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JP3781293B2 - 塗膜の形成方法 - Google Patents

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JP3781293B2
JP3781293B2 JP2002129657A JP2002129657A JP3781293B2 JP 3781293 B2 JP3781293 B2 JP 3781293B2 JP 2002129657 A JP2002129657 A JP 2002129657A JP 2002129657 A JP2002129657 A JP 2002129657A JP 3781293 B2 JP3781293 B2 JP 3781293B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物または土木構造物に適用することができる塗膜の形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築物、土木構造物等の躯体を構成する基材のうち、コンクリート、モルタル等のセメント系基材は、基材自体の収縮、基材への荷重等の影響により、経時的にひび割れを生じる場合がある。また、軽量コンクリート板、気泡コンクリート板、サイディングボード、石綿コンクリート板等の建材では、建材どうしの継目部分が温度、湿度等の変化によって変位しやすい性質を有している。
このような基材に対しては、弾性塗膜を形成させることが有効である。弾性塗膜は、基材の変位に追従することができ、躯体内部への水の浸入を防止する効果を発揮することもできる。このような弾性塗膜は各種の弾性塗材によって形成することができる。代表的な弾性塗材としては、JIS A6909に規定されている防水形合成樹脂エマルション系複層仕上塗材(防水形複層塗材E)等が挙げられる。この防水形複層塗材Eは、下塗材、主材、及び上塗材の3種の塗材からなるものである。
【0003】
一方、建築物や土木構造物に使用する塗材においては、有機溶剤を溶媒とする溶剤型塗料から、水を溶媒とする水性塗料への転換が図られつつある。これは、塗装作業者や居住者の健康被害を低減させる目的や、大気環境汚染を低減させる目的等で行われているものである。上述の防水形複層塗材Eに代表されるような弾性塗材においても、水性化の要望は高い。
しかし、塗膜の最表面を覆う上塗材として弾性を有する水性上塗材を使用した場合は、一般的に耐汚染性が劣る傾向にある。特に、弾性を高めようとすれば汚染物質が染み込みやすくなり、一度汚染物質が付着すると、塗膜表面からその汚れを除去することが困難となる場合が多い。このような問題は、自動車等からの排出ガスによって大気中に油性の汚染物質が浮遊している都心や都市近郊部において顕著であり、塗膜の美観性を大きく損ねてしまう要因となっている。
【0004】
水性上塗材の耐汚染性を改善する手法のひとつとして、シリコン成分の導入による架橋性の付与があげられる。この方法は、合成樹脂エマルション中に反応性シリル基含有化合物を導入し、該官能基どうしを反応させることによって、耐汚染性等の塗膜物性を高めようとするものである。
この方法では、シリコン成分の比率を上げることによって架橋性を高め、塗膜物性を改善することができる。しかしながら、シリコン成分の増量に伴い、残存する反応性シリル基どうしが貯蔵時にエマルション粒子内で反応してしまうおそれがある。このような反応がエマルション粒子内で進行してしまうと、塗膜形成時に本来の塗膜強度が発現されにくくなる。特に、防水形複層塗材E主材等の弾性塗膜層上に水性上塗材を形成させた場合は、下層の弾性塗膜層の変位等によって、上塗塗膜に割れ、剥れ、膨れ等が生じやすくなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような問題点に鑑みなされたものであり、建築物、土木構造物等の基材の変位に追従することができるとともに、耐汚染性に優れる塗膜が形成でき、さらにはその形成塗膜における割れ、剥れ、膨れ等の発生を防止することができる塗膜の形成方法を得ることを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
これらの課題を解決するため本発明者は鋭意検討を行い、合成樹脂エマルション系弾性塗材を塗付した後、特定の水性上塗材を塗付する方法に想到し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の特徴を有するものである。
【0008】
1.建築物または土木構造物の基材に対し、合成樹脂エマルション系弾性塗材を塗付した後、
(A)固形分中のシリコン成分量がSiO換算で0.1〜30重量%である反応性シリル基含有合成樹脂エマルション
を結合剤とし、塗料全体の電気伝導度が2.5mS/cm以下である水性上塗材を塗付することを特徴とする塗膜の形成方法。
