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JP4034052B2 - 酸化物超電導導体の製造方法 - Google Patents

酸化物超電導導体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導電力ケーブル、超電導マグネット、超電導エネルギー貯蔵装置、超電導発電装置、医療用MRI装置、超電導電流リード等の分野において利用できる酸化物超電導体の製造方法に係り、厚膜状であっても超電導特性に優れた酸化物超電導層を有する酸化物超電導体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の酸化物超電導導体の製造方法として、酸化物超電導粉末または熱処理によって酸化物超電導体となり得る組成の混合粉末を円柱状にプレスし、これを銀管中に挿入し、伸線加工あるいは圧延工程と熱処理工程を行って線材化するパウダーインチューブ法(PIT法)などの固相法の他に、レーザー蒸着法、スパッタ法などの物理的気相堆積法(PVD法)、あるいは化学気相成長法(CVD法)などの気相法により金属テープなどの長尺の基材上に連続的に酸化物系超電導層を形成する成膜法が知られている。
【0003】
レーザー蒸着法やCVD法等の気相法により製造された酸化物超電導導体の構造としては、図7に示すようにAgなどの金属からなる基材191の上面にYBaCuO系の酸化物超電導層193が形成され、更にこの酸化物超電導層193上にAgからなる表面保護層195が形成されたものが広く知られている。
また、上記のようにレーザ蒸着法やCVD法等の気相法により酸化物超電導層を形成する場合においては、図7に示すように金属製の基材191上に酸化物超電導層193を直接形成すると、基材191自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成することが難しいという問題がある。
そこでこの問題を改善するために、図8に示すようにハステロイテープなどの金属製の基材191の上面に、スパッタ装置を用いてYSZ(イットリア安定化ジルコニア)などの多結晶中間層192を形成し、この多結晶中間層192上にYBaCuO系などの酸化物超電導層193を形成し、更にこの上にAgの安定化層194を形成することにより、超電導特性の優れた酸化物超電導導体を製造する試みなどが種々行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところがレーザー蒸着法やCVD法等の気相法により作製した酸化物超電導導体においては、パウダーインチューブ法等の固相法により作製した酸化物超電導導体に比べて高い臨界電流密度(Jc)が得られ易いものの、臨界電流(Ic)が小さくなり易いという問題があった。これは、レーザー蒸着法やCVD法等の気相法により作製した酸化物超電導導体は、薄膜状の酸化物超電導層の結晶配向性が良好である反面、酸化物超電導層の厚膜化が困難であり、導電パスの部分の断面積を確保することが困難なことに起因するものである。
従って、長尺の酸化物超電導導体の実用化には、高臨界電流化が重要であり、特に超電導マグネット等において実用化するには、少なくとも数10Aレベルの臨界電流が要求されることになるが、レーザー蒸着法やCVD法等の気相法を用いる従来の酸化物超電導導体の製造方法により作製された酸化物超電導導体は数Aレベル程度が限界であり、上記のように臨界電流が不足しているために、超電導マグネット等への実用性は低い状況であった。
【0005】
例えば、通常の成膜法で得られるYBaCuO系の酸化物超電導層の膜厚は1μm程度であり、この酸化物超電導層をテープ状の基材上に成膜した場合、テープ幅が1cm程度で10A以上の臨界電流(Ic)を得られることとなるが、導体としての実用レベルの臨界電流として知られている数10A〜数100A程度のレベルの臨界電流を確保するためには、酸化物超電導層の更なる厚膜化が必要であった。
また、上述の気相法により長尺の酸化物超電導導体を製造する場合、テープ状の基材を移動させながら基材上面に順次成膜処理を行い酸化物超電導層を生成させるが、得られる酸化物超電導層の厚さは基材の搬送速度に反比例して増加するので、厚膜化するためには基材の搬送速度を遅くする必要が生じる。
【0006】
これらの背景において本発明者らは、特願平10−161158、特願2000−134846、特願2000−349684、特願2000−349685などの特許出願に開示したCVD蒸着装置を用いてテープ状の基材上に酸化物超電導層を製造する研究を行っている。
図9は上述のCVD装置を用いてテープ状の基材の搬送速度を種々変更してYBaCuO系の酸化物超電導層を形成した場合、得られる酸化物超電導層の膜厚と基材搬送速度との関係を測定した結果を示す。この図9に示す測定結果から、基材搬送速度に対して膜厚は反比例する関係にあることを確認することができた。また、基材搬送速度を2〜3m/hの範囲で変更しても酸化物超電導層の膜厚に大きな変化は見られず、基材搬送速度において1m/hを下回る値としなくては大きな膜厚増加は見込めないことも判明した。
図10は上述のCVD装置を用いて得られた酸化物超電導層が示す膜厚毎の臨界電流値の測定結果を示す。本来は、図10の鎖線に示す計算結果の如く膜厚の上昇とともに臨界電流値が比例関係をもって向上しても良いと思われるが、実験の結果として、酸化物超電導層の膜厚が1μmを超えると厚さに対する臨界電流値の増加割合が急激に低下することが判明し、単に膜厚を増加しても臨界電流値の上昇は見込めない状況であることが判明した。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、臨界電流値が高い長尺の酸化物超電導導体を得ることができる構造とその酸化物超電導導体の製造方法に関する技術の提供にある。
