JP3851861B2 - 電子放出素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイヤモンドから成る電子放出素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の電子放出素子としては、例えば特開2001−266736に開示されているように、四角錘状のダイヤモンド突起の周囲に金属層が形成されたものがある。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−266736
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来技術では、カソード電極膜から電子放出部への電子の供給効率が良好ではなかった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、カソード電極膜から電子放出部への電子の供給が効率的な電子放出素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の電子放出素子は、基板と、基板から突出すると共にダイヤモンドを含んで成る複数の突出部とを備え、突出部は、側面が前記基板の表面から立ち上がっている柱状部と、柱状部の上に位置すると共に先端が尖った先鋭部とを備えて構成され、突出部は導電層を含み、柱状部の側面に、柱状部の側面に沿って前記基板の表面から立ち上がっており、かつ導電層と電気的に接続しているカソード電極膜が形成されたことを特徴とする。
【0007】
柱状部(円柱、角柱、円錐台、角錐台等の各種柱状のもの)の側面に形成されるカソード電極膜も基板の表面から立ち上がることになるので、電界方向に沿ってカソード電極膜中の自由電子が先鋭部側に引き寄せられる。そのため、電子放出部(先鋭部の尖った部分(複数の針状体であることもある。))に近い位置で電子がカソード電極膜から突出部に移動することになる。その結果、カソード電極膜から電子放出部への電子の供給が効率的になる。
【0008】
本発明の電子放出素子は、基板の表面と柱状部の側面とがなす角度が略直角であることが好適である。
【0009】
カソード電極膜が略直角に立っているときに、自由電子が先鋭部側に引き寄せられる効果が最も顕著になる。
【0010】
本発明の電子放出素子は、カソード電極膜は、突出部と共に基板の表面を覆っており、カソード電極膜の面積のうち、基板の表面を覆っている部分の面積が、突出部を覆っている部分の面積よりも大きいことが好適である。
【0011】
かかるカソード電極膜の構成により、先鋭部の周囲での電界ベクトルの分布は、突出部の先端から基板との接合部へ向かうに従って電界ベクトルの後端が側方へ開くような形になり、先鋭部からの電子放出に好適なポテンシャル形状が得られる(カソード電極で電界が終端され、突起の中心部に侵入しなくなる。)。
【0012】
本発明の電子放出素子は、カソード電極膜が柱状部の側面全体を覆っていることが好適である。
【0013】
突出部とカソード電極膜との接触面積が広がることによって、カソード電極膜から電子放出部への電子の供給が更に効率的になる。
【0014】
本発明の電子放出素子は、導電層が先鋭部にも及んでいることが好適である。
【0015】
先鋭部の内部において電子が電子放出部に移動しやすくなる。そのため、カソード電極膜から電子放出部への電子の供給が更に効率的になる。
【0016】
本発明の電子放出素子は、導電層はダイヤモンドに金属イオンが注入されて形成されたものであることが好適である。
【0017】
金属イオンの注入により、容易に所望の形状の導電層をダイヤモンド中に形成することができる。
【0018】
本発明の電子放出素子は、導電層はダイヤモンドが半導体不純物を含有して成ることが好適である。
【0019】
半導体不純物を含ませることにより、様々な種類の導電層をダイヤモンド中に形成でき、容易に所望の形状の導電層を含んだエミッタ(突出部)を形成できる。
【0020】
本発明の電子放出素子は、カソード電極膜は、導電層と接触する第1のカソード電極層と、第1のカソード電極層上に形成されると共に第1のカソード電極層よりも膜厚が厚い第2のカソード電極層とを含んで構成されたことが好適である。
【0021】
第1のカソード電極層の膜厚を薄くすることによって、所望の形状にエッチングするのが容易になる。他方、膜厚が薄い分第1のカソード電極層に断線が生じやすくなるが、膜厚の厚い第2のカソード電極層が断線部を電気的に接続させる。
【0022】
