JP3836743B2 - カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板及びカーボンナノチューブ膜体の製造方法 - Google Patents
カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板及びカーボンナノチューブ膜体の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜含有基板及びカーボンナノチューブ膜体の製造方法に関し、更に詳しくは、炭化珪素のC面のみならず、Si面から生成成長したカーボンナノチューブの製造方法、炭化珪素のC面のみならず、Si面から多数のカーボンナノチューブが生成形成され、且つ所定の方向に高配向するカーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜含有基板及びカーボンナノチューブ膜体を大量に製造する方法に関する。本発明により製造されるカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜含有基板及びカーボンナノチューブ膜体は、電子放出素子、ガス分離膜、磁性材料、超伝導材料、二次電池の電極材料等に利用される。
【0002】
【従来の技術】
カーボンナノチューブの配向膜を得る方法としては大きく分けて2つに大別することができる。1つは基板上にFe、Co及びNi等の触媒をコーティングして、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により垂直方向に伸びたカーボンナノチューブ配向膜を得る方法であり、もう1つは炭化珪素単結晶を表面分解することにより、基板に対して垂直に伸びたカーボンナノチューブ配向膜を得る方法である(特願平9−87518号公報)。
【0003】
また、CVDを用いて、SOI(Silicon on Insulator)基板上に炭化珪素単結晶を堆積させた後、基板を剥離し、炭化珪素単結晶を表面分解して、ナノチューブの自立膜を得る方法も提案されている(特願平10−282214号公報)。
しかしながら、触媒を用いたCVD法の場合、比較的大面積のカーボンナノチューブを得ることは可能であるが、チューブが曲がりやすく、また、触媒として用いた金属がナノチューブ内部に残るため、配向膜の品質に問題があった。一方、炭化珪素単結晶を表面分解してカーボンナノチューブ膜を得る方法の場合、炭化珪素が結晶の一方にSi原子のみの表面(以下、「Si面」という。)及び他方にC原子のみの表面(以下、「C面」という。)が存在する性質を有する極性材料であるため、カーボンナノチューブの生成が炭化珪素のC面上に限られており、Si面上にはグラファイトが生成するといった問題があった(M. Kusunoki et al., Phil. Mag. Lett., 79 [4] (1999) 153-161)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、炭化珪素のC面のみならず、Si面から生成成長したカーボンナノチューブの製造方法、炭化珪素のC面のみならず、Si面から多数のカーボンナノチューブが生成形成され、且つ所定の方向に高配向するカーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜含有基板及びカーボンナノチューブ膜体を大量に製造する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため、従来から行われている、炭化珪素の表面分解法によるカーボンナノチューブの生成が炭化珪素のC面上に限られていたことについて鋭意検討を重ねた。そして、この現象は原料である炭化珪素の表面、特にSi面に酸化膜が生成し、炭化珪素の分解を阻害しているためであることを見出し、これを取り除くことにより、炭化珪素のSi面にもカーボンナノチューブを生成させることができ、本発明を完成するに至った。
【0006】
炭化珪素は、活性な材料であり、大気中に放置されると表面に酸化膜が生成される。この酸化膜は、XPS(光電子分光法)による表面分析では、C面では、Si−C以外にC−Si−Oなる結合状態を、また、Si面では、Si−C以外にC−Si−O、更にはSi−O(SiO2)なる結合状態を有する。このSiO2はガラス状であり、Si面における酸化膜、即ちSiO2の存在は、SiO2ガラスがCを多く含むSiOCガラスよりも高温で安定であるために炭化珪素の表面分解法によるカーボンナノチューブの生成を妨害する。そのため、清浄な炭化珪素表面を得る工程を見出した。
【0007】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をし、処理後の炭化珪素を微量酸素の含有する雰囲気において該炭化珪素が分解して該炭化珪素の表面から珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該炭化珪素から珪素原子を除去して、該炭化珪素の表面から内部へカーボンナノチューブを生成成長させることを特徴とする。
【0008】
