JP3652050B2 - フェライト材料及びこれを用いた圧力センサ並びにチップインダクタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェライト材料及びこれを用いた圧力センサ並びにチップインダクタに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、Fe,Ni,Znの酸化物を主成分とするフェライト材料(Ni−Zn系フェライト材料)は、圧力に応じてインダクタンスLが変動すること(以下、磁歪という)が知られており、使用する用途に応じて、この現象が積極的に利用されたり、逆に制御されたりする。
【0003】
例えば、Ni−Zn系フェライト材料に圧力を加えた時の磁歪量を測定することによって圧力を検出し、圧力センサとして用いることが提案されている(特開昭49−28383号、特公昭52−6105号公報参照)。この場合は、圧力に応じてインダクタンスの変動量が大きく、しかも圧力と磁歪量の関係が可逆的に変化するものが求められる。
【0004】
一方、Ni−Zn系フェライト材料をチップインダクタのコアに用いる場合、樹脂モールドして使用される際に、モールドの圧力によるインダクタンスの変動量が小さく安定した材料が求められる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、Ni−Zn系フェライト材料において、磁歪量を制御することは難しく、求める磁歪量のNi−Zn系フェライト材料を得ることは極めて困難であった。
【0006】
しかも、通常のNi−Zn系フェライトは負の磁歪を示し、圧力と磁歪量の関係が不可逆的であるという問題があった。そのため、圧力センサとして用いた場合に精度の高いセンサとすることができず、またチップインダクタとして用いた場合に樹脂モールド後のインダクタンスの値が不安定になるという不都合があった。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明は、Fe,Ni,Znの酸化物を主成分とするNi−Zn系フェライト材料において、Fe2+イオンを3モル%以上含有することを特徴とする。
【0008】
即ち、種々実験を行った結果、焼結体中に存在するFe2+の含有量が磁歪量と密接な関係があることを見出した。そして、Fe2+の含有量を3モル%以上とすれば、磁歪量が正となり、その結果、圧力と磁歪量の関係が可逆的となり、インダクタンスLの変動を安定できることを見出して本発明に到ったのである。
【0009】
ここで、Fe2+の含有量と磁歪量の関係について説明する。一般に、Ni−Zn系フェライト材料の焼結体中で、Feイオンは、Fe2+からFe3+、Fe4+に変化しており、Fe2+の含有量は極めて少ない状態となっている。また、Ni−Zn系フェライトの磁歪は、結晶構造中に含まれる各イオンの磁歪現象の総和であるが、通常含まれるイオンであるFe3+、Zn2+、Ni2+、Cu2+等はいずれも負の磁歪定数を有しており、そのためNi−Zn系フェライト材料は負の磁歪を示すことになる。
【0010】
これに対し、Fe2+イオンは正の磁歪を示すため、フェライト材料中のFe2+イオンの含有量を多くすると、全体の磁歪量を大きくすることができ、特にFe2+イオンの含有量を3モル%以上にすると、フェライト材料全体の磁歪量が正になって、圧力と磁歪量の関係を可逆的にでき、インダクタンスLの変動を安定できることを見出したのである。しかも、Fe2+イオンの含有量を調整することによって、自由に所定の磁歪量をもったフェライト材料を得ることもできる。
【0011】
なお、Fe2+イオン含有量の多いNi−Zn系フェライト材料を製造するためには、種々の方法がある。例えば、フェライト材料中のFe2 O3 の含有量を好ましくは50モル%以上となるようにしてFe成分を過剰にし、余剰のFeをFe2+とさせる方法、Si4+、Ti4+、Sn4+等の4価の原子価を持った成分を添加することによって焼成中に生成したFe2+を安定化させる方法、あるいはFe2+が生成しやすいような条件で焼成する方法等があり、これらの3つの方法のうちいずれか一つ又は複数の方法の組合せによって、Fe2+の含有量を所定の範囲とすることができる。
【0012】
具体的な本発明のフェライト材料の製造方法は、所定の組成範囲となるように主成分の各原料を調合し、ボールミル等で粉砕混合した後、800〜900℃で仮焼し、この仮焼分体に添加成分を加えた後、ボールミルで粉砕し、バインダーを加えて造粒し、所定形状に成形した後、950〜1250℃で焼成することによって得ることができる。
