JP4283934B2 - 磁気記録媒体および磁気記憶装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は磁気記憶装置、具体的には1平方インチ当たり10ギガビット以上の記録密度を有する磁気記憶装置と、これを実現するための低ノイズで、かつ熱磁気緩和による再生出力の減衰が抑制された高い安定性を有す薄膜磁気記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
面内磁気記録媒体では、高保磁力化、高分解能化を実現するために、磁性層は(11.0)面を基板面と略平行とした配向(以後、(11.0)配向と略す)をとり、磁化容易軸であるc軸を膜面内方向に向けていることが好ましい。これを実現させるために基板上と磁性層間にCr下地層を形成している。これは、従来のNiP鍍金をコーチィングしたAl-Mg合金基板(以後、Al基板と記す)上に形成されたCrは(100)面を基板面と略平行にした配向をとるため、その上に形成された磁性層はエピタキシャル成長により、(11.0)配向をとるためである。また、磁性層が原子半径の大きいPtを高濃度に含有する場合には、CrにVやTi等を添加して格子定数を増加させた下地層を用いることによって、格子整合性が高まり、保磁力化が向上することが特開昭62-257618や、特開昭63-197018に開示されている。一方、基板にガラスを用いた場合、該基板上に形成したCr、またはCr合金下地層は前述のような(100)配向をとらない。よって、下地層に(100)配向をとらせるため、基板と下地層間に更にシード層等と呼ばれる新たな層が形成されている。このようなシード層の例としてはTa(特開平4-188427)やMgO(J. Appl. Phys. 67, 3638 (1995))等が開示されている。
【0003】
しかし、上述の媒体では、一つのCr合金下地結晶上に、c軸を互いに直行させた複数のCo合金が成長したバイクリスタル構造をとることが報告されている( J. Appl. Phys., vol. 73, 418(1993), J. Appl. Phys., vol. 73, 5566 (1993))。このような、バイクリスタル構造をとることにより、磁性粒径は下地粒径より微細化され、媒体ノイズが低減されるという利点があるが、反面、隣接する磁性粒間の交換相互作用により、実効的な磁気異方性が相殺され、著しい保磁力低下を引き起こすという欠点がある。これを改善するため、B2構造のNiAl合金からなるシード層の導入が提案されている(IEEE Trans. Magn. vol. 30, 3099 (1992))。該NiAlシード層上では、Cr下地層が(211)配向するため、磁性層がエピタキシャル成長により(10.0)配向した媒体が得られる。このような媒体では磁性層のc軸は、(11.0)配向した磁性層と同様、膜面内方向を向いており、かつ、上述の様なバイクリスタル構造をとらず一つの下地結晶粒上に一つの磁性結晶粒が成長している。このため、実効的な磁気異方性の低下を招かず、高い保磁力が得られる。
【0004】
しかし、上記NiAlシード層上に形成されたCr合金下地層中の平均粒子サイズは15nm程度であり、磁性結晶粒も同程度の粒子サイズとなる。これは、10Gb/in2以上の記録密度を実現できる低ノイズな媒体を得るのに十分でない。また、不可避的に発生した肥大な下地結晶粒上に成長した磁性結晶粒は、該下地結晶粒と同程度に肥大化するため、著しいノイズ増大を招く。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、磁性層に(11.0)配向をとらせたまま、バイクリスタルクラスターの形成を抑制することにより、低ノイズで、かつ熱磁気緩和が抑制された磁気記録媒体を提供することである。