JP4182326B2 - 細胞の保存方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞培養、組織培養等の分野において利用される細胞の保存方法に関する。特に、細胞の機能を維持しつつ細胞を保存できる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、細胞培養、組織培養などに使用されている細胞を輸送または保存する方法として、主に次の二つの方法が採用されている。
【0003】
一つは、凍結用培地中に懸濁した細胞を凍結バイアルやアンプル内で凍結させた状態で輸送または保存を行う方法である。他の一つの方法はフラスコのような細胞培養用容器内で細胞を培養することにより容器壁に細胞を接着または増殖させた後に、容器内を培養液等で満たし、容器を密栓した状態で室温下に輸送または保存を行う方法である。
【0004】
株化細胞や初代培養細胞であっても増殖力の強い繊維芽細胞などは、前述した凍結方法や単層培養を行ったフラスコ内に培養液を満たす方法により輸送又は保存しても、細胞の機能が損なわれ難い。
【0005】
しかし、多くの初代培養細胞では、単層培養により生体内で維持していたその細胞の機能を失い易いため、細胞を単層培養したフラスコ内に培養液を満たした状態で輸送すると、細胞の機能が失われる場合が多い。
【0006】
初代培養細胞の中でも高度に分化した初代肝細胞では、単層培養期間内にその機能が特に失われ易い。例えば、ラット初代培養肝細胞は、フラスコ内で単層培養をおこなっても、例えば肝細胞の重要な機能のひとつであるアンモニア代謝能が、通常、培養開始から2週間程度で失われてしまう。従って、フラスコ内で単層培養を行った肝細胞を輸送する場合には、輸送による振動等の影響が加わり更に細胞機能を維持し難くなる。
【0007】
また、例えばラット初代肝細胞では、凍結により細胞がほぼ死滅してしまう。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、細胞の機能を維持ししたままで長期にわたり細胞を保存できる細胞の保存方法を提供することを主目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために本発明者は研究を重ね、細胞に遠心力又は水圧のような圧力をかけることにより細胞を高い接触状態ないしは高い接触頻度が保たれる凝集体とし、この凝集体の状態で細胞を保存することにより、保存中の細胞の機能の消失を抑制しつつ長期間、細胞を保存できることを見出した。また、本発明者は、このような細胞の凝集体を細胞培養用培地中で培養することにより組織体を形成し、この組織体を保存することにより、保存中の細胞の機能の消失が一層効果的に抑制されることを見出した。
【0010】
前記知見に基づき本発明は、以下の各項の細胞の保存方法を提供する。
【0011】
項1. 細胞に遠心力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を保存する細胞の保存方法。
【0012】
項2. 透過性膜からなる中空糸の内腔に細胞を入れた状態で細胞に遠心力をかけることにより、中空糸の内腔に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の保存方法。
【0013】
項3. 透過性膜からなる中空糸束と中空糸束を覆うシェルとからなる構造物のシェルと中空糸束との間隙に細胞を入れた状態で細胞に遠心力をかけることにより、シェルと中空糸束との間隙に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の保存方法。
【0014】
項4. 透過性膜上に細胞を載せた状態で細胞に遠心力をかけることにより、透過性膜の表面上に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の保存方法。
【0015】
項5. 1又は複数のウェルを有する容器のウェル内に細胞を入れた状態で、細胞に遠心力をかけることによりウェル底部に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の保存方法。
