JP3980747B2 - 石油残渣−水スラリ−の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、石油残渣の水スラリーの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
将来にわたって、原油は重質化する一方で、重油の需要は減少するために、残油をできるだけ分解して白油得率をあげることが望まれている。また、原油埋蔵量の減少に伴い、オイルサンドやオリノコタールのような超重質原油の有効活用にも関心が高まっている。
【0003】
例えば、減圧残油はそのままではカットバックによる重油あるいは道路建設基材として利用されている。減圧残油をアップグレーディングする方法としては、残油流動接触分解、水素化分解、熱分解などによる軽質化とプロパンやブタン等の軽質炭化水素を溶媒に用いて脱瀝油(脱アスファルテン油)を抽出する物理的分離がある。溶剤脱瀝は他のアップグレーディング装置に比べて比較的安価で、水素を使わない利点があるが、溶剤脱瀝残渣が常温で固体のために貯蔵、運搬などのハンドリングが煩雑である。溶剤脱瀝残渣を液体燃料とするためには、分解軽油を3割から5割添加して重油並に粘度を下げている。しかし、脱瀝油を流動接触分解して得られた分解軽油をカッターストックとして用いるために、結果的に溶剤脱瀝の抽出率を下げることになる。そこで、溶剤脱瀝残渣を粉砕し、それを水中に高濃度に分散させる水スラリー化技術が注目されている。
【0004】
ところで固体燃料としての石炭を水スラリー:CWM(Coal-Water Mixture)(以下、CWMという)として液体燃料化することはすでに実用化されているが、溶剤脱瀝残渣等の石油系高炭素質残渣については石炭の水スラリー化の場合と異なる特異の技術的問題、たとえば、軟化点が低いために温度環境に影響されやすく、ハンドリング上の問題のほか、スラリー化における粉砕特性や分散性、実現可能濃度あるいは製品の安定特性等に関しても、CWMの場合とは一連托生に運ばない本質的な技術課題を有しており、実用化への期待が高まるにしたがって、実態究明と対応がなされつつある。
【0005】
一般的に、スラリー燃料および製造方法に求められるもっとも重要な技術的要件は、燃料固体成分を高濃度に保持できること、スラリーとして粘度が低くかつ貯蔵・輸送時に安定であり、かつ、粉砕エネルギーや装置、分散剤等に係るコストが安いことであり、これらのいずれの要素も総合的に満足することが望ましい。
【0006】
まず、スラリーの製品性状のうち濃度については、後述の特開昭62−225592号公報にも指摘されているように、CWMの場合と共通の最密充填原理が溶剤脱瀝残渣−水スラリ−にも当てはまるものと考えられ、20℃における見掛粘度が1,000センチポイズ(cP)以下を目標とする場合、65〜70wt%あるいはそれをやや上回る程度が現実的に可能な最大濃度である。また、ポンプ輸送可能体としての水スラリーの流動性ならびに安定性については、主成分たる粒子の種類、濃度、粒径分布、分散状態、分散剤の種類や量、スラリーの安定性を維持するための安定剤の種類、量、さらに、これらを含むすべての構成要素相互の作用関係、製造条件、温度等の環境などの影響をうける。
【0007】
ここで燃料固体成分を高濃度に保持しつつ、高い流動性をもったスラリーを得る場合の溶剤脱瀝残渣の好ましい粒度分布は図11に示すようにおよそ1μmから1000μmの粒子径に亘って略逆W字状をなすような分布であることがわかっている。その理由は、径の大きな粒子同士の隙間に径の小さな粒子が入り込み、それによって溶剤脱瀝残渣の粒子が最密充填され、水スラリーの流動性がよくなるからである。それに対して粒子径が大きくてもまた小さくても粒子径が一様に揃うと、粒子間に隙間が生じてしまい、最密充填にはならない。
【0008】
また粒度分布がより小径側(図11左側)に寄ってもよいが、そのような粒度分布を得ることは、溶剤脱瀝残渣を撹拌して粉砕する装置の構造上実質不可能である。例えば撹拌時間を長くして粒子を微細化しようとすると、小径の粒子はそれ以上粉砕されずに大径の粒子が微細化されるだけであり、それによって図11の分布の大径端が急激に粒度分布の小径側(図11の左側)に寄り、粒度分布が急峻になって水スラリーの流動性が悪化してしまう。それとは逆に粒度分布がより大径側(図11右側)に寄ると、粒子径が大きくなるため水スラリーにおいて粒子の沈降が多くなり、長期安定性が悪くなってしまう。
