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JP4093978B2 - 自己潤滑性を有する工具鋼 - Google Patents

自己潤滑性を有する工具鋼 Download PDF

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Description

本発明は、冷間プレス型、回転成形型、コイニングダイス、冷間鍛造型等の冷間加工用金型、矯正ロール、フォーミングロール、転造ロール等のロール及びシャーブレード、スリッターナイフ等の刃物に使用される冷間工具鋼、並びに熱間鍛造用金型及びダイカスト用金型等に使用される熱間工具鋼等の自己潤滑性を有する工具鋼に関し、特に、鋼中の母材成分と組織及び炭化物量を制御することにより金型として使用した場合、金型自身が自己潤滑性を有することにより、耐摩耗性、耐焼き付き性及び被削性を改善することを可能とする自己潤滑性を有する工具鋼に関する。
従来の工具鋼の中で、耐摩耗性、耐焼き付き性及び被削性が優れた快削鋼は、鋼中の介在物により被削性を向上させているものである。介在物として、低切削速度域で使用される工具鋼にはMnS又はPb等が、高切削速度域で使用される工具鋼にはCa系複合酸化物等が用いられている。MnSと同系統の介在物としては、MnSe及びMnTeが、Pbと同系統の介在物としてはBiが用いられている。
例えば、Ca系複合酸化物は、切削工具面上に付着し、工具と被削材との直接接触を防ぎ、工具の摩耗を抑制する。また、S、Pb及びBiは、鋼の切り屑処理性を向上させるために含有される。特にPb及びBiの影響は大きく、カール半径が小さく短い切り屑が生成する。このカール半径が縮小する理由は、Pb及びBiの切り屑と工具間の潤滑作用によるものと考えられる。また、切り屑自体の破断ひずみも大幅に減少する。この理由は、Al合金等の場合と同様に、切削中の温度上昇によるPb及びBiの溶融金属脆化によって切り屑中に割れが発生し易くなるためと考えられている。Biは271℃、Pbは327℃、またこれら以外では、MnS−MnTe合金は810℃及びPbTeは923℃付近になると脆化して被削性を向上させる。しかしながら、高速且つ高面圧下で実施される摩耗及び切削では、1200乃至2000℃の高温に達する。この温度では、S、Pb及びBi等は沸点に達してしまい、被削性改善の効果はなくなる。
快削鋼の被削性をより向上させるために、上述以外の種々の添加元素が提案されている。
例えば、鋼中の硫化物に対して有効な接種作用を有するZrO又はZrNを得るために、Zrを必須成分として含有させる。また、このときAlを0.05乃至0.50質量%含有させることで、Zrの硫化物に対する接種作用を増大させ、硫化物を微細にすることにより被削性を向上させる(特許文献1参照)。
快削元素であるS及びTeを必須成分として添加する。このとき、結晶組織の改善及び熱処理特性の改善のため、Alを2.0質量%以下含有させる(特許文献2参照)。
快削元素であるB及びNを必須成分として含有させ、BNの析出を促進し、被削性を確保する。このとき、鋼中のOを固定するため、Alを0.001乃至0.100質量%含有させる(特許文献3参照)。
また、鋼中に含有される組成成分を限定し、切削速度が150m/分の断続切削時における対象工具鋼の被削性を向上させるものが提案されている(特許文献4参照)。
快削元素である黒鉛を必須成分として含有させ、このとき黒鉛の核生成サイトとしてAlNを利用するため、Alを0.01乃至0.1質量%含有させる(特許文献5参照)。
Pb不使用及び高速切削の要求は、連続切削のみならず、フライス盤等による断続切削においても同様に強く、これらのPb不使用及び高速切削の要求に対応するために、BN含有鋼が開発されている(特許文献4及び特許文献6乃至10参照。)。
また、種々の含有物による効果を調べるために、種々の実験結果が報告されている。例として、以下に列挙する。
鋼中でのAlの生成を抑制するため、Alの含有量を制限し、得られた鋼の切削速度200m/分における効果が調べられた(特許文献6参照)。
鋼中にCa及びSを複合添加し、切削速度155m/分における効果が調べられた(特許文献7参照)。
浸炭鋼をセラミック工具又はCBN工具を使用して、切削速度100m/分で切削するときの効果が調べられた(特許文献8参照)。
切削速度150m/分で工具鋼を切削するときの効果が調べられた(特許文献5参照)。
Caを鋼中に添加し、その切削速度400m/分における効果が調べられた(特許文献9参照)。
Caを鋼中に添加し、切削速度150m/分における効果が調べられた(特許文献10参照。)。
Alの含有量が高い鋼を高速で切断すると、工具面上にAl酸化物が付着し、工具寿命が向上する。付着物は酸化物となっていない鋼中のAlが、断続切断時に工具面上で酸化してAl酸化物となったもので、鋼中のAl酸化物が被削性に悪影響を及ぼすのに対し、鋼中のAlは工具摩擦を抑制する効果を示す。更に、被削性を低下させる鋼中のAl酸化物を減少させるため、鋼中の酸素含有量を低減することが有効であり、Zr、Te等の快削元素を含むと、Al酸化物による効果は十分得られない(特許文献11及び12参照)。
また、従来の工具鋼は、工具鋼の耐摩耗性及び耐焼き付き性を向上させるために、TD(Thoria Dispersed:トリア分散)処理、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)処理及びCrメッキ等の表面処理等を実施する必要がある。更に、従来の工具鋼は、鋼材中に高価な希少金属を多量に含有させることにより炭化物を生成させ、耐摩耗性を向上させている。
特開昭60−174854号公報 特開昭61−291955号公報 特開平1−319651号公報 特開平3−64429号公報 特開平7−316732号公報 特開昭60−116744号公報 特開昭63−162839号公報 特開平3−10047号公報 特開平6−145889号公報 特開平6−145890号公報 特開2001−26935号公報 特開2001−342539号公報
しかしながら、従来の工具鋼は以下に示す問題点を有する。工具鋼の被削性を改善するために、鋼材に従来の快削元素を添加すると、機械的性質が劣化したりする等の原因となる。
また、従来の工具鋼を金型として使用すると、Fe及びCr等からなる酸化被膜が生成するが、Feは融点が1550℃であり、Crは融点が1990℃であり、いずれも焼き付きが生じる約1200℃よりも融点が高いうえに、これらの酸化被膜と母材との熱膨張係数の差が大きいため、酸化被膜が母材から剥離するため、自己潤滑性は得られない。
難削材である高硬度材又はステンレス鋼等の切削加工は、切削点の温度が1200℃以上で実施されている。この温度は、炭素鋼等の切削加工時の温度と比べると高い温度である。そのため、従来の快削元素であるMn、Pb及びBi等は融点が低いために溶融し、そのうえ沸点にまで達してしまうため、重切削条件では被削性の改善効果は得られない。又は、切削点の温度を被削性の改善効果が表れる温度まで低下させることにより、切削速度を焼きなまし材を扱う速度より落とす又は軽切り込み切削をする等の必要があり、切削能率が著しく低下する。
