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JP4012275B2 - 低残留磁束密度のトランス用方向性けい素鋼板 - Google Patents

低残留磁束密度のトランス用方向性けい素鋼板 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、偏磁による突入電流が問題となるトランス方向性けい素鋼板に関し、特に低残留磁束密度のトランス用方向性けい素鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、トランスには、小型化および高効率化のため、いわゆるGoss方位を有する一方向性けい素鋼板が使用されている。方向性けい素鋼板は、磁束密度が高く、低鉄損であるため、小型化および高効率化には適した材料である。しかしながら、方向性けい素鋼板は残留磁束密度が高いため、トランスに偏磁が生じ、トランスの再起動時に定格電流の数十倍もの突入電流が発生し、ブレーカーが作動してトランスの起動が不可能となることがある。
【0003】
このような突入電流を防止するため、トランスの設計動作磁束密度を下げるか、または磁路にギャップを設けることが行われている。しかし、前者の場合はトランスが大型化し、後者の場合は組立コストが増大するという問題が生じる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、機器の大型化やコスト増大をもたらすことなく偏磁による突入電流を防止することができる低残留密度のトランス用方向性けい素鋼板を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、方向性けい素鋼板において厚さ方向にSiの濃度勾配を形成することにより残留磁束密度を著しく低下させることができることを知見した。
【0006】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであって、第1に、板厚方向にSiの濃度勾配を有し、表層のSi濃度のほうが板厚中心部のSi濃度より高く、表層のSi濃度と板厚中心近傍の最低のSi濃度との差が0.5wt%以上であり、Si濃度の板厚方向全体の平均値が3〜7wt%(ただし、6.2wt%以上を除く)であることを特徴とする低残留磁束密度のトランス用方向性けい素鋼板を提供するものである。
【0007】
第2に、上記鋼板において、表層のSi濃度が7.5wt%以下であることを特徴とする低残留磁束密度のトランス用方向性けい素鋼板を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
方向性鋼板の板厚方向にSiの濃度勾配をつけた場合の残留磁束密度(Br)の変化を図1に示す。サンプルとしては、0.3mm板厚の3.1wt%Si一方向性けい素を浸珪処理して作製したものを用いた。浸珪処理においては、1200℃に加熱した鋼板と、20vol%のSiCl4 と80vol%のN2 との混合ガスとを反応させ、鋼板表面からSiを浸透させ、その後N2 中で均熱してSiを板中心部へ拡散浸透させた。ここでは、Si浸透時間と拡散時間とを変化させ、種々に濃度勾配を有するサンプルを作製し、磁気特性を測定した。
【0009】
図1は50Hzで1.4Tまで磁化した時の残留磁束密度を測定した結果を示すものであり、横軸は、サンプルの断面についてX線マイクロアナライザーでSiを定量分析し、その最高値と最低値との差(ΔSi)をとったものである。
【0010】
この図に示すように、Siの濃度勾配を形成し、ΔSiが増加すると残留磁束密度は単調に低下する。また、図より、残留磁束密度を10%以上低下させるためにはΔSiを0.5%以上とすることが必要であることがわかる。ΔSiを増加させると残留磁束密度が低下する原因は完全には解明されていないが、Siの添加とともに格子定数が小さくなることから、Siの濃度勾配を形成することにより板内に張力が発生するためと推定される。
【0011】
したがって、本発明では、Siの濃度勾配を形成し、板厚中心近傍の最低のSi濃度が表層のSi濃度よりも0.5wt%以上低いことを要件としている。
なお、この場合において、板厚方向のSi濃度を測定する方法は特に限定されないが、X線マイクロアナライザーで測定することが好適である。
【0012】
