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JP3712934B2 - 光導波路部材、その製造方法及び光モジュール - Google Patents

光導波路部材、その製造方法及び光モジュール Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本願発明は光通信などで用いられる光導波路に関するものである。更に本願発明は、特に光ファイバを導波路に実装する時に用いるアライメント用V溝構造を有するポリマ光導波路基板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、通信用光モジュールの高機能化及び小型化を目的に、石英光導波路を用いた光モジュールが検討されている。既に、石英光導波路を用いた光スプリッタやアレイ回折格子型波長合分波器などが実用化されている。また、石英導波路を有する基板に、レーザダイオードやフォトダイオードなどの半導体素子をハイブリッド実装することによって、小型で低コストな光送受信モジュールも実現化されている。一方、光導波路を構成する材料としては、石英の他に高分子樹脂、すなわち、ポリマも検討されている。ポリマ導波路は、スピン塗布によって成膜できるので、石英導波路に比べて生産性が高く、低コストで導波路基板を作製できる。このため、石英導波路の代わりにポリマ導波路を用いることで、上記モジュールの抜本的な低コスト化が期待できる。これらの光モジュールでは導波路と光ファイバを低損失で光結合する必要がある。通常、光通信で用いられるシングルモードファイバを使用した場合、導波路とファイバを低損失で結合するためには導波路とファイバの位置をサブミクロンの精度で位置決めして固定する必要がある。これを短時間かつ低コスト行うために、光導波路を形成するシリコン基板に、光ファイバをアライメントするためのV形状の溝を集積することが検討されている。石英光導波路を有するシリコン基板にアライメントV溝を形成した例としては、例えば、特開平8−21772、特開平8−29638、電子情報通信学会1996年総合大会講演論文集エレクトロニクス1分冊、444頁、講演番号(SC−2−8)などがある。
【0003】
又、基板にあらかじめV溝を作製した後に、ポリマ導波路を形成した例としては、日本国、公開公報、特開平10−288717号が挙げられる。又、ポリマ導波路とV溝構造をそれぞれ別に作製して位置合わせして張り合わせる方法が日本国、公開公報、特開平11−202158号、あるいは特開2000−47055号に見られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明の第1の課題は、低コストで製造の容易な光導波路部材を提供するものである。
【0005】
本願発明の第2の課題は、低コストで製造の容易な光導波路部材の製造方法を提供するものである。
【0006】
本願発明は、わけても、V溝付ポリマ導波路基板を有し、樹脂の膜厚不均一によるファイバと導波路間の損失増加を最小限に押さえて良好な光結合が得られる光導波路部材の構造を提供せんとするにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本願発明の、代表的な第1の形態は、V字型溝部と、当該V字型溝部の延在方向に、このV字型溝部と第2の溝部を挟んで対向した平坦な領域とを有するシリコン基板と、前記V字型溝部に設けた光導波路と、前記平坦な領域の上部に、当該光導波路のコア層を構成する第1の樹脂層、及び当該光導波路のクラッド層を構成する第2の樹脂層と、を少なくとも有し、前記第1、及び第2の各樹脂層は前記平坦な領域の第1の溝部と対向する端面の近傍でその厚さが減少しており、且つ前記V形状のV溝に光ファイバを実装した時に、前記光ファイバのコアの中心の高さが前記境界から前記V形状の溝よりも離れた膜厚がおよそ平坦な個所での光導波路のコアの中心の高さよりも低くい高さになるように、前記V形状の溝の形状が設定されていることを特徴とする光導波路部材である。尚、V字型溝部と第2の溝部を挟んで対向した平坦な領域とは、当該V字型溝部よりみれば、凸部状に上がっている部分となる。以下、同様である。
【0008】
本願発明の、代表的な第2の形態は、V字型溝部と、当該V字型溝部の延在方向に、このV字型溝部と第2の溝部を挟んで対向した平坦な領域とを有するシリコン基板と、前記V字型溝部に添い且つ前記第2の溝部の所定壁面に対向して設けた光導波路と、前記平坦な領域の上部に、接着材の層、当該光導波路の第1のクラッド層を構成する第3の樹脂層、当該光導波路のコア層を構成する第1の樹脂層、及び当該光導波路の第2のクラッド層を構成する第2の樹脂層と、を少なくとも有し、前記第1、第2、及び第3の各樹脂層は前記平坦な領域の第1の溝部と対向する端面の近傍でその厚さが減少しており、且つ前記光導波路のコア領域の端面は前記第1の樹脂層が構成するコア層の端面に対向していることを特徴とする光導波路部材である。
【0009】
本願発明の、代表的な第3の形態は、シリコン基板上の一部に光導波路が形成され、前記光導波路のコアまたはクラッドが高分子樹脂から構成され、前記光導波路に対して光ファイバを位置決め固定するためのV形状の溝と、前記光導波路の境界に前記V形状の溝と垂直な方向に伸びる溝とを前記シリコン基板に有し、前記光導波路を構成するコアまたはクラッドの膜厚が前記境界近傍で他の部分よりも薄くなっており、前記V形状のV溝に光ファイバを実装した時に、前記光ファイバのコアの中心の高さが前記境界から所望位置での光導波路のコアの高さよりも低い高さになされていることを特徴とする光導波路部材である。この場合、光ファイバと光導波路の間で高効率な光結合が得られる高さになるように、前記V形状の溝の形状が設計されている。
【0010】
本願発明に係わる製造方法の主な形態は、下記の通りである。
【0011】
製造方法の第1の形態は、シリコン基板上に、コアまたはクラッドがポリマから構成された光導波路と前記光導波路に対する光ファイバを位置決め固定するためのV形状の溝とを少なくとも有する光導波路部材の製造方法であって、前記シリコン基板に前記光ファイバの長手方向に向う所望のV形状の溝を形成し、この後、前記光導波路用のポリマを塗布して当該光導波路を形成し、前記光ファイバの搭載する領域の前記ポリマによる高分子樹脂膜を除去する、ことを特徴とする光導波路部材の製造方法である。
