JP3873385B2 - 転がり軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鋼、圧延機用ロールネック軸受に代表されるような肉厚かつ大型で、製造工程で浸炭または浸炭窒化処理を施して製造される転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、材料の偏析に関し、偏析度が大きいと基地強度にむらが生じるので、転がり寿命が低下したり、熱処理による変形が大きいなどの問題が生じることがあった。しかし、近年では造塊法の改良や連続鋳造法が採用されるようになり、大きな偏析はなくなり、偏析に起因する寿命低下や変形はほとんど問題にされなくなってきている。
【0003】
このため、近年、実用上では偏析についての弊害はあまり報告されておらず、偏析と寿命との関係として、特開平7−127643号公報に軸受の転動体について炭素Cの中心偏析が寿命に影響を及ぼすとして述べられている例がある程度である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、浸炭あるいは浸炭窒化処理を行った軸受、特に大型軸受において、浸炭または浸炭窒化処理後の放冷時や焼入後に割れ(遅れ割れ)が発生する場合があった。
【0005】
前述した特開平7−127643号公報には、炭素Cのミクロ偏析と寿命の影響については報告されているが、ミクロ偏析と割れの関係については報告されていない。
【0006】
そこで、本発明は、割れを防止することによって製造不良率の低減や遅れ割れ発生への懸念を無くすことができる高品質な転がり軸受を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者等は上記割れが発生する場合を調査し研究した結果、従来では問題とされていなかった程度の成分偏析でも割れ(遅れ割れ)の発生原因のひとつとなっていたことを発見し、偏析度および成分を限定することによって適切な解決を図ることにした。
【0008】
本発明はかかる発見に基づいてなされたものであり、その請求項1に記載の転がり軸受は、合金鋼に浸炭あるいは浸炭窒化処理を施して製造される転がり軸受において、完成品である合金鋼はクロムの最高濃度Crと平均濃度Cr0との比である偏析率Cr/Cr0≦1.40を満たし、モリブデンの最高濃度をMo、平均濃度をMo0、ニッケルの最高濃度をNi、平均濃度をNi0としたとき、Cr/Cr0+Mo/Mo0≦2.40を満たし、Cr/Cr0+Ni/Ni0≦2.60を満たし、Cr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0≦3.50を満たし、かつクロムの含有量CrはCr≧0.3重量%であり、かつイオウの含有量SはS≦0.008重量%、炭素Cを0.15〜0.5重量%、シリコンSiを0.15〜1.0重量%、マンガンMnを0.35〜1.5重量%、モリブデンMoを1.5重量%以下、ニッケルNiを3.5重量%以下含有し、残部Fe及び不可避不純物からなり、遅れ割れ発生率を低くしたことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、クロムの偏析率Cr/Cr0およびモリブデンの偏析率Mo/Mo0の和がCr/Cr0+Mo/Mo0≦2.40を満たし、かつモリブデンの含有量MoはMo≧0.2重量%であるか、Mo<0.2重量%のときモリブデンの偏析率Mo/Mo0=1.2であるとする。
【0010】
ここで、モリブデンの含有量MoがMo<0.2重量%であることの理由について説明する。モリブデンはマトリックスに固溶し、焼入れ性を向上させる元素であり、添加量が多くなると、偏析部分はより焼入れ性が高くなる結果となり、偏析に沿ったバンド状マルテンサイト組織や残留オーステナイト組織が形成しやすくなる。割れに影響を及ぼす程度の偏析率の有効性はモリブデンの含有量Moが0.2重量%以上から認められ、これ以下では偏析率が高くても割れには影響を及ぼさないので、偏析率Mo/Mo0に代入する場合のモリブデンの含有量Moの下限値を0.2重量%とした。
