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JP3988849B2 - 免震装置 - Google Patents

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JP3988849B2
JP3988849B2 JP03500199A JP3500199A JP3988849B2 JP 3988849 B2 JP3988849 B2 JP 3988849B2 JP 03500199 A JP03500199 A JP 03500199A JP 3500199 A JP3500199 A JP 3500199A JP 3988849 B2 JP3988849 B2 JP 3988849B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、二つの構造物間に配されて両構造物間の相対的な水平振動のエネルギを吸収し、構造物への振動加速度を低減するための装置、特に地震エネルギを減衰して地震入力加速度を低減し、建築物、橋梁等の構造物の損壊を防止する免震装置及びこの免震装置を一個以上使用したシステムに関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
振動エネルギ吸収体としては、例えば、特公昭61−17984号公報に記載のものが知られており、この振動エネルギ吸収体は、二つの構造物間に固定されていて剪断力を加えることによって塑性変形する鉛部材を有している。このような振動エネルギ吸収体の鉛部材は、その塑性変形において、亀裂等を生じることなしに振動エネルギを好ましく吸収するが、変形後も、通常のばねと異なり吸収したエネルギを構造物に戻さず、その変形した状態を維持し、構造物の元の位置への復帰を行わせ難いものである。
【0003】
弾性材料層を構成するゴム等からなる弾性板と剛性材料層を構成する金属板とを交互に積層し、これらを互いに加硫接着等して相互に固着してなる免震装置としての弾性体は、地震入力加速度を低減し、構造物を地震の破壊力から一応保護するが、振動エネルギ吸収能力が低く、これを単独で免震装置として用いた場合、上記の鉛部材と比較して、地震動を受けた構造物の地震後の振動が鎮るまでに長時間を要する等の地震工学及び振動工学の観点から実用上種々の問題がある。
【0004】
そこで、鉛部材の塑性変形における振動エネルギ吸収能と、弾性体の地震入力加速度の低減能及び復元能とを合せ持つべく、弾性体と、この弾性体を貫通して配された柱状鉛とを具備した免震装置も前記公報に提案されている。
【0005】
図1及び図2に示す免震装置5は、弾性材料層を構成するゴム等からなる弾性板1と剛性材料層を構成する環状の剛性板2とを交互に積層して相互に固定してなる環状の弾性体3と、弾性体3の円筒状の内周面9で規定される中空部12に配された円柱状鉛4と、円柱状鉛4の下面及び上面にそれぞれ当接して弾性体3の下面及び上面のそれぞれにボルト等により取り付けられたフランジプレート18及び19とを具備し、例えば、フランジプレート18側が基礎等の一方の構造物に固定され、フランジプレート19側に建築物等の他方の構造物が載置されて、フランジプレート19を介して建築物等から鉛直方向荷重X、すなわち弾性板1と剛性板2との積層方向の荷重Xを受けるようにして、用いられる。
【0006】
このような免震装置5に対して地震により横方向力Fが生じた場合の当該横方向力Fと横変位δとの関係は、対角剛性Kerと弾性体3の横方向(水平方向)の剛性Krとが同程度の場合、換言すれば弾性体3で隙間なく拘束された円柱状鉛4の剪断降伏荷重Auに基づく剪断降伏荷重特性値Qd(このQdと剪断降伏荷重Auとの間には、設計では、履歴曲線をバイリニア特性で表わした場合、便宜上、Qd= 0.8・Auの関係をもたせており、本発明ではQdを剪断降伏荷重という)が小さくなる場合には、図3に示すような履歴曲線を描き、対角剛性Kerが剛性Krに比較して大きい場合、換言すれば弾性体3で隙間なく拘束された円柱状鉛4の剪断降伏荷重Qdが大きくなる場合には、図4に示すような履歴曲線を描くこととなる。ここで、剪断降伏荷重Qdは、次式(1)で表される。
Qd=ap・σpd・・・・・(1)
【0007】
