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JP2023505421A - バイオリアクターにおける懸濁状態での幹細胞の増殖方法 - Google Patents

バイオリアクターにおける懸濁状態での幹細胞の増殖方法 Download PDF

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JP2023505421A JP2022528963A JP2022528963A JP2023505421A JP 2023505421 A JP2023505421 A JP 2023505421A JP 2022528963 A JP2022528963 A JP 2022528963A JP 2022528963 A JP2022528963 A JP 2022528963A JP 2023505421 A JP2023505421 A JP 2023505421A
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Abstract

本発明は、バイオリアクター中での懸濁培養で多能性幹細胞(PSC)を増殖させる方法に関し、該方法は、以下:(i)バイオリアクターにおいて懸濁状態で培養されている多能性幹細胞にROCKの阻害剤(ROCKi)を添加する段階; (ii)細胞解離剤を添加する段階であって、それによって、多能性幹細胞の凝集体を解離させる、段階; (iii)細胞凝集体が再び形成できる濃度まで細胞解離剤の濃度を低下させるのに十分な過剰体積の培養培地を添加することにより、段階(ii)で添加した細胞解離剤を希釈する段階;および(iv)PSCの増殖を可能にする適切な条件下で、段階(iii)で得られた混合物を培養する段階、を含む。TIFF2023505421000004.tif59147

Description

関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のためにその内容全体が参照により本明細書に組み入れられる、2019年12月11日に出願された欧州特許出願公開第19 215091.0号の優先権の恩典を主張する。
発明の技術分野
本発明は、バイオリアクター中での懸濁培養で多能性幹細胞(PSC)を増殖させるための方法に関する。
背景
多能性幹細胞(PSC)は接着細胞であり、したがって、フラスコなどの細胞培養容器中で通常は培養され、その際、該細胞は容器の底面に接着する。接着を促進するために、容器の底面は、通常、細胞外マトリックス(ECM)のタンパク質で被覆されている。しかし、この細胞培養方法は、臨床応用で必要とされる多数のPSCの生産には有用ではない。細胞培養フラスコ中での培養には、時間がかかり、大きな労働力が必要とされ、かつかなりの量の材料(培養培地およびプラスチック製器具)が必要とされることが、その理由である。撹拌槽バイオリアクター中での懸濁培養が、接着培養の代替方法として説明されている。この場合、PSCは、細胞培養容器の底面で単一細胞層として増殖するのではなく、細胞が互いに付着した凝集体を形成する。したがって、細胞凝集体の形成を可能にするために懸濁培養時にECMタンパク質を補充する必要はない。懸濁培養は、細胞数が多い場合に対しても培養条件をコントロールすることができ、必要とされる材料および時間が少ないため、より効率的であるとみなされている。
しかし、懸濁培養でPSCを連続的に増殖させると、凝集体のサイズが連続的に大きくなる。凝集体の直径が一定の大きさを上回ると、凝集体内部の細胞には、栄養物および/もしくは増殖因子または他のシグナル分子がもはや十分に供給されず、それらの細胞は自発的に分化するか、またはアポトーシス性になる。したがって、PSCを連続的に増殖させるには、凝集体を解離させなければならず、得られた単細胞をふたたび播種(「継代」)しなければならない。しかし、懸濁培養での継代には、いくつかの問題がある:PSCは外的な影響に敏感であるため、凝集体の解離によって、PSCの生存能力の低下または自発的分化が起こり得る。さらに、細胞培地を凝集体から迅速に離さなければならないため、多数の細胞が存在する場合に閉鎖系でこの段階を自動化することは、困難である。
凝集物の解離のために最もよく使用される方法は、酵素的消化である。この場合、PSCの接着分子は、タンパク質分解によって切断される。それによって、細胞は互いから分離される。酵素、または、Accutase、Accumax、トリプシン、TrypLE Select、およびコラゲナーゼBを含む酵素を含む溶液の使用が、説明されている。溶解またはアポトーシスを再び招くと思われる過剰消化を防ぐために、酵素的反応を停止しなければならない。酵素試薬の停止は、大幅な希釈により、または停止試薬を添加し続いて遠心分離によって除去することにより、実現されるのが通常である。さらに、酵素的消化では、その工程で膜結合型接着分子が除去され、再び形成されなければならないため、PSCの増殖および凝集体形成が影響を受ける。さらに、多くの場合、PSCは互いから完全に切り離され、このことはPSCの多能性および生存能力に悪影響を与え得る。
細胞凝集体の機械的解離もまた、当技術分野において説明されている。この場合、凝集体は、例えば、より小さな凝集体への細分化を可能にする孔径を有するふるいに強制的に通される。しばしば、凝集体は、解離試薬で前処理される。この方法もやはり、PSCに環境ストレスを与え、したがって、PSCがアポトーシス性になるか、または分化を開始する可能性がある。
酵素的解離および機械的解離は、通常、工程全体の管理および監視を可能にするために、手作業で実施される。さらに、凝集体または細胞は、典型的には、遠心分離によって細胞培養培地または解離試薬から分離され、これは細胞の「塊形成」を招く可能性がある。どちらも、治療的製品を作るためのGMP製造工程では特に回避すべきである。これは、大きな労働力を要し、したがって費用がかかるという理由だけでなく、手作業の各単位操作によって微生物汚染およびロット間変動のリスクが高まることも理由である。
したがって、閉鎖系でのPSCの増殖を可能にする細胞解離または継代の方法であって、細胞も凝集体も系から除去することなく、かつ酵素的/機械的消化および/または遠心分離に付随するストレスに細胞をさらすことなく、PSC凝集体の解離および再形成の工程全体を繰り返し実施できる方法が、依然として必要とされている。したがって、技術的課題は、この必要を満たすことである。
技術的課題は、特許請求の範囲で定義される内容によって解決される。バイオリアクター中での懸濁培養で多能性幹細胞(PSC)を増殖させる方法が、本明細書において提示される。
したがって、本発明は、バイオリアクター中での懸濁培養で多能性幹細胞(PSC)を増殖させる方法であって、以下の段階を含む、方法、に関する:
(i)バイオリアクターにおいて懸濁状態で培養されている多能性幹細胞にROCKの阻害剤(ROCKi)を添加する段階;
(ii)細胞解離剤を添加する段階であって、それによって、多能性幹細胞の凝集体を解離させる、段階;
(iii)細胞凝集体が再び形成できる濃度まで細胞解離剤の濃度を低下させるのに十分な過剰体積の培養培地を添加することにより、段階(ii)で添加した細胞解離剤を希釈する段階;および
(iv)PSCの増殖を可能にする適切な条件下で、段階(iii)で得られた混合物を培養する段階。
細胞解離試薬は、好ましくはキレート剤であり、好ましくは、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、イミノ二コハク酸(IDS)、ポリアスパラギン酸、エチレンジアミン-N,N'-二コハク酸(EDDS)、クエン酸塩、クエン酸、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、およびメチルグリシン二酢酸(MGDA)からなる群より選択される。
好ましくは、細胞解離試薬は、EDTA、クエン酸塩、クエン酸、またはそれらの組合せからなる群より選択される。
好ましくは、段階(ii)のEDTA、クエン酸、またはクエン酸塩などの細胞解離剤の最終濃度は、少なくとも100μM、約100~約1000μMの範囲、約250~約750μMの範囲、約400~約600μMの範囲であるか、または約500μM、好ましくは約500μMの、EDTA、クエン酸、もしくはクエン酸塩である。
好ましくは、過剰体積の培養培地を添加した後の、段階(iii)のEDTA、クエン酸、またはクエン酸塩などの細胞解離剤の濃度は、約100μMもしくはそれ未満、約95μMもしくはそれ未満、約90μMもしくはそれ未満、約80μMもしくはそれ未満、約70μMもしくはそれ未満、約100~約1μMの範囲の、EDTA、クエン酸、もしくはクエン酸塩、または約90~約1μMの範囲の、EDTA、クエン酸、もしくはクエン酸塩である。
好ましくは、過剰体積は、細胞解離剤の体積より少なくとも5倍多い。好ましくは、少なくとも5倍の過剰体積を添加することによって、細胞解離は停止され、凝集体の再形成が開始される。
好ましくは、(iii)の培養培地はROCKiを含む。
好ましくは、(v)培地を、ROCKiを本質的に含まない培地に交換する段階を、方法はさらに含む。
好ましくは、段階(iv)は、約1~約3日間、好ましくは約2日間、実施される。
好ましくは、段階(v)は、段階(iii)後、約1~約3日目、好ましくは約2日目に始まる。
好ましくは、ROCKiは、AS1892802、ファスジル塩酸塩、GSK 269962、GSK 429286、H 1152、HA 1100、OXA 06、RKI 1447、SB 772077B、SR 3677、TC-S 7001、チアゾビビン、Y27632、およびそれらの組合せからなる群より選択される。好ましくは、ROCKiはY27632である。好ましくは、Y27632は、最終濃度が約10μMとなるまで添加される。
好ましくは、ROCKiは、段階(ii)の約2~約4時間前に、段階(i)で添加される。
好ましくは、段階(iii)における過剰体積の培養培地の添加によって、培養培地中の細胞数は、約1×105~約1×106細胞/ml、約1.5~約7.5×105細胞/ml、約2×105~約5×105細胞/ml、約2×105~約3×105細胞/ml、または約2.5×105細胞/mlとなる。好ましくは、培養培地は、IPS-Brew、E8、StemFlex、mTeSR1、およびPluriSTEMからなる群より選択される。好ましくは、培養培地はiPSC-Brewである。
好ましくは、段階(i)および(iii)の培養培地は、本質的に同一である。
好ましくは、培養培地の温度は、約30~50℃、約35~40℃、約36~38℃、または約37℃、好ましくは37℃である。
