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JP2024517931A - 抗tmprss6抗体及びその使用 - Google Patents

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JP2024517931A JP2023569823A JP2023569823A JP2024517931A JP 2024517931 A JP2024517931 A JP 2024517931A JP 2023569823 A JP2023569823 A JP 2023569823A JP 2023569823 A JP2023569823 A JP 2023569823A JP 2024517931 A JP2024517931 A JP 2024517931A
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Abstract

本明細書では、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に結合するモノクローナル抗体、及びその使用方法が提供される。本開示の様々な実施形態では、抗体は、TMPRSS6に結合する完全ヒト抗体である。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗体は、ヒトのTMPRSS6と関連する疾患、障害または状態を治療または予防するための方法に有用である。【選択図】なし

Description

関連出願
本出願は、2021年5月11日に出願された米国仮特許出願第63/187,150号に対する優先権を主張するものであり、その開示全体が、本明細書での参照により本明細書に組み込まれる。
配列表
ASCIIテキストファイル(ファイル名:728825_RGN9-002PC_ST25.txt;サイズ:141.9キロバイト;作成日:2022年5月10日)で電子的に提出された配列表の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
技術分野
本明細書では、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)に特異的に結合する抗体及びその抗原結合性断片が開示される。本明細書ではまた、そのような抗体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、それを含む宿主細胞、及びかかる抗体及びその抗原結合性断片を使用する治療方法も開示される。
膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6;マトリプターゼ-2またはMTP-2としても知られる)は、短いN末端細胞内領域、それに続く、単一の膜貫通ドメイン、単一のSEAドメイン、2つのCUBドメイン、3つのLDLRaリピートドメイン、及びC末端の触媒的セリンプロテアーゼドメインで構成されるII型膜貫通型セリンプロテアーゼである。TMPRSS6は肝臓で高発現し、ヘプシジン発現を負に調節することによって鉄恒常性において役割を果たしている。高レベルのヘプシジンは、細胞表面からの鉄排出チャネルであるフェロポーチンのレベルを低下させて細胞からの鉄輸送を遮断する。TMPRSS6はヘモジュベリン(HJV)を切断し、これにより、SMADシグナル伝達の減少及びその後の、ヘプシジンをコードする遺伝子であるHAMPの転写の下方制御が生じる。
ヘプシジン発現量の減衰により、鉄過剰症またはヘモクロマトーシスが起こる可能性がある。鉄過剰障害は、体内に過剰な鉄の貯蔵を引き起こす障害の一群である。体が過剰な鉄を排出することができないため、過剰な鉄が、ある特定の臓器、例えば、肝臓、心臓、及び膵臓に貯蔵される。そのような臓器に貯蔵されている過剰な鉄は、臓器損傷及び他の関連疾患、例えば、糖尿病を引き起こす可能性がある。
鉄過剰障害の例としては、遺伝性ヘモクロマトーシス(HHC)、食事から過量の鉄が体に吸収される遺伝性疾患、及びサラセミア(ヘモグロブリン産生の減少により引き起こされる遺伝性貧血の一種)または骨髄異形成症候群(後天性貧血をもたらす血液がん)等の特定の血液疾患の患者における合併症として生じ得る続発性ヘモクロマトーシスが挙げられる。ベータサラセミア及び/または骨髄異形成症候群の場合、疾患と関連する貧血を治療するための輸血を繰り返し行うことにより、しばしば鉄過剰を生じ得る。
鉄過剰障害の治療選択肢は限られており、典型的には、患者の生涯にわたり必要とされる。治療選択肢としては、鉄キレート療法、瀉血または静脈切開による鉄が豊富な血液の除去、及び鉄摂取を減らすための食事制限が挙げられる。当該技術分野では、鉄過剰障害の治療のための追加の改善された組成物及び方法が必要とされている。
開示の概要
本明細書では、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質と特異的に結合する抗体及びその抗原結合性断片(すなわち、抗TMPRSS6抗体)が開示される。ある特定の実施形態では、抗TMPRSS6抗体は、ヒトTMPRSS6に高い親和性で結合し、かつ、そのプロテアーゼ活性を阻害する、完全ヒト抗体である。
一態様では、本開示は、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供し、抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6の触媒ドメインに結合するが、TMPRSS6の触媒三残基(catalytic triad)には結合しない。
ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片はさらに、TMPRSS6のLDLRaドメイン2内部に含まれる部位にて結合する。一実施形態では、TMPRSS6に対する抗体またはその抗原結合性断片の結合は、TMPRSS6の触媒三残基を直接的には閉塞しない。他の実施形態では、TMPRSS6に対する抗体またはその抗原結合性断片の結合は、TMPRSS6のアロステリック調節を媒介する。ある特定の実施形態では、TMPRSS6に対する抗体またはその抗原結合性断片の結合は、TMPRSS6のアロステリック阻害を媒介する。
別の態様では、本開示は、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供し、抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6のアロステリック阻害物質である。ある特定の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、TMPRSS6を、TMPRSS6基質に結合することはできるがそれを切断することができない不活性型立体構造に維持する。ある特定の実施形態では、TMPRSS6基質は、ヘモジュベリン(HJV)である。
別の態様では、本開示は、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供し、抗体または抗原結合性断片は、TMPRSS6の触媒三残基を立体的に閉塞する部位にてTMPRSS6の触媒ドメイン内部で結合する。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6への結合についてヘモジュベリン(HHV)と競合する。
別の態様では、本開示は、ヒト膜貫通型セリンプロテアーゼ6(hTMPRSS6)タンパク質(配列番号126)に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供し、抗体またはその抗原結合性断片は、水素/重水素交換により決定されるように、hTMPRSS6の細胞外ドメイン内に含有されている1個以上のアミノ酸と相互作用する。
ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、水素/重水素交換により決定されるように、(a)配列番号126のアミノ酸125~133、(b)配列番号126のアミノ酸586~594、(c)配列番号126のアミノ酸626~650、(d)配列番号126のアミノ酸693~703、(e)配列番号126のアミノ酸704~724、及び/または(e)配列番号126のアミノ酸780~805、から選択されるアミノ酸配列と相互作用する。他の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、水素/重水素交換により決定されるように、(a)配列番号126のアミノ酸693~703、及び/または(b)配列番号126のアミノ酸780~805、から選択されるアミノ酸配列と相互作用する。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、水素/重水素交換により決定されるように、(a)配列番号126のアミノ酸125~133、(b)配列番号126のアミノ酸586~594、(c)配列番号126のアミノ酸626~650、及び/または(d)配列番号126のアミノ酸704~724、から選択されるアミノ酸配列と相互作用する。
別の態様では、本開示は、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供し、抗体またはその抗原結合性断片は、クライオ電子顕微鏡構造モデリングにより決定されるように、ヒトTMPRSS6(配列番号126)の残基G699、H701、D724、Q726、L727、I728、P729、L732、E735、G749、Y750、R751、K752、及びN791と相互作用する。
ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片はさらに、クライオ電子顕微鏡構造モデリングにより決定されるように、ヒトTMPRSS6(配列番号126)の残基V490、S501、T502、C503、I504、S505、及びK508と相互作用する。
別の態様では、本開示は、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供し、抗体またはその抗原結合性断片は、クライオ電子顕微鏡構造モデリングにより決定されるように、ヒトTMPRSS6の残基R597、R599、I601、D622、L710、R711、E712、G713、G714、P715、及びI716と相互作用する。
別の態様では、本開示は、膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片を提供し、抗体またはその抗原結合性断片は、重鎖可変領域(HCVR)内に含有されている3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)、ならびに軽鎖可変領域(LCVR)内に含有されている3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含み、HCDR3は、表1に記載のHCDR3の配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
ある特定の実施形態では、LCDR3配列は、表1に記載のLCDR3の配列から選択されるアミノ酸配列を有する。ある特定の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、表1に記載のHCDR1、HCDR2、及びHCDR3の配列を含む。ある特定の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、表1に記載のLCDR1、LCDR2、及びLCDR3の配列を含む。
ある特定の実施形態では、(a)HCDR1ドメインは、配列番号4、24、34、44、64、84、または102から選択されるアミノ酸配列を有し、(b)HCDR2ドメインは、配列番号6、26、36、46、66、86、または104から選択されるアミノ酸配列を有し、(c)HCDR3ドメインは、配列番号8、28、38、48、68、88、または106から選択されるアミノ酸配列を有し、(d)LCDR1ドメインは、配列番号12、52、72、92、または110から選択されるアミノ酸配列を有し、(e)LCDR2ドメインは、配列番号14、54、または74から選択されるアミノ酸配列を有し、(f)LCDR3ドメインは、配列番号16、56、76、94、または112から選択されるアミノ酸配列を有する。
ある特定の実施形態では、3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRは、以下のCDRセットのうちの1つを含む:(a)配列番号4(HCDR1)、配列番号6(HCDR2)、配列番号8(HCDR3)、配列番号12(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号16(LCDR3)、(b)配列番号24(HCDR1)、配列番号26(HCDR2)、配列番号28(HCDR3)、配列番号12(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号16(LCDR3)、(c)配列番号34(HCDR1)、配列番号36(HCDR2)、配列番号38(HCDR3)、配列番号12(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号16(LCDR3)、(d)配列番号44(HCDR1)、配列番号46(HCDR2)、配列番号48(HCDR3)、配列番号52(LCDR1)、配列番号54(LCDR2)、及び配列番号56(LCDR3)、(e)配列番号64(HCDR1)、配列番号66(HCDR2)、配列番号68(HCDR3)、配列番号72(LCDR1)、配列番号74(LCDR2)、及び配列番号76(LCDR3)、(f)配列番号84(HCDR1)、配列番号86(HCDR2)、配列番号88(HCDR3)、配列番号92(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号94(LCDR3)、または(g)配列番号102(HCDR1)、配列番号104(HCDR2)、配列番号106(HCDR3)、配列番号110(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号112(LCDR3)。
ある特定の実施形態では、3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRは、以下のCDRセットを含む:配列番号44(HCDR1)、配列番号46(HCDR2)、配列番号48(HCDR3)、配列番号52(LCDR1)、配列番号54(LCDR2)、及び配列番号56(LCDR3)。他の実施形態では、3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRは、以下のCDRセットを含む:配列番号102(HCDR1)、配列番号104(HCDR2)、配列番号106(HCDR3)、配列番号110(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号112(LCDR3)。
別の態様では、本開示は、TMPRSS6に結合する抗体またはその抗原結合性断片を提供し、抗体またはその抗原結合性断片は、HCVR内に含有されている3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)及びLCVR内に含有されている3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含み、HCVRは、(i)配列番号2、22、32、42、62、82、もしくは100から選択されるアミノ酸配列、(ii)配列番号2、22、32、42、62、82、もしくは100から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、(iii)配列番号2、22、32、42、62、82、もしくは100から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、または(iv)配列番号2、22、32、42、62、82、もしくは100から選択される配列に関して12以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列、を含む。
ある特定の実施形態では、LCVRは、(a)配列番号10、50、70、90、もしくは108から選択されるアミノ酸配列、(b)配列番号10、50、70、90、もしくは108から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、(c)配列番号10、50、70、90、もしくは108から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、または(d)配列番号10、50、70、90、もしくは108から選択される配列に関して10以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列、を含む。
ある特定の実施形態では、HCVRは、配列番号2、22、32、42、62、82、または100から選択されるアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、LCVRは、配列番号10、50、70、90、または108から選択されるアミノ酸配列を含む。
ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2/10、22/10、32/10、42/50、62/70、82/90、または100/108から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。ある特定の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、配列番号42/50のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。他の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、配列番号100/108のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
別の態様では、本開示は、TMPRSS6に結合する抗体を提供し、抗体は、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)を含み、重鎖は、配列番号18、30、40、58、78、96及び114からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
ある特定の実施形態では、軽鎖は、配列番号20、60、80、98及び116からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、抗体は、配列番号18/20、30/20、40/20、58/60、78/80、96/98または114/116から選択されるHC/LCアミノ酸配列対を含む。ある特定の実施形態では、抗体は、58/60のHC/LCアミノ酸配列対を含む。他の実施形態では、抗体は、114/116のHC/LCアミノ酸配列対を含む。
ある特定の実施形態では、本開示の抗体または抗原結合性断片は、以下から選択される1つ以上の特性を有する:(a)完全ヒトモノクローナル抗体もしくはその抗原結合性断片である、(b)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、ヒトTMPRSS6に、25℃及び37℃において約21.2nM未満の解離定数(K)で結合する、(c)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、サルTMPRSS6に、25℃及び37℃において約25.7nM未満のKで結合する、(d)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、マウスTMPRSS6に、25℃及び37℃において約703nM未満のKで結合する、(e)ヒトTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約2.7nM未満である、(f)サルTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約3.6nM未満である、(g)マウスTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約35nM未満である、(h)約90%超の阻害パーセントで、ヒトTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、ヒトTMPRSS6を阻害する、(i)ヒトTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、ヒトTMPRSS6を阻害し、約200pM未満のIC50を示す、(j)約42%超の阻害パーセントで、マウスTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、マウスTMPRSS6を阻害する、(k)マウスTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、マウスTMPRSS6を阻害し、約274pM未満のIC50を示す、(l)ヒトTMPRSS6を25℃及び37℃において約65%超の阻害パーセントで阻害する、(m)ヒトTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約10nM未満のIC50を示す、(n)サルTMPRSS6を25℃及び37℃において約66%超の阻害パーセントで阻害する、(o)サルTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約50nM未満のIC50を示す、(p)マウスTMPRSS6を25℃及び37℃において約58%超の阻害パーセントで阻害する、(q)マウスTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約35nM未満のIC50を示す、(r)それを必要とする対象に投与した場合に、対象の血清鉄濃度を減少させる、(s)それを必要とする対象に投与した場合に、対象の血清ヘプシジン濃度を増加させる、(t)それを必要とする対象に投与した場合に、対象の成熟赤血球レベルを増加させる、(u)それを必要とする対象に投与した場合に、対象の脾臓及び/または骨髄における成熟赤血球レベルを増加させる、(v)それを必要とする対象に投与した場合に、対象のヘモグロビン濃度を増加させる、または(w)それを必要とする対象に投与した場合に、対象のトランスフェリン飽和レベルを低下させる。ある特定の実施形態では、抗体は、完全ヒトモノクローナル抗体である。
別の態様では、本開示は、TMPRSS6への結合について本明細書に開示の抗体またはその抗原結合性断片と競合する抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
別の態様では、本開示は、本明細書に開示の抗体またはその抗原結合性断片と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
別の態様では、本開示は、本明細書に開示されるような、TMPRSS6に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片及び薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
別の態様では、本開示は、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合性断片のHCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド分子を提供する。
別の態様では、本開示は、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合性断片のLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド分子を提供する。
別の態様では、本開示は、本明細書に開示されるポリヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。
別の態様では、本開示は、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合性断片のHCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む第1のベクター、及び本明細書に開示される抗体またはその抗原結合性断片のLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む第2のベクターを含む、ベクターのセットを提供する。
別の態様では、本開示は、本明細書に開示されるベクターまたはベクターのセットを含む宿主細胞を提供する。
別の態様では、本開示は、TMPRSS6に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片を生産する方法であって、抗体またはその抗原結合性断片の産生を可能にする条件下で本開示の宿主細胞を培養すること、及びそのようにして産生された抗体またはその抗原結合性断片を回収すること、を含む方法を提供する。ある特定の実施形態では、方法はさらに、抗体またはその抗原結合性断片を、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物として製剤化することを含む。
別の態様では、本開示は、鉄過剰と関連する疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を治療、予防、または改善する方法であって、治療的有効量の本開示の抗体またはその抗原結合性断片を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
ある特定の実施形態では、疾患または障害は、先天性赤血球形成異常性貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血、アルファサラセミア、ベータサラセミア、輸血依存性溶血性貧血、骨髄異形成症候群、鎌状赤血球症、真性多血症、遺伝性ヘモクロマトーシス、または慢性肝疾患であるである。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、ベータサラセミアである。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、重症型ベータサラセミアまたは中等症型ベータサラセミアである。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、骨髄異形成症候群である。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群である。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、輸血依存性溶血性貧血である。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、ピルビン酸キナーゼ欠乏症による輸血依存性溶血性貧血、または鉄芽球性輸血依存性溶血性貧血である。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、慢性肝疾患である。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、アルコール関連慢性肝疾患、C型肝炎、または自己免疫性肝炎である。
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、それを必要とする対象に予防的または治療的に投与される。他の実施形態では、医薬組成物は、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、または筋肉内に投与される。
他の実施形態は、後述の詳細な説明の概説から明らかになるであろう。
実施例15におけるマウスの強制走行研究の研究計画を図式で示したものである。 Hbbth3/+マウスにおける、走行距離(A)及び走行距離にわたる乳酸産生(B)に対するREGN7999処置の効果を示す。対照動物は、野生型(WT)C57BL/6マウスまたはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)により処置されたHbbth3/+マウスである。注:図のデータはいずれも平均±標準偏差(SD)として示されており、P<0.05は、一元配置ANOVA及びテューキー事後多重比較検定下で統計学的に有意な差を示す。 REGN7999またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)のいずれかにより処置された野生型(WT)C57BL/6マウスの走行距離を示す。 REGN7999またはAcvr2b(L79D)-Fcいずれかにより8週間処置されたHbbth3/+マウスにおける血清ヘプシジン濃度(A)、血清鉄濃度(B)、及び肝臓の鉄含有量(C)を示す。対照動物は、野生型(WT)C57BL/6マウスまたはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)により処置されたHbbth3/+マウスである。 REGN7999、Acvr2b(L79D)-Fc、またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)による処置の8週間後のWTマウスまたはHbbth3/+マウスの平均体重(g)を示す。アイソタイプ対照により処置されたWTマウス:円、黒い実線。アイソタイプ対照により処置されたHbbth3/+マウス:四角、灰色の実線。REGN7999により処置されたHbbth3/+マウス:三角(上向き)、黒い点線。Acvr2b(L79D)-Fcにより処置されたHbbth3/+マウス:三角(下向き)、灰色の点線。 REGN7999、Acvr2b(L79D)-Fc、またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)による処置の8週間後のWTマウスまたはHbbth3/+マウスの平均脾臓重量(g)を示す。 REGN7999、Acvr2b(L79D)-Fc、またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)による処置の8週間後のWTマウスまたはHbbth3/+マウスからの脾臓の成熟RBCの量(CD44lowTer119細胞%)を示す。 REGN7999、Acvr2b(L79D)-Fc、またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)による処置の8週間後のWTマウスまたはHbbth3/+マウスからの網状赤血球の量(CD44highTer119細胞%)を示す。
本方法について説明する前に、特定の方法、及び実験条件は変動し得ることから、本開示はそれらに限定されないことが理解される。また、本明細書で使用される用語は、個々の実施形態を説明することのみを目的とするものであり、限定することを意図しないことも理解されるべきである。
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、関連技術分野の当業者に共通して理解される意味と同一の意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と類似または同等の任意の方法及び材料が、開示されている実施形態の実施または試験に使用可能であるが、好ましい方法及び材料についてここに記載する。本明細書で言及される刊行物はすべて、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
定義
「TMPRSS6」という用語は、「マトリプターゼ-2」または「MTP-2」とも呼ばれ、膜貫通型セリンプロテアーゼ6を指す。TMPRSS6は、短いN末端細胞内領域(ヒトTMPRSS6(配列番号126)の残基1~55)それに続く、単一の膜貫通ドメイン(配列番号126の残基56~76)、単一のSEA(ウニ精子タンパク質、エンテロペプチダーゼ、及びアグリン(sea urchin sperm protein,enteropeptidase,and agrin))ドメイン(配列番号126の残基84~209)、2つのCUB(Cls/Clr、ウニ胚性成長因子(urchin embryonic growth factor)、及び骨形成タンパク質(bone morphogeneic protein)(BMP)-1)ドメイン(CUBドメイン1については配列番号126の残基213~336及びCUBドメイン2については配列番号126の残基335~452)、3つのLDLRa(低密度リポタンパク質受容体、クラスA)リピートドメイン(LDLRaドメイン1については配列番号126の残基457~489、LDLRaドメイン2については配列番号126の残基492~526、及びLDLRaドメイン3については配列番号126の残基530~567)、ならびにC末端の触媒的セリンプロテアーゼドメイン(配列番号126の残基577~811)で構成されるII型膜貫通型セリンプロテアーゼである。触媒的セリンプロテアーゼドメインは、ヒスチジン(ヒトTMPRSS6(配列番号126)の残基617)、アスパラギン酸(配列番号126の残基668)、及びセリン残基(配列番号126の残基762)の触媒三残基を含有する(Lee,Acta Haematol.(2009)122(2-3):87-96、Ramsay et al.,Front.Biosci.(2008)13:569-579)。TMPRSS6は、BMP共受容体ヘモジュベリン(HJV)の切断を介してヘプシジン産生の負の調節因子として作用することにより、鉄恒常性において役割を果たしていることが示されている(Dion et al.,Scientific Reports(2018)8:12562)。全長ヒトTMPRSS6タンパク質(アイソフォーム2)のアミノ酸配列は、UniProtKB/Swiss-Protで受託番号Q8IU80として提供される811アミノ酸配列により例示され、NCBI受託番号NP_705837.1に対応する(TMPS6_ヒト;配列番号126)。ヒトTMPRSS6タンパク質は、NCBI参照配列NM_153609.3(配列番号127)で表される核酸配列によってコードされる。全長カニクイザルTMPRSS6タンパク質のアミノ酸配列は、UniProtKB/Swiss-Protで受託番号A0A2K5VAP0として提供されるアミノ酸配列により例示され、NCBI受託番号XP_005567441.1に対応する(A0A2K5VAP0_MACFA;配列番号128)。カニクイザルTMPRSS6タンパク質は、NCBI参照配列XM_005567384(配列番号129)で表される核酸配列によってコードされる。全長マウスTMPRSS6タンパク質のアミノ酸配列は、UniProtKB/Swiss-Protで受託番号Q9DBI0として提供されるアミノ酸配列により例示され、NCBI受託番号NP_082178.2に対応する(TMPS6_マウス;配列番号130)。マウスTMPRSS6タンパク質は、NCBI参照配列NM_027902.2(配列番号131)で表される核酸配列によってコードされる。「TMPRSS6」という用語には、組換えTMPRSS6タンパク質またはその断片が含まれる。かかる用語はまた、例えば、ヒスチジンタグ、マウスもしくはヒトのFc、またはROR1等のシグナル配列に結合されたTMPRSS6タンパク質またはその断片(例えば、配列番号117~119)も包含する。
「約」という用語は、特定の記述されている数値に関して使用される場合、その値が、記述されている値から1%以下変動し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現には、99及び101ならびにその間にあるすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4、...100.7、100.8、100.9)が含まれる。
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、4本のポリペプチド鎖である、ジスルフィド結合によって相互接続された2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖で構成される免疫グロブリン分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにその多量体(例えば、IgM)またはその抗原結合性断片を指すことが意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「V」)及び重鎖定常領域(ドメインC1、C2及びC3で構成される)で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVRまたは「V」)及び軽鎖定常領域(C)で構成される。V及びV領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域に細分することができ、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存性の高い領域が散在する。各V及びVは、3つのCDR及び4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へ向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4という順序で並んでいる。本開示のある特定の実施形態では、抗体(またはその抗原結合性断片)のFRは、ヒト生殖細胞系配列と同一な場合もあれば、天然で、または人工的に修飾される場合もある。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
1つ以上のCDR残基の置換または1つ以上のCDRの省略も可能である。抗体については科学文献に記載されており、それによると、結合のために1つまたは2つのCDRを省くことができる。Padlanら(1995,FASEB J.9:133-139)は、抗体とそれらの抗原との間の接触領域を、公開されている結晶構造に基づいて分析し、CDR残基のうち約5分の1~3分の1のみが実際に抗原と接触すると結論づけた。Padlanはまた、1つまたは2つのCDRに抗原と接触するアミノ酸がない、多くの抗体を見出した(Vajdos et al.(2002)J Mol Biol 320:415-428も参照のこと)。
抗原に接触していないCDR残基は、分子モデリングによって、及び/または経験的に、Chothia CDRの外側にあるKabat CDRの領域から、以前の研究に基づいて同定することができる(例えば、CDRH2の残基H60-H65は不要であることが多い)。CDRまたはその残基(複数可)を省略する場合、それは通常、別のヒト抗体配列またはそのような配列のコンセンサスにおける対応する位置を占有しているアミノ酸で置換される。CDR内の置換のための位置及び置換するためのアミノ酸は、経験的に選択することもできる。経験的置換は、保存的置換でも非保存的置換でも可能である。
本明細書に開示される完全ヒト抗TMPRSS6モノクローナル抗体は、対応する生殖細胞系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖の可変ドメインのフレームワーク領域及び/またはCDR領域における1つ以上の、アミノ酸の置換、挿入及び/または欠失を含み得る。そのような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば、公開されている抗体配列データベースから利用可能な生殖細胞系列配列と比較することによって容易に確認することができる。本開示には、本明細書に開示されるアミノ酸配列のうちのいずれかに由来する、抗体、及びそれらの抗原結合性断片が含まれ、1つ以上のフレームワーク領域及び/またはCDR領域内の1個以上のアミノ酸が、その抗体が由来した生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)に、または別のヒト生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)に、または対応する生殖細胞系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換に変異している(そのような配列変化を、本明細書では総称して「生殖細胞系列変異」と呼ぶ)。当業者は、本明細書に開示される重鎖及び軽鎖の可変領域配列で開始して、1つ以上の個々の生殖細胞系列変異またはそれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合性断片を容易に作製することができる。ある特定の実施形態では、Vドメイン及び/またはVドメイン内のフレームワーク残基及び/またはCDR残基のうちのすべてが、その抗体が由来した元の生殖細胞系列配列に見られる残基に復帰変異している。他の実施形態では、ある特定の残基のみが元の生殖細胞系列配列に復帰変異しており、例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内もしくはFR4の最後の8個のアミノ酸内に見られる変異残基のみ、またはCDR1、CDR2もしくはCDR3内に見られる変異残基のみが復帰変異している。他の実施形態では、フレームワーク残基及び/またはCDR残基(複数可)のうちの1つ以上が、異なる生殖細胞系列配列(すなわち、その抗体が最初に由来した生殖細胞系列配列とは異なる生殖細胞系列配列)の対応する残基(複数可)に変異している。さらに、本明細書に開示される抗体は、フレームワーク領域及び/またはCDR領域内に2つ以上の生殖細胞系列変異の任意の組み合わせを含有してよく、例えば、ある特定の個々の残基は特定の生殖細胞系列配列の対応する残基に変異している一方、元の生殖細胞系列配列とは異なる別の特定の残基は、維持されるかまたは異なる生殖細胞系列配列の対応する残基に変異している。1つ以上の生殖細胞系列変異を含有する抗体及び抗原結合性断片が得られた後は、それらを、1つ以上の所望の特性、例えば、結合特異性の改善、結合親和性の向上、拮抗的生物学的特性の改善または増強、免疫原性の低下等について容易に検証することができる。この一般的方法で得られる抗体及び抗原結合性断片は、本開示内に包含される。
本明細書ではまた、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示されるHCVR、LCVR、及び/またはCDRのアミノ酸配列のうちのいずれかについてのバリアントを含む完全ヒト抗TMPRSS6モノクローナル抗体も開示される。例えば、本開示には、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、及び/またはCDRのアミノ酸配列のうちのいずれかと比べて、例えば、10以下、8以下、6以下、4以下等の保存的アミノ酸置換を含むHCVR、LCVR、及び/またはCDRのアミノ酸配列を有する抗TMPRSS6抗体が含まれる。
「ヒト抗体」、または「完全ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体が含まれることが意図される。本明細書に開示されるヒトmAbには、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異な変異誘発によるか、またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)が、例えば、CDR内、特にCDR3内に含まれ得る。ただし、「ヒト抗体」、または「完全ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、別の哺乳動物(例えば、マウス)の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトFR配列にグラフトされているmAbを含めることは意図していない。かかる用語には、非ヒト哺乳類において、または非ヒト哺乳類の細胞において組換えにより産生される抗体が含まれる。この用語は、ヒト対象から単離されるかまたはヒト対象において生成される抗体を含めることを意図していない。
「組換え」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、DNAスプライシング及びトランスジェニック発現を含め、組換えDNA技術として当該技術分野で知られている技術または方法によって作製、発現、単離または取得される抗体もしくはその抗原結合性断片を指す。かかる用語は、非ヒト哺乳類(トランスジェニック非ヒト哺乳類、例えば、トランスジェニックマウスを含む)、もしくは細胞(例えば、CHO細胞)発現系で発現されるか、または組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離される抗体を指す。
「特異的に結合する」、または「に特異的に結合する」等の用語は、抗体またはその抗原結合性断片が、生理学的条件下で比較的安定な複合体を抗原と形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-8Mまたはそれ以下の平衡解離定数(例えば、より小さいKは、より強力な結合を表す)によって特徴付けることができる。2つの分子が特異的に結合するか否かを決定するための方法は当該技術分野において周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴法等が含まれる。本明細書に記載されるように、抗体は、TMPRSS6に特異的に結合する、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)によって同定された。さらに、TMPRSS6の1つのドメイン及び1つ以上の追加の抗原に結合する多重特異性抗体、またはTMPRSS6の2つの異なる領域に結合する二重特異性抗体は、そうであるにもかかわらず、本明細書で使用される場合は「特異的に結合する」抗体と見なされる。
「高親和性」抗体という用語は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)または溶液-親和性ELISAにより測定される、Kとして表されるTMPRSS6に対する結合親和性が少なくとも10-8M、好ましくは10-9M、より好ましくは10-10M、よりさらに好ましくは10-11MであるmAbを指す。
「低解離速度」、「Koff」または「kd」という用語は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)によって決定した場合に、1×10-3-1またはそれ以下、好ましくは1×10-4-1またはそれ以下の速度定数でTMPRSS6から解離する抗体を意味する。
抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性断片」等の用語には、本明細書で使用される場合、天然に存在するか、酵素により得られるか、合成であるか、もしくは遺伝子操作されている、抗原と特異的に結合して複合体を形成する任意のポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。抗体の「抗原結合性断片」、または「抗体断片」という用語は、本明細書で使用される場合、TMPRSS6タンパク質に結合する能力を保持している、抗体の1つ以上の断片を指す。
具体的な実施形態では、本開示の抗体または抗体断片は、リガンドもしくは治療用部分(「免疫複合体」)、第2の抗TMPRSS6抗体、またはTMPRSS6に関連する疾患もしくは障害を治療するのに有用な任意の他の治療用部分のような、部分に結合され得る。
「単離された抗体」は、本明細書で使用される場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)を実質的に含まない抗体を指すことが意図される(例えば、TMPRSS6またはその断片と特異的に結合する単離された抗体は、TMPRSS6以外の抗原と特異的に結合するAbを実質的に含まない)。
「表面プラズモン共鳴」という用語は、本明細書で使用される場合、例えばBIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,Sweden and Piscataway,N.J.)を使用した、バイオセンサー基質内のタンパク質濃度の変化を検出することによってリアルタイムの生体分子相互作用の分析を可能にする光学現象を指す。
「K」という用語は、本明細書で使用される場合、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すことが意図される。
