JP4205816B2 - 磁束密度の高い一方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気機器の鉄心等に用いる一方向性電磁鋼板の製造方法に関するもので、特に、磁束密度の高い一方向性電磁鋼板の製造を可能にする製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一方向性電磁鋼板は、鋼板面が{110}面で、圧延方向が<100>軸を有する、いわゆるゴス方位(ミラー指数で{110}<001>方位を表す)を持つ結晶粒から構成されており、軟磁性材料として、変圧器および発電器用の鉄心に使用されている。この電磁鋼板は、磁気特性として磁化特性と鉄損特性が良好でなければならない。
【0003】
磁化特性の良否は、かけられた一定の磁場中で、鉄心内に誘起される磁束密度の高低で決まり、磁束密度の高い電磁鋼板を用いると、鉄芯を小型化できるという利点がある。磁束密度の高さは、鋼板における結晶粒の方位を、{110}<001>に高度に揃えることによって達成できる。
鉄損は、鉄心に所定の交流磁場を与えた場合に、熱エネルギーとして消費される電力損失であり、その良否に対しては、磁束密度、板厚、被膜張力、不純物量、比抵抗、結晶粒の大きさ等が影響する。
【0004】
磁束密度の高い電磁鋼板では、電気機器の鉄心を小さくでき、また、鉄損も小さくなるので望ましく、当該技術分野では、できる限り磁束密度の高い電磁鋼板を、安いコストで製造する方法の開発が課題である。
ところで、現在、工業生産に用いられている代表的な一方向性電磁鋼板の製造方法は、3種あるが、各々において、長所および短所がある。
【0005】
第一の技術は、F.M.Littmamnnが特公昭30−3651号公報に開示した、MnSを用いる2回冷間圧延法である。しかし、この方法で得た鋼板においては、その二次再結晶粒は、安定して発達したものであるが、高い磁束密度が得られていない。
第二の技術は、田口等が特公昭40−15644号公報に開示した、AlN+MnSを用い最終冷間圧延率を80%以上の強圧下率とする技術である。この技術においては、高い磁束密度は得られるが、工業生産に際して、製造条件の厳密なコントロ−ルが要求される。
【0006】
第三の技術は、今中等が特公昭51−13469号公報に開示した、MnS(および/またはMnSe)+Sbを含有する珪素鋼を2回冷間圧延法によって製造する技術である。この技術においては、比較的に高い磁束密度が得られている。
上記3種の技術においては、共通して次のような問題がある。即ち、上記3種の技術は、いずれもが、熱間圧延に先立つスラブ加熱を、1250℃超、実際には、1300℃以上の極めて高い温度で行ない、この高温スラブ加熱によって、粗大に析出している析出物を一旦固溶させ、その後の熱間圧延中に、または、熱処理中に、析出物を微細かつ均一に析出させている。スラブ加熱温度を上げること(高温スラブ加熱法)は、スラブ加熱時の使用エネルギーの増大、設備損傷率の増大等の他、材質的には、スラブの結晶組織に起因する線状の二次再結晶不良の発生等の問題を抱えていて、特に、薄手材、高Si材において、この問題が顕著になってくる。
【0007】
このような高温スラブ加熱法に対し、特開昭62−40315号公報および特開平5−112827号公報には、二次再結晶に必要なインヒビターを、脱炭焼鈍(一次再結晶)完了以降から仕上焼鈍における二次再結晶発現以前までの間で、鋼中に造り込む技術が開示されている。その手段は、鋼中にNを侵入させることによって、インヒビターとして機能する(Al,Si)Nを鋼中に形成するものである。
【0008】
鋼中にNを侵入させる手段としては、仕上焼鈍の昇温過程において、雰囲気ガスからNを侵入させる手段、もしくは、脱炭焼鈍の後段領域または脱炭焼鈍完了後のストリツプを、連続ラインで、NH3 等の雰囲気ガスを用いて窒化する手段がある。これらの方法によって、磁気特性の良好な方向性電磁鋼板が得られているが、更なる高品質の一方向性電磁鋼板が望まれているところである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
