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JP3780956B2 - 耐sr特性に優れた高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents

耐sr特性に優れた高強度鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼管等の製造に用いるAPI規格X65グレードを超える強度を有する高強度鋼板に関し、特に溶接後に行う応力除去焼鈍(SR)後においても優れた強度と靭性を有する耐SR特性に優れた高強度鋼板とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油またはガスの掘削用等に用いられるライザー鋼管は円周溶接によって合金元素量が非常に多い鍛造品(例えばコネクタ等)を溶接して用いる場合が多く、溶接後に溶接による残留応力除去を目的として応力除去焼鈍(SR)処理が施される。また、発電プラント等の配管用鋼管やその他強度部材として用いられる鋼材または鋼板がCr-Mo鋼等と溶接接合されるような場合も、溶接による残留応力除去を目的としてSR処理が施される。SR処理により母材部である鋼管等も熱処理されて強度や靱性が低下する場合があるので、SR処理が施される鋼管や鋼材はSR処理後も強度、靱性が確保される必要が、すなわち耐SR特性に優れている必要がある。また近年、鋼管使用時の内部の圧力上昇による操業効率向上や、より薄い鋼材の使用で素材コストを削減するために、API X80グレード等のAPI X65グレードを超える高強度鋼管または鋼材に対する需要も高まっている。
このような要請に対して、特開平11−50188号公報、特開2001−158939号公報にはAPI X80グレード以上の耐SR特性に優れた鋼板または鋼管が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平11−50188号公報の鋼板はSR処理による強度低下をSR処理時のCr炭化物の析出によって補っているため、多量のCrの添加が必要であり、製造コストが高いだけでなく、溶接性や靱性の低下の問題がある。一方、特開2001−158939号公報の鋼管はシーム溶接金属を特定の組成範囲に限定する必要があり、SR処理により強度が低下しても十分な程度に母材強度が高いことで、母材強度の低下に対応する技術である。したがって母材強度はSR処理により低下している。
【0004】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、API X65グレードを超える高強度鋼板であって、多量の合金元素の添加なしに、SR処理後も強度と靭性が低下しない、優れた耐SR特性を有する高強度鋼板を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
【0006】
(1)、質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜0.50 %、Mn:0.5〜1.8%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Mo:0.05〜0.50%、Ti:0.005〜0.04%、Al:0.01〜0.07%を含有し、Nb:0.005〜0.07%および/またはV:0.005〜0.10%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、原子%でのC量とMo、Ti、Nb、Vの合計量の比であるC/(Mo+Ti+Nb+V)が0.6〜2.0であり、金属組織がフェライト体積分率90%以上であり、TiとMoと、Nbおよび/またはVとを含む粒径10nm以下の析出物が分散析出していることを特徴とする、耐SR特性に優れた高強度鋼板。
【0007】
(2)、さらに、質量%で、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Ca:0.0005〜0.0025%の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の耐SR特性に優れた高強度鋼板。
【0008】
(3)、(1)または(2)に記載の成分組成を有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750℃以上の条件で熱間圧延した後、2℃/s以上の冷却速度で冷却し、次いで550〜700℃の温度で鋼帯に巻き取ることを特徴とする、耐SR特性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0009】
(4)、(1)または(2)に記載の成分組成を有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750℃以上の条件で熱間圧延した後、2℃/s以上の冷却速度で冷却し、次いで550〜700℃の温度で5分以上の等温保持を行うことを特徴とする、耐SR特性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0010】
