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JP4127021B2 - 硬質粒子、耐摩耗性鉄基焼結合金、耐摩耗性鉄基焼結合金の製造方法及びバルブシート - Google Patents

硬質粒子、耐摩耗性鉄基焼結合金、耐摩耗性鉄基焼結合金の製造方法及びバルブシート Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、硬質粒子、耐摩耗性鉄基焼結合金及びその製造方法に関する。さらに、該焼結合金で形成されたバルブシートに関する。このバルブシートは特に圧縮天然ガス(CNG:compressed natural gas)や液化石油ガス(LPG:liquified petroleum gas)などのガスエンジンに好適に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
特許文献1(特開平9−242516号公報)には、バルブシートなどに用いられる耐摩耗性焼結合金として、C:0.5〜1.5重量%、Ni、Co及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素:合計2.0〜20.0重量%、及び残部:Feを基地成分とし、これに、コバルト基硬質粒子が26〜50重量%含有されてなる粉末を圧粉成形し、高温で焼結した耐摩耗性焼結合金が開示されている。ここにおいて、コバルト基硬質粒子は、Coを主成分として耐熱、耐蝕元素(例えば、Mo、Cr、Niなど)を含有した、ビッカース硬さがHv500以上の金属間化合物である。しかし、この焼結合金においては、硬質粒子と基地の酸化被膜形成が充分でなく、金属同士の摺動による凝着が生じやすい。また、焼結時に硬質粒子と基地との間で拡散が少なく、接合強度が不十分なために硬質粒子の脱落が生じやすい。このために、耐摩耗性が十分とはいえない。
【0003】
特許文献2(特開2001−181807号公報)には、同様にバルブシートなどに用いられる耐摩耗性焼結合金として、質量%で全体成分がMo:4〜30%、C:0.2〜3%、Ni:1〜20%、Mn:0.5〜12%、残部が不可避不純物Feからなり、基地がC:0.2〜5%、Mn:0.1〜12%、残部が不可避不純物とFeからなり、硬質粒子がMo:20〜70%、C:0.5〜3%、Ni:5〜40%、Mn:1〜20%、残部が不可避不純物とFeからなり、硬質粒子が基地中に面積比で10〜60%分散している耐摩耗性焼結合金が開示されている。
【0004】
この焼結合金は、硬質粒子に含まれているMnが焼結合金の基地に拡散する量が多いため、焼結合金において硬質粒子と基地との密着性を向上させることができる。これにより硬質粒子の保持性の向上、焼結合金の密度の向上、硬さの向上、耐摩耗性の向上が図られる。さらに、硬質粒子はクロムCrを積極的元素としては含まず、硬質粒子においてMoの酸化皮膜を形成しやすくする。このMo酸化皮膜は固体潤滑剤として機能できるため、硬質粒子における硬さ及び耐摩耗性の他に、硬質粒子における固体潤滑性が確保される。そのために、ガソリンエンジンのバルブ系に比べて摺動領域の固体潤滑性が弱い傾向がある、CNGやLNGを燃料とするエンジンに使用されるバルブシート又はバルブガイドの素材として高い有効性を示す。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−242516号公報
【特許文献2】
