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JP3999596B2 - ヒ素捕捉性繊維およびこれを用いたヒ素含有水の処理法 - Google Patents

ヒ素捕捉性繊維およびこれを用いたヒ素含有水の処理法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維分子中にキレート形成性官能基が導入されたキレート形成性繊維に鉄をキレート結合してなるヒ素捕捉性繊維と、該ヒ素捕捉性繊維を用いて、用水・排水を問わず水中のヒ素を効率よく捕捉・除去し得る様に改善された処理法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヒ素含有水の処理法として一般的に採用されているのは、硫酸アルミニウムや水酸化カルシウム等を用いた凝集沈殿法である。しかしこの方法では、凝集沈殿により生成するヒ素濃度の高いスラッジの処理が問題になるばかりでなく、凝集沈殿剤中に存在するイオンが被処理水中に溶出して混入してくるため、用水の処理法としては適性を欠く。
【0003】
他の方法として、キレート樹脂を用いてヒ素をキレート捕捉する方法も検討されているが、この方法は、▲1▼キレート捕捉のためのpH依存性が高い、▲2▼3価のヒ素に対する除去性能が乏しい、▲3▼ヒ素の吸着速度が遅く処理効率が低い、▲4▼一旦吸着したヒ素の溶離性が低いためリサイクル使用が困難である、といった様々の問題があり、実用に適した方法とは言えない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたもので、その目的は、排水・用水を問わず水中に微量存在するヒ素を、簡単な方法で効率よく除去して無害化する技術を確立すると共に、該処理に好ましく使用される素材を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明にかかるヒ素捕捉性繊維とは、金属キレート形成能を有する官能基が繊維分子中に導入されたキレート形成性繊維に鉄がキレート結合したものであるところに要旨が存在する。
【0006】
本発明にかかる該ヒ素捕捉性繊維における前記金属キレート形成能を有する好ましい官能基としては、アミノポリカルボン酸基またはリン酸基、あるいは、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基が例示され、これらの1種または2種以上が導入されたものが使用される。
【0007】
また基材となる前記繊維としては、分子中に水酸基を有するものが好ましく、中でも天然繊維や再生繊維、半合成繊維を含めて、セルロース系繊維が好適である。また、キレート結合される前記鉄としては、3価の鉄が最も好ましい。
【0008】
本発明にかかるヒ素含有水の処理法とは、前掲のヒ素捕捉性繊維を使用し、ヒ素含有水からヒ素を捕捉・除去するところに特徴を有するもので、この方法を実施するには、前記ヒ素捕捉性繊維をヒ素含有水と接触させればよく、具体的には、前記ヒ素捕捉性繊維をヒ素含有水に添加し混合して接触させ、或いは、前記ヒ素捕捉性繊維を通水性容器内に充填しておき、これにヒ素含有水を通液させてヒ素を捕捉する方法などを採用することができる。
【0009】
また本発明によれば、用水や排水を問わずあらゆる種類のヒ素含有水の処理に利用することができ、例えばヒ素を含む温泉水からのヒ素の捕捉・除去などにも有効に活用できる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本出願人はかねてより繊維状の金属キレート形成材についての改良研究を進めており、先に特開平10−183470号、特開2000−169828号、同2000−248467号などを提供している。これらの公開発明は、天然繊維または合成繊維の分子中に、アミノポリカルボン酸やリン酸型、あるいはイミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基などのキレート形成性官能基を導入したもので、該キレート形成性官能基によって重金属イオンや類金属イオンを効率よく除去、捕捉もしくは濃縮・回収することができる。