「エピトープ」という用語は、抗体分子の可変領域にある特定の抗原結合部位(パラトープとして知られる)と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原が複数のエピトープを有する場合がある。したがって、異なる抗体が、ある抗原上の異なる領域に結合する場合があり、異なる生物学的作用を有し得る。「エピトープ」という用語はまた、B細胞及び/またはT細胞がそれに対して応答する抗原上の部位も指す。これはまた、抗体が結合している抗原の領域も指す。エピトープは、構造的または機能的と定義され得る。機能的エピトープは一般に、構造的エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接寄与する残基を有する。エピトープは、立体構造的、すなわち、非直鎖状アミノ酸で構成される場合もある。ある特定の実施形態では、エピトープには、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基等の化学的に活性な表面分子群である決定基が含まれ得、また、ある特定の実施形態では、特定の三次元構造特性、及び/または特定の電荷特性を有し得る。
いくつかの実施形態では、本明細書に開示の抗体及び抗原結合性断片は、ヒトTMPRSS6(NP_705837.1;配列番号126)のG699、H701、D724、Q726、L727、I728、P729、L732、E735、G749、Y750、R751、K752、及びN791を含むエピトープまたはエピトープの一部を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示の抗体及び抗原結合性断片は、ヒトTMPRSS6(NP_705837.1;配列番号126)のV490、S501、T502、C503、I504、S505、及びK508を含むエピトープまたはエピトープの一部を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示の抗体及び抗原結合性断片は、ヒトTMPRSS6の2つの部分、すなわち、ヒトTMPRSS6のG699、H701、D724、Q726、L727、I728、P729、L732、E735、G749、Y750、R751、K752、及びN791を含む第1の部分と、ヒトTMPRSS6(NP_705837.1;配列番号126)のV490、S501、T502、C503、I504、S505、及びK508を含む第2の部分と、を含むエピトープを含む。
他の実施形態では、本明細書に開示の抗体及び抗原結合性断片は、ヒトTMPRSS6(NP_705837.1;配列番号126)のR597、R599、I601、D622、L710、R711、E712、G713、G714、P715、及びI716を含むエピトープまたはエピトープの一部を含む。
「交差競合する」という用語は、本明細書で使用される場合、ある抗体またはその抗原結合性断片が抗原に結合し、別の抗体またはその抗原結合性断片の結合を阻害または遮断することを意味する。かかる用語には、2つの抗体間の両方向の競合、すなわち、結合して、第2の抗体の結合を遮断する第1の抗体、及びその逆も含まれる。ある特定の実施形態では、第1の抗体及び第2の抗体は、同じエピトープに結合し得る。別法として、第1及び第2の抗体は、一方の結合が第2の抗体の結合を、例えば、立体障害により阻害または遮断するように、異なるが重複しているエピトープに結合し得る。抗体間の交差競合は、当該技術分野で知られる方法、例えば、リアルタイムの無標識バイオレイヤー干渉法によって測定され得る。2つの抗体間の交差競合は、自己-自己結合(第1と第2の抗体が同じ抗体である)のためバックグラウンドシグナルより小さい第2の抗体の結合として表され得る。2つの抗体間の交差競合は、例えば、ベースラインの自己-自己バックグラウンド結合(第1と第2の抗体が同じ抗体である)より小さい第2の抗体の結合%として表され得る。
「実質的な同一性」または「実質的に同一な」という用語は、核酸またはその断片に言及している場合、以下に考察するように、適切なヌクレオチドの挿入または欠失を行って別の核酸(またはその相補鎖)と最適に整列させた場合に、FASTA、BLAST、またはGAP等の任意の周知の配列同一性アルゴリズムにより測定される、ヌクレオチド塩基の少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%にヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子に対して実質的な同一性を有する核酸分子は、ある特定の場合には、参照核酸分子によりコードされるポリペプチドと同じかまたは実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし得る。
ポリペプチドに適用される場合の「実質的な類似性」または「実質的に類似の」という用語は、2つのペプチド配列が、デフォルトのギャップ重みを使用したGAPプログラムまたはBESTFITプログラム等によって最適に整列された場合に、少なくとも90%の配列同一性、よりさらに好ましくは、少なくとも95%、98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換が異なる。「保存的アミノ酸置換」は、あるアミノ酸残基が、化学的特性(例えば、電荷または疎水性)が類似の側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能特性を実質的に変化させることはない。2個以上のアミノ酸配列が、互いに保存的置換が異なる場合、類似性の割合または程度は、置換の保存的性質について修正するよう上方調整され得る。この調整を行うための手段は当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照のこと。化学的特性が類似した側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン、2)脂肪族ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン、3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン、4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン、5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン、6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、ならびに7)硫黄含有側鎖:システイン及びメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換の基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、及びアスパラギン-グルタミンである。代わりに、保存的置き換えは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443 45に開示されているPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置き換えは、PAM250対数尤度行列において非負の値を有する任意の変化である。
ポリペプチドの配列類似性は典型的には、配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含め、様々な置換、欠失及び他の修飾に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似配列をマッチさせる。例えば、GCGソフトウェアには、GAP及びBESTFIT等のプログラムが含まれており、これらをデフォルトのパラメータで使用して、異なる生物種からの相同ポリペプチド等の密接に関連するポリペプチド間、または野生型タンパク質とその変異タンパク質間の、配列相同性または配列同一性を決定することができる。例えば、GCGバージョン6.1を参照のこと。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1に入っているプログラムFASTAをデフォルトまたは推奨されるパラメータで使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)では、クエリー配列と検索配列との間の最良重複領域のアラインメント及び配列同一性パーセントが提供される(Pearson(2000)(上掲))。ある配列を、異なる生物からの大量の配列を収めたデータベースに対して比較する際の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトのパラメータを使用するコンピュータプログラムのBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、参照により本明細書にそれぞれ組み込まれるAltschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410及び(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402を参照のこと。
「治療的有効量」という表現は、投与される理由となる所望の効果を生じる量を意味する。正確な量は、治療の目的に応じて異なり、既知の手法を使用して当業者により確認可能である(例えば、Lloyd(1999)The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照のこと)。
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ベータサラセミアもしくは骨髄異形成症候群等のTMPRSS6に関連する疾患もしくは障害の、改善、予防及び/または治療を必要とする動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。かかる用語には、そのような疾患または障害を有するか、または有するリスクのあるヒト対象が含まれる。
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、本明細書に開示の抗体または抗原結合性断片等の治療剤を、それを必要とする対象に投与することに起因する、TMPRSS6に関連する疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候の重症度の低減または改善を指す。かかる用語には、疾患の進行の阻害または症状/徴候の悪化の阻害が含まれる。かかる用語には、疾患の良好な予後も含まれ、すなわち、本明細書に開示の抗体または抗原結合性断片等の治療剤の投与時、対象が無病の場合もあれば、疾患が軽減している場合もある。治療剤は、治療用量で対象に投与され得る。
「予防する」、「予防すること」または「予防」という用語は、本明細書に開示の抗体または抗原結合性断片の投与時、TMPRSS6に関連する疾患もしくは障害またはそのような疾患もしくは障害の任意の症状もしくは徴候の発現の阻害を指す。
抗体の抗原結合性断片
別段の具体的な指示がない限り、「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、2本の免疫グロブリン重鎖及び2本の免疫グロブリン軽鎖を含む抗体分子(すなわち、「完全抗体分子」)ならびにそれらの抗原結合性断片を包含すると理解されるものとする。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性断片」等の用語には、本明細書で使用される場合、天然に存在するか、酵素により得られるか、合成であるか、もしくは遺伝子操作されている、抗原と特異的に結合して複合体を形成する任意のポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。抗体の「抗原結合性断片」、または「抗体断片」という用語は、本明細書で使用される場合、TMPRSS6タンパク質に特異的に結合する能力を保持している、抗体の1つ以上の断片を指す。抗体断片には、Fab断片、F(ab’)断片、Fv断片、dAb断片、CDRを含有する断片、または単離されたCDRが含まれ得る。抗体の抗原結合性断片は、タンパク消化等の任意の好適な標準手法、または抗体の可変ドメイン及び(任意に)定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子操作手法を使用して、例えば、完全抗体分子に由来し得る。そのようなDNAは、既知である、及び/または、例えば、商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ-抗体ライブラリー)から容易に入手可能である、または合成が可能である。DNAは配列決定されて、化学的に操作される場合もあれば、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/または定常ドメインを好適な立体配置に配置決定するため、あるいはコドンを導入する、システイン残基を作製する、アミノ酸を修飾、付加するかまたは欠失させる等のための分子生物学的手法を使用することによって操作される場合もある。
抗原結合性断片の非限定的な例としては、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、及び(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチド等の単離された相補性決定領域(CDR))または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位が挙げられる。他の操作された分子、例えば、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トリアボディー、テトラボディー、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小モジュール免疫薬(SMIP)、及びサメIgNAR可変ドメインもまた、本明細書で使用される場合、「抗原結合性断片」という表現内に包含される。
抗体の抗原結合性断片は典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成であってよく、一般に、1つ以上のフレームワーク配列に隣接するかまたはそのフレーム内にある、少なくとも1つのCDRを含む。Vドメインと関連するVドメインを有する抗原結合性断片では、Vドメイン及びVドメインは、互いに対して任意の好適な配置で位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり、V-V、V-VまたはV-Vという二量体を含有し得る。別法として、抗体の抗原結合性断片は、単量体のVドメインまたはVドメインを含有し得る。
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合性断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合で連結されている少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本明細書に開示される抗体の抗原結合性断片内に見出され得る可変ドメイン及び定常ドメインの非限定的な例示的立体配置としては、(i)V-C1、(ii)V-C2、(iii)V-C3、(iv)V-C1-C2、(v)V-C1-C2-C3、(vi)V-C2-C3、(vii)V-C、(viii)V-C1、(ix)V-C2、(x)V-C3、(xi)V-C1-C2、(xii)V-C1-C2-C3、(xiii)V-C2-C3、及び(xiv)V-Cが挙げられる。先に挙げた例示的立体配置の任意のものを含め、可変ドメイン及び定常ドメインの任意の立体配置において、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結されている場合もあれば、完全または部分的なヒンジもしくはリンカー領域によって連結されている場合もある。ヒンジ領域は、少なくとも2個(例えば、5個、10個、15個、20個、40個、60個以上)のアミノ酸からなり得、これが、単一ポリペプチド分子内で隣接する可変ドメイン及び/または定常ドメイン間に可動性または半可動性の結合をもたらす。さらに、本明細書に開示される抗体の抗原結合性断片は、互いに、及び/または1つ以上の単量体のVドメインもしくはVドメインと非共有結合で(例えば、ジスルフィド結合(複数可)によって)会合している、先に挙げた可変ドメインと定常ドメインとの立体配置のうちのいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
完全抗体分子の場合と同様、抗原結合性断片は、単一特異性または多重特異性(例えば、二重特異性)であり得る。抗体の多重特異性抗原結合性断片は典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、それぞれの可変ドメインが、別々の抗原かまたは同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体フォーマットを含め、任意の多重特異性抗体フォーマットは、当該技術分野で利用可能なルーチンの手法を使用して、本明細書に開示される抗体の抗原結合性断片との関連における使用に適合させることができる。
ヒト抗体の調製
トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を作製するための方法は、当該技術分野で知られている。そのような既知の方法のいずれも、TMPRSS6に特異的に結合するヒト抗体を作製するために本開示との関連で使用することができる。
TMPRSS6タンパク質に対する抗体を作製するために、以下のうちのいずれか1つを含む免疫原を使用することができる。ある特定の実施形態では、本明細書に開示される抗体は、全長天然TMPRSS6タンパク質(例えば、UniProtKB/Swiss-Prot受託番号Q8IU80を参照のこと)かまたはタンパク質もしくはその断片をコードするDNAで免疫されたマウスから取得される。別法として、タンパク質またはその断片を、標準の生化学的手法を使用して生成し、修飾して免疫原として使用してよい。
いくつかの実施形態では、免疫原は、E.coliかまたは任意の他の真核生物もしくは哺乳類の細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で発現される、組換えTMPRSS6タンパク質またはその断片であり得る(例えば、配列番号117~119)
VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標)を参照のこと)またはモノクローナル抗体を作製するための他の任意の既知の方法を使用して、TMPRSS6に対する高親和性キメラ抗体が、ヒト可変領域及びマウス定常領域を有して最初に単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術では、マウスが、抗原刺激に応答して、ヒト可変領域とマウス定常領域とを含む抗体を産生するよう、内因性マウス定常領域部位に機能的に連結されたヒトの重鎖及び軽鎖の可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの作製を伴う。抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、ヒトの重鎖及び軽鎖の定常領域をコードするDNAに機能的に連結される。その後、完全ヒト抗体を発現することのできる細胞でDNAが発現される。
一般に、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに目的抗原を投与し、抗体を発現するマウスからリンパ系細胞(B細胞等)を回収する。リンパ系細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死のハイブリドーマ細胞株を調製してよく、そのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングして選択し、目的抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定する。重鎖及び軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、重鎖及び軽鎖の、望ましいアイソタイプの定常領域に連結され得る。そのような抗体タンパク質は、CHO細胞等の細胞内で産生され得る。別法として、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖及び重鎖の可変ドメインをコードするDNAは、抗原特異的リンパ球から直接単離され得る。
最初に、高親和性キメラ抗体が、ヒト可変領域及びマウス定常領域を有して単離される。下記の実験の項と同様に、抗体は、特徴付けが行われ、親和性、選択性、エピトープ等を含めた望ましい特徴について選択される。マウス定常領域は、本明細書に開示されるような完全ヒト抗体、例えば、野生型または修飾されたIgG1もしくはIgG4を作製するために、所望のヒト定常領域で置き換えられる。選択される定常領域は特定の用途に応じて異なり得るが、高親和性抗原結合及び標的特異性の特徴は可変領域に存在する。
生物学的同等物
本明細書に開示される抗TMPRSS6抗体及び抗体断片は、アミノ酸配列であって、記載されている抗体のものとは異なるが、TMPRSS6タンパク質と結合する能力を保持している、アミノ酸配列、を有するタンパク質を包含する。そのようなバリアント抗体及び抗体断片は、親配列と比較した場合に、1つ以上の、アミノ酸の付加、欠失、または置換を含むが、記載されている抗体の生物学的活性と本質的に同等な生物学的活性を示す。同様に、本明細書に開示される、抗体をコードするDNA配列は、配列であって、本開示の配列と比較した場合に、1つ以上の、ヌクレオチドの付加、欠失、または置換を含むが、本明細書に開示される抗体または抗体断片と本質的に生物学的同等性である抗体または抗体断片をコードする、配列、を包含する。
2つの抗原結合タンパク質、または抗体は、例えば、それらが、単回投与もしくは多回投与のいずれでも、類似の実験条件下で同じモル用量にて投与した場合に吸収の速度及び程度に顕著な差を示さない医薬同等物または医薬代替物である場合、生物学的に同等であると見なされる。いくつかの抗体は、それらが、それらの吸収速度ではなくそれらの吸収の程度において同等である場合に同等物または医薬代替物と見なされ、さらに、吸収速度のそのような差が、意図的であり、かつ、表示に反映されており、例えば慢性使用時、有効な体内薬物濃度の達成に不可欠ではなく、また試験される特定の医薬品の場合に医学的に重要ではないと見なされるために、生物学的に同等と見なされる場合がある。
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、それらの安全性、純度、または効力に臨床的に意味のある差がない場合、生物学的に同等である。
一実施形態では、患者が、参照製品と生物由来製品との1回以上の切り替えを、そのような切り替えを行わずに治療を継続した場合と比較して、免疫原性の臨床的に重要な変化または有効性の減弱等の有害作用のリスクの点で予測される上昇を伴わずに行うことが可能な場合、その2つの抗原結合タンパク質は生物学的に同等である。
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質がいずれも共通の作用機序(複数可)によって、そのような機序で既知の程度で、使用の条件(複数可)に対して作用する場合、それらは生物学的に同等である。
生物学的同等性は、インビボ法及び/またはインビトロ法により示され得る。生物学的同等性の評価としては、例えば、(a)血液、血漿、血清、または他の生体液中の抗体もしくはその代謝物の濃度を時間の関数として測定する、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験、(b)ヒトのインビボバイオアベイラビリティのデータと相関しており、それが合理的に予測されるインビトロ試験、(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理学的作用を時間の関数として測定する、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験、及び(d)抗体の安全性、有効性、またはバイオアベイラビリティもしくは生物学的同等性を確立する、十分に管理された臨床試験、が挙げられる。
本開示の抗体の生物学的に同等なバリアントは、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を行うことによって、または末端もしくは内部の、生物学的活性に必要とされない残基もしくは配列を欠失させることによって構築され得る。例えば、再生時の不要または誤った分子内ジスルフィド架橋の形成を防ぐために、生物学的活性に必須ではないシステイン残基を欠失させるかまたは別のアミノ酸で置き換えることができる。他の文脈では、生物学的に同等な抗体には、抗体のグリコシル化特性を変更するアミノ酸変化を含む抗体バリアント、例えば、グリコシル化を排除または除去する変異を含むものが含まれ得る。
Fcバリアントを含む抗TMPRSS6抗体
本明細書で言及される抗体は、典型的には、完全にヒトの可変領域を有するが、ヒトまたはマウスの定常領域を有する場合がある。当業者には理解されるように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換可能である(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体は、ヒトIgG4を有する抗体に変換可能である等)が、いずれの場合も、表1に示す数字の識別子によって示される可変ドメイン(CDRを含む)は同じままであり、抗原に対する結合特性は、Fcドメインの性質にかかわらず同一であるかまたは実質的に類似することが予測される。ある特定の実施形態では、抗体は、ヒトIgG4 Fcを含む。一実施形態では、ヒトIgG4 Fcは、二量体の安定化を促進するよう、ヒンジ領域(S108P)においてセリンからプロリンへの変異を含む。
本明細書に開示される特定の実施形態によれば、FcRn受容体への抗体の結合を、例えば、中性pHと比較して酸性pHで、増強または減弱させる1つ以上の変異を含むFcドメインを含む抗TMPRSS6抗体が提供される。例えば、本開示には、FcドメインのC2領域またはC3領域に変異を含む抗TMPRSS6抗体が含まれ、変異(複数可)により、酸性環境(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲であるエンドソーム内)におけるFcドメインのFcRnに対する親和性が高まる。そのような変異は、動物に投与された場合、抗体の血清中半減期の延長をもたらし得る。そのようなFc修飾の非限定的な例としては、例えば、250位(例えば、EもしくはQ);250位及び428位(例えば、LもしくはF);252位(例えば、L/Y/F/WもしくはT)、254位(例えば、SもしくはT)、及び256位(例えば、S/R/Q/E/DもしくはT)における修飾;あるいは428位及び/または433位(例えば、H/L/R/S/P/QもしくはK)及び/または434位(例えば、A、W、H、FもしくはY[N434A、N434W、N434H、N434FもしくはN434Y])における修飾;あるいは250位及び/または428位における修飾;あるいは307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、及び434位における修飾が挙げられる。一実施形態では、修飾は、428L(例えば、M428L)及び434S(例えば、N434S)の修飾;428L、259I(例えば、V259I)、及び308F(例えば、V308F)の修飾;433K(例えば、H433K)及び434(例えば、434Y)の修飾;252、254、及び256(例えば、252Y、254T、及び256E)の修飾;250Q及び428Lの修飾(例えば、T250Q及びM428L);ならびに307及び/または308の修飾(例えば、308Fもしくは308P)を含む。さらに別の実施形態では、修飾は、265A(例えば、D265A)及び/または297A(例えば、N297A)の修飾を含む。
例えば、本開示には、250Q及び248L(例えば、T250Q及びM248L);252Y、254T及び256E(例えば、M252Y、S254T及びT256E);428L及び434S(例えば、M428L及びN434S);257I及び311I(例えば、P257I及びQ311I);257I及び434H(例えば、P257I及びN434H);376V及び434H(例えば、D376V及びN434H);307A、380A及び434A(例えば、T307A、E380A及びN434A);ならびに433K及び434F(例えば、H433K及びN434F)から選択される1つ以上の変異対または変異群を含むFcドメインを含む抗TMPRSS6抗体が含まれる。本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の前述のFcドメイン変異及び他の変異についてのあらゆる可能な組み合わせが、本開示の範囲内で企図される。
本明細書ではまた、キメラ重鎖定常(C)領域を含む抗TMPRSS6抗体も開示され、キメラC領域は、複数の免疫グロブリンアイソタイプのC領域に由来するセグメントを含む。例えば、本明細書に開示される抗体は、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子またはヒトIgG4分子に由来するC3ドメインの一部もしくは全部と組み合わせた、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子またはヒトIgG4分子に由来するC2ドメインの一部もしくは全部を含むキメラC領域を含み得る。ある特定の実施形態によれば、本明細書に開示される抗体は、キメラヒンジ領域を有するキメラC領域を含む。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4のヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列(EU番号付けに従った228~236位のアミノ酸残基)と組み合わせた、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4のヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」アミノ酸配列(EU番号付けに従った216~227位のアミノ酸残基)を含み得る。ある特定の実施形態によれば、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1またはヒトIgG4の上部ヒンジに由来するアミノ酸残基、及びヒトIgG2の下部ヒンジに由来するアミノ酸残基を含む。本明細書に記載されるようなキメラC領域を含む抗体は、ある特定の実施形態では、抗体の治療上の特性または薬物動態学的特性に悪影響を及ぼすことなく、修飾Fcエフェクター機能を示し得る。(例えば、開示が参照によりその全体が本出願に組み込まれる米国特許出願公開第2014/0243504号を参照のこと)。
抗体及びその抗原結合性断片の生物学的特性
一般に、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6タンパク質に結合し、その活性(例えば、酵素活性)を阻害することによって機能する。いくつかの実施形態では、阻害されるTMPRSS6活性は、タンパク質分解活性である。
本明細書では、TMPRSS6タンパク質と結合する抗体及びその抗原結合性断片(すなわち、抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片)が開示される。ある特定の実施形態では、抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6の触媒ドメインに結合する。ある特定の実施形態では、抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6の触媒ドメインに結合するが、TMPRSS6の触媒三残基には結合しない。本明細書ではまた、TMPRSS6のLDLRaドメイン2(例えば、ヒトTMPRSS6(配列番号126)の残基492~526)内に位置する部位にて結合する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。いくつかの実施形態では、抗体及びその抗原結合性断片は、TMPRSS6上の複数の部位と結合または相互作用し得る。例えば、TMPRSS6の触媒ドメイン内の部位と結合する抗体またはその抗原結合性断片はまた、TMPRSS6のLDLRaドメイン2内部に含まれる部位(例えば、二次部位)にて結合し得る。
本明細書ではさらに、TMPRSS6の触媒ドメイン(例えば、ヒトTMPRSS6(配列番号126)の残基577~811)と結合する抗体及びその抗原結合性断片が開示され、その結合は、TMPRSS6の触媒三残基を直接的には閉塞しない。理論に拘束されることなく、抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片の結合がTMPRSS6の触媒三残基を直接的には閉塞しない場合、TMPRSS6は、それが基質、例えば、ヘモジュベリン(HJV)と結合する能力を保持し得る。例えば、ある特定の実施形態では、抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6に結合して、TMPRSS6を、TMPRSS6基質に結合することはできるがそれを切断することができない不活性型立体構造に維持する。ある特定の実施形態では、抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6に結合して、TMPRSS6を、ヘモジュベリンに結合することはできるがそれを切断することができない不活性型立体構造に維持する。そのような抗TMPRSS6抗体及びその抗原結合性断片は、TMPRSS6のアロステリック調節を媒介し得る。ある特定の実施形態では、抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6のアロステリック阻害を媒介する。本明細書ではまた、ヒトTMPRSS6タンパク質と結合し、かつ、TMPRSS6のアロステリック阻害物質である、抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書ではまた、TMPRSS6の触媒ドメインに結合する抗体及びその抗原結合性断片も開示され、その結合は、TMPRSS6の触媒三残基を直接閉塞する。理論に拘束されることなく、TMPRSS6の触媒三残基の閉塞は、TMPRSS6に結合する基質(例えば、ヘモジュベリン)の立体障害をもたらし得る。
本明細書では、例えば、本明細書で実施例3に定義されるアッセイフォーマットを使用して、表面プラズモン共鳴により測定した場合に、ヒトTMPRSS6タンパク質と(例えば、25℃において、または37℃において)約25nM未満のKで結合する抗体及び抗体の抗原結合性断片が開示される。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、例えば、本明細書で実施例3に定義されるアッセイフォーマット、もしくは実質的に類似のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴により測定した場合に、ヒトTMPRSS6と約25nM未満、約20nM未満、約15nM未満、約10nM未満、約9nM未満、約8nM未満、約7nM未満、約6nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約900ピコモル(pM)未満、約800pM未満、約700pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、または約150pM未満のKで結合する。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、ヒトTMPRSS6と約128pM~約21.2nMの範囲のKで結合する。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例3に定義されるアッセイフォーマットを使用して、表面プラズモン共鳴により測定した場合に、カニクイザル(例えば、Macaca fascicularis)TMPRSS6タンパク質と(例えば、25℃において、または37℃において)約30nM未満のKで結合する抗体及び抗体の抗原結合性断片も開示される。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、例えば、本明細書で実施例3に定義されるアッセイフォーマット、もしくは実質的に類似のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴により測定した場合に、カニクイザルTMPRSS6と約30nM未満、約25nM未満、約20nM未満、約15nM未満、約10nM未満、約9nM未満、約8nM未満、約7nM未満、約6nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約900ピコモル(pM)未満、約800pM未満、約700pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約150pM未満、約100pM未満、または約75pM未満のKで結合する。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、サルTMPRSS6と約65pM~約25.7nMの範囲のKで結合する。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例3に定義されるアッセイフォーマットを使用して、表面プラズモン共鳴により測定した場合に、マウスTMPRSS6タンパク質と(例えば、25℃において、または37℃において)約750nM未満のKで結合する抗体及び抗体の抗原結合性断片も開示される。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、例えば、本明細書で実施例3に定義されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴により測定した場合に、マウスTMPRSS6と約750nM未満、約700nM未満、約650nM未満、約600nM未満、約550nM未満、約500nM未満、約450nM未満、約400nM未満、約350nM未満、約300nM未満、約250nM未満、約200nM未満、約150nM未満、約50nM未満、約1000ピコモル(pM)未満、約900pM未満、約800pM未満、約700pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約150pM未満、または約100pM未満のKで結合する。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、マウスTMPRSS6と約82.9pM~約703nMの範囲のKで結合する。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例5に記載されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、ヒトTMPRSS6を発現している細胞に約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約900pM未満、約800pM未満、または約700pM未満のEC50で結合する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、ヒトTMPRSS6を発現している細胞に約670pM~約2.7nMの範囲のEC50で結合する。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例5に記載されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、カニクイザルTMPRSS6を発現している細胞に約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、または約1nM未満のEC50で結合する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、カニクイザルTMPRSS6を発現している細胞に約940pM~約3.6nMの範囲のEC50で結合する。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例5に記載されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、マウスTMPRSS6を発現している細胞に約40nM未満、約35nM未満、約30nM未満、約25nM未満、約20nM未満、約15nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、または約0.9nM未満のEC50で結合する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、マウスTMPRSS6を発現している細胞に約840pM~約35nMの範囲のEC50で結合する。
一実施形態では、TMPRSS6タンパク質に特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片が本明細書に開示され、抗体またはその断片は、以下の特徴のうちの1つ以上を示す:(a)完全ヒトモノクローナル抗体である、(b)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、ヒトTMPRSS6に、25℃及び37℃において約21.2nM未満の解離定数(K)で結合する、(c)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、サルTMPRSS6に、25℃及び37℃において約25.7nM未満のKで結合する、(d)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、マウスTMPRSS6に、25℃及び37℃において約703nM未満のKで結合する、(e)ヒトTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約2.7nM未満である、(f)サルTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約3.6nM未満である、(g)マウスTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約35nM未満である、(h)表1に記載のHCDR1、HCDR2、及びHCDR3の配列から選択されるアミノ酸配列を含むHCDR1、HCDR2、及びHCDR3、及び/または、表1に記載のLCDR1、LCDR2、及びLCDR3の配列から選択されるアミノ酸配列を含むLCDR1、LCDR2、及びLCDR3、を含む、及び/または(i)表1に記載のHCVRの配列から選択されるアミノ酸配列を含むHCVR、及び表1に記載のLCVRの配列から選択されるアミノ酸配列を含むLCVR、を含む。
本明細書では、例えば、本明細書で実施例10、11、及び14に示されるように、TMPRSS6に結合し、血清鉄濃度の減少を必要とする対象のそれをもたらす抗体及びその抗原結合性断片が開示される。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例10、11、及び14に示されるように、TMPRSS6に結合し、血清ヘプシジン濃度の増加を必要とする対象のそれをもたらす抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書ではまた、TMPRSS6に結合し、成熟赤血球レベルの増加を必要とする対象のそれをもたらす抗体及びその抗原結合性断片も開示される。ある特定の実施形態では、TMPRSS6に結合する抗体及びその抗原結合性断片は、脾臓及び/または骨髄における成熟赤血球レベルの増加を必要とする対象のそれをもたらす。本明細書ではまた、TMPRSS6に結合し、脾臓の網状赤血球レベルの減少を必要とする対象のそれをもたらす抗体及びその抗原結合性断片も開示される。理論に拘束されることなく、そのようなTMPRSS6に結合する抗体及びその抗原結合性断片は、赤血球新生の改善を必要とする対象のそれをもたらす。ある特定の実施形態では、本開示の抗体及びその抗原結合性断片は、例えば、本明細書で実施例12に示されるように、TMPRSS6に結合し、赤血球新生の改善を必要とする対象のそれをもたらし、脾臓における二次的赤血球新生の必要性を低減させる。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例13に示されるように、TMPRSS6に結合し、ヘモグロビン濃度の増加を必要とする対象のそれをもたらす抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書では、例えば、本明細書で実施例14に示されるように、TMPRSS6に結合し、トランスフェリン飽和レベルの減少を必要とする対象のそれをもたらす抗体及びその抗原結合性断片が開示される。
本明細書では、TMPRSS6タンパク質に特異的に結合する単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片が開示され、抗体またはその抗原結合性断片は、それを必要とする対象に投与した場合に以下の特徴のうちの1つ以上を示す:(a)対象の血清鉄濃度を減少させる、(b)対象の血清ヘプシジン濃度を増加させる、(c)対象の成熟赤血球レベルを増加させる、(d)対象の脾臓及び/または骨髄における成熟赤血球レベルを増加させる、(e)対象のヘモグロビン濃度を増加させる、または(f)対象のトランスフェリン飽和レベルを低下させる。
本明細書では、血清鉄濃度を減少させることを必要とする対象のそれをもたらすのに有用な抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片が開示される。本明細書ではまた、血清ヘプシジン濃度を増加させることを必要とする対象のそれをもたらすのに有用な抗体またはその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、成熟赤血球レベルを上昇させることを必要とする対象のそれをもたらすのに有用な抗体またはその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、脾臓及び/または骨髄における成熟赤血球レベルを上昇させることを必要とする対象のそれをもたらすのに有用な抗体またはその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、ヘモグロビン濃度を増加させることを必要とする対象のそれをもたらすのに有用な抗体またはその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、トランスフェリン飽和レベルを低下させることを必要とする対象のそれをもたらすのに有用な抗体またはその抗原結合性断片も開示される。
本明細書では、血清鉄濃度の増加と関連する少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用な抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片が開示される。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、血清ヘプシジン濃度の減少と関連する少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、成熟赤血球レベルの低下と関連する少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、脾臓及び/または骨髄における成熟赤血球レベルの上昇と関連する少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、ヘモグロビン濃度の減少と関連する少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、トランスフェリン飽和レベルの増加と関連する少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。
抗体及びその抗原結合性断片は、前述の特徴のうちの1つ以上、またはその任意の組み合わせを有し得る。本開示の抗体及びその抗原結合性断片の他の特徴は、本明細書の研究実施例を含む本開示の概説から当業者に明らかとなるであろう。
TMPRSS6の阻害