【0012】
製造方法の第2の形態は、前記光導波路を形成した後、前記光導波路と前記光ファイバの搭載する領域との間にこの両者を分ける溝を形成し、次いで、前記光ファイバの搭載する領域の前記ポリマによる高分子樹脂膜を除去することを特徴とする前記に記載の光導波路部材の製造方法である。
【0013】
製造方法の第3の形態は、前記シリコン基板に前記光ファイバの長手方向に向う所望のV形状の溝を形成した後、前記シリコン基板のポリマ層を残す領域に前記シリコン基板とポリマの密着性を高める接着層を設け、次いで、前記光導波路を形成することを特徴とする前記に記載の光導波路部材の製造方法である。
【0014】
製造方法の第4の形態は、シリコン基板にV字型溝部を形成する工程、前記V字型溝部を構成する平坦な領域であって且つ当該光導波路の光の進行方向に存在する領域の上面に接着材の層を形成する工程、こうして準備されたシリコン基板の少なくともV字型溝部及び当該V字型溝部を構成する平坦な領域の上面を覆って当該光導波路のコア層を構成する第1の樹脂層、及び当該光導波路のクラッド層を構成する第2の樹脂層を形成する工程、光導波路の端面に対向する壁面を有する第2の溝部を形成する工程、当該光導波路の光の進行方向に添って存在する前記V字型溝部を構成する平坦な領域上に存在する少なくとも前記第1、及び第2の各樹脂層を除く工程を有することを特徴とするものである。
【0015】
本願発明に係わる他の諸形態は、以下の欄に説明されるであろう。
【0016】
【発明の実施の形態】
本願発明の具体的な実施の諸形態を説明するに先立って、本願発明の更なる諸技術並びに本願発明の優位性等について説明する。
【0017】
前述の従来の技術の欄に例示した例は、あくまで石英導波路にアライメントV溝を集積したものであり、シリコン基板上に石英導波路を作製した後に基板一部の石英層を除去してシリコン基板を露出し、シリコン基板をKOH等の強アルカリ性の液によってウエットエッチングすることでV溝を形成している。しかしながら、同プロセスをポリマ導波路に適用すると一般にポリマは強アルカリに対して耐性が無く、ポリマ導波路が溶解したり基板から剥離したりするという問題が生じる。この問題は、シリコン基板にV溝を形成した後にポリマを塗布して導波路を形成することにより回避できる。本願発明はこの方法を用いるものである。
【0018】
本願発明の代表的例は、以下に示す手順に従ってアライメントV溝付ポリマ導波路基板を作製することである。(1)シリコン基板に異方性のウエットエッチングを用いてアライメントV溝を形成する。(2)必要に応じて基板表面に熱酸化シリコン膜などの無機膜を設ける。(3)シリコン(基板表面に無機膜を設けた場合は無機膜)とポリマの接着力を強める接着層を導波路部(ポリマ導波路を残す部分に)に設ける。(3)基板全面にワニスを塗布・ベークしてポリマ層からなる下部クラッド層、コア層を設ける。(4)フォトリソグラフィとドライエッチングによりコア層を導波路パターンに加工する。(5)基板全面にワニスを塗布・ベークしてポリマ層からなる上部クラッド層を設ける。(6)V溝領域とポリマ導波路領域の間に、ダイシングソーによってシリコン基板に溝を形成する。(7)V溝領域のポリマ層を剥離・除去する。
【0019】
上述の製造方法の要点をまとめれば、次の通りである。
【0020】
第1は、シリコン基板上の一部に光導波路が形成され、前記導波路のコアまたはクラッドがポリマから構成され、前記導波路に光ファイバを位置決め固定するためのV形状の溝を前記シリコン基板に有し、前記V溝と前記導波路の境界に前記V溝と垂直な方向に伸びる矩形状の溝を前記シリコン基板に有する光導波路基板の製造方法であって、前記基板に前記V溝を形成した後に、前記基板全面にポリマを塗布して前記導波路を作製する。
【0021】
第2は、前記導波路を作製した後に、前記矩形状の溝を形成する際にポリマ層を切断し、引き続きV溝上のポリマ層のみを基板から剥離することである。
【0022】
第3は、前記V溝を形成した基板のポリマ層を残す導波路部分にのみに基板とポリマの密着性を高める接着層を設けた後に、前記導波路を作製することである。
【0023】
ここで導波路を構成するポリマには無機物との密着性が悪いフッ素を含有する樹脂を用いたほうが良い。又、接着層には、ポリイミドシリコン樹脂、フッ素を含有しないポリイミド、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機チタン化合物のいずれかまたはその組合せからなる複合膜などを用いることができる。特に、フッ素化したポリイミドを導波路材料に用いれば、剥離は極めて容易にできる。フッ素化ポリイミドを導波路材料に用いた場合には、接着層としてポリイミドシリコーン、有機金属酸化膜、フッ素を含まないポリイミド、あるいはそれらの複合膜などが好ましい。
【0024】
本願発明になる製造方法によれば、基板に塗布したポリマはベーク中にV溝内に流れ込み、V溝の近傍でクラッド層やコア層が薄くなるために導波路特性やファイバとの結合特性が劣化すると言う第1の難点は、十分回避されている。
【0025】
更に、本願発明の光導波路部材によれば、導波路作成後にV溝内のポリマ層を除去する際に、V溝内のポリマ層は流れ込みによって極めて厚くなっており、ドライエッチング等の手法で除去するのが困難となる第2の難点は十分回避されている。即ち、本発明の第2の難点はV溝を作製した後にポリマを塗布して作製したV溝付ポリマ導波路基板において、実装するファイバのコアの中心の高さがV溝から十分に離れた平坦な領域の導波路のコアの中心の高さよりも低くなるようにV溝の幅(形状)を設定する。境界にダイシングを用いて溝を形成する際には、ポリマ層の膜厚がV溝近傍で急激に変化している領域を削除するように、溝の幅と位置を設定する。特に前記境界の溝の幅を100μm 〜220μmに設定する。特に結合損失を小さくするには基板表面から図ったコア層中心の高さを15μm以下に設定する。特に発生する損失を最小に抑えるためには接着層とシリコン基板の間に熱酸化膜等の無機膜を設けて、同無機膜もシリコン基板への光の漏洩を防止するクラッド層として作用させる。光結合損失を劣化させないように下部クラッド層の厚さは2μm以上確保し、接着層の厚さは0.5μm以下に設定する。上述した本願発明に係わる諸事項は、本願発明の諸形態、諸実施の諸形態に適用できるものであることは言うまでもない。
