[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係るシートとしての車両用シート10について、図1乃至図9に基づいて説明する。なお、各図に適宜示される矢印UP、矢印LO、矢印FR、矢印RE、矢印RI、及び矢印LEは、それぞれ車両用シート10が搭載される車両の進行方向を基準とした前方向(進行方向)、後方向、上方向、下方向、右方向、及び左方向を示しており、以下単に上下前後右左を示す場合は上記各矢印方向に対応している。
図1には車両用シート10の全体構成が斜視図にて示されており、図2には車両用シート10の側面図が示されている。これらの図に示される如く、車両用シート10はシートフレーム11を備えており、シートフレーム11は、シートクッションフレームである座部用フレーム14と、シートバックフレームである背部用フレーム15と、ヘッドレストフレーム17とを有して構成されている。
そして、座部用フレーム14にクッション材20を設けることにより座部としてのシートクッション21が形成され、背部用フレーム15に背部用のクッション材22を設けることによりシートバック23が形成され、ヘッドレストフレーム17にヘッドレスト用のクッション材24を設けることによりヘッドレスト19が形成されている。
シートクッション21を構成する座部用フレーム14は、それぞれ前後方向に長手とされた左右一対のサイドフレーム28を備えている。また、座部用フレーム14は、左右方向に長手とされたフレームパイプ30、31を備えており、これらのフレームパイプ30、31が左右一対のサイドフレーム28を前後の両端部間に架け渡されて、左右の再度フレームを連結している。これにより、座部用フレーム14は、平面視で略「ロ」字型の矩形枠状に形成されている。さらに、各サイドフレーム28には、それぞれ上下の端部から所定幅のフランジ部28A、28Bが形成されている。各サイドフレーム28の上端に位置するフランジ部28Aは、それぞれシート外方に延出しており、前後方向の略全長に亘り設けられている。一方、各サイドフレーム28の下端に位置するフランジ部28Bは、それぞれシート内方に向けて延出しており、該サイドフレームの前後端を除く前後方向中間部分に設けられている。
以上説明した座部用フレーム14の後端部に、ヘッドレストフレーム17が一体化された背部用フレーム15の下端が、リクライニング機構26を介し支軸26Aを廻りの回動可能に連結されて、シートフレーム11が構成されている。なお、リクライニング機構26の詳細な説明は省略する。以下、本実施形態の要部である背部用フレーム16について詳細に説明する。
図1及び図2に示される如く、背部用フレーム15は、左右一対の衝撃吸収サイドフレーム75を備えて構成されている。各衝撃吸収サイドフレーム75は、それぞれサイドフレームロア78を備えている。各サイドフレームロア78は、略上下方向に長手とされ、それぞれの下端部がリクライニング機構26を介して座部用フレーム14の後端部に連結されている。これにより、背部用フレーム15の支軸26A廻りの回動及び任意の回動位置での保持が可能とされている。これら左右一対のサイドフレームロア78が、本発明における下部フレームを構成している。
各サイドフレームロア78の上端には、それぞれ上部サイドフレームとしてのサイドフレームアッパ80が連結されており、これら左右一対のサイドフレームアッパ80が本発明における上部フレームを構成している。具体的には、各サイドフレームロア78の上端部には、前後幅方向の中央部を略半円状に突出させた連結部78Aが形成され、該連結部78Aからは左右方向の外向きに連結軸82が突設されている。左右の連結軸82は、互いに略同軸となるように配置されている。また、図3に詳細に示される如く、各サイドフレームロア78の上端には、それぞれの連結軸82の前側に前側ストッパ部84が設けられると共に、それぞれの連結軸82の後側に後側ストッパ部86が設けられている。各前側ストッパ部84と各後側ストッパ部86は、それぞれ連結軸82に対して略180°反対側に位置し、略上方を向いたストッパ面が形成されている。
一方、各サイドフレームアッパ80は、略上下方向に長手とされ、それぞれの下端部における前後方向中央部から略半円状に突出して連結部80Aが形成されている。この連結部80Aには、連結軸82に対応して軸孔88(図16参照)が設けられている。また、各サイドフレームアッパ80の上端には、それぞれの軸孔88の前側に前側ストッパ部90が設けられると共に、それぞれの軸孔88の後側に後側ストッパ部92が設けられている。各前側ストッパ部90及び後側ストッパ部92は、それぞれ略下方を向いてストッパ面が形成されいるが、各ストッパ面が上側に成す角は180°よりも十分に小とされている。
そして、各サイドフレームアッパ80は、それぞれの軸孔88に連結軸82を挿通させたサイドフレームロア78に、一対の連結軸82廻りの前後方向(図2に示す矢印D方向、又は矢印Dとは反対方向)の回動可能に支持されている。この状態で、各サイドフレームアッパ80は、下部が連結部78Aに固定されると共に上部が連結部80Aの外側面に摺動可能に当接した保持部材96によって、サイドフレームロア78からの脱落が阻止されている。また、各サイドフレームアッパ80の上端間には、左右方向に長手のクロスメンバアッパ102が架け渡されている。このクロスメンバアッパ102にヘッドレストフレーム17が溶接等によって固着されている。
また、各衝撃吸収サイドフレーム75(背部用フレーム15)は、緩衝部材としてのばね部材85を備えている。図3に示される如く、ばね部材85は、サイドフレームロア78の後側ストッパ部86と、サイドフレームアッパ80の後側ストッパ部92との間に配設されている。ばね部材85は、略V字状に形成されて圧縮状態で後側ストッパ部86、92間に配置され、サイドフレームアッパ80をサイドフレームロア78に対し矢印Dとは反対向きに付勢する板ばね部85Aを備えている。これにより、衝撃吸収サイドフレーム75では、通常はサイドフレームロア78の前側ストッパ部84にサイドフレームアッパ80の前側ストッパ部90が当接する構成である。
また、ばね部材85は、板ばね部85Aに対応して側面視で略楔型に形成され、板ばね部85Aのアーム間(すなわち後側ストッパ部86、92間)に配置されたゴム製のラバー部材85Bを備えている。ラバー部材85Bは、その下面が板ばね部85Aにおける後側ストッパ部86上に接触するアームに固着されている。図5(A)に示す如く衝撃吸収サイドフレーム75に後方への荷重が入力しない状態では、ラバー部材85Bの上面は、板ばね部85Aの上側のアームに対し略全面に亘り面接触している。すなわち、ラバー部材85Bは、サイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動すると、板ばね部85Aの上側のアームに押圧されて該板ばね部85Aに挟まれるようになっている。
さらに、ラバー部材85Bの下面からは、ゴム材にて一体に形成された取付凸部85Cが突出している。取付凸部85Cは、根元部が板ばね部85A及び後側ストッパ部86を共に貫通すると共に、該根元部よりも拡径された先端部が後側ストッパ部86の下面に係合することで、ばね部材85を後側ストッパ部86に保持させている。なお、ばね部材85は、例えば、板ばね部85Aの下側アームを後側ストッパ部86に設けた凹部(段差)に入り込ませることで該後側ストッパ部86に保持されても良い。
以上説明した背部用フレーム15では、図5(A)に示される如く、通常は各ばね部材85による矢印Dとは反対向きの付勢力によって、左右のサイドフレームアッパ80の前側ストッパ部90が対応する前側ストッパ部84に押しつけられ、通常使用状態での十分な剛性が確保されるようになっている。一方、背部用フレーム15は、サイドフレームアッパ80に所定値以上の後向きの荷重が作用すると、図5(B)に示される如く、該サイドフレームアッパ80は、ばね部材85を圧縮変形してこれに伴う反力を受けつつ、サイドフレームロア78に対し矢印D方向に回動する構成である。
このように、背部用フレーム15の各衝撃吸収サイドフレーム75は、サイドフレームロア78とサイドフレームアッパ80とで各連結軸82を関節Kとするリンク機構Lを構成している。そして、ばね部材85が関節Kの関節角度の変化に応じた反力を生じるようになっている。なお、関節Kは、着座者の座位ウエスト高よりも若干高い位置(人体重心よりも高い位置)に設置高さが決められている。ここで、座位ウエスト高は、日本人の成人男性の平均で248.2mm、日本人の成人女性の平均で243.2mm、日本人成人の男女の平均で245.7mmである。
また、左右のサイドフレームロア78及びサイドフレームアッパ80の各内側面には、それぞれ略上下方向に長手の棒状に形成された棒状係止部材103が固定的に取り付けられている。棒状係止部材103には、一端部がクッション材22の表皮202に連結された紐状部材206の他端部が係止されるようになっている(図4(A)参照)。また、各棒状係止部材103は、サイドフレームアッパ80がサイドフレームロア78に対し矢印D方向に回動するときに、弾性的または塑性的に曲げ変形して反力を生じる緩衝部材としても機能するようになっている。
以上説明したシートフレーム11は、上記の通り、座部用フレーム14にクッション材20が張設されてシートクッション21を構成し、背部用フレーム15にクッション材22が張設されてシートバック23を構成し、ヘッドレストフレーム18にクッション材24を設けてヘッドレスト19を構成している。各クッション材20、22、24としては、面状の張力構造体が用いられ、本第1の実施の形態では、3次元立体編物210に本革等の表皮202を積層したものを用いている。なお、クッション材20、22、24は、図1、図2、及び図4において、それぞれの表皮202によって外形(車両用シート10の外形)が図示されている。
図4(B)に示される如く、シートクッション21では、クッション材20の表皮202の左右方向両端近傍に、一端部がサイドフレーム28に係止された紐状部材204の他端部が係止されており、該紐状部材204の張力によって左右方向中央部が両端部に対し相対的に凹み、該両端部に土手状のサイドサポート21Aが形成されている。同様に、図4(A)に示される如くシートバック23では、クッション材22の表皮202の左右方向両端近傍に、一端部が棒状係止部材103に係止された紐状部材206の他端部が係止されており、該紐状部材206の張力によって左右方向中央部が両端部に対し相対的に凹みバックレスト23Aが形成されると共に、バックレスト23Aの左右両側に土手状のサイドサポート23Bが形成されている。
次に、クッション材20、22、24を構成する3次元立体編物210の具体例を説明する。図6に示すように、3次元立体編物210は、互いに離間して配設された一対のグランド編地212、214と、この一対のグランド編地212、214の間を往復して両者を結合する多数の連結糸216によって形成されるパイル部218と、によって構成されている。
一方のグランド編地212は、例えば、図7に示すように、短繊維を撚った糸220から、ウェール方向及びコース方向の何れの方向にも連続したフラットな編地組織によってメッシュを形成したものを用いる。また、他方のグランド編地214は、例えば図8に示すように、短繊維を撚った糸222からハニカム状のメッシュを形成している。また、他方のグランド編地214は、一方のグランド編地212よりも大きな網目としている。なお、グランド編地212、214としては、細め組織やハニカム状に限らず、これ以外のメッシュ状の編地組織を用いたものであっても良い。
図6に示すように、連結糸216は、一方のグランド編地212と他方のグランド編地214が所定の間隔を保持するようにグランド編地212、214の間に編み込まれてパイル部218を形成している。これにより、メッシュニットとなっている3次元立体編物210に所定の剛性を付与するようにしている。
3次元立体編物210は、グランド編地212、214を形成するグランド糸(糸220、122)の太さ等によって、必要な腰の強さを具備させることができるが、グランド糸220、222は、編成作業が困難とならない範囲のものが選択されることが好ましい。また、グランド糸220、222としては、モノフィラメント糸を用いることができるが、風合いや表面感触の柔らかさ等を考慮して、マルチフィラメント糸やスパン糸を用いても良い。
連結糸216としては、モノフィラメント糸を用いることが好ましく、太さは、167デシテックス〜1110デシテックスの範囲のものが好ましい。マルチフィラメント糸では、復元力が良好なクッション性が得られなく、また、太さが167デシテックスを下回ると、3次元立体編物210の腰の強さが低下し、1110デシテックスを上回ると、硬くなり過ぎてしまい、適度のクッション性が得られなくなる。
すなわち、連結糸216として、167デシテックス〜1110デシテックスのモノフィラメント糸を用いることにより、シートに着座した乗員の荷重を、グランド編地212、214を形成する網目の変形と共に、パイル部218を形成する連結糸216の倒れや座屈による変形、また、変形した連結糸216にばね特性を付与する隣接した連結糸の復元力によって支持することができ、柔らかなばね特性を有して応力集中の起きない柔構造とすることができる。
なお、3次元立体編物210に凹凸を形成しても良い。すなわち、グランド編地212、214としては、表面に凹凸が生じるように編んだものであっても良く、凹凸を形成したときには、グランド編地212、214に断面略アーチ状のばね要素を形成できるため、さらに、柔らかなばね特性を付与することができ、筋肉の弾性コンプライアンスと略同等かそれよりも大きな弾性コンプライアンスを有する構造を容易に形成することができる。なお、弾性コンプライアンスは、(撓み量)/(接触する面の平均圧力値)で計算される。