上記化学処理は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種を含み、ガラスの腐食に用いられる処理剤により行うものとすることができる。また、上記加熱温度は、1200〜2000℃であるものとすることができる。
【0009】
本発明のカーボンナノチューブ膜の製造方法は、炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をし、処理後の炭化珪素を微量酸素の含有する雰囲気において該炭化珪素が分解して該炭化珪素の表面から珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該炭化珪素から珪素原子を除去して、該炭化珪素の表面から内部へ多数のカーボンナノチューブを生成成長させることを特徴とする。
【0010】
上記化学処理は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種を含み、ガラスの腐食に用いられる処理剤により行うものとすることができる。また、上記加熱温度は、1200〜2000℃であるものとすることができる。
上記炭化珪素がα−SiCである場合、カーボンナノチューブが(0001)面に対して垂直に配向しているものとすることができる。また、上記炭化珪素がβ−SiCである場合、カーボンナノチューブが(111)面に対して垂直に配向しているものとすることができる。
【0011】
本発明のカーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板の製造方法は、炭化珪素基板の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をし、処理後の炭化珪素基板を微量酸素の含有する雰囲気において炭化珪素が分解して該炭化珪素基板の表面から珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該炭化珪素から珪素原子を除去して、該炭化珪素基板の表面から内部へ多数のカーボンナノチューブを生成形成させてカーボンナノチューブ膜とし、該カーボンナノチューブ膜の下方に位置する炭化珪素基部を備えたこと特徴とする。
上記化学処理は、ガラスの腐食に用いられる処理剤により行うものとすることができる。
【0012】
また、本発明のカーボンナノチューブ膜体の製造方法は、炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をし、処理後の炭化珪素を微量酸素の含有する雰囲気において炭化珪素が分解して該炭化珪素の表面から珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該炭化珪素から珪素原子を完全に除去して、多数のカーボンナノチューブの集合体とすることを特徴とする。
上記化学処理は、ガラスの腐食に用いられる処理剤により行うものとすることができる。
【0013】
【発明の効果】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法によると、炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をすることにより、炭化珪素のC面のみならず、Si面にもカーボンナノチューブを生成成長させることができる。化学処理は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、水酸化カリウム等を含む処理液で行うことによって、効率よく炭化珪素の表面に生成した酸化膜等を除去することができる。更に、酸化膜を除去したSi面では、炭化珪素の表面分解のために加熱を長時間行ってもグラファイト層が生成することがない。従って、製造方法が異なることによってカーボンナノチューブが生成しないあるいは生成しにくい炭化珪素原料は、上記化学処理により、カーボンナノチューブの生成成長を可能にする。また、得られるカーボンナノチューブの収率のばらつきを最小限にすることができる。酸化膜を除去したSi面を表面分解して得られたカーボンナノチューブは、長時間分解してもその根元にグラファイト層が存在しないので、カーボンナノチューブのみの特性を見ることができ、それを生かした製品へと応用される。
また、本発明のカーボンナノチューブ膜の製造方法及びカーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板の製造方法によれば、カーボンナノチューブが炭化珪素原料に対して垂直に配向しているので、大面積のカーボンナノチューブを得る目的には、従来では、炭化珪素のC面にしか生成させることしかできなかったが、炭化珪素のC面及びSi面の両方に生成形成させることができるため、非常に製造効率がよい。
更に、本発明により製造されるカーボンナノチューブ膜体によれば、カーボンナノチューブのみの集合体であるため、その特性を生かし、ガス分離膜等に非常に有用である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明を更に詳しく説明する。
カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板及びカーボンナノチューブ膜体を得るために用いるSiCとしては特に限定されない。結晶形はα−SiCでもβ−SiCでもいずれでもよい。また、単結晶でも多結晶でもよい。ウィスカー(ひげ状結晶)であってもよい。更に、多孔質であってもよい。多孔質の場合、気孔率等も特に限定されない。また、気孔の形状も球状であっても不規則なものであってもよく、閉じた気孔でも外部と通じた気孔であってもよい。更に、焼結体であってもよい。SiCの形状も板状(円形、四角形、L形等)、線状(直線、曲線等)、塊状(立方体、直方体、球形、略球形等)等特に限定されない。
【0015】
炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をする方法は特に限定されない。通常は、炭化珪素を侵すおそれのない処理液を用いて行われる。上記処理液は炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させることができるものであれば特に限定されないが、酸又はアルカリの処理液が好ましく、ガラスの腐食に適した処理液が特に好ましい。例えば、腐食液としてフッ化水素酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化カリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、(フッ化水素酸+硝酸)水溶液等が挙げられる。これらのうち、フッ化水素酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化カリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液及び(フッ化水素酸+硝酸)水溶液が好ましい。但し、溶融酸化ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム・硝酸カリウム混合液等は炭化珪素にダメージを与えるため好ましくない。上記処理液は、炭化珪素の形状や目的等に応じて処理条件(処理方法、処理液の濃度、温度、処理時間等)を選択すればよい。処理方法としては浸漬法、吹きつけ法等があるが、浸漬法が好ましい。浸漬法による化学処理は、上記処理液の1種のみを用いて行ってもよいし、複数種類の処理液を混合せずに別々の工程で用いて行ってもよい。尚、炭化珪素を化学処理した後は、超純水等で洗浄し、加熱工程へ進めることが好ましい。
【0016】
上記フッ化水素酸水溶液を用いて化学処理する場合、その濃度は、好ましくは0.5〜49%、より好ましくは0.5〜20%、更に好ましくは5〜10%である。濃度が小さすぎると酸化膜の除去に長時間を要する傾向があり、大きすぎると酸化膜の除去を制御しにくい傾向がある。また、処理時間は、好ましくは5〜60分、より好ましくは5〜30分、更に好ましくは10〜20分である。処理時間が短すぎると酸化膜が表面に残留する傾向がある。尚、処理温度は、通常、10〜30℃である。
【0017】
上記フッ化アンモニウム水溶液あるいはフッ化カリウム水溶液を用いて化学処理する場合、各濃度は、好ましくは0.5〜40%、より好ましくは0.5〜20%、更に好ましくは5〜10%である。濃度が小さすぎると酸化膜の除去に長時間を要する傾向があり、大きすぎると酸化膜の除去を制御しにくい傾向がある。また、各処理時間は、好ましくは5〜60分、より好ましくは5〜30分、更に好ましくは10〜20分である。処理時間が短すぎると酸化膜が表面に残留する傾向がある。尚、処理温度は、通常、10〜30℃である。
【0018】
水酸化カリウム水溶液を用いて化学処理する場合、その濃度は、好ましくは0.5〜30%、より好ましくは0.5〜20%、更に好ましくは5〜15%である。濃度が小さすぎると酸化膜の除去に長時間を要する傾向があり、大きすぎると酸化膜の除去を制御しにくい傾向がある。また、処理時間は、好ましくは60〜420分、より好ましくは120〜360分、更に好ましくは180〜300分である。処理時間が短すぎると酸化膜が表面に残留する傾向がある。尚、処理温度は、通常、30〜80℃である。
【0019】
上記例示した処理液を複数用いる場合は、例えば、(1)フッ化水素酸水溶液を用いた後、水酸化カリウム水溶液を用いる方法、(2)フッ化アンモニウム水溶液を用いた後、水酸化カリウム水溶液を用いる方法等がある。
上記化学処理によって、炭化珪素の表面に存在する酸化膜は2Å以下とわずかな厚さとなるに留まる。
【0020】
本発明において、カーボンナノチューブは、上記化学処理後の炭化珪素を、微量酸素を含有する雰囲気において加熱すると、Siが酸化されてSiOとして蒸発し、残ったCが筒状のチューブ構造をとって配列することで製造される。上記「微量酸素を含有する雰囲気」とは、微量の酸素を含有する環境(条件)であれば、特に限定されず、減圧状態であっても、常圧であっても、あるいは加圧状態であってもよいし、また、酸素以外の主たる気体の存在下であってもよい。好ましくは、真空中あるいは不活性ガス雰囲気である。
【0021】
