以下、本発明の特徴構成部分の実施形態の説明に先立ち、まず、本発明の基本構成部分の実施形態を図1から図10に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施形態では、インクジェット記録方式を用いた記録装置としてプリンタを例に挙げ説明する。
そして、本明細書において、「プリント」(「記録」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広くプリント媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も言うものとする。
ここで、「プリント媒体」とは、一般的なプリント装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板等、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能な物も言うものとする。
さらに、「インク」(「液体」という場合もある)とは、上記「プリント」の定義と同様広く解釈されるべきもので、プリント媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成またはプリント媒体の加工、或いはインクの処理(例えばプリント媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化)に供され得る液体を言うものとする。
[装置本体]
図1及び図2にインクジェット記録方式を用いたプリンタの概略構成を示す。図1において、この実施形態におけるプリンタの装置本体M1000の外郭は、下ケースM1001、上ケースM1002、アクセスカバーM1003及び排出トレイM1004を含む外装部材と、その外装部材内に収納されたシャーシM3019(図2参照)とから構成される。
シャーシM3019は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材によって構成され、記録装置の骨格をなし、後述の各記録動作機構を保持するものとなっている。
また、前記下ケースM1001は装置本体M1000の外装の略下半部を、上ケースM1002は装置本体M1000の外装の略上半部をそれぞれ形成しており、両ケースの組合せによって内部に後述の各機構を収納する収納空間を有する中空体構造をなしている。装置本体M1000の上面部及び前面部には、それぞれ、開口部が形成されている。
さらに、排出トレイM1004は、その一端部が下ケースM1001に回転自在に保持され、その回転によって下ケースM1001の前面部に形成される前記開口部を開閉させ得るようになっている。このため、記録動作を実行させる際には、排出トレイM1004を前面側へと回転させて開口部を開成させることにより、ここから記録シートが排出可能となると共に排出された記録シートPを順次積載し得るようになっている。また、排紙トレイM1004には、2枚の補助トレイM1004a,M1004bが収納されており、必要に応じて各トレイを手前に引き出すことにより、用紙の支持面積を3段階に拡大、縮小させ得るようになっている。
アクセスカバーM1003は、その一端部が上ケースM1002に回転自在に保持され、上面に形成される開口部を開閉し得るようになっており、このアクセスカバーM1003を開くことによって本体内部に収納されている記録ヘッドカートリッジH1000あるいはインクタンクH1900等の交換が可能となる。なお、ここでは特に図示しないが、アクセスカバーM1003を開閉させると、その裏面に形成された突起がカバー開閉レバーを回転させるようになっており、そのレバーの回転位置をマイクロスイッチなどで検出することにより、アクセスカバーの開閉状態を検出し得るようになっている。
また、上ケースM1002の後部上面には、電源キーE0018及びレジュームキーE0019が押下可能に設けられると共に、LED E0020が設けられており、電源キーE0018を押下すると、LED E0020が点灯し記録可能であることをオペレータに知らせるものとなっている。また、LED E0020は点滅の仕方や色の変化をさせたり、プリンタのトラブル等をオペレータに知らせる等種々の表示機能を有する。さらに、ブザーE0021(図7)をならすこともできる。なお、トラブル等が解決した場合には、レジュームキーE0019を押下することによって記録が再開されるようになっている。
[記録動作機構]
次に、プリンタの装置本体M1000に収納、保持される本実施形態における記録動作機構について説明する。
本実施形態における記録動作機構としては、記録シートPを装置本体内へと自動的に給送する自動給送部M3022と、自動給送部から1枚ずつ送出される記録シートPを所定の記録位置へと導くと共に、記録位置から排出部M3030へと記録シートPを導く搬送部M3029と、記録位置に搬送された記録シートPに所望の記録を行なう記録部と、前記記録部等に対する回復処理を行う回復部(M5000)とから構成されている。
(記録部)
ここで、記録部について説明するに、その記録部は、キャリッジ軸M4021によって移動可能に支持されたキャリッジM4001と、このキャリッジM4001に着脱可能に搭載される記録ヘッドカートリッジH1000とからなる。
記録ヘッドカートリッジ
まず、記録部に用いられる記録ヘッドカートリッジについて図3〜5に基づき説明する。
この実施形態における記録ヘッドカートリッジH1000は、図3に示すようにインクを貯留するインクタンクH1900と、このインクタンクH1900から供給されるインクを記録情報に応じてノズルから吐出させる記録ヘッドH1001とを有する。記録ヘッドH1001は、後述するキャリッジM4001に対して着脱可能に搭載される、いわゆるカートリッジ方式を採るものとなっている。
ここに示す記録ヘッドカートリッジH1000では、写真調の高画質なカラー記録を可能とするため、インクタンクとして、例えば、ブラック、ライトシアン、ライトマゼンタ、シアン、マゼンタ及びイエローの各色独立のインクタンクH1900が用意されており、図4に示すように、それぞれが記録ヘッドH1001に対して着脱自在となっている。
そして,記録ヘッドH1001は、図5の分解斜視図に示すように、記録素子基板H1100、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300、第2のプレートH1400、タンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800から構成されている。
記録素子基板H1100には、Si基板の片面にインクを吐出するための複数の記録素子と、各記録素子に電力を供給するAl等の電気配線とが成膜技術により形成され、この記録素子に対応した複数のインク流路と複数の吐出口H1100Tとがフォトリソグラフィ技術により形成されると共に、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。また、記録素子基板H1100は第1のプレートH1200に接着固定されており、ここには、前記記録素子基板H1100にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。さらに、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されており、この第2のプレートH1400を介して、電気配線基板H1300が記録素子基板H1100に対して電気的に接続されるよう保持されている。この電気配線基板H1300は、記録素子基板H1100にインクを吐出するための電気信号を印加するものであり、記録素子基板H1100に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し本体からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有しており、外部信号入力端子H1301は、後述のタンクホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
