JP3815100B2 - エンジンの制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、目標負荷に基づいて決定した目標空燃比に応じてインジェクタからの燃料噴射量を制御するエンジンの制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、成層燃焼によるリーン運転を行うエンジンのように運転状態によって空燃比が変更されるエンジンでは、運転状態に応じて目標負荷(負荷に相当する要素の目標値)を設定し、その目標負荷に基づいて目標空燃比を設定するとともに、燃料噴射量等の制御を行っている。
【0003】
例えば特開平7−301139号公報に示される装置では、インジェクタから気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射式エンジンにおいて、アクセル開度及びエンジン回転数の検出値に基づいて目標負荷に相当するエンジン発生目標トルクを求め、このエンジン発生目標トルクに応じて目標空燃比をマップ演算等で決定し、この目標空燃比と吸入空気量とから燃料噴射量を演算するようにしている。なお、吸入空気量はモータで駆動されるスロットル弁により調節され、アクセル開度に応じてスロットル開度が制御されるようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報に記載の装置のように燃料噴射量の制御のための目標空燃比を目標負荷(エンジン発生目標トルク)に応じて決定するだけでは、吸気の充填効率もエンジン発生トルクに関係するので、充填効率の変動等により必ずしも目標負荷に見合うトルクが得られない場合がある。
【0005】
すなわち、例えば上記筒内噴射式エンジンにおいては低負荷時にインジェクタから圧縮行程で燃料を噴射することにより成層燃焼が行われ、この成層燃焼時には目標空燃比がリーンにされるので、アクセル開度に応じて吸入空気量をリニアに調節するだけではリーン状態のときにトルクが低下し、これを避けるためにリーン状態のときは吸入空気量を多くするように調整する必要がある。
【0006】
このため、この種のエンジンにおいて、吸入空気量も目標負荷や目標空燃比に基づいて制御し、つまり吸入空気量を調節するスロットル開度等を目標負荷等に応じて制御することは考えられている。しかし、このように吸入空気量を制御しても、アクセルペダルの踏み込み等によって目標負荷が変動する過渡時には、その変動に対して吸入空気量の変化に応答遅れがあるため、その応答遅れによって充填効率が目標負荷に対応する値からずれているときは、目標負荷に応じて設定した目標空燃比に見合うように燃料噴射量を制御しても、目標負荷に見合うトルクが得られなくなる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑み、過渡時等においても目標負荷に見合うエンジントルクが得られるように燃料噴射量制御用の目標空燃比を調整することができるエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、燃料を噴射供給するインジェクタを備えるとともに、エンジンの運転状態に応じて設定した目標負荷に基づいて目標空燃比を決定し、この目標空燃比に応じて上記インジェクタからの燃料噴射量を制御するようにしたエンジンの制御装置であって、アクセル操作量とエンジン回転数とに応じて目標負荷を設定する目標負荷設定手段と、吸入空気量検出手段の出力及び上記目標負荷に基づいて目標空燃比を演算する目標空燃比演算手段と、この目標空燃比演算手段により演算された目標空燃比に基づいて上記燃料噴射量を演算する噴射量演算手段とを備え、上記目標負荷設定手段は、理論空燃比での標準運転状態を想定した場合の要求トルクに見合う充填効率である仮想充填効率もしくはこれに対応する値を目標負荷として演算し、上記目標空燃比演算手段は、上記仮想充填効率もしくはこれに対応する値と吸入空気量検出手段の出力に基づいて求められる実際の充填効率もしくはこれに対応する値との比率に基づき目標空燃比を演算するようになっているものである。
【0009】
この制御装置によると、吸入空気量検出手段の出力及び目標負荷に基づいて燃料噴射量制御用の目標空燃比を演算しているため、例えば過渡時おいて目標負荷の変化に対して吸入空気量の変化の応答遅れが生じている場合のように実際の充填効率が定常時の目標負荷に応じた値からずれているような場合でも、その実際の充填効率に応じ、目標負荷に見合うトルクが得られるように、目標空燃比及びそれに基づいて制御される燃料噴射量が調整される。また、実際の充填効率に応じた目標空燃比が演算により容易に求められる。
【0010】
本発明の装置において、少なくとも燃料噴射時期が異なる複数の運転モードを有し、上記目標空燃比演算手段により演算された目標空燃比に応じて運転モードを選択する運転モード設定手段と、運転モード別に目標負荷及びエンジン回転数に応じて燃料噴射時期を設定する噴射時期設定手段とを備えていることが好ましい。このようにすると、実際の充填効率に応じて調整された目標空燃比に適合するように運転モード(燃料噴射時期)が調整される。
【0011】
例えば、燃焼室に直接燃料を噴射するインジェクタを備えるとともに、このインジェクタから圧縮行程で燃料を噴射させて成層燃焼を行わせる成層燃焼モードと吸気行程で燃料を噴射させて均一燃焼を行わせる均一燃焼モードとに運転モードを変更可能にしたエンジンにあっては、圧縮行程噴射を行う成層燃焼モードと吸気行程噴射を行う均一燃焼モードとの切替わりが上記目標空燃比に適合するように行われる。
【0012】
つまり、このようなエンジンではモード変更に応じて空燃比が大きく変化するとともにその空燃比の変化に応じて吸入空気量が変化し、そのモード変更時等に吸入空気量の変化の応答遅れが生じ易いが、この場合にも目標負荷に見合うようにトルクが適正に調整される。
【0015】
さらに上記目標空燃比演算手段は、目標空燃比がリーンにされるときの理論空燃比に対する燃費改善効果分を加味して目標空燃比を演算するようになっていることが好ましい。このようにすると、リーン空燃比状態のときに理論空燃比状態に対して燃費改善効果の影響でトルクが変化してしまうことが防止される。
【0016】
また、上記目標空燃比演算手段のほかに、目標負荷及びエンジン回転数に応じて予め定められた対応関係に基づいて目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段を備えるとともに、過渡時には上記目標空燃比演算手段で演算された値を選択し、定常時には上記目標空燃比設定手段で設定された値を選択して、最終的な目標空燃比を決定する目標空燃比決定手段を備えていることが好ましい。
【0017】
このようにすると、目標空燃比設定手段では例えばNOxが発生し易い空燃比を避けるように目標空燃比を設定する等、エミッション向上に有利な設定を行っておいて、定常時にはこのような設定の目標空燃比を選択することができる。
【0018】
また、上記目標空燃比演算手段、目標空燃比設定手段及び目標空燃比決定手段を備えている本発明装置において、上記目標空燃比演算手段により演算された目標空燃比を選択する過渡時に、この過渡時の目標空燃比と定常時の目標空燃比との差に応じて点火時期を補正する点火時期制御手段を備えていることが好ましい。
【0019】
このようにすると、目標空燃比が定常時の目標空燃比からずれる過渡時にも、その空燃比のずれに応じた点火時期の補正が行われることにより、適正に点火時期が調整される。
【0020】
また、燃料噴射量の制御とともに行われる吸入空気量の制御のための手段としては、例えば、吸気通路に吸入空気量を調節する吸入空気量調節手段を備えるとともに、目標負荷に基づいて吸入空気量調節手段の制御量を演算する演算手段を備える。
【0021】
この場合、理論空燃比での標準運転状態を想定した場合の要求トルクに見合う充填効率である仮想充填効率もしくはこれに対応する値になまし処理を施した値を、燃料噴射量制御用の目標空燃比の演算に用いる目標負荷とする一方、なまし処理を施さない仮想充填効率もしくはこれに対応する値を、吸入空気量調節手段の制御量の演算に用いる目標負荷とすることが好ましい。
【0022】
このようにすると、応答速度の低い吸入空気量の制御と応答速度の高い燃料噴射量の制御とのタイミングを効果的に調整することができる。
【0023】
また、上記演算手段により吸入空気量調節手段の制御量を演算する際に目標負荷の一次進み補正を行うことも好ましい。このようにしても、吸入空気量の制御の応答遅れが軽減されることから、これと燃料噴射量の制御とのタイミングの調整に有利となる。
【0024】