【0009】
次に溶剤脱瀝残渣−水スラリー(Residue−Water Mixture;以下RWMと称する)の製造プロセスについて検討すると、石炭−水スラリーの製造で既に用いられている典型的な方法、例えば粗粉砕原料を分散剤の存在下、水中で湿式高濃度微粉砕した後、安定剤を添加、混練することからなる一段粉砕法を適用することが実用的かつ経済的な手法と考えられる。
【0010】
このため本発明者はボールミル型粉砕機を用いて溶剤脱瀝残渣の粉砕を試みたところ、破砕粒子の粒径範囲が微粒子側に寄り、図11に示すような広い粒径範囲の分布が得られなかった。その理由は、溶剤脱瀝残渣は石炭に比べてオイル分や気泡、また、重金属類や硫黄分の含有量が多いことなど構成成分の違いや、比重、破砕粒子形状や破砕特性、更にスラリー化条件などの違いから、両者における濃度、分散状態並びに安定性についてかなり大きな差があることに起因するものと考えられる。
【0011】
そこで本発明者らが従来のボールミル型粉砕機を用いて溶剤脱瀝残渣の粉砕を試みたところ、2段階粉砕を行うことによって図11に示す粒度分布を得ることができることが判明した。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ボールミル型粉砕機を用いた2段階粉砕では、工程数が多くなり、製造コストが高くなってしまう。これは、残渣を利用してできるだけ低いコストで燃料化を図るという観点からすれば好ましいことではない。
【0013】
また2段階の粉砕を行う別の技術として特開昭62−225592号公開公報に開示された手法がある。この手法では偏平な円筒状の粉砕室の中に、この粉砕室の上下両面及び側周面とわずかな間隔をもって回転刃、あるいは固定刃と回転刃とを組み合わせた粉砕刃を設けて構成した粉砕機を用い、ホッパーからの供給物を粉砕機において粉砕した後、排出管から排出させるようにしている。しかしながらこれらの粉砕機を用いて溶剤脱瀝残渣の粉砕を行っても本発明者が狙っている図11に示すような限定された粒度分布が得られないということを本発明者らは経験的に把握している。その理由については、溶剤脱瀝残渣に対して剪断力の他に大きな摩擦力を利用して粉砕しているが、減圧残油の溶剤脱瀝残渣の軟化点は一般に120℃〜200℃であり、大きな摩擦力を受けて高い温度になり一部が軟化することが一つの要因ではないかと推察される。
【0014】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、1段階のスラリ−生成工程により好ましい粒度分布を有し、それによって安価で安定性の高い高濃度溶剤脱瀝残渣などの高濃度石油残渣の水スラリーを容易に得ることができる製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の石油残渣−水スラリ−の製造方法は、容器の底部に撹拌翼を備えた高速撹拌機内に石油残渣を入れ、前記撹拌翼を高速回転させることにより石油残渣を粉砕する工程と、
水及び分散剤を、石油残渣を粉砕する前または石油残渣を粉砕する工程の途中あるいは終了後に石油残渣に加えると共に、粉砕助剤を石油残渣を粉砕する前または石油残渣を粉砕する工程の途中に石油残渣に加え、石油残渣と共に撹拌して石油残渣−水スラリ−を得る工程と、
を含むスラリ−生成工程により石油残渣−水スラリ−を製造することを特徴とする。
この方法は、軟化点120〜200℃の石油残渣、特に溶剤脱瀝残渣をスラリ−化する場合に適している。高速撹拌機の容器は撹拌翼と逆回転することが好ましく、また高速撹拌機の容器は傾けて設けられると共に撹拌翼の回転中心軸は容器の中心軸よりも偏心していることが好ましい。更に容器の隅部には石油残渣が滞留しないように仕切り部が設けられていることが好ましい。
【0016】
得られた石油残渣−水スラリ−中の粒子は、例えば粒径5.5μm以下が15wt%〜40wt%、粒径710μm以下が80%以上である。水の添加量は、石油残渣及び水の総量に対して例えば25〜50wt%である。また本発明は、得られた石油残渣−水スラリ−をストレーナーを通して濾過する工程、得られた石油残渣−水スラリ−に安定化剤を加える工程を含むことが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1及び図2には本発明方法の実施に使用される高速撹拌機の一例が示されている。この高速撹拌機1は、有底円筒状でその中心軸を回転軸(図1及び図2に一点鎖線で示す)として比較的低速で回転する撹拌槽をなす容器2と、その容器2とは逆向きに高速回転する撹拌翼3を備えている。容器2は、例えばその中心軸が斜めに傾いた状態で支持台4により支持されている。傾斜の角度は、約30°以下、例えば10〜15°程度あるいはそれ以下が好ましい。容器2の内部には、その中心軸よりも上側の容器内隅部に溶媒脱瀝残渣等が撹拌されずに留まるのを防ぐ仕切り部材21が設けられる。仕切り部材21は例えば容器2の蓋体22に取り付けられている。