【0016】
項6. 細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を保存する細胞の保存方法。
【0017】
項7. 透過性膜からなる中空糸の内腔に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、中空糸の内腔に細胞の凝集体を形成する項6に記載の細胞の保存方法。
【0018】
項8. 透過性膜からなる中空糸束と中空糸束を覆うシェルとからなる構造物のシェルと中空糸束との間隙に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、シェルと中空糸束との間隙に細胞の凝集体を形成する項6に記載の細胞の保存方法。
【0019】
項9. 透過性膜上に細胞を載せた状態で細胞に圧力をかけることにより、透過性膜の表面上に細胞の凝集体を形成する項6に記載の細胞の保存方法。
【0020】
項10. 1又は複数のウェルを有する容器のウェル内に細胞を入れた状態で、細胞に圧力をかけることによりウェル底部に細胞の凝集体を形成する項6に記載の細胞の保存方法。
【0021】
項11. 細胞を細胞培養用液体培地又は臓器輸送用液中に置くことにより保存する項1から10のいずれかに記載の細胞の保存方法。
【0022】
項12. 細胞を細胞培養用液体培地又は臓器輸送用液を含むゲルで覆った状態で保存する項1から10のいずれかに記載の細胞の保存方法。
【0023】
項13. 細胞の凝集体を細胞培養用培地中で培養することにより組織体を形成させ、組織体の状態で細胞を保存する項1から12のいずれかに記載の細胞の保存方法。
【0024】
項14. 組織体形成時と同じ細胞培養用液体培地を用いて細胞を保存する項13に記載の細胞の保存方法。
【0025】
項15. 保存される細胞が肝細胞である項1から14のいずれかに記載の細胞の保存方法。
【0026】
項16. 保存される細胞が人工臓器用の細胞である項1から15のいずれかに記載の細胞の保存方法。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
基本的構成
本発明の細胞の保存方法は、細胞に遠心力又は圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を保存する方法である。本発明において、凝集体とは、分散された細胞による自発的な凝集では成し得ない程度に、細胞同士が高度に接着した状態又は高頻度に接着した状態の細胞群をいう。
【0028】
本発明において保存には輸送しながら保存することも含まれる。すなわち、保存には、静置の他、トラック、列車、航空機、船舶、人手等により移動させる輸送も含まれる。静置状態の保存には、細胞を取り扱う作業所内での保管、その付近の保管庫、倉庫等における保管、移送先での保管庫、倉庫等における保管が含まれる。
【0029】
このような凝集体は、細胞を適当な液体培地又はバッファーに懸濁した状態で、通常の遠心機を用いて、細胞の種類に応じて細胞に傷害を与えない範囲の遠心力をかけることにより形成することができる。遠心力は、細胞の種類によっても異なるが、概ね2〜2000×G程度、特に4〜500×G程度とすることが好ましい。例えば初代ラット肝細胞の場合には、通常1500×G以下、特に400×G以下の遠心力をかけることが好ましい。また、初代ラット肝細胞の場合には、遠心力の下限値は細胞の凝集体が形成されるのであればよく特に限定されないが、通常5×G程度である。遠心時間は、細胞凝集体を形成できる範囲で適宜設定すればよい。
【0030】
また、このような凝集体は、細胞を適当な液体培地又はバッファーに懸濁した状態で、細胞の種類に応じて細胞に傷害を与えない範囲の圧力(直接には水圧)をかけることにより形成することができる。圧力は、細胞の種類によっても異なるが、概ね0.05〜5kg重/cm2程度が好ましい。
透過性膜
細胞凝集体は、透過性膜上に細胞を堆積させた状態で例えば遠心力をかけることにより、透過性膜の表面上に形成することができる。遠心力及び遠心時間は前述した通りである。また、細胞の凝集体は、細胞を透過性膜上に堆積させた状態で細胞堆積側を陽圧にしたり、その反対側を陰圧にして細胞に圧力(直接には水圧)をかけることにより形成することができる。圧力の大きさは前述したとおりである。