【0026】
日本国、公開公報、特開平10−288717号では、基板にあらかじめV溝を作製した後に、ポリマ導波路を形成しているが、前述の難点は回避していない。更に、実施の際には基板上に極めて厚いメタル膜を形成する必要があることからコスト高である。又、前述した別のアプローチとしてポリマ導波路とV溝構造をそれぞれ別に作製して位置合わせして張り合わせる方法、例えば、特開平11−202158号、特開2000−47055号も、両者をサブミクロンの精度で位置あわせして固定する作業は、現実に極めてコスト高である。これらに比較し、本願発明によれば、極めて安価に、高性能の光導波路部材を提供することが出来る。
【0027】
本願発明に係るアライメントV溝付ポリマ光導波路基板を図1に、前記光導波路基板の作製プロセスを図2、図3に示す。図1の(a)はその主要部の斜視図であり、図1の(b)は光の進行方向に平行な面での断面図である。図2はその製造プロセスを順次示した斜視図であり、図3はその製造プロセスを順次示した断面図である。これらの断面図は光の進行方向に平行な面での断面図であり、(a)、(b)等の各図は図2のそれと対応した状態を示している。これらの図を用いて、本願発明に係る導波路基板の作製方法の概要と、当該導波路基板においてファイバと低損失な光結合を実現するための構造について説明する。尚、図1の(a)は図2の(g)に相当する光導波路部材の斜視図で、図1の(b)はこれに光ファイバが搭載された状態を示した断面図である。符号9は光ファイバのコア領域、符号8はそのクラッド領域である。これらの図の詳細は以下に詳細に説明されるので、ここでは仔細を省略する。
【0028】
本導波路基板は以下のプロセスで作製する。シリコン基板1に、通例の異方性ウエットエッチングを用いてアライメントV溝2を形成する(図2(a)、図3(a))。
【0029】
基板全面に、ポリマと基板の密着性を確保するための接着層3を、スピン塗布などの方法で設ける。フォトレジ工程とエッチングを用いて、シリコン基板1のV溝領域31の接着層を除去する(図2(b)、図3(b))。ここで接着層3としては、アルミニウム、ジルコニウム、チタンなどの有機金属キレートやエステル溶液を塗布・ベークして得られる有機金属化合物や、シリコンを含有したシリコン樹脂やフッ素を含有しない樹脂、あるいは両者の複合膜などを用いることができる。前記有機金属化合物自体は例えば特開平7−174930などに見られるもので十分である。また、前記シリコン樹脂やフッ素を含有しない樹脂自体は、例えば国際公表公報WO98/37445号に見られるもので十分である。尚、フッ素を含有しない樹脂には、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネイト、アクリル樹脂などを、更に挙げることが出来る。
【0030】
ここで密着層3の膜厚を、有機金属酸化膜の場合は0.1μm以下、樹脂の場合は0.5μm以下と比較的薄くしても実用上十分な接着強度が得られる。従って、前記V溝内の密着層に形成される厚さは、V溝に液が流れ込むことによって増加したとしても高々数μm以下で十分である。この為、ウエットエッチングやドライエッチングによってV溝内の接着層を除去することは支障ない。
【0031】
次に、屈折率の異なる2種類のポリマを塗布及びベークして、下部クラッド層4、コア層5を設ける(図2(c)、図3(c))。これらの層は塗布・ベークの際にV溝内部に流れ込むためにV溝内では厚く、V溝近傍では薄くなる。更に、通例のフォトレジ工程とドライエッチングを用いて、前記コア層5を所望形状にエッチングして、導波路パターン5を形成する(図2(d)、図3(d))。
【0032】
再度、ポリマを塗布及びベークして上部クラッド層6を設ける(図2(e)、図3(e))。尚、ここで、光導波路を構成する為の高分子樹脂としては、フッ素化ポリイミド、フッ素化ポリカーボネイト、フッ素化アクリル樹脂、重水素化シロキサン、重水素化アクリル樹脂などを用いることが出来る。
【0033】
次に、ダイシング装置を用いて、V溝領域と導波路領域の境界に矩形状の溝7を設ける(図2(f)、図3(f))。これによってV溝領域と導波路領域のポリマ層が分離される。V溝領域31のポリマ層は接着層3が無いために基板から剥離することができ、これによってV溝付導波路基板が完成する(図2(g)、図3(g))。
【0034】
本願発明では、剥離によってV溝領域31の不要なポリマ層を除去するので、V溝2内のポリマ層が極めて厚くても支障がない。これに対して、例えばドライエッチングを用いてV溝領域のポリマ層を除去しようとすると、ポリマ層の厚さは平坦部でも20μm 〜30μm、V溝内部ではその倍程度になるためにエッチング時間が極めて長くなったり、溝が深いために溝内にエッチングの残留物ができるという問題がある。また、ウエットエッチングを用いた場合も膜厚が極めて厚いために大きなサイドエッチングを生じるという問題があり、いずれも実施困難である。
【0035】
本願発明を実施するには、V溝領域のポリマ層の剥離を容易にするために下部クラッド層に基板表面と密着性の悪いポリマ材料を選択する必要がある。一般にフッ素を含むポリマ(フッ素化ポリマ)は、C(炭素)−F(フッ素)結合が化学的に安定なために界面での化学的結合が起こりにくく、シリコンや酸化シリコンなどの無機物との密着性が極めて弱いことが知られている。従って、下部クラッド層にフッ素を含む樹脂を用いれば、上記剥離工程を容易に実施できる。また、ポリマ材料としてポリイミドを用いれば、ポリイミドは塗布・ベークする際にイミド化と呼ばれる脱水反応が起こり、大きな体積収縮が起こるために大きな引張り応力を膜内に生じ、剥離が生じやすい。従って、下部クラッドにフッ素化ポリイミドを用いれば上記剥離を極めて容易に実施できる。こうした、ポリマ材料を具体的に列挙すれば、例えば、フッ素化ポリイミド、フッ素化ポリカーボネイト、フッ素化アクリル樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂などを挙げることが出来る。
【0036】