また、上記のような燃料噴射量の制御と吸入空気量の制御とが行われる本発明の装置において、燃焼室に直接燃料を噴射するインジェクタと、空燃比をリーンに設定しつつインジェクタから圧縮行程で燃料を噴射させて成層燃焼を行わせる成層燃焼モードと空燃比を理論空燃比以下に設定しつつ吸気行程で燃料を噴射させて均一燃焼を行わせる均一燃焼モードとに運転モードを変更可能にする運転モード設定手段と、リーン空燃比の成層燃焼モードから理論空燃比以下の空燃比の均一燃焼モードへのモード移行時に、理論空燃比よりも所定量だけリーン側の空燃比から理論空燃比以下にまで一気に空燃比が変化するように燃料噴射量を制御する手段と、このモード移行時において理論空燃比以下の空燃比となってから充填効率が定常状態の値となるまで、点火時期をリタードする点火時期制御手段とを備えることが好ましい。
【0025】
このようにすると、上記モード移行時に、空燃比が成層燃焼モード時のリーン空燃比からリッチ側へ次第に変化していく過程で、理論空燃比よりも所定量だけリーン側の空燃比に達すればそこから理論空燃比以下にまで一気に空燃比が変化するように制御されることにより、NOxが発生し易い空燃比域を通過することが避けられる。そして、このように空燃比を理論空燃比以下にまで急変させる制御は燃料噴射量の増加によって行われることにより、トルクが急増する傾向が生じるが、点火時期のリタードによってこのような傾向が是正される。
【0026】
このように上記モード移行時に点火時期をリタードさせる制御を行う場合に、その点火時期のリタード量を、過渡時の目標空燃比と定常時の目標空燃比との差に応じて設定すれば、トルク調整が適度に行われる。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の吸気制御装置を筒内噴射火花点火式エンジンに適用した場合の全体構造を概略的に示したものである。この図において、エンジン本体10は複数の気筒12を有し、各気筒12には、そのシリンダボアに挿入されたピストン14の上方に燃焼室15が形成されており、この燃焼室15には吸気ポート及び排気ポートが開口し、これらのポートは吸気弁17及び排気弁18によってそれぞれ開閉されるようになっている。
【0028】
上記燃焼室15の中央部には点火プラグ20が配設され、そのプラグ先端が燃焼室15内に臨んでいる。また、燃焼室15内には側方からインジェクタ22の先端部が臨み、このインジェクタ22から燃焼室15内に直接燃料が噴射されるようになっている。上記インジェクタ22には図外の高圧燃料ポンプ、プレッシャレギュレータ等を具備する燃料回路が接続され、各気筒のインジェクタ22に燃料が供給されるとともにその燃圧が圧縮行程における筒内圧力よりも高い所定圧力となるように燃料回路が構成されている。
【0029】
上記エンジン本体10には吸気通路24及び排気通路34が接続されている。上記吸気通路24には、その上流側から順に、エアクリーナ25、吸入空気量検出手段としてのエアフローセンサ26、モータ27により駆動されるスロットル弁28及びサージタンク30が設けられており、上記スロットル弁28及びこれを駆動するモータ27により吸入空気量調節手段が構成されている。サージタンク30の下流には気筒別の独立吸気通路が設けられ、各独立吸気通路が吸気ポートに連通している。当実施形態では、各独立吸気通路の下流側部分が第1,第2の通路31a,31bに分岐し、その下流の2つの吸気ポートが燃焼室に開口するとともに、第2の通路31bにスワール生成用のコントロール弁32(以下、S弁32と呼ぶ)が設けられている。
【0030】
上記S弁32はアクチュエータ33により駆動されて開閉作動するもので、このS弁32により第2の通路31bが閉じられたときは第1の通路31aを通る吸気によって燃焼室15内にスワールが生成され、S弁32が開かれるにつれてスワールが弱められるようになっている。
【0031】
また、上記排気通路34には排気ガス浄化用の触媒35が設けられている。当実施形態のエンジンに設けられる触媒35はリーン運転状態でもNOx浄化性能を有するものであり、例えば、リーン運転状態のときに排気中のNOxを吸蔵して、そのNOxを理論空燃比もしくはこれよりリッチな空燃比の運転状態となったとき還元させるNOx吸蔵型触媒が用いられる。
【0032】
さらに、排気通路34と吸気通路24との間には、排気ガスを還流させるためのEGR通路37が形成され、このEGR通路37にEGR弁38が介設されている。
【0033】
このエンジンには、上記エアフローセンサ26の他、サージタンク30内の吸気負圧を検出するブーストセンサ40、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ41、エンジン回転数を検出する回転数センサ42、アクセル開度(アクセル操作量)を検出するアクセル開度センサ43、吸気温を検出する吸気温センサ44、大気圧を検出する大気圧センサ45、エンジン冷却水温を検出する水温センサ46、排気ガス中の酸素濃度の検出によって空燃比を検出するO2 センサ47、EGR弁のリフト量を検出するEGR弁リフトセンサ48、インジェクタ22に与えられる燃料の燃圧を検出する燃圧センサ49等のセンサ類が装備され、これらセンサの出力信号(検出信号)がECU(コントロールユニット)50に入力されている。
【0034】
上記ECU50は、インジェクタ22からの燃料噴射量及び噴射タイミングを制御するとともに、スロットル弁28を駆動するモータ27に制御信号を出力することによりスロットル弁28の制御を行ない、また、点火回路21に制御信号を出力することにより点火時期を制御し、さらに、アクチュエータ33に制御信号を出力することによりS弁32の制御も行なうようになっている。なお、この他にEGR弁38の制御等も上記ECU50により行なわれる。
【0035】
当実施形態の筒内噴射式エンジンの基本的な制御としては、上記インジェクタ22からの燃料噴射時期及び空燃比等が異なる各種運転モードが選択可能とされ、運転領域によって運転モードが変更されるようになっている。
【0036】
具体的には、後にも説明するように、低負荷低回転側の所定領域が成層燃焼領域、それ以外の領域が均一燃焼領域とされる(図10参照)。そして、成層燃焼領域では、上記インジェクタ22から圧縮行程の後期に燃料が噴射されることにより、点火プラグ20付近に混合気が偏在する成層状態で燃焼が行なわれるような成層燃焼モードとされ、この場合、スロットル弁28の開度が大きくされて吸入空気量が多くされることにより燃焼室全体の空燃比としては大幅なリーン状態(例えば30以上)とされる。一方、均一燃焼領域では、上記インジェクタ22から吸気行程の前期に燃料が噴射されることにより、燃焼室15全体に均一に混合気が拡散する状態で燃焼が行なわれる均一燃焼モードとされる。この均一燃焼領域のうちで比較的低負荷、低回転側の領域(成層燃焼領域に隣接する領域)では空気過剰率λがλ>1、つまり理論空燃比よりもリーンな空燃比(例えば20〜25程度)とされ、高負荷側、高回転側の領域ではλ=1、つまり理論空燃比(A/F=14.7)とされる。なお、アクセル全開域やその付近の高負荷域及び高回転域では、空燃比を理論空燃比よりもリッチ(λ<1)に設定してもよい。
【0037】
図2は上記ECU50に機能的に含まれる手段の構成を示している。上記ECU50は、吸気温センサ44及び大気圧センサ45からの信号に基づいて吸気密度状態を検出する吸気密度状態検出手段51を有するとともに、アクセル開度センサ43及びエンジン回転数センサ42からの信号に基づき、上記吸気密度状態を加味して、目標負荷に相当する値を設定する目標負荷設定手段52を有している。
【0038】
上記目標負荷設定手段52は、図3に示すように、仮想体積効率演算手段52a、仮想充填効率演算手段52b、なまし処理手段52c、目標図示平均有効圧力演算手段52d及びアイドリング負荷補正手段52eを含んでいる。
【0039】
上記仮想体積効率演算手段52aは、アクセル開度accel及びエンジン回転数neに応じて仮想体積効率veimgを求める。この場合、予めベンチテスト等により標準大気状態下で、かつ空燃比を理論空燃比に保った標準運転条件下において要求される出力性能が得られるように、アクセル開度accel及びエンジン回転数neと仮想体積効率veimgとの対応関係が定められ、その対応関係がマップとしてECU50内のメモリに記憶されており、このメモリから実際のアクセル開度accel及びエンジン回転数neに応じた仮想体積効率veimgが求められる。
【0040】
上記アクセル開度accel及びエンジン回転数neと仮想体積効率veimgとの対応関係は例えば図9に示すようになる。すなわち、仮想体積効率Veimgは、アクセル開度accelが大きくなるにつれてが増加し、かつ、エンジン低速側ほど大きめとなるように設定される。
【0041】
また、図3において上記仮想充填効率演算手段52bは、上記仮想体積効率veimgに対し、吸気密度状態検出手段51で求められた吸気の密度を加味して仮想充填効率ceimgを求める。これにより、空燃比を理論空燃比に保つ標準運転条件を想定した場合の要求エンジントルクに見合う充填効率が仮想充填効率ceimgとして求められる。