一方、インクタンクH1900を着脱可能に保持するタンクホルダーH1500には、流路形成部材H1600が例えば、超音波溶着により固定され、インクタンクH1900から第1のプレートH1200に亘るインク流路H1501を形成している。また、インクタンクH1900と係合するインク流路H1501のインクタンク側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。また、インクタンクH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
さらに、前述のようにタンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700及びシールゴムH1800から構成されるタンクホルダー部と、前記記録素子基板H1100、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成される記録素子部とを、接着等で結合することにより、記録ヘッドH1001を構成している。
(キャリッジ)
次に、図2を参照して記録ヘッドカートリッジH1000を搭載するキャリッジM4001を説明する。
図2に示すように、キャリッジM4001には、キャリッジM4001と係合し記録ヘッドH1001をキャリッジM4001上の所定の装着位置に案内するためのキャリッジカバーM4002と、記録ヘッドH1001のタンクホルダーH1500と係合し記録ヘッドH1001を所定の装着位置にセットさせるよう押圧するヘッドセットレバーM4007とが設けられている。
すなわち、ヘッドセットレバーM4007はキャリッジM4001の上部にヘッドセットレバー軸に対して回動可能に設けられると共に、記録ヘッドH1001との係合部には、ばね付勢されるヘッドセットプレート(不図示)が備えられ、このばね力によって記録ヘッドH1001を押圧しながらキャリッジM4001に装着する構成となっている。
また、キャリッジM4001の記録ヘッドH1001との別の係合部にはコンタクトフレキシブルプリントケーブル(図7参照、以下、コンタクトFPCと称す)E0011が設けられ、コンタクトFPC E0011上のコンタクト部と記録ヘッドH1001に設けられたコンタクト部(外部信号入力端子)H1301とが電気的に接触し、記録のための各種情報の授受や記録ヘッドH1001への電力の供給などを行い得るようになっている。
ここでコンタクトFPC E0011のコンタクト部とキャリッジM4001との間には不図示のゴムなどの弾性部材が設けられ、この弾性部材の弾性力とヘッドセットレバーばねによる押圧力とによってコンタクト部とキャリッジM4001との確実な接触を可能とするようになっている。さらに前記コンタクトFPC E0011はキャリッジM4001の背面に搭載されたキャリッジ基板E0013に接続されている(図7参照)。
[スキャナ]
この実施形態におけるプリンタは、上述した記録ヘッドカートリッジH1000の代わりにキャリッジM4001にスキャナを装着することで読取装置としても使用することができる。
このスキャナは、プリンタ側のキャリッジM4001と共に主走査方向に移動し、記録媒体に代えて給送された原稿画像をその主走査方向への移動の過程で読み取るようになっており、その主走査方向の読み取り動作と原稿の副走査方向の給送動作とを交互に行うことにより、1枚の原稿画像情報を読み取ることができる。
図6(a)および(b)は、このスキャナM6000の概略構成を説明するために、スキャナM6000を上下逆にして示す図である。
図示のように、スキャナホルダM6001は、略箱型の形状であり、その内部には読み取りに必要な光学系・処理回路などが収納されている。また、このスキャナM6000をキャリッジM4001へと装着した時に、原稿面と対面する部分には読取部レンズM6006が設けられており、このレンズM6006により原稿面からの反射光を内部の読取部に収束することで原稿画像を読み取るようになっている。一方、照明部レンズM6005は内部に不図示の光源を有し、その光源から発せられた光がレンズM6005を介して原稿へと照射される。
スキャナホルダM6001の底部に固定されたスキャナカバーM6003は、スキャナホルダM6001内部を遮光するように嵌合し、側面に設けられたルーバー状の把持部によってキャリッジM4001への着脱操作性の向上を図っている。スキャナホルダM6001の外形形状は記録ヘッドH1001と略同形状であり、キャリッジM4001へは記録ヘッドカートリッジH1000と同様の操作で着脱することができる。
また、スキャナホルダM6001には、読取り処理回路を有する基板が収納される一方、この基板に接続されたスキャナコンタクトPCBが外部に露出するよう設けられており、キャリッジM4001へとスキャナM6000を装着した際、スキャナコンタクトPCB M6004がキャリッジM4001側のコンタクトFPC E0011に接触し、基板を、キャリッジM4001を介して本体側の制御系に電気的に接続させるようになっている。
[プリンタの電気回路の構成]
次に、本発明の実施形態における電気的回路構成を説明する。
図7は、この実施形態における電気的回路の全体構成例を概略的に示す図である。
この実施形態における電気的回路は、主にキャリッジ基板(CRPCB)E0013、メインPCB(Printed Circuit Board)E0014、電源ユニットE0015等によって構成されている。
ここで、電源ユニットE0015は、メインPCB E0014と接続され、各種駆動電源を供給するものとなっている。
また、キャリッジ基板E0013は、キャリッジM4001(図2)に搭載されたプリント基板ユニットであり、コンタクトFPC E0011を通じて記録ヘッドとの信号の授受を行うインターフェースとして機能する他、キャリッジM4001の移動に伴ってエンコーダセンサE0004から出力されるパルス信号に基づき、エンコーダスケールE0005とエンコーダセンサE0004との位置関係の変化を検出し、その出力信号をフレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメインPCB E0014へと出力する。
さらに、メインPCBE0014はこの実施形態におけるインクジェット記録装置の各部の駆動制御を司るプリント基板ユニットであり、紙端検出センサ(PEセンサ)E0007、ASF(自動給紙装置)センサE0009、カバーセンサE0022、パラレルインターフェース(パラレルI/F)E0016、シリアルインターフェース(シリアルI/F)E0017、リジュームキーE0019、LED E0020、電源キーE0018、ブザーE0021等に対するI/Oポートを基板上に有する。またさらに、キャリッジM1400を主走査させるための駆動源をなすモータ(CRモータ)E0001、記録媒体を搬送するための駆動源をなすモータ(LFモータ)E0002、記録ヘッドの回動動作と記録媒体の給紙動作に兼用されるモータ(PGモータ)E0003と接続されてこれらの駆動を制御する他、インクエンプティセンサE0006、GAPセンサE0008、PGセンサE0010、CRFFC E0012、電源ユニットE0015との接続インターフェイスを有する。