更に、これを高感度なスピンバルブ型磁気ヘッドと組み合わせ、条件を最適化することにより、1平方インチ当たり10ギガビット以上の記録密度を持った信頼性の高い磁気記憶装置を提供することができる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、磁性層がhcp構造を有すCoを主成分とした合金からなり、該磁性層が実質的に(11.0)面を基板面と略平行とした配向をとり、かつ磁性層中の平均粒径が8nm以上、14nm以下であり、かつc軸の相対角度が0度以上、10度以下、または80度以上、90度以下で隣接しているCo合金結晶粒群を一つのクラスターとみなしたとき、該クラスターを形成している結晶粒群の基板に略平行面の面積の総和が、磁性層中の全ての結晶粒の基板に略平行面の面積の総和の50%以下であることを特徴とする磁気記録媒体と、これを記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部から成る磁気ヘッドと、上記磁気ヘッドを上記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、上記磁気ヘッドへの信号入力と該磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を有する磁気記憶装置において前記磁気ヘッドの再生部が磁気抵抗効果型磁気ヘッドで構成される磁気記憶装置により達成される。
【0007】
上記磁気記録装置で用いている磁気ヘッドの磁気抵抗センサ部は、互いの磁化方向が外部磁界によって相対的に変化することによって大きな抵抗変化を生じる複数の導電性磁性層と、その導電性磁性層の間に配置された導電性非磁性層によって構成されたスピン・バルブ効果を利用したものとする。該抵抗センサ部を挟む2枚のシールド層の間隔(シールド間隔)は0.25μm以下が好ましい。これは、シールド間隔が0.25μm以上になると分解能が低下し、信号の位相ジッターが大きくなってしまうためである。
【0008】
磁気記録媒体の磁性層は、hcp構造のCo合金からなり、実質的に(11.0)面を基板面と略平行とした配向をとっている。該磁性層の表面TEM観察より得られた格子像中には、Co合金のc面を表わす縞模様が観察された。図1に該格子像の模式図を示す。図中の直線は、各結晶粒のc面報告(c軸と直角方向)を表わす。該格子像中には、図中の斜線で囲まれた領域のような、バイクリスタルクラスターと呼ばれる、互いのc面(c軸)の相対角度が0度以上、10度以下、または80度以上、90度以下で隣接しているCo合金結晶粒群が観察された。この様なクラスターを形成している全ての結晶粒群の合計面積の、観測された全ての結晶粒の合計面積に対する比率を以後、バイクリスタル面積比率と定義する。図1の格子像の場合、観察した全領域でc面を表わす格子縞がみられたため、バイクリスタル面積比率は、該格子像中の全ての結晶粒の面積の合計に対する、斜線部領域の面積比率となる。統計誤差をなくすため、該面積比率の計算には、100〜150個以上の結晶粒を用いることが好ましい。また、磁性層の(11.0)配向の劣化、或いは該(11.0)配向面の分散の増大等により、c面を表わす格子縞が観察されない場合は、c面が観察された領域のみを対称として面積比率の算出を行う。
【0009】
バイクリスタル面積比率を50%以下とすることにより、2.8kOe以上の高い保磁力を有す磁気記録媒体が得られる。該面積比率が50%を上回ると、バイクリスタルクラスターを形成しているCo結晶粒間の磁気異方性の相殺効果が顕著となり、著しい保磁力低下を招くので好ましくない。また、バイクリスタル面積比率を、更に30%以下とすると、より一層の低ノイズ化が図れるので好ましい。更に、該面積比率を20%以下とした場合、これらの特性向上に加え、分解能の大幅な向上が得られるので更に好ましい。バイクリスタル面積比率が5%を下回ると、不可避的に形成された巨大な下地結晶粒上に成長した、磁性結晶の微細化効果が損なわれるので好ましくない。磁性結晶粒の平均粒径が8nmよりも小さくなると熱磁気緩和の影響が顕著になり、また、14nmよりも大きくなると媒体ノイズが増大するため好ましくない。該平均粒径を更に9nm以上、12nm以下とすると、より一層低ノイズで、かつ高いオーバーライト特性を有す磁気記録媒体が得られるので好ましい。また、本磁気記録媒体の磁性層の結晶配向は主として(11.0)面を基板面と平行にした配向であるが、(00.2)配向や、(10.1)配向等の他の配向をとった結晶粒が混在していても、X線回折スペクトラムにおけるこれらの面からの回折ピーク強度が、(11.0)面からの回折ピーク強度の50%未満であれば、上述の効果は得られる。また、X線回折スペクトラムのピーク位置より算出したCo合金(11.0)面間隔dCo(11.0)と、Cr合金(200)面間隔dCr(200)を用いて[√3・dCo(11.0) - √2・dCr(200)] / √2・dCr(200)×100 (%)と定義された格子ミスフィットは0%以上、8%以下が望ましい。これは、該ミスフィットが8%を上回ると、磁性結晶中に多くの欠陥が生じ、熱揺らぎにより容易に磁化反転が引き起こされ、また、0%を下回ると磁性結晶粒に引っ張り応力が働き、保磁力低下を招くためである。