更に本発明は、厚膜化の過程で生じると思われる軸配向の悪い配向粒の粗大化と異相成分析出相の生成を抑制し、できる限り高い臨界電流値を示すような酸化物超電導層を有する酸化物超電導導体の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る酸化物超電導導体の製造方法は、テープ状の基材の少なくとも一面側において酸化物超電導体の原料ガスを化学反応させて基材上に成膜する方法により基材上に酸化物超電導層を生成する方法において、原料ガスを化学反応させて基材上に成膜するための成膜領域を複数回通過させ、成膜領域を1回通過することにより成膜した酸化物超電導層の上に他の回の成膜領域の通過により成膜した他の酸化物超電導層を積層するとともに、前記複数の酸化物超電導層を積層する場合、各酸化物超電導層の厚さを0 . 16〜0 . 33μmの範囲の厚さにすることを特徴とする。
化学気相法により生成可能な酸化物超電導層においては、1つの酸化物超電導層自体の厚さを向上させても臨界電流特性の向上には限界を有する。よって、化学気相法により得られる1つの酸化物超電導層のみではなく、複数の酸化物超電導層の積層構造により酸化物超電導導体としての通電可能な電流値の向上を図ることができる。
【0009】
本発明に係る酸化物超電導導体の製造方法にあっては、前記積層された酸化物超電導層が各々 . 16〜0 . 33μmの範囲の厚さにされてなることを特徴とする。
化学気相法により生成される酸化物超電導層の膜厚を1μmを超えて大きくしても臨界電流値の向上は見込めない上に、酸化物超電導層の膜厚をある値以上に大きくすると基材搬送速度を高くすることができずに生産性が大幅に低下する。
このような事情に加えて本発明者らの研究から、化学気相法により酸化物超電導層を生成させる場合、基材搬送速度を遅くして生成した2μm程度の膜厚であっても、酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶のa軸配向粒の粗大化や異相成分の析出により臨界電流値の向上が見込めないことを知見している。このような背景から結晶粒の粗大化や異相成分の析出を防止できる膜厚として . 16〜0 . 33μmの範囲の酸化物超電導層を複数積層した酸化物超電導導体であるならば、導体として流し得る電流値を高くすることができる。
また、複数の酸化物超電導層を積層する場合の総厚として、上述の事情に鑑み、総厚1〜2μmの酸化物超電導層の積層構造とすることができる。
【0011】
本発明は、前記酸化物超電導層の上に他の酸化物超電導層を積層する場合、1つの成膜領域に対して基材を繰り返し通過させて複数の酸化物超電導層を積層する方法か、複数の成膜領域に対して順次基材を通過させて複数の酸化物超電導層を積層する方法のいずれかを行うことを特徴とする。
成膜領域を通過させて基材上に酸化物超電導層を生成させる場合、1つの成膜領域を繰り返し通過させて酸化物超電導層を複数積層することも可能であるし、複数の成膜領域を用意してそれら複数の成膜領域に順次基材を通過させて酸化物超電導層を積層することもできる。
【0012】
本発明は、先に記載の酸化物超電導導体の製造方法において、前記基材上に酸化物超電導層を生成するにあたり、移動中のテープ状の基材の少なくとも一面側に酸化物超電導体の原料ガスを化学反応させて酸化物超電導薄膜を成膜するCVD反応を行うリアクタと、前記リアクタに酸化物超電導体の原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記リアクタ内のガスを排気するガス排気手段とが備えられ、前記原料ガス供給手段に、原料ガス供給源と、原料ガス導入管と、酸素ガス供給手段とが備えられた成膜装置であって、前記リアクタに成膜領域とされる反応生成室が設けられ、該反応生成室の天井部にガス拡散部が設けられ、該反応生成室に前記ガス拡散部を介して前記原料ガス導入管が接続され、前記反応生成室の中央部に前記基材の搬送領域が設けられ、その両側に前記ガス排気手段となるガス排気孔が備けられた構成の成膜装置を用いて成膜することを特徴とする。
発明は、先に記載の酸化物超電導導体の製造方法において、前記基材上に酸化物超電導層を生成するにあたり、移動中のテープ状の基材の少なくとも一面側に酸化物超電導体の原料ガスを化学反応させて酸化物超電導薄膜を成膜するCVD反応を行うリアクタと、前記リアクタに酸化物超電導体の原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記リアクタ内のガスを排気するガス排気手段とが備えられ、前記原料ガス供給手段に、原料ガス供給源と、原料ガス導入管と、酸素ガス供給手段とが備えられた成膜装置であって、前記リアクタに、成膜領域とされる反応生成室がテープ状の基材の移動方向に直列に複数設けれられ、前記リアクタの内部に前記複数の反応生成室を通過する基材搬送領域が形成され、前記複数設けられた反応生成室の天井部にそれぞれガス拡散部が設けられ、反応生成室に前記ガス拡散部を介して前記原料ガス導入管が接続され、前記各反応生成室の中央部に前記基材の搬送領域が設けられ、その両側に前記ガス排気手段となるガス排気孔が備けられた構成の成膜装置を用いて成膜することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る酸化物超電導導体の製造方法について、並びにその製造方法を実施する場合に用いる装置について、図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る酸化物超電導導体の製造装置の一例を示すもので、この例の製造装置には、図2に構造を示すようなCVD反応装置30が組み込まれ、このCVD反応装置30内においてテープ状の基材上に酸化物超電導層が形成されるようになっている。
この例の製造装置で用いられる図1と図2に示すCVD反応装置30は、横長の両端を閉じた筒型の石英製のリアクタ31と、図1に示す気化器(原料ガス供給源)62に接続されたガス拡散部40を有している。このリアクタ31は、隔壁32と隔壁33によって図2の左側から順に基材導入部34と反応生成室35と基材導出部36に区画されている。なお、リアクタ31を構成する材料は、石英に限らずステンレス鋼などの耐食性に優れた金属であっても良い。
【0014】
隔壁32、33の下部中央には、長尺のテープ状の基材38が通過可能な通過孔39がそれぞれ形成されていて、リアクタ31の内部には、その中心部を横切る形で基材搬送領域Rが形成されている。更に、基材導入部34にはテープ状の基材38を導入するための導入孔が形成されるとともに、基材導出部36には基材38を導出するための導出孔が形成され、導入孔と導出孔の周縁部には、基材38を通過させている状態で各孔の隙間を閉じて基材導入部34と基材導出部36を気密状態に保持する封止機構(図示略)が設けられている。
