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JP3685653B2 - 自動変速機の変速制御装置 - Google Patents

自動変速機の変速制御装置 Download PDF

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JP3685653B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自動変速機の変速制御装置に関し、詳しくは、異なる摩擦係合要素の締結制御と解放制御とを同時に行う摩擦係合要素の掛け替えによって変速を行うよう構成された装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、摩擦係合要素の締結・解放を油圧によって制御するよう構成すると共に、2つの摩擦係合要素の締結制御と解放制御とを同時に行う摩擦係合要素の掛け替えによって変速を行わせる構成の自動変速機が知られている。
【0003】
特開平6−341526号公報に開示されるものでは、掛け替えダウンシフト時に、締結側の油圧を所定の低圧に待機させ、変速機の入力回転数が低速段の同期点に達すると、前記所定の低圧から上昇させる一方、前記同期から所定時間が経過した時点で解放側の油圧をドレインさせる構成となっており、前記所定時間を、変速機の入力トルク・油温に応じて変化させる構成となっている。
【0004】
また、特開平9−133205号公報に開示されるものでは、掛け替えダウンシフトにおいて、変速初期の第1時間内において、高速側の摩擦係合要素の伝達トルク容量を出力軸トルクが負にならない値まで低下させる一方、その後の第2時間内において前記高速側の摩擦係合要素の伝達トルク容量を、入力軸トルクと同等にまで上昇させると共に、低速側の摩擦係合要素の伝達トルク容量を適切に制御し、前記第2時間経過後に、低速側の摩擦係合要素の伝達トルク容量を入力軸トルク以上に上昇させ、また、高速側の摩擦係合要素を解放させる構成となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、アップシフトのトルクフェーズにおいては、エンジン回転の空吹け(パワーオンアップシフト時)や引け(パワーオフアップシフト時)を極力抑制しつつ、伝達トルクの分担が解放側から締結側に滑らかに移行するように制御することが望まれる。
【0006】
ここで、摩擦係合要素の係合油圧を、変速機構の入力軸トルクに応じて制御するなどして油圧の適正化を図ろうとしても、入力軸トルクの推定誤差や、作動油・摩擦係合要素の状態(生産ばらつきや経時劣化等)などによるばらつき要因によって、大きな空吹けや引けが発生する可能性があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、アップシフト時のトルクフェーズにおいて、エンジン回転の空吹けや引けを極力抑制しつつ、伝達トルクの分担を解放側から締結側に滑らかに移行させることができる自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そのため請求項1記載の発明は、異なる摩擦係合要素の締結制御と解放制御とを同時に行う摩擦係合要素の掛け替えによって変速を行うよう構成された自動変速機の変速制御装置であって、アップシフトのトルクフェーズの開始から前記変速機の入力軸回転速度の変化方向が反転するまでの間、締結側摩擦係合要素の係合油圧を前記変化速度が大きいほどより増圧補正すると共に、前記入力軸回転速度の変化方向が反転してからトルクフェーズの終了までの間、解放側摩擦係合要素の係合油圧を、前記変化速度が大きいほどより減圧補正する構成とした。
【0009】
かかる構成によると、パワーオンアップシフト時であって、トルクフェーズの開始により入力軸回転が増大するときには、増大方向への変化速度が大きいときほど締結側の係合油圧を増圧補正し、パワーオフアップシフト時であって、トルクフェーズの開始により入力軸回転が減少するときには、減少方向への変化速度が大きいときほど締結側の係合油圧を増圧補正する。
更に、空吹けが収束して入力軸回転が減少しているときには、減少方向への変化速度が大きいほど解放側の係合油圧を減圧補正し、引けが収束して入力軸回転が増大しているときには、増大方向への変化速度が大きいほど解放側の係合油圧を減圧補正する。
【0010】
請求項2記載の発明では、前記入力軸回転速度の変化速度を、ギヤ比の変化速度に換算する構成とした。
かかる構成によると、変速機構の出力軸回転速度に基づいて入力軸回転速度をギヤ比に換算し、該ギヤ比の変化速度に基づいて係合油圧を補正する。
【0013】
請求項記載の発明では、解放側摩擦係合要素の係合油圧を、トルクフェーズの開始から入力軸回転速度の変化方向が反転するまでの間、臨界圧付近に保持する構成とした。
【0014】
かかる構成によると、解放側を臨界状態に保持した状態で、締結側摩擦係合要素の締結を進め、解放側が臨界状態に制御されることによる回転変化(空吹け又は引け)を、締結側の油圧の増圧で抑制する。
【0017】
請求項記載の発明では、前記入力軸回転速度の変化方向が反転してからトルクフェーズの終了までの間、臨界圧付近の係合油圧を解放側摩擦係合要素の基本圧として、前記変化速度が大きいほど前記基本圧をより減圧補正する構成とした。かかる構成によると、解放側が臨界状態に制御される状態で、締結側の油圧が臨界状態を超えて制御されることによる空吹けや引けの収束を、解放側摩擦係合要素の係合油圧を臨界圧よりも低下させることで制御する。
【0020】
請求項5記載の発明は、異なる摩擦係合要素の締結制御と解放制御とを同時に行う摩擦係合要素の掛け替えによって変速を行うよう構成された自動変速機の変速制御装置であって、アップシフトのトルクフェーズの開始から前記変速機の入力軸回転速度の変化方向が反転するまでの間、解放制御の進行に対する締結側の相対的な進行度合いをより促進させるべく、解放側と締結側との少なくとも一方の係合油圧を前記入力軸回転速度の変化速度に応じて補正すると共に、前記入力軸回転速度の変化方向が反転してからトルクフェーズの終了までの間、締結制御の進行に対する解放側の相対的な進行度合いをより促進させるべく、解放側と締結側との少なくとも一方の係合油圧を前記変化速度に応じて補正する構成とした。
【0021】
かかる構成によると、トルクフェーズの開始に伴う空吹け又は引けが収束するときに、回転速度の増大方向又は減少方向への変化速度に応じて、締結制御を遅らせるか、又は、解放制御を促進させることで、滑らかな回転変化の収束を図る。
【0022】