【0031】
透過性膜上に凝集体を形成する場合には、透過性膜を介して細胞を細胞培養用液体培地又は臓器輸送用液に接触させておくことにより、凝集体状態を維持したままで細胞の生存に必要な成分を効率良く供給することができる。その結果、細胞の有する機能を維持しつつ細胞を保存することができる。
【0032】
具体的には、例えば、1又は複数のウェルを有し、ウェルの深さ方向の中間位置にウェル底面方向に透過性膜を備えた細胞培養容器(いわゆるカルチャーインサート)のウェル内に細胞懸濁液を注入し、容器ごと遠心機にかけて細胞に遠心力をかけることにより、透過性膜上に細胞の凝集体を形成することができる。次いで、凝集体が堆積した透過性膜を、適合するウェルを有する培養容器(いわゆるマルチウェルプレート)のウェル内に入れ、さらにウェル内に細胞培養用液体培地又は臓器保存用液などを満たした状態で細胞を保存することができる。
【0033】
透過性膜は、細胞は通過させないが水、塩類、蛋白質などの培養液成分は通過させる通孔を多数有する膜であり、通常0.1〜5μm程度、特に0.2〜3μm程度の通孔を有するものであることが好ましい。
【0034】
透過性膜の厚さは、膜の適度の強度及び良好な物質透過性が保たれる範囲であればよく、特に限定されないが、通常10〜200μm程度、特に20〜100μm程度のものが好適に採用される。
【0035】
透過性膜の材料は、細胞毒性を有さず、滅菌、洗浄、培養液との接触などにより変質、分解しない材料であればよく、特に限定されない。例えばセルロース系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂等からなる透過性膜を採用できる。このような透過性膜を有するカルチャーインサートは、例えばメンブレンカルチャーインサート(イワキガラス株式会社製)等の商品名で市販されている。
中空糸
細胞凝集体は、透過性膜からなる中空糸内腔に細胞を入れた状態で細胞に例えば遠心力をかけることにより、中空糸内腔に形成することもできる。遠心力及び遠心時間は前述した通りである。また、細胞の凝集体は、細胞を中空糸内腔に入れた状態で中空糸内腔を陽圧にしたり、中空糸外部を陰圧にして細胞に圧力をかけることによっても形成することができる。圧力の大きさは前述したとおりである。
【0036】
この場合には、中空糸を介して細胞培養用液体培地又は臓器輸送用液を凝集体に供給すれば、凝集状態を維持したままで細胞の生存に必要な成分を効率良く供給することができる。その結果、細胞の有する機能を維持しつつ細胞を保存することができる。また、中空糸を用いることにより、細胞凝集体が液体培地等から隔離されるため輸送を含む保存時の液体の流動による物理的衝撃から細胞を保護することができる。また、高密度で細胞を保存できる。
【0037】
具体的には、例えばシェル内部に多数の中空糸を微小間隔で規則的に配置した細胞培養用モジュールを用いて、中空糸内腔に細胞懸濁液を注入した後、モジュールごと遠心機にかけることにより細胞に遠心力をかけ、中空糸内腔に凝集体を形成することができる。次いで、シェル内の中空糸の外側部分に細胞培養用液体培地又は臓器保存用液などを満たした状態で細胞を保存することができる。
【0038】
また、このような細胞培養用モジュールを用いて、シェルと中空糸との間隙部分に細胞凝集体を形成した後、中空糸内腔に細胞培養用液体培地又は臓器保存用液などを満たした状態で細胞を保存することもできる。
【0039】
また、例えば中空糸内腔に細胞凝集体を形成した後、中空糸を切り出しその両端を圧着や結紮等により封止し、この中空糸を細胞培養用液体培地又は臓器保存用液中に浸漬した状態で細胞を保存することもできる。
【0040】
中空糸を構成する透過性膜の孔径、厚さ、材料は、前述した通りである。また、中空糸の内径は通常20〜1000μm程度、特に50〜500μm程度、さらに特に100〜300μm程度であることが好ましい。中空糸の内径が余りに大きいと、中空糸中心部細胞における各種物質交換が困難となり、また内径が余りに小さいと充分な細胞数の注入が困難となる。本発明の範囲であればこのような問題は生じない。