グランド糸220、222及び連結糸216の素材としては、特に限定するものではなく、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、レーヨン等の合成繊維や再生繊維、ウール、絹、綿等の天然繊維が挙げられる。これらの素材は、単独で用いても良く、任意の組み合わせで併用することもできる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などに代表される熱可塑性ポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などに代表されるポリオレフィン系繊維、或いはこれらの繊維を2種類以上組み合わせたものである。
また、グランド糸220、222及び連結糸216の糸形状も前記した説明に限定するものではなく、丸断面糸や異形断面糸等を用いても良い。
パイル部218を形成する連結糸216の配設の仕方であるパイル部218のパイル組織は、各グランド編地212、214を連結する連結糸216を側面から見た状態で表すと、図9(A)〜図9(E)に示す種類に分類することができる。
図9(A)、図9(B)は、グランド編地212、214の間に、連結糸216をほぼ垂直に編み込んだストレートタイプであり、このうち図9(A)は、8の字状にしてストレートに編んだものであり、図9(B)は、単純なストレートに編んだものである。
また、図9(C)、図9(D)、図9(E)は、グランド編地212、214の間において、連結糸216が中途で交差するように編んだクロスタイプを示している。このうち、図9(C)は、連結糸216を8の字状にクロスさせたものであり、図9(D)は、連結糸216を単純にクロスさせたものである。また、図9(E)は、連結糸216を2本ずつまとめてクロス(ダブルクロス)させたものである。
なお、図9(C)〜図9(E)に示すように、連結糸216同士を交差させて斜めに配置したときには、連結糸216をグランド編地212、214の間でほぼ垂直に配置した形態(図9(A)、図9(B)参照)に比較して、各連結糸216の座屈強度により充分な復元力を保持しながら、圧縮率の大きな柔らかいばね特性を付与することができるという利点がある。
このような網目構造の3次元立体編物210を用いた各クッション材20、22、24は、ばね性が小さくなって減衰比が高く、乗員の体型に追従した変形が生じ易く、よりフィットし易くなる。また、3次元立体編物210を適用した各クッション材20、22、24は、3次元の張力構造体であり、上記平衡点近傍で略ばね零特性となるダッフィン型のばね定数特性を付与することができる。すなわち、各クッション材20、22、24は、弱い衝撃に対しては上記の通り柔特性(ソフト特性)なる一方、強い衝撃に対しては比較的剛特性(ハード特性)となり、通常は着座者への負荷を軽減する機能を維持しつつ、大きな衝撃が作用した際には衝撃の強さに応じて着座者の移動を制限して該着座者を好適に支持することができる。
なお、3次元立体編物210の上記構成は一例であり、各クッション材20、22、24には、例えば、表面に凸部や凹部、畝等を形成する編目構造等、種々の編目構造を有する3次元立体編物を用いることができる。また、用途や機能に応じて異なる編目構造の3次元立体編物を用いても良い。したがって例えば、各クッション材20、22、24がそれぞれ異なる網目構造の3次元立体編物210を採用しても良い。また、各クッション材20、22、24は、張力構造体であることが望ましいが、これに代えてウレタンフォーム等より成るクッションを用いることも可能である。
次に、本第1の実施の形態の作用を説明する。
上記構成の車両用シート10では、通常は、各ばね部材85の付勢力によって、各衝撃吸収サイドフレーム75のサイドフレームアッパ80の前側ストッパ部90が、対応するサイドフレームロア78の前側ストッパ部84に当接している。
この車両用シート10を搭載した車両に後方からの衝突(後突)が生じると、衝突に伴う衝撃によって、該車両用シート10の着座者は、車両すなわち車両用シート10の対し後方へ移動する。すると、この着座者の上体がシートバック23を後方へ押圧し、クッション材22を介して左右のサイドフレームアッパ80に衝撃荷重(所定値以上の荷重)が後向きに作用する。そして、これらのサイドフレームアッパ80は、ばね部材85の反力を受けつつ矢印D方向に回動する。すなわち、各衝撃吸収サイドフレーム75が関節Kにおいて中折れする。本第1の実施形態では、衝突後略60msec後に衝撃吸収サイドフレーム75の中折れが開始されることが確認された。
衝撃吸収サイドフレーム75の中折れに伴って、サイドフレームアッパ80(着座者の上体)には、ばね部材85を圧縮変形する抵抗力が反力として作用し、着座者の衝撃エネルギが吸収される。特に、ばね部材85の圧縮に伴う抵抗力は、板ばね部85A及びラバー部材85Bの圧縮変形に抗する弾性力(復元力)と、ラバー部材85Bの内部減衰に基づく減衰力とを含むため、サイドフレームアッパ80の回動範囲内で衝撃エネルギが効果的に吸収される。また、この衝撃吸収の過程で、サイドフレームロア78が着座者の腰部(に作用する衝撃荷重)を支持するため、該腰部の後方への倒れが規制される。
以上説明したように、車両用シート10では、衝撃吸収サイドフレーム75の中折れにより充分な衝撃吸収ストロークが創出され、このストローク(角変位)に応じて生じる反力によって後突時に着座者に作用する衝撃荷重が散逸されながら吸収される。これにより、後突時に衝撃エネルギが散逸され、着座者の胸部、腰部に作用する衝撃力(加速度)のピーク値が大幅に下がり、着座者に与えるダメージが著しく小さくなる。
このことは、フレームに関節構造を有しない従来の高剛性シートの同条件での後突実験から明らかにされている。具体的には、車両用シート10または従来シートが搭載された車両モデルに後突に相当する衝撃を入力し、ダミー人形(着座者)の胸部、腰部に作用する合成加速度(各方向の加速度を合成したもの)を測定した。この結果、各シートの実験においてフロア加速度すなわちシートに入力される加速度はほぼ同じながら、車両用シート10では、従来シートと比較して、胸部及び腰部に作用する加速度(すなわち荷重)のピーク値が大幅に低減されていることが確認された。この作用効果は、車両後突の際に胸部の加速度が最大になるタイミング(後突の瞬間から略60msec後)にサイドフレームアッパ80が矢印D方向へ回動し始め、大きなストロークで衝撃エネルギを散逸させることによる。
また、従来シートに代えて、比較例シートとの比較実験も行なった。比較例シートは、シートバックの下端部がシートクッションの後端に回動可能に連結されたシートであって、車両後突時には、シートバックが反力を受けつつ全体として後方に倒れるように回動する構成とされている。このような比較例シートと比較した場合でも、車両用シート10は、胸部及び腰部に作用する衝撃荷重のピーク値が低減されることが確かめられた。
さらに、上記のような比較例シートでは、シートバックの後方への回動(倒れ)に伴うダミー人形の腰部が倒れ、この腰部の倒れに遅れて両脚が持ち上げられてしまう現象が確認された。これに対し車両用シート10では、着座者の腰部は、上記の通り左右のサイドフレームロア78(が張力を支持するクッション材22)によって後方へ倒れることが抑制される。上記実験では、ダミー人形の膝が最も高く持ち上がる衝突後240msecの時点で、車両用シート10のダミー人形は腰部がサイドフレームロア78にて支持された姿勢(仰け反る如き姿勢)が維持されて脚高位が低く抑えられることが確認された。これにより、後突時の衝撃吸収に伴って着座者の脚が上方に持ち上がる速度が緩められ、衝突に伴い該着座者の脚に作用する荷重が小さく抑えられる。すなわち、後突時に着座者の下肢も確実に保護される。
このように、本第1の実施の形態に係る車両用シート10では、着座者に作用する衝撃を効果的に吸収することができる。また、着座者上体の衝撃エネルギが効果的に吸収されるため、換言すれば着座者頭部がヘッドレスト19に当接する前に該頭部の衝撃エネルギが予め大きく消費されているため、着座者の頭部の保護性も向上する。
(緩衝部材の変形例)
次に、衝撃吸収サイドフレーム75を構成する反力生成構造である緩衝部材の変形例をいくつか例示する。
図10に示される如く、第1変形例に係る反力生成構造は、ばね部材85に代えて連結軸87を備えている。連結軸87は、上端が最小径となる円錐台状に形成されたしごき軸部87Aを備えており、しごき軸部87Aの上端は前側ストッパ部84に設けた嵌合孔84Aに嵌合している。また、連結軸87における前側ストッパ部84上面よりも突出する固定部87Bは、該前側ストッパ部84の上面に当接している前側ストッパ部90に溶接等によって固着されている。これにより、サイドフレームアッパ80(関節K)は、通常はサイドフレームロア78に対し矢印D方向に角変位しない構成とされている。そして、本第1変形例では、嵌合孔84Aを設ける前側ストッパ部84を延性の高い材料にて構成している。
本第1変形例に係る構成では、例えば車両後突時に、図11(A)に示す状態から図11(B)に示す如くサイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動すると、連結軸87のしごき軸部87Aが前側ストッパ部84における嵌合孔84Aの孔壁をしごき、該嵌合孔84Aを拡張変形させる。このように連結軸87のしごき軸部87Aが嵌合孔84Aを拡張変形させることに伴う荷重が反力として作用し、衝撃エネルギが吸収される。本第1変形例では、連結軸と前側ストッパ部84とで構成する反力生成部の反力は復元力を殆ど含まず、衝撃エネルギを消費して吸収する。
図12(A)に示される如く、第2変形例に係る反力生成構造は、ばね部材85に代えてコイルばね89を備えている。具体的には、サイドフレームアッパ80の前側ストッパ部90には支軸91の上端が固着されており、支軸91の中間部はサイドフレームロア78の前側ストッパ部84を非接触で(サイドフレームアッパ80が矢印Dまたは矢印E方向に角変位するときに前側ストッパ部84に干渉しないように)貫通している。そして、この支軸91の下端に設けたばね座93と前側ストッパ部84下面との間に、コイルばね89が圧縮状態で配設されている。この状態でコイルばね89は、サイドフレームアッパ80を矢印Dとは反対向きに付勢しており、この付勢力によって通常は前側ストッパ部84、90が当接した状態を維持する構成とされている。そして、衝撃吸収サイドフレーム75では、支軸91、ばね座93がサイドフレームアッパ80に追従して矢印D側に回動すると、コイルばね89がさらに圧縮されるようになっている。なお、図37では、コイルばね89を円錐コイルばねとして図示しているが、コイルばね89を円筒コイルばねとしても良いことは言うまでもない。
本第2変形例に係る構成では、例えば車両後突時に図12(B)に示す如くサイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動すると、コイルばね89を圧縮する荷重が反力として作用し、衝撃エネルギが吸収される。本第2変形例では、このときの反力が主に復元力とされる。
図13(A)に示される如く、第3変形例に係る反力生成構造は、ばね部材85に代えて被しごき突起95を備えている。具体的には、被しごき突起95は、その上端がサイドフレームアッパ80の後側ストッパ部92に固着されて、該後側ストッパ部92の下面に対する略直交方向下向きに突出している。この被しごき突起95の突出部分は、下端が最小径となる略円錐台状に形成されている。
一方、サイドフレームロア78の後側ストッパ部86には、しごき孔86Aが形成されている。しごき孔86Aは、被しごき突起95の下端の外径に対応した内径とされ、被しごき突起95は後側ストッパ部86に対し硬度が低い構成とされている。被しごき突起95は、前側ストッパ部84、90が互いに当接した状態で、先端をしごき孔86Aの孔縁に接触(係合)させて、矢印D方向の回動が規制されている。これにより、車両加速時等に着座者の上体がバックレスト23Aの上部にもたれても、サイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動しない構成とされている。そして、被しごき突起95は、サイドフレームアッパ80に所定値以上の荷重が後向きに作用して該サイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動することに伴って、しごき孔86Aの孔縁にしごかれつつ該しごき孔86Aに押し込まれ、このしごき荷重に基づく反力をサイドフレームアッパ80に作用させる構成である。
本第3変形例に係る構成では、例えば車両後突時に図13(B)に示す如くサイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動すると、しごき孔86Aの孔縁が被しごき突起95をしごく荷重が反力として作用し、衝撃エネルギが吸収される。相対的に低硬度とされた被しごき突起95は、しごき孔86Aに倣って潰れ(塑性変形し)衝撃エネルギを消費して吸収する。なお、第1変形例と同様に、後側ストッパ部86を延性の高い材料にて構成し、しごき孔86Aに代えて設けた嵌合孔を拡張変形させることで反力を生じるように構成しても良い。
なお、上記各変形例は例示であって、ばね部材85、連結軸87(しごき軸部87A)、コイルばね89、または被しごき突起95に代えて、他の緩衝部材や反力生成機構を採用したり、上記各緩衝部材等の一部と共に他の緩衝部材や反力生成機構を組み合わせたりすることができる。特に、関節Kの反力が復元力と減衰力(非保存力)とを含むように構成するれば、衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態に係るシートとしての車両用シート100について、図14乃至図27に基づいて説明する。なお、上記第1の実施の形態に係る車両用シート10と基本的に同一の部品・部分については上記第1の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