請求項記載の発明では、前記解放側及び締結側の摩擦係合要素における変速時の係合油圧が、入力軸トルクの推定値,臨界トルク比,余裕代に基づき演算される構成であり、前記入力軸トルクの推定値を、前記変化速度に基づいて補正する構成とした。
【0023】
かかる構成によると、入力軸トルクの推定値と臨界トルク比とから臨界状態に対応する係合油圧(臨界圧)が推定され、該臨界圧に付加する余裕代を変化させることで、締結状態・臨界状態・解放状態に制御されるが、回転変化速度に基づき前記入力軸トルクの推定値を補正することで、基本となる臨界圧が補正されることになる。
【0024】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によると、トルクフェーズの開始に伴うエンジン回転の空吹け又は引けを、締結制御を促進させることで抑制できると共に、空吹けや引けが収束するときに解放制御を促進させて、急激な回転変化を抑制できるという効果がある。
【0025】
請求項2記載の発明によると、掛け替え時のギヤ比の変化速度から空吹けの状態を判定できるという効果がある。
【0026】
請求項記載の発明によると、解放側を臨界状態に保持した状態で、締結制御を進めて解放状態から締結臨界状態にまで制御することで、締結側油圧の増圧補正のみで空吹けや引けを抑制しつつ、締結側を臨界状態にまで制御できるという効果がある。
【0027】
請求項4記載の発明によると、解放側の係合油圧が臨界圧付近では高過ぎることによる入力軸回転速度の急激な変化を、解放側の係合油圧を減少補正することで抑制できるという効果がある。
【0029】
請求項記載の発明によると、エンジン回転の空吹け又は引けが収束するときに、解放を促進させるか又は締結制御を遅らせることで、空吹けや引けを滑らかに収束させることができるという効果がある。
【0030】
請求項記載の発明によると、入力軸トルクの推定誤差等による空吹けや引けの発生を抑制しつつ、摩擦係合要素の締結・臨界・解放をそのときの入力軸トルクに応じて制御することができるという効果がある。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態における自動変速機の変速機構を示すものであり、エンジンの出力がトルクコンバータ1を介して変速機構2に伝達される構成となっている。
【0032】
前記変速機構2は、2組の遊星歯車G1,G2、3組の多板クラッチH/C,R/C,L/C、1組のブレーキバンド2&4/B、1組の多板式ブレーキL&R/B、1組のワンウェイクラッチL/OWCで構成される。
【0033】
前記2組の遊星歯車G1,G2は、それぞれ、サンギヤS1,S2、リングギヤr1,r2及びキャリアc1,c2よりなる単純遊星歯車である。
前記遊星歯車組G1のサンギヤS1は、リバースクラッチR/Cにより入力軸INに結合可能に構成される一方、ブレーキバンド2&4/Bによって固定可能に構成される。
【0034】
前記遊星歯車組G2のサンギヤS2は、入力軸INに直結される。
前記遊星歯車組G1のキャリアc1は、ハイクラッチH/Cにより入力軸Iに結合可能に構成される一方、前記遊星歯車組G2のリングギヤr2が、ロークラッチL/Cにより遊星歯車組G1のキャリアc1に結合可能に構成され、更に、ロー&リバースブレーキL&R/Bにより遊星歯車組G1のキャリアc1を固定できるようになっている。
【0035】
そして、出力軸OUTには、前記遊星歯車組G1のリングギヤr1と、前記遊星歯車組G2のキャリアc2とが一体的に直結されている。
上記構成の変速機構2において、1速〜4速及び後退は、図2に示すように、各クラッチ・ブレーキの締結状態の組み合わせによって実現される。
【0036】
尚、図2において、丸印が締結状態を示し、記号が付されていない部分は解放状態とすることを示すが、特に、1速におけるロー&リバースブレーキL&R/Bの黒丸で示される締結状態は、1レンジでのみの締結を示すものとする。
【0037】
前記図2に示す各クラッチ・ブレーキの締結状態の組み合わせによると、例えば、4速から3速へのダウンシフト時には、ブレーキバンド2&4/Bの解放を行う共にロークラッチL/Cの締結を行い、3速から2速へのダウンシフト時には、ハイクラッチH/Cの解放を行うと共にブレーキバンド2&4/Bの締結を行うことになり、2速から3速へのアップシフト時には、ブレーキバンド2&4/Bの解放を行うと共にハイクラッチH/Cの締結を行い、3速から4速へのアップシフト時には、ロークラッチL/Cの解放を行うと共にブレーキバンド2&4/Bの締結を行うことになり、上記のように、クラッチ・ブレーキ(摩擦係合要素)の締結と解放とを同時に制御して摩擦係合要素の掛け替えを行う変速を掛け替え変速と称するものとする。
【0038】
前記各クラッチ・ブレーキ(摩擦係合要素)は、供給油圧によって動作するようになっており、各クラッチ・ブレーキに対する供給油圧は、図3に示すソレノイドバルブユニット11に含まれる各種ソレノイドバルブによって調整される。
【0039】
前記ソレノイドバルブユニット11の各種ソレノイドバルブを制御するA/Tコントローラ12には、A/T油温センサ13,アクセル開度センサ14,車速センサ15,タービン回転センサ16,エンジン回転センサ17,エアフローメータ18等からの検出信号が入力され、これらの検出結果に基づいて、各摩擦係合要素における係合油圧を制御する。
【0040】
尚、図3において、符号20は、前記自動変速機と組み合わされるエンジンを示す。
ここで、前記A/Tコントローラ12による掛け替え変速の様子を、エンジンの駆動トルクが加わっている状態でのアップシフト(以下、パワーオンアップシフトという)の場合を例として、図4のタイムチャートを参照しつつ、図5〜図26のフローチャートに従って説明する。
【0041】
図5のフローチャートは、締結側摩擦係合要素と解放側摩擦係合要素とに共通のメイン制御ルーチンを示す。
ステップS1では、パワーオンアップシフトの変速判断を行う。
【0042】
A/Tコントローラ12には、車速VSPとアクセル開度(スロットル開度)とに応じて変速段を設定した変速マップが予め記憶されており、例えば、現在(変速前)の変速段と前記変速マップから検索した変速段とが異なり、かつ、それがアップシフト方向であって、かつ、アクセルが全閉でない場合にパワーオンアップシフトとして判断する。
【0043】
パワーオンアップシフトの変速判断がなされると、ステップS2へ進み、変速機構の出力軸回転速度Noに変速前のギヤ比(被駆動歯車の歯数/駆動歯車の歯数)を乗算して得られる基準タービン回転と、予め記憶されたヒステリシス値HYSとの加算値よりも、変速機構の入力軸回転速度(タービン回転速度)Ntが高いか否かを判別する。
【0044】
