JP3879473B2 - ヒトbcl10に対するモノクローナル抗体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒトbcl10を特異的に認識するモノクローナル抗体、該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ及び該モノクローナル抗体を用いて検体中のヒトbcl10を検出する臨床検査及び診断法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヒトbcl10は、Yanらによって見出された細胞質蛋白質である(J. Biol. Chem., Vol. 274, No. 15, 10287-10292, 1999)。ヒトbcl10は、equine herpesvirus-2E10遺伝子とホモロジーの高い細胞性遺伝子 mammalian E-10(mE10)によって作られる分子量約26.2kDaの蛋白質であり、233個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有し、そのN末端にセリン-スレオニン残基に富んだcaspase recruitment domain(CARD)を持ち、2量体を形成して転写因子NK-κBを活性化することが知られている(J. Biol.Chem., Apr. 9;274(15):9962-8,1999)。またmE10の過剰発現はヒト乳癌腫瘍細胞株MCF-7にアポトーシスを誘導することがわかっており、基礎的研究が進んできている(Nat Genet May;22(1):63-8,1999)。臨床的にはヒトbcl10はリンパ腫瘍、特にMALT(mucosa-associated lymphoid tissue)lymphomaに代表的に発現が認められるが、その発症の原因に染色体転座t(1;14)(p22:q32)があるものと考えられている(Cell, Vol.96, 35-45, 1999)。転座遺伝子中にはIg遺伝子のエンハンサーがコードされているため、この染色体転座の上流に存在するbcl10のプロモーターによってヒトbcl10の過剰な発現が起こることが原因のひとつと考えられている。ここでbcl10に存在するCARDがアポトーシスの情報伝達系に関与している可能性がでてくる。また他にも様々なヒト腫瘍からbcl10の発現がmRNAレベルで報告されている。腫瘍の発症原因とbcl10の関連性については今のところ遺伝子変異が報告されているが(Cell, Vol. 97, 683-688,1999)、不明な点も多く、正常細胞との差異が明確ではない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
bcl10機能と腫瘍の発症原因との関係における不明点を解明するために、これまでRT-PCR法、In situ hybridization法、SSCP法等の方法が採用されている。しかしながら、RT-PCR法は、組織内のbcl10に対応するmRNAをPCR法で検出する方法であり、手間がかかり、腫瘍内のbcl10に対応するmRNAか正常細胞由来のbcl10に対応するmRNAかが判別できず、また蛋白質そのものを測定していないため組織のどこに存在するbcl10に対応するmRNAであるかどうかの判別が困難であるという欠点がある。In situ hybridization法は、組織切片を加熱することにより固定化してmRNAを測定する方法であるため、特殊な技術を必要とし手法が煩雑であり再現性に乏しいという欠点がある。SSCP法は、組織からmRNAを取り出して電気泳動にかけ、cDNAを用いて測定する方法であり、手間がかかり、上記の方法と同様の欠点を有する。
これらの方法に代わってヒトbcl10蛋白質分子自体に対するモノクローナル抗体を用いる方法が考えられる。しかしながら、nativeなbcl10を免疫原としてモノクローナル抗体を製造するには、免疫原として使用するbcl10蛋白質の量を確保するのが難しく、bcl10のモノクローナル抗体は未だ知られていないのが現状である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
従って、本発明は、ヒトbcl10を特異的に認識するモノクローナル抗体、特にヒトbcl10のCARD領域を認識せず、ヒトbcl10のC末端領域を特異的に認識するモノクローナル抗体に関する。
更に本発明は、上記のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関する。
また、更に本発明は、上記のモノクローナル抗体を用いて検体中のヒトbcl10を検出する臨床検査及び診断法に関する。
