JP3646538B2 - 加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車車体などに用いられる、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板(合金化したものを含む)の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用の鋼板には、一般に、耐食性と加工性が必要であるため、種々の表面処理鋼板が用いられている。その中でも、溶融亜鉛めっき鋼板は、高度な耐食性を有しているとともに、再結晶焼鈍および亜鉛めっきを同一ラインで処理できる連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)により、極めて安価に製造できるという利点を具えている。また、前記亜鉛めっきの後、直ちに加熱して合金化処理を行った溶融亜鉛めっき鋼板は、とりわけ耐食性に優れ、溶接性やプレス成形性にも優れている。
一方、近年、地球環境の改善を目指した燃費向上のための自動車の軽量化が迫られ、また、安全性向上のための衝突時の安全規制の強化が要請されるようになって、溶融亜鉛めっき鋼板にも高強度化(高張力化)が必要になってきた。
【0003】
ところで、高張力鋼板には種々の強化機構を利用したものが開発されているが、中でも、自動車の耐衝突特性に優れた鋼板として複合組織鋼板が挙げられる。複合組織鋼板は、フェライト相に、第2相として、主にマルテンサイト相を複合させた鋼板であり、この硬質な第2相を分散させることによって、組織強化による高強度化を図ったものである。
複合組織鋼板の一般的な製造方法は、低炭素鋼板にMnなどの合金元素を添加し、フェライトとオーステナイトの2相領域に加熱したのち、冷却し、オーステナイト相をマルテンサイトに低温変態させるものである。このマルテンサイト変態時に、マルテンサイトの周囲のフェライトに可動転位が導入され、降伏比(YR=降伏強さ/引張強さ)が低くなる。このように降伏比が低い材料は、プレス成形時のしわの発生が抑えられ、プレス成形に有利となる。また、複合組織鋼板には、加工硬化(n値)が高く、均一伸びが高いという利点もある。
【0004】
上述した2相域焼鈍において、オーステナイト相をマルテンサイト相に変態させるためには、合金元素の添加が必要である。例えば、特開昭57−152421号公報には、焼鈍後の冷却速度に応じて合金元素の添加量を規定する技術が提案されている。この開示技術のように、焼き入れ性を向上させるためには、Mn、Mo、Crなどの合金元素を添加する必要がある。
ここで、Moはめっき性への影響が小さいものの、コストアップを招き、多量に添加することは難しい。このため、高強度化を図るための合金添加は、主としてMnあるいはCrを添加することによって対処していた。
【0005】
しかし、このMn、Crは、一般に、焼鈍の過程で鋼板の表面に濃化して (表面濃化層の形成) 、めっき性、とくに溶融亜鉛めっきする際の濡れ性を悪くすることが知られており、これらの点から、極力低減することが望ましい元素であるといえる。一方、溶融亜鉛めっき後に合金化処理する際の冷却速度は、通常の連続焼鈍ラインの場合に比べて遅くなり、マルテンサイトを確保するためには、より多くの合金元素の添加が避けられなくなるという側面がある。このため、溶融亜鉛めっき後、合金化処理した溶融亜鉛めっき高張力鋼板で、低降伏比の特性が得られる程度に合金元素を添加すると、他方では、不めっきが発生し、外観を問題視する自動車用の部品への適用が困難になるという問題があった。
【0006】
これらの問題に対する従来の方策としては、めっき濡れ性の改善について、例えば、鋼板をCGLに導入するに先立って、電気めっきを行う方法(特開平2−194156号公報)、クラッド法によりSi、Mnなどの含有量の少ない組成の鋼を表層にする方法(特開平3−199363号公報)が提案されている。しかし、これらの方法では、コストがかかり生産性も悪い工程を新たに経る必要が生じるなどの問題がある。
【0007】
