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JP3780577B2 - エンジンの点火時期制御装置 - Google Patents

エンジンの点火時期制御装置 Download PDF

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  • General Engineering & Computer Science (AREA)
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  • Electrical Control Of Ignition Timing (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はエンジンの点火時期制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃費向上の観点より最大の軸トルクを発生するのに必要な最小点火進角値(いわゆるMBT)となるように点火時期を制御するものがある(特開昭63−280862号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
基本点火時期としてMBTをすべての運転域で採用するのはなく、実際には一部の運転域でMBTよりも遅角側の値を基本点火時期として設定している。たとえば、図16に示したように、低回転高負荷域ではノッキング防止のためMBTよりも遅角側の値に、またアイドルスイッチON時においても〈1〉無負荷時の安定性向上と〈2〉HC排出量の増加防止のためMBTより遅角側の値にしている。〈1〉については、基本点火時期がMBTよりも遅角側の値であれば、アイドルスイッチON時に回転落ちが生じたとしても点火時期の進角補正によるトルク増加が可能(点火時期の進角補正により点火時期がMBTに近づいてトルクが増加する)となり、このトルク増加により元のアイドル回転数へと復帰させることができるのである。
【0004】
その一方で、〈a〉アイドル安定化のため、〈b〉変速ショックをなくすため、〈c〉急加速時のショックやその直後のガクガク振動の低減などのため各種のトルクダウン制御が行われることがある。
【0005】
〈b〉について具体的に説明すると、シフトアップ時に生じるトルク段差に伴う変速ショックの程度はそのときのエンジン回転数やスロットルバルブ開度など運転条件によって異なり、高回転およびスロットルの踏み込みが大きいほどシフトアップ時に生じるトルク段差(変速ショック)が大きくなる。そこで、加速時等のシフトアップ時にトルクダウン要求信号が自動変速機制御用コントロールユニットから通信装置を介してエンジンコントロールユニットに送られてくると、そのときのスロットルバルブ開度とエンジン回転数に応じた点火時期の遅角補正によるトルクダウン分でシフトアップ時のトルク段差を吸収させ変速ショックを防止するのである。
【0006】
この場合に、図17に示したように、基本点火時期のMBTからのずれとベーストルクとの間にはリニアな関係(線形一次の関係)がないため、点火時期のトルク補正量の適合が容易でない。基本点火時期のMBTからのずれとベーストルクとの間にリニアな関係があるのであれば、トルクダウン量を倍にしたいとき点火時期のトルク補正量も倍にすれば足りるのに、図17の特性によれば、そうはならないのである。
【0007】
また、同じ量のトルクダウン要求に対して、基本点火時期のMBTからのずれにより点火時期のトルク補正量が異なってくるので、基本点火時期がMBTにある場合(図17のA点)と基本点火時期がMBTよりずれている場合(図17のB点)とでトルクダウン量を同じにしようとすると、別々に点火時期のトルク補正量を適合しなければならず、適合工数が大きくなる。
【0008】
そこで本発明は、基本点火時期で発生するトルクに対する減量割合をトルク補正率として導入するとともに、このトルク補正率に応じて点火時期のトルク補正量を算出することにより、トルクダウン割合の変更に対する適合を容易にするとともに、適合工数を改善することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
第1の発明では、図31に示すように、基本点火時期TADVMを算出する手段31と、この基本点火時期TADVMで発生するトルクに対する減量割合をトルク補正率PIとして算出する手段32と、このトルク補正率PIに応じて点火時期のトルク補正量TRHOS2を算出する手段33と、このトルク補正量TRHOS2で前記基本点火時期TADVMを補正する手段34と、この補正された基本点火時期で火花点火を行う手段35とを設けた。
【0010】
第2の発明では、図32に示すように、基本点火時期TADVMを算出する手段31と、この基本点火時期TADVMで発生するトルクに対する減量割合をトルク補正率PIとして算出する手段32と、前記基本点火時期のMBTからのずれ量MBTZUREを算出する手段42と、このMBTからのずれ量MBTZUREに応じてベーストルクTBを求める手段43と、このベーストルクTBに前記トルク補正率PIを乗算した値をダウントルクTDとして算出する手段44と、このダウントルクTDに応じて、このダウントルクTDを発生するときの点火時期であってMBT点を基準として測った点火時期をダウントルク点火時期TDMとして算出する手段45と、このダウントルク点火時期TDMと前記ずれ量の差を点火時期のトルク補正量TRHOSとして算出する手段46と、このトルク補正量TRHOSで前記基本点火時期TADVMを補正する手段34と、この補正された基本点火時期で火花点火を行う手段35とを設けた。
【0011】
第3の発明では、第2の発明において前記ベーストルクが図示トルクである。第4の発明では、第3の発明において前記ベーストルクの単位にパーセントを用い、最大値を100パーセントとする。
【0012】
第5の発明は、第2から第4までのいずれか一つの発明において前記ずれ量MBTZUREが、前記基本点火時期が前記MBTから遅角側にずれた場合の値である。
【0013】
第6の発明は、第2から第5までのいずれか一つの発明において前記MBTを、シリンダ内総ガス重量Gcylを未燃ガス密度基本値DENSおよび層流火炎速度基本値FLMLで割った値に所定の着火遅れ時間B1を加算し、この加算値をクランク角に単位変換する式によって演算する。
【0014】
第7の発明は、第6の発明において前記基本点火時期TADVMが、前記MBTにトリミングマップによるずらし補正を行った値である。
【0015】
第8の発明では、第7の発明において前記トリミングマップによるずらし補正がノック防止のための補正である。
【0016】
第9の発明では、第7の発明において前記トリミングマップによるずらし補正がサージ防止のための補正である。
【0017】
第10の発明では、第7の発明において前記トリミングマップによるずらし補正が騒音、振動の低減のための補正である。
【0018】
第11の発明では、第7の発明においてアイドル時に前記MBTよりも遅角側の値を前記基本点火時期として設定する場合に前記トリミングマップによるずらし補正がアイドルつなぎのための補正である。
【0019】
第12の発明では、第7の発明において前記トリミングマップによるずらし補正が前記MBT演算式のエラーの補正である。
【0020】
第13の発明では、第1から第12までのいずれか一つの発明において前記トルク補正率がアイドルスイッチON時のアイドル安定化のための値である。
【0021】
第14の発明では、第13の発明において前記アイドル安定化のための値がアイドルスイッチON時のエンジン回転数と目標回転数の差に応じた値である。
【0022】
第15の発明では、第1から第14までのいずれか一つの発明において前記トルク補正率が変速時のトルクダウン制御のための値である。
【0023】
第16の発明では、第15の発明において前記変速時のトルクダウン制御のための値がエンジン回転数とスロットルバルブ開度に応じた値である。
【0024】
第17の発明では、第1から第12までのいずれか一つの発明において前記トルク補正率PIが急加速直後のショック低減のための値である。
【0025】
第18の発明では、第17の発明において前記急加速直後のショック低減のための値がスロットルバルブ開度の変化量に応じた値である。
【0026】
第19の発明では、第1から第12までのいずれか一つの発明において前記トルク補正率PIが急加速直後のガクガク振動の低減のための値である。
【0027】
第20の発明では、第19の発明において前記急加速直後のガクガク振動の低減のための値がエンジン回転数の変化量に応じた値である。
【0028】
【発明の効果】