一方向性電磁鋼板の品質は主として鉄損特性で決まる。この鉄損を低くする手段として、高磁束密度化は勿論であるが、高Si化、二次再結晶粒の小粒化等の冶金的方法の他に、人為的に磁区を制御する物理的、機械的、あるいは化学的方法が実用化されていることは周知の如くである。
【0010】
超低鉄損特性の一方向性電磁鋼板を得るには、この冶金的方法と人為的磁区制御法を併用する必要があるが、いずれにしても、高磁束密度化が大前提となる。
低温スラブ加熱による一方向性電磁鋼板の製造方法において高磁束密度の鋼板を得るには、脱炭焼鈍後の一次再結晶粒の粒径、および、脱炭焼鈍後の鋼板中の窒素量、並びに、仕上焼鈍条件の適切な組み合わせが重要である。
【0011】
特開平2−259020公報では、脱炭焼鈍板の平均粒径と磁束密度B8の関係を開示している。それによると、磁束密度B8は結晶粒径が大きくなるにつれて高くなるが、一定の大きさ以上では二次再結晶不良となって、急激にB8が低下している。また、特開平2−77525公報には、脱炭焼鈍をした後、ストリップを走行せしめる状態下で窒化処理をする方法が開示されている。この方法により、窒化が容易になり、その量のコントロ−ルが可能になった。
【0012】
さらに、特開平2−258929号公報には、同様なプロセスにおいて、仕上焼鈍の昇温過程における1000℃〜1100℃の温度域で、二次再結晶粒を事実上完全に成長させることで高磁束密度を得る方法が開示され、また、特開平7−310125号公報には、仕上焼鈍における昇温速度とその雰囲気ガスの窒素分圧との間に一定の関係を設定することで、高磁束密度の電磁鋼板を得る方法が開示されている。
【0013】
本発明は、これらの先行技術を基に検討を行い、更なる高磁束密度の一方向性電磁鋼板を得る方法を提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本件発明の要旨とするところは、重量%で、C:0.020〜0.075%、Si:2.5〜5.0%、Mn:0.05〜0.45%、Sおよび/またはSe:0.015%以下、酸可溶性Al:0.01〜0.05%、N:0.0035〜0.012%、Sn:0.02〜0.15%、および、Cr:0.03〜0.20%、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる電磁鋼スラブを、1280℃以下の温度に加熱した後、熱間圧延し、熱延板を焼鈍し、その後、最終圧延率80%以上の1回または中間焼鈍を介挿する2回以上の冷間圧延をし、次いで、脱炭焼鈍、窒化処理、仕上焼鈍をする一方向性電磁鋼板の製造方法において、脱炭焼鈍後の鋼板における結晶粒の平均粒径Dを23〜40μmの範囲に調整し、仕上焼鈍の昇温過程における少なくとも1000〜1150℃間の昇温速度Rを3〜10℃/hの範囲としたときに、窒化処理後の鋼板中の窒素量N(ppm)と前記昇温速度Rを、
N(ppm)≧11D−40、および、
280−4R≦N(ppm)≦480−13R、を満たすように定め、該定めた窒素量Nと昇温速度Rに調整し、さらに、前記仕上焼鈍の昇温過程における700℃〜750℃までの雰囲気ガスの酸化ポテンシャルPH 2 O/PH 2 を0.1〜0.5とし、かつ、同昇温過程における900℃以上の雰囲気ガスの酸化ポテンシャルPH 2 O/PH 2 を0.02以下とすることを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、低温スラブ加熱による一方向性電磁鋼板の製造方法において、高磁束密度化は、▲1▼一次再結晶粒の粒径を大きくして磁束密度の向上を図り、▲2▼仕上焼鈍の昇温過程における二次再結晶温度域を徐加熱にして、二次再結晶をより確実に行わせ、▲3▼前記2つにともなう相対的なインヒビター強度の低下を補うべく、窒化量を増加させる、という組み合わせをベースとして、一定の条件下で達成されると考えるに至った。以下、本発明を実験結果に基づいて詳細に説明する。
【0017】
重量%で、C:0.06%、Si:3.45%、Mn:0.10%、S:0.008%、酸可溶性Al:0.028%、Cr:0.12%、P:0.02%、Sn:0.05%、N:0.008%を含んだ電磁鋼スラブを、1150℃に加熱後、熱間圧延し、2.3mm厚の熱延板を製造した。
