JP3571757B2 - 義足 - Google Patents

Description

【０００１】
【産業上の利用分野】
この発明は、下肢切断者が用いる義足に関するものであって，更に詳細には、歩行時における下腿部材の動きを流体圧シリンダにより制御する義足に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
下肢切断者の断端（大腿）が装着されるソケットに下腿部材を揺動自在に枢支して構成された義足では、義足歩行時において下腿部材に正常歩行に近い動きを与える必要がある。この要請に応えるものとして、ソケットと下腿部材とをエアシリンダにより連結し、該エアシリンダの空圧制御により下腿部材に正常歩行に近い動きを与えるようにしたものが、特公昭５２−４７６３８号公報に提案されている。この公報に開示されるエアシリンダは、シリンダ本体のヘッド側を下腿部材に揺動自在に枢支すると共に、本体内に摺動自在に配設したピストンに連結されたピストンロッドの先端をソケットに揺動自在に枢支している。また前記ピストンには、該ピストンにより画成されるヘッド側空気室とロッド側空気室とを連通する通孔を穿設すると共に、該通孔の絞り調整を行う針弁をピストンロッドに穿設した中空部に摺動自在に配設している。そして、針弁に接続して外部に露出する調整ねじにより針弁を介して通孔の絞り調整を行うことにより、通孔を流通する空気の流動抵抗を可変して、下腿部材の屈曲時には動作を緩慢にし、伸展時には動作を急速にして正常歩行に近い動きを与えるものである。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
前記義足に配設されるエアシリンダは、前記ピストンやピストンロッドに通孔や中空部を穿設したり針弁を挿通する必要があり、構造が極めて複雑となって加工コストが嵩むと共に、故障等が発生し易くなる等の問題があった。しかも故障が発生した場合には、その修理が煩雑となる欠点も指摘される。また、針弁等は耐久性の観点から金属材料で構成されるので、部品点数が増えることも相まって義足自体の重量が嵩み、義足装着者の負担が大きくなる問題がある。更に、針弁を使用しているため、該針弁が配設される前記中空部側からの空気の洩れを防止するためにＯリング等のパッキングが必要となり、部品点数が多くなってコストが嵩む難点もあった。
【０００４】
本発明は、前述した従来技術に内在している前記欠点に鑑み、これを好適に解決するべく提案されたものであって、軽量で構造の簡単な義足を提供することを目的とする。
【０００５】
【課題を解決するための手段】
前述した課題を克服し、所期の目的を好適に達成するため本発明は、中空に形成した下腿部材の上部に膝関接部材が揺動自在に枢支されると共に、下腿部材の内部下方にヘッド側を揺動自在に枢支した流体圧シリンダのピストンロッドを前記膝関接部材に揺動自在に枢支した義足であって、
前記流体圧シリンダのヘッド側およびロッド側に夫々形成した出口ポートおよび入口ポートと、
前記ヘッド側およびロッド側の各入口ポートと対応するシリンダ本体内に配設した逆止弁と、
前記ヘッド側の出口ポートとロッド側の入口ポートとを連通接続する弾性変形可能な第１チューブと、
前記ロッド側の出口ポートとヘッド側の入口ポートとを連通接続する弾性変形可能な第２チューブと、
前記シリンダ本体に配設され、前記第１チューブを弾性変形させて絞り調整を行う第１調整手段と、
前記シリンダ本体に配設され、前記第２チューブを弾性変形させて絞り調整を行う第２調整手段とを備えたことを特徴とする。
また、前記第１及び第２調整手段は、それぞれ先端部がチューブを押圧する調整ねじからなり、該調整ねじはチューブに対して垂直ではなく傾斜して設けることができる。
【０００６】
【作用】
流体圧シリンダのヘッド側の出口ポートとロッド側の入口ポートとを連通接続する弾性変形可能な第１チューブを、第１調整手段により弾性変形させ、該第１チューブを流通する流体の流動抵抗を大きくすると、ヘッド側からロッド側への流体の流れは遅くなり、下腿部材と膝関接部材との相対的な揺動は緩慢に行われる。また第１チューブを弾性変形させない状態では、ヘッド側からロッド側への流体の流れは速くなり、下腿部材と膝関接部材との相対的な揺動は急速に行われる。同様に第２チューブを第２調整手段により弾性変形させて流体の流動抵抗を大きくすると、ロッド側からヘッド側への流体の流れは遅くなり、下腿部材と膝関接部材との相対的な揺動は緩慢に行われ、第２チューブを弾性変形させない状態では、ロッド側からヘッド側への流体の流れは速くなり、下腿部材と膝関接部材との相対的な揺動は急速に行われる。