(5)、(1)または(2)に記載の成分組成を有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750℃以上の条件で熱間圧延した後、2℃/s以上の冷却速度で冷却し、次いで550〜700℃の温度から0.1℃/s以下の冷却速度で冷却を行うことを特徴とする、耐SR特性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは耐SR特性向上と高強度の両立のために、SR処理による鋼材のミクロ組織変化について詳細な検討を行った。一般に溶接鋼管用の鋼板や溶接構造用の鋼板は溶接性の観点から化学成分が厳しく制限されるため、API X65グレード以上の高強度鋼板は熱間圧延後に加速冷却されて製造されている。そのため、ミクロ組織はベイナイトまたはマルテンサイトが主体の組織となるが、このような組織の鋼にSR処理を施すと、ベイナイトまたはマルテンサイトが焼き戻されることによる強度低下はさけられない。また、焼戻しによる強度低下を補うために、SR時にCr炭化物等を析出させる方法があるが、炭化物が容易に粗大化するために靭性が低下する。したがって、ベイナイトやマルテンサイトを主体組織とした変態強化では、SR処理後においても強度、靭性を確保することには限界がある。本発明者らは優れた耐SR特性が得られるミクロ組織形態に関して鋭意研究を行った結果、鋼の組織をSR処理の前後において形態変化を生じないミクロ組織とすることが重要であり、そのためにはマトリクスを実質的にフェライト単相とし、熱的に安定な微細析出物を分散析出させることによって強化すればよいという知見を得た。そして、鋼中で析出する種々の析出物について検討した結果、MoとTiからなる複合炭化物は適正な成分バランスの元では、10nm以下の極めて微細な析出物となり、かつ熱的にも安定であることが分かった。そのため、マトリクスが実質的にフェライト単相であっても析出強化によってAPI X65グレードを超える強度が容易に得られ、且つSR処理によってMo とTiを含む複合炭化物はその形態が変化しないので、強度特性もほとんど変化しないという知見を得た。また、MoとTiからなる炭化物はNb及び/またはVとも複合化し、同様の析出形態と熱的安定性を示すため、NbまたはVを利用することができるという知見を得た。
【0012】
上記のようなTi、Moを基本として含む析出物が分散析出したフェライト組織を有する鋼板は、特定温度域で巻取りを行う一般的な熱延プロセスを用いることにより、薄鋼板では容易に製造できる。また、厚鋼板でも、厚鋼板の製造プロセスを用いて一定時間以上の温度保持または徐冷を施すことにより製造できる。このようにして製造した鋼板は、従来の加速冷却等で得られるベイナイトまたはマルテンサイト主体の鋼板に比べ、少ない合金元素の添加によっても高い強度が得られるため、素材コストが低廉で、且つ優れた溶接性も同時に得られるものである。
【0013】
以下、本発明の高強度鋼板について詳しく説明する。まず、本発明の高強度鋼板の組織について説明する。
【0014】
本発明の鋼板の金属組織は実質的にフェライト単相とする。一般に熱間圧延によって得られるフェライト相は転位密度が少ないため、SR処理などの変態点以下の加熱によってミクロ構造が変化することが無く、かつ延性に富んでいるため適正な結晶粒径とすることで高い靭性が得られる。フェライト相にベイナイト、マルテンサイト、パーライト等の異なる金属組織が混在する場合は、SR処理によってこれらの相の強度が低下するため、フェライト相以外の組織分率は少ないほど好ましい。しかし、フェライト以外の組織の体積分率が低い場合は影響が無視できるため、トータルの体積分率で10%以下の他の金属組織を、すなわちベイナイト、マルテンサイト、パーライト、セメンタイト等を、1種または2種以上含有してもよい。
【0015】
次に、本発明において鋼板内に分散析出する析出物について説明する。
本発明における鋼板はフェライト相中にMoとTiとを基本として含有する析出物が分散析出しているものである。この析出物は極めて微細でかつ高い熱的安定性を有しており、SR処理によってもその形態が変化しないため、SR処理後も高い強度が保持できる。Mo及びTiは鋼中で炭化物を形成する元素であり、MoC、TiCの析出により鋼を強化することは従来より行われているが、本発明ではMoとTiを複合添加して、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を鋼中に微細析出させることにより、MoCおよび/またはTiCの析出強化の場合に比べて、より大きな強度向上効果が得られることが特徴である。この従来にない大きな強度向上効果は、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物が安定でかつ成長速度が遅いので、粒径が10nm未満の極めて微細な析出物が得られることによるものである。