また、めっき性を改善する方法として、特開平7−70723 号公報に、一旦焼鈍した後、表面に濃化した元素を酸洗除去し、これをCGLにて加熱、めっきする方法が開示されている。ここで、CGLでの焼鈍時の表面濃化を防止するための温度は、再結晶温度−30℃が望ましいとしている。しかしながら、この焼鈍温度は複合組織鋼板の材質特性を確保するには適さず、降伏強度が上昇したり、合金元素の多量添加に伴うコストアップを招くという問題があった。他方、十分複合組織とするために変態点以上で焼鈍すると、合金元素の表面への再濃化が早まり、十分なめっき品質を安定して得ることは困難であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、溶融亜鉛めっき高張力鋼板を製造するに当たって、従来の既知技術では、不めっきの発生、密着性の低下、降伏比の上昇(加工性の低下)などを招き、また、過度の合金添加や新たな附帯設備の増設などに伴って、生産性の低下やコストの上昇をもたらしていた。
本発明は、このような従来技術が抱えていた上記問題を解消し、溶融亜鉛めっき高張力鋼板の新規な製造方法を提案することを目的とする。
また、本発明の目的は、とくに不めっきがなく、密着性に優れ、しかも降伏比が低く、良好な加工性を有する溶融亜鉛めっき高張力鋼板の新規な製造方法を提案することにある。
さらに、本発明の他の目的は、具体的な特性として、引張強さが380 〜1000MPa、とりわけ440 〜580 MPaで、降伏比が55%以下を満たし、めっき性がよい溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法を提案することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、めっき性と加工性を両立させるための溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について、鋭意研究した。その結果、合金元素を適正に添加したうえ、あらかじめ高温処理によって表面直下に内部酸化層を形成させることによって鋼板表面における濃化を抑制し、かつ、所望の複合組織を得るために適した、熱処理工程を採用することによって、上記の目的を達成できるとの知見を得て本発明を完成するに至った。その要旨構成は以下のとおりである。
【0010】
(1) C:0.005 〜0.15wt%、 Mn:0.3 〜3.0 wt%、
を含有する鋼素材を熱間圧延したのち、熱間圧延後の冷却時にまたは冷却後に再加熱して下記 (1)式の条件で高温保持し、その後、表面の酸化スケールを除去し、次いで連続圧延した後、Ac1変態点〜Ac3変態点の温度範囲に加熱し、この加熱温度から少なくともめっき浴温度までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却して、必要に応じて (すなわち、前記冷却においてめっき浴温度未満まで鋼板を冷却した場合は) 少なくともめっき浴温度まで加熱し、次いで (前記めっき浴温度までの加熱の有無にかかわらず) 溶融亜鉛めっきを施し、引き続き300 ℃までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却することを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法。
記
T+112 log t≧ 1054 …………… (1)
B≦0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50 ……… (2)
B>0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20 ……… (3)
ただし、T:保持温度(℃)
t:保持時間(sec)
CR:臨界冷却速度(℃/sec)
【0011】
(2) C:0.005 〜0.15wt%、 Mn:0.3 〜3.0 wt%、
を含有する鋼素材を熱間圧延したのち、熱間圧延後の冷却時にまたは冷却後に再加熱して下記 (1)式の条件で高温保持し、その後、表面の酸化スケールを除去し、次いで冷間圧延後、Ac1変態点〜Ac3変態点の温度範囲に加熱し、この加熱温度から少なくともめっき浴温度までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却して、必要に応じて (すなわち、前記冷却においてめっき浴温度未満まで鋼板を冷却した場合は) 少なくともめっき浴温度まで加熱し、次いで (前記めっき浴温度までの加熱の有無にかかわらず) 溶融亜鉛めっきを施し、さらに、合金化処理を行い、引き続き300 ℃までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却することを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法。
記
T+112 log t≧ 1054 …………… (1)