図8は、メインPCB E0014の内部構成を示すブロック図である。図において、E1001はCPUであり、このCPU E1001は内部に発振回路E1005に接続されたクロックジェネレータ(CG) E1002を有し、その出力信号E1019によりシステムクロックを発生する。また、制御バスE1014を通じてROM E1004およびASIC(Application Specific Integrated Circuit) E1006に接続され、ROMに格納されたプログラムに従って、ASIC E1006の制御、電源キーからの入力信号E1017、及びリジュームキーからの入力信号E1016、カバー検出信号E1042、ヘッド検出信号(HSENS)E1013の状態の検知を行ない、さらにブザー信号(BUZ)E1018によりブザーE0021を駆動し、内蔵されるA/DコンバータE1003に接続されるインクエンプティ検出信号(INKS)E1011及びサーミスタによる温度検出信号(TH)E1012の状態の検知を行う一方、その他各種論理演算・条件判断等を行ない、インクジェット記録装置の駆動制御を司る。
ここで、ヘッド検出信号E1013は、記録ヘッドカートリッジH1000からフレキシブルフラットケーブルE0012、キャリッジ基板E0013及びコンタクトフレキシブルプリントケーブルE0011を介して入力されるヘッド搭載検出信号であり、インクエンプティ検出信号E1011はインクエンプティセンサE0006から出力されるアナログ信号、温度検出信号E1012はキャリッジ基板E0013上に設けられたサーミスタ(図示せず)からのアナログ信号である。
E1008はCRモータドライバであって、モータ電源(VM)E1040を駆動源とし、ASIC E1006からのCRモータ制御信号E1036に従って、CRモータ駆動信号E1037を生成し、CRモータE0001を駆動する。E1009はLF/PGモータドライバであって、モータ電源E1040を駆動源とし、ASIC E1006からのパルスモータ制御信号(PM制御信号)E1033に従ってLFモータ駆動信号E1035を生成し、これによってLFモータを駆動すると共に、PGモータ駆動信号E1034を生成してPGモータを駆動する。
E1010は電源制御回路であり、ASIC E1006からの電源制御信号E1024に従って発光素子を有する各センサ等への電源供給を制御する。パラレルI/F E0016は、ASIC E1006からのパラレルI/F信号E1030を、外部に接続されるパラレルI/FケーブルE1031に伝達し、またパラレルI/FケーブルE1031の信号をASIC E1006に伝達する。シリアルI/F E0017は、ASIC E1006からのシリアルI/F信号E1028を、外部に接続されるシリアルI/FケーブルE1029に伝達し、また同ケーブルE1029からの信号をASIC E1006に伝達する。
一方、電源ユニットE0015からは、ヘッド電源(VH)E1039及びモータ電源(VM)E1040、ロジック電源(VDD)E1041が供給される。また、ASIC E1006からのヘッド電源ON信号(VHON)E1022及びモータ電源ON信号(VMOM)E1023が電源ユニットE0015に入力され、それぞれヘッド電源E1039及びモータ電源E1040のON/OFFを制御する。電源ユニットE0015から供給されたロジック電源(VDD)E1041は、必要に応じて電圧変換された上で、メインPCB E0014内外の各部へ供給される。
またヘッド電源信号E1039は、メインPCB E0014上で平滑化された後にフレキシブルフラットケーブルE0011へと送出され、記録ヘッドカートリッジH1000の駆動に用いられる。
E1007はリセット回路で、ロジック電源電圧E1041の低下を検出して、CPU E1001及びASIC E1006にリセット信号(RESET)E1015を供給し、初期化を行なう。
このASIC E1006は1チップの半導体集積回路であり、制御バスE1014を通じてCPU E1001によって制御され、前述したCRモータ制御信号E1036、PM制御信号E1033、電源制御信号E1024、ヘッド電源ON信号E1022、及びモータ電源ON信号E1023等を出力し、パラレルI/F E0016およびシリアルI/F E0017との信号の授受を行なう他、PEセンサE0007からのPE検出信号(PES)E1025、ASFセンサE0009からのASF検出信号(ASFS)E1026、記録ヘッドと記録媒体とのギャップを検出するためのセンサ(GAP)センサE0008からのGAP検出信号(GAPS)E1027、PGセンサE0010からのPG検出信号(PGS)E1032の状態を検知して、その状態を表すデータを制御バスE1014を通じてCPU E1001に伝達し、入力されたデータに基づきCPU E1001はLED駆動信号E1038の駆動を制御してLEDE0020の点滅を行なう。
さらに、エンコーダ信号(ENC)E1020の状態を検知してタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021で記録ヘッドカートリッジH1000とのインターフェイスをとり記録動作を制御する。ここにおいて、エンコーダ信号(ENC)E1020はフレキシブルフラットケーブルE0012を通じて入力されるCRエンコーダセンサE0004の出力信号である。また、ヘッド制御信号E1021は、フレキシブルフラットケーブルE0012、キャリッジ基板E0013、及びコンタクトFPC E0011を経て記録ヘッドH1000に供給される。
図9は、ASIC E1006の内部構成例を示すブロック図である。
なお、同図において、各ブロック間の接続については、記録データやモータ制御データ等、ヘッドや各部機構部品の制御にかかわるデータの流れのみを示しており、各ブロックに内蔵されるレジスタの読み書きに係わる制御信号やクロック、DMA制御にかかわる制御信号などは図面上の記載の煩雑化を避けるため省略している。
図中、E2002はPLLコントローラであり、図9に示すようにCPU E1001から出力されるクロック信号(CLK)E2031及びPLL制御信号(PLLON)E2033により、ASIC E1006内の大部分へと供給するクロック(図示しない)を発生する。
また、E2001はCPUインターフェース(CPUI/F)であり、リセット信号E1015、CPU E1001から出力されるソフトリセット信号(PDWN)E2032、クロック信号(CLK)E2031及び制御バスE1014からの制御信号により、以下に説明するような各ブロックに対するレジスタ読み書き等の制御や、一部ブロックへのクロックの供給、割り込み信号の受け付け等(いずれも図示しない)を行ない、CPU E1001に対して割り込み信号(INT)E2034を出力し、ASIC E1006内部での割り込みの発生を知らせる。
また、E2005はDRAMであり、記録用のデータバッファとして、受信バッファE2010、ワークバッファE2011、プリントバッファE2014、展開用データバッファE2016などの各領域を有すると共に、モータ制御用としてモータ制御バッファE2023を有し、さらにスキャナ動作モード時に使用するバッファとして、上記の各記録用データバッファに代えて使用されるスキャナ取込みバッファE2024、スキャナデータバッファE2026、送出バッファE2028などの領域を有する。