【0016】
MoとTiとを基本として含有する複合炭化物は、Mo、Ti、Cのみで構成される場合は、MoとTiの合計とCとが原子比でほぼ1:1で化合しているものであり、熱的安定性が高くかつ高強度化には非常に効果があるが、Tiの含有量が多くなる程、溶接部靭性が劣化するという問題がある。本発明ではMo、Ti、Cのみで構成される複合炭化物において、Tiの一部を他の元素で置換することにより溶接部靭性を向上させることについて検討し、MoとTiに加えて、さらにNbおよび/またはVを添加し、MoとTiと、Nbおよび/またはVとを含んだ複合炭化物を析出させて、同様の析出強化と優れた耐SR特性を得ることにより本発明を完成した。
【0017】
本発明において鋼板内に分散析出する析出物である、MoとTiと、Nbおよび/またはVとを含んだ複合炭化物は、以下に述べる本発明の成分の鋼材と製造方法とを用いて鋼板を製造することにより、フェライト相中に分散させて得ることができる。本発明の高強度鋼板がMoとTiとを主体とする複合炭化物以外の析出物を含有する場合は、MoとTiの複合炭化物による高強度化の効果を損なわず、耐SR特性を劣化させない程度とする。
【0018】
次に、本発明の高強度鋼板の化学成分について説明する。
【0019】
C:0.02〜0.08%とする。Cは炭化物として析出強化に寄与する元素であるが、0.02%未満では十分な強度が確保できず、0.08%を超えると靭性や耐SR性を劣化させるため、C含有量を0.02〜0.08%に規定する。
【0020】
Si:0.01〜0.50%とする。Siは脱酸のため添加するが、0.01%未満では脱酸効果が十分でなく、0.50%を超えると靭性や溶接性を劣化させるため、Si含有量を0.01〜0.50%に規定する。
【0021】
Mn:0.5〜1.8%とする。Mnは強度、靭性のため添加するが、0.5%未満ではその効果が十分でなく、1.8%を超えると溶接性が劣化するため、Mn含有量を0.5〜1.8%に規定する。
【0022】
P:0.02%以下とする。Pは溶接性とSR後の靭性を劣化させる不可避不純物元素であるため、P含有量の上限を0.02%に規定する。
【0023】
S:0.005%以下とする。SもSR後の靭性を劣化させるため少ないほど好ましい。しかし、0.005%以下であれば問題ないため、S含有量の上限を0.005%に規定する。
【0024】
Mo:0.05〜0.50%とする。Moは本発明において重要な元素であり、0.05%以上含有させることで、熱間圧延後冷却時のパーライト変態を抑制しつつ、Tiとの微細な複合析出物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。しかし、0.50%を超えて添加するとベイナイトやマルテンサイトなどのフェライト以外の組織分率が増加するため、SR処理によって強度低下を招く。よって、Mo含有量を0.05〜0.50%に規定する。
【0025】
Ti:0.005〜0.04%とする。TiはMoと同様に本発明において重要な元素である。0.04%を超えて添加することで、Moと複合析出物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。しかし、0.04%を超えると溶接熱影響部の靭性を著しく劣化させるため、Ti含有量は0.005〜0.04%に規定する。
【0026】
Al:0.01〜0.07%とする。Alは脱酸剤として添加されるが、0.01%未満では効果がなく、0.07%を超えると鋼の清浄度が低下し、靭性を劣化させるため、Al含有量は0.01〜0.07%に規定する。
【0027】
Nb、Vのうち1種又は2種を含有する。
【0028】
Nb:0.005〜0.05%とする。Nbは組織の微細粒化により靭性を向上させるが、Ti及びMoと共に複合析出物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.05%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、Nb含有量は0.005〜0.05%に規定する。
【0029】
V:0.005〜0.10%とする。VもNbと同様にTi及びMoと共に複合析出物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.1%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、V含有量は0.005〜0.1%に規定する。
【0030】
