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JP4268915B2 - 反強磁性体膜の製造方法 - Google Patents

反強磁性体膜の製造方法 Download PDF

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JP4268915B2 JP2004265938A JP2004265938A JP4268915B2 JP 4268915 B2 JP4268915 B2 JP 4268915B2 JP 2004265938 A JP2004265938 A JP 2004265938A JP 2004265938 A JP2004265938 A JP 2004265938A JP 4268915 B2 JP4268915 B2 JP 4268915B2
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Description

本発明は反強磁性体膜の製造方法に関する。
従来から、高密度磁気記録における再生用ヘッドとして、磁気抵抗効果素子(以下、MR素子と記す)を用いた磁気ヘッド(MRヘッド)の研究が進められている。現在、磁気抵抗効果膜(MR膜)としては、異方性磁気抵抗効果(AMR)を示すNi80Fe20(at%)合金(パーマロイ)等が一般的に使用されている。AMR膜は磁気抵抗変化率(MR変化率)が3%程度と小さいことから、これに代わる磁気抵抗効果膜材料として、巨大磁気抵抗効果(GMR)を示す(Co/Cu)n等の人工格子膜やスピンバルブ膜が注目されている。
AMR膜を用いたMR素子においては、AMR膜が磁区を有することから、この磁区に起因するバルクハウゼンノイズが実用化の上で大きな課題となっている。このため、AMR膜を単磁区化する方法が種々検討されている。その1つとして、強磁性体であるAMR膜と反強磁性体膜との交換結合を利用して、AMR膜の磁区を特定方向に制御する方法が適用されている。ここでの反強磁性体としては従来からγ−FeMn合金が広く知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
一方、スピンバルブ膜は強磁性層/非磁性層/強磁性層の積層構造からなるサンドイッチ膜を有し、一方の強磁性層の磁化をピン止めすることによりGMRを得ている。スピンバルブ膜における一方の強磁性層の磁化をピン止めする際にも、反強磁性体膜と強磁性体膜との交換結合を利用する技術が普及している。この際の反強磁性体膜としてもγ−FeMn合金が広く使用されている。しかしながら、γ−FeMn合金は耐食性が低く、特に水により腐食しやすいという欠点を有している。このため、γ−FeMn合金からなる反強磁性体膜を用いたMR素子は、素子形状やヘッド形状への加工工程で腐食、特に大気中の水分による腐食が生じやすく、この腐食に基づいて経時的にMR膜との交換結合力が劣化しやすいという問題がある。
反強磁性体膜と強磁性体膜との交換結合膜には、信頼性という観点から例えば393Kで200Oe以上の交換結合力が要求されている。393Kで200Oe以上の交換結合力を得るためには室温での交換結合力に加えて、交換結合力の温度特性が良好である必要がある。交換結合力の温度特性に関しては、強磁性体膜と反強磁性体膜との交換結合力が失われる温度であるブロッキング温度ができるだけ高いことが望ましい。しかし、γ−FeMn合金はブロッキング温度が443K以下と低く、また交換結合力の温度特性も非常に悪い。
一方、例えば特許文献3には、面心正方晶系の結晶構造を有するNiMn合金等のθ−Mn合金を、反強磁性膜として使用することが記載されている。θ−Mn合金からなる反強磁性体膜を用いると、高温域でも反強磁性体膜と強磁性体膜との交換結合力が低下しないことが示されている。さらに、ブロッキング温度が高く、交換結合力が大きいと共に、耐食性に優れる反強磁性体膜として、面心立方晶系の結晶構造を有するIrMn合金が提案されている。同じ結晶構造を有する反強磁性体膜としては、PtMn合金やRhMn合金等のγ−FeMn合金以外のγ−Mn合金が知られている(例えば特許文献1参照)。
上述したように、IrMn合金、PtMn合金、RhMn合金、NiMn合金、PdMn合金、CrMn合金等のMn合金は、耐食性に優れ、さらに交換結合膜のブロッキング温度を高くすることができる。よって、MR素子の長期的な信頼性を高める反強磁性体として注目されている。
米国特許第4,103,315号明細書 米国特許第5,014,147号明細書 米国特許第5,315,468号明細書
ところで、反強磁性体膜の形成には一般的にスパッタ法が採用されている。上記したようなMn合金を構成する各元素からなるスパッタリングターゲットを用いて、反強磁性体膜をスパッタ成膜している。しかしながら、従来のスパッタリングターゲットを用いて成膜した反強磁性体膜は、面内の膜組成が不均一になりやすい。このような反強磁性体膜と強磁性体膜との交換結合膜では、十分な交換結合力が得られないという問題があった。また、そのような交換結合膜を用いたMR素子やMRヘッドは、それらを構成する他の層から反強磁性体膜が悪影響を受け、交換結合特性が劣化しやすい等の問題を有している。
さらに、従来のスパッタリングターゲットは、スパッタ初期とライフエンド近くとで、成膜された膜組成に大きな組成ずれが生じやすいという問題を有している。このような反強磁性体膜の膜組成の経時変化も交換結合特性の劣化を生じさせる原因になっている。
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、耐食性や熱特性に優れるMn合金からなる反強磁性体膜を製造するにあたって、膜組成や膜質の安定化を図り、室温および高温域で十分な交換結合力を安定して得ることを可能にした反強磁性体膜の製造方法を提供することを目的としている。