【0010】
また、バイクリスタル面積比率は、下地層の平均粒径に強く依存しており、該粒径を15nm以下とすることによって、特に効果的に低減させることが可能となる。但し、該粒径が5nmを下回ると磁性層の結晶粒径が著しく増大し、ノイズ増大を引き起こすため好ましくない。また、下地層の平均粒径に加え、バイクリスタル面積比率は、磁性層と下地層間の格子ミスフィット、下地層の(100)配向度、基板バイアス等の成膜プロセス等にも影響されるため、これらを制御することによっても、低減可能である。
【0011】
下地層には、Cr等の体心立方構造を有す元素を主成分とした合金が用いられる。該下地合金は、格子定数向上を目的としたTi, Mo, V, W等の添加元素を含有していてもよい。また、更に粒径微細化を目的としてB, C, Si等が添加されていてもよいし、これらを組合せた多層構造としてもよい。
【0012】
シード層には、Cr合金からなる下地層を(100)配向させるため、MgO, Ta, NiP, CoCrZr, NiTa, NiNb、及びこれらを主成分とする材料等が好ましい。また、シード層と基板との間に耐周動性向上を目的とした凹凸を形成するための層、或いは密着性向上を目的とした層を形成してもよい。
【0013】
基板にはNiPメッキを施したAl-Mg合金基板のほか、化学強化ガラス基板、結晶化ガラス基板、非晶質カーボン基板等を用いることができる。磁性層の保護層としてカーボンを厚さ3nm〜20nm形成し、さらに吸着性のパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層を厚さ2nm〜10nm設けることにより信頼性が高く、高密度記録が可能な磁気記録媒体が得られる。保護層としては水素、または窒素を添加したカーボン膜、或いは、炭化シリコン、炭化タングステン、(W-Mo)-C、(Zr-Nb)-N等の化合物から成る膜、或いは、これらの化合物とカーボンの混合膜を用いてもよい。
【0014】
磁気記録媒体の磁気特性としては、磁化容易軸方向に測定した保磁力を2800エルステッド以上とし、残留磁束密度Brと膜厚 t の積Br×tを30ガウス・ミクロン以上、80ガウス・ミクロン以下とすると、1平方インチ当たり10ギガビット以上の記録密度領域において、良好な記録再生特性が得られるので好ましい。円周方向の保磁力が2800エルステッドよりも小さくなると、高記録密度(350kFCI以上)での出力が小さくなり好ましくない。また、Br×tが80ガウス・ミクロンより大きくなると分解能が低下し、30ガウス・ミクロンよりも小さくなると再生出力が小さくなり好ましくない。
【0015】
【発明の実施の形態】
<実施例1>
本発明の実施例を図2、図3、図4を用いて説明する。本実施例の磁気記憶装置の平面摸式図、断面摸式図を図2(a)、及び図2(b)に示す。この装置は磁気ヘッド21、及びその駆動部22と、該磁気ヘッドの記録再生信号処理手段23と磁気記録媒体24とこれを回転させる駆動部25とからなる周知の構造を持つ磁気記憶装置である。
【0016】
上記磁気ヘッドの構造を図3に示す。この磁気ヘッドは基体31上に形成された記録用の電磁誘導型磁気ヘッドと再生用のスピンバルブ型磁気ヘッドを併せ持つ複合型ヘッドである。前記記録用ヘッドはコイル32を挟む上部記録磁極33と下部記録磁極兼上部シールド層34からなり、記録磁極間のギャップ層厚は0.30μmとした。また、コイルには厚さ3μmのCuを用いた。前記再生用ヘッドは磁気抵抗センサ35とその両端の電極パタン36からなり、磁気抵抗センサは共に1μm厚の下部記録磁極兼上部シールド層と下部シールド層37で挟まれ、該シールド層間距離は0.22μmである。尚、図3では記録磁極間のギャップ層、及びシールド層と磁気抵抗センサとのギャップ層は省略してある。
【0017】