本発明の電子放出素子は、カソード電極膜上に絶縁膜が形成され、絶縁膜の上に第2の電極膜が形成されたことが好適である。
【0023】
第2の電極膜を導電層における空乏層の厚さを制御するゲート電極として利用することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、同一要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0025】
(第1実施形態)
第1実施形態の電子放出素子1の構造を説明する。図1は、電子放出素子1の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。電子放出素子1は、ダイヤモンドから成る基板11を備え、基板11からダイヤモンドの突出部14が突出している。突出部14の下部を構成する柱状部12は、円柱の形状をなし、その側面は基板11の表面に対して略直角である。突出部14の上部は先端に針状体を備える先鋭部13で構成されている。第1実施形態では、突出部14及び基板11の全体が、ホウ素をドープすることにより導電性とされている。
【0026】
基板11上にはAlから成るカソード電極膜15が形成されており、カソード電極膜15は柱状部12と先鋭部13との境界付近まで伸びている。すなわち、カソード電極膜15は、基板11の表面と柱状部12の側面全体を覆っている。他方、先鋭部13においては導電性のダイヤモンド(p型半導体ダイヤモンド)が露出している。柱状部12の側面が基板11の表面に対して略直角になっている結果、カソード電極膜15のうち柱状部12を覆っている部分(エミッタ電極部15a)も基板11の表面に対して略直角になっている。また、カソード電極膜15のうち基板11の表面を覆っている部分(平坦電極部15c(図中には符合が示されていない。))の面積がエミッタ電極部15aの面積よりも大きくなるように、突出部14の配置間隔が調整されている。
【0027】
電子放出素子1の上方にはアノード電極A(図示されていない。)が、先鋭部13と対向するように設置されている。カソード電極膜15に負の電圧が印加されると、エミッタ電極部15aから突出部14に電子が供給される。先鋭部13の針状体の先端に到達した電子は、アノード電極Aとの間の電界によって外部に放出される。
【0028】
次に、電子放出素子1の作用・効果を説明する。エミッタ電極部15aは基板11の表面に対して略直角に立ち上がっているので、エミッタ電極部15aにおける自由電子はアノード電極Aに近い端部に集中する。その結果、電子集中部から突出部14へ電子が移動しやすくなると共に、電子放出部に近い位置で突出部14に電子が供給されることになり、エミッタ電極部15aから電子放出部への電子の供給が効率的になる。また、エミッタ電極部15a及び柱状部12の側面が、基板11の表面に対して大きい傾斜角をなすので、エミッタ電極部15aから突出部14への電子の移動がカソード−アノード間の電界によって妨げられなくなる。この観点からは、エミッタ電極部15a及び柱状部12の側面が、基板11の表面に対してなす傾斜角は90°以上(反り返った状態)であってもよい。
【0029】
エミッタ電極部15aが柱状部12の側面全体を覆っているので、エミッタ電極部15aと柱状部12との接触面積が大きくなると共に、エミッタ電極部15aのアノード電極Aに近い端部から柱状部12に移動した電子が基板方向に逃げにくくなる。そのため、エミッタ電極部15aから電子放出部への電子の供給が更に効率的になる。
【0030】
カソード電極膜15のうち平坦電極部15cの面積がエミッタ電極部15aの面積よりも大きいので、先鋭部13の周囲での電界ベクトルの分布は、先鋭部14の先端から基板との接合部へ向かうに従って電界ベクトルの後端が側方へ開くような形になる。そのため、先鋭部13の中心部における空乏層が形成されにくくなる。また、基板11にも大量の電子が供給されることによって、エミッタ電極部15aから柱状部12に移動した電子が基板方向に逃げにくくなる。その結果、エミッタ電極部15aから電子放出部への電子の供給が更に効率的になる。
【0031】
導電部が先鋭部13にも及んでいるので、エミッタ電極部15aから柱状部12に移動した電子が電子放出部である先鋭部13の針状体に流れやすくなる。そのため、エミッタ電極部15aから電子放出部への電子の供給が更に効率的になる。
【0032】
突出部14の電子放出部が先鋭になっていても、先端より太い柱状部が近接して接合されているので、電子放出部の熱が良く逃げ、強い電流が流れても壊れることがない。
