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JP3878069B2 - 高温強度に優れたアルミニウム合金およびその製造方法 - Google Patents

高温強度に優れたアルミニウム合金およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン,ガソリンエンジン等の内燃機関に使用されるピストン等として好適な高温強度に優れたアルミニウム合金及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Siを約10質量%以上含有する共晶及び過共晶Al−Si合金は、熱膨張係数が小さく、耐摩耗性に優れている。このため、高温強度や耐摩耗性が要求される内燃機関のピストン等の各種機械部品としてAl−Si系アルミニウム合金が使用されている。
しかし、最近の内燃機関では、エネルギー資源の有効利用から燃焼効率を上昇させる傾向にある。燃焼効率を向上させようとすると燃焼温度が上昇し、これに伴って内燃機関に組み込まれている各種部品、特にピストンの材質として200℃以上の温度域で高い高温強度が要求されるようになってきた。
【0003】
そこで、本出願人は特開平8−134577号公報,特開平8−134578号公報において、ベースとなるAl−Si―Cu−Mg系アルミニウム合金に高融点成分であるNi、Mn、Feを添加し、さらに晶出物の平均長径及び鋳造時の冷却速度を規制することにより、高温強度と耐磨耗性に優れたアルミニウム合金を提案した。
また、特開2000−204428号公報において、Al−Si―Cu−Mg系アルミニウム合金中の吸蔵ガス量を少なくするとともに、初晶SiとAl−Ni系及びAl−Ni−Cu系晶出物の大きさを調整することにより高温疲労強度を高めたダイカスト製ピストンを提案した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年、より高性能の内燃機関が求められ、燃焼温度の高温化や軽量化が要求されるようになってきた。それにともないピストンについてもより高温強度に優れた、例えば250℃での引張り強度が200MPa以上のものが要求されるようになってきた。
そのため、上記各技術のように、Niを添加し、Niを含んで比較的高温に強い晶出物を均一微細に分散させて高温強度を高めた合金を得ようとしている。しかしながら、Fe,Mn,Niを含有するAl−Si系のアルミニウム合金では鋳造時に晶出するAl3(Ni,Mn,Fe)系の晶出物が粗大化しやすく、そのために十分な高温強度が発現できていない。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Niを含有させ、しかも晶出物を均一微細に分散させて高温強度を高めたアルミニウム合金を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の高温強度に優れたアルミニウム合金は、その目的を達成するため、Si:11.0〜13.0質量%,Ni:4.5〜6.0質量%,Cu:3.5〜4.5質量%,Mg:0.8〜1.2質量%,Fe:0.2〜0.65質量%,Mn:0.10〜0.40質量%、P:0.003〜0.015質量%及びCa:0.002質量%以下を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、含有FeとNiの間でFe≦−0.25Ni+1.75の関係を満たすとともに、晶出物の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする。
含有FeとMnの間でMn≦0.6Feの関係を満たすように調整することが好ましい。
更に、Ti:0.01〜0.3質量%,B:0.0001〜0.03質量%,Cr:0.01〜0.3質量%,Zr:0.01〜0.3質量%の少なくとも1種以上を含んだものでもよい。
上記組成を有するアルミニウム合金溶湯を30℃/sec以上の冷却速度で冷却すれば、確実に晶出物の平均粒径を5μm以下にすることができる。