【0042】
なまし処理手段52cは、上記仮想充填効率ceimgを後述のようになまし処理する。目標図示平均有効圧力演算手段52dは、上記仮想充填効率からこれに対応した値である目標図示平均有効圧力を求め、これを目標負荷とする。この場合、なまし処理されない仮想充填効率ceimgから第1の目標図示平均有効圧力Piobjが、また、なまし処理された仮想充填効率ceimgdから第2の目標図示平均有効圧力Piobjdが、後述の数7式,数5式で演算される。
【0043】
アイドリング負荷補正手段52eは、アイドル運転時にエアコン等の外部負荷が加わったときなどにそれに見合う程度にエンジントルクを高めるべくアイドリング負荷補正値を求め、目標図示平均有効圧力の演算に先立って仮想充填効率ceimg及び同ceimgdを補正するようになっている。
【0044】
図2に示すECU50は、さらに、基本的な運転モードmodsの設定を行う運転モード設定手段53を有している。
【0045】
運転モード設定手段53は、第1の目標図示平均有効圧力Piobjとエンジン回転数neとに応じて基本的な運転モードmodsを設定する。すなわち、図10に示すように、第1の目標図示平均有効圧力Piobjが所定の低負荷側閾値より低く、かつ、エンジン回転数が低い領域(成層燃焼領域)では成層燃焼モードとし、それ以外の領域(均一燃焼領域)のうちで第1の目標図示平均有効圧力Piobjが所定の高負荷側閾値より低く、かつ、エンジン高回転域以外の領域ではλ>1の均一燃焼モード(以下、均一リーンモードと呼ぶ)とし、第1の目標図示平均有効圧力Piobjが高負荷側閾値より高い領域及びエンジン高回転域はλ=1の均一燃焼運転モード(以下、ストイキオモードと呼ぶ)とする。
【0046】
さらにECU50は、エンジン出力に関係する各種制御パラメータの値を決定する制御手段を有し、当実施形態では、スロットル弁28で調節される吸入空気量、EGR弁38で調節されるEGR量、S弁32で調節されるスワール、インジェクタ22からの燃料噴射量、燃料噴射時期及び点火プラグ20の点火時期が制御パラメータとされ、これら制御パラメータの値が目標負荷及びエンジン回転数ne等に応じて決定される。この場合、制御パラメータのうちの低速応答系の制御値を決定するための目標負荷としては第1の目標図示平均有効圧力Piobjが用いられ、高速応答系の制御値を決定するための目標負荷としては第2の目標図示平均有効圧力Piobjdが用いられる。
【0047】
すなわち、上記各制御パラメータのうちで吸入空気量、EGR量及びスワールはそれぞれスロットル弁28、EGR弁38及びS弁32の作動に対する応答性が比較的低い低速応答系であって、これらの制御量であるスロットル開度tvoobj、EGR弁38の制御量egrobj及びS弁32の開度は第1の目標図示平均有効圧力Piobjとエンジン回転数ne等に応じて決定される。一方、燃料噴射量、燃料噴射時期及び点火時期は制御信号に速やかに応答する高速応答系であって、これら燃料噴射量、燃料噴射時期及び点火時期は第2の目標図示平均有効圧力Piobjdとエンジン回転数ne等に応じて決定されるようになっている。
【0048】
具体的に説明すると、吸入空気量制御のための手段としては目標空燃比設定手段54、目標充填効率演算手段55及びスロットル開度演算手段56を有している。上記目標空燃比設定手段54は、吸入空気量制御用の目標空燃比afwbを、上記運転モード設定手段53で設定される運転モード別に設定するものであり、図11(a)に示すように、成層燃焼モード及び均一リーンモードでは第1の目標図示平均有効圧力Piobjとエンジン回転数neとに応じ、予め作成されているマップから目標空燃比afwbを求め、ストイキオモードでは目標空燃比afwbを理論空燃比(λ=1)とするようになっている。
【0049】
上記目標充填効率演算手段55は、仮想充填効率ceimgと上記目標空燃比afwbとから、目標充填効率ceobjを例えば後記の数8式によりを求める。
【0050】
スロットル開度演算手段56は、図4に示すように、目標体積効率演算手段56a及びスロットル開度決定手段56bを有している。そして、後に詳述するように上記目標充填効率ceobjから吸気密度補正を加味して目標体積効率veobjを求め、この目標体積効率veobj及びエンジン回転数neに応じてスロットル開度tvoobjを決定する。
【0051】
この際、体積効率及びエンジン回転数とスロットル開度との対応関係はEGRの有無によって異なるため、その各場合についてそれぞれ上記対応関係を示すマップを予め作成し、EGR判別手段56cによるEGRの有無の判別に応じていずれかのマップから、目標体積効率veobjに応じたスロットル開度tvoobjを求める。上記対応関係は、例えば、EGRが行われていない場合に図12中の実線、EGRが行われいる場合に図12中の破線のようになる。つまり、スロットル開度tvoobjは、目標体積効率veobjが大きくなる程大きくされ、かつ、エンジン回転数が高くなるほど大きめとされるとももに、EGR有りの場合はEGR無しの場合と比べて大きめとされる。
【0052】
さらに、図4に示す例では、EGRが行われる場合の既燃ガス体積割合に応じた補正が行われる。すなわち、成層燃焼モードにある場合のように空燃比がリーンな状態でEGRが行われる場合はEGRガス中に既燃ガスだけでなく空気(酸素)も多く存在し、その比率が燃焼室15に吸入される空気の量に影響するので、既燃ガス体積割合演算手段57により既燃ガス体積割合が求められ、吸入空気量・EGR補正手段58により、上記既燃ガス体積割合とその目標値との比較、及びエアフローセンサ26の出力に基づいて求められる実体積効率veと目標体積効率veobjとの比較に基づき、スロットル開度の補正が行われ、これに関連してEGR弁制御量の補正も行われる。なお、既燃ガス体積割合の目標値については、後述のEGR弁基本制御量のマップと同様のマップ(図示せず)が予め作成され、このマップから読み出される。
【0053】
EGR量制御のための手段としてはEGR弁基本制御量設定手段59及びEGR弁制御量演算手段60を有している。上記EGR弁基本制御量設定手段59は、EGR弁38の基本制御量pbaseを上記運転モード設定手段53で設定される運転モードmods別に設定するものであり、図11(b)に示すように、成層燃焼モードでは第1の目標図示平均有効圧力Piobjとエンジン回転数neとに応じ、予め作成されているマップから基本制御量pbaseを求め、均一リーンモードでは基本制御量pbaseを「0」とし、ストイキオモードではエアフローセンサ26の出力に基づいて求められる実充填効率ceとエンジン回転数neとに応じ、予め作成されているマップから基本制御量を求めるようになっている。
【0054】
また、EGR弁制御量演算手段60は、上記基本制御量pbaseに対し、吸入空気量・EGR補正手段58による補正を加味して、最終的なEGR弁制御量egrobjを求める(図4参照)。
【0055】
S弁開度制御のための手段としてはS弁開度設定手段61を有している。このS弁開度設定手段61は、S弁開度を上記運転モード設定手段53で設定される運転モードmods別に、各モードで要求されるスワールが得られるように設定するものであり、図11(c)に示すように、成層燃焼モード及び均一リーンモードでは第1の目標図示平均有効圧力Piobjとエンジン回転数neとに応じ、予め作成されているマップからS弁開度scvobjを求め、ストイキオモードでは実充填効率ceとエンジン回転数neに応じ、予め作成されているマップからS弁開度scvobjを求めるようになっている。
【0056】
インジェクタ22からの燃料噴射を制御する手段としては、目標空燃比作成手段62、運転モード設定手段63、分割比設定手段64、噴射量演算手段65、噴射時期設定手段66及び噴射制御手段67を有する。
【0057】
上記目標空燃比作成手段62は、燃料噴射量等の制御に用いる目標空燃比を求めるものであり、より具体的には図5に示すように、主として過渡時に利用される目標空燃比afw0を演算する目標空燃比演算手段62aと、主として定常時に利用される目標空燃比afwbdを設定する目標空燃比設定手段62bと、過渡状態検出のため吸入空気量制御用の目標空燃比afwbと上記演算手段62aで演算された目標空燃比afw0との偏差dafwbを演算する手段62cと、最終的な目標空燃比afwの決定手段62dとを有している。
【0058】
上記目標空燃比演算手段62aは、エアフローセンサ26の出力及び目標負荷に基づいて目標空燃比を演算するものであり、当実施形態では、エアフローセンサ26の出力から求められる実充填効率ceと、目標負荷に相当する第2の目標図示平均有効圧力Piobjdもしくはこれに対応する仮想充填効率ceimgdとから、後述の数6式により目標空燃比afw0を演算するようになっている。