本発明の好ましいモノクローナル抗体は、ヒトbcl10のCARD領域から離れたC末端を認識するという特徴を有する。CARD領域は、bcl10の主作用部位であって、転写因子NK-κBの活性化やアポトーシス誘導に関与する部位であり、各種組織との結合部位でもある。従って、本発明の好ましいモノクローナル抗体は、生体組織中のbcl10の発現量や分布を正確に測定するのに有効であり、虚血が関与するアポトーシスの臨床診断等に有用である。
【0005】
【発明を実施するための態様】
本発明のモノクローナル抗体は、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチド(以下bcl10CTERMと記載することもある)を免疫原として使用することにより得ることができる。配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列は、ヒトbcl10のアミノ酸配列中の181〜233番目の領域に相当し、この領域はヒトbcl10のC末端領域であって、N末端側の1〜180番目の領域内にあるCARD領域を含まないものである。
また、免疫原として用いるペプチドは、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列において1個または数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチドと同様の免疫原性を有するものでもよい。また、配列表1の配列番号1に示すアミノ酸配列中の連続した好ましくは3個以上のアミノ酸残基部分からなり、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチドと同様の免疫原性を有するものでもよく、あるいは配列表の配列番号1に示すペプチドを含むペプチドであって、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチドと同様の免疫原性を有するものでもよい。
【0006】
免疫原として用いる上記したペプチドは、化学合成法又は遺伝子組換え法によって製造することができる。化学合成法はそれ自体周知である。遺伝子組換え法は、既に公知となっているヒトbcl10遺伝子の塩基配列(Cell, Vol.96, 35-45, 1999)に基づき、ヒトbcl10遺伝子中の上記した免疫原ペプチドをコードする部分に相当する塩基配列をPCR法によって増幅し、得られる遺伝子を適当な発現ベクターに導入し、発現ベクターで適当な宿主細胞を形質転換し、得られる形質転換体を培養することにより、免疫原として用いるペプチドが得られる。また、免疫原として用いるペプチドは融合蛋白質として用いてもよい。このような融合蛋白質を得るためには、例えば、GST融合蛋白質発現ベクターであるpGEXベクターへ免疫原ペプチドをコードする遺伝子を導入することにより融合蛋白質発現ベクターを構築し(Science tools, 2.1, 12, 1997)、大腸菌へ形質転換し、IPTGによる誘導によって免疫原として用いる融合蛋白質を産生させることができる。融合蛋白質としては、特にGSTとの融合蛋白質である必要はなく、TRX、proteinA等との融合蛋白質でもよい。
【0007】
本発明のモノクローナル抗体は、上記したペプチドを免疫原として哺乳動物を免疫して哺乳動物から抗体産生細胞を得、この抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞とを融合させることにより得られるハイブリドーマによって産生される。
より具体的には、上記のようにして得た免疫原であるペプチドを、フロイントの完全もしくは不完全アジュバント、またはPBSなどの緩衝液とともに数回に分けてマウス等の哺乳動物に2〜3週間おきに腹腔内または尾静脈投与することによって免疫する。次いで脾臓等に由来する抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞(ミエローマ細胞)とを融合して、試験管内で増殖能力を有する融合細胞を得る。
【0008】
上記融合法としては、ケーラーとミルスタインの定法(Nature, 256, 495, 1975)によってポリエチレングリコール(PEG)を用いることにより融合できる。またセンダイウィルスによっても融合を行うことができる。
