JP4253459B2 - 炭素膜構造体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素材料の持つ細孔の分子ふるい作用を利用して、気体混合物から特定の気体を分離、回収するために用いられる炭素膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
気体混合物から特定の気体を分離、回収し、有効利用するための分離方法として、液化蒸留法、吸着法、吸収法など様々な方法が知られているが、これらの方法は何れも相変化を伴うためエネルギー的に不利である。それに対し、膜分離法は単に濃度差や圧力差を駆動力として高い分離特性が現れるため、省エネルギー的であり、如何にして優れた透過分離性能を有する膜を形成するかについての研究が盛んに行われている。
【0003】
特に、膜状に形成した高分子系材料を高温で熱分解し、炭化させることにより得られる炭素膜は、耐熱性に優れ、また、セラミック膜やゼオライト膜に比べ製膜時に欠陥が生じにくいため、現在高い注目を集めており、研究も活発化している。
【0004】
このような炭素膜の例として、特開平4−11933号公報、特開平4−193334号公報、特開平5−22036号公報などには、芳香族ポリイミドからなる非対称性中空糸膜を炭素化して得られる炭化膜が開示されている。また、特許第3111196号公報には、カルド型ポリマーを所定の分離膜形状に成形して分離膜前駆体を形成し、この分離膜前駆体を嫌気雰囲気下で加熱し炭化させて得られた気体分離用炭化膜が開示されている。
【0005】
更にまた、特開平10−52629号公報には、セラミック多孔質体表面に液状熱硬化性樹脂を塗布して高分子膜を形成した後、非酸化雰囲気下で熱処理することを特徴とする分子ふるい炭素膜の製造方法が開示されている。また、炭素膜の前駆体となるポリイミド樹脂として、下記構造式(6)(H.Suda et.al,J.Phys.Chem.B 101,3988-3994(1997))や、下記構造式(7)(J.Hayashi et.al,Journal of Membrane Science 124,243-251(1997))を用いた例が知られている。
【化9】
【化10】
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、前記のような分離膜を気体等の選択透過に用いる場合、分離係数を大きくしようとすると、透過速度が小さくなる。炭素膜の分離係数と透過速度は、炭素膜の前駆体となる樹脂の分解条件などで制御するが、従来の炭素膜においては、分離係数と透過速度とを十分満足できるレベルで両立しているとは言い難いのが現状である。
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、分離係数が十分に大きく、かつ従来に比して透過速度も向上させた炭素膜とその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、繰り返し単位が下記一般式(1)で表されるポリイミド樹脂(ただし、式中Xは炭素数2〜27の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び芳香族基が直接又は架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示し、nは5〜10000の整数を示し、Yは下記一般式(2)で表され、当該一般式(2)においては、主鎖骨格を形成するフェニレン基のうち少なくとも1つがm−フェニレン基であり、Zは直結、−O−又は−CO−を示し、mは1〜3の整数を示し、また、R1-4及びR’1-4は−Hを示す)の前駆体である下記一般式(3)で表されるポリアミド酸(式中、XとYは前記と同様の基を表す)を多孔質基材の表面に塗布し、加熱、乾燥して炭素膜の前駆体を形成し、当該前駆体を不活性雰囲気下で熱分解することにより得られることを特徴とする炭素膜が提供される。
【化11】
【化12】
【化13】
【0009】
また、本発明によれば、繰り返し単位が下記一般式(1)で表されるポリイミド樹脂(ただし、式中Xは炭素数2〜27の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び芳香族基が直接又は架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示し、nは5〜10000の整数を示し、Yは下記一般式(2)で表され、当該一般式(2)においては、主鎖骨格を形成するフェニレン基のうち少なくとも1つがm−フェニレン基であり、Zは直結、−O−又は−CO−を示し、mは1〜3の整数を示し、また、R1-4及びR’1-4は−Hを示す)の前駆体である下記一般式(3)で表されるポリアミド酸(式中、XとYは前記同様の基を表す)を多孔質基材の表面に塗布し、加熱、乾燥して炭素膜の前駆体を形成し、当該前駆体を不活性雰囲気下で熱分解することを特徴とする炭素膜の製造方法が提供される。
【化14】
【化15】