2.建築物または土木構造物の基材に対し、合成樹脂エマルション系弾性塗材を塗付した後、
(A)固形分中のシリコン成分量がSiO換算で0.1〜30重量%である反応性シリル基含有合成樹脂エマルションを固形分で100重量部、
(B)顔料を1〜1000重量部、
(C)10重量%の濃度における電気伝導度が5mS/cm以下のアニオン性分散剤を0.01〜20重量部含有し、塗料全体の電気伝導度が2.5mS/cm以下である水性上塗材を塗付することを特徴とする塗膜の形成方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態とともに詳細に説明する。
【0010】
本発明は、建築物または土木構築物の躯体の保護に適用できるものである。このような躯体を構成する基材としては、例えば、コンクリート、モルタル等のセメント系基材、軽量コンクリート板、気泡コンクリート板、サイディングボード、石綿コンクリート板等の各種基材等が挙げられる。これら基材は、何らかの表面処理(シーラー、サーフェーサー、フィラー等による下地処理等)が施されたものであってもよく、既に塗膜が形成されたものであってもよい。
【0011】
合成樹脂エマルション系弾性塗材(以下単に「弾性塗材」ともいう)は、合成樹脂エマルションを必須成分として含み、さらに充填材、各種添加剤等を含有するものである。
【0012】
合成樹脂エマルションの種類としては特に限定されず、例えば、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を使用することができる。架橋反応型合成樹脂エマルションを使用することもできる。これら合成樹脂エマルションは1種または2種以上で使用することができる。合成樹脂エマルションのガラス転移温度(以下、「Tg」という)は、−50〜30℃であることが望ましい。
【0013】
充填材としては、重質炭酸カルシウム、カオリン、けい藻土、ホワイトカーボン、クレー、タルク、バライト粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪砂、ウォラストナイト、マイカ等の公知のものが使用できる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0014】
添加剤としては、一般的に塗材に配合可能な顔料、分散剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤、可塑剤、湿潤剤、防黴剤、防藻剤等を使用することができる。
【0015】
弾性塗材は、例えばリシンガン、万能ガン、ローラー、刷毛等を用いて塗装することができる。塗装は数回に分けて行ってもよい。塗装時には水を用いて弾性塗材を希釈することもできる。水の混合量は、使用する塗装器具、所望の塗面形状等に応じて適宜設定すればよい。
弾性塗材によって形成される弾性塗膜層の乾燥厚みは、通常0.3mm以上、好ましくは0.5mm〜5mmである。厚みが0.3mm以上であることにより、基材の変位を十分に緩和することが可能となる。弾性塗膜層の塗面形状としては、例えば平滑状、ゆず肌状、吹付タイル状、さざ波状等が可能である。
【0016】
弾性塗材によって形成される弾性塗膜層は、JIS A6909(2000)7.31「伸び試験」の「20℃時の伸び試験」による伸び率が通常50〜800%、好ましくは50%〜500%のものである。伸び率が50%より小さい場合は、基材の変位に追従することができずに、弾性塗膜層が割れやすくなる。800%より大きい場合は、上塗塗膜に割れが生じやすくなる。
【0017】
本発明では、上述の合成樹脂エマルション系弾性塗材を塗付した後、特定の水性上塗材を塗付する。以下、本発明に用いる水性上塗材について詳述する。
【0018】
本発明の水性上塗材では、結合剤として、(A)固形分中のシリコン成分量がSiO換算で0.1〜30重量%である反応性シリル基含有合成樹脂エマルション(以下「(A)成分」という)を使用する。この(A)成分は、反応性シリル基含有化合物を必須成分として得られるものである。(A)成分を結合剤として使用することにより、耐汚染性、耐候性、耐黄変性、耐水性、耐薬品性等が良好な塗膜を形成することができる。
【0019】
(A)成分としては、例えば、
▲1▼モノマー成分として反応性シリル基含有モノマーを含む合成樹脂エマルション
▲2▼モノマー成分として反応性シリル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、及びカルボキシル基含有モノマーから選ばれる少なくとも1種以上のモノマーを含む樹脂に、シラン化合物を反応させてなる合成樹脂エマルション、
▲3▼樹脂中の官能基と、該官能基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤とを反応させてなる合成樹脂エマルション、