C量とMo、Ti、Nb、Vの合計量の比である、C/(Mo+Ti+Nb+V):0.6〜2.0とする。C/(Mo+Ti+Nb+V)において各元素記号はその成分の原子%の含有量(at%)を示す。本発明鋼板における高強度化はTiとMoと、Nbおよび/またはVとを含む複合析出物(炭化物)によるものである。この複合析出物による析出強化を有効に利用するためには、C量と炭化物形成元素であるMo、Ti、Nb、V量の関係が重要であり、これらの元素を適正なバランスのもとで添加する事によって、熱的に安定でかつ非常に微細な複合析出物を得ることができる。このときCの原子%での含有量と、Mo、Ti、Nb、Vの原子%での含有量の合計量の比であるC/(Mo+Ti+Nb+V)の値は、0.6〜2.0とする。C/(Mo+Ti+Nb+V)の値が0.6未満または2.0を超える場合はいずれかの元素量が過剰であり、本発明のTiとMoとを含む複合析出物以外の硬化組織が過度に形成されて、耐SR特性の劣化や、靭性の劣化を招くため、C/(Mo+Ti+Nb+V)の値を0.6〜2.0に規定する。なお、質量%の含有量を用いる場合は、以下の式(1)を用いて計算して、その値を0.6〜2.0とする。
【0031】
(C/12.01)/(Mo/95.9+Nb/92.91+V/50.94+Ti/47.9)・・・(1)
本発明では鋼板の強度や靭性をさらに改善する目的で、以下に示すCu、Ni、Cr、Caの1種または2種以上を含有してもよい。
【0032】
Cu:0.50%以下とする。Cuは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると溶接性が劣化するため、添加する場合は0.50%を上限とする。
【0033】
Ni:0.50%以下とする。Niは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると耐SR特性が低下するため、添加する場合は0.50%を上限とする。
【0034】
Cr:0.50%以下とする。CrはMnと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素であるが、多く添加すると溶接性が劣化するため、添加する場合は0.50%を上限とする。
【0035】
Ca:0.0005〜0.0025%とする。Caは硫化物系介在物の形態制御による靭性向上に有効な元素であるが、0.0005%未満ではその効果が十分でなく、0.0025%をこえて添加しても効果が飽和し、むしろ、鋼の清浄度の低下により靭性を劣化させるので、添加する場合はCa含有量を0.0005〜0.0025%に規定する。
【0036】
上記以外の残部はF e および不可避不純物からなる。
【0037】
次に、本発明の高強度鋼板の製造方法について説明する。
【0038】
本発明の高強度鋼板は上記の成分組成を有する鋼を用い、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750℃以上で熱間圧延を行い、その後2℃/s以上の冷却速度で冷却を行い、次いで550〜700℃の温度で一定時間保持することで、TiとMoと、Nbおよび/またはVとを含む微細な複合炭化物を分散析出させて製造できる。550〜700℃の温度で一定時間保持する方法として、550〜700℃の温度で鋼帯に巻き取る(第一の製造方法)、550〜700℃の温度で5分以上の等温保持を行う(第二の製造方法)、550〜700℃の温度から0.1℃/s以下の冷却速度で徐冷を行う(第三の製造方法)、の3つの製造方法がある。以下、各製造方法について詳しく説明する。
【0039】
加熱温度:1000〜1250℃とする。加熱温度が1000℃未満では炭化物の固溶が不十分で必要な強度が得られず、1250℃を超えると靭性が劣化するため、1000〜1250℃とする。
【0040】
圧延終了温度:750℃以上とする。圧延終了温度が低いと、フェライト相中に圧延歪が残留しSR処理によって回復を生じ、SR後の強度低下を招くため、圧延終了温度を750℃以上とする。また、圧延終了温度の上限は特に規定しなくとも優れた耐SR特性と強度が得られるが、組織の粗大化による靭性低下を防ぐため、950℃以下の温度で圧延を終了することが好ましい。
【0041】
圧延終了後に2℃/s以上の冷却速度で冷却する。圧延終了後に放冷または徐冷を行うと高温域から析出物が析出して、析出物が容易に粗大化し強度が低下する。よって、析出強化に最適な温度まで急冷を行い、高温域からの析出を防止することが本発明における重要な製造条件である。冷却速度が2℃/s未満では高温域での析出防止効果が十分ではなく強度が低下するため、圧延終了後の冷却速度を2℃/s以上に規定する。このときの冷却方法については製造プロセスによって任意の冷却設備を用いることが可能である。
【0042】
2℃/s以上の冷却速度での冷却後、本発明のフェライト組織と微細析出物とを得るためには、高温で一定時間保持することが必要である。第一の製造方法は薄鋼板を製造する場合であり、熱間圧延後、ランアウトテーブルでの水冷等によって冷却した後、鋼帯に巻取る熱延プロセスにおいて、所定の温度で巻取りを行うことにより、鋼帯を等温保持して本発明の析出物を析出させる。
【0043】
また、冷却終了温度は、その後の巻取り温度、等温保持温度、または徐冷開始温度よりも高い温度であればよいが、冷却終了温度が高すぎると析出物の粗大化が生じて十分な強度が得られないので、750℃以下とすることが望ましい。
【0044】