図4に磁気抵抗センサの断面構造を示す。該センサの信号検出領域41は、酸化Alのギャップ層42上に、5nmのTaバッファ層43、7nmの第一の磁性層44、1.5nmのCu中間層45、3nmの第二の磁性層46、10nmのFe-50at%Mn反強磁性合金層47が順次形成された構造である。前記第一の磁性層にはNi-20at%Fe合金を使用し、第二の磁性層にはCoを使用した。反強磁性層からの交換磁界により、第二の磁性層の磁化は一方向に固定されている。これに対し、第二の磁性層と非磁性層を介して接する第一の磁性層の磁化の方向は、磁気記録媒体からの漏洩磁界により変化するため、抵抗変化が生じる。再生用ヘッドには、このような二つの磁性層の磁化の相対的方向の変化に伴う抵抗変化を利用したスピンバルブ型磁気ヘッドを使用した。信号検出領域の両端にはテーパー形状に加工されたテーパー部48がある。テーパー部は、磁気抵抗強磁性層を単磁区化するための永久磁石層49と、その上に形成された信号を取り出すための一対の電極11からなる。永久磁石層は保磁力が大きく、磁化方向が容易に変化しないことが必要であり、CoCr、CoCrPt合金等が用いられる。
【0018】
図5に本発明の磁気記録媒体の層構造を示す。アルカリ洗浄を施した化学強化ガラス基板51を200℃まで加熱した後、MgOシード層52を30nm、B濃度を2から10at%まで変化させたCr-20at%Ti-Xat%B合金下地層(X=2-10)53を30nm、Co-22at%Cr-10at%Pt磁性層54を18nm、カーボン保護膜55を10nm、真空中で連続的に成膜した。基板加熱はランプヒーターを用いて行い、MgOシード層のみRFスパッタで形成し、他の層は全てDCスパッタにより、10mTorrのArガス雰囲気中で行った。尚、比較例媒体としてBを添加しないCr-20at%Ti合金下地層を用いた磁気記録媒体を作製した。
【0019】
表1に各磁気記録媒体の下地層、及び磁性層の平均粒径、バイクリスタル面積比率、保磁力、媒体ノイズ、及び分解能の値を示す。
【0020】
【表1】
【0021】
ここで、下地層の平均粒径は、磁気記録媒体を表面側(カーボン保護膜側)からイオンミリングし、カーボン保護膜、及び磁性層を削除した磁気記録媒体のTEM観察を行うことによって求めた。尚、磁性層の削除はオージェ測定によって、Co、またはPtが検出されなくなることによって確認した。また、規格化媒体ノイズは、線記録密度350kFCIで記録したときの媒体ノイズNdを、孤立再生波出力E0で規格化した値Nd/E0と定義し、分解能は該記録密度での再生出力E350kFCIと孤立再生波出力E0の比E350k/E0×100 (%)と定義した。下地層の平均粒径が20nm以上と大きい比較例媒体では、バイクリスタル面積比率は70%以上であり、保磁力が低い。これに対し、本実施例媒体では下地層の平均粒径が14nm以下で、かつ該クラスター面積比率が50%以下となり、2.8kOe以上の高い保磁力が得られている。また、バイクリスタル面積比率が30%以下となる実施例媒体1C-1Fでは、媒体ノイズが特に低減されており、該面積比率が更に20%以下の実施例磁気記録媒体1E、1Fではそれらに加え、高い分解能を示した。
【0022】
本実施例磁気記録媒体に潤滑剤56を塗布したのち、上記磁気ヘッドとともに磁気記憶装置に組み込み、一平方インチ当たり10ギガビットの条件で記録再生特性を評価したところ、2.2という高い装置S/Nが得られた。また、コンタクト・スタート・ストップ試験(CSS試験)を行ったところ、3万回のCSSを行っても摩擦係数は0.2以下であった。
【0023】
<実施例2>
カーボン基板上に室温でTaシード層を20nm形成したのち、ランプヒーターにより300℃まで加熱し、10nmのCr-30at%V-3at%C下地層、17nmのCo-19at%Cr-8at%Pt-3at%Ta磁性層、12nmのカーボン保護膜を連続的に成膜した。Taシード層の成膜は、ArにN2を2%添加した混合ガス雰囲気中で行い、ガス圧を5から15mTorrまで変化させた。その他の層は全て5mTorrの純Arガス雰囲気中で形成した。また、比較例としてTaシード層を、30〜50mTorrのArにN2を20%添加した混合ガス雰囲気中で形成した磁気記録媒体を作製した。本実施例及び比較例における磁気ディスク媒体の特性について表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