特開2001−181807号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、エンジン、特に、CNGやLNGを燃料とするエンジンに使用されるバルブシートやバルブガイドの素材について、さらに継続して実験を行う過程において、上記特開2001−181807号公報に開示される耐摩耗性焼結合金を利用した場合でも耐摩耗性は十分であるが、より高いエンジン性能を追求するためには、さらに高い耐摩耗性を持つ焼結合金を必要とする場合があることを経験した。本発明はそのような事情に基づきなされたものであり、硬質粒子の酸化被膜形成をさらに形成しやすくし高い耐摩耗性が得られるようにした、硬質粒子、耐摩耗性鉄基焼結合金、耐摩耗性鉄基焼結合金の製造方法及びバルブシートを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、硬質粒子、硬質粒子を分散させた耐摩耗性鉄基焼結合金についてさらに研究を行うことにより、従来の硬質粒子のように残部をFeとすることなく、Coとする場合に、Coのマトリックスは、Ni,Feをマトリックスとした場合と比較して、その硬質粒子を混合した焼結合金の耐摩耗性が優れたものとなることを知見し、かかる知見に基づいて、本発明に係る硬質粒子、耐摩耗性鉄基焼結合金及びその製造方法を完成した。
【0008】
すなわち、本発明による硬質粒子は、質量%でMo:20〜70%、C:0.2〜3%、Mn:1〜15%、残部が不可避不純物とCoからなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明による耐摩耗性鉄基焼結合金は、質量%で、全体を100%としたとき全体成分がMo:4〜35%、C:0.2〜3%、Mn:0.5〜8%、Co:3〜40%、残部が不可避不純物とFeからなり、基地を100%としたとき基地成分がC:0.2〜5%、Mn:0.1〜10%、残部が不可避不純物とFeからなり、硬質粒子を100%としたとき硬質粒子成分がMo:20〜70%、C:0.2〜3%、Mn:1〜15%、残部が不可避不純物とCoからなり、硬質粒子が基地中に面積比で10〜60%分散していることを特徴とする。
【0010】
本発明による耐摩耗性鉄基焼結合金は、また、上記の耐摩耗性鉄基焼結合金において、質量%で、{(焼結合金の基地におけるMn量)/(焼結合金の基地に分散している硬質粒子におけるMn量)}をαとするとき、αは0.05〜1.0の範囲であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による耐摩耗性鉄基焼結合金の製造方法は、上記した硬質粒子の粉末を質量%で10〜60%と、炭素粉末0.2〜2%と、残部となる純Fe粉末又は低合金鋼粉末とを混合した混合材料を用意し、前記混合材料を成形して圧粉成形体を形成し、前記圧粉成形体を焼結して上記した組成をもつ焼結合金とすることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明は、上記の耐摩耗性鉄基焼結合金を圧縮天然ガス又は液化石油ガスを燃料とするガスエンジンのバルブシートとして用いること、及び、上記した耐摩耗性鉄基焼結合金で形成されていることを特徴とするバルブシートをも開示する。
【0013】
以下に、本発明をより詳細に説明する。前記のように、本発明による硬質粒子は、質量%でMo:20〜70%、C:0.2〜3%、Mn:1〜15%、残部が不可避不純物とCoからなる。この硬質粒子において、Coはマトリックスを形成する。Moは、Cと化合してMo炭化物を形成し硬質粒子の硬さ、耐摩耗性を向上させる。また、Coのマトリックスに固溶したMo及びMo炭化物がMo酸化物の皮膜を形成し、凝着の原因となる金属同士の摺動を低減して、良好なる固体潤滑性を向上させる。Mo量が20%未満では酸化皮膜の形成が不十分であり硬質粒子における固体潤滑性が十分なものとならない。70%を超えると成形性が低下し焼結材の強度が低下する。
【0014】
Cは、Moと化合してMo炭化物を形成し、硬質粒子の硬さ、耐摩耗性を向上させる。C量が0.2%未満では充分な量のMo炭化物が形成されず、耐摩耗性が不十分となる。3%を超えると成形性が低下し焼結材の強度が低下する。
【0015】