【0019】
撹拌翼3は、例えば羽根32が4本放射状に延びて設けられている。撹拌翼3は、そのシャフト31すなわち撹拌翼3の回転軸が容器2の中心軸と平行でかつ容器2の中心軸よりも前後左右に位置するように、即ち容器2の中心軸に対して偏心した位置にて支持台4により支持されている。偏心の度合は、粉砕効率および動力費が有利な範囲で撹拌翼3の先端と容器2の内壁との間隔ができるだけ狭くなるようにするのが好ましい。その間隔は装置の大きさにもよるが、例えば30cm以下が好ましい。撹拌翼3の羽根32は容器2の底面23の近くに位置しており、それによって容器2内の上部から下降してくる溶剤脱瀝残渣の粒子を効率よく撹拌することができるようになっている。支持台4には、容器2及び撹拌翼3を回転させるモータ41,42が取り付けられている。
【0020】
なお容器2は、その中心軸が垂直になるように水平に支持されていてもよい。その場合には、容器底部の隅部に仕切り部材等を設け、その隅部に溶剤脱瀝残渣等が撹拌されずに留まるのを防ぐようにすればよい。また撹拌翼3としては羽根がシャフト31に沿って2段以上設けられていてもよいし、羽根の数は3本以下または5本以上でもよく、更にはまたシャフト31の先端にこれと直交するようにディスク部材を設け、このディスク部材の外周に沿って例えば前記シャフト31と平行な羽根を設けた構成のものであってもよい。そしてまた撹拌翼3を2個以上設ける構成、例えば2本のシャフト31を容器の中心軸に対して偏心した2カ所の位置に配置し、これらシャフトに夫々羽根32を設けた構成としてもよい。
【0021】
次に上述の高速撹拌機1を用いた本発明に係る製造方法の実施の形態を図3〜5を参照しながら説明する。まず図3に示す例について述べると、前記高速撹拌機1の撹拌槽(容器2)内に溶剤脱瀝残渣と適量の粉砕肋剤と適量の水を仕込む。この時の溶剤脱瀝残渣はフレーク状である。このように粉砕助剤を粉砕工程の初期に添加すると粉砕性が高まって幅広い粒度分布が得られるとともに、スラリー化のために後の工程で添加される分散剤の添加量を少なくすることができるので好ましい。
【0022】
ここで例えば減圧残油を原料として溶剤抽出法によりアスファルトやレジン分を分離除去し、付加価値の高い脱れき油を得る場合、脱れき油の性状が良好でありながらある程度高い抽出率を確保しようとすると、脱れき油の収率が一般に40wt%〜80wt%であり、この場合ピッチの軟化点が120℃〜200℃となる。前記容器2内に供給される溶剤脱瀝残渣としては、例えばこのような軟化点が120℃〜200℃の溶剤脱瀝残渣が用いられる。
【0023】
粉砕条件は、高速撹拌機1の撹拌翼3の周速度が例えば10〜42m/sec 、容器2の回転数が例えば10〜44rpmである。撹拌翼3の回転数があまり高いと、粒度分布の山が微粒子側に寄ってしまうので好ましくない。また粉砕時間は撹拌翼3の回転数、分散剤の有無等にもよるが、例えば5〜60分程度行えばよく、本発明者らが行った実験によれば粉砕時間が15分程度で溶剤脱瀝残渣の粒度分布に変化が見られなくなり、あまり長時間粉砕を続けると造粒されてしまう。
【0024】
粉砕後の溶剤脱瀝残渣は湿潤した粉末(ウェットパウダー)状になる。この場合水の添加量は、溶剤脱瀝残渣あたり25〜50wt%、好ましくは25〜30wt%である。
粉砕助剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール及びポリエチレングリコール等の増粘剤から選択される1種または2種以上よりなる。粉砕助剤の添加量は、溶剤脱瀝残渣と水の総量あたり50〜3000wtppm がよく、好ましくは100〜1000wtppm であるのがよい。
【0025】
続いて高速撹拌機内に所定量の分散剤を添加し、高速撹拌機を5分間駆動してウェットパウダーを液化し、その粘度を調整してスラリー化する。