【化16】
【0010】
【発明の実施の形態】
前記のとおり、本発明は、炭素膜の前駆体の形成において、繰り返し単位が下記一般式(1)で表されるポリイミド樹脂(ただし、式中Xは炭素数2〜27の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び芳香族基が直接又は架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示し、nは5〜10000の整数を示し、Yは下記一般式(2)で表され、当該一般式(2)においては、主鎖骨格を形成するフェニレン基のうち少なくとも1つがm−フェニレン基であり、Zは直結、−O−又は−CO−を示し、mは1〜3の整数を示し、また、R1-4及びR’1-4は−Hを示す)の前駆体である下記一般式(3)で表されるポリアミド酸(式中、XとYは前記同様の基を表す)を使用したことを主な特徴としている。
【化17】
【化18】
【化19】
【0011】
本発明者らが炭素膜の前駆体となる高分子材料について検討を重ねた結果、前記のような構造を有するポリイミド樹脂を前駆体の形成に用いると、分離係数を大きくしても高い透過速度を示す炭素膜が得られることがわかった。これは前記ポリイミド樹脂が、従来炭素膜の前駆体に使用されてきたものに比して嵩高い層構造を持つとともに、屈曲性の度合いが高く良好な製膜状態を得やすいためと考えられる。
【0012】
前記一般式(1)で表されるポリイミド樹脂のうちでも、特に本発明において好適に使用できるものとして、以下の構造式(4)や構造式(5)で表されるものを挙げることができる。
【化20】
【化21】
【0013】
これらのポリイミド樹脂を前駆体の形成に使用して得られる炭素膜は、例えば下記構造式(6)、(7)で示されるポリイミド樹脂を使用して得られる従来の炭素膜に比して、同じ分離係数でもより高い透過速度を示す。
【化22】
【化23】
【0014】
本発明に係るポリアミド酸及びポリイミド樹脂は、いかなる方法で製造されたものであっても構わない。本発明に係るポリアミド酸及びポリイミド樹脂は、下記一般式(8)で表されるジアミン類(一般式(8)においては、アミノ基とZ及び/又はZとZを結合するフェニレン基のうち少なくとも1つがm−フェニレン基であり、Zは直結、−O−又は−CO−を示し、mは1〜3の整数を示し、また、R1-4及びR’1-4は−Hを示す)と下記一般式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物類(式中、Xは炭素数2〜27の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接又は架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す)を単量体に使用して製造することができる。
【化24】
【化25】
【0015】
本発明に係るポリアミド酸及びポリイミド樹脂の製造に用いられるジアミン類は、一般式(8)で表される少なくとも1種の化合物が挙げられる。具体的には、限定されるわけではないが、例えば、一般式(8)においてm=1のジアミン類では、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−5,5’−ジトリフルオロメチルジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等が、また、一般式(8)においてm=2のジアミン類では、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−トリフルオロメチルベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)−3−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−3−トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)−5−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−トリフルオロメチルフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−トリフルオロメチルフェノキシ)−5−トリフルオロメチルベンゼン、1,3−[(3−アミノ)−α,α−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル]ベンゼン、1,3−[(4−アミノ)−α,α−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル]ベンゼン、1,4−[(3−アミノ)−α,α−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル]ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フルオロベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス[3−アミノ−4−(4−フェニルフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2−フェニルベンゼン等が、更には、一般式(8)においてm=3のジアミン類では、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。これらのジアミン類は必要に応じて単独で乃至は混合して使用することができる。