工具鋼の耐摩耗性及び耐焼き付き性の改善をするために表面処理をする方法においては、この表面処理により耐摩耗性及び耐焼き付き性の改善効果は得られるものの、処理コストが高く、またこの表面処理のための金型作製費用が高いという難点がある。また、表面処理時に変寸が発生する等の欠点もある。更に、鋼材中に高価な希少金属を多量に入れることにより炭化物を生成し、耐摩耗性を向上させる場合も、その鋼材の製造コストが高くなるという欠点がある。
一方、鋼の切り屑処理性を向上させるために、従来、種々の元素が含有されてきたが、例えばSn又はPbは環境を破壊しやすい物質であり、Bi等は希少元素であるために高価であり、鋼材価格を上げるうえに、リサイクル性が悪い。また、S及びBN等は安価であるが機械的性質を悪化させる等の問題があり、全く違う技術による快削化が必要であると考えられる。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、靭性を低下させる元素及び環境に有害な元素の添加を抑制し、同時に従来の快削鋼のように切削能率を落とすことなく、重切削条件でも高硬度材が加工でき、更に、耐摩耗性及び耐焼き付き性が優れた自己潤滑性を有する工具鋼を提供することを目的とする。
本願第1の発明に係る自己潤滑性を有する工具鋼は、冷間工具鋼用の自己潤滑性を有する工具鋼において、C:0.8乃至1.60質量%、Si:0.30乃至1.0質量%、Mn:0.30乃至0.60質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.050乃至0.090質量%、Cr:6.0乃至13.00質量%、2Mo+W:0.10乃至3.00質量%、V:0.20乃至3.00質量%、Cu+Ni+Co:0.20乃至0.80質量%を含有し、更に、O:0.0005乃至0.0080質量%を含有すると共に、Al:0.008乃至0.800質量%及びTi+Ce+Zr:(総量で)0.001乃至0.100質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、粒径が300μmを超える炭化物が存在せず、粒径が3乃至300μmの炭化物が面積率で3%以上であることを特徴とする。
本願第2の発明に係る自己潤滑性を有する工具鋼は、熱間工具鋼用の自己潤滑性を有する工具鋼において、C:0.25乃至0.42質量%、Si:0.80乃至2.00質量%、Mn:0.30乃至0.60質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.030乃至0.045質量%、Cr:4.60乃至4.90質量%、2Mo+W:2.40乃至3.60質量%、V:0.20乃至0.90質量%、Cu+Ni+Co:0.20乃至0.80質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、粒径が3μmを超える炭化物が存在せず、炭化物の面積率が5%以下であり、非金属介在物の清浄度がJISG0555で規定するdA60×400において0.020%以下、d(B+C)60×400において0.003乃至0.015%であると共に、粒径が10.0μmを超える非金属介在物の面積率が0.004%以下であることを特徴とする。
また、上記本願第2発明においても、O:0.0005乃至0.0080質量%を含有すると共に、Al:0.008乃至0.800質量%及びTi+Ce+Zr:(総量で)0.001乃至0.100質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。
更に、本願第1及び第2発明のいずれかの自己潤滑性を有する工具鋼が金型用工具鋼である場合において、金型として使用した際に発生する摩擦熱により、融点が1200℃以下で、熱膨張係数が11.0乃至12.8K−1であり、Si、Al及びVからなる群から選択された少なくとも1種の元素を主体とする酸化物からなる自己潤滑被膜、又は、Si、Al及びVからなる群から選択された少なくとも1種の元素を含む酸化物と酸化鉄との複合酸化物からなる自己潤滑被膜を生成することができる。
本発明によれば、鋼材の合金組成、介在物及び炭化物を適切に調整することにより、金型使用時の摩擦熱及び金型製作時の切削加工における熱によって、金型表面に低融点で硬度の低い酸化物からなる自己潤滑被膜を生成させることができ、更にこの自己潤滑被膜を加工時の熱及び圧力によって溶融させることにより、液体潤滑効果が発生して金型と製品材との間の摩擦係数を下げることができるため、耐摩耗性、耐焼き付き性及び被削性を改善することができる。これにより、本発明は、金型自身に自己潤滑性を付与することができるため、冷間加工用金型である冷間プレス型、回転成形型、コイニングダイス及び冷間鍛造型等、ロールである矯正ロール、フォーミングロール及び転造ロール等、並びに刃物であるシャープレード及びスリッタ−ナイフ等の冷間工具鋼、熱間鍛造用金型及びダイカスト用金型等の熱間工具鋼において、多大の効果を奏する。
以下、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。先ず、本発明の第1の実施形態に係る冷間工具鋼における成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
Cr:6.0乃至13.0質量%
Crの含有量が2.5乃至15.0質量%の鋼は、Cr系酸化物の生成量が少なく、Fe及びSiを主体とする酸化物が生成する。但し、Crの含有量が4.0質量%以下になると、高融点のFeを主体とする酸化物が多く生成されると共に、この酸化物により形成される酸化被膜が厚くなるため、金型表面に形成される酸化被膜が剥離し易くなり、溶融温度に達する前に酸化被膜が剥離してしまう。また、Crが13.0質量%を超えると、Crを主体とする高融点で硬い酸化物が生成するため、被削性が悪化する。よって、Cr含有量は、少なくとも、4.0乃至13.0質量%でなければならない。更に、C及びCrの含有量が多い程、工具鋼中に、M及びMC等の共晶炭化物が生成しやすくなるため、耐摩耗性が及び耐食性が向上する。本実施形態のように、冷間工具鋼の場合は、耐摩耗性を重視する観点から、Cr含有量は6.0質量%以上であることが必要である。これにより、適切な厚さの酸化被膜を形成させることができ、この酸化被膜が自己潤滑被膜となる。よって、冷間工具鋼の場合は、Cr含有量を6.0乃至13.0質量%とする。
C:0.8乃至1.6質量%
Cは、Cr、Mo、W、V及びNb等の炭化物形成元素と結合して硬い複合炭化物を生成し、工具として必要な耐摩耗性の向上に著しい効果があるが、Cと共に炭化物を形成する元素に合わせて添加することが好ましい。また、Cは基地中に固溶して所要の硬さを付与する。このためには、Cは0.8質量%以上含有することが必要である。一方、Cが1.6質量%を超えると、硬い複合酸化物が生成して工具を摩耗させるため、C含有量の上限値は1.6質量%とする。