▲4▼樹脂中の官能基と、該官能基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤とを反応させ、さらにシラン化合物を反応させてなる合成樹脂エマルション、
等が挙げられる。このうち、本発明では▲2▼または▲4▼のいずれかが好適である。
【0020】
反応性シリル基としては、珪素原子にアルコキシル基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン等が結合したものが挙げられる。本発明では、珪素原子にアルコキシル基が結合したアルコキシシリル基が好適である。
【0021】
▲1▼、▲2▼における反応性シリル基含有モノマーは、反応性シリル基と重合性二重結合を含有する化合物であり、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、メチルジメトキシシリルエチルビニルエーテル、メチルジメトキシシリルプロピルビニルエーテル等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0022】
▲2▼における水酸基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
▲2▼におけるカルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0023】
▲2▼、▲4▼におけるシラン化合物としては、反応性シリル基を一分子中に2個以上有するものが用いられ、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラブトキシシラン等の4官能アルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン等の3官能アルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等の2官能アルコキシシラン類;テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン等のクロロシラン類;テトラアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン等のアセトキシシラン類等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。また、反応性シリル基を一分子中に1個有する化合物を併用することもできる。本発明では、特に、3官能アルコキシシラン類と2官能アルコキシシラン類とを併用することが望ましい。
【0024】
▲3▼、▲4▼における官能基の組み合わせとしては、水酸基とイソシアネート基、アミノ基とイソシアネート基、カルボキシル基とエポキシ基、アミノ基とエポキシ基、アルコキシシリル基どうし等が挙げられる。シランカップリング剤は、例えば、一分子中に、少なくとも1個以上の反応性シリル基とそのほかの置換基を有する化合物であり、具体的には、β−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソシアネート官能性シラン等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0025】
(A)成分の共重合モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル系モノマー;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニルモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有モノマー;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;エチレン、プロピレン、イソブチレン等を使用することができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。この他、エチレン性不飽和二重結合含有紫外線吸収剤、エチレン性不飽和二重結合含有光安定剤等を用いることもできる。
【0026】
(A)成分の重量平均分子量は30000以上、さらには50000以上であることが望ましい。分子量が30000以上であることにより、耐汚染性、耐候性、耐水性等を向上させることができる。また、(A)成分のTgは通常−20〜60℃、好ましくは−10〜50℃である。最低造膜温度が−20℃より低い場合は耐汚染性が低下する傾向となり、60℃より高い場合は上塗塗膜に割れが生じやすくなる。
【0027】
(A)成分におけるシリコン成分量は、(A)成分の固形分中にSiO換算で0.1〜30重量%、好ましくは1〜10重量%である。シリコン成分量がこのような範囲であることにより、十分な耐汚染性、追従性等を有する塗膜が形成される。(A)成分のシリコン成分が少ない場合は、耐汚染性、耐候性等の塗膜物性向上効果を得ることができない。(A)成分のシリコン成分が多い場合は、密着性不良や、割れ発生等を引き起こすおそれがある。
