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JP2024156850A - 固形腫瘍の処置のためのβig-h3アンタゴニストと免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせ - Google Patents

固形腫瘍の処置のためのβig-h3アンタゴニストと免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせ Download PDF

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JP2024156850A
JP2024156850A JP2024126085A JP2024126085A JP2024156850A JP 2024156850 A JP2024156850 A JP 2024156850A JP 2024126085 A JP2024126085 A JP 2024126085A JP 2024126085 A JP2024126085 A JP 2024126085A JP 2024156850 A JP2024156850 A JP 2024156850A
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βig
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cancer
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エニーノ,アナ
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Abstract

【課題】固形腫瘍に罹患している患者の処置に有用な組み合わせを提供する。
【解決手段】i.免疫チェックポイント阻害剤とii.βig-h3アンタゴニストとの組み合わせが提供される。好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤が抗PD-L1/PD-1抗体である、組み合わせ、又はβig-h3アンタゴニストが抗βig-h3抗体である、組み合わせである。
【選択図】なし

Description

発明の分野:
本発明は、例えば、固形腫瘍(例、膵臓がん)に罹患している患者の処置において同時又は逐次的に使用するための(i)βig-h3アンタゴニストと(ii)免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせに関する。本発明はまた、腫瘍に罹患している患者の免疫チェックポイント阻害剤への感受性を増強するための方法において使用するためのβig-h3アンタゴニストを提供する。
発明の背景:
膵管腺がん(PDA)は、生存期間の中央値6ヶ月未満及び5年生存率3~5%を伴う高度に侵襲性のがんである。PDAは、遺伝子改変を伴う一連の膵臓上皮内新生物(PanIN)を通して進化する。これらのうち、最も初期で最も遍在性であるのは、Krasの発がん性活性化である。がん細胞を定義する分子的及び組織学的変化に加えて、PDAの特徴は新生物細胞を囲む顕著な間質反応である。間質の細胞成分は、血管要素及び神経要素(即ち、それぞれ内皮細胞及び神経細胞)並びにがん関連線維芽細胞(CAF)と共に、免疫細胞、例えばリンパ球、マクロファージ、及び骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)などを含む。
活性化された膵星細胞(PSC)がこのコラーゲン性間質の産生に関与する細胞の主要な集団であることは、現在十分に確立されている。PSCは、定常状態では膵臓の約4%を占める。それらは炎症時に活性化され、次にCAFに変換される。最近の試験では、CAFが腫瘍外区画中でCD8+ T細胞を誘引して隔離することができることが実証されている。この効果によって、腫瘍細胞とのそれらの接触及び結果としての腫瘍細胞の除去が弱まる。マウスにおいて実施されたいくつかの試験は、CAFを枯渇させることによって免疫抑制が消失することを示しており5,6、局所的な抗腫瘍応答を調節する際に重要な役割を果たしていることを示している。大半の固形腫瘍では、PDAと同様に、腫瘍中へのCD8+ T細胞浸潤が良好な予後に関連付けられる要因である7,8。腫瘍近傍区画中に高い密度のCD8+ T細胞を伴うPDA患者は、低い密度を伴う患者よりも長い生存期間を有する4,9。従って、抗腫瘍CD8+ T細胞応答を回復することが、PDAにおいて非常に重要でありうる。
免疫チェックポイント遮断によって、異なる進行性悪性腫瘍(即ち、黒色腫)を伴う一部の患者において臨床応答が誘発されたが、しかし、PDACでは効果的ではなく、線維形成性腫瘍の微小環境中で生成される機械的張力を含む他の要因がT細胞活性を限定しうることを示唆している10。免疫細胞はこれらの腫瘍の実質に浸透せず、しかし、代わりに腫瘍細胞の巣を囲む間質中に保持される11,12。抗PD-L1/PD-1薬剤を用いた処置後、間質関連T細胞は活性化及び増殖(臨床応答がないことに関連付けられる浸潤ではない)の証拠を示すことができる10
βig-h3(TGFβiとしても公知)は、TGF-βを用いて処理されたA549ヒト肺腺がん細胞から最初に単離された68kDaのECMタンパク質である13。βig-h3の生理学的機能は、細胞-マトリックス相互作用及び細胞遊走を含むことが提案されている14。βig-h3はまた、いくつかのECM分子、例えばコラーゲンI、II、及びIV並びにフィブロネクチン、プロテオグリカン、及びペリオスチンなど)に結合することが示されている15,16。細胞表面では、βig-h3は種々のインテグリン(αVβ317,18、α1β118、及びαVβ519)と相互作用することが示されている。βig-h3がTCRシグナル伝達経路中の初期因子(例えばLck20など)に干渉することにより糖尿病誘発性T細胞の活性化を阻止することが最近示された。本発明者らは以前に、βig-h3発現がいくつかのがん(膵臓がんを含む)において増加するのに対し21、他のがん(例えば卵巣がん及び多発性骨髄腫など)では、βig-h3のレベルが低下することを見出した22,23。βig-h3の発現が、免疫抑制における増加に関連付けられる膵臓がんでより高いため、本発明者らは、βig-h3が阻害性CD8+ T細胞活性化を遮断することにより抗腫瘍免疫応答を直接的に調節する際に役割を果たすことを実証した(国際公開第2017/158043号を参照のこと)。
結論として、免疫チェックポイント遮断は抗がん治療としてテストされてきたが、しかし、がんに罹患した全ての個人、及び特に不良な予後に著しく関連付けられる固形腫瘍(例えば膵臓がんなど)を完全に処置しやすいことは証明されていない。このように、特に膵臓がんの処置において新たな展望を提供しうる新たな治療選択肢についての必要性がある。
発明の要約:
本発明は、固形腫瘍、及び特に膵臓がんに罹患している患者の処置において同時又は逐次的に使用するための、βig-h3アンタゴニストと免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせに関する。本発明はまた、固形腫瘍に罹患している患者の免疫チェックポイント阻害剤への感受性を増強するための方法において使用するためのβig-h3アンタゴニストを提供する。
発明の詳細な説明:
本発明は、βig-h3アンタゴニスト(例えば中和βig-h3抗体など)が免疫チェックポイント阻害剤(抗体抗PD1)と相乗的に作用し、がん細胞のアポトーシスを促進し、腫瘍成長を防止するという本発明者らによる予想外の知見から起こる。
膵臓がんにおける抗腫瘍免疫応答のβig-h3調節の機構を試験するために、本発明者らは、膵臓細胞におけるKrasG12D活性化に基づいた自然発生膵臓新生物及びがんの操作されたマウスモデルを利用した24,25。これらのモデルを使用し、本発明者らは、抗腫瘍免疫の調節に対するβig-h3の枯渇の効果、並びに単独での、及び免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせにおける腫瘍成長に対するそれによるその後の影響を評価した(図1及び2を参照のこと)。この関連性は、これらのモデルにおいてインビボで効果的であることが証明され、治療の組み合わせの相乗効果を示す。
任意の理論に拘束されることなく、本発明者らは、CAF分泌βig-h3が腫瘍微小環境において観察される硬化において重要な役割を果たし(図3及び4を参照のこと)、このタンパク質の枯渇が免疫抑制に対して影響を有するが、しかしまた、抗腫瘍CD8+ T細胞の間質の機械的放出に対する役割を有しうることを実証する。
したがって、本発明者らは、抗腫瘍T細胞の機械的張力解放及び浸透に関して、新たに同定された間質標的(βig-h3)を中和する効果を実証する(図3)。したがって、抗PD-1チェックポイント免疫治療への応答を増強するために抗間質治療を使用することの利点は十分に確立されており、固形腫瘍(例えば膵臓がんなど)に対する免疫及び特異的間質治療の組み合わせについての潜在力を可能にする。
KICマウスにおいてβig-h3のインビボ枯渇を誘導することの影響。(a)抗体枯渇を誘導するために使用される実験プロトコール。 (b)腫瘍重量を実験の終了時に定量化した。 (c)抗βig-h3 Ab及び抗PD-1 Abの組み合わせの影響。実験を5~6匹のマウス/群を使用して実施した。 (d)腫瘍面積当たりのGrzB染色の定量化(全スキャン切片上)。 (e)未処置マウス及び抗βig-h3処置マウスの生存曲線。 (f)未処置マウス並びに抗βig-h3 Ab及び抗PD-1 Ab処置マウスの生存曲線。生存期間の中央値を表中に示す。ns;非有意、P<0.05、**P<0.01、****P<0.0001。 確立されたPDAにおけるβig-h3枯渇によって、低下した腫瘍容積に導かれる。(a)抗体枯渇のために使用される実験プロトコール。 (b)腫瘍容積を、Ab処置動物において超音波(Vevo2100(登録商標))を使用して定量化した。 (c)big-h3処置(AB)及び未処置(UT)KPCマウスにおけるCK19及び切断型カスパーゼ3についての代表的な免疫組織化学。スケールバー、50μm。 (d)CK19染色に基づくPDA面積及びPANIN面積の定量化、並びに (e)切断型カスパーゼ3についての染色の結果の定量化。実験を、5~6匹のマウス/群を使用して実施した。P<0.05及び***P<0.001 確立されたPDAにおけるβig-h3枯渇によって、原発巣及び転移における腫瘍微小環境が再プログラミングされる。(a)抗体枯渇のために使用される実験プロトコール。 (b)腫瘍容積を、Ab処置動物において超音波(Vevo2100(登録商標))を使用して定量化し、0日目に対する%で表した。 (c)UT及びAB処置KICマウスにおけるIF(CK19及びaSMA染色に基づく)と連結されたAFMによる弾性係数の定量化(3匹の独立したマウス/群、100の力曲線を目的ゾーン当たりで測定した)。 (d)全コラーゲン(透過光)及び太い線維(偏光)含量の定量化。P<0.05、****P<0.0001。 βig-h3は主に間質区画において発現する。(a)単離された細胞集団の模式図。 (b)新鮮に単離されたCAF及び管細胞におけるbigh3レベルのqPCR分析。TATA結合タンパク質(TBP)を対照ハウスキーピング遺伝子として使用した。相対発現レベルを、式2-CT標的/2-CT TBPを使用して算出した。示した結果は、3匹のマウス/群を含む2つの独立した実験を代表している。 (c)CAF又は管細胞を完全培地中に蒔くか、20ng/mlのTGF-b1を用いて48時間にわたり刺激した。分泌されたbig-h3のレベルを、ELISAを使用して培養上清中で定量化した。示した結果は、3つの異なるCAF調製物及び2つの異なる管調製物を含む2つの独立した実験を代表している。P<0.05;**P<0.01及び***P<0.001