また、このDRAM E2005は、CPU E1001の動作に必要なワーク領域としても使用されている。すなわち、E2004はDRAM制御部であり、制御バスによるCPU E1001からDRAM E2005へのアクセスと、後述するDMA制御部E2003からDRAM E2005へのアクセスとを切り替えて、DRAM E2005への読み書き動作を行なう。
DMA制御部E2003では、各ブロックからのリクエスト(図示せず)を受け付けて、アドレス信号や制御信号(図示せず)、書込み動作の場合には書込みデータE2038、E2041、E2044、E2053、E2055、E2057などをDRAM制御部E2004に出力してDRAMアクセスを行なう。また読み出しの場合には、DRAM制御部E2004からの読み出しデータE2040、E2043、E2045、E2051、E2054、E2056、E2058、E2059を、リクエスト元のブロックに受け渡す。
また、E2006は、IEEE 1284I/Fであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、パラレルI/F E0016を通じて、図示しない外部ホスト機器との双方向通信インターフェイスを行なう他、記録時にはパラレルI/F E0016からの受信データ(PIF受信データE2036)をDMA処理によって受信制御部E2008へと受け渡し、スキャナ読み取り時にはDRAM E2005内の送出バッファE2028に格納されたデータ(1284送信データ(RDPIF)E2059)をDMA処理によりパラレルI/Fに送信する。
E2007は、ユニバーサルシリアルバス(USB)I/Fであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、シリアルI/F E0017を通じて、図示しない外部ホスト機器との双方向通信インターフェイスを行なう他、印刷時にはシリアルI/F E0017からの受信データ(USB受信データE2037)をDMA処理により受信制御部E2008に受け渡し、スキャナ読み取り時にはDRAM E2005内の送出バッファE2028に格納されたデータ(USB送信データ(RDUSB)E2058)をDMA処理によりシリアルI/F E0017に送信する。受信制御部E2008は、1284I/F E2006もしくはUSBI/F E2007のうちの選択されたI/Fからの受信データ(WDIF)E2038)を、受信バッファ制御部E2039の管理する受信バッファ書込みアドレスに、書込む。
E2009は圧縮・伸長DMAコントローラであり、CPUI/F E2001を介したCPUE1001の制御により、受信バッファE2010上に格納された受信データ(ラスタデータ)を、受信バッファ制御部E2039の管理する受信バッファ読み出しアドレスから読み出し、そのデータ(RDWK)E2040を指定されたモードに従って圧縮・伸長し、記録コード列(WDWK)E2041としてワークバッファ領域に書込む。
E2013は記録バッファ転送DMAコントローラで、CPUI/F E2001を介したCPU E1007の制御によってワークバッファE2011上の記録コード(RDWP)E2043を読み出し、各記録コードを、記録ヘッドカートリッジH1000へのデータ転送順序に適するようなプリントバッファE2014上のアドレスに並べ替えて転送(WDWP E2044)する。また、E2012はワーククリアDMAコントローラであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御によって記録バッファ転送DMAコントローラ E2013による転送が完了したワークバッファ上の領域に対し、指定したワークフィルデータ(WDWF)E2042を繰返し書込む。
E2015は記録データ展開DMAコントローラであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、ヘッド制御部E2018からのデータ展開タイミング信号E2050をトリガとして、プリントバッファ上に並べ替えて書込まれた記録コードと展開用データバッファE2016上に書込まれた展開用データとを読み出し、展開記録データ(RDHDG)E2045をカラムバッファ書込みデータ(WDHDG)E2047としてカラムバッファE2017に書込む。ここで、カラムバッファE2017は、記録ヘッドカートリッジH1000への転送データ(展開記録データ)を一時的に格納するSRAMであり、記録データ展開DMAコントローラE2015とヘッド制御部E2018とのハンドシェーク信号(図示せず)によって両ブロックにより共有管理されている。
E2018はヘッド制御部で、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、ヘッド制御信号を介して記録ヘッドカートリッジH1000またはスキャナとのインターフェイスを行なう他、エンコーダ信号処理部E2019からのヘッド駆動タイミング信号E2049に基づき、記録データ展開DMAコントローラに対してデータ展開タイミング信号E2050の出力を行なう。
また、印刷時には、前記ヘッド駆動タイミング信号E2049に従って、カラムバッファから展開記録データ(RDHD)E2048を読み出し、そのデータをヘッド制御信号E1021として記録ヘッドカートリッジH1000に出力する。
また、スキャナ読み取りモードにおいては、ヘッド制御信号E1021として入力された取込みデータ(WDHD)E2053をDRAM E2005上のスキャナ取込みバッファE2024へとDMA転送する。E2025はスキャナデータ処理DMAコントローラであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、スキャナ取込みバッファE2024に蓄えられた取込みバッファ読み出しデータ(RDAV)E2054を読み出し、平均化等の処理を行なった処理済データ(WDAV)E2055をDRAM E2005上のスキャナデータバッファE2026に書込む。
E2027はスキャナデータ圧縮DMAコントローラで、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、スキャナデータバッファE2026上の処理済データ(RDYC)E2056を読み出してデータ圧縮を行ない、圧縮データ(WDYC)E2057を送出バッファE2028に書込み転送する。
E2019はエンコーダ信号処理部であり、エンコーダ信号(ENC)を受けて、CPU E1001の制御で定められたモードに従ってヘッド駆動タイミング信号E2049を出力する他、エンコーダ信号E1020から得られるキャリッジM4001の位置や速度にかかわる情報をレジスタに格納して、CPU E1001に提供する。CPU E1001はこの情報に基づき、CRモータE0001の制御における各種パラメータを決定する。また、E2020はCRモータ制御部であり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、CRモータ制御信号E1036を出力する。
E2022はセンサ信号処理部で、PGセンサE0010、PEセンサE0007、ASFセンサE0009、及びGAPセンサE0008等から出力される各検出信号E1033,E1025,E1026,E1027を受けて、CPU E1001の制御で定められたモードに従ってこれらのセンサ情報をCPU E1001に伝達する他、LF/PGモータ制御用DMAコントローラ E2021に対してセンサ検出信号E2052を出力する。