【0033】
(第2実施形態)
第2実施形態の電子放出素子2の構造を説明する。図2は、電子放出素子2の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。電子放出素子2は、ダイヤモンドから成る基板21を備え、基板21からダイヤモンドの突出部24が突出している。突出部24の下部を構成する柱状部22は、円柱の形状をなし、その側面は基板21の表面に対して略直角である。突出部24の上部は先端に針状体を備える先鋭部23で構成されている。
【0034】
第2実施形態では、先鋭部23及び柱状部22の上部が、ホウ素をドープすることにより導電性とされている。すなわち、柱状部22の上部はp型半導体ダイヤモンドから成る導電層22cで構成され、柱状部22の下部は不純物がドープされていないダイヤモンドから成る絶縁層22iで構成されている。
【0035】
カソード電極膜15及びアノード電極Aは第1実施形態と同様に構成されている。エミッタ電極部15aは柱状部22の導電層22cと接触しており、この接触部分を介して電子が電子放出部へ供給される。
【0036】
次に、電子放出素子2の作用・効果を説明する。電子放出素子2においても第1実施形態におけると同様の作用・効果を得ることができる。さらに、導電層22cに入った電子は、下部が絶縁層となっているので基板方向に逃げるのが妨げられる。そのため、エミッタ電極部15aから電子放出部への電子の供給が更に効率的になる。
【0037】
(第3実施形態)
第3実施形態の電子放出素子3の構造を説明する。図3は、電子放出素子3の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。電子放出素子3における基板21及び突出部24の構成は第2実施形態と同様である。
【0038】
基板21上にはAlから成るカソード電極膜35が形成されており、カソード電極膜35は先鋭部23の中腹まで伸びている。すなわち、カソード電極膜35は、基板21の表面、柱状部22の側面全体及び先鋭部23の側面下部を覆っている。他方、先鋭部23の側面上部においては導電性のダイヤモンド(p型半導体ダイヤモンド)が露出している。柱状部22の側面が基板21の表面に対して略直角になっている結果、カソード電極膜35のうち柱状部22を覆っている部分(エミッタ電極部35a)も基板21の表面に対して略直角になっている。カソード電極膜35のうちエミッタ電極部35aよりも先端側の部分は、先鋭部23の形状に従って内側に傾斜する先端傾斜電極部35bとなっている。また、カソード電極膜35のうち基板21の表面を覆っている部分(平坦電極部35c(図中には符合が示されていない。))の面積がエミッタ電極部35a及び先端傾斜電極部35bの面積よりも大きくなるように、突出部24の配置間隔が調整されている。
【0039】
電子放出素子3の上方にはアノード電極A(図示されていない。)が、先鋭部23と対向するように設置されている。カソード電極膜35に負の電圧が印加されると、エミッタ電極部35a(導電層22cと接触している部分)及び先端傾斜電極部35bから突出部24に電子が供給される。先鋭部23の針状体の先端に到達した電子は、アノード電極Aとの間の電界によって外部に放出される。
【0040】
次に、電子放出素子3の作用・効果を説明する。電子放出素子3においても第1及び2実施形態におけると同様の作用・効果を得ることができる。さらに、先端傾斜電極部35cを備えるので、突出部24は、柱状部22の導電層22cに加えて、より電子放出部に近い先鋭部23下部からも電子の供給を受けることになる。そのため、カソード電極35から電子放出部への電子の供給が更に効率的になる。
【0041】
(第4実施形態)
第4実施形態の電子放出素子4の構造を説明する。図4は、電子放出素子4の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。電子放出素子4は、ダイヤモンドから成る基板41を備え、基板41からダイヤモンドの突出部44が突出している。突出部44の下部を構成する柱状部42は、円柱の形状をなし、その側面は基板41の表面に対して略直角である。突出部44の上部は先端に針状体を備える先鋭部43で構成されている。
【0042】
第4実施形態では、柱状部42の上部には、金属イオンが注入されることによって導電層42cが形成されている。イオン注入工程において加速された金属イオンは、ダイヤモンド結晶層の表層部を貫通し一定のレベルに運動エネルギーが減少した後、導電層42cの深度で炭素原子と衝突して急激に停止する。その際の衝撃により、導電層42cにおけるダイヤモンド結晶構造に欠陥が生じる。ダイヤモンドの結晶欠陥と金属層の形成の結果、導電層42cは導電性を帯びるようになる。柱状部42の下部(絶縁層42i)及び先鋭部43は、絶縁性のダイヤモンドから成る。
