JP4294189B2 - ポリビニルアルコール系樹脂フィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムに関する。さらに詳しくは、耐水性、耐湿性、温水溶解性、耐久性、強度に優れたフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリビニルアルコールからなるフィルムは、力学物性、透明性、酸素バリア性、耐油性等に優れており、繊維包装材料、農業用フィルム、ガスバリア材、フィルター、偏光膜等の光学フィルム等として使用されている。またポリビニルアルコールが水溶性や生分解性を有していることから、包装用、農業用、土木用、医療用、工業用、日用雑貨用、玩具用等の水溶性フィルム、生分解性フィルムとして、近年注目されている。
【0003】
従来、ポリビニルアルコールは融点と分解温度が近いため、熱溶融成形にてフィルムを製造することが困難であった。ポリビニルアルコールに熱溶融性を付与するため、これまで種々の検討がなされてきた。例えば、けん化度を下げてたり、他のコモノマーを共重合させたり、可塑剤を添加することにより、融点や溶融粘度を下げて熱溶融性を付与する方法等が検討されてきた。
【0004】
しかし、けん化度を下げると熱安定性が低下し、成形時に酢酸臭や分解臭が発生したり、フィルムにゲルやブツが発生することがあり問題となることがあるばかりか、得られたフィルムを高湿度下に放置した際の強度や弾性率が大きく低下する。また共重合した場合も、得られたフィルムを高湿下で放置した際の強度や弾性率が低下する。さらに可塑剤を添加して融点や、溶融粘度を下げた場合も、得られたフィルムを高湿下で放置した際の強度や弾性率が低下するばかりか、可塑剤がフィルム表面に滲み出たりすることがあり、問題となることが多い。また、特開平8−258145には、ビニルアルコール系重合体に水を添加し、成形する方法なども検討されているが、製造コストが高く、フィルムに水の発泡が目立ち外観不良となるなど問題が多い。
【0005】
さらに、近年は、フィルムに、冷水に対する耐水性や耐湿性が要求されるようになってきている。即ち、冷水条件下や高湿度下では、破れたり、溶出したり、極端に物性が低下することなく、温水または熱水には溶解するフィルムの要求が高まっている。融点を下げるためけん化度を下げたり、コモノマーを共重合したポリビニルアルコールで作製されたフィルムは耐水性が低下するため、これらの要求に対応できないのが現状であり、熱溶融成形が可能で、耐水性、耐湿性に優れ、かつ温水または熱水で溶解するフィルムが求められていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、このような背景下において、耐水性、耐湿性、温水溶解性、耐久性、強度に優れたフィルムを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、 炭素数4以下のα−オレフィン単位の含有量1〜19モル%、重合度200〜3000、けん化度80〜100モル%およびカルボキシル基およびラクトン環の合計含有量0.02〜0.4モル%のポリビニルアルコール系樹脂を熱溶融成形してなるフィルムを提供することにより達成される。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステルと炭素数4以下のα−オレフィンとの共重合体のけん化物である。ここでビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表例として挙げられるが、その他にプロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステルも挙げられる。これらのビニルエステルは一種あるいは二種以上混合して使用してもよい。
【0009】
炭素数4以下のα−オレフィンとして、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等が挙げられるが、得られるフィルムの耐水性、耐湿性の点で、エチレンが好ましい。α−オレフィン、特にエチレンを特定量共重合することで、フィルムの耐水性や耐湿性を大きく損なうことなく、ポリビニルアルコール系樹脂に熱溶融性を付与できるのは驚くべきことである。α−オレフィンの含有量は1〜19モル%であることが必要であり、2〜15モル%であることが好ましく、3〜12モル%であることが特に好ましい。α−オレフィンの含有量が1モル%未満では、共重合による効果が顕著に現れず、熱溶融性が低下する。一方、α−オレフィンの含有量が19モル%を超えると、得られたフィルムの水溶性が低下し、温水に対しても溶解しなくなる。
【0010】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、α−オレフィン以外の変性がなされていてもよい。ビニルエステルと共重合可能なビニルモノマーとしてはアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;アリルアルコール;ビニルトリメトキシシラン;N−ビニル−2−ピロリドン、イソプロペニルアルコール、7−オクテン−1−オール、アリルアセテート、イソプロペニルアセテート等が挙げられる。
【0011】
本発明に用いられるポリビニルアルコール系樹脂の重合度は200〜3000であることが必要であり、250〜2500であることが好ましく、300〜2000であることが特に好ましい。重合度が200より低いと得られたフィルムの物性、特に耐衝撃性や力学物性が低下する。一方、重合度が3000より高いと、溶融粘度が高くなり、熱溶融成形が著しく困難となる。
【0012】
本発明に用いられるポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、80〜100モル%であることが必要であり、85〜100モル%であることが好ましく、90〜100モル%であることが特に好ましい。けん化度が80モル%未満では、フィルムの耐水性、耐湿性が低下するばかりか、成形時の熱安定性が悪くなり、酢酸臭を発生したり、フィルムにブツやゲルを多量に生じることがある。