分散剤として各種界面活性剤が使用され得る。アニオン系界面活性剤では、リグニンスルホン酸塩、特にそのカルシウム、マグネシウム及びナトリウムの塩、部分脱スルホンリグニンスルホン酸塩であって官能基としてスルホン酸基、カルボキシル基、フェノール性水酸基またはアルコール性水酸基をもつもの、ナフタレンスルホン酸塩、特にそのナトリウムまたはマグネシウムの塩、ポリスチレンスルホン酸塩、特にそのナトリウムの塩、並びにナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(NSF)またはそのナトリウムもしくはマグネシウムの塩が好適である。分散剤はこれらのうちから選択される1種または2種以上よりなる。これらの列挙したアニオン系界面活性剤のうちナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物やポリスチレンスルホン酸塩は、温度の高低による性能の変化が小さく、かつ粉砕助剤に対して悪影響を与えず、スラリー化に必要な添加量が少ないという利点を有する。
【0026】
またノニオン系界面活性剤では、例えばポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート及びポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテートなどが有用である。一般にノニオン系界面活性剤は、泡立ちやすく温度の高低による性能変化が大きいが、親油性が強いため溶剤脱瀝残渣のスラリー化を著しく促進することができるという利点がある。分散剤の添加量は、溶剤脱瀝残渣1kgに対して2〜20gがよく、好ましくは3〜10gである。
【0027】
そして、得られたスラリーを高速撹拌機から取り出し、それを混合槽である中間タンクに一旦入れる。さらにその中間タンク内のスラリーをストレーナ等によりろ過する。このろ過工程によって例えば粒子径が800μmよりも大きな溶剤脱瀝残渣粒子を除去する。ろ過されたスラリー(その粒子径は例えば800μm以下である)を撹拌槽内に所定量の安定剤とともに入れ、例えば10分間滞留させて安定化させる。
【0028】
安定剤は、(1)カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース( HEC)、ポリビニルアルコール及びポリエチレングリコールよりなるグループから選択される1種または2種以上、(2)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムよりなるグループから選択される1種または2種、(3)水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、コロイダルシリカ、カオリン、ベントナイト及びアタパルガス粘土よりなるグループから選択される1種または2種以上よりなる。安定剤の添加量は、スラリーあたり100〜6000wtppm がよく、好ましくは500〜3000wtppm である。
【0029】
しかる後、安定化されたスラリーをサービスタンク等の別のタンクへ輸送する。またストレーナ等により除去された粒子径が800μmより大きい溶剤脱瀝残渣粒子は例えば次の粉砕サイクルの時などに溶剤脱瀝残渣の原料として使用され、再び水等とともに高速撹拌機内に投入される。
【0030】
また本発明に係る製造方法では、図4の他の工程例に示すように、ウェットパウダーに分散剤を添加し4分間駆動してスラリー化した後、その状態で高速撹拌機内に所定量の安定剤をさらに添加し、高速撹拌機の撹拌翼を例えば1分間駆動してスラリーを安定化させてもよい。
【0031】
更に本発明に係る製造方法では、図5の他の工程例に示すように、溶媒脱瀝残渣、粉砕助剤、水、分散剤及び安定化剤をはじめから高速撹拌機1内に仕込んでおき、撹拌翼3を駆動してスラリーを生成するようにしてもよい。
【0032】
また撹拌機2内に投入する水、粉砕助剤及び分散剤のタイミングについての例を図6の例1〜例4として示す。例1は上述の実施の態様に相当し、最初に高速撹拌機内に溶剤脱瀝残渣と水と粉砕助剤を入れて所定時間(一例として15分として記載してある)粉砕した後に分散剤を添加している。例2は最初に高速撹拌機内に溶剤脱瀝残渣と水のみを入れて所定時間粉砕した後に粉砕助剤と分散剤を添加している。例3は最初に高速撹拌機内に溶剤脱瀝残渣のみを入れて所定時間粉砕した後に水と粉砕助剤と分散剤を添加している。例4は最初に高速撹拌機内に溶剤脱瀝残渣と水と粉砕助剤と分散剤を入れて所定時間粉砕している。
