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JP4047395B2 - 核酸の同時増幅方法 - Google Patents

核酸の同時増幅方法 Download PDF

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JP4047395B2 JP15574794A JP15574794A JP4047395B2 JP 4047395 B2 JP4047395 B2 JP 4047395B2 JP 15574794 A JP15574794 A JP 15574794A JP 15574794 A JP15574794 A JP 15574794A JP 4047395 B2 JP4047395 B2 JP 4047395B2
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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、標的ではない核酸配列の増幅を抑制しながら標的の核酸配列を容易に増幅し検出できる、2種以上の核酸配列を非常に迅速に優先増幅する方法に関する。使用する増幅技法はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。
【0002】
【従来の技術】
ヒトや動物の試料中に少量存在する各種の疾患、微生物または遺伝的特徴を検出するための手段としての価値が発見されたために、最近では核酸プローブ技法が急速に開発されている。
【0003】
微生物や細胞の中の標的とされる核酸配列はDNA分子全体のほんのわずかな部分を占めるにすぎない場合があるため、ほとんどの標識DNAプローブではその存在を検出することは非常に困難である。標的とされる核酸のわずかな数の分子を検出するための方法を見い出すべく多くの研究が行われてきた。
【0004】
当該技術分野では、非常に低濃度の標的核酸を検出できる著しい進歩がPCRである。PCRの詳細については、例えば米国特許出願第4,683,195号、同第4,683,202号及び同第4,965,188号明細書に記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ヒトや動物のDNA検体は多数の様々な核酸を含有する。あるものはヒトや動物の生体内に固有に(天然に)存在し、またあるものは、感染性作因(例、ウイルス、細菌または寄生体)の存在などの何らかの異常状態、または発ガン性状態が原因で発生する。原因となる微生物や作因が存在するかどうかを知るために検出されることが往々にして望まれているのがこうした「非天然の」核酸である。通常、感染性作因や発ガン性状態に関係のある核酸は比較的低濃度で存在する。しかし、早期診断、早期処置のためにはこれらをそうした濃度で検出することが望まれる。このような核酸は、しばしば「コピー数の少ない遺伝子」とか「コピー数の少ない核酸」と呼ばれている。
【0006】
これに比べて、検体となるヒトや動物に通常存在する核酸は比較的高濃度で存在することが多い。このような核酸は、しばしば「コピー数の多い遺伝子」とか「コピー数の多い核酸」と呼ばれている。こうした例の一つとしてヒトβ−グロビンDNAが挙げられる。
【0007】
PCRを利用する際には、検体中に存在する2種以上の核酸を同じ反応容器内で同時に増幅させることが多い(本明細書ではこのことを「同時増幅」と称して区別する)。同時増幅では、増幅すべき核酸の各々に対するプライマーが容器内に同時に存在しなければならない。増幅工程終了時には、すべての核酸の濃度が指数増加している。
【0008】
一般に、コピー数の多い核酸は、PCR後に高強度シグナルを与えるだけでなく、同じ検体中のコピー数の少ない核酸の増幅から得られるシグナルを弱めてしまう場合もある。このため、コピー数の少ない核酸からのシグナルは隠れてしまい検出が困難になる恐れがある。偽陰性の結果が得られやすくなり、また発ガン性状態が原因のDNAやHIV−IのDNAを検出するなど多くの場合において、このことは重大な結果を招くことになろう。コピー数の少ない核酸のシグナルを増大させるため、増幅試薬濃度が高められたが、これによって増幅効率が常に向上するとは限らない。この方法では、検定コストも増加してしまう。一般に、複数のプライマー組を用いたコピー数の少ない核酸の同時増幅は、コピー数の多い核酸のためにより困難となる。
【0009】
このように、当該技術分野では、コピー数の多い核酸の存在下でコピー数の少ない核酸を、どちらも検出し易く且つ大きさのほぼ等しいシグナルを与えるように増幅させる方法に対するニーズが非常に大きい。
【0010】
この課題を解決する方法の一つは、標的のコピー数の少ない核酸に対するシグナルがコピー数の多い核酸のシグナルと同等になるように、プライマー比率を変える方法である。この方法では、コピー数の多い核酸に対するプライマーの濃度を低下させなければならない。この方法にまつわる問題は、PCR処理の制御が十分には達成されないことである。
【0011】
コピー数の多い核酸に対するプライマーを少量使用することによってPCRを変調させると、その核酸の増幅効率はPCR処理全体にわたり低下する。これは、増幅を成功させるためには標的核酸(いずれのコピー数のものでも)を最初の2〜3回のPCRサイクルで2倍にしなければならないので、非常に望ましくない恐れがある。このような重要な初期サイクルで核酸の複製に失敗すると、検体中に比較的高濃度で存在しているにもかかわらず核酸が増幅されない事態、いわゆる「不発」を招くことがしばしばある。このため、プライマー濃度だけを変えて得られるよりも高いPCR制御が必要である。
【0012】
同時増幅に対する別の方法は、コピー数の多い核酸に対するプライマーがコピー数の少ない核酸に対するプライマーよりも低速でアニールするようにPCRにおけるアニーリング温度を調整する方法である。この方法は、コピー数の多い核酸に対するプライマーのTm よりも若干高い温度でアニールする方法を通常は意味する。