次に、あらかじめV溝を設けたシリコン基板にポリマを塗布して作製したV溝付ポリマ導波路基板において、ファイバとポリマ導波路間で低損失な光結合が得られるための構造上の条件について述べる。
【0037】
先に述べたように、V溝を作製した後に光導波路を作製すると、V溝近傍で下部クラッド層、コア層、クラッド層が薄くなり、導波路の伝播特性やファイバとの結合特性が劣化することが懸念される。しかし、本願発明の実施に際して、ダイシング溝7の幅や位置、V溝の幅(W1)(すなわち実装される光ファイバのコアの高さ)、あるいは導波路のコアの高さを所定の範囲内に設定することによって、この劣化を極めて小さく(例えば<0.1dB)押さえることが出来る。V溝近傍の塗布膜厚の変化を考慮した数値計算の結果を図6に示す。
【0038】
図4は、V溝付基板にポリマを塗布した時のV溝近傍の膜厚変化を示す。本グラフは、V溝基板にフッ素ポリイミドワニスを塗布して得られた実験データであり、これに基づいて前記の計算を行った。図4の横軸は当該導波路構造の光の進行方向に添った位置を、縦軸は塗布された有機樹脂層の厚さを相対値で示したものである。図4に示されるように、V溝に近づくに従って膜厚が薄くなるように、膜厚が変化していると、この光導波路を伝播する光の強度分布のピークはV溝に近づくに従って下側にシフトする。図5はこの状態を説明する図である。接着層3の上に、第1のクラッド層4、コア層5及び第2のクラッド層6が搭載されるが、前記したようにV溝7の近傍71で、当該光導波路を構成する諸層の厚さが相対的に薄くなる。この位置のシフトによる光結合損失の増加を防ぐためには、導波路端の光強度のピーク71と光ファイバのコアの中心72が一致するように光ファイバの位置を下げる。このことは具体的には、シリコン基板1のV溝2の幅W1を広げることである。V溝2に光ファイバを搭載した場合、V溝2の幅が広いと、光ファイバの位置は下がる。図5には、光ファイバの高さシフト量がΔと示される。尚、V溝の幅は、例えば、図1にW1として例示される。ここで注意すべきは、端面付近で導波路は下側に曲がっているので、端面での光強度のピークは端面でのコアの中心よりもやや上になることである。従って結合損失を最小にするには、光ファイバのコアの中心が、平坦部の導波路のコアの中心よりも低くかつ端面の導波路のコアの中心より上になるようにW1を設定する。
【0039】
光結合損失が最小となる光ファイバの高さシフト量Δと、ファイバ−導波路間の結合損失の増加の関係の計算例を図6の(a)、(b)に示す。図6において、V溝によるポリマの膜厚変化が無い場合を0dBとしている。図6の横軸はダイシング溝7を形成する時に削除する導波路領域の幅を示し、hは平坦部での導波路のコア中心の基板からの高さ(図1(b))を示す。図6の(a)は損失が最小となる光ファイバの高さシフト量Δ、図6の(b)は結合損失の増加を例示する。この計算例ではポリマの屈折率を1.52、コアクラッドの屈折率差を0.4%、コアの大きさを平坦部で6x6μmとした。光ファイバの高さを調整しても損失増加が残る主原因は、導波路が湾曲しているために導波路から出る光の出射方向が傾きθを有するためである。この傾きは図5にθとして例示した。
【0040】
この損失増加を小さくするには、ダイシングで削除する導波路領域の幅を大きくしてやれば良い。また、V溝付近のポリマ層の膜厚は塗布するプロセス条件等によって極めて敏感に変化するので、安定性の観点からもV溝近傍の膜厚が急激に変化している領域をできるだけ多く削除したほうが良い。しかし、一方、ダイシング溝の幅を大きくするとファイバのアライメントをするV溝と導波路端面の距離が大きくなるために、ファイバの曲がり等による導波路端面でコア位置のブレが大きくなって、結合損失のばらつきが大きくなるという問題が生じる。両者を考えると、削除する導波路領域の幅(W2)は50μmないし170μm程度が良い。V溝領域でのV溝が浅くなっている部分を削除するためには、V溝領域をおよそ50μm削除しなければならないことも考えると、ダイシングで形成する溝の幅としては100μm 〜220μm程度が良い。また、図6の(a)から分かるように、hが小さいほうが導波路の湾曲が小さくなり損失増加を小さく押さえることができる。たとえば、削除する導波路領域の幅を100μmとした場合に、損失増加を0.05dB以下と極めて小さくに押さえるにはhを15μm以下に設定すれば良い。ところが、通常シングルモードの導波路ではファイバとの結合効率などを考慮してコアとクラッドの屈折率差は0.3%〜0.6%に設定されており、このためシリコン基板に光が漏洩して導波路特性が劣化しないようにするためにはすくなくとも15μmの下部クラッド層が必要である。従ってhを15μm以下とすることは困難である。
【0041】
これに対しては、図7に示すような方策がある。この方策は、ポリマ導波路を下部クラッド層よりも低い屈折率を有する無機膜10の上に形成して、無機膜8も下部クラッド層の一部として光を閉じ込める構造を用いることで解決できる。尚、図7において、無機層10以外はこらまで説明したものと同様である。例えば、下部クラッド層に屈折率が1.5程度のポリマを用いた場合には、無機膜10として酸化シリコン膜(屈折率1.46)を用いれば、酸化膜とポリマの屈折率差が大きいために酸化膜の膜厚が1μm〜2μmと薄くてもシリコン基板への光の漏洩を防止できる。また、この際に下部クラッド層の厚さが2μm以上あれば、導波路を伝播する光のスポット形状は従来構造とほとんど変らずに良好な光結合が得られる。また、この場合は接着層3にも導波路を伝播する光が及んでいることになるが、接着層の厚さをコア層に比べて1桁以上薄く(例えば0.5μm以下)に設定すれば、接着層による導波路の光学特性の劣化も十分に小さくすることができる。
【0042】
以下に本発明の各具体的実施例について述べる。
<実施例1>
実施例1に係るV溝付導波路基板の構造を図1に、その作製方法を図2、図3に示す。本基板は以下のプロセスで作製した。これらの各図の基本構成は前述した通りである。
【0043】
先ず、(1、0、0)面を有するシリコンウエハ1に熱酸化シリコン膜1μmを形成する。フォトレジ工程とドライエッチングによってV溝2を形成する領域の酸化シリコン膜を除去する。KOH水溶液を用いた通例のシリコン結晶に対する異方性エッチングにより、2つの(1、1、1)面からなるV溝2を形成する。エッチングマスクとして用いた酸化シリコン膜はフッ酸水溶液によって除去する(図2(a)、図3(a))。