【0033】
また本発明者の実験によれば、例1〜例3では既述の図11の粒度分布において大径側の裾の部分は粒子の頻度がゼロになるまでなだらかに減少する。これに対して例4では例1〜例3の例に比べて大径側の粒子の頻度は高いがつまり大径側に粒度分布の山が寄っているが、大径側の裾の部分は急峻に下がってゼロとなる。このように分散剤を投入する時期によって粒度分布を調整することができ、粒度分布の山の形と大粒子径側の裾の部分とをほど良い状態に合わせ込むことができる。
【0034】
このように上記実施の形態によれば、容器の底面部に撹拌翼を備えた撹拌機を用いて、溶剤脱瀝残渣を撹拌翼との衝突により粉砕しているので、後述する実施例からわかるように、1段階粉砕により所望の粒度分布が得られ、それによって安価で安定性の高い高濃度RWMを容易に得ることができる。そしてこの方法は、特に軟化点が120℃〜200℃の溶剤脱瀝残渣の場合に好適である。何故ならこのプロセスは発熱が低いので軟化点が120℃と低くても軟化せず、また軟化点が200℃までのものであれば適度に粉砕されるからである。
【0035】
ここで所望の粒度分布とは、5.5μm以下の粒子の生成量が15wt%〜40wt%、710μm以下の粒子の生成量が80wt%以上であるような分布である。5.5μm以下の粒子の生成量が15wt%よりも小さいと粒度分布の微粒子側のピ−クがシャ−プになるので流動性が悪くなり、40wt%を越えると粗い粒子が少なくなるので粒径が揃ってしまい、やはり流動性が悪くなる。また710μm以下の粒子の生成量が80wt%よりも小さくなると、燃焼効率が悪くなり、燃料供給ノズルを通りにくくなる。
【0036】
このような粒度分布が得られる理由は、容器の底部に設けられた撹拌翼により3000rpmを越える高速撹拌を行い、これにより形成された激しい渦流による剪断力と、撹拌機と粒子との衝撃力との作用に基づくと考えられる。更に容器2が回転することに加え、撹拌翼3のシャフト31が容器2の中心軸から偏心しているため、不均一な流れが形成され、結果として均一な粉砕作用が得られる。即ち容器2の中心軸に対して均一な流れの場合には、スラリ−の一部は常に大きな剪断力を受け、他の部分は常に小さな剪断力しか受けないが、不均一な流れを形成すれば、ある時間で見た場合、スラリ−のどの部分も概ね同じ剪断力を受けることになる。更にまた容器2の隅部のうち底面中心部よりも上側に位置する部分に仕切り部材21を設けて当該隅部に粒子が滞留しないようにしていることも、高い粉砕機能が得られている要因の一つであると考えられる。
【0037】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げ、本発明の特徴をより明らかとする。 以下の各実施例及び各比較例においては、中東系原油を処理する典型的な石油精製工場において入手可能な溶剤脱瀝残渣を用いた。この溶剤脱瀝残渣の組成及び特性を調べたところ、高発熱量は9610cal /g (試験法:JIS M 8814(1993))であり、灰分は0.5wt%(試験法:JIS M 8812(1993))であり、炭素は84.2wt%(試験法:JIS M 8813(1988))であり、水素は8.46wt%(試験法:JIS M 8813(1988))であり、窒素は1.16wt%(試験法:JIS M 8813(1988))であり、酸素は0.3wt%(試験法:JIS M 8813(1988))であり、全硫黄は5.42wt%(試験法:JIS M 8813(1988))であった。軟化点は142.5℃(試験法:JIS K 2207(1993))であった。HGI(Hard Globe Index)は155(試験法:JIS M 8801(1993))であった。
【0038】
また以下の各実施例においては、図1及び図2に示す構成と同様の高速撹拌機(最大回転数:5000rpm )を用いた。ただし容器の内径は26cm、容器の底面から上面までの高さ(軸方向の長さ)は26cm、羽根の外径及び幅は夫々14cm及び1.5cmであった。この傾きは約10°、羽根の先端と容器の内壁との間隔は約10mmであった。
【0039】
(実施例1)