【0028】
なお、SiO換算とは、Si−O結合をもつ化合物を、完全に加水分解した後に、900℃で焼成した際にシリカ(SiO)となって残る重量分にて表したものである。
一般に、アルコキシシランやシリケート等は、水と反応して加水分解反応が起こりシラノールとなり、さらにシラノールどうしやシラノールとアルコキシにより縮合反応を起こす性質を持っている。この反応を究極まで行うと、シリカ(SiO)となる。これらの反応は一般式、
RO(Si(OR)O)R+(n+1)HO→nSiO+(2n+2)ROH
という反応式で表される。本発明では、この反応式をもとにシリコン成分量の換算を行っている。
【0029】
水性上塗材における(B)顔料(以下「(B)成分」という)は、着色剤、増量剤、あるいは光沢調整剤として用いられるものである。(B)成分を混合することによって、塗料の粘性調整、塗膜強度の改善等の効果を付与することもできる。(B)成分は、具体的には無機系着色顔料、有機系着色顔料、体質顔料に分類される。
【0030】
無機系着色顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化第二鉄(ベンガラ)、黄色酸化鉄、オーカー、群青、コバルトグリーン等、有機系着色顔料としては、例えば、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等が使用できる。体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム等を使用することができる。これら(B)成分は1種または2種以上で使用することができる。
【0031】
(B)成分の含有量は、(A)成分の固形分100重量部に対し、1〜1000重量部であることが望ましく、さらには5〜600重量部であることが望ましい。特に5〜100重量部の場合は、有光沢の塗膜を形成することが可能となる。(B)成分の含有量が1重量部より小さい場合は、十分な着色効果、増量効果、光沢調整効果等が得られない。1000重量部より大きい場合は、造膜時に割れが生じやすくなる。
【0032】
水性上塗材における(C)10重量%の濃度における電気伝導度が5mS/cm以下のアニオン性分散剤(以下「(C)成分」という)は、(B)成分の顔料分散剤としてはたらく成分である。(C)成分としては、その10重量%の濃度における電気伝導度が5mS/cm以下、好ましくは1mS/cm以下であるアニオン性分散剤を用いることが望ましい。(C)成分の電気伝導度がこのような値であることにより、水性上塗材が(B)成分を含む場合における塗膜の割れ、膨れ等の発生を防止することができる。また、有光沢塗料での高光沢を確保することもできる。
【0033】
(C)成分において、アニオン性を付与する基としては、例えば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等が挙げられる。
【0034】
(C)成分の骨格組成としては各種のものが使用でき、例えば、メチレンオキサイド、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド等を有するものが挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0035】
(C)成分の酸価は、2〜100KOHmg/gであることが望ましい。酸価が2KOHmg/gより小さい場合は、(B)成分を十分に分散性することが困難となる。100KOHmg/gより大きい場合は、塗膜の割れ、膨れ等の発生を引き起こすおそれがある。また塗膜の耐水性が低下するおそれもある。
【0036】
(C)成分の含有量は、(A)成分の固形分100重量部に対し、0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。(C)成分の含有量が0.01重量部より小さい場合は、塗膜の割れ、膨れ等の発生を引き起こすおそれがある。また(B)成分を十分に分散性することが困難となる。20重量部より大きい場合は、耐候性、耐水性等が低下しやすくなる。
【0037】
本発明の水性上塗材では、上述の成分の他、本発明に影響しない程度に、必要に応じて通常塗料に用いられる可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等の添加剤を単独あるいは併用して混合することもできる。このような添加剤を混合する場合は、塗料全体の電気伝導度が本発明に規定する値より大きくならないように十分に留意する必要がある。
【0038】
本発明における水性上塗材は、必須成分として上述の(A)成分を含むものであり、着色、光沢調整等を行う場合には、(A)成分に加えて(B)成分及び(C)成分を含むものである。この水性上塗材においては、塗料全体の電気伝導度を2.5mS/cm以下、好ましくは2.3mS/cm以下、さらに好ましくは2.0mS/cm以下に調製する。なお、本発明における電気伝導度は、「Model SC82パーソナルSCメータ SC8221−J」(横河電機社製)を用いて測定することができる。測定温度は25℃である。