【0013】
この方法にも問題がある。良好な変調(または「バイアス化」)にはプライマー対間のTm 差が比較的大きいことが必要である。また、コピー数の多い核酸とコピー数の少ない核酸とでPCRの収率に差がでる場合もある。
【0014】
プライマーの正確なTm は(概算は可能であるが)計算することができないので、これを測定しなければならない。当業者でここまで努力する人はおらず、代わりに実験を重ねてPCRのアニーリング温度を変更することで所望の結果を得ている。この作業は大変であり、またコストもかかる。このため、PCRが活発に進行し、しかも増幅されたコピー数の少ない核酸及びコピー数の多い核酸からのシグナルを容易に調整できる系の変調に大きな融通性を付与する同時増幅に対するニーズがなおも存在している。
【0015】
既知の同時増幅法に対する上記問題をもたらすことなく、同時増幅されるコピー数の多い核酸の存在下で標的となるコピー数の少ない核酸に対する高く且つ検出可能なシグナルを実現することが望まれる。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明による核酸の同時増幅法は、
A)2種以上の標的核酸を含むと思われる試料を加熱する工程であって、標的核酸の少なくとも1種はコピー数の多い標的核酸であり、また標的核酸の少なくとも1種はコピー数の少ない標的核酸であり、該加熱は、コピー数の多い標的核酸とコピー数の少ない標的核酸の鎖を変性させるために85〜100℃の第一温度で1〜40秒間実施される前記工程;
B)5〜20秒間かけて第二温度T2 へ冷却することによって、増幅すべき各標的核酸の対向鎖に特異的で、かつ、これらにハイブリダイズ可能な一組のプライマーで変性鎖をプライムする工程であって、T2 は、
(TmL−15)℃≦T2 ≦(TmL+5)℃
として規定され、ここでTmLはコピー数の少ない標的核酸に対するプライマーの融解温度であって、コピー数の多い標的核酸に対するプライマーの融解温度T mH より高く、T mL とT mH の間の差ΔTは2〜8℃であり、コピー数の多い標的核酸に対する各プライマーの濃度は0.01〜0.8マイクロモルの範囲内にあり、かつ、コピー数の少ない標的核酸に対する各プライマーの濃度は0.1〜10マイクロモルの範囲内にある前記工程;
C)1)溶液100μl当たり少なくとも5ユニットの量で存在する熱安定性DNAポリメラーゼ、及び
2)DNA重合に有効な量で存在する2種以上のデオキシリボヌクレオチド−5’−トリホスフェート
の存在下でプライマー伸長生成物を形成させる工程であって、前記生成物は第三温度T3 において1〜80秒間インキュベートすることによって形成され、T3 は、
(TmL−15)℃≦T3 ≦(TmL+15)℃
として規定される前記工程;
D)5〜20秒間かけて前記プライマー伸長生成物を前記第一温度へ加熱して、その温度で前記生成物を1〜40秒間保持する工程;並びに
E)前記工程B〜Dを1サイクルとして1回以上逐次繰り返すが、その際工程B〜Dの各サイクルは20〜90秒で実施する工程;
を含んで成り、 2 及びT 3 はどちらもT mL とT mH の間にあるかまたはT mL 及びT mH のいずれかに等しい
【0017】
ポリメラーゼ連鎖反応を利用した核酸の増幅及び検出についての一般的な原理及び条件は非常によく知られている。
【0018】
本発明は、試験試料中の1種以上のコピー数の少ない標的核酸において存在する1種以上の特定の核酸配列を増幅または検出することに関する。これらの核酸は、一般に低濃度で存在し、また当該技術分野では検体中の他の核酸と比べて「コピー数の少ない」と認識されているものである。一般に、コピー数の少ない標的核酸は検体中に10-16 モル未満の量で存在する。しかしながら、その量は、「コピー数の多い」核酸がはるかに多量に、例えば1000倍以上の濃度で存在する場合には、さらに高くなる場合もある。本発明によってまた増幅される「コピー数の多い」標的核酸は、遺伝的異常、感染性作因及びガンに一般に関連した核酸である。このような核酸を増幅する一方で、本発明の意図は、その高濃度効果を調節または抑制することで、コピー数の少ない標的核酸をより容易に検出できるようにすることにある。
【0019】
さらに、コピー数の多い標的核酸は検定において「正制御」として使用することができる。コピー数の多い標的核酸のPCR効率を変調することによって、反応系に存在しうるPCRインヒビターに対して正制御の感受性をより高めることができる。こうして、PCRが効率的に実施された場合にのみ正制御は検出可能となるため、偽陽性の可能性が低減される。このような場合、コピー数の多い標的核酸は、コピー数の少ない標的核酸の10倍以上の濃度で存在することができる。
【0020】
試験試料には、検出可能な遺伝子DNAまたはRNAを含有する細胞体やウイルス体、髪、体液またはその他の材料が含まれうる。検出の主目的は元来診断にあるが、本発明は、DNAやメッセンジャーRNAのクローニング効率を改善するために使用することも、或いは化学合成で得られた核酸混合物から所望の配列を大量に得るために使用することも可能である。
【0021】
増幅すべき核酸は、何らかのソース(例えば、細菌、酵母、ウイルス、植物、高等動物またはヒト)に由来するプラスミドや天然のDNAまたはRNAをはじめとする各種ソースから得ることができる。核酸は、周知の手順を用いて、血液、末梢血液単核細胞(PBMC)、他の組織体、または当該技術分野で知られている他のソースをはじめとする各種組織から抽出することもできる。本発明は、ゲノムDNA、細菌DNA、菌類DNA、ウイルスRNAまたは細菌やウイルスに感染した細胞に見られるDNAもしくはRNAに存在する核酸配列を増幅して検出するのに特に有用である。さらに、本発明を利用して、ガンに関連した核酸を増幅して検出することができる。
【0022】