本明細書では、細胞表面ヘモジュベリン(HJV)のプロテアーゼ依存性放出の存在下でヒトTMPRSS6を阻害する抗体及びその抗原結合性断片、例えば、ヒトTMPRSS6を阻害し、例えば、本明細書で実施例6に記載されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、阻害パーセントが約90%超(例えば、約89.2%超、約89.4%超、約89.6%超、約89.8%超、約90%超、約90.2%超、約90.4%超、約90.6%超、約90.8%超)である抗体及びその抗原結合性断片が開示される。本明細書ではまた、細胞表面ヘモジュベリン(HJV)のプロテアーゼ依存性放出の存在下でヒトTMPRSS6を阻害する抗体及びその抗原結合性断片、例えば、ヒトTMPRSS6を阻害し、例えば、本明細書で実施例6に記載されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、約70pM~約200pM(例えば、約69.3pM、約70pM、約80pM、約90pM、約100pM、約110pM、約120pM、約130pM、約140pM、約150pM、約160pM、約170pM、約180pM、約190pM、約202pM)の範囲のIC50値を示す抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書ではまた、細胞表面ヘモジュベリン(HJV)のプロテアーゼ依存性放出の存在下でマウスTMPRSS6を阻害する抗体及びその抗原結合性断片、例えば、マウスTMPRSS6を阻害し、例えば、本明細書で実施例6に記載されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、阻害パーセントが約42%~約98.5%(例えば、約41.6%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%)である抗体及びその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、細胞表面ヘモジュベリン(HJV)のプロテアーゼ依存性放出の存在下でマウスTMPRSS6を阻害する抗体及びその抗原結合性断片、例えば、マウスTMPRSS6を阻害し、例えば、本明細書で実施例6に記載されるアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、約82.6pM~約274pM(例えば、約81.8pM、約90pM、約100pM、約110pM、約120pM、約130pM、約140pM、約150pM、約160pM、約170pM、約180pM、約190pM、約200pM、約210pM、約220pM、約230pM、約240pM、約250pM、約260pM、約276pM)の範囲のIC50値を示す抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「CMバイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、ヒトTMPRSS6を約65%~約98%(例えば、約64.5%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98.9%)の阻害パーセントで阻害する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「CMバイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、ヒトTMPRSS6を阻害して、約710pM~約10nM超の範囲(例えば、約703pM、約750pM、約800pM、約850pM、約900pM、約950pM、約1nM、約5nM、約10.1nM)のIC50値を示す抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「CMバイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、サルTMPRSS6を約66%~約98%(例えば、約65.5%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98.9%)の阻害パーセントで阻害する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「CMバイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、サルTMPRSS6を阻害して、約740pM~約50nM超の範囲(例えば、約733pM、約750pM、約800pM、約850pM、約900pM、約950pM、約1nM、約10nM、約15nM、約20nM、約25nM、約30nM、約35nM、約40nM、約45nM、約50.5nM)のIC50値を示す抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「HEK293バイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、ヒトTMPRSS6を(例えば、25℃において、または37℃において)約86%~約90%(例えば、約85.2%、約85%、約91%)の阻害パーセントで阻害する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「HEK293バイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、ヒトTMPRSS6を(例えば、25℃において、または37℃において)阻害して、約360pM~約5.8nMの範囲(例えば、約357pM、約400pM、約500pM、約600pM、約700pM、約800pM、約900pM、約1nM、約2nM、約3nM、約4nM、約5nM)のIC50値を示す抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「HEK293バイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、サルTMPRSS6を(例えば、25℃において、または37℃において)約81%~約94%(例えば、約80.2%、約85%、約90%、約94.9%)の阻害パーセントで阻害する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「HEK293バイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、サルTMPRSS6を(例えば、25℃において、または37℃において)阻害して、約660pM~約30nMの範囲(例えば、約654pM、約700pM、約750pM、約800pM、約850pM、約900pM、約950pM、約1nM、約10nM、約15nM、約20nM、約25nM、約30.3nM)のIC50値を示す抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「HEK293バイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、マウスTMPRSS6を(例えば、25℃において、または37℃において)約58%~約103%(例えば、約57.5%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約104%)の阻害パーセントで阻害する抗体及びその抗原結合性断片も開示される。本明細書ではまた、例えば、本明細書で実施例7に記載される「HEK293バイオアッセイ」フォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して測定した場合に、マウスTMPRSS6を(例えば、25℃において、または37℃において)阻害して、約1.5nM~約35nMの範囲(例えば、約2nM、約10nM、約15nM、約20nM、約25nM、約30nM、約35.3nM)のIC50値を示す抗体及びその抗原結合性断片も開示される。
一実施形態では、TMPRSS6タンパク質に特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片が本明細書に開示され、抗体またはその断片は、以下の特徴のうちの1つ以上を示す:(a)約90%超の阻害パーセントで、ヒトTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、ヒトTMPRSS6を阻害する、(b)ヒトTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、ヒトTMPRSS6を阻害し、約200pM未満のIC50を示す、(c)約42%超の阻害パーセントで、マウスTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、マウスTMPRSS6を阻害する、(d)マウスTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、マウスTMPRSS6を阻害し、約274pM未満のIC50を示す、(e)ヒトTMPRSS6を25℃及び37℃において約65%超の阻害パーセントで阻害する、(f)ヒトTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約10nM未満のIC50を示す、(g)サルTMPRSS6を25℃及び37℃において約66%超の阻害パーセントで阻害する、(h)サルTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約50nM未満のIC50を示す、(i)マウスTMPRSS6を25℃及び37℃において約58%超の阻害パーセントで阻害する、(j)マウスTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約35nM未満のIC50を示す、(k)完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である、(l)表1に記載のHCDR1、HCDR2、及びHCDR3の配列から選択されるアミノ酸配列を含むHCDR1、HCDR2、及びHCDR3、及び/または、表1に記載のLCDR1、LCDR2、及びLCDR3の配列から選択されるアミノ酸配列を含むLCDR1、LCDR2、及びLCDR3、を含む、及び/または(m)表1に記載のHCVRの配列から選択されるアミノ酸配列を含むHCVR、及び表1に記載のLCVRの配列から選択されるアミノ酸配列を含むLCVR、を含む。
抗体及びその抗原結合性断片は、前述の特徴のうちの1つ以上、またはその任意の組み合わせを有し得る。本開示の抗体及びその抗原結合性断片の他の特徴は、本明細書の研究実施例を含む本開示の概説から当業者に明らかとなるであろう。
エピトープマッピング及び関連技術
本明細書では、TMPRSS6タンパク質分子の1つ以上の領域内に見出される1個以上のアミノ酸と相互作用する抗TMPRSS6抗体が開示される。抗体が結合するエピトープは、TMPRSS6タンパク質分子の前述のドメインのうちいずれかの内部に位置する3個以上(例えば、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、またはそれ以上)のアミノ酸の単一連続配列からなり得る(例えば、ドメイン内の線状エピトープ)。別法として、エピトープは、タンパク質分子の前述のドメインのいずれか、または両方の内部に位置する複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなり得る。一実施形態では、エピトープは、立体構造エピトープである。
抗体がポリペプチドまたはタンパク質内の「1個以上のアミノ酸と相互作用する」か否かを決定するために当業者に知られる様々な手法を使用することができる。例示的手法としては、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY)に記載のような、ルーチンの交差ブロッキングアッセイが挙げられる。他の方法としては、アラニンスキャニング変異解析、ペプチドブロット分析(Reineke(2004)Methods Mol.Biol.248:443-63)、ペプチド切断分析結晶構造研究及びNMR分析が挙げられる。さらに、エピトープ除去(epitope excision)、エピトープ抽出及び抗原の化学修飾等の方法を用いることができる(Tomer(2000)Prot.Sci.9:487-496)。
抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析法によって検出される水素/重水素交換である。例えば、本開示の実施例8を参照のこと。大まかに言えば、水素/重水素交換法では、目的タンパク質を重水素で標識し、その後、重水素標識されたタンパク質に抗体を結合させることを伴う。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移すと、抗体複合体により保護されているアミノ酸内の交換性のプロトンは、界面の一部ではないアミノ酸内の交換性のプロトンよりも低速で重水素から水素への逆交換を受ける。結果として、タンパク質/抗体の界面の一部を形成するアミノ酸は重水素を保持し得、したがって、界面には含まれないアミノ酸と比較して相対的に高い質量を示し得る。抗体の解離の後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断及び質量分析に供し、それにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267:252-259、Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照のこと。
抗原構造に基づく抗体プロファイリング(Antigen Structure-based Antibody Profiling)(ASAP)としても知られる、修飾を利用したプロファイリング(Modification-Assisted Profiling)(MAP)は、同一抗原に対する多数のモノクローナル抗体(mAb)を、化学的または酵素により修飾された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性に従って分類する方法である(参照により全体が本明細書に明確に組み込まれるUS2004/0101920を参照のこと)。各カテゴリは、別のカテゴリによって表されるエピトープとは明確に異なるかまたはそれと部分的に重複する、いずれかの特有のエピトープを反映し得る。この技術は、遺伝学的に同一な抗体の迅速なフィルタリングを可能にし、特徴付けでは、遺伝学的に異なる抗体に焦点を当てることができる。ハイブリドーマスクリーニングに適用すると、MAPにより、所望の特性を有するmAbを産生する希少なハイブリドーマクローンの同定が容易になり得る。MAPは、本明細書に開示される抗体を、異なるエピトープに結合する抗体の群に分類するために使用され得る。
本開示には、表1に記載の特定の例示的抗体のうちのいずれかと同じエピトープまたはエピトープの一部に結合する抗TMPRSS6抗体が含まれる。同様に、本明細書では、TMPRSS6タンパク質またはその断片への結合について、表1に記載の特定の例示的抗体のうちのいずれかと競合する抗TMPRSS6抗体も開示される。例えば、本開示には、TMPRSS6タンパク質への結合について、表1に記載の1つ以上の抗体と交差競合する抗TMPRSS6抗体が含まれる。
抗体が、参照抗TMPRSS6抗体と同じエピトープに結合するか否か、または結合についてそれと競合するか否かを、当該技術分野で知られるルーチンの方法を使用して決定することができる。例えば、被験抗体が、本明細書に開示される参照抗TMPRSS6抗体と同じエピトープに結合するか否かを決定するには、参照抗体を、飽和条件下でTMPRSS6タンパク質またはペプチドに結合させる。次に、被験抗体がTMPRSS6タンパク質分子に結合する能力を評価する。被験抗体が、参照抗TMPRSS6抗体との飽和結合の後にTMPRSS6に結合できる場合、その被験抗体は、参照抗TMPRSS6抗体のエピトープとは異なるエピトープに結合すると結論づけることができる。一方、被験抗体が、参照抗TMPRSS6抗体との飽和結合の後にTMPRSS6タンパク質に結合できない場合は、その被験抗体は、本明細書に開示される参照抗TMPRSS6抗体が結合しているエピトープと同じエピトープに結合し得る。
ある抗体が、結合について参照抗TMPRSS6抗体と競合するか否かを決定するには、上記の結合方法を2方向で実施する、すなわち、第1の方向では、参照抗体を、飽和条件下でTMPRSS6タンパク質に結合させ、その後、TMPRSS6分子に対する被験抗体の結合の評価を行う。第2の方向では、被験抗体を、飽和条件下でTMPRSS6分子に結合させ、その後、TMPRSS6分子に対する参照抗体の結合の評価を行う。いずれの方向においても、第1の(飽和)抗体のみがTMPRSS6分子に結合することができる場合は、被験抗体と参照抗体がTMPRSS6への結合について競合すると結論づけられる。当業者には理解されるように、参照抗体と結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープに結合するわけではないが、重複または隣接するエピトープと結合することによって参照抗体の結合を立体的に遮断し得る。
2つの抗体が各々、抗原に対する他方の結合を競合的に阻害する(遮断する)場合、それらは同じかまたは重複するエピトープに結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍または100倍過剰の1つの抗体は、競合結合アッセイで測定した場合に、他方の結合を少なくとも50%、好ましくは、75%、90%、さらには99%阻害する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990 50:1495-1502を参照のこと)。別法として、一方の抗体の結合を低下させるかまたは排除する、抗原のアミノ酸変異の本質的にすべてが、他方の結合を低下させるかまたは排除する場合、2つの抗体はエピトープが同じである。一方の抗体の結合を低下させるかまたは排除する、アミノ酸変異のいくつかが、他方の結合を低下させるかまたは排除する場合、2つの抗体はエピトープが重複している。
その後で、追加のルーチンの実験(例えば、ペプチド変異及び結合分析)を行って、観察された被験抗体の結合欠如が、実際に参照抗体と同じエピトープへの結合によるものなのか否か、または立体遮断(または別の現象)が、観察された結合の欠如の原因であるのかを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリーまたは当該技術分野で利用可能な任意の他の定量的または定性的な抗体結合アッセイを使用して実施可能である。
免疫複合体
本開示は、TMPRSS6に関連する疾患または障害(例えば、鉄過剰障害)を治療するための、治療用部分(「免疫複合体」)に結合させたヒト抗TMPRSS6モノクローナル抗体を包含する。本明細書で使用される場合、「免疫複合体」という用語は、放射活性物質、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドもしくはタンパク質または治療剤に化学的または生物学的に連結された抗体を指す。抗体は、それがその標的と結合できる限りは、分子に沿った任意の位置で放射活性物質、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドまたは治療剤に連結され得る。免疫複合体の例としては、抗体薬物複合体及び抗体-毒素融合タンパク質が挙げられる。一実施形態では、薬剤は、TMPRSS6タンパク質に対する第2の異なる抗体であり得る。抗TMPRSS6抗体に結合され得る治療用部分の種類には、治療されるべき状態及び達成されるべき所望の治療効果が考慮される。免疫複合体を形成するための好適な物質の例は、当該技術分野で知られており、例えば、WO05/103081を参照のこと。
治療的投与及び製剤
本開示は、本明細書に開示の抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片を含む治療用組成物を提供する。本開示による治療用組成物は、改善された導入、送達、忍容性等を提供するために製剤に組み込まれる好適な担体、賦形剤、及び他の薬剤と共に投与される。すべての薬剤師に知られる医薬品集であるRemington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAに多数の適切な製剤を見出すことができる。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小胞(LIPOFECTIN(商標)等)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型及び油中水型乳剤、エマルジョンカーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、及びカーボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照のこと。
例えば、リポソーム内封入、微粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシス(例えば、Wu et al.(1987)J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照のこと)等の様々な送達システムが既知であり、本明細書に開示される医薬組成物を投与するために使用することができる。導入の方法としては、皮内、経皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外及び経口による経路が挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、任意の好都合な経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮または皮膚粘膜の層(lining)(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜及び腸管粘膜等)を介した吸収によって投与され得、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与され得る。投与は、全身投与または局所投与であり得る。医薬組成物はまた、ベシクル、特にリポソームで送達され得る(例えば、Langer(1990)Science 249:1527-1533を参照のこと)。
本明細書に開示される抗体を送達するためのナノ粒子の使用もまた本明細書で企図される。抗体結合ナノ粒子は、治療用途にも診断用途にも使用され得る。抗体結合ナノ粒子ならびに調製方法及び使用方法は、Arruebo,M.,et al.2009(“Antibody-conjugated nanoparticles for biomedical applications” in J.Nanomat.Volume 2009,Article ID 439389,24頁,doi:10.1155/2009/439389)によって詳述されており、参照により本明細書に組み込まれる。ナノ粒子を作製して、細胞を標的とする医薬組成物に含有される抗体に結合させてよい。薬物送達のためのナノ粒子もまた、例えば、US8257740またはUS8246995に記載されており、それぞれ、その全体が本明細書に組み込まれる。
ある特定の状況では、医薬組成物は、放出制御システムで送達され得る。一実施形態では、ポンプが使用され得る。別の実施形態では、高分子材料を使用することができる。さらに別の実施形態では、放出制御システムを組成物の標的に近接して配置することができ、そのため、ごく少量の全身用量で済む。
注射用の調製物には、静脈内、皮下、頭蓋内、腹腔内及び筋肉内への注射、点滴注入等のための剤形が含まれ得る。これらの注射用の調製物は、公知の方法によって調製され得る。
本開示の医薬組成物は、標準的な針及びシリンジを用いて皮下または静脈内に送達され得る。さらに、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本明細書に開示されるような医薬組成物を送達する際に容易に適用される。そのようなペン型送達デバイスは、再使用可能または使い捨てのいずれも可能である。再使用可能ペン型送達デバイスは一般に、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内のすべての医薬組成物が投与されるとカートリッジは空になり、空のカートリッジを廃棄して医薬組成物を含有する新たなカートリッジに交換することが容易に行える。その後、ペン型送達デバイスを再度使用することができる。使い捨てペン型送達デバイスでは交換可能なカートリッジはない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスには、医薬組成物が予め充填され、デバイス内のリザーバに保持されている。リザーバの医薬組成物が空になったら、デバイスごと廃棄する。
有利なことに、上記の経口使用または非経口使用のための医薬組成物は、有効成分の用量に適合するよう合わせた単位用量で剤形に調製される。そのような単位用量での剤形には、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射(アンプル)、坐剤等が含まれる。
抗体の治療的使用
本開示の抗TMPRSS6抗体及びその抗原結合性断片は、TMPRSS6と関連する疾患もしくは障害もしくは状態の治療及び/または予防に、及び/またはそのような疾患、障害もしくは状態と関連する少なくとも1つの症状を改善するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6と関連する疾患または障害または状態を有する対象に治療用量で投与され得る。
ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、TMPRSS6に関連する疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、TMPRSS6に関連する疾患または障害は、鉄過剰障害である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、先天性赤血球形成異常性貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血、アルファサラセミア、ベータサラセミア、輸血依存性溶血性貧血、骨髄異形成症候群、鎌状赤血球症、真性多血症、遺伝性ヘモクロマトーシス、原発性ヘモクロマトーシス、続発性ヘモクロマトーシス、重度の若年性ヘモクロマトーシス、または慢性肝疾患の、少なくとも1つの症状を治療または予防するのに有用である。
ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、ベータサラセミアの少なくとも1つの症状、合併症、または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、ベータサラセミアは、重症型ベータサラセミアまたは中等症型ベータサラセミアである。ベータサラセミアの症状としては、疲労、脱力、青白いまたは黄色がかった皮膚、顔の骨の変形、成長の遅さ、腹部膨満、暗色尿、及び他の合併症(例えば、治療による合併症)が挙げられる。中等度から重度のベータサラセミアの合併症の例としては、鉄過剰症が挙げられ、これは、疾患の結果、または頻回の輸血による結果のいずれでもあり得、また心臓、肝臓、及び内分泌系(例えば、全身のプロセスを調節するホルモン産生腺)等の臓器への損傷、及び感染リスクの上昇と関連する。重度ベータサラセミアの合併症には、骨変形、腫大した脾臓、成長速度の低下、及び心臓の問題も含めることができる。
ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、ヘモクロマトーシスの少なくとも1つの症状、合併症、または徴候を治療または予防するのに有用である。ヘモクロマトーシスの症状としては、例えば、関節痛、腹痛、脱力、疲労、糖尿病、性的欲求、インポテンス、心不全、肝不全、青銅色または灰色の皮膚色、及び記憶の曖昧さが挙げられる。ヘモクロマトーシスによる合併症としては、例えば、肝臓の問題、膵臓の問題、心臓の問題、生殖の問題、及び皮膚色の変化が挙げられる。
ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、鉄過剰と関連する少なくとも1つの症状、合併症、または徴候を治療または予防するのに有用である。鉄過剰は、遺伝性の疾患もしくは障害の結果、あるいは頻回の輸血を受けている、高濃度の鉄補充を消費している、及び/または鉄を含む注射を受けている結果であり得る。鉄過剰をもたらす遺伝性疾患としては、遺伝性ヘモクロマトーシス、鎌状赤血球病及び鉄芽球性貧血等の様々な貧血、アフリカ鉄過剰症(例えば、罹患者が多量の鉄を含有する飲料を飲んでいる場合)、酵素欠損(例えば、ピルビン酸キナーゼの欠損、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼの欠損)、ならびにタンパク質輸送障害、例えば、無セルロプラスミン血症及び無トランスフェリン血症が挙げられる。
鉄過剰の症状としては、例えば、疲労(例えば、慢性疲労)、関節痛、腹痛、肝疾患(例えば、肝硬変、肝癌、真性糖尿病、心臓に関する問題(例えば、不規則な心拍リズム、心臓発作、心不全)、皮膚色の変化(例えば、青銅色、灰緑色)、期間の消失(loss of period)、性への関心喪失、インポテンス、不妊症、性腺機能低下、骨に関する問題(例えば、変形性関節症、骨粗鬆症)、脱毛、肝臓または脾臓の腫大、甲状腺機能低下、下垂体機能低下、うつ病、副腎機能の問題、早期発症神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、若年性パーキンソン病、ハンチントン病、てんかん、多発性硬化症)、ならびに血糖、肝酵素、血清鉄、血清トランスフェリン、及び血清フェリチン等のマーカーの上昇が挙げられる。
ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、輸血を受けていること、例えば、頻回及び/または定期的輸血を受けていることに関連する、少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、失血をもたらす身体的外傷と関連する少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、失血をもたらす身体的外傷は、輸血による治療を必要とする。したがって、失血をもたらす身体的外傷と関連する症状または徴候は、輸血による身体的外傷の治療と関連する任意の症状または徴候(例えば、鉄過剰)であり得る。例えば、身体的外傷は、輸血を要する失血をもたらす外傷性事故(例えば、四肢の喪失、鈍的外力による外傷、深傷につながるもの)であり得る。ある特定の実施形態では、必要とされる輸血(複数可)は、大量の輸血である。
ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、骨髄異形成症候群の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の開示される抗体またはその抗原結合性断片は、輸血依存性溶血性貧血の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、ピルビン酸キナーゼ欠乏症による輸血依存性溶血性貧血(すなわち、溶血性貧血)または鉄芽球性輸血依存性溶血性貧血(すなわち、鉄芽球性貧血)の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、鎌状赤血球貧血の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、赤血球異形成貧血の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、骨髄性ポルフィリン症の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、慢性肝疾患の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。ある特定の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、アルコール関連慢性肝疾患、C型肝炎、または自己免疫性肝炎の少なくとも1つの症状または徴候を治療または予防するのに有用である。
また、TMPRSS6に関連する疾患または障害を患うリスクのある対象における、本開示の抗体またはその抗原結合性断片の予防的使用も開示される。
いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、本明細書に開示される疾患、障害、または状態を患う対象を治療するための医薬組成物もしくは医薬品の調製のために使用される。別の実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合性断片は、本明細書に開示される疾患、障害または状態を治療または改善するのに有用な、当業者に知られる任意の他の薬剤もしくは任意の他の治療法を用いた補助療法として使用される。
併用療法
併用療法には、本開示の抗体またはその抗原結合性断片のうちの1つ以上、及び本開示の抗体またはその抗原結合性断片と有利に組み合わせることができる任意の追加の治療剤が含まれ得る。本開示の抗体または抗原結合性断片は、TMPRSS6に関連する疾患または障害を治療するために使用される1つ以上の薬物または治療法と相乗的に組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、本開示の抗体または抗原結合性断片は、前記の疾患または状態の1つ以上の症状を改善するために第2の治療剤と組み合わせることができる。
疾患、障害または状態に応じて、本明細書に開示の抗体または抗原結合性断片を、1つ以上の追加の治療剤と組み合わせて使用してよい。例えば、疾患、障害または状態が鉄過剰と関連する場合、本明細書に開示の抗体または抗原結合性断片は、1つ以上の除鉄療法及び/または鉄過剰を治療するために現在用いられている治療法と組み合わせて使用され得る。
ある特定の実施形態では、鉄過剰を治療するために鉄キレート療法が用いられ得る。鉄キレート療法は、鉄キレート剤を用いた鉄の薬理学的除去である。鉄キレート剤の例としては、デフェロキサミン、デフェラシロクス、及びデフェリプロンが挙げられる。(例えば、Mobarra et al.,Int.J.Hematol.Oncol.Stem Cell Res.(2016)10(4):239-247を参照のこと)。鉄キレート剤の他の例は当業者に知られており、例えば、Hatcher et al.,Future Med.Chem.(2009)1(9):1643-70に概説されているものがある。
鉄過剰を治療するために用いられ得る他の治療法としては、限定することなく、ビタミンE、小麦胚芽油、トコフェルソラン、インジカキサンチン、葉酸、胎児ヘモグロビン濃度を上昇させる薬剤(例えば、ヒドロキシ尿素、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤及び/またはDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、酪酸誘導体、アザシチジン、デシタビン(5-アザ2-デオキシシチジン)及びトリコスタチン-A)、ヘミン、ポマリドミド、サリドマイド、サイトカイン(幹細胞因子(SCF)及びトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFベータ)等))、潰瘍を管理するための薬剤、感染を管理するための薬剤(例えば、抗生物質及び抗ウイルス薬)、血栓症を治療するための薬剤、または貧血を治療するための薬剤(例えば、ルスパテルセプト)等の薬剤の使用が挙げられる。
鉄過剰を、幹細胞または骨髄移植、輸血、または瀉血により治療することもできる。
本明細書で使用される場合、「と組み合わせて」という用語は、追加の治療的活性成分(複数可)が、本明細書に開示の抗TMPRSS6抗体または抗原結合性断片の投与の前か、同時か、または後で投与され得ることを意味する。「と組み合わせて」という用語は、には、本開示の抗TMPRSS6抗体または抗原結合性断片のうちの1つ以上及び第2の治療剤の、連続投与または併用投与も含まれる。
追加の治療的活性成分(複数可)は、本開示の抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片のうちの1つ以上の投与の前に対象に投与され得る。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与の1週間前、72時間前、60時間前、48時間前、36時間前、24時間前、12時間前、6時間前、5時間前、4時間前、3時間前、2時間前、1時間前、30分前、または30分より前に投与される場合、第1の成分は、第2の成分「の前」に投与されると見なされ得る。
他の実施形態では、追加の治療的活性成分(複数可)は、本開示の抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片のうちの1つ以上の投与の後に対象に投与され得る。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与の30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後、72時間後、またはそれより後に投与される場合、第1の成分は、第2の成分「の後」に投与されると見なされ得る。
他の実施形態では、追加の治療的活性成分(複数可)は、本開示の抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片のうちの1つ以上の投与と同時に対象に投与され得る。「同時」投与には、本開示の目的の場合、例えば、本開示の抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片のうちの1つ以上及び追加の治療的活性成分の投与を単一剤形で対象に行うか、または互いに約30分以内に対象に投与される別々の剤形で行うことが含まれる。別々の剤形で投与される場合、各剤形が同じ経路により投与される(例えば、抗TMPRSS6抗体及び追加の治療的活性成分の両方が静脈内等に投与され得る)場合もあれば、別法として、各剤形が異なる経路(例えば、開示の抗体または抗原結合性断片が静脈内投与され得、追加の治療的活性成分は、経口投与され得る)により投与される場合もある。成分を、単一剤形、同じ経路による別々の剤形、または異なる経路による別々の剤形で投与することはいずれも、本開示の目的の場合、「同時投与」と見なされる。本開示の目的の場合、追加の治療的活性成分の投与「の前」、それ「と同時」、またはそれ「の後」(それらの用語は本明細書で先に定義されているとおり)の本開示の抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片のうちの1つ以上の投与は、追加の治療的活性成分「と組み合わせた」本開示の抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片の投与と見なされる。
本明細書ではまた、本明細書に開示の抗TMPRSS6抗体または抗原結合性断片が、本明細書の他の箇所に記載されている追加の治療的活性成分(複数可)のうちの1つ以上と合剤化される医薬組成物も開示される。
抗体の診断的使用
本開示の抗体及びその抗原結合性断片は、試料中のTMPRSS6を、例えば診断を目的として、検出及び/または測定するために使用され得る。本明細書では、TMPRSS6に関連する疾患または障害を検出するためのアッセイにおける本開示の抗体及びその抗原結合性断片の使用が開示される。TMPRSS6の例示的診断アッセイは、例えば、患者から取得された試料を、検出可能な標識またはレポーター分子で標識された本明細書に開示の抗TMPRSS6抗体または抗原結合性断片と接触させることを含み得る。本開示の抗体及びその抗原結合性断片は、対象からの試料からTMPRSS6を選択的に単離するための捕捉リガンドとしても使用され得る。別法として、未標識の抗TMPRSS6抗体または断片を、それ自体が検出可能に標識されている二次抗体と組み合わせて診断用途に使用することができる。検出可能な標識またはレポーター分子は、H、14C、32P、35S、もしくは125I等のラジオアイソトープ;フルオレセインイソチオシアナート、もしくはローダミン等の蛍光部分または化学発光部分;またはアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼ等の酵素であり得る。試料中のTMPRSS6を検出または測定するために使用することができる特定の例示的アッセイとしては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定(RIA)、及び蛍光活性化細胞分類(FACS)が挙げられる。
TMPRSS6診断アッセイに使用することができる試料には、正常状態または病的状態下の、検出可能な量のTMPRSS6タンパク質またはその断片を含有する、患者から取得可能な任意の組織試料または体液試料が含まれる。一般に、TMPRSS6のベースライン、または標準の濃度を最初に確立するために、健常対象(例えば、TMPRSS6と関連する疾患に罹患していない患者)から取得される特定の試料中のTMPRSS6タンパク質の濃度が測定され得る。その後、このTMPRSS6のベースライン濃度が、TMPRSS6関連状態、またはそのような状態と関連する症状を有することが疑われる個人から取得された試料で測定されたTMPRSS6の濃度に対して比較され得る。
抗TMPRSS6抗体またはその抗原結合性断片は、追加の標識または部分を含有しない場合もあれば、それらがN末端またはC末端の標識または部分を含有する場合もある。一実施形態では、標識または部分はビオチンである。結合アッセイでは、標識(存在する場合)の位置により、ペプチドが結合している表面に対するペプチドの方向が決定され得る。例えば、表面がアビジンでコートされている場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端が表面に対して遠位となるような方向にある。
以下の実施例は、本明細書に開示される方法及び組成物を作製及び使用する方法に関する完全な開示及び記載を当業者に提供するために提示されており、発明者らが自身の発明であると見なす範囲を限定することは意図していない。使用する数字(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証するべく試みがなされたが、実験上の一部の誤差及び偏差が考慮されるべきである。別段に示されていない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度はセ氏温度であり、室温は約25℃であり、圧力は大気圧またはその近傍である。
実施例1:膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)に対するヒト抗体の作製
TMPRSS6タンパク質に対するヒト抗体を、ヒト免疫グロブリン重鎖及びカッパ軽鎖の可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスにおいて作製した。マウスに、流体力学的DNA送達によりヒトTMPRSS6 DNAで免疫及び追加免疫を行った。
抗TMPRSS6抗体を、参照によりその全体が本明細書に明確に組み込まれる米国特許第7,582,298号に記載のように、骨髄腫細胞への融合を行わずに抗原陽性マウスのB細胞から直接単離した。この方法を使用して、いくつかの完全ヒト抗TMPRSS6抗体(すなわち、ヒト可変ドメイン及びヒト定常ドメインを有する抗体)を得た。
上記の開示のように作製された例示的抗体を、mAb37746、mAb37763、mAb37777、mAb37699、mAb41422、mAb41465、及びmAb41450と命名し、表1及び表2において確認されるHCVR、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCVR、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3のアミノ酸配列及び核酸配列を有する。
本実施例の方法に従って作製された例示的抗体の生物学的特性は以下の実施例に詳述されている。
実施例2:重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列
表1は、選択された例示的抗TMPRSS6抗体の、重鎖及び軽鎖の可変領域配列、CDR配列、ならびに重鎖配列及び軽鎖配列のアミノ酸配列識別子を示す。
Figure 2024517931000001
選択された例示的抗TMPRSS6抗体の対応する核酸配列識別子を表2に記載する。
Figure 2024517931000002
抗体は、ヒトまたはマウスのFcアイソタイプを有し得る。当業者には理解されるように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換可能である(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体は、ヒトIgG1またはヒトIgG4を有する抗体に変換可能である等)が、いずれの場合も、表1に示す数字の識別子によって示される可変ドメイン(CDRを含む)は同じままであり、抗原に対する結合特性は、Fcドメインの性質にかかわらず同一であるかまたは実質的に類似することが予測される。
別段に示されていない限り、以下の実施例に使用される抗体はすべて、ヒンジ領域(S108P)においてセリンからプロリンへの変異を含むヒトIgG4 Fcを含む。ヒンジ領域(S108P)においてセリンからプロリンへの変異を含むヒトIgG4 Fcを含むmAb37746、mAb37763、mAb37777、mAb37699、mAb41422、mAb41465、及びmAb41450の例示的抗体をそれぞれ、REGN7969、REGN7971、REGN7973、REGN8023、REGN7974、REGN7977、及びREGN7999と命名した。表3は、これらの抗体の全長重鎖配列及び全長軽鎖配列のアミノ酸配列識別子を示す。
Figure 2024517931000003
実施例3:表面プラズモン共鳴によって決定されるTMPRSS6に結合する抗体
実験手順
異なるTMPRSS6モノクローナル抗体(mAb)に結合するTMPRSS6の平衡解離定数(K)を、Biacore 4000装置を使用したリアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサーを使用して決定した。結合研究はいずれも、10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、及び0.05v/v% Surfactant Tween-20、pH7.4(HBS-ET)のランニング緩衝液中で25℃及び37℃にて実施された。異なるTMPRSS6 mAbを捕捉するため、Biacore CM5センサーチップの表面を最初にヒトFc特異的マウスmAbとのアミンカップリングにより誘導体化した。C末端のmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグと共に発現されるS762A変異を有するヒトTMPRSS6細胞外ドメイン(hTMPRSS6_S762A-MMH;REGN5330と呼ぶ;配列番号117)、C末端のmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグと共に発現されるS751A変異を有するMacaca fascicularis TMPRSS6細胞外ドメイン(mfTMPRSS6_S751A-MMH;REGN5977と呼ぶ;配列番号119)、及びC末端のmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグと共に発現されるS762A変異を有するマウスTMPRSS6細胞外ドメイン(mTMPRSS6_S762A-MMH;REGN6848と呼ぶ;配列番号118)が含まれる実験では、いくつかのTMPRSS6試薬タンパク質を使用した。HBS-EPランニング緩衝液中に調製した異なる濃度(100nM~3.7nM、3倍段階希釈)のTMPRSS6試薬タンパク質を、TMPRSS6 mAbが捕捉された表面にわたり30μL/分の流速で150秒間注射し、HBS-ETランニング緩衝液中でのそれらの解離を10分間モニタリングした。各サイクルの終了時、TMPRSS6 mAbが捕捉された表面を、20mMのリン酸の12秒間注射を用いて再生した。
Scrubber 2.0(BioLogic Software)曲線フィッティングソフトウェアを使用して、リアルタイム結合センサーグラムをマストランスポートリミテーションのある1:1結合モデルにフィッティングすることによって会合速度(k)及び解離速度(k)を決定した。結合解離平衡定数(K)及び解離半減期(t1/2)を、
Figure 2024517931000004

