JP3840521B2 - ウイルス検出方法およびウイルス検査用キット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ウイルス感染者血液中に形成された抗ウイルス抗体を介さずに血液中のウイルスを直接、感度良く検出することのできるウイルス凝集検査薬および該検査薬を含むウイルス検査用キットに関するものである。本発明のウイルス凝集検査薬は、特に非A非B型肝炎の主な原因となるC型肝炎ウイルス(HCV)や、後天性免疫不全症候群(エイズ)ウイルス(HIV)の検出に有用である。
【0002】
【従来の技術】
ウイルス疾患のうちでも、近年、特にその治療法が問題となっている上記C型肝炎やエイズは、ウイルスそのものの変異が激しく、長年の間その実体が不明であったこともあり、二次感染が多発し感染者の増加を有効に防止することができていなかった。しかしながら近年における遺伝子解析技術の著しい発展により、これらウイルスの一次構造が次々と解明されるに至って、その検出法がようやく確立され、二次感染の増大にも歯止めがかかる様になった。即ち、上述したいずれのウイルスにおいても、変異の激しい表層の蛋白質に比べて核蛋白質は一次構造をよく保っていることが分かり、更に遺伝子工学技術の発展によってこれら蛋白質の大量生産が可能になったことから、表層の蛋白質に加えて核蛋白質を抗原として用い、患者の血清中に形成された抗ウイルス抗体を検出する方法が開発され、現在、日常検査法として普及している。
【0003】
しかしながら、これらの検査法は、ウイルス感染者の体内に、ウイルスが感染してから抗体ができるまでの期間、少なくとも2〜3カ月間は、感染の有無を判定することができず、二次感染を有効に防ぐことができないという問題を持つだけでなく、膠原病などの自己免疫疾患の場合、偽陽性が現れやすく診断がつきにくいのが現状である。また、特にHIVにおいては、母子感染の場合、子供は親から受け継いだ抗体を持っているために、このような抗体検査だけでは、感染しているかどうかの正確な判断が得られないという問題も残る。
そこで、従来の患者血清中の抗ウイルス抗体を検出する診断法に代わって、ウイルスそのものを直接検出できる新規な方法を提供することが切望されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、患者血清中に生成される抗ウイルス抗体を検出する従来の抗体検査法に代わって、抗体を介さずに直接、短時間で感度良く血清中のウイルスを検出することのできる新規なウイルス凝集検査薬を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明のウイルス凝集検査薬とは、微小固体担体の表面に、ウイルス表層の蛋白質に親和性のある分子を固定させたものであるところに要旨を有するものである。
【0006】
上記ウイルス凝集検査薬を用いて検出することのできる好ましいウイルスは、エイズウイルスおよびC型肝炎ウイルスである。本発明に用いられるウイルスの外套蛋白質に親和性のある分子としては、抗体等の蛋白質、またはペプチドが推奨される。
【0007】
また、本発明のウイルス検査用キットは、上述したウイルス凝集検査薬および陽性対照試薬を含んでなるところに要旨を有するものである。このキットには、更に陰性対照試薬を含むことが好ましい。
【0008】
このうち陽性対照試薬として好ましいのは、微小固体担体の表面に、ウイルス表層の蛋白質の一部または全部を固定させたものであり、一方、陰性対照試薬として好ましいのは、ウイルス表層の蛋白質の一部または全部を含有するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、従来の抗体検査法に代わって、血清中のウイルスを直接検出することのできる新規な検査薬について鋭意検討したところ、感染者の血液中に存在するウイルス表層の蛋白質を介して、この領域に親和性のある分子で標識された担体が凝集することによって、該ウイルスを直接、短時間で感度良く検出することができることを見出し、本発明を完成したのである。従って、本発明においては、表層の蛋白質を有するウイルスであって、その表層の蛋白質に親和性を有する分子が存在し、且つ該分子が固定される担体が存在するものであれば全て本発明の範囲内に包含される。