容器内での凝集体の形成
細胞の凝集体は、透過性膜又は中空糸を介さず、容器内に細胞懸濁液を入れた状態で細胞に遠心力又は圧力をかけることによっても形成することができる。遠心力及び遠心時間は前述した通りである。圧力も前述した通りである。
【0041】
容器としては、例えば汎用の遠心チューブや1又は複数のウェルを有する容器のウェルなどが挙げられる。
保存状態
凝集体の保存時に用いる細胞培養用液体培地は、特に限定されず、例えばダルベッコの改変イーグル培地、ウィリアムズE培地、HamのF−10培地、F−12培地、RPMI−1640培地、MCDB153培地、199培地などの従来公知の細胞培養用基礎培地に、必要に応じて各細胞の培養に適合した従来公知の成長因子や抗酸化剤などを加えたものを使用することができる。
【0042】
また、臓器保存用液としては、Euro-Collins液、Ficoll-Collins液、UW液(特公平7−68082号公報)、ラフィノース溶液等の従来公知の臓器保存用液を使用することができる。
【0043】
さらに、細胞培養用液体培地又は臓器保存用液を含むコラーゲンゲル又はアガロースゲルなどで凝集体を覆った状態で細胞を保存することもできる。これにより、輸送時に細胞に加わる衝撃から一層効果的に細胞を保護することができる。
【0044】
保存中は、凝集体を液体培地等とともに適当な容器に入れればよい。容器は通気孔を有するものであってもよく、密閉されたものであってもよい。
【0045】
保存時の温度は、保存時に用いる液体培地又は臓器輸送用液の種類により適宜選択すればよい。例えば、先に例示した細胞培養用液体培地を用いる場合には、室温下で保存することが好ましい。すなわち、通常5〜35℃程度の温度下で保存することが好ましい。また、低温での輸送に適した臓器輸送用液を用いる場合には、通常0〜10℃程度の温度下で保存することが好ましい。
組織体の形成
本発明方法において、凝集体を形成した後、凝集体を細胞培養用液体培地中で培養することにより組織体を形成し、組織体の状態で保存することにより一層効果的に細胞の機能を維持しつつ保存することができる。
【0046】
組織体形成時の培地としては、例えば先に例示した公知の細胞培養用液体培地を使用できる。培養温度及び培養雰囲気は、細胞に応じて適宜選択すればよい。また、培養時間は、組織体が形成される限り特に限定されないが、通常12時間程度以上とすればよい。培養時間が余りに長いと細胞機能が却って低下する場合もあることから、培養時間の上限は通常30日間程度である。
【0047】
細胞の凝集体は、細胞間の接触頻度が高いために組織体形成が容易に行われる。例えば中空糸内腔に凝集体を形成する場合には、中空糸外部から酸素及び栄養分(液体培地)を供給し、中空糸外部に代謝老廃物を排出することにより、細胞は中空糸内腔で円柱状の組織体を形成する。この組織体を中空糸内に入れたまま、前述したようにして保存すればよい。
【0048】
また、透過性膜上に凝集体を形成した場合には、例えばマルチウェルプレートのウェル内で組織体を形成した後、ウェル内に液体培地等を満たして保存したり、液体培地等を含むゲルで組織体を覆った状態で細胞を保存することもできる。細胞
本発明方法の対象となる細胞としては、接着性の動物細胞が好適である細胞の由来は特に限定されず、ヒト、マウス、ラット等のいずれの動物由来のものも使用できる。また、接着性の動物細胞は、初代培養細胞及び株化細胞の双方を対象とすることができる。本発明方法は、特に、細胞の機能維持が困難な初代培養細胞の保存に適する。初代培養細胞は、肝臓、腎臓、神経、肺等のいずれの組織由来のものであってもよいが、特に、単層培養により急激に分化機能を失うヒト肝細胞が本発明方法の対象細胞として好適である。株化細胞は、特に限定されず、CHO細胞、Vero細胞、MRC−5細胞、BHK細胞、Hela細胞などの公知の細胞株やこれらの細胞に外来遺伝子を導入した細胞株などを使用できる。保存後
本発明による保存をおこなった細胞の用途は特に限定されないが、例えば細胞の機能試験、代謝能力試験、細胞による物質の生産試験、これらを利用した薬物のスクリーニング試験等に用いることができる。また、保存後の細胞を人工臓器として利用することもできる。