本実施例、及び比較例磁気記録媒体のいずれも、磁性層の平均粒径は11〜14nmと大きな差はなく、またバイクリスタル面積比率も全て50%以下であった。X線回折測定を行ったところ、磁性層からの回折ピークは、すべての磁気記録媒体に於いて、CoCrPtTa(11.0)ピークとCoCrPtTa(00.2)ピークのみであった。しかし、本実施例磁気記録媒体では両者のピーク強度比ICo(11.0)/ICo(00.2)は2.0以上と、磁性層は強い(11.0)配向を示していたのに対し、比較例磁気記録媒体では磁性層は、強い(00.2)配向を示し、該強度比は2.0未満であった。これは、本実施例磁気記録媒体のTaシード層が主としてベータ構造であったのに対し、比較例磁気記録媒体のTaシード層は主としてアルファ構造であったためと考えられる。本実施例磁気記録媒体はいずれも2.8kOe以上の高い保磁力と、0.02μVrms/μVpp以下の低い媒体ノイズを示した。よって以上より、バイクリスタル面積比率が50%以下の磁気記録媒体では、磁性層に(11.0)配向以外の結晶粒が混在していても、(11.0)面からの回折ピーク強度が他の面からのピーク強度の2倍以上であれば、良好な磁気特性が得られることが明らかになった。
【0026】
本実施例磁気記録媒体に潤滑剤を塗布したのち、上記磁気ヘッドとともに磁気記憶装置に組み込み、一平方インチ当たり10ギガビットの条件で記録再生特性を評価したところ、2.0という高い装置S/Nが得られた。
【0027】
<実施例3>
アルカリ洗浄を施した化学強化ガラス基板を150℃まで加熱した後、Ni-30at%Taシード層を20nm、Cr-Xat%Mo-5at%B下地層(X=20, 30, 40, 50)を40nm、Co-23at%Cr-12at%Pt-2at%Ta磁性層を14nm、カーボン保護膜を12nm、連続的に成膜した。カーボン保護膜以外は、全て10mTorrのArガス雰囲気中で形成し、下地層、及び磁性層形成時にそれぞれ、-100V、-300Vの基板バイアスを印加した。カーボン保護膜は、Arガスにメタンを10%添加した混合ガス中で形成した。また、比較例としてCr-50at%Mo-5at%B下地層を用い、下地層、磁性層ともに基板バイアスを印加せずに形成した磁気記録媒体を作製した。
【0028】
X線回折測定を行ったところ、実施例磁気記録媒体、比較例磁気記録媒体とも磁性層からのhcp(11.0)ピーク、及び下地層からのbcc(200)ピークのみが観察された。また、TEM観察より求めた磁性層の平均粒径は、いずれの磁気記録媒体も12〜14nm程度であった。表3に各磁気記録媒体のバイクリスタル面積比率、格子ミスフィット、媒体ノイズ、及び再生出力の減衰率を示す。
【0029】
【表3】
【0030】
ここで、格子ミスフィットは、X線回折スペクトラムのピーク位置より算出したCo合金(11.0)面間隔dCo(11.0)と、Cr合金(200)面間隔dCr(200)を用いて[√3・dCo(11.0) - √2・dCr(200)] / √2・dCr(200)×100 (%)と定義された値である。また、再生出力の減衰率は、記録直後の再生出力E0と48時間後の再生出力E48hを用いて(E48h-E0)/E0×100(%)と定義された値である。尚、本実施例では、熱揺らぎによる記録磁化の減衰を顕著にするため、意図的に膜厚が薄く、かつ高Cr濃度の磁性層を用いた。
【0031】
本実施例磁気記録媒体では、いずれもバイクリスタル面積比率は50%以下であり、0.02μVrms/μVpp以下の低い媒体ノイズを示している。これに対し、バイアスを印加せずに成膜した比較例磁気記録媒体のバイクリスタル面積比率は50%を上回り、媒体ノイズが大きい。一方、実施例磁気記録媒体のうち、格子ミスフィットが8%以下である実施例3Cと実施例3Dは低ノイズであるのに加え、再生出力の減衰率がより低減されていた。よって、格子ミスフィットを8%以下とすることにより、低ノイズ化に加え、熱揺らぎによる再生出力の減衰を抑制できることがわかった。
【0032】