好ましくは、段階(i)~(iv)または(i)~(v)は、1回、2回、3回、4回、5回、少なくとも5回、または少なくとも10回繰り返される。
好ましくは、PSCは、段階(i)~(iv)または(i)~(v)の各繰り返しの後に、多能性を維持している。
好ましくは、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為生殖幹細胞(pPSC)、および核移植由来PSC(ntPSC)からなる群より選択される。最も好ましくは、多能性幹細胞はiPSCである。より好ましい別の態様において、多能性幹細胞はESCである。より好ましい別の態様において、多能性幹細胞は単為生殖幹細胞である。
好ましくは、多能性幹細胞はTC1133細胞である。
好ましくは、段階(ii)の凝集体は、約180μm~約250μm、好ましくは約200μm~約250μm、最も好ましくは約200μmの平均直径を有する。
好ましくは、凝集体を、段階(ii)において、少なくとも約1分間、少なくとも約2分間、少なくとも約3分間、少なくとも約5分間、少なくとも約10分間、1~20分間、約10~約20分間、約10~約15分間、または最長で約15分間、好ましくは約15分間、解離させる。
本発明は、非限定的な例および添付図と関連して考察される場合、詳細な説明を参照すると、より良く理解される。
本発明の方法の例示的な態様を示す。図1を参照して説明される方法は、実施例1および2においても実施される。この図では、スターター培養と、それに続いて行われる2回繰り返しまたは2サイクルの細胞継代が示されている。懸濁培養に切り換える前に、iPSCなどのPSCを、IPS-Brewに溶かしたBiolaminin 521-MXでコーティングされた標準的な細胞培養フラスコ中で培養する。懸濁培養を開始するために、細胞解離剤、ここではベルセンの添加によって細胞培養フラスコからPSCを解離させ、次いでそれらを用いて、この場合、合計体積13ml、2.5×105細胞/mlの播種濃度で、バイオリアクターに接種する。これらの細胞を、10μMのROCKi、例えばY27632を添加した培養培地、例えばiPS-Brew中で約2日間、培養する。2日後、ROCKiを含まないiPS-Brewなどの培養培地への培地交換を開始する。好ましくは凝集体の大きさが約200~250μmになった4日目または5日目に、ROCKi、ここでは10μMのY27632を、解離段階の前に2~4時間(実施例1および2では2時間)、添加する。これは、本発明の方法の段階(i)に対応し、細胞継代のサイクル1の開始と認識することもできる。1サイクルは、段階(i)~(iv)を含んでよく、任意で本発明の方法の段階(v)も含んでよい。次に、(自動での)解離(本発明の方法の段階(ii))を実施する:実施例1および2は、解離のためのそのような例示的方法を提供する:まず、ベルセンを用いて細胞を2回洗浄し、これは、撹拌を約2分間止めること、培地を除去して約2mlにすること、ベルセンを添加して10mlにすること、および10秒間の撹拌(300rpm、下向き)を開始することを含む。撹拌を再び約2分間止め、培地を除去して2mlにし、かつ3mlのベルセンを添加する。次いで、解離が完了するまで600rpmで最長15分間、撹拌することにより、細胞凝集体の実際の解離を実施する。細胞は、計数されてもよい。次に、過剰体積の新しいiPS-Brewを添加することにより、ベルセン溶液を希釈する。この希釈は、本発明の方法の段階(iii)に相当する。次に、継代されたPSC(好ましくは、希釈後の濃度は約2~5×105細胞/mlである)を、10μMのROCKi、例えばY27632を添加した培養培地、例えばiPS-Brew中で2日間、6日目まで培養する(本発明の方法の段階(iv))。6日目に、ROCKiを添加していないIPS-Brewなどの培養培地への培地交換を開始する(本発明の方法の任意の段階(v))。これは、細胞継代のサイクル1の終了とみなしてよい。8~9日目に、細胞継代の次の繰り返し(サイクル2)を開始する:解離段階の2~4時間前にROCKiを添加する。これは、本発明の方法の段階(i)に相当する。次に、自動での解離(本発明の方法の段階(ii))および継代(本発明の方法の段階(iii))を実施する。次に、継代されたPSCを、10μMのROCKi、例えばY27632を添加したiPS-Brew中で2日間、培養する。継代および培養の以降の段階を、続けることができる。 実施例1で実施されるように、かつ図1を参照して説明される方法の例示的態様について説明されるように、培養によって得られた各継代の最終日における凝集体のサイズを示す。個々のデータ点は、1つの容器の値を表す。平均値を線によって表している。 実施例1で実施された培養について個々の継代の増殖率を示す。データ点は、1つの容器の値を示す。つながった線は、各継代の平均値を表す。継代6および8は3日間続けたのに対し、他の継代は4~5日間続けた。 実施例1で実施された長期の懸濁培養を通じての累積変化倍率を示す。累積変化倍率は、継代期間中の出発細胞数およびそれぞれの継代比率を用いて算出した。 実施例1で実施された、ROCKiで処理したiPSCの継代終了時点での、多能性関連遺伝子の発現を示す:OCT4(左)、TRA-1-60(中央)、およびOCT4/TRA-1-60(右)。平均値±SD。 実施例1で実施された、TZVで処理したiPSCの継代終了時点での、多能性関連遺伝子の発現を示す:OCT4(左)、TRA-1-60(中央)、およびOCT4/TRA-1-60(右)。平均値±SD。 実施例2で実施した長期の懸濁培養を通じての累積変化倍率を示す。累積変化倍率は、継代期間中の出発細胞数およびそれぞれの継代比率を用いて算出した。 実施例2で実施された継代終了時点での多能性関連遺伝子の発現を示す:OCT4(左)、NANOG(中央左)、LIN28(中央)、OCT4/NANOG(中央右)、およびOCT4/LIN28(右)。平均値±SD。 iPSCの形態を示す。実施例3で実施したように、iPSCを、接着培養(0日目)から懸濁細胞培養(1~4日目)に切り換えた。4日目に、継代のために、ベルセンを用いて凝集体を解離させた(4日目、3~8分)。スケールバー:200μm。 実施例4で実施したように、細胞の解離前および解離後に前処理したiPSCおよび前処理しなかったiPSCの、凝集体サイズを示す。継代数0、4日目(左のバー)および継代数1、3日目(右のバー)。 実施例4で実施したように、細胞の解離前および解離後にROCKiで前処理したiPSCおよび前処理しなかったiPSCの、増殖率(変化倍率)を示す。継代数0、4日目(左のバー)、継代数1、3日目(中央のバー)、および継代数1、5日目(右のバー)。 実施例4で実施したように、細胞の解離前および解離後にROCKiで前処理したiPSCおよび前処理しなかったiPSCの、多能性マーカーの発現率を示す。継代数0、4日目(左のバー)、継代数1、3日目(中央のバー)、および継代数1、5日目(右のバー)。解析された多能性マーカーは、OCT4(図12A)、NANOG(図12B)、およびTRA-1-60(図12C)であった。 実施例5で実施した各継代の終了時の様々な時点(p0の4日目、p1の5日目、p2の5日目、およびp3の4日目)における、細胞凝集体の形態を示す。 実施例5に示す細胞増殖について、様々な継代期間中のそれぞれの日の凝集体サイズを示す。 実施例5のすべての継代の終了時における、増殖率(左の軸、丸)および細胞濃度(右の軸、四角)を示す。 実施例5の様々な継代について図に示した時点での、iPSCにおける多能性関連遺伝子の発現を示す。
発明の詳細な説明
本発明は、下記に詳細に説明され、また、付随する実施例および図面によってさらに例示される。
本発明において、PSCを接着細胞培養(「スターター培養」)からバイオリアクターにおける連続的懸濁培養に切り換えることが可能であることが成功裡に示された。驚くべきことに、(a)細胞解離の前にRho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤を添加することによって、細胞の生存能力および収量が増大し、また、PSCの多能性の維持が促進されること(例えば実施例4を参照されたい)、ならびに(b)細胞を解離する試薬を希釈した後に、細胞解離試薬を引き続き含む培地中でPSCを培養し増殖させることが可能であること(例えば、実施例1、2、および3を参照されたい)が発見された。さらに、驚くべきことに、(c)EDTA(エチレンジアミン四酢酸塩)を含む溶液などのキレート剤を、多能性幹細胞(PSC)の凝集体を解離させる際に使用できることも見出された(実施例1および2を参照されたい)。実施例5は、本発明を、さらに変更することなく、30倍を超える規模にスケールアップできることを強調するものである。したがって、本発明は、閉鎖系でのPSCの自動培養を可能にし、これによって、細胞の継代中にPSCをバイオリアクターから出して遠心分離機に移すなどの手作業操作の数を減らす。したがって、本発明の方法は、従来の培養系よりも容易で、速く、安価であり、PSC生産のさらなる自動化を可能にする。本発明の方法は、前述したように閉鎖系で実施できるため、GMPを遵守した幹細胞製造工程を確立するために申し分なく適した利点をさらに有する。
バイオリアクター中でのPSCの連続的かつ自動化された増殖を開始できるがその前に、PSCは、好ましくは、バイオリアクターに移されなければならない(図1も参照されたい)。PSCを接着培養で培養することは、当業者の知識の範囲内である。例えば、iPSC-Brew培地などPSCに適した培養培地に溶かした0.9μg/cm2のBiolaminin 521-MXまたはECMの他のタンパク質でコーティングされたT25/T75培養フラスコ中で、PSCを培養してもよい。懸濁培養を開始するために、接着培養に由来するPSCを使用してもよい。細胞を、EDTAなどの細胞解離剤を用いてフラスコから解離させ、ROCKiを含む培養培地に移してもよい。好ましくは、2~10個の細胞からなる細胞凝集体が存在する。次いで、これらの解離されたPSCを用いて、バイオリアクターに接種してもよい。本発明の方法の開始時の好ましい細胞濃度は、約2.5×105細胞/mlである。次いで、PSCのバイオリアクターの底への沈降および/または接着を回避するために連続的にかき混ぜながら、細胞を懸濁状態で培養する。
接種後、好ましくは、ROCKiを含む細胞培養培地中で約2日間、細胞を培養して、細胞凝集体を形成させる。細胞凝集体の形成後、培地を、ROCKiを本質的に含まない細胞培養培地、または言い換えると、ROCKiを添加されてもおらず含んでもいない細胞培養培地に変更してもよい。