また、調整手段を調整ねじで構成し、調整ねじはチューブに対して垂直ではなく傾斜して設けることにより、調整ねじ１回転当たりのチューブの変形量が小さくなり、流動抵抗の微調整が可能になる。このため、下腿部材と膝関接部材との相対的な揺動の微妙な調整が可能になる。
【０００７】
【実施例】
次に、本発明に係る義足につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【０００８】
図１は、実施例に係る義足１０の概略斜視図であって、下腿に類似する形状に形成された中空の下腿部材１２の上部には、膝関接部材１４が揺動自在に枢支され、この膝関接部材１４に、下肢切断者の大腿が装着されるソケット１６が配設されるようになっている。また下腿部材１２の下部には、別部品で構成される下腿パイプ１７、足継手１８、足部１９が着脱自在に配設される。
【０００９】
前記膝関接部材１４は、図４に示す如く、下腿部材１２の内部に収納可能な幅寸法に設定されると共に、その幅方向に穿設した通孔１４ａに膝軸２０が回転自在に挿通され、この膝軸２０の軸方向両端に、下腿部材１２の外側からカラー２２が夫々嵌挿されている。また各カラー２２に挿通したねじ２４が、膝軸２０の軸心に形成したねじ孔２０ａに螺着されて、該膝軸２０は下腿部材１２に固定される。すなわち、膝関接部材１４は、膝軸２０を中心として揺動するよう構成される。なお、膝関接部材１４の幅方向両端と下腿部材１２の内側面との間に、膝軸２０に外嵌した樹脂材質のスペーサ２６，２６が配設され、膝関接部材１４が常に定位置で揺動するようになっている。
【００１０】
前記膝関接部材１４の幅方向中央に、図２および図３に示す如く、下方に開放する溝部１４ｂが形成され、この溝部１４ｂに、前記膝軸２０を挟んで一方の端部がピン２８を介して揺動自在に枢支された膝ガード３０の他端部が、ねじ３２を介して膝関接部材１４に螺着されるようになっている。この膝ガード３０の上面には、膝軸２０の外周に沿う弧状凹部３０ａが形成され、該弧状凹部３０ａと膝関接部材１４の溝部１４ｂと対応する通孔部分とにより膝軸２０を挟持するよう構成される。すなわち、前記ねじ３２の締付け状態を調整することにより、膝関接部材１４が膝軸２０を中心として揺動する際に所要の摩擦抵抗を与えることができるようになっている。なお、膝ガード３０は、図６に示す義足１０の膝屈曲時において下腿部材１２の上方に突出し、図示しない外装カバーが下腿部材１２と膝関接部材１４との間に挟み込まれるのを防止する機能も兼ねる。
【００１１】
前記下腿部材１２の内部には、エアシリンダ３４のヘッド側が軸３６を介して揺動自在に枢支され、該シリンダ３４のピストンロッド３８は、前記膝関接部材１４の後側に形成した一対の延出部１４ｃ，１４ｃにピン４０を介して揺動自在に枢支されている。このエアシリンダ３４は、円筒状に形成したケーシング４２のヘッド側およびロッド側に、合成樹脂を材質とするカバー４４，４６をねじ止めして本体が構成されて、ヘッド側カバー４４に前記軸３６が挿通される通孔４４ａが穿設されている。
【００１２】
前記エアシリンダ３４は、図３に示す如く、ケーシング４２の内部に摺動自在に配設したピストン４８によりヘッド側空気室５０およびロッド側空気室５２が画成されている。前記ヘッド側カバー４４には、ヘッド側空気室５２と連通する出口ポート５４と入口ポート５６とが、図５に示すように左右に離間して形成されている。またロッド側カバー４６に、ロッド側空気室５２と連通する出口ポート５８と入口ポート６０とが同じく左右に離間して形成されている。そして、ヘッド側カバー４４に形成した出口ポート５４と、ロッド側カバー４６に形成した入口ポート６０とは、図７に示す如く弾性変形可能な可撓性の第１ウレタンチューブ６２により連通接続されている。また、ロッド側カバー４６の出口ポート５８と、ヘッド側カバー４４の入口ポート５６とは、図８に示す如く弾性変形可能な可撓性の第２ウレタンチューブ６４により連通接続されている。