更に、Crの含有量を上述の範囲にすると共に、Cの含有量を0.8乃至1.3質量%にすると、酸化被膜の厚さが15乃至100μmとなり、極めて良好な自己潤滑被膜を形成することができる。なお、ファインブランキング型及び曲げ型等で使用される冷間工具鋼の場合、高面圧加工及び高速加工時の摩擦熱により生じる凝着摩耗は、前述の自己潤滑被膜による液体潤滑効果によって防止することができるが、例えば、ロール及び打ち抜き等のように、面圧が低く摩擦熱が発生しにくい加工において生じる引っかき摩耗を防止するためには、共晶炭化物を構成する主要元素であるC及びCrできるだけ多く添加して、工具鋼中の共晶炭化物含有量を4乃至15質量%にすることが好ましい。なお、熱間工具鋼の場合は、どのような使用条件であっても、加工材が加熱された状態であり、その表面に酸化物からなる自己潤滑被膜を形成することができ、工具鋼中の共晶炭化物量が少なくても摩耗を防止することができるため、前述の摩擦熱が発生しにくい加工用の冷間工具鋼よりもC及びCrの含有量を少なくすることができる。
Si:0.30乃至1.0質量%
Siは本発明の特徴的な元素である。Siは低融点である酸化物SiOを生成し、金型又はパンチ等の工具の表面に、このSiOを主体とする低融点の酸化物からなる自己潤滑被膜を形成するという効果がある。この場合に、生成するSiOの構造が重要であり、α−Cristoballite構造は正方晶であり、硬度が高いため、酸化被膜が生成しても自己潤滑被膜としての効果が得られない。また、α−Tridymite構造は、斜方晶であり、溶融温度以下でも潤滑効果を持たせることができるが、溶融温度が1670℃程度と高いため、自己潤滑被膜に最適な酸化物とはいえない。一方、fayalite構造である(FeO)・SiO、FeSiO又は(FeSi)Crからなる酸化被膜は、1180℃程度で溶融するため、自己潤滑性が得られる。
このようなfayalite構造のSi系複合酸化物(FeO)・SiO、FeSiO又は(FeSi)Crからなる酸化被膜を形成させ、更に、母材から剥離しにくくするためには、Siの添加が不可欠であり、少なくとも、Siを0.30質量%以上添加する必要がある。Siを添加すると、FeOからなる酸化被膜が薄くなり、自己潤滑被膜が母材から剥離することを抑制することができる。
Crの含有量が6.0乃至13.0質量%の冷間工具鋼の場合、炭化物が生成し易いため、Siの添加は少量である0.3質量%以上から効果が現われる。Cの含有量が高い場合は、Siの含有量が高くなると炭化物の生成が悪化するため、Siの上限は1.0質量%とする。
Mn:0.30乃至0.60質量%
Crの含有量が15質量%以下の鋼の場合、Mnの含有量が0.3質量%未満では、鋼の脱酸素効果がなくなり鋼中のO量が増える。また、Mnを含有させることにより鋼の焼き入れ性を増し、耐摩耗性を高める効果がある。しかしながら、Mnを過度に添加すると熱処理時に焼き割れを生じること、又は多量の残留オーステナイトを生成して鋼を脆化することがあるため、Mnの含有量の上限は0.6質量%とする。
P:0.001乃至0.030質量%
Crの含有量が15質量%以下の鋼の場合、切り屑排出性を向上させるためにPを0.001質量%以上含有させる。但し、P含有量が0.030質量%を超えると鋼の靭性が低下するため、Pの含有量の上限は0.030質量%とする。
S:0.050乃至0.090質量%
Crの含有量が15質量%以下の鋼の場合、Sを添加すると、低融点の硫化物を生成して被削性を高めるが、その含有量が0.090質量%を超えると、鋼の靭性を劣化させる。一方、S含有量が0.050質量%未満になると、鋼の被削性が著しく悪化する。従って、Sの含有量は0.050乃至0.090質量%とする。
Cu+Ni+Co:総量で0.20乃至0.80質量%
Cu、Ni及びCoは、酸化被膜を剥離し難くするために重要な元素である。鋼にこれらの元素を含有させると、酸化被膜を薄くする効果がある。特に、Oとの親和力がFeに比べて小さいCu等を混入すると、Feが優先的に酸化されるため、これらの元素の酸化が抑制される。そして、Feが母材側に取り残された状態で酸化するため、母材と酸化被膜との界面に凹凸が形成され、酸化被膜、即ち、自己潤滑被膜の密着性が向上する。
図1は鋼材表面の一般的な酸化を表す模式図であり、図2は鋼材中に酸化抑制元素を含有させた場合の鋼材表面の酸化状態を表す模式図である。酸化被膜である自己潤滑被膜と母材との密着性を改善するには、図1に示すように自己潤滑被膜1と母材2との界面を平滑にせずに、図2に示すように自己潤滑被膜1と母材2との界面に凹凸を形成することが有効である。自己潤滑被膜1と母材2との界面に凹凸を形成する方法としては、例えば、Oとの親和力がFeに比べて小さいCu等の酸化抑制元素3を鋼中に添加する方法がある。鋼中にCu等の酸化抑制元素3を添加すると、Oとの親和力が弱い酸化抑制元素3の部分では酸化が抑制されて、Feが優先的に酸化される。これにより、Feは母材2側に取り残された状態で酸化が進行するため、自己潤滑被膜1と母材2との界面に凹凸が形成される。
なお、Cu、Ni及びCoの総含有量が1.0質量%以内であれば、同等の効果があり、Cu、Ni及びCoの総含有量が0.05質量%以上含有されていると被膜を薄くする効果がある。しかしながら、これらの元素を0.80質量%以上含有していても同等の効果しか得られず、大きな改善効果が得られない。
また、Cuを0.050質量%以上含有していると赤熱脆性を起こすが、Niを0.025質量%程度複合的に含有させることにより脆性を抑止することができる。更に、Niは、850℃程度の酸化被膜発生初期において、酸化被膜の剥離性を抑制する効果があるため、NiをAl、Cr又はTi等と同時に添加することにより酸化被膜の剥離を抑制することができる。しかしながら、このように複合的に含有させる場合、Niの含有量を0.10質量%以上にしても同等の効果しか得られず、また、Ni含有量が0.80質量%以上になると、1200℃以上での高温酸化性が悪化し、酸化被膜が厚くなって剥離し易くなる。
2Mo+W:0.10乃至3.00質量%
Mo及びWは、鋼中に含まれている炭化物をネット状に晶出し、鋼の硬さを増加して耐摩耗性を向上する効果がある。この効果を得るためには、2Mo+Wの総含有量が最低0.10質量%必要である。しかしながら、2Mo+Wの総含有量が3.00質量%を超えると炭化物量が増え、熱膨張係数が小さくなりすぎるため、2Mo+Wの総含有量は3.00質量%を上限とする。なお、Moは鋼中においてWと同等の効果を示すが、Moの原子量がWのそれの約1/2であることから、MoのW当量を2とする。
V:0.20乃至3.00質量%