【0011】
より好ましくは、クロムの偏析率Cr/Cr0およびニッケルの偏析率Ni/Ni0の和がCr/Cr0+Ni/Ni0≦2.60を満たし、かつニッケルの含有量NiはNi≧0.3重量%であるか、Ni<0.3重量%のときニッケルの偏析率Ni/Ni0=1.1であるとする。
【0012】
ここで、ニッケルの含有量NiがNi<0.3重量%であることの理由について説明する。ニッケルは基地に固溶し、焼入れ性を向上させる。また、オーステナイト形成元素でもあるので、偏析部にはバンド状マルテンサイト組織や残留オーステナイトがより形成しやすくなる。割れに影響を及ぼす程度の偏析率の有効性はニッケルの含有量Niが0.3重量%以上から認められ、これ以下では偏析率が高くても割れに影響を及ぼさないので、偏析率Ni/Ni0に代入する場合のニッケルの含有量Niの下限値を0.3重量%とした。
【0013】
さらに好ましくは、クロムの偏析率Cr/Cr0、モリブデンの偏析率Mo/Mo0およびニッケルの偏析率Ni/Ni0の和がCr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0≦3.50を満たし、かつクロムの含有量CrはCr≧0.3重量%であり、かつモリブデンの含有量MoはMo≧0.2重量%であるか、Mo<0.2重量%のときモリブデンの偏析率Mo/Mo0=1.1であるとし、かつニッケルの含有量NiはNi≧0.3重量%であるか、Ni<0.3重量%のときニッケルの偏析率Ni/Ni0=1.0とする。
【0014】
したがって、好ましい転がり軸受は、浸炭あるいは浸炭窒化処理を施して製造される転がり軸受において、完成品である合金鋼はクロムの最高濃度Crと平均濃度Cr0との比である偏析率Cr/Cr0≦1.40を満たし、このとき、クロムの含有量CrはCr≧0.3重量%であり、かつ、クロムの偏析率Cr/Cr0およびモリブデンの偏析率Mo/Mo0の和がCr/Cr0+Mo/Mo0≦2.40を満たし、このとき、モリブデンの含有量MoはMo≧0.2重量%であるか、Mo<0.2重量%のときモリブデンの偏析率Mo/Mo0=1.2であるとし、かつ、クロムの偏析率Cr/Cr0およびニッケルの偏析率Ni/Ni0の和がCr/Cr0+Ni/Ni0≦2.60を満たし、このとき、ニッケルの含有量NiはNi≧0.3重量%であるか、Ni<0.3重量%のときニッケルの偏析率Ni/Ni0=1.1であるとし、かつ、クロムの偏析率Cr/Cr0、モリブデンの偏析率Mo/Mo0およびニッケルの偏析率Ni/Ni0の和がCr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0≦3.50を満たし、このとき、クロムの含有量CrはCr≧0.3重量%であり、モリブデンの含有量MoはMo≧0.2重量%であるか、Mo<0.2重量%のときモリブデンの偏析率Mo/Mo0=1.1であるとし、ニッケルの含有量NiはNi≧0.3重量%であるか、Ni<0.3重量%のときニッケルの偏析率Ni/Ni0=1.0とし、かつ、イオウの含有量SはS≦0.008重量%であることを特徴とする。
【0015】
さらにより好ましくは、Cr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0の場合で3.30以下、Cr/Cr0+Mo/Mo0の場合で2.30以下、Cr/Cr0+Ni/Ni0の場合で2.40以下、Cr/Cr0の場合で1.30以下にすることで、割れの発生は皆無となる。軸受の場合、割れについてはあってはならないものであり、軸受の保証を考慮すると上記値に設定することが好ましい。
【0016】