【0049】
【実施例】
以下、実施例及び試験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1
セルローストリアセテート製の血漿分離用中空糸(東洋紡績社製AP250N15タイプ;内径285μm、外径387μm、孔径0.4μm)内腔にコラゲナーゼ消化法により調製した初代ラット肝細胞5×105個を注入し、60×Gで90秒間遠心力をかけることにより、中空糸内腔に細胞凝集体を形成した。
【0051】
肝細胞凝集体が封入された長さ3cmの中空糸6本を、両端を封止した状態で、直径35mmの培養ディッシュ(ファルコン社製)に入れ、Dulbecco's modified eagle medium(DMEM;ギブコ社製)13.5g/Lに、60mg/L プロリン、50ng/ml EGF(東洋紡績社製)、10mg/L インシュリン(シグマ社製)、7.5mg/L ヒドロコルチゾン(シグマ社製)、50μg/L リノール酸(シグマ社製)、10万U/L ペニシリンGカリウム(ナカライテスク製)、100mg/L ストレプトマイシン硫酸塩(ナカライテスク社製)、1.05g/L 炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク社製)、1.19g/L HEPES(ナカライテスク社製)を添加した無血清培地(HSFM)にて、5%炭酸ガス、95%大気の雰囲気下、振盪器上で2日間振盪培養を行うことにより組織体形成を誘導した。
【0052】
次いで、この組織体を72時間の輸送試験に供した。すなわち、内腔に肝細胞の組織体を形成した中空糸を、培養ディッシュからHSFMで満たした15ml遠心チューブ内に移し、密栓をした上で梱包し、室温下、トラック便で72時間(約1200km)の輸送を行った。輸送後は再び、中空糸を培養ディッシュに戻して輸送前と同じ条件で培養を再開した。
【0053】
実施例2
実施例1と同様に培養を行い、輸送試験に供さず、そのまま培養ディッシュ内で1日おきにHSFM培地を交換しながら培養を継続した。
【0054】
比較例1
実施例1と同様にして調製した初代ラット肝細胞の2.0×106個を培養面積25cm2のフラスコ(ファルコン社製)に播種して、実施例1と同様に、HSFMを用い、5%炭酸ガス、95%大気の雰囲気下、2日間の単層培養を行った。その後、フラスコ内をHSFMで満たし、密栓をした上で梱包し、実施例1と同様にしてトラック便で72時間の輸送試験に供した。
【0055】
比較例2
比較例1と同様に単層培養を行い、輸送試験に供さず、そのままフラスコ内で1日おきにHSFM培地を交換しながら培養を継続した。
【0056】
細胞機能評価
肝細胞は、アルブミン等の蛋白質合成能の他に、アンモニアや薬物を代謝する機能を有しているが、保存中のこれらの機能の維持は困難である。ここでは、アルブミン産生量及びアンモニア代謝量を経時的に測定した。
【0057】
実施例1及び比較例1の各サンプルについて、培養開始1日後、培養再開1日後(培養開始6日後に相当)、培養再開8日後(培養開始13日後に対応)、培養再開15日後(培養開始20日後に対応)にそれぞれ測定した。また、実施例2及び比較例2の各サンプルについては、培養開始1日後、培養開始6日後、培養開始13日後、培養開始20日後にそれぞれ測定した。
【0058】
培地中のアルブミン量は、抗ラットアルブミンを用いたEIA法で測定し、アンモニア代謝量は、培地中に負荷したアンモニア消費量を自動分析機で測定して求めた。
【0059】
アルブミン産生量の測定結果を図1に示し、アンモニア代謝量の測定結果を図2に示す。図1及び図2から明らかなように、中空糸内に肝細胞の凝集体を形成した後培養を行った実施例2の細胞では、高いアルブミン産生能およびアンモニア代謝能を発現し、維持した。培養初期よりも6日目にアルブミン産生能、アンモニア代謝能とも高い値を示しているのは、培養により組織体形成が誘導され、機能発現が増強されたためと考えられる。
【0060】
また、3日間の細胞輸送を行った実施例1では、輸送を行ったにもかかわらず、実施例2とほぼ同様のアルブミン産生能およびアンモニア代謝能が維持された。これは、実施例1では、輸送中に組織体形成がある程度進んだものと推察される。