Vは、本発明の重要元素であり、Si酸化物に代わるV系酸化物を生成し、酸化被膜の自己潤滑性を高める効果がある。酸化被膜の自己潤滑性を高める効果があるのは、Vを主体とする低融点のV系酸化物である。V含有量が0.2質量%未満であると、融点が高いV系酸化物が生成し、V低等の低融点のV系酸化物が生成されない。なお、可及的に、Vは0.8質量%以上含有させることが望ましい。一方、過度に添加すると鋼の靭性を損ない、熱膨張係数が低くなりすぎて剥離し易くなるため、V含有量の上限は3.0質量%とする。
粒径が300μmを超える炭化物が存在せず、粒径が3乃至300μmの炭化物が面積率で3%以上
冷間工具鋼においては、Crの含有量を6.0質量%以上とし、Cの含有量を0.8質量%以上にすることにより、共晶炭化物が生成し、耐摩耗性を向上させることができるが、この共晶炭化物の大きさは鍛造時の加工量によって変化する。工具鋼中の共晶炭化物の粒径が大きくなると、安定した酸化被膜が形成されない。また、引っかき摩耗が発生しない金型に適用する場合、共晶炭化物の粒径を小さくし、且つその含有量を少なくすることにより、靱性を向上させることができる。共晶炭化物の大きさは、大きいほど耐摩耗性が向上するため、粒径は3μm以上にすることが必要である。また、この耐摩耗性を向上させるためには、炭化物の面積率として3%以上保有することが必要である。しかしながら、炭化物の粒径が300μmを超えると、潤滑被膜が全面に発生しなくなり、酸化被膜は炭化物上には生成しない。このため、粒径が300μmを超える炭化物が存在しないようにする。
次に、本発明の第2の実施形態に係る熱間工具鋼について説明する。先ず、本実施形態の熱間工具鋼の成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
Cr:4.60乃至4.90質量%
前述の如く、Crの含有量が2.5乃至15.0質量%の鋼は、生成するCr系酸化物が薄く、Fe及びSiを主体とする酸化物を生成する。Crが4.0質量%以下になると、Feを主体とする酸化物となり、酸化被膜が厚くなり、また剥離し易く、酸化被膜が溶融温度に達する前に剥離してしまう。また、Crが13.0質量%を超えると、Crを主体とする高融点で硬い酸化物となるため、被削性が悪化する。よって、Cr含有量は、少なくとも、4.0乃至13.0質量%でなければならない。この場合に、本実施形態のように、熱間工具鋼の場合は、400℃以上の高温下で使用されるため、使用中に工具表面に自己潤滑被膜が形成される。これにより、引っかき摩耗の発生を防止することができるため、Cr系炭化物は不要になる。また、Cr及びCの含有量を少なくして、工具鋼中の共晶炭化物の含有量を低減することにより、靱性を向上させることができる。但し、Cr含有量が少ないと、錆びやすくなることから、Cr含有量の下限値は4.6質量%である。また、靭性の低下を抑制するために、Cr含有量の上限値は、4.90質量%である。よって、熱間工具鋼の場合は、Cr含有量を4.60乃至4.90質量%とする。
C:0.25乃至0.42質量%
前述の如く、Cは、Cr、Mo、W、V及びNb等の炭化物形成元素と結合して硬い複合炭化物を生成し、工具として必要な耐摩耗性の向上に著しい効果があるが、Cと共に炭化物を形成する元素に合わせて添加することが好ましい。また、Cは基地中に固溶して所要の硬さを付与する。但し、熱間工具鋼の場合、使用中に工具表面に自己潤滑被膜が形成されるため、炭化物は含まれていなくてもよい。また、熱間工具鋼においては、その表面に形成される自己潤滑被膜の厚さは、C量が少なくなりすぎると薄くなり、またC量が多くなりすぎても薄くなる。このため、本実施形態のように、Crの含有量が4.60乃至4.90質量%の熱間工具鋼の場合、C含有量の適正な範囲はより狭いものとなる。具体的には、C含有量が0.25質量%未満の場合、自己潤滑膜となる酸化被膜は形成されるが、耐摩耗性及び耐焼き付き性が悪化する。また、C含有量が0.42質量%を超えると、酸化被膜の厚さが10μm以上と厚くなり、酸化被膜が溶融して液体潤滑効果が得られる前に剥離してしまうと共に耐摩耗性及び耐焼き付き性が悪化する。よって、C含有量は0.25乃至0.42質量%とする。これにより、適切な厚さの酸化被膜が形成される。
Si:0.80乃至2.00質量%
前述の如く、Siは本発明の特徴的な元素である。Siは低融点である酸化物SiOを生成し、工具表面にこのSiOを主体とする低融点の酸化被膜を生成するという効果がある。この場合に、生成するSiOの構造が重要であり、α−Cristoballite構造は正方晶であり、硬度が高いため、生成しても効果がない。α−Tridymite構造は、斜方晶であり、溶融温度以下でも潤滑効果を持たせることができるが、溶融温度が1670℃程度と高くなるため、最適酸化物とはいえない。fayalite構造である(FeO)・SiO、FeSiO又は(FeSi)Crが生成すると、これらは1180℃程度で溶融し、自己潤滑性が得られる。
このようなfayalite構造のSi系複合酸化物(FeO)・SiO、FeSiO又は(FeSi)Crを形成させ、剥離しにくくするためには、Siの添加が不可欠であり、少なくとも、Siを0.30質量%以上添加する必要がある。Siを添加すると、FeOからなる酸化被膜が薄くなり、自己潤滑被膜の剥離を抑制することができる。
Crの含有量が4.60乃至4.90質量%の熱間工具鋼の場合、生成する酸化物の融点が高いため、少なくともSiを0.80質量%以上含有することでSi保有の酸化物(FeSi)Crを形成する。Siを過度に添加すると鋼の靭性を損なうため、Si含有量の上限は2.00質量%とする。
Mn:0.30乃至0.60質量%
Mnは、Crの含有量が15質量%以下の鋼の場合、Mnの含有量が0.3質量%未満では鋼の脱酸素効果がなく鋼中のO量が増えるため、含有させる必要がある。また、Mnを含有させることにより鋼の焼き入れ性を増し、耐摩耗性を高める。しかしながら、過度に添加すると熱処理時に焼き割れを生じること、又は多量の残留オーステナイトを生成して鋼を脆化することがあるため、Mnの含有量の上限を0.6質量%とする。
P:0.001乃至0.030質量%
Pは、Crの含有量が15質量%以下の鋼の場合、切り屑排出性を向上させるために0.001質量%以上含有させる。一方、Pの含有量が0.030質量%を超えると鋼の靭性が低下するため、Pの含有量の上限を0.030質量%とする。
S:0.030乃至0.045質量%
Sは、Crの含有量が15質量%以下の鋼の場合は、低融点の硫化物を生成して被削性を高めるが、その含有量が高いと、鋼の靭性を劣化させる。Crの含有量が4.60乃至4.90質量%の熱間工具鋼の場合、Sの含有量は0.030乃至0.045質量%とする。
Cu+Ni+Co:0.20乃至0.80質量%
Cu、Ni及びCoは、酸化被膜を剥離し難くするために重要な元素である。鋼にこれらの元素を含有させると、酸化被膜を薄くする効果がある。特に、Oとの親和力がFeに比べて小さいCu等を混入すると、Feが優先的に酸化されるため、これらの元素の酸化が抑制される。地鉄側に取り残された状態でFeの酸化が進行するため界面に凹凸が形成され、酸化被膜、即ち、自己潤滑被膜と母材との密着性が向上する。