【0016】
本発明に係るポリアミド酸及びポリイミド樹脂の製造に用いられるテトラカルボン酸二無水物類としては、一般式(9)で表される少なくとも1種の化合物が挙げられる。具体的には、一般式(9)において、Xが炭素数2〜10の脂肪族基、炭素数4〜10の環式脂肪族基であるもの、
下式 (10)で表される単環式芳香族基、
【化26】
下式(11)で表される縮合多環式芳香族基、
【化27】
及び下式(12)で表される芳香族基が直接又は架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基であるテトラカルボン酸二無水物が使用される。
【化28】
(式中、Aは直接結合、−CO−、−O−、−S−、−SO2 −、−CH2 −、−C(CH3 )2 −、−C(CF3 )2 −、又は下式(13)を示す)
【化29】
(ここで、Bは直接結合、−CO−、−O−、−S−、−SO2 −、−CH2 −、−C(CH3 )2 −、−C(CF3 )2 −を示す)
【0017】
本発明で用いられる一般式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物類としては、限定されるわけではないが、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’−ビス[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0018】
本発明に係るポリアミド酸及びポリイミド樹脂の製造においては、必要に応じて末端封止剤を用いることもできる。代表的な末端封止剤はモノアミン又はジカルボン酸無水物である。
【0019】
モノアミンとしては、例えば、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、2,3−キシリジン、2,4−キシリジン、2,5−キシリジン、2,6−キシリジン、3,4−キシリジン、3,5−キシリジン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−ブロモアニリン、m−ブロモアニリン、p−ブロモアニリン、o−ニトロアニリン、m−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、o−アニシジン、m−アニシジン、p−アニシジン、o−フェネチジン、m−フェネチジン、p−フェネチジン、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、o−アミノベンズアルデヒド、m−アミノベンズアルデヒド、p−アミノベンズアルデヒド、o−アミノベンゾニトリル、m−アミノベンゾニトリル、p−アミノベンゾニトリル、2−アミノビフェニル、3−アミノビフェニル、4−アミノビフェニル、2−アミノフェニルフェニルエーテル、3−アミノフェニルフェニルエーテル、4−アミノフェニルフェニルエーテル、2−アミノベンゾフェノン、3−アミノベンゾフェノン、4−アミノベンゾフェノン、2−アミノフェニルフェニルスルフィド、3−アミノフェニルフェニルスルフィド、4−アミノフェニルフェニルスルフィド、2−アミノフェニルフェニルスルホン、3−アミノフェニルフェニルスルホン、4−アミノフェニルフェニルスルホン、α−ナフチルアミン、β−ナフチルアミン、1−アミノ−2−ナフトール、2−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−2−ナフトール、7−アミノ−2−ナフトール、8−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、1−アミノアントラセン、2−アミノアントラセン、9−アミノアントラセン、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、イソブチルアミン、ジイソブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、ベンジルアミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0020】
ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、2,3−ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、3,4−ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルエーテル無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル無水物、2,3−ビフェニルジカルボン酸無水物、3,4−ビフェニルジカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルスルホン無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルスルホン無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド無水物、1,2−ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物、1,2−アントラセンジカルボン酸無水物、2,3−アントラセンジカルボン酸無水物、1,9−アントラセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。これらのモノアミン又はジカルボン酸無水物はその構造の一部がアミン又はジカルボン酸無水物と反応性を有しない基で置換されても差し支えない。
【0021】
本発明に係るポリアミド酸の製造においては、反応を有機溶媒中で行うことが好ましい方法である。反応において用いられる溶媒は限定されるわけではないが、例えば、下記(a)〜(e)等を挙げることができる。
【0022】
(a)フェノール系溶媒である、フェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール。
【0023】
(b)非プロトン性アミド系溶媒である、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド。
【0024】
(c)エーテル系溶媒である、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン。
【0025】
(d)アミン系溶媒である、ピリジン、キノリン、イソキノリン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、イソホロン、ピペリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン。
【0026】
(e)その他の溶媒である、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール等。
【0027】
なお、これらの溶媒は、単独又は2種以上混合して用いても差し支えない。これらの溶媒の中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
【0028】
本発明に係るポリアミド酸の製造においては、公知の触媒を併用することができる。例えば、塩基触媒としては、上記(d)項記載の各種アミン系溶媒や、イミダゾール、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等の有機塩基、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムで代表される無機塩基が挙げられる。また、酸触媒としてクロトン酸、アクリル酸、トランス−3−ヘキセノイック酸、桂皮酸、安息香酸、メチル安息香酸、オキシ安息香酸、テレフタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0029】
本発明に係るポリアミド酸の製造においては、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度(以下、重合濃度と称する)は、何等制限はない。好ましい重合濃度は、5〜40重量%であり、更に好ましくは、10〜30重量%である。
【0030】
本発明に係るポリアミド酸溶液の製造においては、反応温度、反応時間及び反応圧力には、特に制限はなく公知の条件が適用できる。すなわち、反応温度は、およその範囲として、−10〜100℃が好ましいが、更に好ましくは、氷冷温度付近〜60℃前後の範囲であり、実施面で最も好ましく実用的には50〜60℃である。また、反応時間は、使用するモノマーの種類、溶媒の種類、及び反応温度により異なるが、1〜48時間が好ましい。更に好ましくは2、3時間〜十数時間前後であり、実施面で最も好ましくは、4〜10時間である。また、反応圧力は常圧で十分である。
【0031】
本発明において、ポリアミド酸及びポリイミド樹脂の対数粘度は、特に限定されるものではないが、対数粘度としては、0.1〜2.0が好ましく、0.2〜1.9がより好ましく、0.3〜1.8が更に好ましい。
【0032】