本発明の反強磁性体膜の製造方法は、焼結温度が1150〜1200℃の範囲の焼結法を適用して、10〜98原子%のMnを含み、残部が実質的にPt、Rh、Ir、AuおよびRuから選ばれる少なくとも1種のR元素からなり、かつターゲット組織の少なくとも一部として前記R元素とMnとの合金相および化合物相から選ばれる少なくとも1種を有し、酸素含有量が1重量%以下(0を含む)であると共に、炭素含有量が0.3重量%以下(0を含む)であり、最大粒径が50μmを超える、前記R元素との合金相および化合物相を構成するMnを除く残余のMn粒が存在しないターゲット素材を作製し、前記ターゲット素材をターゲット形状に加工した後にバッキングプレートと接合して製造したスパッタリングターゲットを用いて、前記スパッタリングターゲットからの組成のずれが10原子%以下の膜組成を有するR−Mn系反強磁性体膜をスパッタ成膜する工程を具備することを特徴としている。
本発明の反強磁性体膜の製造方法は、Mn含有量が30原子%以上のスパッタリングターゲットを用いる場合に好適である。さらに、本発明で用いるスパッタリングターゲットは、R元素がIrである場合にTiおよびHfら選ばれる少なくとも1種の元素を40原子%以下の範囲で含有していてもよい。本発明の製造方法を適用して作製される反強磁性体膜は、スパッタリングターゲットからの組成のずれが10原子%以下の膜組成を有すること、さらに面内の膜組成分布のばらつき(最大値と最小値との差)が0.5原子%以下であることを特徴としている。
本発明の製造方法を適用して作製される反強磁性体膜は、例えば磁気抵抗効果素子に使用される。このような磁気抵抗効果素子は、例えば上記した本発明の反強磁性体膜と、前記反強磁性体膜と交換結合された強磁性体膜とを具備する。さらには、上記した本発明の反強磁性体膜と、前記反強磁性体膜と交換結合された第1の強磁性層と、前記第1の強磁性層と非磁性層を介して積層された第2の強磁性層とを具備する。このような磁気抵抗効果素子は例えば磁気ヘッドに用いられ、さらにMRAMのような磁気記憶装置、磁気センサ等に使用することもできる。
本発明においては、反強磁性体膜のスパッタ成膜に用いるスパッタリングターゲット中に、R元素をMnとの合金相や化合物相として分布させている。R元素とMnとの化合物相や合金相としてR元素をターゲット組織中に分布させることによって、ターゲット中の組成を均一化することができる。さらに、ターゲット組織としても均一な状態に近付く。特に、ターゲットの全体組成がMnリッチである場合、R元素をMnとの合金相や化合物相として分布させることによって、組成や組織の均一性を向上させることができる。
さらに、スパッタリングターゲット中の酸素含有量を1重量%以下とすることによって、Mnリッチのターゲット組成を有するスパッタリングターゲットであっても、容易に高密度化することができる。スパッタリングターゲットの低酸素濃度化や高密度化は、それを用いて成膜した反強磁性体膜の高純度化および低酸素濃度化に大きく寄与する。さらに、反強磁性体膜の膜質や膜組成(ターゲット組成からのずれ)等の改善にも寄与する。
上述したようなスパッタリングターゲットを用いて、反強磁性体膜をスパッタ成膜することによって、面内の膜組成の均一性に優れる反強磁性体膜が安定して得られる。さらに、スパッタリングターゲットの組成や組織の均一化は、スパッタ初期からターゲットのライフエンドまでの組成ずれの抑制に効果を発揮する。スパッタリングターゲットの低酸素濃度化や高密度化も同様である。このように、本発明の製造方法によれば膜組成の安定性および面内の膜組成の均一性に優れる反強磁性体膜を得ることが可能となる。このような反強磁性体膜を例えば強磁性体膜と積層して交換結合膜を構成することによって、十分な交換結合力、良好な耐食性や耐熱性等の優れた特性を安定して得ることができる。
本発明の反強磁性体膜の製造方法によれば、耐食性や熱特性に優れるMn合金からなる反強磁性体膜の膜組成や膜質の安定化を図ることができる。よって、十分な交換結合力が安定して得られる反強磁性体膜を再現性よく作製することが可能となる。このような本発明の反強磁性体膜は、磁気抵抗効果素子等に有効に使用されるものである。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の製造方法で用いられるスパッタリングターゲットは、実質的PtRh、IrAuおよびRuら選ばれる少なくとも1種のR元素と、Mnとからなるものである。このようなスパッタリングターゲットを用いて成膜したRMn合金からなる反強磁性体膜は、種々の強磁性体膜と積層することによって、例えば交換結合膜として使用される。
本発明で用いるスパッタリングターゲットにおいて、Mnの含有量はR元素との組合せに基づいて適宜設定されるが、少なくともMn含有量は10原子%以上とする。Mn含有量があまり少なすぎると、良好な交換結合力を得ることができない。一方、R元素の含有量が少なすぎると耐食性が低下する傾向がある。このようなことから、Mn含有量は10〜98原子%の範囲とする。本発明はMn含有量が30原子%以上というように、Mnリッチな組成を有するスパッタリングターゲットを用いる場合に対して特に効果的である。
Mn含有量のより好ましい範囲は、選択したR元素に基づいて設定される。例えば、R元素がIr、Rh、AuRuある場合、Mn含有量は40〜98原子%の範囲とすることが好ましく、さらには60〜95原子%の範囲とすることが望ましい。上記したR元素を含むRMn合金は、一般に上記したような組成範囲で面心立方晶系の結晶構造が安定となる。結晶構造の少なくとも一部が面心立方晶構造のRMn合金は、特に高いネール温度(反強磁性体が反強磁性を失う温度)を有することから、交換結合膜のブロッキング温度をより一層向上させることができる。