融合した細胞からヒトbcl10を認識する抗体を産生するハイブリドーマの選択は以下のようにして行うことができる。即ち、限界希釈法によってHAT培地及びHT培地で生存している融合細胞により作られるコロニーからハイブリドーマを選択する。このコロニー培養上清中にヒトbcl10に対する抗体が含まれている場合には、例えばGST-bcl10CTERMをプレート上に固定化したアッセイプレート上に上清をのせ、反応後に抗マウスイムノグロブリン-HRP標識抗体等、2次標識抗体を反応させるEIA法により、GST-bcl10CTERMに対するモノクローナル抗体産生クローンを選択できる。またコントロールとして融合部位を持たない空のGSTを結合したアッセイプレートによるEIAを同時に行うことでGST-bcl10CTERM特異的抗体のスクリーニングができる。つまりGST-bcl10CTERMプレートで陽性であり、空のGSTプレートによるEIAで陰性のクローンを選択することにより、本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0009】
本発明のハイブリドーマとしては、上記した選択法により得られるGST-bcl10CTERMを特異的に認識するモノクローナル抗体、即ちヒトbcl10のアミノ酸配列中のアミノ酸残基181〜233番目からなるペプチドを特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するものが好ましく挙げられる。このようなハイブリドーマとしては、例えば本発明者が樹立したNTBcl10-1、NTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5が挙げられる。
上記ハイブリドーマNTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5は、工業技術院生命工学工業技術研究所にそれぞれ、受託番号FERM P-18043、FERM P-18044及びFERM P-18045として平成12年9月21日付けで寄託されている。ハイブリドーマNTBcl10-1は、工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P-18538として平成13年9月19日付けで寄託されている。
【0010】
上記ハイブリドーマは、通常細胞培養に用いられる培地において培養し、その培養上清よりモノクローナル抗体を回収することができる。またハイブリドーマが由来する動物をあらかじめプリスタン処理しておき、その動物にハイブリドーマを腹腔内注射することによって腹水を貯留させ、その腹水からモノクローナル抗体を回収することもできる。上記の上清、腹水よりモノクローナル抗体を回収する方法としては、通常の方法を用いることができる。たとえばクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAなどによるアフィニティクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0011】
上記回収法等により精製された本発明による好ましいモノクローナル抗体は、ヒトbcl10のアミノ酸配列中の181〜233番目の領域、特にヒトbcl10のC末端領域を特異的に認識し、ヒトbcl10のアミノ酸配列中の13〜103番目のCARD領域を認識しないものである。通常、ヒトbcl10はCARD領域を介して各種組織に結合することが知られている。従って、CARD領域から離れたC末端領域を特異的に認識する本発明のモノクローナル抗体は、たとえbcl10が組織中の細胞の核内において遺伝子と結合していたとしてもそれと結合することができ、それ故、生体組織等の検体中のヒトbcl10を正確に検出することができる。本発明のモノクローナル抗体を利用したウエスタン・ブロッティング法又は組織免疫染色法によって検体中のbcl10を検出することができる。従って、本発明のモノクローナル抗体は、生体中のヒトbcl10の発現及び分布を調べるのに有効であり、虚血が関与するアポトーシスの臨床診断、特に虚血が関与するアポトーシスによる細胞障害に対する臨床診断に有用である。即ち、虚血が関与するアポトーシスを伴う臓器障害、例えば脳梗塞や心筋梗塞、腹部静脈瘤などによる肝・腎障害、糖尿病などによる壊疽などの臨床診断に有用である。また、bcl10と腫瘍の発症原因との関係の究明、リンパ腫瘍などの腫瘍の臨床診断等にも有用である。
【0012】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0013】
【実施例】
1. ヒト bcl10 遺伝子融合蛋白発現ベクターの構築と融合蛋白質の発現
既に発表されているbcl10遺伝子の遺伝情報(Cell, Vol.96, 35-45, 1999)を基にして、bcl10のアミノ酸配列中181〜233番目に相当する領域の遺伝子を選び、化学的にプライマーを合成した後、RT-PCR法によってヒトbcl10CTERMフラグメントをコードする遺伝子を増幅し、融合蛋白発現ベクターへ組み込んで発現させた。具体的には以下に述べる。