微量酸素を含有する真空中において炭化珪素を加熱する場合、炭化珪素の分解により珪素原子を除去可能な限りにおいて、真空度及び加熱温度は特に限定されない。好ましい真空度は、10−4〜10−10Torrであり、より好ましくは10−5〜10−9Torrである。真空度が高すぎると、生成されるカーボンナノチューブ同士が食い合うことにより、一部のチューブが他を吸収して大きく成長する場合があり、カーボンナノチューブのサイズを制御することが困難になる。また、好ましい加熱温度は、1200〜2000℃であり、より好ましくは1400〜1800℃である。加熱温度が高すぎると、炭化珪素から珪素原子が失われる速度が大きくなり、カーボンナノチューブの配向が乱れやすくなるとともにチューブ径が大きくなる傾向がある。また、カーボン自身もCOとなり蒸発し、カーボンナノチューブ膜厚も薄くなり、更に消失してしまい、乱れたグラファイト層が形成されるので好ましくない。
尚、上記加熱温度に達するまでの昇温速度は特に限定されないが、通常、平均速度は5〜30℃/分、好ましくは5〜20℃/分である。多段階で加熱してもよい。また、上記加熱温度における保持時間も特に限定されず、通常30〜360分、好ましくは30〜240分である。保持時間が長すぎると炭化珪素のC面上ではカーボンナノチューブにグラファイトが混入する傾向にある。上記加熱が終了した後、室温まで降温されるが、その速度も特に限定されない。多段階で降温してもよい。
【0022】
また、微量酸素を含有する不活性ガス雰囲気において炭化珪素を加熱する場合の不活性ガスとしては、He及びAr等が挙げられるが、Arが好ましい。含有される酸素の量は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。尚、通常、下限は0.000001%である。酸素の量が多すぎると、カーボンナノチューブがエッチングされることがある。
不活性ガス雰囲気において炭化珪素を加熱する場合、炭化珪素の分解により珪素原子を除去可能な限りにおいて、雰囲気の圧力及び加熱温度は特に限定されない。好ましい加熱温度は、1200〜2000℃であり、より好ましくは1400〜1800℃である。加熱温度が高すぎると、炭化珪素から珪素原子が失われる速度が大きくなり、カーボンナノチューブの配向が乱れやすくなるとともにチューブ径が大きくなる傾向がある。また、カーボン自身もCOとなり蒸発し、カーボンナノチューブ膜厚も薄くなり、更に消失してしまい、乱れたグラファイト層が形成されるので好ましくない。
尚、上記加熱温度に達するまでの昇温速度は特に限定されないが、通常、平均速度は5〜30℃/分、好ましくは5〜20℃/分である。多段階で加熱してもよい。また、上記加熱温度における保持時間も特に限定されず、通常30〜360分、好ましくは30〜240分である。保持時間が長すぎると炭化珪素のC面上ではカーボンナノチューブにグラファイトが混入する傾向にある。上記加熱が終了した後、室温まで降温されるが、その速度も特に限定されない。多段階で降温してもよい。
【0023】
上記炭化珪素を加熱する手段としては特に限定されず、電気炉、レーザービーム照射、直接通電加熱、赤外線照射加熱、マイクロ波加熱及び高周波加熱等の手段によることができる。
【0024】
前記のように、原料である炭化珪素は、一方がSi面であり、他方がC面であるため、本発明により製造されるカーボンナノチューブ膜及びカーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板は、炭化珪素の全表面にカーボンナノチューブが形成されたものとすることができる。また、Si面とC面の両方から生成形成されたカーボンナノチューブは、同じ条件で製造すると、長さが異なることがある(Si面におけるカーボンナノチューブが短くなる傾向にある。)が、チューブ径はほぼ同じであり、物性もほぼ同じである。
【0025】
原料である炭化珪素がα−SiCである場合、カーボンナノチューブは(0001)面に対して垂直に配向する傾向にある。また、炭化珪素がβ−SiCである場合、カーボンナノチューブは(111)面に対して垂直に配向する傾向にある。従って、原料である炭化珪素の結晶系が予め明らかな場合は、カーボンナノチューブの生成形成する方向を予想することができるため、目的に応じた炭化珪素の形状とする等によって、製品へのスピードアップも図れる。
【0026】
尚、本発明により製造されるカーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板は、原料である炭化珪素を完全に分解することなく、その一部を基部とするものである。また、本発明により製造されるカーボンナノチューブ膜体は、原料である炭化珪素を完全に分解させて、Si面及びC面の両方からカーボンナノチューブを生成させた、多数のカーボンナノチューブの集合体である。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
出発材料として六方晶炭化珪素を用い、(0001)Si面にカーボンナノチューブを生成させるために以下の処理を行った。
まず、炭化珪素の表面の酸化膜を除去するため、10%フッ化水素酸水溶液に室温下、30分間浸した後、超純水にて水洗した。そして、真空中(1×10−4Torr)、室温から1700℃まで加熱し、保持時間4時間として炭化珪素を表面分解させた。その後、室温に戻して、カーボンナノチューブを得た。以上の工程の説明図を図1に示す。
【0028】