点火時期補正量とトルク変化量の関係はリニア(比例)でないため、点火時期補正量を個別に与える従来例では、トルクダウン要求が変わったとき、たとえば要求が倍になったとき点火時期補正量を倍にしても実際のトルクダウン量が倍にならず、適合がしにくい。これに対して第1の発明では、トルク補正率に応じて点火時期のトルク補正量を算出するので、その後にトルクダウン割合の変更があっても、このトルクダウン割合の変更に合わせてトルク補正率を変更するだけで足りる(たとえばトルクダウン割合を90%から80%にしたいときはトルク補正率も90%から80%倍にすればよい)ことから、トルクダウン割合の変更に対する適合が容易であり、かつ適合工数を増やすこともない。また、基本点火時期で発生するトルクに対する減量割合をトルク補正率として導入しているので、基本点火時期がMBTにある場合と基本点火時期がMBTからずれている場合とで別々に適合する必要もない。
【0029】
第2の発明では、基本点火時期がMBTに一致する場合であろうとMBTからずれている場合であろうと、同じトルク補正率に対して同じ割合のトルクダウンが生じる(つまり、トルクダウン割合とトルク補正率との間にリニアな関係が生じる)ので、その後にトルクダウン割合の変更があっても、このトルクダウン割合の変更に合わせてトルク補正率を変更するだけで足りる(たとえばトルクダウン割合を90%から80%にしたいときはトルク補正率も90%から80%にすればよい)ことから、トルクダウン割合の変更に対する適合が容易であり、かつ適合工数を増やすこともない。また、基本点火時期TADVMで発生するトルクに対する減量割合をトルク補正率として導入しているので、第1の発明と同様、基本点火時期がMBTにある場合と基本点火時期がMBTからずれている場合とで別々に適合する必要もない。
【0030】
第3の発明では、ベーストルクが図示トルクであるため、ダウントルクも精度のよいトルクとなり、これによってトルク補正量の精度が向上する。
【0031】
第4の発明では、ベーストルクの特性がエンジン回転数に関係なく1つで足り、これによって適合工数を減らすことができる。
【0032】
MBTより進角させてもトルクダウンは可能であるが、この進角によりノックが発生したりNOxが増加するのに対し、第5の発明では、MBTより遅角側でだけトルクダウンを行うので、トルクダウンに際してノックの発生やNOxの増加が生じることがない。
【0033】
第6の発明では、先願装置と同じに、演算式によりMBTを得ているので、三元触媒方式で基本点火時期のマップを用いた従来のMBT制御方式と比較して、少ない実験によりMBT演算式の適合が可能である。
【0034】
第8の発明では、スロットルバルブの全開位置近傍でMBTが実現できない場合にも、ノック防止のための補正を行うことで、燃費、出力をできるだけ良くするためスロットルバルブの全開位置においてノッキングが生じるぐらいの圧縮比の設計を行っていても、ノッキングが発生したり騒音が大きくなることがない。
【0035】
MBTでは減速領域など部分燃焼(途中失火)が起きやすく、これに起因してサージが生じる可能性があることになどにより、MBTよりもリタードしたほうが燃焼安定度が良い領域があるが、第9の発明ではこの領域でサージ防止のための補正を行うことで、この領域での燃焼安定度を良くすることができる。
【0036】
第10の発明では、騒音、振動の低減のための補正により、燃焼圧上昇速度が大きいことによる加振力の発生、騒音の増大、前後振動の発生をすべて抑制することができる。
【0037】
アイドル時にMBTよりも遅角側の値が基本点火時期になるのでは、アイドル時とアイドル時以外の切換前後でトルクの段差が大きく、運転性に影響を及ぼすことになるが、第11の発明では、アイドルつなぎのための補正を行うことで、アイドル時とアイドル時以外の切換前後でのトルク段差を小さくすることができる。
【0038】
MBT演算式を用いてのMBT演算値があらゆる条件で要求精度に入っていればよいのであるが、実際には回転数、負荷、水温、空燃比(リーン〜リッチ)、EGRの有無やEGR率、スワールコントロールバルブの有無、VTC(無段階の可変バルブタイミング)等が変わった場合、エラー(誤差)が残ることを避けられない。これに対して第12の発明では、MBT演算式エラーの補正を行うことで、補正後のMBT演算値をあらゆる条件で要求精度に収めることができる。
【0039】
【発明の実施の形態】
図1において、1は4バルブエンジンの本体で、吸入空気はエアクリーナ3からスロットル部4、吸気マニフォールドのコレクタ5、分岐部6、さらにプライマリ、セカンダリの各吸気バルブ7を通ってシリンダ8に供給される。燃料は、運転条件に応じて所定の空燃比となるようにコントロールユニット(図ではC/Uで略記)2よりの噴射信号に基づき燃料噴射弁9からエンジンの吸気ポートに向けて噴射される。この噴射燃料はシリンダ8内に流入する空気と交ざって混合気を形成し、混合気は点火プラグ10による火花点火によりシリンダ8内で燃焼する。シリンダ8内で燃焼したガスは排気管11より排出される。
【0040】
コントロールユニット2にはディストリビュータ内蔵のクランク角センサ13からのRef信号(4気筒では180°ごと、6気筒では120°ごとに発生)と1°信号、エアフローメータ14からの吸入空気量信号、三元触媒12の上流側に設置したO2センサ15からの空燃比(酸素濃度)信号、水温センサ16からの冷却水温信号、スロットルセンサ17からのスロットルバルブ18開度信号等が入力され、これらに基づいてコントロールユニット2では、吸入空気量Qとエンジン回転数Nとから基本噴射パルス幅Tpを演算するとともに、加減速時や始動時には壁流燃料に関する補正を行う。
【0041】
コントロールユニット2ではまた、冷間始動時のエンジン安定性をよくしたり高負荷時の要求出力に応えるため目標燃空比相当量TFBYA0を用いて燃料補正を行うほか、トランスミッションのギヤ位置センサ(図示しない)からのギヤ位置信号、車速センサ19からの車速信号等に基づいて運転状態を判断しながら条件に応じてリーン空燃比と理論空燃比との制御を行う。排気管11には三元触媒12が設置され、理論空燃比の運転時に最大の転換効率をもって、排気中のNOxの還元とHC、COの酸化を行う。この三元触媒12はリーン空燃比のときはHC、COは酸化するが、NOxの還元効率は低い。しかしながら、空燃比がリーン側に移行すればするほどNOxの発生量は少なくなり、所定の空燃比以上では三元触媒12で浄化するのと同じ程度にまで下げることができ、同時に、リーン空燃比になるほど燃費が改善される。したがって、負荷のそれほど大きくない所定の運転領域においては目標燃空比相当量TFBYA0を1.0より小さな値とすることによってリーン空燃比による運転を行い、それ以外の運転領域ではTFBYA0を1.0とすることにより空燃比を理論空燃比に制御するのである。
【0042】
ところで、リーン空燃比の混合気を有効に燃焼させるには、シリンダ8内に強力なスワールを生成することが効果的であるため、吸気マニホールドの分岐部6内にスワールコントロールバルブ21を備える。スワールコントロールバルブ21は、その詳細は図示しないが、上半分がカットされているもののセカンダリ吸気バルブ側の端部がカットされずに一部残されており、スワールコントロールバルブ21を閉じると、吸気の流速が速くなるのと同時にプライマリ吸気バルブ側からより多く流入するため、シリンダ8内に希薄混合気の火炎伝播を助ける強いスワールが生成される。
【0043】
スワールコントロールバルブ21はコントロールユニット2からの信号により全開位置と全閉位置の2段階に制御され、エンジン暖機後のアイドル状態およびリーン空燃比領域で閉じられ、それ以外では開かれる。スワールコントロールソレノイド22は、スワールコントロールバルブ21と連結されるダイヤフラムアクチュエータ23の負圧作動室に対して、大気圧と吸入負圧を切換導入するための三方切換弁で、コントロールユニット2からの信号がOFF状態のときは負圧作動室にスロットルバルブ18上流の大気圧を導入する。また、信号がON状態になると、通路を切換えて吸入負圧を負圧作動室に導入してスワールコントロールバルブ21を閉じるようになっている。
【0044】
リーン空燃比による運転が燃費向上に効果的である理由は、ポンピングロスの低減と冷却損失の低減にあるが、この効果はさらにEGRを行うことで高めることができるため、排気管11と吸気マニフォールドを連通する通路24にEGRバルブ25を備える。EGRバルブ25はダイヤフラム式で、その負圧作動室に導かれる負圧と閉弁方向に付勢するダイヤフラムスプリングの付勢力とのバランスでバルブ開度が定まる。
【0045】