【0011】
しかも上記公報に開示した技術によれば、グリシジルアクリレート等の架橋反応性化合物を使用することにより、例えば天然繊維の分子中に任意のキレート形成性官能基を簡単且つ安全な方法で効率よく導入することができる。しかも、導入するキレート形成性官能基を選択すれば、様々の金属に対して十分な選択吸着性や吸着速度を得ることができるので、その用途は今後も大幅に拡大していくものと期待される。
【0012】
本発明者らは前述した様な知見を活かし、前掲の公開公報に開示したような、繊維分子中にキレート形成性官能基を導入したキレート形成性繊維の更なる用途開発を期して様々の角度から研究を進めたところ、金属キレート形成能を有する官能基が繊維分子中に導入されたキレート形成性繊維に鉄をキレート結合させた鉄キレート繊維は、ヒ素捕捉性繊維として、ヒ素含有水からのヒ素の捕捉・除去に卓越した性能を発揮することを突き止め、上記本発明に想到したものである。
【0013】
本発明で使用するキレート形成性繊維とは、動物性や植物性の天然繊維、再生繊維、合成繊維などの繊維分子中に、金属キレート形成能を有する官能基が導入されたもので、具体的には、本件出願人が先に特開平10−183470号、特開2000−169828号、同2000−248467号として提示した様なキレート形成性繊維が例示される。
【0014】
該キレート形成性繊維を製造する有効な方法としては、分子中に反応性二重結合とグリシジル基の双方を有する架橋反応性化合物(具体的には、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等)を用いて、繊維分子中に金属キレート形成性官能基を導入する方法などが例示される。
【0015】
より具体的には、天然繊維や合成繊維などの繊維基材を例えばレドックス触媒などの存在下で上記架橋反応性化合物と接触反応させると、該化合物中の反応性二重結合が繊維分子と反応し、反応性官能基としてグリシジル基を有する基が繊維分子中にペンダント状にグラフト付加する。そしてこのグラフト付加物に、グリシジル基との反応性官能基を有するキレート形成性化合物(例えば、アミノポリカルボン酸やリン酸、あるいは、イミノ二酢酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸など)を反応させると、該反応性官能基が、グラフト付加した前記架橋反応性化合物のグリシジル基と反応し、繊維分子中にキレート形成性官能基が導入される。
【0016】
その結果、繊維分子の表面にキレート形成性官能基が導入され、該キレート形成性官能基がその付近に存在する窒素原子や硫黄原子などとの相互作用とも相俟って、金属イオンに対して優れたキレート捕捉能を発揮することになる。
【0017】
そして本発明者らが更に研究を重ねたところ、上記の様にしてキレート形成性官能基導入された繊維に鉄、殊に3価の鉄をキレート結合させたものは、ヒ素に対して優れた捕捉効果を発揮するという新たな事実が確認された。そこで本発明では、上記キレート形成性繊維に、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(III)の如き3価の鉄塩水溶液を接触させ、上記キレート形成性繊維に鉄をキレート結合させる。このときに採用される接触処理法としては、バッチ処理、カラム処理いずれでもよい。使用する鉄塩の濃度も特に制限されないが、好ましいのは鉄塩の水溶液濃度で0.01〜1モル/リットルの範囲である。
【0018】
キレート形成性繊維にキレート結合させる鉄の量も特に制限されないが、ヒ素に対する捕捉・除去性能を考慮すると、キレート形成性繊維1g当たり0.1ミリモル以上であることが望ましく、より好ましくは0.4ミリモル以上である。
【0019】