本実施例磁気記録媒体に潤滑剤を塗布したのち、上記磁気ヘッドとともに磁気記憶装置に組み込み、一平方インチ当たり10ギガビットの条件で記録再生特性を評価したところ、2.0という高い装置S/Nが得られた。また、コンタクト・スタート・ストップ試験(CSS試験)を行ったところ、3万回のCSSを行っても摩擦係数は0.2以下であった。
【0033】
<実施例4>
表面に超平滑処理を施したNiPメッキAl-Mg合金基板上に、第一のシード層として50nmのCo-30at%Cr-8at%Zr合金、第二のシード層としてTaを10nm室温で形成し、次いで260℃まで加熱した後、Cr-20at%Ti合金下地層を30nm、Co-22at%Cr-12at%Pt磁性層を18nm、カーボン保護膜を10nm、DCスパッタにより、10mTorrのArガス雰囲気中で連続的に成膜した。また、比較例としてTa/CoCrZr二層シード層の代わりに50nmのNiAl合金シード層を用いた磁気記録媒体を同一成膜条件で形成した。
【0034】
本実施例磁気記録媒体のX線回折スペクトラムでは、強いCoCrPt(11.0)ピークが観測され、バイクリスタル面積比率は28%であった。これに対し、比較例磁気記録媒体の磁性層、下地層からはそれぞれ、強いCoCrPt(10.0)ピーク、CrTi(211)ピークが観測され、(211)配向した下地層上に、磁性層が(10.0)配向をとってエピタキシャル成長していることがわかった。表4に本実施例磁気記録媒体、及び比較例磁気記録媒体の粒径パラメーターを示す。
【0035】
【表4】
【0036】
両者の磁性層の平均粒径はほぼ同程度であったが、比較例磁気記録媒体の磁性層のTEM像中には、粒径が30nm以上の巨大な結晶粒がいくつか観察された。これは、該磁性結晶が、不可避的に形成された粒径30nm以上の巨大な下地粒径上に形成されたためと考えられる。これに対し、実施例磁気記録媒体ではこのような巨大な磁性結晶粒は観察されず、粒径分散を表わす標準偏差値は、比較例磁気記録媒体に対し30%程度低かった。また、表4には保磁力、及び記録再生特性の値も示してあるが、本実施例磁気記録媒体は、保磁力はやや低いものの、0.02μVrms/μVpp以下の低い媒体ノイズと、10%以上の高い分解能を示している。即ち、磁性層の平均粒径が同程度でも、磁性層が(11.0)配向をとり、低頻度でバイクリスタルクラスターが形成された磁気記録媒体の方が、磁性層が(10.0)配向をとり、バイクリスタルクラスターを形成しない磁気記録媒体よりも保磁力は若干低いが、より低ノイズで、かつ高分解能であることが明らかになった。
【0037】
本実施例磁気記録媒体に潤滑剤を塗布したのち、上記磁気ヘッドとともに磁気記憶装置に組み込み、一平方インチ当たり10ギガビットの条件で記録再生特性を評価したところ、2.3という高い装置S/Nが得られた。
【0038】
【発明の効果】
本発明の磁気記録媒体は、高保磁力化、高分解能化、及びノイズ低減効果を持つ。本発明の磁気記録媒体とスピンバルブ型磁気ヘッドを用いることにより、一平方インチ当たり10ギガビット以上の記録密度を有し、かつ平均故障回数が30万時間以上の磁気記憶装置の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の磁気記録媒体の磁性層の平面TEM像を示す模式図である。
【図2】 (a)および(b)は、それぞれ、本発明の一実施例の磁気記憶装置の平面模式図およびそのA-A' 断面図である。
【図3】本発明の磁気記憶装置における、磁気ヘッドの断面構造の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の磁気記憶装置における、磁気ヘッドの磁気抵抗センサ部の断面構造の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施例の磁気記録媒体の断面構造の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
21...磁気ヘッド
22...磁気ヘッド駆動部
23...記録再生信号処理系
24...磁気記録媒体
25...磁気記録媒体駆動部
31...基体
32...コイル
33...上部記録磁極
34...下部記録磁極兼上部シールド層
35...磁気抵抗センサ
36...導体層
37...下部シールド層
41...信号検出領域
42...シールド層と磁気抵抗センサの間のギャップ層
