JP3805520B2 - 移動通信における速度推定装置および方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、移動通信システムにおいて、相手局の移動速度を推定する装置およびその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
移動通信システムにおけるチャネル多重化方式としては、従来より、時分割多元接続(time division multiple access :TDMA)方式や周波数分割多元接続(frequency division multiple access:FDMA)方式等が用いられている。しかし、周波数利用効率のより高い方式の開発が期待されており、中でも特に、直接拡散符号分割多元接続(direct sequence code division multiple access :DS−CDMA)方式が、通信の大容量化を実現できる方式として有力視されている。
【0003】
DS−CDMA方式は、スペクトル拡散通信の一種である。この方式では、送信側で、複数のチャネルに同じ周波数を用い、チャネル毎に独立な広帯域の拡散コードをデータ信号に乗じることにより、データ信号のスペクトルを広げて送信し、受信側で、同じ拡散コードを乗じて、各チャネルのデータ信号を復元する。受信側での拡散コードの乗算は、逆拡散と呼ばれる。このDS−CDMA方式を移動通信に適用した場合、サーチャー機能、送信電力制御機能、絶対同期検波機能等が不可欠となる。
【0004】
サーチャー機能とは、伝送パスを検出し、逆拡散を行うためのタイミングである逆拡散コードタイミングを検出する機能であり、送信電力制御機能とは、移動局と基地局との距離差による遠近問題およびマルチパスによる瞬時変動(フェージング)に対して、送信電力を変更する機能である。また、絶対同期検波機能とは、より低い送信電力で所要BER(bit error rate)を得るために、パイロット信号をデータ信号に付加して送信し、絶対同期検波を行う機能である。
【0005】
また、移動通信では、移動局が静止状態から高速移動状態に移行する過程や、都市環境から郊外環境に移行する過程等の動的に変化する様々な環境の中で、安定した通信が必要とされる。特に、複数の伝送路を通った反射波や遅延波を伴うマルチパス環境においては、干渉によりフェージング(瞬時値変動)が発生するため、その対策は移動通信では不可欠なものとなる。DS−CDMA方式においても、上述の各機能と関連して、有効なフェージング対策が望まれる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、DS−CDMA方式の移動通信においては、以下のような問題がある。
【0007】
一般に、通信中に発生したフェージングに対して、通信装置各部のパラメータとしては最適な値が存在するが、フェージングの変動スピードは移動局の移動速度(または、フェージングピッチ)により変化するため、各パラメータは必ずしも常に最適値に設定されているとは限らない。したがって、パラメータが最適化されていない場合、受信特性において劣化が発生し、チャネル容量が劣化する。また、各パラメータを最適化するためには、基地局において移動局の移動速度を推定する必要がある。
【0008】
しかしながら、DS−CDMA方式においては、同じ周波数上で複数チャネルが多重化されているために、他の多重化方式として知られているTDMAまたはFDMA方式と異なり、受信電界強度の測定に基づく移動速度の推定は困難である。
【0009】
本発明の課題は、CDMA方式等のスペクトル拡散方式の移動通信において、移動局の移動速度を推定する装置およびその方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
図1は、本発明の速度推定装置の原理図である。図1の速度推定装置は、入力手段1、受信手段2、電力合成手段3、および速度推定手段4を備える。
【0011】
本発明の第1の原理によれば、速度推定装置は、送信局と受信局の間で送信電力制御を行う移動通信において用いられる。入力手段1は、受信局から送信局に送られる送信電力制御コマンドを入力し、速度推定手段4は、送信電力制御コマンドを用いて受信局の移動速度を推定し、推定された移動速度に対応する制御信号を出力する。
【0012】
送信局および受信局は、それぞれ、移動通信における基地局または移動局に対応する。例えば、DS−CDMA方式においては、基地局と移動局の間の距離差およびマルチパス伝送路において発生するフェージングに対して、送信電力を最適に設定するような制御が行われる。
【0013】