サンプルにはヒトB細胞リンパ腫瘍株であるRaji細胞(ATCC CCL 86)を用いた。細胞からRNAを抽出し、Superscript(Gibco BRL)にて作製したcDNAを鋳型としてPCRを行った。PCR増幅用5'プライマー及び3'プライマーとして、それぞれ、配列表の配列番号2に示すsence 5'-AAA GGA TTC AGA ACT GAA AAT ACC ATC-3' (Nucleotide 541〜558)、配列番号3に示すAntisence 5'-TTT CTC CAG TCA TTG TCG TGA AAC ATG-3'(Nucleotide 685〜702)を用いた。これらのプライマーを用いて、94℃ 1分、60℃ 30秒、72℃ 1分の条件で30サイクル反応させた。この結果増幅されたbcl10フラグメントをコードする遺伝子をエタノール沈殿させた後、乾燥させ、滅菌蒸留水に再溶解して制限酵素BamHI、XhoI、37℃ にて処理を行った。融合蛋白発現ベクターとしてpGEXを用い、同様にBamHI、XhoIにて処理を行った。処理されたbcl10CTERMフラグメントをコードする遺伝子及びpGEXをエタノール沈殿させた後、乾燥させ、滅菌蒸留水に再溶解した後、ライゲーション反応させてpGEX-bcl10CTERMを構築した。構築したpGEX-bcl10CTERMはXL-1blueにて形質転換し、アンピシリン選択LBプレートにまいて37℃で1晩恒温器にてインキュベートされた。得られたコロニーをアンピシリンを含むLB培地にて増殖させ、1mM IPTG条件下で、3時間培養して目的産物であるGST-bcl10CTERMのinductionを行った。
【0014】
2. 抗原精製と免疫
上記の培養大腸菌を遠心分離し、BugBaster GST bind Purification Kit(Novagen社)を用いてGST-bcl10CTERMを精製した。この精製GST-bcl10CTERMをフロイント完全アジュバントで乳化させて感作抗原とし、マウスBalb/c 6週齢 雌性に10μgを腹腔内投与した。2回目以降はフロイント不完全アジュバントを用い、2週間おきに3回免疫を行い、最終回はPBS溶液にて尾静脈投与した。
【0015】
3. 細胞融合とスクリーニング
最終ブーストの3日後に外科的に脾臓を摘出し、細胞融合に用いた。融合はケーラーとミルスタインの方法(Nature, 256, 495, 1975)に従い、ポリエチレングリコール(シグマ社)を用いて脾細胞とミエローマ細胞P3-X63-Ag8-U1(P3U1)を融合した。融合細胞はHAT培地に分散し96穴マイクロタイターカルチャープレート(ファルコン社)に分注して、37℃、5%CO2条件にて培養した。約2週間後にコロニーの生育を確認してスクリーニングを実施した。スクリーニングの実施法を以下に述べる。
スクリーニング用プレートを作製するために上記1.にて作製した融合ペプチド、GST-bcl10CTERMをPBS中に溶解し、0.5μg/100μl/wellとなるように96穴ウエルに分注した。同時にコントロールとしてGSTのみを同様に感作したプレートを作製した。プレートを4℃で2晩静置した後に、0.005%Tween20を含むPBSで3回洗浄し、非特異的反応を抑えるために、1.5%BSA溶液を200μl分注して、更に4℃で1晩静した。完成したプレートを0.05%Tween20を含むPBSで3回洗浄した後に培養上清100μlを2種類(GST-bcl10CTERM、GSTプレート)にそれぞれ反応させ、更に洗浄を行った後に2次抗体であるHRP標識抗マウスイムノグロブリン抗体(Zymed社)を加えて反応させた。洗浄後にHRPの発色基質であるOPDを加え、一定時間後に1N硫酸で反応を停止させ492nmにて吸光度を測定した上記の操作によりGST-bcl10CTERMプレートで陽性になり、GSTプレートで陰性になったクローンは限界希釈法によって再クローニングされ、上清を再度チエックした。かくして、目的とするハイブリドーマNTBcl10-1、NTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5を得た。
【0016】
4. ELISA による反応性確認