Mnは融点が低く焼結時に基地への拡散が多いため、後述するように上記した硬質粒子の組成のもとでは、焼結時に硬質粒子から焼結合金の基地へ効率よく拡散する。それにより、硬質粒子と基地との密着性を向上させる。さらに、Mnは基地におけるオーステナイト増加作用を期待できる。Mn量が1%未満では充分な拡散が得られず密着性が不十分となる。15%を超えると成形性が低下し焼結材の強度が低下する。
【0016】
本発明による硬質粒子において、残部は不可避不純物とCoであり、積極元素として、Ni,Feを含まない。Coをマトリックスとすると、Ni,Feをマトリックスとした場合と比較して、硬質粒子を混合した焼結材の耐摩耗性が優れることが確認された。その理由は、Coは積層欠陥エネルギが小さく、積層欠陥を生じて強度が上昇するためであると推察される。また、熱へたり性に対する抵抗も確保することができる。
【0017】
本発明による硬質粒子はCrを積極元素として含まない。それにより、本発明に係る硬質粒子は、比較的低い温度から酸化皮膜を生成することができ、比較的低温領域、中温領域において顕著な固体潤滑性を確保することができる。その理由は次のように推察される。硬質粒子の表面に酸化皮膜が生成する場合には、硬質粒子に含まれている合金元素の酸化速度とその合金元素の拡散速度とが影響すると考えられる。Crは酸化され易く酸化速度が速いものの、拡散速度が遅いと推察される。またCrは緻密な酸化皮膜を生成し、酸素の進入を抑え易いと推察される。従って硬質粒子中のCr量をなくすことにより、酸化皮膜の成長が抑えられ、酸化開始温度が下がるものと推察される。これに対して、Moは酸化され易く酸化速度が速く、拡散速度も速い。さらにMoはCrほど緻密な酸化皮膜を生成するものではなく、酸素の進入を許容し易いと推察される。そのために、Moは加熱領域のうち比較的低い温度領域でも、固体潤滑性を期待できる酸化皮膜を生成し易いと推察される。
【0018】
本発明による硬質粒子は、溶湯を噴霧化するアトマイズ処理で製造されたものでもよいし、溶湯を凝固させた凝固体を機械的粉砕で粉末化したものでもよい。アトマイズ処理としては、非酸化性雰囲気(窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気や真空中)でアトマイズ処理したものを採用できる。
【0019】
本発明による硬質粒子の平均粒径としては、鉄基焼結合金の用途、種類などに応じて適宜選択できるが、一般的には、20〜250μm程度、30〜200μm程度、40〜180μm程度にすることができる。ただし、これに限定されるものではない。硬質粒子の硬さは、Mo炭化物等の量にもよるが、一般的にはHv350〜750程度、Hv450〜700程度にすることができる。
【0020】
本発明による耐摩耗性鉄基焼結合金は、上記したとおりであり、基地を100%としたとき、基地成分がC:0.2〜5%、Mn:0.1〜10%、残部が不可避不純物とFeからなる組成をもつ。なお、本発明による焼結合金の基地は、硬質粒子からの拡散の影響で、少量のMo、Coを含むことができる。
【0021】
焼結合金の基地の組成の限定理由としては、主として、鉄基焼結合金の耐摩耗性を確保すべく、鉄基焼結合金の基地の硬さを確保するためである。硬さを確保するため、鉄基焼結合金の基地としては、パーライトを含む組織を採用することができる。パーライトを含む組織としては、パーライト組織、パーライト−オーステナイト系の混合組織、パーライト−フェライト系の混合組織、パーライト−セメンタイト系の混合組織にすることができる。耐摩耗性を確保するには、硬さが低いフェライトは少ない方が好ましい。基地の硬さは組成にもよるが、一般的にはHv120〜300程度、Hv150〜250程度にすることができるが、これらに限定されるものではない。前記のように、硬質粒子の硬さは、基地よりも硬質であり、一般的にはHv350〜750程度、Hv450〜700程度にすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明による焼結合金の基地に含まれるMn量は、焼結時に硬質粒子から拡散したものと考えられる。