として、動態から計算した。
結果
各TMPRSS6試薬タンパク質に対する異なる選択TMPRSS6 mAbの結合動態パラメータを表4から表9に示す。S
Figure 2024517931000005
表4に示すように、選択されたTMPRSS6 mAbは、25℃においてhTMPRSS6_S762A-MMHに約128pM~約2.63nMの範囲のK値で結合した。
Figure 2024517931000006
表5に示すように、選択されたTMPRSS6 mAbは、37℃においてhTMPRSS6_S762A-MMHに約2.24nM~約21.2nMの範囲のK値で結合した。
Figure 2024517931000007
表6に示すように、選択されたTMPRSS6 mAbは、25℃においてmfTMPRSS6_S751A-MMHに約65pM~約7.18nMの範囲のK値で結合した。
Figure 2024517931000008
表7に示すように、選択されたTMPRSS6 mAbは、37℃においてmfTMPRSS6_S751A-MMHに約750pM~約25.7nMの範囲のK値で結合した。
Figure 2024517931000009
表8に示すように、7つの選択TMPRSS6 mAbのうち3つは、25℃においてmTMPRSS6_S762A-MMHに約82.9pM~約233nMの範囲のK値で結合した。
Figure 2024517931000010
表9に示すように、7つの選択TMPRSS6 mAbのうち3つは、37℃においてmTMPRSS6_S762A-MMHに約317pM~約703nMの範囲のK値で結合した。
実施例4:選択された抗TMPRSS6モノクローナル抗体間の交差競合
実験手順
TMPRSS6モノクローナル抗体(mAb)間の結合の競合を、Octet HTXバイオセンサープラットフォーム(Pall ForteBio Corp.)でリアルタイム無標識バイオレイヤー干渉法(BLI)アッセイを使用して決定した。実験全体が、10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05v/v%Surfactant Tween-20、1mg/mL BSA、0.02% NaN、pH7.4(HBS-EBT)緩衝液中で、プレートを1000rpmの速度で振盪させながら25℃にて実施された。2つのmAbが、TMPRSS6上の各自のエピトープへの結合について互いに競合することができるか否かを評価するため、S762A変異及びC末端のmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグと共に発現されるヒトTMPRSS6の細胞外ドメイン(hTMPRSS6_S762A-MMH;REGN5330と呼ぶ、配列番号117)で構成される組換えタンパク質を、最初に、抗penta-His抗体(HIS1K)でコートされたOctetバイオセンサーチップを10μg/mLのhTMPRSS6_S762A-MMHの溶液を含有するウェルに1分間浸すことによってバイオセンサーチップに捕捉させた。その後、hTMPRSS6_S762A-MMHを捕捉したバイオセンサーチップを、50μg/mLのmAb-1の溶液を含有するウェルに4分間浸漬させることによって、第1のTMPRSS6 mAb(mAb-1と呼ぶ)で飽和にした。その後、続いてバイオセンサーチップを、50μg/mLの第2のTMPRSS6 mAb(mAb-2と呼ぶ)の溶液を含有するウェルに3分間浸した。実験のステップの合間に毎回、バイオセンサーチップをHBS-EBT緩衝液中で洗浄した。実験過程全体を通してリアルタイムの結合応答をモニタリングし、各ステップ終了時の結合応答を記録した。
結果
mAb-1と事前に複合体化されたhTMPRSS6_S762A-MMHに結合しているmAb-2の応答を比較し、異なる選択TMPRSS6 mAbの競合的/非競合的な挙動が表10に示すように決定された。
Figure 2024517931000011
実施例5:TMPRSS6を発現する細胞に結合する抗体
実験手順
本開示の抗TMPRSS6抗体による細胞結合を評価するために、ヒト(NCBI参照配列NM_001289001)、カニクイザル/Macaca fascicularis(NCBI参照配列XM_005567384)、及びマウス(NCBI参照配列NM_027902.2)からの全長TMPRSS6を安定的に過剰発現するようHEK293細胞を操作し、これらの細胞株をそれぞれ、HEK293/hTMPRSS6、HEK293/mfTMPRSS6、及びHEK293/mTMPRSS6と呼ぶ。さらに、触媒的に不活性な全長ヒトTMPRSS6を安定的に過剰発現するようHEK293細胞を操作し、NCBI参照配列NM_001289001の753位のセリンをアラニンに変更した。この細胞株をHEK293/hTMPRSS6(S762A)と呼ぶ。マウスTMPRSS6の高発現に分けられたマウスTMPRSS6細胞株(HEK293/mTMPRSS6)を除いては、細胞株はいずれも分類されなかった。
細胞表面に発現された受容体への本開示の抗TMPRSS6抗体の結合を評価するため、アッセイ緩衝液(Ca++及びMg++を含まない、2%FBSを含有するPBS)で抗体(IgGサブクラスの対照を含む)を375nMから22.9pMに段階希釈し(加えて、被験分子を含まない試料含有アッセイ緩衝液単独)、アッセイ緩衝液中で0.5×10細胞/ウェルで4℃にて30分間インキュベートした。一次抗体とのインキュベーション後、細胞を、4.0μg/mLのAlexa Fluor(登録商標)-647結合二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc.,抗ヒト#109-607-003)で4℃にて30分間染色した。BD CytoFix(商標)(Becton Dickinson、#554655)を使用して細胞を固定し、IQue(登録商標)またはIQue(登録商標)Plus Flow Cytometer(Intellicyt(登録商標))いずれかで分析した。未染色及び二次抗体単独の対照もまた全細胞株について試験した。ForeCyt(登録商標)(IntelliCyt(登録商標))ソフトウェアを使用して結果を分析し、生存細胞の蛍光の幾何平均を決定し、試験条件の幾何平均値を、対応する未染色細胞の幾何平均値で正規化することによって結合率を計算した。
結果
表11は、hTMPRSS6、hTMPRSS6(S762A)、mfTMPRSS6、及びmTMPRSS6を発現するよう操作された細胞に対する選択された抗TMPRSS6抗体の結合を示す。
Figure 2024517931000012
表11に示すように、選択された抗TMPRSS6抗体は、HEK293細胞に発現された、ヒト、カニクイザル、及びヒトS762AのTMPRSS6に対する結合を示した。最大結合倍率及びEC50値の範囲は、hTMPRSS6発現細胞では約47~69倍及び約670pM~2.7nM、hTMPRSS6(S762A)発現細胞では約145~420倍及び約1.6~2.3nM、ならびにmfTMPRSS6発現細胞では約50~91倍及び約940pM~3.6nMであった。mTMPRSS6発現細胞に結合した4つのmAbでは、最大結合倍率及びEC50値の範囲は約42~421倍及び約840pM~35nMであった。選択された抗TMPRSS6抗体は、HEK293親細胞への結合を約3~5倍の結合率で示した。IgGサブクラス対照抗体(hIgGサブクラス対照)試料及び二次抗体単独(抗ヒト2”単独)試料は、約1~3倍の範囲の結合率を示した。
実施例6:ヒトヘモジュベリン(HJV)の検出
実験手順
抗TMPRSS6モノクローナル抗体(mAb)がTMPRSS6を阻害する能力をさらに特徴付けるために、2つの異なるリードアウトを設けた細胞ベースのバイオアッセイを用いた。TMPRSS6は、細胞表面ヘモジュベリン(HJV)を切断することによって、ヘプシジン発現の負の調節因子として作用する。例えば、Rausa et al.J.Cell.Mol.Med.(2015)19:879-888、及びLee P.,Acta Haematol.(2009)122:87-96を参照のこと。
アッセイでは、フローサイトメトリーを使用して細胞表面ヒトヘモジュベリン(hHJV)を測定し、ELISAアッセイを実施して、全長ヒトHJV及びヒトまたはマウスのいずれかのTMPRSS6を発現しているHEK293細胞の可溶性hHJVレベルを定量化した。hHJV発現HEK293細胞(hHJV;アミノ酸1~426、NCBI参照配列NP_998818.1)を親細胞株として使用して共発現バイオアッセイ細胞株を操作した。10%(v/v)ウシ胎児血清、100単位のペニシリン、100μgのストレプトマイシン及び292μg/mlのL-グルタミンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、500μg/mLのG418を用いてヒトHJVを安定発現する親細胞株を選択した。その後、これらのhHJV発現HEK293細胞(HEK293.hHJV)を、FACS(抗ヘモジュベリン抗体;Abcam ab54431、ロバ抗マウスIgG AF647;Invitrogen A-31571)によってhHJVの細胞表面高発現について濃縮した。TMPRSS6を発現させるため、HEK293.hHJVに、C末端の三重mycタグを含む、全長ヒトTMPRSS6(hTMPRSS6;アミノ酸1~811、NCBI参照配列NM_153609.3)または全長マウスTMPRSS6(mTMPRSS6;アミノ酸1~811、NCBI参照配列NM_027902.2)のいずれかについてのレンチウイルス上清で形質導入した。得られた細胞株をそれぞれ、HEK293.hHJV/3xMyc.hTMPRSS6及びHEK293.hHJV/3xMyc.mTMPRSS6とした)。レンチウイルスで形質導入された細胞をさらに、500μg/mLのG418及び100μg/mLのハイグロマイシンBで2週間選択し、抗Myc-AF647抗体を使用して高発現TMPRSS6集団について分類した。
ELISAでは、アッセイ細胞株を平底96ウェルプレートに1×10細胞/ウェルで播種した。本開示の抗体及び対照を(0nMから200nMに)段階希釈した後、100μLの最終体積を含有する各ウェルに加え、その後、37℃で一晩インキュベートした。翌日、上清を回収し、Human RGM-C/Hemojuvelin DuoSet ELISAキット(R&D Systems、DY3720-05)を製造者の操作手順に従って使用し、ELISAを実施した。SpectraMax i3(Molecular Devices)を使用して光学濃度を取得し、Prismソフトウェア(GraphPad)で結果を分析してIC50値を得た。以下の方程式:
Figure 2024517931000013

