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JP2852954B2 - 人工皮膚及びその製造方法 - Google Patents

人工皮膚及びその製造方法

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JP2852954B2
JP2852954B2 JP2039365A JP3936590A JP2852954B2 JP 2852954 B2 JP2852954 B2 JP 2852954B2 JP 2039365 A JP2039365 A JP 2039365A JP 3936590 A JP3936590 A JP 3936590A JP 2852954 B2 JP2852954 B2 JP 2852954B2
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wound covering
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collagen
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JP2039365A
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淳 小西
幹夫 小出
健一 大崎
和仁 池上
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Terumo Corp
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Terumo Corp
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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、人工皮膚およびその製造方法に関する。具
体的には、創傷、熱傷、さらには、蓐瘡、潰瘍、組織欠
損部位等の凡そ皮膚様を呈する組織の再構築・治癒促進
に使用される人工皮膚およびその製造方法に関するもの
である。
[従来の技術] 従来より、熱傷、採皮創および外傷性皮膚欠損層、蓐
瘡等の疾患ないし創傷による患部の保護及び治癒促進の
ための外科的処理として、ガーゼ、脱脂面等が用いられ
ている。
また、それらに代わり創傷被覆材として、膜状、ベロ
アー状の生体適合性を有する人工材料の被覆材や不織布
状、スポンジ状などの生体由来材料の被覆材などもあ
る。
[発明が解決しようとする問題点] 上述のガーゼ、脱脂綿等では、創面の感染、乾燥等を
避けることができないという問題点があり、また、膜
状、ベロアー状の生体適合性を有する人工材料の被覆材
では、水分透過性や密着性等の諸物性に問題があり、不
織布、スポンジ状などの生体由来材料の被覆材では、そ
の抗原性や易感染性などの問題がある。
そこで、本発明の目的は、従来技術の問題点を解決
し、適度な水分透過性や早期の真皮・表皮の再生等の生
体適合性の性質を維持しつつ、感染や石灰沈着、異物性
等の作用が除去された人工皮膚およびその製造方法を提
供するものである。
[問題点を解決するための手段] 上記目的を達成するものは、細胞侵入性材料により形
成された創傷被覆層と、該創傷被覆層の上に設けられた
上部層とからなる、該上部層は、前記創傷被覆層に接触
する部位の少なくとも一部が撥水性物質により被覆され
た生体適合性をを有する高含水ゲル形成性物質薄膜によ
り形成された支持層と、該支持層の創傷被覆層に接触す
る部位とは反対側に形成された水分透過調節層とからな
り、前記創傷被覆層と前記上部層とは分離可能に密着し
ている人工皮膚である。
そして、前記細胞侵入性材料が、線維化コラーゲンと
変性コラーゲンとの複合マトリックス、線維化コラーゲ
ンとムコ多糖類とのマトリックスまたは線維化コラーゲ
ンとアルギン酸とのマトリックスであることが好まし
い。また、前記変性コラーゲンのヘリックス含量は、0
〜80%であることが好ましい。さらに、前記高含水ゲル
形成性物質が、カルボキシメチルセルロース系、アルギ
ン酸塩系、ヒアルロン酸塩系、ポリ(メタ)アクリル酸
塩系、キトサンまたはその誘導体、キチンまたはその誘
導体、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロ
ック共重合体、ポリビニルアルコール系からなる群より
選ばれたものであることが好ましい。そして、前記水分
透過調節層は、水蒸気透過性樹脂薄膜により形成されて
いることが好ましい。さらに、前記水蒸気透過性樹脂薄
膜は、シリコーンエラストマー薄膜またはポリウレタン
エラストマー薄膜であることが好ましい。
また、上記目的を達成するものは、細胞侵入性材料に
より創傷被覆層を形成する工程と、少なくとも一方の面
の一部が撥水性物質により被覆された生体適合性を有す
る高含水ゲル形成性物質薄膜により形成された支持層と
該支持層の他方の面に形成された水分透過調節層とから
なる上部層を形成する工程と、前記工程により形成され
た創傷被覆層と前記上部層の前記支持層とが接触する状
態にて真空下で加熱処理するものである。
そして、前記加熱処理は、前記創傷被覆層の上に前記
上部層を前記支持層が接触するように重ねた状態で行う
ことが好ましい。そして、前記真空下での加熱処理は、
0.05トール以下の真空下で50〜180℃の温度範囲で1〜2
4時間加熱することが好ましい。
また、上記目的を達成するものは、少なくとも一方の
面の一部が撥水性物質により被覆された生体適合性を有
する高含水ゲル形成性物質薄膜により形成された支持層
と該支持層の他方の面に形成された水分透過調節層とか
らなる上部層を形成し、該上部層の支持層を下にして線
維化コラーゲンと変性コラーゲンとの混合状態溶液に接
触させた状態にて凍結乾燥するものである。そこで、本
発明の人工皮膚を図面に示した実施例を用いて説明す
る。
本発明の人工皮膚1は、細胞侵入性材料により形成さ