第一の製造方法:巻取り温度:550〜700℃とする。熱延プロセスにより鋼帯を製造する場合は、2℃/s以上の冷却速度での冷却後に巻取り温度550〜700℃で巻取りを行う。巻取り温度が550℃未満ではベイナイトが生成するために耐SR特性が劣化し、また700℃を超えると析出物が粗大化し十分な強度が得られないため、熱延プロセスにおける巻取り温度を550〜700℃に規定する。
【0045】
第二の製造方法及び第三の製造方法は、巻き取りを行わない、厚鋼板等を製造する場合に適する方法であり、厚板ミルにおいて、仕上げ圧延後の水冷設備で冷却した後に、均熱炉において所定の時間以上等温保持して本発明の析出物を析出させる方法が第二の製造方法である。また第三の製造方法は、水冷後に、カバー徐冷等により徐冷を行うことで高温を維持して本発明の析出物を析出させて、本発明の鋼板を製造するものである。以下にこれらの場合を説明する。
【0046】
第二の製造方法:2℃/s以上の冷却速度での冷却後に、550〜700℃の温度で5分以上の等温保持する。冷却終了温度は、等温保持の温度以上、750℃以下とすることが好ましい。熱延プロセスのような鋼帯への巻取りを行わない場合は、圧延後の冷却に引き続いて、一定時間以上の等温保持を行うことによって、MoとTiとを含む析出物が分散析出したフェライト単一組織を得ることが可能である。このとき、550℃未満ではベイナイトが生成するために耐SR特性が劣化し、また700℃を超えると析出物が粗大化し十分な強度が得られないため、保持温度を550〜700℃に規定する。また、保持時間が5分未満ではフェライト変態が完了せず、その後の冷却でベイナイトまたはパーライトを生成するために耐SR特性が劣化するので、保持時間は5分以上に規定する。なお、等温保持によってフェライト変態が完了していれば、その後の冷却速度は任意の速度で構わない。
【0047】
第三の製造方法:2℃/s以上の冷却速度での冷却後に、550〜700℃の温度から0.1℃/s以下の冷却速度で徐冷する。上記のような等温保持を行わなくとも、圧延後の冷却に引き続いて、所定の温度から徐冷を行うことによっても本発明の鋼板を製造することが可能である。このときの冷却速度が0.1℃/sを超えると、ベイナイトが生成し耐SR特性が低下するため、冷却速度の上限を0.1℃/sに規定する。また、徐冷を開始する温度は550〜700℃とする。550℃未満ではベイナイト生成により耐SR特性が劣化し、また700℃を超えると析出物が粗大化し十分な強度が得られないためである。
【0048】
従来の熱延ミルまたは厚板ミルを用いることのできる上記の第一、第二、第三製造方法により製造された本発明の鋼板は、プレスベンド成形、ロール成形、UOE成形等で鋼管に成形して、原油や天然ガスを輸送する鋼管(電縫鋼管、スパイラル鋼管、UOE鋼管)等に利用することができる。
【0049】
【実施例】
表1に示す化学成分の供試鋼(鋼種A〜K)を用いて板厚12、18、26mmの鋼板を製造した。
【0050】
【表1】
Figure 0003780956
【0051】
板厚12mmの熱延鋼帯(No.1〜17)は、圧延後に冷却を行い所定の温度で巻取りを行って製造した。表2に各鋼板のスラブ加熱温度、圧延終了(仕上)温度、圧延後冷却速度、巻取温度を示す。板厚18mm及び26mmの厚鋼板(No.18〜28)は、熱間圧延(厚板プロセス)により鋼種B、C、E、I、Kを用いて表3に示す条件で製造した。表3において、冷却後の処理方法が「温度保持」と記載されているものは、圧延後に加速冷却装置により冷却を行った後、ガス燃焼炉で等温保持(均熱処理)を行った。等温保持を行ったものについては、保持温度と保持時間を表3に併せて示す。また、冷却後の処理方法が「徐冷」と記載されているものは、圧延後に加速冷却装置により冷却を行った後、鋼板を積み重ねることで室温まで徐冷を行った。徐冷を行ったものについては、徐冷開始温度と徐冷開始から300℃までの平均冷却速度を表3に併せて示す。また、No.28は圧延終了後加速冷却により350℃まで冷却し、その後空冷によって製造した。
【0052】
以上のようにして製造した鋼板のミクロ組織を、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。析出物の成分はエネルギー分散型X線分光法(EDX)により分析した。また耐SR特性を調査するため、ガス雰囲気炉を用いて各鋼板にSR処理を行った。このときの熱処理条件は650℃で2時間とし、その後炉から取り出し空冷によって室温まで冷却した。そして、SR処理前後の鋼板の引張特性及びシャルピー衝撃特性を測定した。引張特性は、圧延垂直方向の全厚試験片を引張試験片として引張試験を行い、降伏強度、引張強度を測定した。そして、製造上のばらつきを考慮して、SR処理前後いずれにおいても降伏強度520MPa以上、引張強度600MPa以上であるものをAPI X65グレードを超える高強度鋼板として評価した。また、靭性については、SR処理後のシャルピー衝撃試験において、−10℃で吸収エネルギーが70J以上あるものを高靭性鋼板として評価した。また、溶接熱影響部靱性(HAZ靱性)を評価するために、SR処理前の鋼板を用いて溶接熱サイクル再現装置により入熱15kJ/cmに相当する熱履歴を与えた後シャルピー衝撃試験を行った。そして破面遷移温度が−10℃以下のものをHAZ靱性が良好と判断した。測定結果を表2、表3に併せて示す。