図14には車両用シート100の全体構成が斜視図にて示されており、図15には車両用シート100の側面図が示されている。これらの図に示される如く、車両用シート100はシートフレーム11に代えてシートフレーム12を備える点で、上記第1の実施の形態に係る車両用シート10とは異なる。このシートフレーム12は、複数の関節を有する多関節機構とされている。具体的には、座部用フレーム14の前端近傍に設けられた脚部サポート機構32、座部用フレーム14の後端近傍に設けられた骨盤プレート機構62、背部用フレーム16を構成する衝撃吸収サイドフレーム77、背部用フレーム16の上端近傍に設けられたヘッドレスト可動機構106、衝撃吸収ヘッドレスト機構である上記ヘッドレストフレーム18を備えている。以下、これらのシートフレーム12の各主要構成要素について説明し、次いでシートフレーム12に張設されるクッション材20、22、24について説明することとする。
(脚部サポート機構の構成)
座部用フレーム14を構成する一対のサイドフレーム28間における前端近傍には、脚部サポート機構32が設けられている。脚部サポート機構32は、全体としてほぼフランジ部28Bの前方に位置しており、その前部に位置する回動軸34を備えている。図17及び図20に示される如く、回動軸34は、左右方向に長手とされ、フレームパイプ30の両端近傍にそれぞれ固着された支持プレート36の支持孔36Aにブッシュ38を介して回転自在に軸支されている。
この回動軸34における各支持プレート36に対し左右方向(シート幅方向)の内方側近傍には、それぞれアーム部40が設けられている。各アーム部40は、それぞれの上端が回動軸34と常に一体に回動するように該回動軸34に固着されると共に、それぞれの下端には係止軸42が取り付けられている。各係止軸42には、ぞれぞれ一端部がフランジ部28Bの前端に係止された引張コイルスプリング44の他端部が係止されている。これにより、回動軸34は、図18に示される如く、引張コイルスプリング44の付勢力によって、その軸心廻りの矢印A方向に付勢されている。
また、回動軸34の長手方向両端部(支持プレート36に対し左右方向の外方)には、それぞれ連結アーム46の前端部が嵌合状態で固定されている。各連結アーム46は、略前後方向に長手とされおり、それぞれの後端部からは左右方向の内向きに支軸部46Aが突設されている。また、各連結アーム46の上端からは所定幅の係合部46Bが左右方向の外向きに延設されている。
さらに、脚部サポート機構32は、連結アーム46に支持される押圧プレート48を備えている。押圧プレート48は、左右方向に長手とされており、該長手方向両端部にそれぞれ設けられ前後両端が絞られた左右一対の側板50と、各側板50の前後端にそれぞれ架け渡された前後一対の連結棒52と、各側板50及び各連結棒52上に固定的に取り付けられたプレート本体54とを有して構成されている。プレート本体54は、前後方向中央部を頂部とする側面視略山形に形成されており、各側板50の上縁形状もこれに対応している。
そして、各側板50の中央部には支持孔50Aが形成されており、各支持孔50Aには連結アーム46の支軸部46Aがブッシュ56を介材させた状態で挿通されている。これにより、押圧プレート48は、回動軸34廻りの回動及び支軸部46A廻りの回動が可能とされている。各支軸部46Aは、それぞれの先端にはEリング57が取り付けられて対応する側板50に対し抜け止めされている。
また、脚部サポート機構32は、押圧プレート48の上記各回動を制限するストッパ部が設けられている。具体的には、一対のサイドフレーム28間における側板50の前部の下方には、該側板50の前部に係合可能にストッパパイプ58が架け渡されている。また、ストッパパイプ58の長手方向両端部における各サイドフレーム28の内面側には、それぞれ連結アーム46の係合部46Bの下端に係合可能なストッパプレート60が固定的に設けられている。
これにより、押圧プレート48は、その回動軸34廻りの矢印Aと反対方向の回動がストッパプレート60によって規制され、該矢印Aと反対方向の回動が規制された状態における支軸部46A廻りの矢印B方向(図18参照)の回動がストッパパイプ58によって規制される構成である。また、連結アーム46がストッパパイプ58及びストッパプレート60と十分に離間してサイドフレーム28上端から突出している状態では、押圧プレート48は、矢印Aとは反対の回動、または矢印B方向の回動が座部用フレーム14に張設されるクッション材20(との力の釣り合い)によって規制されるようになっている(図示省略)。
以上説明した脚部サポート機構32は、図18(A)に示される如く、非着座状態では引張コイルスプリング44の付勢力によって、押圧プレート48をサイドフレーム28の上縁よりも上側に突出させるようになっている。一方、図18(B)に示される如く、着座に伴い着座者の脚部から受ける荷重に応じて矢印Aとは反対向きに回動して、該脚部の形状に応じ適宜矢印B方向に回動した位置で、該脚部を上前方に付勢するようになっている。
これにより、例えば車両用シート100を運転席に適用した場合、着座者によるアクセルオペダルやブレーキべダル等を踏む動作が補助(アシスト)され、各ペダルの操作性が良好となる構成である。なお、通常の着座状態ではストッパパイプ58、ストッパプレート60が側板50、連結アーム46に係合しない(底付きしない)ように各部の寸法やばね定数、張力特性等が設定されている。
(骨盤プレート機構の構成)
また、一対のサイドフレーム28間における後端近傍には、骨盤プレート機構62が設けられている。図15及び図17に示される如く、骨盤プレート機構62は、一対のサイドフレーム28間における最後端部に架け渡されたフレームパイプ31の左右方向両端近傍にそれぞれ下端部が固着された一対の支持アーム64の上端に、取り付けられるようになっている。
骨盤プレート機構62は骨盤プレート66を備えており、骨盤プレート66は、左右方向に長手でかつ人体に対応して中央部が若干凹むように滑らかに湾曲した略矩形板状に形成されている。図19(A)に示される如く、この骨盤プレート66の長手方向両端近傍における背面には、それぞれ支持ブラケット68、69がボルト等の締結手段によって固定されている。各支持ブラケット68、69は、背部用フレーム16の下前端に略沿って配置される骨盤プレート66の背部から上記配置のフレームパイプ31の近傍まで至っており、それぞれの下端部に架け渡された補強パイプ70によって互いに連結されている。
そして、図19(B)にも示される如く、一方の支持ブラケット68には、一方の支持アーム64の上端部に回転自在に支持される短軸部72が固着または一体に形成されており、他方の支持ブラケット69は、他方の支持アーム64の上端部に固着または一体に形成された短軸部74に回転自在に支持されている。短軸部72、74は、互いに同軸となるように配置されている。これにより、骨盤プレート66は、フレームパイプ31すなわちシートフレーム12に対して、各短軸部72、74廻りの回動が可能とされている。
また、各短軸部72、74には、緩衝部材(第4緩衝部材)としてのトーションバー76の異なる端部がそれぞれ同軸的かつ廻り止め状態で係止されている。トーションバー76は捩り量(弾性変形)に応じて捩り荷重を生じる部材であり、骨盤プレート66の支持アーム64(すなわちシートフレーム12)に対する各短軸部72、74廻りの回動に対する反力(抵抗力)を生じさせる構成である。すなわち、図23に示される如く、骨盤プレート66(支持ブラケット68、69)と支持アーム64とは、短軸部72、74を関節K5とするリンク機構L4を構成しており、本発明における第4リンク機構に相当する。そして、トーションバー76は関節K5の関節角度の変化に応じた反力を生じるようになっている。
さらに、図6及び図7に示される如く、支持ブラケット68は、骨盤プレート66の背面に固定されると共に短軸部72に回転自在に支持された第1ブラケット部68Aと、短軸部72が固着または一体に形成されると共に補強パイプ70が連結された第2ブラケット部68Bと、第1ブラケット部68Aと第2ブラケット部68Bとを一体に短軸部72廻りに回動するように連結するリベット68Cとで構成されている。また、支持ブラケット69は、骨盤プレート66の背面に固定されると共に短軸部74に回転自在に支持された第1ブラケット部69Aと、短軸部74に回転自在に支持されると共に補強パイプ70が連結された第2ブラケット部69Bと、第1ブラケット部69Aと第2ブラケット部69Bとを一体に短軸部74廻りに回動するように連結するリベット69Cとで構成されている。リベット68C、69Cは、それぞれ所定のせん断力が作用すると破断するようになっている。
以上説明した骨盤プレート機構62の骨盤プレート66は、背部用フレーム16に張設されるクッション材22の裏面側(シートバック23内)において、通常は該背部用フレーム16の下前端に略前方を向けて配置されている。そして、骨盤プレート機構62では、骨盤プレート66に外力が作用するとトーションバー76を捩りつつ各短軸部72、74廻りを図15に矢印Cにて示す方向に回動するようになっているが、骨盤プレート66に作用する力が所定の値を超えると、リベット68C、69Cが破断し、それぞれ第1ブラケット部68A、69Aと第2ブラケット部68B、69Bとが分離するようになっている。このため、骨盤プレート66は、それ以上の矢印C方向への回動に伴うトーションバー76の反力が作用しなくなり、この状態で各短軸部72、74廻りの回動(第1ブラケット部68A、69Aの第2ブラケット部68B、69Bに対する回動)によって矢印Cにて示す略上後方に向けて移動可能とされている(図24乃至図27参照)。すなわち、骨盤プレート66は、着座者の骨盤(臀部)に対応する位置に配置されており、着座者の後方への移動力によって該着座者をシートフレーム12に対し略上後方にガイドするようになっている。
(背部用フレームの構成)
図14乃至図16に示される如く、背部用フレーム16は、本発明における第3リンク機構である左右一対の衝撃吸収サイドフレーム77を備えて構成されている。各衝撃吸収サイドフレーム77は、それぞれ下部サイドフレームとしてのサイドフレームロア78を備えている。各サイドフレームロア78は、略上下方向に長手とされ、それぞれの下端部がリクライニング機構26を介して座部用フレーム14の後端部に連結されている。これにより、背部用フレーム16の支軸26A廻りの回動及び任意の回動位置での保持が可能とされている。したがって、左右一対のサイドフレームロア78が、本発明における下部フレームを構成している。
各サイドフレームロア78の上端には、それぞれ上部サイドフレームとしてのサイドフレームアッパ80が連結されており、これら左右一対のサイドフレームアッパ80が本発明における上部フレームを構成している。具体的には、各サイドフレームロア78の上端部には、前後幅方向の中央部を略半円状に突出させた連結部78Aが形成され、該連結部78Aからは左右方向の外向きに連結軸82が突設されている。左右の連結軸82は、互いに略同軸となるように配置されている。また、各サイドフレームロア78の上端には、それぞれの連結軸82の前側に前側ストッパ部84が設けられると共に、それぞれの連結軸82の後側に後側ストッパ部86が設けられている。各前側ストッパ部84と各後側ストッパ部86は、それぞれ連結軸82に対して略180°反対側に位置し、略上方を向いたストッパ面が形成されている。
一方、各サイドフレームアッパ80は、略上下方向に長手とされ、それぞれの下端部における前後方向中央部から略半円状に突出して連結部80Aが形成されている。この連結部80Aには、連結軸82に対応して軸孔88が設けられている。また、各サイドフレームアッパ80の上端には、それぞれの軸孔88の前側に前側ストッパ部90が設けられると共に、それぞれの軸孔88の後側に後側ストッパ部92が設けられている。各前側ストッパ部90及び後側ストッパ部92は、それぞれ略下方を向いてストッパ面が形成されいるが、各ストッパ面が上側に成す角は180°よりも十分に小とされている。
そして、各サイドフレームアッパ80は、それぞれの軸孔88に連結軸82を挿通させたサイドフレームロア78に、一対の連結軸82廻りの前後方向の回動可能に支持されている。また、図22にも示される如く、各サイドフレームアッパ80の連結部80Aと対応するサイドフレームロア78の連結部78Aとの間には、連結軸82を挿通させた状態のリング状のさらばね94が配設されている。この状態で、各サイドフレームアッパ80は、それぞれサイドフレームロア78に固定されると共に連結軸82を挿通させて連結部80Aの外側面に摺動可能に当接した保持部材96によって、サイドフレームロア78からの脱落が阻止されている。
また、各サイドフレームロア78の連結軸82には、それぞれすり割82Aが形成されており、各すり割82Aには、それぞれ緩衝部材(第3緩衝部材)としての弾性部材である渦巻ばね(ぜんまいばね)98の内端部が係止されている。各渦巻ばね98は、それぞれの外端部が対応するサイドフレームアッパ80における連結部80Aの上側に設けられた係止突起99に係止されている。各渦巻ばね98は、サイドフレームアッパ80を連結軸82廻りの前側への回動方向に付勢しており、サイドフレームアッパ80をサイドフレームロア78に対し図15に矢印Dにて示す後側に回動させる際に、反力を生じさせるようになっている。
さらに、各サイドフレームアッパ80間における上端近傍には、左右方向に長手のクロスメンバアッパ102が架け渡されている。クロスメンバアッパ102は、板状に形成されると共に両端部からそれぞれ前方に屈曲して形成された耳部102Aを有しており、各耳部102Aにおいて溶接等によってそれぞれ異なるサイドフレームアッパ80に固定されている。