【0013】
また、フェライト材料の焼結体からFe2+の含有量を測定する方法としては、キレート滴定法を用いる。これは、フェライト焼結体を酸又はアルカリで溶解させ、その溶液に指示薬を入れ、EDTA溶液で滴定する方法であり、pH=2〜3で滴定すればFe2+は滴定にかからないことから、Fe2+の酸化を防ぎつつ滴定を行えば、Fe2+以外のFeイオン(Fe3+、Fe4+)含有量を測定することができる。そのため、全体のFe量から、この測定値を引けばFe2+の含有量を求めることができる。
【0014】
さらに他の方法としては、イオンクロマトグラフィー法を利用することもできる。これは、フェライト焼結体を酸等で溶解させ、イオン交換クロマトグラフィーにかけ、Fe2+イオンと他のFeイオン(Fe3+、Fe4+)のカラム中での移動速度の違いから分離、定量を行う方法である。
【0015】
また、本発明のフェライト材料は圧力と磁歪量の関係が可逆的になることから、圧力センサとして用いれば精度を高くするとができる。
【0016】
さらに、本発明のフェライト材料をチップインダクタとして用いれば、樹脂モールド時にインダクタンスの変動が不安定になることを防止できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のフェライト材料を用いた圧力センサの実施形態を図によって説明する。
【0018】
図1に示す圧力センサは、Fe2+イオン含有量を3モル%以上とした本発明のフェライト材料を柱状体として圧力検出素子1とし、その周囲に巻線を施しておいて、基体3上に載置する。また、圧力検出素子1の他方端側には圧力伝達手段として荷重受部材4を備えている。さらに、上記巻線2にはLCRメータ等の磁歪量検出手段5を接続してあり、この磁歪量検出手段5で圧力検出素子1のインダクタンスLを測定し、得られた信号を解析部6で圧力に変換して処理し、表示するようになっている。
【0019】
いま、荷重受部材4に圧力が加わった場合、これによって圧力検出素子1のインダクタンスLが変化し、この変化を磁歪量検出手段5で検知し、解析部6で圧力に変換して、圧力の大きさを表示することができる。
【0020】
なお、図1では1個の圧力検出素子1を用いたが、複数の圧力検出素子1で荷重受部材4を指示する構造とし、各圧力検出素子1に磁歪量検出手段5を接続しても良い。
【0021】
また、荷重受部材4は、圧力検出素子1に悪影響を及ぼさないように非磁性材料を用い、また圧力を正確に伝達できるように弾性率の小さい材料を用いることが好ましい。
【0022】
以上の圧力センサにおいて、圧力検出素子1を成す本発明のフェライト材料は、圧力と磁歪量の関係が可逆的になることから、圧力センサとしての精度を高くすることができる。
【0023】
なお、圧力検出素子1を成すフェライト材料の組成としては、例えば、50〜65モル%のFe2 O3 、5〜20モル%のNiO、25〜40モル%のZnO、0〜10モル%のCuOを主成分とするものが好ましい。上記範囲とすれば、磁歪が負となることを防止し、高い透磁率を維持し、しかも良好な焼結性を維持できる。
【0024】
また、これら以外の添加成分として、上記主成分100重量部に対し、0.5〜5重量部のSiO2 、0.1〜3重量部のTiO2 、0.1〜5重量部のSnO2 を含有することによって、前述したようにFe2+イオンの含有量を高め、磁歪量を正にすることができる。
【0025】
さらに、これら以外の添加成分として、0〜5重量部のBi2 O3 を加えると焼結性を向上させることができる。また、その他に、MnOを0.15重量部以下、Al2 O3 、MgO、CaO、K2 O、S、P2 O5 を各々0.05重量部以下の範囲で含んでいても良い。
【0026】
次に、本発明のフェライト材料をチップインダクタに用いた実施形態を図によって説明する。
【0027】
図2に示すように、Fe2+イオン含有量を3モル%以上とした本発明のフェライト材料によりコア11を形成し、このコア11の中央部11aに巻線を施して、その両端に接続したリードピンをフランジ部11bに半田付けし、全体をエポキシ樹脂でモールドすることによって、チップインダクタをすることができる。
【0028】
この時、本発明のフェライト材料は、磁歪が正となり、圧力と磁歪量の関係が可逆的になることから、上記の樹脂モールド時に圧力が加わっても、インダクタンスLが不安定になることを防止できる。
【0029】
