JP3750983B2 - 骨疾患の治療剤 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、骨疾患の治療及び/又は予防のための医薬、破骨細胞の骨吸収作用の抑制剤、並びに破骨細胞の分化阻害剤に関する。より具体的には、本発明は、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)またはその誘導体を有効成分として含む、上記薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
昆虫は、体の損傷又は微生物感染に対する応答として様々な防御分子、例えば、抗細菌タンパク質、抗菌タンパク質及びレクチンを生成することが知られている(Boman,H.G.(1991) Cell 65, 205-207; Natori,S (1994) Antibacterial Peptides, Chiba Foundation Symposium, Vol.186, pp.123-134, Wiley, Chichester; Natori,S. (1998)in: Molecular Mechanisms of Immune Responses in Insects (Brey,P.T. and Hultmark, D., Eds.), pp.245-260, Chapman and Hall, London; 及びHoffmann,J.A.(1995) Curr.Opin.Immunol. 7,4-10)。
【0003】
ニクバエ(Sarcophaga peregrina)を用いた昆虫免疫の研究中に、本発明者らは免疫した成虫の溶解物中に新規な物質を単離し、これがN−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5-S-GAD)であることを同定した(Leem J.Y., et al. J Biol Chem 1996, 271, 13573-13577; Natori S. Molecular Mechanisms of Immune Responses in Insects. London, Chapman & Hall, 1998, 245-260;及び特開平8−337594号公報)。5-S-GADは抗菌物質として最初に発見されたが、5-S-GADの抗菌活性はH2O2を分解するカタラーゼで阻害されたことから、5-S-GADの抗菌活性はそのカテコール成分由来のH2O2によるものであることが示唆された。
【0004】
5-S-GADは、グルタチオンとβ−アラニル−ジヒドロキシフェニルアラニン(dopa)との複合体である。昆虫が細菌に感染すると、チロシナーゼが活性化し、グルタチオンとβ−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)からの5-S-GAD合成が触媒される。5-S-GAD中の3,4−ジヒドロキシフェニルアラニンの水酸基は不安定であり、過酸化水素を産生するオルトキノンに容易に変換される。5-S-GADの抗菌活性は、オルトキノン由来の過酸化水素によるものであることが判明した(Leem JY, et al. J Biol Chem 1996, 271, 13573-13577)。
5-S-GADの生理活性についてはこれまで抗腫瘍活性など幾つか報告がある(特開平8−337594号公報)。β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)の生理活性についても幾つかの報告はあるものの、未だ十分には解明されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする第1の課題は、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)が破骨細胞の骨吸収作用に及ぼす影響、並びに破骨細胞の分化に及ぼす影響を解明することである。
本発明が解決しようとする第2の課題は、骨疾患、特に骨粗鬆症などの生体内での破骨細胞の過剰な形成及び/又は過剰な機能を伴う疾患の治療及び/又は予防に有用な薬剤を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、破骨細胞とβ-ADを用いてピットフォーメーションアッセイを行うことにより破骨細胞の骨吸収作用を評価するとともに、β-ADが破骨細胞の分化に及ぼす影響を検討した結果、β-ADはこの系で破骨細胞の骨吸収作用を高めることができ、また破骨細胞の分化を阻害できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
即ち、本発明によれば、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む骨疾患の治療及び/又は予防のための医薬が提供される。
好ましくは、骨疾患は破骨細胞の骨吸収作用又は細胞数の増大を伴う疾患であり、特に好ましくは骨粗鬆症である。
【0008】