焼結合金の基地を構成する純Fe粉末や低合金鋼粉末がMn量を含有していないとき、質量%に基づけば、(焼結合金の基地におけるMn量/基地に分散している硬質粒子におけるMn量)をαとすると、αは硬質粒子の組成や硬質粒子の配合割合などによっても相違するものの、前記したように、αは0.05〜1.0程度にすることが望ましい。また、本発明による焼結合金において、硬質粒子は基地中に面積比で10〜60%分散している。10%未満であると耐摩耗性が不十分であり、60%を超えると成形性が低下し焼結材の強度が低下する。本発明による耐摩耗性鉄基焼結合金での、硬質粒子の組成限定理由、硬質粒子の好ましい組成範囲は、上記した硬質粒子の欄で記載したのと基本的には同様である。
【0023】
本発明に係る耐摩耗性鉄基焼結合金の製造方法によれば、上記した硬質粒子の粉末を質量%で10〜60%と、炭素粉末0.2〜2%と、残部となるFe粉末又は低合金鋼粉末とを混合した混合材料を用意し、混合材料を成形して圧粉成形体を形成し、圧粉成形体を焼結して上記したいずれかに記載の組成をもつ焼結合金とする。
【0024】
上記した硬質粒子は、焼結合金の基地に分散し、焼結合金の耐摩耗性を高める硬質相を構成する。硬質粒子の割合が少ないと、焼結合金の耐摩耗性は充分でない。硬質粒子の割合が過剰であると、相手攻撃性が高まるし、硬質粒子の保持性が確保されにくい。このため硬質粒子の粉末の配合量は質量%で10〜60%とする。炭素粉末としては一般的には黒鉛粉末を採用できる。炭素粉末の炭素(C)は焼結合金の基地又は硬質粒子に拡散し、固溶したり炭化物(Mo炭化物又はセメンタイト等)を生成したりする。このため炭素粉末の配合量は0.2〜2%とする。
【0025】
Fe粉末又は低合金鋼粉末は、耐摩耗性鉄基焼結合金の基地を構成する。上記した製造方法によれば、出発原料のコストの低減を図ることができ、さらに、圧粉成形体の圧縮成形性を図ることができ、圧粉成形体ひいては焼結合金の高密度化に有利となる。
【0026】
上記した製造方法によれば、硬質粒子と基地とにおいては、焼結時に、一方に含まれている合金元素は他方に拡散するため、硬質粒子と基地との密着性が高まる。特に、本発明に係る組成をもつ硬質粒子を採用したときには、本発明者が知見したように、Coをマトリックスとすると、Ni,Feをマトリックスとした場合と比較して、硬質粒子を混合した焼結材の耐摩耗性が優れ、さらに、硬質粒子に含まれているMnは基地に効率よく拡散するため、硬質粒子と基地との密着性が高まる。これにより焼結合金の密度の向上、焼結合金の硬さの向上、焼結合金の耐摩耗性の向上を図り得る。
【0027】
Fe粉末又は低合金鋼粉末は、前記したように耐摩耗性鉄基焼結合金の基地を構成するものである。低合金鋼粉末はFe−C系粉末を採用することができ、例えば、低合金鋼粉末を100%としたとき、C:0.2〜5%、残部が不可避不純物とFeからなる組成をもつものを採用することができる。焼結温度としては、1050〜1250℃程度、殊に1100〜1150℃程度を採用できる。上記した焼結温度における焼結時間としては、30分〜120分、殊に45〜90分を採用できる。焼結雰囲気としては、不活性ガス雰囲気などの非酸化性雰囲気が好ましい。非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴンガス雰囲気、真空雰囲気があげられる。
【0028】
本発明に係る耐摩耗性鉄基焼結合金の製造方法によれば、硬質粒子の組成限定理由、硬質粒子の好ましい組成範囲は、上記した硬質粒子の欄で記載したのと基本的には同様である。硬質粒子の硬さ、平均粒径としては、上記した焼結合金の欄で記載したのと基本的には同様である。
【0029】