式(1)において、apは、円柱状鉛4の剪断面の面積(本発明では、剛性材料層の内周で囲まれる円柱状鉛4の横断面積で定義する)で、免震装置5に加わる横方向力Fに対する円柱状鉛4の剪断面の面積に相当し、σpdは、弾性体3により隙間なしに拘束されていない円柱状鉛4自体の剪断降伏応力(本発明では、これを設計剪断降伏応力という)であり、純粋鉛(純度99.9%以上)の場合、0.5Hz振動でかつ50%以上の歪振幅では、設計値として85kg/cmである。
【0008】
ところで、図3に示すような履歴曲線を描く免震装置5では、地震において、それに対する免震効果は優れるものの、これに載置される構造物と基礎との相対変位が大きく、また地震後の後揺れが比較的長く続き、長周期成分の大きな地震動では共振する虞を有し、更に、台風時のような強風時には、載置された構造物が大きく揺れる場合がある。一方、免震装置5による動的固有振動周期は、図3及び図4に示す対角剛性Ker で与えられるが、図4に示すような履歴曲線を描く免震装置5では、剛性Krが比較的小さくても、対角剛性Ker が大きい場合には、円柱状鉛4の剪断降伏荷重Qdが大きくなり、免震効果を発揮するに十分な長周期化が困難となり、結果として、免震効果が悪くなる。
【0009】
また、式(1)に従った円柱状鉛4の剪断降伏荷重Qdを保証する要件としては、弾性体を構成する弾性材料層と剛性材料層とに円柱状鉛4がそれに周期的な剪断変形が生じている間及びその後も隙間なく拘束されていることである。そして中空部12に配された円柱状鉛4が弾性体3に隙間なく拘束されていないと、地震による横方向力(水平方向力)Fが生じた場合、弾性体3の内周面9と、これに接する円柱状鉛4の円筒状の外周面との間に隙間が生じて、横方向力Fと横変位(水平方向変位)δとの関係において、図5の履歴曲線21で示すような不安定な特性となり、円柱状鉛4による効果をそれ程得ることができず、所望の免震効果を得ることが困難となる。一方、弾性体3により必要以上に円柱状鉛4を拘束すると、地震による横方向力Fでの円柱状鉛4の塑性変形において、弾性体3の弾性材料層が過度に圧縮され、これによっても弾性体3の弾性材料層の早期の劣化を招来し、耐久性に問題が生じる。また、円柱状鉛4を形成するために、弾性体3の中空部12に圧入する鉛の量には限度があり、一定量以上の鉛を弾性体3の中空部12に圧入することは困難であり、無理にこれを行うと弾性体3自体が損壊してしまう虞がある。
【0010】
そして、図1及び図2に示す免震装置5では、数度の地震により繰り返して横方向変位が生じると、円柱状鉛4の上下面の周縁部が丸み付けされて、当該周縁部と弾性体3との間に環状隙間が生じる虞もある。
【0011】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、剪断降伏荷重Qdと、以下述べる弾性体の支持荷重Wとの関係に着目して、この関係から得られる柱状鉛の剪断面の面積apと、弾性体の荷重面の面積Arとの比を所定の範囲内にすることにより、免震効果に優れる上に、構造物と基礎との相対変位を小さくすることができ、また地震後の後揺れも早期に減衰することができ、台風時のような強風時でも載置された構造物の横揺れを少なくし得、加えて免震効果を発揮するに十分な長周期化を計り得て長周期成分の地震動でも共振の虞がない免震装置を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、上記所定の面積比率を有する免震装置において、弾性体の中空部に配された柱状鉛を所定に隙間なしに拘束し得る結果、安定な免震特性を得ることができ、加えて弾性体の弾性材料層及び柱状鉛の疲労、損壊を回避することができ、耐久性及び免震効果並びに製造性に優れた免震装置を提供することを目的とする。
【0013】
更に本発明では上記のような免震装置を少なくとも一個使用したシステムを提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば前記目的は、弾性材料層及び剛性材料層が交互に積層されてなる弾性体と、この弾性体を貫通して配された少なくとも一つの柱状鉛とを具備しており、当該柱状鉛の剪断降伏荷重Qdが柱状鉛の剪断面の面積apと設計剪断降伏応力σpdとの積となるように、柱状鉛がその剪断方向において弾性体に隙間なしに拘束されている免震装置であって、柱状鉛の剪断面の総面積Σapと弾性体の荷重面の面積Arとの比Σap/Arが0.01〜0.12である免震装置によって達成される。