この様に、キレート形成性繊維に鉄をキレート捕捉させた鉄キレート繊維がヒ素に対して優れた捕捉作用を示す理由は、予め鉄イオンを結合させた鉄キレート繊維が、配位子交換反応によって、水中でオキソ酸の形で配位性化合物として存在しているヒ素を交換吸着するためである。
【0020】
また従来の吸着剤を用いたヒ素吸着では、3価のヒ素は吸着され難いため、酸化処理により5価のヒ素に変えてから吸着させるといったことも検討されている。しかし本発明の鉄キレート繊維を使用すれば、pH依存性を受けることなく3価のヒ素を含有する水からでもヒ素を効率よく吸着することが可能となる。この理由は必ずしも明確にされたわけではないが、鉄のレドックス作用によって3価ヒ素の一部が5価のヒ素に酸化され、吸着性能が高められることが考えられる。
【0021】
なお、ビーズ状のキレート樹脂に鉄をキレート結合させたものであっても、ヒ素に対しある程度の捕捉・除去効果は発揮されるが、本発明のヒ素捕捉性繊維(鉄キレート繊維)に較べると吸着速度は極端に遅い。またキレート樹脂の場合は、基材がスチレン−ジビニルベンゼン共重合体などの合成樹脂であり、基材そのものはキレート捕捉能を有していないため、使用しているうちにキレート結合している鉄が溶出してヒ素吸着能が低下する。ところが本発明のヒ素捕捉性繊維(鉄キレート繊維)は、例えば基材として水酸基を有するセルロース系繊維を使用すると、基材の水酸基も鉄に対して補助キレート性能を発揮し、繊維全体の鉄キレート能が高められるため鉄が溶出し難くなり、ヒ素捕捉材としての耐久性も向上する。
【0022】
本発明で使用する上記ヒ素捕捉性繊維(鉄キレート繊維)の基材となる繊維の種類は特に制限されず、植物繊維や動物繊維を含む天然繊維、再生繊維、ポリアミド繊維やポリエステル繊維などの合成繊維などを全て使用できるが、前述した様なキレート形成性官能基の繊維分子内への導入の容易性や導入量、繊維材としての取扱い性やコストなどを総合的に考慮して特に好ましいのは、綿、麻、木材などを始めとする種々の植物性繊維;キュプラ、レーヨン、ポリノジック等の再生繊維;アセテートなどの半合成繊維;絹、羊毛などを始めとする動物性繊維である。
【0023】
これらの繊維の中でもとりわけ好ましいのは、セルロース系を主体とする植物性繊維、再生繊維、半合成繊維である。即ちセルロース系主体の植物性繊維は、分子中に無数のメチロール基や水酸基を有しており、前述した様な架橋反応性化合物を使用することでキレート形成性官能基を簡単に効率よく導入し得るからである。しかも、繊維分子中に水酸基を有するキレート形成性繊維を使用すると、当該繊維母材も鉄に対する補助キレート能力が高いため鉄が脱離し難く、優れた耐リサイクル性能を発揮するので好ましい。
【0024】
上記基材繊維の形状にも格別の制限はなく、長繊維のモノフィラメント、マルチフィラメント、短繊維の紡績糸あるいはこれらを織物状や編物状に製織もしくは製編した布帛、更には不織布であってもよく、また2種以上の繊維を複合もしくは混紡した繊維や織・編物を使用することができる。また木材パルプや紙、更には木材片や木材チップ、薄板などを使用することも可能である。
【0025】
更にヒ素含有水との接触効率を高めるため、上記基材繊維として短繊維状の粉末あるいはフィルター状に加工した繊維素材を使用することも有効である。
【0026】
ここで用いられる短繊維粉末の好ましい形状は、長さ0.01〜5mm、好ましくは0.03〜3mmで、単繊維径が1〜50μm程度、好ましくは5〜30μmであり、アスペクト比としては1〜600程度、好ましくは1〜100程度のものである。
【0027】
この様な短繊維状の粉末素材を使用すれば、鉄キレート繊維よりなるヒ素捕捉性繊維をヒ素含有水に添加して撹拌し、通常の濾過処理を行うという非常に簡単な方法で、且つ短時間でヒ素含有水中に含まれるヒ素を効率よく捕捉することができる。また場合によっては、該短繊維粉末状の鉄キレート繊維をカラム等に充填してヒ素含有水を通過させることによっても、同様のヒ素捕捉効果を得ることができる。また短繊維状の粉末素材に、前述した様な方法で鉄をキレート導入してから抄紙等の加工を行えば、鉄キレート繊維からなるヒ素捕捉能と不溶夾雑物除去効果を兼ね備えたヒ素含有水処理用の濾過材を得ることもできる。