元素がPtである場合には、面心立方晶および面心正方晶共に熱安定性に優れる。この際のMn含有量は30〜98原子%の範囲、特に60〜95原子%の範囲とすることが好ましい。
本発明で用いるスパッタリングターゲットにはR元素がIrである場合に、R元素の他TiおよびHfら選ばれる少なくとも1種の元素(A元素)を含有させてもよい。RMn合金からなる反強磁性体膜は、上述した組成範囲や結晶構造等に基づいて、従来のFeMn合金に比べて良好な耐食性が得られるが、このような添加成分を含有させることで一段と耐食性を向上させることができる。ただし、A元素をあまり多量に含有すると交換結合力が低下するおそれがある。A元素の配合量は40原子%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは30原子%以下である。
本発明で用いるスパッタリングターゲットは、ターゲット組織の少なくとも一部として、R元素とMnとの合金相およびR元素とMnとの化合物相から選ばれる少なくとも1種を有している。R元素とMnとを組合せたスパッタリングターゲットは、一般的に粉末焼結法等で高密度化することが難しく、さらにMnに対してR元素を均一に分布させることが困難である。Mnリッチな組成範囲を適用した場合、特にR元素の分布が不均一になりやすい。
このようなR元素とMnとの組合せにおいて、本発明ではR元素をMnとの合金相や化合物相として、スパッタリングターゲット中に分布させている。例えば、R元素としてIrを用いた場合、これらの化合物相としてはIrMn3が挙げられる。このようなMnリッチな化合物相や合金相としてR元素をターゲット組織中に分布させ、単相として存在するR元素量を極力減らすことによって、ターゲット中の組成を均一化することができる。さらに、ターゲット組織(金属組織)としても均一な状態に近付く。特に、ターゲットの全体組成がMnリッチである場合、R元素をMnとの合金相や化合物相として分布させることによって、組成や組織の均一性を向上させることができる。
ここで、R元素として2種類以上の元素を使用する場合、R元素とMnとの合金相や化合物相は、各R元素とMnとの合金や化合物であってもよいし、また2種以上のR元素とMnとの合金や化合物であってもよい。例えば、R元素としてIrとRhを選択した場合、IrとMnの2元系の合金や化合物、RhとMnの2元系の合金や化合物、およびIrとRhとMnの3元系の合金や化合物のいずれか1種以上が存在していればよい。
なお、上記した合金相や化合物相を構成するMn以外は、Mn単相として存在することができる。本発明で用いるスパッタリングターゲットにおいては、R元素の一部も単相として存在することが許容されるが、その比率は上記したような理由から極力減少させることが好ましい。
さらに、上記した合金相や化合物相を構成するMnを除く残余のMnの粒径は50μm以下、すなわち最大粒径が50μmを超えMn粒が存在しないことが好ましい。合金相や化合物相を形成しないMnの粒径が大きいと、微視的に見るとMnが偏析していることになる。このようなMnの偏析に起因する組成や組織の不均一を解消する上でMn粒の最大粒径は50μm以下とすることが好ましい。そのようなMnの平均粒径は10〜40μmの範囲とすることがより好ましい。Mn粒径の微細化は、特にMnリッチなターゲット組成に対して効果を示す。しかし、Mnの平均粒径があまり小さいと酸素含有量の増大原因となるため、10μm以上とすることが好ましい。Mnの最大粒径は30μm以下とすることがさらに好ましい。ここで、Mnの粒径とはMn粒を囲む最小円の直径のことを言う。
上述したスパッタリングターゲットを用いて、反強磁性体膜をスパッタ成膜することによって、面内の膜組成の均一性に優れる反強磁性体膜が安定して得られる。スパッタリングターゲットの組成や組織の均一化は、スパッタ初期からターゲットのライフエンドまでの組成ずれの抑制にも効果を発揮する。このように、本発明のスパッタリングターゲットを用いることによって、膜組成の安定性に優れる反強磁性体膜を再現性よく得ることができる。得られる反強磁性体膜は、さらに面内の膜組成の均一性にも優れるものである。
本発明で用いるスパッタリングターゲットは、さらにターゲット中の酸素含有量を1重量%以下(0を含む)とすることが好ましい。ターゲット中の酸素含有量があまり多いと、特に焼結時のMnの組成制御が難しくなると共に、スパッタ成膜して得られる反強磁性体膜中の酸素量が増大する。これらは反強磁性体膜の特性劣化の要因となるおそれがある。さらに、ターゲット中の酸素含有量が多いと、ターゲットを高密度化することが困難となる。また、加工性が悪くなる上に、スパッタ中にターゲットに割れが入りやすくなる等の問題が生じる。より好ましい酸素含有量は0.7重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以下である。
さらに、ターゲット中の炭素含有量が多い場合にも、焼結時や塑性加工時に割れ等の欠陥が生じやすくなる。さらに、得られる反強磁性体膜の交換結合磁界やブロッキング温度等の特性も低下する。従って、ターゲット中の炭素含有量は0.3重量%以下(0を含む)とすることが好ましい。より好ましい炭素含有量は0.2重量%以下であり、さらに好ましくは0.01重量%以下である。
特に、スパッタリングターゲット中の酸素含有量や炭素含有量を低減することによって、Mnリッチのターゲット組成を有するスパッタリングターゲットであっても、容易に高密度化することができる。さらに、スパッタリングターゲットの低酸素濃度化や低炭素濃度化は、それを用いて成膜した反強磁性体膜の高純度化、膜質や膜組成(ターゲット組成からのずれ)の改善等に寄与する。これらは反強磁性体膜の交換結合磁界やブロッキング温度等の特性を向上させる。
本発明で用いるスパッタリングターゲットの密度は相対密度で90%以上であることが好ましい。スパッタリングターゲットの密度があまり低いと、スパッタ時にターゲットの欠陥部分での異常放電によりパーティクルが発生しやすくなる。パーティクルが反強磁性体膜中に分散すると、特性が劣化すると共に、歩留りの低下要因となる。より好ましい相対密度は95%以上である。