本発明の別の側面によれば、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む、破骨細胞の骨吸収作用の抑制剤が提供される。
本発明の別の側面によれば、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む、破骨細胞の分化阻害剤が提供される。
【0009】
本発明の別の観点によれば、骨疾患の治療及び/又は予防のための方法であって、薬理学的に有効量のβ-AD、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法;
破骨細胞の骨吸収作用を抑制するための方法であって、薬理学的に有効量のβ-AD、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法;並びに
破骨細胞の分化を阻害するための方法であって、薬理学的に有効量のβ-AD、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の観点によれば、骨疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造におけるβ-AD、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩の使用;
破骨細胞の骨吸収作用の抑制剤の製造におけるβ-AD、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩の使用;並びに
破骨細胞の分化阻害剤の製造におけるβ-AD、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩の使用;
が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の骨疾患の治療及び/又は予防のための医薬、破骨細胞の骨吸収作用の抑制剤、並びに破骨細胞の分化阻害剤(本明細書中において、これらをまとめて本発明の薬剤と称する場合もある)の有効成分は、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩から選択される化合物である。β-ADの化学構造を以下に示す。
【0012】
【化1】
【0013】
β-ADには不斉炭素が存在するが、その不斉炭素の立体配置は特に限定されず、S-又はR-配置(α位又はβ位と呼ぶ場合もある)のいずれであってもよい。本発明で用いるβ-ADは、不斉炭素に基づく異性体として存在可能であり、立体化学的に純粋な形態の任意の異性体(光学異性体、ジアステレオ異性体など)や、任意の異性体の混合物又はラセミ体などを用いることができる。
【0014】
また、β-AD又はその機能性誘導体は、生理学的に許容される塩の形態で本発明の薬剤に配合してもよい。さらに、遊離形態又は塩の形態のβ-ADの水和物又は溶媒和物を本発明の薬剤に有効成分として配合して用いてもよい。
【0015】
生理学的に許容される塩には酸付加塩、塩基付加塩、及びアミノ酸付加塩などが包含される。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、乳酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、メチルアミン塩、トリエチルアミン塩などのアミン塩を用いることができる。アミノ酸付加塩としては、例えば、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の付加塩を用いることができる。
【0016】
本発明の薬剤で有効成分として用いるβ−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)の製造方法は特に限定されず、有機化学合成分野の当業者であれば、適宜合成することができ、例えば、具体的には、特開平8−337594号公報、Leem JY, et al. J Biol Chem 1996, 271, 13573-13577、並びにIto S, et al. J Med Chem 1981, 124, 673-677等に記載の製造方法に準じて、当業者ならば容易に製造することができる。
【0017】
β-ADは、はアミノ酸の縮合合成法及び酵素処理法の両方を利用して合成することもできる。具体的には、t−ブトキシカルボニル−β−アラニル−N−ヒドロキシスクシンイミドとL−β−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(dopa)とをジクロロメタン、トリエタノールアミン、シアン化メチル及びジメチルフルオリドの存在下に反応させ、反応混合物に1N塩酸を添加して酸性条件下で酢酸エチルを用いて抽出処理を行う。酢酸エチル層について減圧下で濃縮して析出する結晶を回収し、溶解後、HPLCにより精製してβ−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)を得ることができる。また、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)は、液相ペプチド合成法により調製することもできる。