上述した様に本発明のウイルス凝集検査薬は、微小固体担体の表面に、ウイルスの外套蛋白質に親和性のある分子を固定させた点に特徴を有するものである。尚、以下の記載では便宜上、上述した親和性のある分子を固定していない微小固体担体を未標識担体と呼び、これに対してウイルス表層の蛋白質に親和性分子を固定した担体(本発明担体)を分子標識担体と呼ぶ場合がある。
【0010】
ここで、ウイルス表層の蛋白質に親和性のある分子とは、表層の蛋白質を認識して電気化学的または化学的に結合することのできる分子を意味し、その様な分子としては、例えばポリクローナル/モノクローナル抗体、CD4(HIVにおいては、リンパ球のバインディングサイトとして知られている)等の可溶性蛋白質、ポリペプチド等が挙げられる。尚、本発明で対象となるウイルスの様に変異が激しく抗体の作製が困難であったものについては、特定領域のペプチドのみを抗原に用いて抗体を効率よく作製する方法がTamらによって提案されており、本発明においてもその適用が可能である(James P. Tam. In Synthetic Peptide: Approaches to Biological Problems, ed. J. P. Tam and E. T. Kaiser, Multiple antigen peptide systems: A model design for synthetic peptide vaccine and immunoassay, pages 3-18, 1989, Alan R. Liss, Inc.)。
【0011】
また、本発明に用いられる未標識担体としては、ラテックス、ゼラチン、ポリスチレン、金コロイド等、通常の凝集法に用いられる球状担体であれば特に限定されない。これら担体のサイズは、0.3nm〜20μmの範囲内であれば任意のサイズを使用することが可能であり、凝集判定方法によって好適なサイズを適宜選択し得る。例えば凝集の有無を肉眼で判定する場合には、肉眼で容易に観察することのできる0.2〜3μmのサイズを用いることが好ましく、一方、分光学的手法を用いて凝集の有無を判定する場合には0.2μm以下でも構わない。また、これらの担体は何色に着色されていても良く、どの判定方法を選択するかによって適宜決定されることが好ましい。
【0012】
これらの未標識担体は、精製水や緩衝液、血清等の溶液中に予め分散させておいても良いし、あるいは凍結乾燥品を、用時、適当な溶媒(例えば精製水や緩衝液等)を加えて溶解しても良い。
【0013】
次に、上述した本発明のウイルス凝集検査薬を含有するキットを用いて、ウイルスを検出する方法について説明する。
本発明のウイルス検査用キットには、上記ウイルス凝集検査薬の他に、陽性対照試薬、および必要に応じて陰性対照試薬が含まれる。
【0014】
このうち陽性対照試薬としては、通常の抗体検査法の場合と同様、標的ウイルスを有する患者血清に加熱処理や化学処理等を施して非感染性状態とし、しかも判定可能な状態にしたものを用いることもできるが、本発明者らの研究によれば、未標識担体の表面に、ウイルス表層の蛋白質の一部または全部を固定した、いわゆる偽ウイルスモデルの使用が、より効果的であることが分かった。即ち、検査時における取扱い上の安全性や陽性対照としての品質確保等を考慮すれば、後者の偽ウイルスモデルを使用することが推奨される。
【0015】
また、本発明に用いられる陰性対照試薬としては、標的ウイルスを含まない健常者の血清、緩衝液、塩類含有水溶液、ウイルスの外套蛋白質を含有するもの等が挙げられる。これらのうち、本発明キットにおける陰性対照としての品質確保といった観点からすれば、表層の蛋白質の一部または全部を含有するものを使用することが同様の趣旨で推奨され、具体的には、精製水や緩衝液、血清等の溶液中に予め分散させておいても良いし、あるいは凍結乾燥品を、用時、適当な溶媒(例えば精製水や緩衝液等)を加えて溶解しても良い。
【0016】
本発明のウイルス検査用キットの具体例として、HIV検査用キットの一例を挙げ、その使用方法を説明する。
[HIV検査用キット]
構成品目:
▲1▼抗gp120−分子標識Latex試薬、2ml
▲2▼陽性対象[偽HIV;gp120標識−金コロイド]、500μl
▲3▼陰性対象[gp120]、500μl
▲4▼凝集板、20枚
▲5▼検体希釈液、50ml
【0017】
使用方法:
1.分子標識Latex試薬は、室温に放置し常温に戻してから使用する。