【0044】
V溝を形成した基板にポリイミドシリコン樹脂のワニス(例えば、日立化成工業(株)製、商品名PIXシリーズ)をスピン塗布及びベークして接着層3(厚さ0.5μm)を基板全面に形成する。通例のホトレジ工程と酸素ガスを用いたドライエッチングによりV溝領域の接着層を除去する(図2(b)、図3(b))。
【0045】
屈折率の異なる2種類のフッ素化ポリイミドのワニス(フッ素化ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸のN、N−ジメチルアセトアミド溶液、例えば日立化成工業(株)製、商品名OPIシリーズ)を順次塗布及びベークして、下部クラッド層4(n(屈折率)=1.520、t(平坦部の膜厚)=15μm)、コア層5(n=1.526、t=6.0μm)を形成する(図2(c)、図3(c))。この時、V溝にワニスが流れ込むために下部クラッド層4、コア層5の膜厚はV溝近傍で薄くなった。この状態は図4に例示した通りである。
【0046】
フォトレジ工程と酸素のドライエッチングによって、コア層5の不用部分を除去して導波路パターンを形成する(図2(d)、図3(d))。この時、V溝内は塗布膜厚が厚いためにコア層5が残ることも有り得る。再びフッ素化ポリイミドワニスを塗布、ベークして上部クラッド層6(n=1.520、t=20μm)を設ける(図2(e)、図3(e))。次にダイシング装置を用いて、V溝領域と導波路領域の境界に溝7を設ける。ここで、溝7の幅(W2)は150μmとし、V溝領域が50μm、導波路領域が100μm削除されるように溝の位置を設定した(図2(f)、図3(f))。ウエハをダイシングより素子に切り出すと、V溝領域のポリマ層は基板との接着強度が弱いためにダイシング直後に自然に剥離してV溝が露出した(図2(g)、図3(g))。
【0047】
作製したV溝付光導波路のV溝部にコア径125μmのシングルモードファイバを実装、接着して導波路―ファイバ間の結合損失を評価した。様々なV溝幅(W1)に対して結合損失を比較した結果、ファイバのコア中心の高さが基板表面から17.5μm(すなわちΔ=h−17.5=1.0μm)となるV溝幅(W1=128.4μm)の時に損失が最小になり、この時の結合損失の増加はV溝を集積しない場合に比較して0.1dBに押さえることができた。
<実施例2>
実施例2に係るV溝付導波路基板の構造を図7に示す。本基板は接着層3とシリコン基板1の間に熱酸化シリコン膜10が設けられていることが実施例1と異なる主な点である。
【0048】
本基板は以下のプロセスで作製した。まず、実施例1と同様に(1、0、0)面を有するシリコンウエハ1に熱酸化シリコン膜10(t=2μm)を形成する。フォトレジ工程とドライエッチングによってV溝を形成する領域の酸化膜を除去する。KOH水溶液を用いた異方性ウエットエッチングにより2つの(1、1、1)面から構成されるアライメントV溝2を作製する。実施例1と異なり、エッチングマスクとして用いた酸化シリコン膜10は基板表面にそのまま残した。基板全面にポリイミドシリコン樹脂のワニスをスピン塗布・ベークして接着層3(厚さ0.5μm)を基板全面に設ける。レジスト工程と酸素ガスを用いたドライエッチングによって、V溝領域の接着層を除去する。屈折率の異なる2種類のフッ素化ポリイミドワニスを順次塗布・ベークして、下部クラッド層4(n=1.520、t=3.5μm)、コア層5(n=1.526、t=6.0μm)を形成する。フォトレジ工程と酸素のドライエッチングによってコア層5の不要部分を除去して光導波路パターンを形成する。再度、フッ素化ポリイミドワニスを塗布・ベークして上部クラッド層6(n=1.520、t=20μm)を設ける。ダイシング装置を用いて、V溝領域と導波路領域の境界に溝7を設ける。ここで、溝7の幅(W2)は150μmとし、V溝領域が50μm、導波路領域が100μm削除されるように溝の位置を設定した。ウエハをダイシング装置で素子に切り出すと、V溝領域は基板との接着強度が弱いためにダイシング後に自然に剥離してV溝が露出した。
【0049】
作製したV溝付光導波路部材のV溝部にコア径125μmのシングルモードファイバを実装、接着して導波路とファイバ間の結合損失を評価した。様々なV溝幅に対して結合損失を比較した結果、光ファイバの高さが酸化シリコン表面から約6.6μm(すなわちΔ=h―6.7=0.4μm)となるV溝幅(W1=141.0μm)の時に損失が最小となり、V溝を集積しない場合に対する損失増加は0.05dBと極めて小さくすることができた。また、導波路は波長1.3μmで0.3dB/cmの良好な導波路特性を示した。
【0050】
上記実施例1及び2では、接着層としてシリコンや酸化シリコンとの密着性が高いポリイミドシリコン樹脂を特に用いたが、接着層としてはアルミニウム、チタン、ジルコニウムなどの有機金属化合物を用いても良い。有機金属化合物の膜の形成方法としては、各種金属のキレート溶液やエステル溶液をスピン塗布する方法などが適用できる。また、これらの有機金属化合物とフッ素を含まないポリマ(通常のポリイミド、ポリイミドシリコン樹脂など)の複合層を接着層に用いれば、光導波路部ではさらに強く信頼性の高い接着強度を実現できる。これらの接着層をエッチングする手段としては、酸素ガスを用いたドライエッチングの他にアルカリ溶液やフッ酸溶液を用いたウエットエッチングが使用できる。また、上記実施例ではポリマ導波路、ファイバがシングルモードの場合にたいして特に実施したが、導波路、ファイバがマルチモードの場合に対しても同様に実施可能なことは言うまでもない。
【0051】
また、上記光導波路は、下部クラッド層4を有する埋込み型の導波路に対して実施したが、図8に示すようなポリマからなる下部クラッドを有さず、無機膜10を下部クラッドとして用いた光導波路に対しても同様に実施可能なことは言うまでもない。また、V溝の形状としては必ずしも溝の底が尖るまでエッチングを行う必要はなく、セットする光ファイバが底にあたらない程度にエッチングされていれば、図8に示すような形状であっても支障ないことも言うまでもない。こうしたV溝2の形状は本実施例に限ることなく、設計上必要に応じて本願発明に用いることが出来ることは言うまでもない。