また、合金鋼は、炭素Cを0.15〜0.5重量%、シリコンSiを0.15〜1.0重量%、マンガンMnを0.35〜1.5重量%、クロムCrを0.3〜2.0重量%、モリブデンMoを1.5重量%以下、ニッケルNiを3.5重量%以下含有することが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の転がり軸受の実施の形態について説明する。本実施の形態における転がり軸受は、機能性を向上させるために合金鋼に浸炭または浸炭窒化等の表面処理を施して製造される。例えば、大型の軸受などでは肉が厚く有効な機能を得るために非常に長時間、浸炭または浸炭窒化処理が必要とされる。
【0018】
また、浸炭または浸炭窒化終了後、これらの軸受に対し、浸炭炉から大気中の炉外に取り出す自然冷却や、取り出し後に周囲からファンなどで強制的に冷却するなどの放冷処理が行われる。
【0019】
これらの処理を行う際、放冷後の組織にはミクロ偏析に起因した主にバンド状の組織むらができる。このバンド状の組織むらは、例えば材料の合金成分が少なく、焼入れ性が悪い材料では浸炭層内で偏析部分だけその周辺に比べ合金成分が高いので、局部的に焼入れ性が高くなり、パーライト組織の中にバンド状などのマルテンサイト(硬化組織)が生じる。
【0020】
材料の合金成分が多く焼入れ性が高い材料では偏析部分だけその周辺に比べてさらに合金成分が高いので、局部的にMs点が低くなり、周囲がマルテンサイト組織の中に局部的にバンド状などの未変態のオーステナイト状態(残留オーステナイト)がそのまま残ることになり、組織むらが生じる。
【0021】
これらの例では、浸炭または浸炭窒化処理を施した場合、非浸炭部に比べて炭素や炭素および窒素の固溶により、多くの組織形態を取り得る浸炭、浸炭窒化層に組織むらが明瞭に現れる。
【0022】
この偏析に起因するバンド状の組織むらの程度は、通常の製造では従来問題視されていないレベルであったが、本発明者等は発生した割れを調査し研究した結果、白点性の模様を伴っていたことから以下のことを見出し問題解決に至った。
【0023】
浸炭または浸炭窒化を行う雰囲気にはRXガスが通常使用されており、この雰囲気中には約30%の水素が含まれている。従来、製鋼時に水素を鋼中に多く残留させてしまうと、熱処理後の冷却時や室温放置時に遅れて毛割れ状の内部欠陥が生じ、白点状の模様を伴うことから白点性欠陥と呼ばれて知られているが、現在では製鋼時に十分な脱水素が行われているので、ほとんど生じなくなっている。
【0024】
ところが、本発明者等は従来問題とされていなかった程度の小さい偏析度でもバンド状組織むらに水素がトラップされた後に白点性などの割れに至ることを発見した。
【0025】
つぎに、この解決に至る限定理由について説明する。本発明者等は各種成分の偏析率と割れとの関係を調査した結果、Cr,Mo,Niに関しての偏析率と割れ発生についての関係、すなわち、これらの元素の個々および組合せでの偏析率を限定することで、割れの発生がなくなることを見出した。
【0026】
偏析率とは、素材の個々の元素の平均濃度に対して完成軸受断面を、任意の距離で個々の元素を分析した際、最高濃度部がどの程度成分濃化しているかを示すものである。これを正偏析と称する(鉄鋼材料便覧、日本金属学会、日本鉄鋼協会編P481)。
【0027】
本発明者等は、完成品軸受で偏析率Cr/Cr0を1.40以下、Cr/Cr0+Mo/Mo0を2.40以下、Cr/Cr0+Ni/Ni0を2.60以下、およびCr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0を3.50以下とすることで、割れ発生がほとんどなくなることを確認した。
【0028】
さらに好ましくはCr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0の場合で3.30以下、Cr/Cr0+Mo/Mo0の場合で2.30以下、Cr/Cr0+Ni/Ni0の場合で2.40以下、Cr/Cr0の場合で1.30以下にすることで、割れの発生は皆無となる。軸受の場合、割れについてはあってはならないものであり、軸受の保証を考慮すると、上記値に設定することが好ましい。
【0029】