細胞密度および/または細胞凝集体のサイズが、栄養物を適切に供給することがもはや可能ではない程度になれば(例えば、直径が約180~250μm、好ましくは200μm)、初めてPSCを継代し得る:最初に、凝集体の解離の好ましくは2~4時間前に、ROCKiを培養培地に添加する。ROCKiを含む細胞培養培地中で細胞凝集体をプレインキュベーションした後に、細胞解離剤を用いて細胞を1回または2回洗浄してもよい。洗浄は、バイオリアクター中での細胞凝集体の撹拌を止めることおよび重力によってそれらを沈降させることを含んでいてもよい。次いで、培養培地または細胞解離剤を、好ましくは吸引によって除去し、(新しい)細胞解離試薬で置き換えてもよい。添加後、好ましくは約300rpmで約10秒間、細胞凝集体を再び撹拌し、続いて、もう1回洗浄サイクルを行ってもよい。細胞解離試薬を用いる2回の洗浄サイクルの後に、好ましくは撹拌速度を速めて、例えば600rpmで連続的にかき混ぜながら、小さな凝集体(約5~50個の細胞)の懸濁液が形成されるまで、PSCを細胞解離試薬中で保つことができる。次いで、解離させたPSCを用いて、該細胞の一部を別のバイオリアクターに移すことによって他のバイオリアクターに接種してもよく、その際、該細胞は過剰体積の培養培地の添加によって希釈することが好ましい。あるいは、またはさらに、解離させたPSCを、同じバイオリアクター中で、すなわち、バイオリアクターの閉鎖系の外へのいかなる細胞移動も必要とせずに、希釈してもよい。あるいは、またはさらに、一部のPSCを臨床応用のために取り出してもよく、かつ残りのPSCを、同じバイオリアクターに接種するために使用してもよい。この時点で、継代は完了する。本明細書において概説するように、継代は繰り返されてもよく、したがって、低コストで高収量のPSCの連続増殖が可能になる。図1は、スターター培養を含む、本発明の方法の例示的な態様を示す。
したがって、本発明は、バイオリアクター中での懸濁培養で(人工)多能性幹細胞(PSC)を増殖させる方法であって、以下の段階を含む、方法、に関する:
(i)バイオリアクターにおいて懸濁状態で培養されている多能性幹細胞にROCKの阻害剤(ROCKi)を添加する段階;
(ii)細胞解離剤を添加する段階であって、それによって、多能性幹細胞の凝集体を解離させる、段階;
(iii)細胞凝集体が再び形成できる濃度まで細胞解離剤の濃度を低下させるのに十分な過剰体積の培養培地を添加することにより、段階(ii)で添加した細胞解離剤を希釈する段階;および
(iv)PSCの増殖を可能にする適切な条件下で、段階(iii)で得られた混合物を培養する段階。
本明細書において説明される方法は、好ましくはバイオリアクターなどの閉鎖系における、連続的かつ/または自動工程でのPSC継代の繰り返し1回分とみなしてよい。この継代方法は、ロット間変動または汚染を招き得る手作業操作の数を減らす。本明細書において使用される場合、用語「継代」および「継代すること」とは、接着細胞を植継ぎ培養する工程を意味し、その際、細胞接着は破壊され、細胞密度(単位体積または単位面積当たりの細胞数)は、新鮮な培地の添加によって低下する。したがって、本発明はさらに、バイオリアクター中での懸濁培養で(人工)多能性幹細胞(PSC)を継代する方法であって、以下の段階を含む、方法、にも関する:
(i)バイオリアクターにおいて懸濁状態で培養されている多能性幹細胞にROCKの阻害剤(ROCKi)を添加する段階;
(ii)細胞解離剤を添加する段階であって、それによって、多能性幹細胞の凝集体を解離させる、段階;
(iii)細胞凝集体が再び形成できる濃度まで細胞解離剤の濃度を低下させるのに十分な過剰体積の培養培地を添加することにより、段階(ii)で添加した細胞解離剤を希釈する段階;および
(iv)PSCの増殖を可能にする適切な条件下で、段階(iii)で得られた混合物を培養する段階。
本明細書において概説するように、PSCの継代は繰り返されてもよく、したがって、本発明の方法は、カスケードに似たプロセスでPSCを増殖させる連続的工程(増殖)を可能にする。したがって、段階(i)~(iv)または(i)~(v)は、1回、2回、3回、4回、5回、少なくとも5回、または少なくとも10回繰り返されてよい。実施例1および2ならびに図5、6、および8に示すように、長期間、すなわち、実施例2に示すように少なくとも49日間かつ10回継代の間、本発明の方法の段階(i)~(iv)または(i)~(v)の各繰り返しの後も、PSCは多能性を維持している。したがって、PSCは、好ましくは、段階(i)~(iv)または(i)~(v)の各繰り返しの後に、多能性を維持している。
用語「多能性幹細胞」(PSC)は、本明細書において使用される場合、体のあらゆる細胞型に分化する能力がある任意の細胞を意味する。したがって、多能性幹細胞は、本質的に任意の組織または器官に分化し得る独特な機会を与える。現在、最もよく使用されている多能性細胞は、胚性幹細胞(ESC)または人工多能性幹細胞(iPSC)である。ヒトESC株は、Thomsonおよび共同研究者らによって初めて樹立された(Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147)。ヒトESCの研究により、最近、体の細胞をリプログラミングしてES様細胞にする新技術の開発が可能になった。この技術は、Yamanaka および共同研究者によって2006年に開発された(Takahashi & Yamanaka (2006), Cell, 126:663-676)。結果として得られる人工多能性細胞(iPSC)は、ESCに極めて類似した挙動を示し、かつ重要なことには、体のあらゆる細胞に分化する能力も有している。本発明において使用できる多能性幹細胞の別の例は、単為生殖(PG)(胚性)幹細胞であり、これは、例えばマウスおよびヒトの両方において、インビトロでの未受精卵母細胞の活性化後に発達する胚盤胞から容易に導き出すことができる(これに関連して、例えば、Espejel et al, Parthenogenetic embryonic stem cells are an effective cell source for therapeutic liver repopulation, Stem Cells. 2014 Jul; 32(7): 1983-1988またはDidie et al, Parthenogenetic stem cells for tissue-engineered heart repair. J Clin Invest. 2013 Mar;123(3):1285-98を参照されたい)。本発明において使用できる適切な多能性幹細胞の別の例は、核移植由来PSCである(ntPSC; Kang et al, Improving Cell Survival in Injected Embryos Allows Primed Pluripotent Stem Cells to Generate Chimeric Cynomolgus Monkeys, Cell Reports Volume 25, Issue 9, 27 November 2018, Pages 2563-2576を参照されたい)。しかし、本発明においては、これらの多能性幹細胞を、ヒトの生殖細胞系の遺伝的同一性を改変することを含むまたは産業的目的もしくは商業的目的のためにヒト胚の使用を含む工程を用いて生産しないことが、好ましい。多能性幹細胞は好ましくは霊長類由来のものであり、限定されるわけではないが、マウス、ラット、ネコ科の動物、イヌ科の動物、ウシ亜科の動物、ウマ科の動物、サル、またはヒトに由来するものを含み、より好ましくは、ヒトに由来するものである。
例えば、適切な人工PSCは、ほんのいくつかの供給源を挙げれば、NIHヒト胚性幹細胞登録機関、人工多能性幹細胞の欧州バンク(EBiSC)、ドイツ心臓循環器系研究センターの幹細胞リポジトリ(DZHK)、またはATCCから入手することができる。人工多能性幹細胞はまた、例えば、米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)によって管理されており、学術的研究者および産業研究者に幅広くヒト細胞資源を供給しているNINDSヒト配列および細胞リポジトリ(https://stemcells.nindsgenetics.org)からも、商業用途のために入手可能である。本発明において使用され得る適切な細胞株の1つの実例は、細胞株TC-1133であり、これは、さい帯血幹細胞から導き出された人工の(未編集)多能性幹細胞である。この細胞株は、例えば、NINDS(USA)から直接的に入手可能である。好ましくは、TC-1133は、GMPに準拠している。本発明において使用され得る他の例示的なiPSC細胞株には、Gibco(商標)のヒトエピソームiPSC株(注文番号A18945、Thermo Fisher Scientific)、またはATTCから入手可能なiPSC細胞株であるATCC ACS-1004、ATCC ACS-1021、ATCC ACS-1025、ATCC ACS-1027、もしくはATCC ACS-1030が含まれるが、それらに限定されるわけではない。あるいは、リプログラミングの熟練者は、Okita et al, “A more efficient method to generate integration-free human iPS cells” Nature Methods, Vol.8 No.5, May 2011, pages 409-411またはLu et al “A defined xeno-free and feeder-free culture system for the derivation, expansion and direct differentiation of transgene-free patient-specific induced pluripotent stem cells”, Biomaterials 35 (2014) 2816e2826によって説明されているものなど公知のプロトコールを用いて、適切なiPSC株を容易に作製することができる。
本明細書において説明されるように、本発明において使用される(人工)多能性幹細胞は、任意の適切な細胞型から(例えば、間葉系幹細胞もしくは上皮幹細胞などの幹細胞または線維芽細胞などの分化細胞から)、および任意の適切な供給源(体液または組織)から導き出すことができる。このような供給源(体液または組織)の例には、ほんのいくつかを挙げれば、さい帯血、皮膚、歯肉、尿、血液、骨髄、さい帯についての任意の区画(例えば、さい帯の羊膜もしくはワルトン膠質)、さい帯-胎盤連結部、胎盤、または脂肪組織が含まれる。1つの実例において、さい帯血からのCD34陽性細胞の単離は、例えば、CD34を特異的に標的とする抗体を用いる磁気細胞分離によって行われ、続いて、Chou et al. (2011), Cell Research, 21:518-529で説明されているようにリプログラミングが行われる。Baghbaderani et al. (2015), Stem Cell Reports, 5(4):647-659では、iPSC作製の工程が、細胞株ND50039を作製するための医薬品の製造および品質管理に関する基準の規則を遵守できることを示している。