本発明に有用なプライマーは、いくつかのソースから入手することができるか、または周知の技法や装置によって調製することができる。周知の技法及び装置には、例えば、ABI DNAシンセサイザー(Applied Biosystemから入手可能)や、Biosearch 8600シリーズまたは8800シリーズのシンセサイザー(Milligen−Biosearch社から入手可能)、並びにそれらの(米国特許出願第4,965,188号明細書に記載されているような)周知の使用方法が含まれる。生物学的ソースから単離された天然プライマーも有用である。本明細書中の用語「プライマー」は、プライマー混合物をも意味する。
【0023】
DNAポリメラーゼは、プライマーと鋳型の複合体においてデオキシリボヌクレオシドモノホスフェート分子をプライマーの3’−ヒドロキシ末端へ付加させる酵素であるが、この付加反応は鋳型依存性(すなわち、鋳型中の特定のヌクレオチドに依存する)である。有用なDNAポリメラーゼには、例えばE.coliDNAポリメラーゼ、T4DNAポリメラーゼ、Klenowポリメラーゼ、逆転写酵素、及び当該技術分野で知られている他のポリメラーゼが含まれる。
【0024】
DNAポリメラーゼは「熱安定性」であることが好ましい。「熱安定性」とは、一般に熱に安定であり、しかもより高温で、とりわけDNA鎖の変性に使われる高温で優先的に活性が高いという意味である。
【0025】
当該技術分野では、いくつかの熱安定性DNAポリメラーゼが、米国特許出願第4,965,188号及び同第4,889,818号明細書に記載されているものをはじめとする各種文献に報告されている。特に有用なポリメラーゼは、各種のサーマス(Thermus)菌種から得られるものである。好ましい熱安定性酵素は、サーマス アクアティカス(Thermus aquaticus)、サーマス フィリフォルミス(Thermus filiformis)、サーマス フラバス(Thermus flavus)またはサーマス サーモフィラス(Thermus thermophilus)から得られるDNAポリメラーゼである。
【0026】
DNAポリメラーゼ補助因子は、酵素がその活性のために必要としている非タンパク質性化合物を意味する。有用な補助因子には、マンガンやマグネシウムの塩、例えば塩化物、硫酸塩、酢酸塩及び脂肪酸塩などの塩が含まれるが、これらに限定はされない。塩化物、硫酸塩及び酢酸塩などの小さい塩が好ましく、中でも塩化マグネシウム及び硫酸マグネシウムが最も好ましい。
【0027】
PCRには、2種以上のデオキシリボヌクレオシド−5’−トリホスフェート、例えばdATP、dCTP、dGTP、dTTP及びdUTPがさらに必要である。dITPや7−デアザ−dGTPなどの類似体も有用である。PCRには4種の通常のトリホスフェート(dATP、dCTP、dGTP及びdTTP)を使用することが好ましい。
【0028】
本明細書中に記載のPCR試薬は、検体中に存在するコピー数の多い標的核酸の増幅を抑制し且つコピー数の少ない標的核酸を差別増幅するのに適した濃度でPCRに供与されて用いられる。
【0029】
DNAポリメラーゼの最少量は、溶液100μl当たり一般には5ユニット以上であるが、溶液100μl当たり10〜25ユニットであることが好ましく、また7〜20ユニットであるとさらに好ましい。ここで「ユニット」とは、74℃において伸長している核酸の中に30分間に全部で10ナノモルのヌクレオチド(dNTP)を取り込ませるのに必要な酵素活性量として定義される。
【0030】
コピー数の少ない標的核酸に対するプライマーの濃度は、プライムされていないコピー数の少ない標的核酸の出発濃度に対するプライムされたコピー数の少ない標的核酸の濃度の比率が0.95〜0.5、好ましくは0.9〜0.8になるような濃度である。この幅広い方の比率範囲は一般に0.1〜10μモルのプライマー濃度に相当し、また狭い方の比率範囲は0.4〜2μモルのプライマー濃度に相当する。
【0031】
同様に増幅されるコピー数の多い標的核酸に対するプライマーの濃度は、プライムされていないコピー数の多い標的核酸の出発濃度に対するプライムされたコピー数の多い標的核酸の濃度の比率が0.9〜0.01、好ましくは0.5〜0.25になるような濃度である。この幅広い方の比率範囲は一般に0.01〜0.8μモルのプライマー濃度に相当する。好ましい実施態様では、コピー数の多い標的核酸に対する各プライマー濃度は0.1〜0.5μモルの範囲にある。
【0032】
プライムされたコピー数の多い標的核酸またはコピー数の少ない標的核酸のどちらの分率も、各プライマーの相補体(complement)を合成し、そしてPCR法の一定時間、温度及び試薬条件のもとで、UV淡色効果と常用の手順を利用してプライムされた相補体の量を測定することによって決定することができる。
【0033】
反応混合物中、DNAポリメラーゼの補助因子は一般に2〜15ミリモルの量で存在し、また各dNTPは一般に0.25〜3.5ミリモルで存在する。
【0034】
PCR試薬は、個別に供給してもよいし、またpH範囲が7〜9の緩衝液で供給してもよい。
【0035】
コピー数の少ない標的核酸は、上記の様々ないずれのソースからでも得ることができる。それは一般に、プライマーやその他の反応物質との接触に利用できるようにする何らかの方法で抽出しなければならない。このことは、検体から望ましくないタンパク質や細胞物質を適当な方法で除去することを通常は意味する。当該技術分野では各種の手順が知られている。
【0036】
増幅して検出すべきコピー数の少ない標的核酸は2本鎖形態にあるのが普通なので、プライミングが行える前に2本鎖を分離(すなわち、変性)しなければならない。変性には、適当な温度(本明細書では「第一温度」またはT1 と称して区別している)へ加熱する方法が好ましい。一般に、この第一温度は、例えば1〜40秒の適当な時間に対して、85〜100℃の範囲にある。
【0037】
次いで、反応混合物を第二温度T2 へ冷却することによって、適当な一組のプライマーを用いて変性鎖をプライムする。このT2 は、