<実施例3>
本願発明の第3の実施例は1×2スプリッタモジュールの例である。この例の斜視図を図9に示す。これまでの実施例と同様の部分は同じ符号で示した。
【0052】
本1×2スプリッタモジュールは以下の手順で作製した。実施例1と同様な方法によって、シリコン基板1にV溝2−1〜2−3を形成する。ここで各V溝の幅は128.4μmとして、実装する光ファイバのコアの中心の高さが基板表面から17.5μmになるように設定した。
【0053】
こうして準備したシリコン基板1にアルミニウムキレート溶液(例えば、日立化成工業(株)製、商品名PIQ−Coupler)をスピン塗布及びベークし、さらにフッ素を含まない通常のポリイミド(例えば、日立化成工業(株)製、商品名PIQ)を塗布して有機アルミニウム酸化膜(約30nm)とポリイミド(0.5μm)からなる接着層3を基板全面に設ける。通例のフォトレジ工程とドライエッチング、フッ酸系のウエットエッチングによりV溝領域31の接着層を除去する。屈折率の異なる2種類のフッ素化ポリイミドワニスを順次塗布、ベークして、下部クラッド層4(n=1.520、t=15μm)、コア層5(n=1.526、t=6.0μm)を形成する。通例のフォトレジ工程と酸素のドライエッチングによって、コア層の不用部分を除去して、所望形状のY分岐パターンを形成する。
【0054】
再びフッ素化ポリイミドワニスを塗布・ベークして上部クラッド層6(n=1.520、t=20μm)を設ける。ダイシング装置を用いて、V溝領域と導波路領域の境界に溝7−1〜7−2を設ける。ここで、溝の幅は150μmとし、V溝領域が50μm、導波路領域が100μm削除されるように溝の位置を設定した。ウエハをダイシングより素子に切り出すと、V溝領域は基板との接着強度が弱いためにダイシング後に自然に剥離してV溝が露出した。作製したV溝付光導波路のV溝部に3本のコア径125μmのシングルモードファイバ8−1〜8−3を実装し、UV接着剤にて固定して光スプリッタモジュールを完成した。
【0055】
スプリッタモジュールの損失(ファイバ8−1と8−2の間または8−1と8−3の間の損失)は4.0dB以下と良好な特性が得られた。
<実施例4>
本例は、別な1×2光スイッチの例である。本願発明の光導波路部材はこうした用途にも当然用いることが出来る。本発明に係る1×2光スイッチ構造の斜視図を図10に示す。本光スイッチの基本構成は、実施例3で作製した1×2光スプリッタのポリマ導波路表面に一対の薄膜ヒータ11−1、11−2を設けた例である。前記の一対の加熱手段は分岐した光導波路の各々に対応して設けられる。薄膜ヒータとしては、例えばCr(厚さt=0.3μm)を用いることが出来る。
【0056】
この加熱手段によって、分岐した光導波路の各々の光学特性を制御し、各光導波路の光強度を制御するものである。例えば、INから光を入射した状態でヒータ11−1に電流を流すと、ヒータ直下の導波路の屈折率が低下するために、OUT2の光出力が増加し、ON、OUT1の光出力が減少しOFFとなる。また、ヒータ11−2に電流を流すとOUT1の光出力が増加しON、OUT2の光出力が減少しOFFとなる。ヒータ電力を150mWで動作させた時の消光比は25dB以上、ON側の損失は1.5dBであり良好なスイッチ特性が得られた。
<実施例5>
本例は、光送信(または光受信)モジュールの例である。本願発明の光導波路部材はこうした用途にも当然用いることが出来る。本願発明に係る光送信(または光受信)モジュールの構造の斜視図を図11に示す。
【0057】
本モジュールは以下のプロセスで作製した。前実施例と同様な方法でシリコンウエハ1にV溝2を形成する。さらに基板表面に光導波路の下部クラッド層並びに電極の絶縁膜として作用する熱酸化シリコン膜10(t=1.0μm)を設ける。ここで、V溝の幅は140.2μmとして実装するファイバのコア中心の高さが酸化シリコン膜表面から8.1μmになるように設定した。更に、酸化シリコン膜10上に半導体素子を実装する時に用いるTi/Pt/Au電極12を設ける。
【0058】
こうして準備したシリコン基板1全面にポリイミドシリコン樹脂のワニスをスピン塗布及びベークして接着層3(厚さ0.5μm)を基板全面に形成する。次いで、通例のフォトレジ工程とドライエッチングによって、V溝領域31の接着層を除去する。屈折率の異なる2種類のフッ素化ポリイミドワニスを順次塗布及びベークして、下部クラッド層4(n=1.520、t=5.0μm)、コア層5(n=1.526、t=6.0μm)を形成する。フォトレジ工程と酸素のドライエッチングによって、コア層5の不要部分を除去する。再びフッ素化ポリイミドワニスを塗布及びベークして上部クラッド層6(n=1.520、t=20μm)を設ける。ドライエッチングを用いて、光学部材を搭載する搭載部32のポリマ導波路を完全に除去して電極12を露出する。ダイシング装置を用いて、V溝領域と導波路領域の境界に溝7を設ける。ここで、溝7の幅は150μmとし、V溝領域が50μm、導波路領域が100μm削除されるように溝の位置を設定した。ウエハをダイシングより導波路素子に切り出すと、V溝領域のポリマ層は基板との接着強度が弱いために剥離してV溝が露出した。
【0059】
作製した基板の電極12にAuSn半田を用いて半導体レーザ13を実装し、V溝2にシングルモードファイバを実装・接着して光送信モジュールを作製した。
【0060】
本送信モジュールは、室温30mAで2mW以上の良好な光出力を示した。また、作製した基板の電極12にAuSn半田を用いて導波路型のフォトダイオード13を実装し、V溝にシングルモードファイバを実装・接着して光受信モジュールを作製した。本受信モジュールは0.8A/W以上の良好な受信感度を示した。
<実施例6>
本例は、更に多数の光ファイバを搭載したモジュールの例である。本発明に係る光送信(または光受信)モジュール用導波路基板の構造の斜視図を図12に示す。本基板の、例えばV溝2−1〜2−4に4本の光ファイバアレイを実装することで、並列光伝送(4ch)を使用する光インタコネクション用送信(または受信)モジュールを実現できる。更に、本願発明が多数のチャネルを有する光モジュ−ルに適用できることは言うまでもない。本導波路基板及びモジュールは実施例5と同様な方法で作製できるので、その詳細説明は省略する図12では、他の実施例におけるものと同様の部品は同じ符号で示した。