Cu、Ni及びCoの総含有量が1.0質量%以内であれば、自己潤滑被膜と母材との界面に凹凸をつけて密着性を向上させる効果があるが、これらの総含有量が0.80質量%を超えると、1200℃以上での高温酸化性が悪化して、酸化被膜が厚くなり、剥離し易くなると共に、0.80質量%以下である場合と同等の効果しか得られず、大きな改善効果が得られない。また、Cu、Ni及びCoの総含有量が0.05質量%以上であれば、自己潤滑被膜の厚さを薄くすることができるが、これらの総含有量が0.20質量%未満であると、自己潤滑膜と母材との界面に凹凸が形成されず、密着性を向上する効果が得られない。よって、Cu、Ni及びCoの総含有量は、0.20乃至0.80質量%とする。
なお、Cuが0.050質量%以上含有される場合、赤熱脆性を起こすため0.025質量%のNiを複合的に含有させると脆性の抑止効果があるが、このように複合的に含有させる場合は、Niの含有量を0.10質量%以上にしても同等の効果しか得られない。また、NiをAl、Cr又はTi等と同時に含有させると、850℃程度での酸化被膜発生初期において、酸化被膜の剥離性を抑制する効果があるため、自己潤滑被膜の剥離を抑制することができる。
2Mo+W:2.40乃至3.60質量%
前述の如く、本実施形態の熱間工具鋼においては、C含有量が少ないため、Mo及びWが炭化物となって析出する量は少ないが、Mo及びWを鋼中に固溶させることにより、耐熱性及び強度を向上させる効果がある。このためには、2Mo+Wの総含有量が少なくとも2.40質量%必要である。しかしながら、2Mo+Wの総含有量が3.60質量%を超えると炭化物量が増え、熱膨張係数が小さくなりすぎるためにこれを上限とする。なお、Moは鋼中においてWと同等の効果を示すが、Moの原子量がWのそれの約1/2であることから、MoのW当量を2とする。
V:0.20乃至0.90質量%
Vは、本発明の重要元素であり、Si酸化物に代わるV系酸化物を生成し、酸化被膜の自己潤滑性を高める効果がある。酸化被膜の自己潤滑性を高める効果があるのは、Vを主体とする低融点のV系酸化物である。V含有量が0.20質量%未満であると、融点が高いV系酸化物が生成し、V低等の低融点のV系酸化物が生成されない。できれば、Vは0.8質量%以上含有させることが望ましい。一方、過度に添加すると鋼の靭性を損ない、熱膨張係数が低くなりすぎて剥離し易くなるため、V含有量の上限は0.90質量%とする。
粒径が3μmを超える炭化物が存在せず、断面における炭化物の面積率が5%以下
熱間工具鋼は、加熱状態で使用されるため、その使用条件にかかわらず、工具表面に酸化被膜が形成される。このため、前述の熱が発生しない引っかき摩耗が生じる冷間工具鋼のように、多量の炭化物を必要としない。また、炭化物上には、酸化被膜は形成されないため、この部分には自己潤滑効果が得られない。よって、自己潤滑被膜に影響を与えないように、炭化物含有量を制限する。粒径が3μmより大きい炭化物が含まれていると、自己潤滑膜が形成されない領域が大きくなり、焼き付きが発生しやすくなる。また、比較的影響が少ない粒径が3μm以下の炭化物であっても、その面積率が5%を超えると、自己潤滑被膜が剥離しやすくなる。よって、炭化物の粒径は3μm以下とし、その面積率は5%以下とする。
非金属介在物の清浄度がJISG0555で規定するdA60×400において0.020%以下、d(B+C)60×400において0.003乃至0.015%であると共に、粒径が10.0μmを超える非金属介在物の面積率が0.004%以下
鋼の構成成分を制限しても、非金属介在物が多いか又は大きいものが存在すると、金型等の工具の表面に生成した酸化物が剥離し、自己潤滑被膜を構成する上で必要な元素が減ずる。よって、非金属介在物の清浄度をJIS規格0555においてdA60×400で0.020%以下、d(B+C)60×400で0.003乃至0.0015%であると共に、鋼材の断面における粒径が10.0μmを超える非金属介在物の面積率を0.004%以下とする。
次に、本発明の第1及び第2の実施形態の工具鋼において、更に他の添加成分の成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
O:0.0005乃至0.0080質量%
Oを0.0080質量%以上含有していると、Al、Ti、Ce及びZr等の酸化物が自己潤滑被膜を形成する前に、粗大化してしまい、自己潤滑被膜が剥離しやすくなると共に靱性が劣化する。また、O含有量が0.0005質量%以下になると、酸化物が生成されにくくなると共に、製鋼時の精錬が難しくなってその費用がかかる。よって、O含有量は0.0005乃至0.0080質量%であることが好ましい。
金型等の表面に生成するFeは、高融点であるうえに酸化被膜が生成しても母材と酸化被膜の熱膨張係数の差によって剥離するため、自己潤滑効果は得られなかった。本発明者等は、酸化被膜と母材との膨張差を小さくすることにより、酸化被膜の剥離を抑制できることを見出した。そこで、本発明においては、組織と成分を制御し、酸化被膜の剥離する起点となる母材中の介在物の量を極端に少なくすると共に、最大介在物粒径を制御することにより、酸化被膜を安定化させている。但し、生成する酸化被膜が厚すぎると剥離しやすい。酸化被膜を抑制する元素として、Al、Ti、Ce及びZr等があるが、これらの元素は鋼材中に酸化物及び窒化物が存在すると効果がない。よって、介在物量を少なくするためには、鋼材中に含まれるOとN量を少なくすることが好ましい。
Alの含有量が0.008乃至0.80質量%か、又はTi+Ce+Zi:0.001乃至0.100質量%
Alを添加すると、金型表面に形成される高融点のFeO層が薄くなると共に、自己潤滑被膜と母材との界面に凹凸が形成されるため、自己潤滑被膜の密着性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Alを0.008質量%以上添加する必要がある。一方、Al含有量が0.80質量%を超えると、自己潤滑被膜と母材との界面が平滑になる。更に、2質量%を超えると高融点であるAlが生成するために酸化被膜の溶融が期待できない。このため、Al含有量は0.008乃至0.80質量%に限定する。
Ti、Ce及びZrは、Alと同様の酸化被膜の厚さが増加することを抑制する効果がある。Tiは鉱石等に含まれて鋼材の不純物として含まれることが多い。Ti+Ce+Zrの総含有量が0.001質量%以上であると、酸化被膜の厚さの増加を抑える効果が得られるが、これらの総含有量が0.100質量%を超えると酸化被膜を厚くなることを抑える効果がなくなるため、0.100質量%をTi+Ce+Zrの総含有量の上限とする。
本発明は、工具鋼を金型として使用中に発生する熱を利用して、低融点で硬度が低い酸化被膜を生成させた後に、その熱と加工面圧力により酸化被膜を溶融させるものである。また、靭性を低下させる元素及び環境に有害な元素の添加量を抑制すると共に、従来の快削鋼のように切削能率を落とすことなく、重切削条件でも高硬度材を加工できるという効果を奏する。