BPT(バックプレッシャトランスデューサ)バルブ26は、コントロールオリフィス27下流の排気圧力P2が一定に保たれるようにEGRバルブ25の負圧作動室への制御負圧をフィードバック制御するためのもので、排気圧力P2がかりに上昇したとすると、BPTバルブ26のダイアフラムがスプリングに抗して図で上方に押し上げられ、ダイアフラムに固定されているシートと、このシートに対向する開口端の間の流路断面積が減少し、吸入負圧の大気での希釈割合が小さくなる(つまり負圧作動室への制御負圧が強くなる)。これにより、EGRバルブ開度が増し、排気圧力P2の上昇が抑えられる。このようにして、EGRバルブ25に作用する排気圧力P2がほぼ一定に保たれるとき(BPT制御域)、
Qe≒C×A×(P1−P2)1/2 …(1)
ただし、P1:コントロールオリフィス27上流の排気圧力
A:コントロールオリフィス27の開口面積
C:流量係数
の式で示されるEGRガス流量QeがEGRバルブ25を流れ、また高い排気圧力によってBPTバルブ26が完全に閉じた状態に張り付き、EGRバルブ25が全開状態となる領域になると、コントロールオリフィス27とEGRバルブ25の通気抵抗で決まる流量が流れる。
【0046】
なお、EGRカットソレノイド28は、EGRバルブ25の負圧作動室に対して、大気圧と吸入負圧を切換導入するための三方切換弁で、コントロールユニット2からの信号がOFF状態のときは負圧作動室にスロットルバルブ17上流の大気圧を導入してEGRをカットする。また、信号がON状態になると、通路を切換えて吸入負圧を負圧作動室に導入する(EGR制御を行う)。
【0047】
さて、負荷と回転数に応じた基本点火時期にMBTを採用することで、燃費を向上させることができるのであるが、負荷と回転数をパラメータとする基本点火時期のマップを予め適合しておかなけばならない従来例において、MBT制御の制御精度を向上させようとすれば多くの適合実験が必要となる。特に、リーンバーンシステムやEGR装置を備える場合においてリーン運転領域と非リーン運転領域とで、あるいはEGR中とEGRカット時とで点火時期のマップを使い分けるようにしたのでは、適合実験の数がマップ数に比例して増大し、マップ値を格納しておくためのメモリ容量も大きくなってしまう。
【0048】
このため、シリンダに臨んで設けた圧力センサによりシリンダ内圧力の上昇割合を検出し、このシリンダ内圧力の上昇割合が最大となるときのクランク角が、予め設定した目標値と一致するように点火時期の上記マップ値を補正することにより、多大な適合実験を行うことなくMBT制御精度を向上させるようにするものがあるが(特開平2−245450号公報参照)、このものでは圧力センサを設ける必要があるためコストが増加しかつ圧力センサの耐久性にも問題がある。
これに対処するため、先願装置(特願平8−183637号参照)では、吸入空気量とエンジン回転数から得られる充填効率に基づいた演算式によりMBTの得られる基本点火時期を求める。
【0049】
コントロールユニット2で実行されるこの制御の内容を、以下のフローチャートにしたがって説明する。
【0050】
なお、先願装置では点火時期を演算するに際して空燃比制御に出てくる一部の変数(後述する目標燃空比相当量TFBYA0とシリンダ空気量相当噴射パルス幅Avtp)を用いるので、先に図2、図3、図4により空燃比制御を概説しておく。後述するマップやテーブルの検索はいずれも補間計算付きであるため、以下での説明は省略する。
【0051】
図2のフローチャートは燃料噴射パルス幅を算出して出力する制御動作内容を示すもので、まずステップA)では目標燃空比相当量TFBYA0を、
TFBYA0=Dml+Ktw+Kas …(2)
ただし、Dml;燃空比補正係数
Ktw;水温増量補正係数
Kas;始動後増量補正係数
の式により算出する。
【0052】
ここで、TFBYA0は1.0を中心とする値で、空燃比をリッチ化したりリーン化するための値である。始動後増量補正係数Kasは冷却水温Twに応じた値を初期値として始動後時間とともに一定の割合で減少し最終的に0となる値、また水温増量補正係数Ktwは冷却水温Twに応じた値であり、冷間始動時(ただしDml=1.0)にはこれら増量補正係数Kas、Ktwが0でない正の値を持ち、TFBYA0が1.0より大きな値となるため、空燃比がリッチ側に制御されるのである。
【0053】
一方、燃空比補正係数Dmlは、図5または図6の特性のマップに設定した燃空比Mdmlを検索した上、空燃比の切換時には所定のダンパ操作を行わせて求めるのであり、この場合リーン運転条件かどうかによりいずれかのマップが選択される。
【0054】
ここで、リーン運転条件の判定について図3、図4のフローチャートにしたがって説明する。
【0055】
これらの動作はバックグランドジョブとして行われるもので、図3のステップA)でリーン条件の判定を行うが、このための具体的な内容は図4に示す。リーン条件の判定は図4のステップA)〜F)の内容を一つづつチェックすることにより行い、各項目のすべてが満たされたときにリーン運転を許可し、一つでも反するときはリーン運転を禁止する。
【0056】
すなわち、
ステップA):空燃比(酸素)センサが活性化している、
ステップB):エンジンの暖機が終了している、
ステップC):負荷(TpあるいはAvtp)が所定のリーン領域にある、
ステップD):回転数(N)が所定のリーン領域にある、
ステップE):ギヤ位置が2速以上にある、
ステップF):車速が所定の範囲にある、
ときに、ステップG)でリーン運転を許可し、そうでなければステップH)に移行してリーン運転を禁止する。上記のステップA)〜F)は運転性能を損なわずに安定してリーン運転を行うための条件である。
【0057】
このようにしてリーン条件を判定したら、図3のステップC),D)に戻り、リーン条件でないときは、ステップC)によって理論空燃比あるいはそれよりも濃い空燃比のマップ値(マップ燃空比)を、図6に示す特性のマップを回転数Nと負荷Tpとで検索することにより算出し、これに対してリーン条件のときは、ステップD)で理論空燃比よりも所定の範囲だけ薄い値のマップ燃空比Mdmlを図5に示す特性のマップにしたがって同じように検索する。なお、これらのマップに表した数値は、理論空燃比のときを1.0とする相対値であるため、これよりも数値が大きければリッチ、小さければリーンを示す。
【0058】
なお、目標燃空比相当量TFBYA0が1.0以外の値となって働くときにも空燃比フィードバック制御を行うと、空燃比をリッチ側やリーン側の値にすることができなくなるので、このときには空燃比フィードバック制御を停止している(αのクランプ)。
【0059】
図2に戻り、ステップB)でエアフローメータの出力をA/D変換し、リニアライズして吸入空気流量Qを算出する。そしてステップC)でこの吸入空気流量Qとエンジン回転数Nとから、ほぼ理論空燃比の得られる基本噴射パルス幅Tp[ms]を、Tp=K×Q/Nとして求める。なおKは定数である。
【0060】
ステップD)では
Avtp=Tp×Fload+Avtp-1×(1−Fload)…(3)
ただし、Fload:加重平均係数
Avtp-1:前回のAvtp
の式により、Tpを加重平均した値をシリンダ空気量相当噴射パルス幅Avtp[ms]として求める。スロットルバルブをステップ的に開いたとき、エアフローメータ部ではこれに応じてステップ的に空気流量が増えても、吸気管のボリュームによりシリンダに流入する空気流量は一次遅れでしか増えることができないため、エアフローメータにより検出した空気流量に対する燃料量をシリンダ近傍の噴射弁より噴いたのでは空燃比がリッチになるので、これを避けるため、Tpの加重平均値を求めることによって、過渡時にも、ほぼ理論空燃比の混合気をシリンダに流入させようというのである。
【0061】
(3)式の加重平均係数Floadは、回転数Nおよび行程容積Vcylとの積N・Vcylと吸気管の総流路面積Aaから所定のマップを参照して求める。なお、Aaはスロットルバルブ17の流路面積にアイドル調整弁やエアレギュレータの流路面積を足したものである。
【0062】
ステップE)では
Ti=(Avtp+Kathos)×TFBYA0×α×2+Ts…(4)
ただし、Kathos:過渡補正量
α:空燃比フィードバック補正係数
Ts:無効噴射パルス幅
の式により燃料噴射弁9に与える燃料噴射パルス幅Ti[ms]を計算する。
【0063】
(4)式のKathosは壁流燃料を考慮した値(Avtpに相当する燃料量のすべてがシリンダに流入するのではなく、一部が壁流燃料となるため即座にシリンダに流入できない)、αは制御空燃比が理論空燃比を中心とするいわゆるウィンドウに収まるようにO2センサ出力に基づいて演算される値、Tsは噴射弁9が噴射信号を受けてから実際に開弁するまでの作動遅れを補償するための値である。また、(4)式はシーケンシャル噴射(4気筒ではエンジン2回転毎に1回、各気筒の点火順序に合わせて噴射)の場合の式であるため、数字の2が入っている。なお、(4)式でのTFBYA0とαの単位は無名数であるが、ロジック上はTFBYA0、αとも[%]の単位としている。