【0013】
さらに、ポリビニルアルコール系樹脂は、これらのコモノマーの種類や量、けん化度、重合度のうち少なくともひとつが異なるポリビニルアルコール系樹脂を混合して使用してもよい。
【0014】
本発明に使用するポリビニルアルコール系樹脂は、熱溶融性であることが必要である。熱溶融性とは、熱溶融成形時において著しい劣化やゲル化等の変質をきたさないような成形条件を設定し得るものであり、融点が170〜230℃のポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。融点が170℃未満の場合は、ポリビニルアルコール系樹脂の熱安定性や耐熱性、さらには耐水性、耐湿性が低下するため、問題となることがある。一方、融点が230℃を超えると、ポリビニルアルコール系樹脂の熱分解温度と近くなるため、成形が困難となる場合がある。また、190℃〜230℃の範囲のいずれかの温度で、2160g荷重におけるメルトフローインデックスが0.1〜500g/10分のものが一般的に用いられる。
【0015】
さらにまた、本発明のポリビニルアルコール系樹脂のカルボキシル基およびラクトン環の合計含有量は0.02〜0.4モル%であることが必要であり、、0.022〜0.37モル%が好ましく、0.024〜0.33モル%がより好ましく、0.025〜0.3モル%が特に好ましい。本発明におけるカルボキシル基はカルボキシル基またはその金属塩を包含し、アルカリ金属としてはカリウム、ナトリウムなどがあげられる。カルボキシル基およびラクトン環の合計含有量が0.02モル%未満の場合には、ポリビニルアルコール系樹脂を熱溶融成形した際の、増粘、ゲル化が顕著となり、溶融成形性が低下する場合がある。一方、カルボキシル基およびラクトン環の合計含有量が0.4モル%を超えると、ポリビニルアルコール系樹脂の熱分解により溶融成形性が悪くなることがあるばかりか、得られたフィルムの耐水性、耐湿性が低下することがある。
【0016】
カルボキシル基およびラクトン環を有するα−オレフィン変性ビニルアルコール系樹脂の製法としては、▲1▼酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体とα−オレフィンとカルボキシル基およびラクトン環を生成する能力を有する単量体とを共重合して得られたビニルエステル系樹脂を、アルコールあるいはジメチルスルホキシド溶液中でけん化する方法、▲2▼メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのカルボン酸を含有するチオール化合物の存在下で、α−オレフィンとビニルエステル系単量体を重合した後それをけん化する方法、▲3▼酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合する際に、ビニルエステル系単量体およびビニルエステル系樹脂のアルキル基への連鎖移動反応を起こし、高分岐ビニルエステル系樹脂を得た後にけん化する方法、▲4▼エポキシ基を有する単量体とビニルエステル系単量体との共樹脂をカルボキシル基を有するチオール化合物と反応させた後けん化する方法、▲5▼PVAとカルボキシル基を有するアルデヒド類とのアセタール化反応による方法などが挙げられる。
【0017】
ポリビニルアルコール系樹脂のカルボキシル基およびラクトン環の合計含有量はプロトンNMRのピークから求めることができる。けん化度99.95モル%以上に完全にけん化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間して分析用のPVAとする。
上記▲1▼の場合、作成した分析用PVAをDMSO−D6に溶解し、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて60℃で測定した。アクリル酸、アクリル酸エステル類、アクリルアミドおよびアクリルアミド誘導体の単量体は、主鎖メチンに由来するピーク(2.0ppm)を用いて、メタクリル酸、メタクリル酸エステル類、メタクリルアミドおよびメタクリルアミド誘導体の単量体は、主鎖に直結するメチル基に由来するピーク(0.6〜1.1ppm)を用いて、常法により含有量を算出した。フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体は、作成した分析用PVAをDMSO−D6に溶解後トリフルオロ酢酸を数滴加え、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて60℃で測定した。定量は4.6〜5.2ppmに帰属されるラクトン環のメチンピークを用いて常法により含有量を算出した。
▲2▼および▲4▼の場合、硫黄原子に結合するメチレンに由来するピーク(2.8ppm)を用いて含有量を算出した。
▲3▼の場合、作成した分析用PVAをメタノール−D4/D2O=2/8に溶解し、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定した。末端のカルボン酸もしくはそのアルカリ金属塩のメチレン由来ピーク(下記の化1および化2)は2.2ppm(積分値A)および2.3ppm(積分値B)に帰属し、末端のラクトン環のメチレン由来ピークは(下記の化3)は2.6ppm(積分値C)、ビニルアルコール単位のメチン由来ピークは3.5〜4.15ppm(積分値D)に帰属し、下記の式でカルボキシル基およびラクトン環の合計含有量を算出する。ここで△は変性量(モル%)を表す。
カルボキシル基およびラクトン環の合計含有量(モル%)=50×(A+B+C)×(100−△)/(100×D)
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
【化3】
【0021】
▲5▼の場合、作成した分析用PVAをDMSO−D6に溶解し、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて60℃で測定した。アセタール部分のメチンに由来するピーク4.8〜5.2ppm(下記の化4)を用いて、常法により含有量を算出した。