れた創傷被覆層2と、創傷被覆層2の上に設けられた上
部層3とからなり、上部層3は、創傷被覆層2に接触す
る部位の少なくとも一部が撥水性物質12により被覆され
た生体適合性を有する高含水ゲル形成性物質薄膜により
形成された支持層13と、支持層13の創傷被覆層2に接触
する部位とは反対側に形成された水分透過調節層14とか
らなり、創傷被覆層2と上部層3とは分離可能に密着し
ている。
このため、本発明の人工皮膚1は、創傷被覆層2と上
部層3とを分離可能な不連続層としたため、創傷部治癒
後の人工皮膚(正確には、上部層)剥離時に上部層と生
体組織との癒着等による生体組織の破損することを免れ
ることができる。ここでいう分離可能とは自然による分
離、強制的な分離つまり強制剥離などを含むものであ
る。また、人工皮膚1の中間層が、生体適合性を有し、
かつ生体に不活性である高含水ゲル形成性物質薄膜によ
り形成された支持層13であるため、感染対象とならず、
また、石灰沈着等も起こらない(感染や石灰沈着はコラ
ーゲンなど生体により近い材料、つまり生体に活性を有
する材料に生じる)。さらに、この支持層13は、最下層
である創傷被覆層2がいわゆる「人工真皮」(類似真皮
様組織)を形成するまでの間感染に対する防護層として
機能するとともに、この支持層13は、再生表皮上にあっ
て適度な含水状態を付与することにより表皮形成を促進
し、創傷被覆層2上に早期に表皮層を形成させる。そし
て、創傷被覆層2と上部層3とは、分離可能に密着して
いるとともに、支持層13が生体に不活性な材料により形
成されているので、創傷被覆層2に侵入した生体細胞の
増殖が進行し、上部層3の支持層13の下に表皮細胞が育
成しても、上部層3の支持層13には、生体細胞が侵入し
ないため、自然に上部層3は創傷被覆層2より剥離し、
早期に創傷部位を治癒させることができる。また、使用
態様により、使用前に、創傷被覆層2と上部層3とを強
制剥離させることにより、創傷被覆層2と上部層3(創
傷被覆材として機能する)を別個に使用することも可能
である。よって、本発明の人工皮膚1の適応部位は皮膚
のみに留まらず、「上皮組織」と「結合組織」からなる
あらゆる生体内組織に自由に創傷被覆膜となる上部層3
と人工真皮となる創傷被覆層2とを組み合わせて適用す
ることも可能である。
そこで、本発明の人工皮膚を第1図に示した実施例を
用いて説明する。
この実施例の人工皮膚1は、創傷被覆層2と、この創
傷被覆層2と分離可能に密着した上部層3とからなって
いる。
そして、創傷被覆層2は、細胞侵入性材料により形成
されている。創傷被覆層2は、創面を直接覆ってこれを
柔らかく保護し、痛みを押え、適度の水分を与え、細菌
汚染を防止する機能を有する。さらに、創傷被覆層2
は、細胞侵入性材料からなるので創面に適用された際に
マクロファージや好中球他の炎症性の細胞が侵潤し、そ
して、早期に線維芽細胞に置換され、その結果真皮様の
結合組織が構築され、創傷の治癒を促進する。そして、
創傷被覆層2は、最終的には創傷面に吸収されて消失す
る。創傷被覆層2を構成する細胞侵入性材料としては、
架橋構造を有する線維化コラーゲンとヘリックス含量が
0〜80%である変性コラーゲンとのマトリックス、架橋
構造を有する線維化コラーゲンとムコ多糖類とのマトリ
ックスまたは架橋構造を有する線維化コラーゲンとアル
ギン酸とのマトリックスなどが好適に使用される。
線維化コラーゲンとは分子分散状のアテロコラーゲン
を生理的条件下で中和し再線維化したコラーゲンのこと
であり、変性コラーゲンとは熱的条件、化学的条件を変
化させてアテロコラーゲンのヘリックス部をランダムコ
イル状にしたものである。変性コラーゲンのヘリックス
含量は、0〜80%であることが好ましく、より好ましく
は、20〜60%である。
コラーゲンは生体由来であるため、細胞組織に対する
親和性は大きいが生体内でコラゲナーゼにより容易に分
解・吸収される。しかし、上記のものであれば、物性的
に十分な強度を有するとともに、コラーゲンが有してい
る細胞、組織に対する親和性および細胞侵入性を十分に
維持することができる。コラーゲンの架橋は、常法に従
ってコラーゲンを加熱処理するか架橋剤で処理すること
によって行うことが好ましい。加熱処理による架橋とし
ては、コラーゲンを真空下で110℃に2時間以上保持し
て脱水することにより行うことができる。また、架橋剤
による架橋処理に使用される架橋剤としては、特に制限
はなく、例えば、グルタルアルデヒドのようなアルデヒ
ド系架橋剤、ヘキサメチレンジイソシアネートのような
イソシアネート系架橋剤、1−エチル−3−(3−ジメ
チルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩のようなカ
ルボジド系架橋剤を用いることができ、架橋処理は常法
に従って行うことができる。使用される架橋剤の濃度と
しては、0.01〜5%(w/v)が好ましく、より好ましく
は1〜3%(w/v)であり、この程度の架橋剤濃度で架
橋処理を行うと適当な架橋度のコラーゲンが得られる。
架橋が導入されるコラーゲンは、三重鎖ヘリックスを
有する分散状の水溶性のものでは架橋しても物性があま
り向上しない。そこで、分散状コラーゲンを37℃でリン
酸系の緩衝液を用いて中和処理し、生体内にあるような
周期性線維構造をもつ再構成された線維化コラーゲンの
形にすることが好ましい。これにより架橋処理との相乗
効果で物性が飛躍的に向上する。
他方、ヘリックスが量が0〜80%である変性コラーゲ
ンは、牛真皮由来のコラーゲンを酸またはアルカリ処理
し、得られた三重鎖ヘリックスを有するコラーゲン水溶
液を水の存在下で37〜90℃で加熱することによって得ら
れる。具体的には、60℃で30分間処理するとヘリックス
含量約40%のものが得られる。上記線維化および変性の
ための原料コラーゲンは、酸またはアルカリ処理したコ
ラーゲンをさらにプロテクターゼまたはペプシンにより
その分子末端のテロペプチドを消化除去し、抗原性を無
くしたものとすることが好ましい。