【0064】
次にステップF)で燃料カットの判定を行い、ステップH),I)で燃料カット条件ならば無効噴射パルス幅Tsを、そうでなければTiを噴射実行用の出力レジスタにストアすることでクランク角センサの出力にしたがって所定の噴射タイミングでの噴射に備える。
【0065】
噴射の実行はRef信号の入力をトリガとする割込み処理(図示しない)により行われる。各気筒の噴射タイミングで対応する気筒の燃料噴射弁がTiの期間だけ開かれるわけである。
【0066】
以上で空燃比制御の概説を終える。
【0067】
図7、図8のフローチャートはMBT演算値MBTCALを演算するためのもので、10msジョブで実行する。
【0068】
ステップA)では、図2のステップD)より得ているシリンダ空気量相当噴射パルス幅Avtpを用いて
ITAC=(Avtp/Avtp100) …(5)
ただし、Avtp100:100%の充填効率に相当するAvtp
の式により充填効率ITACを計算する。Avtp100は適合固定値(1データ)である。なお、(2)式でのITACの単位は無名数であるが、ロジック上は[%]の単位である。
【0069】
ステップB)では図2のステップA)で得ている目標燃空比相当量TFBYA0を用いて
FUELG=TFBYA0/14.5 …(6)
ただし、TFBYA0:目標燃空比相当量
の式により燃料重量相当係数FUELGを計算する。たとえば理論空燃比のときはFUELG=1.0/14.5となり、リーン空燃比のときは、1.0/14.5より小さな値となる。なお(6)式においてFUELGの単位は無名数であるが、ロジック上も無名数である。
【0070】
ステップC)ではシリンダ内ガス重量(新規空気重量GAIRと自己残留ガス重量GREGとの合計)と新規空気重量GAIRの比である新気割合ITANを計算する。具体的には充填効率ITACと回転数Nより所定のマップを検索して求める。同様にして、ステップD)では充填効率ITACより図9を内容とするテーブルを検索して未燃ガス密度基本値DENSを、またステップE)では充填効率ITACと回転数Nより図10を内容とするマップを検索して層流火炎速度基本値FLMLを求める。なお、層流火炎速度はガスが静止している場合の火炎伝播速度、すなわち流動(乱れ)がない場合の火炎伝播速度のことである。
【0071】
ここで、図9に示すように未燃ガス密度基本値DENSはITACが大きくなるにつれて大きくなる値である。図10のように層流火炎速度基本値FLMLは回転数が一定の条件ではITACが大きくなるほど大きくなり、またITACが一定のときは回転数が高くなるほど大きくなる値である。
【0072】
ステップF)ではスワールコントロールバルブ開度より図11を内容とするテーブルを検索してスワールコントロールバルブ開度係数SCADMPを求め、ステップG)において、
SCVTF=(SCADMP×SCVK+1.0) …(7)
ただし、SCVK:適合係数
の式によりスワール修正係数SCVTFを計算する。
【0073】
スワール修正係数SCVTFは、スワールコントロールバルブ21の全閉時に乱れが強くなることによって火炎速度が速くなる割合を表す値である。この値は、スワールコントロールバルブ開度により定まるので、図11に示したようにスワールコントロールバルブ21が全閉位置で1、全開位置で0となり、中間の開度では線形補間により計算される値をスワールコントロールバルブ開度係数SCADMPとして用いている。
【0074】
(7)式の適合係数SCVKは一定値である。このSCVKの値はエンジンの吸気ポートの形状によって異なるので、エンジン毎に適合する必要がある。
【0075】
のステップH)では、冷却水温Twより図12、図13を内容とするテーブルを検索して水温補正係数TWHOS1、TWHOS2を、またステップI)では目標燃空比相当量TFBYA0より図14、図15を内容とするテーブルを検索して当量比補正係数RMDHS1、RMDHS2を求める。
【0076】
図8に進み、ステップJ)では充填効率ITAC(あるいはα−N流量Qh0)と回転数Nより所定のマップを検索して設定EGR率RATEGRを求め、ステップK)において
EGRC=RATEGR×補正係数 …(8)
の式により修正EGR値EGRCを計算する。
【0077】
ここで、RATEGRの定義は
RATEGR=ERGガス流量/(新規空気流量+ERGガス流量)
であり、この値を排圧方式のEGR装置について予め定めている。
【0078】
(8)式の補正係数は一定値で、実際のEGR率と設定EGR率RATEGRとのずれを示す値である。この値はEGR装置やエンジンによって異なるので、エンジン毎に適合しなければならない。
【0079】
ステップL)では
Figure 0003780577
の式によりシリンダ内総ガス質量(正確には単位シリンダ容積当たりの値である)MASSCを計算する。
【0080】
(9)式において、右辺第2項、第3項、第4項はそれぞれEGR、空燃比、自己残留ガスがシリンダ内ガス重量に及ぼす影響を考慮したものである。
【0081】
なお、(9)式は次のようにして導いたものである。
【0082】
シリンダ内総ガス重量Gcylは、EGRガスおよびシリンダ内に残留するガスをも考慮して
Gcyl=GAIR+GEGR+GFUEL+GREG …(a)
ただし、GAIR:新規空気重量
EGR:EGRガス重量
FUEL:燃料重量
REG:自己残留ガス重量
となる。
【0083】
ここで、(a)式の各重量は、
AIR=ρ0×Vcyl×ITAC …(b)
ただし、ρ0:標準空気密度
Vcyl:行程容積
EGR=GAIR×EGRC …(c)
FUEL=GAIR×FUELG …(d)
REG=GAIR×(1−ITAN)/ITAN …(e)
(∵ITAN=GAIR/(GAIR+GREG))
であるから、これらを(a)式に代入して整理する。
【0084】
Figure 0003780577
とおけば、(h)式により上記の(9)式が得られた。
【0085】
ここで、A1(100%ηcのときのシリンダ内空気重量を意味する)は一定値で、この値はエンジン毎に適合しなければならない。
【0086】
次にステップM)では
Figure 0003780577
ただし、A2:火炎速度補正係数
A3:火炎速度補正変数
EGR0:EGR補正係数
FLMT:乱流火炎速度基本値(固定値)
の式により火炎速度FLVを計算する。
【0087】
(10)式において右辺第1項はスワールがないときの火炎速度、右辺第2項はスワールによる火炎速度の改善分である。
【0088】
まず右辺第1項において、RMDHS2は空燃比(目標燃空比相当量TFBYA0)が層流火炎速度に与える影響を、またTWHOS2は冷却水温Twが層流火炎速度に与える影響をそれぞれ考慮するものである。層流火炎速度基本値FLMLは理論空燃比の雰囲気(つまりTFBYA0=1.0のとき)かつエンジンの暖機完了後(つまり冷却水温がほぼ60℃以上)に対して適合した値であるため、エンジン暖機完了後でも空燃比が理論空燃比を外れたときは火炎速度が遅くなり(実験で確認している)、また理論空燃比の雰囲気でもエンジン暖機完了前においては火炎速度が遅くなる。したがって、空燃比が理論空燃比より外れるときやエンジン暖機完了前にもFLMLをそのまま用いたのでは、実際より火炎速度を速めに見積もることになり、MBTから外れてしまう。そこで、図15に示したように空燃比が理論空燃比より外れるときはRMDHS2によりFLMLを減量補正し、また図13のようにエンジン暖機完了前はTWHOS2によりFLMLを減量補正することで、空燃比が理論空燃比を外れるときやエンジン暖機完了前でも精度良く層流火炎速度を与えることができ、これによって、MBTから外れることがないのである。
【0089】
次に、右辺第1項のEGR補正係数EGR0はEGRを行うときに必要となる値で、設定EGR率と新気割合より算出する。EGR中はEGRカット時より火炎速度が遅くなるためEGR0により火炎速度を減量補正するのである。係数A2は一定値でエンジン毎に適合する。
【0090】
右辺第2項の層流火炎速度基本値FLMTはスワールコントロールバルブ21の全閉状態で点火時期のフィッシュフック実験(一定回転、一定スロットル開度において、最適点火時期(MBT)を求めるため、点火時期を変化させて最大トルク発生点を確認する実験のこと)を行って定めた値(固定値)であるため、スワールコントロールバルブ21が全開位置や全開位置へと到る途中の中間開度にあるときにまでFLMTをそのまま用いたのでは、スワールによる火炎速度の改善分を、実際より大きく見積もることになり、MBTから外れてしまう。そこで、図11に示したように、スワールコントロールバルブが全閉位置にない中間開度にあるときは、スワール修正係数SCVTFによりFLMTを減量補正することで、スワールコントロールバルブ21が全閉位置にない中間開度にあるときでも精度良くスワールによる火炎速度の改善分を与えることができ、これによってMBTから外れることがない。なお、変数A3は回転数Nに比例する値である。