【0022】
【化4】
【0023】
尚、本発明のフィルムには、グリセリン、ジグリセリンやそれらの誘導体、ポリエチレングリコール、水等公知の可塑剤が添加されているものも包含される。可塑剤の添加量はポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対し、0〜30重量部であることが好ましく、0〜25重量部であることがさらに好ましい。可塑剤の添加量が30部を超えると、フィルムの耐水性や耐湿性が低下したり、可塑剤が表面ににじみ出たりして問題になることがある。また、他の添加剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、離型剤、フィラー、界面活性剤など)を本発明の目的が阻害されない範囲で使用できる。
【0024】
本発明のフィルムは、上記のポリビニルアルコール系樹脂を熱溶融成形することにより作製される。熱溶融成形法は他の製膜法と比較して製造コストが安価であり、さらには、溶融状態から冷却される過程においてフィルムが結晶化することにより、耐水性、強度等が向上する等の利点がある。熱溶融成形法の種類には特に限定が無く、樹脂を融点または軟化点以上の温度に加熱し、フィルムに賦形する方法であれば公知の方法が使用できる。一例として、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形などが挙げられる。また、フィルムの厚みにも特に制限が無く、用途により適宜選択できるが、通常1〜1000μmの範囲で使用されることが多い。
【0025】
本発明のフィルムは、耐水性、耐湿性に優れており、温水や熱水には溶解するフィルムである。具体的には、30℃の冷水にフィルムを10分間浸した時の溶出率が40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが特に好ましい。さらに10分間浸した後、引き上げる際に、破断、溶断しないフィルムであることが好ましい。また、80℃の温水に10分間浸したときの溶出率が70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であるフィルムである。
【0026】
本発明のフィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂の持つ優れた耐久性、強度を保持しながら、耐水性、耐湿性、温水溶解性に優れており、包装用、農業用、土木用、医療用、工業用、日用雑貨用、玩具用等の水溶性フィルムまたはシート、生分解性フィルムまたはシート等、種々の用途に使用される。
【0027】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。また、PVAの分析方法は下記の要領で測定した。
【0028】
▲1▼PVAの分析方法
PVAの分析方法は特に記載のない限りはJIS−K6726に従った。
本発明のエチレン変性量は変性ポリビニルエステルを用いて、カルボキシル基およびラクトン環の合計含有量はPVAを用いて500 MHz 1H-NMR(JEOL GX-500)装置による測定から前述のとおり求めた。
本発明のPVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を調べた。
【0029】
実施例1〜7
重合度、けん化度、変性度、カルボキシル基およびラクトン環の合計含有量が異なる種々のポリビニルアルコール系樹脂をそのままもしくは可塑剤(グリセリン)を添加後、2軸押出機を用い、225℃で溶融混練することでペレットを作製した。
さらに、ペレットからシリンダー温度225℃、ダイス温度220℃でインフレーション成形を行い、厚さ30μ、折り幅18cmのフィルムを得た。成形性、フィルムの水溶性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
【0030】
評価方法
(1)成形性
フィルムの外観を目視で評価した。評価は以下の基準で行った。
◎:フィルムに着色やゲルが認められず、樹脂の劣化による発煙や分解臭もない。
○:フィルムに着色またはゲルがわずかに認められるが、樹脂の劣化による発煙や分解臭はほとんどない。
△:フィルムにかなり着色やゲルが認められ、樹脂の劣化による発煙や分解臭が認められる。
×:樹脂の劣化が激しい、または樹脂の融点が高いため溶融成形できない。
もしくは得られたフィルムが脆いため、巻き取る際にフィルムが割れてしまい、連続してフィルムを得ることが出来ない。
(2)水溶性(溶出率)
フィルムを30℃または80℃の水中に10分間浸漬し、溶出率を測定した。
【0031】
比較例1〜3
ポリビニルアルコール系樹脂の重合度、けん化度、変性度、カルボキシル基およびラクトン環の合計含有量が異なる以外は実施例1と同様に成形したが、樹脂の劣化が激しい、または樹脂の融点が高いため溶融成形できないか、もしくは得られたフィルムが脆いため、フィルムを得ることが出来なかった。
【0032】
比較例4〜8
ポリビニルアルコール系樹脂の重合度、けん化度、変性度、カルボキシル基およびラクトン環含有量が異なる以外は、実施例1と同様にフィルムを作製し、成形性、水溶性を評価した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、、耐水性、耐湿性、温水溶解性、耐久性、強度に優れたフィルムを提供することができる。
Claims (2)
- 炭素数4以下のα−オレフィン単位の含有量1〜19モル%、重合度200〜3000、けん化度80〜100モル%およびカルボキシル基およびラクトン環の合計含有量0.02〜0.4モル%のポリビニルアルコール系樹脂を熱溶融成形してなるフィルム。
- α−オレフィン単位がエチレン単位である請求項1記載のフィルム。
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