【0015】
また本発明によれば前記目的は、少なくとも一つの柱状鉛と、弾性材料層及び剛性材料層が交互に積層されてなる弾性体と、少なくともこの弾性体の内周面で規定されており、柱状鉛が密に配された少なくとも一つの中空部とを具備した免震装置であって、柱状鉛の剪断面の総面積Σapと弾性体の荷重面の面積Arとの比Σap/Arが0.01〜0.12であり、中空部に配された柱状鉛の体積Vpと、柱状鉛が未挿入であって、弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして柱状鉛が中空部に密に配されてなり、前記積層方向の荷重を支持するようにした免震装置によっても達成される。
【0016】
本発明は、柱状鉛が弾性体により隙間なく拘束されて、柱状鉛の剪断降伏荷重Qdが当該柱状鉛の剪断面の面積apと設計剪断降伏応力σpdとの積となる免震装置においては、その要求される特性を、柱状鉛の剪断降伏荷重Qdと載置される構造物に対する弾性体の支持荷重Wとの比で評価することができることに着目し、剪断降伏荷重Qdと支持荷重Wとの比Qd/Wが0.02よりも小さい場合には、載置される構造物と基礎との相対変位が大きく、また地震後の後揺れが比較的長く続き、長周期成分の大きな地震動では共振する虞を有し、台風時のような強風時には載置された構造物が大きく揺れる虞がある一方、比Qd/Wが0.08よりも大きい場合には、長周期化が困難となり、結果として、免震効果が悪くなる、という知見に基づいてなされたものである。
【0017】
免震装置5においては、円柱状鉛4の剪断降伏荷重Qdは、上記の式(1)で与えられ、また、弾性体3の支持荷重Wは、
W=Ar・P・・・・・・・・(2)
で与えられる。ここで、Arは、弾性体3の荷重面の面積で、免震装置5に加わる鉛直方向荷重X、すなわち支持荷重Wに対する弾性体3の受圧面積に相当し、Pは、免震装置5に加わる鉛直方向荷重Xに対する弾性体3の平均圧縮応力で、免震装置の設計では、通常、60kg/cm〜130kg/cm程度の値がとられる。
【0018】
ところで、比Qd/Wは、
Figure 0003988849
で表され、ここで、σpd=80kg/cm、P=130kg/cmとすると、比Qd/Wの上限値は、換言すればap/Arの上限値は、約0.12となり、σpd=100kg/cm、P=60kg/cmとすると、比Qd/Wの下限値は、換言すればap/Arの下限値は、約0.01となる。なお、上記のσpdの値は、0.5Hz振動でかつ50%以上の歪振幅での値である。
【0019】
すなわち、柱状鉛の剪断面の面積apと、弾性体の荷重面の面積Arとの比ap/Arを0.01〜0.12の範囲内にすることにより、免震効果が優れ、構造物と基礎との相対変位を小さくすることができ、また地震後の後揺れも早期に減衰することができ、台風時のような強風時でも載置された構造物の横揺れを少なくし得、加えて長周期化を計り得て長周期成分の地震動でも共振の虞がないといえるのである。
【0020】
なお、以下の実施例からも明らかであるように、比ap/Arを、0.02〜0.07にすることにより、更に好ましい結果が得られ、比ap/Arを、0.03〜0.06にすることにより、更により好ましい結果が得られることが判明した。
【0021】
一つの弾性体に複数個の柱状鉛が配される場合も同様であって、本発明では、この場合をも含めて、柱状鉛の剪断面の総面積Σapと弾性体の荷重面の面積Arとの比Σap/Arが上記の範囲内にされる。
【0022】
また本発明は、中空部に配された柱状鉛の体積Vpと、弾性体の内周面で規定される中空部の容積、具体的には、柱状鉛を配する前、換言すれば柱状鉛を形成するための鉛を圧入する前であって、弾性体に積層方向の荷重を加えた状態での中空部(以下、縮小中空部という)の容積Veとを一定の関係にすることにより、弾性体を構成する弾性材料層と剛性材料層とに柱状鉛が隙間なしに拘束される結果、式(1)に従った柱状鉛の剪断降伏荷重Qdが保証され、而して上記効果に加えて耐久性及び免震効果並びに製造性に特に優れた免震装置を提供し得るという知見に基づいてなされたものである。
【0023】