で阻害パーセンテージを計算した。
この方程式では、「可溶性HJVベースライン」は、抗体またはプロテアーゼ阻害剤の処理を行わないHJV-TMPRSS6過剰発現細胞の上清からの可溶性HJVの量を示す。「可溶性HJV抗体」は、最大濃度の抗体で処理したアッセイ試料からの可溶性HJVの量を示し、「可溶性HJVプロテアーゼ阻害剤」は、セリンプロテアーゼ阻害剤であるアプロチニン(Sigma、カタログ:10236624001)で処理した試料からの可溶性HJVの量を示す。
FACS解析では、HEK293.hHJV/3xMyc.hTMPRSS6細胞またはHEK293.hHJV/3xMyc.mTMPRSS6細胞を50nMの抗TMPRSS6抗体で一晩処理した。翌日、表面染色のために細胞を回収した。アッセイ細胞株で細胞表面hHJVを染色するため、細胞をFcRブロッカー(Miltenyi Biotech,130-059-901)でブロッキングし、抗ヘモジュベリン抗体で染色し(Abcam ab54431、1:400、氷上、1時間)、その後、ロバ抗マウスIgG AF647抗体とのインキュベーションを行った(Invitrogen A-31571、1:2000、氷中、40分)。染色された細胞をAccuri C6フローサイトメーター(BD)を使用して測定した。
ELISAアッセイでは、セリンプロテアーゼ阻害剤であるアプロチニン(2μg/mL)、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma、カタログ:P-1860、1:200)を、HEK293.hHJV/3xMyc.TMPRSS6細胞におけるプロテアーゼ活性を遮断するための対照として含めた。FACSでは、アプロチニン(2μg/mL)を、HEK293.hHJV/3xMyc.TMPRSS6細胞におけるプロテアーゼ活性を遮断するための対照として含めた。
結果
表12は、抗TMPRSS6抗体による、細胞表面からのHJVのプロテアーゼ依存性放出の阻害を示す。
Figure 2024517931000014
表12に示すように、選択されたTMPRSS6抗体はいずれも、ヒトTMPRSS6発現細胞において、細胞表面からのHJVのプロテアーゼ依存性放出について90%超の阻害、及び約70~約200pMの範囲のIC50値を示した。2つの抗体、REGN7999及びREGN8023は、マウスTMPRSS6発現細胞において阻害作用を示し、それぞれ、約98.5%及び約42%のマウスTMPRSS6プロテアーゼ活性阻害ならびに約82.6pM及び約274pMのIC50値を示した。
表13は、抗TMPRSS6抗体による細胞表面HJV発現の阻害を示す。
Figure 2024517931000015
表13に示すように、選択されたTMPRSS6抗体はいずれも、HEK293.hHJV/3xMyc.hTMPRSS6細胞の表面からのHJVの切断を妨げた。REGN7999及びREGN8023はまた、HEK293.hHJV/3xMyc.mTMPRSS6細胞の表面からのHJVの切断も妨げた。
実施例7:TMPRSS6酵素活性の阻害
実験手順
抗TMPRSS6抗体のTMPRSS6酵素活性の阻害を評価するために、2つのバイオアッセイを確立した。いずれのバイオアッセイにおいても、抗TMPRSS6抗体またはIgGサブクラス対照をアッセイ緩衝液(PBS+Ca++及びMg++)で500nMから122.1pMに段階希釈した(加えて、被験分子を含まない試料含有アッセイ緩衝液単独)。
第1のバイオアッセイ(「CMバイオアッセイ」)は、条件培地(CM)として産生されたTMPRSS6の細胞外ドメインを用いて実施された。CMは、いずれもN末端の8×ヒスチジンに融合されている、ヒトTMPRSS6の細胞外ドメイン(NCBI参照配列NM_001289001のアミノ酸68~802)またはカニクイザルTMPRSS6(NCBI参照配列XM_005567384のアミノ酸66~800、V673M)を産生し、分泌するよう、CHO細胞を操作することによって作製された。CMバイオアッセイでは、抗体を、0.2% hTMPRSS6 CMまたは0.75% mfTMPRSS6 CMのいずれかと共に25℃で30分間インキュベートし、CMパーセントはすべてv/v%として表される。
第2のバイオアッセイ(「HEK293バイオアッセイ」)は、ヒト、カニクイザル、及びマウスからのTMPRSS6をそれぞれ安定的に発現する、HEK293/hTMPRSS6細胞株、HEK293/mfTMPRSS6細胞株、及びHEK293/mTMPRSS6細胞株を用いて実施された。これらの細胞株の調製に関する詳細は実施例5に見出すことができる。HEK293バイオアッセイでは、細胞を、96ウェルプレートのDMEM高グルコース+10%FBS+Pen/Strep/L-グルタミン(完全DMEM)中に、10,000細胞/ウェル(30分間のプレインキュベーション)及び20,000細胞/ウェル(一晩のプレインキュベーション)で播種し、5%COで37℃にてインキュベートした。30分のプレインキュベーション条件を用いたHEK293細胞バイオアッセイの場合、細胞播種の翌日、培地を細胞から除去し、すべての細胞をアッセイ緩衝液中で1回洗浄し、細胞に抗体を加えて、25℃で30分間インキュベートした。一晩のプレインキュベーション条件の場合、細胞播種の翌日、まだ完全DMEM中にある細胞に洗浄は行わずに抗体を加え、5%COで37℃にて一晩インキュベートした。翌日、培地(抗体を含む)を細胞から除去し、すべての細胞をアッセイ緩衝液中で1回洗浄した。
全アッセイについて、抗体/TMPRSS6のインキュベーション及びプレート洗浄の終了時、アッセイ緩衝液に溶解させた150uMの蛍光TMPRSS6ペプチド基質(Boc-Gln-Ala-Arg-AMC、Enzo BML-P237)を、抗体処理した細胞またはCM/抗体混合物に加え、5%COで37℃にて1時間インキュベートした。1時間のインキュベーションの後、Envisionプレートリーダー(Perkin Elmer)で380nmの励起波長及び460nmの発光波長を用いて蛍光を測定した。結果を、Prismソフトウェア(GraphPad)で非線形回帰(4-パラメータロジスティック)を使用して分析し、IC50値を得た。以下の方程式:
Figure 2024517931000016