【0018】
本発明ではβ-ADの機能性誘導体を有効成分として使用することもできる。β-ADの機能性誘導体とは、β-ADに存在する1以上の官能基を適当な置換基で修飾した誘導体であって、β-ADと同等以上の破骨細胞の骨吸収抑制作用、又は破骨細胞の分化阻害作用を有する誘導体を言う。修飾される官能基としては、例えば、β-ADにおける1つのカルボキシル基、1つのアミノ基または2つの水酸基の何れか1つ以上が挙げられる。カルボキシル基の修飾の例としては、アルコールと反応させてエステル体としたもの、又はアミン化合物と反応させてアミド体としたもの等が挙げられる。また、アミノ基の修飾の例としては、カルボン酸と反応させてアミド体としたもの、アミノ基中の片方又は両方の水素原子を置換基(好ましくは低級アルキル基など)で置換したもの等が挙げられる。また、水酸基の修飾の例としては、カルボン酸と反応させてエステル体としたもの、水酸基中の水素原子を置換基(好ましくは低級アルキル基など)で置換したもの等が挙げられる。これらのβ-ADの機能性誘導体は、上記した5-S-GADの製造方法に準じて通常の有機化学合成法に従って入手することができる。
【0019】
本発明の一つの態様によれば、β-AD、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む、骨疾患の治療及び/又は予防のための医薬が提供される。本発明の別の態様によれば、5-S-GAD、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む、破骨細胞の骨吸収作用の抑制剤並びに破骨細胞の分化阻害剤が提供される。
【0020】
破骨細胞は、直径20〜100μmの大きさを有し、約50個ほどの核を含む大型多核細胞で、骨細胞を吸収及び除去する作用を有する。健常な生体においては、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収はバランスよく保たれ、その結果、骨組織は基本的形状を変えることなく常に新生骨と置換されて健常な状態が保たれている。また、このバランスは、血中のカルシウム濃度を一定に保つなど生体の恒常性維持のためにも重要な役割を果たしている。一方、このバランスが崩れた場合、特に骨吸収量が骨形成量を上回るような場合には、骨関連の疾患のみならずその他の種々の疾患が惹き起こされることとなる。
【0021】
破骨細胞の形成の機構は、例えば、促進因子としてインターロイキン−1や阻害因子としてインターロイキン−4等が確認されているにも拘わらず、未だ完全に解明されたと言えない。これは、生体における破骨細胞の形成も、他の生体内での種々の現象と同様に、数多くの促進因子や阻害因子が複雑に且つ密接に関わり合って制御されているためであると考えられている。
【0022】
本発明の薬剤は、骨疾患の治療及び/又は予防のために使用することができる。骨疾患としては、骨量減少等の内因性骨疾患、及び物理的骨折等の外因性骨疾患の両方を含み、本発明の薬剤は上記骨疾患の治療及び/又は予防、あるいは上記骨疾患の治療期間の短縮のために使用することができる。内因性骨疾患としては、生体内での破骨細胞の過剰な形成及び/又は過剰な機能を伴う全ての疾患が包含される。骨疾患の具体例としては、骨粗鬆症、高カルシウム血症、骨ページェット病、破骨細胞腫、骨肉腫、関節症、慢性関節リウマチ、変形性骨炎、原発性甲状腺機能亢進症、骨減少症、骨多孔症、骨軟化症、外傷性骨折、疲労骨折、又は栄養障害、悪性腫瘍など他の疾病が原因による骨組織の脆弱化及び骨折などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0023】
上記の骨疾患の一例として挙げた骨粗鬆症は、骨の量的減少により骨折しやすくなる疾患である。骨の量は、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収という一連の過程により維持されているが、骨形成と骨吸収は、通常、量的に平衡が保たれるように厳密にコントロールされている。しかしながら、内分泌異常および栄養障害等の原因により骨吸収が骨形成を上回ると骨粗鬆症となる。本発明の薬剤は、好ましくは、骨粗鬆症の治療及び/又は予防のために用いられる。
【0024】
本発明の薬剤は、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含有するものであり、インビトロ、インビボを問わず、破骨細胞の骨吸収作用の抑制、又は破骨細胞の分化阻害のために用いられる全ての形態を包含する。本発明の薬剤は、例えば、(1)破骨細胞の骨吸収作用を抑制して、所望の細胞の維持、増殖及び/又は分化を良好にするための動物細胞等の細胞培養用の培地成分として、(2)骨疾患の治療剤又は予防剤のスクリーニング用キットの構成物として、(3)骨吸収調節剤として、また、(4)骨疾患の治療及び/又は予防のために用いることができる。ここでいう骨吸収調節剤とは、生体内での破骨細胞の形成を阻害することにより骨吸収を正常な域に調節して、比較的軽微な関節痛などの体調不良を改善する薬剤及び健康食品等を包含する。