本発明の炭素膜の製造には、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、まず前記のような構造を有するポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸をN,N−ジメチルアセトアミドのような適当な有機溶媒に溶解させ、多孔質基板へ塗布した後、塗布した溶液を加熱、乾燥させ、ポリアミド酸から得られるポリイミド層を多孔質基材の表面に形成する。塗布は所定の膜厚が得られるよう、必要に応じて複数回繰り返してもよい。ポリアミド酸からポリイミドへの変換は、通常50〜400℃の加熱で実行される。好ましいイミド化温度は100〜300℃である。
【0033】
炭素膜の支持体となる多孔質基材の材質としては、アルミナ、シリカ、コージェライト等が好適なものとして挙げられる。多孔質基材の気孔率は、当該基材の強度と透過性の観点から25〜55%程度とすることが好ましい。また、多孔質基材の平均細孔径は、0.005〜5μm程度とすることが好ましい。多孔質基材の厚さは、支持体として必要な強度を満たすとともに、分離成分の透過性を損なわない範囲で選択すればよく、また、形状についても炭素膜の使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
多孔質基板への塗布が終了した後は、塗布した溶液を加熱、乾燥させ、更に熱処理により溶媒を蒸発させるとともにポリアミド酸をポリイミドに変換して炭素膜の前駆体であるポリイミド層を形成する。これを窒素雰囲気等の不活性雰囲気下で400〜750℃程度の温度範囲で熱分解することにより炭化させ、本発明の炭素膜を得る。
【0035】
最終的に得られる炭素膜の膜厚は、1〜50μmとすることが好ましく、1〜10μmとするとより好ましい。炭素膜の膜厚の膜厚が1μm未満では炭素膜の形成が不十分で十分なガス選択性を得ることが難しく、50μmを超えると膜厚が厚くなり、ガスの透過速度が小さくなってしまう。
【0036】
なお、本発明の炭素膜を製造するにあたっては、ポリイミド層を形成する前(すなわちポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を塗布する前)に、形成面(塗布面)となる多孔質基材の表面にエポキシ樹脂を塗り込む下地処理を施しておくことが好ましい。このような下地処理を施しておくことにより、気体の分離性能を損なうことなく透過速度を向上させることができる。
【0037】
これは、下地処理により、炭素膜の炭素源となるポリイミド樹脂の多孔質基材への侵入が少なくなり、基材表面で炭素膜が形成されるためと考えられる。すなわち、前記のような下地処理を行わない場合は、ポリイミド樹脂の一部が多孔質基材内部に侵入して炭化するので、多孔質基材表面上の炭素膜を透過したガスは、更に有効膜面積の低下する基材内部に入り込んだ炭素膜の部分をも通過しなければならず、このため抵抗が大きくなって、透過速度が低下する。これに対し、前記のような下地処理を行った場合には、多孔質基材表面上の炭素膜を透過したガスは、有効膜面積の低下する基材内部では空孔に拡散するので、抵抗が小さくなり、透過速度が向上する。
【0038】
また、本発明のような炭素膜を室温で放置しておくと、炭素膜表面に極僅かに存在する含酸素官能基に水分子が吸着して透過性能が低下する場合がある。このような透過性能の低下を防ぐため、前駆体を不活性雰囲気下で熱分解して炭化させた後、得られた炭素膜の表面にシリル化処理を施すようにしてもよい。このように炭素膜表面にシリル化処理を施すことにより、炭素膜に疎水性を付与することができ、前記のような水分子の吸着による透過性能の低下を防止することが可能となる。ただし、シリル化処理を施すことにより、炭素膜の細孔径が小さくなり、初期の透過速度がシリル化を施さない場合に比して低くなるので、高い透過速度を必要とする炭素膜のシリル化処理には注意が必要である。
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
前記構造式(4)で表されるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミド中で重合し、ポリアミド酸含有量が30wt%であるポリアミド酸溶液Iを得た。1cm角の多孔質アルミナ基材(日本ガイシ(株)製、平均細孔径0.1μm)を、180℃で乾燥、脱水した後、この多孔質アルミナ基材上に、ポリアミド酸溶液Iを塗布し、デシケーター中で2時間保持後、更にポリアミド酸溶液Iを塗布した。次いで、乾燥器中、大気雰囲気下にて、90℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2日間の熱処理を行い、炭素膜の前駆体を得た。得られた炭素膜の前駆体を、窒素雰囲気の環状炉中にて、400℃で6時間熱処理し、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。
【0041】
(実施例2)
前記実施例1と同様の手順で炭素膜の前駆体を得、窒素雰囲気の環状炉中にて、500℃で6時間熱処理し、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。
【0042】
(実施例3)