コラーゲンの変性度はヘリックス構造の含量によって
示される。ヘリックス含量とは、コラーゲン特有の三重
鎖ヘリックスの含量を意味し、変性コラーゲンではこの
ヘリックスがランダムコイル化しているためヘリックス
含量が変性度に対応する。このヘリックス含量は円偏光
2色性分光計(CD)や赤外分光光度計(IR)で測定する
ことができる(P.L.Gordon et al.;Macromolecules,1
(6)954(1974))。本発明の変性コラーゲンのヘリ
ックス含量は0〜80%であり、より好ましくは20〜60%
である。
また、線維化コラーゲンとムコ多糖類またはアルギン
酸とのマトリックスを使用する場合のムコ多糖類として
はコンドロイチン硫酸、ヘパリン硫酸、デルマタン硫
酸、ヒアルロン酸、ヘパリンのような酸性ムコ多糖類が
望ましく、特にコンドロイチン硫酸が好ましい。また、
アルギン酸は海藻を希薄な炭酸ナトリウムで煮沸処理し
て得られるものが好適に使用される。
そして、創傷被覆層2は、上述の線維化コラーゲンの
水溶液と、上述の変性コラーゲン、ムコ多糖類またはア
ルギン酸の水溶液を混合し、凍結乾燥することによって
得られる。また、線維化コラーゲンと変性コラーゲンと
のマトリックスは、架橋した線維化コラーゲンの水溶液
を約70〜90℃に加熱することによっても得ることができ
る。
創傷被覆層2の厚さとしては、適応される創傷部の生
体組織の欠損の深さに適合するもが適宜選択され用いら
れるが、一般的には、3〜20mm程度が好ましい。
また、創傷被覆層2は前述したように、コラゲナーゼ
に対する抵抗性を有しているが、被覆材としての機械的
強度が十分ではなく、また最終的には主体と同化してし
まうのでこれを外部刺激から保護するための上部層3が
必要である。
そして、上部層3は、創傷被覆層2に接触する部位の
少なくとも一部が撥水性物質12により被覆された生体適
合性を有する高含水ゲル形成性物質薄膜により形成され
た支持層13と、支持層13の創傷被覆層2に接触する部位
とは反対側に形成された水分透過調節層14とにより構成
されている。支持層13の形成に生体適合性を有するもの
を用いるのは、この支持層13が創傷被覆層2に成育して
きた生体細胞に対する異物反応がほとんどなく、生体細
胞とのなじみを良好にし、さらに、生体からの滲出物に
より支持層が生体細胞に固着することがないようにする
ためである。このような、生体適合性高含水ゲル形成性
物質としては、カルボキシメチルセルロース系、アルギ
ン酸ナトリウム等のアルギン酸塩系、ヒアルロン酸ナト
リウム等のヒアルロン酸塩系、アクリル酸ナトリウム等
のポリ(メタ)アクリル酸塩系、キトサンおよびその誘
導体、キチンおよびその誘導体、ポリオキシエチレン−
ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリビニルア
ルコール系などの部分架橋重合体により不織布、織布、
編布または多孔質膜状に形成されたものが好適に使用さ
れる。そして、生体適合性高含水ゲル形成性物質薄膜に
より形成された支持層は、水分保持、吸水性を持つこと
により、浸出液の適度の貯留機能と創傷被覆層2に成育
してきた生体細胞組織との良好な密着性および非癒着性
を有し、この性質および上記材質の持つ生体に不活性な
性質により疼痛抑制作用を有する。このため、高含水状
態による適正な生体環境が維持され、治癒、特に、成育
してきた生体細胞組織(真皮組織)に置換された創傷被
覆層2と上部層3の支持層13との間に表皮再生が促進さ
れ、さらに、生体細胞組織との良好な密着性を有するこ
とにより、細菌の創面への侵入を抑制する。
さらに、支持層13が、カルボキシ基を有する生体適合
性高含水ゲル形成性物質(例えば、カルボキシメチルセ
ルロース系、アルギン酸塩系、ヒアルロン酸塩系、ポリ
(メタ)アクリル酸塩系、キトサン誘導体、キチン誘導
体などの部分架橋重合体により不織布、織布、編布また
は多孔質膜状に形成されたものを用い、さらにこの部分
架橋重合体中の複数のカルボキシル基に2価以上の金属
を結合させてさらに強固にすることが好ましい。このよ
うにすることにより、支持層13が生体適合性かつ高含水
ゲル形成性という性質を有した状態で、2価以上の金属
により部分的に配位架橋されているため、支持層13とし
て強固となっており、このため支持層13を形成する物質
が容易に分解、離脱することを有効に抑制でき、支持層
13が水分を吸収した際における支持層形成物質の分解、
破断等に伴う支持層13の一部の生体内組織、特に、創傷
被覆層2に成育し、さらには創傷被覆層2と置換された
生体細胞組織(真皮組織)への脱落、侵入を防止するこ
とができる。
2価以上の金属イオンとしては、Ca2+、Zn2+、Cu2+
Al3+、Ti4+等が好ましく、支持層13を形成する高含水ゲ
ル形成性物質が有する複数のカルボキシル基とこの金属
イオンが結合することにより、部分的に配位架橋した部
分架橋重合体を形成する。このため、高含水ゲル形成物
質は、含水状態においても、分子レベルでの安定性が高
く、使用時における高含水ゲル形成性物質の分解、溶出
が抑制される。
この2価以上の金属による架橋の程度(高含水ゲル形
成性物質中の全カルボキシル基中における2価以上の金
属と結合しているカルボキシル基の率)は、50〜100%
程度が好ましい。50%以上であれば、十分な使用時にお
ける高含水ゲル形成性物質の分解、溶出を十分に抑制す
ることができる。この架橋の程度は、より好ましくは、
75〜100%である。また、支持層13中に導入される2価
以上の金属としては、1種のものに限定されるものでは
なく、上記の金属の内複数のものを用いてもよい。そし
て、支持層13、ひいては、上部層3としては、抗菌性を
有するものとする場合には、Zn、Cuなどを用いることが
好ましく、より広い抗菌スペクトルを有するものとする
ためには、Zn、Cuなどを含む、複数の金属を用いること
が好ましい。さらに、支持層13、ひいては人工皮膚1と
して、Zn、Cuなどが有する抗菌作用より、より高い、抗