一般的に、CNGやLPGを燃料とするガスエンジンのバルブ系では、ガソリンエンジンのバルブ系に比べて、摺動領域の固体潤滑性が弱い傾向がある。ガソリンエンジンに比較して燃焼雰囲気の酸化力が弱いため、固体潤滑性をもつ酸化皮膜が生成されにくいためと推察されている。前記したように、本発明に係る耐摩耗性鉄基焼結合金によれば、硬質粒子に含まれているCoはマトリックスを形成し、それはNi,Feをマトリックスとした場合と比較して、焼結材の耐摩耗性を優れたものとし、また、硬質粒子に含まれているMoは、Crよりも低い温度で良好なる酸化皮膜を生成し易いため、使用環境温度が低温領域又は中温領域であっても酸化皮膜による固体潤滑性が確保される。従って硬質粒子は硬さの他に固体潤滑性を有する。このため本発明に係る耐摩耗性鉄基焼結合金は、CNGやLPGを燃料とする車両用などのガスエンジンのバルブシートやバルブフェースなどでバルブ系で使用される焼結合金に適する。もちろん、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのバルブシートやバルブフェースなどで使用される焼結合金にも適用することができる。ただし、これらの用途に限られものではなく、例えば、バルブガイド、ターボウェストゲートバルブブッシュなどのように、加熱領域で使用される摺動部材として利用することもできる。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を具体的に実施した実施例について比較例と共に説明する。本実施例では、不活性ガス(窒素ガス)を用いたガスアトマイズにより、表1に示す試料A〜試料Qに示す組成をもつ合金粉末を製造した。これらを45μm〜180μmの範囲に分級し、硬質粒子の粉末とした。
【0031】
【表1】
Figure 0004127021
【0032】
上記した試料A〜試料Gは、本発明の範囲内にある硬質粒子に相当する粉末であり、本発明材に相当する。試料HはCoを含まず残部がNiであり比較材に相当する。試料IはCoを含まず残部がFeであり比較材に相当する。試料JはMoが14%と少なく比較材に相当する。試料KはMoが75%と多く比較材に相当する。試料LはCが0.05%と少なく比較材に相当する。試料MはCが4%と多く比較材に相当する。試料NはMnを含まず比較材に相当する。試料OはMnが20%と多く比較材に相当する。試料Pは残部がCoであるが、Cが0.07と少なく、Ni,Cr,Si,Feを含んでおり比較材に相当する。なお、試料Pは上記した特開平9−242516号公報に開示されたものに相当する。試料QはCoを含むが、残部がFeであり、また、Ni,Cr,Siを含んでおり比較材に相当する。なお、試料Qは上記した特開2001−181807公報に開示されたものに相当する。
【0033】
これらの試料A〜試料Qに係る硬質粒子の粉末を用い、各硬質粒子の粉末を大気中で加熱して酸化させ、この場合における酸化に伴う重量増加が急に始まる温度を調査した。表1に示されるように、本発明の範囲内にある硬質粒子粉末A〜G(Crを含まない)は、従来の硬質粒子粉末P,Q(Crを含む)より、酸化開始温度が低くなっている。
【0034】
【表2】
Figure 0004127021
【0035】
さらに、表2に示す割合で、上記した試料A〜試料Qに係る硬質粒子の粉末と黒鉛粉末と純Fe粉末とを混合機により混合し、実施例1〜11及び比較例1〜10の混合材料としての混合粉末を形成した。表2に示すように、質量%で大部分の実施例及びすべての比較例では硬質粒子の粉末を40%とし、黒鉛粉末を0.6%とした。なお、実施例2では硬質粒子の粉末の割合を15%と少なくした。実施例3では硬質粒子の粉末の割合を55%と多くした。また実施例4では黒鉛粉末の割合を0.3%と少なめとし、実施例5では黒鉛粉末の割合を1.8%と多めにした。
【0036】
そして、成形型を用い、上記に配合した実施例1〜11及び比較例1〜10の混合粉末を78.4×107Pa(8tonf/cm2)の加圧力でリング形状をなす試験片を圧縮成形し、圧粉成形体を形成した。試験片はバルブシート形状をもつ。その後、各圧粉成形体を1120℃の不活性雰囲気(窒素ガス雰囲気)中で60分間、焼結し、試験片に係る焼結合金(バルブシート)を形成した。