【0043】
カソード電極膜35及びアノード電極Aは第3実施形態と同様に構成されている。エミッタ電極35aは柱状部42の導電層42cと接触しており、この接触部分を介して電子が電子放出部へ供給される。
【0044】
電子放出素子4においても第3実施形態におけると同様の作用・効果を得ることができる。
【0045】
(第5実施形態)
第5実施形態の電子放出素子5の構造を説明する。図5は、電子放出素子5の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。電子放出素子5における基板21及び突出部24の構成は第2実施形態と同様である。
【0046】
基板21上にはAuから成る膜厚500Åの第1カソード電極膜55が形成されており、第1カソード電極膜55は先鋭部23の中腹まで伸びている。すなわち、カソード電極膜55は、基板21の表面、柱状部22の側面全体及び先鋭部23の側面下部を覆っている。また、第1カソード電極膜55上にはWから成る膜厚4000Åの第2カソード電極膜57が形成されており、第2カソード電極膜57は柱状部22と先鋭部23との境界付近まで伸びている。他方、先鋭部23の側面上部においては導電性のダイヤモンド(p型半導体ダイヤモンド)が露出している。柱状部22の側面が基板21の表面に対して略直角になっている結果、第1カソード電極膜55のうち柱状部22を覆っている部分(エミッタ電極部55a)も基板21の表面に対して略直角になっている。第1カソード電極膜55のうちエミッタ電極部55aよりも先端側の部分は、先鋭部23の形状に従って内側に傾斜する先端傾斜電極部55bとなっている。また、第1カソード電極膜55のうち基板21の表面を覆っている部分(平坦電極部55c(図中には符合が示されていない。))の面積がエミッタ電極部55a及び先端傾斜電極部55cの面積よりも大きくなるように、突出部24の配置間隔が調整されている。
【0047】
電子放出素子5の上方にはアノード電極A(図示されていない。)が、先鋭部23と対向するように設置されている。カソード電極膜に負の電圧が印加されると、エミッタ電極部55a(導電層22cと接触している部分)及び先端傾斜電極部55cから突出部24に電子が供給される。先鋭部23の針状体の先端に到達した電子は、アノード電極Aとの間の電界によって外部に放出される。
【0048】
次に、電子放出素子5の作用・効果を説明する。電子放出素子3においても第3実施形態におけると同様の作用・効果を得ることができる。さらに、第1カソード電極膜55は膜厚が500Åと薄いので、所望の形状にエッチングするのが容易になる。他方、膜厚が薄い分第1カソード電極膜55に断線が生じやすくなるが、膜厚の厚い第2カソード電極膜57が断線部を電気的に接続させる。
【0049】
次に、電子放出素子5の製造方法を説明する。なお、電子放出素子5の製造方法は、電子放出素子1ないし4の製造方法の応用例でもある。
【0050】
ダイヤモンドの電子放出素子を製造する上では、電子放出部付近に電子の供給を受ける導電層を形成することと、電子放出に有効な先鋭を形成することが重要である。導電層を形成する方法としては、例えば非常に先の尖ったWやSiにダイヤモンドを合成する方法があるが、この方法では先鋭度が悪くなってしまう。先鋭化したダイヤモンドにダイヤモンドを合成する場合も同様に先鋭度の劣化が起きてしまう。他方、先鋭化したダイヤモンド突起にイオン注入して導電層を形成すると、この過程で先鋭度が劣化してしまう。
【0051】
そこで、本発明者は、次の製造方法により、導電層が形成されると共に先端が先鋭化されたダイヤモンド突起を実現できることを見出した。すなわち、ダイヤモンド基板にp型不純物若しくはn型不純物をドーピングすることにより又は金属イオンを注入することによりダイヤモンド基板表面中に導電層を形成し、その後ダイヤモンド基板をエッチングして導電層を含むダイヤモンド突起を形成する。その際、半導体不純物又は金属イオンが過剰にドープされるとダイヤモンドの結晶構造の欠陥が多くなり先鋭構造の形成が困難になる。本発明者は、不純物濃度が2%以下、金属元素濃度が10%以下のドープであれば、先鋭構造の形成に問題がないことを見出した。
【0052】