タービン回転速度Ntが基準タービン回転とヒステリシス値HYSとの加算値以下である場合には、解放側摩擦係合要素の解放が進んでいないものと判断し、ステップS3の準備フェーズ処理を実行させる。
【0045】
前記ステップS3の準備フェーズ処理は、解放側の処理と締結側の処理とに分かれ、解放側の準備フェーズ処理は、図6〜図10のフローチャートに示される。
【0046】
図6のフローチャートは、解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理のメインルーチンを示すものであり、ステップS31では、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている所定時間TIMER1だけ変速判断から経過したか否かを判別する。
【0047】
前記所定時間TIMER1内であれば、ステップS32へ進み、解放初期油圧の演算を行う。前記解放初期油圧は、解放制御を行う初期圧であり、非変速時の油圧から前記解放初期油圧まで、前記所定時間TIMER1内で低下させるようにする。
【0048】
前記ステップS32の解放初期油圧の演算は、図7のフローチャートに詳細に示してあり、ステップS321では、今回解放制御を行う摩擦係合要素の非変速時油圧Po0(指示圧)と、前記摩擦係合要素の解放初期油圧Po1(指示圧)とを算出する。
【0049】
前記非変速時油圧Po0は、
Po0=K1×(Tt×Tr-o×余裕代(0))+Prtn-o
として算出される。
【0050】
ここで、K1は、解放側の摩擦係合要素の伝達トルク容量(必要伝達トルク容量)を油圧に変換するための係数であり、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている。また、Ttは、変速機構の入力軸トルクの推定値であり、例えば吸入空気量・エンジン回転速度などから推定されるエンジンの出力トルクと、トルクコンバータのトルク比とから推定される。Tr-oは、前記入力軸トルクTtに対して、解放側摩擦係合要素が滑りを生じる臨界伝達トルク容量を求めるための解放臨界トルク比である。余裕代(0)は、前記臨界伝達トルク容量に対して余裕分のトルク容量を付加するための補正値であり、例えば3.0程度の値として予め記憶されている。Prtn-oは、解放側のスタンバイ圧(解放側リターンスプリング圧)であり、摩擦係合要素毎に予め記憶される。
【0051】
一方、前記解放初期油圧Po1は、
Po1=K1×(Tt×Tr-o×余裕代(1))+Prtn-o
として算出される。
【0052】
即ち、非変速時油圧Po0の演算式に対して、余裕代の部分のみが異なり、解放初期油圧Po1の演算式においては、余裕代(1)を1.2程度の比較的低い値とする。
【0053】
尚、前記余裕代(1)(=1.2程度)は、入力軸トルクの推定誤差が予想される範囲内で発生しても、解放側摩擦係合要素が締結状態を保持できる値として設定される。
【0054】
非変速時には、前記非変速時油圧Po0に制御されるが、変速要求に伴って解放するときに、前記所定時間TIMER1内で、前記非変速時油圧Po0から解放初期油圧Po1まで低下させるものであり、ステップS322では、前記所定時間TIMER1内での油圧減少勾配Rmp−Po1を、
Rmp−Po1=(Po0−Po1)/TIMER1
として算出する。
【0055】
そして、前記非変速時油圧Po0から単位時間毎に(Rmp−Po1)だけ油圧を減少させ、所定時間TIMER1が経過した時点で、解放初期油圧Po1まで低下するようにする。
【0056】
上記のようにして所定時間TIMER1内で解放初期油圧Po1まで低下させた後、ステップS33で、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが高いと判断されるようになるまでの間においては、ステップS34の分担比ランプ制御を実行する。
【0057】
前記ステップS34の分担比ランプ制御の詳細は、図8のフローチャートに示してあり、ステップS341では、前記解放初期油圧Po1を算出し、また、解放油圧Po2を算出する。
【0058】
前記解放油圧Po2(指示圧)は、
Po2=K1×(Tt×Tr-o×余裕代(2))+Prtn-o
として算出されるものであり、前記余裕代(2)として1.0よりも小さい例えば0.8程度の値を用いる(余裕代(0)>余裕代(1)>0>余裕代(2))。
【0059】
尚、前記余裕代(2)(=0.8程度)は、入力軸トルクの推定誤差が予想される範囲内で発生しても、解放側摩擦係合要素を確実に解放状態に移行させることができる値として設定される。従って、解放初期油圧Po1から解放油圧Po2に向けての油圧低下は、解放側の摩擦係合要素を確実に解放状態に移行させるべく行われるものである(図27参照)。
【0060】
ステップS342では、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている所定時間TIMER2内で、前記解放初期油圧Po1から解放油圧Po2まで低下させるための油圧ランプ勾配(単位時間当たりの油圧減少幅)を、
Rmp−Po2=(Po1−Po2)/TIMER2
として算出する。
【0061】
そして、前記所定時間TIMER1経過した時点から所定時間TIMER2内で、かつ、タービン回転速度Ntが基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値以下であると判断される状態では、単位時間毎に(Rmp−Po2)だけ油圧を減少させる。
【0062】
尚、前記ランプ勾配Rmp−Po2は、余裕代の変化幅と所定時間TIMER2の設定により、前記勾配Rmp−Po1よりも小さくなるようにして、余裕代が1.0となる前後の所定範囲内で、解放側摩擦係合要素の伝達トルク容量の変化が、それまでよりも遅くなるようにしてある。
【0063】
前記勾配Rmp−Po2により係合油圧を徐々に減少させると、余裕代が1.0付近になった時点で、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが高いエンジンの空吹け状態が検出されることで、解放側の伝達トルク容量が臨界付近にまで低下したことを間接的に知ることができる。
【0064】
上記のように、余裕代が1.0付近になった時点で、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが高くなることが理想であるが、入力軸トルクTtの推定誤差があると、余裕代が1.0よりも大きい状態又は1.0よりも小さくなってからエンジンの空吹けが生じることになり、前記入力軸トルクTtの推定誤差を見込んで、前記所定時間TIMER2内での余裕代の変化範囲を、1.0を中心に広く確保する必要が生じる。