なお、本発明で用いるスパッタリングターゲットにおいては、ターゲット組織の一部を合金相や化合物相とする構成、および酸素含有量を1重量%以下とすると共に、炭素含有量は0.3重量%以下とする構成の一方を満足させることによって、少なくとも所期の効果が得られる。ただし、これら構成はいずれも満足させることが特に好ましい。
本発明で用いるスパッタリングターゲットの製造には、焼結法適用される造コストや原料歩留り等を考慮し、焼結法を適用することが好ましい。
焼結法を適用してスパッタリングターゲットを製造する場合、まず上記したようなターゲット組織(合金相や化合物相を含む金属組織)を得る上で、極力微細な原料粉末(R元素およびMnの各原料粉末)を使用することが好ましい。例えば、微細なIr粉末等のR元素粉末と微細なMn粉末とを用いることによって、焼結の前段階で均一な混合状態が得られると共に、R元素とMnとの間の反応を促進することができる。これらは焼結時にR元素とMnとの合金相や化合物相の生成量の増大に寄与する。さらに、単相として残存するMn粒径の微細化に対しても効果を発揮する。
ただし、R元素およびMnの各原料粉末の粒径があまり小さいと、原料段階での酸素含有量が増大し、これがターゲット中の酸素量の増大原因となる。特に、Mnは酸素を吸着しやすいため、それを考慮して粒径を設定することが好ましい。このようなことから、R元素の原料粉末の平均粒径は20〜50μmの範囲とすることが好ましい。Mnの原料粉末の平均粒径は100μm以下とすることが好ましく、特に40〜50μmの範囲とすることが望ましい。
次に、上記したようなR元素の原料粉末とMnの原料粉末とを所定の比率で配合し、十分に混合する。原料粉末の混合にはボールミル、Vミキサー等、各種公知の混合方式を適用することができる。この際、金属不純物の混入や酸素量の増加等が生じないように、混合条件を設定することが重要である。原料粉末中の酸素については、さらに積極的に減少させるために、脱酸剤として微量の炭素を添加してもよい。ただし、炭素自体も成膜された反強磁性体膜の特性低下要因となるため、上述したようにターゲット中の炭素量が0.3重量%以下となるように条件設定することが好ましい。
例えば、ボールミル混合を適用する場合、金属不純物の混入を防止するために、樹脂(例えばナイロン)製容器やボール、あるいは原料粉末と同質の友材を内張りした容器やボールを用いることが好ましい。特に、原料粉末と同質の材料を適用することが好ましい。さらに、混合工程中に容器内に閉じ込められたガス成分が原料粉末に吸着もしくは吸収されることを防止するために、混合容器内は真空雰囲気もしくは不活性ガスで置換した雰囲気とすることが好ましい。ボールミル混合以外の混合方式を適用する場合においても、同様な不純物の混入防止策を施すことが好ましい。
混合時間は、混合方法、投入する粉末量、混合容器の大きさ等により適宜設定するものとする。混合時間が短すぎると、均一な混合粉末が得られないおそれがある。一方、混合時間が長すぎると、不純物量が増大するおそれがおおきくなる。混合時間はこれらを考慮して適宜設定する。例えば、10リットルの混合容器を用いて、粉末5kg投入でボールミル混合する場合、混合時間は48時間程度とすることが適当である。
次に、上記したようなR元素の原料粉末とMnの原料粉末との混合粉末を焼結させてターゲット素材を作製する。焼結は高密度の焼結体が得られるホットプレス法やHIP法を適用して実施することが好ましい。焼結温度は原料粉末の種類に応じて設定するものとするが、特にR元素とMnとの反応を促進するように、Mnの融点(1244℃)直下の1150〜1200℃の範囲とすることが好ましい。このような高温で混合粉末を焼結させることで、スパッタリングターゲット中のR元素とMnとの合金相や化合物相の量を増加させることができる。言い換えると、単相として存在するR元素量を低減することが可能となる。ホットプレスやHIP時の押圧力は、高密度化が可能な20MPa以上とすることが好ましい。
得られたターゲット素材は、所定のターゲット形状に機械加工される。これをバッキングプレートに例えば半田接合することによって、本発明で用いるスパッタリングターゲットが得られる。
上述したような条件を満足する焼結方法を適用することによって、解法より製造コストが安価な焼結法で、R元素をMnとの合金相や化合物相として存在させると共に、酸素含有量や炭素含有量を低減したスパッタリングターゲットを安定して製造することができる。さらに、焼結法は溶解法に対して使用する希少金属原料の歩留りが高いというような利点も有している。
本発明の反強磁性体膜の製造方法は、上述したようなスパッタリングターゲットを用いて、常法によりスパッタ成膜することでR−Mn系反強磁性体膜を作製するものである。上述したスパッタリングターゲットを用いて形成した反強磁性体膜は、前述したように膜組成の安定性(膜組成のターゲット組成からのずれ(膜組成とターゲット組成との差)が10原子%以下)、および面内の膜組成の均一性(面内の膜組成分布のばらつき(面内組成分布における最大値と最小値との差)が0.5原子%以下)に優れるものである。このような反強磁性体膜は、強磁性体膜と積層して交換結合膜として用いる際に、十分な交換結合力、良好な耐食性や耐熱性等の優れた特性が安定して得られる。
本発明により得られる反強磁性体膜は、例えば強磁性体膜と積層して交換結合膜として使用される。図1は、本発明の反強磁性体膜を用いた交換結合膜の一実施形態の構成を模式的に示す図である。基板1上に形成された交換結合膜2は、積層された反強磁性体膜3と強磁性体膜4とを有している。反強磁性膜体3と強磁性体膜4とは、これらの間で交換結合が生じるように、少なくとも一部を積層させて形成すればよい。なお、交換結合が生じる条件下であれば、反強磁性膜体3と強磁性体膜4との間に他の層を介在させることも可能である。また、反強磁性体膜3と強磁性体膜4との積層順は用途に応じて設定され、反強磁性体膜3を上側に配置してもよい。反強磁性体膜3と強磁性体膜4とを多重積層した積層膜で交換結合膜を構成することも可能である。