【0053】
【表2】
Figure 0003780956
【0054】
【表3】
Figure 0003780956
【0055】
表2において、本発明例であるNo.1〜8はいずれも、化学成分および製造方法が本発明の範囲内であり、SR処理の前後で引張強度600MPa以上の高強度で、かつ靭性も優れていた。鋼板の組織は、実質的にフェライト単層であり、TiとMoと、Nbおよび/またはVとを含む粒径が10nm未満の微細な炭化物の析出物が分散析出していた。
【0056】
No.9〜12は化学成分は本発明の範囲内であるが、製造方法が本発明の範囲外であり、金属組織が実質的にフェライト単相ではないことや、TiとMoとを含む析出物が分散析出していないため、SR処理後に十分な強度が得られないか、または靭性が低かった。
【0057】
No.13〜17は化学成分が本発明の範囲外であり、SR処理後に十分な強度が得られないか、または靭性が低かった。
【0058】
表3において、本発明例であるNo.18〜21はいずれも、化学成分および製造方法が本発明の範囲内であり、SR処理の前後で引張強度600MPa以上の高強度と高い靭性を有していた。鋼板の組織は、実質的にフェライト単層であり、TiとMoと、Nbおよび/またはVとを含む粒径が10nm未満の微細な炭化物の析出物が分散析出していた。
【0059】
No. 22〜25は化学成分は本発明の範囲内であるが、製造方法が本発明の範囲外であり、金属組織が実質的にフェライト単相ではないことや、TiとMoとを含む析出物が分散析出していないため、SR処理後に十分な強度が得られないか、靭性が低かった。
【0060】
No. 26、27は化学成分が本発明の範囲外であり、SR処理後に十分な強度が得られないか、または靭性が低かった。
【0061】
No.28は化学成分が本発明の範囲内であるが、熱間圧延後の冷却条件が本発明範囲と異なるため、SR処理後に十分な強度が得られなかった。
【0062】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、API X65グレード以上の高強度を有し、かつSR処理後も強度と靭性の優れた鋼板が得られる。このため優れた特性を有する電縫鋼管、スパイラル鋼管、UOE鋼管等の鋼管を製造することができる。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜0.50 %、Mn:0.5〜1.8%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Mo:0.05〜0.50%、Ti:0.005〜0.04%、Al:0.01〜0.07%を含有し、Nb:0.005〜0.07%および/またはV:0.005〜0.10%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、原子%でのC量とMo、Ti、Nb、Vの合計量の比であるC/(Mo+Ti+Nb+V)が0.6〜2.0であり、金属組織がフェライト体積分率90%以上であり、TiとMoと、Nbおよび/またはVとを含む粒径10nm以下の析出物が分散析出していることを特徴とする、耐SR特性に優れた高強度鋼板。
  2. さらに、質量%で、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Ca:0.0005〜0.0025%の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐SR特性に優れた高強度鋼板。
  3. 請求項1または請求項2に記載の成分組成を有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750℃以上の条件で熱間圧延した後、2℃/s以上の冷却速度で冷却し、次いで550〜700℃の温度で鋼帯に巻き取ることを特徴とする、耐SR特性に優れた高強度鋼板の製造方法。
  4. 請求項1または請求項2に記載の成分組成を有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750℃以上の条件で熱間圧延した後、2℃/s以上の冷却速度で冷却し、次いで550〜700℃の温度で5分以上の等温保持を行うことを特徴とする、耐SR特性に優れた高強度鋼板の製造方法。
  5. 請求項1または請求項2に記載の成分組成を有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750℃以上の条件で熱間圧延した後、2℃/s以上の冷却速度で冷却し、次いで550〜700℃の温度から0.1℃/s以下の冷却速度で冷却を行うことを特徴とする、耐SR特性に優れた高強度鋼板の製造方法。
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