【0015】
反応生成室35の天井部には、図2に示すように略角錐台型のガス拡散部40が取り付けられている。このガス拡散部40は、リアクタ31に取り付けられたガス拡散部材45と、ガス拡散部材45の天井壁44に接続され、酸化物超電導体の原料ガスをガス拡散部材45に供給するガス導入管53と、ガス導入管53の先端部に設けられたスリットノズルを具備して構成されている。また、ガス拡散部材45の底面は、細長い長方形状の開口部46とされ、この開口部46を介してガス拡散部材45が反応生成室35に連通されている。
【0016】
一方、反応生成室35の下方には、図2に示すように基材搬送領域Rの長さ方向に沿って排気室70が設けられている。この排気室70の上部には図2に示すように基材搬送領域Rに通されたテープ状の基材38の長さ方向に沿って細長い長方形状のガス排気孔70a、70aがそれぞれ形成されている。
また、排気室70の下部には、真空ポンプ71を備えた圧力調整装置72に接続されている排気管70bが複数本接続されている。従って、ガス排気孔70a,70aが形成された排気室70と、複数本の排気管70bと、バルブと、真空ポンプ71と、圧力調整装置72によってガス排気機構80が構成される。このような構成のガス排気機構80は、CVD反応装置30の内部の原料ガスや酸素ガスや不活性ガスなどのガスをガス排気孔70a、70aから速やかに排気できるようになっている。
【0017】
CVD反応装置30の外部には図1に示すように加熱ヒータ47が設けられ、基材導入部34が不活性ガス供給源50に、また、基材導出部36が酸素ガス供給源51にそれぞれ接続されている。また、ガス拡散部40の天井壁44に接続されたガス導入管53は、気化器(原料ガスの供給源)62に接続されている。ガス導入管53の途中部分には、酸素ガスの流量調整機構を介して酸素ガス供給源52が分岐して接続され、ガス導入管53に酸素ガスを供給できるように構成されている。
前記気化器62には、後述の液体原料供給装置55が収納されている。
また、気化器62の外周部にはヒータ63が付設されていて、このヒータ63により液体原料供給装置55からの原料溶液66を所望の温度に加熱して気化させることにより原料ガスが得られるようになっている。
また、気化器62の内底部には保熱部材62Aが設置されている。この保熱部材62Aは、熱容量の大きい材料であって液体原料66と反応しないものであれば、どのようなものでも良く、特に金属製の厚板が好ましく、構成材料としてはステンレス鋼、ハステロイ、インコネル等が好ましい。
【0018】
液体原料供給装置55は、図1に示すように、管状の原料溶液供給部56と、該供給部56外周を取り囲んで設けられた筒状のアトマイズガス供給部57とから概略構成された2重構造のものである。
原料溶液供給部56は、後述する原液供給装置65から送り込まれてくる原料溶液66を気化器62の内部に供給するものである。
【0019】
アトマイズガス供給部57は、原料溶液供給部56との隙間に前述の原料溶液66を噴出するためのアトマイズガスが供給されるものである。アトマイズガス供給部57の上部には、アトマイズガス用MFC(流量調整器)60aを介してアトマイズガス供給源60が接続され、アトマイズガス供給部57内にアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどのアトマイズガスを供給できるように構成されている。
また、気化器62の内部は仕切板62aにより2分割され、分割された領域が仕切板62aの下側において連通され、仕切板62aの下側の連通部分を原料ガスが通過して先のガス導入管53が接続された接続部53Aに流動できるように構成されている。
【0020】
上述の液体原料供給装置55では、原料溶液66を原料溶液供給部56内に一定流量で送り込むとともにアトマイズガスをアトマイズガス供給部57に一定流量で送りこむと、原料溶液66は原料溶液供給部56の先端部に達するが、該先端の外側のアトマイズガス供給部57の先端からアトマイズガスが流れてくるので、先端部59から吹き出る際、原料溶液66は上記アトマイズガスとともに気化器62の内部に導入され、気化器62の内部を気化器底部に至るまで移動しながら加熱、気化され、原料ガスとされる。気化器62の底部に設置された保熱部材62Aに至り、この保熱部材62Aにおいて更に気化がなされて原料溶液が完全に気化されて原料ガスとされる。なお、本実施形態の構造では原料溶液を原料溶液供給部56の先端部から霧化するのではなく、加熱とキャリアガスとの混合のみにより原料ガスとするので、液体原料の気化に関しては、液体原料が原料ガスに気化されるまでの間に気化器内部の内壁に衝突しない構成とすることが好ましい。
【0021】
このような液体原料供給装置55の原料溶液供給部56には、原液供給装置65が加圧式液体ポンプ67aを備えた接続管67を介し接続されている。
原液供給装置65は、収納容器68と、パージガス源69を具備し、収納容器68の内部には原料溶液66が収納されている。原料溶液66は、加圧式液体ポンプ67aにより吸引されて、原料溶液供給部56へ輸送される。
【0022】
さらに、CVD反応装置30の基材導出部36の側部側(後段側)には、リアクタ31内の基材搬送領域Rを通過するテープ状の基材38を巻き取るためのテンションドラム73と巻取ドラム74とからなる基材搬送機構75が設けられている。なお、前記テンションドラム73と巻取ドラム74は正逆回転自在に構成されている。
また、基材導入部34の側部側(前段側)には、テープ状の基材38をCVD反応装置30に供給するためのテンションドラム76と送出ドラム77とからなる基材搬送機構78が設けられている。なお、前記テンションドラム73と巻取ドラム74は正逆回転自在に構成されている。
【0023】
次に上記のように構成されたCVD反応装置30を備えた酸化物超電導導体の製造装置を用いてテープ状の基材38上に酸化物超電導層を形成し、酸化物超電導導体を製造する場合について説明する。
図1と図2に示す製造装置を用いて酸化物超電導導体を製造するには、まず、テープ状の基材38と原料溶液を用意する。