図6ないし8は、電子放出素子5の製造工程を示す。以下に具体的製造方法を説明する。ホウ素をドーピングすることにより表面に導電層が形成されたダイヤモンド基板を用意し、その表面にAlのドットパターンを形成する。なお、ダイヤモンド基板は、多結晶ダイヤモンドから成るものであってもよい。この場合、基板に対し垂直方向に配向していると更によく、基板面内にも配向しているのが最もよい。基板に。ダイヤモンド基板を導電層と共にエッチングし、Alを除去して、基板上に微小円柱を形成する。この導電層を含む微小円柱をプラズマ処理して先端部を先鋭化する。図6Aに微小円柱の先端部が先鋭化されたダイヤモンド基板を示す。
【0053】
微小円柱の先端部が先鋭化されたダイヤモンド基板上に、膜厚500ÅのAu膜を形成する。なお、微小円柱の側面が基板平坦部に対してなす傾斜角が90°以上であるような場合には、金属膜の形成は蒸着法よりもスパッタリング法の方が好適である。図6BにAu膜が形成された様子を示す。
【0054】
Au膜上に、膜厚4000ÅのW膜を形成する。図6CにW膜が形成された様子を示す。
【0055】
W膜57上にレジストを塗布し、レジストの粘性と回転数を制御することによって、柱状部22と先鋭部23の境界部付近から突出部24が露出するようにレジスト膜70を形成する。図7Aにレジスト膜70が形成された様子を示す。
【0056】
BHF(バッファードフッ酸)又は希釈1%HF水溶液でW膜をエッチングし、レジスト膜70を除去する。図7BにW膜がエッチングされた様子を、図7Cにレジスト膜70が除去された様子を示す。
【0057】
このようにしてAu膜を露出させた後、W膜及びAu膜上にレジストを塗布し、レジストの粘性と回転数を制御することによって、先鋭部23の中腹から突出部24が露出するようにレジスト膜80を形成する。図8Aにレジスト膜80が形成された様子を示す。
【0058】
王水(硝酸1:塩酸3)でAu膜をエッチングし、レジスト膜80を除去する。図8BにAu膜がエッチングされた様子を示す。また、図8Cにレジスト膜80が除去され、電子放出素子5が完成した様子を示す。
【0059】
【実施例】
以下、実施例により、本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
突出部及びカソード電極膜の形成方法についての実施例を説明する。まず、単結晶ダイヤモンドIb(100)基板上にフォトリソグラフィー技術を用いてAlの微細なドット形状のマスクを作製した。次に、RIE技術を用いて。CF4/O2(CF4濃度:1〜3%)ガス中で、圧力2Pa、パワー200Wの条件で、0.5〜1時間エッチングし、ダイヤモンドに微小円柱を形成した。
【0061】
Alを除去した後、パワー400W、基板温度1050℃、圧力100Torrの条件で、CO2/H2(CO2濃度:0.5%)ガスのマイクロ波プラズマ中で、微小円柱が形成されたダイヤモンドを約2時間処理した。その結果、単結晶の面方位に関係した土台の形状と先細りしたニードル型の先鋭突起が得られた(土台である角錘台形状の側面の基板表面に対する傾斜角は60°以上である。)。図12A及びBにニードル型の先鋭突起を示す。
【0062】
また、Alを除去せずに、AlがなくなるまでRIEをした場合、先端の尖ったローソク型の先鋭突起を形成することができた。図12Cにローソク型の先鋭突起を示す。
【0063】
次に、先鋭突起が形成された基板全面にスパッタリング法でAl膜を形成した。真空蒸着法と違い、スパッタリング法を用いることで、Alは突起の垂直な面にも平坦部と同じ厚さで形成された。突起の間隔を適当に離すことによってAl膜が形成されても突起の状態が維持された。
【0064】
その後、レジストのスピンコートを行った。レジストの粘性度と回転速度を制御することによって、突起の先端が突き出るように、レジストを所望の厚さにすることができた。レジストをポストベークした後、アルカリ水溶液で突起先端のAlを除去した。ここで、Al膜(金属電極)を所望の高さにするためにウエットエッチングを制御する必要がある。図13に過剰にエッチングされた比較例を示す。
【0065】
金属膜がTi、W、Moなどであっても酸溶液などを用いることによって同様にエッチングすることができた。金属膜の下層がダイヤモンドという酸やアルカリに強い耐性をもつ材料であるために可能であった。
【0066】
レジストを有機溶媒で除去し、純粋などで処理することにより、先端が先鋭であると共に周囲に金属電極が形成された突出部が得られた。図14に完成した突出部を示す。
【0067】
(実施例2)