【0065】
ここで、例えば余裕代=1.1に相当する解放側油圧でギヤ比が変化し始めたとすると、入力軸トルクの推定において実際値よりも小さく推定したため、本来、伝達トルク容量に余裕があることで締結状態を保持できる油圧であるのに滑り始めたものと判断され、逆に、例えば余裕代=0.9に相当する解放側油圧でギヤ比が変化し始めたとすると、入力軸トルクの推定において実際値よりも大きく推定したため、本来の締結状態を保持できない油圧(伝達トルク容量)まで既に低下しているのに、滑り始めが遅れたものと判断される。
【0066】
そこで、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが初めて高くなった時点での余裕代に基づいて、入力軸トルク推定値を補正するための補正係数を求めて、該補正係数による補正を学習するようにしてある。
【0067】
即ち、図6のフローチャートのステップS33で、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが高いと判断されると、ステップS35へ進み、入力軸トルクの学習補正制御を行う。
【0068】
前記入力軸トルクの学習補正制御の様子は、図9のフローチャートに示してあり、ステップS351では、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが初めて高くなった時点での余裕代を求める。具体的には、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが初めて高くなった時点の解放側摩擦係合要素の係合油圧とそのときの入力軸トルクとから余裕代Trを逆算する。
【0069】
ステップS352では、図29に示すように、1.0とエンジンの空吹け発生時の余裕代Trとの偏差(1−Tr)に応じて入力軸トルクの補正係数Kttを記憶したテーブルを予め記憶しており、前記ステップS351で求められた余裕代Trに基づいて前記テーブルを参照し、補正係数Kttを求める。
【0070】
前記補正係数Kttは、前記余裕代Trが1.0であるときに1.0に、余裕代Trが1.0よりも小さい時には1.0よりも小さい値に、余裕代Trが1.0よりも大きい時には1.0よりも大きい値に設定され、前記余裕代Trが1.0のときにエンジンの空吹けが発生するように、入力軸トルクの推定値を補正する。
【0071】
尚、前記補正係数Kttが設定されると、該補正係数Kttによる補正要求を含んで入力軸トルクを推定するように学習される構成としてある。
図6のフローチャートのステップS36では分担比ランプ学習を行う。
【0072】
前記分担比ランプ学習は、図10のフローチャートに詳しく示してある。
ステップS361では、トルク推定学習が終了しているか否かを判別する。具体的には、エンジンの空吹け発生時の余裕代Trに基づき設定される補正係数Kttが1.0を含む狭い範囲内(例えば0.95≦Ktt≦1.05)に収束したときに、トルク推定学習の終了を判定する。
【0073】
トルク推定学習の終了が判定されると、ステップS362へ進み、前記解放初期油圧Po1及び解放油圧Po2の演算に用いられる余裕代(1),(2)を、初期値から変更する処理を行う。
【0074】
前記変更は、余裕代(1)についてはより小さくする変更であり、余裕代(2)についてはより大きくする補正であり、余裕代(1)から余裕代(2)までの変化幅を狭める補正である(図28参照)。例えば、余裕代(1)の初期値を1.2、余裕代(2)の初期値を0.8とする場合には、余裕代(1)を1.1に変更し、余裕代(2)を0.8に変更する。
【0075】
上記のように余裕代(1),(2)を変更すると、変速判断直後の所定時間TIMER1における余裕代の変化幅が大きくなり解放油圧の低下勾配は大きくなる一方、その後の所定時間TIMER2における余裕代の変化幅が小さくなり解放油圧の低下勾配は緩くなる。
【0076】
ここで、トルク推定学習が収束していて、入力軸トルクの推定精度が高くなっているので、解放油圧の低下勾配を緩くする所定時間TIMER2での余裕代の変化幅が小さくなっても、前記所定時間TIMER2内でエンジンの空吹け状態に確実に移行させることができる。
【0077】
また、エンジンの空吹け状態に移行させる時の解放油圧の低下勾配をより緩くすれば、臨界状態に対応する油圧を精度良く判定でき、その後のトルクフェーズにおける油圧の制御性が向上し、以って、トルクフェーズ初期における回転変化を緩やかにできる。
【0078】
一方、締結側の準備フェーズ処理は、図11のフローチャートに示される。
図11のフローチャートは、締結側の準備フェーズ処理を示すものであり、ステップS41で、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが高いか否かを判定する。
【0079】
そして、タービン回転速度Ntが基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値以下であると判定されるとき、換言すれば、エンジンの空吹けが発生するようになるまでの間、ステップS42へ進む。
【0080】
ステップS42では、締結側摩擦係合要素の基準プリチャージ圧を、摩擦係合要素の種類に応じて設定する。
次のステップS43では、前記基準プリチャージ圧を、油温に応じたゲインの過渡時油圧補償フィルタで処理し、最終的な締結側の摩擦係合要素の油圧を決定する。
【0081】
前記過渡時油圧補償フィルタは、実油圧を目標油圧である基準プリチャージ圧へ変化させるときの過渡応答性を高めるためのフィルタであり、目標油圧のステップ変化に対して指示油圧をより大きくステップ変化させ、その後、指示油圧を2次振動させて本来の目標に収束させるように設定されており、更に、油温によって油圧変化の過渡応答性が異なることに対応してフィルタゲインを油温に応じて変更するようにしてある。
【0082】
これにより、締結側摩擦係合要素の油圧は、パワーオンアップシフトが判断されると、応答良く基準プリチャージ圧まで増大変化した後、エンジンの空吹けが検出されるまで基準プリチャージ圧に保持される。
【0083】
ここで、前記図5のフローチャートに戻って説明を続けると、ステップS2で基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが高くなったことが判定されると、ステップS4へ進み、ギヤ比がF/B開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化したか否かを判別する。そして、エンジンの空吹けが判定されてから、F/B開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化するまでは、ステップS5のトルクフェーズ処理を行わせる。