LF/PGモータ制御用DMAコントローラE2021は、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、DRAM E2005上のモータ制御バッファE2023からパルスモータ駆動テーブル(RDPM)E2051を読み出してパルスモータ制御信号E1033を出力する他、動作モードによっては前記センサ検出信号を制御のトリガとしてパルスモータ制御信号E1033を出力する。
また、E2030はLED制御部であり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、LED駆動信号E1038を出力する。さらに、E2029はポート制御部であり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、ヘッド電源ON信号E1022、モータ電源ON信号E1023、及び電源制御信号E1024を出力する。
[プリンタの動作]
次に、上記のように構成された本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置の動作を図10のフローチャートに基づき説明する。
AC電源に装置本体1000が接続されると、まず、ステップS1では装置の第1の初期化処理を行なう。この初期化処理では、本装置のROMおよびRAMのチェックなどの電気回路系のチェックを行ない、電気的に本装置が正常に動作可能であるかを確認する。
次にステップS2では、装置本体M1000の上ケースM1002に設けられた電源キーE0018がONされたかどうかの判断を行い、電源キーE0018が押された場合には、次のステップS3へと移行し、ここで第2の初期化処理を行う。
この第2の初期化処理では、本装置の各種駆動機構及び記録ヘッドのチェックを行なう。すなわち、各種モータの初期化やヘッド情報の読み込みを行うに際し、装置が正常に動作可能であるかを確認する。
次にステップS4ではイベント待ちを行なう。すなわち、本装置に対して、外部I/Fからの指令イベント、ユーザ操作によるパネルキーイベントおよび内部的な制御イベントなどを監視し、これらのイベントが発生すると当該イベントに対応した処理を実行する。
例えば、ステップS4で外部I/Fからの印刷指令イベントを受信した場合には、ステップS5へと移行し、同ステップでユーザ操作による電源キーイベントが発生した場合にはステップS10へと移行し、同ステップでその他のイベントが発生した場合にはステップS11へと移行する。
ここで、ステップS5では、外部I/Fからの印刷指令を解析し、指定された紙種別、用紙サイズ、印刷品位、給紙方法などを判断し、その判断結果を表すデータを本装置内のRAM E2005に記憶し、ステップS6へと進む。
次いでステップS6ではステップS5で指定された給紙方法により給紙を開始し、用紙を記録開始位置まで送り、ステップS7に進む。
ステップS7では記録動作を行なう。この記録動作では、外部I/Fから送出されてきた記録データを、一旦記録バッファに格納し、次いでCRモータE0001を駆動してキャリッジM4001の主走査方向への移動を開始すると共に、プリントバッファE2014に格納されている記録データを記録ヘッドH1001へと供給して1行の記録を行ない、1行分の記録データの記録動作が終了するとLFモータE0002を駆動し、LFローラM3001を回転させて用紙を副走査方向へと送る。この後、上記動作を繰り返し実行し、外部I/Fからの1ページ分の記録データの記録が終了すると、ステップ8へと進む。
ステップS8では、LFモータE0002を駆動し、排紙ローラM2003を駆動し、用紙が完全に本装置から送り出されたと判断されるまで紙送りを繰返し、終了した時点で用紙は排紙トレイM1004a上に完全に排紙された状態となる。
次にステップS9では、記録すべき全ページの記録動作が終了したか否かを判定し、記録すべきページが残存する場合には、ステップS5へと復帰し、以下、前述のステップS5〜S9までの動作を繰り返し、記録すべき全てのページの記録動作が終了した時点で記録動作は終了し、その後ステップS4へと移行し、次のイベントを待つ。
一方、ステップS10ではプリンタ終了処理を行ない、本装置の動作を停止させる。つまり、各種モータやヘッドなどの電源を切断するために、電源を切断可能な状態に移行した後、電源を切断しステップS4に進み、次のイベントを待つ。
また、ステップS11では、上記以外の他のイベント処理を行なう。例えば、本装置の各種パネルキーや外部I/Fからの回復指令や内部的に発生する回復イベントなどに対応した処理を行なう。なお、処理終了後にはステップS4に進み、次のイベントを待つ。
なお、本発明が有効に用いられる一形態は、電気熱変換体が発生する熱エネルギーを利用して液体に膜沸騰を生じさせ気泡を形成する形態である。
(第1の実施形態)
次に、本発明の特徴的な構成部分の第1の実施形態について説明する。
本実施形態においては、キャリッジM4001に搭載される記録ヘッドH1001として、従来例において説明した図11から図13と同様の構成の記録ヘッドHが用いられる。本例の記録ヘッドHにおける吐出口Pは、ノズル列L1,L2のそれぞれにおいて、600dpiに相当する間隔をピッチPyとして、128個(128ノズル分)形成されている。また、ノズル列L1の吐出口Pとノズル列L2の吐出口Pは、矢印Yの副走査方向に1200dpiに相当する半ピッチ(Py/2)だけずらされている。そして、これら2列の吐出口Pから同色インクを吐出することにより、副走査方向におけるドット密度を1200dpiとして、画像を記録することができる。記録ヘッドHの吐出周波数f(Hz)と、キャリッジM4001の移動速度(記録ヘッドHの走査速度)Vc(インチ/秒)は、Vc=f/1200の関係にある。したがって、矢印Xの主走査方向におけるドット密度も1200dpiとして、画像を記録することができる。よって、この記録ヘッドHの記録解像度は(1200dpi×1200dpi)となる。したがって、この記録ヘッドHを用いることにより、図16における基本格子点間の距離を1200dpiに相当する約20μmとして、その記録格子点にドットを形成することができる。また、この記録ヘッドHによって被記録媒体上に形成されるドットの大きさは、インクや被記録媒体の種類によって異なるが、概ね直径40〜50μm程度の大きさとなる。図14は、直径dが約45μmのドットDと基本格子点PAとの関係を表す。
以下の説明においては、吐出口Pを含む構成のノズルに対して、図11中の上側から下側に向かう順序にノズル1,ノズル2,ノズル3,…ノズル256のノズル番号を付し、ノズル列L1上には奇数番目のノズル(ノズル1,ノズル3,ノズル5…ノズル255)が位置し、またノズル列L2上には偶数番目のノズル(ノズル2,ノズル4,ノズル6…ノズル256)が位置するものとする。
本例の場合、このような記録ヘッドHの記録解像度の1200dpiに対して、ホスト装置から記録装置に入力される画像データの解像度は(600ppi×600ppi)となっている。なお、ここでppiとは、1インチ当たりの画素数(pixel per inch)を表す。記録装置は、2×2の4画素により、1画像データを記録することができる。その場合、画像データは「レベル0」から「レベル4」の5階調とされ、予め設定されたドットの配置パターンを用いて、2×2の4画素の記録領域において階調表現される。