を使用して、RFU(相対蛍光単位)値を用いて阻害パーセンテージを計算した。
この方程式では、「RFUベースライン」は、抗体を含まない、ある特定の濃度のTMPRSS6 CMまたはある特定の数のHEK293/TMPRSS6細胞のいずれかからの蛍光値であり、「RFU阻害」は、前述の濃度のTMPRSS6 CMまたはある特定の数のHEK293/TMPRSS6細胞を用いた、特定の抗体の最大濃度に関する蛍光値であり、「RLUバックグラウンド」は、TMPRSS6 CMまたはHEK293/TMPRSS6細胞を含まない場合の蛍光値である。
結果
7つの抗TMPRSS6抗体を選択し、それらがTMPRSS6 CM及びHEK293/TMPRSS6細胞の酵素活性を阻害する能力について試験した。表14から表16は、これらの実験結果を示す。
Figure 2024517931000017
表14に示すように、選択された抗体のすべてが、約65%~約98%の範囲の約0.2% hTMPRSS6 CMの阻害を、約710pM~約10nM超の範囲のIC50値で示した。また、本明細書に開示される抗体のすべてが、約66%~約98%の範囲の約0.75% mfTMPRSS6 CMの阻害を、約740pM~約50nM超の範囲のIC50値で示した。
Figure 2024517931000018
表15に示すように、抗体を10,000HEK293/TMPRSS6細胞と共に30分間プレインキュベートした場合、選択された抗体のすべてが、約86%~約90%の範囲のHEK293/hTMPRSS6細胞阻害を、約360pM~約5.8nMの範囲のIC50値で示した。また、選択された抗体のすべてが、約81%~約94%の範囲のHEK293/mfTMPRSS6細胞阻害を、約660pM~約30nMの範囲のIC50値で示した。選択された抗体のうち3つ(REGN7977、REGN7999、REGN8023)は、約58%~約88%の範囲のHEK293/mTMPRSS6細胞阻害を示し、これらの阻害抗体のIC50値は約1.5nM~約35nMの範囲であった。
Figure 2024517931000019
表16に示すように、抗体を20,000HEK293/TMPRSS6細胞と共に一晩プレインキュベートした場合、選択された抗体のすべてが、約86%~約90%の範囲のHEK293/hTMPRSS6細胞阻害を、約1.1nM~約2.6nMの範囲のIC50値で示した。また、選択された抗体のすべてが、約31%~約91%の範囲のHEK293/mfTMPRSS6細胞阻害を、約2.8nM~約10nM超の範囲のIC50値で示した。選択された抗体のうち3つ(REGN7977、REGN7999、REGN8023)は、約97%~約103%の範囲のHEK293/mTMPRSS6細胞阻害を示し、これらの阻害抗体のIC50値は約1.2nM~約14nMの範囲であった。IgGサブクラス対照抗体は、試験したフォーマットのいずれにおいても測定可能なTMPRSS6阻害を示さなかった。
実施例8:HDX-MSによるヒトTMPRSS6に対するエピトープマッピング
実験手順
本開示のTMPRSS6モノクローナル抗体サブセットであるREGN7999及びREGN8023と相互作用する、ヒトTMPRSS6のアミノ酸残基を決定するため、水素-重水素交換質量分析法(HDX-MS)を実施した。HDX-MS法の概要は、例えば、Ehring,Analytical Biochemistry(1999)267(2):252-259、及びEngen and Smith,Anal.Chem.(2001)73:256A-265Aに記載されている。
HDX-MS実験はカスタマイズされたプラットフォームで実施され、重水素標識及びクエンチのためのカスタムHDX自動化システム、試料の消化及び搭載のためのWaters Acquity Binary Solvent Manager、分析用グラジエントのための別のWaters Acquity Binary Solvent Manager、及びペプチド同定及び質量測定のためのThermo Q Exactive HF質量分析計で構成された。
O標識溶液をpD7.0のDOにPBS緩衝液として調製した(10mMのリン酸緩衝液、140mM NaCl、及び3mM KCl、25℃でpH7.4に相当)。重水素標識では、REGN7999またはREGN8023のいずれかと予め混合した、S762A変異及びC末端のmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグと共に発現された組換えヒトTMPRSS6細胞外ドメイン(hTMPRSS6_S762A-MMH;REGN5330と呼ぶ;配列番号117)を10μLにて、90μLのDO標識溶液と共に20℃で様々な時点まで二連でインキュベートした(非重水素化対照は0分とし、重水素標識は5分間または10分間)。90μLのクエンチ緩衝液(0.5M TCEP-HCl、4Mの尿素、及び0.5%のギ酸)を各試料に加えて重水素化反応をクエンチし、20℃で90秒のインキュベーションに供した。その後、クエンチした試料を、オンラインのペプシン/プロテアーゼXIII消化のためにLC系に注入した。消化されたペプチドをC18カラム(2.1mm×5mm、Waters)により捕捉し、別のC18カラム(2.1mm×50mm、Waters)により、0%から90%のBに20分のグラジエントで-5℃にて分離した(移動相A:0.5%のギ酸及び4.5%のアセトニトリルを溶解させた水溶液、移動相B:0.5%のギ酸含有アセトニトリル溶液)。溶出したペプチドを、Thermo Q Exactive HF質量分析法によってLC-MS/MSまたはLC-MSモードで分析した。
非重水素化hTMPRSS6_S762A-MMH試料からのLC-MS/MSデータを、Byonic検索エンジン(Protein Metrics)を使用してヒトTMPRSS6タンパク質、ペプシン、プロテアーゼXIII、及びそれらの逆配列のアミノ酸配列が含まれているデータベースに対して検索した。検索パラメータは、一般的な可変の修飾として非特異的酵素消化及びヒトグリコシル化を使用するデフォルトのとおりに設定した。その後、同定されたペプチドの一覧をHDExaminerソフトウェア3.1(Sierra Analytics)にインポートして、重水素の取り込み(D取り込み)及び重水素取り込みパーセンテージ(D%)を全重水素化試料について計算した。以下の式:
Figure 2024517931000020

を使用してD%を計算した。
結果
hTMPRSS6_S762A-MMH単独試料及びREGN7999との複合体のhTMPRSS6_S762A-MMH試料の両方から、ヒトTMPRSS6からの合計294のペプチドが同定され、ヒトTMPRSS6の約79.2%の配列範囲を占めた。重水素取り込みのパーセンテージにおいて5%以上の減少を示したペプチドは、顕著に保護されていると定義された(ΔD%<-5%)。
表17は、hTMPRSS6_S762A-MMH単独と比較してhTMPRSS6_S762A-MMH-REGN7999複合体の形成時に顕著な保護を有するヒトTMPRSS6ペプチドを示す。ヒトTMPRSS6上のアミノ酸693~703 SHFFEPGLHCW(配列番号120)及び780~805 LVSWGLGCGRPNYFGVYTRITGVISW(配列番号121)に対応するペプチドは、REGN7999によって顕著に保護された。
Figure 2024517931000021
hTMPRSS6 S762A-MMH単独試料及びREGN8023との複合体のhTMPRSS6 S762A-MMH試料の両方から、ヒトTMPRSS6からの合計302のペプチドが同定され、ヒトTMPRSS6の約79.6%の配列範囲を占めた。重水素取り込みのパーセンテージにおいて5%以上の減少を示したペプチドは、顕著に保護されていると定義された(ΔD%<-5%)。
表18は、hTMPRSS6 S762A-MMH単独と比較してhTMPRSS6 S762A-MMH-REGN8023複合体の形成時に顕著な保護を有するヒトTMPRSS6ペプチドを示す。ヒトTMPRSS6上のアミノ酸125~133 LITSTRLGT(配列番号122)、586~594 GEWPWQASL(配列番号123)、626~650 STVLWTVFLGKVWQNSRWPGEVSFK(配列番号124)、及び704~724 ITGWGALREGGPISNALQKVD(配列番号125)に対応するペプチドは、REGN8023によって顕著に保護された。
Figure 2024517931000022