前記第１ウレタンチューブ６２は、義足１０が伸展状態から屈曲状態に移行する際に、ヘッド側空気室５０の空気をロッド側空気室５２に流入させるべく機能し、前記第２ウレタンチューブ６４は、義足１０が屈曲状態から伸展状態に移行する際に、ロッド側空気室５２の空気をヘッド側空気室５０に流入させるべく機能する。なお、各入口ポート５６，６０と対応する空気室５０，５２内に、リード逆止弁６６，６８がねじ７０，７０（一方のみ図示）を介して配設されて、入口ポート５６，６０からの空気の逆流を防止するよう構成されている。
【００１３】
前記ロッド側カバー４６には、図７に示す如く、入口ポート６０に接続される前記第１ウレタンチューブ６２が挿通される通孔４６ａと対応する位置に、該通孔４６ａと連通する第１のねじ孔７２が傾めに穿設されている。この第１のねじ孔７２に、第１調整ねじ７４が螺挿され、その先端７４ａで第１ウレタンチューブ６２を弾性変形させることにより、該チューブ６２を流れる空気の絞り調整を行うよう構成される。またロッド側カバー４６の出口ポート５８に接続される前記第２ウレタンチューブ６４が挿通される通孔４６ｂと対応する位置に、該通孔４６ｂと連通する第２のねじ孔７６が傾めに穿設されている。そしてこの第２のねじ孔７６に、第２調整ねじ７８が螺挿され、その先端７８ａで第２ウレタンチューブ６４を弾性変形させることにより、該チューブ６４を流れる空気の絞り調整を行うよう構成されている。第１調整ねじ７４及び第２調整ねじ７８はそれぞれ第１ウレタンチューブ６２及び第２ウレタンチューブ６４に対して垂直ではなく傾斜して配設されているため、調整ねじ７４、７８の１回転当たりのウレタンチューブ６２、６４の変形量が小さくなり、空気の絞り調整の微調整が可能である。
なお、各調整ねじ７４、７８の先端７４ａ，７８ａは、各ウレタンチューブ６２，６４に傷を付けることのないように略半球状に形成してある。また各調整ねじ７４、７８は、図３に示す義足１０の伸展状態において、操作し易い位置および角度で配設されている。更に、調整ねじ７４、７８はウレタンチューブ６２，６４を弾性変形させるだけのものであるので、合成樹脂等の軽い材料により形成することができ、義足１０の軽量化に寄与し得る。
【００１４】
前記ロッド側カバー４６における通孔４６ａと第１のねじ孔７２との連通部および通孔４６ｂと第２のねじ孔７６との連通部と対応する位置に、通孔４６ａ，４６ｂと垂直に連通する垂直穴４６ｃ，４６ｄが穿設されている。この垂直穴４６ｃ，４６ｄは、調整ねじ７４，７８によるウレタンチューブ６２，６４の弾性変形を確実に行わせるべく機能する。
【００１５】
次に、実施例に係る義足の作用につき説明する。義足装着者が正常歩行を行うには、義足が遊脚相加速期に「蹴り上げの不同」（義足の踏み切り後に義足の踵が健側下肢の踵に比べて高く跳ね上がる状態をいう。時には、逆に義足の踵の跳ね上がりが低いこともある。）が発生してはならない。このためには、筋力、歩行速度、下腿部長さ、足部重さに応じて義足の屈曲抵抗（伸展位→屈曲位）を調節する必要がある。
また、遊脚相終期では「膝のインパクト」（遊脚相中期の終わりに下腿部が急速に前方へ振れ動いてきて、膝が伸びきったとき衝撃を伴って急に停止する状態）を抑え、膝伸展の直後に踵接地するように、伸展抵抗（屈曲位→伸展位）を適切に調節する必要もある。
【００１６】
そこで、若し踏み切り後に義足の踵が高く跳ね上がり過ぎる状態の「蹴り上げの不同」であれば、左側の第１調整ねじ７４（屈曲抵抗調節用）を締めて第１のねじ孔７２にねじ込むことにより、図７に示す如く、その先端７４ａで第１ウレタンチューブ６２を弾性変形させる。これにより、ヘッド側空気室５０からロッド側空気室５２への空気の流動抵抗が大きくなり、義足の屈曲抵抗を増し過度の膝屈曲を防ぐ。図７では屈曲抵抗最大の場合を示している。
【００１７】
これに対して、第２調整ねじ７８による第２ウレタンチューブ６４の弾性変形は僅かにし（図８参照）、ロッド側空気室５２からヘッド側空気室５０への空気の流動抵抗を小さくしておく。図８では伸展抵抗最小の場合を示している。そして、遊脚相終期に「膝のインパクト」があれば、右側の第２調整ねじ７８（伸展抵抗調節用）を締めて第２ウレタンチューブ６４を弾性変形させる。これにより、ロッド側空気室５２からヘッド側空気室５０への空気の流動抵抗が大きくなり、義足の伸展抵抗を増し、スムーズに膝を伸展させる。これにより、自然でスムーズな正常歩行が達成される。