この制御においては、受信側で送信電力制御コマンドが生成されて、送信側に送られ、送信側では、受け取った送信電力制御コマンドに基づいて、送信電力が変更される。送信電力制御コマンドの値は、移動局の移動に伴うフェージング等の瞬時変動に追従して変化するため、その変化を検出すれば、移動速度の推定が可能となる。速度推定手段4は、送信電力制御コマンドの変化や累積値に基づいて、受信局の移動速度を推定する。
【0014】
また、本発明の第2の原理によれば、速度推定装置は、送信局と受信局の間で行われる移動通信において用いられる。受信手段2は、受信信号から希望波の信号を抽出し、電力合成手段3は、希望波の信号から希望波電力を生成する。そして、速度推定手段4は、希望波電力を用いて送信局の移動速度を推定し、推定された移動速度に対応する制御信号を出力する。
【0015】
例えば、DS−CDMA方式においては、受信信号はスペクトルが拡散された状態になっており、複数のチャネルが多重化されている。このため、逆拡散前では、送信局からのフェージングを受けた信号を観測できない。しかしながら、逆拡散を行うことによって、希望波を取り出すことができ、フェージングによる影響を観測して、移動速度を推定することが可能となる。
【0016】
受信手段2は、受信信号を逆拡散して希望波の信号を抽出し、電力合成手段3は、抽出された信号から希望波電力を生成する。そして、速度推定手段4は、希望波電力のサンプル値に基づいて送信局の移動速度を推定する。
【0017】
実際には、基地局と移動局は、それぞれ送信局と受信局の両方の機能を持っているため、送信電力制御コマンドと希望波電力の両方を用いて、相手局の移動速度を推定することができる。また、速度推定手段4から出力される制御信号を用いれば、通信装置のパラメータをフェージングに対して最適な値に設定することが可能になる。
【0018】
例えば、図1の入力手段1は、図10のTPCコマンド累積部233に対応し、受信手段2は、図4の受信部192および復調部193に対応し、電力合成手段3は、図13の電力合成部241に対応し、速度推定手段4は、図5のフェージングピッチ推定部231、図10のフェージングピッチ推定部232、および図13のフェージングピッチ推定部242に対応する。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本実施形態においては、DS−CDMA方式における送信電力制御(transmission power control,TPC)で用いられるTPCコマンドや、受信波の受信相関値を利用して、移動速度を推定する。移動速度が得られれば、それに基づいて、サーチャー、送信電力制御部、同期検波における位相推定部等の各パラメータの値を、発生したフェージングに対して最適となるように設定することができる。
【0020】
まず、DS−CDMA方式の通信装置について説明する。図2は、DS−CDMA方式における送信機の概念を示す原理図であり、図3は、受信機の概念を示す原理図である。
【0021】
図2において、搬送波に乗せられた送信データは、乗算器12により、コード発生器11からの拡散コードと乗算され、増幅器13を経て、アンテナ14から送信される。乗算器12の論理としては、排他論理和(EXOR)等、任意のものを使用可能である。
【0022】
また、図3において、アンテナ21から入力した受信信号は、増幅器22を経て、変換部23でベースバンドの信号(デジタル信号)に変換され、復調部24で元のデータに変換される。
【0023】
復調部24は、コード発生器31、乗算器32、および検波部33の組を複数備え、各コード発生器31は、それぞれ、異なるタイミングで逆拡散コードを発生する。逆拡散コードとしては、通常、送信で用いた拡散コードと同じものが用いられる。乗算器32は、逆拡散コードを信号に乗算してスペクトルを元の帯域に戻し、検波部33は、逆拡散された信号を検波する。加算器34は、各検波部33の出力を合成して出力する。
【0024】
サーチャー25は、送信側における拡散と受信側における逆拡散のタイミングを合わせるために設けられる。サーチャー25は、変換部23の出力信号から、マルチパス環境における各パスの信号遅延を検出し、各パスに応じたタイミングで逆拡散が行われるように、各コード発生器31のタイミングを制御する。こうして、復調部24からは、複数のパスを通ってきた信号から合成されたデータが出力される。
【0025】
次に、移動速度を推定する構成について説明する。ここでは、主として、基地局において移動局の移動速度を推定することを前提にして説明するが、移動局においても同様の構成を設けることができる。その場合、移動局に対する基地局の相対的な移動速度が推定される。
【0026】