前記実施例1と同様の手順で炭素膜の前駆体を得、窒素雰囲気の環状炉中にて、500℃で2時間熱処理し、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は5℃/minとした。
【0043】
(実施例4)
前記構造式(5)で表されるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミド中で重合し、ポリアミド酸含有量が30wt%であるポリアミド酸溶液IIを得た。1cm角の多孔質アルミナ基材(日本ガイシ(株)製、平均細孔径0.1μm)を、180℃で乾燥、脱水した後、この多孔質アルミナ基材上に、ポリアミド酸溶液IIを塗布し、デシケーター中で2時間保持後、更にポリアミド酸溶液IIを塗布した。次いで、乾燥器中、大気雰囲気下にて、90℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2日間の熱処理を行い、炭素膜の前駆体を得た。得られた炭素膜の前駆体を、窒素雰囲気の環状炉中にて、500℃で6時間熱処理し、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。
【0044】
(実施例5)
前記実施例4で用いたポリアミド酸溶液IIを、更にN,N−ジメチルアセトアミドで希釈し、ポリアミド酸含有量が15wt%であるポリアミド酸溶液IIIを得た。このポリアミド酸溶液IIIを用い、前記実施例4と同様の手順で炭素膜の前駆体を得、窒素雰囲気の環状炉中にて、500℃で1時間熱処理し、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は5℃/minとした。
【0045】
(比較例1)
前記構造式(7)で表されるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミド中で重合し、ポリアミド#酸含有量が25wt%であるポリアミド酸溶液IVを得た。1cm角の多孔質アルミナ基材(日本ガイシ(株)製、平均細孔径0.1μm)を、180℃で乾燥、脱水した後、この多孔質アルミナ基材上に、ポリアミド酸溶液IVを塗布し、デシケーター中で2時間保持後、更にポリアミド酸溶液IVを塗布した。次いで、乾燥器中、大気雰囲気下にて、90℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2日間の熱処理を行い、炭素膜の前駆体を得た。得られた炭素膜の前駆体を、窒素雰囲気の環状炉中にて、500℃で6時間熱処理し、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。
【0046】
(比較例2)
前記比較例1と同様の手順で炭素膜の前駆体を得、窒素雰囲気の環状炉中にて、600℃で6時間の熱処理を行い、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。
【0047】
(比較例3)
前記比較例1と同様の手順で炭素膜の前駆体を得、窒素雰囲気の環状炉中にて、700℃で6時間の熱処理を行い、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。
【0048】
(比較例4)
前記比較例1と同様の手順で炭素膜の前駆体を得、窒素雰囲気の環状炉中にて、800℃で6時間の熱処理を行った。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。800℃の熱処理温度では、炭化した膜が容易に剥離し、多孔質基材と一体化した膜が得られなかった。
【0049】
[気体分離性能の評価]
図1に記載の評価装置を使用して、前記実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた炭素膜の気体分離性能を評価した。炭素膜のガス透過性能は、下記数式(I)で表される透過速度Rの大小により評価した。また、炭素膜の分離性能の指標として透過速度比R(O2)/R(N2)を用いた。測定装置のセルに装着した炭素膜(評価サンプル)の一方の面に、一定圧力(4kg/cm2(ゲージ圧))で試験ガス(単独ガス)を供給し、膜の他方の面を大気圧とし、アルゴンガスでスイープし、TCDガスクロマトグラフで、ガス透過流量を求めた。
【0050】
【数1】
R=P/L=Q/(p1−p2)At ……(I)
R:透過速度 [mol/(m2・s・Pa)]
P:透過係数 [mol・m/(m2・s・Pa)]
L:膜厚 [m]
A:膜面積[m2]
Q:ガス透過量 [mol]
p1:高圧側ガス圧 [Pa]
p2:低圧側ガス圧 [Pa]
t:時間 [s]
【0051】
また、シリカゲルを用いて乾燥した空気を評価サンプルに供給し、空気での分離性能を評価した。ガス透過性能の評価には、前記単独ガスの場合と同様に透過速度Rを用いた。また、分離性能の評価の指標として、下記数式(II)で表される分離係数αを用いた。式中、Perm(O2)、Perm(N2)は膜を透過した酸素、窒素のモル濃度、Feed(O2)、Feed(N2)は供給側の酸素、窒素のモル濃度である。乾燥空気を用いているので、Feed(O2)/Feed(N2)は0.25である。炭素膜の作製条件と、単独ガスを用いたガス透過性能、乾燥空気を用いた空気の分離性能の評価結果を表1に示す。