【0084】
後述するように、F/B開始ギヤ比を超えてギヤ比が変化すると、タービン回転のフィードバック制御を行うよう構成されている。尚、F/Bはフィードバックの略称である。
【0085】
図12のフローチャートは、解放側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理の様子を示すものであり、ステップS51では、タービン回転速度Nt(入力軸回転速度)と基準タービン回転(No×ギヤ比)との偏差の時間微分値(入力軸回転速度の変化速度)が負であるか否かを判別する。
【0086】
尚、前記タービン回転速度Ntとそのときの出力軸回転速度とに基づいてギヤ比を算出すると共に、該ギヤ比の変化速度(時間微分値)を演算し、前記タービン回転速度Ntの変化速度に代えて、前記ギヤ比の変化速度を判別することで、間接的にタービン回転速度Ntの変化速度を判別させるようにしても良い。
【0087】
そして、d/dt(Nt−No×ギヤ比)≧0である間、即ち、タービン回転速度Ntと基準タービン回転(No×ギヤ比)との偏差が増大変化している間(入力軸回転速度が増大変化している間)は、ステップS52へ進み、トルク分担比保持制御を行う。
【0088】
前記トルク分担比保持制御は、図13に詳しく示してある。
図13のフローチャートにおいて、ステップS521では、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが初めて高くなった時点から所定時間TIM1前の時点における余裕代Trbeforeを求める。
【0089】
基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが初めて高くなった時点を、解放側摩擦係合要素の臨界状態として判定するが、前記タービン回転速度Ntに検出遅れがあると共に、臨界状態が誤判定されることを防止するためにヒステリシス値HYSを基準タービン回転に加算することから、真の臨界に対して前記タービン回転速度Ntに基づく臨界判定には遅れを生じる。
【0090】
そこで、臨界が判定された時点から前記遅れ時間だけ遡った時点を、真の臨界状態であると推定し、その時の余裕代を臨界相当値として検出するものであり、前記所定時間TIM1を前記遅れ時間に対応させて設定させる。
【0091】
従って、前記所定時間TIM1前の時点における余裕代Trbeforeによる補正分を、入力軸トルクの推定値と臨界トルク比とから求められる推定臨界相当圧に加算することで、そのときの入力軸トルクに見合った真の臨界相当圧を求めることができる。
【0092】
尚、前記臨界判定の遅れ時間が、変速及び摩擦係合要素の種類に応じて異なることから、所定時間TIM1を、変速の種類(2速→3速、3速→4速等)及び/又は摩擦係合要素の種類(ブレーキバンド2&4/B、ロークラッチL/C等)に応じて変更するようにしてある。
【0093】
また、エンジン運転状態を示すエンジン負荷・回転速度によっても前記臨界判定の遅れ時間の違いを推定できるので、所定時間TIM1を、エンジン負荷及び/又はエンジン回転速度に応じて変更する構成とすることもできる。
【0094】
次のステップS522では、前記余裕代Trbeforeに基づいて、d/dt(Nt−No×ギヤ比)≧0である間の解放側の油圧Po3を演算する。
Po3=K1×(Tt×Tr-o×余裕代Trbefore)+Prtn-o
上記解放側の油圧Po3は、解放側の臨界状態に対応する係合油圧であり、d/dt(Nt−No×ギヤ比)≧0である間(入力軸回転速度が増大変化している間)、解放側摩擦係合要素は臨界状態に保持されることになる。
【0095】
一方、図12のフローチャートのステップS51でd/dt(Nt−No×ギヤ比)<0である(入力軸回転速度が減少変化している)と判別されると、ステップS53へ進み、解放トルク補正制御を行う。
【0096】
d/dt(Nt−No×ギヤ比)≧0からd/dt(Nt−No×ギヤ比)<0への移行(回転変化方向の反転)は、締結側摩擦係合要素によるトルク伝達の分担が開始されてエンジンの空吹けが収束し始めたことを示すものである。
【0097】
前記解放トルク補正制御は、図14に詳しく示してある。
ステップS531では、d/dt(Nt−No×ギヤ比)の大きさ(入力軸回転速度の変化速度)に応じて、解放補正トルクThosei-oを図30に示すようなテーブルを参照して算出する。
【0098】
前記解放補正トルクThosei-oは、d/dt(Nt−No×ギヤ比)が0以上であるときに0で、d/dt(Nt−No×ギヤ比)が負であるときに、その絶対値が大きくなるほど絶対値の大きな負の値に設定される構成となっている。
【0099】
次のステップS532では、前記解放補正トルクThosei-oを用いて入力軸トルクTtを補正して解放油圧Po4を算出する。
Po4=K1×[(Tt+Thosei-o)×Tr-o×余裕代Trbefore]+Prtn-o
上記解放油圧Po4の演算によると、臨界圧相当の基本圧Po3=K1×(Tt×Tr-o×余裕代Trbefore)+Prtn-oがd/dt(Nt−No×ギヤ比)に応じて補正されることになる。
【0100】
締結側の指示圧の増大に対応して解放側の指示圧を臨界相当値から漸次減少させないと、空吹けの収束時に急激な回転低下を招くことになるから、回転低下の速度が大きい時ほど大きく解放側油圧を減少補正することで、結果的に締結側の指示圧の増大に対応して解放側の油圧が徐々に減少され、急激な回転低下が回避される。
【0101】
尚、上記解放側油圧のd/dt(Nt−No×ギヤ比)に応じた減圧補正と共に、締結側油圧を、d/dt(Nt−No×ギヤ比)がマイナス側に大きいときほど、減圧補正するようにしても良い。
【0102】
また、パワーオフアップシフト時であって、トルクフェーズの開始に伴ってタービン回転(入力軸回転)の引けが生じる場合には、d/dt(Nt−No×ギヤ比)がプラスであるときが前記引けの収束状態であって、このときに、増大方向への変化速度が大きいほど、解放側の油圧をより大きく減圧補正するようにすれば、引けの収束を滑らかに制御できる。
【0103】
そして、ギヤ比がF/B開始ギヤ比を超えてアップシフト方向に変化した時点で、そのときの解放油圧から油圧=0にまでステップ変化させる。
一方、締結側のトルクフェーズ処理は、図15のフローチャートに示すようにして行われる。
【0104】