固形腫瘍の処置における使用のための、βig-h3アンタゴニストと免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせ。
従って、本発明は、固形腫瘍の処置において同時又は逐次的に使用するための、
i.βig-h3アンタゴニストと
ii.免疫チェックポイント阻害剤と
の組み合わせを提供する。
本発明はまた、固形腫瘍に罹患している患者の免疫チェックポイント阻害剤への感受性を増強するための方法において使用するためのβig-h3アンタゴニストを提供する。
その最も広い意味において、用語「処置する」又は「処置」は、そのような用語が適用される障害又は状態、あるいはそのような障害又は状態の1つ又は複数の症状の進行を逆転、軽減、阻害することを指す。
「βig-h3アンタゴニスト」は、例えば、βig-h3とαVβ3インテグリンの間の相互作用の低下もしくは遮断、及び/又はβig-h3とコラーゲンの間の相互作用の低下もしくは遮断を含む、βig-h3の活性を中和、遮断、阻害、抑止、低下、又は干渉することが可能な分子(天然又は合成)を指す。βig-h3アンタゴニストは、抗体及びその抗原結合フラグメント、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質、多糖類、オリゴ糖、核酸、生物有機分子、ペプチド模倣物、薬理学的薬剤及びそれらの代謝物、転写及び翻訳制御配列などを含む。アンタゴニストはまた、タンパク質のアンタゴニスト変異体、タンパク質に向けられたsiRNA分子、タンパク質に向けられたアンチセンス分子、アプタマー、及びタンパク質に対するリボザイムを含む。例えば、βig-h3アンタゴニストは、βig-h3に結合し、βig-h3の生物学的活性を中和、遮断、阻害、抑止、低下、又は干渉する(例えば抗腫瘍免疫応答を遮断する、など)分子でありうる。特に、本発明によるβig-h3アンタゴニストは抗βig-h3抗体である。
βig-h3の「生物学的活性」により、CD8+ T細胞の活性化を阻害し(抗腫瘍免疫応答を遮断し)、腫瘍微小環境(TME又は腫瘍間質)の硬化を誘導することを意味する。
化合物がβig-h3アンタゴニストである能力を決定するためのテストは、当業者に周知である。好ましい実施形態では、アンタゴニストは、βig-h3の生物学的活性を阻害するために十分な様式においてβig-h3に特異的に結合する。βig-h3への結合及びβig-h3の生物学的活性の阻害は、当技術分野において周知の任意の競合アッセイにより決定されうる。例えば、アッセイは、βig-h3に結合するβig-h3アンタゴニストとしてテストされる薬剤の能力を決定することにありうる。結合能力はKd測定により反映される。用語「KD」は、本明細書中で使用するように、解離定数を指すことを意図し、それは、KdとKaの比率(即ち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表現される。生体分子を結合するためのKD値は、当技術分野において十分に確立された方法を使用して決定することができる。特定の実施形態では、「βig-h3に特異的に結合する」アンタゴニストは、1μM又はそれ以下、100nM又はそれ以下、10nM又はそれ以下、あるいは3nM又はそれ以下のKDを伴いヒトβig-h3ポリペプチドに結合する阻害剤を指すことを意図する。次に、競合アッセイを、βig-h3の生物学的活性を阻害する薬剤の能力を決定するために定めてもよい。機能的アッセイでは、例えばa)TMEの硬化の誘導及び/又はb)CD8+ T細胞活性化の阻害を阻害する能力を評価することなどが予想される(機能的T細胞抑制アッセイに関連する実施例/方法を参照のこと)。
当業者は、βig-h3アンタゴニストがβig-h3の生物学的活性を中和、遮断、阻害、抑止、低下、又は干渉するか否かを簡単に決定することができる。βig-h3アンタゴニストがβig-h3に結合するか否か、並びに/あるいはTMEの硬化を阻害する、及び/又は最初に特徴付けられた遮断βig-h3抗体と同じ方法において阻害性CD8+ T細胞活性化を遮断することができるか否かを調べるために、及び/又は結合アッセイ及び/又はコラーゲンI太い線維アッセイ及び/又は阻害性CD8+ T細胞活性化アッセイを、各々のアンタゴニストを用いて実施してもよい。例えば、阻害性CD8+ T細胞活性化を、Patryら20に記載されているように抗体抗CD69及び抗CD44(CD8+ T細胞)を用いて活性化マーカーを発現する細胞を検出することにより評価することができる(又は実施例の方法における機能的T細胞抑制アッセイを参照のこと)、及びコラーゲンI太い線維アッセイを、シリウスレッド染色後に、原子間力顕微鏡法又は偏光により測定することができる(実施例のセクションを参照のこと)。
したがって、βig-h3アンタゴニストは、抗体、アプタマー、及びポリペプチドからなる群より選択されるβig-h3に結合する分子でありうる。
当業者は、βig-h3アンタゴニストがβig-h3の生物学的活性を中和、遮断、阻害、抑止、低下、又は干渉するか否かを簡単に決定することができる:(i)βig-h3への結合及び/又は(ii)TMEの硬化の誘導の及び/又は(iii)CD8+ T細胞活性化の阻害。
したがって、特定の実施形態では、βig-h3アンタゴニストはβig-h3に直接的に結合し、CD8+ T細胞活性化の阻害(又はCD8+ T細胞活性化の回復)及びTMEの硬化を阻害する。
本明細書中で使用するように、表現「腫瘍微小環境(TME)」又は「腫瘍間質」(両方の表現は互換的に使用される)は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、腫瘍が存在する細胞環境(周囲の血管、免疫細胞、線維芽細胞、骨髄由来の炎症細胞、リンパ球、シグナル伝達分子、及び細胞外マトリックス(ECM)を含む)を指す(Joyce, JA.; et al. (April 2015). Science Magazine. pp. 74-80.; Spill, F.; et al. Current Opinion in Biotechnology. 40: 41-48))。腫瘍及び周囲の微小環境は密接に関連しており、常に相互作用する。腫瘍は、細胞外シグナルを放出し、腫瘍の血管新生を促進し、及び末梢免疫寛容を誘導することにより微小環境に影響を及ぼしうるが、微小環境中の免疫細胞はがん細胞の成長及び進化に影響しうる(Korneev, KV; et al (January 2017). " Cytokine. 89: 127-135.)。
本明細書中で使用するように、表現「免疫チェックポイント阻害剤」又は「チェックポイント遮断がん免疫治療薬剤」(両方の表現は互換的に使用される)は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、免疫阻害チェックポイントタンパク質の機能を阻害する任意の化合物を指す。阻害は機能の低下及び完全な遮断を含む。好ましい免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントタンパク質を特異的に認識する抗体である。多数の免疫チェックポイント阻害剤が公知であり、これらの公知の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤と同様に、代替の免疫チェックポイント阻害剤が(近い)将来において開発されうる。免疫チェックポイント阻害剤は、ペプチド、抗体、核酸分子、及び小分子を含む。特に、本発明の免疫チェックポイント阻害剤は、対象におけるCD8+ T細胞の増殖、遊走、持続性、及び/又は細胞傷害性活性、並びに、特に対象のCD8+ T細胞の腫瘍浸潤を増強するために投与される。本明細書中で使用するように、「CD8+ T細胞」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、それらの表面上にCD8を発現するT細胞のサブセットを指す。それらはMHCクラスIに制限されており、細胞傷害性T細胞として機能する。「CD8+ T細胞」はまた、CD8+ T細胞と呼ばれ、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、Tキラー細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+ T細胞、又はキラーT細胞と呼ばれる。CD8抗原は、免疫グロブリンスーパージーンファミリーのメンバーであり、主要組織適合抗原複合体クラスIに制限された相互作用における結合認識要素である。T CD8細胞殺傷活性を増強する免疫チェックポイント阻害剤の能力は、当技術分野において周知の任意のアッセイにより決定することができる。典型的には、前記アッセイはインビトロアッセイであって、それにおいてCD8+ T細胞を標的細胞(例、CD8+ T細胞により認識及び/又は溶解される標的細胞)と接触させる。例えば、本発明の免疫チェックポイント阻害剤は、CD8+ T細胞による特異的溶解を、本発明の免疫チェックポイント阻害剤により接触されるCD8+ T細胞又はCD8 T細胞株と同じエフェクター:標的細胞比率で得られる特定の溶解の約20%超だけ、好ましくは少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%又はそれ以上を伴い増加させる能力について選択することができる。古典的な細胞傷害性アッセイのためのプロトコールの例は従来通りである。
典型的には、チェックポイント遮断がん免疫治療薬剤は、活性化Tリンパ球(例えば細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)及びプログラム細胞死1(PDCD1、PD-1として最も良く公知である)など)により、又はNK細胞により発現される免疫抑制受容体(キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリーの種々のメンバーなど)を遮断する薬剤、あるいはこれらの受容体の主要なリガンド(例えばPD-1リガンドCD274など(PD-L1又はB7-H1として最も良く公知である))を遮断する薬剤である。
典型的には、チェックポイント遮断がん免疫治療薬剤は抗体である。
一部の実施形態では、チェックポイント遮断がん免疫治療薬剤は、抗CTLA4抗体、抗PD1抗体、抗PDL1抗体、抗PDL2抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG3抗体、抗IDO1抗体、抗TIGIT抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗BTLA抗体、及び抗B7H6抗体からなる群より選択される抗体である。
抗CTLA-4抗体の例は、米国特許第5,811,097号明細書;同第5,811,097号明細書;同第5,855,887号明細書;同第6,051,227号明細書;同第6,207,157号明細書;同第6,682,736号明細書;同第6,984,720号明細書;及び同第7,605,238号明細書に記載されている。1つの抗CDLA-4抗体はトレメリムマブ(チシリムマブ、CP-675,206)である。一部の実施形態では、抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-D010としても公知である)(CTLA-4に結合する完全ヒトモノクローナルIgG抗体)である。