すなわち本発明の免震装置では、前記面積比率に加えて、中空部に配された柱状鉛の体積Vpと、縮小中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12である。縮小中空部の容積Veは、弾性体に加えられる鉛直方向荷重である弾性材料層と剛性材料層との積層方向の荷重によって、換言すれば免震装置が支持する構造物の重量によって増減し、また縮小中空部の容積Veに対して1.00倍を越える体積の柱状鉛が配された状態における中空部の容積とも異なる。本免震装置においても、縮小中空部の容積Veに対して1.00倍を十分越える体積の柱状鉛を中空部に配して、柱状鉛を弾性体の弾性材料層に食い込ませ、中空部を規定する弾性体の内周面を、弾性材料層の位置で凹面となし、剛性材料層の位置で凸面となるようにしてもよい。
【0024】
ところで、円柱状鉛4を縮小中空部の容積の1.00倍(比Vp/Ve=1.00)よりも少なく配した場合には、弾性体3の内周面9と、内周面9に対面してこれに接する円柱状鉛4の外周面との間に隙間が生じ易くなり、したがって免震装置5の作動中に、すなわち免震装置5に繰り返し横方向力Fが加わっている間に、容易に弾性体3の内周面9と円柱状鉛4の外周面との間に隙間が生じ、履歴曲線21で示すような不安定な免震特性を示すことになる。これは、円柱状鉛4が弾性体3に少なくとも剪断方向において隙間なく拘束されず、剪断変形以外の変形を生じ、円柱状鉛4が設計剪断降伏応力(通常、純度99.9%以上の純粋度の鉛の場合には、設計値として85kg/cm)を現出しないことにもよる、と推測される。
【0025】
一方、円柱状鉛4を縮小中空部の容積の1.12倍(比Vp/Ve=1.12)よりも多く配した場合には、円柱状鉛4が大きく弾性板1に食い込んで、図6の符号41で示すように、弾性体3の内周面9が過度に凹面になり、この位置の近傍での弾性板1と剛性板2との間の剪断応力が大きくなり過ぎることとなる。このように過度に応力が生じた状態であると、弾性板1の劣化を早め、耐久性が劣ることになる。また、免震装置5の製造において、中空部12に円柱状鉛4を形成するために、鉛を縮小中空部の容積の1.12倍より多く圧入することは、その圧入力を極めて大きくしなければならない上に、圧入により弾性体3を損壊してしまう虞があり、困難であることも判った。
【0026】
なお、以下の実施例からも明らかであるように、小さな振動入力では、高い剛性を示し、大きな振動入力では、低い剛性を示す機能、いわゆるトリガ機能が特に要求され、かつ大振幅の地震動に特に好ましく対応し得るためには、比Vp/Veが1.02以上であることがよい。また、比Vp/Veが1.02〜1.07の範囲であると、製造性に極めて優れる。
【0027】
本発明において、弾性材料層の素材としては、天然ゴム、シリコンゴム、高減衰ゴム、ウレタンゴム又はクロロプレンゴム等を挙げることができるが、好ましくは天然ゴムである。弾性材料層の各層の厚みとしては、無負荷状態において1mm〜30mm程度のものが好ましいが、これに限定されない。また、剛性材料層の素材としては、鋼板、炭素繊維、ガラス繊維若しくはアラミド繊維等の繊維補強合成樹脂板又は繊維補強硬質ゴム板等を挙げることができ、その厚みは、各厚肉剛性板には10mm〜50mm程度、それ以外の各層には1mm〜6mm程度のものが好ましいが、これに限定されず、更にその枚数においても特に限定されない。弾性体及び柱状鉛は、円環状体及び円柱状体が好ましいが、他の形状のもの、例えば楕円若しくは方形体及び楕円若しくは方形体のものであってもよい。弾性体を貫通して配される柱状鉛は、一つでもよいが、これに代えて、一つの弾性体に複数の中空部を形成し、この複数の中空部にそれぞれ柱状鉛を配して免震装置を構成してもよい。なお、これら複数の中空部の各柱状鉛を比Vp/Veに関して同一の上記条件下で配する必要はなく、それぞれ異なる条件下で配してもよく、また、各柱状鉛が比Vp/Veに関して上記条件を満足しているのが好ましいが、複数個の柱状鉛の内の一部の柱状鉛を、比Vp/Veに関して上記条件を満足しないようにして配してもよい。
【0028】