なお、本発明のフェライト材料をチップインダクタのコア11として用いる場合は、上記特性以外に高周波で高いQ値を維持することが求められ、そのためには、フェライト材料中のFe2+イオンの含有量を3〜10モル%とし、かつ体積固有抵抗を108 Ω・cm以上とすることが好ましい。
【0030】
これは、Fe2+イオンの含有量が10モル%を超えるか、又は体積固有抵抗が108 Ω・cm未満であると、高周波でのQ値が低下するためである。
【0031】
ここで、体積固有抵抗と高周波でのQ値の関係について説明する。一般にQ値は、
tanδe:渦電流損失係数
tanδh:ヒステリシス損失係数
tanδr:全磁気損失係数
で表される。そして、体積固有抵抗が低下すると渦電流損失係数(tanδe)が大きくなり、その結果、Q値が低下することになるのである。そのため、高周波でのQ値の低下を防止するために、体積固有抵抗を108 Ω・cm以上とすることが好ましい。
【0032】
なお、一般にNi−Zn系フェライト材料は体積固有抵抗の高い材料である。ところが、前述したように磁歪量の関係でFe2+イオンの含有量を高めると、焼結体中のFeイオンが、Fe2+、Fe3+、Fe4+となって不定比性が大きくなり、これらのイオン間での電子の授受によって、抵抗値の低下を招くことになる。そこで、本発明のフェライト材料をチップインダクタに用いる場合は、Fe2+イオンの含有量を10モル%以下として、体積固有抵抗の低下を防止することが好ましい。
【0033】
また、フェライト材料の体積固有抵抗を高くするためには、CaO、ZrO2 等の高抵抗の酸化物を添加し、粒界相に高抵抗相を作ることもできる。
【0034】
このように、チップインダクタとして用いる場合のフェライト材料の組成としては、例えば、45〜55モル%のFe2 O3 、10〜30モル%のZnO、0〜10モル%のCuO、残部がNiOを主成分とするものが好ましい。上記範囲とすれば、磁歪が負となることを防止し、高い透磁率を維持し、しかも良好な焼結性を維持できる。
【0035】
また、これら以外の添加成分として、上記主成分100重量部に対し、0.5〜10重量部のSiO2 、0.1〜5重量部のTiO2 、0.1〜5重量部のSnO2 を含有することによって、前述したようにFe2+イオンの含有量を高め、磁歪量を正にすることができる。
【0036】
さらに、体積固有抵抗値を高めるために、必要に応じてCaO、ZrO2 をそれぞれ0〜1重量部の範囲で含有することもできる。
【0037】
また、これら以外の添加成分として、0〜5重量部のBi2 O3 を加えると焼結性を向上させることができる。さらに、その他に、MnOを0.15重量部以下、Al2 O3 、MgO、K2 O、S、P2 O5 を各々0.05重量部以下の範囲で含んでいても良い。
【0038】
【実施例】
実施例1
以下本発明の実施例を説明する。
【0039】
55モル%のFe2 O3 、30モル%のNiO、15モル%のZnOからなる主成分を振動ミルにて混合、粉砕し、800〜900℃で仮焼をおこない得られた仮焼分体に、表1に示すような異なる量のSiO2 等の添加剤を添加した後、ボールミルにて再び混合粉砕し、バインダーを加えて造粒を行った。得られた原料を成形し、所定の焼成プロセスにて950〜1250℃で焼成し、3×3×15mmの角柱状体の試料を得た。
【0040】
この試料に対し、前述したイオンクロマトグラフィー法によって、Fe2+の含有量を測定するとともに、試料に直径0.2mmの被覆銅線を巻いて、50kgの荷重を加えた時のインダクタンスLの変化率ΔL/LをLCRメータで測定し、磁歪量とした。
【0041】
結果を表1に示す。この結果より、添加成分としてSiO2 量を多くすれば、4価のSi4+の存在によってFe2+の含有量を増加でき、これにしたがって磁歪量が増加することがわかる。そして、Fe2+の含有量を3モル%以上にすると(No.5〜7)磁歪量が負から正に転じ、求める特性を持ったフェライト材料が得られることがわかる。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例2
次に、上記と同様の主成分を用い、添加剤としてさらに表2に示すような異なる量のCaO、ZrO2 を加え、上記と同様の製造方法で、トロイダルコア及び上記と同じ3×3×15mmの角柱状体の試料を得た。
この角柱状体の試料に対し、前述したイオンクロマトグラフィー法によって、Fe2+の含有量を測定するとともに、試料に直径0.2mmの被覆銅線を巻いて、50kgの荷重を加えた時のインダクタンスLの変化率ΔL/LをLCRメータで測定し、磁歪量とした。また、三端子法によって体積固有抵抗値を測定した。