【0028】
これらフィルター状の素材を使用する場合も、該フィルター状の繊維素材に前述した様な架橋反応性化合物をグラフトさせた後、繊維分子にグラフト結合した該架橋反応性化合物のグリシジル基にキレート形成性化合物を付加反応させてキレート形成性官能基を導入し、これを上記の様なフィルター状に加工して使用すれば良いが、この他、上記繊維素材をフィルター状に加工してフィルター装置内へ組み込み、該装置内に組込まれた繊維フィルターに架橋反応性化合物を含む処理液を接触させてグラフト重合反応させ、更にキレート形成性化合物と接触させることにより、繊維フィルターに事後的にキレート形成性官能基を導入してから鉄をキレート捕捉させることも可能である。
【0029】
この様に、フィルター状の繊維素材にキレート形成性官能基を導入してから鉄をキレート導入すれば、ヒ素含有水からのヒ素の捕捉と共に当該処理液中に含まれる不溶性夾雑物捕捉能も兼ね備えたフィルターを得ることができる。
【0030】
このとき、使用する繊維素材の太さや織・編密度、積層数や積層密度などを調整し、また紐状のキレート形成性繊維を複数層に巻回してフィルターとする場合は、巻回の密度や層厚、巻回張力などを調整すれば、繊維間隙間を任意に調整できるので、被処理水中に混入している不溶性夾雑物の粒径に応じて該繊維間隙間を調整すれば、必要に応じた浄化性能のフィルターを得ることができる。
【0031】
尚、繊維分子中にキレート形成性官能基を導入する方法としては、前述した如く架橋反応性化合物を介してキレート形成性化合物を反応させる方法が工業的に極めて有効な方法であるが、もとよりこれらの方法に限定されるわけではなく、要は鉄キレート形成性官能基を繊維分子中に導入し得る方法であれば、例えば前掲の特開2000−169828号などに開示されたような方法を採用することも勿論可能である。
【0032】
また前記では、鉄キレート形成性官能基として最も有効なアミノポリカルボン酸基やリン酸基、更には、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基を例示したが、これら以外の鉄キレート形成性官能基を導入したものも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
繊維基材としてセルロース系の繊維を使用し、該分子内に架橋反応性化合物を用いて酸型のキレート形成性官能基を導入する方法なども特に制限されないが、好ましい方法を例示すると下記の通りである。
【0034】
即ち、セルロース系繊維を予め2価鉄塩水溶液に室温で1〜30分程度浸漬し、その後洗浄してから、過酸化水素水、二酸化チオ尿素および架橋反応性化合物(必要により乳化剤などの均一反応促進剤)を含む水溶液に浸漬し、40〜100℃で10分〜5時間程度反応させる。
【0035】
この方法によれば、架橋反応性化合物がセルロース系繊維分子中の水酸基やアミノ基に効率よくグラフト反応し、前記キレート形成性化合物との反応性に優れたグリシジル基を繊維分子内に効率よく導入できる。
【0036】
次いで、上記反応によりグリシジル基が導入された繊維とキレート形成性化合物を、水やN,N'−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒中で、必要により50〜100℃で10分〜数十時間程度加熱して反応させると、前記キレート形成性化合物中のアミノ基や酸基などが前記グリシジル基と反応し、繊維分子中にキレート形成性官能基が導入される。
【0037】
繊維基材に対するキレート形成性官能基の導入量は、繊維分子中の反応性官能基の量を考慮し、その導入反応に用いる架橋反応性化合物の量、あるいはキレート形成性化合物の量や反応条件などによって任意に調整できるが、繊維に十分な鉄をキレート導入してヒ素に対する捕捉能を高めるには、下記式によって計算される置換率が10質量%程度以上、より好ましくは20質量%程度以上となる様に調整することが望ましい。