【0061】
これに対し、単層培養を行った比較例1及び2の細胞は、培養初期は実施例1及び2の細胞との差が認められないが、培養日数を経るとその機能は速やかに消失していった。輸送を行った比較例1では、さらに機能消失が早かった。
【0062】
【発明の効果】
本発明によると、細胞の機能を維持ししたままで長期にわたり細胞を保存できる細胞の保存方法が提供される。
【0063】
さらにいえば、遠心力をかけること又は圧力をかけること等により細胞凝集体を形成させ、細胞同士の接触頻度が非常に高まった状態を作り出すことで、細胞が本来持つ機能を良好に発現する細胞凝集体が得られる。また、このような凝集体は組織体に誘導され易く、細胞凝集体から形成された組織体は、細胞が本来持つ機能を良好に発現する。
【0064】
このような細胞凝集体または組織体は、細胞培養用液体培地又は臓器保存用液中で保存することによっても細胞の機能が消失し難く、保存後も、良好に細胞の機能が発現される。
【0065】
また、本発明方法によると、細胞を凝集体の状態で保存(輸送)するため、多数の細胞を特殊な装置等を使用せず、簡便に保存できる。これに対して、従来の凍結法により細胞を保存(輸送)する場合には、大量のドライアイスや輸送用液体窒素タンク等が必要であり、操作が煩雑である。フラスコ等の培養容器内で単層培養した細胞を保存(輸送)する場合には、常温で保存するため特殊な装置等は不要であるが、輸送できる細胞数が容器壁面積に制約されるため、輸送の効率が悪い。
【図面の簡単な説明】
【図1】輸送試験に供した細胞の単位細胞数あたりのアルブミン産生量を示すグラフである。
【図2】輸送試験に供した細胞の単位細胞数あたりのアンモニア代謝量を示すグラフである。
Claims (10)
- 透過性膜からなる中空糸の内腔に細胞を入れた状態で細胞に遠心力をかけることにより、中空糸の内腔に細胞の凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を保存することを特徴とする細胞の保存方法。
- 透過性膜からなる中空糸束と中空糸束を覆うシェルとからなる構造物のシェルと中空糸束との間隙に細胞を入れた状態で細胞に遠心力をかけることにより、シェルと中空糸束との間隙に細胞の凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を保存することを特徴とする細胞の保存方法。
- 透過性膜からなる中空糸の内腔に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、中空糸の内腔に細胞の凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を保存することを特徴とする細胞の保存方法。
- 透過性膜からなる中空糸束と中空糸束を覆うシェルとからなる構造物のシェルと中空糸束との間隙に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、シェルと中空糸束との間隙に細胞の凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を保存することを特徴とする細胞の保存方法。
- 細胞を細胞培養用液体培地又は臓器輸送用液中に置くことにより保存する請求項1から4のいずれかに記載の細胞の保存方法。
- 細胞を細胞培養用液体培地又は臓器輸送用液を含むゲルで覆った状態で保存する請求項1から4のいずれかに記載の細胞の保存方法。
- 細胞の凝集体を細胞培養用培地中で培養することにより組織体を形成させ、組織体の状態で細胞を保存する請求項1から6のいずれかに記載の細胞の保存方法。
- 組織体形成時と同じ細胞培養用液体培地を用いて細胞を保存する請求項7に記載の細胞の保存方法。
- 保存される細胞が肝細胞である請求項1から8のいずれかに記載の細胞の保存方法。
- 保存される細胞が人工臓器用の細胞である請求項1から9のいずれかに記載の細胞の保存方法。
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