PD-1抗体及びPD-L1抗体の例は、米国特許第7,488,802号明細書;同第7,943,743号明細書;同第8,008,449号明細書;同第8,168,757号明細書;同第8,217,149号明細書、並びにPCT公開特許出願番号:国際公開第03042402号、国際公開第2008156712号、国際公開第2010089411号、国際公開第2010036959号、国際公開第2011066342号、国際公開第2011159877号、国際公開第2011082400号、及び国際公開第2011161699号に記載されている。一部の実施形態では、PD-1遮断薬は抗PD-L1抗体を含む。特定の他の実施形態では、PD-1遮断薬は、抗PD-1抗体及び同様の結合タンパク質、例えばニボルマブ(MDX 1106、BMS 936558、ONO 4538)(そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2により、PD-1に結合してその活性化を遮断する完全ヒトIgG4抗体);ランブロリズマブ(MK-3475又はSCH 900475)(PD-1に対するヒト化モノクローナルIgG4抗体);CT-011(PD-1に結合するヒト化抗体)などを含む;AMP-224はB7-DC;抗体Fc部分;PD-L1(B7-H1)遮断のためのBMS-936559(MDX-1105-01)の融合タンパク質である。
他の免疫チェックポイント阻害剤は、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)阻害剤、例えばIMP321(可溶性Ig融合タンパク質)などを含む(Brignone et al., 2007, J. Immunol. 179:4202-4211)。
他の免疫チェックポイント阻害剤は、B7阻害剤、例えばB7-H3及びB7-H4阻害剤などを含む。特に、抗B7-H3抗体MGA271(Loo et al., 2012, Clin. Cancer Res. July 15 (18) 3834)。
また、TIM3(T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3)阻害剤(Fourcade et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2175-86及びSakuishi et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2187-94)が含まれる。本明細書中で使用するように、用語「TIM-3」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有分子3を指す。TIM-3の天然リガンドはガレクチン9(Gal9)である。したがって、本明細書中で使用する用語「TIM-3阻害剤」は、TIM-3の機能を阻害することができる化合物、物質、又は組成物を指す。例えば、阻害剤は、TIM-3の発現又は活性を阻害し、TIM-3シグナル伝達経路を調節又は遮断し、並びに/あるいはガレクチン-9へのTIM-3の結合を遮断することができる。TIM-3について特異性を有する抗体が当技術分野において周知であり、典型的には国際公開第2011155607号、国際公開第2013006490号、及び国際公開第2010117057号に記載されている抗体である。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、好ましくはIDO1阻害剤である。IDO阻害剤の例が国際公開第2014150677号に記載されている。IDO阻害剤の例は、限定しないが、1-メチル-トリプトファン(IMT)、β-(3-ベンゾフラニル)-アラニン、β-(3-ベンゾ(b)チエニル)-アラニン、6-ニトロ-トリプトファン、6-フルオロ-トリプトファン、4-メチル-トリプトファン、5-メチル-トリプトファン、6-メチル-トリプトファン、5-メトキシ-トリプトファン、5-ヒドロキシ-トリプトファン、インドール3-カルビノール、3,3’-ジインドリルメタン、エピガロカテキンガレート、5-Br-4-Cl-インドキシル1,3-ジアセテート、9-ビニルカルバゾール、アセメタシン、5-ブロモ-トリプトファン、5-ブロモインドキシルジアセテート、3-アミノ-ナフトエ酸(Amino-naphtoic acid)、ピロリジンジチオカルバメート、4-フェニルイミダゾール、ブラッシニン誘導体、チオヒダントイン誘導体、β-カルボリン誘導体又はブラシレキシン誘導体を含む。好ましくは、IDO阻害剤は、1-メチル-トリプトファン、β-(3-ベンゾフラニル)-アラニン、6-ニトロ-L-トリプトファン、3-アミノ-ナフトエ酸(Amino-naphtoic acid)、及びβ-[3-ベンゾ(b)チエニル]-アラニン又はその誘導体もしくはプロドラッグより選択される。
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は抗TIGIT(T細胞免疫グロブリン及びITIMドメイン)抗体である。
好ましい実施形態では、チェックポイント遮断がん免疫治療薬剤は、CTLA4遮断抗体(例えばイピリムマブなど)、もしくはPD-1遮断抗体(例えばニボルマブ又はペンブロリズマブなど)、又はそれらの組み合わせである。
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、以下を含むPD-1遮断抗体(ペンブロリズマブ)からなる:
-配列番号_1として示す配列を有する重鎖
-配列番号_2として示す配列を有する軽鎖。
ペムブロリズマブ抗体の配列を以下の表1中に示す:
Figure 2024156850000001
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、以下を含むPD-1遮断抗体(ニボルマブ)からなる:
-配列番号_3として示す配列を有する重鎖
-配列番号_4として示す配列を有する軽鎖。
ニボルマブ抗体の配列を以下の表2中に示す:
Figure 2024156850000002
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、以下を含むPD-1遮断抗体(アテゾリズマブ)からなる:
‐配列番号_5として示す配列を有する重鎖
‐配列番号_6として示す配列を有する軽鎖。
アテゾリズマブ抗体の配列を以下の表3中に示す:
Figure 2024156850000003
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、以下を含むPD-1遮断抗体(アベルマブ)からなる:
‐配列番号_7として示す配列を有する重鎖
‐配列番号_8として示す配列を有する軽鎖。
アベルマブ抗体の配列を以下の表4中に示す:
Figure 2024156850000004
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、以下を含むPD-1遮断抗体(デュルバルマブ)からなる:
‐配列番号_9として示す配列を有する重鎖
‐配列番号_10として示す配列を有する軽鎖。
デュルバルマブ抗体の配列を以下の表5中に示す:
Figure 2024156850000005
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、以下を含むCTLA-4遮断抗体(イピリムマブ)からなる:
‐配列番号_11として示す配列を有する重鎖
‐配列番号_12として示す配列を有する軽鎖
イピリムマブ抗体の配列を以下の表6中に示す:
Figure 2024156850000006
本発明の更なる態様は、固形腫瘍を処置するための方法に関し、それを必要とする対象に、免疫チェックポイント阻害剤化合物及びβig-h3アンタゴニスト化合物の量を投与することを含む。
本明細書中で使用するように、用語「対象」は、固形腫瘍により影響を受けるヒトを表す。
用語「がん」及び「腫瘍」は、典型的には、未制御の細胞成長により特徴付けられる哺乳動物における病理学的状態を指す、又は記載する。より正確には、本発明の使用において、疾患、即ちβig-h3を発現/分泌する腫瘍は、CD8+ T細胞活性化の回復後にβig-h3アンタゴニストに応答する可能性が最も高い。特に、がんは固形腫瘍に関連付けられる。固形腫瘍形成に関連付けられるがんの例は、乳がん、子宮/子宮頸がん、食道がん、膵臓がん、結腸がん、結腸直腸がん、腎臓がん、卵巣がん、前立腺がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、胃がん、間葉起源の腫瘍(即ち、線維肉腫及び横紋筋肉腫)、中枢及び末梢神経系の腫瘍(即ち、星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、神経膠芽腫(glioblatoma))、甲状腺がんを含む。
好ましくは、固形腫瘍は、膵臓がん、食道扁平上皮がん(Ozawa et al, 2014)、胃がん及び肝臓がん(Han et al, 2015)、結腸がん(Ma et al, 2008)、黒色腫(Lauden et al, 2014)からなる群より選択される。
好ましい実施形態では、固形腫瘍は膵臓がんである。
より好ましくは、膵臓がんは膵管腺がんである。
用語「抗腫瘍CD8+ T細胞応答」は、がん細胞を溶解するCD8+ T細胞の天然の能力を意味する(Robbins and Kawakami, 1996, Romero, 1996)。
抗体。
別の実施形態では、βig-h3アンタゴニストは、βig-h3とαVβ3インテグリンの相互作用を遮断することができる抗体(抗体フラグメント又は部分を含む用語)である。
好ましい実施形態では、βig-h3アンタゴニストは、前記抗体がαVβ3インテグリンへのβig-h3の結合を損なうような方法において、βig-h3に対して向けられた抗体からなりうる(「中和抗体」)。
次に、本発明のために、βig-h3の中和抗体を、(i)βig-h3に結合する及び/又は(ii)TMEの硬化を低下させる及び/又は(iii)阻害性CD8+ T細胞活性化を遮断するそれらの能力について上に記載するように選択する。
本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体はポリクローナル抗体である。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体はヒト化抗体である。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体はキメラ抗体である。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体の部分は抗体の軽鎖を含む。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体の部分は抗体の重鎖を含む。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体の部分は抗体のFab部分を含む。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体の部分は抗体のF(ab’)2部分を含む。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体の部分は抗体のFc部分を含む。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体の部分は抗体のFv部分を含む。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体の部分は抗体の可変ドメインを含む。本明細書中に記載する抗体又はその部分の一実施形態では、抗体の部分は、抗体の1つ又は複数のCDRドメインを含む。