Figure 2024517931000023
実施例9:CryoEMによるヒトTMPRSS6に対するエピトープマッピング
実験手順
選択されたTMPRSS6抗体と関連するエピトープをさらに特徴付けるため、クライオ電子顕微鏡(CryoEM)を使用した。
Fab断片の調製のために、Fabricator酵素(Genovis)を製造者による標準の操作手順に従って使用し、REGN7999及びREGN8023のIgGをF(ab’)とFc断片とに切断した。2-メルカプトエチルアミン(2-MEA、ThermoFisher)を使用してF(ab’)をFabに還元し、その後、CaptureSelect IgG-Fc(ms)アフィニティー樹脂(ThermoFisher)を使用してFc断片の除去を行った。Fab断片を、AKTA Avant 25クロマトグラフィー系(GE healthcare)に接続されたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラム(Superdex 200 Increase 15/300 GL、GE healthcare)内に注入することによってさらに精製した。ランニング緩衝液は、25mMのトリス-HCl(pH7.5)、150mM NaClを含有した。その後の複合体調製に使用するために、ピーク画分をプールし、30kDaのカットオフ遠心式フィルター(Millipore Sigma)で濃縮した。
この実験に使用されるヒトTMPRSS6タンパク質は、C末端のMyc-Myc-ヘキサヒスチジンタグに融合されたヒトTMPRSS6の細胞外ドメイン残基G77-T811を包含し、タンパク質を触媒的に不活性にする変異を触媒ドメインに(S762A)含有する(ヒトTMPRSS6_S762A-MMHと呼ぶ)。複合体形成では、200μgの精製ヒトTMPRSS6_S762A-MMHを、250μgずつのREGN7999 Fab及びREGN8023 Fabと混合し、その後、氷上で約30分間インキュベートした。混合物を、AKTA Avant 25クロマトグラフィー系(GE healthcare)に接続されたSECカラム(Superdex 200 Increase 15/300 GL、GE)に注入した。SECランニング緩衝液は、25mMのトリス-HCl(pH7.5)、150mM NaClを含有した。ヒトTMPRSS6 S762A-MMH--REGN7999 Fab-REGN8023 Fab複合体に対応する単一単分散ピークからの画分をプールし、30kDaのカットオフ遠心式フィルター(Millipore Sigma)で3.5mg/mLの濃度に濃縮した(Nanodrop装置(ThermoFisher)を使用して測定)。
CryoEM試料の調製及びデータ収集を以下のとおり実施した。精製したばかりのヒトTMPRSS6_S762A-MMH--REGN7999 Fab-REGN8023 Fab複合体を、cryoEM用グリッド調製のために25mMのトリス-HCl(pH7.5)、150mM NaClを含有する緩衝液で2倍希釈して1.75mg/mLとした。n-ドデシル-b-D-マルトピラノシド(Anatrace)を加えて最終濃度を約60μMとしてから直ちにUltrAufoil R1.2/1.3、300メッシュグリッド(Quantifoil)上に3.5μLの混合物をピペット操作した。過剰の液体は濾紙を用いて吸い取り、Vitrobot Mark IV(ThermoFisher)を使用してグリッドを、液体窒素で冷却された液体エタン中に急速凍結した(4℃、湿度100%で操作)。その後、グリッドを、K3カメラ(Gatan)を備えたTitan Krios G3i顕微鏡(ThermoFisher)に挿入した。3,580本のムービーを公称倍率の81,000倍(0.85Åピクセルサイズ)でカウントモードで収集した。各ムービーには、2秒の露光に対し46の線量が含まれ、Åあたりの総取得線量は約40電子であった。
CryoEMのデータ処理及びマップ生成を以下のとおり実施した。最初にCryosparc v2.14.2を使用してCryoEMデータを処理した。Patchモーションコレクションによりムービーのモーションを補正し、CTFパラメータをPatch CTF estimationによって推定した。最初に粒子をBlobピッカーを使用してピックし、テンプレートピッキングのための2Dクラス平均を生成した。Templateピッカーを使用して927,835個の粒子をピックした。2D分類、初期再構成、及び不均一の精密化(Heterogenous refinement)の後、REGN5330--REGN7999 Fab-REGN8023 Fab複合体に対応する94,036個の粒子を同定した。これらの粒子を、不均一な精密化を使用して3.4Åの分解能で再構成した。得られたマップを、Relionにおける3D分類のための初期参照モデルとして使用した。モデル構築に使用されたマップを、Relionバージョン3.1単一粒子処理パイプライン(single particle processing pipeline)を使用して計算した。MotionCor2を使用してムービーにモーション補正を行い、gctfを使用してCTFパラメータを推定した。4Åより良好な推定CTF分解能を有する、ということに基づいて、さらなる処理のために3,411枚の並列化された顕微鏡画像を選択した。2Dテンプレートに基づく自動ピッキングを使用して、顕微鏡画像から1,445,534個の粒子をピックし、3回ビニングした粒子画像(ピクセルあたり2.55Å)として抽出した。3回の2D分類を行って、偽陽性複合体及び切断されているかまたは不完全な複合体を除去し、1,034,494個の粒子が得られた。これらの粒子を、CryoSparcで計算された初期参照モデルを使用して、8つのクラスを要求する3D分類に供した。ヒトTMPRSS6 S762A-MMH--REGN7999 Fab-REGN8023 Fab複合体に対応する2つの最良クラスからの270,021個の粒子を、ビニングされていない粒子画像として再抽出し、3D精密化に供し、これにより、3.4Å分解能のマップが作成され、Fab及び触媒ドメインは十分に解像されたが、タンパク質の残りのN末端ドメインは解像が不良であった。N末端ドメインをより良好に解像するため、アラインメントは行わず、Fab及び触媒ドメインを除外するソフトマスクを適用して、集中的分類(focused classification )を行った。146,035個の粒子を含有する単一のクラスが、N末端ドメインの密度改善を有するとして同定された。これらの粒子の精密化により、3.6Åの分解能のマップが得られた。2回のCtfRefine及びベイジアンポリッシング(Bayesian polishing)の後、さらに3回の集中的3D分類(focused 3D classification)を、アラインメントを行わずに実施し、CUBドメイン及びSEAドメイン周辺のソフトマスクを適用して、105,142個の粒子の最終セットが得られた。その後、これらの粒子を、N末端ドメインの特徴が改善された3.3Åの分解能(FSC=0.143)のマップに精密化した。モデル構築では、マップを、Relionで計算されたその局所分解能の値でフィルターにかけ、-76ÅのB因子(B factor)までシャープニングを行った。
モデル構築及び精密化を以下のとおり実施した。Cootバージョン0.8.9を使用して手動によるモデル構築を行い、Phenixバージョン1.17で実空間の精密化を行った。PhenixのSculptorプログラムを使用して、ヒトマトリプターゼ-1触媒ドメイン(PDB 4IS5)の公開されている結晶構造からヒトTMPRSS6触媒ドメインのS762A変異体の相同性モデルを作製した。このモデルを、Phenix AutoDockを使用してヒトTMPRSS6 S762A-MMH--REGN7999 Fab-REGN8023 Fab複合体のcryoEMマップ中にドッキングさせ、手動で調整した。LDLRaドメインは、LDLRドメイン(PDB 1AJJ)の公開されている結晶構造をガイドとして使用して手動で密度に組み込まれた。CUBドメインの1及び2の手動による構築は、キュビリン(PDB 3KQ4)の公開されている結晶構造により導かれた。正しい配列レジスタは、かさ高い残基の側鎖及びN-結合型グリコシル化の密度、ならびにジスルフィド架橋の位置によって実証された。N末端SEAドメインは、断片化された密度が不十分なため構築されなかった。現在のモデルは、ヒトTMPRSS6残基212~811を包含するが、ただし、無秩序なリンカー(disordered linker)内に位置する残基573~581及び662~664は除かれている。REGN7999及びREGN8023のFab断片の相同性モデルを、先に決定されたREGN Fab構造から作製した。Fabモデルの、それぞれの密度への明確なドッキングは、それらの別個のCDR配列に対応する明確に解釈可能な側鎖密度によって促進された。ドッキング後、モデルを手動で調整し、その後、ヒトTMPRSS6 S762A-MMH--REGN7999 Fab-REGN8023 Fab複合体全体の実空間の精密化を行った。
結果
ヒトTMPRSS6 S762A-MMH--REGN7999 Fab-REGN8023 Fab複合体のCryoEM構造:
抗TMPRSS6抗体がどのようにTMPRSS6に結合及び阻害するかをより良く理解するために、抗TMPRSS6抗体であるREGN7999及びREGN8023のFab断片に結合した触媒的に不活性なヒトTMPRSS6外部ドメイン(ヒトTMPRSS6 S762A-MMH)からなるタンパク質複合体をSECによって単離し、その三次元構造を単一粒子CryoEMによって決定した。3.3Åの全体的分解能において、CryoEM再構成は、その2つのCUBドメイン、3つのLDLRaドメイン、及び触媒的セリンプロテアーゼドメインを包含する、ヒトTMPRSS6外部ドメインの約80%の原子モデルを構築するのに十分であった。また、再構成により、REGN7999及びREGN8023のFab断片の明確なドッキング及び手動でのそれらの可変領域の再フィッティングが可能となった。両Fabのパラトープ-エピトープ界面における局所分解能は、3.1~3.5Åの範囲であり、抗体とTMPRSS6の間の残基レベルでの相互作用の正確な決定が可能になる。また、三次複合体の構造から、REGN7999及びREGN8023が、非重複エピトープにて結合することが確認される。
REGN7999のエピトープ及び構造的阻害機構:
TMPRSS6上のREGN7999エピトープに寄与する残基を表18にまとめている。これらの残基は、REGN7999の非水素原子の4Å内にある非水素原子を有するTMPRSS6残基と定義され、水素結合、電荷-電荷相互作用、または疎水性/ファンデルワールス相互作用を伴い得る。REGN7999エピトープは、TMPRSS6上で2つのパッチに分割可能である。第1のパッチは触媒ドメインに存在し、TMPRSS6残基G699、H701、D724、Q726、L727、I728、P729、L732、E735、G749、Y750、R751、K752、及びN791からなる。このパッチにおける接触は、CDRのH3、L2、L3及びフレームワーク領域(FR)L3からの単一残基によって媒介される。第2のパッチはLDLRaリピートドメイン2上に存在し、残基V490、S501、T502、C503、I504、S505、及びK508からなる。第2のパッチのパラトープは、CDR-L2及びFR-L3の部分に広がる軽鎖残基の連続領域で構成される。CUBドメイン及びSEAドメインは、REGN7999結合界面から大きく除去され、そのTMPRSS6上エピトープには寄与しない。REGN7999についての水素重水素交換(HDX)質量分析実験(実施例8)からのデータは、CryoEM構造で観察された触媒ドメインパッチと概ね一致するが、エピトープに寄与するものとしてLDLRaドメイン2からの残基を強調するものではなかった。
そのエピトープには触媒ドメイン上のパッチが含まれるが、REGN7999は、切断が生じる触媒部位三残基(H617、D668及びS672)には接触せず、活性部位への基質アクセスを立体的に閉塞するよう配向もしていない。TMPRSS6に結合している基質の位置は実験的に決定されていないが、この位置は、ペプチド阻害剤と複合体を形成したマトリプターゼセリンプロテアーゼドメインの相同構造から推測することができ、Yuan et al,BMC Struct Biol.(2011)11:30で報告されている。これらの構造観察は、TMPRSS6外部ドメインへの可溶性ヘモジュベリンの結合は、REGN7999の存在によって撹乱されないことを示唆している。いかなる理論にも拘束されることなく、REGN7999は、基質と結合することはできるが、それを切断することができない不活性型立体構造にTMPRSS6をアロステリックに「捕捉」することによって、TMPRSS6を阻害し得る可能性がある。
REGN8023のエピトープ及び構造的阻害機構:
TMPRSS6上のREGN8023エピトープに寄与する残基を表19にまとめている。これらの残基は、REGN8023の非水素原子の4Å内にある非水素原子を有するTMPRSS6残基と定義され、水素結合、電荷-電荷相互作用、または疎水性/ファンデルワールス相互作用を伴い得る。REGN8023エピトープは触媒ドメインのみに存在し、TMPRSS6残基R597、R599、I601、D622、L710、R711、E712、G713、G714、P715、及びI716からなる。この構造で観察されたエピトープは、HDX質量分析実験からのデータと概ね一致する。REGN8023パラトープは主に重鎖内に含まれており、CDR H1、H2、H3、L1、L3及びFR-H3を含む。
REGN8023は、上記モデルに基づいて、重鎖が触媒三残基に直接接触はしないが、活性部位への基質のアクセスを閉塞するような位置にあるように、TMPRSS6の触媒ドメインと結合する。いかなる理論にも拘束されることなく、REGN8023は、活性部位への基質結合の立体障害を介してTMPRSS6を阻害する可能性がある。このことは、REGN8023が、TMPRSS6外部ドメインタンパク質への結合について可溶性ヘモジュベリンと競合することを示す結合データによっても示唆される。
Figure 2024517931000024
実施例10:雌WTマウスにおけるREGN7999とREGN8023の比較
実験手順
血清ヘプシジン及び血清鉄に対する選択されたTMPRSS6抗体の効果を分析するため、2つのインビボ実験を実施した。いずれの研究にも、ヒト化HJVを有する雌野生型マウスが使用された(研究1:11~13週齢、及び研究2:6~9週齢)。両研究において、7日目にマウスに事前採血を行った。第1の研究(研究1)では、2つの選択されたTMPRSS6抗体であるREGN7999及びREGN8023、ならびにアイソタイプ対照抗体を、研究の0日目、2日目及び7日目に10mg/kgでマウスに皮下投与した。その後、9日目にマウスを安楽死させ、分析用に終末血液を採取した。第2の研究(研究2)では、同じ2つのTMPRSS6抗体であるREGN7999及びREGN8023、ならびにアイソタイプ対照抗体を、研究の0日目、2日目及び7日目に25mg/kgでマウスに皮下投与した。その後、14日目にマウスを安楽死させ、分析用に終末血液を採取した。
両方の研究から、血清鉄を、Siemens ADVIA Chemistry XPT装置を使用して終末血液から測定した。Hepcidin-murine-compete ELISAキット(Intrinsic Lifesciences、カタログ:HMC-001、ロット:5142019)を製造者の指示書に従って使用して血清ヘプシジンを終末血液から測定した。
結果
血清鉄(ng/mLで表される)及び血清ヘプシジン(μg/dLで表される)の測定値を、研究1からのものは表20に示し、研究2からのものを表21に示す。
Figure 2024517931000025
表20に示すように、研究1では、REGN7999処置により、アイソタイプ対照処置マウスと比較して健康なREGN7999処置マウスにおける血清ヘプシジンが顕著に増加し、血清鉄が顕著に減少した。REGN8023処置はまた、健康なREGN8023処置マウスの血清ヘプシジンを増加させ、血清鉄を減少させたが、これは、アイソタイプ対照処置マウスと比較して統計学的に有意ではなかった。表20では、すべての値は平均±SDであり、群あたりn=6~8である。一元配置ANOVA;p<0.05は対アイソタイプ対照Ab。
Figure 2024517931000026
表21に示すように、研究2では、REGN7999処置により、アイソタイプ対照処置マウスと比較して健康なREGN7999処置マウスにおける血清ヘプシジンが顕著に増加し、血清鉄が顕著に減少した。REGN8023処置はまた、健康なREGN8023処置マウスの血清ヘプシジンを増加させ、血清鉄を減少させたが、血清鉄濃度のみがアイソタイプ対照処置マウスと比較して統計学的有意性に達した。表21では、すべての値は平均±SDであり、群あたりn=4~5である。一元配置ANOVA;p<0.05は対アイソタイプ対照Ab。
両研究からのデータは、選択された抗TMPRSS6抗体が、TMPRSS6の機能を遮断して、ヘプシジン及び血清鉄濃度に対する観察された効果をもたらすことができることを示唆している。
実施例11:ヘモクロマトーシスのマウスモデルにおける肝臓鉄に対する抗TMPRSS6の効果
関連する疾患モデルにおいて抗TMPRSS6抗体であるREGN7999の有効性をさらに検討するために、1型遺伝性ヘモクロマトーシス研究を実施した。遺伝性ヘモクロマトーシスは、不適切に低ヘプシジン濃度をもたらす、HFEタンパク質の変異により引き起こされる鉄過剰疾患である(Finberg et al.Blood(2011)117(17):4590-4599)。
実験手順
100% C57BL/6バックグラウンドでマウスHFE遺伝子の欠失に関してホモ接合体の雄マウス(HFE-/-と呼ぶ)を1型遺伝性ヘモクロマトーシスのマウスモデルとして使用した。HFE-/-マウス(n=5~7)に10mg/kgのアイソタイプ対照またはREGN7999を毎週皮下注射したが、ただし、2回の注射を投与した1週間目を除く。野生型マウス対照群が含められ、アイソタイプ対照を投与した。8週間後、マウスを、COによる窒息を用いて安楽死させた。終末血液を採取し、Hepcidin Murine-Compete ELISAキット(Intrinsic Lifesciences、カタログ:HMC-001、ロット:02032020)を製造者の操作手順に従って使用して血清ヘプシジンを測定した。マウスを屠殺した後、それらの肝臓をフラッシュ凍結した。後でこれらの肝臓を処理して、Torrance and Bothwell,S.Afr.J.Med.Sci.(1968)33(1):9-11により記載されている方法に基づいて肝臓の鉄含有量を測定した。
結果
血清ヘプシジン(ng/mLで報告)及び肝臓の鉄含有量(μg/g乾燥重量で報告)の両方の値を表22に示す。
Figure 2024517931000027
表22に示すように、REGN7999による処置の8週間後、HFE-/-マウスは血清ヘプシジンが、アイソタイプ対照により処置されたマウス(約339.3ng/mL)と比較して顕著に増加していた(約1631ng/mL)。また、表22に示すように、REGN7999による処置の8週間後、HFE-/-マウスは肝臓の鉄含有量が、アイソタイプ対照により処置されたマウス(約771.1μg/g乾燥重量)と比較して顕著に低かった(約618.7μg/g乾燥重量)。表22では、すべての値は平均±SDであり、群あたりn=5~7である。一元配置ANOVA;p<0.05は対HFE+/+アイソタイプ対照;**p<0.05は対HFE-/-アイソタイプ対照。
実施例12:ベータサラセミアのマウスモデルにおける抗TMPRSS6の効果
本明細書に開示される2つの抗TMPRSS6抗体の有効性を評価するために、無効造血及び鉄調節不全と関連する鉄過剰障害である中等症型ベータサラセミアのマウスモデルにおいて研究を実施した。
ヒトにおける中等症型ベータサラセミアを再現する(Ginzburg,Blood(2011)118(16):4321-4330)、β1及びβ2遺伝子のヘテロ接合欠失を有し、C57BL/6/129S6バックグラウンドにおいて、マウスHJVの代わりにヒトヘモジュベリン(HJV)のホモ接合体発現(Hbbth3/+ × HJVHumInと呼ぶ)を有するマウスを作製した。Hbbth3/+ × HJVHumInマウス(n=10~19)に、10mg/kgのREGN7999、REGN8023、またはアイソタイプ対照いずれかを毎週皮下注射した(ただし、2回の注射を投与した1週目を除く)。野生型(WT)マウス対照群が含められ、アイソタイプ対照を類似の様式で投与した。8週間後、マウスを、COによる窒息を用いて安楽死させ、心臓穿刺により全血を採取し、EDTAを含む、または含まない血清学検査用採血管に入れた。市販のHepcidin Murine-Compete ELISAキット(Intrinsic Lifesciences、カタログ:HMC-001、ロット:08232019)を製造者の指示に従って使用して血清ヘプシジンを測定した。Siemens ADVIA Chemistry XPT装置及びOxford Science GENESIS Hematology Systemを使用して、血清鉄ならびに網状赤血球及び成熟赤血球(RBC)等の完全な血液学検査のパネルを測定した。
さらに、マウスを屠殺した後、それらの肝臓及び脾臓を以降の処理までフラッシュ凍結した。後で肝臓試料を処理して、Torrance and Bothwell,S.Afr.J.Med.Sci.(1968)33(1):9-11により記載されている方法に基づいて肝臓の鉄含有量を測定した。脾臓を切り刻み、10mL autoMACS(登録商標)緩衝液(Miltenyi Biotec、カタログ:130-091-221)を含有する管に70mmストレーナーで濾過した。大腿骨から骨髄を採取するために、マウスから股関節端を切除し、ウシ血清アルブミン(BSA)を添加したautoMACS(登録商標)緩衝液(Miltenyi Biotec、カタログ:130-091-376)を100mL含有するチューブに入れた。チューブをすばやく遠心にかけ(10秒、400×g)、骨髄を溶液中に遊離させた。
骨髄及び脾臓細胞を400×gで4℃にて10分間遠心にかけ、その後、抗マウスCD45磁気ビーズ(Miltenyi Biotec、カタログ:130-052-301)とのインキュベーションを氷上で20分間行った。この後、multi-24カラム(Miltenyi Biotec、カタログ:130-095-691)で磁気分離を行った。成熟RBC及び前駆体(物質)RBCの両方が濃縮されたフロースルーを回収し、抗マウスCD16/CD32 Fcブロック(BD Biosciences、クローン2.4G2、カタログ:553142)と共に10分間インキュベートした。この後、以下の市販抗体(すべてラット抗マウス)と共に30分のインキュベーションを行った:FITC抗Ter119、クローンTER-119、カタログ:557915;APC抗CD44、クローンIM7、カタログ:561862;APC-Cy7抗CD45、クローン30-F11、カタログ:557659;APC-Cy7抗CD11b、クローンM1/70、カタログ:557657;及びAPC-Cy7抗Ly6G、クローン1A8、カタログ:560600、いずれもBD Biosciences製。
分析から死細胞を除外するためにAADvanced(Thermofisher、S10349)を30分間加えた。すべての染色手順を氷上で実施し、OneComp eBeads(商標)(Invitrogen、カタログ:01-1111-42)を使用して補正用対照(compensation control)を含めた。標的集団のゲーティングを修正するためのminus-Oneコントロールのパネルを作成した。標的集団をゲートするため蛍光minus-one-controlを使用したCytoFLEX LX Flow Cytometer(Beckman-Coulter)で試料を測定した。
表23に示すように、REGN7999またはREGN8023による処置の8週間後、Hbbth3/+ × HJVHumInマウスは血清ヘプシジン濃度が、アイソタイプ対照により処置されたWTマウス及びHbbth3/+ × HJVHumInマウスの両方(それぞれ、約225ng/mL及び約511ng/mL)と比較して顕著に増加していた(それぞれ、約1510ng/mL及び約1454ng/mL)。
さらに、REGN7999またはREGN8023による処置の8週間後、Hbbth3/+ × HJVHumInでは、アイソタイプ対照(約128μg/dL、表23)と比較して血清鉄の顕著な低下があった(約50μg/dL)。アイソタイプ対照処置群では、Hbbth3/+ × HJVHumInマウスにWTマウスよりも多い肝臓鉄が蓄積していた。この増加は、雄マウス(約215μg/g~約364μg/g乾燥重量)と比較して雌マウス(約466μg/g~約985μg/g乾燥重量)において、より顕著であった(表23)。また、REGN7999及びREGN8023に応答した肝臓の鉄含有量の低下も、処置の8週間後、雌マウスの方が効果が大きかった。表23では、すべての値は平均±SDであり、群あたりn=10~19である。一元配置ANOVA;p<0.01は対WTアイソタイプ対照;**p<0.05は対Hbbth3/+アイソタイプ対照。
Figure 2024517931000028
Hbbth3/+ × HJVHumInマウスにおけるREGN7999またはREGN8023の投与では、アイソタイプ対照により処置されたマウス(約8.72M/μL、表24)と比較して赤血球の増加(それぞれ、約10.51M/μL及び約10.18M/μL)がもたらされた。Hbbth3/+ × HJVHumInマウスにおけるREGN7999またはREGN8023による8週間の処置では、脾臓の網状赤血球の低下(アイソタイプ対照の約38%から約18%へ;Ter-119/CD44high)及び脾臓及び骨髄の両方の成熟RBCのレベル上昇(Ter-119/CD44low)がもたらされ、赤血球新生の改善及び脾臓における二次的赤血球新生の必要性の低さを示している(表25)。また、脾臓重量において、アイソタイプ対照(約0.301g)と比較して、抗TMPRSS6のREGN7999(約0.142g)またはREGN8023(約0.130g)により処置されたHbbth3/+ × HJVHumInマウスにおける顕著な低下も観察された(表24)。表24では、すべての値は平均±SDであり、群あたりn=10~19である。一元配置ANOVA;p<0.05は対WTアイソタイプ対照;**p<0.05は対Hbbth3/+アイソタイプ対照。表25では、すべての値は平均±SDであり、群あたりn=10~19である。一元配置ANOVA;p<0.001は対WTアイソタイプ対照;**p<0.0001は対Hbbth3/+アイソタイプ対照。
Figure 2024517931000029

Figure 2024517931000030
実施例13:ベータサラセミアのマウスモデルにおけるREGN7999の効果
本明細書に開示されるREGN7999の有効性をさらに評価するために、ベータ-中間型サラセミアのマウスモデルにおいて、実施例12に記載のように研究を実施した。
ヒトにおける中等症型ベータサラセミアを再現する(Ginzburg,Blood(2011)118(16):4321-4330)、β1及びβ2遺伝子のヘテロ接合欠失を有し、C57BL/6/129S6バックグラウンドにおいて、マウスHJVの代わりにヒトヘモジュベリン(HJV)のホモ接合体発現(Hbbth3/+ × HJVHumInと呼ぶ)を有するマウスを作製した。Hbbth3/+ × HJVHumInマウス(n=7~9;これらのマウスの作製に関する詳細は実施例12を参照のこと)に、5mg/kgのREGN7999またはアイソタイプ対照を毎週皮下注射した(ただし、1週目に2回の注射を投与したことを除く)。野生型(WT)マウス対照群が含められ、アイソタイプ対照を類似の様式で投与した。8週間後、マウスに処置し、実施例12に記載のように試料を採取した。血清ヘプシジン、血清鉄、ならびに網状赤血球及び成熟赤血球等の完全な血液学検査のパネルを実施例12に記載のように測定した。
さらに、マウスを屠殺した後、それらの肝臓をフラッシュ凍結し、後で実施例12に記載のように処理した。血清ヘプシジン(ng/mLで報告)及び肝臓の鉄含有量(μg/g乾燥重量で報告)の両方の値を表26に示す。
Figure 2024517931000031
表26に例示されるように、5mg/kgのREGN7999による処置の8週間後、Hbbth3/+ × HJVHumInマウスは血清ヘプシジン濃度が、アイソタイプ対照により処置されたWTマウス及びHbbth3/+ × HJVHumInマウスの両方(それぞれ、約376.8ng/mL及び約713.1ng/mL)と比較して顕著に増加していた(約1781ng/mL)。また、表26に示すように、REGN7999による処置では、血清鉄において、アイソタイプ対照により処置されたHbbth3/+ × HJVHumInマウス(約138μg/dL)と比較して顕著な低下(約66μg/dL)がもたらされた。アイソタイプ処置した対照研究群では、野生型マウスの約372μg/g乾燥重量からHbbth3/+ × HJVHumInマウスの約547μg/g乾燥重量まで、肝臓の鉄含有量の増加が観察された。Hbbth3/+ × HJVHumInマウスにおいて、REGN7999による処置は、アイソタイプ対照と比較して肝臓の鉄含有量を顕著に低下させることはなかったが(それぞれ、約513.9及び約547.2μg/g乾燥重量)、野生型アイソタイプ対照により処置されたマウスと比較して顕著な低下が見られた(表26)。表26では、すべての値は平均±SDであり、群あたりn=7~9である;一元配置ANOVA p<0.05は対WTアイソタイプ対照;** p<0.05は対Hbbth3/+ × HJVHumInアイソタイプ対照。
Figure 2024517931000032
表27に示すように、ヘマトクリット、赤血球数、及びヘモグロビン濃度は、予測されたとおり、野生型マウスと比較して、アイソタイプ対照により処置されたHbbth3/+ × HJVHumInマウスの方が低かった。ヘマトクリットは、野生型マウスにおける約37%から、5mg/kgのアイソタイプ対照により処置されたHbbth3/+ × HJVHumInマウスにおける約28%まで低下した。REGN7999による処置では、Hbbth3/+ × HJVHumInにおいて、アイソタイプ対照と比較してヘマトクリットに対する効果な何ら示されなかった(表27)。赤血球(M/μLで報告)は、野生型マウスにおける約9.52から、アイソタイプ対照により処置されたHbbth3/+ × HJVHumInマウスにおける約8.93となった。REGN7999による8週間の処置後、Hbbth3/+ × HJVHumInマウスにおいて赤血球が約11.2M μLまで顕著に増加した(表27)。野生型のアイソタイプ対照処置マウスでは、ヘモグロビン濃度は約13g/dLであったが、表27に示すように、Hbbth3/+ × HJVHumInマウスにおけるアイソタイプ対照による処置では、ヘモグロビンを約9.22g/dLまで顕著に低下させた。REGN7999による処置は、Hbbth3/+ × HJVHumInマウスにおいて処置の8週間後にヘモグロビン濃度を約10.1g/dLまで増加させた。理論に拘束されることなく、これらのデータは、ヘプシジン経路を調節することによって鉄を制限するという考え方に、赤血球に対する有益な効果があることを支持している。表27では、すべての値は平均±SDであり、群あたりn=6~9である;一元配置ANOVA p<0.05は対WTアイソタイプ対照;** p<0.05は対Hbbth3/+ × HJVHumInアイソタイプ対照。
実施例14:カニクイザルにおける薬物動態(PK)及び薬力学(PD)
本研究の目的を、2つの抗TMPRSS6ヒトモノクローナル抗体(mAb)の薬物動態学的(PK)特性及び薬物動態学的/薬力学的(PK/PD)関係を決定することとした。本研究のために、REGN7999及びREGN8023を単回静脈内(IV)注入で雌カニクイザルに投与した。
表28にまとめられているように、21匹の雌カニクイザルを6群のうちの1群に割り付けた(群あたりn=3または4匹の動物;5mg/kgまたは15mg/kgの用量群)。動物は、5mg/kgのREGN7999、5mg/kgREGN8023、15mg/kgのREGN7999、15mg/kgのREGN8023、または15mg/kgのアイソタイプ対照抗体の単回IV注入を受けた(表28)。総薬物濃度の決定のための血液試料を、投与前及び56日の生存期間を通じて様々な時間に全動物から採取した。血清中総ヒトmAbの濃度を、適格な抗ヒトFc酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用して決定した。ノンコンパートメント解析(NCA)を使用してPKパラメータを推定した。薬力学検査のための血液試料を、研究期間を通じて様々な時点で採取し、標準の臨床化学による分析(Beckman Coulter AU680アナライザー)及び血液学的分析(Avida 120アナライザー)を用いて分析した。市販のHepcidin Murine-Compete ELISAキット(Intrinsic Lifesciences、カタログ:HMC-001、ロット:08232019)を製造者の指示に従って使用して血清ヘプシジンを測定した。
Figure 2024517931000033
抗TMPRSS6モノクローナル抗体(mAb)のREGN7999またはREGN8023のPKプロファイルは、低濃度における標的介在性クリアランス(TMC)を伴う非線形の動態、及び高mAb濃度における標的介在性排出経路の飽和と一致する線形の用量比例的動態により表される。単回投与IVを行った後、総REGN7999及び総REGN8023の濃度時間プロファイルを最初の短時間分布相によって、その後、短時間線形ベータ消失相によって特徴付け、低濃度において、終末非線形標的介在性消失相及び標的介在性消失後の相によって特徴付けた。プロファイルに対する抗薬物抗体(ADA)様の影響の決定的証拠及び曝露に対する明らかな影響は観察されず、したがって、どの濃度値も分析から除外されなかった。
薬物動態パラメータを表29に記載する。5mg/kg及び15mg/kgの抗体の単回IV投与後、REGN7999ではそれぞれ約120μg/mL及び約410μg/mLの最大血清濃度(Cmax)値が観察され、REGN8023ではそれぞれ約162及び約508のCmax値が観察された。対応する用量正規化Cmax(Cmax/用量)値は約1.4倍内であり、抗TMPRSS6 mAbのREGN7999及びREGN8023についてIV用量増加に伴うCmaxの用量比例的増加が示された。平均tmax(Cmax到達に要する時間)は、第1の測定時点である約0.5時間がすべての用量群で観察された。
REGN7999への曝露(AUCinf)は、用量比例を超えて増加し、15mg/kgのREGN7999の投与後のAUCinf/用量は、5mg/kgの用量投与後より約1.6倍大きかった。これと一致して、より低濃度におけるTMCの影響がより大きいことによる、より大きい全身クリアランス(CL)が5mg/kg用量で観察された。REGN8023への曝露は、用量増加に伴い比例的に増加し、検討した用量におけるTMCのより軽微な効果を示唆している。TMCを表す終末相半減期(t1/2)は全用量群で約7~8日の範囲であった。
Figure 2024517931000034
表30に示すように、血清ヘプシジン、血清鉄、及びトランスフェリン飽和度に対するREGN7999及びREGN8023の薬力学的効果を57日の研究期間を通して追跡した。5mg/kgまたは15mg/kgのREGN7999またはREGN8023により処置された群では、平均血清鉄が投与後1日目までにベースライン血清鉄濃度から約60%低下した。
表31に示すように、トランスフェリン飽和度は、1日目にベースライン時の約35%から約12%減少し、血清鉄運搬能の改善を表している。1日目のPD効果は用量とは独立したものであったことから、REGN7999及びREGN8023の低用量及び高用量の両方で1日目に達成された濃度におけるTMPRSS6結合の飽和が示唆される。血清鉄及びトランスフェリン飽和度の低下は、5mg/kg用量群及び15mg/kg用量群の両方で、REGN7999投与後少なくとも6週間を通して維持された。5mg/kgのREGN8023の用量群では、血清鉄に対する薬力学的効果はIV投与後約1週間目にベースラインに向かって戻り始め、4週目までにはアイソタイプ対照処置との統計的差はなくなっていた。15mg/kgのREGN8023用量群では、持続的な高薬物濃度のため、薬力学的効果が5mg/kgのREGN8023群の場合よりも持続時間が長かった。血清鉄及びトランスフェリン飽和度の両方とも、57日目までには大半の動物においてほぼベースライン値まで戻った。
表32に示すように、血清ヘプシジン濃度は、REGN7999またはREGN8023の投与後わずかに増加したが、動物間の大きなばらつきが観察された。
Figure 2024517931000035