したがって、多能性幹細胞は、好ましくは、医薬品の製造および品質管理に関する基準の要件を満たす。
本明細書において説明されるPSCまたはiPSCについての用語「増殖させること」または「増殖」は、細胞分裂による細胞数の増加を意味する。本発明の方法は、PSCを増殖させる段階をさらに含んでよい。細胞増殖は、本発明の方法の段階(iv)において、本発明の方法の段階(v)または段階(iv)において、および本発明の方法の(v)において、好ましくは、本発明の方法の段階(v)において、行われてよい。1つの態様において、段階(iv)は、PSCの増殖を可能にする適切な条件下で、段階(iii)で得られた混合物を培養する工程であって、それによってPSCを増殖させる、工程、を含む。1つの態様において、段階(v)は、培地を、ROCKiを本質的に含まない培地に交換する工程であって、それによってPSCを増殖させる、工程、を含む。PSCを増殖させる前記段階は、バイオリアクターにおいて懸濁状態で培養されている多能性幹細胞にROCKの阻害剤(ROCKi)を添加する段階(本発明の方法の段階(i)を参照されたい)と、細胞凝集体が再び形成できる濃度まで細胞解離剤の濃度を低下させるのに十分な過剰体積の培養培地を添加することにより、段階(ii)で添加した細胞解離剤を希釈する段階(本発明の方法の段階(iii)を参照されたい)との間の期間に関係してよく、好ましくは、約2~約6日、好ましくは約3~約5日、好ましくは約3.5~約4.5日、またはより好ましくは約4日、続く。この文脈において、「約」とは、8時間もしくはそれ未満、4時間もしくはそれ未満、2時間もしくはそれ未満、または1時間もしくはそれ未満のずれに関係してよい。
本明細書において使用される場合、用語「懸濁培養」は、細胞培養の一種であって、単細胞または小規模の細胞凝集体を、かき混ぜられた増殖培地中で機能および増加させ、そのようにして懸濁液(化学における定義:「液体中に懸濁された小型の固体粒子」を参照されたい)を形成させる、細胞培養である。これは、細胞外マトリックス(ECM)のタンパク質でコーティングされてもよい細胞培養容器に細胞を接着させる接着培養とは対照的である。懸濁培養では、好ましくは、ECMのタンパク質は細胞および/または培養培地に添加されない。
本明細書において使用される場合、用語「凝集体」および「細胞凝集体」は、同義的に使用されてよく、この用語は、細胞間の結合が細胞間相互作用によって(例えば、互いへの生物学的付着によって)生じる複数の(人工)多能性幹細胞を意味する。生物学的付着は、例えば、表面タンパク質、そのようなインテグリン、免疫グロブリン、カドヘリン、セレクチン、または他の細胞接着分子を介してよい。例えば、細胞は、懸濁状態で自発的に結合し、細胞と細胞の付着物を形成し(例えば自己集合)、それによってPSCの凝集体を形成し得る。いくつかの態様において、細胞凝集体は、実質的に同種(すなわち、同じ種類の細胞を主に含む)であってよい。いくつかの態様において、細胞凝集体は、異種(すなわち、複数の種類の細胞を含む)であってよい。
いくつかの態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、約150~約800μmのサイズの平均直径を有する。いくつかの態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、少なくとも約800μmのサイズの平均直径を有する。いくつかの態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、少なくとも約600μmのサイズの平均直径を有する。いくつかの態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、少なくとも約500μmのサイズの平均直径を有する。いくつかの態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、少なくとも約400μmのサイズの平均直径を有する。いくつかの態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、少なくとも約300μmのサイズの平均直径を有する。いくつかの態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、少なくとも約200μmのサイズの平均直径を有する。いくつかの態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、少なくとも約150μmのサイズの平均直径を有する。好ましい態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、約300~約500μmのサイズの平均直径を有する。好ましい態様において、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、約150~約300μmのサイズの平均直径を有する。
大きな寸法のPSC凝集体の形成は、回避することが好ましい。これは、直径が約300μmを超えると、組織/凝集体中心への栄養物および気体の拡散が制限されることにより、細胞壊死が起こり得るためである。最終的に、特に大型のPSC凝集体では、制御不能な分化も起こり得る。したがって、継代ごとに定期的に凝集体を単細胞に解離させることが重要である。実施例に示すように、本発明の方法は、簡便な様式でこの問題を解決する。本発明において、細胞凝集体解離前の平均直径が約180~約250μm、好ましくは約200~約250μm、理想的には約200μmであることが、多能性と細胞収量との最善の妥協案であることが示される。したがって、好ましくは、凝集体は、本発明の方法の段階(ii)において、約180~約250μm、より好ましくは約200~約250μm、および最も好ましくは約200μmのサイズの直径を有する。
本明細書において使用される場合、用語「リアクター」および「バイオリアクター」は、同義的に使用されてよく、この用語は、細胞培養のために動的流体環境を提供するように構成されている閉鎖系の培養容器を意味する。かき混ぜ式リアクターの例には、撹拌槽型バイオリアクター、ウェーブ混合式/ロッキング式バイオリアクター、上下かき混ぜ式バイオリアクター(すなわち、ピストン運動を含むかき混ぜ式リアクター)、スピナーフラスコ、振盪機フラスコ、振盪バイオリアクター、パドルミキサー、垂直ホイールバイオリアクターが含まれるが、それらに限定されるわけではない。かき混ぜ式リアクターは、約2mL~20,000Lの細胞培養体積を収容するように構成されてよい。好ましいバイオリアクターは、最大50Lの容積を有してよい。本発明の方法に適した例示的なバイオリアクターは、ambr15(登録商標)バイオリアクターまたはUniVessel(登録商標)バイオリアクターであり、どちらもSartorius Stedim Biotechから入手可能である(後者は、例えば体積0.5~10lのバージョンが入手可能である)。培養培地のpHは、バイオリアクターによって制御され、好ましくはCO2供給によって制御されてよく、6.6~7.6の範囲、好ましくは約7.4で保たれてよい。
いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約20,000Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約2,000Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約200Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約100Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約50Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約20Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約10Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約1Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約100mL~約10Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約100mL~約5Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約150mL~約1Lである。いくつかの態様において、バイオリアクター中の培養容器の容積は、約1L~約1,000Lである。
特に好ましいのは、細胞培養体積の最小値と最大値が5倍、またはさらに10倍異なるバイオリアクター、すなわち、同じバイオリアクター中でのスケールアップを可能にすると理解できるバイオリアクターである。このようなバイオリアクターは、比較的小さな体積、例えば200mLでのPSC増殖の開始を可能にし得る。細胞解離試薬が、過剰体積の培養培地、例えば細胞培養培地の5倍添加によって希釈される場合、これにより、1回目の継代後の最終体積は約1Lになる。細胞増殖後、次いで、それらの細胞を再び分離し、続いて過剰体積の培養培地を添加する場合、体積は、例えば2回目の細胞継代後に5Lに増える。したがって、比較的小さな体積および大きな体積の両方に対応するバイオリアクターでは、いかなる手作業操作もせずに(カスケードに似た工程で)同じバイオリアクター中で数回、細胞を継代することができ、例えば、細胞の一部を取り出し、この一部を用いて別のバイオリアクターに接種し、一方で、細胞の残りの部分を用いて、元のバイオリアクターに再び接種する(「反復バッチ戦略」または「カスケードに似た工程」)。これにより、バイオリアクターから細胞を出し入れする移動などの手作業による干渉をまったく必要とせずに、約1000倍にPSCを増殖することが可能になる。この、手作業による干渉がないことは、汚染のリスクを最小化するという利点を有し、GMP条件下でのPSC増殖を容易にする。
本発明の方法は、大規模(例えば1l~1000l)での使用に適している場合がある。1つの好ましい態様において、大規模生産の場合、第2または後続の培養期間において使用するのに適したバイオリアクターは、最初の培養および解離のために使用されるバイオリアクターより大型のリアクターである。1つの好ましい態様において、第2または後続の培養期間において使用するために、複数のバイオリアクターに並行して接種を行い、それによって、並行して行う一連の継代を容易にする。