以上に説明した背部用フレーム16は、前側ストッパ部90が前側ストッパ部84に当接することで各サイドフレームアッパ80のサイドフレームロア78に対する前側への回動が規制され、後側ストッパ部92が後側ストッパ部86に当接することで各サイドフレームアッパ80のサイドフレームロア78に対する後側への回動が規制されるようになっている。換言すれば、各サイドフレームアッパ80は、各前側ストッパ部90、84、及び各後側ストッパ部92、86によって制限される範囲内で前後方向に回動可能とされている。
そして、背部用フレーム16は、通常は渦巻ばね98の付勢力及びクッション材22の張力によって、サイドフレームアッパ80の前側ストッパ部90をサイドフレームロア78の前側ストッパ部84に当接させた状態に保持される構成である。渦巻ばね98の付勢力は、通常の運転状態でサイドフレームアッパ80がサイドフレームロア78に対し回動しないように設定されている。
以上説明したように、背部用フレーム16は、左右一対の衝撃吸収サイドフレーム77がクロスメンバアッパ102で連結されて構成されており、各衝撃吸収サイドフレーム77は、サイドフレームロア78とサイドフレームアッパ80とで各連結軸82を関節K4とするリンク機構L3を構成している。そして、渦巻ばね98は、関節K4の関節角度の変化に応じた反力を生じるようになっている。なお、関節K4は、着座者の座位ウエスト高よりも高い位置(人体重心よりも高い位置)に設置高さが決められている。ここで、座位ウエスト高は、日本人の成人男性の平均で248.2mm、日本人の成人女性の平均で243.2mm、日本人成人の男女の平均で245.7mmである。また、上記した骨盤プレート66は、一対のサイドフレームロア78間に配置されており、該サイドフレームロア78(背部用フレーム16)に対する各短軸部72、74廻りの回動が可能とされている。
さらに、衝撃吸収サイドフレーム77では、各サイドフレームアッパ80は、その軸孔88の内径が連結軸82の外径よりも若干大とされることで、図21(A)に示される如く、さらばね94の軸線方向の圧縮変形及び復元によって、その下端部をサイドフレームロア78に対し変位(矢印E方向の回動及び復帰)可能とされている。これにより、背部用フレーム16(関節K4)は、着座者の呼吸に伴うわずかな体動(微小入力)で吸気時に拡幅状態をとり呼気時には通常形態に復帰するように、回動するようになっている。
また、衝撃力が前後軸(前後方向)に対して左右何れかの斜め方向から作用する場合には、背部用フレーム16は、図20及び図21(B)に実線にて示す如く左右一対のサイドフレームアッパ80と対応するサイドフレームロア78とが正面視で略一直線上に配置される状態から、これらの図に想像線にて示す如く各サイドフレームアッパ80の下部が衝撃力の入力方向に応じてサイドフレームロア78の上部と連動して回動する(捩れる)ようになっている。したがって、例えば、背部用フレーム16は、右前方から衝撃が作用した場合には、図21(B)に示す矢印e1方向に、左前方から衝撃が作用した場合には矢印e2方向に、左右の衝撃吸収サイドフレーム77が互いに同じ方向に回動する。すなわち、衝撃吸収サイドフレーム77は、前後軸に対して斜め方向から作用する衝撃に対しては、サイドフレームロア78とサイドフレームアッパ80とが、関節K4のない一体の部材の如く弾性的に捩れ回動する構成とされている。
そして、本第2の実施の形態では、背部用フレーム16に張設されるクッション材22は、着座者の呼吸に伴うわずかな体動による張力変化に対しては、各サイドフレームアッパ80をサイドフレームロア78に対し左右方向に拡幅させるように略ばね零特性が設定されている。また、クッション材22は、前後軸に対して左右斜め方向からの衝撃力が作用し、背部用フレーム16がサイドフレームアッパ80とサイドフレームロア78とが連動して回動する場合には、大きなばね特性(ばね定数)を有するように設定されている。すなわち、クッション材22が、背部用フレーム16に張設されて、荷重変化のない定常の着座状態に対応する平衡点近傍で略ばね零特性であるダッフィン(ダフィングまたはダッフィングともいう)型の非線形のばね定数特性を有するように、背部用フレーム16の各部の寸法や配置、さらばね94の大きさやばね定数、クッション材22自体の特性等が設定されている。
ここで、本第2の実施の形態において、略ばね零特性とは、上記平衡点近傍における等価ばね定数(ばね定数)が略0となる特性、具体的には、平衡点近傍における等価ばね定数が0N/mm以上で49N/mm以下(平衡点における安定性及び微小入力に対する追従性の観点から、望ましくは11.7N/mm以上で19.6N/mm以下)となる特性であり、ダッフィン型のばね定数特性とは、平衡点近傍以外における等価ばね定数が平衡点近傍における等価ばね定数に対し十分に大となるばね特性である。また、等価ばね定数は、特定の変位(点)において線形系のばね定数と等価なのものとして表現される定数であり、該特定の変位における弾性力を該特定の変位で除して得る定数である。したがって例えば、各変位点における等価ばね定数は、弾性力と変位との関係が3次曲線等で与えられる場合、該各変位(点)における弾性力曲線の傾き(弾性力の変位による微分)で与えられる。なお、平衡点近傍における上記望ましい等価ばね定数の範囲(11.7N/mm以上で19.6N/mm以下)は、着座者の呼吸に伴う体動による荷重変化が着座者の体重の約1%であることに基づき、該荷重変化への追従性を考慮して設定されている。
また、本第2の実施の形態では、クッション材22が、上記呼吸に伴う体動の吸収及び衝撃吸収等における変位速度に応じて、4.9N以上343N以下(望ましくは98N以上147N以下)の粘性減衰力を生させる(ような等価粘性減衰係数を有する)ように、背部用フレーム16の各部の寸法や配置、さらばね94の大きさやばね定数、クッション材22自体の特性等が設定されている。すなわち、さらばね94が本発明における弾性部材に相当する。
また、左右のサイドフレームロア78及びサイドフレームアッパ80の各内側面には、それぞれ略上下方向に長手の棒状に形成された棒状係止部材103が固定的に取り付けられている。棒状係止部材103には、一端部がクッション材22の表皮202に連結された紐状部材206の他端部が係止されるようになっている(図4(A)参照)。また、各棒状係止部材103は、サイドフレームアッパ80がサイドフレームロア78に対し後方に回動するときに、弾性的または塑性的に曲げ変形して反力を生じる緩衝部材としても機能するようになっている。
さらに、各サイドフレームアッパ80におけるそれぞれ自由端とされた(クロスメンバアッパ102よりも上側の)上端部には、それぞれ本発明における保持手段を構成するスリット状のスライドガイド104、105が形成されている。これらのスライドガイド104、105については、ヘッドレスト可動機構106の構成と共に後述する。
(ヘッドレスト可動機構の構成)
また、左右一対のサイドフレームアッパ80間には、後突時にヘッドレスト25を自動的に移動させるヘッドレスト可動機構106が配設されている。ヘッドレスト可動機構106は、後突時に着座者から衝撃荷重が入力する受圧部106Aと、受圧部106Aを背部用フレーム16に保持すると共に該受圧部106Aの後方への移動を受けて変位し該受圧部106Aの保持位置を上方に変更する変位伝達部106Bとで構成されている(図16及び図23参照)。
図3に示される如く、変位伝達部106Bは、それぞれ略上下方向に長手とされた左右一対のリンクアーム108を備えている。各リンクアーム108には、それぞれガイド部材110が取り付けられている。各ガイド部材110は、前後方向に長手とされリンクアーム108と左右方向外側で対向する摺動部112と、摺動部112からそれぞれ左右方向の外向きに並列して突設された前後一対のガイドピン114、115と、摺動部112の下方から左右方向の内向きに延設され内端部がリンクアーム108の下端部に固着された連結部116とを有して構成されている。
各ガイド部材110は、一対のガイドピン114、115をそれぞれ対応するサイドフレームアッパ80の異なるスライドガイド104、105に挿通させている。具体的には、ガイドピン114は、側面視で略「J」字状のスライドガイド104に挿通され、ガイドピン115は、スライドガイド104の後方にこれと略平行な側面視略「J」字状に形成されたスライドガイド105に挿通されている。また、スライドガイド104、105は、それぞれのストレート部分が前傾すると共に、ストレート部分の下端前側に略円弧状部分が連設されて形成されており、該ストレート部分の閉塞端(上前端)と略円弧部分の閉塞端との前後方向の位置が略一致する構成とされている。
以上により、各ガイド部材110は、各ガイドピン114、115においてスライドガイド104、105にガイドされつつ、それぞれ固着されたリンクアーム108と共に姿勢をほぼ保ったままの状態(殆ど回転することなく)で、略「J」字状の所定軌跡に沿って移動可能とされている。したがって、各ガイド部材110及びリンクアーム108は、各ガイドピン114、115がスライドガイド104、105の円弧状部分の閉塞端に位置する第1位置と、各ガイドピン114、115がスライドガイド104、105のストレート部分の閉塞端に位置し第1位置よりも上方の第2位置とを取り得るようになっている。スライドガイド104、105の円弧状部分の閉塞端は、前上側に閉じており、第1位置から第2位置へ移動する際には略斜め後下方への移動を伴うようになっている。
さらに、サイドフレームアッパ80の外面側に突出したガイドピン114、115は、それぞれ摺動部112に対応した形状の受け部材118及びさらばね120、121を挿通した状態で、それぞれの先端に形成されたおねじ部にナット122、123が螺合している。これにより、ヘッドレスト可動機構106は、第1位置と第2位置との間の移動を可能とされつつ背部用フレーム16からの脱落が防止されている。また、さらばね120、121の付勢力によって、各ガイド部材110の摺動部112及び受け部材118がサイドフレームアッパ80に対し摺動しようとするときに、耐衝撃荷重に耐える設計値に基づく摩擦力(反力)が生じるようになっている。
また、各ガイド部材110の連結部116には、それぞれ一端部がサイドフレームアッパ80の上端に係止された付勢手段としての引張コイルスプリング124の他端部が係止されている。この状態で引張コイルスプリング124は引張状態とされて付勢力を生じている。そして、各ガイド部材110及びリンクアーム108は、通常は各ガイドピン114、115がそれぞれスライドガイド104、105の円弧状部分の閉塞端に係合した状態で、引張コイルスプリング124の付勢力によって第1位置に保持されるようになっている(図15参照)。
さらに、本第2の実施の形態では、左右一対のリンクアーム108は、左右方向に長手の連結シャフト126によって連結されている。連結シャフト126は、各リンクアーム108の下端部を連結している。一方、各リンクアーム108の上端部には、それぞれ支軸部108Aが左右方向の内向きに突設されている。
以上説明した変位伝達部106Bには、受圧部106Aが連結されている。具体的には、受圧部106Aは、各リンクアーム108の上端に回動可能に連結されるブラケット128を備えている。ブラケット128は、その後端を構成する背板部130と、背板部130の左右両端部から前方に延設されたアーム部132と、各アーム部132の前端から左右方向の外向きに張り出して形成された取付部134とを有して構成されている。各アーム部132は、側面視で下方開口の「コ」字状に形成されている。また、ブラケット128は、それぞれのアーム部132の前端近傍間に連結シャフト135が架け渡されて補強されている。
ブラケット128は、一方のアーム部132の前後方向中間部(上端部)に短筒部136が固着または一体に形成されており、他方のアーム部132が短筒部138に回転自在に支持されている。短筒部136、138は、互いに同軸となるように配置されており、それぞれブッシュ140、142を介して挿入された異なるリンクアーム108の支軸部108A廻りに回転自在に軸支されている。なお、左右のリンクアーム108を連結する連結シャフト126が支軸部108A廻りに回動するブラケット128に干渉しないように(連結シャフト126を跨ぐように)、アーム部132が上記の通り側面視「コ」字状に形成されている。
また、短筒部136には、緩衝部材(第1緩衝部材)としてのトーションバー144の一端部が廻り止め状態で係止されており、トーションバー144の他端部は短筒部138を貫通してリンクアーム108の支軸部108Aに廻り止め状態で係止されている。トーションバー144は、捩り量に応じて捩り荷重を生じる部材であり、ブラケット128がリンクアーム108に固定されたガイド部材110(すなわち、変位伝達部106B)に対し支軸部108A廻りに図15に矢印Fにて示す略後方に回動する際に、反力を生じさせる構成である。
以上説明したリンクアーム108とブラケット128とが各支軸部108A(各短筒部136、138)を関節K1とするリンク機構L1を構成している。そして、トーションバー144は関節K1の関節角度の変化に応じた反力を生じるようになっている。したがって、リンクアーム108は、受圧部106Aの構成部品と見ることもできるし、受圧部106Aと変位伝達部106Bとの共通部品と見ることも可能である。
そして、ブラケット128の各取付部134は、それぞれ受圧板146の背面に、締結手段であるボルト148によって固定されている。受圧板146は、左右方向に長手の略矩形板状に形成されており、人体に対応して中央部が若干凹むように滑らかに湾曲している。受圧板146は、変位伝達部106Bのガイド部材110が第1位置に位置するときに着座者の胸部(肩甲骨)の高さに対応する位置に位置するようになっている。この状態で受圧板146は、図15に示される如く、サイドフレームアッパ80に対し前方に突出しており、クッション材22によって被覆されるようになっている。
