成要素に含む離型剤塗布部材において、上記特定構造を有する多孔質PTFE膜で表面層を構成することにより、長期間にわたって安定使用が可能な離型剤塗布部材を提供することができた。特に本発明の離型剤塗布部材は、例えば定着装置に用いられた場合に、トナー微粒子や紙粉などの汚染物質の付着が極めて少ない。よって、本発明の離型剤塗布部材を用いた定着装置は、長期間の使用安定性に優れると共に、離型剤塗布部材のクリーニング手段を設置する必要もないことから、省スペース化・低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2に用いた多孔質PTFE膜表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】 本発明に係る表面層を構成する多孔質PTFE膜の原料となる二軸延伸多孔質PTFEフィルム表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】 本発明の離型剤塗布部材の一例を示す横断面図である。
【図4】 本発明の定着装置の構成例を示す概要図である。
【符号の説明】
1 離型剤塗布部材
2 表面層
3 離型剤保持層
4 金属軸
5 定着ロール
6 加圧ロール
7 分離爪
8 記録紙
9 トナー

Claims (12)

  1. 離型剤保持層と、該離型剤保持層の表面の少なくとも一部に形成される表面層を構成要素に含み、且つ上記離型剤保持層と表面層の間に、空気保持層を有しており、
    上記離型剤保持層は、離型作用を有するオイルを、ゲル化剤を用いてゲル化させてなるオイル固形化物から構成され、
    上記表面層は、空孔率が9%以下の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜からなるものであり、
    上記空気保持層は、空孔率が40〜95%の延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムからなるものであることを特徴とする離型剤塗布部材。
  2. 離型剤保持層と、該離型剤保持層の表面の少なくとも一部に形成される表面層を構成要素に含み、且つ上記離型剤保持層と表面層の間に、空気保持層を有しており、
    上記離型剤保持層は、離型作用を有するオイルを、ゲル化剤を用いてゲル化させてなるオイル固形化物から構成され、
    上記表面層は、動摩擦係数が0.015以下の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜からなるものであり、
    上記空気保持層は、空孔率が40〜95%の延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムからなるものであることを特徴とする離型剤塗布部材。
  3. 上記ゲル化剤は、シリコーンゴムである請求項1又は2に記載の離型剤塗布部材。
  4. 上記空気保持層の厚みが20〜100μmである請求項1〜3のいずれかに記載の離型剤塗布部材。
  5. 上記離型作用を有するオイルは、シリコーンオイル、変性シリコーンオイルまたはフッ素オイルである請求項1〜4のいずれかに記載の離型剤塗布部材。
  6. 上記空孔率が9%以下の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムに圧縮処理を施し、空孔率を低下させることで得られるものである請求項1〜のいずれかに記載の離型剤塗布部材。
  7. 上記多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムは、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムである請求項に記載の離型剤塗布部材。
  8. 上記表面層は、厚みが0.1〜100μmである請求項1〜のいずれかに記載の離型剤塗布部材。
  9. 上記表面層は、厚みが1〜50μmである請求項1〜のいずれかに記載の離型剤塗布部材。
  10. 形状がロール状である請求項1〜のいずれかに記載の離型剤塗布部材。
  11. 上記表面層は、上記空孔率が9%以下の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が、上記空気保持層の表面に1回以上巻回積層されて形成されるものである請求項1〜10のいずれかに記載の離型剤塗布部材。
  12. 請求項1〜11のいずれかに記載の離型剤塗布部材を備えたものであることを特徴とする定着装置。
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