【0091】
ステップN)では
ROU=DENS×RMDHS1×TWHOS1 …(11)
の式により未燃ガス密度ROUを計算する。
【0092】
(11)式においてTWHOS1は冷却水温Twが未燃ガス密度に与える影響を、またRMDHS1は空燃比(目標燃空比相当量TFBYA0)が未燃ガス密度に与える影響を考慮するものである。未燃ガス密度基本値DENSも、上記の層流火炎速度基本値FLMLと同様に、理論空燃比の雰囲気(つまりTFBYA0=1.0のとき)かつエンジン暖機完了後(つまり冷却水温がほぼ60℃以上)に対して適合した値であるため、エンジン暖機完了後でも空燃比が理論空燃比を外れたときは未燃ガス密度が小さくなり(この点も実験により確認している)、また理論空燃比の雰囲気でもエンジン暖機完了前においては未燃ガス密度が小さくなる。したがって、空燃比が理論空燃比より外れるときやエンジン暖機完了前にもDENSをそのまま用いたのでは、実際より未燃ガス密度を大きめに見積もることになり、MBTから外れてしまう。そこで、図14に示したように空燃比が理論空燃比より外れるときはRMDHS1によりDENSを減量補正し、また図12のようにエンジン暖機完了前はTWHOS1によりDENSを減量補正することで、空燃比が理論空燃比を外れるときやエンジン暖機完了前でも精度良く未燃ガス密度を与えることができ、これによって、MBTから外れることがない。
【0093】
このようにして、シリンダ内総ガス質量MASSC、火炎速度FLV、未燃ガス密度ROUを計算したら、これらを用いステップO)で
Figure 0003780577
ただし、B1:着火遅れ時間
B2:時間よりクランク角への換算変数
B3:MBTCAL演算用クランク角補正係数
の式によりMBT演算値であるMBTCAL[°BTDC]を計算する。
【0094】
燃焼時のシリンダ内圧力が最大となるクランク角位置が圧縮上死点後所定のクランク角(10ないし15°)の位置にくるように設定したときの点火進角値がMBTである。この場合に、従来例ではMBTを基本点火時期として採用し、負荷と回転数をパラメータとする基本点火時期のマップを適合実験により予め求めておくのに対して、本発明は演算式によりMBTを定量化したものである。
【0095】
(12)式においてシリンダ内総ガス重量であるA1×MASSCを未燃ガス密度ROUと火炎速度FLVの積で割った値はシリンダ内の未燃ガスのすべてに火炎が達する時間(燃焼時間)で、ロジック上は[ms]の単位となる。この燃焼時間に着火遅れ時間B1[ms]を加えた値を換算変数B2によりクランク角単位に換算することによって、MBT得られる点火進角値を決定しているのである。
【0096】
(12)式より火炎速度FLVが一定のときは、シリンダ内総ガス重量が多くなるほど燃焼に要する時間が長くなるので、そのぶんMBTCALの値が進角側に、またシリンダ内総ガス重量が一定のときは火炎速度FLVが速くなるほど燃焼に要する時間が短くなり、そのぶんMBTCALの値が遅角側に移動する。さらに燃焼に要する時間が一定であっても、その時間に対応するクランク角区間は回転数により変化し、回転数が速いほどMBTCALを進角側にしなければならないので、換算変数B2を回転数Nに比例させている。B1、B3は一定値で、エンジン毎に適合する。
【0097】
ここで、先願装置の作用を説明しておくと、基本点火時期のマップを用いた従来のMBT制御方式では、負荷と回転数の代表点に対応して多大な適合実験を必要とするのに対して、先願装置では基本的に吸入空気流量と回転数を用いた独自の演算式によりMBTの得られる点火進角値を得ているので、少ない実験によりMBT演算式の適合が可能であり、開発期間を短縮化することができるとともに、コントロールユニットのメモリが削減されるため低コスト化が可能である。
【0098】
たとえば、従来の三元触媒方式と合わせるため、
▲1▼理論空燃比の雰囲気(つまりTFBYA0=1.0のとき)、
▲2▼エンジン暖機完了後(つまり冷却水温が80℃程度)
▲3▼EGRカット時
のすべての条件を満たす場合で考えると、このとき、EGRC=0、FUELG=1.0/14.5、RMDHS2=1、TWHOS2=1、EGR0=0、SCVTF=0、RMDHS1=1、TWHOS1=1であることよりMASSC、FLV、ROUがそれぞれ
Figure 0003780577
の式により与えられる。
【0099】
(12a)式においてITACはエンジンの負荷と回転数より得られる計算値、ITANはマップ値、DENSはテーブル値、残りのB1、A1、FLML、B2、B3はすべて一定値である。したがって、適合実験を行わなければならないのは、ITAN、DENS、B1、A1、FLML、B2、B3の各値である。この場合に、ITANの適合は、従来の基本点火時期のマップの適合ほどの実験数は必要でなく(ITANの測定は4×4=16点のデータで可)、またDENSは図9にも示したように、ITACに対して大きく変化する値でないため少ない実験で十分である。B1、A1、FLML、B2、B3は一定値であるため、これらにも多くの実験を必要としない。
【0100】
また、先願装置において、リーン空燃比で運転するときには、FUELGの計算とSCADMPテーブルの簡単な検索を追加するだけで、同じMBTCALの演算式によりリーン運転時にMBTの得られる点火進角値が演算される。リーン空燃比での運転に加えてEGRをも行うときは、さらにEGRCの計算を追加するだけでこれまた同じMBTCALの演算式によりリーン運転時かつEGR中にMBTの得られる点火進角値が演算される。
【0101】
このように、三元触媒方式で基本点火時期のマップを用いた従来のMBT制御方式あるいはリーンバーンシステムやEGR装置を備える場合においてリーン運転領域と非リーン運転領域とで、あるいはEGR中とEGRカット時とで基本点火時期のマップを使い分けるようにする場合と比較して、ITANの測定を含めても現在の約1/5の実験量でMBT演算式の適合が可能となる。先願装置ではリーンバーンシステムかつEGRありの条件のときでも、その中で特定の代表点を測定するだけで適合が可能となるのである。つまり従来の実験では格子上のすべての点で測定する必要があるが、代表点だけで適合が可能であるところに先願装置の効果がある。実験によれば、先願装置によるコントロールユニットのメモリ削減効果はリーンバーンシステムかつEGRありかつハイオクガソリン(あるいはレギュラーガソリン)使用のエンジンの場合、従来に対し1/5であること確かめている。
【0102】
さらに、上記の(12)式によるMBT演算値がどの程度の精度をもっているかを知るため、上記の(12)式によるMBT演算値とMBT測定実験(フィッシュフック実験と同意)による詳細なデータとの誤差のヒストグラムをつくってみたところ、詳細なMBT測定実験データに対し、(12)式によるMBT演算値の平均誤差は1°〜3°以内であり、最大誤差でも−部の領域を除き5°以内であり、MBT制御において十分な精度をもっていることがわかっている。
【0103】
また、圧力センサが不要であるためコストも安く、信頼性が高くなる。
【0104】
これで先願装置の説明を終える。
【0105】
さて、基本点火時期としてMBTをすべての運転域で採用するのはなく、実際には一部の運転域(たとえば低回転高負荷域やアイドルスイッチON時)でMBTよりも遅角側の値を基本点火時期として設定している(図16参照)。
【0106】
この場合に、アイドル安定化のため、変速ショックをなくすため、急加速時のショックやその直後のガクガク振動の低減などのため各種のトルクダウン制御を行おうとしても、図17に示したように、基本点火時期のMBTからのずれとベーストルクとの間にリニアな関係(線形一次の関係)がないため、点火時期のトルク補正量の適合が容易でない。基本点火時期のMBTからのずれとベーストルクとの間にリニアな関係があるのであれば、トルクダウン量を倍にしたいとき点火時期のトルク補正量も倍にすれば足りるのに、図17の特性によれば、そうはならないからである。
【0107】
また、同じ量のトルクダウン要求に対して、基本点火時期のMBTからのずれにより点火時期のトルク補正量が異なってくるので、基本点火時期がMBTにある場合(図示のA点)と基本点火時期がMBTよりも遅角側にある場合(図示のB点)とでトルクダウン量を同じにしようとすると、別々に点火時期のトルク補正量を適合しなければならず、適合工数が大きくなる。