菌作用を有するものとするために、銀を高含水ゲル形成
性支持層に導入すること(一部のカルボキシル基に銀を
結合させること)が好ましい。このようにすることによ
り、創傷部の治癒とともに、創傷部における細菌の増
殖、さらには、外部からの細菌の感染を阻止することが
可能となる。
さらに、上記の高含水ゲル形成性物質薄膜により形成
された支持層13は、創傷被覆層2と接触する部位の少な
くとも一部が撥水性物質12により被覆されている。揆水
性物質により被覆するのは、高含水ゲル形成性物質薄膜
により形成された支持層13が有している空隙を補填する
ことにより、支持層13のほつれ、剥離等に対する補強、
支持の役割を果たすとともに、支持層13が、創傷部の滲
出物を極端に吸収することを抑制し、適度に吸収させる
ようにするためである。
また撥水性物質により被覆することによって水分透過
調節層との接着性も向上する。
そして、撥水性物質12としては、生体適合性を有する
ものを用いることが好ましい。
そのような、撥水性物質12としては、シリコーンエラ
ストマー、ポリウレタン、スチレン−ブタジエン−スチ
レンブロックコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン
などが好適に使用でき、特に、好ましくは、シリコーン
エラストマー、セグメント化ポリウレタンである。
そして、この撥水性物質12を被覆した状態の支持層13
は、50〜500重量%の吸水能を有していることが好まし
い。より、好ましくは、100〜300重量%の吸水能を有し
ていることである。
そして、支持層13の創傷被覆層2と接触する部位とは
反対側には、水分透過調節層14が形成されている。この
水分透過調節層14は、創面での適性な水分保持状態を維
持するためのものであり、使用時に支持層13の高含水ゲ
ル状態を確保し、かつ水蒸気は透過させるが、滲出液中
のタンパク質成分の外部への露出を防止するため、創傷
部の生体組織の修復に好ましい環境を与える。さらに、
この水分透過調節層14は、菌類は透過しないため感染を
防止する作用を有する。この水分透過調節層14は、水蒸
気透過性樹脂薄膜により形成されており、具体的には、
シリコーンエラストマー、ポリウレタンエラストマーな
どの薄膜などが好適に使用できる。そして、この水分透
過調節層14の水蒸気透過率(JIS規格)は、その用途に
よっても若干相違するが、0.1〜500mg/cm2・hr、より好
ましくは0.1〜200mg/cm2・hrであることが好ましい。ま
た、水分透過調節層14の厚さとしては、5〜100μmが
好ましく、より好ましくは、10〜50μmである。
そして、本発明の人工皮膚1の使用方法としては、創
傷部に創傷被覆層2と上部層3とが密着した状態(分離
していない状態)の人工皮膚1を、創傷被覆層2が創傷
部に接触するように乗せ、外部より固定して使用する方
法、さらには、あらかじめ患者の別部位の表皮(例えば
大腿部内側表皮)を採取しメッシュ状にしたものを作成
し、人工皮膚1を創傷被覆層2と上部層3とに強制的に
分離し、創傷被覆層2のみを創傷部上部に乗せ、さらに
この創傷被覆層2の上に上記のメッッシュ状にした表皮
を乗せ、そして、上部層3をこの表皮の上に乗せて外部
より固定して使用する方法がある。この方法によれば、
創傷部の治癒面をよりきれいなものとすることができ
る。
次に、本発明の創傷被覆材の製造方法を第1図および
第2図を参照して説明する。
この人工皮膚1の製造方法は、細胞侵入性材料からな
る創傷被覆層2を形成する工程と、少なくとも一方の面
の一部が撥水性物質12により被覆された生体適合性を有
する高含水ゲル形成性物質薄膜により形成された支持層
13とこの支持層13の他方の面に形成された水分透過調節
層14とからなる上部層3を形成する工程と、上記工程に
より形成された創傷被覆層2と上部層3の支持層13とが
接触する状態にて真空下で加熱処理する工程を有してい
る。
そこで、各工程について説明する。
まず、創傷被覆層2の形成工程は、例えば、線維化コ
ラーゲンと変性コラーゲンとの混合溶液、線維化コラー
ゲンとムコ多糖類との混合溶液または線維化コラーゲン
とアルギン酸との混合溶液などの細胞侵入性材料を用い
て、これら混合溶液を凍結乾燥することにより行われ
る。このようにすることにより、細胞侵入性材料により
形成されたマトリックスを得ることができる。線維化コ
ラーゲンおよび変性コラーゲンの調製方法については、
上述した通りである。また、線維化コラーゲンと変性コ
ラーゲンとのマトリックスは、架橋した線維化コラーゲ
ンの水溶液を約70〜90℃に加熱することによっても得る
ことができる。
次に、少なくとも一方の面の一部が撥水性物質12によ
り被覆された生体適合性を有する高含水ゲル形成性物質
薄膜により形成された支持層13とこの支持層13の他方の
面に形成された水分透過調節層14とからなる上部層3を
形成する工程としては、まず生体適合性を有する高含水
ゲル形成性物質薄膜を形成または準備し、この高含水ゲ
ル形成性物質薄膜の少なくとも一方の面に撥水性物質溶
液を接触させ乾燥させる。そして、この高含水ゲル形成
性物質薄膜の他方の面を、薄膜状に形成され未硬化かつ
粘着性を有する状態の水分透過性薄膜形成性物質の状に
載置し、その後水分透過性薄膜形成性物質を硬化させる
ことにより行うことが好ましい。
具体的には、上述した生体適合性高含水ゲル形成性物
質薄膜を形成または準備し、そして、上記のように作成
された高含水ゲル形成性物質薄膜を溶解しない適当な溶
媒、例えば、ヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルエ
チルケトンに、撥水性物質、例えば、シリコーンエラス
トマー、ポリウレタン、スチレン−ブタジエン−スチレ
ンブロックコポリマー、ポリテトラフルオロエチレンを
濃度1〜10重量%程度溶解した撥水性物質溶液を作成
し、高含水ゲル形成性物質薄膜をこの溶液に浸漬、また
はスプレー、ローラーなどを用いて塗布することにより
接触させ、高含水ゲル形成性物質薄膜の創傷被覆層2と