この熱延板を、1120℃に加熱して焼鈍し、焼鈍加熱の後、900℃までの冷却速度を5〜10℃/秒として冷却し、900℃に短時間保持した後、急冷した。次いで、酸洗し、0.23mm厚の冷延板に冷間圧延した。
【0018】
この冷延板を、湿水素、窒素雰囲気中で、焼鈍温度を変て脱炭焼鈍し、一次再結晶粒の平均粒径を、ほぼ22〜40μm(画像処理測定)に調整した。この後、窒化焼鈍を、750℃で30秒間、水素、窒素およびアンモニアの混合ガス中で行った。この時、アンモニアの導入量を変えて、鋼板中の窒素量を、ほぼ170〜420ppmに調整した。
【0019】
次いで、MgO、TiO2 を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃で20時間の仕上焼鈍を行った。なお、仕上焼鈍の昇温過程において、900℃までの昇温速度は15℃/hとし、900℃から1200℃までの昇温速度は10℃/hとした。雰囲気ガスは、H2 :75%とN2 :25%の混合ガスとした。仕上焼鈍後、鋼板を酸洗して被膜を除去し、二次再結晶組織の発達の状態を観察した。結果を図1に示す。
【0020】
図1から、窒化後の鋼板中の窒素量が、N(ppm)≧11D−40の範囲内にあると、良好な二次再結晶組織が得られていることが判る。
次に、同一成分組成の電磁鋼スラブを用い、同様なプロセス条件で実験を行った。
熱延板を、1120℃で2.5分、焼鈍し、900℃に2分保定した後、急冷した。次いで、酸洗し、0.23mm厚の冷延板に冷間圧延した。この冷延板を、湿水素、窒素雰囲気中で、脱炭焼鈍温度を変えて焼鈍し、一次再結晶粒の平均粒径を、ほぼ23〜40μm(画像処理測定)に調整した。この後、窒化焼鈍を、750℃で30秒間、水素、窒素およびアンモニアの混合ガス中で行った。この時、アンモニアの導入量を変えて、鋼板中の窒素量を、ほぼ200〜440ppmの範囲に調整した。次いで、MgO、TiO2 を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃、20時間の仕上焼鈍を行った。
【0021】
この仕上焼鈍の昇温過程において、900℃までの昇温速度を15℃/hとし、900℃から1200℃までの昇温速度を、3℃/h、5℃/h、7.5℃/h、および、10℃/hの4条件とした。
また、雰囲気ガスは、H2 :75%とN2 :25%の混合ガスとし、仕上焼鈍の昇温過程において、750℃までの雰囲気ガスの酸化ポテンシャルPH2 O/PH2 を、ほぼ0.3とし、750〜900℃までの同PH2 O/PH2 を、ほぼ0.02とし、さらに、900℃以上の同PH2 O/PH2 を、0.008〜0.01に調整した。図2に、窒化後の鋼板中の窒素量(ppm)、昇温速度(R℃/h)および磁束密度(B8(T))との関係を示す。
【0022】
図2から、昇温速度3℃/hから10℃/hの範囲においては、窒化後の鋼板中の窒素量Nが280−4R≦N≦480−13Rの範囲内にあると、非常に高い磁束密度を有する鋼板が得られることが判る。
次に、本発明における電磁鋼スラブの成分組成に係る限定理由を、以下に説明する。
【0023】
Cは、0.020%未満になると、二次再結晶が不安定になり、二次再結晶した場合でも、製品の磁束密度は、B8で1.80T程度と低いものになる。一方、0.075%を超えて多くなりすぎると、脱炭焼鈍時間が長くなり、生産性を損なう。好ましくは、0.04〜0.06%がよい。
Siは、2.5%未満になると低鉄損を得難く、一方、5.0%を超えて多くなりすぎると、材料の冷延性に問題が生じる。
【0024】
本発明における電磁鋼スラブの成分組成における特徴の一つは、Sおよび/またはSeを0.015%以下にする点にある。周知の如く、SはMnSを形成し、SeはMnSeを形成して、粒成長を抑制する作用をする。本発明においては、二次再結晶を発現させるに必要なインヒビターは脱炭焼鈍以降の工程で造り込むことを特徴としており、冷間圧延以前の工程で微細な析出物が分散することは、一次再結晶粒の粒径を調整して高磁束密度および低鉄損を目指す本発明においては好ましくない。従って、Sおよび/またはSeは0.015%以下と限定している。なお、Sおよび/またはSeを少なくすることは、熱間圧延時の耳割れの低減にも大きな効果がある。