完成品での偏析率は、素材段階で既に最高値は決定されており、むしろ製品になるまでの各種加工(熱処理)によって緩和される傾向にあるので、素材状態の偏析率が上記限定数値を満足するようにしてもよい。尚、本実施形態での完成品の偏析率を以下に示す方法により評価する。
【0030】
完成品の偏析率:転がり軸受の軌道面部分(外輪:内径部、内輪:外径部、転動体:外周部)の断面を鍛造フロー(圧延フロー)に平行な方向に切断し、軌道面表層側から鍛造フロー(圧延フロー)に垂直な方向に、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いて線分析を行い、その結果から個々の元素偏析の最高値(正偏析)を求め、素材での個々の平均元素量で割って求めた。EPMAによる分析距離は、軸受の浸炭または浸炭窒化層部分(分析部位での炭素重量%が素材の平均重量%となるまでの距離)とする。
【0031】
また、本発明者等が研究を進めた結果、偏析率が限定範囲内であっても、軸受素材のイオウの含有量が0.008重量%を越えると、硫化物系の介在物が多くなるので、偏析との相乗効果により水素のトラップサイトとなり、割れが多く生じてしまうことを見出した。尚、軸受完成品のイオウの含有量は任意の複数部分からドリルなどで切削取りを行い、燃焼法によって測定を行い、得られた平均値により求めた。
【0032】
このようなことから本実施形態の転がり軸受では、完成品の偏析率がCr/Cr0≦1.4、Cr/Cr0+Mo/Mo0≦2.40、Cr/Cr0+Ni/Ni0≦2.60およびCr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0≦3.50を満たし、かつイオウの含有量SがS≦0.008重量%である場合に限定した。
【0033】
つぎに、鋼の化学成分の好適な範囲限定についてその理由を説明する。炭素Cは0.15重量%未満では、浸炭または浸炭窒化処理の時間が長くなり、生産性が悪化する。一方、0.50重量%を越えると、靭性が大きく低下するので、炭素Cの含有量は0.15重量%〜0.50重量%であるとした。
【0034】
シリコンSiは製鋼時に脱酸剤として添加するものであるとともに、焼入性を向上させ、基地マルテンサイトを強化するので、最低0.15重量%とした。また、1.0重量%を越えると、浸炭または浸炭窒化のむらを生じ、部分的に十分な硬さが得られないことがあるので、1.0重量%以下とした。
【0035】
クロムCrは焼入性を向上させて基地を固溶強化する他、浸炭または浸炭窒化により表面層に炭化物、窒化物および炭窒化物を析出させ、機械的性質の向上に役立つので、Crの含有量の下限値を0.3重量%とした。0.3重量%未満では、その添加効果が少ない。また、多量に添加すると、表面にCr酸化物が形成され、浸炭または浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害し、生産性を低下させるので、Crの含有量を0.30重量%〜2.0重量%とした。
【0036】
マンガンMnは焼入性を向上させると共に残留オーステナイト(異物混入下での転がり寿命に有効)の生成元素であるので、下限値を0.35重量%とした。ただし、1.50重量%を越える偏析による異常組織が発生し、製造中に割れを生じたり、素材のフェライトを強化する元素であるが含有量が多すぎると冷間加工性が著しく低下するので、Mnの含有量を0.35重量%〜1.50重量%とした。
【0037】
ニッケルNiは鋼の焼入れ性を向上させ、靭性を高める。しかし、Niの含有量が3.5重量%を越えると、その効果は向上せず、偏析による異常組織が発生して製造中に割れを生じてしまう。また、過剰な添加はコストが高くなるので、Niの含有量を3.5重量%以下とした。
【0038】
モリブデンMoは鋼の焼入性および焼戻し性を増大させ、浸炭窒化により表面層に炭化物、窒化物および炭窒化物を析出して材料の硬さを向上させる。しかしながら、Moの含有量が1.5重量%を越えてもその効果は向上せず、過剰な添加はコストが高くなるので、Moの含有量を1.50重量%以下とした。