置換率(質量%)=[(置換基導入後の繊維質量−置換基導入前の繊維質量)/置換基導入前の繊維質量]×100
(ただし置換基とは、架橋反応性化合物とキレート形成性化合物に由来して導入された全置換基を意味する)。
【0038】
ヒ素捕捉能を高めるうえでは、上記置換率は高い程好ましく、従って置換率の上限は特に規定されないが、置換率が高くなり過ぎると置換基導入繊維の結晶性が高くなって繊維が脆弱になる傾向があり、また濾材やフィルター等を兼ねて使用する場合は、ヒ素捕捉性繊維材として使用する際の圧力損失が高くなる傾向が生じてくるので、ヒ素捕捉性繊維材としての実用性や経済性などを総合的に考慮すると、置換率は200質量%程度以下、より好ましくは100質量%程度以下に抑えることが望ましい。ただし、基材繊維の種類や形状、キレート形成性官能基の種類、あるいは用途等によっては、150〜200質量%といった高レベルの置換率とすることにより、ヒ素捕捉能を高めることも可能である。
【0039】
上記の様にして得られる本発明のヒ素捕捉性繊維は、前述の如く用いる基材繊維の性状に応じてモノフィラメント状、マルチフィラメント状、紡績糸状、不織布状、繊維織・編物状、粉末状、フィルター状など任意の性状のものとして得ることができるが、いずれにしても細径の繊維の分子表面に導入された鉄キレートがヒ素に対して優れた捕捉能を発揮するので、例えば顆粒状やフィルム状などの捕捉材に比べると非常に優れたヒ素捕捉能・除去能を発揮する。
【0040】
従ってこのヒ素捕捉性繊維(鉄キレート繊維)をヒ素含有水と接触させ、具体的には該繊維を任意の厚さで積層したり或はカラム内に充填してヒ素含有水を通すと、ヒ素含有水中に含まれるヒ素を効率よく除去することができる。
【0041】
しかも、上記の様にしてヒ素を捕捉した繊維を、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の如きアルカリ水溶液で後処理するに、ヒ素が簡単に離脱するので、こうした特性を利用すれば再生液からヒ素を有益成分として濃縮して回収することも可能となる。
【0042】
また、温泉水にはヒ素が数ppm程度含まれていることがあり、且つ共存イオンも多数高濃度で含まれていることが多いが、上記鉄キレート繊維を使用すると、それらの中に含まれるヒ素のみを選択的に捕捉除去できるので、例えば温泉水などからでもヒ素を効率よく除去することができ、温泉水を簡単に無害化できる。
【0043】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0044】
実施例1
長さ0.5mmにカットした約3デシテックスのレーヨン糸に、メタクリル酸グリシジルを介してイミノ二酢酸を固定化したキレート形成性繊維(キレート形成性官能基の導入量:0.815ミリモル/g)25gを、0.1モル/リットルの塩化第二鉄水溶液500ミリリットルに添加し、1時間撹拌してから濾過することにより、ヒ素捕捉性繊維(鉄キレート繊維:鉄キレート量0.75ミリモル/g)を得た。
【0045】
次に、上記で得たヒ素捕捉性繊維2gを、ヒ素(V)濃度が5ppmの水溶液1リットルに添加し、所定時間毎に水溶液中のヒ素濃度を分析することによってヒ素除去性能を調べたところ、図1に示す結果が得られた。
【0046】
次に比較のため、上記ヒ素捕捉性繊維に代えて、市販のイミノ二酢酸型キレート樹脂に対して同様に鉄をキレート結合させ、該鉄キレート樹脂を用いて同様のヒ素除去性能評価試験を行ない、結果を図1に併記した。
【0047】
図1からも明らかな様に、本発明のヒ素捕捉性繊維は、鉄をキレートさせたキレート樹脂に較べてヒ素に対する吸着速度が著しく高く、約30分の処理で、ヒ素の排水基準である0.1ppm以下に低減できることが分かる。
【0048】
実施例2