バイオリアクターは、かき混ぜ式バイオリアクターまたは撹拌式バイオリアクターであってよい。好ましくは、撹拌機の速度は、個々のバイオリアクターごとに最適化される。当業者は、PSCの培養およびPSC細胞凝集体の解離に適した攪拌機速度を選択する能力を有する。PSCの培養のための撹拌機速度は、好ましくは遅く、例えば、約150~約450rpmの範囲、好ましくは約300rpmであり、これは、速い速度、例えば、約450rpm~約750rpmの範囲、好ましくは約600rpmを必要とする場合がある、細胞解離を促進するのに適した速度とは対照的である。洗浄の際、撹拌速度は、好ましくは約150~約450rpmの範囲、好ましくは約300rpmである。したがって、1つの態様において、バイオリアクターは、Sartorius Stedim製のambr15バイオリアクターであり、細胞増殖のための撹拌速度は300rpmであり、細胞解離のための撹拌速度は600rpmである。
本明細書において使用される場合、用語「解離する」および「解離」は、凝集した細胞を互いから分離する工程を意味する。例えば、解離時に、細胞間の細胞-細胞相互作用および細胞間を妨害し、それによって、凝集体中の細胞をばらばらにしてもよい。
本明細書において使用される場合、用語「細胞解離剤」または「細胞解離試薬」は、どちらも同義的に使用することができ、この用語は、例えばキレート剤などの、細胞を互いから分離させる試薬または1種もしくは複数種の試薬を含む溶液を意味する。例えば、解離試薬は、細胞間の結合を壊し、それによって、懸濁状態の細胞が凝集するのを妨害し得る。例えば、解離試薬はキレート剤であってよく、キレート剤は、例えば、カルシウムまたはマグネシウム依存性の接着分子を妨害するキレート化によって、分子の隔離を引き起こして、細胞接着タンパク質間の結合形成を弱め得るか、または中断させ得る。
したがって、解離試薬は、好ましくはキレート剤である。本明細書において使用される場合、「キレート化試薬」は、Ca2+またはMg2+などの二価陽イオンをキレート化する(有機)化合物、ペプチド、またはタンパク質であってよい。キレート化は、金属イオンへのイオンおよび分子の結合の一種である。キレート化は、多座(多重結合される)配位子と単一の中心原子の間で2個もしくはそれより多い別々の配位結合が形成すること、または存在することを伴う。
キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、イミノ二コハク酸(IDS)、ポリアスパラギン酸、エチレンジアミン-N,N'-二コハク酸(EDDS)、クエン酸塩、クエン酸、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、およびメチルグリシン二酢酸(MGDA)からなる群より選択されてよい。キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)であってよい。キレート剤は、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)であってよい。キレート剤は、イミノ二コハク酸(IDS)であってよい。キレート剤は、ポリアスパラギン酸であってよい。キレート剤は、エチレンジアミン-N,N'-二コハク酸(EDDS)であってよい。キレート剤は、クエン酸塩であってよい。キレーティング酸は、クエン酸であってよい。キレート剤は、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)であってよい。キレート剤は、メチルグリシン二酢酸(MGDA)であってよい。好ましくは、キレート剤はEDTAである。ThermoFisher Scientificから入手可能な市販のEDTA含有「ベルセン」溶液は、例示的な好ましい解離試薬である。
段階(ii)で使用されるキレート剤の最終濃度は、少なくとも100μM、約100~約1000μMの範囲、約250~約750μMの範囲、約400~約600μMの範囲であってよく、または約500μM、好ましくは約500μMであってよい。段階(ii)で使用されるキレート剤の最終濃度は、少なくとも100μM EDTA、約100~約1000μM EDTAの範囲、約250~約750μM EDTAの範囲、約400~約600μM EDTAの範囲であってよく、または約500μM EDTA、好ましくは約500μM EDTAである。
本明細書において説明されるように、タンパク質分解酵素の使用は、PSCの細胞生存能力および多能性に対して負の影響を有し、好ましくは避けられる。したがって、細胞解離剤は、好ましくは、タンパク質分解酵素などの酵素を本質的に含まない。この文脈における「酵素を本質的に含まない」とは、酵素、好ましくはタンパク質分解酵素、例えば、トリプシン、ペプシンなどが添加されていない細胞解離剤に関係することができる。したがって、「酵素を本質的に含まない」とは、酵素、またはAccutase、Accumax、トリプシン、TrypLE Select、およびコラゲナーゼBを含む酵素を含む溶液を除外してよい。
本明細書において使用される場合、用語「解離させた」および「解離された凝集体」とは、単細胞、または元の細胞凝集体より小さい(すなわち、例えば段階(i)において見られるような、解離前の凝集体より小さい)細胞凝集体もしくは細胞クラスターを意味する。例えば、解離された凝集体は、解離前の細胞凝集体と比べて約50%またはそれ未満の表面積、体積、または直径を含んでよい。解離された凝集体は、2~10個のPSCを有するかまたは1~10個のPSCを有する、細胞凝集体からなってよい。好ましくは、解離された細胞凝集体は、本発明の方法の段階(iii)の後に、約25μm~約130μm、より好ましくは約80μm~約100μmの直径を有する。
結果として生じる解離された凝集体のサイズは、本発明の方法の段階(ii)における細胞解離試薬が希釈されていない時間の長さを用いて調節することができる。したがって、凝集体を、好ましくは、段階(ii)において、少なくとも約1分間、少なくとも約2分間、少なくとも約3分間、少なくとも約5分間、少なくとも約10分間、1~20分間、約10~約20分間、約10~約15分間、または最長で約15分間、好ましくは約15分間、解離させる。
本明細書において概説するように、本発明の1つの利点は、解離試薬の除去が必ずしも必須ではなく、例えば細胞の遠心分離または他の機械的操作を含む洗浄段階を必要とせずにPSCの培養をさらに継続できることである。したがって、PSCは損なわれず、解離後に、希釈された解離試薬を引き続き含む培地中で培養し、それによって細胞凝集体を再形成させることができる。その結果、誤りがちかつ混入が起こりがちな手作業操作を回避することができ、このことは、GMP条件下では特に望ましい。本発明の方法の希釈段階(iii)は、細胞凝集体が再び形成できる濃度まで細胞解離剤の濃度を低下させ、それによって細胞解離反応を停止する。細胞解離剤がキレート剤である場合、段階(iii)で添加される過剰体積の培地は、そのキレート剤を飽和させるのに十分な量のイオンを提供することができ、その結果、添加される培養培地のイオンが、段階(ii)のキレート剤が結合しているイオンと、入れ替わることができる。EDTAが、好ましくは約500μMの(最終)濃度でキレート剤として使用される場合、段階(ii)で添加される解離試薬は、5倍過剰体積の培養培地によって希釈することができる。好ましくは、段階(iii)の希釈後に得られる混合物中の解離剤の濃度は、約100μMもしくはそれ未満、約95μMもしくはそれ未満、約90μMもしくはそれ未満、約80μMもしくはそれ未満、約70μMもしくはそれ未満、約100~約1μMの範囲、または約90~約1μMの範囲である。解離試薬がEDTAである場合、段階(iii)の希釈後に得られる混合物中の解離剤の濃度は、約100μMもしくはそれ未満のEDTA、約95μMもしくはそれ未満のEDTA、約90μMもしくはそれ未満のEDTA、約80μMもしくはそれ未満のEDTA、約70μMもしくはそれ未満のEDTA、約100~約1μMの範囲のEDTA、または約90~約1μMの範囲のEDTAである。
本明細書において使用される場合、用語「過剰体積」は、段階(ii)で添加される解離試薬の量より少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも7.5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、または少なくとも30倍多い体積に関係してよい。
Rho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)は、セリントレオニンキナーゼのAGC(PKA/PKG/PKC)ファミリーに属するキナーゼである。これは、細胞骨格に対して作用することにより、細胞の形状および運動の調節に主に関与している。ROCK(ROCK1およびROCK2)は、哺乳動物(ヒト、ラット、マウス、雌ウシ)、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル、無脊椎動物(C.エレガンス(C.elegans)、蚊、ショウジョウバエ)、およびニワトリにおいて見出される。ヒトROCK1は、158kDaの分子量を有し、低分子量GTPアーゼRhoAの主要な下流エフェクターである。哺乳動物のROCKは、キナーゼドメイン、コイルドコイル領域、およびプレクストリン相同(PH)ドメインからなり、プレクストリン相同(PH)ドメインは、RhoA-GTPが存在しない場合には自己抑制的分子内折り畳みによってROCKのキナーゼ活性を低めている。ROCK1は、肺、肝臓、脾臓、腎臓、および精巣において主に発現される。しかし、ROCK2は、主に脳および心臓に分布している。プロテインキナーゼCおよびRho関連タンパク質キナーゼは、カルシウムイオン取込みの調節に関与しており、これらのカルシウムイオンが、次にミオシン軽鎖キナーゼを刺激して、収縮を起こさせる。
ROCKの阻害剤(ROCKi)は、当業者に周知である。ROCKiの例には、AS1892802、ファスジル塩酸塩、GSK 269962、GSK 429286、H 1152、HA 1100、OXA 06、RKI 1447、SB 772077B、SR 3677、TC-S 7001、チアゾビビン、およびY27632が含まれるが、それらに限定されるわけではない。好ましくは、ROCKiはY27632である。Y27632などのROCKiの濃度は、好ましくは、1~100μM、2~80μM、5~50μM、5~25μMの範囲、または約10μMである。Y27632は、以下の構造1:
Figure 2023505421000002
を有する。