B≦0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50 ……… (2)
B>0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20 ……… (3)
ただし、T:保持温度(℃)
t:保持時間(sec)
CR:臨界冷却速度(℃/sec)
【0012】
(3) 上記 (1)または (2)において、鋼素材の成分組成が、
C:0.005 〜0.15wtwt%、 Mn:0.3 〜3.0 wt%
を含み、かつ
Mo:0.05〜1.0 wt%、Si:0.05〜0.5 wt%、
Cr:0.05〜1.0 wt%、P:0.02〜0.1 wt%、
B:0.0003〜0.01wt%、Ni:0.05〜1.5 wt%、
Cu:0.05〜1.5 wt%、Nb:0.3 wt%以下、
Ti:0.3 wt%以下、およびV:0.3 wt%以下
から選ばれるいずれか1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的からなることを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法。
【0013】
なお、上記の熱間圧延後の冷却時に、または冷却後に再加熱して行う高温保持は、熱間圧延後の冷却時と冷却後の再加熱の両方によって行ってもよい。この場合、保持時間tは両保持処理の時間を加算するものとする。
また、高温保持に際しては、50℃程度の温度変化は許容するものとし、したがって、徐冷、徐加熱も含まれる。なお、温度Tは、保持処理における平均温度とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の成分組成を上記範囲に限定理由したについて説明する。
C:0.005 〜0.15wt%
Cは、第2相をマルテンサイト化し、また、そのマルテンサイト相の強度を確保するために必要な元素である。C量が0.005 wt%未満では、マルテンサイト化しにくく、複合組織を安定して得ることが困難となる。一方、0.15wt%を超えるとマルテンサイトへの変態温度が低下し、マルテンサイト化しにくくなる。このため、C量は0.005 〜0.15wt%、好ましくは0.02〜0.10wt%とする。
【0015】
Mn:0.3 〜3.0 wt
Mnは、焼き入れ性を向上させる元素として有効な元素であり、安定した複合組織を得るためには、少なくとも0.3 wt%は必要である。一方、Mn含有量が3.0 wt%を超えると、加工性が低下し、また、めっき性が本発明工程によっても改善できなくなる。このため、Mn量は、0.3 〜3.0 wt%、好ましくは 1.0〜2.4 wt%とする。
【0016】
本発明の鋼板は、上記組成を基本成分として、残部はFeおよび不可避的不純物とすればよい。
以上の基本成分に加えて、高張力鋼板のさらなる強度、加工性等の材質改善のために、焼入性改善元素としてMo, Si, Cr, P, B, Ni, Cuの1種以上を、また、局部延性改善元素としてTi, Nb, Vの1種以上を、それぞれ添加してもよい。とくにMoの添加は、強度・加工性・めっき性の両立の観点から、とくに好ましい。
【0017】
Mo:0.05〜1.0 wt%
Moは、焼き入れ性を向上させるが、めっき性への悪影響が少ないので、強度確保の上で極めて有用な元素である。このような効果を発揮させるためには、0.05wt%以上の添加が必要である。一方、1.0 wt%を超えると、合金化の遅延を招くほか、コスト上昇にもつながるので、Mo量は0.05〜1.0 wt%、好ましくは0.10〜0.50wt%の範囲で添加する。
【0018】
Si:0.05〜0.5 wt%
Siは、鋼の強化と強度−伸びバランスの向上に有用な元素である。その効果は0.05wt%以上の添加で得られるが、0.5 wt%を超えて添加すると、めっき性、とくに濡れ性を阻害する。このため、Si量は0.05〜0.5 wt%とする。
【0019】
Cr:0.05〜1.0 wt%
Crは、マルテンサイト化を促進するとともに、マルテンサイトの分布状態を制御し、低降伏比化に有利な元素である。この効果は0.05wt%以上の添加で発現するが、1.0 wt%を超えて添加すると濡れ性を阻害する。よって、Cr量は、0.05〜1.0 wt%の範囲で添加する。
【0020】
P:0.02〜0.1 wt%
Pは、強度向上のほか、伸びやr値の改善に有効な元素である。これらの効果は0.02wt%以上で得られるが、0.1 wt%を超えると加工性の低下、靭性の低下をもたらすので、0.02〜0.1 wt%の範囲で添加する。