また添加前には、泡立てない様に混和し、均一な懸濁状態にしておく。
2.凝集板のサークル内に、上記分子標識Latex試薬を20μl加える。
3.その上に、検体あるいは陽性対照/陰性対照をそれぞれ20μlずつ加え、マイクロピペットの先端で均一に混和する。
4.凝集板を手に持って、1〜2分間ローリング混和する。
5.陽性対照試薬については、凝集像がはっきりと認められると共に、陰性対照については凝集像が認められないことを確認する。
【0018】
以下、製剤例および実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例及び試験例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0019】
【実施例】
製剤例1
活性化ラテックスビーズ(ポリサイエンス社製、粒径0.7μm)懸濁液に、抗gp120モノクローナル抗体(1mg/mlのほう酸緩衝液、pH8.3)を等量混和し、37℃で1時間反応させた。反応終了後、更にウシ血清アルブミン(10mg/ml)を加えてその濃度が0.1%になる様に調整し、未反応活性基のブロッキング化を室温で30分間行った。その後、遠心操作を繰り返して未反応物を除去すると共に、リン酸緩衝液(pH7.4)に置換してHIV検査薬を得た。
【0020】
陽性対照としては、0.3μmの金コロイド(NanoProbe 社製)に、バキュロバイラスで発現させたリコンビナントgp120を反応させて標識したものを調製し、陰性対照としては、該リコンビナントgp120をリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解したものを調製した。
【0021】
製剤例2
アビジン標識ラテックスビーズ(Molecular Probe 社製)懸濁液に、ビオチニル化した抗NS(HCV)モノクローナル抗体を等量混和し、37℃で1時間反応させることによりHCV検査薬を調製した。陽性対照としてはリコンビナントNSを、陰性対象としてはヒトアルブミンを夫々金コロイドに標識して用いた。尚、NSとはnon structure protein の略称である。
【0022】
製剤例3
アルデヒド基修飾ポリスチレンビーズ(Interfacial Dynamics社製,粒径0.2μm)懸濁液と抗gp120モノクローナル抗体(1mg/ml精製水)を等量混和し、更にトリエチルアミン(10mg/ml精製水)を、その濃度が0.1%になる様に加え、室温で1時間反応させることによりHIV検査薬を調製した。陽性対照/陰性対照の調製は、製剤例1に準じて行った。
【0023】
製剤例4
マレイミド化金コロイド(Molecular Probe 社製,粒径3nm)に、抗NS(HCV)モノクローナル抗体を用いて調製したSH基導入Fab’抗体を反応させることによりHCV検査薬を調製した。陽性/陰性対照の調製は、製剤例2に準じて行った。
【0024】
製剤例5
アミノ基修飾ラテックスビーズ(Interfacial Dynamics社製,粒径0.2μm)をグルタールアルデヒドで処理した後、抗gp120モノクローナル抗体(1mg/mlのほう酸緩衝液、pH8.3)を等量混和し、反応させた。反応終了後、トリエチルアミンで未反応活性基をブロックしてHIV検査薬を得た。陽性対照/陰性対照の調製は、製剤例1に準じて行った。
【0025】
製剤例6
活性化ラテックスビーズ(Polysciences社製,粒径0.7μm)懸濁液に、バキュロバイラスで発現したリコンビナントCD4(100μg/mlのほう酸緩衝液,pH8.3)を等量混和し、37℃で1時間反応させることによりHIV検査薬を調製した。陽性/陰性対照の調製は、製剤例1に準じて行った。
【0026】
製剤例7
全コロイド(Amersham Life Science 社製,粒径0.3μm)懸濁液に、抗gp120ポリペプチド溶液を等量混和した後、37℃で1時間反応させることによりHIV検査薬を調製した。陽性/陰性対照の調製は、製剤例1に準じて行った。
【0027】
製剤例8
活性化ラテックスビーズ(Polysciences社製,粒径0.7μm)懸濁液に、抗NS(HCV)モノクローナル抗体液を等量混和した後、37℃で1時間反応させることによりHCV検査薬を調製した。陽性/陰性対照の調製は、製剤例2に準じて行った。