3000gのスラリーを生成するために、最初に高速撹拌機内に溶剤脱瀝残渣のみを2160gを入れ、撹拌翼及び容器の回転数をそれぞれ2082rpm 、44rpm として粉砕処理を40分間行った。得られた粉砕品の性状は粉末であり、溶剤脱瀝残渣の濃度は100%であった。図7に、粉砕品の収量、粒子径が710μm以上の残存量(+710μmの欄)、粒子径が710μm未満の粒子の粒度分布、平均体積粒径及び粒子径が5.5μm以下の生成量(−5.5μmの欄)を示す。なお、粒度分布の欄の10%、50%及び90%の欄は、粒子径の小さいものから大きいものへと順次粒子を取り出した時に累積値がそれぞれ10%、50%及び90%に相当する粒子の径を表している。
【0040】
この結果より後述する比較例1のボールミル型粉砕機を用いた場合に比べて、分布幅の広い粒度分布が得られることがわかる。
【0041】
(実施例2)
3000gのスラリーを生成するために、最初に高速撹拌機内に2160gの溶剤脱瀝残渣とともに水を総量に対して28wt%加えて、撹拌翼及び容器の回転数をそれぞれ2082rpm 、44rpm として粉砕処理を30分間行った。得られた粉砕品の性状は粉末であり、溶剤脱瀝残渣の濃度は74.0%であった。図7に、粉砕品の収量、粒子径が710μm以上の残存量、粒子径が710μm未満の粒子の粒度分布、平均体積粒径及び粒子径が5.5μm以下の生成量を示す。
【0042】
図7より、後述する比較例1のボールミル型粉砕機を用いた場合に比べて、より短時間で粒子径が5.5μm以下の粒子が20wt%以上生成し、かつ90wt%パスの粒子径が180μm以上を含むような分布幅の広い粒度分布が得られることがわかる。
【0043】
この実施例2で得られた溶剤脱瀝残渣の粉末に溶剤脱瀝残渣1kg当たり9g/kgの分散剤であるNSF(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物)、及び溶剤脱瀝残渣と水の総量あたり300wtppm の粉砕助剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)を添加し、さらに安定剤としてスラリーあたり2000ppm のアタパルガス粘土を添加して、粘度調製及び安定化を行ってスラリーを得た。得られたスラリーにおける溶剤脱瀝残渣の濃度及びスラリーの見掛粘度を図8に示す。
【0044】
また、得られたスラリーを内容積300ミリリットルのトールビーカーに185g採取し、これを左右振動幅が50mm幅で振動回数が145rpm の振動機により24時間振動させた後、5分間排出させて、沈降状態を評価した。その結果を図8に併せて示す。
【0045】
(実施例3)
3000gのスラリーを生成するために、最初に高速撹拌機内に2160gの溶剤脱瀝残渣とともに、溶剤脱瀝残渣と水との総量に対して28wt%の水、及び溶剤脱瀝残渣と水の総量あたり300ppm の粉砕助剤であるCMCを入れ、撹拌翼及び容器の回転数をそれぞれ2082rpm 、44rpm として粉砕処理を30分間行った。得られた粉砕品の性状は粉末であり、溶剤脱瀝残渣の濃度は74.5%であった。図7に、粉砕品の収量、粒子径が710μm以上の溶剤脱瀝残渣の残存量、粒子径が710μm未満の粒子の粒度分布、平均体積粒径及び粒子径が5.5μm以下の生成量を示す。
【0046】
図7より、後述する比較例1のボールミル型粉砕機を用いた場合に比べて、より短時間で粒子径が5.5μm以下の粒子が20wt%以上生成し、かつ90wt%パスの粒子径が180μm以上を含むような分布幅の広い粒度分布が得られることがわかる。
【0047】
この実施例3で得られた溶剤脱瀝残渣の粉末に溶剤脱瀝残渣1kg当たり5g/kgの分散剤であるNSFを添加し、さらに安定剤としてスラリーあたり2000ppm のアタパルガス粘土を添加して、粘度調製及び安定化を行ってスラリーを得た。得られたスラリーにおける溶剤脱瀝残渣の濃度及びスラリーの見掛粘度を表2に示す。
【0048】
図8より、実施例2に比べて分散剤の量を略半減してもよいことがわかる。
また、得られたスラリーについて実施例2と同様にして沈降状態を評価した。その結果を図8に併せて示す。
【0049】
(実施例4)
5000gのスラリーを生成するために、最初に高速撹拌機内に3450gの溶剤脱瀝残渣とともに溶剤脱瀝残渣及び水の総量に対して31wt%の水、溶剤脱瀝残渣と水の総量あたり300ppm の粉砕助剤であるCMC、及び溶剤脱瀝残渣1kgに対して7gの分散剤であるNSFを入れ、撹拌翼及び容器の回転数をそれぞれ2082rpm 、44rpm として粉砕処理を60分間行った。得られた粉砕品の性状はスラリーであり、溶剤脱瀝残渣の濃度は71.7%であった。またスラリーの見掛粘度は500cP(センチポイズ)であった。表1に、粉砕品の収量、粒子径が710μm以上の残存量、粒子径が710μm未満の粒子の粒度分布、平均体積粒径及び粒子径が5.5μm以下の生成量を示す。