【0021】
B:0.0003〜0.01wt%
Bは、焼き入れ性を向上するほか、伸びの改善に有効な元素である。この効果は0.0003wt%以上で得られるが、0.01wt%%を超えて添加すると析出による加工性の低下をきたす。よって、Bは0.0003〜0.01wt%の範囲で添加する。
【0022】
Ni:0.05〜1.5 wt%
Niは、焼き入れ性の向上に有効であり、めっき性への悪影響が少ない元素であるが、1.5 wt%を超えて添加すると伸びなどの加工特性を低下させるので、Ni量は0.05〜1.5 wt%の範囲とする。
【0023】
Cu:0.05〜1.5 wt%
Cuは、焼き入れ性を向上させる元素である。この効果を発揮させるためには、0.005 wt%以上の添加を必要とするが、1.5 wt%を超えて添加すると、熱間圧延におけるスケール疵の原因になりやすいので、0.05〜1.5 wt%の範囲で添加する。
【0024】
Nb:0.3 wt%以下, Ti:0.3 wt%以下, V:0.3 wt%以下
Nb, Ti, Vは、微細な炭化物をフェライトに析出させることによりフェライトの強度を上昇させ、伸び, フランジ性などの局部延性を向上させるのに有効な元素である。但し、0.3 wt%超の添加は、析出物が多くなりすぎて、伸びの低下を招くので、0.3 wt%以下が適する。
なお、Nb、TiおよびVの3元素は、同等の効果をもち、0.3 wt%超の添加は伸びの低下を招くので、合計量(Nb+Ti+V量)で0.3 wt%以下の範囲で添加するのが望ましい。
【0025】
次に、溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造条件について説明する。
上述した成分を有するスラブをそのまま、または再可熱を行ったあと、熱間圧延を行う。熱間圧延は、オーステナイト域で終了させることが好ましい。熱間圧延後、そのまま、または一旦冷却後再加熱して高温保持し、鋼板に内部酸化層を形成させる。
なお、内部酸化層とは、Mn酸化物、Mn−Fe複合酸化物等を通常主体とする酸化物が集中的に析出している、鋼板表面直下の帯状の領域を指す。この帯状の領域は通常、鋼板表面より役3μm程度の深さから役30μm程度の深さにかけて形成される。なお、内部酸化層を形成する個々の酸化物は、主として粒界に析出している。
上記の内部酸化層は、以下の機構により形成されるものと考えられる。表面に酸化スケール層を有する鋼板を高温で保持すると、酸化スケールと地鉄の界面においては酸素の供給不足のため一部の酸化スケール層は分解して酸素を発生する。この酸素の一部は鋼板内部へ移動し、そこで表面付近に移動してきたMn、Cr等の濃化元素との間に酸化物を形成する。なお、上記還元反応により地鉄界面も酸化スケール層側に若干移動すると思われ、その結果、上記Mn、Cr等の酸化物は地鉄最表面ではなく表面直下に残されるものと考えられる。
【0026】
鋼板に内部酸化相を形成させるためには、T+112 log t≧ 1054 (ただし、T:保持温度(℃)、t:保持時間(sec))の条件で高温保持する必要がある。高温保持の具体的方法は、鋼素材を熱間圧延した後の冷却過程で行っても、あるいは、熱延板を再加熱して行っても、いずれの段階であってもよいが、保持温度と時間は上記式を満たしている必要がある。なお、T+112 log tの上限は、異常粒成長防止のうえから、1500以下に止めるのが望ましい。
【0027】
その後、鋼板表面の酸化スケールを除去する。このとき、内部酸化層は残す必要があるが、酸洗等の通常の工業的除去手段であれば、内部酸化層は鋼板表層部直下に残る。そして酸洗後、めっき前に、連続溶融亜鉛めっきラインで加熱すると、SiやMnなどの合金元素は、粒界にそって表面に濃化しようとするが、上記内部酸化層にトラップされて表面には移動できない。一方、鋼板表面では、還元雰囲気により、還元されたFe層が形成され、めっき性に好ましい表面状態になる。
【0028】
なお、上記条件で高温保持する理由は、内部酸化層を形成するため以外に、複合組織を理想的に形成するためでもある。すなわち、事前の高温保持により一旦、フェライトと第2相との複合組織となし、めっき前加熱 (焼鈍) の際に第2相にさらに合金元素を濃化させることにより、フェライトおよび第2相が、より安定して形成される。加熱冷却後に、最終製品と同じ複合組織が得られればもちろんよいが、そうでなくとも、少なくとも合金元素が粒界の3重点付近に濃化するため、最終製品での安定した複合組織の形成が得られる。
【0029】