また本発明は、弾性材料層及び剛性材料層が交互に積層されてなる弾性体と、この弾性体の内周面で規定される少なくとも一つの中空部に配された柱状鉛とを具備した上述の免震装置を一個以上、好ましくは複数個構造物と基礎との間に配するシステムにも適用することができ、この場合、柱状鉛の剪断降伏荷重Qdが柱状鉛の剪断面の面積apと設計剪断降伏応力σpdとの積となるように、柱状鉛が対応の弾性体に隙間なく拘束されて、柱状鉛の剪断面の総面積Σapと弾性体の荷重面の総面積ΣArとの比Σap/ΣArが0.01〜0.12であればよく、また、柱状鉛の剪断面の総面積Σapと弾性体の荷重面の総面積ΣArとの比Σap/ΣArが0.01〜0.12であり、中空部に配された柱状鉛の体積Vpと、柱状鉛が未挿入であって、弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部(縮小中空部)の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして柱状鉛が中空部に密に配されてなり、前記積層方向の荷重を支持するようにしたものであれば、上述の効果を同様に得ることができる。また、本システムにおいても、比Σap/ΣArを、0.02〜0.07にすることにより、更に好ましい結果が得られ、比Σap/ΣArを、0.03〜0.06にすることにより、更により好ましい結果が得られる一方、比Vp/Veが1.02〜1.07であると、好ましい製造性を得ることができる。
【0029】
加えて、本システムの免震装置において、中空部を規定する弾性体の内周面は、柱状鉛が弾性体の弾性材料層に食い込んで、当該弾性材料層の位置で凹面になり、剛性材料層の位置で凸面になっていてもよい。なお、複数の免震装置を配するシステムにおいて、これら複数の免震装置を比Vp/Veに関して同一の上記条件下で配する必要はなく、それぞれ異なる条件下で配してもよく、また、比Vp/Veに関して各免震装置が上記条件を満足しているのが好ましいが、複数個の免震装置の内の一部の免震装置を、比Vp/Veに関して上記条件を満足しないようにして配してもよい。
【0030】
更に、柱状鉛を具備した免震装置を一個以上構造物と基礎との間に配する上述のシステムにおいて、弾性材料層及び剛性材料層が交互に積層されてなり、中空部を有さない中実の弾性体を具備した少なくとも一個の他の免震装置を、柱状鉛を具備した免震装置と共に構造物と基礎との間に配してもよい。
【0031】
柱状鉛を具備した少なくとも一個の免震装置と、柱状鉛を具備しなく、中実の弾性体を具備した少なくとも一個の免震装置とを構造物と基礎との間に配してなるこのようなシステムにおいては、弾性体の荷重面の総面積ΣArに、柱状鉛を具備しない免震装置の中実の弾性体の荷重面を含めて、比Σap/ΣArが上記条件を満足するように、各免震装置を構成する。
【0032】
上記柱状鉛を具備するいずれの免震装置においても、剛性材料層が、弾性体におけるその各端面側にそれぞれ配された厚肉剛性板を具備し、柱状鉛の一端部が、一方の厚肉剛性板の内周面によって規定される中空部の一端部に密に配されており、柱状鉛の他端部が、他方の厚肉剛性板の内周面によって規定される中空部の他端部に密に配されているとよい。
【0033】
図2に示すような免震装置5では、前述のとおり、数度の地震が加わることにより、円柱状鉛4の上下面の周縁部と弾性体3との間に環状隙間が生じ、長期の使用によりこの環状隙間により免震特性が不安定となり得るが、本発明は、上記のように、柱状鉛の両端部のそれぞれを、各厚肉剛性板の内周面で規定される中空部の各端部に密に配して、環状隙間の発生を防止し、免震特性の劣化を防止しようとするものである。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明及び本発明の実施の形態を、好ましい実施例に基づいて更に説明する。
【0035】
【実施例】
図7に示す本例の免震装置5は、環状の弾性板1からなる弾性材料層並びに環状の薄肉剛性鋼板2及び環状の厚肉剛性鋼板15、16からなる剛性材料層とが交互に積層されてなる環状の弾性体3と、少なくとも弾性体3の内周面9で規定される中空部12に密に配された円柱状鉛4と、鋼板15及び16にぞれぞれボルト17を介して連結されたフランジプレート18及び19と、円柱状鉛4の下面及び上面においてフランジプレート18及び19と鋼板15及び16とを互いに剪断方向(F方向)に固定する剪断キー20とを具備しており、円柱状鉛4が密に配された中空部12は、内周面9に加えて、下方の剪断キー20の上面21と上方の剪断キー20の下面22とによって規定されている。免震装置5において、鋼板15及び16は、弾性体3の上下端面側の弾性材料層に埋め込まれて配されており、円柱状鉛4の下端部23は、鋼板15の内周面によって規定される中空部12の下端部に密に配されており、円柱状鉛4の上端部24は、鋼板16の内周面によって規定される中空部12の上端部に密に配されている。