このように鋼板の厚さ方向にSiの濃度勾配をつけること自体は、特開昭62−227033号から227036号まで、特開昭62−227077号、および特開平4−246157号の各公報に開示されている。しかし、これらの目的は、浸珪処理法で高けい素鋼板を製造する際に、拡散処理時間を短くするため、途中で拡散処理を中断することにあり、その結果としてSiの濃度勾配が形成されるのであり積極的にSiの濃度勾配を形成するという思想は含まれていない。これらにおいて拡散処理を中断する時間は鉄損が劣化しない範囲で決められている。鉄損は種々の要因で決定されるが、これを低下させるためには残留磁束密度を高くすることが必要であり、上記各公報の技術は残留磁束密度があまり低下しない範囲で、Siの濃度勾配の許容値を求めたものであるといえる。これに対して本発明は残留磁束密度を低下させるために積極的にSiの濃度勾配を形成したものであり、上記各公報の技術とはSiの濃度勾配の意味合いが全く異なる。
【0013】
本発明で対象とする方向性けい素鋼板としては、典型的には一方向性であり、その例としてはGoss方位を有するものが挙げられるが、これに限るものではない。
【0014】
素材の方向性けい素鋼板は、板厚方向の全体の平均値Si濃度が3wt%以下であるとGoss方位等の形成が困難となるため、3wt%以上であることが好ましい。一方、平均値Si濃度が高くなると、これに伴って表層Siも高くなり、加工性が劣化する。加工性の点からは、表層Si濃度が7.5wt%以下であることが好ましく、その結果、平均値Si濃度は7wt%以下とすることが好ましい。したがって、本発明では、好ましいSiの平均値濃度として、3〜7wt%を規定し、さらに表層のSi濃度の好ましい値として、7.5wt%以下を規定している。
なお、本発明において、Si以外の元素は特に規定されず、他の元素は通常の方向性けい素鋼板に含有される量であれば許容される。
【0015】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す組成の0.23mm厚のGoss方位を持つ方向性けい素鋼板を連続浸珪処理ラインで浸珪・拡散処理して板厚方向にSiの濃度勾配を形成した。浸珪処理ラインとしては、加熱・浸珪・拡散・冷却帯および絶縁皮膜コーティング装置からなるものを用いた。浸珪ラインでは、1200℃まで加熱後、SiCl4ガスと鋼板とを反応させ鋼板表面にFe3Siを形成し、その後拡散均熱してSiを板中心部に拡散させ、Siの濃度勾配を形成した。この際に、SiCl4ガス濃度と均熱時間を変えて種々のSiプロファイルを有する鋼板を製造した。なお、この鋼板の浸珪前後でのSi以外の成分量はほぼ同一であった。
【0016】
【表1】
Figure 0004012275
【0017】
このようにして得られた鋼板を用い、単相50Hz、1kVAのトランスを作製し、位相制御のもとで突入電流の測定を実施した。その際の残留磁束密度、磁束密度B8、突入電流比の値を表2に示す。残留磁束密度は、50Hzで1.4Tまで磁化したときの値である。また、突入電流はトランスを1.4Tまで磁化したときの値であり、定格電流との比で評価した。ΔSi、表層Si濃度、平均Si濃度、残留磁束密度、磁束密度B8、および突入電流比を表2に示す。
【0018】
【表2】
Figure 0004012275
【0019】
この表に示すように、本発明の範囲内であれば、残留磁束密度が低く、そのため突入電流特性に優れていることが明らかとなった。このことから、本発明により、突入電流の低いトランス用の方向性けい素鋼板が得られることが確認された。
なお、No.3はSi量が多いため、加工性に劣っていた。
【0020】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、板厚方向にSiの濃度勾配を有し、表層のSi濃度のほうが板厚中心部のSi濃度より高く、表層のSi濃度と板厚中心近傍の最低のSi濃度との差を0.5wt%以上とし、Si濃度の板厚方向全体の平均値を3〜7wt%(ただし、6.2wt%以上を除く)とすることにより、低残留磁束密度のトランス用方向性けい素鋼板を得ることができる。したがって、機器の大型化やコスト増大等をもたらすことなく偏磁による突入電流を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼板のΔSiと残留磁束密度との関係を示す図。

Claims (2)

  1. 板厚方向にSiの濃度勾配を有し、表層のSi濃度のほうが板厚中心部のSi濃度より高く、表層のSi濃度と板厚中心近傍の最低のSi濃度との差が0.5wt%以上であり、Si濃度の板厚方向全体の平均値が3〜7wt%(ただし、6.2wt%以上を除く)であることを特徴とする低残留磁束密度のトランス用方向性けい素鋼板。
  2. 表層のSi濃度が7.5wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の低残留磁束密度のトランス用方向性けい素鋼板。
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