確立されたハイブリドーマの反応性を確認するため、NTBcl10-1、NTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5の培養上清をサンプルとしてELISAを行った。上清コントロールとして、細胞培養を行っていないα-MEMを用いた。プレートへ結合させる蛋白質はそれぞれマウス感作抗原であるGST-bcl10CTERM、ネガティブコントロールのGST、BSA、GST-bcl10CARDである。ここでGST-bcl10CARDとはbcl10アミノ酸配列中の、N末端の1番から180番までのアミノ酸残基180個をGSTベクターで融合蛋白として発現させたものであり、CARD領域を含むものである。設計的にはGST-bcl10CTERMが配列番号181〜233番目までを含むので、bcl10CARDとbcl10CTERMとは、bcl10をN末端の1〜180番目と、188番目よりC末端の233番目までのふたつに分けた形になっており、アミノ酸配列に重複はない。GST-bcl10CARDは別に融合蛋白質発現ベクターを構築し、GST-bcl10CTERMと同じ条件で融合蛋白質として発現させた。この上記4種の蛋白質はそれぞれ0.5μg/100μlPBS/wellで96穴マイクロタイタープレートに分注され、上記3.と同様にプレートを作成後、反応性実験を行った。吸光度の測定結果を表1に示す。
表1の結果から判るように、ハイブリドーマNTBcl10-1、NTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5の上清は、GST-bcl10CTERMとのみ強い反応性を示し、GST、BSA、GST-bcl10CARDとは反応しなかった。これはハイブリドーマNTBcl10-1、NTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5が産生するモノクローナル抗体がbcl10のC末端181番から233番目の53個のアミノ酸残基のみを抗原として認識し、CARD領域とは反応しないことを表している。
【0017】
【0018】
5.モノクローナル抗体のクラス確認
得られたモノクローナル抗体のうちNTBcl10-1について、モノクローナル抗体タイピングキット(アマシャムファルマシア社)にて検定した結果、クラスはIgMに属し、軽鎖はκであった。
【0019】
6. ウエスタン ・ ブロティング
樹立されたハイブリドーマNTBcl10-1、NTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5が産生するモノクローナル抗体NTBcl10-1、NTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5の反応性を調べるためウエスタン・ブロティングを行った。詳細を以下に記す。
In vitroにて培養したヒトリンパ腫瘍細胞株Raji(ATCC CCL86) を遠心分離操作にて回収し、1×107cells/mlになるようにTNEBuffer(Tris 100 mM,NP-40 0.1% ,EDTA 1mM)を加えた。4℃で1時間放置した後、4℃、14,000rpm、20分間、遠心操作を行い、可溶化した上清をサンプルとした。蛋白質濃度を10μg/laneにあわせて15%SDS-PAGEにて電気泳動を行った後、20mA、室温にてPVDF膜へ蛋白質を転写し、終了後、5%BSA0.05%Tween20にて室温、1時間ブロッキングを行った。モノクローナル抗体NTBcl10-1、NTBcl10-2、NTBcl10-3及びNTBcl10-5の培養上清それぞれを1%BSA0.05%Tween20にて1/100に希釈しPVDF膜と4℃、1晩反応させた。室温にて0.05%Tween20を含むPBSでPVDF膜を15分、3回振とう洗浄し、1/5000希釈HRP標識抗マウスイムノグロブリン2次抗体を室温、1時間反応させた。再び、室温にて0.005%Tween20を含むPBSでPVDF膜を15分、3回振とう洗浄し、洗浄後、ECL-PLUS(アマシャム社)を室温にて5分反応させ、X線フィルムに感光させて現像した。代表例としてNTBcl10-2の現像結果を図1に示す。図1から判るように、理論値、及びそのやや上下の値に反応バンドを認めた。この上下の値は、糖鎖の結合による分子量の違いと考えられる。なお、NTBcl10-1、NTBcl10-3及びNTBcl10-5でも、ほぼ同じような反応バンドを認めた。
【0020】
7.モノクローナル抗体の腹水による製造と精製
確立されたモノクローナル抗体の中から特にクラスがIgMと確認されたNTBcl10-1について、モノクローナル抗体を大量に得るために腹水による製造を試みた。以下にその方法を示す。
限界希釈法によって数回リクローニングしたハイブリドーマNTBcl10-1を10%FCS(ライフテックオリエンタル社)を含むα-MEM(大日本製薬)培地を用いて増殖させ、1×107 cells/0.5mlPBS/1匹にて予めプリスタン処理したマウス(日本クレアー社)腹腔内に注射した。約10日後に麻酔下で腹腔内より腹水を採取し、40%硫安(ナカライ)分画により沈殿させ、得られる蛋白質を5%SDS-PAGEとウエスタンブロッティングにより確認したところ、抗体は分子量約96万のIgMであることが確認できた。