本例の場合は、さらに、記録画質を向上させるために、8パス双方向のカラム間引き記録方式を採用した。記録ヘッドHは、奇数パス目(1,3,5,7パス目)の往走査時の記録(往路記録)と、偶数パス目(2,4,6,8パス目)の復走査時の記録(復路記録)と、を繰り返し、かつ往路記録時と復路記録時におけるインク滴の着弾位置は、主走査方向における基本格子点間の距離の半分(2400dpiに相当する距離)だけずらす。これにより、主走査方向の記録解像度が2400dpi、副走査方向の解像度が1200dpiの(2400dpi×1200dpi)の解像度することができる。ホスト装置から記録装置に入力される画像データの解像度は、(600ppi×600ppi)のままである。記録装置は、(2400dpi×1200dpi)の記録モードに対応すべく、主走査方向が4画素かつ副走査方向が2画素の4×2の8画素により、(600ppi×600ppi)の1画像データを表現する。
また、本例においては、濃インクと淡インクを含む複数色のインクを用いてカラー画像を記録し、濃インクによる階調レベルは「レベル0」から「レベル5」までの6階調とし、また淡インクによる階調レベルは「レベル0」から「レベル8」までの9階調とする。濃インクによる階調数が淡インクに比して少ない理由は、濃インクは、淡インクに比べて重ね打ちによる記録濃度向上の効果が少ないからである。
図17(a)から(i)は、9階調の「レベル0」から「レベル8」に対応するドットの配置パターン(以下、「ドット配置パターン」ともいう)として考えられる参考例である。
記録画像の滑らかさを重視する場合には、図17のように、各階調について1つの配置パターンを設定することが好ましい。図17の配置パターンの場合は、主走査方向が4画素かつ副走査方向が2画素の4×2の8画素(画素P1から画素P8)において、ドットDがほぼ均等に配列されるため、記録画像の均一性が高くなる。画素P1からP4は、ノズル列L1上のノズル(奇数番目のノズル)によって記録され、画素P5からP8は、ノズル列L2上のノズル(偶数番目のノズル)によって記録される。前者の画素P1からP4が位置するラスタRoを奇数ラスタ、後者の画素P5からP8が位置するラスタReを偶数ラスタともいう。
しかし、この図17の参考例の場合は、使用ノズルに偏りが生じる。すなわち、同図(b)の「レベル1」においては、奇数番目のノズルのみによって画素P1が形成されることになる。また、同図(d)の「レベル3」においては、奇数番目のノズルによって2つの画素P1,P3が形成され、偶数番目のノズルによって1つの画素P6が形成されることになり、奇数番目のノズルと偶数番目のノズルの使用率が2:1となって、やはり奇数番目のノズルの使用率が高くなる。このように、特定ノズルの負担が大きい場合には、使用率の高いノズルの寿命によって、記録ヘッドの寿命が規定されるため、結果的に、記録ヘッドの寿命が短くなる。したがって、図11のようなマルチノズルヘッドの場合には、ノズルが極力均等に使用されることが望ましい。
図18(a)から(i)は、ノズルの使用頻度の均等化を図りながら、画像の均一性を失わないように考慮したドットの配置パターンの参考例である。この図18の場合は、「レベル1」から「レベル7」に関して、2種類の配置パターンを交互に用いることにより、奇数ラスタRoと偶数ラスタReに対してドットDが等分に形成される。この結果、画像の均一性を保ちながら、奇数番目のノズルと偶数番目のノズルの負担を均一化させることができる。
しかしながら、この図18の配置パターンでは、偶数ラスタRoと奇数ラスタReと間において、インク滴の着弾位置のずれ、つまりドットの形成位置のずれが生じた場合に、弊害が生じる。図19(a)から(d)に、その様子を示す。ここでは、図18(b)の「レベル1」の記録領域において、奇数ラスタRoと偶数ラスタRe間のドット形成位置にずれが無い状態(図19(a))から、偶数ラスタReのみを1画素ずつ図19中の左方へずらしていった状態(図19(b)〜(d))を示している。図19(a)のずれの無いドット配置と比較して、同図(b)のように1画素ずれるとドットが重なり合うようになり、同図(c)のように2画素ずれるとほとんど同図中の上下方向に並んでしまう。ドットが重なり合うと被記録媒体上における非記録領域の割合が増大し、目視により、記録濃度が低く感知されることになる。ドット配置パターンの記録範囲に相当する被記録媒体の被記録面に対して、そのドット配置パターンを用いて形成されるドットの形成面が占める面積比は、被覆率ともいう。その被覆率は、図19(c)のように2画素ずれたときに最小となり、同図(d)のように3画素ずれることによって再び上昇し、4画素ずれることによって元に戻ることになる。
図20中点線のパターン1は、このような被覆率とドットのずれとの関係を示し、ドットの形成位置が4画素ずれる4画素周期で、被覆率が55〜95%の幅で変化することが分かる。
また、本例において採用した8パス双方向のカラム間引き記録方式は、奇数カラムCoを奇数パス目(1,3,5,7パス目)に記録し、偶数カラムCeを偶数バス目(2,4,6,8パス目)に記録することにより、主走査方向における記録解像度を基本記録密度(1200dpi)の2倍の4200dpiとしている。このように、8パス双方向のカラム間引き記録方式は、記録ヘッドHの8回のパスによって、同一ラスタ上の画素を異なる8つのノズルを用いて記録するため、各ノズルにおけるインクの吐出方向のずれ(ヨレ)やインク吐出量のバラツキの影響を受けにくい。しかし、図18(b)の「レベル1」のように、奇数カラムCoにしかドットが存在しない場合には、そのドットは奇数パス目(1,3,5,7パス目)にしか形成されず、8ノズルの半分の4ノズルのみを用いての記録となる。そのため、各ノズルにおけるインクの吐出方向のずれ(ヨレ)やインク吐出量のバラツキの影響を強く受けてしまう。
図21(a)から(i)は、本発明の第1の実施形態において用いるドットの配置パターンの説明図である。
図21(b),(d),(f)(h)のように、「レベル1」,「レベル3」,「レベル5」,「レベル7」に関しては、4種類のドット配置パターンを同図中横並びの順序で用い、同図(c),(g)のように、「レベル2」,「レベル6」に関しては、2種類のドット配置パターンを同図中の横並びの順序で用いる。このような配置パターンは、奇数ラスタRoと偶数ラスタReに対してドットDを均等に配置し、かつ奇数カラムCoと偶数カラムCeに対してもドットDを均等に配置する。この結果、画像の均一性を保ちながら、奇数番目のノズルと偶数番目のノズルの負担を均一化させることができると共に、記録ヘッドHの奇数パス目と偶数パス目において偏りなく記録をすることもできる。
図22(a)から(h)は、図21(b)の「レベル1」の記録領域において、奇数ラスタRoと偶数ラスタRe間のドット形成位置にずれが無い状態(図19(a))から、偶数ラスタReのみを1画素ずつ7画素分まで同図中の左方へずらしていった状態(図19(b)〜(h))を示す。図20中実線のパターン2は、このときにおける被覆率とドットのずれとの関係を示し、ドットの形成位置が2画素程度ずれても、被覆率の変化は10%程度に収まる。