【0036】
本免震装置5は、フランジプレート18側が基礎10に、フランジプレート19側が構造物11にそれぞれ連結されて用いられる。本例においては、弾性材料層を形成するために、厚さ5mmの天然ゴム製の環状の弾性板1を25枚使用し、剛性材料層を形成するために、厚さ2.3mmの環状の鋼板2を22枚と、厚さ31mmの環状の鋼板15及び16とを使用した。
【0037】
本発明の免震装置5を製造する場合には、まず、環状の弾性板1と鋼板2とを交互に積層して、その下面及び上面に環状の鋼板15及び16を配置し、型内における加圧下での加硫接着等によりこれらを相互に固定してなる環状の弾性体3を準備し、その後、円柱状鉛4を中空部12に形成すべく、弾性体3の中空部12に鉛を圧入する。鉛の圧入は、円柱状鉛4が弾性体3により中空部12において隙間なしに拘束されるように、鉛を中空部12に油圧ラム等により押し込んで行う。鉛の圧入後、剪断キー20並びにフランジプレート18及び19を取り付ける。なお、型内における加圧下での加硫接着による弾性体3の形成において、鋼板2、15及び16の外周面を覆って、円筒状被覆層25が形成されるようにするとよい。本例の被覆層の厚みは、10mmであった。また上記形成において、弾性板1の内周側の一部が流動して、鋼板2、15及び16の内周面を覆って、円筒状被覆層25と同様であるがそれよりも極めて薄い円筒状被覆層が形成されてもよい。
【0038】
無負荷状態における弾性体3の高さが240mmの図7に示すような免震装置5において、比ap/Arを変化させて、各比ap/Arでの基礎10の振動エネルギEbによる構造物11への振動エネルギEsを求めた。得られた比ap/Arと免震装置5によるエネルギ伝達率Es/Ebとの関係を図8に示す。
【0039】
なお、このエネルギ伝達率は、以上の各値に加えて、免震装置5の面圧を80kg/cmとし、弾性板1の剪断弾性率Gを6kg/cmとし、入力として、エルセントロ地震波、十勝沖地震波、八戸地震波及びTAFT地震波を用い、これに統計的処理を施して、求めた。
【0040】
図8から明らかなように、比ap/Arが0.01〜0.12の範囲内であれば、エネルギ伝達率Es/Ebが1/2以下となり、基礎10の振動エネルギが十分に減衰されて構造物11に伝達されることが判る。また、比ap/Arが0.12を越えると、応答加速度比(応答/入力)が約50%以上になることを確認し得た。また、比ap/Arが0.01未満であると、構造物11と基礎10との相対変位が、例えば好ましい比ap/Ar=0.05におけるそれの2〜3倍以上も生じ、実用的でないことが判った。
【0041】
また、比ap/Arが0.02〜0.07の範囲内の場合及び0.03〜0.06の範囲内の場合は、図8から明らかなように、ぞれぞれ更に好ましいエネルギ伝達率Es/Ebが得られることが判る。
【0042】
一方、図7に示す免震装置5であって、鋼板2、15及び16の外径を500mm、内径を90mmとした免震装置5に対して、鉛直荷重57tonf(面圧30kgf/cm)〜342tonf(面圧180kgf/cm)を加えて、水平方向の変位と水平方向力との関係を実験により求めた。これを図9〜図12に示す。図9〜図12において、(a)は、免震装置5の全弾性板1自体の横変位(水平方向変位)が10%の場合、(b)及び(c)は、同じく50%及び100%の場合である。図9に示す鉛直荷重57tonf(面圧30kgf/cm)を加えた場合における比Vp/Veは1.03、図10に示す鉛直荷重114tonf(面圧60kgf/cm)を加えた場合における比Vp/Veは1.00、図11に示す鉛直荷重228tonf(面圧120kgf/cm)を加えた場合における比Vp/Veは1.02及び図12に示す鉛直荷重342tonf(面圧180kgf/cm)を加えた場合における比Vp/Veは1.11であった。以上の場合における比ap/Arは、0.03であった。
【0043】