【0108】
これに対処するため本発明では、基本点火時期で発生する図示トルクに対する減量割合をトルク補正率として導入し、このトルク補正率に基づいて点火時期のトルク補正量を算出する。
【0109】
この制御の内容を、以下フローチャートに基づいて説明する。
【0110】
図18のフローチャートは基本点火時期TADVMを算出するためのもので、図7、図8のフローに続けて10ms毎に実行する。
【0111】
ステップA)、B)ではトリミングマップ補正値ADVTRM[deg]とアイドル時点火時期GOVIDL[deg]を算出する。ステップC)ではアイドルスイッチがON状態にあるかどうかみてこれがONのときはステップD)で、
TADVM=GOVIDL−CATDAN …(13)
ただし、CATDAN:触媒暖機補正値[deg]
の式により、基本点火時期TADVM[deg]を計算する。
【0112】
ここで、(13)式のアイドル時点火時期GOVIDLは、図16で説明したように、アイドルスイッチON時(無負荷時)の安定性向上とHC排出量の低減をねらい、MBTよりも大きく遅角側の値となっている。具体的には、回転数Nから所定のテーブルを検索して求まる値GOVと冷却水温Twから所定のテーブルを検索して求まる値ADVCD1の和である。
【0113】
また、(13)式((14)式においても)においてTADVMは圧縮上死点より進角側に測ったクランク角であるため、正の値であるCATDANの前についているマイナスはCATDANが遅角量であることを意味する。
【0114】
一方、アイドルスイッチがOFFのときはステップC)よりステップE)に進み、図8のステップO)で得ているMBT演算値MBTCALを用いて
TADVM=MBTCAL+ADVTRM−CATDAN …(14)
の式により基本点火時期TADVM[deg]を計算する。
【0115】
ここで、トリミングマップ補正値ADVTRMは、ノック防止、サージ防止、騒音と振動の低減、アイドルつなぎのための各補正とMBT演算式エラーの補正をねらったもので、回転数Nと負荷としての充填効率ITAC(図7のステップA)で得ている)から所定のマップを検索して求める。なお、ADVTRMはADVTRMの前についているのがプラスだからといって必ずしも進角量だけでなく、ADVTRMそのものがマイナスの値をもつことで遅角量にもなる(つまりADVTRMはプラスとマイナスの両方の値をとる)。
【0116】
トリミングマップ補正値ADVTRMが対象とする上記の各補正は、その補正の目的がそれぞれ相違するので、以下に個別に説明する。
【0117】
〈イ〉ノック防止のための補正:スロットルバルブの全開位置近傍ではMBTが実現できないのが普通(燃費、出力をできるだけ良くするためスロットルバルブの全開位置でノッキングが生じるぐらいの圧縮比の設計を行うからである)であり、そのままでなんら補正をしないときはノッキングが発生し騒音も大きくなる。そこで、ADVTRMによりスロットルバルブの全開位置近傍ではMBTよりも遅角させている。
【0118】
〈ロ〉サージ防止のための補正:MBTでは減速領域など部分燃焼(途中失火)が起きやすく、これに起因してサージが生じる可能性があることになどにより、MBTよりもリタードしたほうが燃焼安定度が良い領域がある。そこで、この領域ではADVTRMによりMBTよりも遅角させている。
【0119】
〈ハ〉騒音、振動の低減のための補正:ΔP/ΔQ(燃焼圧上昇速度)が大きいと、加振力となり、騒音が大きくなり、また前後振動も発生しやすいので、ADVTRMによりMBTより遅角してΔP/ΔQを落とすことがある。
【0120】
〈ニ〉アイドルつなぎのため補正:アイドリングはハンチングを防止するためや負荷が加わったときの復元力を上げ回転落ちを小さくするためにMBTよりも大きく遅角させるのが普通であり、アイドルスイッチにより点火時期を切換えている(アイドルスイッチON時はGOVIDLを、アイドルスイッチOFF時はMBT演算値を用いる)。したがって、アイドルスイッチの切換前後でトルクの段差が大きく、運転性に影響を及ぼすことになるので、これを防止するため、アイドル近傍ではADVTRMによりMBTCALを遅角側に補正して用いる必要があるのである。
【0121】
〈ホ〉MBT演算式エラーの補正:MBT演算式があらゆる条件で要求精度に入っていればよいのであるが、実際には回転数、負荷、水温、空燃比(リーン〜リッチ)、EGRの有無やEGR率、スワールコントロールバルブの有無、VTC(無段階の可変バルブタイミング)等が変わった場合、エラー(誤差)が残ることを避けられない。このエラーをADVTRMにより補正する。
【0122】
このように、触媒暖機完了後であれば、アイドルスイッチON時はGOVIDLにより点火時期がMBTよりも遅角側に、またアイドルスイッチOFF時はADVTRMによりMBTCALが補正して用いられる。
【0123】
なお、MBT演算値とトリミングマップ補正値ADVTRMを分離して構成しない場合は、上記の〈イ〉〜〈ホ〉のそれぞれに対応して次の問題が生じる。
【0124】
〈α〉ノック限界によりMBTまで進角できないときの補正ができないので、ノッキングが生じるままになる。ノッキングを避けるため全域で遅角側に適合したのでは、燃費が悪化する。
【0125】
〈β〉MBT演算式において補正しない燃焼速度に影響するパラメータ(たとえば、吸気温度の条件差、VTC)がある場合、要求と合わせることができない。
【0126】
〈γ〉騒音、振動の低減のための補正やアイドルつなぎのための補正もできない。
【0127】
〈δ〉MBT演算式にエラーがあっても補正することができないため、燃費が悪化する。
【0128】
これに対して、本発明ではMBT演算値とは別にトリミングマップ補正値ADVTRMを導入しているので、上記の〈α〉〜〈δ〉の各問題が生じることがないのである。
【0129】
ここで、〈α〉は上記の〈イ〉に、〈β〉は上記の〈ホ〉に、〈γ〉は上記の〈ハ〉と〈ニ〉に、〈δ〉は上記の〈ホ〉にそれぞれ対応することはいうまでもない。
【0130】
図19のフローチャートは点火装置に与える点火時期ADVを計算して出力する制御動作内容を示すもので、図7、図8、図18のフローとは別にRef信号に同期して実行する。
【0131】
ステップA)〜E)はトルクダウン制御のためのリタード制御量(点火時期のトルク補正量)TRHOSの算出を行う部分である。
【0132】
ここで、基本点火時期TADVMがMBTよりも遅角側にずれている場合のリタード制御量TRHOSの算出方法を、図20により先に説明しておく。同図は横軸をMBTからのずれ、縦軸をベーストルクとしたときの特性で、ベーストルクはMBTCAL−TADVM=0のとき(つまり基本点火時期TADVMがMBTCALに一致するとき)最大となり、TADVMがMBTCALからずれるほど小さくなってゆく。なお、ベーストルクには図示トルク(PI線図から求めたトルク)を用いている。
【0133】
ただし、ベーストルクの単位には%を用い、最大値を100%としている。トルクの単位をkg・mで表さず、%と割合で扱うことで、回転数や負荷が相違してもほぼ同じ特性が得られるので、これらの違いによりベーストルクの特性を変える必要がなくなるのである。
【0134】
この場合に、MBTCAL−TADVMが0より右側の所定値にある場合のトルク制御遅角量を求めることを考える。
【0135】
手順▲1▼:MBTCAL−TADVMに対するベーストルクを求めるとTB[%]である。
【0136】
手順▲2▼:TBに対するトルクダウン後のベーストルクの割合をPI[%]で与えれば、TB×PIがトルクダウン後のベーストルクTD[%]である。
【0137】
手順▲3▼:TDを発生するときの点火時期TDM[deg]がトルクダウン後の点火時期(ただしMBT点を基準として遅角側に測った点火時期)である。
【0138】
手順▲4▼:TDMとMBTCAL−TADVMの差をとると、この差がベーストルクをTBからTDへとトルクダウンさせる場合のトルク制御遅角量TRHOS[deg]となる。
【0139】
こうした手順を述べた部分が、図19のステップA)〜E)である。
【0140】
まずステップA)では図のステップO)で得ているMBTCALと図18のステップD)またはE)で得ているTADVMとから
MBTZURE=MBTCAL−TADVM …(15)
の式によりMBTずれ量MBTZURE[deg]を計算する。
【0141】
ただし、TADVMがMBTより遅角側にある場合だけを扱うため、MBTZUREはMBTZURE≧0に制限する。TADVMがMBTより遅角側にある場合だけを扱うのは、MBTより進角させてもトルクダウンは可能であるが、この進角によりノックが発生したりNOxが増加するので、これらを避けるため、MBTより進角側は使いたくないからである。
【0142】
