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JP4042206B2 - ポリ乳酸組成物よりなるフィルム及びシート - Google Patents

ポリ乳酸組成物よりなるフィルム及びシート Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、少なくとも30℃の温度範囲にわたって、動的粘弾性の温度依存性に関する試験(JIS−K7198B法)での貯蔵弾性率(E′)が6×106 Pa以下で安定しているポリ乳酸組成物よりなるフィルム及びシートに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境中で分解する生分解樹脂重合体およびその成形品が求められ、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル等の自然分解性樹脂の研究が活発に行われている。
【0003】
ポリ乳酸は、光学活性中心を有する乳酸の重縮合体である。ポリ乳酸は、このポリマーを構成する乳酸の光学純度によりその結晶性が異なる。
光学純度が高いポリ乳酸すなわち結晶性の高いポリ乳酸は、50℃以下の領域ではガラス状態で弾性率は高いが、ガラス転移温度を超えるとゴム状態に変わり弾性率が下がる。その転移領域を超えると次第に結晶化し再び弾性率が上がり、ゴム状態が維持されない。
【0004】
一方、光学純度が低いポリ乳酸すなわち非晶性のポリ乳酸は、50℃以下の領域ではガラス状態で弾性率は高いが、ガラス転移温度を超えるとゴム状態が維持できず大きく弾性率が低下し、 加工性に劣る。
【0005】
単一ポリマーでは光学純度を微細に調整しても、弾性率の温度依存性についてゴム状平坦部を得ることが難しいことは既に知られている(高分子学会予稿集、第46巻、第14号、3865〜3866ページ(1997))。そのため、単一ポリマーでは、成形加工時の加工温度域が狭いなど加工性が低い。 また、接着剤あるいは粘着剤として利用しにくい。
このような現状において、成形加工性に優れたポリ乳酸が要望されていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、生分解性樹脂であるポリ乳酸であって、成形加工性に優れたポリ乳酸組成物よりなるフィルム及びシートを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討の結果、結晶性の異なる2種のポリ乳酸をブレンドすることにより、動的粘弾性の温度依存性に関する試験(JIS−K7198B法)の貯蔵弾性率(E′)が60℃以上で安定したゴム状平坦部を有する組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、光学純度が80%以上である高結晶性ポリ乳酸(A)と、光学純度が54%以上80%未満である低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)とを、(A)/(B)=10/90〜90/10の重量割合で含み、動的粘弾性の温度依存性に関する試験(JIS−K7198B法)での貯蔵弾性率が、少なくとも30℃の温度範囲にわたって、6×106 Pa以下で安定しているポリ乳酸組成物よりなるフィルム又はシートである。
ここで、「6×106 Pa以下で安定」とは、前記貯蔵弾性率が、6×106 Pa以下で、±0.5×106 Paの範囲で安定していることを意味する。
【0009】
また、ポリ乳酸の成形加工性の観点から、少なくとも30℃の温度範囲にわたって、貯蔵弾性率(E′)が安定していることが必要である。好ましくは35℃以上の温度範囲にわたって、貯蔵弾性率(E′)が安定していることである。
【0010】
このように、貯蔵弾性率(E′)の温度依存性曲線にいわゆる「ゴム状平坦部」を有することにより、本発明において用いるポリ乳酸組成物は、生分解性を有するのみならず、熱可塑性エラストマーとしてフィルム又はシートなどの用途にも適するものとなる。
【0011】
このようなポリ乳酸組成物は、光学純度が80%以上である高結晶性ポリ乳酸(A)と、光学純度が54%以上80%未満である低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)とからなるポリ乳酸組成物であり、生体内吸収性や生分解性などの特徴を有する。
【0012】
本発明において、ポリ乳酸(A)及びポリ乳酸(B)は、実質的にL−乳酸及び/又はD−乳酸由来のモノマー単位のみで構成されるポリマーである。ここで「実質的に」とは、本発明の効果を損なわない範囲で、L−乳酸又はD−乳酸に由来しない、他の共重合モノマー単位を含んでいても良いという意味である。ポリ乳酸(A)及びポリ乳酸(B)中における他の共重合モノマー単位は、一般に20モル%程度までの量が好ましい。
【0013】
このような他の共重合モノマー成分としては、乳酸モノマー又はラクチドと共重合可能な他のモノマー成分であり、2個以上のエステル結合形成性の官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等; 及びこれら種々の構成成分より成る各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0014】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
【0015】
多価アルコールとしては、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させたものなどの芳香族多価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのエーテルグリコール等が挙げられる。