【0050】
図7より、後述する比較例1のボールミル型粉砕機を用いた場合に比べて、分布幅の広い粒度分布が得られることがわかる。
【0051】
この実施例4で得られたスラリーに安定剤としてスラリーあたり2000ppm のアタパルガス粘土を添加して、粘度調整及び安定化を行った。最終的に得られたスラリーにおける溶剤脱瀝残渣の濃度及びスラリーの見掛粘度を図8に示す。
【0052】
また、得られたスラリーについて実施例2と同様にして沈降状態を評価した。その結果を図8に併せて示す。
【0053】
(実施例5)
3000gのスラリーを生成するために、最初に高速撹拌機内に2160gの溶剤脱瀝残渣とともに溶剤脱瀝残渣及び水の総量に対して28wt%の水、溶剤脱瀝残渣と水の総量あたり300ppm の粉砕助剤であるCMCを入れ、撹拌翼及び容器の回転数をそれぞれ2082rpm 、44rpm とし粉砕処理を15分間行った。その後溶剤脱瀝残渣1kgに対して5gの分散剤であるNSFを入れ、3分間撹拌し、最後に安定剤としてスラリーあたり2000ppm のアタパルガス粘土を添加して1分間撹拌し、粘度調製及び安定化を行ってスラリーを得た。図7に、得られた粉砕品の収量、粒子径が710μm以上の残存量、粒子径が710μm未満の粒子の粒度分布、平均体積粒径及び粒子径が5.5μm以下の生成量を示す。
【0054】
(実施例6)
撹拌翼の回転数を3470rpmとした他は実施例5と全く同様にしてスラリ−を得た。図7に、得られた粉砕品の収量、粒子径が710μm以上の残存量、粒子径が710μm未満の粒子の粒度分布、平均体積粒径及び粒子径が5.5μm以下の生成量を示す。
【0055】
(実施例7)
最初に高速撹拌機内に溶剤脱瀝残渣及び、溶剤脱瀝残渣と水との総量に対して25wt%の水を入れるとともに出来上がり後の溶剤脱瀝残渣量に対して300ppm の粉砕助剤(カルボキシメチルセルロース)を入れ、撹拌翼及び容器の回転数をそれぞれ3740rpm 、44rpm として粉砕処理を15分間行った。得られた溶剤脱瀝残渣の粉末に溶剤脱瀝残渣1kg当たり5gの分散剤であるNSFと濃度調製用の水を添加し、撹拌翼を2082rpm または3740rpm の回転数で1〜2分間駆動し、さらに安定剤を添加して安定化スラリーを得た。このスラリーの粒度分布を図9に示す。同図より所望の粒度分布が得られたことが分かる。また後述する比較例2のボールミル型粉砕機を用いた場合よりもより広い粒度分布幅が得られる(図9及び図10参照)。さらに後述する比較例1,2のボールミル型粉砕機を用いた場合のスラリーにおける溶剤脱瀝残渣の濃度が69wt%であるのに対して、本実施例では略75wt%とより高い濃度が得られる。
【0056】
(比較例1)
比較のため、ボールミル型粉砕機を用いて溶剤脱瀝残渣の粉砕を行った。600gのスラリーを生成するために、ボールミル型粉砕機内に420gの溶剤脱瀝残渣とともに180gの水、溶剤脱瀝残渣と水との総量あたり300wtppm の粉砕助剤、及び溶剤脱瀝残渣1kgに対して9gの分散剤であるNSFを入れ、容器の回転数を60rpm として粉砕処理を45分間行った。得られた粉砕品の性状はスラリーであり、溶剤脱瀝残渣の濃度は69.0%であった。またスラリーの見掛粘度は1128cPであった。図7に、粉砕品の収量、粒子径が710μm以上の残存量、粒子径が710μm未満の粒子の粒度分布、平均体積粒径及び粒子径が5.5μm以下の生成量を示す。
【0057】
この比較例1で得られたスラリーに安定剤としてスラリーあたり2000wtppm のアタパルガス粘土を添加して、粘度調製及び安定化を行った。最終的に得られたスラリーにおける溶剤脱瀝残渣の濃度及びスラリーの見掛粘度を表2に示す。また、得られたスラリーについて実施例2と同様にして沈降状態を評価した。その結果を図8に併せて示す。
【0058】
(比較例2)