(TmL−15)℃≦T2 ≦(TmL+5)℃
として規定されるが、ここでTmLはコピー数の少ない標的核酸に対するプライマーの融解温度である。一般に、T2 は55〜70℃の範囲内にある。冷却は、5〜20秒間、好ましくは5〜15秒間かけて行う。好ましくは、T2 は、
(TmL−5)℃≦T2 ≦(TmL+2)℃
として規定され、62〜68℃のさらに狭い範囲にある。
【0038】
変性鎖をT2 まで冷却したならば、PCR試薬を含有する反応混合物を第三温度T3 で1〜80秒間、好ましくは1〜40秒間インキュベートして、プライマー伸長生成物を形成させる。一般に、T3 は、
(TmL−15)℃≦T3 ≦(TmL+15)℃
として規定され、また55〜70℃の範囲にある。好ましくは、T3 は、
(TmL−5)℃≦T3 ≦(TmL+2)℃
として規定され、また62〜68℃の範囲にある。
【0039】
好ましいほとんどの実施態様では、T2 及びT3 は同じであって62〜68℃の範囲にある。
【0040】
さらにまた、コピー数の多い標的核酸に対する各プライマーは、本明細書ではTmHとして区別される融解温度を示す。TmLとTmHの間の差ΔTは2〜8℃であり、T2 及びT3 はどちらもTmLとTmHの間にあるかまたはTmL及びTmHのいずれかに等しい。
【0041】
本明細書では、融解温度(TmL及びTmH)は、相補鎖(例えば、鋳型)からプライマーの半分が変性する温度として定義される。融解温度の測定は、例えば、Biochemistry−The Molecular Basis of Cell Structure and Function(第2版、Lehninger,Worth Publishers, Inc.,1970,pp.876−7)に記載されているように260nmでスペクトルを監視することによって、紫外線淡色効果に基づいた幾つかの標準的手順を用いて達成することができる。融解温度の各種測定方法は、同じDNA分子について若干異なる値を与えることがあるが、これらの値は互いに2〜3℃以上変動してはならない。
【0042】
下式を用いて融解温度を計算することが好ましい。
m (℃)=67.5+0.34(%G+C)−395/N
上式中、「G」及び「C」はグアニンヌクレオチド及びシトシンヌクレオチドをそれぞれ表し、また「N」はオリゴヌクレオチド(すなわち、プライマー)中のヌクレオチド総数を表す。この計算式で得られる融解温度は、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム及び当業者には明らかな他の塩のような1種以上の無機または有機塩によってイオン強度を60ミリモル以上とした10ミリモルのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(pH8.5)に含まれるプライマー溶液について常用のUV淡色効果及び常用のHewlett−Packard製ダイオードアレイ分光光度計(走査速度1℃/分)を用いて室温で実験的に求められた値と非常によく相関する。上記融解温度式を求めるために用いられたプライマー及びその相補体の溶液中の量は、光学濃度0.5〜1.0(OD単位)を与えるのに十分な量とした。
【0043】
プライマー伸長生成物を形成させた後、反応混合物を5〜20秒間にわたりT1 まで加熱し、そしてその温度で1〜40秒間維持する。これで増幅サイクルが完了する。
【0044】
PCRは、一般には20サイクル以上、好ましくは20〜50サイクル実施する。各サイクルの時間は、一般には20〜90秒、好ましくは30〜75秒である。
【0045】
本発明の増幅法は、自動化された連続方式で行って反応混合物を制御しながら所望の回数だけ温度サイクルすることが好ましい。当業者であれば周知であるように、この目的のためにいくつかの器械や器具が開発されている。このような器械や器具の一つが、米国特許出願第4,965,188号及び欧州特許出願第0236 069号明細書に記載されている。
【0046】
欧州特許出願第0 402 994号明細書は、米国特許出願第5,089,233号明細書に記載されている器械を用いて処理できる有用な化学テスト用パックについて詳細に記載している。また、その中には、本発明の方法に適した間欠的に繰り返しテスト用パックを加熱、冷却するための手段も記載されている。有用なPCR処理装置に関するさらに詳細な記載は、当該技術分野における相当の文献から得ることができ、また当業者であれば容易に確認できるであろう。
【0047】
上記の化学テスト用パックの他に、米国特許出願第4,902,624号、同第5,173,260号及び同第5,229,297号明細書に詳細に記載されているような別の容器内で本法を実施してもよい。このようなテスト用パックは、増幅または検出法における各種段階で有用な各種の試薬、緩衝液及び他の物質を含有する複数の反応室を有する。
【0048】
上記のように、本発明の方法を使用してコピー数の少ない標的核酸の検出または特性決定が可能である。米国特許出願第4,965,188号明細書に記載されているようないくつかの周知の方法で検出を行うことができる。
【0049】
一つの実施態様では、問題の核酸配列が所望量得られてそのプライマー伸長生成物を最後に変性させたならば、検出用に標識されており且つプライマー伸長生成物の一方に相補的なオリゴヌクレオチドプローブを用いて、先に増幅した標的核酸を検出する。標識の結合手順やプローブの調製法は当該技術分野ではよく知られており、例えば、AgrawalらのNucleic Acid Res.14,pp.6227−45(1986)、ビオチン標識に関する米国特許出願第4,914,210号明細書、酵素標識に関する米国特許出願第4,962,029号明細書及びこれらの文献中に引用されている文献などに記載されている。有用な標識には、放射性同位元素、電子高密度試薬、色素源、蛍光源、リン光部分、フェリチン及び他の磁気粒子(米国特許出願第4,795,698号及び同第4,920,061号明細書を参照されたい)、化学発光部分並びに酵素(好ましい)が含まれる。有用な酵素には、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ウリカーゼ、アルカリホスファターゼ及び当該技術分野では周知のその他が含まれる。このような酵素用の基質や色素形成組成物もよく知られている。