【0039】
本実施形態における偏析率の限定を得る方法として、例えば、連続鋳造で製造される場合、特開平3−254339号公報、特開平3−254340号公報、特開平3−254341号公報および特開平3−254342号公報などに開示されている連続鍛圧法や、特開昭49−121733号公報に開示されている軽圧下法などを行い、マクロ偏析を改善する技術が知られている。また、造塊法として、例えば溶鋼内の内外の冷却速度に差をつけず凝固を可能とする、真空アーク再溶解法やエレクトロスラグ再溶解法などで製造したり、造塊後、高温で均熱処理するソーキングなどの方法を用いることが有効である。
【0040】
【実施例】
転がり軸受の実施例について説明する。NU240内輪相当のリングを種々の材料で作製し、(白点性)割れ評価を行った。割れ評価では、表1に示したA〜Wの熱処理を施したリングを、各610個作製し、所定の熱処理後、内、外径表面を0.2mm研削した後、超音波探傷法により内、外径の割れの発生率を評価した。
【0041】
【表1】
上記完成リングの内、各10個については、偏析の影響により周囲部と異なるバンド状の組織むらがあるか否かをミクロ組織で調査し、個々の正偏析に起因する組織むらはむらの多少はあるものの、A〜Wの全てにあることを確認した。しかしながら、偏析率の低いA〜C、F、G、J、K、O〜Qでは、非常にその面積が小さいものであった。
【0042】
その後、残りの各600個のリングについて、超音波探傷法により欠陥の発生の有無で割れの評価を行った。リングは熱処理前に、超音波探傷法によりあらかじめ欠陥の無いことを確認している。なお、超音波探傷法は以下の条件で行った。
【0043】
探傷子 周波数:2.25MHz、5MHz 日本クラウトクレマー製
超音波探傷機:USD−15 日本クラウトクレマー製
測定方法:表面波法、斜角法によって表面近傍およびリング内部の欠陥を検出した。なお、検出された場合、位置の特定後、切断して欠陥調査を行い、検出品個々にて最低1ヶ所に白点性割れを確認した。
【0044】
表2には本評価に用いた各リングのCr,Mo,Niの3成分個々の平均成分濃度(Cr0,Mo0,Ni0)と、EPMAのライン分析で求めた正偏析(最高)濃度(Cr,Mo,Ni)とを示す。
【0045】
【表2】
平均濃度分布および正偏析濃度は以下の方法で求めた。各リングのT断面を15mm程度の厚みで切断し、任意の点5箇所から直径5mmのドリルを用いて切削取りを行い、サンプルを得て燃焼法によって5箇所のCr,Mo,Ni成分個々の濃度を分析し、この値を平均して各成分の平均濃度とした。
【0046】
各リングの正偏析濃度は、平均濃度の測定と同様にT断面を切断し、外径側表面から偏析フローと垂直となる方向に、EPMAを用いてCr,Mo,Ni成分個々の線分析を行い、この結果の各成分の最高濃度を正偏析とし、この値を各々の成分の平均値で割った値を偏析率とした。
【0047】
(白点性)割れ評価の結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
図1は偏析率Cr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0と割れ発生率との関係を示す特性図である。偏析率Cr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0の値が3.50を越えるものでは、割れ発生率が急激に高くなっていることがわかる(比較例T,U)。
【0049】
また、偏析率が3.30以下のものでは、割れが発生していない(実施例O,P,Q)。これらのことから、偏析率Cr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0は3.50以下、好ましくは3.30以下である。
【0050】