<実施例7>
本例は、波長多重を用いた双方向光トランシーバモジュールの例である。本願発明に係る波長多重を用いた双方向光トランシーバモジュールの例の斜視図を図13に示す。
【0061】
本モジュールの例は、光信号を送信するための波長1.3μmの半導体レーザ15、光出力をモニタするためのモニタ用導波路型フォトダイオード16、波長1.5μmの信号を受信するための導波路型フォトダイオード17を有する。更に、ポリマの光導波路端面には波長1.3μmと1.5μmの光を合分波するための多層膜フィルタ14が蒸着されている。光ファイバ8より入射した波長1.5μmの光信号は多層膜フィルタ14を透過し、フォトダイオード17によって受信される。一方、半導体レーザ15が発する波長1.3μmの光信号は多層膜フィルタ14で反射されて光ファイバ8から出力される。
【0062】
本光モジュールは以下の手順で作製した。前実施例と同様に、シリコン基板1にV溝2を形成し、基板表面に熱酸化シリコン膜10(1.5μm厚)を設ける。ここで各V溝の幅は141.8μmとして、実装するファイバのコア中心の高さが酸化膜表面から6.5μmになるように設定した。更に、半導体素子を実装する際に用いるCr/Au電極12−1〜−3を設ける。前実施例と同様にポリイミドシリコン樹脂からなる接着層3(厚さ0.5μm)を導波路領域に設ける。屈折率の異なる2種類のフッ素化ポリイミドワニスを順次塗布・ベークして、下部クラッド層4(n=1.520、t=3.3μm)、コア層5(n=1.526、t=6.0μm)を形成する。通例のフォトレジ工程と酸素のドライエッチングによって、コア層5の不要部分を除去して、V字形状の導波路パターンを形成する。再びフッ素化ポリイミドワニスを塗布・ベークして上部クラッド層6(n=1.520、t=15μm)を設ける。ドライエッチングを用いて、素子を搭載する部分のポリマ導波路を完全に除去し、電極12−1〜12−3を露出する。ダイシング装置を用いてV溝領域と導波路領域の境界に溝7を設ける。ここで、溝7の幅は150μmとし、V溝領域が50μm、導波路領域が100μm削除されるように溝の位置を設定した。ウエハをダイシングより導波路素子に切り出すと、V溝領域のポリマ層は基板との接着強度が弱いために剥離してV溝が露出した。導波路端面に真空蒸着によって多層膜フィルタ14を蒸着し、電極12−1に波長1.3μmの半導体レーザ15、電極12−2にモニタ用導波路型フォトダイオード16、電極12−3に受光波長1.5μmの導波路型フォトダイオード17をそれぞれAuSn半田を用いて実装し、V溝2に光ファイバ8を接着した。
【0063】
作製したモジュール(送信波長1.3μm/受信波長1.5μm)の光出力はレーザ電流30mAで2mWであり、受光感度は0.7A/Wと良好な特性が得られた。半導体レーザ15の発光波長を1.5μm、フォトダイオード17の受光波長を1.3μmとして、多層膜フィルタ14に1.5μmを反射し1.3μmを透過するものを用いることで同様に送信波長1.5μm/受信波長1.3μmの光トランシーバモジュールも作製した。試作したモジュールの光出力はレーザ電流30mAで1.5mWであり、受光感度は0.6A/Wと良好な特性が得られた。
【0064】
作製した2種類のトランシーバモジュールを用いて構成した光通信装置の例を図14に示す。図14において、符号18は本願発明に係る1.3μm波長帯域の送信及び1.5μm波長帯域の受信が可能なる波長多重双方向光送受信モジュールであり、電気信号182に基づき、送受信回路181によって制御される。符号19は本願発明に係る1.5μm波長帯域の送信及び1.3μm受信が可能なる波長帯域波長多重双方向光送受信モジュールであり、電気信号192に基づき、送受信回路191によって制御される。両波長多重双方向光送受信モジュール18、19は光ファイバ20でつながれている。本装置は600Mbit/sの信号をファイバ長15km以上まで双方向にエラフリーで伝送することが出来た。
<実施例8>
本例は、波長多重光送信モジュールの例である。本願発明に係る波長多重光送信モジュールの例の斜視図を図15に示す。本モジュールは、波長が異なる4つのDFBレーザ21−1〜21−4を有し、各レーザから出る4波の光信号がポリマ導波路から成る1×4合波器によって合波されて、V溝2に固定される光ファイバから出力される。
【0065】
本モジュールは以下の手順で作製した。前実施例と同様な方法でシリコン基板にV溝2を形成し、基板表面に熱酸化シリコン膜10(1.0μm厚)を設ける。ここで各V溝の幅は141.1μmとして、実装するファイバのコア中心の高さが酸化膜表面から7.5μmになるように設定した。更に、DFBレーザを実装する際に用いるTi/Pt/Au電極を熱酸化膜状に設ける。基板全面にジルコニアキレートの溶液とフッ素を含まないポリイミドをそれぞれスピン塗布・ベークして有機ジルコニア酸化物とポリイミドからなる接着層3(厚さ0.5μm)を基板全面に設ける。ホトレジ工程とドライエッチングによってV溝領域31の接着層を除去する。屈折率の異なる2種類のフッ素化ポリイミドワニスを順次塗布・ベークして、下部クラッド層4(n=1.520、t=4.3μm)、コア層5(n=1.526、t=6.0μm)を形成する。フォトレジ工程と酸素のドライエッチングによってコア層の不要部分を除去して、1×4合分波器のパターンを形成する。再びフッ素化ポリイミドワニスを塗布・ベークして上部クラッド層6(n=1.520、t=20μm)を設ける。ドライエッチングを用いて、素子を搭載する部分のポリマ導波路を完全に除去して搭載部の電極を露出する。ダイシング装置を用いて、V溝領域と導波路領域の境界に溝7を設ける。ここで、溝7の幅は150μmとし、V溝領域が50μm、導波路領域が100μm削除されるように溝の位置を設定した。ウエハをダイシングより導波路素子に切り出すと、V溝領域のポリマ層は基板との接着強度が弱いために剥離してV溝が露出した。
【0066】