フッ化水素酸水溶液による化学処理の前後の炭化珪素の表面をXPSにて測定した。Si面におけるSi2pスペクトルを図2及び図3に示す。また、C面におけるSi2pスペクトルを図4及び図5に示す。
図2では、得られたスペクトルに対して、Siの結合種類を推測した分離ピークを併せて表示した。100.4eVに見られる主組成のSi−Cピークと、101.4eVあたりに見られるC−Si−Oピークと、102.9eVあたりに見られるSi−O(SiO2)ピークとが確認された。フッ化水素酸水溶液による化学処理の後の炭化珪素の表面を示す図3では、上記のC−Si−Oピーク及びSi−O(SiO2)ピークはSi−Cピークのベースラインに近いほどであり、酸化膜がほとんど除去されたことが分かる。尚、各図において、表面電荷の若干の違いから発生するチャージアップは無視するものとする。以下も同じである。
また、図4では、図2と同様にSi−Cピークと、C−Si−Oピークとが確認された。図2と比較するとSi−O(SiO2)ピークが存在せず、C−Si−Oピークが高エネルギー側にシフトしていることが分かる。フッ化水素酸水溶液による化学処理の後の炭化珪素の表面を示す図5では、上記のC−Si−OピークはSi−Cピークのベースラインに近いほどであり、酸化膜がほとんど除去されたことが分かる。
従って、Si面及びC面いずれもわずかな酸化膜を化学処理により除去し、より清浄な表面を有する炭化珪素を熱分解させることができた。
【0029】
Si面において得られたカーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡で観察したところ、図6に示すような基板に対して垂直に配向した膜を形成していることが分かった。カーボンナノチューブの長さは約350nmであった。尚、C面において得られるカーボンナノチューブも基板に対して垂直に配向しており、その長さは約530nmであった。
【0030】
実施例2
出発材料としてα-SiC粉末(平均粒径0.3μm)を用いた。これを80℃の1N−水酸化カリウム水溶液に入れ、6時間保持した。その後、超純水にて水洗し、粉末を真空中で乾燥させた。酸化膜を除去した粉末はアセトン中で超音波分散させた後、アルゴンガスを用いたスプレーガンにより、アモルファスカーボン上にコーティングした。次いで、粉末をコーティングしたアモルファスカーボン板を真空加熱炉にいれ、真空中(1×10−4Torr)、室温から1700℃まで加熱し、保持時間4時間の条件で炭化珪素を表面分解させた。その後、室温に戻して、カーボンナノチューブを得た。アモルファス基板上の粉末の表面を透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブが生成していた。カーボンナノチューブの長さは約300nmであった。
【0031】
実施例3
基板として縦10mm、横10mm、厚さ0.625mmのSOI(111)基板を用いた。まず、以下に示す熱CVD法によりこの基板の表面に炭化珪素単結晶を堆積させた。基板をエタノール、続いてアセトンにて超音波洗浄を行って脱脂した後、反応管の中に入れて、水素雰囲気、1150℃で20分間加熱した。基板温度が安定した後、原料ガスを導入し、成膜を開始した。Cの原料ガスとしてCH3Clを、Siの原料ガスとしてSiH4を使用した。原料ガスは水素で10%に希釈・充填したボンベから供給され、反応室へ入る前にキャリアガスの水素と混合した。各ガス流量はH2が340sccm、SiH2Cl2が14sccm、CH3Clが9.4sccmであった。膜を約1μm堆積させた後、基板を取り出した。その後、基板を10%フッ化アンモニウム水溶液に浸し、炭化珪素膜を基板から分離した後、80℃の1N−水酸化カリウム水溶液に3時間浸し、炭化珪素に付着しているシリコンを溶解させると同時に表面の酸化膜を除去した。そして、真空中(1×10−4Torr)、室温から1700℃まで加熱し、保持時間4時間の条件で炭化珪素を表面分解させ、カーボンナノチューブを得た。
【0032】
Si面において得られたカーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡で観察したところ、図7に示すような基板に対して垂直に配向した膜を形成していることが分かった。カーボンナノチューブの長さは約350nmであった。尚、C面において得られるカーボンナノチューブも基板に対して垂直に配向しており、その長さは約550nmであった。
【0033】
実施例の効果
実施例1で示したように、炭化珪素の表面を清浄化することにより、C面だけでなく、Si面にもカーボンナノチューブ膜を容易に生成形成することができることが分かる。
また、粉末を原料とした実施例2では、表面積が大きいという粉末の性質にもかかわらず、化学処理による表面の酸化膜の除去によって、グラファイトの生成を抑制して、カーボンナノチューブの収率を向上することができた。
実施例3は、化学処理として、酸とアルカリの両方を順に行った例であり、上記と同様にSi面にもカーボンナノチューブ膜を容易に生成形成することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1のカーボンナノチューブの製造方法を示す模式的説明図である。