RMn合金(もしくはRMnA合金)からなる反強磁性体膜3の膜厚は、反強磁性を発現する範囲内であれば特に限定されるものではないが、大きな交換結合力を得るためには、反強磁性体膜3の膜厚を強磁性体膜4の膜厚より厚くすることが望ましい。反強磁性体膜3を強磁性体膜4の上側に積層する場合には、熱処理後の交換結合力の安定性等の観点から3〜15nmの範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは10nm以下である。また、強磁性体膜4の膜厚も同様の観点から1〜3nm程度とすることが好ましい。一方、反強磁性体膜3を強磁性体膜4の下側に積層する場合には3〜50nm程度とすることが好ましく、強磁性体膜4の膜厚も1〜7nmとすることが好ましい。
強磁性体膜4には、Fe、Co、Niやこれらの合金からなる各種の単層構造の強磁性層、さらには強磁性的な性質を示す磁性多層膜やグラニュラー膜等を用いることができ、具体的には異方性磁気抵抗効果膜(AMR膜)やスピンバルブ膜、人工格子膜、グラニュラー膜等の巨大磁気抵抗効果膜(GMR膜)等が例示される。これら強磁性体のうち、特にCoまたはCo合金はRMn合金からなる反強磁性体膜3と積層形成することで、ブロッキング温度の非常に高い交換結合膜2が得られることから好ましく用いられる。
上述した実施形態の交換結合膜2は、磁気抵抗効果素子(MR素子)における強磁性体膜のバルクハウゼンノイズの除去、また人工格子膜やスピンバルブ膜における強磁性体膜の磁化固着等に有効に使用されるものである。ただし、反強磁性体膜およびそれを用いた交換結合膜2の用途はMR素子に限られるものではなく、例えば強磁性体膜からなる磁気ヨークのような各種磁気路の磁気異方性制御等、各種の用途に使用し得るものである。
次に、上述した交換結合膜を使用した磁気抵抗効果素子(MR素子)の実施形態について、図2〜図5を参照して説明する。MR素子は、例えばHDDのような磁気記録装置用の磁気ヘッドの再生素子や磁界検出用センサ等として有効であるが、これら以外に磁気抵抗効果メモリ(MRAM(Magnetoresistive random access memory))のような磁気記憶装置にも使用できる。
図2は本発明による交換結合膜を異方性磁気抵抗効果膜(AMR膜)のバルクハウゼンノイズの除去等に使用したAMR素子5の一構成例を示している。AMR素子5は強磁性体膜として、電流の方向と磁性膜の磁化モーメントの成す角度に依存して電気抵抗が変化するNi80Fe20等の強磁性体からなるAMR膜6を有している。AMR膜6の両端部上には、反強磁性体膜3がそれぞれ積層形成されている。これらAMR膜6と反強磁性体膜3とは交換結合膜を構成しており、AMR膜6には反強磁性体膜3から磁気バイアスが付与されている。
また、AMR膜6の両端部には、反強磁性体膜3を介して電気的に接続されたCu、Ag、Au、Al、これらの合金等からなる一対の電極7が形成されており、この一対の電極7によりAMR膜6に電流(センス電流)が供給される。これらAMR膜6、反強磁性体膜3および一対の電極7によりAMR素子5が構成されている。なお、電極7はAMR膜6に直接接触する形態としてもよい。また、これらの各構成要素は、例えばAl23・TiC等からなる基板1の主表面上に形成されている。
上述したAMR素子5においては、AMR膜6と反強磁性膜3との交換結合を利用し、AMR膜6に磁気バイアスを付与して磁区制御しており、このAMR膜6の磁区制御によって、バルクハウゼンノイズの発生を抑制している。反強磁性体膜3によるAMR膜6への磁気バイアスの付与は、図3に示すように、AMR膜6上に交換バイアス磁界調整膜8を介して反強磁性体膜3を積層形成し、これらAMR膜6と反強磁性体膜3との交換バイアス磁界調整膜8を介した交換結合により実施してもよい。この場合、一対の電極7は反強磁性体膜3の両端部と一部積層するように形成される。
AMR素子5におけるAMR膜6への磁気バイアスの付与に、本発明の反強磁性体膜を使用した場合には、前述したようにRMn合金等からなる反強磁性体膜3の基本特性を十分かつ安定して発揮させ、室温および高温域で十分な交換結合力を安定して得ることができるため、バルクハウゼンノイズの発生を各種条件下で再現性よく抑制することが可能となる。
図4は、本発明の反強磁性体膜を巨大磁気抵抗効果膜(GMR膜)の強磁性層の磁化固着に適用したGMR素子9の一構成例を示している。GMR素子9は強磁性体膜として、強磁性層/非磁性層/強磁性層のサンドイッチ構造の磁性多層膜を有し、これら強磁性層間の磁化の成す角度に依存して電気抵抗が変化するスピンバルブ膜、あるいは強磁性層と非磁性層との多層積層膜を有し、GMRを示す人工格子膜等からなるGMR膜10を有している。
図4に示すGMR素子9は、スピンバルブ膜からなるGMR膜(スピンバルブGMR膜)10を有している。このスピンバルブGMR膜10は、強磁性層11/非磁性層12/強磁性層13のサンドイッチ膜を有し、このうち上側の強磁性層13上に反強磁性体膜3が積層形成されている。強磁性層13と反強磁性体膜3とは交換結合膜を構成している。上側の強磁性層13は反強磁性体膜3との交換結合力により磁化固着された、いわゆるピン層である。一方、下側の強磁性層11は、磁気記録媒体等からの信号磁界(外部磁界)により磁化方向が変化する、いわゆるフリー層である。なお、スピンバルブGMR膜10におけるピン層とフリー層の位置は、上下逆であってもよい。