本明細書中で使用するように、「抗体」は天然抗体及び非天然抗体の両方を含む。具体的には、「抗体」は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、並びにそれらの一価及び二価のフラグメントを含む。さらに、「抗体」は、キメラ抗体、完全合成抗体、一本鎖抗体、及びそれらのフラグメントを含む。抗体はヒト抗体又は非ヒト抗体でありうる。非ヒト抗体を組換え方法によりヒト化させて、人間におけるその免疫原性を低下させてもよい。
抗体は、従来の方法論に従って調製する。モノクローナル抗体は、Kohler and Milstein(Nature, 256:495, 1975)の方法を使用して生成してもよい。本発明において有用なモノクローナル抗体を調製するために、マウス又は他の適当な宿主動物を、抗原形態のβig-h3を用いて適切な間隔(例、週2回、週1回、月2回、又は月1回)で免疫化する。動物には、屠殺の1週間以内に抗原の最終「ブースト」が投与されうる。免疫化の間に免疫学的アジュバントを使用することがしばしば望ましい。適切な免疫学的アジュバントは、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、ミョウバン、Ribiアジュバント、Hunter Titermax、サポニンアジュバント(例えばQS21又はQuil Aなど)、又はCpG含有免疫刺激性オリゴヌクレオチドを含む。他の適切なアジュバントはこの分野において周知である。動物を、皮下、腹腔内、筋肉内、静脈内、鼻腔内、又は他の経路により免疫化してもよい。所与の動物を、複数の経路により、複数の形態の抗原を用いて免疫化してもよい。
簡単には、組換えβig-h3は、組換え細胞株を用いた発現により提供してもよい。組換え形態のβig-h3は、任意の以前に記載された方法を使用して提供してもよい。免疫化計画に続いて、リンパ球を、動物の脾臓、リンパ節、又は他の器官から単離し、薬剤(例えばポリエチレングリコールなど)を使用して適切な骨髄腫細胞株と融合させてハイドリドーマを形成する。融合に続いて、細胞を、記載されているように(Coding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice: Production and Application of Monoclonal Antibodies in Cell Biology, Biochemistry and Immunology, 3rd edition, Academic Press, New York, 1996)、標準的な方法を使用し、ハイブリドーマ(しかし、融合パートナーではない)の成長について許容的な培地中に置く。ハイブリドーマの培養に続いて、細胞上清を、所望の特異性の(即ち、抗原に選択的に結合する)抗体の存在について分析する。適切な分析技術は、ELISA、フローサイトメトリー、免疫沈降、及びウエスタンブロッティングを含む。他のスクリーニング技術がこの分野において周知である。好ましい技術は、立体構造的にインタクトな、天然で折り畳まれた抗原への抗体の結合を確認する技術(例えば非変性ELISA、フローサイトメトリー、及び免疫沈降など)である。
重要なこととして、当技術分野において周知であるように、抗体分子の小さな部分であるパラトープだけが、そのエピトープへの抗体の結合において含まれる(一般的に、Clark, W. R. (1986) The Experimental Foundations of Modern Immunology Wiley & Sons, Inc., New York;Roitt, I. (1991) Essential Immunology, 7th Ed., Blackwell Scientific Publications, Oxfordを参照のこと)。Fc’領域及びFc領域は、例えば、補体カスケードのエフェクターであるが、しかし、抗原結合において含まれない。pFc’領域が酵素的に切断された、又はpFc’領域を伴わずに産生された抗体は、F(ab’)2フラグメントとして命名され、インタクトな抗体の抗原結合部位の両方を保持する。同様に、Fc領域が酵素的に切断された、又はFc領域を伴わずに産生された抗体は、Fabフラグメントとして命名され、インタクトな抗体分子の抗原結合部位の1つを保持する。さらに進むと、Fabフラグメントは、共有結合的に結合した抗体軽鎖及びFdと表示される抗体重鎖の部分からなる。Fdフラグメントは抗体特異性の主要な決定因子であり(単一のFdフラグメントは、抗体特異性を変えることなく10までの異なる軽鎖に関連付けられうる)、Fdフラグメントは単離においてエピトープ結合能力を保持する。
抗体の抗原結合部分内には、当技術分野において周知であるように、相補性決定領域(CDR)(抗原のエピトープと直接的に相互作用する)及びフレームワーク領域(FR)(パラトープの三次構造を維持する)がある(一般的に、Clark, 1986;Roitt, 1991を参照のこと)。IgG免疫グロブリンの重鎖Fdフラグメント及び軽鎖の両方において、3つの相補性決定領域(CDR1からCDRS)によりそれぞれ分離された4つのフレームワーク領域(FR1からFR4)がある。CDR、及び特にCDRS領域、及び特に重鎖CDRSは、抗体特異性について大きく関与している。
哺乳動物抗体の非CDR領域を、本来の抗体のエピトープ特異性を保持しながら、同種特異的抗体又は異種特異的抗体の同様の領域を用いて置換してもよいことは、当技術分野において現在十分に確立されている。これは、「ヒト化」抗体の開発及び使用において最も明確に現れ、それにおいて非ヒトCDRがヒトFR領域及び/又はFc/pFc’領域に共有結合的に連結されて機能的抗体を産生する。
本発明は、特定の実施形態では、ヒト化形態の抗体を含む組成物及び方法を提供する。本明細書中で使用するように、「ヒト化」は、CDR領域の外側のアミノ酸の一部、大半、又は全てが、ヒト免疫グロブリン分子から由来する対応するアミノ酸を用いて置換されている抗体を記載する。ヒト化の方法は、米国特許第4,816,567号明細書、同第5,225,539号明細書、同第5,585,089号明細書、同第5,693,761号明細書、同第5,693,762号明細書、及び同第5,859,205号明細書(これらを参照により本明細書中に援用する)に記載されているものを含むが、しかし、これらに限定しない。上の米国特許第5,585,089号明細書及び同第5,693,761号明細書、並びに国際公開第90/07861号もまた、ヒト化抗体の設計において使用されうる4つの可能な基準を提案している。第1の提案は、アクセプターについて、ヒト化されるドナー免疫グロブリンと異常に相同である特定のヒト免疫グロブリンからのフレームワークを使用する、又は多くのヒト抗体からのコンセンサスフレームワークを使用することであった。第2の提案は、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク中のアミノ酸が異常であり、及びその位置でのドナーアミノ酸がヒト配列について典型的である場合、次に、アクセプターよりむしろ、ドナーアミノ酸を選択してもよいということであった。第3の提案は、ヒト化免疫グロブリン鎖中の3つのCDRに直に隣接する位置において、アクセプターアミノ酸よりむしろ、ドナーアミノ酸を選択してもよいということであった。第4の提案は、アミノ酸が、抗体の三次元モデルにおいてCDRの3A内に側鎖原子を有すると予測され、及びCDRと相互作用することが可能であると予測されるフレームワーク位置でドナーアミノ酸を使用することであった。上の方法は、当業者がヒト化抗体を作製するために用いることができる方法の一部の単なる例証である。当業者は、抗体のヒト化のための他の方法に精通しているであろう。
ヒト化形態の抗体の一実施形態では、CDR領域の外側のアミノ酸の一部、大半、又は全てが、ヒト免疫グロブリン分子からのアミノ酸を用いて置換されているが、しかし、そこでは1つ又は複数のCDR領域内の一部、大半、又は全てのアミノ酸が不変である。アミノ酸の小さな付加、欠失、挿入、置換、又は修飾は、それらが所与の抗原に結合する抗体の能力を抑止しない限り許容可能である。適切なヒト免疫グロブリン分子は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgM分子を含みうる。「ヒト化」抗体は、本来の抗体と同様の抗原特異性を保持する。しかし、ヒト化の特定の方法を使用し、抗体の結合の親和性及び/又は特異性を、Wu et al., /. Mol. Biol. 294:151, 1999(その内容を参照により本明細書中に援用する)により記載されているように、「定向進化」の方法を使用して増加させてもよい。
完全ヒトモノクローナル抗体はまた、ヒト免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖遺伝子座の大部分についてトランスジェニックであるマウスを免疫化することにより調製することができる。例えば、米国特許第5,591,669号明細書、同第5,598,369号明細書、同第5,545,806号明細書、同第5,545,807号明細書、同第6,150,584号明細書、及びそこにおいて引用されている参考文献(これらの内容を参照により本明細書中に援用する)を参照のこと。これらの動物は遺伝的に改変されており、内因性(例、マウス)抗体の産生における機能的欠失があるようにする。動物をさらに改変し、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子座の全部又は部分を含め、これらの動物の免疫化によって、目的の抗原に対する完全ヒト抗体の産生がもたらされるようにする。これらのマウス(例、XenoMouse(Abgenix)、HuMAbマウス(Medarex/GenPharm))の免疫化に続いて、モノクローナル抗体を標準的なハイブリドーマ技術に従って調製することができる。これらのモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンアミノ酸配列を有し、及び、従って、ヒトに投与された場合、ヒト抗マウス抗体(KAMA)反応を引き起こさない。
インビトロ方法がまた、ヒト抗体を産生するために存在する。これらは、ファージディスプレイ技術(米国特許第5,565,332号明細書及び同第5,573,905号明細書)及びヒトB細胞のインビトロ刺激(米国特許第5,229,275号明細書及び同第5,567,610号明細書)を含む。これらの特許の内容を、参照により本明細書中に援用する。
このように、当業者に明らかであるように、本発明はまた、F(ab’)2 Fabフラグメント、Fvフラグメント、及びFdフラグメント;Fc領域及び/又はFR領域及び/又はCDR1領域及び/又はCDR2領域及び/又は軽鎖CDR3領域が相同なヒト又は非ヒト配列により置換されているキメラ抗体;FR領域及び/又はCDR1領域及び/又はCDR2領域及び/又は軽鎖CDR3領域が相同なヒト又は非ヒト配列により置換されているキメラF(ab’)2フラグメント抗体;FR領域及び/又はCDR1領域及び/又はCDR2領域及び/又は軽鎖CDR3領域が相同なヒト又は非ヒト配列により置換されているキメラFabフラグメント抗体;並びにFR領域及び/又はCDR1領域及び/又はCDR2領域が相同なヒト又は非ヒト配列により置換されているキメラFdフラグメント抗体を提供する。本発明はまた、いわゆる一本鎖抗体を含む。
種々の抗体分子及びフラグメントは、一般に公知である免疫グロブリンクラス(IgA、分泌型IgA、IgE、IgG、及びIgMを含むが、これらに限定しない)のいずれかから由来しうる。IgGサブクラスも当業者に周知であり、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含むが、これらに限定しない。