ステップB)ではMBTZUREから図21を内容とするTBテーブルを検索してベーストルクTB[%]を求める。ベーストルクTBは図示トルクで、図21に示したようにMBTZUREが0のとき最大となり、MBTZUREが大きくなるほどゆっくりと落ちてくる。なお、図21は図20とまったく同じものである。
【0143】
ステップC)では、
TD=TB×PI …(16)
ただし、PI:エンジントルク制御量[%]
の式によりダウントルクTD[%]を計算する。
【0144】
ここで、PIは基本点火時期でのベーストルクに対するトルクダウン後のベーストルクの割合である。したがって、TDはトルクダウン後のベーストルクになる。なお、ダウントルクTDはTD≦100%に制限する。
【0145】
このダウントルクTDよりステップD)において図22を内容とするTDMテーブルを検索してダウントルク点火時期(ただし、MBT点を基準として遅角側に測った点火時期)TDM[deg]を求める。図22に示したように、TDが100%ということはTBも100%であり、TBが100%であればそのときの点火時期はMBT点にある(つまりTDM=0)わけである。したがって、TDが100%より小さくなるにつれてTDMが大きくなる。
【0146】
ステップE)ではこのTDMとMBTZUREを用いて
TRHOS=TDM−MBTZURE …(17)
の式によりリタード制御量TRHOS[deg]を計算する。
【0147】
このようにしてリタード制御量TRHOSが求まったので、ステップF)では
ADVBL=TADVM−TRHOS+BETA …(18)
ただし、BETA:ノック制御補正量(正負あり)
の式によりTADVMをTRHOSだけ遅角側にシフトさせた値を補正点火時期ADVBL[deg]として求める。このADVBLをステップG)において遅角側リミッタと進角側リミッタの間に制限したあと、この制限したADVBLをステップH)で点火実行用の出力レジスタにストアすることで、クランク角センサの出力にしたがっての所定の点火タイミングでの点火に備える。
【0148】
噴射の実行と同様、点火実行もRef信号の入力をトリガとする割込み処理(図示しない)により行っている。Ref信号の立上がり(たとえば70°BTDC)より1°信号をカウントするカウンタ値が70°−ADVと一致したとき点火コイルの一次電流が遮断される(つまり点火が行われる)のである。
【0149】
次に、上記のエンジントルク制御量PIは、
〈a〉アイドル安定化のため、
〈b〉自動変速機付き車両において変速時のトルクダウン制御のため、
〈c〉急加速時のショック、ガクガク振動の低減のため
に導入しており、PIに100%より小さな値や大きな値が与えられたときトルクダウンが行われる(PIが100%のときはトルクダウンが行われない)。
【0150】
〈a〉の場合には、アイドルスイッチON時に実回転数Nと目標回転数NSETの差より図23を内容とするテーブルを検索してPIを求める。N>NSETのときは100%より小さい値を与えてトルクダウンすることにより実回転数Nを目標回転数NSETへと近づけるのである。
【0151】
なお、N<NSETになるとトルクアップを行わなければならない。この場合に、従来の点火進角ではMBTよりも進角しトルクが逆に落ちてしまう。
【0152】
これに対して本発明では、N<NSETのときのトルクのアップ代を確保できる。この場合に、トルクアップするためPIに100%を越える値を与えたとき、図19のステップC)での100%の制限にひっかかることはない。なぜなら、アイドリングでは図16でも示したように基本点火時期がもともとMBTよりも遅角側にあることから、図19のステップA)でのMBTZUREが大きく、続くステップB)でのベーストルクTBが100%よりも十分小さな値になっている。したがって、トルクアップするためPIに100%を越える値を与えても、PI×TB(=TD)の値が十分100%以内に落ち着くのであり、図19のステップC)での100%の制限にひっかかることがないのである。
【0153】
〈b〉については、たとえば図25に1速から2速へのシフトアップ時を示すと、シフトアップ前はエンジントルクと変速機トルクとが一致している。この場合に、トルクダウン制御を行わないときは、シフトアップの前後の回転数Nの変化量ΔNに対応する運動エネルギーの分だけシフトアップ後には変速機トルクが一時的に大きくなる(図25最下段の実線参照)。そこで、シフトアップ時にPIとしてたとえば70%を与え、ΔNに対応する運動エネルギーの分だけエンジントルクを減少させることにより、シフトアップ前後でエンジンと変速機とを滑らかにつなげようというのである(図25最下段の破線参照)。
【0154】
具体的には、変速機制御用コントロールユニットからトルクダウン要求信号がエンジンコントロールユニットに対して出されたとき、実回転数Nとスロットルバルブ開度TVOから図24を内容とするマップを検索してPIを求める。
【0155】
〈c〉については、図28に示したように、スロットルバルブ開度TVOが全開位置近傍までステップ的に変化したとき(急加速時)、トルクダウン制御を行わないと、軸トルクが図示のように急上昇したあと波打ち(実線参照)、これに起因して車両にショックとガクガク振動が生じる。そこで、最下段に示したように、ΔTVOに応じたエンジントルク制御量PI1[%]でトルクダウンすることにより軸トルクの最初の立上がりを滑らかにすることによって急加速直後のショックを低減し、かつΔNに応じたエンジントルク制御量PI2[%]でトルク制御を行うことにより急加速直後のガクガク振動を低減するのである。
【0156】
具体的には、スロットルバルブ開度の変化量ΔTVOより図26を内容とするテーブルを検索してPI1を、また回転数Nの変化量ΔNより図27を内容とするテーブルを検索してPI2を求め、これらの和をPIとする。
【0157】
なお、ΔN<0のときにはトルクアップしなければならないが、このときにも少しはトルクのアップ代を確保できる。なぜなら、スロットルバルブ全開近傍では、ノック防止とノックからのゆとりのため基本点火時期をやや遅角させており、その分のトルクアップ代が少しではあるがあるからである。しかしながら、そのトルクアップ代はアイドルほどでないので、ガクガク振動防止のためのPI2の値は進角側にはあまり大きくしないのが普通である。
【0158】
ここで、第1実施形態の作用を説明する。
【0159】
第1実施形態では、基本点火時期TADVMがMBTCALに一致する場合であろうとMBTCALからずれている場合であろうと、同じエンジントルク制御量PIに対して同じ割合のトルクダウンが生じる。つまり、トルクダウン割合とPIとの間にリニアな関係が生じるので、TBテーブル(図21)とTDMテーブル(図22)を適合しておけば、その後にトルクダウン割合の変更があっても、このトルクダウン割合の変更に合わせてエンジントルク制御量PIを変更するだけで足りる(たとえばトルクダウン割合を90%から80%にしたいときはエンジントルク制御量PIも90%から80%にすればよい)ことから、トルクダウン割合の変更に対する適合が容易であり、かつ適合工数を増やすこともない。
【0160】
また、基本点火時期TADVMで発生する図示トルクに対する減量割合をエンジントルク制御量PIとして導入しているので、基本点火時期TADVMがMBTCALにある場合と基本点火時期TADVMがMBTCALからずれている場合とで別々にリタード制御量TRHOSの特性(具体的には図21のTBテーブルと図22のTDMテーブル)を適合する必要がない。
【0161】
また、ベーストルクの単位に%を用い、最大値を100%としているので、ベーストルクの特性がエンジン回転数に関係なく1つで足り、これによって適合工数を減らすことができる。
【0162】
図29のフローチャートは第2実施形態で、第1実施形態の図19に対応する。図19と相違するのはステップE1)、F1)で、エンジントルク制御量PI[%]から図30を内容とするテーブルを検索してリタード制御量TRHOS2[deg]を求め、
ADVBL=TADVM−TRHOS2+BETA …(19)
の式により補正点火時期ADVBLを計算している。
【0163】
第2実施形態では、エンジントルク制御量PIに応じてリタード制御量TRHOS2を求めるので、リタード制御量TRHOS2の特性(図30)を適合しておけば、その後にトルクダウン割合の変更があっても、このトルクダウン割合の変更に合わせてエンジントルク制御量PIを変更するだけで足りる(たとえばトルクダウン割合を90%から80%にしたいときはPIも90%から80%倍にすればよい)ので、トルクダウン割合の変更に対する適合が容易であり、かつ適合工数を増やすこともない。
【0164】