ステップS61では、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが高いか否かを判別し、タービン回転速度Ntが高い場合にステップS62へ進む。
【0105】
ステップS62では、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが初めて高くなってから所定時間TIMER3が経過したか否かを判別する。尚、前記所定時間TIMER3は、変速及び摩擦係合要素の種類に応じて設定される。
【0106】
そして、前記所定時間TIMER3内であると判別されると、ステップS63へ進み、締結側の準備油圧制御を行う。
前記準備油圧制御の様子は、図16のフローチャートに示してある。
【0107】
ステップS631では、締結側摩擦係合要素の指示圧を、所定時間TIMER3で前記スタンバイ圧(基準プリチャージ圧)から締結初期圧Pc1まで上昇させる設定を行い、ステップS632では、前記初期圧Pc1を、
Pc1=K2×Tt×Tr-c×(余裕代(1)×Rmp-Tr1)+Prtn-c
として算出する。
【0108】
ここで、K2は、締結側の摩擦係合要素の伝達トルク容量(必要伝達トルク容量)を油圧に変換するための係数であり、変速の種類及び解放制御する摩擦係合要素の種類に応じて予め記憶されている。Tr-cは、入力軸トルクTtに対して、締結側の摩擦係合要素が締結し始める臨界伝達トルク容量を求めるための締結臨界トルク比である。Prtn-cは、締結側のスタンバイ圧(締結側リターンスプリング圧)であり、摩擦係合要素毎に予め記憶される。
【0109】
更に、Rmp-Tr1は、図31に示すように、所定時間TIMER3内で0から1にまで一定速度で増大する係数であり、締結側のスタンバイ圧(基準プリチャージ圧)から締結臨界トルクの余裕代(1)倍にまで締結側の油圧を増大変化させる。尚、前記所定時間TIMER3は、変速及び摩擦係合要素の種類に応じて設定される。
【0110】
また、前記余裕代(1)は初期値が例えば0.8に設定されるが、前記余裕代Trbeforeに応じて補正されるようになっており、具体的には、余裕代(1)=0.8+(Trbefore−1.0)として設定される。
【0111】
前記余裕代Trbeforeは、入力軸トルクの推定値と臨界トルク比とから求められる推定臨界相当圧の誤差を示すものであり、例えば余裕代Trbeforeが1.0(基準値)よりも大きかった場合には、入力軸トルクを実際よりも小さく推定したものと判断できる。そこで、(Trbefore−1.0)だけ余裕代(1)を増減補正すれば、入力軸トルクの推定誤差が修正され、油圧としては実際の入力軸トルクに相当する値に制御でき、以って、前記締結側初期圧Pc1を、臨界圧を基準とした要求値に制御でき、これにより、締結側摩擦係合要素の伝達トルクの分担開始が遅れることを回避して、大きく空吹けすることを防止できる。
【0112】
図15のフローチャートのステップS62で、基準タービン回転(No×ギヤ比)とヒステリシス値HYSとの加算値よりもタービン回転速度Ntが初めて高くなってから所定時間TIMER3が経過したと判別されると、ステップS64へ進む。
【0113】
ステップS64では、ギヤ比がF/B開始ギヤ比よりも小さくなったか否かを判別し、ギヤ比がF/B開始ギヤ比よりも大きい場合には、ステップS65へ進んで、分担比ランプ制御を行う。
【0114】
前記分担比ランプ制御は、図17のフローチャートに示される。
まず、ステップS651では、所定時間TIMER4で前記余裕代(1)から余裕代(2)(余裕代(2)=余裕代(1)+0.4)まで一定速度で変化させ(図32参照)、該余裕代の上昇に伴って締結側の指示圧を増大させる設定を行う。尚、前記所定時間TIMER4は、変速及び摩擦係合要素の種類に応じて設定される。
【0115】
ステップS652では、前記余裕代の増大変化に対応する初期圧Pc2及び最終圧Pc3を算出し、該指示圧Pc2,Pc3と前記所定時間TIMER4とに基づいて指示圧のランプ勾配Rmp-Pc3を算出する。
【0116】
Pc2=K2×Tt×Tr-c×余裕代(1)+Prtn-c
Pc3=K2×Tt×Tr-c×余裕代(2)+Prtn-c
Rmp-Pc3=(Pc3−Pc2)/TIMER4
ステップS653では、ランプ勾配Rmp-Pc3に従って締結側指示油圧Pc4を徐々に増大させる制御を行う。
【0117】
上記のようにトルクフェーズにおいては、締結側の油圧を臨界圧よりも低い初期圧から臨界圧を超える目標圧まで徐々に増大させる一方、解放側は、締結側が締結し始めてトルク伝達を分担するようになるまでは臨界状態に保持されるが、締結側がトルク伝達を分担するようになったことが、d/dt(Nt−No×ギヤ比)の正負反転(空吹けの収束)に基づいて判別されると、締結側のトルク分担率の増大に対応させるように油圧を徐々に減少させ、トルク伝達の分担を解放側から締結側に徐々に移行させる。
【0118】
前記分担比ランプ制御の次は、ステップS66の空吹け補正制御を行う。
上記空吹け補正制御を図18のフローチャートに従って説明すると、ステップS661では、d/dt(Nt−No×ギヤ比)(入力軸回転速度の変化速度)に応じて補正トルクThosei-cを求める。
【0119】
前記補正トルクThosei-cは、図33に示すように、d/dt(Nt−No×ギヤ比)がマイナスであるときは0であるが、プラスであるときにはd/dt(Nt−No×ギヤ比)が大きくなるほど大きなプラスの値に設定される。
【0120】
ステップS662では、一定の速度で増大制御される前記指示油圧Pc4を、前記補正トルクThosei-cによって補正して指示圧Pc5を算出する。
Pc5=Pc4+K2×Tr-c×Thosei-c
上記のように、一定速度で増大設定される締結側の油圧を、トルクフェーズの開始から回転が増大変化する間において、増大方向への変化速度に応じて補正すれば、締結制御の遅れによる空吹けの増大を締結制御の促進によって回避できることになる。
【0121】
尚、締結側油圧の増大補正と共に、解放側油圧をd/dt(Nt−No×ギヤ比)(入力軸回転速度の変化速度)に応じて増大補正するようにしても良い。
また、パワーオフアップシフト時であって、トルクフェーズの開始に伴ってタービン回転(入力軸回転)の引けが生じる場合には、d/dt(Nt−No×ギヤ比)がマイナスであるときに、該減少方向への変化速度が大きいほど、締結側の油圧をより大きく増圧補正するようにすれば、引けの発生を抑制できることになる。
【0122】
更に、ステップS67では、前記ステップS43と同様な過渡時油圧補償を施す。
即ち、図19のフローチャートに示すように、ステップS671で油温に応じてゲインを設定し、次のステップS672では、前記指示圧Pc5を、前記油温に応じたゲインの過渡時油圧補償フィルタで処理し、最終的な締結側の摩擦係合要素の油圧Pc6を決定する。