上記組成を有するアルミニウム合金溶湯を30℃/sec以上の冷却速度で鋳造すれば、晶出物の平均粒径が5μm以下になった高温強度の優れたピストンが得られる。
【0006】
【作用】
本発明合金のようなAl−Si−Ni−Cu系のアルミニウム合金では、金属組織は主にα相と晶出物からなっている。α相は晶出物と比較して、高温強度が低い。このため、高温になった際にα相が軟化し、機械的強度が低下することになる。この高温時での強度低下を抑えるには、α相の軟化の影響を少なくすることが必要で、比較的高温に強い晶出物を均一微細に分散させ、晶出物によりα相を細かく分断させることが有効である。
【0007】
本発明者等は、本発明合金組成において、粗大な晶出物を晶出させずに晶出物を均一微細に分散させる方法について、鋭意検討を重ねた結果、「FeとNi」及び「FeとMn」の量的関係を調整すると、晶出物が粗大化せず、均一微細に分散されることを見出した。
すなわち、含有Ni量に対してFe,Mn量が多すぎるとAl3Ni中のNiがFeやMnで置換されたAl3(Ni,Mn,Fe)が晶出することになる。この晶出物が粗大化しやすいのであるが、含有Ni,Fe,Mn量を所定の関係になるように調整すると、粗大化しやすいAl3(Ni,Mn,Fe)の晶出が抑えられる。この関係が、Fe≦−0.25Ni+1.75、さらにはMn≦0.6Feであることを確認したものである。
さらに、上記関係式の範囲では、液相線温度が600℃以下になり、Al−Fe系或いはAl−Fe−Si系晶出物の晶出開始温度も低くなる。そのため、キャビティ充填前に晶出し、粗大化する晶出物量を少なくすることもできる。
【0008】
【実施の態様】
まず、本発明合金の成分組成について説明する。
Si:11.0〜13.0質量%
Siは、耐熱性及び耐摩耗性を向上させ,熱膨張係数を小さくする作用を有している。さらに、湯流れを良好にする作用や防振性を向上させる作用も呈する。また、共存しているMgと反応し、時効硬化に有効なMg2Siも生成する。Si含有量が11.0質量%に達しないと、耐摩耗性や高温強度が目標値よりも低くなり、熱膨張係数が大きくなる。逆に、13.0質量%を超えるSi含有量では、初晶Siのサイズが大きくなり、かつ分布量も多くなる。その結果、応力集中による高温強度の低下を招く。また伸びの低下も招く。
【0009】
Ni:4.5〜6.0質量%
Niは高融点のAlNi系の晶出物を形成し、200〜350℃付近における耐熱性,高温強度を改善する。またNiは焼付きを抑え、鋳造性を向上させる作用もある。Ni添加の効果は、4.5質量%以上で顕著になる。しかし、6.0質量%を超える多量のNiを含ませると、Al−Ni−Fe−Mn系の粗大な金属間化合物が成長し、伸びが低下する。しかも、粗大金属間化合物の周囲では、高温強度向上に必要なα相の微細な分断も得られない。さらに、鋳造温度を高くする必要が生じる。
【0010】
Cu:3.5〜4.5質量%
CuはNiとの共存によりAl3(NiCu)2が析出して、200〜350℃の高温強度向上に寄与する。また時効処理でAl2Cuが析出し、200℃までの温度域での強度向上にも寄与する。Cu含有量が3.5質量%未満では、この効果は十分でない。しかし、4.5質量%を超えるとAl2Cuが粗大化しやすくなり、そのために伸びが低下しやすくなる。
【0011】
Mg:0.8〜1.2質量%
Siとの共存により、時効処理でMg2Siを析出させて強度を向上させる。Mg含有量が0.8質量%に満たないと、十分な時効作用が得られない。逆に1.2質量%を超えると、粗大なMg2Siが生成し、強度の低下を招く。また伸びが低下し、鋳造割れも起こしやすくなる。
【0012】
Fe:0.2〜0.65質量%
種々の金属間化合物を生成し高温強度の向上に有効な合金元素であり、0.2質量%以上のFe含有量で効果が顕著となる。しかも、ダイカスト時における金型への焼付きを防止する作用も有している。しかし、Ni:4.5質量%以上の高Ni合金で0.65質量%を超えるFeを含有すると、Mnとともに粗大なAl−Ni−Fe−Mn系の金属間化合物が生成するため、α相の細かい分断が失われ、却って高温強度を低下することになる。