一般的に、反応性シリル基含有合成樹脂エマルションを結合剤とする塗料においては、シリコン成分の量が増加すれば耐汚染性、耐候性等の塗膜物性が向上するが、その反面、塗料貯蔵時のシリコン成分の反応性を抑制することが困難となる。その結果、造膜時におけるエマルション成分の融着不良を招き、塗膜に割れ、剥れ、膨れ等が発生しやすくなる。
これに対し、本発明では、水性上塗材の電気伝導度が上述のような範囲内に調製されることにより、(A)成分中の反応性シリル基どうしの反応が抑制され、形成塗膜における割れ、剥れ、膨れ等を防止することが可能となる。さらに、耐汚染性、耐候性等に優れた塗膜を得ることができる。
【0039】
水性上塗材は、合成樹脂エマルション系弾性塗材の塗膜表面が乾燥した後に塗装することができる。
水性上塗材の塗装においては、公知の塗装器具を使用することができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等を使用することができる。塗装時には水を用いて水性上塗材を希釈することもできる。水の混合量は、使用する塗装器具等に応じて適宜設定すればよい。
水性上塗材によって形成される塗膜層の乾燥厚みは、通常5μm〜200μmである。
【0040】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。なお、電気伝導度は、「Model SC82パーソナルSCメータ SC8221−J」(横河電機社製)を用いて、25℃にて測定した。顔料分散剤の電気伝導度測定においては、蒸留水で固形分を10重量%に調製したものを用いた。
【0041】
[弾性塗材の製造]
合成樹脂エマルション1を200重量部、二酸化チタンを25重量部、重質炭酸カルシウムを280重量部、顔料分散剤1を3重量部、造膜助剤を5重量部、増粘剤1を35重量部、消泡剤を2重量部均一に混合することにより、弾性塗材1を製造した。この弾性塗材1について、JIS A6909(2000) 7.31「伸び試験」の「20℃時の伸び試験」による伸び率を測定したところ320%であった。なお、弾性塗材の製造に使用した原料は以下の通りである。
【0042】
・合成樹脂エマルション1:アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg−2℃、モノマー組成:メチルメタクリレート、スチレン、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸)
・顔料分散剤1:ポリカルボン酸ナトリウム塩(固形分10重量%、数平均分子量9000、酸価260KOHmg/g、電気伝導度16.3mS/cm)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・増粘剤1:ヒドロキシエチルセルロース3重量%水溶液
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
【0043】
[水性上塗材の製造]
以下に示す原料を使用して、表1に示す配合にて水性上塗材を製造した。
・合成樹脂エマルション2:反応性シリル基含有アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg16℃、重量平均分子量10万以上、固形分中のシリコン成分量3重量%、電気伝導度2.7mS/cm、モノマー組成:メチルメタクリレート、スチレン、n−ブチルアクリレート、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メタクリル酸)
・合成樹脂エマルション3:反応性シリル基含有アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg16℃、重量平均分子量10万以上、固形分中のシリコン成分量0.8重量%、電気伝導度2.8mS/cm、モノマー組成:メチルメタクリレート、スチレン、n−ブチルアクリレート、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、アクリル酸)
・合成樹脂エマルション4:反応性シリル基含有アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg18℃、重量平均分子量10万以上、固形分中のシリコン成分量0.2重量%、電気伝導度3.3mS/cm、モノマー組成:メチルメタクリレート、スチレン、2−エチルヘキシルアクリレート、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アクリル酸)