上記の例(鋼種O〜U))は全てイオウSが0.008重量%以下のものであったが、偏析率3.50さらに3.30以下のものであっても、イオウSが0.008重量%を越えて0.012重量%以上と高くなってしまうと、硫化物系の介在物が多くなる影響により割れ発生率は高くなる(比較例V,W)。イオウSの含有量が低い同一の偏析率の例と比較しても、割れ発生率は一段と高くなっていることから、イオウSが割れ発生率に大きな影響を及ぼすことがわかる(比較例W,T)。このことから、イオウSは0.008重量%以下であることが有効である。
【0051】
図2は偏析率Cr/Cr0と割れ発生率との関係を示す特性図である。クロムCrについて整理した偏析率では、偏析率Cr/Cr0の値が1.40を越える場合、割れ発生率が急激に高くなっていることがわかる(比較例D,E)。また、偏析率が1.30以下のものでは割れが発生していない(実施例A、B)。これらのことから、偏析率Cr/Cr0は1.40以下、好ましくは1.30以下である。
【0052】
図3は偏析率Cr/Cr0+Ni/Ni0と割れ発生率との関係を示す図である。Cr/Cr0+Ni/Ni0について整理した偏析率では、偏析率Cr/Cr0+Ni/Ni0の値が2.60を越えるものでは、割れ発生率が急激に高くなっていることがわかる(比較例H,I)。また、偏析率が2.40以下のものでは割れは発生していない(実施例F)。これらのことから、偏析率Cr/Cr0+Ni/Ni0は2.60以下、好ましくは2.40以下である。
【0053】
図4は偏析率Cr/Cr0+Mo/Mo0と割れ発生率との関係を示す特性図である。Cr/Cr0+Mo/Mo0について整理した偏析率では、偏析率Cr/Cr0+Mo/Mo0の値が2.60以上では、割れ発生率が急激に高くなっていることがわかる(比較例L,M)。また、偏析率が2.40以下のものでは割れは発生していない(実施例J,K)。これらのことから、偏析率Cr/Cr0+Mo/Mo0は2.60以下、好ましくは2.40以下である。
【0054】
【発明の効果】
本発明の請求項1に記載の転がり軸受によれば、浸炭あるいは浸炭窒化処理を施して製造される転がり軸受において、完成品である合金鋼はクロムの最高濃度Crと平均濃度Cr0との比である偏析率Cr/Cr0≦1.40を満たし、かつクロムの含有量CrはCr≧0.3重量%であり、かつイオウの含有量SはS≦0.008重量%であるので、偏析度および成分を限定することによって割れを防止することができる。そして、割れを防止することによって製造不良率の低減や遅れ割れ発生への懸念を無くすことができる高品質な転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】偏析率Cr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0と割れ発生率との関係を示す特性図である。
【図2】偏析率Cr/Cr0と割れ発生率との関係を示す特性図である。
【図3】偏析率Cr/Cr0+Ni/Ni0と割れ発生率との関係を示す図である。
【図4】偏析率Cr/Cr0+Mo/Mo0と割れ発生率との関係を示す特性図である。
Claims (1)
- 合金鋼に浸炭あるいは浸炭窒化処理を施して製造される転がり軸受において、
完成品である合金鋼はクロムの最高濃度Crと平均濃度Cr0との比である偏析率Cr/Cr0≦1.40を満たし、モリブデンの最高濃度をMo、平均濃度をMo0、ニッケルの最高濃度をNi、平均濃度をNi0としたとき、Cr/Cr0+Mo/Mo0≦2.40を満たし、Cr/Cr0+Ni/Ni0≦2.60を満たし、Cr/Cr0+Mo/Mo0+Ni/Ni0≦3.50を満たし、かつクロムの含有量CrはCr≧0.3重量%であり、かつイオウの含有量SはS≦0.008重量%、炭素Cを0.15〜0.5重量%、シリコンSiを0.15〜1.0重量%、マンガンMnを0.35〜1.5重量%、モリブデンMoを1.5重量%以下、ニッケルNiを3.5重量%以下含有し、残部Fe及び不可避不純物からなることを特徴とする遅れ割れ発生率を低くした転がり軸受。
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