Figure 2024517931000036

Figure 2024517931000037
実施例15:ベータサラセミアのマウスモデルにおける無酸素性能力に対するREGN7999の効果
ベータサラセミアのマウスモデルにおける無酸素性能力に対するREGN7999処置の効果を評価した。
ヒトにおける中等症型ベータサラセミアを再現する(Ginzburg,Blood(2011)118(16):4321-4330)、β1及びβ2遺伝子のヘテロ接合欠失を有し、C57BL/6/129S6バックグラウンドにおいて、マウスHJVの代わりにヒトヘモジュベリン(HJV)のホモ接合体発現(Hbbth3/+ × HJVHumInと呼ぶ)を有するマウスを作製した。Hbbth3/+ × HJVHumInマウス(これらのマウスの作製に関するさらなる詳細については実施例12)。
Hbbth3/+マウスにおけるREGN7999処置は、より小さく、より健常に見える、ターンオーバーがより遅い赤血球の増加をもたらすと思われる(例えば、実施例13を参照のこと)。しかしながら、このことが、REGN7999処置後に赤血球の機能的改善につながるのかどうかは不明であった。例えば、これらのより小さく、より健常な赤血球が、疲労困憊走行時のような無酸素性条件下で十分な酸素を送達できるのかどうかは不明であった。
これを試験するため、Hbbth3/+マウスを強制走行研究に供した(図1に示されている研究計画を参照のこと)。すべての実験の前に、マウスを、ショッカープレート付きで供給される6レーン電動トレッドミル(Series 8 Treadmill,IITC Life Science)のベルト上で2週間トレーニングした。疲労困憊走行のために、基本速度(10m/分)を5分ごとに5m/分上げた。60分目に距離の最大量を決定した。ショッカーユニットに対して不活動のままであるか、または500回のショックを受けたマウスはトレッドミルから取り出した。
Hbbth3/+マウスは、アイソタイプ対照抗体(REGN1945)により処置された野生型C57BL/6マウスよりも顕著に少ない距離を走行することが観察され、これらのマウスが速く疲労困憊したことが示唆された(図2A)。10mg/kgのREGN7999により処置されたHbbth3/+マウスは野生型動物と同様の距離を走行できたことから(図2A)、REGN7999処置の場合に観察された赤血球の健康状態の改善は、無酸素性能力の改善に反映されていることを示している。REGN7999を注射された野生型C57BL/6マウスでは、アイソタイプ処置マウスと比較して走行距離の差は示されなかったことから、REGN7999は非Hbbth3/+マウスの走行能力を改善しないことを示している(図3)。
乳酸測定値も収集した。乳酸産生を決定するため、疲労困憊走行後に尾静脈から15mLの血液を採取した。Summermatter et al.Proc Natl Acad Sci USA.2013;110(21):8738-43に記載のように乳酸測定器(Nova Biomedical)を使用して乳酸濃度を決定した。対照Hbbth3/+マウスでは、REGN7999により処置されたHbbth3/+マウスよりも少ない距離を走行したにもかかわらず、血中の乳酸がより多く産生されたことから、赤血球の健康状態の改善がさらに示唆される(図2B)。
実施例16:肝臓の鉄及び赤血球新生の有効性に対するREGN7999及びAcvr2b(L79D)-Fcの効果
Acvr2b(L79D)-Fcは、マウス及びヒトにおいて無効造血を改善し、ヘモグロビンを増加させることが示されている(例えば、Cappellini et al.N Engl J Med.2020;382(13):1219-31、Suragani et al.Blood.2014;123(25):3864-72を参照のこと)。本明細書で示されるように、REGN7999によるTMPRSS6の遮断は、無効造血を改善し、より多くのより健常な赤血球をもたらすと思われる。ベータサラセミアのマウスモデルにおいて、肝臓の鉄及び赤血球新生の有効性に対するREGN7999処置の効果を評価し、Acvr2b(L79D)-Fcによる処置と比較した。
REGN7999処置(10mg/kg)及びAcvr2b(L79D)-Fc処置(10mg/kg)の効果を比較するため、Hbbth3/+マウスに2分子のうちの一方を8週間投与した。血清ヘプシジン、血清鉄、及び肝臓の鉄含有量を実施例10に記載のように測定した。いずれかの分子による8週間の処置後、REGN7999処置では血清ヘプシジンが増加し、血清鉄及び肝臓の鉄含有量が低下したが、Acvr2b(L79D)-Fc処置ではこれらのパラメータに対する影響はなかったことが観察された(図4A~C)。Acvr2b(L79D)-Fcは体重を増加させたが、肝臓重量に対する影響はなかった(図5)。REGN7999処置は脾臓重量を減少させることが示されたが、Acvr2b(L79D)-Fc処置では示されなかった(図6)。Hbbth3/+対照マウスは顕著な脾腫を有するが、これが、REGN7999による処置により一部回復していた。Acvr2b(L79D)-Fc処置は、Hbbth3/+マウスの脾腫に何の変化ももたらさなかった。
血球数パネルも処置動物から収集した。先の実施例に見られるように、血球数パネルは、REGN7999処置がHbbth3/+マウスの赤血球数を顕著に増加させることを示している(表33)。Acvr2b(L79D)-Fc処置は、Hbbth3/+対照と比較してヘモグロビンを顕著に増加させたが、赤血球数を増加させなかった。しかしながら、REGN7999処置は赤血球数の顕著な増加を示した(表33)。
この知見を確認するためフローサイトメトリーを使用した。脾臓または骨髄から単離された赤血球を、マウスFcブロッカー(抗CD16/32、BD Biosciences)と共に10分間インキュベートし、その後、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)抗Ter119、フィコエリスリン(PE)抗CD71、アロフィコシアニン(APC)抗CD44及びAPC-シアニン7(APC-Cy7)抗CD45/CD11b/Ly6Gカクテル、とのインキュベーションを30分間行った(抗体はすべてBD Biosciences)。分析から死細胞を除外するため、細胞をSytox AADvanced(Thermofisher)で30分間染色した。すべての染色手順を氷上で実施した。補正用対照をOneCompビーズ(Invitrogen)を使用して実施し、細胞染色時に調製した。標的集団のゲーティングを修正するためのminus-Oneコントロールのパネルを作成した。CytoFLEX Flow Cytometer(Beckman-Coulter)で全試料を測定した。
フローサイトメトリーデータでは、REGN7999処置マウスにおいてのみ脾臓の成熟赤血球増加が示され、Acvr2b(L79D)-Fc処置マウスでは示されなかった(図7)。REGN7999処置はまた、網状赤血球の低下を示し、これは、Acvr2b(L79D)-Fc処置では観察されなかった(図8)。
Figure 2024517931000038
配列
Figure 2024517931000039

Figure 2024517931000040

Figure 2024517931000041

Figure 2024517931000042

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Figure 2024517931000049

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Claims (61)

  1. 膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、TMPRSS6の触媒ドメインに結合するが、TMPRSS6の触媒三残基には結合しない、前記抗体またはその抗原結合性断片。
  2. 前記抗体またはその抗原結合性断片が、TMPRSS6のLDLRaドメイン2内部に含まれる部位にてさらに結合する、請求項1に記載の単離された抗体または抗原結合性断片。
  3. TMPRSS6に対する前記抗体またはその抗原結合性断片の結合が、TMPRSS6の前記触媒三残基を直接的には閉塞しない、請求項1または2に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  4. TMPRSS6に対する前記抗体またはその抗原結合性断片の結合が、TMPRSS6のアロステリック調節を媒介する、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  5. TMPRSS6に対する前記抗体またはその抗原結合性断片の結合が、TMPRSS6のアロステリック阻害を媒介する、請求項1~4のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  6. 膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、TMPRSS6のアロステリック阻害物質である、前記抗体またはその抗原結合性断片。
  7. 前記抗体または抗原結合性断片が、TMPRSS6を、TMPRSS6基質に結合することはできるがそれを切断することができない不活性型立体構造に維持する、請求項1~6のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  8. 前記TMPRSS6基質がヘモジュベリン(HJV)である、請求項7に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  9. 膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、TMPRSS6の触媒三残基を立体的に閉塞する部位にてTMPRSS6の触媒ドメイン内部で結合する、前記抗体または抗原結合性断片。
  10. 前記抗体またはその抗原結合性断片が、TMPRSS6への結合についてヘモジュベリン(HHV)と競合する、請求項9に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  11. ヒト膜貫通型セリンプロテアーゼ6(hTMPRSS6)タンパク質(配列番号126)に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、水素/重水素交換により決定されるように、hTMPRSS6の細胞外ドメイン内に含有されている1個以上のアミノ酸と相互作用する、前記抗体またはその抗原結合性断片。
  12. 前記抗体またはその抗原結合性断片が、水素/重水素交換により決定されるように、(a)配列番号126のアミノ酸125~133、(b)配列番号126のアミノ酸586~594、(c)配列番号126のアミノ酸626~650、(d)配列番号126のアミノ酸693~703、(e)配列番号126のアミノ酸704~724、及び/または(e)配列番号126のアミノ酸780~805、から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項11に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  13. 前記抗体またはその抗原結合性断片が、水素/重水素交換により決定されるように、(a)配列番号126のアミノ酸693~703、及び/または(b)配列番号126のアミノ酸780~805、から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項12に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  14. 前記抗体またはその抗原結合性断片が、水素/重水素交換により決定されるように、(a)配列番号126のアミノ酸125~133、(b)配列番号126のアミノ酸586~594、(c)配列番号126のアミノ酸626~650、及び/または(d)配列番号126のアミノ酸704~724、から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項12に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
  15. 膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、クライオ電子顕微鏡構造モデリングにより決定されるように、ヒトTMPRSS6(配列番号126)の残基G699、H701、D724、Q726、L727、I728、P729、L732、E735、G749、Y750、R751、K752、及びN791と相互作用する、前記抗体またはその抗原結合性断片。
  16. 前記抗体またはその抗原結合性断片が、クライオ電子顕微鏡構造モデリングにより決定されるように、ヒトTMPRSS6(配列番号126)の残基V490、S501、T502、C503、I504、S505、及びK508とさらに相互作用する、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  17. 膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、クライオ電子顕微鏡構造モデリングにより決定されるように、ヒトTMPRSS6の残基R597、R599、I601、D622、L710、R711、E712、G713、G714、P715、及びI716と相互作用する、前記抗体またはその抗原結合性断片。
  18. 膜貫通型セリンプロテアーゼ6(TMPRSS6)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、重鎖可変領域(HCVR)内に含有されている3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)、ならびに軽鎖可変領域(LCVR)内に含有されている3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含み、前記HCDR3が、表1に記載のHCDR3の配列から選択されるアミノ酸配列を有する、前記抗体またはその抗原結合性断片。
  19. 前記LCDR3配列が、表1に記載のLCDR3の配列から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項18に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  20. 表1に記載のHCDR1、HCDR2、及びHCDR3の配列を含む、請求項18または19に記載の抗体または抗原結合性断片。
  21. 表1に記載のLCDR1、LCDR2、及びLCDR3の配列を含む、請求項18~20のいずれかに記載の抗体または抗原結合性断片。
  22. (a)前記HCDR1ドメインが、配列番号4、24、34、44、64、84、または102から選択されるアミノ酸配列を有し、
    (b)前記HCDR2ドメインが、配列番号6、26、36、46、66、86、または104から選択されるアミノ酸配列を有し、
    (c)前記HCDR3ドメインが、配列番号8、28、38、48、68、88、または106から選択されるアミノ酸配列を有し、
    (d)前記LCDR1ドメインが、配列番号12、52、72、92、または110から選択されるアミノ酸配列を有し、
    (e)前記LCDR2ドメインが、配列番号14、54、または74から選択されるアミノ酸配列を有し、かつ
    (f)前記LCDR3ドメインが、配列番号16、56、76、94、または112から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項18~21のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  23. 前記3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRが、CDRセットの
    (a)配列番号4(HCDR1)、配列番号6(HCDR2)、配列番号8(HCDR3)、配列番号12(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号16(LCDR3)、
    (b)配列番号24(HCDR1)、配列番号26(HCDR2)、配列番号28(HCDR3)、配列番号12(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号16(LCDR3)、
    (c)配列番号34(HCDR1)、配列番号36(HCDR2)、配列番号38(HCDR3)、配列番号12(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号16(LCDR3)、
    (d)配列番号44(HCDR1)、配列番号46(HCDR2)、配列番号48(HCDR3)、配列番号52(LCDR1)、配列番号54(LCDR2)、及び配列番号56(LCDR3)、
    (e)配列番号64(HCDR1)、配列番号66(HCDR2)、配列番号68(HCDR3)、配列番号72(LCDR1)、配列番号74(LCDR2)、及び配列番号76(LCDR3)、
    (f)配列番号84(HCDR1)、配列番号86(HCDR2)、配列番号88(HCDR3)、配列番号92(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号94(LCDR3)、または
    (g)配列番号102(HCDR1)、配列番号104(HCDR2)、配列番号106(HCDR3)、配列番号110(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号112(LCDR3)、のうちの1つを含む、請求項18~22のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  24. 前記3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRが、CDRセットの
    配列番号44(HCDR1)、配列番号46(HCDR2)、配列番号48(HCDR3)、配列番号52(LCDR1)、配列番号54(LCDR2)、及び配列番号56(LCDR3)、を含む、請求項18~23のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  25. 前記3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRが、CDRセットの
    配列番号102(HCDR1)、配列番号104(HCDR2)、配列番号106(HCDR3)、配列番号110(LCDR1)、配列番号14(LCDR2)、及び配列番号112(LCDR3)、を含む、請求項18~23のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  26. TMPRSS6に結合する抗体またはその抗原結合性断片であって、HCVR内に含有されている3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)ならびにLCVR内に含有されている3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含み、前記HCVRが、
    (i)配列番号2、22、32、42、62、82、もしくは100から選択されるアミノ酸配列、
    (ii)配列番号2、22、32、42、62、82、もしくは100から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、
    (iii)配列番号2、22、32、42、62、82、もしくは100から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
    (iv)配列番号2、22、32、42、62、82、もしくは100から選択される配列に関して12以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列、を含む、前記抗体またはその抗原結合性断片。
  27. 前記LCVRが、
    (a)配列番号10、50、70、90、もしくは108から選択されるアミノ酸配列、
    (b)配列番号10、50、70、90、もしくは108から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列、
    (c)配列番号10、50、70、90、もしくは108から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、または
    (d)配列番号10、50、70、90、もしくは108から選択される配列に関して10以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列、を含む、請求項26に記載の抗体または抗原結合性断片。
  28. 配列番号2、22、32、42、62、82、または100から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項26または27に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  29. 配列番号10、50、70、90、または108から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項26~28のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  30. 配列番号2/10、22/10、32/10、42/50、62/70、82/90、または100/108から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項26~29のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  31. 配列番号42/50のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項30に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  32. 配列番号100/108のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項30に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  33. TMPRSS6に結合する抗体であって、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)を含み、前記重鎖が、配列番号18、30、40、58、78、96及び114からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、前記抗体。
  34. 前記軽鎖が、配列番号20、60、80、98及び116からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項33に記載の抗体。
  35. 配列番号18/20、30/20、40/20、58/60、78/80、96/98または114/116から選択されるHC/LCアミノ酸配列対を含む、請求項33または34に記載の抗体。
  36. 58/60のHC/LCアミノ酸配列対を含む、請求項35に記載の抗体。
  37. 114/116のHC/LCアミノ酸配列対を含む、請求項35に記載の抗体。
  38. 前記抗体が、
    (a)完全ヒトモノクローナル抗体である、
    (b)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、ヒトTMPRSS6に、25℃及び37℃において約21.2nM未満の解離定数(K)で結合する、
    (c)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、サルTMPRSS6に、25℃及び37℃において約25.7nM未満のKで結合する、
    (d)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、マウスTMPRSS6に、25℃及び37℃において約703nM未満のKで結合する、
    (e)ヒトTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約2.7nM未満である、
    (f)サルTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約3.6nM未満である、
    (g)マウスTMPRSS6を発現している細胞に結合し、EC50が約35nM未満である、
    (h)約90%超の阻害パーセントで、ヒトTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、ヒトTMPRSS6を阻害する、
    (i)ヒトTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、ヒトTMPRSS6を阻害し、約200pM未満のIC50を示す、
    (j)約42%超の阻害パーセントで、マウスTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、マウスTMPRSS6を阻害する、
    (k)マウスTMPRSS6の存在下における細胞表面ヘモジュベリンのプロテアーゼ依存性放出を阻害する、例えば、マウスTMPRSS6を阻害し、約274pM未満のIC50を示す、
    (l)ヒトTMPRSS6を25℃及び37℃において約65%超の阻害パーセントで阻害する、
    (m)ヒトTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約10nM未満のIC50を示す、
    (n)サルTMPRSS6を25℃及び37℃において約66%超の阻害パーセントで阻害する、
    (o)サルTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約50nM未満のIC50を示す、
    (p)マウスTMPRSS6を25℃及び37℃において約58%超の阻害パーセントで阻害する、
    (q)マウスTMPRSS6を25℃及び37℃において阻害し、約35nM未満のIC50を示す、
    (r)それを必要とする対象に投与した場合に、前記対象の血清鉄濃度を減少させる、
    (s)それを必要とする対象に投与した場合に、前記対象の血清ヘプシジン濃度を増加させる、
    (t)それを必要とする対象に投与した場合に、前記対象の成熟赤血球レベルを増加させる、
    (u)それを必要とする対象に投与した場合に、前記対象の脾臓及び/または骨髄における成熟赤血球レベルを増加させる、
    (v)それを必要とする対象に投与した場合に、前記対象のヘモグロビン濃度を増加させる、または
    (w)それを必要とする対象に投与した場合に、前記対象のトランスフェリン飽和レベルを低下させる、から選択される1つ以上の特性を有する、請求項1~37のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  39. 前記抗体が、完全ヒトモノクローナル抗体である、請求項1~38のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
  40. TMPRSS6への結合について請求項1~38のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片と競合する、抗体またはその抗原結合性断片。
  41. 請求項1~38のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片と同じエピトープに結合する、抗体またはその抗原結合性断片。
  42. 請求項1~41のいずれか1項に記載の、TMPRSS6に結合する単離された抗体またはその抗原結合性断片と、薬学的に許容される担体または希釈剤と、を含む医薬組成物。
  43. 請求項1~41のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片のHCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
  44. 請求項1~41のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片のLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
  45. 請求項43に記載のポリヌクレオチド配列及び/または請求項44に記載のポリヌクレオチド配列を含む、ベクター。
  46. 請求項43に記載のポリヌクレオチドを含む第1のベクターと、請求項44に記載のポリヌクレオチドを含む第2のベクターと、を含む、ベクターのセット。
  47. 請求項45に記載のベクターまたは請求項46に記載のベクターのセットを含む、宿主細胞。
  48. TMPRSS6に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片を生産する方法であって、請求項47に記載の宿主細胞を、前記抗体またはその抗原結合性断片の産生を可能にする条件下で培養すること、及びそのようにして産生された前記抗体またはその抗原結合性断片を回収すること、を含む、前記方法。
  49. 前記抗体またはその抗原結合性断片を、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物として製剤化することをさらに含む、請求項48に記載の方法。
  50. 鉄過剰と関連する疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を治療、予防、または改善する方法であって、治療的有効量の請求項1~41のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記方法。
  51. 疾患または障害が、先天性赤血球形成異常性貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血、アルファサラセミア、ベータサラセミア、輸血依存性溶血性貧血、骨髄異形成症候群、鎌状赤血球症、真性多血症、遺伝性ヘモクロマトーシス、または慢性肝疾患である、請求項50に記載の方法。
  52. 前記疾患または障害が、ベータサラセミアである、請求項51に記載の方法。
  53. 前記疾患または障害が、重症型ベータサラセミアまたは中等症型ベータサラセミアである、請求項52に記載の方法。
  54. 前記疾患または障害が、骨髄異形成症候群である、請求項51に記載の方法。
  55. 前記疾患または障害が、環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群である、請求項54に記載の方法。
  56. 前記疾患または障害が、輸血依存性溶血性貧血である、請求項51に記載の方法。
  57. 前記疾患または障害が、ピルビン酸キナーゼ欠乏症による輸血依存性溶血性貧血、または鉄芽球性輸血依存性溶血性貧血である、請求項56に記載の方法。
  58. 前記疾患または障害が、慢性肝疾患である、請求項51に記載の方法。
  59. 前記疾患または障害が、アルコール関連慢性肝疾患、C型肝炎、または自己免疫性肝炎である、請求項58に記載の方法。
  60. 前記医薬組成物が、それを必要とする前記対象に予防的または治療的に投与される、請求項50~59のいずれか1項に記載の方法。
  61. 前記医薬組成物が、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、または筋肉内に投与される、請求項50~60のいずれか1項に記載の方法。
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