【0013】
Mn:0.10〜0.40質量%
Al−Mn−Si,Al−Fe−Mn−Si系等の金属間化合物として晶出し、耐摩耗性及び防振性を向上させる。また、Mn添加によって粗大針状Al−Fe系晶出物の生成を抑制する。目標の高温強度を得るためには、0.10質量%以上のMnが必要である。しかし、4.5質量%以上の高Ni合金で0.40質量%以上のMnを含有させると、Feとともに粗大なAl−Ni−Fe−Mn系の金属間化合物を生成し、α相の細かい分断が失われ、高温強度を低下することになる。
【0014】
P:0.003〜0.015質量%
高温強度の向上、耐摩耗性の向上に有効な初晶Siの生成に寄与する。また、耐摩耗性に有効な平均長さ2〜5μmの共晶Siの生成に寄与する。これらの効果を発揮させるには、少なくとも0.003質量%必要である。しかし、0.015質量%を超えると、湯流れ性が悪くなり、湯まわり不良等の鋳造欠陥を発生しやすくなり、また鋳造組織が不均一になりやすい。
Ca:0.002質量%以下
Caは不可避的に混入される不純物であり、湯流れ性を悪化させる。また共晶Siを過度に微細化させて耐摩耗性を低下させる。したがって0.002質量%以下に規制する必要がある。
【0015】
Ti:0.01〜0.3質量%,B:0.0001〜0.03質量%,Cr:0.01〜0.3質量%,Zr:0.01〜0.3質量%の少なくとも1種以上
Ti,B,Zrは結晶粒を微細化する作用を有し、高温強度の向上に寄与する。また、Ti,Cr,Zrは包晶系添加元素であり、Al中の拡散係数が小さく、高温で安定な固溶体を形成させ、高温強度の向上に寄与する。更にCr添加により、硬質粒子が微細に分散し、耐摩耗性が向上する。
所望の特性に応じて、上記元素を所要量添加することもできる。
【0016】
Ni,Fe,Mn含有量の関係
いずれの元素も種々の金属間化合物を生成し、高温強度を向上させる作用を有している。
含有NiとMnが粗大金属間化合物生成に及ぼす影響をみるために、Si:12.0質量%,Cu:4.0質量%,Mg:1.0質量%,Mn=0.6Feで、Fe量およびNi量を各種変えたアルミニウム合金用途を温度720℃で鋳造した後、冷却速度30℃/secで冷却した試料について粗大晶出物の晶出数を数えた。図1は、視野1.5815mm2の範囲内の、長さ100μm以上の晶出物の個数を数え表記したもので、図中、●は粗大晶出物が全くなかったものを示す。また、図中、△,×の添字がその個数を表すものである。そして、図中に引いた線を近似計算すると、Fe=−0.25Ni+1.75となり、Fe含有量がこの線を上回ると、粗大なAl−Ni−Fe−Mn系金属間化合物が生成しやすくなることがわかる。
【0017】
含有MnとFeの比率が粗大金属間化合物生成に及ぼす影響をみるために、Si:12.0質量%,Ni:5.5質量%(ただし、Fe:0.5質量%の合金においては、4.5質量%),Cu:4.0質量%,Mg:1.0質量%で、Fe量とMn量の比率を各種各種変えたアルミニウム合金用途を温度720℃で鋳造した後、冷却速度30℃/secで冷却した試料について粗大晶出物の晶出状況を観察した。視野1.5815mm2の範囲内に、長さ100μm以上の晶出物があるか否かを観察し、晶出物があるものを×、ないものを●で図示した(図2参照)。
この結果から、Mn≦0.6Feを満たさないとわずかながら粗大なAl−Ni−Fe−Mn系金属間化合物が形成されるので、Mn≦0.6Feとすることが好ましい。
粗大な金属間化合物が形成されると、α相が十分に分断されず、高温強度が低下することになる。また、粗大な金属間化合物は、それ自身が破断の起点となるので伸びも低下することになる。
【0018】
冷却速度30℃/sec以上
晶出物の大きさは、合金組成の他に鋳造時の冷却速度にも影響される。本発明合金組成にあっても、冷却速度が遅いと晶出物は粗大化し易い。本発明の合金組成で具体的に5μm以下の微細な晶出物を得るためには、冷却速度30℃/sec以上にすることが好ましい。
【0019】
【実施例】
表1に示す組成のアルミニウム合金溶湯を、冷却速度30℃/sec以上と未満の2条件で平板状に鋳造し、得られた鋳物について250℃で引張り試験を行った。その結果を表2に示す。