別の実施形態では、本発明による抗体は、単一ドメイン抗体である。用語「単一ドメイン抗体」(sdAb)又は「VHH」は、天然で軽鎖を欠いているラクダ科哺乳動物において見出すことができる型の抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。そのようなVHHはまた、「nanobody(登録商標)」と呼ばれる。本発明によれば、sdAbは特にラマsdAbでありうる。
中和抗βig-h3抗体の例が、例えば、Bae JS et al Acta Physiol 2014, 212, 306-315において開示されている。当業者は、ルーチン的な技術を使用し、これらの抗体の抗原結合配列(例、CDR)を使用して、本明細書中に開示されるように、PDACの処置のためのヒト化抗体を生成することができる。
本発明者らは、モノクローナル抗体18B3の軽鎖の可変ドメイン(VL)、及び重鎖の可変ドメイン(VH)をクローン化し、配列決定した。前記抗体の相補性決定領域(CDR)をコードする配列の位置を、IMGTナンバリングシステムに従って決定している。IMGT固有のナンバリングが、抗原受容体、鎖の型、又は種を問わず、可変ドメインを比較するために定義されている(Lefranc M.-P., Immunology Today, 18, 509 (1997);Lefranc M.-P., The Immunologist, 7, 132-136 (1999).;Lefranc, Dev. Comp. Immunol., 27, 55-77 (2003))。
特定の実施形態では、βig-h3アンタゴニストは、以下を含む中和抗βig-h3抗体(18B3抗体)からなる:
-配列番号_13として示す配列を有する重鎖
-配列番号_14として示す配列を有する軽鎖。
従って、特定の実施形態では、抗βig-h3抗体抗体は、以下を含む抗体である:
(a)可変ドメインが以下を含む重鎖:
-配列番号_15として示す配列を有するH-CDR1;
-配列番号_16として示す配列を有するH-CDR2;
-配列番号_17として示す配列を有するH-CDR3;
(b)可変ドメインが以下を含む軽鎖:
-配列番号_18として示す配列を有するL-CDR1;
-配列番号_19として示す配列を有するL-CDR2;
-配列番号_20として示す配列を有するL-CDR3。
18B3抗体の配列を以下の表7中に示す:
Figure 2024156850000007
特定の実施形態では、βig-h3アンタゴニストは、βig-h3への結合について、中和抗βig-h3抗体(18B3抗体)と競合する中和抗体からなる。
本明細書中で使用するように、所定の抗原又はエピトープへの抗体の結合の文脈における用語「結合」は、典型的には、例えば、リガンドとして可溶形態の抗原及び分析物として抗体を使用した、BIAcore 3000機器における表面プラズモン共鳴(SPR)技術により決定される場合、約10-7M又はそれ以下、例えば約10-8M又はそれ以下など、例えば約10-9M又はそれ以下、約10-10M又はそれ以下、あるいは約10-11M又はそれ以下などのKDに対応する親和性を伴う結合である。BIACORE(登録商標)(GE Healthcare、ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscaataway))は、モノクローナル抗体のエピトープビンパネルに対してルーチン的に使用される多様な表面プラズモン共鳴アッセイフォーマットの1つである。典型的には、抗体は、非特異的抗原(例、BSA、カゼイン)(それは、所定の抗原と同一ではない、又は密接に関連していない)に結合するためのそのKDよりも、少なくとも10倍低い、例えば少なくとも100倍低いなど、例えば、少なくとも1,000倍低い、例えば少なくとも10,000倍低いなど、例えば、少なくとも100,000倍低いKDに対応する親和性を伴い所定の抗原に結合する。抗体のKDが非常に低い(すなわち、抗体が高い親和性を有する)場合、次に、それが抗原に結合するKDは、典型的には、非特異的抗原についてのそのKDよりも少なくとも10,000倍低い。抗体は、そのような結合が検出可能ではない(例えば、リガンドとしての可溶形態の抗原及び分析物としての抗体を使用したBIAcore 3000機器におけるプラズモン共鳴(SPR)技術を使用し)、あるいはその抗体及び異なる化学的構造又はアミノ酸配列を有する抗原又はエピトープにより検出される結合よりも100倍、500倍、1000倍、又は1000倍超少ない場合、抗原又はエピトープに本質的に結合しないと言う。
追加の抗体は、標準的なβig-h3結合アッセイにおいて本発明の他の抗体と交差競合する(例、統計的に有意な様式において結合を競合的に阻害する)それらの能力に基づいて同定することができる。βig-h3への本発明の抗体の結合を阻害するテスト抗体の能力は、テスト抗体がβig-h3への結合についてその抗体と競合することができることを実証する;そのような抗体は、非限定的な理論によれば、それが競合する抗体と同じ又は関連する(例、構造的に類似の又は空間的に近位の)βig-h3上のエピトープに結合しうる。このように、本発明の別の態様は、本明細書中に開示する抗体((18B3抗体)と同じ抗原に結合し、それと競合する抗体を提供する。本明細書中で使用するように、抗体は、競合抗体が、等モル濃度の競合抗体の存在において、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%超だけ本発明の抗体又は抗原結合フラグメントのβig-h3結合を阻害する場合、結合について「競合する」。
他の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、βig-h3の1つ又は複数のエピトープに結合する。一部の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントが結合するエピトープは、線形エピトープである。他の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントが結合するエピトープは、非線形の立体構造的エピトープである。
本発明の抗体は、当技術分野において公知の任意の方法により特異的結合についてアッセイしてもよい。多くの異なる競合結合アッセイフォーマットをエピトープ結合について使用することができる。使用することができるイムノアッセイは、技術、例えばウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降アッセイ、ゲル拡散沈降アッセイ、免疫放射測定アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイ、及び補体固定アッセイなどを使用した競合アッセイシステムを含むが、これらに限定しない。そのようなアッセイはルーチン的であり、当技術分野において周知である(例、Ausubel et al., eds, 1994 Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & sons, Inc., New Yorkを参照のこと)。
アプタマー
別の実施形態では、βig-h3アンタゴニストは、βig-h3に対して向けられたアプタマーである。アプタマーは、分子認識の点において抗体への代替物を表す分子のクラスである。アプタマーは、実質的に任意のクラスの標的分子を高い親和性及び特異性を伴い認識する能力を伴うオリゴヌクレオチド又はオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C. and Gold L., 1990において記載されているように、ランダム配列ライブラリーのExponential濃縮(SELEX)によるリガンドの系統的進化を通じて単離してもよい。ランダム配列ライブラリーは、DNAの組み合わせ化学合成により入手可能である。このライブラリーでは、各々のメンバーは、最終的に化学的に修飾された、固有配列の線形オリゴマーである。このクラスの分子の可能な修飾、使用、及び利点が、Jayasena S.D., 1999において概説されている。ペプチドアプタマーは、プラットフォームタンパク質、例えば、ツーハイブリッド方法(Colas et al., 1996)によりコンビナトリアルライブラリーより選択された大腸菌チオレドキシンAなどにより呈示される立体構造的に制約された抗体可変領域からなる。
次に、本発明のために、βig-h3の中和アプタマーは、(i)βig-h3に結合する及び/又は(ii)腫瘍細胞成長を阻害する及び/又は(iii)阻害性CD8 + T細胞の活性化を遮断するそれらの能力について上のように選択される。
βig-h3遺伝子発現の阻害剤。
さらに別の実施形態では、βig-h3アンタゴニストは、βig-h3遺伝子発現の阻害剤である。「発現の阻害剤」は、遺伝子の発現を阻害する生物学的効果を有する天然又は合成化合物を指す。従って、「βig-h3遺伝子発現の阻害剤」は、βig-h3遺伝子の発現を阻害する生物学的効果を有する天然又は合成化合物を表示する。
本発明の好ましい実施形態では、βig-h3遺伝子発現の前記阻害剤は、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ヌクレアーゼ、又はリボザイムである。
本発明における使用のためのβig-h3遺伝子発現の阻害剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド構築物に基づきうる。アンチセンスオリゴヌクレオチド(アンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含む)は、それに結合することによりβig-h3mRNAの翻訳を直接的に遮断するように作用し、及び、このように、タンパク質翻訳を防止する、又はmRNA分解を増加させ、このように、細胞中のβig-h3のレベル、及び、このように、活性を減少させうる。例えば、少なくとも約15塩基の、及びβig-h3をコードするmRNA転写物配列の固有領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、従来のホスホジエステル技術により合成し、例えば、静脈内注射又は注入により投与することができる。配列が公知である遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技術を使用するための方法は、当技術分野において周知である(例、米国特許第6,566,135号明細書;同第6,566,131号明細書;同第6,365,354号明細書;同第6,410,323号明細書;同第6,107,091号明細書;同第6,046,321号明細書;及び同第5,981,732号明細書を参照のこと)。
小さな阻害性RNA(siRNA)がまた、本発明における使用のためのβig-h3遺伝子発現の阻害剤として機能することができる。βig-h3遺伝子発現は、小さな二本鎖RNA(dsRNA)、又は小さな二本鎖RNAの産生を起こすベクターもしくはコンストラクトを使用することにより低下させることができ、βig-h3遺伝子発現が特異的に阻害される(即ち、RNA干渉又はRNAi)。適切なdsRNA又はdsRNAをコードするベクターを選択するための方法は、その配列が公知である遺伝子について当技術分野において周知である(例、Tuschi, T. et al. (1999);Elbashir, S. M. et al. (2001);Hannon, GJ. (2002);McManus, MT. et al. (2002);Brummelkamp, TR. et al. (2002);米国特許第6,573,099号明細書及び同第6,506,559号明細書;並びに国際公開第01/36646号、国際公開第99/32619号、及び国際公開第01/68836号)。