作製した基板に発光波長が異なる4つのDFBレーザ21−1〜21−4(波長:1280nm 、1300nm 、1320nm 、1340nm)を実装し、V溝2に光ファイバをUV接着剤で固定した。作製した光モジュールを用いて通信装置を作製した。図16はこの状態を示す図である。本発明に係る異なる4つの波長の発信が可能な波長多重光送信モジュール22は、電気信号222に基づく駆動回路221によって制御される。例えば、2.5Gbit/s×4chの信号は、本発明に係る波長多重光送信モジュール22にて4波長の波長多重信号に変換され、光ファイバ20を伝送する。この波長多重光送信モジュール22からの信号は波長分波器23によって4波長に分波され、各波長の光信号を受信モジュール24−1、24−2、24−3、及び24−4で電気信号に変換する。電気信号系は、受信回路241にて所望回路に電気信号242として伝達される。本通信システムはファイバ長10km以上までエラフリーで動作した。
【0067】
以上、諸実施例をもって説明したように、本願発明によって、光ファイバと低損失な光結合が得られるファイバアライメントV溝付ポリマ導波路基板が提供できる。本導波路基板を用いることで光モジュールの低コスト化並びに高性能化が達成できる。
【0068】
【発明の効果】
本願発明によれば、低コストで製造の容易な光導波路部材を提供することが出来る。
【0069】
更に、本願発明によれば、低コストで製造の容易な光導波路部材の製造方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本願発明の光導波路部材の代表的な例を示す図であり、その(a)は斜視図、その(b)は断面図である。
【図2】図2は本願発明に係る光導波路部材の製造方法を説明する図である。
【図3】図3は製造方法を説明する図2に対応した断面図である。
【図4】図4はV溝付シリコン基板にポリマを塗布した時のポリマの膜厚分布を示す図である。
【図5】図5は本願発明に係るV溝付ポリマ導波路基板において、光導波路の光の伝播の状態(光強度分布)を説明する図である。
【図6】図6は本願発明におけるV溝付ポリマ導波路基板において、ファイバと光導波路の結合損失を最小にするシフト量と得られる結合損失の関係例を示す図である。
【図7】図7は本願発明に係るV溝付ポリマ導波路基板の例を示す斜視図である。
【図8】図8は本願発明に係るV溝付ポリマ導波路基板の別な例を示す斜視図である。
【図9】図9は本願発明に係る光スプリッタモジュールの例を説明する斜視図である。
【図10】図10は本願発明に係る光スイッチモジュールの例を説明する斜視図である。
【図11】図11は本願発明に係る光送信(または光受信)モジュールの例を説明する斜視図である。
【図12】図12は本願発明に係る光送信(または光受信)モジュールの別な例を説明する斜視図である。
【図13】図13は本願発明に係る波長多重双方向光トランシーバモジュールの例を説明する斜視図である。
【図14】図14は本願発明に係る波長多重双方向光トランシーバモジュールを用いた光通信装置の例を示す図である。
【図15】図15は本願発明に係る波長多重光送信モジュールの例を説明する斜視図である。
【図16】図16は本願発明に係る波長多重光送信モジュールを用いた光通信装置の例を示す図である。
【符号の説明】
1…シリコン基板、2…ファイバアライメント用V溝、3…接着層、4…下部クラッド層、5…コア層、6…上部クラッド層、7…ダイシング溝、8…ファイバ、9…ファイバのコア、10…無機膜(熱酸化シリコン膜)、11…薄膜ヒータ、12…電極、13…半導体レーザまたは導波路型フォトダイオード、14…多層膜波長フィルタ、15…半導体レーザ、16…モニタ用導波路型フォトダイオード、17…導波路型フォトダイオード、18…本発明に係る波長多重双方向光送受信モジュール、19…本発明に係る波長多重双方向光送受信モジュール、20…光ファイバ、、21…DFBレーザ、22…本発明に係る波長多重光送信モジュール、23…波長分波器、24…受信モジュール。

Claims (5)

  1. 基板上の一部に光導波路が設けられ、前記光導波路のコアおよび下部クラッドはポリマ材で構成され、
    前記光導波路に対して光ファイバを位置決め固定するためのV形状の第1の溝と、前記光導波路の一端部と前記第1の溝の先端の間に位置し、かつ、前記第1の溝の長手方向と直交する方向に延在する第2の溝とが前記基板に設けられ、
    前記コアおよび前記下部クラッドの膜厚は前記光導波路の一端部およびその近傍で前記光導波路の一端部以外およびその近傍以外の部分よりも薄くなることによって前記基板表面から前記コア中心までの高さが前記光導波路の一端部以外およびその近傍以外の部分に比べて小さくなっており、前記第1の溝に前記光ファイバを実装した時の前記光ファイバのコアの中心の高さが、前記光導波路の一端部から離れた箇所であって、かつ、前記膜厚が平坦部での前記コアの中心の高さよりも低い高さになるように、前記第1の溝が所定に設けられ
    かつ、前記コアは前記一端部およびその近傍で、そのコアの膜厚が薄くなるに従って前記コアの中心が前記基板表面に近づくように一つの方向に曲がっており、
    かつ、前記光導波路の前記一端部から離れた箇所の前記コアの光軸方向と前記第1の溝の延在方向とが実質的に平行であり、
    かつ、前記第1の溝に前記光ファイバを実装した時、前記光導波路の前記一端部と前記光ファイバの一端部とが光学的に結合することを特徴とする光導波路部材。
  2. 前記基板材料はシリコンであり、前記基板上表面に無機材料膜を有し、前記無機材料膜上に前記光導波路が設けられ、前記無機材料膜が下部クラッド層として作用することを特徴とする請求項1記載の光導波路部材。
  3. 前記基板と前記光導波路との間又は前記無機材料膜と前記光導波路との間に、前記ポリマ材と前記基板材料との密着性を向上する接着層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光導波路部材。
  4. 前記第2の溝の幅は100μm〜220μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の光導波路部材。
  5. 請求項1乃至4記載のいずれか一に記載の光導波路部材の前記第1の溝には光ファイバが固定されていることを特徴とする光モジュール。
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