【図2】 実施例1における化学処理前の炭化珪素のSi面のXPSによるSi2pスペクトルである。
【図3】 実施例1における化学処理後の炭化珪素のSi面のXPSによるSi2pスペクトルである。
【図4】 実施例1における化学処理前の炭化珪素のC面のXPSによるSi2pスペクトルである。
【図5】 実施例1における化学処理後の炭化珪素のC面のXPSによるSi2pスペクトルである。
【図6】 実施例1のカーボンナノチューブ膜の透過電子顕微鏡写真である。
【図7】 実施例3のカーボンナノチューブ膜の透過電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1a及び1b;SiOCガラス、2;炭化珪素、3;SiO2ガラス、4a及び4b;カーボンナノチューブ膜。
Claims (13)
- 炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をし、処理後の炭化珪素を微量酸素の含有する雰囲気において該炭化珪素が分解して該炭化珪素の表面から珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該炭化珪素から珪素原子を除去して、該炭化珪素の表面から内部へカーボンナノチューブを生成成長させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
- 上記化学処理は、ガラスの腐食に用いられる処理剤により行う請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
- 上記処理剤は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種を含有する請求項2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
- 上記加熱温度は、1200〜2000℃である請求項1乃至3のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
- 炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をし、処理後の炭化珪素を微量酸素の含有する雰囲気において該炭化珪素が分解して該炭化珪素の表面から珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該炭化珪素から珪素原子を除去して、該炭化珪素の表面から内部へ多数のカーボンナノチューブを生成成長させることを特徴とするカーボンナノチューブ膜の製造方法。
- 上記化学処理は、ガラスの腐食に用いられる処理剤により行う請求項5に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
- 上記処理剤は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種を含有する請求項6に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
- 上記炭化珪素がα−SiCである場合、カーボンナノチューブが(0001)面に対して垂直に配向している請求項5乃至7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
- 上記炭化珪素がβ−SiCである場合、カーボンナノチューブが(111)面に対して垂直に配向している請求項5乃至7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
- 炭化珪素基板の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をし、処理後の炭化珪素基板を微量酸素の含有する雰囲気において炭化珪素が分解して該炭化珪素基板の表面から珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該炭化珪素から珪素原子を除去して、該炭化珪素基板の表面から内部へ多数のカーボンナノチューブを生成形成させてカーボンナノチューブ膜とし、該カーボンナノチューブ膜の下方に位置する炭化珪素基部を備えたこと特徴とするカーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板の製造方法。
- 上記化学処理は、ガラスの腐食に用いられる処理剤により行う請求項10に記載のカーボンナノチューブ膜含有炭化珪素基板の製造方法。
- 炭化珪素の表面の酸化膜を腐食あるいは溶解させる化学処理をし、処理後の炭化珪素を微量酸素の含有する雰囲気において炭化珪素が分解して該炭化珪素の表面から珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該炭化珪素から珪素原子を完全に除去して、多数のカーボンナノチューブの集合体とすることを特徴とするカーボンナノチューブ膜体の製造方法。
- 上記化学処理は、ガラスの腐食に用いられる処理剤により行う請求項12に記載のカーボンナノチューブ膜体の製造方法。
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