【0037】
また、表3に示す条件に基づいて、試験片に係る焼結合金(バルブシート)を製造した(比較例11)。比較例11は、硬質粒子として表1での試料Pを40重量%混合し、焼結合金の密度、耐摩耗性などを高めるために、圧縮成形して圧粉成形体を形成し、圧粉成形体を焼結することを2回繰り返したものである。なお、表3に示す組成は焼結合金の全体組成を示す。
【0038】
【表3】
Figure 0004127021
【0039】
図1は前記した実施例1に係る光学顕微鏡写真(倍率:100倍)を示す。実施例1に係る焼結合金では、図1に示すように、焼結合金の海状の基地に、丸みを帯びた円粒形状をなす黒みをおびた島状の硬質粒子が多数分散しており、気孔はほとんど認められなかった。図1では焼結合金(基地+硬質粒子)を100%としたとき、硬質粒子の割合は面積比で20〜50%程度であった。図1において、基地における海状の黒色部分はパーライトと推察され、基地における硬質粒子の周りの白色部分はオーステナイトと推察される。
【0040】
図3は比較例9(試料P)に係る光学顕微鏡写真(倍率:100倍)を示す。比較例9に係る焼結合金では、図3に示すように、焼結合金の基地に、丸みを帯びた円粒形状をなす白色の硬質粒子が多数分散しており、さらに、硬質粒子間にかなりの気孔(硬質粒子間の黒色部分)が認められた。
【0041】
焼結合金において硬質粒子が焼結合金の基地に接合している接合状態を把握するため、各試験片について、焼結合金の全体の組成、硬質粒子の組成、基地の組成をEPMA分析により測定した。上記した分析結果を表4に示す。表4において、全体組成は、質量%で焼結合金の全体を100%としたときにおける組成の意味である。硬質粒子組成は、質量%で硬質粒子を100%としたときにおける組成の意味である。基地組成は、質量%で基地を100%としたときにおける組成の意味である。
【0042】
【表4】
Figure 0004127021
【0043】
各実施例によれば、焼結合金の基地を構成する出発原料であるFe粉末にはMn、Mo、Coが含まれていないにもかかわらず、表4に示すように、焼結合金の基地にはMn、Mo、Coが含まれている。硬質粒子中のMn、Mo、Coが焼結時に、熱拡散したものと推察される。表4に示されるように、基地に含まれているMn量はほとんどが1%を超えており、かなり高い。硬質粒子に含まれているMnは、焼結時に焼結合金の基地に拡散し易いものと考えられる。
【0044】
即ち、基地を構成する出発原料であるFe粉末にMnは含有されていないにもかかわらず、焼結合金の基地に含まれているMn量としては、実施例1では1.3%であり、実施例6では1.4%であり、実施例7では1.3%であり、実施例9では2.7%であり、実施例10では1.3%であり、実施例11では1.3%であり、かなり高かった。実施例8では硬質粒子に含まれているMn量が少なめ(実施例1〜4に比較して約37%=15/40)であるため、0.3%であった。
【0045】
なお、質量%に基づいて、(焼結合金の基地におけるMn量/基地に分散している硬質粒子におけるMn量)をαとすると、αとしては、
実施例 1では1.3/4.0 0.235であり、
実施例 6では1.4/3.9 0.359であり、
実施例 7では1.3/4.1 0.317であり、
実施例 8では0.3/1.5 0.200であり、
実施例 9では2.7/8.0 0.338であり、
実施例10では1.3/4.0 0.325であり、
実施例11では1.3/4.0 0.325であった。
従ってαとしては、0.10〜0.7程度の範囲、殊に、0.15〜0.45程度の範囲となり、Mnの拡散効率が高いことがわかる。
【0046】
ちなみにMoの拡散をみると、(基地に含まれているMo量/硬質粒子に含まれているMo量)をβとすると、βとしては、
実施例 1では1.00/38.5 0.030であり、