【0050】
好ましい実施態様では、標的核酸を検出するために用いられる各プライマー組の一方または両方のプライマーを特異的結合部分で標識する。特異的結合部分は、プライマーの各々の組に対して同じであっても異なってもよい。このような標識には、特異的結合部分と特異的に反応するレセプター分子をはじめとする分子が含まれる。特異的結合対(一方を標識してもよい)の例として、アビジン/ビオチン、ストレプトアビジン/ビオチン、糖/レクチン、抗体/ハプテン、抗体/抗原、及び当業者であれば明白であるその他、が含まれるが、これらに限定はされない。次いで、周知の技法で、酵素などの検出可能な標識部分とレセプターを複合させる。
【0051】
最も好ましくは、各プライマー組の一方または両方のプライマーをビオチン(またはその等価な誘導体)で標識し、そしてアビジン(またはストレプトアビジン)と酵素の複合体によって増幅したコピー数の少ない標的核酸を検出する。
【0052】
増幅した標的核酸を検出するために、それを反応媒体中の他の物質と分離することが有用な場合もしばしばある(が、必ずしも必要ではない)。分離は、水不溶性担体に共有結合されている捕捉プローブを有する捕捉試薬を用いる方法をはじめとするいくつかの方法のいずれかによって行われる。
【0053】
捕捉プローブは、周知の結合技法によって水不溶性担体に結合することができる。このような技法の一つが欧州特許出願公開第0 439 222号明細書に記載されている。他の技法が、例えば米国特許出願第4,713,326号、同第4,914,210号及び欧州特許第0 070 687号明細書に記載されている。
【0054】
捕捉試薬の特に有用な組合せが、例えばJP−A−0 508 823や米国特許出願第5,173,260号明細書に記載されている。捕捉プローブを同じタイプの高分子量粒子に(直接にまたは化学結合基を介して)共有結合させ、そして得られた捕捉試薬を、熱または超音波でシール可能な担体(例えば、シート、膜、繊維状マット、フィルム)に固定化する。特に有用なシール可能な担体の一つは、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエチレンとポリエステルのラミネートである。捕捉試薬は、(上記のような)適当なテスト素子の一部である水不溶性担体表面の区別された領域に配置することができる。このようなテスト素子は、診断要素として定義してもよい。例えば、担体表面に、各種捕捉試薬の複数のストライプまたはスポットを配置することができる。
【0055】
【実施例】
以下の実施例では、特に断らない限りパーセントはすべて重量%である。
【0056】
サーマス アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の組換えDNAポリメラーゼは、欧州特許出願公開第0 482 714号明細書に記載されているような周知の手順によって調製したものであり、タンパク質1mg当たり250,000ユニットの活性を示した。このDNAポリメラーゼを、反応混合物100μl当たり7.5〜8ユニットの量で使用した。
【0057】
標準的ホスホルアミダイト化学及びABI 1μモルスケールの高速サイクルプロトコールを採用したApplied Biosystems製380B型の3本カラム式DNA合成機によって、既知の出発と手順を利用してプライマー及びプローブを調製した。ヌクレオシド−3’−ホスホルアミダイトとヌクレオシド誘導体化気孔制御ガラス担体はApplied Biosystemsから入手した。プライマーは、下記の配列を有するものとした。それらの5’末端を2個のテトラエチレングリコールスペーサーに続いて1個の市販の(DuPont社製)ビオチンホスホルアミダイトで官能化した。プローブは、米国特許出願第4,914,210号明細書に従い、その3’末端を2個のテトラエチレングリコールスペーサーに続いて1個のアミノジオール結合基によって官能化した。精製は、核酸精製用カラムを使用した後に逆相HPLC技法を採用した。
【0058】
上記のDNAポリメラーゼに特異的な「TP4」モノクローナル抗体をJP−A−0 274 812に記載されているように調製した。一般に、それはハイブリドーマセルライン(ATCCのHB11126または11127)及びMilsteinらのNature 256,pp.495〜497,1975に記載されているような常用手順を用いてDNAポリメラーゼ免疫化マウスの免疫細胞から調製した。この方法により、宿主動物の抗体産生細胞をリンパ様組織(例えば、脾臓)から単離し、ポリエチレングリコールの存在下でSP2/0−Ag14ネズミミエローマ細胞と融合させ、選択培地中で希釈し、そしてマルチウェル組織培養皿内で平板培養した。7〜14日後、抗体を含有するハイブリドーマ細胞を収穫し、そして常用技法で精製した。
【0059】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物(100ml)は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(10ミリモル、pH8)、塩化カリウム(50ミリモル)、塩化マグネシウム(10ミリモル)、dATP、dCTP、dGTP及びdTTP(各1.5モル)、プライマー(後記、特に表示しない限り各1μモル)、ゼラチン(0.01%)、上記熱安定性DNAポリメラーゼ(7.5〜8ユニット/100ml)、及びTP4モノクローナル抗体(DNAポリメラーゼに対する比率50:1)を含有するものとした。
【0060】
HIV−I DNA(gag領域)の増幅及び検出のために実施例で使用したプライマーの配列は以下のとおりである。