【0025】
Alは、Nと結合してAlNを形成するが、本発明においては、後工程、即ち、一次再結晶完了後に鋼板を窒化することにより、(Al,Si)Nを形成せしめることを必須としているから、フリーのAlが一定量必要である。そのために、Alを酸可溶性Alとして、0.01〜0.05%添加する。
Nは、0.0035〜0.012%にする必要がある。0.012%を超えると、ブリスターと呼ばれる鋼板表面の膨れが発生する。また、一次再結晶組織の調整が困難になる。下限は0.0035%がよい。この値未満になると二次再結晶粒を発達させるのが困難になるからである。
【0026】
Mnは、その含有量が少なすぎると二次再結晶が不安定となり、一方、多すぎると高い磁束密度を持つ製品を得難くなる。適正な含有量は、0.05〜0.45%である。
Snは、脱炭焼鈍後の集合組織を改善し、ひいては、二次再結晶粒を改善し、被膜の安定化と相俟って、鉄損改善に効果が大きい元素である。Snの量は、0.02〜0.15%であるが、0.02%より少ないと効果が弱く、一方、0.15%より多いと窒化が困難になり、二次再結晶粒が発達しなくなる。好ましくは、0.03〜0.08%がよい。
【0027】
Crは、脱炭焼鈍時の酸化を促進する元素であるが、Snとの複合添加で、仕上焼鈍後の被膜形成を安定化する。Crの適量は、0.03〜0.20%であるが、0.03%未満では上記効果が得られなく、また、0.20%を超えて添加しても合金コストが上昇するだけで効果はない。好ましくは0.05〜0.15%がよい。
【0028】
なお、Cuは、高磁束密度を得るのに効果がある元素であり必要に応じて含有できる。その場合の適量は0.03〜0.30%である。
この他、微量のP,Niを含むことは、本発明の主旨を損なわない。
次に、本発明の製造プロセスについて説明する。
電磁鋼スラブは、転炉または電気炉等の溶解炉で溶製し、必要に応じて真空脱ガス処理し、次いで、連続鋳造によって、または、造塊後分解圧延することによって得られる。その後、電磁鋼スラブは、1280℃以下の温度で加熱された後、所定板厚に熱間圧延される。加熱温度が、1280℃より高いと、脱炭焼鈍時の一次再結晶粒の粒径調整が困難になり、高磁束密度の電磁鋼板が得られ難い。
【0029】
熱延板焼鈍は、950℃〜1170℃の温度で加熱後、800℃〜950℃の温度に短時間保持して行なう。その保持後、急冷することが望ましい。加熱温度が950℃より低いと、金属組織の調整および一部固溶したAlNの析出調整が不充分となり、一方、1170℃を超えると、AlNの固溶量が多くなり、脱炭焼鈍時の一次再結晶粒の粒径調整が困難になる。
【0030】
冷間圧延率は、高いB8を得るために80%以上とする。
脱炭焼鈍には、脱炭を行う他に、一次再結晶粒の粒径を調整する役割と、フォルステライト被膜形成に必要な酸化層を生成させる役割とがある。この脱炭焼鈍は、通常、800〜900℃の温度域で、湿水素、窒素ガス中で行う。
本発明においては、一次再結晶粒の平均粒径を23μm〜40μmの範囲に調整し、さらに、下記条件との組み合わせで、高磁束密度を達成するものである。この平均粒径は、通常より大きな値であるが、23μm未満では、高磁束密度が得られず、一方、40μmを超すと二次再結晶不良となる。結晶粒径が大きい程、高磁束密度が得られやすいが、この理由は解明できていない。おそらく、集合組織の改善、厳密な対応方位{(110)<001>と(111)<112>}の選択等が要因として考えられる。
【0031】
窒化処理は、通常、ストリップが走行している状態下で、乾水素、窒素およびアンモニアの混合ガス中で、650〜850℃の温度域で短時間行う。窒化処理時間は特に限定されないが、通常、30〜60秒である。
窒化量は、一般に、アンモニアの混合割合で調節するが、焼鈍時間を変えて行なっても良い。窒化後の鋼板中の窒素量Nと、脱炭焼鈍板における結晶粒の平均粒径Dが、N(ppm)≧11D−40の関係を満たす領域において、良好な二次再結晶組織が得られる。つまり、結晶粒径が大きい程、窒化量は増やす必要がある。