実施例 6では0.67/24.0 0.030であり、
実施例 7では1.30/58.0 0.022であり、
実施例 8では1.00/38.5 0.026であり、
実施例 9では1.00/38.5 0.026であり、
実施例10では1.00/38.5 0.026であり、
実施例11では1.00/38.5 0.026であった。
【0047】
従ってMoの拡散効率を意味するβとしては、0.02〜0.03程度の範囲となり、Mnの拡散効率を意味するαに比較して1桁小さく、Mnの拡散効率がいかに高いかわかる。
【0048】
ちなみにCoの拡散をみると、(基地に含まれているCo量/硬質粒子に含まれているCo量)をθとすると、θとしては、
実施例 1では1.00/51.0 0.016であり、
実施例 6では1.70/65.0 0.026であり、
実施例 7では1.00/31.0 0.032であり、
実施例 8では1.00/55.0 0.018であり、
実施例 9では1.00/45.0 0.022であり、
実施例10では1.20/52.0 0.023であり、
実施例11では1.00/50.0 0.020であった。
【0049】
従ってCoの拡散効率を意味するθとしては、0.01〜0.04程度の範囲となり、Mnの拡散効率を意味するαに比較して1桁小さい。
さらに、上記した事項を確認するため、各試験片である焼結合金について、焼結合金の密度を測定した。測定結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
Figure 0004127021
【0051】
次に、図2に示す試験機を用い焼結合金の耐摩耗性について摩耗試験を行い、耐摩耗性を評価した。この摩耗試験では、図2に示すように、プロパンガスバーナ5を加熱源として用い、前記のように作製した焼結合金からなる試験片であるリング形状のバルブシート3を、Mo−Co−Fe−Ni−Mn合金(Mo−31%Co−13%Fe−10%Ni−6%Mn5%Cr−1%C−1%Si)をフェース部4に盛金したSUH35からなるバルブ1と組み合わせて行った。プロパンガスバーナ5を加熱源に用いてバルブシート3の温度を200℃に制御し、スプリング6によりバルブシート3とバルブフェース4との接触時に25kgfの荷重を付与して、2300回/分の割合で、バルブシート3とバルブフェース4とを接触させ、8時間の摩耗試験を行った。
【0052】
試験後のバルブ突き出し量(μm)とシート当たり幅増加量(mm)を求めた。その結果を表5に示す。なお、バルブ突き出し量はバルブシート3の摩耗とバルブフェース4の摩耗とにより、バルブ開閉時のバルブ位置がバルブ軸方向に変位した距離である。シート当り幅増加量は、バルブシート3とバルブフェース4とが接触することによってバルブシートが摩耗し、バルブシートにおけるバルブフェースとの接触部位の幅が増加した量である。
【0053】
表5に示すように、本発明の範囲内にある実施例1〜11に係る焼結合金の密度はその多くが比較例品よりも高く、かつ、バルブ突き出し量(μm)とシート当たり幅増加量(mm)も比較例品と比較して相当に小さくなっており、耐摩耗性でも優れていることがわかる。また、硬質粒子粉末にMnを含まない比較例7はMn量のみ異なる実施例1、8、9よりも密度が低くなっておりMnが密度向上効果を有することがわかる。
【0054】
次に、実施例1のバルブシートと従来材料の硬質粒子P,Qを混合した比較例10、11のバルブシートを実際のエンジンに組み込んで、耐摩耗性を試験した。このエンジンはCNGを燃料とする排気量1500ccのものである。このエンジンを用いて300時間の耐久試験を行い、前記と同様に、バルブ突き出し量(mm)とシート当り幅増加量(mm)をエンジンの排気側に測定した。吸気側の条件としては、バルブフェースはSUH11に軟窒化処理を行ったものである。排気側の条件としては、バルブフェースはMo基合金を盛金したものである。その結果を表6に示す。ここで、バルブ突き出し量はバルブシートの摩耗とバルブフェースの摩耗により、バルブ閉鎖時のバルブ位置がエンジン外方へ変位(突出)する量である。バルブシートの当り幅増加量は、バルブシートとバルブフェースとが接触することによってバルブシートが摩耗し、バルブシートにおけるバルブフェースとの接触部位の幅が増加する量である。