配列番号1:5’−X−TTTGGTCCTT GTCTTATGTC CAGAATGC−3’;及び
配列番号2:5’−X−ATAATCCACC TATCCCAGTA GGAGAAAT−3’
上式中、Xは、米国特許出願第4,962,029号明細書に記載の手順によって2個のアミノテトラエチレングリコールスペーサー基を介してオリゴヌクレオチドに結合されているビオチンを表す。
【0061】
実施例2で用いたHIV−I DNA(gag領域)の増幅及び検出用プライマーは以下のとおりである。
配列番号3:5’−X−CTAAAGGGTT CCTTTGGTCC TTGTCTTATG TCCAGAATGC−3’;及び
配列番号4:5’−X−GATGGATGAC AAATAATCCA CCTATCCCAG TAGGAGAAAT−3’
上式中、Xは先に定義したとおりである。
【0062】
どちらの実施例においてもβ−グロビンDNAの増幅及び検出用のプライマーは以下のとおりである。
配列番号5:5’−X−CAACTTCATC CACGTTCACC−3’;及び
配列番号6:5’−ACACAACTGT GTTCACTAGC−3’
上式中、Xは先に定義したとおりである。
【0063】
アビジン−ペルオキシダーゼ複合体溶液は、市販(Zymed Laboratories社)のアビジンと西洋ワサビペルオキシダーゼの複合体(126μl/l)、カゼイン(0.5%)及びメルチオレート(0.5%)をリン酸緩衝生食水(25ミリモルのリン酸ナトリウム及び75ミリモルの塩化ナトリウム)中に含むものとした。複合体の最終濃度は156ng/mlとした。
【0064】
洗浄液(pH7.4)は、第一リン酸ナトリウム1水和物(25ミリモル)、塩化ナトリウム(373ミリモル)、(エチレンジニトリロ)4酢酸2ナトリウム塩(2.5ミリモル)、エチルマーキュリチオサリチル酸ナトリウム塩(25μモル)及びデシル硫酸ナトリウム(38ミリモル)を含むものとした。
【0065】
色素付与組成物(pH6.8)は、4,5−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)−2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)イミダゾール(250μモル)、ポリ(ビニルピロリドン)(112ミリモル)、ジエチレントリアミン5酢酸(100μモル)、4’−ヒドロキシアセトアニリド(5ミリモル)及び第一リン酸ナトリウム1水和物(10ミリモル)を含むものとした。
【0066】
HIV−Iのコピー数の少ない標的核酸を常用手順で8E5/LAVセルライン(HIV−Iゲノムが1個組み込まれているセルライン)から抽出し、そして細胞溶解とタンパク質消化に続いて、フェノール/クロロホルム抽出法(トリス飽和フェノール(750μl)を細胞懸濁液へ加えてフェノール/溶菌液を混合し、そして遠心分離で分離)によって精製した。次いで、その水相を2mlの新たなチューブへ移した。クロロホルムイソアミルアルコールを用いてこの手順を繰り返した。水層を0.3モル酢酸ナトリウム溶液とした。95%の常温エタノールを添加して−70℃で1時間保存することによって核酸を沈殿させた。その後、HIV−I DNAの濃度をA260 において測定し、そして実験用にTE緩衝液〔トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(1ミリモル)及び(エチレンジニトリロ)4酢酸(0.1ミリモル)〕によるコピー数の異なる一連の希釈液を調製した。各希釈液の試料(5〜10μl)を各PCR反応混合物(200μl)へ添加した。
【0067】
細胞1個当たり2コピーのβ−グロビン遺伝子を有すると仮定されているヒト胎盤DNA(0.5mg/ml)において、β−グロビンのコピー数の多い標的核酸を得た。
【0068】
HIV−I DNA用の捕捉プローブは以下のとおりとした。
配列番号7:5’−ATCCTGGAAT TAAATAAAAT AGTAAGAATG TATAGCCCTA C−Y−3’
上式中、Yは2個のテトラエチレングリコールスペーサーに続いて1個のアミンジオール結合基を含むものである。
【0069】
β−グロビンDNA用の捕捉プローブは以下のとおりとした。
配列番号8:5’−CCTCAAACAG ACACCATGGT GCACCTGACT C−Y−3’
上式中、Yは先に定義したとおりである。
【0070】
上記の捕捉プローブを以下の方法でポリ〔スチレン−コ−3−(p−ビニルベンジルチオ)プロパン酸〕粒子(モル比95:5、平均粒径1μm)に結合することによって捕捉試薬を調製した。上記粒子の水懸濁液を2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸緩衝液(0.1モル、pH6)で2回洗浄し、そして固形分が約10%になるように懸濁させた。洗浄済粒子の試料(3.3ml)を緩衝液(0.1モル)で固形分が3.33%になるように希釈し、そして1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(水1ml当たり84mgのもの2.1ml)及び適当なプローブ(ナノ純度水1ml当たり44.44ODのもの983μl)と混合した。得られた懸濁液を、間欠的に混合及び遠心分離を行いながら水浴中、50℃に2時間加熱した。(エチレンジニトリロ)4酢酸2ナトリウム塩(0.0001モル)を含むトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(0.01モル、pH8)で粒子を3回洗浄し、そして固形分が4%になるようにその緩衝液に再懸濁させた。希釈して固形分を0.25%としてから、米国特許出願第4,948,561号明細書に記載されているようなSURECELL(商品名)ディスポーザブルテスト素子(Eastman Kodak社より市販)のテストウェルにおける微孔質膜(Pall社製のLOPRODYNE(商品名)ポリアミド膜、平均孔径5μm)の画定された領域において捕捉試薬を適用(1.2μl)して乾燥させた。