【0059】
また、上記設定手段62bは、目標空燃比afwbdを、運転モード設定手段63で設定される運転モードmodf別に設定するものであり、図14(a)に示すように、成層燃焼モード及び均一リーンモードでは第2の目標図示平均有効圧力Piobjdとエンジン回転数neとに応じ、予め作成されているマップから目標空燃比afwbdを求め、ストイキオモードでは目標空燃比afwbdを理論空燃比(λ=1)とするようになっている。なお、必要に応じ、ストイキオモードの領域でも特に高負荷、高回転側では空燃比を目標空燃比afwbdを理論空燃比よりもリッチとしてもよく、この場合、このモードはλ≦1のモードとなる。
【0060】
最終的な目標空燃比afwの決定手段62dは、上記偏差dafwbが大きくなる過渡時には目標空燃比演算手段62aで演算された目標空燃比afw0を最終的な目標空燃比afwとし、上記偏差dafwbが小さい定常時には設定手段62bで設定された目標空燃比afwbdを最終的な目標空燃比afwとする。
【0061】
なお、目標空燃比作成手段62をこのように構成しているのは後述の如く出力上の要求とエミッションとを満足するためであるが、より簡単な構成としては上記設定手段62b及び偏差演算手段62cを省略し、常に演算手段62aで求められた目標空燃比afw0を燃料噴射量制御用等の最終的な目標空燃比とするようにしてもよい。
【0062】
図5中の80は、後述のような過渡時の点火時期補正のための空燃比偏差dafwbd,dafw0を演算する手段であり、運転モード設定手段63で設定されるモードがストイキオモードでない場合はdafwbd=afwbd−afwを演算し、ストイキオモードの場合はdafw0=afw0−afwを演算するようになっている。
【0063】
運転モード設定手段63は、高速系の制御パラメータを決定するために用いる運転モードmodfを、燃料噴射量等制御用の目標空燃比afw0に応じて設定する。すなわち、図13に示すように、上記演算手段62aで演算された目標空燃比afw0が均一リーン下限側基準値(例えば18程度)より小さい値となる場合はストイキオモードとし、上記目標空燃比afw0が均一リーン下限側基準値とこれよりも大きい均一リーン上限側基準値との間の値となる場合は均一リーンモードとし、上記目標空燃比afw0が均一リーン上限側基準値よりも大きい値となるときは成層燃焼モードとする。
【0064】
なお、均一リーンモードと成層燃焼モードとの間で運転モードmodfが変更される過渡時には、均一リーン上限側基準値付近(ハッチング部分)で一時的に分割噴射モードを選択するようにしてもよい。この分割噴射モードとは、燃料噴射を吸気行程と圧縮行程とに分割して行うものであり、圧縮行程噴射の成層燃焼モードから吸気行程噴射の均一リーンモードへのモード変更やこれとは逆のモード変更が行われるときに、分割噴射モードを経由するようにすれば、急激な燃焼状態の変化が避けられる。
【0065】
分割比設定手段64は、運転モード設定手段63により設定される運転モードmodfに応じて吸気行程噴射と圧縮行程噴射の分割比を設定するものであって、成層燃焼モードでは吸気行程噴射割合を0%とし、均一リーンモード及びストイキオモードでは吸気行程噴射割合rqbasepを100%とする。なお、上記分割噴射モードが選択されるときは、目標空燃比afw及びエンジン回転数neに応じて分割比を設定すればよい。
【0066】
噴射量演算手段65は、目標空燃比作成手段62により求められた目標空燃比afwに基づいて燃料噴射量を演算するものであり、図6に示すように基本噴射量演算手段65a、補正値演算手段65b、最終噴射量演算手段65c及び噴射パルス幅演算手段65dを含んでいる。上記基本噴射量演算手段65aは、上記目標空燃比afwと実充填効率ce、上記噴射割合rqbasep及び換算用の係数KGKFを用い、吸気行程噴射及び圧縮行程噴射の各基本噴射量qbasep,qbasedを次のように演算する。
【0067】
【数1】
qbasep=KGKF×(ce/afw)×rqbasep
qbased=KGKF×ce(i)/afw(i-1)−qbasep(i-1)
補正値演算手段65bは、燃圧に応じた吸気行程噴射、圧縮行程噴射の各補正値cdpfp,cdpfd及びその他の各種補正値ctotalを演算する。なお、燃圧に応じた補正値cdpfp,cdpfdは、エンジン始動時直後で燃圧が設定圧力(プレッシャレギュレータで調整される圧力)に達しない場合等に噴射量を補正するものであり、例えば設定圧力(KGPFUEL)と燃圧センサ49の検出値(pfuel)との比(KGPFUEL/pfuel)の平方根が補正値とされる。
【0068】
最終噴射量演算手段65cは、吸気行程噴射及び圧縮行程噴射の各最終噴射量qinjp,qinjdを次のように演算する。
【0069】
【数2】
qinjp=qbasep×cdpfp×(1+ctotal)
qinjd=qbased×cdpfd×(1+ctotal(i-1))
そして噴射パルス幅演算手段65dは、最終燃料噴射量qinjp,qinjdに比例した噴射パルス幅Tiを求める。
【0070】
なお、上記数1,数2の中で圧縮行程噴射の基本噴射量qbased及び最終噴射量qinjdについての演算式におけるce(i)は充填効率の今回値(圧縮行程噴射直前の吸入空気量検出値に基づく値)を意味し、afw(i-1),qbasep(i-1),ctotal(i-1)はそれぞれ目標空燃比、吸気行程噴射基本噴射量及び補正値の前回値(吸気行程噴射直前の検出に基づく値)を意味する。このように圧縮行程噴射の演算で目標空燃比等に前回値を用いているのは、目標空燃比等に今回値(圧縮行程噴射直前の検出値に基づく値)を用いると、吸気行程噴射時と圧縮行程噴射時とで運転モード、空燃比等が変動して整合性が得られなくなる場合があるからである。
【0071】
噴射時期設定手段66は、燃料噴射時期を上記運転モード設定手段63で設定される運転モード別に設定するものであり、図14(b)に示すように、成層燃焼モードでは第2の目標図示平均有効圧力Piobjdとエンジン回転数neとに応じて予め作成されているマップから圧縮行程噴射用の噴射時期thtinjdを求め、均一リーンモードでは充填効率とエンジン回転数とに応じて予め作成されているマップから吸気行程噴射用の噴射時期thtinjpを求め、ストイキオモードではエンジン回転数neに応じて予め作成されているテーブルから吸気行程噴射用の噴射時期thtinjpを求める。
【0072】
なお、演算処理の便宜上、噴射時期のデータとしては常にthtinjdとthtinjpの両方になんらかの値を与えるようになっていて、成層燃焼モードでは圧縮行程噴射用の噴射時期thtinjdをマップにより与えるとともに吸気行程噴射用の噴射時期thtinjpに固定値をセットする(ただし、吸気行程噴射割合rqbasepは0%なので実際には吸気行程噴射は行われない)。均一リーンモードやストイキオモードでは吸気行程噴射用の噴射時期thtinjpをマップまたはテーブルにより与えるとともに圧縮行程用の噴射時期thtinjdに固定値(例えば圧縮行程初期の一定時期)をセットし、不足分追加噴射時に利用する。
【0073】
また、分割噴射モードとされる場合は、圧縮行程噴射用の噴射時期thtinjdとして成層燃焼モードにおけるデータを流用するとともに、目標空燃比afw及びエンジン回転数neに応じて予め作成されているマップから吸気行程噴射用の噴射時期thtinjpを求める。
【0074】
上記噴射制御手段67は、上記噴射時期設定手段66により設定された噴射時期に、上記噴射量演算手段により演算された噴射パルス幅Tiに相当する時間だけインジェクタ22を作動させるように、噴射パルスを出力する。
【0075】
また、点火時期を制御する手段としては、基本点火時期及び補正量を設定する設定手段68と、点火時期演算手段69を有する。
【0076】
上記設定手段68は、上記運転モード設定手段63で設定される運転モードmodf別に基本点火時期thtigbや、各種の点火時期補正値を設定する。
【0077】
設定手段68による設定を具体的に説明すると、図14(c)に示すように、成層燃焼モードでは、第2の目標図示平均有効圧力Piobjdとエンジン回転数neとに応じて予め作成されているマップから基本点火時期thtigbを求めるとともに、上記目標空燃比偏差dafwbdに応じた補正値thtigwdを予め作成されているテーブルから求める。目標空燃比偏差dafwbd(=afwbd−afw)に応じた補正は、基本点火時期thtigbが予め定常運転時の目標空燃比afwbdにおける目標図示平均有効圧力Piobjd及びエンジン回転数neに応じて定められているのに対し、過渡時にはafw0が最終的な目標空燃比afwとされて定常時とは空燃比のずれが生じるので、それに見合うように点火時期を調整するものである。
【0078】