移動速度の推定方法としては、移動局からのTPCコマンドを利用する方法と希望波電力を利用する方法とがある。まず、TPCコマンドを利用する推定方法について説明する。DS−CDMA方式においては、基地局と移動局の間の距離差およびマルチパス伝送路において発生するフェージングに対して、受信側の送信電力制御部で、例えば、図4に示すような送信電力制御が行われる。
【0027】
図4において、アンテナ191は図3のアンテナ21に対応し、受信部192は図3の増幅器22と変換部23に対応し、復調部193は図3の復調部24に対応する。復調部193は、受信部192からのベースバンド信号の逆拡散とレイク合成を行って、受信相関値を出力する。ここで、受信相関値とは、逆拡散後の信号を意味している。
【0028】
送信電力制御部194は、SIR推定部195と比較部196を含む。SIR推定部195は、受信相関値から信号対干渉電力比(signal-to-interference ratio,SIR)を推定し、比較部196は、推定したSIR値とターゲットとなるSIR値を比較する。そして、推定SIRがターゲットSIRより大きいときは、送信電力ダウンのTPCコマンドを生成し、推定SIRがターゲットSIRより小さいときは、送信電力アップのTPCコマンドを生成する。そして、それを送信側に送信し、送信電力を制御する。
【0029】
送信側に設けられた送信電力制御部(不図示)は、受信側からのTPCコマンドを受け取ると、それに従って送信電力値を増減する。このような制御によれば、受信側におけるSIRが最適となるように、送信側の送信電力を制御することができる。
【0030】
TPCコマンドはフェージング等の瞬時変動に追従して変化するため、TPCコマンドの変化の割合を検出すれば、移動速度の推定が可能となる。ただし、非常に高速なフェージングの場合はTPCコマンドが追従不能となり、ある移動速度以上の領域では、その変化の割合は一定となって飽和してしまう。この領域は、通常、TPCコマンドの可変幅および可変時間幅により決まってくる。
【0031】
図5は、上述のような送信電力制御を行うシステムにおいて、生成されたTPCコマンドを利用して移動速度を推定する構成を示している。図5のフェージングピッチ推定部231は送信側に設けられ、入力されたTPCコマンドの変化を検出して、受信側の移動速度を推定する。
【0032】
例えば、送信電力を増加させるTPCコマンドを“+1”で表し、それを減少させるTPCコマンドを“−1”で表すと、フェージングピッチ推定部231は、連続する2つのTPCコマンドを比較して、同じ符号のデータが2回連続する回数をカウントし、そのカウント値に基づいて速度推定を行う。一般に、TPCコマンドの符号は、移動速度が遅くなるとあまり変化せず、移動速度が速くなると頻繁に反転する。したがって、同じ符号が連続する回数は、移動速度が遅くなると大きくなり、移動速度が速くなると小さくなる傾向にある。
【0033】
例えば、図6に示すTPCコマンド列においては、カウント値(SUM)は7となり、図7に示すTPCコマンド列においては、カウント値は4となる。したがって、図7の状態の方が図6の状態より移動速度が速いと推定される。カウント値の範囲をいくつかに分割することにより、移動速度を複数の段階に分けて推定することができる。また、移動速度をカウント値の適当な関数として表してもよい。
【0034】
また、図8、9は、それぞれ、図6、7のTPCコマンド列における別のカウント方法を示している。このようなカウント方法を用いた場合も、上述のカウント方法の場合と同様にして、移動速度を推定することができる。
【0035】
このような速度推定方法において、システムの違いによりTPCコマンドの送信頻度が異なる場合は、同じ符号のデータが2回連続する回数が、必ずしも速度推定のために最適であるとは限らない。そこで、この方法を一般化して、同じ符号のデータがN回連続する回数をカウントし、システムにとって最適なカウント値を推定に用いるようにする。TPCコマンドの送信頻度が大きいほど、Nの値は大きくした方がよい。
【0036】
次に、図10は、TPCコマンドの累積値を利用して移動速度を推定する構成を示している。図10のTPCコマンド累積部233は送信側の送信電力制御部に設けられ、連続して入力されるTPCコマンドの値を順に加算し、加算結果を累積値とする。送信側では、この累積値に従って送信電力値が変更される。また、フェージングピッチ推定部232は、TPCコマンド累積部233から累積値を受け取って、移動速度を推定する。
【0037】