また、ブラケット128の背板部130における左右に離間した2箇所には、それぞれガイド取付部152が設けられている。各ガイド取付部152は、略上下方向に長手の矩形筒状に形成されており、それぞれポールガイド154が固定的に保持されている。各ポールガイド154には、ヘッドレストフレーム18が取り付けられるようになっている。これにより、ブラケット128すなわちヘッドレスト可動機構106の受圧部106Aがヘッドレスト25を支持する構成とされている。
以上説明したヘッドレスト可動機構106は、受圧板146が前方から押圧されるとブラケット128がトーションバー144を捩りつつガイド部材110に対し各支軸部108A廻りの矢印F方向に回動するようになっている。そして、ヘッドレスト可動機構106では、受圧板146がさらに後方に押圧されて、ガイドピン114、115がスライドガイド104、105に倣って後下方へ移動する(所定量だけ変位する)と、引張コイルスプリング124の付勢力によってガイド部材110がリンクアーム108と共に第2位置に移動する構成である。
すなわち、ヘッドレスト可動機構106では、後突時の衝撃荷重によって着座者が受圧板146を後方に押圧すると主にトーションバー144の弾性的な捩り荷重に基づいて生じる反力によってエネルギを吸収し、次いで受圧板146のリンクアーム108に対する角変位(関節K1の角変位)が所定値以上になると荷重を変位伝達部106B(リンクアーム108)に伝えてガイド部材110をスライドガイド104、105に沿って移動させ、ヘッドレスト25と共に全体として第2位置に移動するようになっている。また、受圧板146のリンクアーム108に対する矢印F方向の角変位によって、ポールガイド154が前傾しヘッドレスト25が前方へも移動するようになっている。なお、受圧板146を後方に押圧した(関節K1を角変位させた)ときに主にトーションバー144の弾性的な捩り荷重に基づいて生じる反力(と上記角変位の所定値との関係)は、上記エネルギ吸収後の第1位置から第2位置までの移動が着座者の頭部の後方への移動に遅れないように設定されている。
以上説明したように、ヘッドレスト可動機構106においては、直接的には押圧力が入力する受圧板146が本発明における解除手段に相当するが、広義にはガイド部材110と共に第1位置から第2位置へと移動する部分が全体として解除手段に相当すると見ることも可能である。
(ヘッドレストフレームの構成)
図16に示される如く、ヘッドレストフレーム18は、第1ポール156及び第2ポール158を備えており、これらの第1ポール156及び第2ポール158がそれぞれ異なるポールガイド154に挿入されてヘッドレスト可動機構106に支持されている。第1ポール156、第2ポール158は、それぞれポールガイド154への挿入量を変更可能で、かつ任意の挿入位置で保持可能とされており、ヘッドレスト可動機構106すなわち背部用フレーム16に対するヘッドレスト25の設置高さを調整可能に構成されている。また、第1ポール156、第2ポール158の上端からは、シート外方に向けてそれぞれ支軸部156A、158Aが突設されている。
これらの第1ポール156、第2ポール158は、ヘッドレスト25の後部骨格部材を構成する後ハーフ160を支持している。後ハーフ160は、その上部が下部に対し前傾した屈曲板の周縁部から前方へ向けて周壁が立設され、かつ各角部が丸められた如く形成されている。この後ハーフ160の左右方向両端における下部には、それぞれ保持部材162、164が固定的に取り付けられている。
保持部材162には、軸受部材166がスクリュー168によって廻り止め状態で取り付けられており、軸受部材166はブッシュ170を介して挿入された支軸部156Aを回動可能に軸支している。一方、保持部材164には、軸受部172が一体に形成されており、該軸受部172は軸受部材166と同軸的に配置されている。この軸受部172は、ブッシュ174を介して挿入された支軸部158Aを回動可能に軸支している。これにより、後ハーフ160は、第1ポール156及び第2ポール158(を介してヘッドレスト可動機構106)に対し支軸部156A、158A廻りの回動可能に支持されている。なお、支軸部158Aには、2つのワッシャ176とさらばね178とが挿通されている。
また、軸受部材166には緩衝部材(第2緩衝部材)としてのトーションバー180の一端部が廻り止め状態で係止されており、支軸部158Aにはトーションバー180の他端部が廻り止め状態で係止されている。トーションバー180は、支軸部156Aを相対回転可能に貫通している。このトーションバー180は、捩り量に応じて捩り荷重を生じる部材であり、後ハーフ160が第1ポール156、第2ポール158に対し支軸部156A、158A廻りに矢印H(図15参照)にて示す略後方に回動する際に、反力を生じさせる構成である。
以上説明した後ハーフ160には、ヘッドレスト25の前部骨格部材を構成する前ハーフ182が連結されている。前ハーフ182は、平板の周縁から後方に向けて周壁が立設された如く形成され、また上端部が後ハーフ160の前傾した前上端から連続した弧を描くように形成されている。ヘッドレスト25は、前ハーフ182と後ハーフ160とで下方及び左右両側方に開口した骨格構造を形成している。
前ハーフ182の左右方向両端部には、それぞれ保持部材184、186が固定的に取り付けられている。保持部材184には軸受部188が設けられており、軸受部188には後ハーフ160の右端における上端近傍に一体に設けられた支軸190がブッシュ192を介して回転可能に挿入されている。一方、保持部材186には軸受部188と同軸的に配置される軸受部194が設けられており、軸受部194には、支軸196がブッシュ198を介して回転可能に挿入されている。支軸196は、その軸方向一端部から径方向外側に延設されたフランジ部196Aが後ハーフ160の左側部における上端近傍に固定されることで、該後ハーフ160に対し回転不能とされている。これにより、前ハーフ182は、後ハーフ160に対して、支軸190、196廻りの回動可能に支持されている。
また、軸受部188には緩衝部材(第2緩衝部材)としてのトーションバー200の一端部が廻り止め状態で係止されており、支軸196にはトーションバー200の他端部が廻り止め状態で係止されている。トーションバー200は、捩り量に応じて捩り荷重を生じる部材であり、前ハーフ182が後ハーフ160に対し支軸190、196廻りに矢印G(図15参照)にて示す略後方に回動に対する際に、反力を生じさせる構成である。
このように、ヘッドレストフレーム18は、第1ポール156及び第2ポール158と後ハーフ160と前ハーフ182とで、支軸部156A、158Aを関節K3とすると共に支軸190、196を関節K2として2つの関節を有する多関節構造のリンク機構L2を構成しており、本発明における第2リンク機構及び衝撃吸収ヘッドレスト機構に相当する。そして、トーションバー180、200は、それぞれ関節K3、K2の関節角度の変化に応じた反力を生じるようになっている。なお、トーションバー180、200により生成される反力は、後突の際に着座者が鞭打ちにならないように頭部の変位(速度)を規制する程度に強く、かつ衝撃吸収過程で頭部に作用する荷重が過大とならない(荷重ピークを下げる)程度に弱い設定とされている。
(シートフレームのまとめ)
以上により、シートフレーム12は、リンク機構L1、L2、L3、L4を含み関節K1、K2、K3、K4、K5を有し、全体として多関節機構とされている。このシートフレーム12を模式図にて示すと、図23(A)に示される如くなり、各関節K1、K2、K3、K4、K5が主に前後方向に角変位可能とされている。また、本第2の実施の形態では、関節K4は左右方向の変位(矢印E方向の回動)も可能とされている。
このシートフレーム12は、上記の通り、座部用フレーム14にクッション材20が張設されてシートクッション21を構成し、背部用フレーム16にクッション材22が張設されてシートバック23を構成し、ヘッドレストフレーム18にクッション材24を設けてヘッドレスト25を構成している。各クッション材20、22の張設構造は、上記第1の実施形態と同様である(図4(A)、図4(B)参照)。
次に、本第2の実施の形態の作用を説明する。先ず、車両の通常の走行状態(停車状態を含む)における作用を説明し、次いで車両衝突時における作用を説明する。また、車両衝突時の作用は、車両用シート100が吸収すべき衝撃エネルギ(着座者の慣性)が比較的小さい場合(例えば、着座者の体重が軽い場合や衝突速度が小さい場合等)と、衝撃エネルギが大きい場合とに分けて説明する。なお、後者の作用は前者と異なるところを主に説明することとする。
(通常状態の作用)
上記構成の車両用シート100では、図24に示される如く、着座者(車両乗員)が着座すると、脚部サポート機構32の押圧プレート48がサイドフレーム28間に移動した状態で、着座者の脚部を矢印A方向に付勢している。この状態すなわち通常の車両走行状態で、骨盤プレート66及び受圧板146は、非着座状態に対し殆ど変位しない。また、この状態でクッション材22は、平衡点にあり略ばね零特性となっている。なお、図24乃至図27では、各クッション材20、22、24の図示を省略している。
車両用シート100が運転席に適用されている場合、着座者はブレーキペダルやアクセルペダル等を踏み込み操作する。このとき、脚部サポート機構32の押圧プレート48が、引張コイルスプリング44の矢印A方向の付勢力によって着座者の脚部の動作をサポートし、操作性が向上する。
また、着座者の呼吸(平衡点から大きくずれることなく、略ばね零特性が維持される範囲のわずかな体動)に伴って、衝撃吸収サイドフレーム77のサイドフレームアッパ80がサイドフレームロア78に対し矢印E方向への回動と復帰とを繰り返す。これにより、例えば、着座者が呼吸によって前後に揺れようとする場合でも、サイドフレームアッパ80の変位(背部用フレーム16の変形)に基づくクッション材22の張力変化によって、該揺れが吸収される。したがって、通常の着座時において、着座者への負荷が軽減して座り心地が向上し、また長時間着座した場合の疲労も軽減される。
ここで、衝撃吸収サイドフレーム77がサイドフレームアッパ80のサイドフレームロア78に対する左右方向の変位(矢印E方向の角変位)可能に構成され、かつ該衝撃吸収サイドフレーム77を有する背部用フレーム16に弱荷重に対しソフト特性となる張力構造体のクッション材22が張設されるため、シートバック23は、着座者の呼吸に伴う弱い荷重変化に追従して該着座者の体動を吸収し、座り心地が向上する。また、長時間着座による疲労が低減される。特に、背部用フレーム16に張設されたクッション材22が平衡点で略ばね零特性となるダッフィン型のばね定数特性を有するため、シートバック23は、上記呼吸に伴う荷重変化に確実に追従して該着座者の体動を効果的に吸収し、座り心地が一層向上すると共に長時間着座による疲労が一層低減される。しかも、ダッフィン型のばね定数特性では、衝撃等による大きな荷重に対しては大きな等価ばね定数となるため、該大きな荷重に耐える十分な剛性が確保される。
さらに、多関節構造のシートフレーム12にクッション材20、22が張設されてシートクッション21、シートバック23が構成された車両用シート100では、通常の車両走行状態で車体から伝わる振動を吸収(遮断)するため、該振動が着座者には殆ど伝わらず、座り心地すなわち車両の乗り心地が向上する。
(衝突時の衝撃エネルギが比較的小さい場合の作用)
車両に後方からの衝突(追突、後突)が生じた際には、該衝突に伴う衝撃によって、着座者は車両すなわち車両用シート100に対し相対的に後方へ移動する。後方へ移動する着座者は、図25に示される如く、その臀部(腰部)近傍でクッション材22を介して骨盤プレート66を後方に押圧すると共に、その肩甲骨(胸部)近傍でクッション材22を介して受圧板146を後方に押圧する。
すると、骨盤プレート機構62では、トーションバー76の弾性的なねじり荷重に基づく反力を生じつつ骨盤プレート66が矢印C方向に回動し、着座者の臀部近傍を支持しつつ該着座者を上後方に移動させ衝撃エネルギを吸収する。すなわち、リンク機構L4の関節K5の角変位に伴う反力によって着座者の上体下部における衝撃エネルギを吸収する。一方、ヘッドレスト可動機構106の受圧部106Aでは、トーションバー144の弾性的なねじり荷重に基づく反力を生じつつ受圧板146が矢印F方向に回動し、衝撃エネルギを吸収する。すなわち、リンク機構L1の関節K1の角変位に伴う反力によって着座者の上体上部における衝撃エネルギを吸収する。
さらに、ヘッドレスト可動機構106では、受圧板146の角変位が所定値以上になると、着座者から作用する衝撃力が後方への移動力としてリンクアーム108及びガイド部材110に伝達され、ガイド部材110がスライドガイド104、105によってガイドされつつ第1位置から下後方に移動し、さらに引張コイルスプリング124の付勢力によって第2位置に移動する。すなわち、ヘッドレスト可動機構106は、受圧板146に作用する衝撃荷重とトーションバー144の生成する反力との差の力で後方へ移動することで、ガイド部材110の第1位置への保持状態が解除され、引張コイルスプリング124の付勢力によって第2位置に移動する。
これにより、ヘッドレスト25は、上方すなわち上後方に移動している着座者の頭部に対応する位置に、瞬時に移動する。またこのとき、受圧板146と共にブラケット128が矢印F方向に回動した状態が維持されているため、ポールガイド154が前傾しヘッドレスト25が前方へも移動して頭部に対し近接している。すなわち、ヘッドレスト25は、ヘッドレスト可動機構106の第2位置への移動に伴う上方への移動よりも前に、受圧板146が矢印F方向に回動することで前方に移動している。