【0052】
【数2】
α=(Perm(O2)/Perm(N2))/(Feed(O2)/Feed(N2)) ……(II)
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すとおり、前記構造式(4)又は(5)のポリイミドを用いて作製した実施例1〜5の炭素膜は、単独ガスの透過速度比R(O2)/R(N2)が何れも2.5以上であり、前記構造式(7)のポリイミドを用いて作製した比較例1〜3の炭素膜よりも高い分離性能が期待できる。また、乾燥空気を用いた評価については、比較例1〜3の炭素膜は分離係数αが1程度とほとんど酸素分離しないのに対し、実施例1〜5の炭素膜では分離係数αが1.5以上と酸素分離性能を示した。なお、分離係数1.5でおおよそ27%まで酸素富化ができる。
【0055】
(実施例6)
前記構造式(4)で表されるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミド中で重合し、ポリアミド酸含有量が30wt%であるポリアミド酸溶液Iを得た。1cm角の多孔質アルミナ基材(日本ガイシ(株)製、平均細孔径0.1μm)を、180℃で乾燥、脱水した後、この多孔質アルミナ基材にエポキシ樹脂を塗り込み、基材の下地処理を行った。こうして下地処理を行った多孔質アルミナ基材上に、ポリアミド酸溶液Iを塗布し、デシケーター中で2時間保持後、更にポリアミド酸溶液Iを塗布した。次いで、乾燥器中、大気雰囲気下にて、90℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2日間の熱処理を行い、炭素膜の前駆体を得た。得られた炭素膜の前駆体を、窒素雰囲気の環状炉中にて、400℃で6時間熱処理し、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。
【0056】
(実施例7)
前記構造式(5)で表されるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を、N,N−ジメチルアセトアミド中で重合し、ポリアミド酸含有量が30wt%であるポリアミド酸溶液IIを得た。1cm角の多孔質アルミナ基材(日本ガイシ(株)製、平均細孔径0.1μm)を、180℃で乾燥、脱水した後、この多孔質アルミナ基材にエポキシ樹脂を塗り込み、基材の下地処理を行った。こうして下地処理を行った多孔質アルミナ基材上に、ポリアミド酸溶液IIを塗布し、デシケーター中で2時間保持後、更にポリアミド酸溶液IIを塗布した。次いで、乾燥器中、大気雰囲気下にて、90℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2日間の熱処理を行い、炭素膜の前駆体を得た。得られた炭素膜の前駆体を、窒素雰囲気の環状炉中にて、500℃で6時間熱処理し、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。
【0057】
[気体分離性能の評価]
前記実施例1〜5及び比較例1〜3と同様の方法で、実施例6及び7で得られた炭素膜の気体分離性能を評価した。その結果を表2に示す。また、下地処理を施していない前記実施例2及び4の炭素膜の評価結果も同表に併記する。
【0058】
【表2】
【0059】
下地処理を施した実施例6及び7の炭素膜と、下地処理を施していない実施例2及び4の炭素膜との評価結果の比較から、下地処理を施すことにより、酸素の分離性能を維持したまま、酸素の透過速度を向上させることができることがわかる。これは、下地処理を施さない場合は、炭素膜の炭素源となるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が基材内部に侵入してイミド化後炭化するため、膜厚が厚くなり、また基材内での有効膜面積が小さくなるので透過速度が低くなるのに対し、下地処理を施した場合は、ポリアミド酸の基材内部への侵入が少なくなり、基材表面で炭素膜が形成されるためと考えられる。
【0060】
(実施例8)
前記実施例6で得られた炭素膜を、1ヶ月大気中で保管した後、酸素単独の透過速度を測定した。更に、80℃飽和水蒸気中で24時間放置した後、酸素単独の透過速度を測定し、ガス透過能が低下したことを確認した。この炭素膜を180℃で乾燥した後、シリル化剤にトリメチルクロロシランを用いて、150℃で2時間シリル化した。シリル化後の炭素膜の酸素単独の透過速度と、80℃飽和水蒸気中で24時間放置した後の酸素単独の透過速度を測定し、親疎水性を評価した。その結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示す評価結果から、炭素膜表面にシリル化処理を施すことによって、炭素膜の酸素の透過速度は、水蒸気処理後においても水蒸気処理前からほとんど変化しないようになることが確認できる。ただし、初期の酸素の透過速度は、シリル化処理を施さない場合に比べて、1/200程度まで低下した。これは、シリル化処理により、炭素膜の細孔が小さくなり、酸素の透過性能が低下したためであると考えられる。