接触する部分となる面の少なくとも一部に撥水性物質12
を付着させ、乾燥させる。
そして、高含水ゲル形成性物質がカルボキシル基を有
する場合には、この撥水性物質が付着された高含水ゲル
形成性物質薄膜を2価以上金属イオン(例えば、Ca2+
Zn2+、Cu2+、Al3+、Ti4+)を0.1〜5.0%程度含有する液
体(例えば、塩化カルシウム水溶液、塩化亜鉛、硝酸銅
通)に浸漬、またはスプレー、ローラーなどを用いて塗
布することにより接触させ、乾燥させることにより、高
含水ゲル形成性物質薄膜のカルボキシル基と結合させる
ことが好ましい。
また、この2価以上の金属イオン含有液体の接触処理
は撥水性物質の付着前に行ってもよいが、形状保持のた
めに上記のように撥水性物質の付着後に行うことが好ま
しい。
そして、平板基材上に、適当な溶媒、例えば、ヘキサ
ン、テトラヒドラフラン、メチルエチルケトンに、濃度
50〜70重量%程度に添加された水分透過性薄膜形成性物
質(例えば、硬化後にシリコーンエラストマー、ポリウ
レタンエラストマーとなる物質)の溶液を精密被覆用具
(アプリケータ)を用いて塗布し、塗布した直後(硬化
前であって粘着性を有する状態)に、この水分透過性薄
膜形成性物質溶液の上に上述の撥水性物質12が付着され
た支持層13を載せ、硬化させることにより上部層3が作
成される。また、この上部層3が、抗菌性が高いものと
するためには、高含水ゲル形成性物質がカルボキシル基
を有するものを用い、上述の2価以上の金属イオン含有
液体との接触処理の前後に、銀イオンを濃度0.1〜5.0重
量%程度含有する液体(例えば、硝酸銀使用液)に接触
させることにより、高含水ゲル形成性物質中の一部にカ
ルボキシル基を銀に結合させることにより、支持層13に
銀を導入させることが好ましい。また、2価以上の金属
イオン含有液体中に銀イオン含有液体(例えば、硝酸銀
水溶液)を添加して、2価以上の金属と銀とを同時に高
含水ゲル形成性物質のカルボキシル基と結合させるよう
にしてもよい。
そして、加熱処理は、創傷被覆層2と上部層3とを分
離可能に固着させるために行うものであり、創傷被覆層
2の上に上部層3の支持層13が接触するように重ねた状
態で行うことが好ましく、また、逆に、上部層3の支持
層13の上に創傷被覆層2を重ねた状態で行ってもよい。
そして、真空下での加熱処理は、0.05トール以下の真空
下で、50〜180℃の温度範囲で1〜24時間加熱すること
が好ましい。
また、本発明の人工皮膚1の製造方法としては、少な
くとも一方の面の一部が撥水性物質12により被覆された
生体適合性を有する高含水ゲル形成性物質薄膜により形
成された支持層13と、支持層13の他方の面に形成された
水分透過調節層14とからなる上部層3を形成し、この上
部層3の支持層13を下にして細胞侵入性材料の溶液に接
触させた状態にて凍結乾燥することにより、行うことが
できる。
上部層3の作成方法および細胞侵入性材料の溶液の作
成方法は上述したとおりであり、凍結乾燥は常法により
行うことができる。
[実施例] 以下、本発明の具体的実施例について説明する。
(参考例1) 線維化アテロコラーゲン−変性アテロコラーゲン混合溶
液の調製 アテロコラーゲン(高研株式会社製)を4℃の温度下
でpH3.0の希塩酸に溶解して0.3〜0.4w/v%に調製した。
この溶液を0.8μm及び0.2μmの直径の空孔を持つ2種
のフィルターに順次通して濾過滅菌した後、4℃に維持
しつつ撹拌しながらpH7.4のリン酸緩衝液を加え、最終
濃度が0.1〜0.15w/v%アテロコラーゲン(30mMリン酸2
ナトリウム、100mM塩化ナトリウム)であるコラーゲン
溶液とした。ついで37℃の恒温槽内に4時間放置し、線
維化アテロコラーゲン(FC)溶液を調整した。そして、
このFC溶液を無菌条件下で遠心操作による濃縮を行い、
濃度を2w/v%に調整した。一方、上述のフィルターを順
次通過させた0.3〜0.4w/v%のアテロコラーゲン溶液を
凍結乾燥し、再び無菌の蒸留水に3.3w/v%となるように
再溶解し、これを60℃の恒温槽内に30分間放置して熱変
性を生ぜせしめ変性アテロコラーゲン(HAC)溶液とし
た。このHAC溶液を37℃の温度下で0.45μmの直径の空
孔を持つフィルターを通して濾過滅菌した後、上述の2w
/v%のFC溶液に、HAC/FC+HAC=0.1となるように混合し
(FC1000容に対しHAC約67容)、撹拌して、線維化アテ
ロコラーゲン−変性アテロコラーゲン(FC−HAC)混合
溶液を得た。
(参考例2) 参考例1にて作成した線維化アテロコラーゲン−変性
アテロコラーゲン(FC−HAC)混合溶液を−30℃で急速
凍結した後、−40℃/0.1トール未満の真空下で凍結乾燥
することにより線維化コラーゲン−変性コラーゲンマト
リックス(厚さ10μm)からなる創傷被覆層を作成し
た。
(参考例3) 線維化コラーゲン−コンドロイチン−6−硫酸マトリッ
クスの調製 1.0gのコンドロイチン−6−硫酸ナトリウムを蒸留水
に溶解させ、1w/v%コンドロイチン−6−硫酸水溶液を
調製し、また、参考例1にて作成した線維化アテロコラ
ーゲン溶液を用いて0.3w/v%の線維化アテロコラーゲン
溶液を作成し、この溶液を激しく撹拌しながら、1w/v%
コンドロイチン−6−硫酸水溶液をゆっくり滴下し、さ
らに1時間撹拌した。そして、この溶液を−30℃で急速
凍結させ、凍結乾燥を行い、線維化コラーゲン−コンド
ロイチン−6−硫酸マトリックス(厚さ10μm)からな
る創傷被覆層を作成した。
(参考例4) コンドロイチン−6−硫酸ナトリウムの代わりに、ア
ルギン酸ナトリウムを使用し、上記と同じ方法により線
維化コラーゲン−アルギン酸マトリックス(厚さ10μ
m)からなる創傷被覆層を作成した。
<上部層の作成> (参考例5) 市販のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩製の
不織布(旭化成株式会社製、エーテル化度0.25)を5%
のメディカルグレードサイラスティック −シリコーン