【0044】
さらに、トロイダルコアの試料に直径0.2mmの被覆銅線を7回巻いて、30MHzでのQ値、100kHzでの透磁率μを測定した。
【0045】
これらの結果を表2に示す。この結果より、上記実施例と同様に、Fe2+の含有量を多くするほど磁歪量が増加し、特にFe2+の含有量を3モル%以上にすると磁歪量が負から正に転じることがわかる。ただし、Fe2+含有量を多くするとQ値が低下する傾向があり、10モル%をこえたもの(No.12〜15)ではQ値が低すぎるために、チップインダクタとしては不適当なものであった。
【0046】
また、CaO、ZrO2 等の成分を添加して体積固有抵抗を大きくすればQ値を向上することができ、特に体積固有抵抗108 Ω・cm(100MΩ・cm)以上とすれば、Q値を20以上と高くできることも確認された。
【0047】
【表2】
【0048】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、Fe,Ni,Znの酸化物を主成分とするフェライト材料において、Fe2+イオンを3モル%以上含有させることによって、磁歪量を正として、圧力と磁歪量の関係を可逆的にし、相関関係を一定にすることができる。また、上記範囲内でFe2+イオン含有量を調整することによって、自由に所定の磁歪量をもったフェライト材料を得ることができる。
【0049】
また、本発明によれば、上記フェライト材料により圧力検出素子を形成し、該圧力検出素子に圧力を伝達する手段と、圧力検出素子の磁歪量を検出する手段から圧力センサを構成したことによって、高精度の圧力センサを得ることができる。
【0050】
さらに、本発明によれば、上記フェライト材料によりコアを形成し、該コアに巻線を施してチップインダクタを構成したことによって、樹脂モールド時にインダクタンスの変動が小さく、また変動量が不安定となることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフェライト材料を用いた圧力センサを示す概略図である。
【図2】本発明のフェライト材料を用いたチップインダクタ用のコアを示す斜視図である。
【符号の説明】
1:圧力検出素子
2:巻線
3:基体
4:荷重受部材
5:磁歪量検出手段
6:解析部
11:コア
11a:中央部
11b:フランジ部
Claims (3)
- Fe,Ni,Znの酸化物を主成分とし、上記主成分100重量部に対し、0.5〜10重量部のSiO 2 、0.1〜5重量部のTiO 2 、0.1〜5重量部のSnO 2 のいずれか一種以上を含有し、かつCaO、ZrO 2 をそれぞれ1重量部以下の範囲で含有するとともに、Fe2+イオンを3モル%以上含有することを特徴とするフェライト材料。
- 請求項1記載のフェライト材料により圧力検出素子を形成し、該圧力検出素子に圧力を伝達する手段と、圧力検出素子の磁歪量を検出する手段を有する圧力センサ。
- 請求項1記載のフェライト材料によりコアを形成し、該コアに巻線を施して成るチップインダクタ。
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JP04679897A JP3652050B2 (ja) | 1997-02-28 | 1997-02-28 | フェライト材料及びこれを用いた圧力センサ並びにチップインダクタ |
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JPH10245264A JPH10245264A (ja) | 1998-09-14 |
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JP04679897A Expired - Fee Related JP3652050B2 (ja) | 1997-02-28 | 1997-02-28 | フェライト材料及びこれを用いた圧力センサ並びにチップインダクタ |
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- 1997-02-28 JP JP04679897A patent/JP3652050B2/ja not_active Expired - Fee Related
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