【0063】
(実施例9)
実施例1と同様の手順で炭素膜の前駆体を得、窒素雰囲気の環状炉中にて、600℃で6時間の熱処理を行い、炭素膜を得た。この熱処理の際の昇温速度は1℃/minとした。得られた炭素膜について、前記実施例1〜5及び比較例1〜3と同様の方法でガスの分離性能を評価したところ、酸素選択性を示さなかった。この炭素膜をシリル化剤にトリメチルクロロシランを用いて、150℃で2時間シリル化した。シリル化後の炭素膜について、再び同様の方法でガスの分離性能を評価したところ、酸素選択性を示した。また、80℃飽和水蒸気中で24時間放置した後の酸素単独の透過速度を測定し、親疎水性を評価した。その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示す評価結果から、酸素選択性を示さない膜を、シリル化処理することで、酸素選択性を発現する膜に修飾することができることがわかる。また、蒸気処理前と蒸気処理後の酸素の透過速度にほとんど変化がないことから、シリル化処理によって炭素膜に疎水性も付与されていることがわかる。
【0066】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、分離係数が十分に大きく、かつ従来に比して透過速度も向上させた炭素膜が得られる。本発明の炭素膜は、例えば酸素富化膜や水素分離膜として工業的に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例において気体分離性能の評価に使用した装置の概要図である。
Claims (9)
- 混合物から特定の物質を分離するための炭素膜が多孔質基材の表面に形成されてなる炭素膜構造体であって、繰り返し単位が下記一般式(1)で表されるポリイミド樹脂(ただし、式中Xは炭素数2〜27の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び芳香族基が直接又は架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示し、nは5〜10000の整数を示し、Yは下記一般式(2)で表され、当該一般式(2)においては、主鎖骨格を形成するフェニレン基のうち少なくとも1つがm−フェニレン基であり、Zは直結、−O−又は−CO−を示し、mは1〜3の整数を示し、また、R1-4及びR’1-4は−Hを示す)の前駆体である下記一般式(3)で表されるポリアミド酸(式中、XとYは前記と同様の基を表す)を多孔質基材の表面に塗布し、加熱、乾燥して炭素膜の前駆体を形成し、当該前駆体を不活性雰囲気下で熱分解することにより得られることを特徴とする炭素膜構造体。
- 前記炭素膜の前駆体を不活性雰囲気下で熱分解した後、膜表面にシリル化処理を施した請求項1ないし3の何れか1項に記載の炭素膜構造体。
- 前記多孔質基材が0.005〜5μmの平均細孔径と25〜55%の気孔率とを有するものである請求項1ないし4の何れか1項に記載の炭素膜構造体。
- 混合物から特定の物質を分離するための炭素膜が多孔質基材の表面に形成されてなる炭素膜構造体の製造方法であって、繰り返し単位が下記一般式(1)で表されるポリイミド樹脂(ただし、式中Xは炭素数2〜27の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び芳香族基が直接又は架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示し、nは5〜10000の整数を示し、Yは下記一般式(2)で表され、当該一般式(2)においては、主鎖骨格を形成するフェニレン基のうち少なくとも1つがm−フェニレン基であり、Zは直結、−O−又は−CO−を示し、mは1〜3の整数を示し、また、R1-4及びR’1-4は−Hを示す)の前駆体である下記一般式(3)で表されるポリアミド酸(式中、XとYは前記同様の基を表す)を多孔質基材の表面に塗布し、加熱、乾燥して炭素膜の前駆体を形成し、当該前駆体を不活性雰囲気下で熱分解することを特徴とする炭素膜構造体の製造方法。
- 前記ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を塗布する前に、塗布面となる前記多孔質基材の表面にエポキシ樹脂を塗り込む下地処理を施しておく請求項6記載の製造方法。
- 前記炭素膜の前駆体を不活性雰囲気下で熱分解した後、更に得られた炭素膜の表面にシリル化処理を施す請求項6又は7に記載の製造方法。
- 前記多孔質基材が0.005〜5μmの平均細孔径と25〜55%の気孔率とを有するものである請求項6ないし8の何れか1項に記載の製造方法。
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