【0055】
表6に示すように、実施例1ではバルブ突き出し量、シート当り幅増加量の双方において、比較例10、11のいずれよりも大きく低減しており、耐摩耗性が優れていることがわかる。また、密度向上のため成形、焼結を2回繰り返した比較例11よりも優れていることがわかる。
【0056】
【表6】
Figure 0004127021
【0057】
なお、上記した記載から次の技術的思想も把握できる。
▲1▼本発明による硬質粒子はFeを積極元素として含んでいないこと。
▲2▼本発明による硬質粒子はNiを積極元素として含んでいないこと。
▲3▼本発明による硬質粒子はCrを積極元素として含んでいないこと。
▲4▼本発明による硬質粒子はSiを積極元素として含んでいないこと。
▲5▼本発明による耐摩耗性鉄基焼結合金はバルブシートのみならず、エンジンのバルブ系全般に用いうること。
【0058】
【発明の効果】
上記のように、本発明によれば、従来のものと比較して耐摩耗性がきわめて高くなった焼結合金およびそれによるバルブシートなどを得ることができる。特に、本発明によるバルブシートは圧縮天然ガス(CNG)や液化石油ガス(LPG)などのガスエンジンに好適に用いられる
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による耐摩耗性鉄基焼結合金の一例を示す光学顕微鏡写真(倍率:100倍)(実施例1に相当)。
【図2】単位摩耗試験を実施している際の装置の断面図。
【図3】従来の耐摩耗性鉄基焼結合金の一例を示す光学顕微鏡写真(倍率:100倍)(比較例9に相当)。
【符号の説明】
1…バルブ、3…バルブシート、4…バルブフェース、5…プロパンガスバーナ、6…スプリング

Claims (6)

  1. 質量%でMo:20〜70%、C:0.2〜3%、Mn:1〜15%、残部が不可避不純物とCoからなることを特徴とする硬質粒子。
  2. 質量%で、全体を100%としたとき全体成分がMo:4〜35%、C:0.2〜3%、Mn:0.5〜8%、Co:3〜40%、残部が不可避不純物とFeからなり、基地を100%としたとき基地成分がC:0.2〜5%、Mn:0.1〜10%、残部が不可避不純物とFeからなり、硬質粒子を100%としたとき硬質粒子成分がMo:20〜70%、C:0.2〜3%、Mn:1〜15%、残部が不可避不純物とCoからなり、硬質粒子が基地中に面積比で10〜60%分散していることを特徴とする耐摩耗性鉄基焼結合金。
  3. 質量%で、{(焼結合金の基地におけるMn量)/(焼結合金の基地に分散している硬質粒子におけるMn量)}をαとするとき、αは0.05〜1.0の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の耐摩耗性鉄基焼結合金。
  4. 圧縮天然ガス又は液化石油ガスを燃料とするガスエンジンのバルブシートに用いられることを特徴とする請求項2又は3に記載の耐摩耗性鉄基焼結合金。
  5. 請求項1に記載の硬質粒子の粉末を質量%で10〜60%と、炭素粉末0.2〜2%と、残部となる純Fe粉末又は低合金鋼粉末とを混合した混合材料を用意し、前記混合材料を成形して圧粉成形体を形成し、前記圧粉成形体を焼結して請求項2又は3に記載の組成をもつ焼結合金とすることを特徴とする耐摩耗性鉄基焼結合金の製造方法。
  6. 請求項2又は3に記載の耐摩耗性鉄基焼結合金で形成されていることを特徴とするバルブシート。
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