(接着シリコーンタイプA、ダウコーニング株式会社
製)のヘキサン溶液中に10秒間浸漬し、クリーンベンチ
内に放置し乾燥させた後、この不織布を1%塩化カルシ
ウム溶液に10秒浸漬し、水洗を行い、クリーンベンチ内
に放置し、十分乾燥させた。次にテフロン平板上に67%
のメディカルグレードサイラスティックス シリコーン
(接着シリコーンタイプA、ダウコーニング株式会社
製)ヘキサン溶液を精密被覆用具(アプリケータ)を用
いて塗布し製膜し、塗布した直後に、その湿潤層上に上
記の不織布を載せ、室温で10分間放置した後、60℃で少
なくとも1時間、オーブンで硬化させて、上部層を作成
した。
(参考例6) 市販のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩製の
不織布(旭化成株式会社製、エーテル化度0.25)を5%
のメディカルグレードサイラスティックス −シリコー
ン(接着シリコーンタイプA、ダウコーニング株式会社
製のヘキサン溶液中に10秒間浸漬し、クリーンベンチ内
に放置し乾燥させた後、この不織布を1%塩化カルシウ
ム溶液に10秒浸漬し、水洗を行い、クリーンベンチ内に
放置し、乾燥させ、そして、この不織布を1%硝酸銀
(アンモニア性)溶液に30秒間浸漬し、水洗を行い、ク
リーンベンチ内に放置し、乾燥させた。次に、テフロン
平板上に67%のメディカルグレードサイラステイックス
シリコーン(接着シリコーンタイプA、ダウコーニン
グ株式会社製)のヘキサン溶液を精密被覆用具(アプリ
ケータ)を用いて塗布し製膜し、塗布した直後に、その
湿潤層上に上記の不織布を載せ、室温で10分間放置した
後、60℃で少なくとも1時間、オーブンで硬化させて、
上部層を作成した。
(参考例7) 市販のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩製
(旭化成株式会社製、エーテル化度0.25)の不織布を1
%のメディカルグレードサイラスティック −シリコー
ン(接着シリコーンタイプA、ダウコーニング株式会社
製)のヘキサン溶液中に10秒間浸漬し、クリーンベンチ
内でし乾燥させた後。次に、テフロン平板上に67%のメ
ディカルグレードサイラスティックス シリコーン(接
着シリコーンタイプA、ダウコーニング株式会社製)ヘ
キサン溶液を精密被覆用具(アプリケータ)を用いて塗
布し製膜し、塗布した直後に、その湿潤層上に上記の不
織布を載せ、室温で10分間放置した後、60℃で少なくと
も1時間、オーブンで硬化させて、参考例3の上部層を
作成した。
<人工皮膚の作成> (実施例1) 参考例1のFC−HAC混合溶液をステンレスパッドに注
入し、さらに参考例5で作製した上部層を、CMC側(支
持層側)を混合溶液側にしてゆっくりのせると、上部層
は溶液の上に浮いた。この状態で−30℃以下に急速冷却
して十分凍結させた後、−40℃/0.1トール未満の真空下
で凍結乾燥させることにより、FC−HAC層(創傷被覆
層)は上部層と密着した状態の多孔体のマトリックスと
なり、さらに、0.05トール未満の真空下で1時間真空に
し、110℃に温度を上げ2時間真空に保ち、その後温度
を室温まで下げることにより、本発明の人工皮膚を作成
した。そして、この人工皮膚は、創傷被覆層と上部層と
に強制的に分離することができた。
(実施例2) 上部層として参考例6で作製したものを用いた以外
は、実施例1と同様にして、本発明の人工皮膚を作成し
た。そして、この人工皮膚は、創傷被覆層と上部層とに
強制的に分離することができた。
(実施例3) 上部層として参考例7で作製したものを用いた以外
は、実施例1と同様にして、本発明の人工皮膚を作成し
た。そして、この人工皮膚は、創傷被覆層と上部層とに
強制的に分離することができた。
(実施例4) 参考例2の線維化コラーゲン−変性コラーゲンマトリ
ックス(厚さ10μm)からなる創傷被覆層のうえに参考
例5により作成した上部層をCMC側が創傷被覆層と接触
するようにのせ、そして、0.05トール未満の真空下で1
時間真空にし、さらに110℃に温度を上げ、2時間真空
に保ち、その後温度を室温まで下げることにより本発明
の人工皮膚を作成した。また、この実施例の人工皮膚
は、創傷被覆層と上部層とに容易に分離することができ
た。
(実施例5) 参考例3の線維化コラーゲン−コンドロイチン−6−
硫酸マトリックスからなる創傷被覆層を用いた以外は、
実施例4と同様に行い、本発明の人工皮膚を作成した。
また、この実施例の人工皮膚は、創傷被覆層と上部層と
に容易に分離することができた。
(実施例6) 参考例4の線維化コラーゲン−アルギン酸マトリック
スからなる創傷被覆層を用いた以外は、実施例4と同様
に行い、本発明の人工皮膚を作成した。また、この実施
例の人工皮膚は、創傷被覆層と上部層とに容易に分離す
ることができた。
[実験] 実施例1ないし6の人工皮膚を用いて以下の実験を行
った。
(実験1:人工皮膚のラット皮膚欠損創への移植実験) 実施例1ないし3の人工皮膚をラットの背部皮膚に移
植して実験した。実験では、wistar.K.Y.系ラット(200
〜400g)をネンブタール麻酔下で除毛し、イソジン消毒
したラット背部皮膚に皮筋を創面とする20×20mmの全層
皮膚欠損創を作製し、止血後生食を含ませた人工皮膚を
貼付した。シリコン膜辺縁を縫合糸で16ケ所結紮固定し
た。その上に、非治癒型の被覆材としてメロリン (ス
ミス&ネフェー株式会社製)を重ねさらにエラスチコン
等の伸縮性絆創膏で胴巻きにし圧迫固定した。観察は、
1、2、3、4、6、8週間後にそれぞれ行い、解剖検
査は移植4、8週間後に行い、病理組織学的に検索し
た。その結果4週間後にFC−HAC層(創傷被覆層)は真
皮様の褶曲コラーゲン線維束に置換され、表皮形成も良
好でFC−HAC層(創傷被覆層)とシリコン−CMC層(上部
層)の界面に伸展してきており、表皮未形成部を除いて
シリコン−CMC層(上部層)は自然剥離しており、どの
部位にも石灰沈着は生じなかった。8週間後には表皮形
成が自然に完了した。全時期を通じ感染等の問題は生じ