βig-h3に対する前記siRNAの例は、Chaoyu Ma (2008) Genes & Development 22:308-321において記載されているものを含むが、これらに限定しない。
リボザイムはまた、本発明における使用のためのβig-h3遺伝子発現の阻害剤として機能することができる。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である。リボザイム作用の機構は、相補的標的RNAへのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーション、それに続くエンドヌクレアーゼ切断を含む。βig-h3mRNA配列のエンドヌクレアーゼ切断を特異的及び効率的に触媒する操作ヘアピン又はハンマーヘッドモチーフリボザイム分子は、それにより、本発明の範囲内で有用である。任意の潜在的なRNA標的内の特異的なリボザイム切断部位を、最初に、典型的には、以下の配列、GUA、GUU、及びGUCを含むリボザイム切断部位について標的分子をスキャンすることにより同定する。一度同定されると、切断部位を含む標的遺伝子の領域に対応する約15~20リボヌクレオチドの短いRNA配列を、オリゴヌクレオチド配列を不適切にしうる、予測される構造的特徴(例えば二次構造など)について評価することができる。候補標的の適合性はまた、例えば、リボヌクレアーゼ保護アッセイを使用し、相補的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションへのそれらの接近可能性をテストすることにより評価することができる。
βig-h3遺伝子発現の阻害剤として有用なアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、及びリボザイムは、公知の方法により調製することができる。これらは、化学合成(例えば、例、固相ホスホラマダイト化学合成による、など)のための技術を含む。あるいは、アンチセンスRNA分子は、RNA分子をコードするDNA配列のインビトロ又はインビボ転写により生成することができる。そのようなDNA配列は、適切なRNAポリメラーゼプロモーター(例えばT7又はSP6ポリメラーゼプロモーターなど)を組み入れる多種多様なベクター中に組み入れることができる。本発明のオリゴヌクレオチドへの種々の修飾を、細胞内での安定性及び半減期を増加させる手段として導入することができる。可能な修飾は、分子の5’及び/又は3’末端への、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの隣接配列の付加、又はオリゴヌクレオチド骨格内のホスホジエステラーゼ連結よりむしろ、ホスホロチオエート又は2’-O-メチルの使用を含むが、これらに限定しない。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、及びリボザイムは、インビボで単独で、又はベクターとの関連において送達されうる。その最も広い意味において、「ベクター」は、細胞及び、好ましくは、βig-h3を発現する細胞へのアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、又はリボザイム核酸の移行を促すことが可能な任意の賦形剤である。好ましくは、ベクターは、ベクターの非存在をもたらしうる分解の程度と比べて、低下した分解を伴う細胞へ核酸を輸送する。一般的に、本発明において有用なベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルス、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、又はリボザイム核酸配列の挿入又は組み入れにより操作されたウイルス又は細菌供給源から由来する他の賦形剤を含むが、これらに限定しない。ウイルスベクターは好ましい型のベクターであり、以下のウイルスからの核酸配列を含むが、これらに限定しない:レトロウイルス、例えばモロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス、及びラウズ肉腫ウイルスなど;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタインバーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;並びにRNAウイルス、例えばレトロウイルスなど。名付けられていないが、しかし、当技術分野で公知である他のベクターを容易に用いることができる。
好ましいウイルスベクターは、非必須遺伝子が目的の遺伝子を用いて置換されている非細胞変性真核生物ウイルスに基づいている。非細胞変性ウイルスはレトロウイルス(例、レンチウイルス)を含み、そのライフサイクルはDNA中へのゲノムウイルスRNAの逆転写を含み、それに続く宿主細胞DNA中へのプロウイルスの組み込みを伴う。レトロウイルスは、ヒトの遺伝子治療治験について承認されている。最も有用なのは、複製が欠損している(即ち、所望のタンパク質の合成に向けることは可能であるが、しかし、感染性粒子を製造することが不可能である)レトロウイルスである。そのような遺伝的に改変されたレトロウイルス発現ベクターは、インビボでの遺伝子の高効率形質導入についての一般的な有用性を有する。複製欠損レトロウイルスを産生するための標準的プロトコール(プラスミド中への外因性遺伝物質の組み入れ、プラスミドで覆われたパッケージング細胞のトランスフェクション、パッケージング細胞株による組換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の収集、及びウイルス粒子を用いた標的細胞の感染の工程を含む)が、KRIEGLER(A Laboratory Manual," W.H. Freeman C.O., New York, 1990)及びMURRY("Methods in Molecular Biology," vol.7, Humana Press, Inc., Cliffton, N.J., 1991)において提供されている。
特定の適用のための好ましいウイルスは、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスであり、それらは、遺伝子治療におけるヒトでの使用のために既に承認されている二本鎖DNAウイルスである。アデノ随伴ウイルスは、複製欠損であるように操作することができ、広範囲の細胞型及び種に感染することが可能である。それはさらに、利点、例えば熱及び脂質溶媒安定性;多様な系統の細胞(造血細胞を含む)における高い形質導入頻度;及び重感染阻害の欠如(このように、複数の一連の形質導入を可能にする、などを有する。報告によれば、アデノ随伴ウイルスは部位特異的な様式でヒト細胞DNA中に組み込まれ、それにより、挿入型変異の可能性及びレトロウイルス感染に特徴的な挿入遺伝子発現の変動を最小限にすることができる。また、野生型アデノ随伴ウイルス感染は、選択圧の非存在において100継代を上回り組織培養中で追跡されており、アデノ随伴ウイルスのゲノム組み込みが比較的安定な事象であることを意味する。アデノ随伴ウイルスはまた、染色体外の様式で機能することができる。
他のベクターはプラスミドベクターを含む。プラスミドベクターは当技術分野において広範に記載されており、当業者に周知である。例えば、SANBROOK et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual," Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989を参照のこと。過去数年において、プラスミドベクターは、抗原をコードする遺伝子をインビボで細胞に送達するためのDNAワクチンとして使用されてきた。それらは、このため、それらが、ウイルスベクターの多くと同じ安全性の懸念を有さないため、特に有利である。これらのプラスミドは、しかし、宿主細胞と適合性のあるプロモーターを有しており、プラスミド内に作動的にコードされた遺伝子からペプチドを発現することができる。一部の一般に使用されるプラスミドは、pBR322、pUC18、pUC19、pRC/CMV、SV40、及びpBlueScriptを含む。他のプラスミドは当業者に周知である。加えて、プラスミドは、DNAの特定のフラグメントを除去及び付加するために制限酵素及びライゲーション反応を使用して注文設計してもよい。プラスミドは、多様な非経口経路、粘膜経路、及び局所経路により送達してもよい。例えば、DNAプラスミドは、筋肉内、皮内、皮下、又は他の経路により注射することができる。それはまた、鼻腔内スプレー又はドロップ、直腸坐剤により、及び経口的に投与してもよい。それはまた、遺伝子銃を使用して表皮又は粘膜表面中に投与してもよい。プラスミドは、水溶液中で与える、金粒子上で乾燥させる、又は別のDNA送達システム(リポソーム、デンドリマー、コクリエート、及びマイクロカプセル化を含むが、これらに限定しない)との関連にあってもよい。
本明細書中で使用するように、用語「本発明の活性成分」は、上に定義するような、βig-h3アンタゴニスト化合物及び免疫チェックポイント阻害剤化合物を指すことを意図する。
本発明の活性成分は、下に定義するような、医薬組成物の形態において投与してもよい。
好ましくは、本発明の活性成分は、治療的に効果的な量で投与する。
「治療的に効果的な量」により、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比率で固形腫瘍を処置するための、十分な量の本発明の活性成分を意味する。
好ましい実施形態では、本発明の活性成分は、好ましくは、静脈内経路により投与する。
本発明によれば、本発明の活性成分は、固形腫瘍の処置において同時、別々、又は逐次的に使用するための組み合わせ調製物として投与してもよい。
免疫チェックポイント阻害剤及びβig-h3アンタゴニストの関連性は膵臓がん細胞に対する相乗効果を有したため、免疫チェックポイント阻害剤の薬物は、それが単独で投与される処置レジメンにおけるよりも低い用量で有利に使用することができる。
従って、本発明による組み合わせの好ましい実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤の薬物は、低い用量での、即ち、前記薬物が前記βig-h3アンタゴニストを伴わずに投与される場合に推奨される用量よりも低い用量での使用のためである。
当業者は、所与のβig-h3アンタゴニスト薬物のための低い用量を直ちに決定することができる。そのような低い用量は、処置されるがんに、及び治療プロトコールに著しく依存する。
本発明の枠内では、「低い用量」により、免疫チェックポイント阻害剤がβig-h3アンタゴニストの非存在において投与される場合に患者に与えられうる推奨用量よりも劣る用量を意味する。前記の低い用量は、免疫チェックポイント阻害剤の通常の治療用量と組み合わせた場合、好ましくは、推奨用量よりも少なくとも10%、15%、20%、25%、50%、又は75%だけ劣る。
免疫チェックポイント阻害剤がβig-h3アンタゴニストの非存在において投与される場合に患者に与えられうる推奨用量は、当業者に公知である。そのような推奨用量は、例えば、販売承認を与える当局により提供された情報において(例、EMEAにより公開されたEPARにおいて)見出すことができる。
好ましい実施形態では、本発明のβig-h3アンタゴニストは、好ましくは、静脈内経路により投与し、本発明の免疫チェックポイント阻害剤は、好ましくは、経口経路により投与する。