均一リーンモードでは、充填効率ceとエンジン回転数neとに応じて予め作成されているマップから基本点火時期thtigbを求めるとともに、上記目標空燃比偏差dafwbdに応じた補正値thtigwdを予め作成されているテーブルから求める。
【0079】
ストイキオモードでは、充填効率ceとエンジン回転数neとに応じて予め作成されているマップから基本点火時期thtigbを求めるとともに、EGR時の補正値thtigweを充填効率ceとエンジン回転数neとに応じて予め作成されているマップから求め、上記目標空燃比偏差dafw0に応じた補正値thtigwd及びエンジン水温thwに応じた冷間時補正値thtigwcをそれぞれ予め作成されているテーブルから求める。目標空燃比偏差dafw0(=afw0−afw)に応じた補正は、後述のように目標空燃比afw0が理論空燃比よりリーン側の所定値以下となったときNOx発生量が増大する空燃比を通ることを避けるために最終的な目標空燃比afwが理論空燃比とされる場合に、その空燃比変更に伴うトルク変動を是正するように点火時期を調整するものである。
【0080】
なお、分割噴射モードとされる場合は目標空燃比afwに応じて予め作成されているテーブルから基本噴射時期thtigbを求める。
【0081】
上記点火時期演算手段69は、上記設定手段68で設定された基本噴射量thtigb及び各種補正値から点火時期thtigを次式のように求める。
【0082】
【数3】
thtig=thtigb−(thtigwd+thtigwe+thtigwc)
上記ECU50による演算、制御等の処理を、図7及び図8のフローチャートによって説明する。
【0083】
図7は主として燃料噴射量の制御に関連する処理を示している。
【0084】
この処理がスタートすると、先ずステップS1でアクセル開度、エンジン回転数、吸入空気量、吸気温及び大気圧の各検出データが読み込まれる。続いてステップS2で、アクセル開度及びエンジン回転数に応じて仮想体積効率veimgが、前述の如く、例えば図9に示すような対応関係を定めたマップから求められる。
【0085】
次にステップS3で、上記仮想体積効率veimgに基づき、吸気温度及び大気圧から求められる吸気密度に応じた補正が行われることにより、仮想充填効率ceimgが求められる。さらにステップS4で、仮想充填効率ceimgのなまし値(一次遅れ補正値)ceimgdが次式によって算出される。
【0086】
【数4】
ceimgd=(1−α)・ceimg+α・ceimgd[i-1]
ceimgd[i-1]はceimgdの前回値、αは係数(0<α<1)である。
【0087】
続いてステップS5で、なまし後の仮想充填効率ceimgdから、換算用の係数K1,K2を用いて次式のような変換が行われることにより、第2の目標図示平均有効圧力Piobjdが求められる。
【0088】
【数5】
Piobjd=K1×ceimgd+K2
なお、前述のようにエアコン等によるアイドリング負荷が加わるような場合には、仮想充填効率ceimgdにアイドリング負荷補正値を加算する補正を行ってから、上記変換式を用いて目標図示平均有効圧力Piobjdを求めればよい。後述の図8のフローチャート中のステップS24で仮想充填効率ceimgから目標図示平均有効圧力Piobjへの変換を行う場合も同様である。
【0089】
ステップS6では、エアフローセンサ26により検出された吸入空気量から、実充填効率ceが算出される。そしてステップS7で、実充填効率ceと上記仮想充填効率ceimgd(もしくは目標図示平均有効圧力Piobjd)との比率に基づき、目標空燃比がリーンにされるときの理論空燃比に対する燃費改善効果分が加味されて、次のように燃料噴射量用の目標空燃比afw0が算出される。
【0090】
【数6】
afw0=14.7×ce/(K4×ceimgd)−K3
[=14.7×K1×ce/{K4×(Piobjd−K2)}−K3]
ここで、K3,K4はリーン化による燃費改善効果分を加味する係数である。
【0091】
ステップS8では、上記目標空燃比afw0に応じ、前述の如く図13に示すような設定に従って運転モードが選択される。
【0092】
次にステップS9で過渡運転状態か否かが判定される。この場合、例えば目標空燃比afw0と目標空燃比afwbdとの偏差dafwbが設定値以上のときは過渡時、設定値未満のときは定常時と判定される。そして、過渡時であれば上記の数6の式で演算された目標空燃比afw0が最終目標空燃比afwとされ、定常時であれば図14(a)に示すようなマップから求められた目標空燃比afwbdが最終目標空燃比afwとされる(ステップS10,S11)。
【0093】
そしてステップS12で、運転モード、エンジン回転数ne、最終目標空燃比afw、仮想充填効率ceimgd及び目標図示平均有効圧力Piobjd等に応じ、前述のように燃料噴射量の算出、噴射時期の算出及び点火時期の算出が行われる。
【0094】
図8は主としてスロットル開度の制御に関連する処理を示している。
【0095】
この処理がスタートすると、先ずステップS21でアクセル開度、エンジン回転数、吸気温及び大気圧の各検出データが読み込まれる。続いてステップS22で、仮想体積効率veimgが求められ、ステップS23で吸気密度補正が行われて仮想充填効率ceimgが求められる。さらにステップS24で、仮想充填効率ceimgから次式のような変換により目標図示平均有効圧力Piobjが求められる。
【0096】
【数7】
Piobj=K1×ceimg+K2
次にステップS25で、吸入空気量制御用の目標空燃比afwbが算出される。つまり、上記目標図示平均有効圧力Piobjとエンジン回転数neとに応じて図10に示す運転モードmodsのマップから運転モードが設定され、それに基づき、図11(a)に示すように成層燃焼モード及び均一リーンモードでは目標図示平均有効圧力Piobjとエンジン回転数neとに応じてマップから目標空燃比afwbが求められ、ストイキオモードでは目標空燃比afwbが理論空燃比とされる。
【0097】
ステップS26では、仮想充填効率ceimgと目標空燃比afwbとから、目標充填効率ceobjが次のように演算される。
【0098】
【数8】
ceobj=ceimg×{(afwb+K3)/14.7}×K4
この演算式は、後に詳述するように、仮想充填効率ceimgから、リーン運転される場合の目標空燃比の空気過剰率分と燃費改善効果分とを加味して目標充填効率ceobjを求めるようにしたものである。なお、仮想充填効率ceimgの替りに目標図示平均有効圧力Piobjを用い、数7の式からceimg=(Piobj−K1)/K2を上記の数8の式に代入した演算式によって目標充填効率ceobjを求めるようにしてもよい。
【0099】
上記ステップS26に続くステップS27では、上記目標充填効率ceimgに基づき、吸気温度及び大気圧から求められる吸気密度に応じた補正が行われることにより、目標体積効率veobjが算出される。
【0100】
さらに、ステップS28で、目標体積効率の一次進み補正値veobjfが次のように演算される。
【0101】
【数9】
veobjf=(veobj−β・veobj[i-1])/(1−β)
この一次進み補正は、制御の応答遅れを軽減すべく、その後の変化を見込んだ補正を行うものであり、目標体積効率の今回値(veobj)が前回値(veobj[i-1])に対して増加していればさらに増加方向に補正し、逆に減少していればさらに減少方向に補正するものである。βは定数(ただし0<β<1)である。
【0102】
次にステップS29で、上記目標体積効率(一次進み補正値veobjf)とエンジン回転数neに基づいて目標スロットル開度tvoobjが算出される。この場合、前述のようにEGRの有無に応じて異なるマップからスロットル開度が求められ、さらにEGRが行われている場合に既燃ガス体積割合に応じた補正が行われる。そしてステップS30で、スロットル開度が目標スロットル開度tvoobjとなるようにスロットル弁28が駆動される。
【0103】
以上のような装置によると、目標負荷に相当する目標図示平均有効圧力とエンジン回転数とに応じて運転モードが設定されるとともに、その運転モードと目標図示平均有効圧力、エンジン回転数等に応じ、空燃比、吸入空気量、燃料噴射量等が制御される。
【0104】
当実施形態の筒内噴射式エンジンでは、運転モードとして成層燃焼モード、均一リーンモード及びストイキオモードが運転状態に応じて設定され、成層燃焼モードでは空燃比が理論空燃比と比べて大幅にリーンとされた状態で圧縮行程噴射により点火プラグ回りに混合気が偏在する状態とされて成層燃焼が行われることにより、燃費が大幅に改善される。また、均一リーンモードでは、吸気行程噴射により均一燃焼が行われ、かつ、この状態での燃焼が可能な範囲で空燃比がリーンにされる。そして、上記成層燃焼モードや均一リーンモードでは要求されるトルクを確保しつつ空燃比をリーンとすべくスロットル開度を大きくして吸入空気量を増加させるといった調節が必要であるため、運転モード別に目標負荷等に応じて吸入空気量が制御される一方、噴射量等制御用の目標空燃比が求められてその目標空燃比に応じた燃料噴射量の制御が行われる。