【0032】
この後、MgO、TiO2 を主成分とするスラリ−を塗布し、1150℃以上の温度で仕上焼鈍を行う。
次に、本発明の仕上焼鈍について説明する。
本発明において使用する雰囲気ガスは、H2 とN2 の混合ガスである。
室温から700〜750℃の間の雰囲気ガスの酸化ポテンシャルPH2 O/PH2 を、0.1〜0.5に調整する必要がある。これは、脱炭焼鈍後に形成される酸化層の変質を防ぎ、良好なフォルステライト被膜を得るために重要なことである。0.1未満では反応不良となり被膜形成が悪く、一方、0.5を超えると酸化性が強くなりすぎ、被膜が厚くなり、また、点状の金属面が現れたりして、好ましくない。
【0033】
一方、900℃以上では、PH2 O/PH2 を0.02以下にする必要がある。0.02より大きいと、高磁束密度鋼板が得られ難くなる上、被膜形成も劣ってくる。なお、750℃〜900℃では、PH2 O/PH2 は0.02より少し高めでも良い。
次に、昇温速度を、少なくとも1000℃から1150℃の範囲で規制した理由について述べる。900〜1000℃が二次再結晶開始直前の温度域であるので、1000℃を、昇温速度変更の開始温度とした。一方、1150℃は、二次再結晶がほぼ完了する温度である。
【0034】
昇温速度は遅い方が効果的であるが、3℃/h未満では、長時間を要し工業的でない。一方、10℃/hを超えると、非常に高い磁束密度鋼板は得られ難い。したがって、3℃/h〜10℃/hとした。しかし、この場合、昇温速度Rと窒化後の鋼板の窒素量Nが、280−4R≦N≦480−13R、の関係を満たす必要がある。昇温速度が遅くなる程、窒化量は多くする必要がある。なお、室温から昇温速度変更温度までの昇温速度は特にこだわらないが、通常、15℃/h〜20℃/h程度である。
【0035】
徐加熱により高磁束密度鋼板が得られる理由としては、二次再結晶温度域を徐加熱することによりゴス組織を優先成長させる場合、インヒビターの弱体化が生じても、昇温速度にみあった窒化により、インヒビターの確保が図られているものと考えられる。
【0036】
【実施例】
(実施例1)
重量%で、C:0.062%、Si:3.5%、Mn0.10%、S:0.01%、酸可溶性Al:0.028%、N:0.008%、Cr:0.12%、
Sn:0.05%、P:0.025%を含む電磁鋼スラブを、1150℃で加熱後、熱間圧延し、2.3mm厚の熱延板を製造した。この熱延板を1120℃で均熱後、一旦、900℃に冷却し、その後、その温度に保持する焼鈍を施し、その焼鈍後、急冷却した。
【0037】
次いで、酸洗し、その後、0.20mm厚の冷延板に冷間圧延し、次いで、この冷延板に、焼鈍温度を810℃と860℃とし、湿水素−窒素雰囲気中で脱炭焼鈍を施し、一次再結晶粒の粒径を、ほぼ22μmと26μmに調整した。
この後、750℃で30秒の窒化焼鈍を、水素、窒素およびアンモニアの混合ガス中で行い、鋼板中の窒素量を、ほぼ210ppm、290ppm、および、350ppmに調整した。
【0038】
次いで、MgO、TiO2 を主成分とするスラリ−を塗布し、1200℃で20時間の仕上焼鈍を行った。仕上焼鈍の昇温過程において、1000℃までは15℃/hで昇温し、1000℃から1200℃までを、5℃/hと10℃/hの2水準で昇温した。雰囲気ガスは、窒素25%、水素75%の混合ガスで、700℃までのPH2 O/PH2 を0.3とし、900℃以上におけるPH2 O/PH2 は、ほぼ0.01とし、800℃〜900℃におけるPH2 O/PH2 は0.01より高めに調整した。均熱時は水素100%とした。
【0039】
測定した磁気特性(磁束密度)を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1中、*を付した磁束密度が、本発明の条件のもとで得られたものである。
表1から、本発明の条件のもとでは、高い磁束密度を有する電磁鋼板が得られたことがわかる。
(実施例2)