【0016】
ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、その他特開平6−184417号公報に記載されているもの等が挙げられる。
【0017】
ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0018】
ポリ乳酸(A)及びポリ乳酸(B)の製造方法としては、既知の任意の重合方法を採用することができる。最も代表的に知られているのは、乳酸の無水環状二量体であるラクチドを開環重合する方法(ラクチド法)であるが、乳酸を直接縮合重合しても構わない。重合反応には、通常オクチル酸スズ等の有機スズ化合物が用いられる。
【0019】
また、ポリ乳酸(A)及びポリ乳酸(B)の分子量としては、重量平均分子量で、50,000〜1,000,000の範囲が好ましい。かかる範囲を下回ると機械特性等が十分発現されず、上回る場合は加工性に劣る傾向がある。
【0020】
ポリ乳酸が、L−乳酸に由来するモノマー単位のみからなる場合又はD−乳酸に由来するモノマー単位のみからなる場合には、重合体は結晶性で高融点を有し、本発明において、高結晶性ポリ乳酸(A)として用いられる。
【0021】
また、L−乳酸、D−乳酸由来のモノマー単位の比率(L/D比と略称する)を変化させることにより、ポリ乳酸(A)の結晶性・融点を自在に調節することができるので、用途に応じ、実用特性を制御することが可能になる。
【0022】
一方、ポリ乳酸が、ポリマーを構成する乳酸の光学純度が低い場合には、重合体は結晶性が低いか、あるいは融点をもたず、本発明において、低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)として用いられる。
【0023】
このように、ポリ乳酸の結晶性は、ポリマーを構成する乳酸の光学純度と密接に関連する。前記高結晶性ポリ乳酸(A)は、光学純度80%以上であり、好ましくは光学純度90%以上である。前記低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)は、光学純度54%以上80%未満であり、好ましくは光学純度の上限70%未満である。
【0024】
ポリ乳酸の光学純度(以下OPと略称する)は次式で計算される。
OP(%)=100×([L]−[D])/([L]+[D]) 又は、
OP(%)=100×([D]−[L])/([L]+[D])
ここで、[L]はポリ乳酸のL−乳酸モル濃度、[D]はポリ乳酸のD−乳酸モル濃度を表わす。
【0025】
また、ポリ乳酸の結晶性は、プラスチックの転移温度測定方法(JIS−K7121)による融点における融解熱量にも関係する。例えば、高結晶性ポリ乳酸(A)については、この融解熱量が10J/g以上であることが好ましく、12J/g以上であることがより好ましい。低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)については、この融解熱量が10J/g未満であることが好ましく、非晶性の場合には、融点は観測されない。
【0026】
本発明において用いるポリ乳酸組成物は、高結晶性ポリ乳酸(A)と低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)を、(A)/(B)=10/90〜90/10の重量割合で含んでいる。このような混合割合の中から、使用目的に応じて最適の割合を選択することができる。
【0027】
結晶性の異なるポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)との混合方法や混合装置は、特に限定されないが、連続的に処理できるものが工業的に有利で好ましい。
例えば溶融混合法の場合は、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)を同時に単軸又は二軸押出し混練機に供給し溶融混合した後、ペレット化して良い。溶融押出し温度としては、使用する生分解性樹脂の融点及び混合比率を考慮して、適宜選択するが、通常100〜250℃の範囲である。
【0028】
この混合ペレットを用いて、常法により、射出成型品、押出し成型品、真空圧空成型品、ブロー成型品、フィルム、シート、ラミネート、容器、各種部品、その他の成型品を得ることができる。あるいは、一旦ペレット化することなく、溶融混合した後、直接成型することも可能である。
【0029】
本発明におけるポリ乳酸組成物には、必要に応じて、従来公知の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤等の各種添加剤を配合しても良い。
【0030】
本発明において用いるポリ乳酸組成物は、前記貯蔵弾性率(E′)が、少なくとも30℃の温度範囲にわたって、6×106 Pa以下で安定し、貯蔵弾性率(E′)の温度依存性曲線にいわゆる「ゴム状平坦部」を有するので、生分解性を有するのみならず、成形加工性に優れる熱可塑性エラストマーとして、フィルム又はシートなどの用途にも適する。
【0031】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例において、重合体の重量平均分子量(Mw)はGPC分析によるポリスチレン換算値で示す。動的貯蔵弾性率(E′)の測定は、動的粘弾性の温度依存性に関する試験(JIS−K7198B法)に準じて行った。また、融点及びその溶融吸熱量は走査型示差熱量計(DSC)により、昇温速度5℃/min.にて測定した。またポリ乳酸の光学純度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。