強磁性層11は、必要に応じて磁性下地層(もしくは非磁性下地層)14上に形成される。磁性下地層14は1種類の磁性膜で構成してもよいし、異なる種類の磁性膜の積層膜であってもよい。具体的には、磁性下地層14としてはアモルファス系軟磁性体や面心立方晶構造を有する軟磁性体、例えばNiFe合金、NiFeCo合金、これらに各種添加元素を添加した磁性合金等が用いられる。図中15はTa等からなる保護膜であり、必要に応じて形成される。
スピンバルブGMR膜10の両端部には、Cu、Ag、Au、Al、これらの合金等からなる一対の電極7が形成されており、この一対の電極7によりスピンバルブGMR膜10に電流(センス電流)が供給される。これらスピンバルブGMR膜10および一対の電極7によりGMR素子9が構成されている。なお、電極7はスピンバルブGMR膜10の下側に形成する形態としてもよい。
スピンバルブ型のGMR素子9において、一方の強磁性層の磁化固着に本発明の反強磁性体膜を使用した場合、前述したようにRMn合金等からなる反強磁性体膜3の基本特性を十分かつ安定して発揮させ、室温および高温域で十分な交換結合力を安定して得ることができるため、ピン層の磁化固着状態が安定かつ強固となり、よって良好なGMR特性を安定して得ることが可能となる。
次に、前述した実施形態のMR素子(例えばGMR素子)を、再生用MRヘッドおよびそれを用いた記録・再生一体型磁気ヘッドに適用する場合の実施形態について、図5〜図6を参照して説明する。
図5に示すように、Al23・TiC等からなる基板21の主表面上には、Al23等からなる絶縁層22を介して、軟磁性材料からなる下側磁気シールド層23が形成されている。下側磁気シールド層23上には、Al23等の非磁性絶縁膜からなる下側再生磁気ギャップ24を介して、例えば図4に示したGMR素子9が形成されている。
図中25はスピンバルブGMR膜10にバイアス磁界を付与するCoPt合金等からなる硬質磁性膜(ハードバイアス膜)である。バイアス膜は反強磁性体膜で構成することも可能である。一対の電極7は硬質磁性膜25上に形成されており、スピンバルブGMR膜10と一対の電極7とは硬質磁性膜25を介して電気的に接続されている。スピンバルブGMR膜10にバイアス磁界を付与する硬質磁性膜35は、図6に示すように、予め下側再生磁気ギャップ24上に形成しておいてもよい。この場合、一対の硬質磁性膜25上を含めて下側再生磁気ギャップ24上にスピンバルブGMR膜10を形成し、その上に一対の電極7が形成される。
GMR素子9上には、Al2 3 等の非磁性絶縁膜からなる上側再生磁気ギャップ26が形成されている。さらにその上には、軟磁性材料からなる上側磁気シールド層27が形成されており、これらにより再生ヘッドとして機能するシールド型GMRヘッド28が構成されている。
シールド型GMRヘッド28からなる再生ヘッド上には誘導型薄膜磁気ヘッド29からなる記録ヘッドが形成されている。シールド型GMRヘッド28の上側磁気シールド層27は、誘導型薄膜磁気ヘッド29の下部記録磁極を兼ねている。この上側磁気シールド層を兼ねる下部記録磁極27上には、Al23等の非磁性絶縁膜からなる記録磁気ギャップ30を介して、所定形状にパターニングされた上部記録磁極31が形成されている。
このようなシールド型GMRヘッド28からなる再生ヘッドと、誘導型薄膜磁気ヘッド29からなる記録ヘッドとによって、録再一体型磁気ヘッド32が構成されている。なお、上部記録磁極31は、記録磁気ギャップ上に形成されたSiO2等からなる絶縁層にトレンチを設け、このトレンチ内に埋め込み形成したものであってもよく、これにより狭トラックを再現性よく実現することが可能となる。録再一体型磁気ヘッド32は、例えば半導体プロセスを利用して形状形成や分割等を行うことにより作製される。
上記した実施形態の録再一体型磁気ヘッド32におけるシールド型GMRヘッド28では、RMn合金からなる反強磁性体膜と強磁性体膜との交換結合膜が有する大きな交換結合力および高いブロッキング温度を十分に生かすことができる。なお、本発明によるAMR素子を再生用磁気ヘッドに適用する場合においても、同様にして記録・再生一体型磁気ヘッドを構成することができる。
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
実施例1、2
R元素の原料粉末として、平均粒径が20μmのIr粉末、Pt粉末、Rh粉末、Ni粉末(参考例)、Pd粉末(参考例)、Ru粉末、Au粉末を用意した。一方、Mnの原料粉末として平均粒径が40μmのMn粉末を用意した。これら各原料粉末を表1にそれぞれ示す配合比(原料組成)で配合した後、金属不純物による汚染を防ぐために、ナイロン製のボールミルを用いて混合した。混合はそれぞれ減圧下で48時間実施した。これら各混合粉末を真空ホットプレスにより25MPaの圧力で焼結させた。ホットプレスはMnの融点直下である1150℃で実施した。
得られた各ターゲット素材の構成相をXRDとEPMAによる面分析により調べた。その結果、いずれもの素材もR元素とMnの合金相および化合物相を有していることが確認された。各ターゲット素材の主要合金相および主要化合物相を表1に示す。また、SEMにより単相として存在するMnの粒径を調べた。Mn粒径はいずれのターゲット素材も最大で30μm、平均で20μmであった。
次に、上述した各ターゲット素材をターゲット形状に加工し、これらをバッキングプレートに半田接合してスパッタリングターゲットをそれぞれ作製した。これら各スパッタリングターゲットを高周波マグネトロンスパッタ装置にセットし、基板加熱しない状態で反強磁性体膜を磁界中成膜した。反強磁性体膜は交換結合膜を形成するように成膜した。
具体的には、熱酸化膜を被覆したSi(100)基板上に、厚さ5nmのTa下地膜、厚さ5nmのCo系強磁性体膜、厚さ15nmの各組成の反強磁性体膜を順次形成した。このようにして、それぞれ交換結合膜を作製した。この段階で交換バイアス力を測定した。ただし、Ni50Mn50膜およびPd50Mn50膜に関しては、熱処理を施さないと交換結合力が得られないため、270℃で5時間の熟処埋を施した後に交換バイアス力を測定した。これらの測定結果を表1(実施例1)に示す。