金属イオン注入層を含む突出部の形成方法についての実施例を説明する。ダイヤモンド基板中に金属イオンを注入して導電層を形成した。金属イオン注入層は0.1μm〜数μmの深度になるように調整した。表面はダイヤモンドの薄い層あるいは結晶の崩れたダイヤモンド層となった。
【0068】
基板中に金属イオンを注入しても注入量が10%以下であれば、実施例1と同じ方法を施すことにより先鋭突起を形成できた。図15に金属イオン注入層を含む先鋭突起の例を示す。
【0069】
さらに、実施例1と同じ方法で先鋭突起の周囲にAl被覆部を形成した。図16にAl被覆部が形成された先鋭突起の例を示す。
【0070】
図19は、実施例2の電子放出素子の印加電圧(電極間隔:200μm)−放出電流特性を示す。閾値電圧が500V、すなわち平均の閾値電界強度が2.5V/μmと非常に良い値が得られた。
【0071】
(実施例3)
不純物半導体含有層を含む突出部の形成方法についての実施例を説明する。ホウ素やリンなどのドーパント元素を含むダイヤモンド膜をダイヤモンド基板上に合成した。表面はドーパント元素による導電層になった。ドープ層はAl被覆部から露出する先端部の高さの制御が可能である0.1μm〜数μmが適切である。もちろん、厚い方はどこまでも可能であるが、合成時間がかかるために適切な厚さが設定される。
【0072】
ドーパント元素を含むダイヤモンドを形成してもドープ濃度が10%以下であれば、実施例1と同じ方法を施すことにより先鋭突起を形成できた。図17に不純物半導体含有層を含む先鋭突起の例を示す。
【0073】
さらに、実施例1と同じ方法で先鋭突起の周囲にAl被覆部を形成した。図18にAl被覆部が形成された先鋭突起の例を示す。
【0074】
図20は、エピボロンドープ層が形成された実施例3の電子放出素子の印加電圧(電極間隔:200μm)−放出電流特性を示す。閾値電圧が700V、すなわち平均の閾値電界強度が3.5V/μmと非常に良い値が得られた。
【0075】
(第6実施形態)
第6実施形態の電子放出素子6の構造を説明する。図11は、電子放出素子6の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。電子放出素子6における基板21、突出部24及びカソード電極膜15の構成は第2実施形態と同様である。
【0076】
基板21上には、順次、カソード電極膜15、絶縁膜96、第2電極膜97が積層されている。カソード電極膜15、絶縁膜96及び第2電極膜97は、それぞれ、柱状部22と先鋭部23との境界部付近まで延びている。
【0077】
次に、電子放出素子6の作用・効果を説明する。電子放出素子6においても実施形態2におけると同様の作用・効果を得ることができる。さらに、第2電極膜97を先鋭部23及び導電層22cにおける空乏層の厚さを制御するゲート電極として利用することができる。また、電子放出素子6は、第2電極膜97をアノードとすることにより、カソードとアノードが極めて近接化された電子放出素子として適用することもできる。
【0078】
次に、電子放出素子6の製造方法を説明する。図9及び10は、電子放出素子6の製造工程を示す。
【0079】
図9Aに示される突出部24が形成されたダイヤモンド基板上に、順次、第1金属膜、絶縁膜、第2金属膜が形成される。図9Bに第1金属膜、絶縁膜、第2金属膜が順次形成された様子を示す。
【0080】
第2金属膜上にレジストを塗布し、レジストの粘性と回転数を制御することによって、柱状部22と先鋭部23の境界部付近から突出部24が露出するようにレジスト膜90を形成する。図9Cにレジスト膜90が形成された様子を示す。
【0081】
順次、第2金属膜、絶縁膜、第1金属膜をエッチングする。図10A、10B、10Cに、それぞれ第2金属膜、絶縁膜、第1金属膜がエッチングされた様子を示す。
【0082】
レジスト膜90を除去して電子放出素子6が完成する。
【0083】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明により、カソード電極膜から電子放出部への電子の供給が効率的な電子放出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電子放出素子1の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。
【図2】電子放出素子2の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。
【図3】電子放出素子3の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。