また、第2の実施形態でも、基本点火時期TADVMで発生する図示トルクに対する減量割合をエンジントルク制御量PIとして導入しているので、基本点火時期がMBTにある場合と基本点火時期がMBTからずれている場合とで別々にリタード制御量TRHOS2の特性を適合する必要がない。
【0165】
実施形態ではリーンバーンシステムかつEGR装置を備えるものについて説明したが、EGR装置を設けていないリーンバーンシステムやいわゆる三元触媒方式のものにも適用があることはいうまでもない。
【0166】
実施形態では変速時のトルクダウン制御についてシフトアップ時で説明したが、シフトダウン時についてもトルクダウン制御を行うものがあり、このものに対しても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の制御システム図である。
【図2】燃料噴射パルス幅を算出して出力する制御動作内容を説明するためのフローチャートである。
【図3】バックグランドジョブのフローチャートである。
【図4】リーン条件の判定を説明するためのフローチャートである。
【図5】リーンマップの内容を示す特性図である。
【図6】非リーンマップの内容を示す特性図である。
【図7】点火進角値ADVの演算を説明するためのフローチャートである。
【図8】点火進角値ADVの演算を説明するためのフローチャートである。
【図9】未燃ガス密度基本値DENSの特性図である。
【図10】層流火炎速度基本値FLMLの特性図である。
【図11】スワールコントロールバルブ係数SCADMPの特性図である。
【図12】水温補正係数TWHOS1の特性図である。
【図13】水温補正係数TWHOS2の特性図である。
【図14】当量比補正係数RMDHS1の特性図である。
【図15】当量比補正係数RMDHS2の特性図である。
【図16】基本点火時期の特性図である。
【図17】MBTからの基本点火時期のずれに対するベーストルクの特性図である。
【図18】基本点火時期TADVMの算出を説明するためのフローチャートである。
【図19】補正点火時期ADVBLを計算して出力する制御動作内容を説明するためのフローチャートである。
【図20】基本点火時期TADVMがMBTよりもずれている場合のリタード制御量TRHOSの算出方法を説明するための特性図である。
【図21】TBテーブルの特性図である。
【図22】TDMテーブルの特性図である。
【図23】PIテーブルの特性図である。
【図24】PIマップの特性図である。
【図25】シフトアップ時の波形図である。
【図26】PI1テーブルの特性図である。
【図27】PI2テーブルの特性図である。
【図28】急加速時の波形図である。
【図29】第2実施形態の補正点火時期ADVBLを計算して出力する制御動作内容を説明するためのフローチャートである。
【図30】第2実施形態のリタード制御量TRHOS2の特性図である。
【図31】第1の発明のクレーム対応図である。
【図32】第2の発明のクレーム対応図である。
【符号の説明】
1 エンジン本体
2 コントロールユニット
10 点火プラグ

Claims (20)

  1. 基本点火時期を算出する手段と、
    この基本点火時期で発生するトルクに対する減量割合をトルク補正率として算出する手段と、
    このトルク補正率に応じて点火時期のトルク補正量を算出する手段と、
    このトルク補正量で前記基本点火時期を補正する手段と、
    この補正された基本点火時期で火花点火を行う手段と
    を設けたことを特徴とするエンジンの点火時期制御装置。
  2. 基本点火時期を算出する手段と、
    この基本点火時期で発生するトルクに対する減量割合をトルク補正率として算出する手段と、
    前記基本点火時期のMBTからのずれ量を算出する手段と、
    このMBTからのずれ量に応じてベーストルクを求める手段と、
    このベーストルクに前記トルク補正率を乗算した値をダウントルクとして算出する手段と、
    このダウントルクに応じて、このダウントルクを発生するときの点火時期であってMBT点を基準として測った点火時期をダウントルク点火時期として算出する手段と、
    このダウントルク点火時期と前記ずれ量の差を点火時期のトルク補正量として算出する手段と、
    このトルク補正量で前記基本点火時期を補正する手段と、
    この補正された基本点火時期で火花点火を行う手段と
    を設けたことを特徴とするエンジンの点火時期制御装置。
  3. 前記ベーストルクは図示トルクであることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  4. 前記ベーストルクの単位にパーセントを用い、最大値を100パーセントとすることを特徴とする請求項3に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  5. 前記ずれ量は前記基本点火時期が前記MBTから遅角側にずれた場合の値であることを特徴とする請求項2から4までのいずれか一つに記載のエンジンの点火時期制御装置。
  6. 前記MBTを、シリンダ内総ガス重量を未燃ガス密度基本値および層流火炎速度基本値で割った値に所定の着火遅れ時間を加算し、この加算値をクランク角に単位変換する式によって演算することを特徴とする請求項2から5までのいずれか一つに記載のエンジンの点火時期制御装置。
  7. 前記基本点火時期は前記MBTにトリミングマップによるずらし補正を行った値であることを特徴とする請求項6に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  8. 前記トリミングマップによるずらし補正はノック防止のための補正であることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  9. 前記トリミングマップによるずらし補正はサージ防止のための補正であることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  10. 前記トリミングマップによるずらし補正は騒音、振動の低減のための補正であることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  11. アイドル時に前記MBTよりも遅角側の値を前記基本点火時期として設定する場合に前記トリミングマップによるずらし補正がアイドルつなぎのための補正であることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  12. 前記トリミングマップによるずらし補正は前記MBT演算式のエラーの補正であることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  13. 前記トルク補正率はアイドルスイッチON時のアイドル安定化のための値であることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載のエンジンの点火時期制御装置。
  14. 前記アイドル安定化のための値はアイドルスイッチON時のエンジン回転数と目標回転数の差に応じた値であることを特徴とする請求項13に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  15. 前記トルク補正率は変速時のトルクダウン制御のための値であることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載のエンジンの点火時期制御装置。
  16. 前記変速時のトルクダウン制御のための値はエンジン回転数とスロットルバルブ開度に応じた値であることを特徴とする請求項15に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  17. 前記トルク補正率は急加速直後のショック低減のための値であることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載のエンジンの点火時期制御装置。
  18. 前記急加速直後のショック低減のための値はスロットルバルブ開度の変化量に応じた値であることを特徴とする請求項17に記載のエンジンの点火時期制御装置。
  19. 前記トルク補正率は急加速直後のガクガク振動の低減のための値であることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載のエンジンの点火時期制御装置。
  20. 前記急加速直後のガクガク振動の低減のための値はエンジン回転数の変化量に応じた値であることを特徴とする請求項19に記載のエンジンの点火時期制御装置。
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