フェージングピッチ推定部232は、図11に示すように、TPCコマンドの累積値を一定のサンプリング間隔でサンプルし、連続する2つのサンプル値の差の絶対値(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K)を一定時間加算して、加算値(SUM)から移動速度を推定する。
【0038】
移動速度が速いほど累積値の増減が激しくなるため、この加算値は大きくなり、移動速度が遅いほど累積値の増減が穏やかになるため、加算値は小さくなる。したがって、サンプル値の差の加算値の範囲をいくつかに分割することにより、移動速度を複数の段階に分けて推定することができる。また、移動速度を加算値の適当な関数として表してもよい。
【0039】
また、サンプル値の差を一定時間加算する際に、それらの値の移動平均をとり、その平均値から移動速度を推定してもよい。移動平均のとり方により、移動速度の変動をより細かく推定することができる。
【0040】
また、フェージングピッチ推定部232は、図12に示すように、TPCコマンドの累積値が一定の基準値と交差する回数を一定時間カウントし、カウント値(SUM)から移動速度を推定することもできる。ここで、累積値が基準値と交差するとは、累積値が基準値を越えるか、または累積値が基準値を下回ることを意味している。移動速度が速いほどこのカウント値は大きくなり、移動速度が遅いほどカウント値は小さくなる。したがって、このカウント値を用いれば、上述のサンプル値の差の加算値の場合と同様にして、移動速度を推定することができる。
【0041】
また、交差回数をカウントする際に、一定時間のカウント値の移動平均をとり、その平均値から移動速度を推定してもよい。移動平均のとり方により、移動速度の変動をより細かく推定することができる。
【0042】
以上は、TPCコマンドを利用した移動速度の推定方法であるが、他の方法として、受信相関値から得られる希望波電力を利用した方法がある。DS−CDMA方式においては、逆拡散前の受信信号はスペクトルが拡散された状態になっており、複数のチャネルが多重化されている。このため、逆拡散前では、ターゲットとなる移動局からのフェージングを受けた信号を観測できない。しかしながら、逆拡散を行うことによって、ターゲットの希望波を取り出すことができ、そのフェージングを観測して、移動速度を推定することが可能となる。
【0043】
図13は、希望波電力を利用して移動速度を推定する構成を示している。電力合成部241は、図2の復調部24の出力に対応する受信相関値から希望波電力を合成する。フェージングピッチ推定部242は、合成された希望波電力に基づいて移動速度を推定する。
【0044】
フェージングピッチ推定部242は、図14に示すように、受信相関値の測定を行い、一定時間毎に希望波電力をサンプルする。希望波電力の各サンプル値(SP1,SP2,...,SPi,SPj)は、連続するn個の受信相関値(1,2,...,n)から生成される。
【0045】
ところで、図3の検波部33において、信号の同期検波を行う際には位相推定が必要となる。内挿型同期検波回路を用いる場合は、データ信号とデータ信号の間に挿入された既知信号であるパイロット信号を使用して、位相推定が行われる。パイロット信号を含む信号の受信相関値から希望波電力を生成する方法としては、例えば、図15、16、17に示す3通りの方法が考えられる。
【0046】
図15においては、レイク合成部243は、特定のチャネルに対応する希望波の受信相関値を出力し、パイロット抽出部244は、既知信号であるパイロット信号の受信相関値を抽出する。電力合成部241は、抽出された受信相関値の電力合成を行って、希望波電力のサンプル値を生成する。ここでは、n個の受信相関値のそれぞれを自乗して、得られた値の総和をサンプル値とする。
【0047】
また、図16においては、電力合成部241は、抽出された受信相関値の振幅合成を行って、希望波電力のサンプル値を生成する。ここでは、n個の受信相関値の平均値を求め、それを自乗してサンプル値とする。
【0048】
また、図17においては、パイロット信号の抽出を行わず、電力合成部241は、レイク合成部243から出力されるパイロット信号およびデータ信号の受信相関値の電力合成を行って、希望波電力のサンプル値を生成する。ここでは、n個の受信相関値のそれぞれを自乗して、得られた値の総和をサンプル値とする。図17の方法は、パイロット信号が含まれているかどうかに関わらず、任意の信号について適用可能である。
【0049】
図13のフェージングピッチ推定部242は、こうして生成された希望波電力のサンプル値に基づき、図11に示した方法と同様にして、連続する2つのサンプル値の差の絶対値を一定時間加算し、加算値から移動速度を推定する。
【0050】