前記実施例1で得たヒ素捕捉性繊維2.0gを、内径1.5cmのガラスカラムに充填し、これにヒ素(V)濃度10ppmの水溶液をSV:10hr−1で通液させ、ヒ素の破過曲線を求めた。次に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を同じくSV:10hr−1で通液させることによって、吸着したヒ素を溶離させた後、再度ヒ素(V)濃度が10ppmの水溶液をSV:20hr−1で通液させることによって、2回目の破過曲線を求めた。結果を図2に示す。
【0049】
また比較のため、上記で用いたヒ素捕捉性繊維に代えて、市販のイミノ二酢酸型キレート樹脂に同様に鉄をキレートさせた鉄キレート樹脂を使用し、上記と同様の実験を行った。結果を図3に示す。
【0050】
これらの結果を比較すれば明らかなように、本発明のヒ素捕捉性繊維を用いた場合は、1回目、2回目共に、Bed volumeで約200までヒ素を保持しているのに対し、鉄をキレートさせたキレート樹脂を用いた場合は、Bed volumeで約150までしかヒ素を保持しておらず、しかも2回目のBed volumeは約90まで低下している。
【0051】
実施例3
前記実施例1で得たヒ素捕捉性繊維3.0gを、ヒ素(III)濃度1.9ppmの温泉水(pH2.7)に添加し、80℃に保って所定時間毎に温泉水中のヒ素濃度を分析することにより、ヒ素除去性能を調べた。結果は図4に示す通りであり、ヒ素濃度は約15分で排水基準の0.1ppm以下となり、ヒ素以外の金属イオン等が高濃度で存在する温泉水からでも、ヒ素を効率的に除去できることが確認できる。
【0052】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、鉄、特に3価の鉄がキレート導入されたヒ素捕捉性繊維を使用することで、ヒ素含有水中のヒ素を効率よく除去することができ、用水・排水の如何を問わずヒ素含有水の清浄化に有効に活用できる。しかもヒ素を捕捉した本発明の鉄キレート繊維は、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の如きアルカリ水溶液で後処理することによって簡単にヒ素を離脱するので、低濃度のヒ素含有水から高濃度のヒ素を捕捉・回収することも可能であり、殊にヒ素が相当量含まれることがある温泉水の処理に利用すると、ヒ素による有害作用を防止しつつ有価資源としての濃縮・回収に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で得た鉄キレート繊維を用いてヒ素含有水を処理したときのヒ素除去効果を、市販のキレート樹脂に鉄を結合させた鉄キレート樹脂を用いた場合の効果と対比して示すグラフである。
【図2】実施例で得た鉄キレート繊維を用いてヒ素含有水を処理したときのヒ素吸着の破過曲線を示すグラフである。
【図3】市販のキレート樹脂に鉄を結合させた鉄キレート樹脂を用いてヒ素含有水を処理したときのヒ素吸着の破過曲線を示すグラフである。
【図4】本発明のヒ素捕捉性繊維を用いて温泉水中のヒ素除去性能を調べた結果を示すグラフである。

Claims (7)

  1. アミノポリカルボン酸基またはリン酸基がセルロース系繊維分子中に導入されたキレート形成性繊維に、3価の鉄がキレート結合したものであることを特徴とするヒ素捕捉性繊維。
  2. 前記アミノポリカルボン酸基が、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基よりなる群から選択される少なくとも1つの基である請求項1に記載のヒ素捕捉性繊維。
  3. 前記請求項1または2のいずれかに記載のヒ素捕捉性繊維を使用し、ヒ素含有水からヒ素を捕捉・除去することを特徴とするヒ素含有水の処理法。
  4. 前記ヒ素捕捉性繊維を、ヒ素含有水と接触させる請求項に記載の処理法。
  5. 前記ヒ素捕捉性繊維を、ヒ素含有水に添加する請求項に記載の処理法。
  6. 前記ヒ素捕捉性繊維を通水性容器内へ充填し、これにヒ素含有水を通液させる請求項に記載の処理法。
  7. 前記ヒ素含有水として温泉水を使用する請求項3〜6のいずれかに記載の処理法。
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