好ましくは、ROCKiはチアゾビビンである。チアゾビビンなどのROCKiの濃度は、好ましくは、1~100μM、2~80μM、5~50μM、5~25μMの範囲、または約10μMである。チアゾビビンは、以下の構造2:
Figure 2023505421000003
を有する。
ROCKの阻害剤は、PSCの細胞生存および細胞再凝集を促進するために、本発明の方法の段階(iii)で使用される培養培地に添加されてよい(例えば実施例4を参照されたい)。したがって、段階(iii)の培養培地は、好ましくはROCKiを含む。同様に、ROCKiは、バイオリアクターで培養されているPSCに、本発明の方法の段階(i)において添加される。ROCKiの添加は、本発明の方法の段階(ii)の約2時間~約4時間前に行われてよい。
凝集体の(再)形成後にPSC懸濁培養物にROCKiを持続投与すると、PSC培養物の収量が減る場合がある。したがって、本発明の1つの態様において、培養培地は、好ましくはPSCが凝集体を再び形成した後に、ROCKiを本質的に含まない培地に交換される。したがって、本発明の方法は、段階(v)、すなわち、培地を、ROCKiを本質的に含まない培地に交換する段階をさらに含んでよい。PSCの凝集体が懸濁培養物中で再び形成されるまで、最長で3日かかる場合がある。したがって、本発明の方法の希釈段階(iii)の後に使用される培養培地は、約1~約3日間、好ましくは2日間、ROCKiを含むことが好ましい。言い換えると、本発明の方法の段階(iv)は、約1~3日間、好ましくは約2日間、実施される。ROCKiを本質的に含まない培地への培地交換は、本発明の方法の段階(iii)の後、すなわち細胞解離剤の希釈後、約1~3日間、好ましくは約2日間、開始してよい。
本発明の1つの態様において、段階(iii)における過剰体積の培養培地の添加によって、培養培地中の細胞数は、約1×105~約1×106細胞/ml、約1.5~約7.5×105細胞/ml、約2×105~約5×105細胞/ml、約2×105~約3×105細胞/ml、または約2.5×105細胞/mlとなる。
バイオリアクターにおいて懸濁状態で培養されるPSCは、培養培地中で培養される。PSCの増殖を可能にする培養培地は、当業者に公知であり、ほんのいくつかを挙げれば、IPS-Brew、iPS-Brew XF、E8、StemFlex、mTeSR1、PluriSTEM、StemMACS、TeSRTM2、Corning NutriStem hPSC XF培地、Essential 8培地(ThermoFisher Scientific)、StemFit Basic02(Ajinomoto Co. Inc)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。1つの実例において、培養培地は、Miltenyi Biotec(ドイツ)からGMPグレードのものが入手可能であるIPS-Brewである。本発明の方法の段階(i)でROCKiを添加する前に細胞を培養する際の培養培地は、本発明の方法の段階(iii)で細胞解離剤を希釈するために使用される培養培地と同じであってよい。したがって、本発明の方法の段階(i)および(iii)の培養培地は、本質的に同一であってよい。段階(iv)および(v)で使用される培養培地もまた、本発明の方法の段階(i)および(iii)で使用される培養培地と同一であってよい。
培養培地は、本発明の方法において、灌流を用いて連続的に交換されてよい。灌流は、独特の系によって容器中の細胞を保持しつつ、リアクターの培地を新鮮な培地に連続的に交換することを特徴とする(Kropp et al. “Progress and challenges in large-scale expansion of human pluripotent stem cells” Process Biochemistry, Vol. 59, Part B, August 2017, Pages 244-254の総説も参照されたい)。灌流は、最大の細胞密度および生産性を実現する、バイオ医薬品生産工程のための操作様式である。灌流下の細胞には新鮮な栄養物および増殖因子が絶えず供給されるという利点のほかに、場合によっては毒性である老廃物が洗い落とされて、リアクター中の条件がより均一となるよう徹底される。さらに、反復バッチ工程と比べて、灌流工程は、工程の自動化ならびにDO、pH、および栄養物濃度を含む培養環境のフィードバック制御の向上を助ける。灌流培養は、内因性因子分泌によるPSCの自己調節能力も補助し、したがって、高価な培地成分の補給を最終的に減らす、比較的安定な生理学的環境も実現し得る。したがって、培養培地は、段階(iv)において灌流によって連続的に交換されてよい。培養培地は、段階(v)において灌流によって連続的に交換されてよい。培養培地は、段階(iv)および(v)において灌流によって連続的に交換されてよい。灌流による、ROCKiを本質的に含まない培養培地への連続的培地交換を、段階(iv)で使用して、培地を、ROCKiを本質的に含まない培地に交換することができる。したがって、1つの態様において、本発明の方法の段階(iv)は、段階(iii)で得られた混合物を、PSCの増殖を可能にする適切な条件下で培養する段階であって、培養培地が、灌流によって、ROCKiを本質的に含まない培地に交換される、段階、を含む。
条件がPSC増殖に適しているかどうかを判定する別の条件には、温度が含まれる。したがって、培養培地の温度は、約30~50℃、約35~40℃、約36~38℃、または約37℃、好ましくは37℃である。
本明細書において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈において特に別段の指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「1つの試薬」への言及は、そのような様々な試薬のうちの1つまたは複数を含み、「その方法」への言及は、修正され得るか、または本明細書において説明する方法の代わりに使用され得る、当業者に公知である同等の段階および方法への言及を含む。
別段の定めが無い限り、要素の系列の前にある用語「少なくとも」は、その系列中の全要素を指すと理解すべきである。当業者は、本明細書おいて説明される本発明の具体的態様の数多くの等価物を認識し、または日常的実験の域を超えない実験を使って確認することができるであろう。このような等価物は、本発明によって包含されると意図される。
用語「および/または」は、本明細書において使用される場合はいつでも、「および」、「または」、および「該用語によって連結される要素のすべてまたは他の任意の組合せ」の意味を含む。
用語「より少ない」またはさらに「より多い」は、その特定の値を含まない。
例えば、20より少ない、とは、指定された数より少ないことを意味する。同様に、「より多い」または「を上回る」、とは、指定された数より多いか、または上回ることを意味し、例えば、80%より多い、とは、80%という指定された数より多いか、または上回ることを意味する。
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲全体を通して、文脈において特に指示がない限り、「含む(comprise)」という単語、ならびに「comprises」および「comprising」などの変形は、記載した整数もしくは段階、または整数もしくは段階の群を包含するが、他の整数および段階ならびに整数および段階の群のどれも除外しないことを意味するものと理解される。本明細書において使用される場合、用語「含む(comprising)」の代わりに、用語「含有する(containing)」もしくは「含む(including)」、または時には、本明細書において使用される場合、用語「有する(having)」を用いることができる。本明細書において使用される場合、「からなる(consisting of)」は、指定されていない任意の要素、段階、または成分を除外する。
用語「含む(including)」は、「含むが、限定されるわけではない(including but not limited to)」を意味する。「含む」および「含むが、限定されるわけではない」は、同義的に使用される。
本明細書において使用される場合、用語「約(about)」または「約(approximately)」とは、所与の値または範囲から20%以内、好ましくは15%以内、好ましくは10%以内、およびより好ましくは5%以内を意味する。この用語はまた、その特定の数値も含み、すなわち、「約20」は数値20を含む。
本発明は、本明細書において説明される特定の方法論、プロトコール、材料、試薬、および物質などに限定されず、したがって変化できることを理解すべきである。本明細書において使用される専門用語は、特定の態様を説明する目的のためにすぎず、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することは意図されない。
本明細書の本文を通して引用されるすべての刊行物(すべての特許、特許出願、科学的出版物、取扱い説明書などを含む)は、前述であるか後述であるかを問わず、全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書における何事も、以前の発明によるそのような開示に本発明が先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。参照により組み入れられる資料が本明細書と矛盾するか、または一致しない範囲では、本明細書が任意のそのような資料に優先するものとする。
本明細書において引用されるすべての文書および特許文書の内容は、その全体が参照により組み入れられる。
実験例
本発明およびその利点のさらに深い理解は、例示を目的として提供されるにすぎない以下の実験例から明らかになる。これらの実施例は、本発明の範囲を限定することを決して意図しない。
材料および方法
別段の指定が無い限り、以下の材料および方法を、各実施例において使用した。
一般的培養
・継代数0では、容器当たり2.5×105細胞/mlを13ml、他の継代数ではいずれも容器当たり5×105細胞/mlを13ml。
・培地交換:1日当たり62%交換
・細胞:TC1133、NINDS
・培養条件:37℃、pH7.4、dO 23.8%、300rpm下向き撹拌。
細胞の継代
1. 解離の2時間前に、最終濃度10μMでY27632によってiPSC凝集体を処理する。
2. ベルセンを用いて2回洗浄:撹拌を2分間止め、沈降した凝集体を乱さないように培地を除去して2mLとし、ベルセンを添加して10mLとし、10秒間の撹拌(300rpm、下向き)を開始する。
3. 洗浄段階で説明したのと同じようにして培地を除去して2mLとし、ベルセンを添加して5mLとする。
4. 十分に解離されるまで、600rpmで最長15分間、撹拌する。進行中、顕微鏡によって対照を観察して、適切な解離度を評価しなければならない。