【0105】
すなわち、吸入空気量の制御としては、吸入空気量制御用の目標空燃比設定手段54により運転モード別に設定された目標空燃比afwbに基づいて目標スロットル開度が演算され、それに応じたスロットル開度の制御が行われる。一方、燃料噴射量の制御としては、噴射量等制御用の目標空燃比作成手段62により目標空燃比afwが求められ、この目標空燃比afwと充填効率ceとに基づき、実際の空燃比が目標空燃比afwとなるように燃料噴射量が制御される。
【0106】
この場合に、特に過渡時には、目標空燃比afwとして目標空燃比演算手段62aにより演算された値afw0が用いられ、この目標空燃比afw0は目標負荷に対応する値と実充填効率ceとに基づいて演算されるため、目標負荷の変化に対する吸入空気量の変化の応答遅れが生じているような場合でも目標負荷に応じたトルクの制御が適正に行われる。この作用を図15によって説明する。
【0107】
図15は、目標負荷の変化(アクセル操作量等の変化)により運転モード設定手段53で設定される運転モードが成層燃焼モードから均一リーンモードへ、あるいは均一リーンモードからストイキオモードへ変更される過渡時におけるスロットル開度(TVO)、充填効率ce、空燃比及びトルクの変化を示すものである。この図のように、成層燃焼モード(または均一リーンモード)から均一リーンモード(またはストイキオモード)へのモード変更時は、吸入空気量制御用の目標空燃比afwbが図15中の実線のようにモード変更に応じてリッチ方向に変化し、それに応じてスロットル開度が目標空燃比の変化に見合う程度に小さくされるが、吸入空気量の変化には応答遅れがあるため、実充填効率ceがモード移行後の目標空燃比に見合う程度に減少するまでにある程度の時間を要する。
【0108】
この場合に、従来のように噴射量制御用の目標空燃比も吸入空気量制御用の目標空燃比と同様に設定されていると、充填効率ceが充分減少する前にモード変更後の目標空燃比(モード変更前の空燃比と比べてリッチ)に応じて燃料噴射量が制御されるので、燃料噴射量が増加してトルクが二点鎖線で示すように一時的に増大し、トルクショックを招く。
【0109】
これに対し、当実施形態では噴射量制御用の目標空燃比afw0が実充填効率ceと仮想充填効率ceimgd(もしくは目標図示平均有効圧力Piobjd)との比に基づいて前記の数6式のように演算されているので、破線のように目標空燃比afw0が調整され、つまり実充填効率ceに応じて目標負荷に見合うトルクが得られるように目標空燃比afw0が調整される。このため、過渡時にもトルクは実線で示すように安定し、トルクショックが防止される。
【0110】
また、高速応答系の制御のための運転モード設定手段63においては上記目標空燃比afw0に応じて図13のように運転モードが設定され、実質的なモード変更(噴射時期や点火時期の変更)はこの設定に従って行われるので、基本的なモード設定手段53によるモード変更時点t1に対して実質的なモード変更の時点t2は、実充填効率ce及び目標空燃比afw0がモード変更後の値に近づくまで遅らされる。従って、例えば成層燃焼モードからのモード変更時において空燃比が成層燃焼モード時に近いリーン状態のときに吸気行程噴射に切替えられて燃焼性が悪化するといった事態が防止され、過渡時にも適正な燃焼状態が得られる。
【0111】
さらに、数6の演算式ではリーン化による燃費改善効果分も加味されて目標空燃比afw0が演算されているため、トルク制御がより適正に行われる。なお、吸入空気量の制御においても目標充填効率の算出の際に燃費改善効果分が加味されているので、空燃比に応じた吸入空気量の調整が効果的に行われる。
【0112】
ここで、燃費改善効果分も加味することの効果を、図16〜図18を参照しつつ説明する。
【0113】
図16は空燃比と燃費との関係を示し、この図に示すように、空燃比が理論空燃比よりもリーンにされると、熱効率が向上されるため、理論空燃比と比べて燃費が改善され、燃焼安定性が損なわれない限り空燃比がリーンになるほど燃費が改善される。このようにリーン化により燃費が改善されることは従来から知られている。
【0114】
図17は空燃比と充填効率ce、燃料流量及びエンジントルクとの関係を示すものであって、この図において、破線は、目標空燃比afwbが理論空燃比以上に設定される場合の空気過剰率分のみを加味して吸入空気量を調整した場合を示している。すなわち、目標空燃比afwbの空気過剰率分のみを加味して仮想充填効率ceimgから目標充填効率ceobj´を求めるとすると、目標充填効率ceobj´は
【0115】
【数10】
ceobj´=ceimg×afwb/14.7
となり、目標空燃比afwbがリーンになるにつれて空気過剰率に対応する割合で充填効率が増加する一方、燃料噴射量は変化しない。しかし、燃費改善効果分だけ、トルクは理論空燃比のときと比べて増加する。図17中のΔTはトルク増加分である。
【0116】
これに対し、図18に示す如く燃費改善効果に見合うように、目標空燃比afwbの逆数の一次関数となるような燃料流量係数CBIを設定し、目標充填効率ceobjを
【0117】
【数11】
ceobj=ceimg×(afwb/14.7)×CBI
とすると、図17中に実線で示すように、空燃比のリーン化に応じた充填効率の増加の割合が破線のものと比べて小さくなり、燃料噴射量はリーン化につれて減少する。そして、燃費改善効果によるトルク上昇が燃料噴射量の減少により相殺されるため、空燃比をリーン化したときにもトルクは理論空燃比のときと同程度となり、理論空燃比からリーン空燃比にわたり、目標負荷に対応するようにトルクを制御し得ることとなる。
【0118】
上記の数11式の中の燃料流量係数CBIは空燃比に応じて変化するが、目標空燃比afwbの逆数の一次関数であるので、
【0119】
【数12】
CBI=A×(B+1/afwb)
とおきかえることができ、これを数11式に代入すると
【0120】
【数13】
ceobj=ceimg×(afwb/14.7)×{A×(B+1/afwb)}
となり、さらにK3=1/B、K4=A×Bとおくと、数13は前記の数8となる。つまり、数8の演算式は、上記燃料流量係数CBIを定数である2つの係数K3,K4でおきかえて数11を表したものである。
【0121】
そして、前記の数6の演算式は、数8の式における目標充填効率ceobjを実充填効率ceにおきかえるとともに、afwbをafw0におきかえることにより得られるものであるため、目標空燃比afw0の演算においても燃費改善効果が加味され、空燃比が変ったときの燃費改善効果の影響によるトルク変化が防止されることとなる。
【0122】
ところで、当実施形態の装置における噴射量等制御用の目標空燃比作成手段62は、上記目標空燃比afw0の演算手段62aに加えて目標空燃比afwbdの設定手段62c、偏差dafwbの演算手段62c及び最終目標空燃比afwの決定手段62dを有しているため、空燃比制御を適正に行い得るとともにNOxの低減等にも有利となる。
【0123】
具体的に説明すると、例えば均一リーンモードからストイキオモードへの移行時には、充填効率の変化に応じ、上記演算手段62aにより演算される目標空燃比afw0がリーンモードの空燃比から次第にリッチ側に変化し、この場合に上記偏差dafwbが大きいときはこの目標空燃比afw0が最終空燃比afwとされるが、目標空燃比afw0が所定値(例えば17程度)以下となって、設定手段62cで設定されるストイキオモードの目標空燃比afwbd(理論空燃比)との偏差dafwbが小さくなると、ストイキオモードの目標空燃比afwbdである理論空燃比が最終空燃比とされる。
【0124】
従って、できるだけ目標負荷に対応してトルクが滑らかに変化するように噴射量等制御用の目標空燃比が調整されつつ、NOx発生量が増大する空燃比(16付近)を通ることが避けられ、NOx発生量が低減されてエミッションが良好に保たれることとなる。
【0125】
そして、このような空燃比の変化に対し、点火時期が効果的に調整される。すなわち、均一リーンモードからストイキオモードへ移行する過渡時に、均一リーンモードにある間は図14(c)中のマップに基づき目標空燃比偏差dafwbdに応じた点火時期の補正量thigwdによる補正が行われることにより、過渡時の最終目標空燃比afwに対して適正な空燃比が得られる。さらに、目標空燃比が所定値から理論空燃比へ急変するストイキオモードへの切り替わり直後は、図14(c)中のマップに基づき目標空燃比偏差dafw0に応じた補正量thigwdによる点火時期の補正(リタード)が行われることにより、トルクが急変しないように調整される。
【0126】