【0071】
個々の試薬と溶液のためのチャンバーを含むディスポーザブルの化学テスト用パックにおいてPCRを実施した。これらのチャンバーは、ポリエチレンを被覆したポリエステルシート(厚さ0.01cm)から形成されており、直径1.3cmの環状チャンバーとするために折り曲げられたものである。PCR試薬混合物を添加してそれを真空によりチャンバーへ引き込むために開口部を設けた。その後、開口部をヒートシールした。増幅後、チャンバーの角部を切断し、そして反応混合物を、生成物の検出を実施するまで4℃で保存するためのミクロ遠心管へ移した。以下に記載の加熱及び冷却プロトコールのサイクルを採用し、米国特許出願第5,089,233号明細書に詳しく記載されているKodak製自動PCR処理機でPCRプロトコールを実施した。
【0072】
PCR反応混合物は、コピー数の少ないHIV−I標的核酸25コピーとコピー数の多いβ−グロビン標的核酸約100万コピーとを含有した。
【0073】
SURECELL(商品名)テスト素子を用いた増幅生成物の検出は、増幅生成物反応混合物の一部(5μl)を緩衝液(10ミリモルのリン酸2水素ナトリウム、150ミリモルの塩化ナトリウム及び1ミリモルのエチレンジアミン4酢酸、pH7.4)(95μl)と混合し、95℃で5分間インキュベートして核酸を変性させることによって実施した。次いで、得られた溶液をSURECELL(商品名)テスト素子へ移し、膜表面に固定化した捕捉試薬と増幅した標的核酸を50℃でハイブリダイズさせた。上記の緩衝液中にデシル硫酸ナトリウム(1%)を含む溶液でテスト素子のテストウェルを55℃で洗浄した。各テストウェルへアビジン−ペルオキシダーゼ複合体溶液(50μl)を添加し、室温で膜中を流動させた。2分後、テストウェルを再度洗浄した。色素付与組成物(100μl)を添加し、そして素子を室温で2分間インキュベートした。アジ化ナトリウム(0.1%)の溶液(100μl)を添加して発色を停止させ、そして得られた色素シグナルを0〜10(最高濃度)の濃度スケールを基準に目測で等級付けした。膜表面の捕捉試薬が付着していない領域からバックグラウンドの読みを得た。
【0074】
実施例2では、エチジウムブロマイド(4μl、10mg/ml)で予め染色しておいたアガロースゲル(4%)へ増幅生成物の混合物(6.75μl)を添加することによってゲル電気泳動を実施した。エチジウムブロマイド(24μl)を含有する電気泳動緩衝液(600ml)を用いて約160ボルト/cmで約1時間電気泳動した。緩衝液はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと、ホウ酸塩と、エチレンジアミン4酢酸との混合物とした。得られたバンドを分子量マーカーと比較し、そして生成物のバンド強度を0〜5のスケールで記録(HIV−I DNAについては129マー、そしてβ−グロビンDNAについては110マー)した。ここで0は検出不能のシグナルを、また5は最高シグナルを表す。
【0075】
テスト用パックで実施したPCRプロトコールは以下のとおりである。
(A)最初に核酸を95℃で3分間変性させ、そして
(B)以下の1〜3、
(1)10〜12秒間かけて64〜68℃へ冷却し、
(2)64〜68℃において表記の時間に従いプライマー伸長生成物を形成させ、そして
(3)平均6〜7秒間かけて95℃へ加熱する
を40サイクル繰り返す。
【0076】
実施例1:様々なプライマー濃度を使用したHIV−I DNAとβ−グロビDNAの同時増幅法
この実施例は、コピー数の多い標的核酸(β−グロビンDNA)が存在する場合に、コピー数の少ない標的核酸(HIV−I DNA)を、両方の標的核酸のプライマー濃度を操作することによって検出する本発明の実施を例示するものである。その上、プライマー濃度の効果を観測することができるように、65℃におけるプライマー伸長生成物の形成に用いられる時間の長さを変更した。以下の表1に示した結果にあるように、PCRサイクルを高速にすると(すなわち、プライマー伸長時間を短くすると)、コピー数の多い標的核酸の増幅効率を低下させることができるので、そのシグナルが弱まり、その結果増幅されたコピー数の少ない標的核酸がわかり易くなる。
【0077】
上記のプライマー(各1μモル)を用いるとHIV−I DNAとβ−グロビンDNAとが両方共に増幅された。その結果から、コピー数の多い標的核酸の増幅抑制レベルがプライマー伸長時間を短縮するにつれて増大したことがわかる。その上、β−グロビンDNA用プライマー濃度をHIV−I DNA用プライマー濃度の2.5倍以上低くすると、HIV−I DNAの増幅がより効率的に進行した。プライマー伸長時間のすべてにおいて、β−グロビン用プライマー濃度は、コピー数の多い標的核酸が効率よく増幅されない濃度以下で観測された。コピー数の多い標的核酸の増幅は、プライマー伸長時間が短い(すなわち、約80秒未満)場合にプライマー濃度に対する感受性がより高くなった。
【0078】
【表1】
Figure 0004047395
【0079】
実施例2:様々な融解温度のプライマーを用いた同時増幅
この実施例は、様々なTm 値を有するプライマーを用いてコピー数の多い標的核酸に対するPCR効率を変調(すなわち、低下)させるための本発明の実施を例示するものである。それゆえ、コピー数の多い標的核酸に対するプライマーのTm よりも高い温度でプライマー伸長を実施することによってPCR効率は低下する。本発明の条件下、すなわち高速PCRサイクル(例、20秒のプライマー伸長)では、PCR効率の変調効果は増大する。
【0080】
この実施例では、HIV−I DNAは25コピー存在し、またβ−グロビンDNAは約106 コピー存在した。β−グロビンに対するプライマー(配列番号5及び配列番号6)は、それぞれ64.5℃及び67℃のTm 値を示した。HIV−I DNAのプライマー(配列番号3及び配列番号4)は、それぞれ72℃及び74℃のTm 値を示した。各プライマーは、PCR混合物中に1μモル存在し、また7.5ユニット/100μlのDNAポリメラーゼを使用した。上記のプロトコールに従いPCRを実施した。