なお、表1中、Pは0.007質量%,Caは0.002質量%未満であった。
【0020】
Figure 0003878069
【0021】
Figure 0003878069
【0022】
表2に示す結果から、本発明の実施例である合金番号1〜5では、250℃での引張り強度にすぐれていることがわかる。実施例のうち、合金番号3は、Mn>0.6Feであったため、強度の点でわずかに低くなっていることがわかる。
これに対して、合金番号6は、成分組成の点では十分であるが、冷却速度が遅かったために、晶出物の平均粒径が5μmよりも大きくなり、α相を十分に分断できず、高温強度が低下する結果となっている。合金番号7及び8は、Fe含有量がNi含有量に対して所定の関係式を満たしていないために、粗大晶出物が形成され、高温強度が低下していた。合金番号9は、Fe含有量及びMn含有量が少ないために所望の強度が得られていない。さらに、合金番号10は、Fe含有量がNi含有量に対して所定の関係式を満たしていないばかりでなく、冷却速度も遅かったため、粗大晶出物が形成され、しかも晶出物の平均粒径が5μmよりも大きくなっており、高温強度は低かった。
図3a,b及び図4a,bに、それぞれ合金番号4及び7のミクロ組織を示す。図3では、均一微細な組織になっているのに対して、Fe含有量が多い合金番号7の図4は粗大晶出物が晶出していることを表している。
【0023】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、Al−Si−Ni−Cu系アルミニウム合金において、含有Ni,Fe,Mn量を調整することにより、Al−Ni−Fe−Mn系の粗大な金属間化合物の晶出を抑制し、これらの金属間化合物を均一微細に晶出させることにより、α相を微細に分断することができ、結果的に高温強度を著しく向上させることができる。
このため、例えば250℃以上での高温高強度が必要となっているピストン等の素材として最適なアルミニウム合金を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 含有NiとMnの量が粗大金属間化合物生成に及ぼす影響をみたグラフ
【図2】 含有MnとFeの量率が粗大金属間化合物生成に及ぼす影響をみたグラフ
【図3】 合金番号4のアルミニウム合金のミクロ組織観察画面(a)及びその二値化像(b)
【図4】 合金番号7のアルミニウム合金のミクロ組織観察画面(a)及びその二値化像(b)

Claims (5)

  1. Si:11.0〜13.0質量%,Ni:4.5〜6.0質量%,Cu:3.5〜4.5質量%,Mg:0.8〜1.2質量%,Fe:0.2〜0.65質量%,Mn:0.10〜0.40質量%、P:0.003〜0.015質量%及びCa:0.002質量%以下を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、含有FeとNiの間でFe≦−0.25Ni+1.75の関係を満たすとともに、晶出物の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする高温強度に優れたアルミニウム合金。
  2. 含有FeとMnの間でMn≦0.6Feの関係を満たす請求項1に記載の高温強度に優れたアルミニウム合金。
  3. 更にTi:0.01〜0.3質量%,B:0.0001〜0.03質量%,Cr:0.01〜0.3質量%,Zr:0.01〜0.3質量%の少なくとも1種以上を含む請求項1または2に記載の高温強度に優れたアルミニウム合金。
  4. 請求項1〜3のいずれか1に記載された組成を有するアルミニウム合金溶湯を30℃/sec以上の冷却速度で冷却することを特徴とする高温強度に優れたアルミニウム合金の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれか1に記載されたアルミニウム合金からなる内燃機関用ピストン。
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