【００１８】
なお、義足１０における伸展から屈曲または屈曲から伸展への開始時に、前記エアシリンダ３４による抵抗だけでは不充分な場合は、前記膝関接部材１４に対して膝ガード３０を螺着するねじ３２の締付け状態を調整すれば、膝関接部材１４の膝軸２０に対する摩擦抵抗が増して、必要な抵抗を付与することができる。また前記エアシリンダ３４による抵抗の調整は、前記調整ねじ７４，７８により簡単に行うことが可能である。しかも伸展抵抗および屈曲抵抗を調整する空気の流路は夫々独立しているので、一方を他方に関係なく独立して調整することができる。
従って、義足を患者に装着し歩いて様子を見ながら、エアシリンダ３４による抵抗が患者の筋力等に合った伸展抵抗および屈曲抵抗となるよう、前記２つの調整ねじ７４，７８を独立して調整することができる。
【００１９】
実施例では流体圧シリンダとしてエアシリンダを挙げて説明したが、油圧シリンダを採用することもできる。
【００２０】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明に係る義足は、チューブを弾性変形させて抵抗の調整を行うよう構成したので、構造が簡単で部品点数を少なくすることができ、軽量化を図って、装着者の負担を軽減することができる。また構造の簡略化に伴って、故障の発生を低く抑えることが可能で、かつメンテナンスも容易となる。更に、製作コストを低く抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の好適な実施例に係る義足の概略斜視図である。
【図２】実施例に係る義足の正面図である。
【図３】実施例に係る義足の縦断側面図である。
【図４】実施例に係る義足を一部縦断して示す背面図である。
【図５】実施例に係る義足に配設されるエアシリンダの正面図である。
【図６】実施例に係る義足の屈曲時における一部破断側面図である。
【図７】実施例に係るエアシリンダを示す縦断側面図である。
【図８】実施例に係るエアシリンダを示す縦断側面図である。
【符号の説明】
１２ 下腿部
１４ 膝関接部材
３４ エアシリンダ
３８ ピストンロッド
５４ 出口ポート
５６ 入口ポート
５８ 出口ポート
６０ 入口ポート
６２ 第１ウレタンチューブ
６４ 第２ウレタンチューブ
６６ リード逆止弁
６８ リード逆止弁
７４ 第１調整ねじ
７８ 第２調整ねじ

Claims (2)

1. 中空に形成した下腿部材（１２）の上部に膝関接部材（１４）が揺動自在に枢支されると共に、下腿部材（１２）の内部下方にヘッド側を揺動自在に枢支した流体圧シリンダ（３４）のピストンロッド（３８）を前記膝関接部材（１４）に揺動自在に枢支した義足であって、
   前記流体圧シリンダ（３４）のヘッド側およびロッド側に夫々形成した出口ポート（５４，５８）および入口ポート（５６，６０）と、
   前記ヘッド側およびロッド側の各入口ポート（５６，６０）と対応するシリンダ本体内に配設した逆止弁（６６，６８）と、
   前記ヘッド側の出口ポート（５４）とロッド側の入口ポート（６０）とを連通接続する弾性変形可能な第１チューブ（６２）と、
   前記ロッド側の出口ポート（５８）とヘッド側の入口ポート（５６）とを連通接続する弾性変形可能な第２チューブ（６４）と、
   前記シリンダ本体に配設され、前記第１チューブ（６２）を弾性変形させて絞り調整を行う第１調整手段（７４）と、
   前記シリンダ本体に配設され、前記第２チューブ（６４）を弾性変形させて絞り調整を行う第２調整手段（７８）とを備えた
   ことを特徴とする義足。
2. 前記第１及び第２調整手段は、それぞれ先端部がチューブ（６２）（６４）を押圧する調整ねじ（７４）（７８）からなり、該調整ねじ（７４）（７８）はチューブ（６２）（６４）に対して垂直ではなく傾斜して設けられていることを特徴とする請求項１記載の義足。

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