移動速度が速いほど希望波電力の増減が激しくなるため、この加算値は大きくなり、移動速度が遅いほど希望波電力の増減が穏やかになるため、加算値は小さくなる。したがって、サンプル値の差の加算値の範囲をいくつかに分割することにより、移動速度を複数の段階に分けて推定することができる。また、移動速度を加算値の適当な関数として表してもよい。
【0051】
また、サンプル値の差を一定時間加算する際に、それらの値の移動平均をとり、その平均値から移動速度を推定してもよい。移動平均のとり方により、移動速度の変動をより細かく推定することができる。
【0052】
また、フェージングピッチ推定部242は、図18に示すように、希望波電力のサンプル値が一定の基準値と交差する回数を一定時間カウントし、カウント値(SUM)から移動速度を推定することもできる。移動速度が速いほどこのカウント値は大きくなり、移動速度が遅いほどカウント値は小さくなる。したがって、このカウント値を用いれば、上述のサンプル値の差の加算値の場合と同様にして、移動速度を推定することができる。
【0053】
また、交差回数をカウントする際に、一定時間のカウント値の移動平均をとり、その平均値から移動速度を推定してもよい。移動平均のとり方により、移動速度の変動をより細かく推定することができる。
【0054】
以上、TPCコマンドを用いた推定方法と希望波電力を用いた推定方法について説明したが、これらの2つの方法による推定結果の間には一定の相関関係がある。一般に、移動速度がある程度速くなるとTPCコマンドによる送信電力制御が追従不能となるため、ある速度以上では、受信側で生成されるTPCコマンドの変化の割合は一定になってしまう。
【0055】
このため、TPCコマンドを用いた方法では、この変化の割合に基づいて求められる速度推定値は、図19に示すように、ある速度以上では一定値を示すようになる。図19は、発生したフェージングのフェージングピッチ(fdT)と、速度推定値の関係を示している。フェージングピッチと実際の移動速度は密接な関係にあり、フェージングピッチが大きくなるほど、移動速度は速くなる。
【0056】
これに対して、希望波電力を用いた方法では、TPCコマンドを用いた方法とは逆に、速度推定値は、ある速度以下では一定値を示すようになる。これは、移動速度が遅いときはTPCコマンドによる送信電力制御が効いているため、希望波電力の値が一定値となるからである。そして、移動速度がある程度速くなると、送信電力制御が効かなくなり、希望波電力に変動が現れるので、速度推定が可能となる。
【0057】
そこで、これらの推定方法を併用して移動速度を推定することが望ましい。例えば、TPCコマンドによる速度推定値が飽和してしまった領域では、希望波電力による推定値を採用し、希望波電力による速度推定値が飽和してしまった領域では、TPCコマンドによる推定値を採用すればよい。2つの方法を併用することにより、互いの欠点を補い、移動速度の推定範囲を拡大することができる。
【0058】
上述したフェージングピッチ推定部231、232、242は、例えば、図20に示すように、移動局の移動速度を複数の速度範囲に分けて推定し、それぞれの速度範囲に対応する制御信号を出力する。図20においては、推定速度がA(静止状態)、B(0〜40km/h)、C(40〜80km/h)、D(80〜120km/h)、E(120km/h<)の5段階の速度範囲に分類され、推定速度の属する速度範囲に応じて、それぞれ異なる制御信号が出力される。
【0059】
この制御信号に基づいて、サーチャー、送信電力制御部、同期検波における位相推定部等の各パラメータの値を、発生したフェージングに対して最適となるように設定することができる。
【0060】
以上説明した実施形態において、移動速度を推定する回路や通信装置の各種パラメータを設定する回路としては、任意のハードウェア、またはDSP(digital signal processor)等のファームウェアを用いることができる。また、制御対象のパラメータは、サーチャー機能、送信電力制御機能、および絶対同期検波機能のパラメータに限られることはなく、他の任意のパラメータも同様に制御することができる。
【0061】
さらに、本発明は、DS−CDMA方式の通信に限らず、PSK(phase shift keying)方式、PDC(personal digital cellular )方式等にも、広く適用することが可能である。
【0062】
【発明の効果】
本発明によれば、CDMA方式等の移動通信において、送信電力制御機能や逆拡散機能を利用することにより、移動局の移動速度を推定することが可能になる。また、推定された移動速度に応じて、通信装置の各種パラメータを動的に制御することができ、受信特性およびチャネル容量の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の速度推定装置の原理図である。