43...バッファ層
44...第一の磁性層
45...中間層
46...第二の磁性層
47...反強磁性層
48...テーパー部
49...永久磁石層
51..基板
52...シード層
53...下地層
54...磁性層
55...保護膜
56...潤滑剤。
Claims (8)
- 体心立方構造を有すCr合金からなり、平均粒径が5nm以上、15nm以下である下地層と、hcp構造を有すCoを主成分とした合金からなり、膜面内方向の平均結晶粒径が8nm以上14nm以下である磁性層とを有し、
該磁性層が実質的に(11.0)面を基板面と略平行とした配向をとり、上記磁性層の(11.0)面からの回折ピーク強度が、磁性層の他のいずれの面からの回折ピーク強度に対しても、2倍以上であり、
かつc軸の相対角度が0度以上10度以下または80度以上90度以下で隣接しているCo合金結晶粒群を一つのクラスターとみなしたとき、該クラスターを形成している結晶粒群の基板に略平行面の面積の総和が、磁性層中の全ての結晶粒の基板に略平行面の面積の総和の50%以下であることを特徴とする磁気記録媒体。 - 上記クラスターを形成している結晶粒群の基板に略平行面の面積の総和が、磁性層中の全ての結晶粒の基板に略平行面の面積の総和の、更に30%以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
- 上記クラスターを形成している結晶粒群の基板に略平行面の面積の総和が、磁性層中の全ての結晶粒の基板に略平行面の面積の総和の、更に20%以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
- 上記結晶粒の平均粒径が更に9nm以上、12nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
- 上記磁性層が実質的に(100)面を基板面と略平行とした配向をとるbcc構造の下地層上に形成されていることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
- 上記磁性層が実質的に(100)面を基板面と略平行とした配向をとるbcc構造の下地層上に形成されており、X線回折スペクトラムのピーク位置より算出した該下地層の(200)面間隔dCr(200)、及び該磁性層の(11.0)面間隔dCo(11.0)を用いて[√3・dCo(11.0) - √2・dCr(200)] / √2・dCr(200)×100 (%)と定義した格子ミスフィットが、0%以上、8%以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
- 磁気記録媒体と、これを記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部から成る磁気ヘッドと、上記磁気ヘッドを上記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、上記磁気ヘッドへの信号入力と該磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を有する磁気記憶装置において、
前記磁気ヘッドの再生部が互いの磁化方向が外部磁界によって相対的に変化することによって抵抗変化を生じる複数の導電性磁性層と、該導電性磁性層の間に配置された導電性非磁性層を含む磁気抵抗センサによって構成されたスピンバルブ型磁気ヘッドで構成され、
かつ、前記磁気記録媒体が請求項1乃至6記載の磁気記録媒体で構成されることを特徴とする磁気記憶装置。 - 前記スピンバルブ型磁気ヘッドの磁気抵抗センサ部が、互いに0.25μm以下の距離だけ隔てられた軟磁性体からなる2枚のシールド層の間に形成されており、かつ、前記磁性膜の厚さtと、記録時における該磁気記録媒体に対する上記磁気ヘッドの相対的な走行方向に磁界を印加して測定した残留磁束密度Brの積Br×tが30ガウス・ミクロン以上、90ガウス・ミクロン以下であり、さらに、上記の磁界印加方向と同じ方向に磁界を印加して測定した前記磁気記録媒体の保磁力が2800エルステッド以上であることを特徴とする請求項7記載の磁気記憶装置。
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