酸洗処理に続いて、冷間圧延を施して製品厚みに応じた所定の厚みとし、連続溶融亜鉛めっきラインにて、Ac1変態点〜Ac3変態点の2相域温度に加熱する。連続溶融亜鉛めっきラインの還元雰囲気中で加熱(焼鈍)することによって、前述したように、鋼板表面にはFe相が形成されるとともに、合金元素がさらに第2相つまりγ相へと濃化する。そして、この濃化部分は、その後に所定速度で冷却したとき、マルテンサイト相となって複合組織の形成に寄与する。ここでいう合金元素とは、Mn、Moなどの置換型の合金元素であり、前述した高温保持やCGLでの加熱(焼鈍)の温度域では、比較的拡散しにくい元素をいう。これらの合金元素は、かかる温度域における加熱を繰り返すことによって、より局所的に濃化する。
【0030】
次に、この加熱温度から少なくともめっき浴温度(通常、 550〜450 ℃)までの温度域を、B含有量に応じて下記式で表される臨界冷却速度CR(℃/sec)以上の速度で冷却する。
B≦0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50
B>0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20
上記各式で冷却することによって、合金元素の濃化部はマルテンサイトに変態し、降伏比が低い複合組織鋼板を製造できる。なお、上式は、合金元素の含有量により、冷却過程でのパーライトの晶出曲線が変化するため、パーライトノーズにかからないよう合金元素の量に応じて冷却速度を制御しなければならないことを意味している。
【0031】
上記の冷却はめっき浴温度で終えて、そのまま溶融亜鉛めっきを施してもよい。また、めっき浴温度未満まで冷却した後、少なくともめっき浴温度まで加熱して溶融亜鉛めっきを施してもよい。
溶融亜鉛めっきを施した後、めっき温度から (さらに合金化処理を行う場合には、合金化処理温度(通常、 470℃〜Ac1)から) 300 ℃までの温度域をも、上述した方法と同様にして、B含有量に応じて上記で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却する。すなわち、
B≦0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50
B>0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20
冷却速度が上記速度より小さいと、オーステナイト相がマルテンサイトになる前にベイナイト変態してしまい、製品の降伏比が上昇する。
【0032】
【実施例】
以下に、実施例に基づき本発明について説明する。
表1に示す組成の鋼スラブを、1150℃に加熱したのち、仕上げ温度 900〜 850℃で熱問圧延した。この熱延板を酸洗したあと冷間圧延したものに、連続溶融亜鉛めっきラインにて、焼鈍、めっきを行い溶融亜鉛めっき鋼板とした。また、めっき後さらに合金化処理を行ったものも製造した。これらの工程における、高温保持、めっき前加熱(焼鈍)、めっき、合金化などの処理条件を、表2および以下に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
・高温保持 雰囲気:大気中 (コイル)
・めっき前加熱(焼鈍)
雰囲気:5%H2 +N2 ガス(露点−20℃)
・酸化スケールの除去
塩酸酸洗(濃度:5%HCl の水溶液)
温度:60℃
浸漬時間:6秒
・めっき
めっき浴のAl濃度:0.13wt%
浴温:475 ℃
板温:475 ℃
浸漬時間:3秒
目付け量:45g/m2
なお、表2中、No.13 の鋼は、めっき前加熱後 400℃まで冷却し、その後 475℃まで加熱しめっきを施した。他の鋼は、めっき前加熱後 475℃まで冷却し、そのままめっきを施した。
・合金化
処理温度: 470〜550 ℃
合金化後のFe濃度目標:10wt% (X線を使ったオンライン制御を行った)
【0036】
得られた供試鋼板について、引張特性(YS,TS,El,YEl,YR)、めっき性(不めっき)およびパウダリング性を調査した。
・めっき性およびパウダリング性の評価方法
不めっき欠陥の判定は、目視により、不めっき欠陥が全くないものを「1」、もっとも不めっきの多いものを「5」とする5段階で評価した。耐パウダリング性は90°曲げ戻しの後、セロテープに付着した亜鉛粉を蛍光X線にて測定した。
蛍光X線は、亜鉛粉の亜鉛の蛍光X線を計数管で2分カウントした。セロテープにうっすらと亜鉛粉が付着した状態が2000cps であり、2500cps 以下であれば自動車などのプレス成形に耐えうるものとなる。