・合成樹脂エマルション5:反応性シリル基含有アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg16℃、重量平均分子量10万以上、固形分中のシリコン成分量3重量%、電気伝導度2.8mS/cm、モノマー組成:メチルメタクリレート、スチレン、n−ブチルアクリレート、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メタクリル酸)
・合成樹脂エマルション6:アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg18℃、重量平均分子量10万以上、電気伝導度3.1mS/cm、モノマー組成:メチルメタクリレート、スチレン、n−ブチルアクリレート、メタクリル酸)
・顔料分散剤1:ポリカルボン酸ナトリウム塩(固形分10重量%、数平均分子量9000、酸価260KOHmg/g、電気伝導度16.3mS/cm)
・顔料分散剤2:末端カルボキシル基エチレンオキサイド鎖含有湿潤分散剤(固形分10重量%、数平均分子量11000、酸価20KOHmg/g、電気伝導度0.1mS/cm)
・増粘剤2:ウレタン系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
【0044】
【表1】
Figure 0003781293
【0045】
[試験方法]
促進汚染試験
予めシーラー塗装を施した150×75cmのスレート板に、弾性塗材1を乾燥膜厚が約2mmとなるようにスプレー塗装し、標準状態(23℃、50%RH)にて18時間静置後、さらに水性上塗材を乾燥膜厚が約50μmとなるようにスプレー塗装し、標準状態にて14日間静置することにより試験体を作製した。
作製した試験体の塗膜面に15重量%カーボンブラック水分散ペースト液を、直径20mm、高さ5mmとなるように滴下し、20℃の恒温室中に18時間放置した。その後流水中にて洗浄し、塗膜表面の汚染の程度を目視にて評価した。評価は、痕跡が認められなかったものを「◎」、わずかな痕跡のみ認められたものを「○」、痕跡が認められたものを「△」、著しい痕跡が認められたものを「×」とした。
【0046】
温冷繰返し試験
予めシーラー塗装を施した150×75cmのスレート板に、弾性塗材1を乾燥膜厚が約2mmとなるようにスプレー塗装し、標準状態にて18時間静置後、さらに水性上塗材を乾燥膜厚が約50μmとなるようにスプレー塗装し、標準状態にて14日間静置することにより試験体を作製した。なお、水性上塗材としては、製造後50℃にて7日間貯蔵したものを使用した。
作製した試験体を20℃の水中に18時間浸漬した後、直ちに−20℃の恒温器中で3時間冷却し、次いで50℃の別の恒温器中で3時間加温し、この24時間を1サイクルとする操作を合計20回繰り返した。このときの塗膜の割れ、剥れ、膨れの有無を目視によって確認した。評価は、20サイクルで異常が認められなかったものを「◎」、10サイクルで異常は認められなかったが20サイクルで異常が認められたものを「○」、5サイクルで異常は認められなかったが10サイクルで異常が認められたものを「△」、5サイクルで異常が認められたものを「×」とした。
【0047】
[試験結果]
弾性塗材と水性上塗材の組合せ、及びその試験結果を表2に示す。
実施例1〜4では、いずれも良好な結果を得ることができた。これに対し、比較例1及び2では、水性上塗材の電気伝導度が高く、温冷繰返し試験において割れが生じてしまった。比較例3では、耐汚染性に劣る結果となった。
【0048】
【表2】
Figure 0003781293
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、建築物、土木構造物等の基材の変位に追従することができるとともに、耐汚染性に優れる塗膜が形成でき、さらにはその形成塗膜における割れ、剥れ、膨れ等の発生を防止することができる。

Claims (4)

  1. 建築物または土木構造物の基材に対し、合成樹脂エマルション系弾性塗材を塗付した後、(A)固形分中のシリコン成分量がSiO換算で0.1〜30重量%である反応性シリル基含有合成樹脂エマルションを固形分で100重量部、(B)顔料を1〜1000重量部、(C)10重量%の濃度における電気伝導度が5mS/cm以下のアニオン性分散剤を0.01〜20重量部含有し、塗料全体の電気伝導度が2.5mS/cm以下である水性上塗材を塗付することを特徴とする塗膜の形成方法。
  2. 前記反応性シリル基含有合成樹脂エマルションが、少なくとも3官能アルコキシシラン類と2官能アルコキシシラン類とを反応させてなる合成樹脂エマルションであることを特徴とする請求項1に記載の塗膜の形成方法
  3. 前記(C)アニオン性分散剤の酸価が2〜100 KOH mg/gであることを特徴とする請求項1または2に記載の塗膜の形成方法
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載された形成方法により得られた塗膜
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