Ca、Mg及びBNは、Al添加と同一の効果があるが、含有させると酸化物が生成し易く、Al含有量が多い状態で含有させると硬質の介在物が発生するため、被削性及び靭性を劣化させる。よって、本発明の第1の実施形態の冷間工具鋼及び第2の実施形態の熱間工具鋼においては、Ca、Mg及びBNは、含有させない。
次に、本発明の第1及び第2の実施形態の工具鋼に形成される自己潤滑被膜について説明する。一般に、金型使用中の摩擦熱又は金型制作時の切削加工中の熱によって、金型の表面に、Fe又はCr等の酸化物により酸化被膜が形成される。下記表1に各種酸化物の融点及び熱膨張係数を示す。下記表1に示すように、Feの融点は1550℃であり、その硬度は約1800Hvである。また、Crの融点は1990℃であり、硬度は2914Hvである。このように、これらの酸化物はいずれも金型の焼き付き発生温度(約1200℃)よりも融点が高い。一方、SiOを主体とするSiO−CuOは融点が約1060℃であり、SiO−FeOは融点が約1180℃及び硬度が約1600Hvであり、V及びVは融点が690℃及び硬度が約1000Hvであり、Fe・Vは融点が855℃及び硬度が約1000Hvであり、CaO−FeOは融点が1100℃及び硬度が約1000Hvである。このため、これらの酸化物をからなる酸化被膜は、金型使用中の摩擦熱又は金型制作時の切削加工中の熱によって溶融する。よって、金型表面にこれらの酸化物からなる酸化被膜、即ち、自己潤滑被膜を形成することにより、金型に自己潤滑性を持たせることができる。
Figure 0004093978
図3(a)乃至(c)は金型の焼き付き発生工程をその工程順に示す断面図であり、図3(d)は図3(b)の拡大断面図である。また、図4(a)乃至(c)は自己潤滑被膜による摩耗抑制機構をその工程順に示す拡大断面図である。一般に、金型を使用した成形を行う場合、図3(a)に示すように下部金型11上に被加工鋼材10を配置した後、図3(b)に示すように上部金型12により被加工鋼材10を押圧し、図3(c)に示すように所定の形状に成形された被加工鋼材10を取り出す。このとき、図3(d)に示すように、面圧が強く加わる金型の表面は、摩擦熱により600乃至800℃前後の温度となり、特に金型11及び12のコーナー部には他の部分よりも高温の部分13ができ、焼き付き14及び凝着摩耗等が発生する。なお、金型表面の温度は、焼き付き発生直後にはさらに温度が上昇して1200℃以上になる。一方、本実施形態の工具鋼を使用した金型は、図4(a)に示すように、加工時の摩擦熱により上部金型22の表面に高温部23が生じ、更に、図4(b)に示すように、上部金型22の表面に低融点の酸化物であるSiOを主体とするSiO−CuOからなる自己潤滑被膜24が形成される。このSiO−CuOの融点は1060℃であるため、図4(c)に示すように、加工中に自己潤滑被膜24が溶融して溶融酸化物24aとなり、その液体潤滑効果により焼き付きの発生を防止すると共に、耐摩耗性を向上することができる。なお、このような自己潤滑被膜24は、融点が1200℃以下で、熱膨張係数が11.0乃至12.8K−1であり、Si又はVを主体とする酸化物により形成されていることが好ましい。
金型の焼き付き及び高速加工時の温度である1200℃以上で有効に溶融し潤滑効果がでるコランダム(Corundum:アルミナ粉)系のCaO・2Al又は3Al・2SiO等の介在物が生成させて切削加工等を実施しても、耐磨耗性及び被削性の改善効果が表れない。これらの原因は介在物の溶融開始温度が1200℃よりも高く、また、硬度が高く、潤滑効果が表れる温度に達するまでの間に金型表面及び切削工具を摩耗させるからである。
そこで、本発明者等は、切削及び摩耗点でのみに被削性と耐摩耗性を改善する機構を検討し、切削及び摩耗点のみで改善させるには、接触点で瞬時に溶融させ生成物の密着性がよいことが必要であることを見出した。接触点の温度を考えると、約600℃から徐々に温度が上がり、焼き付きが発生しない温度でもある1200℃以下で酸化被膜が溶融することが必要である。通常生成する酸化被膜はFe又はCrであり、Feの融点は1550℃、Crの融点は1990℃で、融点は1200℃よりも高い。従って、これらの被膜が形成されても、溶融する前に焼き付きを発生してしまうため、自己潤滑効果が得られない。
この鋼材中の膨張係数を制御するには、鋼中の母材成分と組織並びに炭化物量を制御することが重要である。炭化物自体は、熱膨張係数が小さく、大きさ及び分散状況によって鋼材の熱膨張係数が変化する。更に、鋼材にAlを添加させてAlを生成させると、工具を被覆し被削性を改善する効果がある。しかしながら、Feの熱膨張係数は14.6K−1であり、超硬合金の熱膨張係数は平均して約6.0K−1であり、Alの熱膨張係数は8.1K−1であるが、これらは熱膨張係数の差があり、すぐ剥離してしまうため、それぞれの切削工具等により被削性の改善効果に大きな差が出る等の欠点があった。また同時に、多量にAlを含有させた場合、金型の表面に生成したAlが剥離して金型及び加工される鋼材を傷つけることがあり、これらが欠点としてあげられる。
通常は、Crの含有量が3質量%以上の工具鋼の酸化物はFeCrを母材の界面組織とし、FeO、Fe及びFeを最表面に発生する。Crの熱膨張係数は8.7K−1と小さい。
また、JIS規格の工具鋼の場合、SKD61、SKD11の熱膨張係数は、20乃至800℃において約12.3K−1と大きいために酸化被膜が剥離してしまう。一方、本発明の第1の実施形態の冷間工具鋼及び第2の実施形態の熱間工具鋼は、低融点であるSiを主体とするSiO又はSiO・FeO等の酸化物が生成するため、その熱膨張係数が10.7乃至11.3K−1となり、酸化被膜の剥離を抑えることができる。但し、自己潤滑被膜を形成する酸化物の熱膨張係数が11.0K−1未満であると、金型を加熱した際に酸化被膜が剥離してしまうことがある。また、自己潤滑被膜を形成する酸化物の熱膨張係数が12.8K−1より大きいと、金型を冷却した際に酸化被膜が剥離してしまうことがある。よって、自己潤滑被膜は、熱膨張係数が11.0乃至12.8K−1である酸化物により形成されていることが好ましい。このような熱膨張係数をもつ酸化物としては、例えば、Si、Al及びVからなる群から選択された少なくとも1種の元素を主体とする酸化物、又は、Si、Al及びVからなる群から選択された少なくとも1種の元素を含む酸化物と酸化鉄との複合酸化物等がある。
工具鋼の耐摩耗性及び耐焼き付き性の改善をするためには、種々の表面処理を実施する必要があったが、本発明鋼は、それらを実施せずに耐摩耗性を向上させ、従来の表面処理するうえでの欠点であった、鋼材価格の高騰及び表面処理時に変寸を発生させる等の点を解消するものである。