本発明の他の実施例(実施例2)として、平均粒径が150μmのMn粉末を用いる以外は同様な工程により、それぞれ同一組成のスパッタリングターゲットを作製した。この実施例2による各スパッタリングターゲットについても、実施例1と同様な評価を行った。その結果を表1(実施例2)に併せて示す。
なお、実施例2による各スパッタリングターゲットの構成相をXRDとEPMAによる面分析により調べた結果、同様な合金相や化合物相を有していたが、SEMでMnの粒径を調べたところ、最大で100μm、最小40μm、平均で80μmであった。
また、本発明との比較例1として、実施例1および実施例2で使用した各原料粉末を用いて、ホットプレスの温度条件を合金相や化合物相が形成されない温度条件(1000℃未満)とする以外は同様な工程により、それぞれ同一組成のスパッタリングターゲットを作製した。比較例1による各スパッタリングターゲットの構成相をXRDとEPMAによる面分析により調べた結果、合金相や化合物相は存在していなかった。
Figure 0004268915
表1から分かるように、本発明のスパッタリングターゲットを用いて成膜した反強磁性体膜を含む交換結合膜は、いずれも大きな交換結合力が得られており、優れた特性を示しているのに対して、比較例の各スパッタリングターゲットを用いた交換結合膜は小さな交換結合力しか得られなかった。
次に、上記した実施例1による各反強磁性体膜のスパッタ時間の経過に伴う組成変動を調べた。組成変動は、スパッタ初期(1時間後)の反強磁性体膜と20時間スパッタを実施した後に形成した反強磁性体膜の組成を、蛍光X線分析により測定することにより調べた。その結果を表2に示す。
Figure 0004268915
さらに、実施例1の試料1によるスパッタリングターゲットを用いて成膜した反強磁性体膜(IrMn合金膜)と、比較例1によるスパッタリングターゲットを用いて成膜した反強磁性体膜(IrMn合金膜)を用いて、膜面内の組成分布を調べた。測定点はSi基板の中心点(A点)と外周側に四方30mm離れた4点(B,C,D,E点)とした。測定結果を表3に示す。
Figure 0004268915
表2および表3から明らかなように、本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成した反強磁性体膜は、スパッタ時間の経過に伴う組成ずれが小さく、また基板面内の組成分布の均一性にも優れていることが分かる。
実施例3
実施例1と同様の方法で、各種組成のIrMnターゲット、RhMnターゲット、PtMnターゲットをそれぞれ作製した。これら種々の組成のIrMnターゲット、RhMnターゲット、PtMnターゲットをそれぞれ用いて、実施例1と同様にして交換結合膜を作製した。これら各交換結合膜の交換結合力を測定し、交換結合力の組成依存性を調べた。その結果を図7に示す。図7より明らかなように、本発明のスパッタリングターゲットを用いて成膜した反強磁性体膜を有する交換結合膜は、広い組成範囲で十分な交換結合力が得られていることが理解できる。
実施例4
表4に記載された平均粒径を有するMn粉末を用いる以外は実施例1と同様な工程により、表4に示すMnの粒径がそれぞれ異なるスパッタリングターゲットを作製した。得られた各スパッタリングターゲットの酸素含有量を測定すると共に、実施例1と同様に膜を成膜し、交換バイアス力を測定した。また、実施例1と同様の方法により膜面内の組成分布を調べた。その結果を表4に示す。
Figure 0004268915
表4から明らかなように、Mn粒の最大粒径および平均粒径が大きなスパッタリングターゲットを用いて成膜した膜の組成は、基板面内でのばらつきが大きく、量産性の点で問題があることが理解できる。一方、Mn粒の最大粒径および平均粒径が小さいスパッタリングターゲットを用いて成膜した膜は、基板面内での組成のばらつき点では問題はないが、交換バイアス力が低下する傾向にある。
実施例5
表5に示す各スパッタリングターゲットを、実施例1と同様な焼結法とそれとは別に溶解法を適用してそれぞれ作製した。これら各スパッタリングターゲットの加工性とガス成分濃度(酸素含有濃度と炭素含有濃度)を調べた。さらに、実施例1と同様にして交換結合膜を作製し、それら各交換結合膜の交換バイアス力とブロッキング温度を測定した。これらの結果を表5に示す。なお、この実施例5による各スパッタリングターゲット中の構成相は実施例1と同様であった。
一方、本発明との比較例2として、炭素不純物量が比較的多い原料粉末を用いると共に、混合を大気中で行う以外は、上記実施例と同様な焼結法でスパッタリングターゲットを作製した。また、炭素不純物量が比較的多い原料粉末を用いると共に、溶解時の脱ガス時間を実施例より短く設定する以外は、上記実施例と同様な溶解法でスパッタリングターゲットを作製した。これら比較例による各スパッタリングターゲットについても、加工性とガス成分濃度、交換結合膜の交換バイアス力とブロッキング温度を測定した。これらの結果を併せて表5に示す。
Figure 0004268915
表5から明らかなように、酸素含有量および炭素含有量を減少させたスパッタリングターゲットによれば、それを用いて形成した反強磁性体膜を有する交換結合膜の特性を向上させることができる。
実施例6
この実施例では、実施例1と同様のスパッタリングターゲットを用いて成膜した反強磁性体膜と強磁性体膜との交換結合膜を使用して、図4および図6に示したスピンバルブ膜を有するGMR素子とそれを用いた磁気ヘッドを作製した。