5. 撹拌速度を300rpmに下げる。
6. 細胞を計数する。
7. ある体積の細胞懸濁液を新しいambr15容器に移して、播種濃度を2~5×105細胞/mLとし、それにより、過剰体積(少なくとも5倍)のiPS-Brewを添加することによって細胞解離試薬を希釈する。
材料
・ambr15細胞培養24ディスポーザブルバイオリアクター、低温、スパージャなし、品番001-2B81
・StemMACS iPS-Brew XF、基本培地、注文番号:130-107-086
・StemMACS(商標)iPS-Brew XF 50×サプリメント;注文番号:130-107-087
・ROCKi Y27632; Stemolecule
・ベルセン溶液、カタログ番号:15040-033
・Ambr15バイオリアクター、Sartorius Stedim
・Nucleocounter NC-200 タイプ900-0201
・Cellavista細胞画像化装置
・フローサイトメーター:BD LSR II 特別注文システム
実施例1:iPSCは、少なくとも8回の継代および少なくとも43日の間、懸濁培養状態で多能性を維持する
本実施例の狙いは、継代数8の長期培養物を樹立することであった。このため、長期の懸濁培養がiPSCの質に与える影響を評価した。さらに、ROCK阻害剤の別の選択肢であるチアゾビビンの使用を試し、懸濁状態のiPSCの継代時にY27632と比較した。
結果
凝集体のサイズ
継代数0を除くすべての継代の最後に、凝集体は、約200μmのサイズに発達した(図2を参照されたい)。ROCKi およびTZVで処理した凝集体のサイズは、同程度であった。
細胞数および増殖率
TZVを用いて継代したiPSCの増殖率は、ROCKi処理細胞の増殖率と同程度であった(図3を参照されたい)。増殖率は、継代数0の場合に最も高く、細胞数が約14倍に増加した。継代数1~5では、増殖率は約7倍であり、継代数6~8では、約8倍であった。
培養期間全体にわたって算出した、ROCKiで処理したiPSCの累積増殖率は、指数関数的増殖を示している(図4を参照されたい)。43日後に、累積増加率は9.6×106に達した。
多能性
ROCKiで処理したiPSCでは、解析したすべての継代の終了時点で、多能性関連遺伝子(OCT4、TRA-1-60)の発現が高かった(図5を参照されたい)。TZVで処理したiPSCでも、継代数0、2、および3の終了時点で、多能性関連遺伝子の発現が高かった(図6を参照されたい)。
解析
iPSCを43日間培養し、本明細書において説明する培養/継代戦略を用いて、自動的に8回継代した。継代の間、ROCKi処理とTZV処理との間に、意味のある差は見出されていない。iPSCは、一貫して、高い質を維持した:継代終了時点の凝集体のサイズは約200μmであった。継代あたりの増殖率は、約7~8倍であり、43日後の累積増加率は約1×107であった。重要なことには、多能性関連遺伝子の発現は、継代数8においてさえ、高いままであった。
要約
懸濁状態でのiPSCの長期培養を、43日および8回継代の間、驚くべきことに成功裡に行うことができた。質の高いiPSCを継代数8まで示すことができた。最も重要なことには、細胞凝集体の解離後のiPSCの洗浄/細胞解離試薬の除去は、長期間、ここでは8回の継代および43日の間、質の高い懸濁培養物を維持するために、意外にも必要ではなかった。
実施例2:iPSCは、少なくとも10回の継代および少なくとも49日の間、懸濁培養状態で多能性を維持する
実施例2を実施例1と同様にして実施した。ただし、本発明の独創的な継代/細胞解離方法に基づく懸濁培養を、10回の継代および49日に延ばした。
結果
細胞数および増殖率
培養期間全体にわたって算出した累積増殖率は、iPSCの指数関数的増殖を示している(図7を参照されたい)。49日後に、累積増加率は2.9×107に達した。
多能性
解析したすべての継代の終了時点で、多能性関連遺伝子は高発現されていた(図8を参照されたい)。
解析
iPSCを49日間培養し、本発明の培養戦略を用いて、自動的に10回継代した。iPSCは、一貫して、高い質を維持した:4~5日続く各継代の終了時点における凝集体のサイズは、望ましい200μm前後であった。増殖率は約8倍であり、累積増加率は2.9×107であった。重要なことには、多能性関連遺伝子の発現は、継代数10においてさえ、非常に高いままであった(>95%)。したがって、これらの結果から、培養戦略が確かなものと裏付けられる。
要約
初めて、懸濁状態でのiPSCの長期培養を49日および10回継代の間、ambr15において行った。質の高いiPSCが、継代数10まで維持された。
実施例3:本発明の方法を用いて継代したiPSCの形態学的解析
実施例3を、実施例1および2と同様に実施した。0日目に、接着細胞培養を懸濁培養に切り換えた。4日目に、細胞凝集体を解離させた。試料を、0日目に(依然として接着培養として)、1日目、2日目、3日目、および4日目(細胞解離の前および後)に、採取した。図9は、iPSCを含むこれらの試料の光学顕微鏡画像を示す。細胞が正常な形態を示していることから、解離試薬を希釈して培養を継続することが細胞の形態にいかなる負の影響も与えないことが示唆される。
実施例4:ROCKi前処理の影響
本実施例の狙いは、懸濁状態のiPSCの継代に対するROCKi前処理の影響を解析することであった。実施例4は、ROCKi前処理を4時間実施したこと以外は実施例1~3のようにして実施した。
結果
凝集体のサイズ
図10に示すように、継代を実施する日(継代数0の4日目)に、ROCKiで前処理する予定のiPSCの凝集体のサイズは、前処理なしで継代する予定のiPSCの凝集体のサイズと同程度であった(前者は197.41±75μm、後者は200.39±64.05μm)。継代後3日目に、ROCKi前処理ありの凝集体は、ROCKi前処理なしの凝集体よりも大きかった(前者は162.06±53μm、後者は113.8±49.36μm)。
増殖率
図11に示すように、継代を実施する日(継代数0の4日目)に、ROCKiで前処理する予定のiPSCの増殖率は、前処理なしで継代する予定のiPSCの凝集体の増殖率と同程度であった(前者は12.34倍に増加、後者は13.33倍に増加)。継代後3日目に、ROCKi前処理ありのiPSCの方が、ROCKi前処理なしの凝集体よりも増殖率が高かった(前者は3.14倍に増加、後者は1.71倍に増加)。継代後5日目にも、同じことが認められた(ROCKi前処理ありの場合は9.2倍に増加したのに対し、前処理なしの場合は5.08倍に増加した)。
多能性
図12に示すように、継代を実施する日(継代数0の4日目)に、ROCKiで前処理する予定のiPSCと前処理なしで継代する予定のiPSCの多能性関連マーカーの発現は、同程度であった(前者は97.8% OCT4、96.9% NANOG、99.3% TRA-1-60であるのに対し、後者は98.4% OCT4、97% NANOG、99.2% TRA-1-60)。継代後3日目に、ROCKi前処理ありのiPSCの方が、ROCKi前処理なしの凝集体よりもNANOGを高発現し、OCT4およびTRA-1-60の発現は同程度であった(ROCKiで前処理したiPSCでは95.9% OCT4、93.6% NANOG、99.1% TRA-1-60であるのに対し、前処理なしの場合は95.4% OCT4、61.7% NANOG、95.2.% TRA-1-60)。継代後5日目に、多能性関連マーカーの発現は、どちらの条件でも同程度であった(ROCKiで前処理したiPSCでは94.4% OCT4、81.8% NANOG、98.7% TRA-1-60であるのに対し、前処理なしの場合は95.2% OCT4、92.4% NANOG、98.9% TRA-1-60)。
解析
iPSC凝集体を継代する前にROCKiで前処理すると、その後の継代において凝集体のサイズが大きくなり、増殖率が高くなった。さらに、ROCKi前処理細胞では、その後の継代の早い時点でNANOGが高発現されたことから、iPSCの多能性状態に対する有益な効果が示唆された。まとめると、これらの結果は、継代前にROCKiで前処理することにより、懸濁培養時にiPSCの増殖が促進され質が高められることを示唆する。
実施例5:本発明の方法のスケールアップ
実験計画および実験の進行:
継代数0:
・細胞:TC1133 TL004、p4
・播種条件:2.5×105細胞/mlを450ml
・培地交換:2日目に開始、灌流60%
・培養条件:37℃、pH7.4、dO 23.8%、ブレードの角度45°、120rpm下向き撹拌(0~1日目)および100rpm下向き撹拌(1~4日目)
継代数1~3:
・播種条件:2.5×105細胞/mlを320ml
・培地交換:2日目に開始、灌流60%に設定
・培養条件:37℃、pH7.4、dO 23.8%、ブレードの角度45°、120 rpm下向き撹拌(0~1日目)および100rpm下向き撹拌(継代の1日目~最後まで)
継代の手順:
・継代の2時間前に、iPSCをROCKi(最終濃度10μM)で処理した。
・凝集体を容器の底に沈降させ(かき混ぜを2~5分間停止)、培地を吸引して50mLにし、200mlのEDTA溶液を添加することにより、凝集体を0.5mM EDTAで2回洗浄した。
・洗浄段階で説明したようにして、凝集体を容器の底に沈降させ、EDTA溶液を吸引して50mLにした。100mLのEDTA溶液を添加し、200rpmで最長15分間撹拌することにより、凝集体を解離させた。
・適切な解離度に達したら(約20個の細胞からなる小さな細胞塊が依然として残っている状態)、かき混ぜを50rpmに減速し、細胞を計数した。
・容器中の細胞懸濁液を、所望の細胞濃度を得るために必要な体積まで減らした。必要な体積のiPS-Brew+10μM ROCKiを添加して、所望の細胞濃度にした。前述したように細胞を計数し、培養した。
材料
試薬および材料:
・StemMACS iPS-Brew XF、基本培地、注文番号:130-107-086
・StemMACS iPS-Brew XF 50×サプリメント;注文番号:130-107-087
・ROCKi:Y27632二塩化水素化物;Tocrisカタログ番号1254
・UltraPure 0.5M EDTA、pH8.0;カタログ番号15575020
装置
・Biostat B - DCU II:タイプ:BB-8841212
・Tower 3:タイプ:BB-8840152
・ pHセンサー:Hamilton; Easyferm Plus VP 120
・ 酸素センサー:Hamilton; Oxyferm FDA VP 120
・ UniVessel 0.5L
・pHメーター:Multi 3510 IDS; Xylem Analytics Germany GmbH