本発明による医薬組成物
本発明はまた、
i.βig-h3アンタゴニスト(本明細書で上に定義する)、
ii.免疫チェックポイント阻害剤(本明細書で上に定義する);及び
iii.医薬的に許容可能な担体
を含む、医薬組成物を提供する。
ヒトへの投与のために適切な様式で製剤化された医薬組成物は、当業者に公知である。本発明の医薬組成物は、安定剤、緩衝剤などをさらに含みうる。
本発明の組成物は、例えば、経口投与用の錠剤、カプセル、又はエリキシル剤、直腸投与用の坐剤、注射による投与用の滅菌溶液又は懸濁液として製剤化及び使用してもよい。
製剤の選択は、最終的には、意図された投与方法(例えば、例、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、もしくは経口投与方法、又は腫瘍注射を介した局所投与など)に依存する。
本発明による医薬組成物は、溶液又は懸濁液(例、注射可能な溶液又は懸濁液)でありうる。それは、例えば、投与単位形態で包装してもよい。
好ましい実施形態では、本発明のβig-h3アンタゴニスト及び免疫チェックポイント阻害剤は、好ましくは、静脈内経路により投与する。
本発明はまた、
i.βig-h3アンタゴニスト(本明細書で上に定義する)、
ii.免疫チェックポイント阻害剤(本明細書で上に定義する);及び
iii.医薬的に許容可能な担体
を含む、それを必要とする患者における固形腫瘍の予防又は治療に使用するための医薬組成物を提供する。
好ましい実施形態では、固形腫瘍は、乳がん、子宮/子宮頸がん、食道がん、膵臓がん、結腸がん、結腸直腸がん、腎臓がん、卵巣がん、前立腺がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、胃がん、間葉起源の腫瘍(即ち、線維肉腫及び横紋筋肉腫)、中枢及び末梢神経系の腫瘍(即ち、星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、神経膠芽腫を含む)、甲状腺がんからなるリストより選択する。
好ましくは、固形腫瘍は、膵臓がん、食道扁平上皮がん、胃がん及び肝臓がん、結腸がん、黒色腫からなる群より選択する。
好ましい実施形態では、固形腫瘍は膵臓がんである。
より好ましくは、膵臓がんは膵管腺がんである。
本発明を、以下の図面及び実施例によりさらに例証する。しかし、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を限定するとして任意の方法において解釈すべきではない。
以下の実施例は、本発明を作製及び実行する好ましいモードの一部を記載する。しかし、実施例は例証目的のためだけであり、本発明の範囲を限定することを意味しないことを理解すべきである。
材料及び方法
マウス
p48-Cre;KrasG12D(KC)マウス、pdx1-Cre;KrasG12D;Ink4a/Arffl/fl(KIC)マウス、及びpdx1-Cre;KrasG12D;p53R172H(KPC)マウスが以前に記載されている26-28。全ての動物プロトコールが、がん研究センターリヨン動物飼育・使用委員会により提供されたガイドラインに従って審査及び承認された。
マウスからの組織サンプルの収集。
正常及び腫瘍性膵臓をPBS中で洗浄し、小さな断片に刻み、次にコラゲナーゼ溶液(Rocheから入手した1mg/mlコラゲナーゼV(HBSS中))中で、37℃で20分間にわたりインキュベートした。脾臓及び膵周囲リンパ節をホモジナイズし、70μmのセルストレーナーに通して単細胞懸濁液に達した。赤血球を、NH4Cl溶解緩衝液を使用して溶解した。
抗体。
インビボ試験のために、以下のエンドトキシン不含抗体を使用した:抗CD8(BioXcell;2.43)、抗βigh3 18B329、抗PD-1、及び対照ポリクローナルマウスIg(BioXcell)、
膵臓細胞集団の単離。
管細胞及びCAFを、抗CD45抗体、抗PDGFR-PE抗体、及び抗EPCAM抗体又はCD45抗体並びにFACSソーティングを使用して単離した。
PDGFRα-PE単離CAF(3匹の異なるKCマウスから得られた)を培養し、インビトロで増殖させた。CAF又は管細胞を10個細胞/ウェルで播種し、次にマウスTGF-β1を最終濃度20ng/mlで使用して48時間にわたり刺激した。CAF上清(CAF SN)を次に収集し、T細胞抑制アッセイにおいて使用した。
機能的T細胞抑制アッセイ。
精製されたCD8+ T細胞を、1μMの5,6-カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE、Invitrogen)を用いて、無血清RPMI中で、37℃で20分間にわたり標識した。OT1 CFSE標識された脾細胞を、OVA(SIINFEKL)ペプチドを用いて5日間にわたり、最終濃度5μg/mlの組換えヒトβig-h3(rβig-h3)の存在又は非存在において刺激した。CD8 T細胞の抗原特異的抑制を、OT-1トランスジェニックマウスから得られた脾細胞を96ウェル丸底プレート(5×10個細胞/ウェル)中に三通りに播種する共培養アッセイにおいて評価した。脾細胞を、抗βig-h3 Abを用いて、又は用いずに処理されたCAF SNの存在において培養し、次に同族抗原であるOVA由来ペプチドSIINFEKL(1mg/ml;New England Peptide)を用いて3日間にわたり刺激した。あるいは、マイトマイシン処理されたKC細胞を、最終濃度6μg/mlの中和抗βigh3 Ab又は対照Ab(BioXCell、USA)の存在において、CFSE標識された膵臓リンパ節細胞と5日間にわたり共培養した。増殖を、CFSE希釈のためにフローサイトメトリーを使用し、培養期間の終了時に評価した。
KPCマウス及びKICマウスの処置。
KPCマウス又はKICマウスを週2回、21日の期間にわたり処置し、屠殺した。腫瘍容積モニタリングを、KPCマウスにおいてVevoScanにより行った。βigh3を8マイクログラム/マウスで、及び抗PD-1を20マイクログラム/マウスで使用した。コンボについては、注射を同時にipにおいて別々に行った(週2回)。
免疫組織化学及び免疫蛍光。
パラフィン中に包埋されたマウス又はヒト膵臓組織の厚さ4μmの切片を伴うスライドを脱パラフィン化した。切片を、アンマスキング溶液(Vector H 3300)を使用してアンマスクし、抗体希釈液(Dako)を用いて30分間にわたり飽和させ、次に抗体希釈液中で希釈した一次抗体(抗βig-h3、Sigma;抗カスパーゼ3、Cell Signaling;及びCK19 Troma III、DSHB)を用いて4℃で一晩インキュベートした。切片を洗浄し、次にヤギ抗ラットビオチン化二次抗体(BD Biosciences;1:200)を用いてRTで1時間にわたりインキュベートした。残りの工程を、Vectastain ABCキット(Vector Labs)を使用して実施した。スライドを、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。
逆転写及びqPCR。
RNAを、Qiagenキットを使用し、製造者の指示に従って、ペレット化された膵島から抽出した。RNA濃度を、Nanodrop分光光度計を使用して測定した。逆転写(RT)を、等量の抽出RNA(300ngを上回る)を使用して評価した。cDNAを使用し、Power SYBR(登録商標)Master Mix(Life Technologies)を用いた定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)分析を実施した。以下のプライマーを使用した:TBPフォワード5’-TGGTGTGCACAGGAGCCAAG-3’(配列番号21)TBPリバース5’-TTCACATCACAGCTCCCCAC(配列番号22)、及びβig-h3オールインワンTMqPCR(MQP028379)プライマー(GeneCopoeiaから得た)。
原子間力顕微鏡法。
本発明者らは、共焦点顕微鏡と連結されたAFMを使用し、機械的特性及び膵臓組織ドメインの同一性を連続的に決定した。AFMでは、カンチレバーの先端をサンプルに対して押して、このカンチレバーのたわみをモニターする。レバーの剛性定数を使用し、たわみはサンプルの抵抗力を示す。本発明者らのプロトコール30によって、本発明者らは、サンプルを100nmの深さまで変形させることにより、最小限の侵襲様式においてサンプルの剛性を非常に局所的に測定することができる。PDA(間質区画及び膵臓腫瘍細胞)の間での膵臓外分泌区画の剛性パターン及び異なるドメインを高解像度で検証するために、本発明者らはQNM(定量的ナノメカニカルマッピング)及びフォースボリュームプロトコール(Bruker)を使用した。これらのプロトコールでは、AFMプローブは、サンプルを水平方向にスキャンしながら低い周波数で振動し、力曲線が、プローブがサンプルと接触するたびに生成される。サンプルの弾性係数(剛性を反映する)を次に、Sneddon(Hertz)モデルを適用して各々の曲線から抽出し、二次元剛性マップがもたらされ、そこでは各々のピクセルが1つの力曲線を表す。
統計分析。
P値を、図の説明文において示されているように、スチューデントのt検定(GraphPad Prism)を使用して算出した。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;及び****P<0.0001。多重比較のために、テューキー事後検定を用いた一元配置分散分析を使用した。
結果。
βig-h3枯渇によって、インビボで免疫介在性腫瘍クリアランスが増加した。
本発明者らは、KPCマウス及びKICマウス(侵襲性の膵臓腺がんを発生する2つの十分に確立されたマウスモデルである)においてβig-h3を標的化する治療的な可能性を評価した24,28。KICマウスには、マウスが5週齢の時に開始して21日間にわたりβig-h3枯渇Abを用いて週2回注射したのに対し(図1A、B)、KPCマウスには、腫瘍容積が100~200mm3の間である時に同に供した(図2A、B)。興味深いことに、βig-h3枯渇抗体を用いて注射されたKPCマウス及びKICマウスの両方が、未処置動物において観察されたものよりも有意に小さな腫瘍容積(約38~40%)を有した(図2B、1B)。腫瘍面積の定量化を、CK19染色を使用して評価したが、未処置マウスにおけるよりも、βig-h3枯渇抗体処置動物の膵臓内の病変において、腫瘍面積における46%から13%への劇的な低下があることが明らかになった(図2C、D)。さらに、PanIN面積がまた、対照におけるよりも、βig-h3枯渇抗体で処置された動物において有意に小さかった(図2C、D)。切断型カスパーゼ3+細胞の数の定量化によって、対照におけるよりも、βig-h3 Ab処置マウスにおいて有意により多いアポトーシス細胞があることが示された(図2E)。より重要なことに、本発明者らは、βig-h3 Ab処置動物において、切断型カスパーゼ3+細胞と密接に接触しているグランザイムB陽性細胞の数における増加を検出した。さらに、KICマウスにおいて、組み合わせ治療(抗βig-h3 Ab及び抗PD-1 Ab)によって、更なる相乗効果及び増加したGrzB陽性細胞に導かれた(図1C、D)。さらに、組み合わせ治療(抗βig-h3 Ab及び抗PD-1 Ab)によって、増加したマウスの生存期間(生存期間の中央値2.5対1.9)に導かれたのに対し、抗βig-h3処置単独はマウスの生存期間の効果を有していなかった(図1E、F)。