【0123】
尚、締結側のトルクフェーズ処理において、ステップS66の空吹け補正制御及びステップS67の過渡時油圧補償を省略し、締結側の油圧を一定速度で増大変化させても良い。
【0124】
図5のフローチャートのステップS4で、ギヤ比がF/B開始ギヤ比よりも小さくなったと判別されると、ステップS6へ進み、ギヤ比がF/B終了ギヤ比(<F/B開始ギヤ比)よりも小さくなったか否かを判別する。
【0125】
ギヤ比がF/B開始ギヤ比よりも小さくなったが、F/B終了ギヤ比よりも大きいときには、ステップS7のイナーシャフェーズ処理を行わせる。
解放側のイナーシャフェーズ処理は、図20のフローチャートに示してあり、ステップS71でトルクフェーズ終了時の油圧(油圧=0)を保持させる。
【0126】
また、締結側のイナーシャフェーズ処理は、図21のフローチャートに示される。
図21のフローチャートにおいて、ステップS81では、図22のフローチャートに示される基本制御を行う。
【0127】
前記基本制御においては、まず、ステップS811で、イナーシャトルクTinrを算出する。前記イナーシャトルクTinr(変速トルク)は、図34に示すように、目標変速時間に対応するテーブル値として予め記憶されており、目標変速時間が短いときほど大きな値に設定される。
【0128】
ステップS812では、前記イナーシャトルクTinrに基づいて締結側の指示圧Pc7を算出する。
Figure 0003685653
上記指示圧Pc7は、入力軸トルクに対応する臨界圧に、イナーシャトルクTinrに対応する油圧を加算した値として算出されることになる。また、前記イナーシャトルクTinrを車速VSPに応じた補正係数HOSEI-VSPにより、車速が高い時ほどイナーシャトルクTinrをより増大補正するようにしてある(図35参照)。
【0129】
上記基本制御に加え、ステップS82では、回転フィードバック(F/B)制御を実行する。
前記回転F/B制御を図23のフローチャートに従って説明する。
【0130】
ステップS821では、目標のタービン回転を算出する。前記目標のタービン回転は、目標変速時間で変速前のギヤ比から変速後のギヤ比に一定速度で変化させるとした場合の時々刻々の目標ギヤ比と(図36参照)、出力軸回転Noとの乗算値として求められる。
【0131】
ステップS822では、前記目標のタービン回転に実際のタービン回転を一致させるようにフィードバック補正分PIDを比例・積分・微分制御し、次のステップS823では、前記フィードバック補正分PIDで基本制御における指示圧Pc7を補正して、締結側指示圧Pc8を設定する。
【0132】
ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも小さくなったことが、図5のフローチャートのステップS6で判別されると、ステップS6からステップS8へ進み、ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも初めて小さくなった時点から所定時間TIMER7だけ経過したか否かを判別する。
【0133】
そして、所定時間TIMER7内であれば、ステップS9へ進んで、終了フェーズ処理を行う。
解放側摩擦係合要素についての終了フェーズ処理は、図24のフローチャートに示してあり、ステップS91でイナーシャフェーズ終了時の油圧を保持する設定を行う。即ち、解放側摩擦係合要素の油圧は、ギヤ比がF/B開始ギヤ比よりも小さくなった時点から0に保持されることになる。
【0134】
一方、締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理は、図25のフローチャートに示され、ステップS101では、ギヤ比がF/B終了ギヤ比よりも初めて小さくなった時点から所定時間TIMER7内であるか否かを判別し、所定時間TIMER7内であればステップS102へ進んで、終了フェーズ処理を実行する。
【0135】
前記ステップS101の終了フェーズ処理の詳細は、図26のフローチャートに示してあり、ステップS111では、締結臨界トルクに相当する油圧から締結臨界トルクの1.2倍に相当する油圧まで、前記所定時間TIMER7内で上昇させる設定を行う。尚、前記所定時間TIMER7は、変速及び摩擦係合要素の種類に応じて設定される。
【0136】
ステップS112では、締結側指示圧Pc9を、
Figure 0003685653
ここで、Rmp-Tr2は、図37に示すように、所定時間TIMER7内で0から1.0まで一定速度で変化する係数であり、係数Rmp-Tr2が0のとき、Pc9=Pc8となり、イナーシャフェーズでの油圧を初期値として、Pc9=K2×Tt×Tr-c×1.2+Prtn-c+K2×Tr-c×(Tinr×HOSEI-VSP)まで、所定時間TIMER7内で油圧を増大させる。
【0137】
そして、前記所定時間TIMER7が経過した時点で、締結側の指示圧を、前記Pc9=K2×Tt×Tr-c×1.2+Prtn-c+K2×Tr-c×(Tinr×HOSEI-VSP)から、最大圧までステップ変化させる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態における自動変速機の変速機構を示す図。
【図2】前記変速機構における摩擦係合要素の締結状態の組み合わせと変速段との相関を示す図。
【図3】前記自動変速機の制御系を示すシステム図。
【図4】実施の形態における摩擦係合要素の掛け換えによる変速の様子を示すタイムチャート。
【図5】実施の形態における摩擦係合要素の掛け換え変速制御の様子を示すフローチャート。
【図6】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理を示すフローチャート。
【図7】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における解放初期油圧演算を示すフローチャート。
【図8】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ制御を示すフローチャート。
【図9】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における入力軸トルク学習を示すフローチャート。
【図10】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における分担比ランプ学習を示すフローチャート。
【図11】締結側摩擦係合要素の準備フェーズ処理を示すフローチャート。