【0032】
[実施例1]
結晶性の高いポリ乳酸((株)島津製作所製「ラクティ」、OP=98.0%、以下PLA1と称する)20重量%と、非晶性のポリ乳酸((株)島津製作所製「ラクティ」、OP=54.0%、以下PLA2と称する)80重量%とをドライブレンドし、180℃の二軸混錬押出機にて平均5分間溶融混合し、口金よりストランド状に押出し、水冷後、切断しポリ乳酸組成物(以下PLA3と称する)のチップC1を得た。
【0033】
得られたチップC1のDSCを測定した結果、 ガラス転移温度は49℃、結晶化温度は137.5℃、融点は170℃、融解熱量は12.2J/gであった。また、GPCを測定した結果、重量平均分子量は、92,000であった。
チップC1を80℃で真空乾燥し、 絶乾状態にした後、金型温度を25℃に保ち、射出成形により名刺大プレート(1mm厚)を得た。
得られた1mm厚の名刺大プレートを10mm×50mmの短冊状に切り出し、 動的粘弾性の温度依存性に関する試験(JIS K7187B法)での動的貯蔵弾性率(E′)を測定した。
【0034】
[比較例1]
実施例1で用いたPLA1のDSCを測定した結果、ガラス転移温度は59℃、結晶化温度は97℃、融点は173℃、融解熱量は47.1J/gであった。また、GPCを測定した結果、重量平均分子量は、143,000であった。
PLA1を80℃で真空乾燥し、 絶乾状態にした後、金型温度を25℃に保ち、射出成形により名刺大プレート(1mm厚)を得た。
得られた1mm厚の名刺大プレートを10mm×50mmの短冊状に切り出し、 実施例1と同様に動的貯蔵弾性率を測定した。
【0035】
[比較例2]
実施例1で用いたPLA2のDSCを測定した結果、ガラス転移温度は47℃、結晶化温度及び融点は観測されなかった。また、GPCを測定した結果、重量平均分子量は、115,000であった。
PLA2を40℃で真空乾燥し、 絶乾状態にした後、金型温度を25℃に保ち、射出成形により名刺大プレート(1mm厚)を得た。 成形加工性も良好であった。
得られた1mm厚の名刺大プレートを10mm×50mmの短冊状に切り出し、 実施例1と同様に動的貯蔵弾性率を測定した。
【0036】
動的貯蔵弾性率(E′)の測定結果を図1に示す。 この結果より、実施例1では、100℃から135℃の間で動的貯蔵弾性率が1×106 Pa付近で安定しており、ゴム状平坦部が観測された。
比較例1では、80℃以上で弾性率が高くなり、また比較例2では、80℃以上で弾性率が徐々に低下して、いずれも105 〜107 Paにゴム状平坦部は観測されなかった。
【0037】
【発明の効果】
本発明では、光学純度が80%以上である高結晶性ポリ乳酸(A)と、光学純度が54%以上80%未満である低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)とを、(A)/(B)=10/90〜90/10の重量割合で含み、少なくとも30℃の温度範囲にわたって、6×106 Pa以下で安定し、貯蔵弾性率(E′)の温度依存性曲線にいわゆる「ゴム状平坦部」を有する安定したポリ乳酸組成物を用いる。このポリ乳酸組成物は、成型加工性に優れ、ポリ乳酸を使用した生分解性プラスチック製品の利用分野を広げることができ、このポリ乳酸組成物よりなるフィルム又はシートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 動的貯蔵弾性率の測定結果を示すグラフである。

Claims (6)

  1. 光学純度が80%以上である高結晶性ポリ乳酸(A)と、光学純度が54%以上80%未満である低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)とを、(A)/(B)=10/90〜90/10の重量割合で含み、動的粘弾性の温度依存性に関する試験(JIS−K7198B法)での貯蔵弾性率が、少なくとも30℃の温度範囲にわたって、6×106 Pa以下で安定しているポリ乳酸組成物よりなるフィルム。
  2. 前記貯蔵弾性率が、6×106 Pa以下で、±0.5×106 Paの範囲で安定している、請求項1に記載のポリ乳酸組成物よりなるフィルム。
  3. プラスチックの転移温度測定方法(JIS−K7121)による融点における融解熱量が、前記高結晶性ポリ乳酸(A)について10J/g以上であり、かつ前記低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)について10J/g未満である、請求項1又は2に記載のポリ乳酸組成物よりなるフィルム。
  4. 光学純度が80%以上である高結晶性ポリ乳酸(A)と、光学純度が54%以上80%未満である低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)とを、(A)/(B)=10/90〜90/10の重量割合で含み、動的粘弾性の温度依存性に関する試験(JIS−K7198B法)での貯蔵弾性率が、少なくとも30℃の温度範囲にわたって、6×106 Pa以下で安定しているポリ乳酸組成物よりなるシート。
  5. 前記貯蔵弾性率が、6×106 Pa以下で、±0.5×106 Paの範囲で安定している、請求項4に記載のポリ乳酸組成物よりなるシート。
  6. プラスチックの転移温度測定方法(JIS−K7121)による融点における融解熱量が、前記高結晶性ポリ乳酸(A)について10J/g以上であり、かつ前記低結晶性または非晶性ポリ乳酸(B)について10J/g未満である、請求項4又は5に記載のポリ乳酸組成物よりなるシート。
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