また、上記目標図示平均有効圧力等に基づいて各種制御パラメータを制御するにあたり、制御信号に対する応答速度が低い吸入空気量等の制御には第1の目標図示平均有効圧力Piobjが用いられる一方、制御信号に対する応答速度が高い燃料噴射量等の制御には、なまし処理した仮想充填効率ceimgdに基づく第2の目標図示平均有効圧力Piobjdが用いられることにより、各制御パラメータの作動のタイミングが適正に調整される。
【0127】
すなわち、大部分の運転領域で空燃比が理論空燃比とされる標準運転条件が保たれつつアクセル操作量に対応してスロットル開度が変化するような一般のエンジンでは、加速時等にアクセル操作量及びそれに対応するスロットル開度が急激に変化しても、吸入空気量の変化には遅れがあり、エンジン出力の変化は吸入空気量の変化に対応したものとなるので、それを模擬した出力制御を行うためには、なまし処理した仮想充填効率ceimgdに基づく第2の目標図示平均有効圧力Piobjdが実際に要求される目標負荷に相当する。そこで、高速応答系は、実際に要求される目標負荷に相当する第2の目標図示平均有効圧力Piobjdに応じて制御されることにより、標準運転条件で運転されるような場合と同様のトルク特性が得られ、急激なトルク変化を招くことがなく、良好な走行フィーリングが確保される。
【0128】
一方、低速応答系であるスロットル開度、EGR弁の制御量及びS弁の開度については、目標負荷の変化に対して吸入空気量、EGR量及びスワール比の変化にある程度の遅れを有し、つまり仮想充填効率の変化に対して吸入空気量等の変化が緩慢になる傾向があるため、なまし処理していない仮想充填効率ceimgに基づく第1の目標図示平均有効圧力Piobjに応じて制御される。
【0129】
さらに図8のフローチャートに示す例では、目標スロットル開度の演算に用いる目標体積効率の一次進み補正を行っているので、吸入空気量の制御の応答遅れが軽減され、これによっても、吸入空気量の制御と燃料噴射量の制御のタイミングのずれが軽減される。
【0130】
また、排気通路に設けられる触媒35が前記のようなNOx吸蔵型触媒の場合、成層燃焼モード等によるリーン状態が長時間続くと触媒が飽和してNOx吸着能力が低下するため、リーン状態が所定時間継続したとき空燃比を一時的にλ≦1にしてNOxを還元、排除する処理(所謂リッチスパイク)を行うことが要求されるが、当実施形態の装置を利用すれば、吸入空気量制御用の目標空燃比afwbを調整するだけでこのようなリッチスパイクを行うことも容易に可能となる。
【0131】
すなわち、リーン状態が所定時間継続した場合、一定時間だけ吸入空気量制御用の目標空燃比afwbを理論空燃比に変更すると、それに応じ、スロットル開度演算手段56で演算されるスロットル開度が小さくなって吸入空気量が減少し、また、そのときの実充填効率の変化に伴い、目標空燃比演算手段62aで演算される燃料噴射量制御用の目標空燃比afw0が理論空燃比となり、目標負荷に見合うようにトルクが調整されつつリッチスパイクが達成されることとなる。
【0132】
なお、上記実施形態では運転モードを成層燃焼モード、均一リーンモード及びストイキオモードに変更し得るようにしているが、均一リーンモードを省くようにしてもよい。この場合、運転モード設定手段53による運転モードの設定の際に、前述の図10に示すような運転領域のマップに替え、図19に示すようなマップによって運転モードを設定すればよい。すなわち、所定の低回転低負荷領域を成層燃焼領域とするとともに、この領域より高回転側及び高負荷側の領域をストイキオモードの領域とする。
【0133】
このように運転モードを設定する場合も、図2のブロック図に示すような各手段でスロットル開度、EGR弁開度、S弁開度、燃料噴射量、噴射時期、点火時期等が制御され、その制御において図11、図14のようなマップが用いられるが、これらのマップのうち、均一リーンモードでのマップは不要となる。
【0134】
さらにこの場合、運転モード設定手段63による運転モードの設定においては、図20のようにNoxが発生し易い空燃比域よりリーン側の所定空燃比を境にして、目標空燃比afw0がこれより大きい領域で成層燃焼モード、これより小さい領域でストイキオモードとし、また、目標空燃比作成手段62では、成層燃焼モードからストイキオモードへの切り替わり時に、上記目標空燃比afw0が所定空燃比まで小さくなればそこからは一気に最終目標空燃比afwを理論空燃比に変更するようになっている。
【0135】
とくに、成層燃焼状態では全体の平均空燃比がかなりリーンでも点火プラグ付近は燃焼し易い空燃比となることから、均一燃焼状態と比べるとNOxが発生し易い空燃比がリーン側にずれる傾向があり、この点を考慮して、図20において成層モードとストイキオモードとの境界の目標空燃比afw0は比較的リーン側の、例えば19〜20程度としておけばよい。
【0136】
また、このようにすると成層燃焼モードからストイキオモードへの移行時に空燃比が比較的大きく急変するが、前述の図14(c)に示すように点火時期が空燃比偏差dafw0に応じて補正されることにより、トルク調整が適正に行われる。
【0137】
このようなモード移行時の制御状態の変化を、図21によってさらに詳しく説明する。
【0138】
加速操作によって成層燃焼領域からストイキオモードの運転領域へ移行する場合、アクセル開度の増加につれ、先ずt11の時点で、運転モード設定手段53での設定による運転モードが成層燃焼からストイキオに切り替わり、それに応じた目標空燃比afwbによりスロットル開度が小さくなるが、充填効率ceは応答遅れにより緩やかに減少方向に変化し、この充填効率に対応するように目標空燃比演算手段62aで演算される過渡時の目標空燃比afw0が変化する。
【0139】
そして、上記目標空燃比afw0が所定値(例えば19)に低下するまでは成層燃焼モードが維持され、このとき、図14(c)における成層燃焼モードでの補正値thtigwdのマップから、定常時の目標空燃比afwbdと最終目標空燃比afw(過渡時の目標空燃比afw0)との偏差dafwbdに応じて点火時期の補正値thtigwdが求められ、定常運転時の適性点火時期である基本点火時期thtighに上記補正値thtigwdが加味されることにより、過渡時の適性点火時期が得られる。
【0140】
また、目標空燃比afw0が19以下になると、充填効率ceが定常時の値となる前に一気に理論空燃比(14.7)まで変更されることにより、一時的に燃料が増加するが、図14(c)におけるストイキオモードでの補正値thtigwdのマップから、過渡時の目標空燃比afw0と最終目標空燃比afwである理論空燃比との偏差dafw0に応じて点火時期の補正値thtigwdが求められ、理論空燃比での最適点火時期よりも上記補正値thtigwdだけ点火時期がリタードされる。従って、上記の一時的な燃料の増加によってトルクが急増しようとする傾向が点火時期のリタードにより相殺され、アクセル開度の増加に応じてトルクが滑らかに増加し、トルクショックが防止されることとなる。
【0141】
このような点火時期のリタードは、充填効率が定常状態の値となるまで行われる。
【0142】
なお、上記各実施形態以外にも、本発明の装置の具体的構造は種々変更可能である。
【0143】
例えば、上記図7、図8のフローチャートに示した実施形態では、吸入空気量の制御と燃料噴射量の制御のタイミング調整のため、燃料噴射量の制御に用いる目標図示有効圧力をなまし補正した仮想充填効率から演算するという手法と、目標スロットル開度の演算に用いる目標体積効率の一次進み補正を行うという手法の両方を用いているが、いずれか一方だけを用いるようにしてもよい。
【0144】
また、上記各実施形態では筒内噴射式エンジンに適用しているが、これ以外にも、例えば吸気ポートにインジェクタを設けているエンジンで、低速低負荷時にスワール生成しつつリーンバーンを行い、かつ、目標負荷を設定してそれに基づきスロットル開度、燃料噴射量等の制御を行うようにしたもの等にも本発明を適用することができる。
【0145】
目標負荷に基づいて設定される運転モードや目標空燃比に応じて吸入空気量を制御するために作動される吸入空気量調節手段として、上記実施形態ではモータ27で駆動されるスロットル弁28を用いているが、スロットル弁をアクセルペダルに機械的に連動させておく一方、スロットル弁をバイパスするバイパス通路に吸入空気量調節用のコントロール弁を設け、これを制御するようにしてもよい。このような場合に、アクセル操作量に対応する値を検出する手段として、アクセル開度センサ43の替りに、アクセルペダルに機械的に連動したスロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサを用いるようにしてもよい。
【0146】
【発明の効果】