そして、図26に示される如く、着座者の頭部がヘッドレスト25を後方に押圧すると、ヘッドレストフレーム18すなわちリンク機構L2では、トーションバー200の弾性的なねじり荷重に基づく反力を生じつつ前ハーフ182が矢印G方向に回動し、衝撃エネルギを吸収する。また、前ハーフ182の角変位が所定値以上になると、トーションバー180の弾性的なねじり荷重に基づく反力を生じつつ後ハーフ160が矢印H方向に回動し、衝撃エネルギを吸収する。すなわち、リンク機構L2(ヘッドレストフレーム18)では、各時点における生成する反力と着座者頭部の後方移動荷重との差で、経時的(時刻暦)に各関節K2、K3を角変位させ着座者の頭部における衝撃エネルギを吸収する。
さらに、図26及び図27に示される如く、各関節K2、K3の角変位が所定値以上になると、受圧部106A及びヘッドレスト25で吸収された残余の衝撃エネルギに基づき受圧板146及びヘッドレスト25に作用している後方移動荷重によって、渦巻ばね98の弾性変形に基づく反力を生じつつサイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動し、衝撃エネルギを吸収する。すなわち、衝撃吸収サイドフレーム77では、リンク機構L3の関節K4の角変位に伴う反力によって、着座者に所定値以上の後方移動荷重を作用させる残余の衝撃エネルギを吸収する。このとき、左右一対のサイドフレームアッパ80がヘッドレスト25を支持していることにより、ヘッドレスト25がさらに後方へ移動し、残余のエネルギ吸収過程で着座者頭部に作用する荷重のピーク値が低減されている。また、この残余のエネルギが大きい場合には、骨盤プレート機構62において支持ブラケット68、69のリベット68C、69Cがそれぞれ破断し、骨盤プレート66をトーションバー76の反力を受けることなく矢印C方向に大きく変位させて着座者の腰部に作用する荷重を減じつつ、上記衝撃吸収サイドフレーム77による効果的な衝撃吸収をサポートする。
以上により、後突時に着座者に作用する衝撃荷重が各関節の反力を伴う角変位によって散逸(分散)されながら吸収され、着座者に局部的に大きな荷重が作用することが防止される。すなわち、着座者に作用する衝撃力のピーク値が低減される。これにより、車両衝突によって乗員の傷害を負う確率が低くなる。また、本第2の実施の形態では、後突を例にとって説明したが、例えば前突の場合についても同様の効果を得ることができる。
このように、車両用シート100は、そのシートフレーム12が多関節機構とされているため、後突時に着座者がシートバック23及びヘッドレスト25に押し付けられると、シートフレーム12が着座者の身体に追従して変形し、各関節K1乃至K5の変形に伴って生じる反力によって衝撃を吸収しつつ着座者を支持する。このため、着座者に作用する荷重が散逸されてピーク荷重が低減する。しかも、シートフレーム12が多関節構造であるために、小さな空間内で実質的な(十分な)衝撃吸収ストロークを確保して着座者に作用する荷重を散逸させることができる。
特に、関節K1、K2、K3、K4がこの順でタイミングをずらしながら(作動タイミングをオーバーラップさせながら)着座者の姿勢変化に追従して時系列に変位するため、車両用シート100(シートフレーム12)が着座者に作用する荷重の動的な変化に確実に追従し、該着座者の荷重を支持(衝撃を吸収)することができる。
また、ヘッドレスト25が通常は運転動作を妨げないように位置し、後突時に瞬時に頭部の保護に適した位置に移動するため、通常時の使用性と衝突時の保護性との両立が図られている。しかも、ヘッドレスト25を移動させるヘッドレスト可動機構106が着座者からの衝撃荷重を吸収する受圧部106Aを含んで構成されているため、ヘッドレスト25による頭部の移動規制前に着座者の頭部近傍で衝撃エネルギの一部の吸収が果たされ、頭部を移動させるエネルギが低減されるので、鞭打ち障害を効果的に抑制することができる。
さらに、ヘッドレスト25自体が、多関節構造の衝撃吸収ヘッドレスト機構であるヘッドレストフレーム18を有し、自らの変形によって衝撃を吸収するため、頭部が一層効果的に保護される。そして、背部用フレーム16が衝撃吸収サイドフレーム77(リンク機構L3)を備えて構成されており、衝撃吸収サイドフレーム77が受圧板146及びヘッドレスト25から入力する残余の衝撃エネルギに基づく荷重によって作動するように設定されているため、動的に変化しつつ着座者に作用する衝撃荷重を効果的に散逸させることができる。
さらにまた、着座者は後突時に相対的に後向きに作用する衝撃力によって、シートバック23を後方に押圧しつつ上方にずれ上がろうとするが、着座者を支持しつつ上後方に回動してエネルギ吸収する骨盤プレート機構62を設けたため、着座者を上方に移動させようとするエネルギも効果的に吸収される。すなわち、受圧部106A、ヘッドレスト25、及び衝撃吸収サイドフレーム77で吸収すべき衝撃エネルギが低減される。しかも、着座者を円弧状の軌跡で上後方に移動させつつ衝撃吸収するため、単に着座者を直線状に後側へ移動させる場合と比較して、小さいスペースで大きな衝撃吸収ストロークを確保できる。したがって、車両用シート100は、小型の車両に適用されて好適に衝撃を吸収することも可能である。
(衝突時の衝撃エネルギが比較的大きい場合の作用)
後突に伴う衝撃によって、着座者は、車両用シート100に対し相対的に後方へ移動し、その臀部(腰部)近傍でクッション材22を介して骨盤プレート66を後方に押圧すると共に、その肩甲骨(胸部)近傍でクッション材22を介して受圧板146を後方に押圧する。すると、骨盤プレート機構62では、骨盤プレート66が反力を受けつつ矢印C方向に回動し、リベット68C、69Cが破断するまではトーションバー76の反力を受けつつ衝撃エネルギを吸収し、該破断後は着座者が上後方へ大きく移動することを許容する。
このとき、ヘッドレスト可動機構106では、トーションバー144の反力を受けつつ受圧板146が矢印F方向に回動し、衝撃エネルギを吸収する。そして、衝撃エネルギすなわち着座者からシートバック23に入力される衝撃力が大きいため、ヘッドレスト25が第2位置に移動するよりも前または該移動とほぼ同時に、サイドフレームアッパ80が渦巻ばね98の反力を受けつつ矢印D方向に回動する。本第2の実施形態では、衝突後略60msec後にサイドフレームアッパ80の回動が開始されることが確認された。この衝撃吸収サイドフレーム77の作動により、着座者の衝撃エネルギが大きく吸収される。この衝撃吸収の過程で、サイドフレームロア78(シートバック23の下部)は、骨盤プレート66による支持が解除された着座者の腰部を支持し、該腰部が後方に傾くことを抑制する。
また、上記衝撃吸収サイドフレーム77による衝撃吸収の過程で(上体上部が水平に近い状態で)、着座者の頭部がヘッドレスト25に当接してこれを押圧し、関節K2、K3を順次角変位させて着座者頭部における衝撃エネルギを吸収する。この時点で衝撃エネルギの大部分が吸収されており、着座者の頭部に作用する衝撃荷重は小さい。以上により、後突時に着座者に作用する衝撃荷重が、主に衝撃吸収サイドフレーム77(関節K4)の反力を伴う角変位によって散逸されながら吸収され、衝撃エネルギが大きい場合であっても、着座者に局部的に大きな荷重が作用することが防止される。具体的には、衝撃エネルギを散逸させて吸収することで、着座者の胸部、腰部に作用する衝撃荷重のピーク値が大幅に低減され、着座者に与えるダメージが著しく小さくなる。
このことは、フレームに関節構造を有しない従来の高剛性シートの同条件での後突実験から明らかにされている。具体的には、車両用シート100または従来シートが搭載された車両モデルに後突に相当する衝撃を入力し、ダミー人形(着座者)の胸部、腰部に作用する合成加速度(各方向の加速度を合成したもの)を測定した。この結果、各シートの実験においてフロア加速度すなわちシートに入力される加速度はほぼ同じながら、車両用シート100では、従来シートと比較して、胸部及び腰部に作用する加速度(すなわち荷重)のピーク値が大幅に低減されていることが確認された。この作用効果は、車両後突の際に胸部の加速度が最大になるタイミング(後突の瞬間から略60msec後)にサイドフレームアッパ80が矢印D方向へ回動し始め、衝撃エネルギを散逸させることによる。すなわち、車両用シート100では、入力される衝撃エネルギ大きい場合には、多関節構造のシートフレーム12における関節K4が、主に衝撃吸収に寄与する。
また、従来シートに代えて、比較例シートとの比較実験も行なった。比較例シートは、シートバックの下端部がシートクッションの後端に回動可能に連結されたシートであって、車両後突時には、シートバックが反力を受けつつ全体として後方に倒れるように回動する構成とされている。このような比較例シートと比較した場合でも、車両用シート100は、胸部及び腰部に作用する衝撃荷重のピーク値が低減されることが確かめられた。
さらに、上記のような比較例シートでは、シートバックの後方への回動(倒れ)に伴うダミー人形の腰部が倒れ、この腰部の倒れに遅れて両脚が持ち上げられてしまう現象が確認された。これに対し車両用シート100では、着座者の腰部は、骨盤プレート機構62によって上後方に持ち上げられた後、左右のサイドフレームロア78(が張力を支持するクッション材22)によって衝撃荷重が支持される。このため、上記したサイドフレームアッパ80の矢印D方向への回動に伴い着座者の上体が後方に倒れながらも、該着座者の腰部が後方へ倒れることが抑制される。上記実験では、ダミー人形の膝が最も高く持ち上がる衝突後240msecの時点で、車両用シート100のダミー人形は腰部がサイドフレームロア78にて支持された姿勢(仰け反る如き姿勢)が維持されて脚高位が低く抑えられることが確認された。
これにより、後突時の衝撃吸収に伴って着座者の脚が上方に持ち上がる速度が緩められ、衝突に伴い該着座者の脚に作用する荷重が小さく抑えられる。すなわち、後突時に着座者の下肢も確実に保護される。
以上説明したように、車両用シート100では、着座者の体重が軽い場合や衝突速度が低い場合等、衝撃エネルギが比較的小さい場合には、シートバック23(受圧板146)及びヘッドレスト25が共に着座者に押圧されることで、サイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動し、衝撃エネルギを徐々に吸収する。一方、衝撃エネルギが比較的大きい場合には、シートバック23(受圧板146)からの入力だけでもサイドフレームアッパ80が矢印D方向に回動し、衝撃エネルギを早期に大きく吸収する。このため、着座者の頭部がヘッドレスト25に当接するときの残余の衝撃エネルギが小さくなっており、衝撃エネルが大きい場合でも着座者が保護される。
このように、本第2の実施の形態に係る車両用シート100では、着座者(人体)への追従性を向上することができる。特に、車両用シート100は、多関節構造のシートフレーム12(主に背部用フレーム16及びヘッドレストフレーム18)に面状張力構造体であるクッション材20、22、24を張設して構成されているため、各部を着座者に追従させるためにアクチュエータやセンサ類を設ける必要がない。
(緩衝部材の変形例)
図28には、変形例に係るシートフレーム12が斜視図にて示されている。この図に示される如く、本変形例では、衝撃吸収サイドフレーム77(関節K4)を構成する緩衝部材として、渦巻ばね98に代えて、第1の実施形態にて説明したばね部材85が採用されている。ばね部材85は、その上面である板ばね部85Aの上面をサイドフレームアッパ80の後側ストッパ92に固着することはないので、該サイドフレームアッパ80のサイドフレームロア78に対する矢印E(e1、e2)方向の回動を阻害することはない。
本変形例に係る構成では、サイドフレームアッパ80が矢印D方向に変位して着座者上体の衝撃エネルギを吸収する際に作用する反力が、復元力と減衰力とを含む以外は、上記第2の実施形態と全く同様の作用を果たす。このため、着座者の衝撃エネルギが一層効果的に吸収される。すなわち、衝撃エネルギを散逸させて吸収することで、着座者の胸部、腰部に作用する衝撃荷重のピーク値が大幅に低減され、着座者に与えるダメージが著しく小さくなる。
ここで、図29は、本変形例に係る構成を採用した車両用シート100における後突時の衝撃エネルギが比較的大きい場合に対応する実験結果、すなわち後突の際における衝撃吸収過程での各部の加速度の時間変化(実線にて示す)と、フレームに関節構造を有しない従来の高剛性シートの同条件での加速度の時間変化(破線にて示す)をそれぞれ示す線図である。具体的には、図29(A)は、車両用シート10または従来シートが搭載された車両のフロアに作用する車両前後方向の加速度、図29(B)はダミー人形(着座者)の胸部に作用する合成加速度(各方向の加速度を合成したもの)、図29(C)はダミー人形の腰部に作用する合成加速度をそれぞれ示している。この図から、フロア加速度すなわちシートに入力される加速度はほぼ同じながら、車両用シート100では、胸部及び腰部に作用する加速度(すなわち荷重)のピーク値が大幅に低減されていることが判る。
これは、第2の実施の形態の作用として説明したように、関節構造を備えず剛性が高い従来シートに対し、車両後突の際に胸部の加速度が最大になるタイミング(後突の瞬間から略60msec後)でサイドフレームアッパ80が矢印D方向へ回動し始め、衝撃エネルギを散逸させることによる。すなわち、本変形例の構造を採用した車両用シート100でも、入力される衝撃エネルギ大きい場合には、多関節構造のシートフレーム12における関節K4が、主に衝撃吸収に寄与する。