図9、図11及び図12から明らかであるように、比Vp/Veが1.02以上では、トリガ機能が特に要求され、大振幅の地震に対して好ましく対応し得ることが判る。また図10から明らかであるように、比Vp/Veが1.00〜1.02未満の場合には、トリガ機能を好ましく得ることができないといえる。なお、比Vp/Veが1.07以下であれば、製造において中空部12への鉛の圧入が容易であり、それほど困難を伴わないことが判明した。また、比Vp/Veが1.12以上になるように、中空部12へ鉛を圧入しようとしたが、弾性体3の損壊なしに、これを行うことは困難であることが判明した。
【0044】
なお、免震装置5では、鋼板15及び16とフランジプレート18及び19とを別体で形成したが、フランジプレート18及び19に、厚肉剛性板を一体に形成して、免震装置を具体化してもよい。
【0045】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、柱状鉛の剪断面の総面積Σapと、弾性体の荷重面の面積Arとの比Σar/Arを所定の範囲内にするため、免震効果に優れ、構造物と基礎との相対変位を小さくすることができ、また地震後の後揺れも早期に減衰することができ、台風時のような強風時でも載置された構造物の横揺れを少なくし得、加えて免震効果を発揮するに十分な長周期化を計り得て長周期成分の地震動でも共振の虞がない免震装置を提供することができる。そして弾性体の中空部に配された柱状鉛を隙間なしに拘束し得る結果、安定な免震特性を得ることができ、しかも、トリガ機能を有して、大振幅の地震動に好ましく対応し得、加えて弾性体の弾性材料層及び柱状鉛の劣化を回避することができ、耐久性及び免震効果並びに製造性に特に優れた免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る免震装置の斜視図である。
【図2】図1に示す免震装置の断面図である。
【図3】免震装置の動作説明図である。
【図4】免震装置の動作説明図である。
【図5】免震装置の動作説明図である。
【図6】図1に示す免震装置の一部拡大断面図である。
【図7】本発明の好ましい一実施例の断面図である。
【図8】図7に示す実施例の効果を示す図である。
【図9】図7に示す実施例の効果を示す図である。
【図10】図7に示す実施例の効果を示す図である。
【図11】図7に示す実施例の効果を示す図である。
【図12】図7に示す実施例の効果を示す図である。
【符号の説明】
1 弾性板
2 剛性鋼板
3 弾性体
4 円柱状鉛
5 免震装置
12 中空部

Claims (8)

  1. 少なくとも一つの柱状鉛と、弾性材料層及び剛性材料層が交互に積層されてなる弾性体と、少なくともこの弾性体の内周面で規定されており、柱状鉛が密に配された少なくとも一つの中空部とを具備した免震装置であって、柱状鉛の剪断面の総面積Σapと弾性体の荷重面の面積Arとの比Σap/Arが0.01〜0.12であり、中空部に配された柱状鉛の体積Vpと、柱状鉛が未挿入であって、弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして柱状鉛が中空部に密に配されてなり、前記積層方向の荷重を支持するようにした免震装置。
  2. 比Vp/Veが1.02〜1.07である請求項1に記載の免震装置。
  3. 比Σap/Arが、0.02〜0.07である請求項1又は2に記載の免震装置。
  4. 比Σap/Arが、0.03〜0.06である請求項1又は2に記載の免震装置。
  5. 弾性材料層及び剛性材料層が交互に積層されてなる弾性体と、この弾性体の内周面で規定された少なくとも一つの中空部に配された柱状鉛とを具備した免震装置を一個以上有した免震システムであって、柱状鉛の剪断面の総面積Σapと弾性体の荷重面の総面積ΣArとの比Σap/ΣArが0.01〜0.12であり、中空部に配された柱状鉛の体積Vpと、柱状鉛が未挿入であって、弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして柱状鉛が中空部に密に配されてなり、前記積層方向の荷重を支持するようにした免震システム。
  6. 比Vp/Veが1.02〜1.07である請求項5に記載の免震システム。
  7. 比Σap/ΣArが、0.02〜0.07である請求項5又は6に記載の免震システム。
  8. 比Σap/ΣArが、0.03〜0.06である請求項5又は6に記載の免震システム。
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