【0081】
結果を以下の表2に示す。色素濃度シグナル及びゲル電気泳動の結果が示すように、別々の反応においてどちらの標的核酸もより低いプライマー伸長温度(64〜66℃)で増幅された。しかしながら、そのような温度では、「高速」(すなわち、プライマー伸長時間20秒)サイクル条件と「低速」(すなわち、プライマー伸長時間120秒)サイクル条件のどちらにおいても、コピー数の多い標的核酸からのシグナルが強すぎるものとなった。
【0082】
プライマー伸長温度を67〜68℃へ上昇させると、コピー数の多い標的核酸からのシグナルが「低速」サイクル条件下では若干低下した。「高速」サイクル条件下では、コピー数の多い標的核酸からのシグナルが著しく低下した。68℃では、β−グロビンDNAに対するゲルバンドは検出できなかった。
【0083】
「低速」サイクル条件下で2種の標的核酸を同じ反応混合物中で増幅(すなわち、同時増幅)させた場合、温度範囲全体にわたりどちらに対しても増幅は効率的に見え、またどちらの核酸も他方に有意な影響を及ぼすことはなかったようである。プライマー伸長温度を上昇させると、HIV−I DNAのシグナル(ゲルバンド強度)は若干高くなるが、β−グロビンDNAのシグナルは低下した。68℃では、2種の信号は一般に同等であった。
【0084】
2種の核酸を「高速」サイクル条件下、64℃で増幅させると、HIV−I DNAの増幅効率は、HIV−I DNAの色素または電気泳動シグナルがまったく検出できないほど低下した。プライマー伸長温度を67℃まで上昇させると、HIV−I DNAのシグナルが着実に増大し且つβ−グロビンDNAのシグナルが低下するためこれらのシグナルは実質的に同等となった。プライマー伸長温度を68℃にすると、β−グロビンDNAのシグナルは完全に消えるので、HIV−I DNAのシグナルがわかりやすくなった。
【0085】
【表2】
Figure 0004047395
【0086】
【発明の効果】
本発明は、特にコピー数の少ない標的核酸に対するシグナルを潜在的にあいまいにしてしまう恐れのあるコピー数の多い核酸の存在下で、コピー数の少ない核酸を優先的に増幅して検出するための非常に高速で且つ効率の高い方法を提供する。本発明の方法は高速であるため、通常達成しうる時間よりも短時間で結果を得ることができる。
アニーリングする時間を短縮することによって、PCRにおけるプライマー比率の変更やプライマーのTm の調整といった利益が増大する。この特徴の組合せによって本発明の方法のいずれの特徴に対する感受性も非常に高くなる。一度方法を開始するとプライマー濃度やプライマーのTm 値よりもPCRの温度条件や時間条件の方が容易に変更できるので、さらに別の融通性が得られる。加えて、DNAポリメラーゼ及びプライマーの濃度が臨界的に規定され、またアニーリング(第二)温度はコピー数の多い核酸のプライミング効率を低下させるような温度である。この特徴の組合せによって、上記の問題が克服され、また検体中にコピー数の多い核酸が存在しているにも係わらず、コピー数の少ない標的核酸を効果的且つ高速に同時増幅して検出することができる。
【0087】
【配列表】
Figure 0004047395
【0088】
Figure 0004047395
【0089】
Figure 0004047395
【0090】
Figure 0004047395
【0091】
Figure 0004047395
【0092】
Figure 0004047395
【0093】
Figure 0004047395
【0094】
Figure 0004047395

Claims (1)

  1. A)2種以上の標的核酸を含むと思われる試料を加熱する工程であって、標的核酸の少なくとも1種はコピー数の多い標的核酸であり、また標的核酸の少なくとも1種はコピー数の少ない標的核酸であり、該加熱は、コピー数の多い標的核酸とコピー数の少ない標的核酸の鎖を変性させるために85〜100℃の第一温度で1〜40秒間実施される前記工程;
    B)5〜20秒間かけて第二温度T2 へ冷却することによって、増幅すべき各標的核酸の対向鎖に特異的で、かつ、これらにハイブリダイズ可能な一組のプライマーで変性鎖をプライムする工程であって、T2 は、
    (TmL−15)℃≦T2 ≦(TmL+5)℃
    として規定され、ここでTmLはコピー数の少ない標的核酸に対するプライマーの融解温度であって、コピー数の多い標的核酸に対するプライマーの融解温度T mH より高く、T mL とT mH の間の差ΔTは2〜8℃であり、コピー数の多い標的核酸に対する各プライマーの濃度は0.01〜0.8マイクロモルの範囲内にあり、かつ、コピー数の少ない標的核酸に対する各プライマーの濃度は0.1〜10マイクロモルの範囲内にある前記工程;
    C)1)溶液100μl当たり少なくとも5ユニットの量で存在する熱安定性DNAポリメラーゼ、及び
    2)DNA重合に有効な量で存在する2種以上のデオキシリボヌクレオチド−5’−トリホスフェート
    の存在下でプライマー伸長生成物を形成させる工程であって、前記生成物は第三温度T3 において1〜80秒間インキュベートすることによって形成され、T3 は、
    (TmL−15)℃≦T3 ≦(TmL+15)℃
    として規定される前記工程;
    D)5〜20秒間かけて前記プライマー伸長生成物を前記第一温度へ加熱して、その温度で前記生成物を1〜40秒間保持する工程;並びに
    E)前記工程B〜Dを1サイクルとして1回以上逐次繰り返すが、その際工程B〜Dの各サイクルは20〜90秒で実施する工程;
    を含んで成り、 2 及びT 3 はどちらもT mL とT mH の間にあるかまたはT mL 及びT mH のいずれかに等しい、核酸の同時増幅方法。
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