以上のように本発明は、吸入空気量検出手段と、目標負荷設定手段と、目標空燃比演算手段と、目標空燃比に基づいて上記燃料噴射量を演算する噴射量演算手段とを備え、上記目標空燃比演算手段は、燃料噴射量制御用の目標空燃比を吸入空気量検出手段の出力及び上記目標負荷に基づいて演算するようになっているため、過渡時おいて目標負荷の変化に対して吸入空気量の変化の応答遅れが生じている場合のように実際の充填効率が定常時の目標負荷に応じた値からずれているような場合でも、その実際の充填効率に応じて目標負荷を調整することにより、目標負荷に見合うトルクが得られるように燃料噴射量を制御することができる。しかも、目標空燃比を演算により容易に求めることができる。
【0147】
また、とくに、燃焼室に直接燃料を噴射するインジェクタを備えるとともに、このインジェクタから圧縮行程で燃料を噴射させて成層燃焼を行わせる成層燃焼モードと吸気行程で燃料を噴射させて均一燃焼を行わせる均一燃焼モードとに運転モードを変更可能にした筒内噴射式エンジンに適用した場合、モード変更に応じて吸入空気量が変化する場合の応答遅れの間にも、目標負荷に応じたトルクが得られるように燃料噴射量を制御することができ、トルクの急変を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置の一実施形態を示す全体概略図である。
【図2】ECUの機能的構成を示すブロック図である。
【図3】図2中の目標負荷設定手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図4】図2中のスロットル開度演算手段等の具体的構成を示すブロック図である。
【図5】図2中の噴射量等制御用の目標空燃比作成手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図6】図2中の噴射量演算手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図7】燃料噴射量等の制御の具体例を示すフローチャートである。
【図8】吸入空気量等の制御の具体例を示すフローチャートである。
【図9】アクセル操作量及びエンジン回転数と仮想体積効率との対応関係を示す説明図である。
【図10】運転モードの領域設定を示す説明図である。
【図11】(a)(b)(c)は吸入空気量制御用の目標空燃比、EGR弁基本制御量及びS弁開度のそれぞれについて、運転モード別に設定されたマップ等を示す図である。
【図12】目標体積効率とスロットル開度との対応関係を示す説明図である。
【図13】燃料噴射量等の演算の際に用いる運転モードの設定を示す説明図である。
【図14】(a)(b)(c)は燃料噴射量等制御用の目標空燃比、噴射時期及び点火時期のそれぞれについて、運転モード別に設定されたマップ等を示す図である。
【図15】運転モード変更時のスロットル開度、充填効率、空燃比及びトルクの変化を示す説明図である。
【図16】空燃比と燃費との関係を示す説明図である。
【図17】目標空燃比に応じて吸入空気量の制御を行う場合の空燃比と充填効率、燃料噴射量及びトルクとの関係を示す説明図である。
【図18】目標空燃比と燃料流量係数との関係を示す説明図である。
【図19】第2の実施形態における運転モードの領域設定を示す説明図である。
【図20】第2の実施形態において燃料噴射量等の演算の際に用いる運転モードの設定を示す説明図である。
【図21】第2の実施形態による成層燃焼モードからストイキオモードへの移行時の点火時期、燃料噴射量、目標空燃比等の変化を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
10 エンジン本体
15 燃焼室
22 インジェクタ
26 エアフローセンサ
28 スロットル弁
50 ECU
52 目標負荷設定手段
53 運転モード設定手段
54 吸入空気量制御用の目標空燃比設定手段
56 スロットル開度演算手段
62 噴射量等制御用の目標空燃比作成手段
62a 目標空燃比演算手段
62b 目標空燃比設定手段
63 運転モード設定手段
65 噴射量演算手段
Claims (11)
- 燃料を噴射供給するインジェクタを備えるとともに、エンジンの運転状態に応じて設定した目標負荷に基づいて目標空燃比を決定し、この目標空燃比に応じて上記インジェクタからの燃料噴射量を制御するようにしたエンジンの制御装置であって、
アクセル操作量とエンジン回転数とに応じて目標負荷を設定する目標負荷設定手段と、
吸入空気量検出手段の出力及び上記目標負荷に基づいて目標空燃比を演算する目標空燃比演算手段と、
この目標空燃比演算手段により演算された目標空燃比に基づいて上記燃料噴射量を演算する噴射量演算手段とを備え、
上記目標負荷設定手段は、理論空燃比での標準運転状態を想定した場合の要求トルクに見合う充填効率である仮想充填効率もしくはこれに対応する値を目標負荷として演算し、
上記目標空燃比演算手段は、上記仮想充填効率もしくはこれに対応する値と吸入空気量検出手段の出力に基づいて求められる実際の充填効率もしくはこれに対応する値との比率に基づき目標空燃比を演算するようになっていることを特徴とするエンジンの制御装置。 - 少なくとも燃料噴射時期が異なる複数の運転モードを有し、上記目標空燃比演算手段により演算された目標空燃比に応じて運転モードを選択する運転モード設定手段と、運転モード別に目標負荷及びエンジン回転数に応じて燃料噴射時期を設定する噴射時期設定手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載のエンジンの制御装置。
- 燃焼室に直接燃料を噴射するインジェクタを備えるとともに、このインジェクタから圧縮行程で燃料を噴射させて成層燃焼を行わせる成層燃焼モードと吸気行程で燃料を噴射させて均一燃焼を行わせる均一燃焼モードとに運転モードを変更可能にしたことを特徴とする請求項2記載のエンジンの制御装置。
- 上記目標空燃比演算手段は、目標空燃比がリーンにされるときの理論空燃比に対する燃費改善効果分を加味して目標空燃比を演算するようになっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
- 上記目標空燃比演算手段のほかに、目標負荷及びエンジン回転数に応じて予め定められた対応関係に基づいて目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段を備えるとともに、過渡時には上記目標空燃比演算手段で演算された値を選択し、定常時には上記目標空燃比設定手段で設定された値を選択して、最終的な目標空燃比を決定する目標空燃比決定手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
- 上記目標空燃比演算手段により演算された目標空燃比を選択する過渡時に、この過渡時の目標空燃比と定常時の目標空燃比との差に応じて点火時期を補正する点火時期制御手段を備えたことを特徴とする請求項5記載のエンジンの制御装置。
- 吸気通路に吸入空気量を調節する吸入空気量調節手段を備えるとともに、目標負荷に基づいて吸入空気量調節手段の制御量を演算する演算手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
- 理論空燃比での標準運転状態を想定した場合の要求トルクに見合う充填効率である仮想充填効率もしくはこれに対応する値になまし処理を施した値を、燃料噴射量制御用の目標空燃比の演算に用いる目標負荷とする一方、なまし処理を施さない仮想充填効率もしくはこれに対応する値を、吸入空気量調節手段の制御量の演算に用いる目標負荷とすることを特徴とする請求項7記載のエンジンの制御装置。
- 演算手段により吸入空気量調節手段の制御量を演算する際に目標負荷の一次進み補正を行うようになっていることを特徴とする請求項7記載のエンジンの制御装置。
- 燃焼室に直接燃料を噴射するインジェクタと、空燃比をリーンに設定しつつインジェクタから圧縮行程で燃料を噴射させて成層燃焼を行わせる成層燃焼モードと空燃比を理論空燃比以下に設定しつつ吸気行程で燃料を噴射させて均一燃焼を行わせる均一燃焼モードとに運転モードを変更可能にする運転モード設定手段と、リーン空燃比の成層燃焼モードから理論空燃比以下の空燃比の均一燃焼モードへのモード移行時に、理論空燃比よりも所定量だけリーン側の空燃比から理論空燃比以下にまで一気に空燃比が変化するように燃料噴射量を制御する手段と、このモード移行時において理論空燃比以下の空燃比となってから充填効率が定常状態の値となるまで、点火時期をリタードする点火時期制御手段とを備えたことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
- モード移行時の点火時期のリタード量を、過渡時の目標空燃比と定常時の目標空燃比との差に応じて設定したことを特徴とする請求項10記載のエンジンの制御装置。
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