【0028】
実施例1
培養されたHIV保存株(HTLV−III B)を用いて、製剤例7に準じて作製したHIV検査薬の感度試験を行った。尚、この保存株の培養上清は、既知のHIV抗体検査薬(セロディアHIV、富士レビオ社製)では陰性を示す。試験を実施するに当たっては、製剤例7に記載の陽性対照では陽性を示し、陰性対照では陰性を示すことを確認すると共に、HIV−2型であるLAV−2には全く反応しないことを確認したうえで、この保存株の培養上清を種々の希釈倍率で希釈し、製剤例7の検査薬と反応させた。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表の結果から明らかな様に、本発明の検査薬を用いれば、105 の希釈倍率下においても感度良く検出することができた。尚、HTLV−III B保存ウイルス(104-5 個/ml)の希釈限界倍率は105 倍であり、この希釈倍率は、ウイルスが存在すると考えられる限界値であった。
【0031】
実施例2
製剤例7のHIV検査薬を用い、HTLV−III B保存株の培養上清(104-5 個/ml)を、非働化したヒト血清で10倍ずつ順次希釈した場合の感度を調べた。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表2の結果から明らかな様に、本発明の検査薬を用いれば、HIVをヒト血清のみで10,000倍希釈してもその感度に影響を及ぼすことがなく検出可能であることが分かった。
【0034】
実施例3
製剤例8のHCV検査薬を用い、表3に示す種々の患者由来の血清を用いて感度試験を行った。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3に示す様に、本発明のHCV検査薬を用いれば、C型肝炎のみを特異的に検出することができることが分かった。
【0037】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、従来の抗体検査法に比べて、以下の様な優れた利点を有するものである。
▲1▼本発明では抗体を介さずに直接ウイルスを検出するものであるから、従来の抗体検査法の様に、患者の血清中に抗体が形成されるまで(約2〜3カ月)のタイムラグを埋めることができ、感染後、速やかに標的ウイルスを検出することが可能になる。
▲2▼母子感染経路によって感染した子供や膠原病などの自己免疫疾患患者等の様に、従来の抗体検査法ではウイルスの検出が困難であった場合においても、感度良く検出することができる。
▲3▼従来の抗体検査法では検出不可能であった微量のウイルスでも、感度良く検出することができる。
▲4▼従来の抗体検査法では、陽性対照として標的ウイルスを有する患者血清を用いなければならなかったのに対し、本発明によれば、微小固体担体の表面に、ウイルス表層の蛋白質を固定させたものを使用することができるので、検査側の安全性を確保するといった観点からも非常に推奨される。
Claims (4)
- 表層蛋白質を有するウイルスを直接、検出するウイルス検出方法であって、
微小固体担体の表面に、ウイルス表層の蛋白質に親和性のある分子を固定させたウイルス凝集検査薬を、前記ウイルスを含むサンプルと接触させる工程と、
陽性対照試薬および陰性対照試薬を用いて凝集の有無を確認する工程と、を包含し、
前記陽性対照試薬は、微小固体担体の表面に、ウイルス表層の蛋白質の一部または全部を固定させた偽ウイルスモデルであり、
前記陰性対照試薬は、ウイルス表層の蛋白質の一部または全部を含有する溶液であり、
前記親和性のある分子は、モノクローナル抗体、CD4またはポリペプチドであることを特徴とするウイルス検出方法。 - 前記ウイルスが、エイズウイルスまたはC型肝炎ウイルスである請求項1に記載のウイルス検出方法。
- 前記微小固体担体は、ラテックスビーズ、ポリスチレンビーズ、または金コロイドである請求項1または2に記載のウイルス検出方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のウイルス凝集検査薬、請求項1に記載の陽性対照試薬、および請求項1に記載の陰性対照試薬を含んでなることを特徴とするウイルス検査用キット。
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