この基材38は、長尺のものを用いることができるが、特に、圧延集合組織を生成させたAgの配向テープ、あるいは、熱膨張係数の低い耐熱性の金属テープなどのテープ状の基部の一面あるいは両面にセラミックス製などの多結晶中間層を被覆してなる基材が好ましい。
上記耐熱性の金属テープの構成材料としては、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ(C276等)などの金属材料や合金が好ましい。また、上記金属テープ以外では、各種ガラステープあるいはマイカテープなどの各種セラミックスなどからなる長尺のテープ基材を用いても良い。
次に、上記中間層を構成する材料は、熱膨張係数が金属よりも酸化物超電導体の熱膨張係数に近い、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SrTiO3、MgO、Al23、LaAlO3、LaGaO3、YAlO3、ZrO2などのセラミックスが好ましく、これらの中でもできる限り結晶配向性の整ったものを用いることが好ましい。
【0024】
次に酸化物超電導体をCVD反応により生成させるための原料溶液は、酸化物超電導体を構成する各元素の金属錯体を溶媒中に分散させたものが好ましい。具体的には、Y1Ba2Cu37-xなる組成で広く知られるY系の酸化物超電導層を形成する場合は、Ba-ビス-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン-ビス-1,10-フェナントロリン(Ba(thd)2(phen)2)と、Y(thd)2 と、Cu(thd)2などを使用することができ(thd=2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン、phen=1,10-フェナントロリン)、他にはY-ビス-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナート(Y(DPM)3)と、Ba(DPM)2と、 Cu(DPM)2などを用いることができる。
【0025】
なお、酸化物超電導層には、先のY系の他に、La2-xBaxCuO4なる組成式で代表されるLa系、Bi2Sr2Can-1Cun2n+2(nは自然数)なる組成式で代表されるBi系、Tl2Ba2Can-1Cun2n+2(nは自然数)なる組成で代表されるTl系のものなど、多種類の酸化物超電導層が知られているので、目的の組成に応じた金属錯塩を用いて上述のCVD法を実施すれば良い。
ここで例えば、Y系以外の酸化物超電導層を製造する場合には、必要な組成系に応じて、トリフェニルビスマス(III)、ビス(ジピバロイメタナト)ストロンチウム(II)、ビス(ジピバロイメタナト)カルシウム(II)、トリス(ジピバロイメタナト)ランタン(III)、などの金属錯塩を適宜用いてそれぞれの系の酸化物超電導層の製造に供することができる。
【0026】
上記の多結晶中間層が形成されたテープ状の基材38を用意したならば、これをCVD反応装置30のリアクタ31内の基材搬送領域Rに基材搬送機構78により基材導入部34から所定の移動速度で送り込むとともに基材搬送機構75の巻取ドラム74で巻き取り、更に反応生成室35内の基材38を加熱ヒータ47で所定の温度に加熱する。
なお、テープ状の基材38を送り込む前に、不活性ガス供給源50から不活性ガスをパージガスとしてCVD反応装置30内に送り込み、同時にCVD反応装置30の内部のガスを圧力調整装置72でガス排気孔70a、70aから抜くことでCVD反応装置30内の空気等の不用ガスを排除して内部を洗浄しておくことが好ましい。
【0027】
テープ状の基材38をリアクタ31内に送り込んだならば、酸素ガス供給源51からCVD反応装置30内に酸素ガスを送り、更に加圧式液体ポンプ67aにより収納容器68から原料溶液66を流量0.1〜10ccm程度で原料溶液供給部56内に送液し、これと同時にアトマイズガスをアトマイズガス供給部57に流量200〜550ccm程度で送り込むとともに、シールドガスをシールドガス供給部58に流量200〜550cc程度で送り込む。また、同時にCVD反応装置30の内部のガスを圧力調整装置72でガス排気孔70a、70aから排気する。この際、シールドガスの温度は、室温程度になるように調節しておくことが好ましい。また、気化器62の内部温度が上記原料のうちの最も気化温度の高い原料の最適温度になるようにヒータ63により調節しておく。
【0028】
すると、一定流量のミスト状の液体溶液34が気化器62内に連続的に供給され、ヒータ63により加熱されて気化し、原料ガスとなり、さらにこの原料ガスはガス導入管53を介してガス拡散部材45に連続的に供給される。
次に、反応生成室35側に移動した原料ガスは、反応生成室35の上方から下方に移動し、加熱された基材38上において上記原料ガスが反応して反応生成物が堆積し、酸化物超電導層aを備えた酸化物超電導導体85が得られる。またここで、反応に寄与しない残りの原料ガス等はガス排気孔70a、70aに引き込まれて速やかに排出される。
【0029】
このような構造の酸化物超電導導体85の各層の厚みの具体例としては、テープ状の基材38の厚さを50〜200μm程度、多結晶中間層86の厚さを0.5〜1.0μm程度、酸化物超電導層aの厚さを0.1〜0.4μmの範囲、より好ましくは0.16〜0.33μmの範囲とすることが好ましい。
先の酸化物超電導層aの厚さを0.1〜0.4μmの範囲とするのは、基材38の移動速度を調節することによって実現できる。具体的に例えば、圧延銀テープを用いる場合、圧延銀テープの搬送速度を1.8m/hの割合とすると、0.16μmの厚さの酸化物超電導層aを生成することができ、銀テープの搬送速度を1m/hの割合とすると、0.33μmの厚さの酸化物超電導層aを生成することができる。
【0030】
以上説明の如く1回目の成膜を行って必要長さの酸化物超電導層aを得たならば、次に、巻取ドラム74と送出ドラム77の回転方向を逆転し、先の原料ガス供給条件や温度制御をそのまま維持して基材38を巻取ドラム74側から送出ドラム77側に巻き取る操作を行う。この操作において基材38を移動させる速度は先の場合と同等で方向のみ逆方向とする。この操作により先に生成した酸化物超電導層aの上に同一組成の他の酸化物超電導層bを生成することができる。そして、酸化物超電導層bを積層して送出ドラム77側に巻き取った酸化物超電導導体は、再度送出ドラム77と巻取ドラム74を逆転駆動して送出ドラム77側から巻取ドラム74側に巻き取り、リアクタ31の内部において酸化物超電導層cを積層する。この操作により3層構造の酸化物超電導層a、b、cを備えた図3に示す酸化物超電導導体Sを得ることができる。