比較のため、ボールミル型粉砕機を用いて溶剤脱瀝残渣の粉砕を行った。ボールミル型粉砕機内に溶剤脱瀝残渣とともに溶剤脱瀝残渣及び水の総量に対して30wt%の水、出来上がり後の溶剤脱瀝残渣量に対して300wtppm の粉砕助剤(カルボキシメチルセルロース)、及び溶剤脱瀝残渣1kg当たり9g/kgの分散剤であるNSFを入れ、容器の回転数を41rpm として粉砕処理を20分間行った。得られた粉砕品の性状はスラリーであった。そのスラリーにおける溶剤脱瀝残渣の濃度及びスラリーの見掛粘度を図8に示す。またこのスラリーの粒度分布を図10に示すが、この場合大径側に山が偏ってしまい、幅広い所望の粒度分布が得られなかったことがわかる。
【0059】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、1段階粉砕により分布幅の広い所望の粒度分布が得られるので安価で安定性の高い高濃度溶剤脱瀝残渣の水スラリーを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法の実施に使用される高速撹拌機の一例を示す部分断面図である。
【図2】その高速撹拌機の容器及び撹拌翼を示す部分斜視図である。
【図3】本発明方法の工程の一例を示す工程図である。
【図4】本発明方法の工程の他の例を示す工程図である。
【図5】本発明方法の工程のさらに他の例を示す工程図である。
【図6】高速撹拌機内への投入物と投入のタイミングとを対応付けて示す説明図である。
【図7】実施例におけ粉砕品の収量及び粒度分布のデ−タを示す説明図である。
【図8】実施例におけるスラリ−濃度と粘度との関係を示す説明図である。
【図9】実施例7により得られた粒度分布を示す特性図である。
【図10】比較例2により得られた粒度分布を示す特性図である。
【図11】理想的な粒度分布を示す特性図である。
【符号の説明】
2 容器
21 仕切り部材
22 蓋体
23 底面
3 撹拌翼
31 シャフト
32 羽根
4 支持台
41,42 モータ
Claims (10)
- 容器の底部に撹拌翼を備えた高速撹拌機内に石油残渣を入れ、前記撹拌翼を高速回転させることにより石油残渣を粉砕する工程と、
水及び分散剤を、石油残渣を粉砕する前または石油残渣を粉砕する工程の途中あるいは終了後に石油残渣に加えると共に、粉砕助剤を石油残渣を粉砕する前または石油残渣を粉砕する工程の途中に石油残渣に加え、石油残渣と共に撹拌して石油残渣−水スラリ−を得る工程と、
を含むスラリ−生成工程により石油残渣−水スラリ−を製造することを特徴とする石油残渣−水スラリ−の製造方法。 - 石油残渣は、軟化点120〜200℃であることを特徴とす請求項1記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
- 高速撹拌機の容器は撹拌翼と逆回転することを特徴とする請求項1または2記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
- 撹拌翼の回転中心軸は容器の中心軸よりも偏心していることを特徴とする請求項1、2または3記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
- 高速撹拌機の容器の中心軸及び撹拌翼の回転中心軸は互にほぼ平行でかつ傾いていることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
- 容器の隅部には石油残渣が滞留しないように仕切り部が設けられていることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
- 得られた石油残渣−水スラリ−中の粒子は、粒径5.5μm以下が15wt%〜40wt%、粒径710μm以下が80wt%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
- 水の添加量は、石油残渣及び水の総量に対して25〜50wt%であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
- 得られた石油残渣−水スラリ−をストレーナーに通す工程を含むことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
- 得られた石油残渣−水スラリ−に安定化剤を加える工程を含むことを特徴とする1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の石油残渣−水スラリ−の製造方法。
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