【0025】
破骨細胞の骨吸収作用の抑制は、例えば、ピットフォーメーションアッセイと称されるアッセイ系によって評価することができる。ピットフォーメーションアッセイでは、適当な大きさの象牙にマウスやウサギなどから取り出した破骨細胞を移植する。本発明の薬剤の存在下でこの破骨細胞を培養すると、時間の経過とともに、破骨細胞の骨吸収作用に応じて骨基質が吸収され、ピットと呼ばれる小さな穴(吸収窩)が形成される。従って、染色を施し、それを顕微鏡で観察し、ピット(吸収窩)の個数、面積、形状などを測定することにより、破骨細胞の骨吸収作用を測定することができる。
【0026】
破骨細胞の分化阻害は、例えば、以下の方法で評価することができる。先ず、破骨細胞の前駆細胞である骨髄細胞を採取し、適当な培養下で培養した後、破骨細胞分化促進因子(Osteoclast differentiation factor)と本発明の薬剤を添加してさらに一定時間培養する。一定時間培養後、TRAP染色を行い、多核(3核以上)の成熟破骨細胞数を測定することにより、破骨細胞の分化阻害を評価することができる。
【0027】
本発明の薬剤としては、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、その機能性誘導体、又は生理学的に許容されるそれらの塩から選択される少なくとも1種をそのまま単独で用いてもよいが、通常は製剤学的に許容される製剤用添加物を用いて医薬組成物の形態で供給することが好ましい。本発明の薬剤は経口的又は非経口的に投与することができる。経口投与に適する薬剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などを挙げることができ、非経口投与に適する薬剤としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤などを挙げることができるが、本発明の薬剤はこれらの製剤に限定されることはない。
【0028】
本発明の薬剤の製造に用いられる製剤用添加物の種類は特に限定されず、当業者が適宜選択可能である。例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、等張化剤、pH調節剤、溶解剤、安定化剤などを用いることができ、これらの目的で使用される個々の具体的成分は当業者に周知されている。
【0029】
本発明の薬剤はヒトを含む哺乳動物に投与することができる。本発明の薬剤の投与量は患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜増減されるべきであるが、一般的には、成人一日あたり1μg/kgから1,000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは10μg/kgから100mg/kg程度の範囲である。上記投与量の薬剤は、毎日投与してもよいしあるいは数日間隔で投与してもよく、例えば1〜4日毎に投与される。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例によって限定されることはない。
【0030】
【実施例】
実施例1:定量的吸収窩形成アッセイ(ピットフォーメーションアッセイ)を用いたβ-ADによる破骨細胞の骨吸収作用の抑制の評価
(1)全骨細胞培養物の調製
生後11〜12週齢のICRマウス(Charles River)をエーテル麻酔により殺処分した後、直ちに70%エタノールに浸し消毒した。アルコール消毒した眼科バサミ及びピンセットを用いて、マウスの両足の踵に切り込みを入れ、足の付け根まで裂いた。皮膚をめくりとり、大腿部を露呈させた。眼科バサミを用いて筋肉を切り取った。関節部分を脱臼させ、大腿骨近位を胴体より分離した。分離した骨は、氷冷下、100U/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシンを含むα−MEM(Flow Laboratories)培養液(以下、培養液と略す)中に入れた。同様に、全てのマウスの両足の骨を分離した。大腿骨と脛骨の間(膝関節)をハサミで切断し、骨に付着した筋肉及び軟組織を取り除いた。
【0031】
得られた骨を全て5%FCSを含む培養液2mlを含む35ml培養用シャーレへ移し、約5分間眼科バサミを用いて細かく切断した。5%FCSを含む培養液2mlをシャーレに加え、よく懸濁した後、上清を50mlの遠沈チューブに移した。上記切断及び懸濁の操作を2回繰り返した後、25mlのピペットを用いて骨切片全てを50mlチューブに移した。細胞及び骨切片懸濁液を5%FCSを含む培養液を用いて50mlにメスアップした。25mlのピペット(Sumilon)を用いて5回懸濁した後、3分間静置し、骨切片を沈殿させた。静かに上清を取り、メッシュ(セルストレーナー70iμm、Falcon)に通しながら別の50mlの遠沈チューブに移した。一部を分取し、細胞数をカウントした。12000rpmで5分間遠心した後、5%FCSを含む培養液を用いて懸濁し、細胞濃度を1×107細胞/mlに調整した。この細胞をラット副甲状腺ホルモン10-8M(ratPTH、合成1〜34残基、BACHEM)及び5%FCSを含む培養液を用いて、細胞濃度4×106細胞/mlに調整し、75cm2の培養用フラスコ(Sumilon)1本当たり15ml入れ(6×107細胞/ボトル)、37℃で5%CO2インキュベーター内で7日間培養した。