【0031】
なお、酸化物超電導導体Sにおいては、酸化物超電導層a、b、cを積層した後で酸素雰囲気中において300〜500℃の温度で数時間〜数10時間加熱する熱処理を施して各酸化物超電導層の結晶構造を整え、超電導特性が向上するようにしても良い。また、先の酸化物超電導層a、b、cを成膜した各段階において酸素雰囲気中にて熱処理を施しても良い。
【0032】
図3に示す積層構造の酸化物超電導導体Sにあっては、基材38の搬送速度を適切な範囲として適切な厚さの酸化物超電導層a、b、cを積層してなるので、各酸化物超電導層a、b、cの個々の層のa軸配向粒の粗大化を抑制し、個々の層での異相成分の析出を防止できているので、各酸化物超電導層a、b、cの個々の層の有効な電流パスを大きくすることができ、結果的に3層全体としての臨界電流を大きくすることができる。
なおまた、前記酸化物超電導層a、b、cの個々の厚さは同等である必要は無く、好ましい範囲である0.1〜0.4μmの範囲、あるいは0.16〜0.33μmの範囲であれば適宜変更して良い。また、酸化物超電導層を繰り返し積層する場合の繰り返し回数や積層数も自由に選定して良い。
最後に、上述のようにして形成した酸化物超電導導体上にさらに銀等からなる保護膜をスパッタ法や蒸着法等により形成すると、安定化層付きの酸化物超電導導体を得ることができる。
【0033】
次に、先に記載の3層積層構造の酸化物超電導層a、b、cを備えた酸化物超電導導体Sを製造する場合に用いる他の例の製造装置と製造方法について以下に説明する。
図4〜図6は本発明に係る酸化物超電導導体の製造装置の一例を示すもので、この例の製造装置には、略同等の構造を有する3つのCVDユニットA、B、Cが組み込まれ、各CVDユニットA、B、Cには、先に説明したようなCVD反応装置30Aが組み込まれ、各CVD反応装置30Aの反応生成室35A内においてテープ状の基材の少なくとも一面に酸化物超電導層を積層形成できるようになっている。
この実施形態の酸化物超電導導体の製造装置は、横長の両端を閉じた筒型の石英製のリアクタ31Aを有している。このリアクタ31Aは、隔壁32A、33Aによって図2の左側から順に基材導入部34Aと反応生成室35Aと基材導出部36Aに区画されているとともに、複数の隔壁37A(図面では4枚の隔壁)によって、上記反応生成室35Aが複数に分割(図面では3分割)されて、それぞれが前述のCVD反応装置30Aと略同等の構造とされるとともに、隣合う反応生成室35A,35Aの間(隣合う隔壁37,37の間)には、境界室38Aが区画されている。従って、このリアクタ31Aには、反応生成室35Aが後述する基材搬送領域Rに送り込まれるテープ状の基材Tの移動方向に直列に複数(図面では3つの反応生成室)が設けられていることになる。なお、リアクタ31Aを構成する材料は、石英に限らずステンレス鋼などの耐食性に優れた金属であっても良い。
【0034】
上記隔壁32A,37A,37A,37A,37A,33Aの下部中央には、図5と図6に示すように、長尺のテープ状の基材Tが通過可能な通過孔39Aがそれぞれ形成されていて、リアクタ31Aの内部には、その中心部を横切る形で基材搬送領域Rが形成されている。さらに、基材導入部34Aにはテープ状の基材Tを導入するための導入孔が形成されるとともに、基材導出部36Aには基材Tを導出するための導出孔が形成され、導入孔と導出孔の周縁部には、基材Tを通過させている状態で各孔の隙間を閉じて基材導入部34Aと基材導出部36Aを気密状態に保持する封止機構(図示略)が設けられている。
【0035】
各反応生成室35の天井部には、図5に示すように略角錐台型のガス拡散部40が取り付けられている。これらのガス拡散部40は先に説明した例のガス拡散部40と同等の構造とされている。また、ガス拡散部材45Aの底面は、細長い長方形状の開口部46Aとされ、この開口部46Aを介してガス拡散部材45が反応生成室35Aに連通されている。
【0036】
また、境界室38Aの天井部には、遮断ガス供給手段38Bが供給管38Cを介して接続され、遮断ガス供給手段38Bが、境界室の38Aの両側の反応生成室35A,35Aどうしを遮断するための遮断ガスを供給し、供給管38Cの接続部分が、遮断ガス噴出部を介して接続され、遮断ガスとしてたとえばアルゴンガスが選択される。
【0037】
一方、各反応生成室35Aおよび境界室38Aの下方には、図4に示すように基材搬送領域Rの長さ方向に沿って各反応生成室35Aおよび境界室38Aを貫通するように排気室70Aが設けられている。この排気室70Aの上部には、図5に示すように、基材搬送領域Rに通されたテープ状の基材Tの長さ方向に沿って細長い長方形状のガス排気孔70a、70aが各反応生成室35Aおよび境界室38Aを貫通するようにそれぞれ形成されており、このガス排気孔70a,70aには、隔壁32,33,37の基材搬送領域Rの両側下端部が貫通状態とされている。
また、排気室70Aの下部には複数本(図面では10本)の排気管70bがそれぞれ接続されており、これらの排気管70bは真空ポンプ71を備えた圧力調整装置72に接続されている。
【0038】
また、先の図1に示す構造の装置と同様に、ガス排気孔70a,70aが形成された排気室70Aと、排気口70c,70e,70fを有する複数本の排気管70b・・・と、バルブ70dと、真空ポンプ71と、圧力調整装置72によってガス排気手段80Aが構成されている。このような構成のガス排気手段80Aは、CVD反応装置30の内部の原料ガスや酸素ガスや不活性ガス、および遮断ガスなどのガスを速やかに排気できるようになっている。
【0039】
リアクタ31Aの外部には、図4に示すように加熱ヒータ47Aが設けられている。図1に示す例では、3つの反応生成室35Aに亘って連続状態の加熱ヒータ47Aとしたが、該加熱ヒータ47Aを、各CVD反応装置30の反応生成室35Aに対して独立の構造とすることも可能である。