そこで沈殿物をPBSで溶解し、PBSにて透析して硫安を除き、S-300によるゲルろ過、次いでアフィニティカラム等の精製を行なってモノクローナル抗体NTBcl10-1の純化を行なった。精製抗体はELISA法による確認実験でGST-bcl10とのみ強い反応性を示し、GST、BSA、GST-bcl10 CARDとは反応しなかった。得られた精製抗体は14.7mg/1匹であり、従って、腹水により工業的にも十分量のモノクローナル抗体NTBcl10-1を製造できることが確認できた。
【0021】
8.モノクローナル NTBcl10-1 を用いた組織免疫染色法による検体中の bcl10 の検出
現在ヒトBcl10はアポトーシス、腫瘍サプレッサー関連分子として考えられているが、ヒト器官、組織中における発現はよくわかっていない。そこで上記の腹水実験にて精製したモノクローナル抗体NTBcl10-1を用いてヒト組織の免疫染色により局在を調べる実験を試みた。インフォームド・コンセントを行なったヒトの病理解剖検体より得られた小脳、平滑筋、心筋、胃、膵臓、肝臓、大腸、甲状腺、前立腺について実験を行った。なお、心筋については心筋梗塞患者由来のものも用いた。以下にその方法を述べる。
ヒト組織は定法によりホルマリン固定をした後、パラフィンに抱埋をしてミクロトームにて薄切し、組織検体として使用した。組織切片はキシレン各5分ずつ3回の処理で完全にパラフィンを除き、100%エチルアルコールから10%ずつ濃度を下げた50%までの6段階下降系列のアルコール溶液をくぐらせた後、50%ブロックエース(大日本製薬)PBS溶液にて10分間ブロッキングした。準備されたブロッキング終了後の組織に、0.5%BSAを含むPBS溶液で希釈した1次抗体溶液(NTBcl10-1)を、室温にて60分反応させた。次いで、その組織をPBSにて5分間、5回洗浄した後、0.5%BSA溶液にて希釈した2次HRP標識抗マウスイムノグロブリン抗体(DAKO社)を室温30分間反応させた。反応終了後PBSにて5分間、5回洗浄して更に発色試薬を反応させた。適度な発色が得られた後に組織を水洗した。また、対比染色としてヘマトキシリンン核染色を行った。次いでこれらの組織を水洗し、50%エチルアルコール溶液から10%ずつ濃度を上げた100%までの6段階上昇系列のアルコール溶液をくぐらせ、続いてキシレン槽を3回くぐらせた後に染色後の組織に封入剤を滴下し、カバーグラスをかぶせて顕微鏡にて観察した。結果を図2から7に示す。
【0022】
組織免疫染色化学法による結果からヒト諸臓器での発現は、膵・肝・胃・心筋・平滑筋・小脳(グリア細胞)に陽性所見を認めた。本実験では他の組織では陰性であった。特筆すべき点は、虚血に伴って起こる障害のみられる心筋、例えば図2に示す心筋梗塞患者由来の心筋及び図3の小脳のグリア細胞に強い発現が見られることである。図2および3において、茶色と指摘されている部分が陽性を示した部分である。以下に記載する図4から7において茶色と指摘した部分も同様である。染色に用いた材料はヒト病理解剖材料のため、死後一定期間の組織であり、即ち、一定時間の血流停止を受けた組織である。bcl10はアポトーシス誘導分子として知られ、in vitroでのこの分子の遺伝子導入により、細胞のアポトーシスが誘導されることが知られている。本実験で特に陽性反応を示した心筋やグリア細胞では、虚血後数時間で細胞死が起こることが知られており、この細胞死にbcl10分子が何らかの役割を担っている可能性が予想される。更に、心筋梗塞患者の心筋(図2)では、正常心筋に比べて強い陽性を示しており、強い虚血状態がbcl10の発現量に影響することを示唆している。また、図4の肝臓においても、心筋やグリア細胞と同様に腹部動脈瘤や移植肝などでの低血流や虚血などで、アポトーシスなどの細胞障害が起こることが知られている。本実験で染色に用いた材料でも虚血状態にある可能性が非常に高く、いくらかの細胞障害を受けていると強く示唆され、bcl10の発現もそのプロセスの一部と考えられる。また図5の胃での染色性に関しては、基底膜から粘膜層にかけて反応性が見られる。さらに、染色性は基底膜付近では細胞質に、管空側の粘膜層付近では核に分布が見られる。胃細胞の基底膜から粘膜側へと移る分化過程と細胞死との関連性も考慮すべき点で、細胞の分化とbcl10との関連性について報告した例はない。この他に図6の膵臓のランゲルハンス島、図7の平滑筋でも陽性を示している。
【0023】
本実験により、虚血を伴う臓器障害のうちアポトーシスを伴う臓器にbcl10の発現が認められた。例えば、本実験で心筋梗塞患者の心筋では、正常組織に比べてbcl10の発現が強く、虚血に関与するアポトーシスでの発現が示されている。従って、虚血に伴う臓器障害のうち、アポトーシスを伴う臓器、器官、例えば脳梗塞や心筋梗塞のほか腹部静脈瘤などによる肝・腎障害、糖尿病などによる壊疽などに対してbcl10が新規臨床検査マーカーとして利用できる可能性が示されている。