以上の説明においては、特に「レベル1」のドット配置を重視した。その理由は、「レベル1」のドット配置においては、奇数ラスタRoと偶数ラスタRe間のドット形成位置がずれた場合に被覆率が大きく変化して、その弊害が現れやすいからである。「レベル2」以上の階調については、記録領域全体がドットによってほぼ埋められてしまうため、「レベル1」ほどの影響は受けないものの、ずれによる影響は同様の傾向にある。特に、淡インクの場合には、ドットの重なりによる濃度アップの影響があるため、被覆率のみならず、ドットの重なり部分の面積の変化率も重要となる。このような被覆率やドットの重なり部分の面積の変化は、「レベル4」のような均一なドット配置となる場合に特に目立つ。そのため、「レベル1」のみならず「レベル4」のドット配置に関しても重視する必要がある。
本例の場合は、「レベル4」の配置パターンとして、図21(e)のような1種の配置パターンを用いる。図23(a)から(d)は、図21(e)の「レベル4」の配置パターンによって形成されるドットの配置を4つに分けて、表したものである。すなわち、図23(a)は、奇数ラスタRoかつ奇数カラムCo上の画素P1を形成するドットの配置、同図(b)は、奇数ラスタRoかつ偶数カラムCe上の画素P2を形成するドットの配置、同図(c)は、偶数ラスタReかつ奇数カラムCo上の画素P5を形成するドットの配置、同図(d)は、偶数ラスタReかつ偶数カラムCe上の画素P6を形成するドットの配置、をそれぞれ表す。これら4つのドット配置においては、それぞれの被覆率が90%以上となり、ドットが一様に分布する。そのため、奇数ラスタRoと偶数ラスタReとの間、および奇数カラムCoと偶数カラムCeとの間のそれぞれにおいて、ドットの配置がずれたとしても、それぞれのドットの重なり方の変化、つまり被覆率の変化は10%以下と小さい。したがって、このようなドットの配置は、記録の一様性に優れている。
図23のように被覆率をほぼ100%とするための配置パターンは、図21(e)の配置パターンのみに限定されず、隣接する2つのラスタの間(奇数ラスタRoと偶数ラスタReとの間)、および隣接する2つのカラムの間(奇数カラムCoと偶数カラムCeとの間)のそれぞれにおいて、ドットの配置を均等化できる配置パターンであればよい。例えば、「レベル4」の配置パターンとして、図24(a)または(b)のような配置パターンを用いることによっても、被覆率をほぼ100%とすることができる。
図25(a)および(b)は、「レベル4」の配置パターンとして、仮に、複数種の配置パターンを用いた場合の説明図である。図25(a)および(b)の場合は、2種類の配置パターンを同図中の横並びの順序で用いる。図26(a)から(d)は、図25(a)の「レベル4」の配置パターンによって形成されるドットの配置を4つに分けて、表したものである。すなわち、図26(a)は、奇数ラスタRoかつ奇数カラムCoに形成されるドットの配置、同図(b)は、奇数ラスタRoかつ偶数カラムCeに形成されるドットの配置、同図(c)は、偶数ラスタReかつ奇数カラムCoに形成されるドットの配置、同図(d)は、偶数ラスタReかつ偶数カラムCeに形成されるドットの配置、をそれぞれ表す。同様に、図27(a)から(d)は、図25(b)の「レベル4」の配置パターンによって形成されるドットの配置を4つに分けて、表したものである。図26(a)から(d)、および図27(a)から(d)のように、複数種の配置パターンを用いた場合には、それら4つずつのドット配置に著しい偏りが生じる。そのため、奇数ラスタRoと偶数ラスタReとの間、および奇数カラムCoと偶数カラムCeとの間のそれぞれにおいて、ドットの配置ずれが生じたときに、被覆率に大きな差が生じることは明らかである。
(第2の実施形態)
前述した実施形態の8パス双方向のカラム間引き記録方式の場合、往路記録時と復路記録時におけるインク滴の着弾位置は、基本格子点間の距離の1/2(2400dpiに相当する距離)だけ主走査方向にずらされ、これにより、主走査方向における記録解像度が2倍の2400dpiとなる。このように、カラム間引き記録方式において、ドットの着弾位置を基本格子点間距離の1/Mだけ主走査方向にずらすることによって、記録解像度がM倍となる。
本実施形態においては、このように記録解像度をM倍とするカラム間引き記録方式の特徴を利用する。以下においては、前述した実施形態と同様に、M=2とした8パス双方向のカラム間引き記録方式を例にして説明する。
この8パス双方向のカラム間引き記録方式の場合は、前述したように、記録ヘッドHの奇数パス目の往走査時に奇数カラムのドットが記録され、記録ヘッドHの偶数パス目の復走査時に偶数カラムのドットが記録される。そのため、主走査方向が4ドットかつ副走査方向が2ドットの(4×2)ドットの記録領域に対するドット配置の割り付け方によって、つまり奇数カラムまたは偶数カラムに対するドット配置の割り付け方によって、記録ヘッドHの往走査時あるいは復走査時のいずれにおいて記録をするかを選択することができる。
ここで、記録画像の劣化要因としては、記録ヘッドのノズルにおけるインク吐出方向のずれ(ヨレ)やインク吐出量のバラツキによる画像の乱れと、双方向記録によってインクの重ね順序が変化することによる発色の違いに起因する色むらと、がある。前者の画像の乱れは、主に、ドット密度があまり高くない低濃度から中濃度の記録領域において目立ち、一方、後者の色むらは、ドット密度が高い高濃度の記録領域において目立つ。その理由は、低濃度から中濃度の記録領域においては、個々のノズルにおけるインク吐出方向のずれ(ヨレ)などによるインク滴の着弾位置の乱れが目立ちやすく、一方、被覆率の高い高濃度の記録領域では、個々のノズルにおけるインク吐出方向のずれ(ヨレ)がインク滴の着弾位置の乱れとして認識されにくいからである。
従来は、低濃度から中濃度の記録領域における画像の乱れを回避するために、記録ヘッドHの複数回の走査に分けて1ラスタを記録するマルチパス記録方式を採用したり、1ラスタを複数のノズルを用いて記録する方法が採られていた。一方、色むらを防止する方法としては、1ラスタを記録する記録ヘッドの走査回数(マルチパス数)を増やしたり、先に記録されるドットの記録率をマスクを用いて調整する方法などが採られていた。
本発明は、上述したカラム間引き記録方式を採用することにより、階調レベルに応じた双方向記録または片方向記録の選択を可能とする。
例えば、「レベル1」,「レベル2」,「レベル3」,および「レベル4」のドット配置パターンを図28(a)から(d)のように設定する。そして、図28(a)および(b)の「レベル1」および「レベル2」は、記録ヘッドHの双方向の走査時に記録(双方向記録)し、同図(c)および(d)の「レベル3」および「レベル4」は、記録ヘッドHの片方向の走査時にのみ記録(片方向記録)する。したがって、「レベル1」および「レベル2」の低濃度の記録領域に関しては、8パス双方向記録方式により、記録ヘッドHの8回のパスによって同一ラスタが8つの異なるノズルを用いて記録されることになる。この結果、個々のノズルにおけるインク吐出方向のずれ(ヨレ)などに起因する画像の乱れの影響を小さく抑えることができる。一方、「レベル3」および「レベル4」の高濃度の記録領域に関しては、8パス片方向記録方式により、記録ヘッドHの8回のパスの内、奇数パス目の往走査時においてのみ記録されることになる。この結果、インクの重ね順序が一定して、色むらの発生が回避される。
(他の実施形態)
本発明において用いる記録ヘッドは、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドのみに特定されず、被記録媒体上にドットを形成可能な種々の記録素子を複数備えたものであればよい。