進行性病変における抗βig-h3処置と共役されたCD8+ T細胞の枯渇によって腫瘍成長が回復されるか否かを見出すために、本発明者らは、KPCマウスにおいて同時注射を実施した(図3a、b)。本発明者らは、CD8+ T細胞枯渇によって、βig-h3中和の状況において腫瘍成長を回復することができないことを見出した。βig-h3がコラーゲンに結合することが以前に報告されていたため、本発明者らは、原子間力顕微鏡分析により、組織の剛性を調べ、全体的な剛性が抗βig-h3処置マウスにおいて低下することを見出した(図3c)。これらの知見は、シリウスレッド染色後の偏光において決定された、低下したI型コラーゲンの太い線維で裏付けられたのに対し、コラーゲンの全体的な含量は未処置動物及びAb処置動物において同様であった(図3d)。さらに、本発明者らは、肝臓のUT又はAb注射したKPCマウスを回収し、転移が、Ab処置動物において数が少なく、小さく、及びF4/80細胞による浸潤がより多いことを見出した。まとめると、これらの結果は、βig-h3タンパク質の枯渇が、効率的な抗腫瘍免疫応答を支持して、原発巣で、しかし、また、遠隔転移部位で腫瘍微小環境を再プログラミングすることを強く示唆する。
βig-h3は、膵臓新生物及び腫瘍病変の間質区画中で産生される。
βig-h3が膵臓新生物及び腫瘍病変において検出されたため、本発明者らは次に、βig-h3が腫瘍細胞自体により、又は間質腫瘍微小環境(TME)により産生されるのかを検証した。この問題を解決するために、本発明者らは、サイトケラチン19(CK19)(管腫瘍細胞のマーカー)及びPDGRFα(CAFについての特異的表面マーカーであることが以前に示された)を使用した共免疫蛍光実験を実施した(24)。本発明者らは、βig-h3発現が主にPDGRFα+間質細胞中に局在化していることを見出した。PDGFRαはまた、αSMA(筋線維芽細胞の別の特徴)と共局在化した(25)。これらの観察所見は、KICマウスからのPDAにおいてさらに確認された。興味深いことに、本発明者らは、βig-h3発現が、全ての分析されたPanINにおけるCK19の発現と相互に排他的であることを見出し、管細胞がβig-h3発現を欠くことを示唆する。
次に、本発明者らは、CD45、EPCAM、及びPDGRFα(それらは細胞表面マーカーである)を使用し、2.5ヶ月齢のKC膵臓組織から得られたサンプル中の新生物管細胞(CD45-EPCAM+)及びCAF(CD45-PDGRFα+)を選別した(図4a)。本発明者らは、生きた管細胞を選別するためにマーカーとしてEPCAMを使用した。なぜなら、それらはCK19及びEPCAMを共発現しているためである。定量的RT-PCR分析を選別された細胞で実施し、その結果によって、tgfβiが新生物管細胞においてよりも、CAFにおいてより強く発現していることが確認された(図4b)。この結果をさらに検証するために、CAF及び管細胞を、βig-h3ELISAキットを使用した定量化に先立ち、TGF-β1の存在又は非存在において48時間にわたりインビトロで培養した。細胞培養上清の分析によって、CAFがエクスビボでβig-h3を産生するが(219±12.3pg/ml)、それは単離された管細胞の上清中ではほとんど検出されない(28±13.5pg/ml)ことが確認された(図4c)。興味深いことに、本発明者らは、TGF-β1での刺激によって管細胞及びCAFの両方によるβig-h3の産生が増強されるが、しかし、TGF-β1で刺激された管細胞により産生されるβig-h3の量は、CAFにより産生されるβig-h3の基礎レベルを決して超えないことを見出した(図4c)。まとめると、これらのデータは、βig-h3がKCマウスの間質区画内のPDGFRα+ CAFにより主に産生されることを示す。
考察。
腫瘍形成及び腫瘍進行を調節する際での宿主免疫が果たす役割は重大である31。しかし、TME内の免疫細胞は、効果的な抗腫瘍免疫応答を発揮できない32。この現象は大部分が、効果的な抗腫瘍免疫応答が腫瘍ゾーンに「到達」し、周囲の微小環境に「物理的及び機能的に」制限されて維持されるためである。TMEでは、間質は免疫系及び化学治療の両方による腫瘍への接近を遮断する物理的障壁のように作用する12。ヘッジホッグシグナル伝達を遮断することによりマウスにおける間質を枯渇させることによって、有益な効果が発揮されることが示されているが33、ヒトPDAにおける間質筋線維芽細胞を標的化したその後の臨床治験では、実際に疾患進行が加速させ、それによって、これらの臨床治験の中止を招いた。従って、間質が免疫応答を調節することを可能にする、基礎をなす機構は完全には特徴付けられていない。本明細書では、本発明者らは、間質基質タンパク質βig-h3がPDAにおいてCD8+ T細胞免疫を阻害することにより、抗腫瘍免疫応答を直接的に制限することを示す。この免疫回避の戦略は、従って、このがんにおいて観察されている、免疫治療への耐性に寄与しうる。
PDA進行は、膵臓の機能的区画及び間質区画の両方における細胞及び分子の変化に関連付けられる。系統追跡実験では、大半の新生物発生前病変が腺房‐導管化生(ADM)34と呼ばれる過程を介して膵臓腺房細胞から発生することが示されているが、間質がどのように調節され、その寄与が、膵臓がんの初期段階の間で何であるのかについてはほとんど公知ではない。本明細書では、本発明者らは、βig-h3(主に線維芽細胞、ケラチノサイト、及び筋肉細胞により産生される、分泌された細胞外マトリックスタンパク質として最初に記載されたタンパク質35)が、PDAの病態生理学に影響する新規タンパク質であることを示す。本発明者らのデータは、PDA腫瘍発生の初期段階の間にTMEにおいて生じる細胞相互作用の調節におけるβig-h3の役割に洞察を提供する。βig-h3は正常なマウス又はヒト膵臓の外分泌区画中では発現されないが、本発明者らは、その発現が、PDAの初期段階の間に間質内で有意に増加することを見出した。興味深いことに、マウスにおいてβig-h3を過剰発現させることによって、WTマウスにおいて観察されたよりも高い自然発生腫瘍の発生率がもたらされたのに対し、βig-h3をノックアウトした場合、結果として得られたマウスはWT対照と同等であった36。これらのデータは、βig-h3を標的化することが、実質的な副作用を有さないであろうことを示唆する。本発明者らは、βig-h3が胃腸がん(食道がん、胃がん、肝細胞がん、及びPDAがんを含む)を伴う患者において増加することを見出した36。食道がんを伴う患者では、分泌されたβig-h3が、免疫組織化学を使用して間質中で検出された。間質中(しかし、腫瘍細胞中ではない)に高レベルのβig-h3を伴う患者は、低いレベルを伴う患者よりも悪い予後を有したが、このマーカーが非細胞自律機構に対する決定的な寄与体であることを示している。いくつかの証拠が、βig-h3がPDAの間質中に密に蓄積し、そこで、それは免疫抑制効果を発揮することを示す。第一に、本発明者らはT細胞増殖アッセイ(組換え分子を使用する、又はCAF上清中に分泌される)を使用し、βig-h3が抗原特異的な活性化及び増殖を低下させることにより抑制効果を発揮することを見出した。本明細書では、本発明者らは、分泌されたβig-h3に対する枯渇性Abの使用によって、腫瘍特異的CD8 T細胞の増殖及び活性化が回復し、細胞の消耗が低下したこと(それは、インビトロでのPD-1及びTim-3発現を使用して測定した)を示す最初の証拠を提供する。さらに、βig-h3はインテグリンβ3(CD61)(浸潤性CD8 T細胞上で高度に発現され、LckY505に結合するHic-5の安定化に導き、シグナル伝達を鈍らせる)に結合し、それを介してシグナルを誘導する。さらに、βig-h3タンパク質の枯渇は、Ag/Ab複合体の摂取時に細胞傷害性分子を産生するであろうF4/80マクロファージの再プログラミングに導く。第二に、Ab戦略を使用したインビボでのβig-h3タンパク質の枯渇は、GrzB+応答における増加を伴った。急速な侵襲性病変発生の場合では、抗PD-1との組み合わせ治療は相乗効果を有する(KICマウス)。第三に、皮下注射された腫瘍細胞の免疫介在性排除は、CD8+ T細胞枯渇により完全にレスキューされ、βig-h3タンパク質が新生物の初期段階の間に効果的な抗腫瘍応答を破壊する際に中心的な役割を果たすことを示している。より重要なことに、膵臓がんのより進行段階の間でのこの免疫調節機構の関連性は、本発明者らが、既に確立されたPDAにおいてタンパク質を枯渇させ、腫瘍微小環境が原発腫瘍だけでなく、しかし、また、転移部位で再プログラミングされることを見出した際にさらに実証され、βig-h3を標的化することによって、患者における免疫介在性抗腫瘍効力が強化されうるとの興奮させる可能性を提起する。
参考文献:
本願を通して、種々の参考文献によって、本発明が関係する最新技術が記載されている。これらの参考文献の開示を、本明細書により、参照により本開示中に援用する。
Figure 2024156850000008

Figure 2024156850000009

Figure 2024156850000010

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Claims (16)

  1. 固形腫瘍に罹患している患者の処置において同時又は逐次的に使用するための、
    i.免疫チェックポイント阻害剤と
    ii.βig-h3アンタゴニストと
    の組み合わせ。
  2. 前記免疫チェックポイント阻害剤が抗PD-L1/PD-1抗体である、請求項1のいずれか一項に記載の使用のための組み合わせ。
  3. 前記βig-h3アンタゴニストが抗βig-h3抗体である、請求項1~2のいずれか一項に記載の使用のための組み合わせ。
  4. 前記固形腫瘍が、膵臓がん 食道扁平上皮がん、胃がん及び肝臓がん、結腸がん、黒色腫からなるリストより選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組み合わせ。
  5. 前記固形腫瘍が膵臓がんである、請求項4に記載の使用のための組み合わせ。
  6. 固形腫瘍に罹患している患者の免疫チェックポイント阻害剤への感受性を増強するための方法において使用するためのβig-h3アンタゴニスト。
  7. 前記免疫チェックポイント阻害剤が抗PD-L1/PD-1抗体である、請求項6に記載の使用のためのβig-h3アンタゴニスト。
  8. 前記βig-h3アンタゴニストが抗βig-h3抗体である、請求項6~7のいずれか一項に記載の使用のためのβig-h3アンタゴニスト。
  9. 前記固形腫瘍が、膵臓がん、食道扁平上皮がん、胃がん及び肝臓がん、結腸がん、黒色腫からなるリストより選択される、請求項6~8のいずれか一項に記載の使用のためのβig-h3アンタゴニスト。
  10. 前記固形腫瘍が膵臓がんである、請求項9に記載の使用のためのβig-h3アンタゴニスト。
  11. i.βig-h3アンタゴニスト、
    ii.免疫チェックポイント阻害剤、及び
    iii.医薬的に許容可能な担体。
    を含む、医薬組成物。
  12. 前記免疫チェックポイント阻害剤が抗PD-L1/PD-1抗体である、請求項12に記載の医薬組成物。
  13. 前記βig-h3アンタゴニストが抗βig-h3抗体である、請求項11~12に記載の医薬組成物。
  14. それを必要とする患者における固形腫瘍の予防又は治療に使用するための、請求項11~13に記載の医薬組成物。
  15. 前記固形腫瘍が、膵臓がん 食道扁平上皮がん、胃がん及び肝臓がん、結腸がん、黒色腫からなるリストより選択される、請求項14に記載の使用のための医薬組成物。
  16. それを必要とする対象に、免疫チェックポイント阻害剤化合物及びβig-h3アンタゴニスト化合物の量を投与することを含む、固形腫瘍を処置するための方法。
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