【図4】電子放出素子4の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。
【図5】電子放出素子5の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。
【図6】電子放出素子5の製造工程を示す第1の図である。
【図7】電子放出素子5の製造工程を示す第2の図である。
【図8】電子放出素子5の製造工程を示す第3の図である。
【図9】電子放出素子6の製造工程を示す第1の図である。
【図10】電子放出素子6の製造工程を示す第2の図である。
【図11】電子放出素子6の縦断面図である(簡略化のために一個の突出部のみが示されている。)。
【図12】実施例1の先鋭突起(Al被覆部の形成前)を示す。
【図13】実施例1の先鋭突起が過剰にエッチングされた比較例を示す。
【図14】実施例1の先鋭突起(Al被覆部の形成後)を示す。
【図15】金属イオン注入層を含む先鋭突起の例(実施例2)を示す。
【図16】実施例2の先鋭突起(Al被覆部の形成後)を示す。
【図17】不純物半導体含有層を含む先鋭突起(実施例3)の例を示す。
【図18】実施例3の先鋭突起(Al被覆部の形成後)を示す。
【図19】実施例2の電子放出素子の印加電圧(電極間隔:200μm)−放出電流特性を示す。
【図20】実施例3の電子放出素子の印加電圧(電極間隔:200μm)−放出電流特性を示す。
【符号の説明】
1、2、3、4、5、6…電子放出素子、11、21、41…基板、12、22、42…柱状部、13、23、43…先鋭部、14、24、44…突出部、22c、42c…導電層、22i、42i…絶縁層、15、35、55…カソード電極膜、15a、35a、55a…エミッタ電極部、35c、55c…先端傾斜電極部、57…第2カソード電極膜、96… 絶縁膜、97…第2電極膜、70、80、90…レジスト膜。
Claims (9)
- 基板と、前記基板から突出すると共にダイヤモンドを含んで成る複数の突出部とを備え、
前記突出部は、側面が前記基板の表面から立ち上がっている柱状部と、前記柱状部の上に位置すると共に先端が尖った先鋭部とを備えて構成され、
前記突出部は導電層を含み、
前記柱状部の側面に、前記柱状部の側面に沿って前記基板の表面から立ち上がっており、かつ前記導電層と電気的に接続しているカソード電極膜が形成された
ことを特徴する電子放出素子。 - 前記基板の表面と前記柱状部の側面とがなす角度が略直角である
ことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。 - 前記カソード電極膜は、前記突出部と共に前記基板の表面を覆っており、
前記カソード電極膜の面積のうち、前記基板の表面を覆っている部分の面積が、前記突出部を覆っている部分の面積よりも大きい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子放出素子。 - 前記カソード電極膜が前記柱状部の側面全体を覆っている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電子放出素子。 - 前記導電層が前記先鋭部にも及んでいる
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電子放出素子。 - 前記導電層はダイヤモンドに金属イオンが注入されて形成されたものである
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電子放出素子。 - 前記導電層はダイヤモンドが半導体不純物を含有して成る
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電子放出素子。 - 前記カソード電極膜は、前記導電層と接触する第1のカソード電極層と、前記第1のカソード電極層上に形成されると共に前記第1のカソード電極層よりも膜厚が厚い第2のカソード電極層とを含んで構成された
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電子放出素子。 - 前記カソード電極膜上に絶縁膜が形成され、
前記絶縁膜の上に第2の電極膜が形成された
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の電子放出素子。
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