また、記録方式は、上述した実施形態のような8パスの双方向記録方式のみに限定されず、記録ヘッドの主走査方向における複数のP回の主走査と被記録媒体の少なくとも1回の副走査方向の搬送とによって、互いに隣接するNラスタ上のドットおよび互いに隣接するMカラム上のドットを異なる条件で記録できればよい。また、同一レベルに対して用いられる複数のドット配置パターンは、上述した実施形態のパターンのみに限定されず、それが繰り返し用いられる1周期内において、Nラスタのそれぞれに形成されるドット数、およびMカラムのそれぞれにて形成されるドット数を均一化するパターンであればよい。また、記録ヘッドにおける記録素子列は、2列以上のN列であればよい。そのN列の記録素子により、互いに隣接するNラスタ上のドットを形成することができる。その場合には、記録素子は列に沿って一定のPy間隔に並び、かつ列毎の記録素子の群はPy/Nだけ列方向にずれて備えればよい。
また、基本格子点間距離の分割数は、上述した実施形態のような2分割のみに特定されない。例えば、それをM分割した距離を主走査方向のドット間隔として、複数列の記録素子を用いて、Mの倍数のP回の主走査によってドットを形成することができる。また、nを0〜P/Mの整数、kを1〜M−1の整数としたときに、記録ヘッドのn×M+k(≦P)回目の主走査時に、基本格子点間距離をM分割した位置のドットを形成することができる。
また、nを0〜P/Mの整数、kを1〜M−1の整数としたときに、画像データの同一レベルに対して周期的に用いられる複数のドット配置パターンは、それが繰り返し用いられる1周期内において、記録ヘッドのn×M+k(≦P)回目の主走査時に形成される合計ドット数を均等化するパターンであればよい。
また、ドット配置パターンの記録範囲は、上述した実施形態のみに特定されない。そのドット配置パターンの記録範囲は、l、mのそれぞれを自然数としたときに、副走査方向が(l×N)ドット、主走査方向が(m×N×M)ドットの範囲とすることができる。
また、画像データの同一レベルに対して周期的に用いられる複数のドット配置パターンは、それが繰り返し用いられる1周期内において、複数のドット配置パターンの少なくとも1つに基づいて形成されるドットが主走査方向に少なくとも2画素分ずれたときに、被覆率の変化を10%以内とするものが望ましい。
また、画像データの同一レベルに対して用いられる1つのドット配置パターンは、上述した実施形態のみに特定されない。そのように、画像データの同一レベルに対して用いられる1つのドット配置パターンは、被覆率を90%以上とするものが望ましい。
(その他)
なお、本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出を行わせるために利用されるエネルギとして熱エネルギを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、前記熱エネルギによりインクの状態変化を生起させる方式の記録ヘッド、記録装置において優れた効果をもたらすものである。かかる方式によれば記録の高密度化,高精細化が達成できるからである。
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書,同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型,コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長,収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書,同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた記録を行うことができる。
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口,液路,電気熱変換体の組合せ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4558333号明細書,米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基いた構成としても本発明の効果は有効である。すなわち、記録ヘッドの形態がどのようなものであっても、本発明によれば記録を確実に効率よく行うことができるようになるからである。
加えて、上例のようなシリアルタイプのものでも、装置本体に固定された記録ヘッド、あるいは装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、あるいは記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
また、本発明の記録装置の構成として、記録ヘッドの吐出回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので、好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或は吸引手段、電気熱変換体或はこれとは別の加熱素子或はこれらの組み合わせを用いて加熱を行う予備加熱手段、記録とは別の吐出を行なう予備吐出手段を挙げることができる。
また、搭載される記録ヘッドの種類ないし個数についても、例えば単色のインクに対応して1個のみが設けられたものの他、記録色や濃度を異にする複数のインクに対応して複数個数設けられるものであってもよい。すなわち、例えば記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによるかいずれでもよいが、異なる色の複色カラー、または混色によるフルカラーの各記録モードの少なくとも一つを備えた装置にも本発明は極めて有効である。
さらに加えて、以上説明した本発明実施例においては、インクを液体として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化もしくは液化するものを用いてもよく、あるいはインクジェット方式ではインク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものを用いてもよい。加えて、熱エネルギによる昇温を、インクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギとして使用せしめることで積極的に防止するため、またはインクの蒸発を防止するため、放置状態で固化し加熱によって液化するインクを用いてもよい。いずれにしても熱エネルギの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクが吐出されるものや、記録媒体に到達する時点ではすでに固化し始めるもの等のような、熱エネルギの付与によって初めて液化する性質のインクを使用する場合も本発明は適用可能である。このような場合のインクは、特開昭54−56847号公報あるいは特開昭60−71260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部または貫通孔に液状又は固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
さらに加えて、本発明インクジェット記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として用いられるものの他、リーダ等と組合せた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るもの等であってもよい。