重量%で、C:0.058%、Si:3.35%、Mn0.1%、S:0.012%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.0083%、Cr:0.12%、Sn:0.05%、P:0.02%を含む電磁鋼スラブを、1150℃で加熱後、熱間圧延し、2.3mm厚の熱延板を製造した。この熱延板を、1120℃+900℃で焼鈍した後、急冷却した。
【0042】
次いで、酸洗し、その後、0.27mm厚の冷延板に冷間圧延し、次いで、この冷延板に、湿水素−窒素雰囲気中で焼鈍温度を変えて脱炭焼鈍を施し、一次再結晶粒の粒径を、ほぼ28μmに調整した。
この後、750℃で30秒の窒化焼鈍を、水素、窒素およびアンモニアの混合ガス中で行い、鋼板中の窒素量を、ほぼ310ppmに調整した。
【0043】
次いで、MgO、TiO2 を主成分とするスラリ−を塗布し、1200℃で20時間の仕上焼鈍を行った。仕上焼鈍の昇温過程において、950℃までは15℃/hで昇温し、950℃から1150℃までは7.5℃/hで昇温し、1150℃〜1200℃までは15℃/hで昇温した。雰囲気ガスは、昇温過程では、窒素25%と水素75%の混合ガスを用い、均熱時には、水素100%とした。雰囲気ガスの露点は表2に示す3条件とした。
【0044】
【表2】
【0045】
測定した磁気特性(磁束密度)と、被膜の形成状態を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3中、*印を付した磁束密度が、本発明の条件のもとで得られたものである。
表3から、本発明の条件のもとにおいて、磁気特性および被膜特性とも優れた電磁鋼板が得られたことがわかる。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明により、特定範囲の結晶粒径を有する脱炭焼鈍板において、窒化後の鋼板中の窒素量と、仕上焼鈍の昇温過程における昇温速度との関係を規制することにより、磁束密度の高い一方向性電磁鋼板を製造することが可能となる。したがって、本発明は、電気機器の鉄心の小型化も含め、電気機器の効率化に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【図1】脱炭焼鈍板における平均結晶粒径、窒化後の鋼板中の窒素量および二次再結晶の発達状態との関係を示す図である。
【図2】窒化後の鋼板中の窒素量、仕上焼鈍の昇温過程における昇温速度および磁束密度との関係を示す図である。
Claims (1)
- 重量%で、
C:0.020〜0.075%、
Si:2.5〜5.0%、
Mn:0.05〜0.45%、
Sおよび/またはSe:0.015%以下、
酸可溶性Al:0.01〜0.05%、
N:0.0035〜0.012%、
Sn:0.02〜0.15%、および、
Cr:0.03〜0.20%、
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる電磁鋼スラブを、1280℃以下の温度に加熱した後、熱間圧延し、熱延板を焼鈍し、その後、最終圧延率80%以上の1回または中間焼鈍を介挿する2回以上の冷間圧延をし、次いで、脱炭焼鈍、窒化処理、仕上焼鈍をする一方向性電磁鋼板の製造方法において、
脱炭焼鈍後の鋼板における結晶粒の平均粒径Dを23〜40μmの範囲に調整し、仕上焼鈍の昇温過程における少なくとも1000〜1150℃間の昇温速度Rを3〜10℃/hの範囲としたときに、窒化処理後の鋼板中の窒素量N(ppm)と前記昇温速度Rを、
N(ppm)≧11D−40、および、
280−4R≦N(ppm)≦480−13R、を満たすように定め、該定めた窒素量Nと昇温速度Rに調整し、さらに、前記仕上焼鈍の昇温過程における700℃〜750℃までの雰囲気ガスの酸化ポテンシャルPH 2 O/PH 2 を0.1〜0.5とし、かつ、同昇温過程における900℃以上の雰囲気ガスの酸化ポテンシャルPH 2 O/PH 2 を0.02以下とすることを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
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