本発明鋼は、金型使用中の摩擦熱及び金型作成時の切削加工中の熱を利用し、低融点で硬度の低い酸化物からなる自己潤滑被膜を生成させた後に、その熱と圧力によりこの自己潤滑被膜を溶解させる。これにより、液体潤滑効果が発生し金型自身が自己潤滑性を有することで、耐摩耗性と耐焼き付き性、被削性を改善する。
以下、本発明の実施例の効果について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。下記表2に本願第1発明の実施例及び比較例の冷間工具鋼の組成を、下記表3に本願第1発明の実施例及び比較例の熱間工具鋼の組成を示す。なお、下記表2及び表3において、残部はFe及び不可避的不純物である。下記表2及び表3に示す組成の供試材は、通常の製鋼法で溶製し、鍛錬比が4以上で鍛造したものを放冷して得た。そして、これらの供試材を、800乃至900℃の温度で焼きなました後、900乃至1180℃の油冷温度で焼入れを行い、更に200乃至650℃で焼戻して、ロックウエル硬度で40乃至64HRCにした。
Figure 0004093978
Figure 0004093978
下記表4に各供試材における介在物の清浄度、粒径が10.0μmを超える介在物の面積率、炭化物の最大粒径及び面積率を示す。介在物の清浄度は、JIS規格におけるG0555にて測定した。また、介在物及び炭化物の粒径は、表面、中心において1mmの視野内を400倍の顕微鏡にて最大の介在物及び炭化物を探し、その顕微鏡写真から求めた。更に、介在物及び炭化物の面積率は、シュウ酸によりその表面を腐食させた後、1000倍で顕微鏡写真を撮影し、その1mmを画像解析することにより求めた。なお、下記表4に示す炭化物の面積率は、実施例1乃至12及び比較例1乃至5の冷間工具鋼については、粒径が3乃至300μmの炭化物の面積率であり、実施例13乃至20及び比較例6乃至11の熱間工具鋼については全炭化物の面積率である。
Figure 0004093978
次に、各供試材の耐摩耗性及び被削性を評価すると共に、摩耗試験中に、Si、Al及びVからなる群から選択された少なくとも1種の元素を主体とする酸化物からなる自己潤滑被膜、又は、Si、Al及びVからなる群から選択された少なくとも1種の元素を含む酸化物と酸化鉄との複合酸化物からなる自己潤滑被膜が生成し、この自己潤滑被膜が溶融して溶融酸化物になったかどうか、即ち、これらの溶融酸化物の有無について調べた。被削性試験は、2枚刃のエンドミルで供試材の側面切削を行い、切り込み量が15mm、切削幅が1mm、切削速度が21m/分、送り速度が94mm/分、回転数が670回転/分、1刃当たりの送り量が0.070mm/刃の条件で行った。
被削性評価は、切削長さが6mのときのエンドミル工具の焼け具合で評価した。評価は◎がいちばん優れているとし○、△、×、の順で優れているとする。摩耗量が少なく、工具が焼けていない場合は◎の評価、摩耗量又は焼け具合のどちらかが若干劣る場合は○、又は△の評価、摩耗量及び焼け具合が最悪の場合は×と判定した。
摩耗試験は大越式摩耗試験機を使用した。図5は大越式摩耗試験機の模式図である。摩耗試験は、ロックウエル硬度45HRCに熱処理したJIS規格G4805において規定される高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ2(以下、SUJ2という)を相手材とし、0.3m/秒及び1.96m/秒で回転させ、最終荷重61.7Nをかけ、外周の長さで400m擦動させた後、各供試材の摩耗量を測定した。その際、摩耗痕の大きさからその体積を求めて摩耗量とした。
具体的には、図5に示すように、SUJ2である相手材31のリングを回転させながら、供試材32を摩耗させた。このときの摩耗痕深さhと摩耗痕幅bとの間には、下記数式1に示す関係がある。
Figure 0004093978
また、供試材32の摩耗体積は、半月円の部分の体積となるため、下記数式2に示す関係式が幾何学的な計算によって求められる。
Figure 0004093978
更に、2つの固体が面積Sで接触し、そのときの接触圧力をPとすると、微小距離dLだけ滑る時の摩耗量dWは、下記数式3で表される。
Figure 0004093978
ここで、Wsは被摩耗材料に対する摩耗特性を表す比例定数であるため、これを比摩耗量とし、このWsによって評価した。
また、溶融酸化物の有無は、摩耗試験中に発生した摩耗粉を採取し、不純物を除去するためにアセトンにて超音波洗浄後、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)にてその形状を確認した。そして、その摩耗粉の形状が、凹凸が少なく球状の形状であれば酸化被膜が溶融して溶融酸化物が形成されたものとし、凹凸が激しい形状である場合は酸化被膜が溶融せず溶融酸化物が形成されなかったと判断した。その結果、30個の摩耗粉を採取し、その中に含まれる凹凸が少なく球状に近い形状の摩耗粉の割合が30%未満であれば×とし、30%以上60%未満であれば△、60%以上80%未満であれば△、80%以上であれば◎と判断した。以上の評価結果を下記表5にまとめて示す。
Figure 0004093978
上記表5に示すように、最大粒径が2.8μmと小さく、炭化物の面積が少なく、更に、潤滑被膜に必要な元素であるCr、Al、Cu、Ni及びCoが少ない比較例1の冷間工具鋼は、安定した自己潤滑被膜が形成されず、耐摩耗性及び被削性が劣っていた。また、比較例2乃至5の冷間工具鋼は、Cr含有量が多いため酸化被膜は成形されやすいが、最大炭化物が320μm以上と大きいため、自己潤滑被膜が形成されない領域が多く、焼き付きが発生しやすくなり、耐摩耗性が劣っていた。一方、炭化物の大きさを300μm以下とし、Cr、Cu、Ni及びCo等の含有量を本発明の範囲内とした実施例1乃至5の冷間工具鋼は、比較例1乃至5の冷間工具鋼よりも耐摩耗性及び被削性が優れていた。更に、Al、Ti、Ce及びZrを添加した実施例6乃至12の冷間工具鋼は、自己潤滑被膜が安定化して、耐摩耗性が大幅に向上した。
比較例6乃至11の熱間工具鋼は、O含有量が0.0100質量%以上であるため、非金属介在物含有量が多い。また、比較例6、8及び9の熱間工具鋼は自己潤滑被膜を生成及び安定化させるために重要なCu、Ni及びCoの総含有量が0.9質量%と多く、比較例10及び11の熱間工具鋼は、Ti、Ce及びZrの総量が0.11質量%以上と多いため、鋼材を製造中に酸化物系介在物を多く生成するため、自己潤滑被膜形成時に効果を発揮しない。このため、自己潤滑被膜が母材から剥離しやすく、耐摩耗性及び焼き付き性に効果がない。一方、実施例13乃至19の熱間工具鋼は、O含有量が少なく、自己潤滑被膜を形成する元素であるCu、Ni、Co、Ti、Ce、Zr及びAlを添加しているため、安定した自己潤滑被膜が生成され、前述の比較例6乃至11の熱間工具鋼よりも、耐摩耗性、耐焼き付き性及び被削性が優れていた。