また、図30(A)乃至図30(C)は、図29における車両用シート10の実験結果を、上記比較例シートと比較したものである。比較例シートでは、図30(B)に示す胸部の合成加速度は低減されるが、図30(C)に示す腰部の加速度のピーク値については低減されないことが判る。さらに、本変形例の構造を採用した車両用シート100によっても、第1及び第2の実施の形態と同様に、後突時の衝撃吸収に伴って着座者の脚が上方に持ち上がる速度が緩められ、上方に持ち上がる脚が仮にステアリングホイール等に衝突しても、この衝突に伴い該着座者の脚に作用する荷重が小さく抑えられる。すなわち、後突時に着座者の下肢も確実に保護される。
なお、衝撃吸収サイドフレーム77は、例えば、渦巻ばね98又はばね部材85を単独で採用する構成には限られず、渦巻ばね98に代えて又は渦巻ばね98と共に、上記第1の実施の形態又はその変形例で示した緩衝部材(反力生成構造)を採用することができる。但し、サイドフレームアッパ80のサイドフレームロア78に対する矢印E(e1、e2)方向の回動を担保するためには、渦巻ばね98、ばね部材85又はラバー部材85Bに相当する部材を単独でまたは組み合わせて用いることが好ましい。
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態に係るシートとしての車両用シート250について、図31乃至図33に基づいて説明する。なお、上記第2の実施の形態に係る車両用シート100と基本的に同一の部品・部分については上記第2の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
図31には車両用シート250が側面図にて示されており、図32には車両用シート250が一部切欠いた正面図にて示されている。これらの図に示される如く、車両用シート250は、シートフレーム12を備えており、このシートフレーム12の座部用フレーム14にクッション材252を設けることでシートクッション21が構成されると共に、背部用フレーム16にクッション材254を設けることでシートバック23が構成されている。なお、図31は、手前側のサイドフレーム28、衝撃吸収サイドフレーム77を取り除いて見た側面図である。
クッション材252は、2次元張力構造体(布ばね材)256の上に3次元張力構造体258を積層すると共に、該3次元張力構造体258の上に表皮202を積層して構成されている点で、クッション材20(3次元張力構造体である3次元立体編物210の上に表皮202を積層したもの)とは異なる。また、クッション材254は、クッション材22の下に下部クッション材260を積層して構成されている点で、該クッション材22とは異なる。以下、具体的に説明する。
クッション材252を構成する2次元張力構造体256は、網目(ネット)構造の2次元織物であり、張力による内部減衰を伴う伸長、及び該張力の除去による復元が可能とされている。この2次元張力構造体256は、その前縁部が脚部サポート機構32の回動軸34に固定的に(回動軸34の回動には追従しないように)係止されている。また、図33にも示される如く、2次元張力構造体256の後縁部は、骨盤プレート機構62を構成しトーションバー76とリンクしている補強パイプ70に係止されている。補強パイプ70は、上記の通り、リベット68C、69Cが破断しない範囲において骨盤プレート66の回動に追従するようになっており、骨盤プレート66の矢印C方向の回動によって略前下方に移動するように配置されている。これにより、2次元張力構造体256は、張力によってトーションバー76を捩りつつ補強パイプ70を矢印C方向に回動させたり、骨盤プレート66の矢印C方向への回動によって補強パイプ70が前下方に移動することで緩み、張力が低減されたりする構成である。
また、クッション材252を構成する3次元張力構造体258は、その前縁部がフレームパイプ30に固定されると共に、その後縁部が引張コイルスプリング262を介してフレームパイプ31に係止されている。具体的には、3次元張力構造体258の後縁部には左右方向に沿って長手とされた棒状の骨格部材264が固定されており、該骨格部材264には、それぞれ支持ブラケット68、69の左右方向外側に配設され一端部がフレームパイプ31に係止された一対の引張コイルスプリング262の他端部が係止されている。なお、引張コイルスプリング262は、左右方向に沿って3つ以上設けられても良い。そして、2次元張力構造体256と3次元張力構造体258とは、非着座状態においては、ぞれぞれの前後方向中間部(押圧プレート48の後)から後縁部にかけて上下方向に離間しているが、着座によって互いに上下に積層されるようになっている。この3次元張力構造体258は、本第3の実施の形態では3次元立体編物210にて構成されている。また、本第3の実施の形態では、クッション材252(シートクッション21)を構成する表皮202は、本革や3次元張力構造体(3次元立体編物210)等にて構成されている。
一方、シートバック23のクッション材254を構成する下部クッション材260は、2次元張力構造体(布ばね材)266の上に3次元張力構造体268を積層して構成されている。これらの2次元張力構造体266と3次元張力構造体268とは、背部用フレーム16の左右方向の中心線(着座者の背骨)に沿って縫製されることで該左右方向の中央部において互いに一体化されている。2次元張力構造体266は、網目(ネット)構造の2次元織物であり、張力による内部減衰を伴う伸長、及び該張力の除去による復元が可能とされている。この2次元張力構造体256は、その左右方向中央部を除く上端部が上方及び左右方向外側に若干張り出して形成された張出部266Aを有し、全体として略Y字状に形成されている。これら左右の張出部266Aの上端にはそれぞれ補強部材270が縫製されて固着されており、各補強部材270にはそれぞれ引張コイルスプリング272の一端部が係止されている。各引張コイルスプリング272の他端部は、左右のサイドフレームアッパ80の上端間(各張出部266Aの上縁よりも上側)に固定的に架け渡された係止ロッド273にそれぞれ係止されている。本第3の実施の形態では、各張出部266A(補強部材270)毎に2つの引張コイルスプリング272が設けられている。
また、図33にも示される如く、2次元張力構造体266の下縁部は、背部用フレーム16(座部用フレーム14)に対し回動可能な骨盤プレート66の下端部に巻き掛けられて係止されている。骨盤プレート66は、矢印C方向への回動によって、その下端部を略上方に移動させるようになっている(図24乃至図27参照)。これにより、2次元張力構造体266は、張力によってトーションバー76を捩りつつ骨盤プレート66を矢印C方向に回動させたり、骨盤プレート66の矢印C方向への回動によって緩み、張力が低減されたりする構成である。この2次元張力構造体266の左右両側部には補強部材274が縫製されて固着されており、各補強部材274にはそれぞれ複数(本第3の実施の形態では各3つ)の引張コイルスプリング276の一端部が係止されている。各引張コイルスプリング276の他端部は、衝撃吸収サイドフレーム77における前縁部に係止されている。これにより、2次元張力構造体266は、前方に押し出されるように背部用フレーム16に張設されている。
さらに、2次元張力構造体266に積層された3次元張力構造体268の左右両側部には補強部材278が縫製されて固着されており、各補強部材278にはそれぞれ複数(本第3の実施の形態では各2つ)の引張コイルスプリング280の一端部が係止されている。各引張コイルスプリング280の他端部は、3次元張力構造体268を後方へ押し出すように衝撃吸収サイドフレーム77の前後方向中間部に係止されている。各引張コイルスプリング280は、それぞれ高さ方向において各引張コイルスプリング276間に配設されている。すなわち、引張コイルスプリング276と引張コイルスプリング280とは、高さ方向に交互に配設されている。本第3の実施の形態では、左右のサイドフレームロア78にそれぞれ2つの引張コイルスプリング276、1つの引張コイルスプリング280が係止されると共に、左右のサイドフレームアッパ80にそれぞれ1つの引張コイルスプリング276、280が係止されている。
車両用シート250におけるその他の構成は、基本的に車両用シート100の対応する構成と同様である。
以上説明した構成の車両用シート250では、背部用フレーム16(と骨盤プレート66と)に張設された下部クッション材260には、張力の方向が3次元となる張力場が生成される。すなわち、2次元張力構造体266の左右両側部における高さ方向の各部に作用する前方への押出し力は、該前方への押出し力が作用する部分の間で3次元張力構造体268に作用する後方への押出し力によって削減(緩和)またはキャンセル(相殺)され、定常状態(シートバック23に作用する荷重変化がない状態)で、下部クッション材260に3次元の張力場が生成される構成である。このように構成することで、下部クッション材260の面剛性が高くなるので、例えば、幅の広いシートバック23(背部用フレーム16)に大柄な人が着座しても、猫背姿勢にならないように着座者を支持することができる。
また、下部クッション材260を3次元張力で支持する(3次元の張力場を生成する)ことは、該下部クッション材260の押圧方向のばね定数を着座者の上半身の質量分布に応じて高さ方向に連続的に変えることと等価となり、着座時の支持荷重が分散される。その結果、例えば従来のウレタンシートでは、ウレタン(クッション材)形状と人体形状との不一致による荷重集中部分に背部用フレーム16から伝達される振動エネルギが集中していたが、本構成とすることで、背部用フレーム16から引張コイルスプリング272、276、280を介して伝達される振動エネルギは、下部クッション材260にて吸収(2次元張力構造体266と3次元張力構造体268との摩擦力に変換されて消費)された後に、荷重分布に応じて振動として人体に入力されるので、着座者の体感振動が大幅に減り、振動乗り心地が向上する。
さらに、車両用シート250では、シートバック23に衝撃性の振動が入力される場合には、押圧方向(後向き)の力に対して引張コイルスプリング276の伸びが大きくなり、2次元張力構造体266の張力が増す。一方、3次元張力構造体268を支持する引張コイルスプリング280が縮むため該3次元張力構造体268の張力が低減する。その結果、人体に近い側の3次元張力構造体268自身の変形が大きくなり下部クッション材260による振動吸収が大きくなる。また、2次元張力構造体266を支持する引張コイルスプリング276の反発力で人体を前方に押出しつつ、該2次元張力構造体266が着座前の初期位置を超えて前方に変位すると、3次元張力構造体268を後方へ引き戻す引張コイルスプリング280の力が作用する(相対的に大きくなる)ことで、人体に作用する前方への押出し力が急激に減少する。すなわち、人体を前方へ揺り戻そうとする力が該揺り戻しの過程で急激に緩和され、衝撃入力前の初期位置を超えた人体の揺り戻し量(オーバーシュート)が低減する。このように、3次元張力によって支持された下部クッション材260が非線形な弾性特性または減衰特性を持つことにより、例えば突起や段差の乗り越しに伴う人体揺動によってシートバック23に対して衝撃的な後方への押圧力が作用した場合に、人体揺動を速やかに収束させることができ、乗り心地が向上する。
さらにまた、車両用シート250では、例えば突起や段差の乗り越しに伴いシートクッション21を押圧する衝撃荷重が入力される場合には、クッション材252の表皮202を介して3次元張力構造体258と、その下層にある2次元張力構造体256とにそれぞれ張力が作用する(張力が増加する)。すると、3次元張力構造体258を弾性支持する引張コイルスプリング262が伸びる。また、2次元張力構造体256は、下方への撓みに伴ってその後縁部が係止された補強パイプ70を略前方に引っ張り、支持ブラケット68を介して補強パイプ70に接続されたトーションバー76を捩りつつ、該支持ブラケット68に取り付けられた骨盤プレート66を矢印C方向に回動する。このとき、補強パイプ70が前下方に回動することで、2次元張力構造体256の張力が低減する(座部用フレーム14に対する不動部位に接続された構成と比較して張力の上昇が抑制される)。またこのとき、シートバック23では、骨盤プレート66が矢印C方向に回動するため、該骨盤プレート66に下縁部が係止されている2次元張力構造体266の張力が低減し、該2次元張力構造体266に緩み(弛み)が生じる。したがって、シートクッション21に衝撃が入力されると、クッション材252の張力が低減して上方への押出し力が小さくなると共に、シートバック23における前方への押出し力も小さくなり、着座者に作用する衝撃エネルギ(吸収時の荷重)を低減することができる。これにより、大きな(良好な)衝撃吸収効果を得ることができる。
また、シートクッション21の2次元張力構造体256とシートバック23の2次元張力構造体266とは、共通の張力調整機構である骨盤プレート機構62(第4リンク機構)の可動部分にそれぞれ係止されているため、該骨盤プレート66の矢印C方向への回動によって、共に張力が低減する。このため、シートバック23に衝撃が入力された場合であっても、2次元張力構造体266に作用する張力(撓み)によって骨盤プレート66が矢印C方向に回動され、上記シートクッション21に衝撃が入力した場合と同様に、2次元張力構造体266の張力が低減する(張力の上昇が抑制される)と共に、補強パイプ70が前下方に回動することで2次元張力構造体256の張力が低減する。すなわち、車両用シート250では、シートクッション21及びシートバック23の何れに衝撃が入力された場合であっても、それぞれの2次元張力構造体256、266が緩み、シートクッション上方及びシートバック前方への押出し力が低減するため、大きな衝撃吸収効果を得ることができる。また、衝撃荷重が着座者の腰部(臀部)からクッション材254の下部を介して骨盤プレート66(に対応するシートバック23の位置)に直接的に入力され、該荷重によって骨盤プレート66が矢印C方向に回動する場合であっても、2次元張力構造体256、266が緩み、上記各場合と同様に大きな衝撃吸収効果を得ることができる。