なかった。
同様の実験を、ラット背部皮膚に背筋を創面とする40
×40mmの全創皮膚欠損層を作成して行ったが、創の重篤
さゆえ20×20mmの試験時よりやや時間は遅れるものの、
ほぼ同等に治癒過程を見る事ができた。
なお、実施例3のものでは、支持層を形成するCMCの
一部が脱落し、表皮部にとりこまれていたが、実施例1
および2では、支持層を形成するCMCの脱落はほとんど
見られなかった。
(実験2:人工皮膚のラット皮膚欠損創への網状・植皮試
験) 実施例4ないし6の人工皮膚を用いてラットの背部皮
膚欠損創に対して網状植皮術を行った。実験は、wista
r.K.Y.系ラット(200〜400g)をネンブタール麻酔下で
除毛し、イソジン消毒したラット背部皮膚に背筋を創面
とする40×40mmの全層皮膚欠損創を作製し、止血た。そ
して、あらかじめ、実施例4ないし6の人工皮膚を創傷
被覆層と上部層とに手で剥離し、それぞれの創傷被覆層
にHanks液(栄養培地)を含ませて、全層皮膚欠損創に
貼付した。その上に、予め同一ラットからデルマトーム
(剥皮具)を用いて一定の厚みで採取しメッシュエキス
パンダーで網状にしたラット皮膚(メッシュスキン)
を、真皮側が下、表皮側が上になるように載せ、メッシ
ュスキンの格子状部を周囲皮膚と縫合糸で16ケ所結紮固
定した。その上に、上部層をCMC側がメッシュスキン側
になるように載せ、周辺を医療用アロンアルファ (三
共・東亜合成化学製)にて接着し固定した、その上に、
インサイズドレープ (3M社)を貼付し、その上に前出
のメロリン を重ね、さらに伸縮性絆創膏で胴巻きにし
圧迫固定した。観察は、完全治癒まで毎週行い、植皮後
4、8週間後に生検、治癒後解剖検査を行った。その結
果、4週間後では、メッシュスキン部が創傷被覆層の変
貌により形成された真皮様組織の上にあって生着し、メ
ッシュスキンの覆わない部分にはメッシュスキン及び辺
縁の組織由来の再生表皮が形成されつつあり、上部層は
わずかに表皮化されない一部分を残しほとんど自然剥離
していた。また、創面の大きさは手術時の面積を維持
し、実施例の人工皮膚を用いない植皮側にて甚だしく強
い拘縮が起きていたのと比して著しい差異を有した。8
週間後には更に再生表皮形成が進みほぼ表皮化を完了し
ており、真皮部もメッシュスキンの真皮と同様に非常に
良好な組織像を呈した。この間顕著な拘縮は認められ
ず、拘縮によりほぼ治癒を終了した未処置植皮群とは明
らかに差が生じた。治癒後の組織は健常時の皮膚と非常
に類似しており、拘縮も少なく、瘢痕形成も見い出せな
かった。表皮化は終了し、上部層は自然剥離した。以上
の期間の通して石灰沈着等の生体側の過形成による異常
反応はは全く認められなかった。
(実験3:抗菌性試験) 抗菌済シャーレ上に固形培地(Mller Hinton Aga
r、MHA、Difco製)を29ml/シャーレの割合でまき、平板
とし、前培養されたPseudomonas aeruginusa(緑膿
菌)、Esherichia coil(大腸菌)、Staphylococcus au
reus(黄色ブドウ球菌)Staphylococcus epidemidis
(表皮ブドウ球菌)を均一に塗沫した。これに実施例1
と実施例2の人工皮膚を直径1cmの円形に切ってサンプ
ルとし、固定培地平板1枚あたり3ケ所載せた。37℃で
18時間倒置培養後、阻止円の有無、不織布接触面での菌
の発育を観察した。
結果は、第1表に示す通りであった。
表中における−は、阻止円なし、接触面でも菌が発育
したものを示しており、+は、阻止円を認めたものを示
している。
上記結果より、実施例2の抗菌効果が確認された。
[発明の効果] 本発明の人工皮膚は、細胞侵入性材料により形成され
た創傷被覆層と、外創傷被覆層の上に設けられた上部層
とからなり、該上部層は、前記創傷被覆層に接触する部
位の少なくとも一部が撥水性物質により被覆された生体
適合性を有する高含水ゲル形成性物質薄膜により形成さ
れた支持層と、該支持層の創傷被覆層に接触する部位と
は反対側に形成された水分透過調節層とからなり、前記
創傷被覆層と前記上部層とは分離可能に密着しているも
のであり、特に、創傷被覆層は、生体適合性を有する高
含水ゲル形成性物質薄膜により形成されるとともに上部
層と分離可能に固着しているので、上層部の支持層の下
に表皮細胞が生育しても、創傷被覆層に侵入した生体細
胞の増殖が進行し、上層部の支持層には、生体細胞が進
入せず、さらに剥離可能に密着されているため、自然に
上部層が創傷被覆層より分離し、早期に創傷部位を治癒
させることができる。さらに、上部層は、創傷被覆層に
よる組織治癒の間、創傷面を保護し、創傷部を柔らかく
保護し、細菌の感染を防止する。また、上部層の持つ高
含水性により、上皮細胞の伸展促進に良好な環境を抵抗
し、再構築され回復した真皮上により速く表皮を形成さ
せる。そして、この人工皮膚は、創傷、熱傷等を含むあ
らゆる真皮成分の欠損部位に使用することができる。よ
って、本発明の人工皮膚を適用した場合には、多くの形
成・整形その他の外科的手段・手法に適合し、それらの
いかなる場合においても自然の皮膚に近いきれいな治癒
状態を得ることができる。
本発明の人工皮膚の製造方法は、細胞侵入性材料によ
り創傷被覆層を形成する工程と、少なくとも一方の面の
一部が撥水性物質により被覆された生体適合性を有する
高含水ゲル形成性物質薄膜により形成された支持層と該
支持層の他方の面に形成された水分透過調節層とからな
る上部層を形成する工程と、前記工程により形成された
創傷被覆層と前記上部層の前記支持層とが接触する状態
にて真空下で加熱処理するもの、あるいは、少なくとも
一方の面の一部が撥水性物質により被覆された生体適合
性を有する高含水ゲル形成性物質薄膜により形成された
支持層と該支持層の他方の面に形成された水分透過調節
層とからなる上部層を形成し、該上部層の支持層を下に
して線維化コラーゲンと変性コラーゲンとの混合状態溶
液に接触させた状態にて凍結乾燥するものであるので、
上記のような優れた効果を有する人工皮膚を容易に作成
することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の一実施例の人工皮膚の拡大断面図、
第2図は、本発明の一実施例の人工皮膚の斜視図、第3
図は、第2図の人工皮膚の上部層を剥離した状態を示す
図である。 1……人工皮膚、2……創傷被覆層、 3……上部層、12……撥水性物質 13……支持層、14……水分透過調節層、
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 池上 和仁 神奈川県足柄上郡中井町井ノ口1500番地 テルモ株式会社内 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) A61F 2/10 A61L 27/00

Claims (16)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】細胞侵入性材料により形成された創傷被覆
    層と、該創傷被覆層の上に設けられた上部層とからな
    り、該上部層は、前記創傷被覆層に接触する部位の少な
    くとも一部が撥水性物質により被覆された生体適合性を
    有する高含水ゲル形成性物質薄膜により形成された支持
    層と、該支持層の創傷被覆層に接触する部位とは反対側
    に形成された水分透過調節層とからなり、前記創傷被覆
    層と前記上部層とは分離可能に密着していることを特徴
    とする人工皮膚。
  2. 【請求項2】前記細胞侵入性材料が、線維化コラーゲン
    と変性コラーゲンとの複合マトリックス、線維化コラー
    ゲンとムコ多糖類とのマトリックスまたは線維化コラー
    ゲンとアルギン酸とのマトリックスである請求項1に記
    載の人工皮膚。
  3. 【請求項3】前記変性コラーゲンのヘリックス含量は、
    0〜80%である請求項2に記載の人工皮膚。
  4. 【請求項4】前記高含水ゲル形成性物質が、カルボキシ
    メチルセルロース系、アルギン酸塩系、ヒアルロン酸塩
    系、ポリ(メタ)アクリル酸塩系、キトサンまたはその
    誘導体、キチンまたはその誘導体、ポリオキシエチレン
    −ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリビニル
    アルコール系からなる群より選ばれたものである請求項
    1ないし3のいずれかに記載の人工皮膚。
  5. 【請求項5】前記高含水ゲル形成性物質は、カルボキシ
    ル基を有するとともに複数のカルボキシル基と結合した
    2価以上の金属を有している請求項1ないし4のいずれ
    かに記載の人工皮膚。
  6. 【請求項6】前記金属が、Ca、Zn、Cu、Al、Ti、からな
    る群より選ばれたものである請求項5に記載の人工皮
    膚。
  7. 【請求項7】前記高含水ゲル形成性物質の一部のカルボ
    キシル基には、銀が結合している請求項5または6に記
    載の人工皮膚。
  8. 【請求項8】前記高含水ゲル形成性物質薄膜は、不織
    布、織布、編布または多孔質膜である請求項1ないし7
    のいずれかに記載の人工皮膚。
  9. 【請求項9】前記撥水性物質は、シリコーン、ポリウレ
    タン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリ
    マーおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から
    選ばれたものである請求項1ないし8のいずれかに記載
    の人工皮膚。
  10. 【請求項10】前記水分透過調節層は、水蒸気透過性樹
    脂薄膜により形成されている請求項1ないし9のいずれ
    かに記載の人工皮膚。
  11. 【請求項11】前記水蒸気透過性樹脂薄膜は、シリコー
    ンエラストマー薄膜またはポリウレタンエラストマー薄
    膜である請求項10に記載の人工皮膚。
  12. 【請求項12】細胞侵入性材料により創傷被覆層を形成
    する工程と、少なくとも一方の面の一部が撥水性物質に
    より被覆された生体適合性を有する高含水ゲル形成性物
    質薄膜により形成された支持層と該支持層の他方の面に
    形成された水分透過調節層とからなる上部層を形成する
    工程と、前記工程により形成された創傷被覆層と前記上
    部層の前記支持層とが接触する状態にて真空下で加熱処
    理することを特徴とする人工皮膚の製造方法。
  13. 【請求項13】前記加熱処理は、前記創傷被覆層の上に
    前記上部層と前記支持層が接触するように重ねた状態で
    行うものである請求項12に記載の人工皮膚の製造方法。
  14. 【請求項14】前記創傷被覆層の形成工程は、線維化コ
    ラーゲンと変性コラーゲンとの混合溶液、線維化コラー
    ゲンとムコ多糖類との混合溶液または線維化コラーゲン
    とアルギン酸との混合溶液を凍結乾燥することにより行
    うものである請求項12または13に記載の人工皮膚の製造
    方法。
  15. 【請求項15】前記真空下での加熱処理は、0.05トール
    以下の真空下で50〜180℃の温度範囲で1〜24時間加熱
    するものである請求項12ないし14項のいずれかに記載の
    人工皮膚の製造方法。
  16. 【請求項16】少なくとも一方の面の一部が撥水性物質
    により被覆された生体適合性を有する高含水ゲル形成性
    物質薄膜により形成された支持層と該支持層の他方の面
    に形成された水分透過調節層とからなる上部層を形成
    し、該上部層の支持層を下にして線維化コラーゲンと変
    性コラーゲンとの混合状態溶液に接触させた状態にて凍
    結乾燥することを特徴とする人工皮膚の製造方法。
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