【図2】送信機の原理図である。
【図3】受信機の原理図である。
【図4】受信機の送信電力制御部の構成図である。
【図5】TPCコマンドによる速度推定を示す図である。
【図6】TPCコマンドの第1のカウント結果を示す図である。
【図7】TPCコマンドの第2のカウント結果を示す図である。
【図8】TPCコマンドの第3のカウント結果を示す図である。
【図9】TPCコマンドの第4のカウント結果を示す図である。
【図10】TPCコマンドの累積値による速度推定を示す図である。
【図11】累積値のサンプリングを示す図である。
【図12】TPCコマンドの累積値の基準値を示す図である。
【図13】希望波電力による速度推定を示す図である。
【図14】受信相関値のサンプリングを示す図である。
【図15】第1の電力合成を示す図である。
【図16】第2の電力合成を示す図である。
【図17】第3の電力合成を示す図である。
【図18】希望波電力の基準値を示す図である。
【図19】2つの推定方法の関係を示す図である。
【図20】5段階の推定速度を示す図である。
【符号の説明】
1 入力手段
2 受信手段
3 電力合成手段
4 速度推定手段
11、31 コード発生器
12、32 乗算器
13、22 増幅器
14、21、191 アンテナ
23 変換部
24、193 復調部
25 サーチャー
33 検波部
34 加算器
192 受信部
194 送信電力制御部
195 SIR推定部
196 比較部
233 TPCコマンド累積部
231、232、242 フェージングピッチ推定部
241 電力合成部
243 レイク合成部
244 パイロット抽出部
Claims (12)
- 送信局と受信局の間で送信電力制御を行う移動通信における速度推定装置であって、
前記受信局から前記送信局に送られる送信電力制御コマンドを入力する入力手段と、
前記送信電力制御コマンドを用いて前記受信局の移動速度を推定し、推定された移動速度に対応する制御信号を出力する速度推定手段と
を備えることを特徴とする速度推定装置。 - 前記速度推定手段は、前記送信局に対する前記受信局の相対的な移動速度を推定することを特徴とする請求項1記載の速度推定装置。
- 前記速度推定手段は、連続して入力される前記送信電力制御コマンドの値の変化を検出し、該値の変化に基づいて前記移動速度を推定することを特徴とする請求項1記載の速度推定装置。
- 前記速度推定手段は、前記送信電力制御コマンドの同じ値が特定の数だけ連続する回数を検出し、該回数に基づいて前記移動速度を推定することを特徴とする請求項3記載の速度推定装置。
- 前記速度推定手段は、前記送信電力制御コマンドの送信頻度に応じて、前記特定の数を設定することを特徴とする請求項4記載の速度推定装置。
- 前記速度推定手段は、前記送信電力制御コマンドの累積値を一定間隔でサンプルし、連続する2つのサンプル値の差を一定時間加算して、加算値に基づいて前記移動速度を推定することを特徴とする請求項1記載の速度推定装置。
- 前記速度推定手段は、前記サンプル値の差の移動平均を求めて、該移動平均から前記移動速度を推定することを特徴とする請求項6記載の速度推定装置。
- 前記速度推定手段は、前記送信電力制御コマンドの累積値が基準値と交差する回数を一定時間カウントし、カウント値に基づいて前記移動速度を推定することを特徴とする請求項1記載の速度推定装置。
- 前記速度推定手段は、前記カウント値を移動平均法により求めることを特徴とする請求項8記載の速度推定装置。
- 送信電力制御を行う移動通信における速度推定装置であって、
相手局から送られる送信電力制御コマンドを用いて、該相手局の移動速度を推定し、推定された移動速度に対応する第1の制御信号を出力する第1の速度推定手段と、
受信信号から希望波の信号を抽出する受信手段と、
前記希望波の信号から希望波電力を生成する電力合成手段と、
前記希望波電力を用いて前記相手局の移動速度を推定し、推定された移動速度に対応する第2の制御信号を出力する第2の速度推定手段と
を備えることを特徴とする速度推定装置。 - 移動通信における受信局から送信局に送られる送信電力制御コマンドを入力する入力手段と、
前記送信電力制御コマンドを用いて前記受信局の移動速度を推定し、推定された移動速度に対応する制御信号を出力する速度推定手段と
を備えることを特徴とする送信機。 - 送信局と受信局の間で移動通信を行い、
前記受信局から前記送信局に送られる送信電力制御コマンドを用いて、該受信局の移動速度を推定する
ことを特徴とする速度推定方法。
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