更に、リアクタ31Aの基材導入部34が不活性ガス供給源51Aに、また、基材導出部36Aが酸素ガス供給源51Bにそれぞれ接続されている。
また、CVDユニットA,Cに備えられている各ガス拡散部40の天井壁44に接続された各原料ガス導入管53Aは、図4に示すように、後述のガスミキサ48を介して、後述する酸化物超電導体の原料ガス供給手段50aの原料ガスの気化器(原料ガスの供給源)250に接続されている。
【0040】
前記各酸化物超電導体の原料ガス供給手段50aは、先に説明の原液供給装置65と液体原料供給装置55と、原料溶液気化装置(原料ガス供給源)62から概略構成されている。
その他の構成は先の図1〜図3に示す装置と同等であるので、同等の構成については同一の符号を付してそれらの部分の説明を省略する。
【0041】
次に上記のように構成されたCVDユニットA,B,Cを有する酸化物超電導導体の製造装置を用いてテープ状の基材T上に3層の酸化物超電導層を形成し、酸化物超電導導体を製造する場合について説明する。
図4〜図6に示す製造装置を用いて酸化物超電導体を製造するには、まず、テープ状の基材Tと酸化物超電導体の原料溶液と安定化膜の原料溶液を用意する。この基材Tは、先の例で用いた基材38と同等のものを用いることができる。また、酸化物超電導体をCVD反応により生成させるための液体原料についても先に説明の装置の場合と同等のものを用いることができる。
【0042】
一方、上記のようなテープ状の基材Tを用意したならば、これを酸化物超電導導体の製造装置内の基材搬送領域Rに基材搬送機構78により基材導入部34Aから所定の移動速度で送り込むとともに基材搬送機構の巻取ドラム74で巻き取る。また、各原料ガス供給手段50aによってCVDユニットA、B、CのCVD反応装置30にガスを送り込む方法についても先の一例の場合と同等で良い。これにより、基材Tを3つのリアクタ31Aに順次送り込むことができ、基材Tの上に3層の酸化物超電導層a、b、cを積層した図3に示すものと同等の酸化物超電導導体Sを得ることができる。
【0043】
さらに、制御手段82Aは、CVDユニットA,B,Cごとにガス分圧を独立に制御して、各反応生成室35A内において所定のガス分圧を維持するように原料ガス供給手段50a、50b、50aを制御する。この際、制御手段82Aは、テープ状の基材Tの移動方向の反応生成室35のガス分圧よりも、テープ状の基材Tの移動方向下流の反応生成室35のガス分圧が高くなるように原料ガス供給手段50a、50b、50aを制御することが好ましい。
なお、酸化物超電導薄膜aの成膜後は、必要に応じて酸化物超電導薄膜の結晶構造を整えるための熱処理を施してもよい。
【0044】
最後に、上述のようにして形成した酸化物超電導導体S上にさらに銀等からなる保護膜をスパッタ法や蒸着法等により形成すると、安定化層付きの酸化物超電導導体を得ることができる。
このような構造の酸化物超電導導体Sの各酸化物超電導層a、b、cの厚みの具体例としては、先の例の場合と同様に酸化物超電導層aの厚さを0.1〜0.4μmの範囲、より好ましくは0.16〜0.33μmの範囲とする。
先の酸化物超電導層aの厚さを0.1〜0.4μmの範囲とするのは、基材38の移動速度を調節することによって実現できる。具体的に例えば、圧延銀テープを用いる場合、圧延銀テープの搬送速度を1m/hの割合とすると、0.33μmの厚さの酸化物超電導層aを生成することができる。
【0045】
図4〜図6に示す構造の装置を用いて酸化物超電導導体Sを製造するならば、3層構造の酸化物超電導導体Sを1回の基材Tの移動により製造することができる。
この例で得られる酸化物超電導導体Sにあっても、基材38の搬送速度を適切な範囲として適切な厚さの酸化物超電導層a、b、cを積層してなるので、各酸化物超電導層a、b、cの個々の層のa軸配向粒の粗大化を抑制し、個々の層での異相成分の析出を防止できているので、各酸化物超電導層a、b、cの個々の層の有効な電流パスを大きくすることができ、結果的に3層全体としての臨界電流を大きくすることができる。
なお、図4〜図6に示す装置を用いて送出ドラム77と巻取ドラム74の間において基材Tを繰り返し往復移動し、6層、あるいは9層などの積層数の酸化物超電導層を積層して酸化物超電導導体を製造しても良い。
【0046】
【実施例】
以下、本発明を、実施例および比較例により、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「実施例1」
1Ba2Cu37-xなる組成で知られるY系の酸化物超電導薄膜を形成するために、CVD用の原料溶液としてBa-ビス-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタ ンジオン-ビス-1,10-フェナントロリン(Ba(thd)2(phen)2)と、 Y(thd)2と、Cu(thd)2を用いた。これらの各々をY:Ba:Cu=1.0:3.0:2.7のモル比で混合し、テトラヒドロフラン(THF)の溶媒中に7.3重量%になるように添加したものを酸化物超電導体の液体原料(原料溶液)とした。この酸化物超電導導体の液体原料を図1〜図2に示す構成の酸化物超電導導体の製造装置に供した。
テープ状の基材としては、長さ1000mm、幅10mm、厚さ0.2mmの圧延Agテープを用いた。
【0047】
先の原料溶液を加圧式液体ポンプ(加圧源)により0.27ml/分の流速で、液体原料供給装置の原料溶液供給部に連続的に供給した。これと同時にアトマイズガスとしてArをアトマイズガス供給部に流量300ccm程度で送り込むとともにシールドガスとしてArをシールドガス供給部に流量100ccm程度で送り込んだ。以上の操作により、一定量のミスト状の液体原料を気化器内に連続的に供給し、さらにこの液体原料が気化した原料ガスをガス導入管を経てCVD反応装置のガス拡散部材に一定量連続的に供給した。この時の気化器および輸送管の温度は230℃とした。
【0048】