また、アポトーシスの関与が小さいと思われる組織においては、本実験による検討結果では、bcl10の発現が認められず、従来の報告と一致していた。
更には、本実験により、本発明のモノクローナル抗体NTBcl10-1を用いた組織免疫染色法においてはヒトの各組織の細胞質及び核におけるbcl10の染色性が両方とも良好であることが示された。このことは、本発明のモノクローナル抗体はヒトbcl10のCARD領域から離れたC末端領域を特異的に認識するものであり、従ってたとえbcl10が細胞の核内でCARD領域を介して遺伝子と結合していたとしても そのbcl10を検出できることを示している。
【0024】
【発明の効果】
本発明によるモノクローナル抗体は、ヒトbcl10のアミノ酸配列中の181〜233番目の領域、特にヒトbcl10のCARD領域から離れたC末端領域を特異的に認識する。ヒトbcl10はCARD領域を介して各種組織に結合することが知られている。従って、CARD領域から離れたC末端領域を特異的に認識する本発明のモノクローナル抗体は、生体組織等の検体中のヒトbcl10を正確に検出することができ、生体中のヒトbcl10の発現及び分布を調べるのに有効であり、虚血が関与するアポトーシスの臨床診断、bcl10と腫瘍の発症原因との関係の究明、リンパ腫瘍などの腫瘍の臨床診断等に有用である。
【0025】
【配列表】
【0026】
【配列表フリーテキスト】
配列表の配列番号1のアミノ酸配列は、ヒトbcl10アミノ酸配列中の181番目から233番目までのアミノ酸残基を示す。
配列表の配列番号2のDNA配列は、ヒトbcl10のアミノ酸配列の181番目から233番目までのアミノ酸残基をコードする遺伝子をPCRで増幅するために用いた5’プライマーのDNA配列を示す。
配列表の配列番号3のDNA配列は、ヒトbcl10のアミノ酸配列の181番から233番目までのアミノ酸残基をコードする遺伝子をPCRで増幅するために用いた3’プライマーのDNA配列を示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、電気泳動の結果を示す写真であって、本発明のモノクローナル抗体NTBcl10-2を用いたヒトリンパ腫瘍細胞株Raji中のヒトbcl10のウエスタン・ブロッティング分析結果を示す。
【図2】図2は、本発明のモノクローナル抗体NTBcl10-1を用いた組織免疫染色法による心筋梗塞患者由来のヒト心筋組織におけるヒトbcl10の検出結果を示す写真である。
【図3】図3は、本発明のモノクローナル抗体NTBcl10-1を用いた組織免疫染色法によるヒト小脳組織におけるヒトbcl10の検出結果を示す写真である。
【図4】図4は、本発明のモノクローナル抗体NTBcl10-1を用いた組織免疫染色法によるヒト肝臓組織におけるヒトbcl10の検出結果を示す写真である。
【図5】図5は、本発明のモノクローナル抗体NTBcl10-1を用いた組織免疫染色法によるヒト胃組織におけるヒトbcl10の検出結果を示す写真である。
【図6】図6は、本発明のモノクローナル抗体NTBcl10-1を用いた組織免疫染色法によるヒト膵臓組織におけるヒトbcl10の検出結果を示す写真である。
【図7】図7は、本発明のモノクローナル抗体NTBcl10-1を用いた組織免疫染色法によるヒト平滑筋組織におけるヒトbcl10の検出結果を示す写真である。
Claims (4)
- ヒトbcl10を特異的に認識するモノクローナル抗体であって、ヒトbcl10のCARD領域を認識せず、ヒトbcl10のC末端領域を特異的に認識するモノクローナル抗体であり、ヒトbcl10のアミノ酸配列中の181〜233番目のアミノ酸残基からなるペプチドを免疫原として得られるモノクローナル抗体であって、工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P−18538、またはFERM P−18045として寄託されているハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体。
- 工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P−18538、またはFERM P−18045として寄託されているハイブリドーマ。
- 請求項1に記載のモノクローナル抗体を用いて検体中のヒトbcl10を検出する臨床検査法。
- 検体中のbcl10の発現および/または分布をウエスタンブロッティングまたは組織免疫染色法により検出する請求項3の臨床検査法。
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