【0032】
(2)象牙切片の調製
象牙片を厚さ150μmに精密低速切断機を用いて切断した。切断した象牙片を直径6mmの円状に1穴パンチを用いて切り抜いた。象牙片を70%エタノールに浸し、5分間ずつ2回超音波で処理した。象牙片を滅菌PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で3回、培養液で2回洗浄した後、以下の定量的吸収窩形成アッセイで使用した。
【0033】
(3)定量的吸収窩形成アッセイ
上記(2)で調製した象牙片を96穴プレート(Falcon)に入れ、種々の濃度(0.01、0.1、1、10及び100μg/ml)のβ−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)の入った培養液100mlを添加した。次いで、上記(1)で調製したラット副甲状腺ホルモン10-8Mの存在下で1週間培養した全骨細胞1×105細胞を含む培養液100μlを各穴に添加した。
アッセイ系を10%CO2インキュベーター内で37℃で2日間培養した。培養後、象牙片上の細胞を2N水酸化ナトリウム液内でゴムへらを用いて除き、水洗し、メタノールに浸した後、象牙片を48穴培養プレートの1穴へ入れた。クマシーブリリアントブルー2%液約0.5mlを象牙片の入った各穴に入れ、冷風下で2時間乾燥させた。クマシーブリリアントブルー液が完全に乾燥したことを確認し、象牙片上の余分なクマシーブリリアントブルーを2N水酸化ナトリウム水溶液に浸し、表面を滑らかな紙上で擦することによって除去した。
顕微鏡下で形成された吸収窩の数を測定した。
【0034】
結果を以下の表1に示す。表1中の数値は、対照(11例)の吸収窩の平均に対する百分率で示す。即ち、表1に示した値は、各実験における吸収窩の数(測定値)を対照(11例)の吸収窩の数(測定値)の平均値で割り、100倍した値である。また、表1の結果を図1にグラフとして示した。
【0035】
【表1】
【0036】
上記表1の結果から分かるように、β-AD濃度を増加するにつれて吸収窩の数は減少している。従って、β-ADは破骨細胞の骨吸収作用を抑制する作用を有することが実証された。なお、吸収窩の数を50%減少させるI50は約64μg/mlであった。
【0037】
実施例2:β-ADによる破骨細胞の分化阻害作用の評価
骨髄細胞は、6週齢のddyマウス(雄)の大腿骨より採取し、α−MEM(10%FCS、10%M−CSF culture sup)培地中にて培養した。マウス骨髄細胞を2×104細胞/穴の濃度で48穴プレートにまき、翌日100ng/mlのヒト可溶性ODF(破骨細胞分化促進因子;Osteoclast differentiation factor)を添加し、また1、10、50、100、200及び500μg/mlのβ-ADの存在下または非存在下で、5%CO2インキュベーター内で37℃で培養した。48時間後に培地を交換し、同一の薬物を添加し、さらに48時間培養した後、TRAP染色を行い、多核(3核以上)の成熟破骨細胞数を測定した。
得られた結果を図2に示す。図2中の縦軸は、コントロール(β-ADの非存在下)の場合の多核成熟破骨細胞数に対する百分率を示す。
【0038】
図2の結果から分かるように、β-ADの濃度が増大するにつれて、多核成熟破骨細胞数の数は減少した。従って、β-ADは破骨細胞の分化阻害作用を有することが実証された。
【0039】
【発明の効果】
本発明の薬剤は、破骨細胞の骨吸収作用を抑制し、また破骨細胞の分化を阻害することができ、骨疾患の治療及び/又は予防のための医薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、β-ADを用いた定量的吸収窩形成アッセイの結果を示すグラフである。
【図2】図2は、β-ADによる破骨細胞の分化阻害作用の評価の結果を示すグラフである。
Claims (5)
- β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む骨疾患の治療及び/又は予防のための医薬。
- 骨疾患が、破骨細胞の骨吸収作用又は細胞数の増大を伴う疾患である、請求項1に記載の医薬。
- 骨疾患が骨粗鬆症である、請求項1又は2に記載の医薬。
- β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む、破骨細胞の骨吸収作用の抑制剤。
- β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β-AD)、又は生理学的に許容されるそれらの塩を有効成分として含む、破骨細胞の分化阻害剤。
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