送出ドラム側から巻取ドラム側に移動させる基材のリアクタ内の基材移動速度を1.8m/h、基材加熱温度を760〜800℃、リアクタ内圧力を5.0トール、設定酸素分圧値を1.43〜1.53トールに設定して、基材上に厚さ0.16μmのYBaCuO系の酸化物超電導層を連続的に形成した。送出ドラム側から巻取ドラム側に移動させる必要長さの基材の移動を終了した後、送出ドラムと巻取ドラムの回転を逆転し、再度リアクタ内を通過させて酸化物超電導層を積層する操作を行い、先に生成した酸化物超電導層上に厚さ0.16μmのYBaCuO系の酸化物超電導層を積層するという基材の往復移動を繰り返し3往復行って合計6層積層の酸化物超電導層(厚さ1μm)を有する酸化物超電導導体を得た。
この6層構造の酸化物超電導層は、総厚約1μmであるが、臨界電流値として7.3A(77K、0磁場)を得ることができた。
【0049】
「比較例1」
先に示したCVD装置と原料、基材等は同等のものを用い、基材搬送条件のみを0.32mに設定し、厚さ1μmの酸化物超電導層を基材上に1層のみ積層しこの1層構造の酸化物超電導層は、厚さ1μmであるが、臨界電流値として、5.7A(77K、0磁場)を得ることができた。
【0050】
先の実施例1と比較例1との対比から、総厚がほぼ同等の酸化物超電導層であっても、薄い酸化物超電導層を複数層積層したものの方が高い臨界電流値が得られた。なお、厚さ1μmの酸化物超電導層を断面観察したところ、a軸配向した異常成長結晶の存在と異相の析出を一部認めることができた。
【0051】
「実施例2」
次に、図4〜図6に示すように3つの反応生成室を有するようにCVDユニットを酸化物超電導体の製造装置に組み込んだ装置を用い、各遮断ガス供給手段により各境界室にArガスの遮断ガスを供給することにより3つの反応生成室をそれぞれ独立した雰囲気状態とした。
ついで、3つの反応生成室のうちCVDユニットに備えられた各反応生成室内には先の実施例と同等の液体原料を加圧式ポンプにより液体原料供給装置に0.2ml/分で送り込み、気化器本体内部へ霧化供給して酸化物超電導体の原料ガスを得、さらにこの酸化物超電導体の原料ガスを酸化物超電導体の原料ガス導入管からガス拡散部を経て反応生成室に供給した。
【0052】
そして、さらに加熱ヒータで銀テープの基材を約760〜800℃に加熱しながらリアクタ内部の基材搬送領域Rに1m/時間で送り込み、リアクタ内圧力を5.0トール(665Pa)、設定酸素分圧値を1.43〜1.53トール(190〜203Pa)に設定して、3つの反応生成室内を順次通過させ、CVDユニットに備えられた各反応生成室内では基材上に上記酸化物超電導体の原料ガスを化学反応させ、基材上に厚さ0.33μmのY1Ba2Cu37-xなる組成の酸化物超電導層を3層積層し、図3に示す構造の酸化物超電導導体を得た。
この3層構造の酸化物超電導層は、総厚約1μmであるが、臨界電流値として7.0A(77K、0磁場)を得ることができた。
【0053】
「実施例
次に、図4〜図6に示すように3つの反応生成室を有するようにCVDユニットを酸化物超電導体の製造装置に組み込んだ装置を用い、各遮断ガス供給手段により各境界室にArガスの遮断ガスを供給することにより3つの反応生成室をそれぞれ独立した雰囲気状態とした。基材として圧延Agテープ(幅10×厚さ0.2×長さ1000m)を用い、0.5m/hの搬送速度で3往復することにより0.66μm厚さの酸化物超電導層を3層成膜し、総厚約2μmの酸化物超電導層を有する酸化物超電導導体を得た。また、同等の条件において基材搬送速度を1m/hに設定し、厚さ0.33μmの酸化物超電導導体を成膜した。
【0054】
これらの結果から、1層構造の酸化物超電導層よりも、薄い積層構造の酸化物超電導層の方が高い臨界電流値を得られ易い傾向があることが判明した。また、0.33μmの酸化物超電導層を6層備えた構造の酸化物超電導導体が10Aを超える13Aを示したので優れた酸化物超電導導体であることが判明した。
更に、酸化物超電導層の複数積層型のものであっても、1層当たりの厚さが、0.66μmのものでは、積層による臨界電流値の向上効果は少なくなる傾向にある。以上のことから、酸化物超電導層の厚さは、好ましくは、0.16〜0.33μmの範囲であると思われる。
【0055】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の酸化物超電導体の製造方法にあっては、原料ガスを化学反応させて基材上に成膜するための成膜領域を複数回通過させ、成膜領域を1回通過することにより成膜した酸化物超電導層の上に他の回の成膜領域の通過により成膜した他の酸化物超電導層を積層するとともに、前記複数の酸化物超電導層を積層する場合、各酸化物超電導層の厚さを0 . 16〜0 . 33μmの範囲の厚さにするので、複数の酸化物超電導層の積層構造により酸化物超電導導体としての通電可能な電流値の向上を図ることができる。更に前記積層された酸化物超電導層が各々 . 16〜0 . 33μmの範囲の厚さにされてなるので、各層毎の結晶粒の粗大化や異相成分の析出を防止することができ、複数の酸化物超電導層の積層構造を有する酸化物超電導導体として流し得る電流値を高くすることができる。
【0056】
本発明に係る酸化物超電導体の製造方法は、原料ガスを化学反応させて基材上に成膜するための成膜領域を複数回通過させ、成膜領域を1回通過することにより成膜した酸化物超電導層の上に他の回の成膜領域の通過により成膜した他の酸化物超電導層を積層するので、成膜領域を通過させた1回目の化学気相法により得られた酸化物超電導層の上に成膜領域を通過させる2回目の化学気相法により酸化物超電導層を積層することで、1層あたりの臨界電流値を高くした状態の酸化物超電導層を複数積層することができ、積層構造としての全体の通電可能な電流値の向上を図ることができる。
【0057】
本発明に係る製造方法において、積層される各酸化物超電導層の厚さを . 16〜0 . 33μmの範囲の厚さにすることにより、積層した個々の酸化物超電導層の結晶のa軸配向結晶粒などの粗大化を抑制でき、異相結晶粒の生成を防止できるので、望ましい組織と組成であり、導電パスの断面積の大きな酸化物超電導層を複数積層できるので、複数層の積層構造の全体として総合的な臨界電流値の向上をなし得ることができ、全体として臨界電流値の大きな酸化物超電導導体を得ることができる。