【図12】解放側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理を示すフローチャート。
【図13】解放側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理におけるトルク分担比保持制御を示すフローチャート。
【図14】解放側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理における解放トルク補正制御を示すフローチャート。
【図15】締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理を示すフローチャート。
【図16】締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理における準備油圧制御を示すフローチャート。
【図17】締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理における分担比ランプ制御を示すフローチャート。
【図18】締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理における空吹け補正制御を示すフローチャート。
【図19】締結側摩擦係合要素のトルクフェーズ処理における過渡時油圧補正を示すフローチャート。
【図20】解放側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理を示すフローチャート。
【図21】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理を示すフローチャート。
【図22】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における基本制御を示すフローチャート。
【図23】締結側摩擦係合要素のイナーシャフェーズ処理における回転F/B制御を示すフローチャート。
【図24】解放側摩擦係合要素の終了フェーズ処理を示すフローチャート。
【図25】締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理を示すフローチャート。
【図26】締結側摩擦係合要素の終了フェーズ処理の詳細を示すフローチャート。
【図27】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における余裕代の変化特性を示す線図。
【図28】解放側摩擦係合要素の準備フェーズ処理における余裕代の変化特性を推定誤差の学習前後で比較して示す線図。
【図29】空吹け発生時の余裕代と入力軸トルクの補正係数との相関を示す線図。
【図30】解放側摩擦係合要素における空吹け補正トルクの特性を示す線図。
【図31】締結側摩擦係合要素における準備油圧制御における油圧のランプ特性を示す線図。
【図32】締結側摩擦係合要素における分担比ランプ制御における余裕代の変化特性を示す線図。
【図33】締結側摩擦係合要素における空吹け補正トルクの特性を示す線図。
【図34】変速時間とイナーシャトルクとの相関を示す線図。
【図35】イナーシャトルクの車速による補正係数を示す線図。
【図36】目標変速時間と目標ギヤ比との相関を示す線図。
【図37】締結側の終了フェーズにおける油圧のランプ特性を示す線図。
【符号の説明】
1…トルクコンバータ
2…変速機構
11…ソレノイドバルブユニット
12…A/Tコントローラ
13…A/T油温センサ
14…アクセル開度センサ
15…車速センサ
16…タービン回転センサ
17…エンジン回転センサ
18…エアフローメータ
20…エンジン
G1,G2…遊星歯車
H/C…ハイクラッチ
R/C…リバースクラッチ
L/C…ロークラッチ
2&4/B…2速/4速バンドブレーキ
L&R/B…ロー&リバースブレーキ

Claims (6)

  1. 異なる摩擦係合要素の締結制御と解放制御とを同時に行う摩擦係合要素の掛け替えによって変速を行うよう構成された自動変速機の変速制御装置であって、
    アップシフトのトルクフェーズの開始から前記変速機の入力軸回転速度の変化方向が反転するまでの間、締結側摩擦係合要素の係合油圧を前記変化速度が大きいほどより増圧補正すると共に、前記入力軸回転速度の変化方向が反転してからトルクフェーズの終了までの間、解放側摩擦係合要素の係合油圧を、前記変化速度が大きいほどより減圧補正することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
  2. 前記入力軸回転速度の変化速度を、ギヤ比の変化速度に換算することを特徴とする請求項記載の自動変速機の変速制御装置。
  3. 解放側摩擦係合要素の係合油圧を、トルクフェーズの開始から入力軸回転速度の変化方向が反転するまでの間、臨界圧付近に保持することを特徴とする請求項1又は2記載の自動変速機の変速制御装置。
  4. 前記入力軸回転速度の変化方向が反転してからトルクフェーズの終了までの間、臨界圧付近の係合油圧を解放側摩擦係合要素の基本圧として、前記変化速度が大きいほど前記基本圧をより減圧補正することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動変速機の変速制御装置。
  5. 異なる摩擦係合要素の締結制御と解放制御とを同時に行う摩擦係合要素の掛け替えによって変速を行うよう構成された自動変速機の変速制御装置であって、
    アップシフトのトルクフェーズの開始から前記変速機の入力軸回転速度の変化方向が反転するまでの間、解放制御の進行に対する締結側の相対的な進行度合いをより促進させるべく、解放側と締結側との少なくとも一方の係合油圧を前記入力軸回転速度の変化速度に応じて補正すると共に、
    前記入力軸回転速度の変化方向が反転してからトルクフェーズの終了までの間、締結制御の進行に対する解放側の相対的な進行度合いをより促進させるべく、解放側と締結側との少なくとも一方の係合油圧を前記変化速度に応じて補正することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
  6. 前記解放側及び締結側の摩擦係合要素における変速時の係合油圧が、入力軸トルクの推定値,臨界トルク比,余裕代に基づき演算される構成であり、前記入力軸トルクの推定値を、前記変化速度に基づいて補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の自動変速機の変速制御装置。
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