これらの測定結果を合わせて表2に示す。なお、めっき層中Fe含有量は、硫酸にてめっき層を溶解し、原子吸光にて測定した。
【0037】
表2から、本発明によって製造した溶融亜鉛めっき高張力鋼板は、いずれも、合金化処理の有無にかかわらず、めっき性、耐パウダリング性が良好であるとともに、55.0%以下の低降伏比であることがわかる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、表面濃化層の除去、内部酸化層の形成、複合組織の形成が有効に作用して、優れためっき性と耐パウダリング性、低降伏比を共に満たした、溶融亜鉛めっき高張力鋼板を提供することが可能になる。したがって、本発明は、耐食性と加工性が求められる自動車の車体などの品質向上や生産性の向上に寄与するところが極めて大きい。
Claims (3)
- C:0.005 〜0.15wt%、
Mn:0.3 〜3.0 wt%、
を含有する鋼素材を熱間圧延したのち、熱間圧延後の冷却時に、または冷却後に再加熱して、下記 (1)式の条件で高温保持し、その後、表面の酸化スケールを除去し、次いで冷間圧延し、Ac1変態点〜Ac3変態点の温度範囲に加熱し、この加熱温度から少なくともめっき浴温度までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却して、必要に応じて少なくともめっき浴温度まで加熱し、次いで溶融亜鉛めっきを施し、引き続き300 ℃までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却することを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法。
記
T+112 log t≧ 1054 …………… (1)
B≦0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50 ……… (2)
B>0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20 ……… (3)
ただし、T:保持温度(℃)
t:保持時間(sec)
CR:臨界冷却速度(℃/sec) - C:0.005 〜0.15wt%、
Mn:0.3 〜3.0 wt%、
を含有する鋼素材を熱間圧延したのち、熱間圧延後の冷却時に、または冷却後に再加熱して、下記 (1)式の条件で高温保持し、その後、表面の酸化スケールを除去し、次いで冷間圧延し、Ac1変態点〜Ac3変態点の温度範囲に加熱し、この加熱温度から少なくともめっき浴温度までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却して、必要に応じて少なくともめっき浴温度まで加熱し、次いで溶融亜鉛めっきを施し、さらに、合金化処理を行い、引き続き300 ℃までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却することを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法。
記
T+112 log t≧ 1054 …………… (1)
B≦0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50 ……… (2)
B>0.0006wt%のとき、
log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20 ……… (3)
ただし、T:保持温度(℃)
t:保持時間(sec)
CR:臨界冷却速度(℃/sec) - 請求項1または請求項2において、鋼素材の成分組成が、
C:0.005 〜0.15wt%、
Mn:0.3 〜3.0 wt%
を含み、かつ
Mo:0.05〜1.0 wt%、
Si:0.05〜0.5 wt%、
Cr:0.05〜1.0 wt%、
P:0.02〜0.1 wt%、
B:0.0003〜0.01wt%、
Ni:0.05〜1.5 wt%、
Cu:0.05〜1.5 wt%、
Nb:0.3 wt%以下、
Ti:0.3 wt%以下、および
V:0.3 wt%以下
から選ばれるいずれか1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的からなることを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法。
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