本発明の製造方法を実施する場合、リアクタと、酸化物超電導体の原料ガス供給手段と、ガス排気手段とを備え、更に原料ガス供給源と、原料ガス導入管と、酸素ガス供給手段とを備え、前記リアクタに成膜領域となる反応生成室を備え、反応生成室の天井部にガス拡散部を設け、反応生成室の中央部に基材搬送領域をその両側にガス排気孔を備えた構成の成膜装置を用いて成膜するので、原料ガスを成膜領域の基材上に速やかに供給して反応させ、反応後の排気ガスを速やかに排出する操作により、異常成長結晶や異相の析出していない目的の臨界電流特性の良好な酸化物超電導層を生成できる。
また、本発明の製造方法を実施する場合、リアクタと、酸化物超電導体の原料ガス供給手段と、ガス排気手段とを備え、更に原料ガス供給源と、原料ガス導入管と、酸素ガス供給手段とを備え、リアクタに、成膜領域となる反応生成室を直列に複数設け、各反応生成室の天井部にガス拡散部を設け、反応生成室の中央部に基材搬送領域をその両側にガス排気孔を備えた構成の成膜装置を用いて成膜するので、原料ガスを成膜領域の基材上に速やかに供給して反応させ、反応後の排気ガスを速やかに排出する操作により、異常成長結晶や異相の析出していない目的の臨界電流特性の良好な酸化物超電導層を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る酸化物超電導導体を製造する際に用いる製造装置の一例の全体構成を示す図である。
【図2】 図1に示す酸化物超電導導体の製造装置に備えられたリアクタの一構造例を示す斜視図である。
【図3】 図1と図2に示す装置で製造された酸化物超電導導体の一構造例を示す断面図である。
【図4】 本発明に係る酸化物超電導導体を製造する際に用いる製造装置の他の例の全体構成を示す図である。
【図5】 図4に示す製造装置に備えられるリアクタの詳細構造を示す斜視図である。
【図6】 図4に示す製造装置に備えられるリアクタの詳細構造を示す断面図である。
【図7】 従来の酸化物超電導導体の一例を示す断面図である。
【図8】 従来の酸化物超電導導体の他の例を示す断面図である。
【図9】 従来の酸化物超電導導体において基材搬送速度と膜厚の関係を示す図である。
【図10】 従来の酸化物超電導導体において膜厚と臨界電流の関係を示す図である。
【符号の説明】
a、b、c…酸化物超電導層、S…酸化物超電導導体、38、T…基材、A、B、C…CVDユニット、30…CVD反応装置、31A…リアクタ、32A,33A,37A…隔壁、34…基材導入部、35…反応生成室、36…基材導出部、38…境界室、39…基材通過孔、40…ガス拡散部、53…原料ガス導入管、80、80A…ガス排気手段、R…基材搬送領域。

Claims (5)

  1. テープ状の基材の少なくとも一面側において酸化物超電導体の原料ガスを化学反応させて基材上に成膜する方法により基材上に酸化物超電導層を生成する方法において、原料ガスを化学反応させて基材上に成膜するための成膜領域を複数回通過させ、成膜領域を1回通過することにより成膜した酸化物超電導層の上に他の回の成膜領域の通過により成膜した他の酸化物超電導層を積層するとともに、前記複数の酸化物超電導層を積層する場合、各酸化物超電導層の厚さを0 . 16〜0 . 33μmの範囲の厚さにすることを特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。
  2. 前記酸化物超電導層の上に他の酸化物超電導層を積層する場合、1つの成膜領域に対して基材を繰り返し通過させて複数の酸化物超電導層を積層する方法か、複数の成膜領域に対して順次基材を通過させて複数の酸化物超電導層を積層する方法のいずれかを行うことを特徴とする請求項に記載の酸化物超電導導体の製造方法。
  3. 前記基材上に酸化物超電導層を生成するにあたり、
    移動中のテープ状の基材の少なくとも一面側に酸化物超電導体の原料ガスを化学反応させて酸化物超電導薄膜を成膜するCVD反応を行うリアクタと、前記リアクタに酸化物超電導体の原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記リアクタ内のガスを排気するガス排気手段とが備えられ、前記原料ガス供給手段に、原料ガス供給源と、原料ガス導入管と、酸素ガス供給手段とが備えられた成膜装置であって、
    前記リアクタに成膜領域とされる反応生成室が設けられ、該反応生成室の天井部にガス拡散部が設けられ、該反応生成室に前記ガス拡散部を介して前記原料ガス導入管が接続され、前記反応生成室の中央部に前記基材の搬送領域が設けられ、その両側に前記ガス排気手段となるガス排気孔が備けられた構成の成膜装置を用いて成膜することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導導体の製造方法。
  4. 前記基材上に酸化物超電導層を生成するにあたり、
    移動中のテープ状の基材の少なくとも一面側に酸化物超電導体の原料ガスを化学反応させて酸化物超電導薄膜を成膜するCVD反応を行うリアクタと、前記リアクタに酸化物超電導体の原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記リアクタ内のガスを排気するガス排気手段とが備えられ、前記原料ガス供給手段に、原料ガス供給源と、原料ガス導入管と、酸素ガス供給手段とが備えられた成膜装置であって、
    前記リアクタに、成膜領域とされる反応生成室がテープ状の基材の移動方向に直列に複数設けれられ、前記リアクタの内部に前記複数の反応生成室を通過する基材搬送領域が形成され、前記複数設けられた反応生成室の天井部にそれぞれガス拡散部が設けられ、反応生成室に前記ガス拡散部を介して前記原料ガス導入管が接続され、前記各反応生成室の中央部に前記基材の搬送領域が設けられ、その両側に前記ガス排気手段となるガス排気孔が備けられた構成の成膜装置を用いて成膜することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導導体の製造方法。
  5. 前記厚さ0.16〜0.33μmの酸化物超電導層を複数積層することにより、総厚1〜2μmの範囲の酸化物超電導層を前記基材上に形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物超電導導体の製造方法。
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