・pH-Elektrode:SenTix Micro 900P; WTW
・Nucleocounter NC-200 Type 900-0201
・Cellavista
・フローサイトメーター:CytoFlex; Beckman Coulter
結果
この場合、18日間の培養をUniVesselにおいて実施し、頻繁に試料採取した。iPSCを3回継代した。形態の良い凝集体が、どの継代でも観察された(図13)。
凝集体は、継代数0の1日目に大きく、約120μmであった(図14)。継代数0の4日目に、凝集体は約185μmのサイズに達した。継代数1~3において、凝集体は、1日目の約100μmから4日目または5日目の約200μm(p1および2)または180μm(p3)に増加した。これは、ambr15系で生じたデータとよく一致している。
継代数0の4日間の培養後の増殖率は非常に優れており、所望の10倍の増加を上回った(図15)。継代数1および2における増殖率は、約6倍であった。継代数3では、増殖率は約9倍であった。これらの知見は、ambr15系での長期の培養実験と合致している。このambr15系での実験もまた、継代数0および以降の継代と比べて、継代数1および2において増殖率が低いことを示していた。
接種物において、多能性関連遺伝子は高発現されていた。懸濁培養では、すべての継代の終了時点のiPSCにおいて、多能性関連マーカーが高発現されていた(図16)。興味深いことに、接種から継代数3まで、OCT4発現の少しの増大が認められる。
本実施例では、0.5L容のUniVesselにおいて18日間、培養物の質を高く維持しながら、iPSCを増殖させた。手作業で処理せずに、UniVessel中で3回、iPSCを首尾よく継代した。増殖率は良く、継代数0および4では、約10倍の増加が観察された。凝集体のサイズは、1日目に約100μmであり、すべての継代の終了時点に、約200μmという所望のサイズに達した。重要なことには、すべての継代の終了時点で、多能性関連遺伝子は高発現されていた。これらの結果から、ambr15系で開発された増殖戦略をUniVessel系に適合することに成功したことが示される。
本実験では、iPSC増殖戦略をUniVessel系に適合することに成功した。すなわち、さらに改変することなくスケールアップすることが可能である。ambr15系より大きな体積を有するUniVessel系で、質の高いiPSCを3回継代し、18日間培養することに成功した。
2L培養系でも同様の結果が得られたことから、本発明の増殖方法がスケールアップおよびPSCの大規模生産に非常に適していることがさらに実証される。
参照文献
Burridge, P.W., Holmstrom, A., and Wu, J.C. (2015). Chemically Defined Culture and Cardiomyocyte Differentiation of Human Pluripotent Stem Cells. Curr. Protoc. Hum. Genet. 87, 21.3.1.
Chen, V.C., Ye, J., Shukla, P., Hua, G., Chen, D., Lin, Z., Liu, J., Chai, J., Gold, J., Wu, J., et al. (2015). Development of a scalable suspension culture for cardiac differentiation from human pluripotent stem cells. Stem Cell Res. 15, 365-375.
Kropp et al. “Progress and challenges in large-scale expansion of human pluripotent stem cells” Process Biochemistry, Vol. 59, Part B, August 2017, Pages 244-254.

Claims (25)

  1. バイオリアクター中での懸濁培養で多能性幹細胞(PSC)を増殖させる方法であって、以下の段階を含む、方法:
    (i)バイオリアクターにおいて懸濁状態で培養されている多能性幹細胞に、ROCKの阻害剤(ROCKi)を添加する段階;
    (ii)細胞解離剤を添加する段階であって、それによって、該多能性幹細胞の凝集体を解離させる、段階;
    (iii)細胞凝集体が再び形成できる濃度まで該細胞解離剤の濃度を低下させるのに十分な過剰体積の培養培地を添加することにより、段階(ii)で添加した該細胞解離剤を希釈する段階;および
    (iv)PSCの増殖を可能にする適切な条件下で、段階(iii)で得られた混合物を培養する段階。
  2. 細胞解離試薬が、キレート剤であり、好ましくは、該キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、イミノ二コハク酸(IDS)、ポリアスパラギン酸、エチレンジアミン-N,N'-二コハク酸(EDDS)、クエン酸塩、クエン酸、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
  3. 細胞解離試薬が、EDTAである、請求項2記載の方法。
  4. 段階(ii)におけるEDTAの最終濃度が、少なくとも100μM EDTA、約100~約1000μM EDTAの範囲、約250~約750μM EDTAの範囲、約400~約600μM EDTAの範囲であるか、または約500μM EDTA、好ましくは約500μM EDTAである、請求項3記載の方法。
  5. 過剰体積の培養培地を添加した後の、段階(iii)におけるEDTAの濃度が、約100μMもしくはそれ未満、約95μMもしくはそれ未満、約90μMもしくはそれ未満、約80μMもしくはそれ未満、約70μMもしくはそれ未満、約100~約1μM EDTAの範囲、または約90~約1μM EDTAの範囲である、請求項3または4記載の方法。
  6. 過剰体積が、細胞解離剤の体積より少なくとも5倍多い、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  7. (iii)の培養培地が、ROCKiを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  8. 以下の段階をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法:
    (v)前記培地を、ROCKiを本質的に含まない培地に交換する段階。
  9. 段階(iv)が、約1~約3日間、好ましくは約2日間、実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  10. 段階(v)が、段階(iii)後、約1~約3日目、好ましくは約2日目に始まる、請求項8記載の方法。
  11. ROCKiが、AS1892802、ファスジル塩酸塩、GSK 269962、GSK 429286、H 1152、HA 1100、OXA 06、RKI 1447、SB 772077B、SR 3677、TC-S 7001、チアゾビビン、Y27632、およびそれらの組合せからなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  12. ROCKiが、Y27632である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  13. Y27632が、最終濃度が約10μMとなるまで添加される、請求項12記載の方法。
  14. ROCKiが、段階(ii)の約2~約4時間前に、段階(i)で添加される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  15. 段階(iii)における過剰体積の培養培地の添加によって、培養培地中の細胞数が、約1×105~約1×106細胞/ml、約1.5~約7.5×105細胞/ml、約2×105~約5×105細胞/ml、約2×105~約3×105細胞/ml、または約2.5×105細胞/mlとなる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  16. 培養培地が、IPS-Brew、E8、StemFlex、mTeSR1、およびPluriSTEMからなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  17. 培養培地がiPSC-Brewである、請求項16記載の方法。
  18. 段階(i)および(iii)の培養培地が、本質的に同一である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  19. 培養培地の温度が、約30~50℃、約35~40℃、約36~38℃、または約37℃、好ましくは37℃である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  20. 段階(i)~(iv)または(i)~(v)が、1回、2回、3回、4回、5回、少なくとも5回、または少なくとも10回繰り返される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  21. 多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)、単為生殖幹細胞(pPSC)、および核移植由来PSC(ntPSC)からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  22. PSCが、段階(i)~(iv)または(i)~(v)の各繰り返しの後に、多能性を維持している、請求項20記載の方法。
  23. 多能性幹細胞が、TC-1133細胞である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  24. 段階(ii)の凝集体が、約180μm~約250μm、好ましくは約200μm~約250μm、最も好ましくは約200μmの平均直径を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  25. 凝集体を、段階(ii)において、少なくとも約1分間、少なくとも約2分間、少なくとも約3分間、少なくとも約5分間、少なくとも約10分間、1~20分間、約10~約20分間、約10~約15分間、または最長で約15分間、好ましくは約15分間、解離させる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
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