スピンバルブGMR膜10において、強磁性層11、13としてはそれぞれ厚さが3nm、2nmのCo90Fe10膜を、非磁性層12としては厚さ3nmのCu膜をそれぞれ用いた。ここで成膜したCo90Fe10膜は、いずれも面心立方晶系の結晶構造を有していた。反強磁性体膜3には、上記実施例1および実施例3で作製した各反強磁性体膜(膜厚8nm)を使用した。
また、磁性下地層14には厚さ10nmのCo88Zr5Nb7膜と厚さ2nmのNi80Fe20膜の積層膜、電極7には厚さ0.1μmのCu膜、保護膜15には厚さ20nmのTa膜を使用した。さらに、硬質磁性膜25には厚さ40nmのCo83Pt17膜を用いた。
強磁性層11、13、非磁性層12および反強磁性体膜3の成膜は磁界中で行い、さらに磁界中で熱処理を施して、強磁性層13と反強磁性体膜3との交換結合に一方向異方性を付与した。また、磁性下地層14についても、磁界中で成膜した後に熱処理を施して、一軸磁気異方性を付与すると共に、硬質磁性膜25を着磁することでその一軸磁気異方性を一段と強めた。最後に、通常の半導体プロセスに準じて素子加工を行って、GMR素子およびそれを用いた磁気ヘッドを作製した。
この実施例で形成したGMR素子に外部から磁界を印加して、その磁界応答性を調べたところ、反強磁性体膜にγ−FeMn合金を用いたGMR素子と同等以上の安定した出力が得られた。また、磁壁移動に伴うバルクハウゼンノイズの発生も見受けられなかった。しかも、反強磁性体膜にγ−FeMn合金を用いたGMR素子に比べて、反強磁性体膜の耐食性が良好であること、さらに交換結合膜のブロッキング温度が高く、かつ交換結合力が大きいことに起因して、安定した出力が得られる高感度のGMR素子を歩留りよく得ることができた。さらに、そのようなGMR素子を有する磁気ヘッドにおいて、特に耐食性が高いIrMn系反強磁性体膜を用いたヘッドによれば、腐食によりFeMnでは加工不可能であった、0.1μmデプスが可能となり、大きな再生出力を得ることができた。
実施例7
IrMn合金およびNi(参考例)、Cu(参考例)、Ta(参考例)、Hf、Pb(参考例)、Ti、Nb(参考例)、Cr(参考例)を添加したIrMn合金を用いて、実施例1と同様な工程によりスパッタリングターゲットをそれぞれ作製した。これら各スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様の方法で交換結合膜試料をそれぞれ作製し、これらの試料に対して耐食性試験を行った。耐食性試験は、上記各試料を水中に一昼夜浸漬した後の腐食ピット発生率を調べた。その結果を図8に示す。また、本発明との比較例として、IrMn合金に代えて、(Fe0.5Mn0.5)89.5Ir10.5合金およびFe50Mn50合金からなる反強磁性体膜を用いた試料についても、同様な耐食性試験を行った。その結果を併せて図8に示す。
図8の耐食性試験の結果から明らかなように、IrMn合金に添加元素を含有させることによって、腐食ピットの発生率が低下していることが分かる。また、図9および図10に各試料の交換バイアス磁界とブロッキング温度の測定結果を示す。図9および図10から明らかなように、交換バイアス磁界とブロッキング温度が向上している。
本発明の反強磁性体膜を使用した交換結合膜の一実施形態の構成を示す断面図である。 本発明の反強磁性体膜を使用した磁気抵抗効果素子の一構成例を示す断面図である。 図2に示す磁気抵抗効果素子の変形例を示す断面図である。 本発明の反強磁性体膜を使用した磁気抵抗効果素子の他の構成例を示す断面図である。 本発明の反強磁性体膜を使用した磁気ヘッドの一構成例を示す断面図である。 図5に示す磁気ヘッドの変形例を示す断面図である。 本発明の実施例3によるスパッタリングターゲットを用いて成膜した反強磁性体膜の交換結合力の組成依存性を示す図である。 本発明の実施例7によるスパッタリングターゲットを用いて成膜した交換結合膜試料の耐食性試験の結果を示す図である。 本発明の実施例7によるスパッタリングターゲットを用いて成膜した交換結合膜試料の交換バイアス力の測定結果を示す図である。 本発明の実施例7によるスパッタリングターゲットを用いて成膜した交換結合膜試料のブロッキング温度の測定結果を示す図である。
符号の説明
2……交換結合膜、3……反強磁性体膜、4……強磁性体膜、5……AMR素子、9……GMR素子。

Claims (3)

  1. 焼結温度が1150〜1200℃の範囲の焼結法を適用して、10〜98原子%のMnを含み、残部が実質的にPt、Rh、Ir、AuおよびRuから選ばれる少なくとも1種のR元素からなり、かつターゲット組織の少なくとも一部として前記R元素とMnとの合金相および化合物相から選ばれる少なくとも1種を有し、酸素含有量が1重量%以下(0を含む)であると共に、炭素含有量が0.3重量%以下(0を含む)であり、最大粒径が50μmを超える、前記R元素との合金相および化合物相を構成するMnを除く残余のMn粒が存在しないターゲット素材を作製し、前記ターゲット素材をターゲット形状に加工した後にバッキングプレートと接合して製造したスパッタリングターゲットを用いて、前記スパッタリングターゲットからの組成のずれが10原子%以下の膜組成を有するR−Mn系反強磁性体膜をスパッタ成膜する工程を具備することを特徴とする反強磁性体膜の製造方法。
  2. 請求項1記載の反強磁性体膜の製造方法において、
    前記R−Mn系反強磁性体膜は面内の膜組成分布のばらつきが0.5原子%以下であることを特徴とする反強磁性体膜の製造方法。
  3. 請求項1または請求項2記載の反強磁性体膜の製造方法において、
    前記R元素はIrであり、かつ前記スパッタリングターゲットは前記R元素の他にTiおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素を40原子%以下の範囲で含有することを特徴とする反強磁性体膜の製造方法。
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