さらに、車両用シート250では、衝撃吸収サイドフレーム77による衝撃吸収時には、サイドフレームアッパ80のサイドフレームロア78に対する矢印D方向の回動に伴って係止ロッド273と骨盤プレート66との直線距離が短縮されるめ、係止ロッド273に係止された引張コイルスプリング272と骨盤プレート66とにそれぞれ上下端が係止された2次元張力構造体266の張力は、衝撃吸収サイドフレーム77による衝撃吸収時に一層低減される。また同様に、クッション材254の表皮202の張力も低減される。このため、車両用シート250では、衝撃吸収サイドフレーム77による衝撃吸収時に着座者に作用する衝撃エネルギ(吸収時の荷重)をも低減して、一層大きな衝撃吸収効果が得られる。
このように、車両用シート250では、車両用シート100における多関節構造のシートフレーム12による衝撃吸収効果に、シートクッション21及びシートバック23における張力調整機構による衝撃吸収効果と、衝撃吸収サイドフレーム77による衝撃吸収時における2次元張力構造体266及び表皮202の張力低減に基づく衝撃吸収効果とが付与されるため、着座者に作用する衝撃荷重を大幅に減らすことができる。したがって、本第2に実施の形態に係る車両用シート250では、上記各効果の他に、第2の実施の形態に係る車両用シート100と同様の効果が得られることは言うまでもない。
[第4の実施の形態]
本発明の第4の実施の形態に係るシートとしての車両用シート300について、図34乃至図40に基づいて説明する。なお、上記第2の実施の形態に係る車両用シート100と基本的に同一の部品・部分については上記第2の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
図34には車両用シート300が一部分解した斜視図にて示されており、図35、図36にはそれぞれ車両用シート300を構成するシートフレーム302の側面図、正面図が示されている。これらの図に示される如く、シートフレーム302は、ヘッドレストフレーム18に代えて、ヘッドレスト25を構成するヘッドレストフレーム304を備える点で、上記第2の実施の形態に係るシートフレーム12とは異なる。
ヘッドレストフレーム304は、ヘッドレスト可動機構106に支持された第1ポール156及び第2ポール158に対し、トーションバー180等を介して矢印H方向の回動可能に連結された後ハーフ160を備えている。図37にも示される如く、後ハーフ160の上端近傍には板ばね台座306が固定されており、板ばね台座306の下部には、左右一対の板ばね308の上端部がそれぞれリベット310によって固着されている。各板ばね308の下端部は上端部よりも前方に位置しており、該下端部には前ハーフ182の下端近傍がリベット312によって固着されている。すなわち、ヘッドレストフレーム304は、保持部材184、186(軸受部188、194)、支軸190、196、トーションバー200等に代えて、板ばね308を介して前ハーフ182を後ハーフ160に対し接離可能に連結している。
また、板ばね台座306の上部には、左右一対の補助板ばね314の上端部がそれぞれリベット316によって固着されている。各補助板ばね314は、それぞれ異なる板ばね308の上方に所定距離だけ離間して配置されている。各補助板ばね314の下端部にはローラ318が回転自在に取り付けられており、各ローラ318は前ハーフ182の背面におけるリベット312(板ばね308の固定部位)の上側に摺動可能に当接している。この状態(ヘッドレスト25に荷重入力のない状態)で、各板ばね308と各補助板ばね314とは、互いに略平行に位置するように寸法が決められている。
そして、この状態で、後ハーフ160の上端と前ハーフ182の上端との間には、前後方向の隙間である開放部320が形成されており、前ハーフ182上端の後ハーフ160に対する近接(後方への移動)を許容するようになっている。そして、この前ハーフ182の後ハーフ160に対する移動に伴って、各板ばね308及び各補助板ばね314の弾性変形に基づく反力が生じる構成である。
具体的には、前ハーフ182の上端近傍に後方への力が作用した場合に、前ハーフ182は、板ばね308の固定部位からローラ318の当接部位までの間に位置する支持点(仮想支持点)廻りに図37に示す矢印I方向に回動(後傾)し、開放部320を閉じるようにその上端部を略後方下側に移動させる(図38の二点鎖線にて示す状態を参照)。この前ハーフ182の後ハーフ160に対する回動時の支持点の位置は、前ハーフ182上端近傍における荷重作用点の高さと、板ばね308と補助板ばね314とのばね定数比とによって決まり、図38における二点鎖線にて示す状態は、前ハーフ182がローラ318の当接部位の近傍廻りに矢印I方向に回動する場合を例示している。このとき、前ハーフ182は、ローラ318を後下方に押圧しつつ補助板ばね314を変形させるので、該補助板ばね314の付勢力が前ハーフ182の上記回動(後傾)に伴う反力として作用する。また同時に、上記前ハーフ182に作用する後方への力によって、板ばね308が板ばね台座306への固定部位(の近傍)廻りに矢印J方向に変形するので、前ハーフ182は、板ばね308の変形に伴う付勢力を反力として受けつつ後方へ移動する。以上により、前ハーフ182は、その上端近傍に作用する後方への力によって、図38に実線にて示す定常位置から、二点鎖線にて示す中間位置を経て、一点鎖線にて示す位置へ移動しつつ上記力(衝撃力)を吸収するようになっている。
そして、前ハーフ182から後ハーフ160に伝達される後方への移動力が所定の力を超えると、すなわち、各板ばね308及び補助板ばね314の変形量がそれぞれの所定変形量を超えると、トーションバー180捩られ、該トーションバー180の捩り荷重に基づく反力に抗しつつヘッドレスト25(ヘッドレストフレーム304)が背部用フレーム16に対し矢印H方向(略後方)に回動するようになっている。
以上により、ヘッドレストフレーム304にて構成されるヘッドレスト25は、その上端近傍に着座者の頭部が当接して後方への衝撃力が作用した場合でも、先ず(トーションバー180が捩れる前に)前ハーフ182を後ハーフ160に対し確実に変位させる構成である。また、前ハーフ182の上下方向の中間部や下部に後方への衝撃力が作用した場合には、前ハーフ182は、主に各板ばね308の矢印J方向の変形に基づく回動によって、各板ばね308及び各補助板ばね314の変形により生じる反力に抗しつつ、後ハーフ160に近接し、トーションバー180が捩れる前に、上記衝撃力を吸収するようになっている。
さらに、前ハーフ182と後ハーフ160との間には、減衰部材としてのウレタン部材(ウレタンフォーム)322が充填されている。これにより、前ハーフ182の後ハーフ160側への変位(近接)に伴いウレタン部材322が変形して反力としての減衰力を生じるため、上記ヘッドレスト25の作用する後方への衝撃力(エネルギ)を減衰して、一層効果的に吸収することができる。
図37に示される如く、ウレタン部材322は、ヘッドレストフレーム304の外面と表皮202との間にも充填され(設けられ)ており、3次元立体編物210より成るクッション材24に代わりヘッドレスト25を構成するクッション材を構成している。また、ヘッドレスト25の下部はシート状部材324によって閉塞されている。なお、ウレタン部材322におけるヘッドレストフレーム304の外側のクッション材を構成する部分は、図39及び図40に示される如く、要求特性に応じてクッション材24よりも厚く構成しても良い。また、ヘッドレストフレーム304の外面と表皮202との間には、上記第2の実施の形態と同様に、3次元立体編物210より成るクッション材24を設けても良い(逆に、上記第2または第3の実施の形態におけるヘッドレストフレーム18内、すなわち前ハーフ182と後ハーフ160との間にウレタン部材322を充填しても良い)。
以上説明したように、ヘッドレストフレーム304は、関節K3と、関節軸を備えないが広義には関節として把握することのできる板ばね308による前ハーフ182と後ハーフ160との相対変位可能な擬似関節K2’とで、多関節構造のリンク機構を構成しており、本発明における第2リンク機構及び衝撃吸収ヘッドレスト機構に相当する。また、板ばね308、補助板ばね314、ウレタン部材322が、それぞれ本発明における緩衝部材または第2緩衝部材に相当する。
そして、板ばね308、補助板ばね314、ウレタン部材322、及びトーションバー180は、それぞれ関節K3、K2’の関節角度の変化に応じた反力を生じるようになっている。なお、トーションバー180、板ばね308、補助板ばね314により生成される反力は、上記第2の実施の形態と同様に、後突の際に着座者が鞭打ちにならないように頭部の変位(速度)を規制する程度に強く、かつ衝撃吸収過程で頭部に作用する荷重が過大とならない(荷重ピークを下げる)程度に弱い設定とされている。
車両用シート300におけるその他の構成は、基本的に車両用シート10または車両用シート250の対応する構成と同様である。
本第4の実施の形態に係る車両用シート300では、例えば後突時に着座者の頭部がヘッドレスト25を後方に押圧すると、ヘッドレストフレーム304では、各板ばね308、補助板ばね314の弾性力及びウレタン部材322の減衰力に基づく反力を生じつつ前ハーフ182が後方に移動(後ハーフ160に近接)し、衝撃エネルギを吸収する。すなわち、衝撃荷重がヘッドレスト25の上部に作用した場合には、開放部320を消費しつつ前ハーフ182は矢印I方向及び矢印J方向に複合的に移動して後ハーフ160に近接し、衝撃荷重がヘッドレスト25の上下方向中間部または下部に作用した場合には、前ハーフ182は主に矢印J方向に回動して後ハーフ160に近接し、何れの場合でも着座者頭部に作用する荷重を緩和する。
また、前ハーフ182から各板ばね308、補助板ばね314、及びウレタン部材322を介して後ハーフ160に伝達される後方への荷重が所定の荷重を超えると、トーションバー180の弾性的なねじり荷重に基づく反力を生じつつ後ハーフ160が(前ハーフ182と共に)矢印H方向に回動し、衝撃エネルギを吸収する。すなわち、ヘッドレストフレーム304では、ヘッドレストフレーム18と同様に、各時点における生成する反力と着座者頭部の後方移動荷重との差で、経時的(時刻暦)に各関節K2’、K3を変位(角変位)させ着座者の頭部における衝撃エネルギを吸収する。
このように、本第4の実施の形態に係る車両用シート300では、車両用シート10(または車両用シート250)と全く同様の効果を得ることができる他、開放部320が形成されるように板ばね308、補助板ばね314を介して前ハーフ182を後ハーフ160に相対変位可能に連結したため、着座者の頭部がヘッドレスト25の上端近傍を押圧する場合であっても、トーションバー180による衝撃吸収の前に前ハーフ182が後ハーフ160に対し確実に変位し、上記の如く経時的に各関節K2’、K3を変位させ着座者の頭部における衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。しかも、ヘッドレストフレーム304内、すなわち、相対変位する前ハーフ182と後ハーフ160との間にウレタン部材322を充填したため、該ウレタン部材322の変形に伴う減衰力(内部減衰)によって上記衝撃エネルギを一層効果的に減衰吸収させることができる。
なお、上記第2乃至第4の実施の形態では、シートフレーム12、302が関節K1乃至K5(関節K2に代わる擬似関節K2’)を有する好ましい構成としたが、本発明はこれに限定されず、例えば、シートフレーム12が関節K1乃至K4のみを備えて構成されても良く、シートフレーム12が、上記関節K1乃至K5の一部または全部に代えて、或いは上記関節K1乃至K5の一部または全部と共に他の関節を有して構成されても良い。また例えば、本発明は、ヘッドレストフレーム18であるリンク機構L2(ヘッドレストフレーム304)が2つの関節K2(K2’)、K3を有する好ましい構成に限定されず、リンク機構L2が1つまたは3つ以上の関節を有し構成されても良い。逆に、リンク機構L1、L3、L4の何れかが2つ以上の関節を有し構成されても良い。
また、上記第2乃至第4の実施の形態では、サイドフレームアッパ80がサイドフレームロア78に対し左右方向(矢印E方向の回動)に変位可能である好ましい構成としたが、本発明はこれに限定されず、サイドフレームアッパ80はサイドフレームロア78に対し矢印D方向の回動及び復帰のみ可能に連結されても良く、サイドフレームアッパ80がサイドフレームロア78に対し前後方向等に変位して着座者の体動を吸収するようにしても良い。すなわち、関節K4は、2自由度である構成に限られず、1自由度であっても良い。また逆に、本発明は、シートフレーム12が多関節構造である好ましい構成に限定されることはなく、例えば、張力構造体が張設された背部用フレーム16におけるサイドフレームアッパ80がサイドフレームロア78に対し左右方向にのみ変位可能に構成されても良い。
さらに、上記第2乃至第4の実施の形態では、シートフレーム12に張設されるクッション材22の好ましいばね定数特性、クッション材252、254の好ましい張設構造を示したが、本発明は、多関節構造のシートフレーム12、ヘッドレスト可動機構106、骨盤プレート機構62、着座者の呼吸に伴う体動を吸収する機構(衝撃吸収サイドフレーム77におけるサイドフレームアッパ80の矢印E方向の回動を許容する機構)、及びこれらに相当する機構の何れかを備えていれば足り、クッション材22、252等の好ましい構成によって限定されることはない。