また、溶融酸化物の有無については、比較例1乃至5の冷間工具鋼及び比較例6乃至11の熱間工具鋼の摩耗粉は、Cr又はFeを主体としたもので、いずれも凹凸が激しい形状である場合あったが、実施例1乃至12の冷間工具鋼及び実施例13乃至20の熱間工具鋼の摩耗粉は、Al、Si及びFeを主体とした酸化物であり、いずれも凹凸が少なく球状であった。図6(a)は実施例7及び比較例2の冷間工具鋼における摩耗粉の形態を示すSEM写真(倍率:115倍)であり、図6(b)は図6(a)に示す摩耗粉AのSEM写真(倍率:600倍)であり、図6(c)は摩耗粉BのSEM写真(倍率:600倍)であり、図6(d)は摩耗粉CのSEM写真(倍率:600倍)である。なお、図6(a)に示す摩耗粉Aは比較例2の冷間工具鋼の摩耗試験初期の摩耗粉であり、摩耗粉Bは比較例2の冷間工具鋼の摩耗試験末期の摩耗粉であり、摩耗粉Cは実施例7の冷間工具鋼の摩耗粉である。例えば、図6(a)及び(b)に示す比較例2の冷間工具鋼の摩耗試験初期の摩耗粉Aは、削りとられた切り屑に近い形状であったが、図6(a)及び(c)に示す摩耗試験末期の摩耗粉Bは、接触面が加熱され酸化物に近い形状になった。一方、本発明の範囲内である実施例7の冷間工具鋼は、図6(a)及び(d)に示すように、球状であり、溶融後瞬時に冷却されることにより形成された摩耗粉であった。
図7(a)は実施例7及び比較例2の冷間工具鋼における摩耗粉の形態を示すSEM写真(倍率:100倍)であり、図7(b)はその中に含まれるCをEDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy:エネルギー分散型X線分光法)により分析した結果であり、図7(c)はNのEDX分析結果であり、図7(d)はOのEDX分析結果であり、図7(e)はCrのEDX分析結果であり、図7(f)はMgのEDX分析結果であり、図7(g)はAlのEDX分析結果であり、図7(h)はSiのEDX分析結果である。図7(b)乃至(h)に示すように、比較例2の熱間工具鋼の摩耗粉A及び摩耗粉Bは、Fe及びCrを主成分とした酸化物及び窒化物であった。一方、実施例7の熱間工具鋼の摩耗粉Cは、Fe、Al及びSiを主成分とした酸化物及び窒化物であった。このように、鋼材にAl、Siを含有させることにより、金型等の工具の表面に、加工中に発生する熱により溶融する酸化被膜、即ち、自己潤滑被膜を形成することができるようになり、その摩耗量を従来の工具鋼の(1/10)乃至(1/3)程度に軽減することができることができた。
鋼材表面の一般的な酸化を表す模式図である。 鋼材中に酸化抑制元素を含有させた場合の鋼材表面の酸化状態を表す模式図である。 (a)乃至(c)は金型の焼き付き発生工程をその工程順に示す断面図であり、(d)は(b)の拡大断面図である。 (a)乃至(c)は自己潤滑被膜による摩耗抑制機構をその工程順に示す模式図である。 大越式摩耗試験機の正面及び側面図である。 (a)は摩耗粉の形状を示すSEM写真(倍率:115倍)であり、(b)は(a)に示す摩耗粉AのSEM写真であり(倍率:600倍)、(c)は(a)に示す摩耗粉BのSEM用写真であり(倍率:600倍)、(d)は(a)に示す摩耗粉CのSEM写真である(倍率:600倍)。 (a)は摩耗粉の形状を示すSEM写真(倍率:100倍)であり、(b)はその中に含まれるCをEDXにより分析した結果であり、(c)はNのEDX分析結果であり、(d)はOのEDX分析結果であり、(e)はCrのEDX分析結果であり、(f)はMgのEDX分析結果であり、(g)はAlのEDX分析結果であり、(h)はSiのEDX分析結果である。
符号の説明
1;自己潤滑被膜
2;母材
3;酸化抑制元素
10;被加工鋼材
11、21;下部金型
12、22;上部金型
13、23;高温部
14;焼き付き部
24;自己潤滑被膜
24a;溶融酸化物
31;相手材
32;供試材

Claims (5)

  1. 冷間工具鋼用の自己潤滑性を有する工具鋼において、C:0.8乃至1.60質量%、Si:0.30乃至1.0質量%、Mn:0.30乃至0.60質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.050乃至0.090質量%、Cr:6.0乃至13.0質量%、2Mo+W:0.10乃至3.00質量%、V:0.20乃至3.00質量%、Cu+Ni+Co:0.20乃至0.80質量%を含有し、更に、O:0.0005乃至0.0080質量%を含有すると共に、Al:0.008乃至0.800質量%及びTi+Ce+Zr:(総量で)0.001乃至0.100質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、粒径が300μmを超える炭化物が存在せず、粒径が3乃至300μmの炭化物が面積率で3%以上であることを特徴とする自己潤滑性を有する工具鋼。
  2. 熱間工具鋼用の自己潤滑性を有する工具鋼において、C:0.25乃至0.42質量%、Si:0.80乃至2.00質量%、Mn:0.30乃至0.60質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.030乃至0.045質量%、Cr:4.60乃至4.90質量%、2Mo+W:2.40乃至3.60質量%、V:0.20乃至0.90質量%、Cu+Ni+Co:0.20乃至0.80質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、粒径が3μmを超える炭化物が存在せず、炭化物の面積率が5%以下であり、非金属介在物の清浄度がJISG0555で規定するdA60×400において0.020%以下、d(B+C)60×400において0.003乃至0.015%であると共に、粒径が10.0μmを超える非金属介在物の面積率が0.004%以下であることを特徴とする自己潤滑性を有する工具鋼。
  3. O:0.0005乃至0.0080質量%を含有すると共に、Al:0.008乃至0.800質量%及びTi+Ce+Zr:(総量で)0.001乃至0.100質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項に記載の自己潤滑性を有する工具鋼。
  4. 金型用工具鋼であって、金型として使用した際に発生する摩擦熱により、融点が1200℃以下で、熱膨張係数が11.0乃至12.8K−1であり、Si、Al及びVからなる群から選択された少なくとも1種の元素を主体とする酸化物からなる自己潤滑被膜を生成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自己潤滑性を有する工具鋼。
  5. 金型用工具鋼であって、金型として使用した際に発生する摩擦熱により、融点が1200℃以下で、熱膨張係数が11.0乃至12.8K−1であり、Si、Al及びVからなる群から選択された少なくとも1種の元素を含む酸化物と酸化鉄との複合酸化物からなる自己潤滑被膜を生成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自己潤滑性を有する工具鋼。
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